説明

フェノール樹脂発泡体

【課題】オゾン層破壊の恐れがなく地球温暖化係数の低い発泡剤として炭化水素を使用し、優れた断熱性能を有し、かつ圧縮強度等の機械的強度に優れ、脆性が改善されたフェノール樹脂発泡体を提供する。
【解決手段】独立気泡率80%以上、平均気泡径10μm以上400μm以下、密度10kg/m3以上70kg/m3以下であって、独立気泡中に炭化水素を含有し、尿素架橋構造を有するフェノール樹脂構造から成る脆性が20%以下、圧縮強度が0.5kg/cm2以上、熱伝導率が0.025kcal/mhr℃以下であることを特徴とするフェノール樹脂発泡体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種建築材料として好適な断熱用フェノール樹脂発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂発泡体は、有機樹脂発泡体のなかでも、特に難燃性、耐熱性、低発煙性、寸法安定性、耐溶剤性、加工性に優れているため、各種建築材料として広く使用されている。一般的にフェノール樹脂発泡体は、フェノールとホルマリンをアルカリ性触媒により縮合したレゾール樹脂と、発泡剤、界面活性剤、硬化触媒、その他添加剤を均一に混合し発泡させることによって製造される。
【0003】
従来のフェノール樹脂発泡体は、発泡剤としてトリクロロトリフルオロエタン(CFC−113)、トリクロロモノフルオロメタン(CFC−11)、ジクロロトリフルオロエタン(HCFC−123)、ジクロロフルオロエタン(HCFC−141b)等のハロゲン化炭化水素やその誘導体が用いられてきた。発泡剤としての、これらハロゲン化炭化水素やその誘導体は製造時の安全性に優れ、更にガス自体の熱伝導度が低いことから、得られた発泡体の熱伝導度をも低くできると言う利点を有していた。
【0004】
しかしながら、現在においては、CFC−113、CFC−11等、塩素原子を含む物質は成層圏のオゾンを分解しオゾン層の破壊を引き起こすことが明らかにされるに至り、これらの物質は地球レベルでの環境破壊の原因として世界的に問題とされるようになり、それらの製造及び使用量が世界的に規制されるようになってきた。また、塩素を含まないオゾン破壊係数が0のフルオロ炭化水素である1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)なども、地球温暖化係数が比較的大きいことから、ヨーロッパでは使用が制限される動きにあるために、発泡剤としてペンタン等の炭化水素類が注目されている。
【0005】
従来、フェノール樹脂発泡体の発泡剤としてノルマルペンタンやシクロペンタンの様な炭化水素を使用することは知られていたが、これらの炭化水素は、オゾン層を破壊することが無く、地球温暖化係数も比較的小さい点で優れているものの、ハロゲン化炭化水素と比べ、得られるフェノール樹脂発泡体の独立気泡率も低下し、ガス自体の熱伝導率が高いために良好な断熱性能は得られず、圧縮強度等の機械的強度も不十分であるなど実用上問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来のフェノール樹脂発泡体が有する上記諸問題を解決しうるものである。即ち本発明の課題は、発泡剤が炭化水素で、優れた断熱性能を有し、かつ、圧縮強度等の機械的強度に優れ、脆性が改善されたフェノール樹脂発泡体を提供することである。
本発明者らは、前記本発明の課題を達成するために、フェノール樹脂発泡体の製造条件、例えば、レゾール樹脂重合時のホルムアルデヒドとフェノールの仕込みのモル比やレゾール樹脂の分子量、更に触媒量や発泡温度などの発泡条件などを幅広く検討した結果、特定の気泡形態、特定の樹脂架橋構造を成したフェノール樹脂発泡体が、前記本発明の課題を達成し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は下記のフェノール樹脂発泡体である。
1. 独立気泡率70%以上、平均気泡径10μm以上400μm以下、密度10kg/m3以上70kg/m3以下であって、独立気泡中に炭化水素を含有し、熱分解ガスクロマトグラフィーの熱分解パターンから求められる、熱分解生成物のトリメチルフェノールAのフェノールBに対する面積比C(C=A/B)が下記式(1)の範囲にあることを特徴とするフェノール樹脂発泡体。
0.05≦C≦4.0 (1)
2.熱分解ガスクロマトグラフィーの熱分解パターンから求められる、熱分解生成物の尿素架橋由来の成分Dのフェノール誘導体成分Eに対する面積比F(F=D/E)が下記式(2)の範囲である前項1記載のフェノール樹脂発泡体。
0.01≦F≦0.3 (2)
【0008】
3.独立気泡中の炭化水素が1種類又は2種類以上の炭化水素からなり、該炭化水素の、少なくとも1つが炭素数4から6の飽和炭化水素であることを特徴とする前項1又は2記載のフェノール樹脂発泡体。
4. 飽和炭化水素がイソブタン、ノルマルブタン、シクロブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、ネオペンタンであることを特徴とする前項3記載のフェノール樹脂発泡体。
5. 独立気泡中の炭化水素がイソブタン、ノルマルブタン、シクロブタンから選ばれるブタン類5〜95重量%とノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、ネオペンタンから選ばれるペンタン類95〜5重量%の混合物であることを特徴とする前項1又は2記載のフェノール樹脂発泡体。
【0009】
6. 独立気泡中の炭化水素がイソブタン5〜95重量%とノルマルペンタン95〜5重量%の混合物であることを特徴とする前項5記載のフェノール樹脂発泡体。
7. 独立気泡率80%以上、平均気泡径10μm以上400μm以下、密度10kg/m3以上70kg/m3以下であって、独立気泡中に炭化水素を含有し、尿素架橋構造を有するフェノール樹脂構造から成る脆性が20%以下、圧縮強度が0.5kg/cm2以上、熱伝導率が0.025kcal/mhr℃以下であることを特徴とするフェノール樹脂発泡体。
