説明

フェライト焼結体およびこれを備えるノイズフィルタ

【課題】 透磁率およびキュリー温度が高く、透磁率の温度変化率の小さいフェライト焼結体およびこのフェライト焼結体に金属線を巻き付けてなるノイズフィルタを提供する。
【解決手段】FeをFe換算で48モル%以上51モル%以下,ZnをZnO換算で29モル%以上31モル%以下,NiをNiO換算で14モル%以上17モル%以下およびCuをCuO換算で5モル%以上7モル%以下の組成範囲からなる主成分100質量%に対し、T
iをTiO換算で0.05質量%以上0.15質量%含有してなり、結晶粒界にZn化合物が存在しているフェライト焼結体である。これにより、透磁率を1200以上、キュリー温度を159℃以上、透磁率の温度変化率X−40〜25およびX25〜160の絶対値を40以下と
することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト焼結体およびこのフェライト焼結体に金属線を巻き付けてなるノイズフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト焼結体は、インダクタ,変圧器,安定器,電磁石,ノイズフィルタ等のコアとして広く使用されており、特に近年、地球温暖化や大気汚染などの環境問題によって注目の高まっている電気自動車やハイブリッドカーなどは、複雑な制御が必要であることから、ノイズによって誤動作などの悪影響を及ぼすことがないように、ノイズ除去用として、Ni−Zn−Cu系フェライト材料からなるフェライト焼結体をコアとして金属線を巻き付けてなるノイズフィルタが多数使用されるようになっている。このノイズフィルタには、優れたノイズ除去特性が求められるため、コアとして用いられるフェライト焼結体には、透磁率(μ)およびキュリー温度(Tc)が高いことが求められている。
【0003】
そして、Ni−Zn−Cu系フェライト材料からなるフェライト焼結体としては、例えば特許文献1には、モル%でFe47〜50%,NiO14〜20%,ZnO26〜33%,CuO4〜7%,MnO0〜1.0%(ただし0を含まず),TiO0〜2.0%,MgO0〜2.0%(ただし、TiO,MgOがともに0の場合を除く)の組成範囲からなる高抵抗
率で低損失の酸化物磁性材料(Ni−Cu−Mn−Zn)系フェライトが提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、Fe,Ni,Zn,CuをFe換算で48〜51モル%,ZnO換算で15モル%以上30モル%未満,NiO換算で7〜35モル%,CuO換算で2〜7モル%それぞれ含有する主成分100重量部に対し、TiをTiO換算で0.16〜1.0重量部含有したNi−Zn系フェライト材料が提案されている。
【0005】
また、特許文献3には、主組成としてFeが49.0mol%〜50.0mol%,NiOが10.0mol%〜15.0mol%,CuOが5.0mol%〜8.0mol%,残部がZnOであるNi系フェライトにおいて、副成分としてTiをTiO換算で0.1重量%以下(0
を含まず)を含有するNi系フェライトが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭64−53509号公報
【特許文献2】特開2004−269316号公報
【特許文献3】特開2002−321971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3で提案されたNi−Zn−Cu系フェライト材料は、透磁率やキュリー温度が高く、ノイズ除去特性に優れていると考えられるものの、今般においては、さらに広範囲な温度域において優れたノイズ除去性能を発揮することのできるものが求められていることから、広範囲な温度域において透磁率の変化を小さくしなければならないという課題があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべく案出されたものであり、透磁率およびキュリー温度が高く、透磁率の温度変化率の小さいフェライト焼結体およびこれを備えるノイズフィルタ
を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のフェライト焼結体は、FeをFe換算で48モル%以上51モル%以下,ZnをZnO換算で29モル%以上31モル%以下,NiをNiO換算で14モル%以上17モル%以下およびCuをCuO換算で5モル%以上7モル%以下の組成範囲からなる主成分100
