説明

フェライトクランプ

【課題】一対の分割コアの透磁率よりも小さい透磁率を有するシートを前記一対の分割コアの突き合わせ面の間に安定して保持して、磁気飽和の発生を良好にかつ安定して抑制することのできるフェライトクランプの提供。
【解決手段】ケース部6Bの開口側端縁は、そのケース部6Bに保持された分割コア4Bの突き合わせ面よりも更に当該突き合わせ面の表面方向に延びて形成され、当該突き合わせ面に配置されたシート50の表面と同一平面上に配設されている。このため、ケース部6Aがヒンジ8を中心にしてケース部6Bに閉じられると、ケース部6Bは、一対の分割コア4A,4Bの突き合わせ面に挟まれたシート50を、バスバーの軸方向両端及び幅方向から包囲し、シート50が保持ケース6の外部へ滑り落ちてしまうのを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線に外嵌され、その電線を流れる雑音電流を吸収するフェライトクランプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のフェライトクランプとしては、開環状に形成され、互いに組み合わせると電線を挿通させるための挿通孔を有した環状の磁性体コアを形成する一対の分割コアと、該各分割コアをそれぞれ包持する一対のケース部、及び該各ケース部同士を固定することで該各ケース部に包持された前記分割コアを環状に組み合わせる固定機構を備えた保持ケースと、を備えたものが提案されている。このように構成されたフェライトクランプでは、前記磁性体コアを電線に外嵌させ、前記保持ケースによって当該磁性体コアを環状に保持することによって、前記電線を流れる雑音電流を吸収することができる。
【0003】
かつては、この種のフェライトクランプは、パーソナルコンピュータの信号線等、10A未満の電流が通電される電線に対して使用される場合が多かった。しかしながら、近年、電気自動車への応用等、この種のフェライトクランプの用途は広がる傾向にあり、10A以上の大電流が通電されるバスバー等の電線に対して使用される可能性も高まってきた。磁性体コアに挿通された電線に大電流が通電されると、場合によって、当該磁性体コアで磁気飽和が発生し、雑音電流を吸収する効果が低下する可能性もある。
【0004】
ここで、本発明の分野とは若干異なるトロイダルコイルの分野ではあるが、磁性体コアの磁気飽和を抑制する対策として、磁性体コアによって構成される磁路の一部にギャップを設け、そのギャップに磁性体コアの透磁率より小さい透磁率を有するスペーサ部材を挿入することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−373811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1の考え方を従来のフェライトクランプに応用した場合、前記各分割コアの透磁率よりも小さい透磁率を有するシートを前記一対の分割コアの突き合わせ面に挟むことになるが、その場合、次のような課題が生じる。電気自動車等では、前述のように大電流が通電されるばかりでなく、フェライトクランプに加わる振動も大きい。更に、電気自動車等ではスペースが限られているので、立体的な配線がなされ、フェライトクランプは各種の方向に配置される。すると、一対の分割コアの間に挟まれたシートが保持ケースの外部へ滑り落ちて、フェライトクランプの特性が変化してしまう可能性がある。
【0007】
粘着剤を使用してシートを分割コアの突き合わせ面に貼着することも考えられるが、電気自動車等の内部は高温になる場合があり、粘着剤の粘着力が低下して前述のようにシートが滑り落ちるのを良好に抑制できない可能性がある。