8. 高沸点の脂肪族炭化水素または高沸点の脂環式炭化水素またはそれらの混合物をフェノール樹脂発泡体に対して0.01〜10重量%含有することを特徴とする前項1又は2記載のフェノール樹脂発泡体。
【0010】
9.下記一般式(I)で示されるフルオロエーテルの少なくとも1種をフェノール樹脂発泡体に対して0.01〜5重量%含有することを特徴とする前項1又は2記載のフェノール樹脂発泡体。
【化1】

(式中、aは0、1、2、3であり、bは3−aであり、mおよびnは、それぞれ1以上の整数である。)
10.下記一般式(II)で示されるフルオロアミンの少なくとも1種をフェノール樹脂発泡体に対して0.01〜5重量%含有することを特徴とする前項1又は2記載のフェノール樹脂発泡体。
(Ccd3N (II)
(式中、cは4以上の自然数であり、dは2c+1である。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によるフェノール樹脂発泡体は、優れた断熱性能を有し、圧縮強度等の機械的強度に優れ、表面脆性が著しく改善されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1図は、本発明によるフェノール樹脂発泡体サンプルの、熱分解ガスクロマトグラフィーのパイログラムの1例である。
【図2】第2図は、本発明によるフェノール樹脂発泡体サンプルの、熱分解ガスクロマトグラフィーのパイログラムの一つの尿素架橋由来構造成分(第1図のピーク7の成分)のマススペクトルの例である。
【図3】第3図は、本発明によるフェノール樹脂発泡体サンプルの、熱分解ガスクロマトグラフィーのパイログラムの一つの尿素架橋由来構造成分(第1図のピーク8の成分)のマススペクトルの例である。
【図4】第4図は、本発明によるフェノール樹脂発泡体サンプルの、熱分解ガスクロマトグラフィーのパイログラムの一つの尿素架橋由来構造成分(第1図のピーク9の成分)のマススペクトルの例である。
【図5】第5図は、本発明によるフェノール樹脂発泡体サンプルの、熱分解ガスクロマトグラフィーのパイログラムの一つの尿素架橋由来構造成分(第1図のピーク10の成分)のマススペクトルの例である。
【図6】第6図は、本発明によるフェノール樹脂発泡体サンプルの、熱分解ガスクロマトグラフィーのパイログラムの一つの尿素架橋由来構造成分(第1図のピーク11の成分)のマススペクトルの例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明では、フェノール樹脂発泡体の組織を特定の組織とする必要がある。
本発明によるフェノール樹脂発泡体においては、独立気泡率は70%以上、好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。独立気泡率が70%未満であると、フェノール樹脂発泡体の発泡剤が空気と置換して断熱性能の経時低下が著しくなる恐れがあるばかりではなく、発泡体の表面脆性が増加して機械的実用性能を満足しなくなる懸念がある。なお、独立気泡率の上限としては99.3%以下であることが好ましい。
【0014】
本発明におけるフェノール樹脂発泡体の平均気泡径は10μm以上400μm以下であり、好ましくは15μm以上300μm以下であり、特に好ましくは20μm以上150μm以下である。平均気泡径が10μm未満であると、気泡壁の厚さに限界が有ることから、必然的に発泡体密度が上昇し、その結果発泡体における樹脂部の伝熱割合が増加しフェノール樹脂発泡体の断熱性能は不十分となる恐れがある。また、逆に気泡径が400μmを越えると、輻射による熱伝導が増加するようになり、発泡体の断熱性能が低下する。
本発明における発泡体の密度は10kg/m3以上70kg/m3以下であり、より好ましくは20kg/m3以上50kg/m3以下である。密度が10kg/m3未満であると、圧縮強度等の機械的強度が小さくなり、取り扱い時に破損しやすくなり、表面脆性も増加する。逆に密度が70kg/m3をこえると、樹脂部の伝熱が増加し断熱性能が低下する懸念がある。
【0015】
本発明においては、フェノール樹脂発泡体を特定の樹脂架橋構造と成す必要がある。本発明では、この樹脂の架橋構造を間接的に測定する手段として、熱分解ガスクロマトグラフィーを用いる。フェノール樹脂発泡体を試料としたときの熱分解ガスクロマトグラフィーのパイログラムに現れるトリメチルフェノールやフェノールの各成分の面積は、直接フェノール樹脂発泡体の構造を示すものではないが、間接的に元のフェノール樹脂発泡体を構成している高分子の構造を反映する有力な指標となり得る。本発明においては、前記パイログラムのトリメチルフェノールAのフェノールBに対する面積比率C値(C=A/B)を、フェノール樹脂のメチレン構造ないしメチルエーテル構造の架橋密度を間接的に反映する指標とする。フェノール樹脂中にメチレン架橋やメチルエーテル架橋が多いとC値は大きくなり、逆にメチレン架橋やメチルエーテル架橋が少ないとC値は小さくなる。
【0016】
本発明においては、上記C値は0.05以上4.0以下であることが必要である。好ましくは0.1以上2.0以下であり、より好ましくは0.1以上1.0以下である樹脂架橋構造とする。本発明者らは、C値がこの範囲になるようにレゾール樹脂の分子量分布、重合時のホルムアルデヒドとフェノールの仕込み比、発泡条件を調整した。即ち、重合時のホルムアルデヒドとフェノールの仕込み比は1.3〜3.0が好ましく、より好ましくは1.5〜2.5であり、レゾール樹脂の分子量は、レゾール樹脂組成物の40℃における粘度が1000〜50000cpsの範囲となるように調整し、発泡時の混合機内の温度は80℃を超えないようにする。このように、レゾール樹脂の分子量分布、重合時のホルムアルデヒドとフェノールの仕込み比、発泡条件を調整した場合に、得られた発泡体の樹脂自体の強度及び発泡特性が著しく改善され、炭化水素発泡剤を用いても断熱性能及び機械的強度に優れたフェノール樹脂発泡体が得られることを見いだしたのである。
