説明

フェノール樹脂複合材およびその製造方法

【課題】強度を低下させることなく、かつ、セルロースナノファイバーなどの微細繊維に含まれる水分を容易に除去し、安価に製造が可能な、フェノール樹脂複合材、およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】微細繊維とフェノール樹脂プレポリマーとからなる液状混合物を繊維性基材に含浸し、積層成形されたことを特徴とするフェノール樹脂複合材。また、微細繊維とフェノール樹脂プレポリマーとからなる液状混合物を繊維性基材に含浸し、積層成形するフェノール樹脂複合材の製造方法であって、前記液状混合物を得る工程が、前記微細繊維をフェノール及びホルマリンを主成分とする混合液に混合、分散させる第1の工程の後に、重合触媒を加え、加熱、重合しフェノール樹脂プレポリマーとする第2の工程からなることを特徴とするフェノール樹脂複合材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール樹脂複合材に関する。更に詳しくは、微細繊維、フェノール樹脂組成物、繊維性基材を主成分とするフェノール樹脂複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱硬化性樹脂等に木粉、紙パルプなどのセルロース系繊維等を添加した成形品は製造されている。しかし近年、植物パルプ由来の素材として、セルロースナノファイバーに代表される微細繊維が注目されている。このセルロースナノファイバーは、木質パルプを機械的に開繊し、リグニンなどの成分を除去してセルロース短繊維のみを取り出したもので、セルロースの伸び切り鎖結晶から構成されたものである。そのため、非常に高強度・高弾性であり、しかも低熱膨張率であるという特徴を有している。このように、特にセルロースナノファイバーは、植物パルプ由来であると同時に、優れた材料特性を有することから、環境フレンドリーな補強材としてプラスチックに添加する試みがなされている(特許文献1乃至3参照)。
【0003】
ところで、このセルロースナノファイバーは、通常、多量の水分を含んだ状態(水分が全体の50〜90wt%)で供給される。これは、セルロースナノファイバーが乾燥状態では繊維間の水素結合により相互に強固な凝着を生じ、乾燥状態のセルロースナノファイバーを水に再分散することが困難であることによるものである。従って、セルロースナノファイバーをプラスチックに添加する場合、水分を除去する必要があるが、この水分を除去するには以下のような方法がとられている。
【0004】
その代表的な手段としては、予めセルロースナノファイバーなどの微細繊維を抄紙によりシート化してフェノール樹脂などの液状樹脂を含浸させる方法(以下、シート化法という)や(特許文献4参照)、セルロースナノファイバーなどの微細繊維を熱可塑性樹脂あるいはフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂などと混合した後、二軸混練押出機に代表される樹脂の溶融混練プロセス装置を用いて混練するなどの方法がとられている(特許文献5参照)。
また、一般に、繊維性基材に含浸する熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂以外にエポキシ樹脂が使用される。しかし、このエポキシ樹脂は、原料モノマーであるエピクロルドリンの耐水性の問題から、セルロースナノファイバーのような水分含量の多い材料を添加し、合成することが、極めて困難か、殆ど不可能である。
【特許文献1】特許第3641690号
【特許文献2】特開2006−312281号公報
【特許文献3】特開2006−312688号公報
【特許文献4】特開2004−292970号公報
【特許文献5】特開2005−42283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セルロースナノファイバーなどを使用する場合、前記のように一般にこれらのナノファイバーは多量の水分を含むうえ、前記水分の除去が極めて困難であることから、樹脂の溶融段階で水分が残留していた場合には、樹脂の加水分解による劣化の結果、成形品の強度の低下が生じたり、成形時に残留水分が蒸発することよる成形不良(外観、ウエルド、バリ、成形精度低下など)が発生したりする場合があった。