そこで、本発明は、一対の分割コアの透磁率よりも小さい透磁率を有するシートを前記一対の分割コアの突き合わせ面の間に安定して保持して、磁気飽和の発生を良好にかつ安定して抑制することのできるフェライトクランプの提供を目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達するためになされた本発明は、開環状に形成され、互いに組み合わせると電線を挿通させるための挿通孔を有した環状の磁性体コアを形成する一対の分割コアと、該各分割コアをそれぞれ包持する一対のケース部、及び該各ケース部同士を固定することで該各ケース部に包持された前記分割コアを環状に組み合わせる固定機構を備えた保持ケースと、を備え、前記磁性体コアを電線に外嵌させ、該電線を流れる雑音電流を吸収するフェライトクランプにおいて、前記各分割コアの透磁率よりも小さい透磁率を有し、前記一対の分割コアの突き合わせ面に挟まれるシートを、更に備え、前記保持ケースの少なくとも一方の前記ケース部は、当該ケース部に包持された前記分割コアの前記突き合わせ面と同一平面上から更に当該突き合わせ面の表面方向に延びて形成されたことにより、当該突き合わせ面ともう一方の前記分割コアの突き合わせ面との間に挟まれた前記シートを、前記磁性体コアの前記電線の軸方向両端及び前記磁性体コアの外周方向から包囲することを特徴とするフェライトクランプを要旨としている。
【0009】
このように構成された本発明のフェライトクランプでは、電線に外嵌される一対の分割コアの透磁率よりも小さい透磁率を有するシートが、前記一対の分割コアの突き合わせ面に挟まれている。このため、前記一対の分割コアを組み合わせてなる環状の磁性コアで磁気飽和が発生するのを良好に抑制することができる。
【0010】
また、各分割コアをそれぞれ包持して保持ケースを構成する一対のケース部のうち少なくとも一方は、当該ケース部に包持された分割コアの前記突き合わせ面と同一平面上から更に当該突き合わせ面の表面方向に延びて形成されている。そして、この構成によって当該ケース部は、当該突き合わせ面ともう一方の前記分割コアの突き合わせ面との間に挟まれた前記シートを、磁性体コアの電線の軸方向両端及び磁性体コアの外周方向(すなわち、磁性体コアを電線に外嵌したときの外側方向)から包囲する。このため、本発明では、前記一対の分割コアの間に挟まれたシートが保持ケースの外部へ滑り落ちてしまうのを良好に抑制することができる。従って、前記シートは、前記突き合わせ面の間に安定して保持され、前記磁性コアで磁気飽和が発生するのを良好にかつ安定して抑制することができる。
【0011】
なお、本発明のフェライトクランプは、前記挿通孔に嵌合されて前記シートの前記挿通孔側への移動を抑制すると共に、前記電線に外嵌される筒状部材を、更に備えてもよい。この場合、前記磁性コアの挿通孔に嵌合された筒状部材が前記シートの前記挿通孔側への移動を抑制するので、当該シートが保持ケースの外部へ滑り落ちるのを一層良好に抑制することができる。すなわち、前記シートが前記挿通孔を通って滑り落ちるのを抑制する対策としては、前記挿通孔に挿通された電線の外周によって抑制することも可能であるが、このように、筒状部材によって抑制する場合、電線の径によらず前記シートが滑り落ちるのを良好に抑制することができる。
【0012】
そして、その場合、前記筒状部材の外周に形成され、当該筒状部材の前記挿通孔への嵌合時に弾性変形しながら前記挿通孔の内壁面に圧接されるリブを、更に備えてもよい。その場合、各分割コアにおける前記挿通孔の内壁面をリブが押圧することにより、各分割コアの前記突き合わせ面の位置関係が正確に保持される。このため、フェライトクランプの特性を一層安定化することができる。
【0013】
また、前記電線はバスバーであって、前記筒状部材の内周面の前記軸方向に垂直な断面形状は、前記バスバーの外周面の前記軸方向に垂直な断面形状と一致してもよい。バスバーは、10A以上の大電流が通電される場合が多く、本発明の効果が一層顕著に表れる。また、この場合、筒状部材の内周面とバスバーの外周面とが当接し合うので、フェライトクランプを一層良好に位置決めすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明が適用されたフェライトクランプの閉じた状態における構成を表す底面図(A)、右側面図(B)、正面図(C)、左側面図(D)、背面図(E)、平面図(F)、左上前方斜視図(G)、右上前方斜視図(H)、左下前方斜視図(I)、右下前方斜視図(J)である。
【図2】そのフェライトクランプの開いた状態における構成を表す底面図(A)、右側面図(B)、正面図(C)、左側面図(D)、背面図(E)、平面図(F)、左上前方斜視図(G)、右上前方斜視図(H)、左下前方斜視図(I)、右下前方斜視図(J)である。
