説明

フェノール系繊維シート、フェノール系炭素繊維シート、フェノール系活性炭素繊維シートおよびそれらの製造方法

【課題】大量生産可能で、耐熱性、難燃性および耐薬品性が良好であると共に機械的強度が高く、かつ、厚みが従来に比して極薄化されたフェノール系繊維シート、並びに厚みが従来に比して極薄化されたフェノール系炭素繊維シートおよびフェノール系活性炭素繊維シートを提供すること。
【解決手段】繊維直径が0.01〜2μmのフェノール系繊維を含む紙料を抄紙して得ることを特徴とするフェノール系繊維シート。該フェノール系繊維シートを炭素化すること、または海成分が熱可塑性樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である複合繊維を含む紙料を抄紙して得られた複合繊維シートを、海成分を除去した後に、炭素化することを特徴とするフェノール系炭素繊維シート。該フェノール系炭素繊維シートを賦活することを特徴とするフェノール系活性炭素繊維シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェノール系繊維シート、フェノール系炭素繊維シート、フェノール系活性炭素繊維シートおよびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール系繊維は耐熱性、難燃性および耐薬品性に優れていることから、これらの特性が要求される分野で長年にわたり利用されている。
また、フェノール系繊維を炭素化することによりフェノール系炭素繊維が得られることが知られている。このフェノール系炭素繊維は、たとえばポリアクリロニトリル系やピッチ系の炭素繊維に比べ、強度や弾性率が低いものの、柔軟性に富んで加工が容易である点、炭素化後の残存率が高い点、良好な潤滑性を示す点から、特定分野では不可欠な材料とされている。
また、フェノール系繊維を炭素化した後、賦活することによりフェノール系活性炭素繊維が得られることが知られている。このフェノール系活性炭素繊維は電気二重層キャパシタの電極用材料として高い性能を示す点などから、特定分野では不可欠な材料とされている。
【0003】
このように、フェノール系繊維、フェノール系炭素繊維、フェノール系活性炭素繊維は、多方面にわたり使用されているが、近年、フェノール系繊維をフィルター等の用途に使用する場合や、フェノール系炭素繊維またはフェノール系活性炭素繊維を電極等の用途に使用する場合には、組み込まれる装置自体の高性能化の観点から、繊維を抄紙し、極薄のシート状にしたものが求められている。
【0004】
フェノール系繊維は、従来一般的に、熱可塑性のノボラック型フェノール樹脂を溶融紡糸し、その後、酸性触媒下でアルデヒド類と反応させることにより三次元架橋を行い、熱不融化する製造方法により製造されている。しかしながら、この方法では原料となるノボラック型フェノール樹脂は、完全非晶質であることに加え、重合度が低く、粘度の温度依存性が高い。そのため、ノボラック型フェノール樹脂を溶融紡糸して得られる糸篠は、周囲の温度の低下に伴って急速に固化する反面、極めて脆い性質を有する。特に、架橋前の糸篠は脆弱である。したがって、たとえば、ポリアミド系繊維やポリエステル系繊維などの他の熱可塑性繊維を製造する際には、糸篠に対して延伸を加えることが可能であるが、フェノール系繊維を製造する際に延伸を加えることは不可能である。
そこで、細孔より溶融したノボラック型フェノール樹脂を吐出させ、可塑変形領域にて一気に引き伸ばす高速ドラフトによる直接紡糸法によりフェノール系繊維が製造されている。しかしながら、この紡糸方法では、紡糸条件が極めて厳しい管理幅内に規制される上、細くするために口金からの吐出量を絞り、紡糸速度を上げるため、溶融ノボラック型フェノール樹脂が紡糸張力に耐えることができなくなり、糸切れが頻発する。このため、繊維直径12μm程度の微細化が実用上の限界である。
【0005】
フェノール系繊維を抄紙する場合、公知の方法で抄紙することができる。また、フェノール系繊維の特徴として、不融化等の特殊な工程を有さずに、炭素化、賦活が可能である。そのため、抄紙したフェノール系繊維シートを直接的に炭素化することによりフェノール系炭素繊維シートを得ることができる。また、フェノール系繊維シートを炭素化した後、賦活することによってフェノール系活性炭素繊維シートを得ることができる。
しかしながら、上述のようにフェノール系繊維の繊維直径の下限が12μm程度であるため、シートの厚みにも限界があり、極薄化の要望に応えることができなかった。
【0006】
一方、フェノール系炭素繊維に限定しなければ、各種炭素繊維を用いたシート(カーボンペーパーと称するものが多い)は存在するものの、これらのシートの厚みは100μm程度が下限である。これはシートを構成する炭素繊維の繊維直径が一般的な市販品で5μm程度が下限であることによるところが大きい。
また、これらの炭素繊維シートにはハンドリング性やフレキシブル性が求められているが、構成する炭素繊維そのものの弾性率が大きいため、繊維同士の絡みがほとんど無いこと、非常に剛直であることから諸要求を満たしていない。
また、バインダーや他材料の支持体無しに自立した活性炭素繊維シートは世の中に存在していないのが現状である。
【0007】
これらの問題を解決するために本発明者らは、微細なフェノール系繊維からなる厚み50μm以下のフェノール系繊維シートを開発している(たとえば、特許文献1参照。)。
また、フェノール樹脂とポリエチレンを含む混合樹脂を直接シート状に押出し、一軸延伸巻取りロールで巻き取ることによりフェノール系炭素繊維シートの前駆体を得て、さらにこのシートを熱処理することによりポリエチレンを分解し、直接的にフェノール系炭素繊維シートを得る方法も考案されている(たとえば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−356126号公報
【特許文献2】特開2004−52126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1記載のフェノール系繊維シートの原料として使用されるレゾール型フェノール樹脂は、非常に厳しい粘度管理が必要であり大量生産に向かないことが、事業化検討の過程で確認されている。
特許文献2に記載の方法で得られたフェノール系炭素繊維シートは、シートを構成するフェノール系極細繊維が一方向に配向するため、繊維同士の絡みが殆ど無く、要求される機械的強度を得ることができない。また、前駆体からポリエチレンを熱処理により分解除去する際、熱処理温度がフェノール系繊維の分解温度を超えるため、フェノール系繊維シートを得ることができない。さらにはポリエチレンの熱分解においては主鎖開裂がランダムで起こり、分解したポリエチレンが液状化し、シートからの分解除去が非常に困難になる。そのため量産化の際には除去専用装置の導入が必須となり、大規模な設備投資が必要となる。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、大量生産可能で、耐熱性、難燃性および耐薬品性が良好であると共に機械的強度が高く、かつ、厚みが従来に比して極薄化されたフェノール系繊維シート、厚みが従来に比して極薄化されたフェノール系炭素繊維シート、および厚みが従来に比して極薄化されたフェノール系活性炭素繊維シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の構成を有する。
