説明

フェノール樹脂成形材料および摺動部品

【課題】摩耗特性及び機械的強度を高いレベルでバランスし、且つ耐水性に優れるフェノール樹脂成形材料を提供する。
【解決手段】(A)アルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂を含むノボラック型フェノール樹脂、(B)レゾール型フェノール樹脂、(C)ヘキサメチレンテトラミン、(D)黒鉛、(E)繊維状のフィラーを含有するフェノール樹脂成形材料であって、前記成形材料全体に対する各成分の含有量が、(A)〜(C)成分の合計が30〜40重量%、(D)成分が30〜50重量%、(E)成分が5〜20重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール樹脂成形材料および摺動部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などに使用される機構部品には、耐熱性、耐摩耗性が要求されていた。これらの特性を満たすための材料として、従来の機構部品には、セラミックや金属製の部品が用いられていた。しかしながら、セラミックや金属製の機構部品は、個体重量が重く、加工に時間がかかり、コストが高い等といった種々の問題点を有している。こうした問題点を解決する手段として、部品の軽量化という観点から、プラスチック材料製の機構部品が注目されている。
【0003】
機構部品を形成する場合に用いる材料として、耐熱性や耐摩耗性といった観点から、プラスチック材料の中でも特に、フェノール樹脂成形材料が注目されている。フェノール樹脂成形材料を用いる機構部品は、セラミックや金属製の機構部品と比べて、個体重量が軽く、加工が容易であり、さらに高耐熱性であるといった点で優れている。また、機構部品に耐熱性および機械的強度を付与するために、従来では充填材としてガラス繊維やシリカなどが使用されてきた。しかしながら、フェノール樹脂成形材料を用いて機構部品を形成した場合、ガラス繊維やシリカなどの充填材を使用することによって、機械的強度は向上するものの、耐摩耗性が悪化するという問題が生じていた。このため、耐摩耗性を重要特性とする場合、このような耐摩耗性が劣るフェノール樹脂成形材料を使用することはできなかった。また、フェノール樹脂成形材料を用いて機構部品を成形する場合、寸法バラツキが発生し易いため、機構部品の寸法が公差内に入らず歩留まりが低下するといった問題もある。
【0004】
精密部品は、保管中に吸湿して膨潤することにより動作不良を起こす恐れがある。このため高湿下での寸法安定性を優れたものにする必要がある。
【0005】
フェノール樹脂成形材料を用いて成形した機構部品の摩耗特性および耐水性を向上させる技術として、特許文献1−3に記載の技術がある。
特許文献1には、フェノール樹脂成形材料に固体潤滑材である黒鉛を配合して摩耗特性を向上させる技術が開示されている。
【0006】
特許文献2には、黒鉛に加えてガラス繊維を併用することで摩耗特性と機械特性を向上させる技術が開示されている。特許文献2に記載の技術においては、成形材料全体に対する黒鉛およびガラス繊維の含有量が、黒鉛5〜20重量%、ガラス繊維40〜60重量%となっている。
【0007】
特許文献3には、アルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂とガラス繊維を配合して寸法精度、耐熱性および耐湿寸法安定性を向上させる技術が開示されている。特許文献3に記載の技術においては、成形材料全体に対する(A)アルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂を含むノボラック型フェノール樹脂、(B)レゾール型フェノール樹脂、および(C)ヘキサメチレンテトラミンの合計含有量が、15〜30重量%、そしてガラス繊維の含有量が、10〜20重量%となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−47971号公報
【特許文献2】特開2005−265033号公報
【特許文献3】特開2011−68705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、充填材を黒鉛のみとした場合、機械的強度が低くなるため、成形してなる成形品が脆く割れやすいものとなるという場合があった。また、特許文献2に記載の技術は、耐水性という観点において不十分なものとなる場合があった。また、特許文献3に記載の技術は、摩耗性という観点において不十分なものとなる場合があった。
【0010】
本発明は、摩耗特性及び機械的強度を高いレベルでバランスし、且つ耐水性に優れるフェノール樹脂成形材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、摩耗特性、機械的強度および耐水性のそれぞれがバランスよく優れたフェノール樹脂成形材料を提供するため、含有成分の種類およびその配合量について鋭意検討した。その結果、(A)アルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂を含むノボラック型フェノール樹脂、(B)レゾール型フェノール樹脂、(C)ヘキサメチレンテトラミン、(D)黒鉛、および(E)繊維状のフィラーの5成分をそれぞれ特定の配合量で配合することが、設計指針として有効であることを見出し、本発明に至った。
【0012】