【0006】
また、シート化法では、セルロースナノファイバーは綴密であるため濾水性が悪く、連続抄紙が非常に困難あるいは不可能である。従って、実験室的には濾紙およびビフネルロートを用いて吸引ろ過を行うか、手漉きによる抄紙によりシートを作製することは可能であるが、これらの方法は、大量生産には不適である。更に、前記方法により得られるシートは、非常に綴密であるため、樹脂の含浸性が悪く、減圧含浸後、常圧で長時間の浸漬が必要になるという問題があった。
【0007】
更に、ろ紙の上に形成したセルロースナノファイバーなどの微細繊維からなるシートは、含水状態でないとろ紙との完全な分離が困難であり、乾燥させるとろ紙からの分離は全く不可能になる。含水状態でろ紙から分離した前記シートは、その水分を除去する必要があるが、給水紙等に挟んでプレスで加圧しながら乾燥させないと乾燥後のシートが大きく波打ち、その後の樹脂含浸、積層成形工程の作業性に大きな支障となるという問題があった。
【0008】
また、前記二軸押出機などの混練装置を用いる場合は、セルロースナノファイバーの切断による補強効果の低下や、残留水による樹脂の加水分解が懸念される。それゆえ、別途脱水工程が必要となるが、その工程は、通常、真空ポンプ等の設置が必要となり、設備が大掛かりとなるなど、製造コストが増加するという問題があった。
【0009】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、その強度を低下させることなく、かつ、微細繊維に含まれる水分を容易に除去し、安価に製造が可能な、フェノール樹脂複合材、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係るフェノール樹脂複合材は、微細繊維とフェノール樹脂プレポリマーとからなる液状混合物を繊維性基材に含浸し、積層成形されたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るフェノール樹脂複合材の第2の態様は、前記微細繊維が、セルロースナノファイバーであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るフェノール樹脂複合材の第3の態様は、前記液状混合物が、前記セルロースナノファイバーを固形分として0.1〜5重量%含有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るフェノール樹脂複合材の第4の態様は、前記液状混合物が、フェノール及びホルマリンを主成分とする混合液に重合触媒を加えフェノール樹脂プレポリマーとし、親水性溶媒を加えた液状樹脂とした後に、前記微細繊維を混合分散させて得られることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るフェノール樹脂複合材の第5の実施態様は、前記液状混合物が、フェノール及びホルマリンを主成分とする混合液に重合触媒を加えフェノール樹脂プレポリマーとし、親水性溶媒を加えた液状樹脂とした後に、前記微細繊維を混合分散させて得られることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るフェノール樹脂複合材の製造方法は、微細繊維とフェノール樹脂プレポリマーとからなる液状混合物を繊維性基材に含浸し、積層成形するフェノール樹脂複合材の製造方法であって、前記液状混合物を得る工程が、前記微細繊維をフェノール及びホルマリンを主成分とする混合液に混合、分散させる第1の工程の後に、重合触媒を加え、加熱、重合しフェノール樹脂プレポリマーとする第2の工程からなることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る他のフェノール樹脂複合材の製造方法は、微細繊維とフェノール樹脂プレポリマーとからなる液状混合物を繊維性基材に含浸し、積層成形するフェノール樹脂複合材の製造方法であって、前記液状混合物を得る工程が、フェノール及びホルマリンを主成分とする混合液に重合触媒を加えてフェノール樹脂プレポリマーとする第1の工程、前記フェノール樹脂プレポリマーに親水性溶媒を加えて液状樹脂とする第2の工程を経た後に、前記微細繊維を混合、分散させる第3の工程からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フェノール樹脂はモノマーのうち、ホルマリンは通常37%濃度のホルムアルデヒド水溶液を用いるため、多量の水分を含むセルロースナノファイバーなどの微細繊維を直接混合することが可能であり、得られる液状混合物は低粘度であるため、前記微細繊維の分散が容易である。