[1]繊維直径が0.01〜2μmのフェノール系繊維を含む紙料を抄紙して得ることを特徴とするフェノール系繊維シート。
[2][1]記載のフェノール系繊維シートを炭素化することにより得ることを特徴とするフェノール系炭素繊維シート。
[3][1]記載のフェノール系繊維シートを炭素化した後、賦活することにより得ることを特徴とするフェノール系活性炭素繊維シート。
[4]海成分が熱可塑性樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である複合繊維を含む紙料を抄紙して得た複合繊維シートの該海成分を選択的に除去することにより得ることを特徴とするフェノール系繊維シート。
[5]海成分が熱可塑性樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である複合繊維を含む紙料を抄紙して得た複合繊維シートの該海成分を選択的に除去した後に、炭素化することにより得ることを特徴とするフェノール系炭素繊維シート。
[6]海成分が熱可塑性樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である複合繊維を含む紙料を抄紙して得た複合繊維シートの該海成分を選択的に除去した後に、炭素化、次いで賦活することにより得ることを特徴とするフェノール系活性炭素繊維シート。
[7]フェノール樹脂と該フェノール樹脂に非相溶性または低相溶性熱可塑性樹脂とを混合する原料混合工程と、該原料混合工程で得られた原料混合物を紡糸し、海成分が熱可塑性樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である糸條を得る紡糸工程と、該紡糸工程により得られた糸條を硬化する硬化工程と、該硬化工程で得られた複合繊維の海成分のみを選択的に除去する除去工程と、該除去工程で得られたフェノール系繊維を含有する紙料を抄紙する抄紙工程とを有することを特徴とするフェノール系繊維シートの製造方法。
[8][7]に記載のフェノール系繊維シートの製造方法により製造されたフェノール系繊維シートを炭素化することを特徴とするフェノール系炭素繊維シートの製造方法。
[9][7]に記載のフェノール系繊維シートの製造方法により製造されたフェノール系繊維シートを炭素化した後、賦活することを特徴とするフェノール系活性炭素繊維シートの製造方法。
[10]フェノール樹脂と該フェノール樹脂に非相溶性または低相溶性熱可塑性樹脂とを混合する原料混合工程と、該原料混合工程で得られた原料混合物を紡糸し、海成分が熱可塑性樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である糸條を得る紡糸工程と、該紡糸工程により得られた糸條を硬化する硬化工程と、該硬化工程で得られた複合繊維を含む紙料を抄紙する抄紙工程と、該抄紙工程により得られた複合繊維シートの該海成分を選択的に除去する除去工程とを有することを特徴とするフェノール系繊維シートの製造方法。
[11]フェノール樹脂と該フェノール樹脂に非相溶性または低相溶性熱可塑性樹脂とを混合する原料混合工程と、該原料混合工程で得られた原料混合物を紡糸し、海成分が熱可塑性樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である糸條を得る紡糸工程と、該紡糸工程により得られた糸條を硬化する硬化工程と、該硬化工程で得られた複合繊維を含む紙料を抄紙する抄紙工程と、該抄紙工程により得られた複合繊維シートの該海成分を選択的に除去した後に、炭素化することを特徴とするフェノール系炭素繊維シートの製造方法。
[12]フェノール樹脂と該フェノール樹脂に非相溶性または低相溶性熱可塑性樹脂とを混合する原料混合工程と、該原料混合工程で得られた原料混合物を紡糸し、海成分が熱可塑性樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である糸條を得る紡糸工程と、該紡糸工程により得られた糸條を硬化する硬化工程と、該硬化工程で得られた複合繊維を含む紙料を抄紙する抄紙工程と、該抄紙工程により得られた複合繊維シートの該海成分を選択的に除去した後に、炭素化、次いで賦活することを特徴とするフェノール系活性炭素繊維シートの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、大量生産可能で、耐熱性、難燃性および耐薬品性が良好であると共に機械的強度が高く、かつ、厚みが従来に比して極薄化されたフェノール系繊維シートを得ることができる。
また、厚みが従来に比して極薄化されたフェノール系炭素繊維シート、および厚みが従来に比して極薄化されたフェノール系活性炭素繊維シートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】フェノール系炭素繊維シートを折り曲げた際の写真である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<フェノール系繊維シート>
本発明のフェノール系繊維シートは、繊維直径が0.01〜2μmのフェノール系繊維を含む紙料を抄紙する方法(以下、「フェノール系繊維を用いたフェノール系繊維シートの製造方法」という。)、または海成分が熱可塑性樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である複合繊維を含む紙料を抄紙して得られた複合繊維シートの該海成分を選択的に除去する方法(以下、「複合繊維を用いたフェノール系繊維シートの製造方法」という。)により得られる。
【0014】
(フェノール系繊維の用いたフェノール系繊維シートの製造方法)
まず初めに、フェノール系繊維を用いたフェノール系繊維シートの製造方法について説明する。
【0015】
(フェノール系繊維)
フェノール系繊維を用いたフェノール系繊維シートの製造方法において使用される、フェノール系繊維は、その繊維直径が0.01〜2μmであり、フェノール樹脂と該フェノール樹脂に非相溶性または低相溶性熱可塑性樹脂とを混合する原料混合工程と、該原料混合工程で得られた原料混合物を紡糸し、海成分が熱可塑性樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である糸條を得る紡糸工程と、該紡糸工程により得られた糸條を硬化する硬化工程と、該硬化工程で得られた複合繊維の海成分のみを選択的に除去する除去工程とを有する製造方法により得られる。
【0016】
[原料混合工程]
原料混合工程では、フェノール樹脂と該フェノール樹脂に非相溶性または低相溶性熱可塑性樹脂とを混合して原料混合物を得る。
