説明

フェノール樹脂組成物、およびフェノール樹脂成形材料

【課題】 フェノール樹脂の成形性および他の諸特性を劣化させることなく、機械的強度に優れた成形材料を与える樹脂組成物を提供する。
【課題手段】 ノボラック型フェノール樹脂と、水酸基を有するポリエーテルサルホンとを含有するフェノール樹脂組成物であって、前記ポリエーテルサルホンは樹脂組成物中に1〜20重量%であることが好ましく、前記ポリエーテルサルホンはフェノール樹脂中に均一分散していることが好ましい。また、これらのフェノール樹脂組成物を含有するフェノール樹脂成形材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール樹脂組成物、およびフェノール樹脂成形材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は熱硬化性樹脂の中でも耐熱性、強度、電気的特性等種々の点において優れており、成形材料、積層材、各種結合剤などさまざまの用途に使用されている。例えば、成形材料として使用された場合、成形品特性は概ね良好であるが、強度・靭性などにおいて不十分な場合がある。
高強度で高耐熱性を有する成形品を得るため、熱可塑性樹脂を用いた改質はよく知られている。熱可塑性樹脂としてエラストマーである、酢酸ビニル、NBRを用いた場合、成形品の強度は向上するが、エラストマーの軟化点が低いため耐熱性が大きく低下する。そこで、高強度かつ高耐熱性の成形品を得るため、エンジニアリングプラスチックを用いた改質が挙げられる。
エンジニアリングプラスチックとしてポリエーテルサルホンを用いたフェノール樹脂の改質が報告されている。特許文献1には、フェノール樹脂にポリエーテルサルホンを溶融混合する方法、特許文献2では、ポリエーテルサルホンをフェノールに溶解させホルムアルデヒドと反応する方法で、ポリエーテルサルホンの変性樹脂を作製している。両特許文献ともに、変性樹脂を用いることで成形品の機械的強度が向上するとあるが、ポリエーテルサルホンの化学構造にまで言及して実施していない。本発明では、ポリエーテルサルホンの構造に着目し、さらなる高強度化を達成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−128457公報
【特許文献2】特開平8−157692公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は従来のフェノール樹脂硬化物のこのような問題を解決するために成されたもので、その目的とするところはフェノール樹脂の成形性および他の諸特性を劣化させることなく、機械的強度に優れた成形材料を与える樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的は、下記の本発明(1)〜(4)により達成される。
(1) ノボラック型フェノール樹脂と、水酸基を有するポリエーテルサルホンとを含んでなることを特徴とするフェノール樹脂組成物。
(2) 前記フェノール樹脂組成物全体に対して、前記ポリエーテルサルホンを1〜20重量%含有する、前記(1)に記載のフェノール樹脂組成物。
(3) 前記ポリエーテルサルホンが、フェノール樹脂中に均一分散してなる前記(1)又は(2)に記載のフェノール樹脂組成物。
(4) 前記(1)ないし(3)のいずれか1項に記載のフェノール樹脂組成物からなるフェノール樹脂成形材料。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従うと、フェノール樹脂硬化物の従来の問題点である機械的強度を改善することができるため、成形材料等の材料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明のフェノール樹脂組成物から説明する。
本発明のフェノール樹脂組成物は、ノボラック型フェノール樹脂及び水酸基を含有するポリエーテルサルホンを必須成分として含有することを特徴とする。
【0008】
本発明のフェノール樹脂組成物に用いられるノボラック型フェノール樹脂としては特に限定しないが、一般に酸性物質を触媒として、フェノール類とアルデヒド類を反応させたものが好ましく用いられる。ノボラック型フェノール樹脂の原料となるフェノール類としては特に限定しないが、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のクレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール等のキシレノール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール等のエチルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール等のブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クミルフェノール等のアルキルフェノール、フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール、p−フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体、および1−ナフトール、2−ナフトール等の1価のフェノール類、レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類などが挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができるが、通常、フェノール、クレゾールが多く用いられる。
【0009】
次に、ノボラック型フェノール樹脂の原料となるアルデヒド類としては特に限定しないが、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができるが、通常、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドなどのホルムアルデヒド類が多く用いられる。