本発明によれば、(A)アルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂を含むノボラック型フェノール樹脂、(B)レゾール型フェノール樹脂、(C)ヘキサメチレンテトラミン、(D)黒鉛、(E)繊維状のフィラーを含有するフェノール樹脂成形材料であって、上記成形材料全体に対する各成分の含有量が、(A)〜(C)成分の合計が30〜40重量%、(D)成分が30〜50重量%、(E)成分が5〜20重量%であることを特徴とするフェノール樹脂成形材料が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、摩耗特性及び機械的強度を高いレベルでバランスし、且つ耐水性に優れるフェノール樹脂成形材料を提供することができる。これにより、本発明に係るフェノール樹脂成形材料は、ガスメーター部品(分配室、バルブ)や自動車のベーンポンプ部品などの摺動部品として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明のフェノール樹脂成形材料(以下、単に「成形材料」ともいうことがある。)について詳細に説明する。
【0015】
まず、フェノール樹脂成形材料を成形することにより、ガスメーター部品(分配室、バルブ)や自動車のベーンポンプ部品などの摺動部品として用いる場合、当該フェノール樹脂成形材料は、相手素材との摩擦が少ないこと、すなわち高い摺動性(i)、自動車に用いることができる程度の高い機械的強度(ii)、さらに、高湿度条件下あるいは水に浸された状態においても寸法変化のないこと、すなわち高い耐水性(iii)、をそれぞれ示す必要がある。
【0016】
本実施形態に係る成形材料は、(A)アルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂を含むノボラック型フェノール樹脂、(B)レゾール型フェノール樹脂、(C)ヘキサメチレンテトラミン、(D)黒鉛、(E)繊維状のフィラーを含有するフェノール樹脂成形材料であって、上記成形材料全体に対する各成分の含有量が、(A)〜(C)成分の合計が30〜40重量%、(D)成分が30〜50重量%、(E)成分が5〜20重量%であることを特徴とする。このように、(A)〜(E)の各成分を特定の割合で配合することで、摩耗特性及び機械的強度を高いレベルでバランスし、且つ耐水性に優れるフェノール樹脂成形材料を得ることができる。
【0017】
以下、本実施形態に係るフェノール樹脂成形材料に配合される各成分とその配合量について説明する。
まず、本実施形態に係る成形材料は、(A)アルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂を含むノボラック型フェノール樹脂を配合している。
【0018】
ここで、アルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂とは、キシレンやトルエンなどのアルキルベンゼンがメチレン結合などでノボラック型フェノール樹脂と結合したものを示す。このアルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂を、成形材料に配合することによって、通常のノボラック型フェノール樹脂を配合させた場合と比較して、機械的強度を実用的レベルに維持しながら、耐水性および耐熱性を高めることができる。この理由は、親水性であるフェノール樹脂の水酸基を、疎水性であるアルキルベンゼンに置換することで、成形材料の吸水率を低減することができるからである。
【0019】
なお、アルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂を製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、以下に説明する方法を用いて製造する。まず、アルキルベンゼンとホルムアルデヒドとを酸性触媒の存在下で反応させてアルキルベンゼン樹脂を製造する。次に、得られたアルキルベンゼン樹脂を、酸性触媒の存在下、フェノール類、あるいは、フェノール類およびアルデヒド類と反応させる。こうすることによって、本実施形態に係るアルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂を得ることができる。なお、本実施形態に係るアルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂において、アルキルベンゼンの変性率は、フェノール樹脂とアルキル変性ノボラック樹脂の合計に対して、3wt%以上70wt%以下であることが好ましく、5wt%以上50wt%以下であるとさらに好ましい。こうすることで、成形材料の耐水性および耐熱性をさらに高めることができ、かつ摩耗特性および機械的強度とのバランスを高度に保つことができる。
【0020】
また、本実施形態に係るアルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂を製造する際に用いるフェノール類としては、特に限定されないが、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、キシレノール、アルキルフェノール類、カテコール、レゾルシンなどが挙げられる。なお、これらフェノール類を単独、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0021】
また、本実施形態に係るアルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂を製造する際に用いるアルデヒド類としては、特に限定されないが、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド、またこれらのアルデヒドの発生源となる物質、あるいはこれらのアルデヒド類の溶液等が挙げられる。なお、これらアルデヒド類を単独あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0022】