【0017】
(フェノール樹脂)
フェノール樹脂としては、酸性触媒の存在下でフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られるノボラック型フェノール樹脂、塩基性触媒の存在下でフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られるレゾール型フェノール樹脂、各種変性フェノール樹脂またはこれらの混合物等を使用できる。
【0018】
前記フェノール類としては、酸性または塩基性触媒の存在下でアルデヒド類と反応させてフェノール樹脂が得られるものであればよく、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3−キシレノール、3,5−キシレノール、m−エチルフェノール、m−プロピルフェノール、m−ブチルフェノール、p−ブチルフェノール、o−ブチルフェノール、レゾルシノール、ハイドロキノン、カテコール、3−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール、3−メチルカテコール、4−メチルカテコール、メチルハイドロキノン、2−メチルレゾルシノール、2,3−ジメチルハイドロキノン、2,5−ジメチルレゾルシノール、2−エトキシフェノール、4−エトキシフェノール、4−エチルレゾルシノール、3−エトキシ−4−メトキシフェノール、2−プロペニルフェノール、2−イソプロピルフェノール、3−イソプロピルフェノール、4−イソプロピルフェノール、3,4,5−トリメチルフェノール、2−イソプロポキシフェノール、4−ピロポキシフェノール、2−アリルフェノール、3,4,5−トリメトキシフェノール、4−イソプロピル−3−メチルフェノール、ピロガロール、フロログリシノール、1,2,4−ベンゼントリオール、5−イソプロピル−3−メチルフェノール、4−ブトキシフェノール、4−t−ブチルカテコール、t−ブチルハイドロキノン、4−t−ペンチルフェノール、2−t−ブチル−5−メチルフェノール、2−フェニルフェノール、3−フェニルフェノール、4−フェニルフェノール、3−フェノキシフェノール、4−フェノキシフェノール、4−へキシルオキシフェノール、4−ヘキサノイルレゾルシノール、3,5−ジイソプロピルカテコール、4−ヘキシルレゾルシノール、4−ヘプチルオキシフェノール、3,5−ジ−t−ブチルフェノール、3,5−ジ−t−ブチルカテコール、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、ジ−sec−ブチルフェノール、4−クミルフェノール、ノニルフェノール、2−シクロペンチルフェノール、4−シクロペンチルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等が挙げられる。
なかでも、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、ビスフェノールA、2,3−キシレノール、3,5−キシレノール、m−ブチルフェノール、p−ブチルフェノール、o−ブチルフェノール、4−フェニルフェノール、レゾルシノールが好ましく、フェノールが最も好ましい。前記フェノール類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0019】
前記アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、トリオキサン、フルフラール、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、メチルヘミホルマール、エチルへミホルマール、プロピルへミホルマール、サリチルアルデヒド、ブチルヘミホルマール、フェニルへミホルマール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、α−フェニルプロピルアルデヒド、β−フェニルプロピルアルデヒド、o−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、o−ニトロベンズアルデヒド、m−ニトロベンズアルデヒド、p−ニトロベンズアルデヒド、o―メチルベンズアルデヒド、m−メチルベンズアルデヒド、p−メチルベンズアルデヒド、p−エチルベンズアルデヒド、p−n−ブチルベンズアルデヒド等が挙げられる。
なかでも、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒドが好ましく、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが特に好ましい。前記アルデヒド類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0020】
前記酸性触媒としては、塩酸、硫酸、リン酸、蟻酸、酢酸、蓚酸、酪酸、乳酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硼酸、または塩化亜鉛もしくは酢酸亜鉛などの金属との塩等が挙げられる。前記酸性触媒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0021】
前記塩基性触媒としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;水酸化アンモニウム;ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン等のアミン類等が挙げられる。前記塩基性触媒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0022】
各種変性フェノール樹脂は、ノボラック型またはレゾール型フェノール樹脂を、ホウ素変性、ケイ素変性、重金属変性、窒素変性、イオウ変性、油変性、ロジン変性等の公知の技法により変性させたものが挙げられる。
【0023】
上記のなかでも、フェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂が好ましい。
たとえば、熱可塑性樹脂と溶融混合し、後述の紡糸工程で最も一般的な紡糸方法である溶融紡糸を行う場合、フェノール樹脂としては、ノボラック型またはレゾール型フェノール樹脂のいずれも使用可能である。しかし、レゾール型は、ノボラック型に比べて熱安定性に劣り、溶融時の加熱で容易に重合が進んでしまうために溶融紡糸装置内での固化が避けられず、連続的に安定に紡糸するのが難しい。したがって、工業的に製造する場合の工程の容易さ、汎用性を勘案してノボラック型フェノール樹脂を選択することが特に好ましい。