更に、フェノール樹脂の重合過程で生じる縮合水とともに脱水処理が可能となるため、既存の設備により前記微細繊維に含まれる水分をも同時に除去が可能である。
また、予め調整したフェノール樹脂プレポリマーにアルコールなどの親水性溶媒を加えて液状物とした場合でも、微細繊維の含水成分をアルコール等の親水性溶媒で置換した後に、前記液状物に添加することで、微細繊維を均一に混合・分散させた液状混合物を得ることも可能である。これらの処理も、既存の設備を使用することにより行うことができる。
また、上記のような処理により得られた液状混合物を使用して得られるフェノール樹脂複合材は、微細繊維が均一に分散されているため、高い強度を有するものとなる。
従って、本発明によれば、高い強度を有し、かつ安価に製造可能なフェノール樹脂複合材を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本願発明を詳細に説明する。
本発明における微細繊維とは、繊維の太さが1〜10nmにまで微細化された繊維をいい、本発明では、後述のように、特にセルロース繊維からなるものが好適である。前記微細繊維の原料繊維としては、木材、農地残廃物、布、古紙などの植物由来のもの、酢酸菌などの微生物由来もの、ホヤ等の動物由来のものを利用可能である。コスト、入手のし易さを考慮すると、植物由来のものを利用するのが好ましい。また、地球環境保護の観点からは、新聞、雑誌などの古紙、植物繊維からなる古着等の布を利用することも好ましい。
前記微細繊維は、公知の方法により得ることができる。例えば、前記原料繊維を所定の処理を施した後に、超高圧ホモジナイザー、媒体攪拌ミル処理、振動ミル処理、などの処理を行うことにより得ることができる。
【0019】
本発明の微細繊維として、特に好適なものとしては、植物パルプ由来のセルロースナノファイバーが挙げられる。このセルロースナノファイバーは、既に述べたように、木質パルプを機械的に開繊し、リグニンなどの成分を除去してセルロース短繊維のみを取り出したもので、セルロースの伸び切り鎖結晶から構成されたものである。そのため、非常に高強度・高弾性であり、しかも低熱膨張率であるという特徴を有している。
このように、セルロースナノファイバーは、植物パルプ由来であると同時に、優れた材料特性を有することから、環境フレンドリーなプラスチック用の補強材として特に好適である。
【0020】
本発明におけるフェノール樹脂プレポリマーを構成しているフェノール類は、特に限定されず、アルキルフェノール(クレゾール、キシレノールなど)、多価フェノール類(レゾルシンなど)、フェニルフェノール、アミノフェノールなどが挙げられる。また、アルデヒド類は、特に限定されず、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどが挙げられる。
またフェノール樹脂プレポリマーとしては、フェノール類とアルデヒド類をアルカリ触媒下で反応させたレゾール型、酸触媒下で反応させたノボラック型のいずれでもよい。
また、本発明における繊維性基材としては、綿帆布、紙シート、ガラス繊維、不織布などが挙げられるが、特に限定されない。
【0021】
本発明のフェノール樹脂複合材は、微細繊維としてセルロースナノファイバーを使用した場合、例えば以下のように製造することができる。