【0017】
本発明では、このC値が4.0を越えると、後述する比較例2から明らかなように発泡体が脆く実用性能が不十分となる恐れがある。さらに、発泡体製造時に樹脂の粘度が高すぎて発泡倍率が上がらないなどの不都合を生じる可能性がある。また、C値が0.05未満である場合は、後述する比較例3から明らかなように、フェノール樹脂発泡体の圧縮強度等が低下する。
更に、本発明者らは、フェノール樹脂中に尿素架橋構造を形成させるとフェノール樹脂発泡体の強度がより一層向上することを見いだした。尿素架橋構造を示す指標もC値と同様に、発泡体試料の熱分解ガスクロマトグラフィーのパイログラムに現れる成分の面積比率により求められる。本発明者らは、尿素架橋由来の成分Dのフェノール誘導体成分Eに対する面積比率F値(F=D/E)が、フェノール樹脂の尿素架橋構造の密度の指標になることを見出した。
【0018】
本発明において、尿素架橋由来の成分Dとは、該パイログラムで、後述する測定条件において、保持時間8分から18分の間に放出される成分で、分子内にフェニル基とイソシアナート(−NCO)基を含む化合物である。具体的には第1図のピーク7から11で、これらに対応するマススペクトルが各々第2図から第6図に示すものである。ピーク7から11までの面積の総和をDとする。
本発明におけるフェノール誘導体とはフェノール、2−メチルフェノール、4−メチルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、2,6−ジメチルフェノール、2,4,6−トリメチルフェノールであり、具体的には第1図のピーク1から6である。本発明ではこれらのパイログラムの面積の総和をEとする。F値は0.01以上0.3以下であることが好ましく、より好ましくは、0.02以上0.2以下である。F値が0.01未満の場合は、フェノール樹脂発泡体の著しい強度の向上は見られず、またF値が0.3を越えると逆に強度が低下するようになる。
【0019】
本発明によるフェノール樹脂発泡体は、従来の炭化水素発泡剤のフェノール樹脂発泡体と比べ脆性及び圧縮強度も大きく改善されている。更に、尿素架橋構造を最適化すると、脆性が著しく改善される。これにより、従来のフェノール樹脂発泡体がその脆さ故に使用が制限されていた用途にも、利用範囲を拡大することが期待される。
本発明のフェノール樹脂発泡体は、後述する測定法による脆性が30%以下であり、より好ましくは20%以下である。脆性が30%を越えると、発泡体表面が削れた樹脂粉が多くなり施工時の作業性が低下するばかりでなく、運搬、施工などの取り扱い時に製品が破損し易くなるなどの問題がある。なお、脆性の下限としては1%以上であることが好ましい。また、圧縮強度は0.5kg/cm2以上であり、より好ましくは1.0kg/c
2以上である。圧縮強度が0.5kg/cm2未満の場合は、施工時などに破損し易いばかりでなく、その機械的強度の低さ故、利用範囲も限定されてしまう。なお、圧縮強度の上限としては20kg/cm2以下であることが好ましい。脆性及び圧縮強度は、フェノール樹脂発泡体の独立気泡率、平均気泡径、密度及び樹脂自体の強度と密接に関わっており、本発明では、特にフェノール樹脂発泡体を形成する樹脂自体を特定の架橋構造と成すことで樹脂の強度を向上させ、樹脂発泡体の脆性及び圧縮強度を著しく改善しうるのである。
【0020】
本発明における発泡剤としては、炭化水素を用いることができるが、炭素数3から7の環状または鎖状のアルカン、アルケン、アルキンを好ましく使用できる。さらに、化学的安定性と熱伝導率の観点より炭素数4から6のアルカンもしくはシクロアルカンがより好ましい。具体的には、ノルマルブタン、イソブタン、シクロブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、ネオペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、シクロヘキサン等を挙げることが出来る。更にその中でも、ノルマルブタン、イソブタン、シクロブタンのブタン類とノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、ネオペンタンのペンタン類が本発明に特に好適である。
【0021】
本発明では、これら炭化水素を2種類以上混合して使用することもできる。具体的にはペンタン類5〜95重量%とブタン類を95〜5重量%、より好ましくはペンタン類25〜75重量%とブタン類を75〜25重量%混合した混合物は、広い温度範囲で良好な断熱特性を示すので特に好ましい。その中でも、ノルマルペンタンとイソブタンの組み合わせは、低温域(例えば、−80℃程度の冷凍庫用断熱材)から高温域(例えば、200℃程度の加熱体用断熱材)までの広い範囲で優れた断熱性能を確保でき、更にこれら化合物が比較的安価であり経済的にも有利であるので特に好ましい。
【0022】
また、パーフルオロブタン、パーフルオロシクロブタン、パーフルオロペンタン、パーフルオロシクロペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロヘプタン、パーフルオロシクロヘプタン、パーフルオロオクタン、パーフルオロシクロオクタン等のフルオロカーボン類を発泡時に混合して使用することも出来る。さらに、窒素、ヘリウム、アルゴン、空気などの低沸点物質を発泡核として発泡剤に溶解させて使用することもできる。本発明における発泡剤の使用量は、所望する発泡体の密度、発泡条件等によって任意に選択して差し支えないが、通常、樹脂100重量部に対して、3から40重量部であることが好ましく、より好ましくは5から30重量部である。
【0023】