【0010】
上記フェノール類(P) とアルデヒド類(F)とを反応させる際の反応モル比[F/P]としては特に限定されないが、0.5〜0.9とすることが好ましい。これにより、反応中に樹脂がゲル化することなく、好適な分子量を有する樹脂を合成することができる。反応モル比が上記下限値より小さいと、得られる樹脂中に含有される未反応のフェノール類の量が多くなってしまうことがある。また、反応モル比が上記上限値を上回ると、反応条件によっては樹脂がゲル化することがある。
【0011】
次に、ノボラック型フェノール樹脂の触媒となる酸性物質としては、例えば、シュウ酸などの有機酸や塩酸、硫酸、燐酸などの鉱物酸、パラトルエンスルホン酸、パラフェノールスルホン酸などを使用することができる。またこれらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0012】
本発明に用いるポリエーテルサルホンは、水酸基を有するポリエーテルサルホンである。水酸基を有するポリエーテルサルホンとしては特に限定されないが、例えば、市販品である住友化学社製のスミカエクセル5003PS、5003Pが挙げられ、単独または組み合わせて使用することができる。水酸基を持たないポリエーテルサルホンと比較し、水酸基を持つことでフェノール樹脂との親和性が良くなり、得られる成形品の機械的強度を向上させることができる。
【0013】
本発明に用いるポリエーテルサルホンはフェノール樹脂組成物全体の1〜20重量%であることが好ましく、更に好ましくは2〜15重量%であり、特に好ましくは5〜10重量%である。ポリエーテルサルホンの量が前記下限値を下回ると、ポリエーテルサルホンの効果が発揮されないため成形品の機械的特性を向上させることができず、前記上限値を越えると硬化性が低下し、成形材料の硬化不良が起こり成形品の概観不良、寸法精度が悪くなるからである。
【0014】
本発明のフェノール樹脂組成物は、ポリエーテルサルホン及びノボラック型フェノール樹脂を含有してなるものであるが、均一分散させる方が好ましい。均一分散とはノボラック型フェノール樹脂に完全に相溶していることであり、不均一に分散させた材料よりも成形品の機械的強度が向上する。
【0015】
本発明での、ポリエーテルサルホンをフェノール樹脂に均一分散させるフェノール樹脂組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えばポリエーテルサルホンをフェノール類に溶解させた原料を用い反応を行い、フェノール樹脂組成物を合成する方法(以下、反応混合と略)、ノボラック型フェノール樹脂とポリエーテルサルホンを溶融させてフェノール樹脂組成物を得る方法(以下、溶融混合と略)、フェノール樹脂とポリエーテルサルホンを共溶媒に溶解させ、溶媒を除去しフェノール樹脂組成物を得る方法(以下、溶液混合と略)が挙げられる。
【0016】
反応混合において用いるフェノール類、アルデヒド類、反応モル比[F/P]、触媒となる酸性物質としては、段落番号0008〜0011において説明した各々の原料と同じ物を用いることができる。
【0017】
溶融混合におけるポリエーテルサルホンの添加方法は特に限定されないが、例えばノボラック型フェノール樹脂を溶融しこれにポリエーテルサルホンを添加する方法、ノボラック型フェノール樹脂にポリエーテルサルホンを加え溶融させる方法がある。溶融させる温度は、200℃〜350℃とすることが好ましい。溶融温度が200℃以下では、ポリエーテルサルホンがノボラック型フェノール樹脂に溶融しないため均一分散させることができず、350℃以上ではフェノール樹脂が分解してしまう。
【0018】
溶液混合に使用される溶媒は特に限定されないが、ノボラック型フェノール樹脂とポリエーテルサルホンが溶解する溶媒であれば良い。例えば、ジクロロメタン、クロロホルムなどの無極性溶媒、N-メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどの極性溶媒、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾールなどのクレゾールなどが挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができるが、通常、ジクロロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、フェノールが多く用いられる。
【0019】
本発明のフェノール樹脂成形材料において、本発明のフェノール樹脂組成物の含有量は特に限定されないが、ヘキサメチレンテトラミンを用いる場合はそれも含めて、成形材料全体に対して、20〜50重量% であることが好ましい。更に好ましくは、30〜45重量% である。フェノール樹脂組成物の含有量が上記下限値未満であると、成形材料の生産が難しくなったり、成形時の流動性が低下するため、成形が難しくなったりすることがある。また、上記上限値を越えると、成形収縮や後収縮による寸法変化が大きくなるため、成形品の種類や用途によっては所定の成形品寸法を維持することが難しい場合がある。
【0020】
本発明のフェノール樹脂成形材料は、さらに無機充填材を含むことができる。本発明に用いる無機充填材としては、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、ガラスビーズ、炭素繊維、クレー、炭酸カルシウム、タルク、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、シリカ、ワラストナイト、ロックウール、マイカが挙げられ、これらを単独で使用、あるいは2 種類以上併用することができる。
【0021】
本発明の成形材料において、上記無機充填材の含有量としては特に限定されないが、成形材料全体に対して45〜75重量% であることが好ましく、さらに好ましくは50〜60重量%である。無機充填材の含有量が上記下限値を下回ると、成形収縮や後収縮による寸法変化が大きくなるため、成形品の種類や用途によっては、所定の成形品寸法を維持することが難しくなることがある。また、上記上限値を超えると、成形材料の生産が難しくなったり、成形時の流動性が低下するため、成形が難しくなったりすることがある。