先ず、フェノールならびにホルマリン(37%ホルムアルデヒド水溶液)のモル比を、ノボラックの場合P/F=1/0.7〜1/0.9、レゾールの場合P/F=1/1〜1/3で混合する。ここで、P/Fとはフェノール/ホルマリンのモル比を意味する。重合触媒としてノボラックはシュウ酸、塩酸、硫酸、トルエンスルホン酸、リン酸、マレイン酸などの酸触媒、レゾールの場合は水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、アルカリ土類酸化物・水酸化物、アンモニア、ヘキサメチレンテトラミン、第三アミンなどのアルカリ触媒が用いられる。
【0022】
これらのモノマーと含水状態のままのセルロースナノファイバーを所定量混合し、ホモジナイザーで8000rpmにて約2時間混合する。セルロースナノファイバーの添加量としては、フェノール樹脂固形分に対するセルロースナノファイバー固形分として0.1〜5重量%である。好ましくは0.5〜3重量%である。添加量が0.5重量%より少ないと強化材としての十分な効果が得られず、また、添加量が3重量%より多くなるとセルロースナノファイバーの増粘効果により液状モノマーの重合反応時の攪拌が困難になる。
この混合物に重合触媒を加え、加熱し、常圧で重合反応後、減圧、脱水、脱残モノマーを行ってフェノール樹脂プレポリマーを得る。重合条件は、一般的に知られている方法でよく、例えば「フェノール樹脂」(A.Knop著、瀬戸正二監訳、プラスチックエージ杜、1987年発行)に詳しく記載されている。
【0023】
また、この系に界面活性剤を添加するとセルロースナノファイバーの均一分散性を向上させることが出来るため特に好ましい。前記界面活性剤としては、特に限定されないが、フェノール樹脂(親油成分)にセルロースナノファイバー(親水成分)を分散させるためには非イオン系界面活性剤が好ましく、中でも、親油成分と親水成分とのバランスから、アルキルフェノール系界面活性剤が特に好ましい。また、添加量としては、セルロースナノファイバー固形分(乾燥重量)に対して1重量%以上20重量%以下の範囲で使用することが好ましい。1重量%より少ないとセルロースナノファイバーの良好な分散性が得られず、20重量%より多いとフェノール樹脂複合材におけるセルロースナノファイバーの力学特性を向上させる効果が阻害される。
【0024】
前記加熱重合後、80℃程度に保持し、減圧下でホルマリンの不要水分、フェノールとホルムアルデヒドの縮合反応水ならびにセルロースナノファイバーに含まれる水分を効率よく除去するのが好ましい。水分除去方法としては、減圧除去など一般的な方法を採用することができ、特に限定されない。
【0025】
水分除去後、計算上のフェノール樹脂生成量に対し、同量程度以下のメタノール、アセトンなどの有機溶媒を添加しワニス化することによりセルロースナノファイバーとフェノール樹脂から成る液状混合物を得ることができる。このワニス(液状混合物)を綿帆布、紙シート、ガラス織物、不織布などの基材に含浸し、乾燥してから所定のサイズに切断し圧縮成形して、本発明のフェノール樹脂複合材である圧縮成形品を得ることができる。尚、圧縮成形方法としては、一般の方法を採用することができる。
【0026】
また、前記以外に、次の方法によっても、フェノール樹脂複合材を作製することができる。
前記フェノール類、前記ホルムアルデヒド類、重合触媒を混合し、ノボラック型のフェノール樹脂プレポリマー、あるいはレゾール型のフェノール樹脂プレポリマーを合成する。得られたフェノール樹脂プレポリマーに、メタノールなどの親水性溶媒を添加してワニス化する。このワニスに含水状態のままのセルロースナノファイバーを所定量添加する。
この際、セルロースナノファイバーとしては、それに含まれる水分をワニスと同種の親水性溶媒で置換したものを使用することも出来る。この際使用する親水性溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトンが特に好ましい。また、前記溶媒置換の際に、界面活性剤を添加することが好ましい。その理由は上記のように、セルロースナノファイバーをより均一に分散できることによるものである。また、使用可能な界面活性剤、及び使用量も上記のとおりである。
その後、セルロースナノファイバーとフェノール樹脂プレポリマーからなる混合液をホモジナイザーなどで攪拌して得られる液状混合物を繊維性基材に含浸し、乾燥・切断して積層成形することで本発明のフェノール樹脂複合材である圧縮成形品とすることが出来る。
