説明

フェノール樹脂成形材料およびその成形品

本発明は、ノボラック型フェノール樹脂および充填材を含むフェノール樹脂成形材料であって、該ノボラック型フェノール樹脂の少なくとも一部が、ポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂であることを特徴とするフェノール樹脂成形材料、およびそれから得られる成形品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、自動車電装用モーターのコンミテータなどの耐熱部品を製造するために用いられるフェノール樹脂成形材料、およびそれから得られる成形品に関する。
【背景技術】
従来からフェノール樹脂成形材料は、その優れた成形性、並びに成形および硬化により得られる優れた耐熱性および強度により、自動車電装用モーターのコンミテータまたはその周辺の構造部品に使用されている。
最近ではモーター部品、特に自動車電装用モーター部品、例えばモーターのコンミテータにおいて、さらなる異音の低減、即ち静音化が求められている。このモーターのコンミテータによる異音の原因の1つに、力学的または熱的負荷によって発生する寸法変化が挙げられる。
具体的には、フェノール樹脂成形材料からの成形後に行われるコンミテータのアニール処理またはコンミテータの実装工程に行われるヒュージング処理における力学的および熱的負荷、あるいはモータ駆動時におけるモーター自身の発熱または自動車のエンジン部から発生する熱により、コンミテータに寸法変化が生ずる。
このコンミテータの寸法変化が大きいと、コンミテータの真円度が大きく悪化し、またコンミテータの銅製セグメント間に大きな段差が生じる。その結果、モータ駆動時に大きな異音が発生する。
これに関して、従来技術においてコンミテータを製造するために用いられているフェノール樹脂成形材料は、力学的または熱的負荷に対する寸法変化が大きいため、静音化の要求を満たすことができない。
従って、力学的または熱的負荷に対する寸法変化が小さい、フェノール樹脂成形材料が求められている。
【発明の開示】
本発明の目的は、力学的または熱的負荷に対する寸法変化が小さいフェノール樹脂成形材料およびそれから得られる成形品を提供することである。
ノボラック型フェノール樹脂および充填材を含むフェノール樹脂成形材料であって、該ノボラック型フェノール樹脂の少なくとも一部が、ポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂であることを特徴とするフェノール樹脂成形材料は、力学的または熱的負荷に対する寸法変化が小さいことを見出した。
本発明におけるポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂とは、フェノールおよびホルムアルデヒドからの合成段階でポリ酢酸ビニルを用いて製造された変性ノボラック型フェノール樹脂、特にポリ酢酸ビニルの存在下でフェノールおよびホルムアルデヒドを脱水縮合することにより製造された変性ノボラック型フェノール樹脂を意味する。
力学的または熱的負荷のかかる環境下において生ずるコンミテータ銅製セグメント間における段差、およびコンミテータの真円度の悪化を、本発明のフェノール樹脂成形材料を使用してコンミテータを製造することにより、低減および防止することができる。その結果、コンミテータにおける静音化の要求を満たすことができる。
発明を実施するための形態
本発明のフェノール樹脂成形材料は、ポリ酢酸ビニルにより変性したノボラック型フェノール樹脂を含むことを特徴とする。
該ポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂を、以下のようにして製造することができる:
ノボラック型フェノール樹脂は、通常、水中において、酸触媒の存在下でフェノールとホルムアルデヒドとの付加反応を行い、次いで脱水縮合することにより製造される。
本発明のポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂は、このノボラック型フェノール樹脂製造の脱水縮合前に、フェノールおよびホルムアルデヒドから形成された反応混合物にポリ酢酸ビニルを添加することにより製造する。ポリ酢酸ビニルの添加は、フェノールとホルムアルデヒドとの付加反応の前およびその間に行うことができる。しかし、フェノールとホルムアルデヒドとの付加反応に対するポリ酢酸ビニルによる阻害を回避するために、付加反応後、脱水縮合前にポリ酢酸ビニルを添加することが好ましい。
フェノールとホルムアルデヒドとの付加は、通常、水中において、酸触媒の存在下で行われる。
その酸触媒の例は、パラトルエンスルホン酸、塩酸、ギ酸、無水フタル酸、ホウ酸およびシュウ酸であり、好ましくはシュウ酸を使用する。
ホルムアルデヒドは、通常、ホルマリン水溶液の形態で使用される。ホルマリン水溶液中のホルムアルデヒド濃度は、通常37〜50質量%、好ましく40〜50質量%である。
フェノールとホルムアルデヒドとの付加反応は、通常80〜120℃、好ましくは90〜110℃で、通常1〜4時間、好ましくは2〜3時間行われる。
付加反応後に、ポリ酢酸ビニルの存在下で、フェノールおよびホルムアルデヒドの脱水縮合(フェノールおよびホルムアルデヒド付加物の脱水縮合)を行う。その脱水縮合は、通常130〜180℃、好ましくは150〜170℃の温度、および通常50〜100kPa、好ましくは60〜75kPaの圧力下で、通常1〜5時間、好ましくは2〜3時間行われる。
本発明のポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂を、ポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂の質量を基準に、60〜75質量%のフェノール、15〜20質量%のホルムアルデヒド、0.20〜0.25質量%のシュウ酸および5〜20質量%のポリ酢酸ビニルを用いて、好ましくは製造する。
特に、ポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂中のポリ酢酸ビニル配合比率は、5質量%以上であることが好ましい。なぜならポリ酢酸ビニル配合比率を5質量%以上にすることにより、力学的および熱的負荷に対するフェノール樹脂成形材料の寸法変化を、より効果的に低減することができるからである。