【図3】図2(F)のA−A線断面図である。
【図4】前記フェライトクランプの分割ボビンの構成を表す正面図(A)、底面図(B)、右側面図(C)、左側面図(D)、斜視図(E)である。
【図5】前記フェライトクランプのコアギャップとインダクタンス直流重畳特性との関係を表すグラフである。
【図6】本発明が適用された他のフェライトクランプの開いた状態における構成を表す底面図(A)、正面図(B)、右側面図(C)、左側面図(D)、背面図(E)、平面図(F)、左上前方斜視図(G)、右上前方斜視図(H)、左下前方斜視図(I)、右下前方斜視図(J)である。
【図7】そのフェライトクランプの分割ボビンの構成を表す底面図(A)、正面図(B)、左側面図(C)、斜視図(D)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[フェライトクランプの構成]
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。図1は、本発明が適用されたフェライトクランプ1の、閉じた状態における構成を表す図で、(A)は底面図、(B)は右側面図、(C)は正面図、(D)は左側面図、(E)は背面図、(F)は平面図、(G)は左上前方斜視図、(H)は右上前方斜視図、(I)は左下前方斜視図、(J)は右下前方斜視図である。また、図2は、開いた状態におけるフェライトクランプ1の構成を表す図で、(A)は底面図、(B)は右側面図、(C)は正面図、(D)は左側面図、(E)は背面図、(F)は平面図、(G)は左上前方斜視図、(H)は右上前方斜視図、(I)は左下前方斜視図、(J)は右下前方斜視図である。更に、図3は、図2(F)のA−A線断面図である。なお、本実施形態のフェライトクランプ1は、後述の分割コア4A,4Bを有する本体2と、図示省略した帯板状バスバーに外嵌される筒状部材の一例としてのボビン3とから構成されている。ボビン3の構成については後に詳述するが、図2(G)等に示すように、断面が細長い矩形の角筒状に組み合わせて使用される。
【0016】
先ず、本体2の構成について説明する。図1〜図3に示すように、本実施形態の本体2は、ボビン3を外周から包囲する角筒状に形成された磁性体コア(例えばフェライトコア)を、前記角筒の矩形断面の各短辺中心を通る面で2分割した形状を有する一対の分割コア4A,4Bと、これら分割コア4A,4Bを一体に保持すると共に、分割コア4A,4Bを元の角筒状に組み合わせた状態に閉じ合わせることが可能な保持ケース6とからなる。
【0017】
このうち、保持ケース6は、分割コア4A,4B(図3)をそれぞれ収納(包持)し、ヒンジ8を介して開閉自在に連結された一対のケース部6A,6Bを有している。図2に示すように、一方のケース部6Aには、分割コア4Aの収納空間を挟んで、ヒンジ8が形成された側壁面と対向する当該ケース部6Aの側壁面に、フック状の係止爪10が設けられ、他方のケース部6Bには、同じく分割コア4Bの収納空間を挟んで、ヒンジ8が形成された側壁と対向する当該ケース部6Bの側壁に、係止爪10と係合してケース部6A,6Bを閉じた状態に保持する矩形枠状の係止枠12が設けられている。なお、係止枠12は、ケース部6Bの開口側端縁より突出するように形成され、前記角筒の中心軸方向に沿って2個設けられている。係止爪10は、ケース部6Aの側壁面の、各係止枠12と係合する位置に2個設けられている。なお、係止爪10,係止枠12が固定機構に相当する。
【0018】
また、ケース部6A,6Bの底面を構成する外周壁には、先端部分が分割コア4A,4Bの収納空間に向けて突出した舌片状の付勢爪14が、当該底面の中心と四隅との間の4箇所にそれぞれ形成されている。また、ケース部6Aの両側面(前記中心軸方向に沿った面)を構成する外周壁内面には、図3に示すように、分割コア4Aの外周面に形成された係合溝42に係合して、ケース部6Aの収納空間に収納した分割コア4Aが、ケース部6Aから脱落することを防止するための押え爪16がそれぞれ形成されている。
【0019】
更に、ケース部6Aの両端面(前記中心軸方向の両端に位置する面)を構成する側壁には、図2に示すように、ボビン3に外嵌される矩形の切欠部20がそれぞれ形成されている。これと同様に、ケース部6Bにも、押え爪17,切欠部21が形成されている。