以下の実施例において、より詳細に本発明を具体的に説明するが、本発明が、下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
フェノール282g(3mo1)に、37%ホルムアルデヒド水溶液171g(0.7mo1)及び水分を75%含むセルロースナノファイバー(セリッシュKY-100G、ダイセル化学工業(株))を固形分で5g(乾燥重量)加え、非イオン系界面活性剤(エマルゲン905、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、花王(株))2g加えて、ホモジナイザー(TKホモミキサー、プライミクス(株))で8000rpm、2時間攪拌した。
この攪拌物を超音波ホモジナイザーで15分間処理した後、反応容器に移し、シュウ酸二水和物3gを加えた。混合物を攪拌しながらオイルバス中で90℃、45分加熱還流した。
ここで、反応容器をオイルバスから取り出して80℃まで冷却し、さらにシュウ酸二水和物を2g加えた。攪拌下でさらに加熱し、真空度400mmHg(53.3kPa)にて反応容器の内部温度が120℃になるまで加熱し、さらに160℃に昇温して冷却管に水滴が出なくなるまで濃縮する。その後、反応容器を80℃に下げ、ヘキサメチレンテトラミンを20g加えて充分に攪拌し、メタノールを400g投入してワニス化し、液状混合物を得た。
【0028】
得られた液状混合物を綿帆布(♯11、0.8mm厚み)に含浸、乾燥、Bステージ化した。得られた含浸綿布は形状が平滑であり、そのまま次工程である切断、圧縮成形に供することができた。この綿帆布プリプレグを切断し、12枚積層して160℃、10MPaにて押切り金型を用いて圧縮成形し、100(幅)×150(長さ)×5(厚さ)mmの成形品素材を得た。この素材を熱風循環炉を用いて170℃、2時間硬化し、フェノール樹脂複合材を得た。この複合材から機械加工で100(長さ)×10(幅)×4(厚さ)mmの試作片を作製し、それぞれJIS K7171およびJIS K7110に準拠して、曲げ試験及びシャルピー衝撃試験を行った。評価結果を表1に示す。
【実施例2】
【0029】
フェノール282g(3mo1)に、37%ホルムアルデヒド水溶液292g(1.2mo1)及び水分を75%含むセルロースナノファイバー(セリッシュKY-100G、ダイセル化学工業(株))を固形分で5g(乾燥重量)加え、さらに非イオン系界面活性剤(エマルゲン905、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、花王(株))2gを加え、ホモジナイザー(TKホモミキサー、プライミクス(株))で8000rpm、2時間攪拌した。
この攪拌物を超音波ホモジナイザーで15分処理した後、水酸化ナトリウム50%水溶液10gを加えた。混合物を攪拌しながらオイルバス中で98℃、40分加熱還流した。
ここで、反応容器をオイルバスから取出して60℃まで冷却して、酢酸25%水溶液を加えて中和し、減圧蒸留用コンデンサをつけて真空度400mmHg(53.3kPa)にて反応容器の内部温度70℃で脱水し、2時間攪拌還流した。その後、メタノールを400g投入してワニス化し、液状混合物を得た。
【0030】
得られた液状混合物を綿帆布(♯11、0.8mm厚み)に含浸、乾燥、Bステージ化した。得られた含浸綿布は形状が平滑であり、そのまま次工程である切断、圧縮成形に供することができた。この綿帆布プリプレグを切断し、12枚積層して160℃、10MPaにて押切り金型を用いて圧縮成形し、100(幅)×150(長さ)×5(厚さ)mmの成形品素材を得た。この素材を熱風循環炉を用いて170℃、2時間硬化し、フェノール樹脂複合材を得た。この複合材から機械加工で100(長さ)×10(幅)×4(厚さ)mmの試作片を作製し、それぞれJIS K7171およびJIS K7110に準拠して、曲げ試験及びシャルピー衝撃試験を行った。評価結果を表1に示す。
【実施例3】
【0031】
反応容器に、フェノール282g(3mo1)及び37%ホルムアルデヒド水溶液292g(1.2mo1)を加え、水酸化ナトリウム50%水溶液10gを加えた。この混合物を攪拌しながらオイルバス中で98℃、40分加熱還流した。