質量%に対し、TiをTiO換算で0.05質量%以上0.15質量%以下含有してなり、結晶粒界にZn化合物が存在していることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のノイズフィルタは、上記構成のフェライト焼結体に金属線を巻きつけてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフェライト焼結体によれば、FeをFe換算で48モル%以上51モル%以下,ZnをZnO換算で29モル%以上31モル%以下,NiをNiO換算で14モル%以上17モル%以下およびCuをCuO換算で5モル%以上7モル%以下の組成範囲からなる主成分100質量%に対し、TiをTiO換算で0.05質量%以上0.15質量%以下含有してなり
、結晶粒界にZn化合物が存在していることにより、電気抵抗が大きく、透磁率およびキュリー温度の高いフェライト焼結体とすることができるとともに、フェライト結晶間における磁力の相互作用を抑制することによって、透磁率の温度変化率を小さくすることができる。
【0012】
本発明のノイズフィルタによれば、上記構成のフェライト焼結体に金属線を巻き付けてなることにより、コアとなるフェライト焼結体の透磁率およびキュリー温度が高く、透磁率の温度変化率が小さいので、低温域から高温域にわたる広範囲な温度域において、安定したノイズ除去性能を有する優れたノイズフィルタとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態のフェライト焼結体の一例を示す、(a)はトロイダルコアの斜視図であり、(b)はボビンコアの斜視図である。
【図2】本実施形態のフェライト焼結体の結晶構造の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態のフェライト焼結体およびこれを用いたノイズフィルタの実施の形態の例について説明する。
【0015】
本実施形態のフェライト焼結体は、このフェライト焼結体をコアとして金属線を巻き付けることによって回路のノイズ除去に用いるノイズフィルタとなり、DC−DCコンバータや各種電源のトランス等に好適に使用されるものである。
【0016】
このようなノイズフィルタのコアとなるフェライト焼結体は、様々な形状のものがあり、一例として、図1(a)にリング状のトロイダルコア10、図1(b)にボビン状のボビンコア20を模式図で示す。
【0017】
そして、本実施形態のフェライト焼結体には、透磁率(μ)およびキュリー温度(Tc)が高く、透磁率の温度変化率が小さいことが求められる。ここで、透磁率とは、LCRメータを用いて周波数100kHzの条件で試料を測定した測定値であり、試料としては、
例えば、外径が13mm,内径が7mm,厚みが3mmの図1(a)に示すフェライト焼結体からなるリング状のトロイダルコア10を用いて、トロイダルコア10の巻き線部10aの全周にわたって線径が0.2mmの被膜導線を10回巻きつけたものを用いる。
【0018】
また、透磁率の温度変化率は、同様の試料を用いて、恒温槽内の測定治具に接続する。なお、測定治具はLCRメータに接続されており、100kHzの周波数で測定し、25℃で
の透磁率をμ25、25℃から−40℃まで降温したときにおける最も低い透磁率をμ−40、25℃から160℃まで昇温したときにおける最も高い透磁率をμ160とし、低温部側の
透磁率の温度変化率X−40〜25を(μ−40−μ25)/μ25×100の計算式で、
高温部側の透磁率の温度変化率X25〜160を(μ160−μ25)/μ25×100の
計算式で求めることができる。さらに、キュリー温度は、同様の試料を用いて、LCRメータを用いたブリッジ回路法により求めることができる。
【0019】
そして、このようなノイズフィルタのコアとなる本実施形態のフェライト焼結体は、FeをFe換算で48モル%以上51モル%以下,ZnをZnO換算で29モル%以上31モル%以下,NiをNiO換算で14モル%以上17モル%以下およびCuをCuO換算で5モル%以上7モル%以下の組成範囲からなる主成分100質量%に対し、TiをTiO換算
で0.05質量%以上0.15質量%含有してなり、結晶粒界にZn化合物が存在していることを特徴とする。
【0020】
ここで、主成分を上述した組成範囲としたのは、電気抵抗が大きく、透磁率およびキュリー温度の高いフェライト焼結体を得ることができるからである。これに対し、FeがFe換算で48モル%未満では、透磁率が低くなる傾向があり、51モル%を超えると電気抵抗値の低下が生じる。また、ZnがZnO換算で29モル%未満では、透磁率が低くなる傾向があり、31モル%を超えるとキュリー温度が低下する傾向がある。