本発明によるフェノール樹脂発泡体は、発泡剤が炭化水素でありながら、熱伝導率は0.025kcal/mhr℃以下であり、優れた断熱性能を有する。より好ましい熱伝導率では0.020kcal/mhr℃以下である。なお、熱伝導率の下限としては0.012kcal/mhr℃以上であることが好ましい。
さらに本発明者らは、発泡時に高沸点の脂肪族炭化水素若しくは高沸点の脂環式炭化水素またはそれらの混合物が発泡時に存在すると更に良いフェノール樹脂発泡体を形成することを見出した。本発明の高沸点の脂肪族炭化水素若しくは高沸点の脂環式炭化水素またはそれらの混合物は、1×105Paでの通常の沸点が150℃以上であってアルカン構
造またはシクロアルカン構造を主とする炭化水素であることが好ましく、具体的には固体パラフィン、流動パラフィン、ミネラルスピリット、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン等を挙げることが出来る。固体パラフィンはパラフィンロウとも呼ばれ炭素数は16から60の範囲に分布し主として正パラフィンからなるが、イソパラフィンおよびナフテンを含む物も多く、通常、融点は35℃から80℃程度に変化する。流動パラフィンは、通常流動点が−20℃以上で、比較的軽質の潤滑油留分たとえばスピンドル油留分を硫酸洗浄によって高度に精製した炭化水素油であり、揮発性が低く飽和炭化水素を主成分とする。ミネラルスピリットは、石油スピリットとも呼ばれ日本工業規格K2201(工業ガソリン規格)4号に規定されている。
【0024】
本発明において、高沸点の脂肪族炭化水素または高沸点の脂環式炭化水素またはそれらの混合物の量は、フェノール樹脂発泡体に対して0.01重量%から10重量%であり、より好ましくは、0.05重量%から5重量%である。高沸点の脂肪族炭化水素または高沸点の脂環式炭化水素またはそれらの混合物の量が0.01重量%未満であるとほとんど効果はない。また、重量が10重量%を越えると、気泡中で高沸点の脂肪族炭化水素または高沸点の脂環式炭化水素またはそれらの混合物が液化して断熱性能が低下したり、樹脂の剛性が低下したりする事が懸念される。
発泡時に高沸点の脂肪族炭化水素または高沸点の脂環式炭化水素またはそれらの混合物を存在させることによって、フェノール樹脂発泡体の気泡をより小さく均一にし、それによってフェノール樹脂発泡体の断熱性能を改善する効果がある。
【0025】
また本発明者らは、発泡時にフルオロエーテルが存在すると、良好なフェノール樹脂発泡体を得られることを見出した。本発明のフルオロエーテルは、下記一般式(I)で示される、分子内にパーフルオロプロピルエーテル構造とフルオロメチレン構造を併せ持つフルオロエーテルであって、例えば、アウジモント株式会社製のパーフルオロポリエーテル類であるガルデン(Galden)HT−70、ガルデン(Galden)HT−55等を好ましく用いることができる。
【化2】

(式中、aは0、1、2、3であり、bは3−aであり、mおよびnは、それぞれ1以上の整数であり、より好ましくは1以上10以下である。)
【0026】
本発明のフルオロエーテルの使用量は、フェノール樹脂発泡体に対して0.01重量%から5重量%であり、より好ましくは、0.05重量%から3重量%である。フルオロエーテルの量が0.01重量%未満であると効果が得られない。
また、フルオロエーテルの量が5重量%を越えると、製造コストが嵩み経済的に不利になるばかりではなく、気泡中で特定のフルオロエーテルが液化して断熱性能が低下したり、樹脂の剛性が低下する事が懸念される。
本発明におけるフルオロエーテルを発泡剤として単独で使用すると、フルオロエーテルが発泡の際に急激に樹脂相から分離してしまい発泡体は得られずに、フェノール樹脂の固まりになってしまった。これは、本発明におけるフルオロエーテルが、特開平3−231941号公報及び特開平4−202242号公報で使用されている特定のポリフルオロエーテル類及び特定のフッ化エーテル類とは異なり、発泡剤としての発泡機能を有しないためである。
【0027】
本発明では、発泡剤として炭化水素を用いて、発泡時にフルオロエーテルを共存させることによって、フェノール樹脂発泡体の気泡径を小さくし、それによって断熱性能を改善するのである。
また、本発明によるフルオロエーテルは、酸素が分子内に存在するため、パーフルオロアルカン類と比較して大気中での寿命が短くなり地球温暖化係数が比較的小さくなり、地球環境保護に適合すると言う利点が期待できる。
更に本発明者らは、発泡時に下記一般式(II)で示されるフルオロアミンが存在すると良好なフェノール樹脂発泡体が得られることも見出した。
(Ccd3N (II)
(式中、cは4以上の自然数であり、より好ましくは4以上16以下の自然数である。dは2c+1である。)
【0028】
本発明におけるフルオロアミンは沸点が高く、発泡剤としては機能しない。具体的には、住友スリーエム株式会社製のフロリナートFC−43(トリパーフルオロブチルアミン)、FC−70(トリパーフルオロアミルアミン)、FC−71(トリパーフルオロヘキシルアミン)等を好ましく用い得る。
本発明ではフルオロアミンの使用量を、フェノール樹脂発泡体に対して0.01重量%から5重量%とする必要があり、より好ましくは、0.05重量%から3重量%である。フルオロアミンの量が0.01重量%未満であると効果が得られない。また、フルオロアミンはその使用量が5重量%を越えると、製造コストが嵩み経済的に不利になるばかりではなく、気泡壁面にフルオロアミンが析出して断熱性能が低下したり、樹脂の剛性が低下する事が懸念される。
【0029】
本発明におけるフルオロアミンは沸点が高いため発泡剤としての発泡機能を有しない。従って、本発明におけるフルオロアミンを発泡剤として単独で使用すると、全く発泡する事がない。しかしながら、本発明によるフルオロアミンはフェノール樹脂発泡時に発泡性組成物中に存在させることによって、フェノール樹脂発泡体の気泡部及び樹脂部の構造形成に好適に機能するのである。すなわち、本発明では、発泡剤として炭化水素を用いて、発泡時にフルオロアミンを共存させることによって、フェノール樹脂発泡体の気泡径が小さくなり、それ故に本発明によるフェノール樹脂発泡体は、断熱性能が改善されるのである。