ここで、反応容器をオイルバスから出して60℃まで冷却して、酢酸25%水溶液を加えて中和し、減圧蒸留用コンデンサをつけて真空度400mmHg(53.3kPa)にて反応容器の内部温度70℃で脱水し、2時間攪拌還流した。その後、メタノールを400g投入してワニス化した。
水分を75重量%含むセルロースナノファイバー(セリッシュKY-100G、ダイセル化学工業(株))25gの水分を遠心分離機でメタノール置換したものを上記ワニスに加え、非イオン系界面活性剤(エマルゲン905、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、花王(株))10gを加え、ホモジナイザー(TKホモミキサー、プライミクス株式会杜)で8000rpm、2時間攪拌し、液状混合物を得た。
【0032】
得られた液状混合物を綿帆布(♯11、0.8mm厚み)に含浸、乾燥、Bステージ化した。得られた含浸綿布は形状が平滑であり、そのまま次工程である切断、圧縮成形に供することができた。この綿帆布プリプレグを切断し、12枚積層して160℃、10MPaにて押切り金型を用いて圧縮成形し、100(幅)×150(長さ)×5(厚さ)mmの成形品素材を得た。この素材を熱風循環炉を用いて170℃、2時間硬化し、フェノール樹脂複合材料を得た。この複合材から機械加工で100(長さ)×10(幅)×4(厚さ)mmの試作片を作製し、それぞれJIS K7171およびJIS K7110に準拠して、曲げ試験及びシャルピー衝撃試験を行った。評価結果を表1に示す。
【実施例4】
【0033】
反応容器に、フェノール500g(5.3mo1)及び37%ホルムアルデヒド水溶液500g(6.2mo1)を加え、さらに25%アンモニア溶液20gを添加し、混合物を撹幹しながらオイルバス中で98℃、40分加熱還流した。
ここで、セパラブルフラスコをオイルバスから取出して60℃まで冷却し、酢酸25%水溶液を加えて中和し、真空皮400mmHg(53.3kPa)にて反応容器の内部温度70℃で脱水し、2時間攪拌還流した。その後、乳化剤(ホモゲノールL-95、花王(株))5g、及び精製水200gを加えて水分散系レゾール樹脂のワニスを得た。
水分を75%含むセルロースナノファイバー(セリッシュKY-100G、ダイセル化学工業(株))25gを上記ワニスに加え、さらに非イオン系界面活性剤(エマルゲン905、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、花王(株)) 10gを加え、ホモジナイザー(TKホモミキサー、プライミクス(株))で8000rpm、2時間攪拌し、ワニス(液状混合物)を得た。
【0034】
得られた液状混合物を綿帆布(♯11、0.8mm厚み)に含浸、乾燥、Bステージ化した。得られた含浸綿布は形状が平滑であり、そのまま次工程である切断、圧縮成形に供することができた。この綿帆布プリプレグを切断し、12枚積層して160℃、10MPaにて押切り金型を用いて圧縮成形し、100(幅)×150(長さ)×5(厚さ)mmの成形品素材を得た。この素材を熱風循環炉を用いて170℃、2時間硬化し、フェノール樹脂複合材を得た。この複合材から機械加工で100(長さ)×10(幅)×4(厚さ)mmの試作片を作製し、それぞれJIS K7171およびJIS K7110に準拠して、曲げ試験及びシャルピー衝撃試験を行った。評価結果を表1に示す。
【0035】
(比較例1)
微細繊維ではないクラフト紙用パルプ(繊維径20〜80μm)を使用し、フェノール樹脂複合材料組成物を以下のように作製した。
フェノール282g(3mo1)に、37%ホルムアルデヒド水溶液292g(1.2mo1)及び水分を75%含むパルプ(クラフト紙用)を固形分で5g加え、さらに非イオン系界面活性剤(エマルゲン905、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、花王(株))2gを加え、ホモジナイザー(TKホモミキサー、プライミクス(株))で8000rpm、2時間攪拌した。
この攪拌物を超音波ホモジナイザーで15分処理した後、1000mLのセパラブルフラスコに移し、水酸化ナトリウム50%水溶液を加えた。得られた混合物を攪拌しながらオイルバス中で98℃、40分加熱還流した。