フェノール樹脂は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0024】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂としては、フェノール樹脂に非相溶性、または低相溶性のものであればよく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のオレフィン系ポリマー;ポリメチルメタクリレートに代表されるアクリル系ポリマー;ポリエステル系ポリマー;ポリビニルアルコール系ポリマー;セルロース系ポリマー;セルロースエステル系ポリマー;タンパク系ポリマー;ポリアマイド系ポリマー;ポリアクリロニトリル系ポリマー;ポリ塩化ビニル系ポリマー;ポリ塩化ビニリデン系ポリマー等が挙げられる。
前記熱可塑性樹脂は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよく、これらを主成物とする共重合体を用いてもよい。熱可塑性樹脂の選定は、適宜選択すれば良いが、後の除去工程において、熱分解法を用いる場合は、熱分解されて消失する熱可塑性樹脂を選定する必要がある。熱分解されて消失する熱可塑性樹脂としては、たとえば、オレフィン系ポリマー、アクリル系ポリマー等が挙げられる。
【0025】
(混合)
原料混合工程において、フェノール樹脂と熱可塑性樹脂を混合する際、フェノール樹脂の使用量は、得られる原料混合物中のフェノール樹脂の割合が10〜90質量%となる量であることが好ましく、30〜70質量%となる量であることがより好ましい。
熱可塑性樹脂の使用量は、得られる原料混合物中の熱可塑性樹脂の割合が10〜90質量%となる量であることが好ましく、30〜70質量%となる量であることがより好ましい。熱可塑性樹脂が10質量%未満の場合、海島型ポリマーが形成されず、90質量%を超えるとフェノール系繊維の生産性が著しく低下する。
【0026】
フェノール樹脂と熱可塑性樹脂とを混合する方法としては、両者を溶融混合する方法、溶媒を用いて両者を溶解混合する方法等が挙げられる。なかでも、工程の煩雑さ、環境への負荷、経済性の点から、両者を溶融混合する方法が好ましい。
【0027】
フェノール樹脂と熱可塑性樹脂との溶融混合は、一例として、両者を加熱混練する方法が挙げられる。
フェノール樹脂と熱可塑性樹脂との加熱混練には、公知の混練装置を用いて行うことができ、混練装置としては、押出機型混練機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、高速二軸連続ミキサー等が挙げられる。
加熱混練の温度は、原料の性状等により適宜設定すればよく、200℃以下が好ましく、140〜180℃がより好ましい。加熱混練の温度が200℃以下であれば、高温に原料を曝することによる熱変性、劣化を抑制しやすい。
加熱混練の時間は、両者が均一に混合できるよう、混練装置により適宜設定すればよい。
【0028】
フェノール樹脂と熱可塑性樹脂とを溶媒を用いて溶解混合する方法では、両者を溶解し得る溶媒に両者を溶解混合した後、該溶媒を蒸発除去することにより原料混合物が得られる。
両者を溶解し得る溶媒としては、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、含窒素系溶剤、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤等が挙げられる。これらは、一種を単独で用いても二種以上を併用してもよい。
フェノール樹脂と熱可塑性樹脂との溶解混合は、溶媒を攪拌しながらフェノール樹脂と熱可塑性樹脂を徐々に加えていくことが好ましい。その際、フェノール樹脂または熱可塑性樹脂が溶媒に溶けにくいようであれば加熱することが有効である。また加圧することで、常圧での溶媒の沸点以上に加温することが可能となってさらに有効である。但し、高温に原料を曝すことで熱変性、劣化を及ぼす恐れがあることから、加熱は原料が完全溶解するまで限定的に行うことが好ましい。
【0029】
溶媒に溶解するフェノール樹脂と熱可塑性樹脂の濃度については、特に限定されるものではなく、原料の性状、後の紡糸工程における紡糸方法を考慮して適宜設定すればよい。また、蒸発除去される溶媒の回収に多大な時間とエネルギーを要する点から、フェノール樹脂と熱可塑性樹脂の濃度は、それぞれの溶解度を考慮し、でき得る限り高濃度に設定することが好ましい。
【0030】
フェノール樹脂と熱可塑性樹脂とを混合する方法としては、前記の溶融混合、溶解混合以外の方法でもよい。たとえば、後の紡糸工程における紡糸方法として乾式紡糸、湿式紡糸または乾・湿式紡糸の方法を用いる場合には、フェノール樹脂と熱可塑性樹脂の両者を溶解し得る溶媒に、両者を溶解混合した原料混合物溶液を調整してもよい。該原料混合物溶液は、直接、紡糸用原液として用いることができる。
また、フェノール樹脂の合成反応を阻害せず、かつ、該合成反応中の温度で原料が劣化しない範疇であれば、フェノール樹脂の合成反応の途中に、熱可塑性樹脂を配合することにより、両者を混合することも可能である。
【0031】
原料混合工程では、原料混合物を得るのにいずれの方法を用いた場合であっても、必要に応じて公知の添加剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、浸透剤、増粘剤、防黴剤、染料、顔料、充填剤などを用いてもよい。
特に、フェノール樹脂と熱可塑性樹脂とを溶融混合する場合であって、熱可塑性樹脂の溶融粘度がフェノール樹脂のそれに比べて極端に異なる場合は、相溶化剤を使用することが好ましい。これにより、紡糸時に分離を生じることを防止できる。
【0032】
[紡糸工程]
紡糸工程では、前記原料混合工程で得られた原料混合物を紡糸して糸篠を得る。
紡糸の方法は、原料混合物の性状等の点から公知の方法を適宜選択することができ、湿式紡糸、乾式紡糸、乾・湿式紡糸、溶融紡糸、ゲル紡糸、液晶紡糸などの方法が挙げられる。なかでも、装置の簡便さ、経済的に有利なことから、溶融紡糸が好ましい。
【0033】
紡糸の方法として溶融紡糸を用いる場合、一般的な溶融紡糸装置が使用できる。
該溶融紡糸装置の溶解装置としては、グリッドメルター式、単軸押出し機方式、二軸押出し機方式、タンデム押出し機方式などを使用できる。
なお、溶融した原料混合物の酸化を防止するために、溶融紡糸装置内の窒素置換を行ってもよく、またはベントを具備した押出し機を使用して、微量の残留溶媒もしくはモノマー類を除去する操作を行ってもよい。
【0034】
溶融紡糸の際、温度条件は、120〜200℃が好ましく、140〜170℃がより好ましい。溶融紡糸の際の温度が120℃以上であれば、効率良く紡糸することができる。溶融紡糸の際の温度が200℃以下であれば、熱変性、劣化を抑制しやすく、かつ、フェノール樹脂と熱可塑性樹脂とが分離しにくくなる。
紡糸口金としては、通常のものが使用可能であり、孔径は0.05mm以上1mm未満が好ましく、0.1mm以上0.5mm未満がより好ましく、キャピラー部のL/D(長さ/直径)は0.5以上10未満が好ましく、1〜5がより好ましい。孔径とL/Dをそれぞれ前記の好ましい範囲とすることで、安定して紡糸することができる。
特別な繊維の製造方法の場合(たとえば並列型複合繊維、芯鞘型複合繊維、海島型複合繊維の場合など)には、サイドバイサイド型もしくはシースコア型、または第三成分のポリマーを組み合わせるコンジュゲート口金を使用することもできる。