【0020】
ケース部6Bの前記底面を構成する外周壁からは、当該底面及び前記中心軸に沿って平板状に突出した固定部25,26が、当該底面の中心を挟んだ対角位置に一対設けられている。各固定部25,26には、前記底面に対する垂直方向に貫通するリベット穴25A,26Aが設けられている。また、ケース部6Aには、フェライトクランプ1が閉じられたときに前述の固定部25,26のうちヒンジ8から遠い側の固定部25と重畳する位置に、固定部27が足27Bを介して連接されている。この固定部27にも、固定部25,26と同様のリベット穴27Aが設けられている。このため、フェライトクランプ1を閉じることによって重畳されたリベット穴27A,25Aとリベット穴26Aとにリベット(図示省略)を挿入することにより、フェライトクランプ1を基板,板金等の支持体に固定することができる。そして、このように構成された保持ケース6は、合成樹脂により一体成形され、付勢爪14等には適度な弾性が与えられている。
【0021】
ボビン3は、分割コア4A,4Bを組み合わせたときにできる穴(挿通孔)よりも若干小さい外周を有し、前記矩形断面の各長辺の中心を通る面で2分割した形状を有する一対の分割ボビン3A,3Bからなる。図4は、一方の分割ボビン3Aの構成を表す図で、(A)は正面図、(B)は底面図、(C)は右側面図、(D)は左側面図、(E)は斜視図である。なお、他方の分割ボビン3Bも分割ボビン3Aと全く同様に構成されている。
【0022】
図4に示すように、分割ボビン3Aは、断面が細長い矩形の角筒を前記矩形の長辺の中心で分割した断面コの字状の柱体として合成樹脂により構成されている。また、前記矩形の短辺外周には、前記中心軸方向に直交する方向に伸びるリブ31が、3列等間隔で設けられている。このリブ31も含めたボビン3の外周は前記穴よりも大きく、分割ボビン3A,3Bを組み合わせたボビン3が前記穴に装着される際は、リブ31が弾性変形して押し潰された状態で装着される。
【0023】
また、リブ31の前記中心軸方向の両端には、前記穴よりも大きい外周を有する鍔部32が形成されている。この鍔部32は、ボビン3が前記穴に装着されたとき、図2(F)に示すように、ケース部6A,6Bの切欠部20,21の外側に配設され、当該切欠部20,21に係合することによってボビン3が分割コア4A,4Bの間から抜け落ちるのを抑制する。更に、分割ボビン3A,3Bが組み合わされてボビン3を構成したとき、その中心に断面矩形の穴が形成されるが、その穴は、分割コア4A,4Bを外嵌すべきバスバー(電線の一例)の外周と断面形状が一致する。
【0024】
また、フェライトクランプ1では、分割コア4A,4Bの各突き合わせ面の間に、PETからなる一対のシート50を挟んで使用されるが、ケース部6Bの開口側端縁は、図3に示すように、そのケース部6Bに分割コア4Bを保持してその表面に配置されたシート50の表面と同一平面上に配設される。なお、図3では、分割コア4Aがケース部6Aの開口側端縁よりも突出しているが、この突出量は、付勢爪14の変形量と対応している。すなわち、フェライトクランプ1が閉じられて係止爪10と係止枠12とが係合したとき、分割コア4A,4Bはシート50を挟んで互いに圧接され、そのときの付勢爪14の変形により、ケース部6Aの開口側端縁とケース部6Bの開口側端縁とが当接する。
【0025】
[フェライトクランプの効果]
このように構成されたフェライトクランプ1は、次のようにして使用される。先ず、分割ボビン3A,3Bをバスバーの幅方向(矩形断面の短辺同士が対向する方向)両側から装着することにより、バスバーを外周からボビン3で包囲する。続いて、図3に示すように、ケース部6Bに保持された分割コア4Bの凹部に、リブ31を弾性変形させて押し潰しながらボビン3を装着する。続いて、分割コア4Bの突き合わせ面にシート50を載置した上でケース部6A,6Bを、ヒンジ8を中心にしてバスバーの厚さ方向(矩形断面の長辺同士が対向する方向)から閉じる。そして、係止爪10と係止枠12とが係合するまでケース部6A,6Bが閉じられると(図1)、付勢爪14の付勢力によって、分割コア4A,4Bはシート50を挟んで圧接される。これによって、分割コア4A,4Bを、バスバーに外嵌される環状に組み合わせることができ、そのバスバーを通る雑音電流を吸収することができる。