ここで、セパラブルフラスコをオイルバスから出して60℃まで冷却して、酢酸25%水溶液を90g加えて中和し、減圧蒸留用コンデンサをつけて真空度400mmHg(53.3kPa)にて内部温度70℃で脱水し、2時間攪拌還流した。その後、メタノールを400g投入してワニス(液状混合物)とした。
【0036】
得られた液状混合物を綿帆布(♯11、0.8mm厚み)に含浸、乾燥、Bステージ化した。
得られた含浸綿布は形状が平滑であり、そのまま次工程である切断、圧縮成形に供することができた。この綿帆布プリプレグを切断し、12枚積層して160℃、10MPaにて押切り金型を用いて圧縮成形し、100(幅)×150(長さ)×5(厚さ)mmの成形品素材を得た。この素材を熱風循環炉を用いて170℃、2時間硬化し、フェノール樹脂複合材を得た。この複合材から機械加工で100(長さ)×10(幅)×4(厚さ)mmの試作片を作製し、それぞれJIS K7171およびJIS K7110に準拠して、曲げ試験及びシャルピー衝撃試験を行った。評価結果を表1に示す。
【0037】
(比較例2)
微細繊維ではないレーヨン繊維(繊維径、約15μm)を使用し、フェノール樹脂複合材料組成物を以下のように作製した。
フェノール282g(3mo1)に、37%ホルムアルデヒド水溶液292g(1.2mo1)及び水分を75%含むレーヨン繊維(紙混抄用)を固形分で5g加え、さらに非イオン系界面活性剤(エマルゲン905、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、花王(株))2gを加え、ホモジナイザー(TKホモミキサー、プライミクス(株))で8000rpm、2時間攪拌した。
この攪拌物を超音波ホモジナイザーで15分処理した後、1000mLのセパラブルフラスコに移し、水酸化ナトリウム50%水溶液を加えた。混合物を攪拌しながらオイルバス中で98℃、40分加熱還流した。
ここで、セパラブルフラスコをオイルバスから出して60℃まで冷却して、酢酸25%水溶液を90g加えて中和し、減圧蒸留用コンデンサをつけて真空度400mmHg(53.3kPa)にて内部温度70℃で脱水し、2時間攪拌還流した。その後、メタノールを400g投入してワニス化し、液状混合物を得た。
【0038】
得られた液状混合物を綿帆布(♯11、0.8mm厚み)に含浸、乾燥、Bステージ化した。得られた含浸綿布は形状が平滑であり、そのまま次工程である切断、圧縮成形に供することができた。この綿帆布プリプレグを切断し、12枚積層して160℃、10MPaにて押切り金型を用いて圧縮成形し、100(幅)×150(長さ)×5(厚さ)mmの成形品素材を得た。この素材を熱風循環炉を用いて170℃、2時間硬化し、フェノール樹脂複合材を得た。この複合材から機械加工で100(長さ)×10(幅)×4(厚さ)mmの試作片を作製し、それぞれJIS K7171およびJIS K7110に準拠して、曲げ試験及びシャルピー衝撃試験を行った。評価結果を表1に示す。
【0039】
(比較例3)
セルロースナノファイバーを水に分散させ固形分0.2%のスラリーを作製し、これをろ紙を敷いたビフネルロートおよび吸引瓶を用いて減圧濾過して厚さ0.15mmのセルロースナノファイバーシートを得た。セルロースナノファイバーシートは含水状態でろ紙から1枚ずつ剥がし、コットンリンターに挟んで圧縮成形機で加圧(0.05MPa)しながら、乾燥した。コットンリンターは1日ごとに取替え、シートの含水量が1%とするのに4日間要した。
【0040】
反応容器に、フェノール282g(3mol)に37%ホルムアルデヒド水溶液292g(1.2mol)を添加し、水酸化ナトリウム50%水溶液10gを加えた。混合物を攪拌しながらオイルバス中で98℃、40分加熱還流した。ここで、反応容器をオイルバスから出して60℃まで冷却して、酢酸25%水溶液を加えて中和し、減圧蒸留用コンデンサを付けて真空度400mmHg(53.3kPa)にて内部温度70℃で脱水し、2時間攪拌還流した。