【0035】
紡糸速度は、50m/分以上、3000m/分未満が好ましく、100m/分以上、1500m/分未満がより好ましく、200m/分以上、800m/分未満がさらに好ましい。
紡糸速度が50m/分以上であれば、効率良く紡糸できる。紡糸速度が3000m/分未満であれば、紡糸時の糸切れの発生を抑制できる。
【0036】
得られた糸條を湿熱または乾熱にて延伸することができる。この操作により、単糸が目的の太さとなるよう調整することができる。また、未硬化のフェノール樹脂を延伸させ均一な形状とすること、樹脂中の分子配列を均整化することが可能となる。
湿熱で延伸する場合、たとえば温水、エチレングリコールまたはプロピレングリコールなどの液に浸漬し、20〜100℃の範囲、好ましくは30〜80℃の温度範囲において2〜20倍程度に延伸することが望ましい。
乾熱で延伸する場合、60℃〜120℃、好ましくは80℃〜100℃の雰囲気下で2〜20倍程度に延伸することが望ましい。
【0037】
[硬化工程]
硬化工程では、前記紡糸工程で得られた糸條を硬化する。該糸條を硬化することにより、フェノール樹脂部分が架橋されるので、フェノール系繊維の機械的強度が高まる。
【0038】
原料のフェノール樹脂としてノボラック型フェノール樹脂を用いた場合、前記紡糸工程で得られた糸條を硬化する方法は、ステープル状もしくはトウ状に加工したものを反応容器内の処理液と浸漬させてバッチ式で硬化処理する方法、ボビン状もしくは、かせ状に加工したものを処理液と接触させて硬化処理する方法、またはトウ状に加工したものを連続的に処理液と接触させて硬化処理する方法などが挙げられる。
【0039】
処理液は、触媒とアルデヒド類からなる。
触媒としては、塩酸、硫酸、リン酸、蟻酸、酢酸、蓚酸、酪酸、乳酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硼酸、塩化亜鉛もしくは酢酸亜鉛等の金属との塩、またはこれらの混合物等の酸性触媒;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、水酸化アンモニウム、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン等のアミン類、またはこれらの混合物等の塩基性触媒などが挙げられる。触媒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0040】
アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、トリオキサン、フルフラール、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、メチルヘミホルマール、エチルへミホルマール、プロピルへミホルマール、サリチルアルデヒド、ブチルヘミホルマール、フェニルへミホルマール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、α−フェニルプロピルアルデヒド、β−フェニルプロピルアルデヒド、o−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、o−ニトロベンズアルデヒド、m−ニトロベンズアルデヒド、p−ニトロベンズアルデヒド、o―メチルベンズアルデヒド、m−メチルベンズアルデヒド、p−メチルベンズアルデヒド、p−エチルベンズアルデヒド、p−n−ブチルベンズアルデヒド等が使用できる。
なかでも、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒドが好ましく、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが特に好ましい。アルデヒド類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0041】
硬化は、液相にて、60℃以上110℃未満の温度で2時間以上30時間未満、加熱して行うことが好ましい。また、本発明においては、気相下で加熱することにより硬化してもよい。
さらに該加熱の後、水洗乾燥し、窒素、ヘリウム、炭酸ガス等の不活性ガス中、100〜300℃の温度で加熱することによりさらに硬化させる等、公知の硬化処理を行うことができる。この硬化処理によって、糸條中のフェノール樹脂部分が架橋して、十分な強度を備えた複合繊維を得ることができる。
【0042】
一方、原料のフェノール樹脂としてレゾール型フェノール樹脂を用いた場合、湿熱法または乾熱法で加熱処理を行うことにより糸條を硬化することができる。
硬化することにより、ノボラック型フェノール樹脂の場合と同様に、糸條中のフェノール樹脂部分が架橋して、十分な強度を備えた複合繊維を得ることができる。
加熱処理温度は、100℃〜220℃が好ましく、120〜180℃がより好ましく、加熱処理時間は5〜120分間が好ましく、20〜60分間がより好ましい。
【0043】
[除去工程]
除去工程では、硬化工程で得られた複合繊維の海成分である熱可塑性樹脂を選択的に除去し、フェノール系極細繊維を得る。該海成分を選択的に除去するには、熱可塑性樹脂のみを選択的に溶解する溶媒に浸漬する等の溶解処理を行う。
除去工程に使用する溶媒としては、海成分である熱可塑性樹脂の溶解性によって適宜選択すればよく、たとえば、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、含窒素系溶剤、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤等が挙げられる。前記溶媒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0044】
前記方法により、繊維直径が0.01〜2μmであり、耐熱性、難燃性および耐薬品性が良好であると共に機械的強度が高いフェノール系繊維を得ることができる。フェノール系繊維の繊維直径が2μm以下であるため、これを用いて製造した繊維シートはその厚さを100μm以下にすることができる。
【0045】
[抄紙工程]
本発明のフェノール系繊維シートは前記フェノール系繊維を含む紙料を抄紙することにより得られる。
【0046】
(紙料)
本発明のフェノール系繊維シートに使用する紙料としては、繊維直径が0.01〜2μmのフェノール系繊維を含んでいればよく、紙料中のフェノール系繊維の含有量が50質量%以上含まれることが好ましく、70〜100質量%含まれることがより好ましい。
紙料中の繊維直径が0.01〜2μmのフェノール系繊維の含有量が50質量%未満であるとフェノール系繊維が本来持つ特性が、シートとした場合、発揮されなくなる恐れがある。
紙料中の繊維直径が0.01〜2μmのフェノール系繊維以外の成分としては、求められる紙質に応じ、元々のフェノール系繊維の特性を損なわない範囲で、他の繊維やバインダー、添加剤等を含有してもよい。たとえば、フェノール系炭素繊維シートやフェノール系活性炭繊維シートの導電性を向上させたい場合には、導電補助剤としてカーボンブラックや結晶性の高い気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ等を添加することが好適である。