なお、本実施形態に係るアルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂としては、例えば、キシレン変性ノボラック型フェノール樹脂、トルエン変性ノボラック型フェノール樹脂等が挙げられる。
【0023】
なお、本実施形態に係る成形材料において、上記(A)成分中のアルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂の含有量は、(A)及び(B)成分の合計に対して20〜30重量%以下であることが好ましく、15〜25重量%であるとさらに好ましい。アルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂の含有量を上記下限値以上とすることにより、耐水寸法変化の小さい材料を得ることができ、上記上限値以下とすることにより、機械的強度を好適な水準にすることができる。
【0024】
また、本実施形態に係る成形材料において、上記(A)成分には、アルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂以外のノボラック型フェノール樹脂を含有してもよい。こうすることで、製造コストを低減させることができる。ここで、上記(A)成分においてアルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂以外のノボラック型フェノール樹脂含有量は、60〜80重量%であることが好ましい。
なお、上記(A)成分に含有させるノボラック型フェノール樹脂としては、フェノール類とアルデヒド類とを、酸性触媒の存在下で、通常、フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(アルデヒド類/フェノール類)を0.7〜0.9として反応させて得られるものを用いることができる。
【0025】
また、アルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂以外のノボラック型フェノール樹脂を製造する際に用いるフェノール類としては、特に限定されないが、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、キシレノール、アルキルフェノール類、カテコール、レゾルシンなどが挙げられる。なお、これらフェノール類を単独、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
また、アルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂以外のノボラック型フェノール樹脂を製造する際に用いるアルデヒド類としては、特に限定されないが、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド、また、これらのアルデヒドの発生源となる物質、あるいはこれらのアルデヒド類の溶液等が挙げられる。なお、これらアルデヒド類を単独あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0026】
次に、本実施形態に係る成形材料は、(B)レゾール型フェノール樹脂を配合している。こうすることによって、成形材料を成形してなる成形品の靭性を向上させることができるため、機械的強度を高めることができる。
本実施形態に係るレゾール型フェノール樹脂としては、フェノール類とアルデヒド類とを、塩基性触媒の存在下で、通常、フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(アルデヒド類/フェノール類)を1.3〜1.7として反応させて得られるものを用いることができる。
【0027】
また、本実施形態に係るレゾール型フェノール樹脂を製造する際に用いるフェノール類としては、特に限定されないが、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、キシレノール、アルキルフェノール類、カテコール、レゾルシン等が挙げられる。なお、これらフェノール類を単独、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
また、本実施形態に係るレゾール型フェノール樹脂を製造する際に用いるアルデヒド類としては、特に限定されないが、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド、これらのアルデヒドの発生源となる物質、あるいはこれらのアルデヒド類の溶液等が挙げられる。なお、これらアルデヒド類を単独あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0028】
次に、本実施形態に係る成形材料は、(C)ヘキサメチレンテトラミンを配合している。上記(C)成分は、上記(B)成分とともに、上記(A)成分の硬化剤として作用するものである。
【0029】
なお、成形材料全体におけるヘキサメチレンテトラミンの配合量は、特に限定されないが、上記(A)成分の100重量部に対して、例えば、30〜40重量部配合する。さらに、本実施形態に係る成形材料には、ヘキサメチレンテトラミン、および上記(B)成分の他にも、上記(A)成分の硬化剤として作用するものを併せて用いてもよい。このような硬化剤としては、例えば、トリメチルアミンやピリジン等の成分が挙げられる。