このフェノール樹脂並びにメタノールを用いて固形分濃度15%のフェノール樹脂ワニスを作製し、上記の乾燥後にセルロースナノファイバーを含浸した。含浸操作は、600mmHg減圧下で12時間保持し、更に常圧で96時間保持した後、シートを取り出し、風乾した。
このシートを切断、60枚積層して160℃、10MPaにて押切り金型を用いて圧縮成形し、100(幅)×150(長さ)×5(厚さ)mmの成形品素材を得た。この素材を熱風循環炉を用いて170℃、2時間硬化し、フェノール樹脂複合材を得た。この複合材から機械加工で100(長さ)×10(幅)×4(厚さ)mmの試作片を作製し、それぞれJIS K7171およびJIS K7110に準拠して、曲げ試験及びシャルピー衝撃試験を行った。評価結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1より、実施例1から4においては、微細繊維ではない比較例1、2の場合と比較し、水分除去に要した時間は同等であるが、曲げ強度、曲げ弾性、シャルピー衝撃強度が優れていることがわかる。また、従来の製造方法による比較例の場合と比較し、各物理強度としてはやや劣るものの、水分除去に要した時間が極めて短く、層間剥離が発生することもなく、生産性に優れていることがわかる。
このように、本発明によれば、複合材としての物理強度を高くしつつ、生産性良くフェノール樹脂複合材料組成物を提供することが可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細繊維とフェノール樹脂プレポリマーとからなる液状混合物を繊維性基材に含浸し、積層成形されたことを特徴とするフェノール樹脂複合材。
【請求項2】
前記微細繊維がセルロースナノファイバーである請求項1に記載のフェノール樹脂複合材。
【請求項3】
前記液状混合物が、前記セルロースナノファイバーを固形分として0.1〜5重量%含有する請求項2に記載のフェノール樹脂複合材。
【請求項4】
前記液状混合物が、前記微細繊維をフェノール及びホルマリンを主成分とする混合液に混合、分散させた後に、重合触媒を加え、加熱、重合してフェノール樹脂プレポリマーとして得られる請求項1から3のいずれかに記載のフェノール樹脂複合材。
【請求項5】
前記液状混合物が、フェノール及びホルマリンを主成分とする混合液に重合触媒を加えフェノール樹脂プレポリマーとし、親水性溶媒を加えた液状樹脂とした後に、前記微細繊維を混合分散させて得られる請求項1から3のいずれかに記載のフェノール樹脂複合材。
【請求項6】
微細繊維とフェノール樹脂プレポリマーとからなる液状混合物を繊維性基材に含浸し、積層成形するフェノール樹脂複合材の製造方法であって、
前記液状混合物を得る工程が、前記微細繊維をフェノール及びホルマリンを主成分とする混合液に混合、分散させる第1の工程の後に、重合触媒を加え、加熱、重合しフェノール樹脂プレポリマーとする第2の工程からなることを特徴とするフェノール樹脂複合材の製造方法。
【請求項7】
微細繊維とフェノール樹脂プレポリマーとからなる液状混合物を繊維性基材に含浸し、積層成形するフェノール樹脂複合材の製造方法であって、
前記液状混合物を得る工程が、フェノール及びホルマリンを主成分とする混合液に重合触媒を加えてフェノール樹脂プレポリマーとする第1の工程、前記フェノール樹脂プレポリマーに親水性溶媒を加えて液状樹脂とする第2の工程を経た後に、前記微細繊維を混合、分散させる第3の工程からなることを特徴とするフェノール樹脂複合材の製造方法。



【公開番号】特開2008−248092(P2008−248092A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91228(P2007−91228)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、近畿経済産業局、地域新生コンソーシアム研究開発事業「バイオマスナノファイバーの製造と高植物度ナノコンポジットの開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000107619)スターライト工業株式会社 (62)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】