【0021】
また、NiがNiO換算で14モル%未満では、キュリー温度が低下する傾向があり、17モル%を超えると透磁率が低くなる傾向がある。また、CuがCuO換算で5モル%未満では透磁率が低くなる傾向があり、7モル%を超えるとキュリー温度が低くなる傾向がある。
【0022】
さらに、上述した組成範囲からなる主成分100質量%に対し、TiをTiO換算で0.05質量%以上0.15質量%含有させることとしたのは、Tiの含有量をTiO換算で0.05
質量%以上0.15質量%とすることにより、透磁率を高めて、透磁率の温度変化率を小さくできるからである。透磁率を高めて、透磁率の温度変化率を小さくできる理由は、フェライト結晶の粒界にTi成分が凝集することなく分散して存在していることによると考えられる。これに対し、Tiの含有量がTiO換算で0.05質量%未満では、透磁率を高めることができず、0.15質量%を超えると透磁率の温度変化率が大きくなる傾向がある。
【0023】
なお、本実施形態のフェライト焼結体の主成分が、FeをFe換算で48モル%以上51モル%以下,ZnをZnO換算で29モル%以上31モル%以下,NiをNiO換算で14モル%以上17モル%以下およびCuをCuO換算で5モル%以上7モル%以下の組成範囲からなっているかについては、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置または蛍光X線分析装置を用いて、各金属元素量を求めて酸化物に換算し、この酸化物に換算した値を用いてモル%に換算することにより確認することができる。また、主成分100質量%に対し、TiをTiO換算で0.05質量%以上0.15質量%含有しているかについ
ては、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置または蛍光X線分析装置を用いて、Ti量を求めた後Tiの酸化物に換算し、この値を用いて、主成分の酸化物に換算した値を100質量%としたときに対する比率を百分率で表すことにより確認すること
ができる。
【0024】
図1は、本実施形態のフェライト焼結体の結晶構造の一例を示す模式図である。
【0025】
図1に示すように、本実施形態のフェライト焼結体において、六角形で示しているのがフェライト結晶2であり、このフェライト結晶2同士の境界が結晶粒界3である。そして、本実施形態のフェライト焼結体において、Zn化合物1が結晶粒界3に存在していることにより、フェライト結晶2間における磁力の相互作用を抑制することにより、透磁率の温度変化率を小さくすることができる。特に、このZn化合物1は、結晶粒界3の中でも3重点に存在していることが好ましい。なお、本実施形態において、Zn化合物1とは、Znの酸化物およびZnとOとFe,Ni,CuおよびTiの少なくとも1種とを含む化合物のいずれかのことである。
【0026】
ここで、Zn化合物の同定方法について説明する。まず、フェライト焼結体を切断し、断面を鏡面加工する。そして、透過型電子顕微鏡(TEM)により、鏡面加工した断面を観察して結晶粒界における化合物の存在有無を確認し、エネルギー分散型X線回折装置を用いて化合物の結晶構造を確認することにより、同定することができる。
【0027】
このように、本実施形態のフェライト焼結体は、透磁率およびキュリー温度が高く、透磁率の温度変化率が小さいものであり、具体的には、透磁率を1200以上、キュリー温度を159℃以上、透磁率の温度変化率X−40〜25およびX25〜160の絶対値を40以下
とすることができる。
【0028】
また、本実施形態のフェライト焼結体において、Zn化合物の面積占有率が0.1%以上3.0%以下であることが好適である。ここで、Zn化合物の面積占有率とは、波長分散型X線マイクロアナライザ装置(日本電子製JXA−8100)を用いてフェライト焼結体の鏡面加工した断面を測定したときの1視野、例えば、70μm×70μmの面積4900μm中におけるZn化合物が占有する面積率のことである。なお、この占有面積率の算出方法は、波長分散型X線マイクロアナライザ装置(日本電子製JXA−8100)を用いてZnを測定し、1視野内におけるそれぞれの分析点で検出される特性X線の強度をX−Y座標に記録したマッピング結果において、Zn化合物はフェライト結晶に固溶しているZnよりも特性X線の強度を示すカウント値の高いものであるので、カウント値の平均値よりも20%以上高い部分をZn化合物が存在しているものとみなし、この部分の面積を視野面積である4900μmで除して百分率で表すことによりZn化合物の面積占有率を求めることができる。