【0030】
次に、本発明によるフェノール樹脂発泡体の製造法について説明する。
フェノール樹脂発泡体を製造するレゾール樹脂は、フェノールとホルマリンを原料としてアルカリ触媒により40℃から100℃の温度範囲で加熱して重合させる。その際、原料フェノールの一部をサリゲニンに代替するとC値をコントロールするのに有効である。すなわち、レゾール樹脂の分子量を上げていくとC値は大きくなる傾向に有るが、分子量を上げすぎると、レゾール樹脂の粘度が急激に上昇して、取り扱い難くなる。サリゲニンをフェノールの代替または一部代替として用いると、取り扱いやすい低分子のレゾール樹脂で有りながらC値の大きな、すなわち架橋密度の高いフェノール樹脂発泡体を得ることが出来る。尿素架橋構造を導入する場合には、レゾール重合時に尿素を添加して尿素と反応したレゾール樹脂を調整しても良いが、予めアルカリ触媒でメチロール化した尿素をレゾール樹脂に混合し塩基性のまま加熱反応させると更に良い。レゾール樹脂組成物中のメチロール化尿素量は、通常レゾール樹脂に対し1〜40重量%、好ましくは2〜30重量%、添加する。レゾール樹脂組成物は、水分量を調整することにより所望する粘度にして使用される。樹脂組成物の好適粘度は発泡条件により異なるが、40℃における粘度が、好ましくは1000〜50000cpsで、より好ましくは2000〜30000cpsである。
【0031】
適正な粘度に調整されたレゾール樹脂組成物と、発泡剤、界面活性剤、硬化触媒、更に必要に応じて高沸点の脂肪族炭化水素、高沸点の脂環式炭化水素またはそれらの混合物、フルオロエーテル、フルオロアミン、その他添加剤を混合機に導入し、均一に混合して、発泡性組成物を得ることが出来る。その際、界面活性剤を予め樹脂に混合しておいて、混合機に導入しても良いし、これらを別々に混合機に導入しても良い。ただし、硬化触媒は予めレゾール樹脂と混合されると、発泡前に硬化反応が進行し良好な発泡体が得られないため、混合機でレゾール樹脂と硬化触媒とを混合することが望ましい。また、高沸点の脂肪族炭化水素、高沸点の脂環式案化水素またはそれらの混合物、フルオロエーテル、フルオロアミンを用いる場合には、これらを予めレゾール樹脂と混合して混合機に導入しても良いし、混合機に単独で供給しても良いが、発泡剤に溶解して混合機に導入すると、より効果的で好ましい。混合機で混合して得られた発泡性組成物を、型枠などに流し込み、加熱処理により発泡硬化を完了させ、フェノール樹脂発泡体を得る。
【0032】
発泡硬化させる際の硬化触媒としては、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、スチレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などの芳香族スルホン酸を単独又は2種類以上混合して使用できる。また硬化助剤としてレゾルシノール、クレゾール、サリゲニン(o−メチロールフェノール)、p−メチロールフェノールなどを添加しても良い。また、これら硬化触媒を、ジエチレングリコール、エチレングリコールなどの溶媒で希釈しても良い。
【0033】
本発明で使用する界面活性剤は、フェノール樹脂発泡体製造に有効な物のうち任意の物を使用できる。中でも、ノニオン系の界面活性剤が効果的であり、例えば、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体であるアルキレンオキサイドや、アルキレンオキサイドとヒマシ油の縮合物、アルキレンオキサイドとノニルフェノール、ドデシルフェノールのようなアルキルフェノールとの縮合生成物、更にはポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル類、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン系化合物、ポリアルコール類等がある。これらの界面活性剤は一種類で用いても良いし、二種類以上を組み合わせて用いても良い。また、その使用量についても特に制限はないが、本発明ではレゾール樹脂100重量部当たり0.3〜10重量部の範囲で好ましく使用される。
【0034】
次に本発明におけるフェノール樹脂発泡体の組織、構造、特性の評価方法について説明する。
本発明における発泡体の平均気泡径とは、発泡体内部の50倍拡大写真上に9cmの長さの直線を4本引き、各直線が横切った気泡の数を各直線で求め、それらの平均値(JIS K6402に準じて測定したセル数)で1800μmを割った値である。
密度は、20cm角のフェノール樹脂発泡体を試料とし、この試料の面材、サイディング材を取り除いて重量と見かけ容積を測定して求めた値であり、JIS K7222に従
い測定した。
【0035】
独立気泡率は、次のようにして測定した。フェノール樹脂発泡体からコルクボーラーでくり貫いた直径35〜36mmの円筒試料を、高さ30〜40mmに切りそろえ、空気比較式比重計1000型(東京サイエンス社製)の標準使用方法により試料容積を測定する。その試料容積から試料重量と樹脂密度から計算した気泡壁の容積を差し引いた値を、試料の外寸から計算した見かけの容積で割った値であり、ASTM D2856に従い測定した。ただし、フェノール樹脂の密度は1.27g/cm3とした。
熱伝導率はサンプル200mm角、低温板5℃、高温板35℃でJIS A1412の平板熱流計法に従い測定した。
【0036】