【0030】
本実施形態に係る、摩耗特性、機械的強度および耐水性に優れており、かつこれら3つの特性のバランスという観点においても優れたフェノール樹脂成形材料を得るためには、上記(A)、(B)、および(C)成分の合計含有量が、成形材料全体に対して、30〜40重量%であることが好ましく、33〜38重量%であるとさらに好ましい。これら3成分の含有量を上記下限値以上とすることにより、成形材料製造時に良好な作業性を確保することができ、上記上限値以下とすることにより、耐水寸法変化を小さくすることができる。この理由は必ずしも明らかではないが、上記でも述べたように、アルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂には疎水性のアルキルベンゼンが含まれており、さらに(A)成分の硬化剤として(B)成分と(C)成分とを併用することで硬化性の低下を抑制することができるため、成形材料の耐水性を向上させることができるものと考えられる。さらに、耐水性と、摩耗特性および機械的強度とのバランスという観点から、3成分の合計含有量が、上記範囲外となると、後述で説明する(D)および(E)成分との相乗効果を奏することが困難となる。
【0031】
次に、本実施形態に係る成形材料は、(D)黒鉛を配合している。さらに、本実施形態に係る成形材料において黒鉛は、成形材料全体に対して、30〜50重量%配合されていることが好ましく、35〜45重量%配合されているとさらに好ましい。こうすることで、成形材料製造時の作業性が好適な水準となり、摩耗特性を向上させることができ、さらに、耐水性および機械的強度とのバランスを高いレベルで維持することができる。この理由としては、黒鉛は優れた固体潤滑材であり、特に摩擦係数を低下させることができることが考えられる。この黒鉛を上記範囲の配合率で含有させたことにより、(A)、(B)、(C)および(E)成分との相乗効果により、摩耗特性を高めるだけでなく、摩耗特性、機械的強度および耐水性のバランスを高いレベルで維持できるものと考えられる。
【0032】
次に、本実施形態に係る成形材料は、(E)繊維状のフィラーを配合している。さらに、本実施形態に係る成形材料において繊維状のフィラーは、成形材料全体に対して、5〜20重量%配合されていることが好ましく、10〜15重量%配合されているとさらに好ましい。こうすることで、成形品の機械的強度を向上させることができる。具体的には、繊維状フィラーを上記範囲の含有率で成形材料に配合させたことによって、成形品の弾性率や伸び率を好適な水準として充分な靭性を確保することができ、すなわち、機械的強度を向上させることができ、さらに、摩耗特性と機械的特性のバランスを良好なものにすることができる。
【0033】
また、本実施形態に係る繊維状のフィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維およびロックウール等が挙げられる。これらの中でも、ガラス繊維を用いることが好ましい。なお、ガラス繊維としては、特に限定されないが、例えば、数平均繊維径が10〜15μm、数平均繊維長が1〜3mmであるものを用いることが好ましく、数平均繊維径が11〜13μm、数平均繊維長が2〜3mmであるものであるとさらに好ましい。こうすることで、成形材料製造時の作業性、得られた成形品の機械的強度をさらに向上させることができる。
【0034】
なお、本実施形態に係る成形材料は、必要に応じて、通常の熱硬化性樹脂成形材料に使用される各種添加剤、例えば硬化触媒、ステアリン酸、若しくはポリエチレンなどの離型剤、充填材と熱硬化性樹脂との接着性を向上させるための密着性向上剤、若しくはカップリング剤、溶剤等を配合してもよい。
【0035】
また、本実施形態では、顆粒状の成形材料を射出成形(金型温度180℃、硬化時間15秒)することにより得た、8×4×2mmの直方体試験片を、160℃×6hrアニール後、80℃温水に72hr浸漬し、浸漬前の8mm方向の寸法に対する浸漬後の8mm方向の寸法の割合を、成形材料の耐水性を示す指標である寸法変化率としている。なお、単位は%である。本実施形態において成形材料の寸法変化率は0.32%以下であることが好ましく、0.25%以下であるとさらに好ましい。こうすることで、耐水性と、機械的強度および摩耗特性がいずれも優れた状態であり、かつこれら3つの特性についてバランスのとれた成形材料を得ることができる。
【0036】
また、本実施形態に係る成形材料の製造方法は、従来用いられている方法であれば特に限定されないが、例えば、上記原材料の他、必要に応じて充填材、硬化剤、硬化触媒、離型剤、カップリング剤などを配合して均一に混合後、ロール、コニーダ、二軸押出し機等の混練装置単独またはロールと他の混合装置との組合せで加熱溶融混練した後、造粒または粉砕する方法が用いられる。
【0037】
また、本実施形態に係る成形材料を成形する場合、射出成形を用いることが適しているが、特に限定されず、その他の方法、例えば移送成形、圧縮成形、射出圧縮成形などいずれの方法でも成形できる。この時の成形条件としては成形品の厚みにもよるが、例えば、射出成形で5mm程度の肉厚成形品を成形する場合、金型温度170〜190℃、成形圧力100〜150MPa、硬化時間30〜90秒間で成形することができる。
【実施例】
【0038】
各実施例及び各比較例で用いた原料成分を下記に示す。
(1)アルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂:住友ベークライト社製「PR−TS−3」=(キシレン樹脂22%変性ノボラック型フェノール樹脂)