【0026】
また、前述のように、ケース部6Bの開口側端縁は、そのケース部6Bに保持された分割コア4Bの突き合わせ面よりも更に当該突き合わせ面の表面方向に延びて形成され、当該突き合わせ面に配置されたシート50の表面と同一平面上に配設されている。そして、この構成によってケース部6Bは、一対の分割コア4A,4Bの突き合わせ面に挟まれたシート50を、バスバーの軸方向両端及び幅方向から包囲する。このため、フェライトクランプ1では、分割コア4A,4Bの間に挟まれたシート50が保持ケース6の外部へ滑り落ちてしまうのを良好に抑制することができる。しかも、本実施形態では、分割コア4A,4Bを組み合わせたときにできる穴にボビン3を挿入しているので、シート50がその穴を通って保持ケース6の外部へ滑り落ちるのも抑制することができる。
【0027】
図5は、フェライトクランプ1の分割コア4A,4B間のギャップ(隙間)とインダクタンス直流重畳特性との関係を表すグラフである。図5に示すように、ギャップ無しであると、10A(図5では横軸をアンペアターンとしたが一般のアンペアでも同様)以上の大電流がバスバーに流れると、磁気飽和が発生してインダクタンスが大幅に低下する。これに対して、ギャップが0.1mm以上あると、磁気飽和の発生が抑制され、10A以上の大電流がバスバーに流れてもインダクタンスは安定している。本実施形態では、分割コア4A,4Bの間にその分割コア4A,4Bよりも小さい透磁率を有するシート50を挟んでいるので、磁気飽和の発生を良好に抑制することができる。しかも、本実施形態では、シート50が保持ケース6の外部へ滑り落ちるのを前述のように良好に抑制することができるので、分割コア4A,4Bからなる磁性体コアで磁性飽和が発生するのを良好にかつ安定して抑制することができる。
【0028】
このため、電気自動車等の分野のように、大電流が通電されるばかりでなくフェライトクランプ1に加わる振動も大きく、更に立体的な配線がなされてフェライトクランプ1が各種の方向に配置される場合でも、分割コア4A,4Bの間に安定してシート50を保持して磁気飽和の発生を安定して抑制することができる。また、シート50の表面が粗いと、分割コア4A,4Bの突き合わせ面との間に作用する摩擦力も大きく、シート50を単純に分割コア4A,4Bの間に挟んだだけでもシート50の滑り落ちをある程度抑制できるが、シート50の表面が粗いと前記ギャップも不安定になる。これに対して、本実施形態では、前述のようにケース部6Bとボビン3とによって前記滑り落ちを抑制しているので、シート50の表面が滑らかでもその滑り落ちを安定して抑制でき、前記ギャップも安定した値に維持することができる。従って、本実施形態では、フェライトクランプ1の特性を極めて良好に安定化することができる。
【0029】
[本発明の他の実施形態]
なお、本発明は前記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。例えば、リブ31は省略し、鍔部32のみによってボビン3を分割コア4A,4Bの間に保持してもよい。但し、前述のようにリブ31を設けた場合、分割コア4A,4Bの内壁面を弾性変形したリブ31が押圧することにより、各分割コア4A,4Bの前記突き合わせ面の位置関係が正確に保持される。このため、フェライトクランプ1の特性を一層安定化することができる。
【0030】
また、本発明は、断面矩形のバスバー用のフェライトクランプ1に限らず、断面円形のバスバー用のフェライトクランプや、一般の電線用のフェライトクランプにも適用できることはいうまでもない。図6は、断面円形のバスバー用のフェライトクランプ101の開いた状態における構成を表す図で、(A)は底面図、(B)は正面図、(C)は右側面図、(D)は左側面図、(E)は背面図、(F)は平面図、(G)は左上前方斜視図、(H)は右上前方斜視図、(I)は左下前方斜視図、(J)は右下前方斜視図である。また、図7は、そのフェライトクランプ101のボビン103の構成を表す図で、(A)は底面図、(B)は正面図、(C)は左側面図、(D)は斜視図である。
【0031】