脆性試験の試験片は、一つの面に成形スキン又は面材を含むように一辺25±1.5mmの立方体12個切り出して試料とした。ただし、発泡体の厚さが25mmに満たない場合の試験片の厚さは発泡体の厚さとした。室温乾燥した一辺19±0.8mmの樫製の立方体24個と試験片12個を、埃が箱の外へ出ないように密閉できる内寸191×197×197mmの樫製の木箱に入れ、毎分60±2回転の速度で600±3回転させる。回転終了後、箱の中身を呼び寸法9.5mmの網に移し、ふるい分けをして小片を取り除き、残った試験片の重量を測定し、試験前の試験片重量からの減少率を計算した値が脆性であり、JIS A9511に従い測定した。
【0037】
圧縮強さはJIS K7220に従い規定ひずみを0.05として測定した。
熱分解ガスクロマトグラフィーのパイログラムの測定は次のように行った。測定に用いるフェノール樹脂発泡体サンプルは、面材、サイディング材を取り除いた発泡体コア部分よりカッターナイフなどで削りだした粉末を更に乳鉢で入念に粉砕し、一度の測定当たり0.3〜0.4mgを試料量とした。熱分解装置は、加熱炉型熱分解装置であるフロンティアラボ社製PY2010Dを用いた。熱分解温度は670℃で行った。ガスクロマトグラフィーの測定はヒューレットパッカード社 HP5890A型で、無極性液相のキャピラリーカラムであるデュラボンド(Durabondo) DB−1(内径0.25mm、膜厚0.25μm、長さ30m)を用いた。キャリヤーガスはヘリウム(He)、全流量は100cc/min、ヘッドプレッシャー100kPa、オーブン温度は、50℃からスタートし毎分20℃のスピードで340℃まで昇温し15.5分間保持した。
各成分の検出は水素炎イオン化検出器(FID)で行い、各ピークの面積値を全検出成分で規格化し、それぞれの成分の比率とした。ただし、ピークの裾が重なる場合には、ピークの重なりの谷間から、ベースラインへ垂線を下ろし、ベースラインと垂線に囲まれた範囲をピーク面積とした。
【0038】
本発明によるフェノール樹脂発泡体サンプルのガスクマトグラムの一例を第1図に示す。各成分の構造は、ガスクロマトグラフィーにより分離した成分を質量分析機へ導入して得たマススペクトルにより確認した。マススペクトルは日本電子JMS AX−505Hにより、電子衝撃イオン化法(EI法)でイオン化電圧70eV、イオン化電流300mAで測定した。
気泡中に残存する発泡剤および高沸点の脂肪族炭化水素、高沸点の脂環式炭化水素またはそれらの混合物、フルオロエーテル、フルオロアミンは、以下のように確認できる。フェノール樹脂発泡体サンプルを密閉した容器に入れたピリジン、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)等から選んだの適当な溶媒中で粉砕し、発泡剤および高沸点の脂肪族炭化水素、高沸点の脂環式炭化水素またはそれらの混合物、フルオロエーテル、フルオロアミンを抽出しガスクロマトグラフィー又は液体クロマトグラフィーにかけ、同定できる。
【0039】
該フェノール樹脂発泡体中の尿素架橋由来構造の比率は、フェノールとトリメチルフェノールの比率を求めたのと同様に熱分解ガスクロトグラフィーを測定し、その各成分の面積より計算できる。パイログラムの尿素架橋由来構造の成分の面積の総和Dと、フェノール、2−メチルフェノール、4−メチルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、2,6−ジメチルフェノール、2,4,6−トリメチルフェノールの面積の総和Eを求め、DのEに対する面積比をF(F=D/E)とする。
本発明によるフェノール樹脂発泡体の尿素架橋由来の分解生成物のマススペクトルの例は第2図から第6図に示す。
【実施例】
【0040】
次に実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。
以下の実施例及び比較例で用いたレゾール樹脂は以下のようにして準備した。
(A) レゾール樹脂の合成
反応機に、37%ホルマリン(和光純薬社製、試薬特級)5500gと99%フェノール(和光純薬社製、試薬特級)3000gを仕込み、プロペラ回転式の撹拌機により撹拌し、温調機により反応機内部液温度を40℃に調整する。次いで、50%水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を60g加え、反応液を40℃から85℃に上昇させ115分間保持した。その後、反応液を5℃まで冷却する。これを、レゾール樹脂A−1とする。
更に、反応機に37%ホルマリン2160gと水2000gと50%水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液156gを加え、尿素(和光純薬社製、試薬特級)3200gを仕込み、プロペラ回転式の撹拌機により撹拌し、温調機により反応機内部液温度を40℃に調整する。次いで、反応液を50℃から70℃に上昇させ60分間保持した。これを、メチロール尿素Uとする。
次に、レゾール樹脂A−1全量にメチロール尿素Uを1230g混合して液温度を60℃に上昇させ1時間保持した。次いで反応液を30℃まで冷却し、パラトルエンスルホン酸−水和物の50%水溶液でpHが5になるまで中和した。この反応液を、60℃で脱水処理して、粘度を測定したところ40℃における粘度は6700cpsであった。これを、レゾール樹脂Aとする。
【0041】
(B) レゾール樹脂の合成
レゾール樹脂Bの合成は添加するメチロール尿素Uの重量を300gに変更した以外はレゾール樹脂Aと同様に行った。
(C) レゾール樹脂の合成
レゾール樹脂Cの合成は添加するメチロール尿素Uの重量を2500gに変更した以外はレゾール樹脂Aと同様に行った。
(D) レゾール樹脂の合成
反応機に、37%ホルマリン3800gと99%フェノール3000gを仕込み、プロペラ回転式の撹拌機により撹拌し、温調機により反応機内部液温度を50℃に調整する。次いで、50%水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液60gを加え、反応液を50℃から55℃に20分間保持した。その後温度を85℃に上げ、温度が85℃に達してから125分間保持した。その後、反応液を5℃まで冷却した。これを、レゾール樹脂D−1とする。