【0022】
本発明の成形材料には、以上に説明した原材料のほか、必要に応じて、着色剤、離型剤、硬化助剤などを配合することができる。
【0023】
本発明のフェノール樹脂成形材料の製造方法は特に限定されないが、加圧ニーダー、二軸押出機、加熱ロール等で加熱溶融混練した混練物をパワーミル等で粉砕して製造される。また、こうして得られた成形材料はインジェクション成形、トランスファ成形およびコンプレッション成形等のいずれにも適用することができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
実施例および比較例に用いた各原材料は以下のとおりである。
( 1 ) ノボラック型フェノール樹脂A: 住友ベークライト社製 「PR−HF−3」
( 2 ) ポリエーテルサルホンA:住友化学社製「5003PS」 水酸基を含有する
( 3 ) ポリエーテルサルホンB:住友化学社製「4800」 水酸基を含有しない
( 4 ) ヘキサメチレンテトラミン: 住友精化社製 ウロトロピン
( 5 ) ガラス繊維: 日東紡績社製 Eガラス繊維 (基準繊維径 10±1.5μm)
( 6 ) 硬化助剤: 酸化マグネシウム
( 7 ) 離型剤 : ステアリン酸カルシウム
( 8 ) 着色剤 : カーボンブラック
【0026】
(実施例1)
ノボラック型フェノール樹脂Aを900重量部とポリエーテルサルホンAの100重量部を3Lフラスコに仕込み230℃に加熱し1時間攪拌させた後、内容物を外に出し常温で固形のフェノール樹脂組成物1000重量部を得た。
【0027】
(実施例2)
実施例1において、ノボラック型フェノール樹脂Aを990重量部、ポリエーテルサルホンAを10重量部に変えた以外は実施例1と同様にし、フェノール樹脂組成物1000重量部を得た。
【0028】
(実施例3)
実施例1において、ノボラック型フェノール樹脂Aを800重量部、ポリエーテルサルホンAを200重量部に変えた以外は実施例1と同様にし、フェノール樹脂組成物1000重量部を得た。
【0029】
(実施例4)
実施例1において、ノボラック型フェノール樹脂Aを995重量部、ポリエーテルサルホンAを5重量部に変えた以外は実施例1と同様にし、フェノール樹脂組成物1000重量部を得た。
【0030】
(実施例5)
実施例1において、ノボラック型フェノール樹脂Aを700重量部、ポリエーテルサルホンAを300重量部に変えた以外は実施例1と同様にし、フェノール樹脂組成物1000重量部を得た。
【0031】
(実施例6)
粉末状のノボラック型フェノール樹脂Aの900重量部、粉末状のポリエーテルサルホンAの100重量部を、ラボミルサー(大阪ケミカル社製、LM-2)にて混合し、フェノール樹脂組成物975重量部を得た。
【0032】
(比較例1)
実施例1において、ノボラック型フェノール樹脂Aを900重量部、ポリエーテルサルホンAをポリエーテルサルホンBの100重量部に変えた以外は実施例1と同様にし、フェノール樹脂組成物1000重量部を得た。
【0033】
(比較例2)
フェノール樹脂組成物としてノボラック型フェノール樹脂Aの1000重量部を用いた。
次に、これらのフェノール樹脂組成物と、硬化剤としてテトラメチレンヘキサミン、繊維基材としてガラス繊維、硬化助剤として酸化マグネシウム、離型剤としてステアリン酸カルシウム、着色剤としてカーボンブラックを表1に示す配合割合で仕込み、90℃の加熱ロールにより3分間溶融混練した後取り出し、顆粒状に粉砕して成形材料を得た。
【0034】
(評価方法)
実施例及び比較例で得られた成形材料を用いて、トランスファ成形により試験片を作製した。成形条件は、金型温度175℃、硬化時間3分間とした。
得られた試験片を180℃ 雰囲気中で6時間処理し、曲げ強さ、曲げ弾性率(常温および熱時150℃)、およびシャルピー衝撃強さを、JIS K 6911 「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準拠して測定した。その結果を表2に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
実施例1〜6は、本発明のフェノール樹脂を用いた成形材料である。これらから得られた成形品の常温および熱時の機械的強度は、水酸基を含有しないポリエーテルサルホンを用いた比較例1及びポリエーテルサルホンを含有しない比較例2よりも良好な結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のフェノール樹脂成形材料は従来のフェノール樹脂成形材料に比べ、機械的強度の向上した成形材料となっている。このため、自動車用部品、汎用機械用部品、電気電子部品等の機構部品用途に好適に使用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノボラック型フェノール樹脂と、水酸基を有するポリエーテルサルホンとを含んでなることを特徴とするフェノール樹脂組成物。
【請求項2】
前記フェノール樹脂組成物全体に対して、前記ポリエーテルサルホンを1〜20重量%含有する、請求項1に記載のフェノール樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリエーテルサルホンが、フェノール樹脂中に均一分散してなる請求項1又は2に記載のフェノール樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のフェノール樹脂組成物からなるフェノール樹脂成形材料。

【公開番号】特開2012−131888(P2012−131888A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284464(P2010−284464)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】