一方、ポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂中のポリ酢酸ビニルの配合比率が多くなるにつれ、ポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂を含むフェノール樹脂成形材料の硬化速度が低下する。従って、望ましい硬化速度を確保するため、ポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂中のポリ酢酸ビニル配合比率は20質量%以下であることが好ましい。
良好な耐水性および耐薬品性を有するポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂を得るために、10000以上の重量平均分子量を有するポリ酢酸ビニルを使用することが好ましい。
またポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂の製造段階において、反応混合物中へのポリ酢酸ビニルの良好な分散性を確保するために、100000以下の分子量を有するポリ酢酸ビニル変性を使用することが好ましい。
上記のように製造したポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂は、2000〜6000の重量平均分子量を有することが好ましい。この範囲の重量平均分子量を有するポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂は、その後のフェノール樹脂成形材料を製造する際の混練等に適した溶融粘度を有するからである。
また本発明のフェノール樹脂成形材料が、未変性のノボラック型フェノール樹脂を含む場合、そのノボラック型フェノール樹脂は、好ましくは2000〜4000の重量平均分子量を有する。
ポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂は、その製造後に通常、高温のままバットに取り出され、冷却固化した後、その後のフェノール樹脂成形材料の製造に使用される。その後の取扱い性を向上させるため、冷却固化したポリ酢酸ビニルノボラック型フェノール樹脂を、粉砕することが好ましい。
本発明のフェノール樹脂成形材料は、好ましくは、フェノール樹脂成形材料の質量を基準に、10〜30質量%のポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂、5〜20質量%のノボラック型フェノール樹脂、40〜60質量%のガラス繊維および5〜20質量%の無機充填材を含む。
これらの混合物を、例えば二軸ロールを用いて混練および粉砕することにより、本発明のフェノール樹脂成形材料を製造することができる。
特に、フェノール樹脂成形材料中のポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂の配合比率は、10質量%以上であることが好ましい。なぜならポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂の配合比率を10質量%以上にすることにより、フェノール樹脂成形材料の寸法変化を、より効果的に低減することができるからである。
一方、ポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂の配合比率が多くなるにつれ、フェノール樹脂成形材料の硬化速度が低下する。従って、望ましい硬化速度を確保するため、変性ノボラック型フェノール樹脂の配合比率は30質量%以下であることが好ましい。
40質量%以上のガラス繊維を含むフェノール樹脂成形材料から、良好な強度を有するコンミテータを得ることができる。一方、フェノール樹脂成形材料自体を製造する際、またはフェノール樹脂成形材料から成形品を成形する際に適した溶融粘度を確保するため、ガラス繊維量は60質量%以下であることが好ましい。
フェノール樹脂成形材料中に含まれる無機充填材の例として、ウォラストナイト、炭酸カルシウム、タルク、カオリンおよびマイカなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらの無機充填材を、単独または組合せて、使用することができる。
本発明のフェノール樹脂成形材料を成形することにより、力学的および熱的負荷に対して寸法変化の小さいコンミテータを得ることができる。
従って本発明は、本発明のフェノール樹脂成形材料を成形することにより得られるコンミテータも提供する。
本発明のフェノール樹脂成形材料の成形方法の例として、射出成形、トランスファー成形および圧縮成形などを挙げることができるが、これらに限定されない。
コンミテータを成形する際には、ノボラック型フェノール樹脂を成分とする本発明のフェノール樹脂成形材料を硬化するために、硬化剤が使用される。硬化剤として、ヘキサメチレンテトラミンが好ましい。ヘキサメチレンテトラミンとして、より好ましくは粒状ヘキサメチレンテトラミン、特に80メッシュのふるいを通過する粒子99質量%以上を含む微粒子状のヘキサメチレンテトラミン、とりわけ150メッシュのふるいを通過する粒子98質量%以上を含む微粒子状のヘキサメチレンテトラミンを使用する。このような粒状ないし微粒子状のヘキサメチレンテトラミンを使用することにより、その均一分散が確保され、成形品外観の向上並びに成形性および物性のバラツキの抑制を達成することができる。
またコンミテータを成形する際に、必要に応じて、本発明のフェノール樹脂成形材料と共に、カップリング剤、離型剤、滑剤、染料および顔料などの添加剤または助剤を使用することができる。
【実施例】
1.ポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂の製造
ポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂を、その全質量を基準に、3〜25質量%のポリ酢酸ビニルを用いて以下のように製造した:
まずフェノールおよびホルマリン(約50%水溶液)を、シュウ酸の存在下で、100℃で90分間反応させ、100℃で120分間乳化させた後、ポリ酢酸ビニル(重量平均分子量15000)を反応混合物に添加し、160℃および70kPaで180分間脱水縮合を行い、ポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂を製造する。それを高温のまま取出し、冷却固化し、粉砕したものを、以下の成形材料の製造に使用する。