レゾール樹脂Dの合成は、レゾール樹脂A−1をD−1に変更し、添加するメチロール尿素Uの重量を1000gに変更した以外はレゾール樹脂Aと同様に行った。
【0042】
(E) レゾール樹脂の合成
レゾール樹脂Eの合成は添加するメチロール尿素Uの重量を500gに変更した以外はレゾール樹脂Dと同様に行った。
(F) レゾール樹脂の合成
レゾール樹脂Fの合成は添加するメチロール尿素Uの重量を1500gに変更した以外はレゾール樹脂Dと同様に行った。
【0043】
(G) レゾール樹脂の合成
反応機に、37%ホルマリン5200gと99%フェノール3000gを仕込み、プロペラ回転式の撹拌機により撹拌し、温調機により反応機内部液温度を50℃に調整する。次いで、50%水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液60gを加え、反応液を40℃に10分間保持した。その後温度を85℃に上げ、温度が85℃に達してから120分間保持した。その後、反応液を20℃まで冷却した。これを、レゾール樹脂G−1とする。
レゾール樹脂G−1をパラトルエンスルホン酸一水和物の50%水溶液でpHが5になるまで中和し、この反応液を、60℃で脱水処理した。これを、レゾール樹脂Gとする。
【0044】
(H)レゾール樹脂の合成
反応機に、37%ホルマリン3040gとサリゲニン(東京化成工業株式会社製)3300gと99%フェノール500gを仕込み、プロペラ回転式の撹拌機により撹拌し、温調機により反応機内部液温度を50℃に調整する。次いで、50%水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液60gを加え、反応液を50℃から55℃に20分間保持した。その後温度を85℃に上げ、温度が85℃に達してから110分間保持した。その後、反応液を5℃まで冷却した。これを、レゾール樹脂H−1とする。
レゾール樹脂H−1をパラトルエンスルホン酸一水和物の50%水溶液でpHが5になるまで中和し、この反応液を、60℃で脱水処理した。これを、レゾール樹脂Hとする。
【0045】
(I) レゾール樹脂の合成
レゾール樹脂Iの合成は添加するメチロール尿素Uの重量を4000gに変更した以外はレゾール樹脂Dと同様に行った。
(J) レゾール樹脂の合成
反応器に、37%ホルマリン6300gと99%フェノール3000gを仕込み、プロペラ回転式の撹拌機により撹拌し、温調機により反応器内部液温度を50℃に調整する。次いで、50%水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液60gを加え、反応液を20分間50から55℃に保持した。その後温度を85℃に上げ、温度が85℃に達してから180分間保持した。その後、反応液を5℃まで冷却する。これを、レゾール樹脂J−1とする。
レゾール樹脂Jの合成は、レゾール樹脂A−1をJ−1に変更した以外はレゾール樹脂Aと同様に行った。
【0046】
(K) レゾール樹脂の合成
反応器に、37%ホルマリン3330gと99%フェノール3000gを仕込み、プロペラ回転式の撹拌機により撹拌し、温調機により反応器内部液温度を50℃に調整する。次いで、50%水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液34gを加え、反応液を50〜85℃に上げ、温度が85℃に達してから120分保持した。その後、反応液を5℃まで冷却した。これを、レゾール樹脂K−1とする。
レゾール樹脂Kの合成は、レゾール樹脂Aにおけるレゾール樹脂A−1をK−1に変更した以外はレゾール樹脂Aと同様に行った。
【0047】
[実施例1]
レゾール樹脂Aにペインタッド32(ダウコーニングアジア株式会社製界面活性剤)をレゾール樹脂100gに対して3.5gの割合で溶解した。この、レゾール樹脂混合物と、発泡剤として、窒素を0.3重量%溶解したノルマルペンタン(和光純薬、純度99%以上)と、イソブタン(エスケイ産業株式会社製、純度99%以上)の1対1混合物と、硬化触媒としてパラトルエンスルホン酸一水和物(和光純薬、純度95%以上)60重量%とジエチレングリコール(和光純薬、純度98%以上)40重量%の混合物をそれぞれ、樹脂混合物100部、発泡剤7部、硬化触媒15部の割合で温調ジャケット付きピンミキサーに供給した。ミキサー内温度が80℃を超えないように温調ジャケットで冷却した。ミキサーから出てきた混合物をスパンボンドE1040(旭化成工業株式会社製)を敷いた型枠に流し込み、80℃のオーブンに入れ5時間保持し本実施例のフェノール樹脂発泡体を得た。
【0048】
[実施例2]
硬化触媒としてパラトルエンスルホン酸一水和物40重量%とジエチレングリコール30重量%、レゾルシノール30重量%の混合物を樹脂100部に対し14部の割合に変更した以外実施例1と全く同様にしてフェノール樹脂発泡体を製造した。
[実施例3]
発泡剤としてPF−5050(3M社製パーフルオロペンタン)を3重量%と窒素を0.3重量%溶解したノルマルペンタンと、イソブタンの1対1混合物を使用した以外は実施例1と全く同様にしてフェノール樹脂発泡体を製造した。
【0049】
[実施例4〜10、比較例1〜3]
実施例4〜10、比較例1〜3は、レゾール樹脂として表1に示す樹脂を用い、触媒部数を調整しながら、その他は実施例1と全く同様にしてフェノール樹脂発泡体を製造した。
[実施例11]
発泡剤として窒素を0.3重量%溶解したノルマルペンタンを使用した以外は実施例1と全く同様にしてフェノール樹脂発泡体を製造した。
[実施例12]
発泡剤として窒素を0.3重量%溶解したイソブタンを使用した以外は実施例1と全く同様にしてフェノール樹脂発泡体を製造した。
【0050】
[実施例13]