【0047】
(抄紙)
本発明において抄紙によりフェノール系繊維シートを得る方法としては、たとえば長網式、丸網式、ヤンキードラム方式等、公知の方法が使用できる。
【0048】
本発明によれば、原料である紙料に含まれるフェノール系繊維の直径が細く、耐熱性、難燃性および耐薬品性が良好であると共に機械的強度が高いため、得られるフェノール系繊維シートもフェノール系繊維の特性を保持したまま、シート厚を薄く、工業的に得ることができる。
【0049】
(複合繊維を用いたフェノール系繊維シートの製造方法)
次に、複合繊維を用いたフェノール系繊維シートの製造方法について説明する。
【0050】
(複合繊維)
前記複合繊維は、フェノール樹脂と該フェノール樹脂に非相溶性または低相溶性熱可塑性樹脂とを混合する原料混合工程と、該原料混合工程で得られた原料混合物を紡糸し、海成分が熱可塑性樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である糸條を得る紡糸工程と、該紡糸工程により得られた糸條を硬化する硬化工程とを有する製造方法により得られる。
複合繊維を得るため原料混合工程、紡糸工程、および硬化工程は、上記フェノール系繊維を得るための原料混合工程、紡糸工程、および硬化工程に記載の方法と同様に行えばよい。
【0051】
(複合繊維シート)
複合繊維シートは、前記複合繊維を含む紙料を抄紙することにより得られる。複合繊維シートの抄紙方法は、上記フェノール系繊維シートの抄紙方法と同様に行えばよい。
【0052】
[除去工程]
複合繊維シートの海成分である熱可塑性樹脂を選択的に除去する方法としては、海成分を選択的に溶媒に溶解させて除去する方法と、海成分を熱溶融させて除去する方法がある。
海成分を溶媒に溶解させて除去する方法としては、上記フェノール系繊維を得るための除去工程に記載の方法と同様の方法が使用できる。
海成分を熱溶融させて除去する方法としては、たとえば、海成分である熱可塑性樹脂の融点より20℃程度高い温度で加熱し、熱可塑性樹脂を除去する方法等が挙げられる。
本発明によれば、複合繊維シート中のフェノール系繊維の機械的強度が高いため、実用的価値のあるフェノール系繊維シートを工業的に製造できる。
【0053】
<フェノール系炭素繊維シート>
本発明のフェノール系炭素繊維シートは、前記フェノール系繊維を用いたフェノール系繊維シートの製造方法により得られたフェノール系繊維シートを炭素化する方法(以下、「フェノール系繊維シートを用いたフェノール系炭素繊維シートの製造方法」という。)、または海成分が熱可塑性樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である複合繊維を含む紙料を抄紙して得た複合繊維シートを、該海成分を除去した後に、炭素化する方法(以下、「複合繊維シートを用いたフェノール系炭素シートの製造方法」という。)により得られる。
【0054】
(フェノール系繊維シートを用いたフェノール系炭素繊維シートの製造方法)
フェノール系繊維シートの炭素化する方法は、不活性ガス存在下で加熱する従来公知の方法を用いることができる。
炭素化する際に使用する不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等が挙げられる。温度条件は600〜1200℃の範囲が好ましく、800〜1000℃の範囲がより好ましい。
【0055】
(複合繊維シートを用いたフェノール系炭素繊維シートの製造方法)
抄紙工程で得られた複合繊維シートに含まれる、海成分を選択的に除去する方法としては、該海成分を選択的に溶媒に溶解させて除去する方法と、海成分を熱分解させて除去する方法がある。
該海成分を選択的に溶媒に溶解させて除去する方法としては、前記複合繊維シートの除去工程と同様の方法が使用できる。
海成分を熱分解させて除去する方法としては、不活性ガス中で400〜600℃で行うことが好ましい。熱分解温度が400℃未満であると、海成分である熱可塑性樹脂の熱分解が十分に行われない恐れがある。熱分解温度が600℃を超えると、この後に続く炭素化の温度領域と重なるため、海成分である熱可塑性樹脂の熱分解により発生した分解ガスが熱分解炭素としてフェノール系炭素繊維に付着し、フェノール系炭素繊維を膠着させる恐れがある。
上記の方法により、海成分を除去した後に、炭素化することによりフェノール系炭素繊維シートを得ることができる。なお、海成分を熱分解させて除去する方法では、海成分を熱分解した後、一旦取り出して炭素化する方法、海成分を熱分解した後に連続して炭素化する方法のいずれの方法も用いることができる。
海成分を除去した後のシートの炭素化は、不活性ガス中で600〜1500℃で行うことが好ましく、700〜1000℃で行うことがより好ましい。炭素化温度が600℃未満であると、炭素化があまり進行せず、フェノール系炭素繊維が本来持つ特性が発揮されない恐れがある。炭素化温度が1500℃を超えると、一部に黒鉛化が進行し、特にこの後に賦活してフェノール系活性炭素繊維シートにする場合には、効率的な賦活処理の妨げになる恐れがある。
本発明によれば、フェノール系繊維シートおよび複合繊維シート中のフェノール系繊維の機械的強度が高いため、実用的価値のあるフェノール系炭素繊維シートを工業的に製造できる。
【0056】
<フェノール系活性炭素繊維シート>
本発明のフェノール系活性炭素繊維シートは、前記フェノール系繊維を用いたフェノール系繊維シートの製造方法により得られたフェノール系繊維シートを炭素化した後、賦活する方法(以下、「フェノール系繊維シートを用いたフェノール系活性炭素繊維シートの製造方法」という。)、または前記複合繊維シートの海成分を選択的に除去した後に、炭素化、次いで賦活する方法(以下、「複合繊維シートを用いたフェノール系活性炭素繊維シートの製造方法」という。)により得られる。
【0057】
(フェノール系繊維シートを用いたフェノール系活性炭素繊維シートの製造方法)
フェノール系繊維シートを炭素化した後に賦活するには、ガス賦活法、薬剤賦活法などの従来公知の賦活方法を用いることができる。
ガス賦活法では、賦活ガスを、炭素化されたフェノール系繊維シートに接触させて賦活する。賦活ガスとしては、水蒸気、空気、一酸化炭素、二酸化炭素、塩化水素、酸素またはこれらを混合したものからなるガスが挙げられる。
薬剤賦活法では、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;ホウ酸、リン酸、硫酸、塩酸等の無機酸類;または塩化亜鉛などの無機塩類などを、炭素化されたフェノール系繊維シートに接触させて賦活する。
【0058】
(複合繊維シートを用いたフェノール系活性炭素繊維シートの製造方法)