【0029】
このようにして算出されたZn化合物の面積占有率が0.1%以上3.0%以下であるときには、フェライト結晶間における磁力の相互作用をさらに抑制することができるので、透磁率を向上させることができるとともに、透磁率の温度変化率をさらに小さくすることができる。具体的には、透磁率を1245以上、透磁率の温度変化率X−40〜25およびX25〜160の絶対値を36以下とすることができる。
【0030】
そして、本実施形態のフェライト焼結体をコアとして金属線を巻きつけてなるノイズフィルタは、透磁率およびキュリー温度が高く、透磁率の温度変化率が小さいので、低温域から高温域にわたる広範囲な温度域において、安定したノイズ除去性能を有する優れたノイズフィルタとなる。
【0031】
次に、本実施形態のフェライト焼結体の製造方法の一例について以下に詳細を示す。
【0032】
本実施形態のフェライト材料の製造方法は、まず、出発原料として、Fe,Zn,Ni,Cuの酸化物あるいは焼成により酸化物を生成する炭酸塩,硝酸塩等の金属塩を用意する。このとき平均粒径としては、例えば、Feが酸化鉄(Fe),Znが酸化亜鉛(ZnO),Niが酸化ニッケル(NiO),Cuが酸化銅(CuO)であるとき、0.5
μm以上5μm以下である。なお、Znについては、出発原料と、出発原料を仮焼してフ
ェライト材料として合成した仮焼粉体にZnO化合物源として添加する酸化亜鉛とによって、フェライト焼結体中にZnO換算で29モル%以上31モル%以下含有するものであるので、出発原料の秤量時には、この添加分を差し引いて秤量する。そして、Fe,Ni,Cuについては、FeをFe換算で48モル%以上51モル%以下,NiをNiO換算で14モル%以上17モル%以下およびCuをCuO換算で5モル%以上7モル%以下の組成範囲となるように秤量する。
【0033】
そして、出発原料として秤量した主成分を構成する各原料を混合し、ボールミルや振動ミル等で粉砕混合した後、700℃以上750℃以下の温度で2時間以上仮焼してフェライト材料として十分に合成された仮焼粉体を得る。
【0034】
次に、添加原料として、Zn化合物源である酸化亜鉛と、Tiの酸化物あるいは焼成によりTiの酸化物を生成する炭酸塩,硝酸塩等の金属塩とを用意する。そして、この添加原料および仮焼粉体を溶媒とともにボールミルや振動ミル等に入れて粉砕混合する。このとき、700℃以上750℃以下の温度で2時間以上仮焼して得られた仮焼粉体は、硬度が高過ぎるので短時間での粉砕が可能となり、添加原料を均質に分散することが可能となる。
【0035】
なお、酸化亜鉛の添加量は、ZnO換算で0.001モル%以上0.03モル%以下であること
が好ましく、この添加量であれば、Zn化合物の面積占有率を0.1%以上3.0%以下とすることができる。また、ここで添加する酸化亜鉛の平均粒径は、2μm以上4μm以下であることが好ましい。酸化亜鉛の平均粒径を2μm以上4μm以下としたのは、添加する酸化亜鉛が容易にフェライト結晶に固溶することなく、仮焼粉体に均質に分散させてフェライト焼結体の結晶粒界に存在させるためである。また、Tiについては、仮焼粉体と酸化亜鉛とを加えた質量を100質量%としたとき、TiO換算で0.05質量%以上0.15質量%
以下の範囲とする。
【0036】
そして、平均粒径が1μm以下となるまで粉砕した後、所定量のバインダを加えてスラリーとし、噴霧造粒装置(スプレードライヤ)を用いて造粒して球状顆粒を得る。次に、この球状顆粒を用いてプレス成形して所定形状の成形体を得る。その後、成形体を脱脂炉にて400〜800℃の範囲で脱バインダ処理を施して脱脂体とした後、これを焼成炉にて1000〜1200℃の範囲で2〜5時間保持して焼成することにより本実施形態のフェライト焼結体を得る。なお、この焼成工程において、Fe,Zn成分の蒸発を防止するために、脱脂体を耐火材にて完全に覆った状態で焼成することが好ましい。
【0037】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
本実施形態のフェライト焼結体の実施例を以下に示す。
【0039】
各主成分や添加成分の含有量を異ならせた焼結体を作製し、Zn化合物の有無の確認および各特性の測定を行なった。
【0040】
まず、出発原料として、平均粒径が1μmのFe,ZnO,NiO,CuO粉末を用意し、表1に示した割合となるように秤量し、振動ミルで粉砕混合した後、750℃で