発泡剤として窒素を0.3重量%溶解したノルマルペンタンと、ノルマルブタン(エスケイ産業株式会社製、純度99%以上)の1対1混合物を使用した以外は実施例1と全く同様にしてフェノール樹脂発泡体を製造した。
[実施例14]
発泡剤として窒素を0.3重量%溶解したイソペンタン(和光純薬、純度99%以上)と、イソブタンの1対1混合物を使用した以外は実施例1と全く同様にしてフェノール樹脂発泡体を製造した。
【0051】
[実施例15]
発泡剤として窒素を0.3重量%溶解したイソペンタンと、ノルマルブタンの1対1混合物を使用した以外は実施例1と全く同様にしてフェノール樹脂発泡体を製造した。
[実施例16]
発泡剤として窒素を0.3重量%溶解したノルマルヘキサン(和光純薬、一級試薬)と、イソブタンの3対7混合物を使用した以外は実施例1と全く同様にしてフェノール樹脂発泡体を製造した。
[実施例17]
発泡剤としてパラフィン(和光純薬社製、融点44℃から46℃、一級試薬)5重量%と窒素を0.3重量%溶解したノルマルペンタンと、イソブタンの1対1混合物を使用した以外は実施例1と全く同様にしてフェノール樹脂発泡体を製造した。
【0052】
[実施例18]
発泡剤として流動パラフィン(和光純薬社製、一級試薬)5重量%と窒素を0.3重量%溶解したノルマルペンタンと、イソブタンの1対1混合物を使用した以外は実施例1と全く同様にしてフェノール樹脂発泡体を製造した。
[実施例19]
発泡剤としてガルデン(Galden)HT−55(アウジモンド株式会社製)3重量%と窒素を0.3重量%溶解したノルマルペンタンと、イソブタンの1対1混合物を使用した以外は実施例1と全く同様にしてフェノール樹脂発泡体を製造した。
【0053】
[実施例20]
発泡剤としてガルデン(Galden)HT−70(アウジモンド株式会社製)3重量%と窒素を0.3重量%溶解したノルマルペンタンと、イソブタンの1対1混合物を使用した以外は実施例1と全く同様にしてフェノール樹脂発泡体を製造した。
[実施例21]
発泡剤としてフロリナートFC−71(スリーエム社製)3重量%と窒素を0.3重量%溶解したノルマルペンタンと、イソブタンの1対1混合物を使用した以外は実施例1と全く同様にしてフェノール樹脂発泡体を製造した。
【0054】
[実施例22]
発泡剤としてフロリナートFC−70(スリーエム社製)3重量%と窒素を0.3重量%溶解したノルマルペンタンと、イソブタンの1対1混合物を使用した以外は実施例1と全く同様にしてフェノール樹脂発泡体を製造した。
なお、以上の実施例、比較例で得たフェノール樹脂発泡体サンプルの、熱分解ガスクロマトグラフィーのパイログラムのトリメチルフェノール成分の面積Aのフェノール成分の面積Bに対する比C値と、全尿素架橋由来の成分の面積Dの全フェノール誘導体成分の面積Eに対する比F値及び発泡体の独立気泡率、平均気泡径、密度、熱伝導率、脆性、圧縮強度を表1にまとめて示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
実施例1〜22に示すように、C値が0.05〜4.0の範囲で、独立気泡率が70%以上、平均気泡径10〜400μmの範囲のフェノール樹脂発泡体は、密度が27〜29kg/m3程度と低い場合においても圧縮強度が1.5kg/cm2以上であり、機械的強度が優れている。また、脆性も30%未満と改善されている。このとき、実施例の熱伝導率は、0.025kcal/mhr℃以下となり、優れた断熱性能を示している。
また、参考例1及び2を除く実施例は、F値が0.01〜0.3の範囲であり、脆性が20%未満となり、熱伝導率も0.020kcal/mhr℃以下となり、より優れた性能を示している。
【0058】
更に、実施例17〜22に示すように、高沸点の脂肪族炭化水素、高沸点の脂環式炭化水素またはそれらの混合物、フルオロエーテル、フルオロアミンが発泡時に存在する場合には、熱伝導率が0.018kcal/mhr℃以下と、特に優れた断熱性能を示している。
これに対し、C値が4.13と大きすぎる比較例2及び0.04と小さすぎる比較例3では、いずれの場合も熱伝導率は0.025kcal/mhr℃以上、脆性は30%以上と大きな値となっており、断熱性と機械的強度が劣っている。
また、比較例1では、C値は0.11と本発明の範囲内であるものの、独立気泡率が61.8%と本発明の範囲を外れており、熱伝導率は0.0273kcal/mhr℃と断熱性に劣り、脆性は43%と機械的強度も劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によるフェノール樹脂発泡体は、優れた断熱性能を有し、圧縮強度等の機械的強度に優れ、表面脆性が著しく改善されている。本発明による樹脂発泡体は、オゾン層破壊の恐れがなく地球温暖化係数の低い発泡剤を使用しているため、地球環境により適合した建築用断熱材として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
独立気泡率80%以上、平均気泡径10μm以上400μm以下、密度10kg/m3以上70kg/m3以下であって、独立気泡中に炭化水素を含有し、尿素架橋構造を有するフェノール樹脂構造から成る脆性が20%以下、圧縮強度が0.5kg/cm2以上、熱伝導率が0.025kcal/mhr℃以下であることを特徴とするフェノール樹脂発泡体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−293033(P2009−293033A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153155(P2009−153155)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【分割の表示】特願平11−516603の分割
【原出願日】平成10年9月1日(1998.9.1)
【出願人】(390018717)旭化成建材株式会社 (249)
【Fターム(参考)】