なお、このフェライトクランプ101は、形状が異なるのみで大部分はフェライトクランプ1と同様に構成されているので、対応する箇所には図1〜図4で用いた符号に100を加えた符号を付して構成の詳細な説明を省略する。すなわち、本実施形態のフェライトクランプ101は、ボビン103が円筒状に構成され、分割コア104A,104Bも円筒状の磁性コアをその円筒の軸を通る面で2分割した形状を有している。また、本実施形態では、ボビン103はリブを有さず、鍔部132のみによってボビン103を分割コア104A,104Bの間に保持しているが、フェライトクランプ1と同様にリブを設けてもよい。また、本実施形態では、ボビン103が円筒状であるため、分割ボビン103A,103Bの突き合わせ面と分割コア104A,104Bの突き合わせ面とを平行に配設しているが、前記実施形態と同様に、分割ボビン103A,103Bの突き合わせ面と分割コア104A,104Bの突き合わせ面とをバスバーの軸回りに直交させてもよい。
【0032】
このように構成された本実施形態のフェライトクランプ101では、断面円形のバスバーまたは断面円形の一般電線またはバラ線の束に分割ボビン103A,103Bと分割コア104A,104Bとを外嵌させることにより、雑音電流を吸収し、シート150が形成するギャップによって磁気飽和を抑制することができる。
【0033】
なお、ボビン3,103の内周面の断面形状は、バスバーの外周面の断面形状と必ずしも一致しなくてもよいが、両者が一致する場合、フェライトクランプ1,101を一層良好に位置決めすることができる。また、前記各実施形態において、シート50または150は、分割コア4A,4Bまたは104A,104Bの2つの突き合わせ面のいずれか一方にのみ設けてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1,101…フェライトクランプ 2,102…本体
3,103…ボビン 3A,3B,103A,103B…分割ボビン
4A,4B,104A,104B…分割コア 6,106…保持ケース
6A,6B,106A,106B…ケース部 8,108…ヒンジ
10,110…係止爪 12,112…係止枠
14,114…付勢爪 31…リブ
32,132…鍔部 50,150…シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開環状に形成され、互いに組み合わせると電線を挿通させるための挿通孔を有した環状の磁性体コアを形成する一対の分割コアと、
該各分割コアをそれぞれ包持する一対のケース部、及び該各ケース部同士を固定することで該各ケース部に包持された前記分割コアを環状に組み合わせる固定機構を備えた保持ケースと、
を備え、前記磁性体コアを電線に外嵌させ、該電線を流れる雑音電流を吸収するフェライトクランプにおいて、
前記各分割コアの透磁率よりも小さい透磁率を有し、前記一対の分割コアの突き合わせ面に挟まれるシートを、
更に備え、
前記保持ケースの少なくとも一方の前記ケース部は、当該ケース部に包持された前記分割コアの前記突き合わせ面と同一平面上から更に当該突き合わせ面の表面方向に延びて形成されたことにより、当該突き合わせ面ともう一方の前記分割コアの突き合わせ面との間に挟まれた前記シートを、前記磁性体コアの前記電線の軸方向両端及び前記磁性体コアの外周方向から包囲することを特徴とするフェライトクランプ。
【請求項2】
前記挿通孔に嵌合されて前記シートの前記挿通孔側への移動を抑制すると共に、前記電線に外嵌される筒状部材を、
更に備えたことを特徴とする請求項1に記載のフェライトクランプ。
【請求項3】
前記筒状部材の外周に形成され、当該筒状部材の前記挿通孔への嵌合時に弾性変形しながら前記挿通孔の内壁面に圧接されるリブを、
更に備えたことを特徴とする請求項2に記載のフェライトクランプ。
【請求項4】
前記電線はバスバーであって、
前記筒状部材の内周面の前記軸方向に垂直な断面形状は、前記バスバーの外周面の前記軸方向に垂直な断面形状と一致することを特徴とする請求項2または3に記載のフェライトクランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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