2時間仮焼して仮焼粉体を得た。次に、添加原料として、Zn化合物源である表1に示す量のZnO粉末と、仮焼粉体とこのZnO粉末とを加えた質量100質量%に対する表1に
示す量のTiO粉末とを用意した。なお、ZnO粉末の平均粒径は3μmのものを用いた。そして、この添加原料および仮焼粉体を溶媒とともにボールミルに入れて粉砕した後、バインダを加えてスラリーとし、噴霧造粒装置(スプレードライヤ)を用いて造粒して
球状顆粒を得た。
【0041】
次に、この球状顆粒を用いてプレス成形して図1(a)に示す形状のトロイダルコア10となる成形体を得た。その後、この成形体を脱脂炉にて600℃で脱バインダ処理を施して
脱脂体を得た。しかる後、脱脂体を耐火材からなる焼成棚板上に並べ、ブロック状の耐火材を用いて脱脂体を完全に覆った状態としてから、大気雰囲気の焼成炉にて1000〜1200℃で2時間保持して焼成した。その後、必要に応じて研削加工を施し、外径が13mm,内径が7mm,厚みが3mmの図1(a)に示す形状のトロイダルコア10を得た(試料No.1〜15)。
【0042】
そして、各試料の巻き線部10aの全周にわたって線径が0.2mmの被膜銅線を10回巻き
付けてLCRメータを用いて周波数100kHzにおける透磁率を測定した。
【0043】
また、透磁率の測定と同様の試料を用いて、恒温槽内の測定治具に接続した。なお、この測定治具はLCRメータに接続されており、100kHzの周波数で測定し、25℃での透
磁率をμ25、25℃から−40℃まで降温したときにおける最も低い透磁率をμ−40、25℃から160℃まで昇温したときにおける最も高い透磁率をμ160とし、低温部側の透磁
率の温度変化率X−40〜25を(μ−40−μ25)/μ25×100の計算式で、高温
部側の透磁率の温度変化率X25〜160を(μ160−μ25)/μ25×100の計算
式で求めた。さらに、透磁率の測定と同様の試料およびLCRメータを用いて、LCRメータを用いたブリッジ回路法によりキュリー温度を求めた。
【0044】
また、試料を切断して断面を鏡面加工し、透過型電子顕微鏡(TEM)により、鏡面加工した断面を観察して結晶粒界における化合物の存在を確認し、エネルギー分散型X線回折装置を用いて化合物の結晶構造を確認することによってZn化合物の有無を確認した。結果を表1に示す。
【0045】
なお、各試料について、蛍光X線分析装置を用いて、各金属元素量を求めてFeをFeに換算し、ZnをZnOに換算し、NiをNiOに換算し、CuをCuOに換算し、この酸化物に換算した値を用いてモル%に換算したところ、Fe,NiO,CuOについては、表1に記載のモル%となっていることを確認した。ZnOについては、出発原料および添加原料を加算したモル%となっていることを確認した。また。Tiについては、TiOに換算し、この値を用いて、Fe,ZnO,NiO,CuOを100
質量%としたときに対する比率を百分率で表すことによって、表1に記載の質量%となっていることを確認した。
【0046】
【表1】

【0047】
表1の結果から、FeがFe換算で48モル%以上51モル%以下,ZnがZnO換算で29モル%以上31モル%以下,NiがNiO換算で14モル%以上17モル%以下およびCuがCuO換算で5モル%以上7モル%以下の組成範囲から少なくともいずれかが外れる試料No.1,4,5,8については、透磁率が1200未満またはキュリー温度が159℃未
満、もしくは透磁率の温度変化率の絶対値が40を超えていた。また、試料No.1については、TiOが0.05質量%未満であることから、透磁率が1100と最も低かった。
【0048】
また、TiO換算で0.05質量%以上0.15質量%以下の範囲外である試料No.9,14は、透磁率が1200未満または透磁率の温度変化率の絶対値が40を超えていた。さらに、Zn化合物を含有していない試料No.15は、透磁率の温度変化率の絶対値が40を超えていた。
【0049】
これに対し、主成分がFeをFe換算で48モル%以上51モル%以下,ZnをZnO換算で29モル%以上31モル%以下,NiをNiO換算で14モル%以上17モル%以下およびCuをCuO換算で5モル%以上7モル%以下の組成範囲からなり、この主成分100質
量%に対し、TiをTiO換算で0.05質量%以上0.15質量%含有するとともに、結晶粒界にZn化合物が存在している試料No.2,3,6,7,10〜13は、透磁率が1200以上およびキュリー温度が159℃以上であり、かつ透磁率の温度変化率の絶対値が40以下であ