複合繊維シートの海成分の除去方法および炭素化方法としては、前記複合繊維シートを用いたフェノール系炭素繊維シートの製造方法の、海成分の除去方法および炭素化方法と同様の方法が使用できる。
また、炭素化後のシートの賦活方法は、前記フェノール系繊維シートを炭素化した後に賦活する方法が使用できる。
本発明によれば、フェノール系繊維シートおよび複合繊維シート中のフェノール系繊維の機械的強度が高いため、実用的価値のあるフェノール系活性炭素繊維シートを工業的に製造できる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
本実施例において、繊維直径、繊度、引張強度、シート厚、比表面積は、以下方法によりそれぞれ測定した。また、耐熱性、難燃性および耐薬品性は、以下の方法によりそれぞれ評価した。
【0060】
[繊維直径]
複合繊維およびフェノール系繊維の繊維直径(μm)は、(株)キーエンス製のVK−8500レーザー顕微鏡を使用して測定した。
【0061】
[繊度]
複合繊維の繊度(デニール)は、サーチ(株)製のDC11B デニールコンピューターを使用して測定した。
【0062】
[引張強度]
フェノール系繊維の引張強度(MPa)は、(株)エー・アンド・ディ社製のRTG−1210テンシロン万能試験機を使用し、JIS L−1015に準拠した方法により測定した。
フェノール系繊維シートおよびフェノール系炭素繊維シートの引張強度は(MPa)は、(株)エー・アンド・ディ社製のRTG−1210テンシロン万能試験機を使用し、JIS P−8113に準拠した方法により測定した。
【0063】
[シート厚]
フェノール系繊維シート、フェノール系炭素繊維シート、およびフェノール系活性炭素繊維シートのシート厚は、(株)ミツトヨ社製マイクロメータ OMV−25Mを使用して測定した。
【0064】
[比表面積]
フェノール系活性炭素繊維シートの比表面積(m/g)は、日本ベル(株)社製のベルソープ28SAを使用して測定した。
【0065】
[耐熱性]
フェノール系繊維の耐熱性は、得られたフェノール系繊維を、150℃および180℃の空気中にそれぞれ100時間暴露した後、上記の方法により引張強度を測定し、下式に基づいて強度保持率(%)を算出することにより評価した。
強度保持率(%)=(暴露後の引張強度/暴露前の引張強度)×100
【0066】
[難燃性]
フェノール系繊維の難燃性は、得られたフェノール系繊維の限界酸素指数(LOI)をJIS L−1091に準拠した方法で測定することにより評価した。一般にLOIが28以上であれば、難燃性を有していると判断される。
【0067】
[耐薬品性]
フェノール系繊維の耐薬品性は、得られたフェノール系繊維を、各種の薬品(36質量%塩酸、25質量%アンモニア、アセトン、N,N−ジメチルホルムアルデヒド(DMF))に、それぞれ25℃で100時間浸漬した後、上記の方法により引張強度を測定し、前記の耐熱性の評価と同様にして強度保持率(%)を算出することにより評価した。
【0068】
<フェノール系繊維の製造例>
以下に示すフェノール樹脂と熱可塑性樹脂とを用いて、各製造例によりフェノール系繊維をそれぞれ製造した。
【0069】
(フェノール樹脂)
フェノール樹脂は、以下のように合成したノボラック型フェノール樹脂を用いた。
[フェノール樹脂の合成]
フェノール1000gと37質量%ホルマリン733gと蓚酸5gとを、還流冷却器を備えた反応容器に仕込み、40分間で常温から100℃に昇温させ、さらに100℃で4時間反応させた後、200℃まで加熱して脱水濃縮した後、冷却してノボラック型フェノール樹脂を得た。
【0070】
(製造例1)
[フェノール系繊維の製造]
原料混合工程:
攪拌機を備えたフラスコにテトラヒドロフラン500mlを入れ、これにポリスチレン樹脂(PSジャパン(株)製 679)50gとノボラック型フェノール樹脂50gを徐々加えた。これを攪拌しながら66℃まで加熱し、温度を保持しつつ、テトラヒドロフランを還流させながら樹脂が完全に溶解するまで攪拌を行った。30分後、溶解液を減圧式ロータリーエバポレーターに移し変え、温度を50℃、50KPaに減圧し、テトラヒドロフランを回収しながら樹脂溶液の樹脂濃度が約30質量%になるまで濃縮を続けた。
【0071】
紡糸工程:
原料混合工程で得られた樹脂溶液を紡糸原料として、0.2mmのオリフィスを5個有する口金にて250m/分の速度で乾式紡糸して糸條を得た。この際、紡糸筒内には180℃の窒素を上向に流し、テトラヒドロフランの蒸発を行った。
【0072】
硬化工程:
紡糸工程で得られた糸條を、長さ51mmにカットしてフラスコに入れ、塩酸14質量%かつホルムアルデヒド8質量%の水溶液に常温で30分間浸漬した後、2時間で98℃まで昇温し、さらに98℃で2時間保持することにより硬化を行った。
【0073】
次いで、硬化工程で得られた硬化物を、前記フラスコから取り出して十分に水洗した後、3質量%アンモニア水溶液で60℃、30分間の中和を行った。その後、再度、十分に水洗し、90℃、30分間乾燥することにより、繊維直径約14μm、繊度2.5デニールのフェノール樹脂とポリスチレン樹脂の複合繊維を得た。
【0074】
除去工程:
得られた複合繊維をビーカーに入れ、30℃のテトラフルオロエチレンに5分間浸漬し、海成分のポリスチレン樹脂を溶かした。容器の底に沈降した極細繊維を濾過して取り出し、乾燥して、フェノール系繊維を得た。
【0075】
(比較製造例1)
紡糸工程:
ノボラック型フェノール樹脂を粗粉砕した後、200℃のメルターで溶融し、170℃に保った孔径0.1mm、ホール数10の紡糸口金から一定吐出量を保ちながら紡糸速度800m/分で紡糸し、糸條を得た。
【0076】
硬化工程:
紡糸工程で得られた糸條を、長さ3mmにカットしてフラスコに入れ、塩酸14質量%かつホルムアルデヒド8質量%の水溶液に常温で30分間浸漬した後、2時間で98℃まで昇温し、さらに98℃で2時間保持することにより硬化を行った。
【0077】
次いで、硬化工程で得られた硬化物を、前記フラスコから取り出して十分に水洗した後、3質量%アンモニア水溶液で60℃、30分間の中和を行った。その後、再度、十分に水洗し、90℃、30分間乾燥することによりフェノール系繊維を得た。
【0078】
得られたフェノール系繊維について、繊維直径、繊度、引張強度、強度保持率(耐熱性)、LOI(難燃性)、強度保持率(耐薬品性)を測定した結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
[フェノール系繊維シートの製造]
(実施例1)
抄紙工程:
製造例1で得られたフェノール系繊維束を約3mmにカットし、これを固形分濃度が1.0質量%となるように水中でスラリーを調節した。このスラリーを丸網抄紙機にてシート厚が50μmになるように抄紙後、110℃で熱風乾燥を行い、フェノール系繊維シートを得た。
【0081】
(比較例1)
抄紙工程:
製造例1で得られたフェノール系繊維を固形分濃度が1.0質量%となるように水中でスラリーを調節した。このスラリーを丸網抄紙機にてシート厚が50μmになるように抄紙したが、繊維同士の絡みがほとんどなくフェノール系繊維シートを得ることができなかった。