2.成形材料の製造
以下の表に質量部で示された量の原料を、1分間混合し、この混合物を二軸混練機により、品温100℃〜110℃で3分間混練する。この混練物を、冷却固化後に粉砕し、造粒した成形材料を、寸法変化等を評価するための試験片の成形に使用する。
表に記載されている原料は、以下のものである:
・変性フェノール樹脂:上記のように製造したポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂、重量平均分子量3000。表中に記載されている比率(質量%)は、ポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂の製造に使用した、ポリ酢酸ビニルの比率を示す。
・フェノール樹脂:ノボラック型フェノール樹脂、昭和高分子株式会社製BRP590P。
・ガラス繊維:日東紡績株式会社製CS3E−479S、平均繊維径φ12μ、繊維長3mm。
・無機充填材:NYCO社製ウォラストナイトNYAD400。
・添加剤:硬化剤ヘキサメチレンテトラミン(微粒子形態、80メッシュのふるいを通過する粒子含有量99質量%以上、150メッシュのふるいを通過する粒子含有量98質量%以上)(7質量部)、滑剤カルナバ(1質量部)(大日化学工業株式会社製カルナバF−1)および染料ソルベントブラック(1質量部)(オリエント化学工業株式会社製SAP−L)。
この成形材料の成形性を調べるため、成形材料40gを使用し、160℃および29.4MPaで押出し式流れ試験[JIS K 6911]を行い、その流出時間を測定した。その結果を、以下の表に示す。成形材料は、実施上の成形の観点から、60〜80秒の流出時間を有することが好ましい。
3.評価用試験片の成形
上記の成形材料を、射出成形により、JIS曲げ試験形状の試験片金型を用いて、金型温度170℃、硬化時間90秒および射出圧力128MPaで成形し、収縮試験および曲げ試験のためのJIS規格形状を有する試験片を製造する。これらの試験片について、以下のような評価を行う。
4.試験片の評価
試験片について以下の評価を行った。その結果を、以下の表に示す。
・アニール処理による寸法変化
試験片に、180℃で3時間、次いで210℃で7時間アニール処理を行い、アニール処理による試験片の寸法変化率を測定する。試験片は、小さい絶対値の寸法変化率を有することが好ましい。
・高温処理による寸法変化
上記のアニール処理した試験片に、さらに200℃で500時間高温処理を行い、高温処理による試験片の寸法変化率を測定する。試験片は、小さい絶対値の寸法変化率を有することが好ましい。
・強度
試験片の曲げ強さ[JIS K 6911]を測定した。試験片は、150MPa以上の曲げ強さを有することが好ましい。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノボラック型フェノール樹脂および充填材を含むフェノール樹脂成形材料であって、該ノボラック型フェノール樹脂の少なくとも一部が、ポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂であることを特徴とする、フェノール樹脂成形材料。
【請求項2】
ポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂を、ポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂の質量を基準に5〜20質量%のポリ酢酸ビニルを用いて製造したことを特徴とする、請求項1に記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項3】
ポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂を、ポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂の質量を基準に、60〜75質量%のフェノール、15〜20質量%のホルムアルデヒド、0.20〜0.25質量%のシュウ酸および5〜20質量%のポリ酢酸ビニルを用いて製造したことを特徴とする、請求項1または2に記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項4】
ポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂を、重量平均分子量10000〜100000を有するポリ酢酸ビニルを用いて製造したことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項5】
重量平均分子量2000〜6000を有するポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項6】
フェノール樹脂成形材料の質量を基準に、10〜30質量%のポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項7】
フェノール樹脂成形材料の質量を基準に、10〜30質量%のポリ酢酸ビニル変性ノボラック型フェノール樹脂、5〜20質量%のノボラック型フェノール樹脂、40〜60質量%のガラス繊維および5〜20質量%の無機充填材を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料を成形することにより得られたコンミテータ。

【国際公開番号】WO2005/040276
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【発行日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−509865(P2005−509865)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013816
【国際出願日】平成15年10月29日(2003.10.29)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】