(2)ノボラック型フェノール樹脂:住友ベークライト社製「A−1077P」
(3)レゾール型フェノール樹脂:住友ベークライト社製「R−25」
(4)ヘキサメチレンテトラミン:CHANG CHUN PETROCHEMICAL.CO.LTD社製「HEXAMINE」
(5)黒鉛:日本黒鉛社製「土壌黒鉛#90」
(6)ガラス繊維:日東紡績社製「CS3E479S」
(7)炭酸カルシウム:日東粉化社製「タンカルSS80」
(8)硬化助剤(酸化マグネシウム):神島化学工業社製「スターマグM」
(9)離型剤:下記2種類を1:1(重量比)で用いた。
(ポリエチレン):三洋化成工業社製「サンワックス」
(ステアリン酸):日本油脂社製「ステアリン酸桜」
【0039】
(実施例および比較例)
実施例1〜5および比較例1〜4について、下記表1に示す配合量に従って各成分を配合した材料混合物を回転速度の異なる加熱ロールで混練し、シート状に冷却したものを粉砕することにより、顆粒状の成形材料を得た。なお、加熱ロールの混練条件は、回転速度は高速側/低速側=20/14rpm、温度は高速側/低速側=90/20℃、混練時間は5〜10分間とした。
【0040】
下記表1の配合比率で得られた成形材料に対し、下記に示す測定及び評価を行った。
【0041】
(評価項目)
(1)摩耗量:顆粒状の成形材料を移送成形(金型温度175℃、硬化時間3分)することにより試験片(リングとプレート)を作製した。この試験片を、160℃×6hrアニール後、鈴木式摩耗試験機により圧力:5kgf/cm、回転速度:1.194m/sec、試験時間:4hr、温度:室温の条件でJISK7218に準じて、試験後のリングとプレートの摩耗量の合計量を評価した。なお、単位は、mmとした。
【0042】
(2)寸法変化率:顆粒状の成形材料を射出成形(金型温度180℃、硬化時間15秒)することにより、8×4×2mmの直方体試験片を作製した。この試験片を、160℃×6hrアニール後、80℃温水に72hr浸漬し、浸漬前後の8mm方向の寸法を評価した。なお、単位は、%とした。
【0043】
(3)曲げ強度:顆粒状の成形材料を射出成形(金型温度175℃、硬化時間1分)することにより試験片を作製した。この試験片を、160℃×6hrアニール後、ISO 178に準じて曲げ強度を測定した。なお、単位は、MPaとした。
【0044】
(4)作業性:成形材料を製造する際の作業性を確認した。符号は以下の内容を示している。
○:良好である
×:ロール混練が不十分なうちに硬化してしまい、混練不足のため配合物が均一に分散しない
【0045】
上記評価項目に関する評価結果を、以下の表1に各成分の配合比率(重量%)と共に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1からも分かるように、実施例1〜5の成形材料は、いずれも比較例の値と比較して、摩耗量、耐水寸法変化、曲げ強度に優れており、さらに作業性においても良好であった。実際に、実施例に記載の成形材料を用いて摺動部品を製造した場合、摩耗特性、機械的強度および耐水性がいずれも優れており、かつ高いレベルでバランスのとれた摺動部品が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上の実施例及び比較例から得られた結果から明らかなように、本発明のフェノール樹脂成形材料は、従来のフェノール樹脂成形材料に比べ摩耗特性と強度を高いレベルでバランスし、且つ耐水性に優れる材料である。従って、このような特性を要求される成形品、例えばガスメーター部品(分配室、バルブ)や自動車のベーンポンプ部品などの摺動部品として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂を含むノボラック型フェノール樹脂、(B)レゾール型フェノール樹脂、(C)ヘキサメチレンテトラミン、(D)黒鉛、および(E)繊維状のフィラーを含有するフェノール樹脂成形材料であって、前記成形材料全体に対する各成分の含有量が、前記(A)〜(C)成分の合計が30〜40重量%、前記(D)成分が30〜50重量%、前記(E)成分が5〜20重量%であることを特徴とするフェノール樹脂成形材料。
【請求項2】
前記(E)繊維状のフィラーが、ガラス繊維である請求項1に記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項3】
上記(A)成分中のアルキルベンゼン変性ノボラック型フェノール樹脂の含有量が、前記(A)及び(B)成分の合計に対して20〜30重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項4】
顆粒状の成形材料を金型温度180℃、硬化時間15秒で射出成形することにより得た、8×4×2mmの直方体試験片を、160℃、6時間アニールした後、80℃温水に72hr浸漬し、浸漬前の8mm方向の寸法に対する浸漬後の8mm方向の寸法の割合を、寸法変化率とした時、
前記寸法変化率が、0.32%以下である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のフェノール樹脂成形材料を用いて得られる摺動部品。

【公開番号】特開2013−67788(P2013−67788A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−195681(P2012−195681)
【出願日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】