【0082】
得られたフェノール系繊維シートの引張強度、シート厚を表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
表2の結果より、実施例1で製造されたフェノール系繊維シートは、厚さが薄く、引張強度が高いことがわかる。
また表1より製造例1のフェノール系繊維は、従来の方法で製造された比較製造例1のフェノール系繊維と比較し、耐熱性、難燃性、耐薬品性が遜色なく、良好であることがわかる。このため、製造例1のフェノール系繊維を紙料として使用した実施例1のフェノール系繊維シートも耐熱性、難燃性、耐薬品性も良好であることが推測できる。
一方、比較例1では紙料として使用した比較製造例1のフェノール系繊維の繊維直径が太いことから、厚さ50μm程度のフェノール系繊維シートを製造することができなかった。
【0085】
[フェノール系炭素繊維シート]
(実施例2)
実施例1で得られたフェノール系繊維シートを試験炭素化炉に入れ、窒素気流中、900℃、30分間の条件で炭素化することによりフェノール系炭素繊維シートを得た。得られたフェノール系炭素繊維シートについて、引張強度、収率を測定した結果を表3に示す。
【0086】
[フェノール系活性炭素繊維シート]
(実施例3)
実施例1で得られたフェノール系繊維シートを内径70mmの石英管に入れ、窒素気流中、室温から5℃/分の昇温速度で900℃まで昇温した。この時点で、予め80℃に調整されている温水中に窒素ガスを導入し、窒素と水蒸気との混合ガスを前記石英管に10分間導入した。続いて、窒素のみを導入しながら冷却することによりフェノール系活性炭素繊維シートを得た。得られたフェノール系活性炭素繊維シートについて、比表面積、収率を測定した結果を表3に示す。
【0087】
【表3】

【0088】
表3の結果から、実施例1のフェノール系繊維シートを炭素化することにより、厚さの薄いフェノール系炭素繊維シートを製造できることが確認できた。
また、表3の結果から、実施例1のフェノール系繊維シートを炭素化した後、賦活することにより、フェノール系活性炭素繊維シートを製造できることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維直径が0.01〜2μmのフェノール系繊維を含む紙料を抄紙して得ることを特徴とするフェノール系繊維シート。
【請求項2】
請求項1記載のフェノール系繊維シートを炭素化することを特徴とするフェノール系炭素繊維シート。
【請求項3】
請求項1記載のフェノール系繊維シートを炭素化した後、賦活することを特徴とするフェノール系活性炭素繊維シート。
【請求項4】
海成分が熱可塑性樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である複合繊維を含む紙料を抄紙して得た複合繊維シートの該海成分を選択的に除去することにより得ることを特徴とするフェノール系繊維シート。
【請求項5】
海成分が熱可塑性樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である複合繊維を含む紙料を抄紙して得た複合繊維シートの該海成分を選択的に除去した後に、炭素化することにより得ることを特徴とするフェノール系炭素繊維シート。
【請求項6】
海成分が熱可塑性樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である複合繊維を含む紙料を抄紙して得た複合繊維シートの該海成分を選択的に除去した後に、炭素化、次いで賦活することにより得ることを特徴とするフェノール系活性炭素繊維シート。
【請求項7】
フェノール樹脂と該フェノール樹脂に非相溶性または低相溶性熱可塑性樹脂とを混合する原料混合工程と、該原料混合工程で得られた原料混合物を紡糸し、海成分が熱可塑性樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である糸條を得る紡糸工程と、該紡糸工程により得られた糸條を硬化する硬化工程とを有する複合繊維の、海成分のみを選択的に除去する除去工程を有するフェノール系繊維を抄紙することを特徴とするフェノール系繊維シートの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のフェノール系繊維シートの製造方法により製造されたフェノール系繊維シートを炭素化することを特徴とするフェノール系炭素繊維シートの製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載のフェノール系繊維シートの製造方法により製造されたフェノール系繊維シートを炭素化した後、賦活することを特徴とするフェノール系活性炭素繊維シートの製造方法。
【請求項10】
フェノール樹脂と該フェノール樹脂に非相溶性または低相溶性熱可塑性樹脂とを混合する原料混合工程と、該原料混合工程で得られた原料混合物を紡糸し、海成分が熱可塑性樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である糸條を得る紡糸工程と、該紡糸工程により得られた糸條を硬化する硬化工程とを有する複合繊維を含む紙料を抄紙して得た複合繊維シートの該海成分を選択的に除去することを特徴とするフェノール系繊維シートの製造方法。
【請求項11】
フェノール樹脂と該フェノール樹脂に非相溶性または低相溶性熱可塑性樹脂とを混合する原料混合工程と、該原料混合工程で得られた原料混合物を紡糸し、海成分が熱可塑性樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である糸條を得る紡糸工程と、該紡糸工程により得られた糸條を硬化する硬化工程とを有する複合繊維を含む紙料を抄紙して得た複合繊維シートの該海成分を選択的に除去した後に、炭素化することを特徴とするフェノール系炭素繊維シートの製造方法。
【請求項12】
フェノール樹脂と該フェノール樹脂に非相溶性または低相溶性熱可塑性樹脂とを混合する原料混合工程と、該原料混合工程で得られた原料混合物を紡糸し、海成分が熱可塑性樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である糸條を得る紡糸工程と、該紡糸工程により得られた糸條を硬化する硬化工程とを有する複合繊維を含む紙料を抄紙して得た複合繊維シートの該海成分を選択的に除去した後に、炭素化、次いで賦活することを特徴とするフェノール系活性炭素繊維シートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−23790(P2013−23790A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161505(P2011−161505)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000165000)群栄化学工業株式会社 (108)
【Fターム(参考)】