り、良好な特性を有していることが確認された。
【0050】
そして、試料No.2,3,6,7,10〜13をノイズフィルタのコアとして用いたところ、透磁率およびキュリー温度が高く、透磁率の温度変化率が小さいことから、低温域から高温域にわたる広範囲な温度域において、安定したノイズ除去性能を有する優れたノイズフィルタであることが確認できた。
【実施例2】
【0051】
次に、Zn化合物源となる仮焼後に添加するZnO粉末量を異ならせた焼結体を作製し、Zn化合物の占有面積率および各特性の測定を行なった。
【0052】
出発原料および添加原料を表2に示す割合となるように秤量すること以外は、実施例1と同様の作製方法にて、外径が13mm,内径が7mm,厚みが3mmの図1(a)に示す形状のトロイダルコア10を得た(試料No.16〜22)。
【0053】
そして、透磁率、透磁率の温度変化率およびキュリー温度について、実施例1と同様の方法で測定した。
【0054】
また、試料を切断して断面を鏡面加工し、波長分散型X線マイクロアナライザ装置(日本電子製JXA−8100)を用いてZnを測定し、1視野(70μm×70μm)内におけるそれぞれの分析点で検出される特性X線の強度をX−Y座標に記録したマッピングを得た。そして、フェライト結晶に固溶しているZnよりもZn化合物が存在している部分は、特性X線の強度を示すカウント値が高いものであるので、カウント値の平均値よりも20%以上高い部分をZn化合物が存在しているものとみなし、この部分の面積を視野面積である4900μmで除して百分率で表すことによりZn化合物の面積占有率を求めた。結果を表2に示す。
【0055】
なお、各試料の主成分組成およびTiの含有量については、実施例1と同様の方法で表2に示す通りとなっていることを確認した。
【0056】
【表2】

【0057】
表2の結果から、主成分がFeをFe換算で48モル%以上51モル%以下,ZnをZnO換算で29モル%以上31モル%以下,NiをNiO換算で14モル%以上17モル%以下およびCuをCuO換算で5モル%以上7モル%以下の組成範囲からなり、この主成分100質量%に対し、TiをTiO換算で0.05質量%以上0.15質量%含有するとともに、Z
n化合物の占有面積率が0.1%以上3.0%以下である試料No.17〜21は、透磁率が1245以上であり、かつ透磁率の温度変化率の絶対値が36以下であり、Zn化合物の占有面積率が0.1%未満もしくは3.0%を超えている試料No.16,22よりも良好な特性を有していることが確認された。
【0058】
そして、試料No.16〜22をノイズフィルタのコアとして用いたところ、透磁率およびキュリー温度が高く、透磁率の温度変化率が小さいことから、低温域から高温域にわたる広範囲な温度域において、安定したノイズ除去性能を有する優れたノイズフィルタであることが確認できた。また、試料No.17〜21は、より良好な特性を有していることから、さらに安定したノイズ除去性能を有する優れたノイズフィルタであることが確認できた。
【符号の説明】
【0059】
1:Zn化合物
2:フェライト結晶
3:結晶粒界
10:トロイダルコア
10a:巻線部
20:ボビンコア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeをFe換算で48モル%以上51モル%以下,ZnをZnO換算で29モル%以上31モル%以下,NiをNiO換算で14モル%以上17モル%以下およびCuをCuO換算で5モル%以上7モル%以下の組成範囲からなる主成分100質量%に対し、TiをTiO換算で0.05質量%以上0.15質量%含有してなり、結晶粒界にZn化合物が存在していることを特徴とするフェライト焼結体。
【請求項2】
前記Zn化合物の面積占有率が0.1%以上3.0%以下であることを特徴とする請求項1に記載のフェライト焼結体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のフェライト焼結体に金属線を巻きつけてなることを特徴とするノイズフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−153556(P2012−153556A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13171(P2011−13171)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】