説明

フェルビナク含有経皮吸収製剤

【課題】フェルビナクの可溶化剤を最終製剤中に実質的に含有しなくとも、フェルビナクの高い放出性を示すフェルビナク含有経皮吸収製剤であり、リドカインとフェルビナクを配合した貼付剤において、リドカインの放出性を損なうことなく、フェルビナクの放出性を示すことが可能である貼付剤を提供すること。
【解決手段】有効成分としてフェルビナク、及び吸収促進剤としてリドカイン又はその薬学的に許容される塩を含有してなることを特徴とするフェルビナク含有経皮吸収貼付剤であり、特にフェルビナクの含有量が薬物含有膏体全重量に対して0.1〜10重量%であり、リドカイン又はその薬学的に許容される塩の含有量が薬物含有膏体全重量に対して0.01〜20重量%であるフェルビナク含有経皮吸収貼付剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮吸収製剤に関わり、詳細には、薬効成分として非ステロイド系消炎鎮痛剤であるフェルビナクおよび、局所麻酔剤であり、かつフェルビナクに対する吸収促進剤としてのリドカインまたは薬学的に許容される塩類を含有してなる貼付剤に関する。
【背景技術】
【0002】
非ステロイド系消炎鎮痛剤であるフェルビナクはフェンブフェンの活性代謝物であり、強い消炎鎮痛作用を示す薬物である。フェルビナクは、全身性の副作用を避けるため、経皮投与されており、外用製剤としてゲル剤、液剤、パップ剤、プラスター剤等が市販されている。
【0003】
フェルビナク自体は、各種溶媒に対する溶解性が極めて低いため、従来から、これらの外用製剤には、フェルビナクの経皮吸収性を高めるために、様々な可溶化剤が使用されてきた。
例えば、特許文献1には、フェルビナクに対する溶解能力の高いクロタミトンを必須成分として含有させたフェルビナク含有プラスター剤が提案されている。また、特許文献2には、可溶化剤としてN−メチル−2−ピロリドンおよびポリエチレングリコールを配合したプラスター剤が提案されている。しかしながら、これらの可溶化剤には皮膚に対して刺激性を発現するものも多く、しかもこれらの液状成分を貼付剤に配合する場合には貼付剤表面へのブリードアウト(表面への滲出)による貼付剤の経時的な物性の変化が見られることがあった。
【0004】
また、特許文献3には、クロタミトンを用いることなく、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ロジン系樹脂、可塑剤、l−メントール、およびフェルビナクを含有するプラスター剤が提案されている。このプラスター剤は、フェルビナクを溶融した状態のものと微細な結晶状態のものとが共存している半溶融状態で粘着剤層に均一に分散させた貼付剤であるが、フェルビナクの一部が結晶状態で存在しているために、薬物の透過性については不十分なものであった。
【0005】
さらに、非ステロイド系消炎鎮痛剤の抗炎症作用および局所麻酔剤の鎮痛作用を併せ持つ、非ステロイド消炎鎮痛剤と局所麻酔剤との配合剤の検討もなされてきた。
例えば、特許文献4および特許文献5には、インドメタシン、フェルビナク、ジクロフェナクナトリウム、およびロキソプロフェンナトリウム等の非ステロイド系消炎鎮痛剤と、リドカイン、ベンゾカイン、およびジブカイン等の局所麻酔剤を配合したパップ剤が提案されており、また特許文献6および特許文献7には、それぞれ非ステロイド系消炎鎮痛剤と局所麻酔剤を配合したテープ剤が提案されている。
【0006】
しかしながら、一般に、局所麻酔剤は塩基性の薬物が多く、その一方、共に配合される非ステロイド系消炎鎮痛剤にはインドメタシン、あるいはケトプロフェンをはじめとして酸性薬物が多いため、これらの両薬物を貼付剤中に同時に配合した場合には両者で塩を形成してしまい、互いの薬物放出性を抑制し合う結果となり、望ましい薬効を得ることができていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−321624号公報
【特許文献2】特開2001−342130号公報
【特許文献3】特開2003−286162号公報
【特許文献4】特開2002−128699号公報
【特許文献5】国際公開WO01/047559号
【特許文献6】特開2005−145931号公報
【特許文献7】特開2005−145932号公報
【0008】
したがって、非ステロイド系消炎鎮痛剤並びに経皮吸収促進剤として局所麻酔剤を配合した貼付剤において、互いの薬物放出性を抑制することなく、高い消炎鎮痛効果を発揮する経皮吸収製剤の開発が要望されていた。
【0009】
本発明者らは、かかる現状下において、非ステロイド系消炎鎮痛剤のなかで、フェルビナクについて、経皮吸収促進剤として局所麻酔剤を配合することにより、互いの薬物放出性を抑制することなく、高い消炎鎮痛効果を発揮する経皮吸収製剤の開発を鋭意研究してきた。
その結果、吸収促進剤としてリドカインを選択し、非ステロイド系消炎鎮痛剤のフェルビナクと共に貼付剤基剤に配合した場合に、フェルビナクの可溶化剤を実質的に配合しなくても均一な薬物含有膏体が得られ、高い主薬放出性を示すフェルビナク含有経皮吸収製剤を得ることができ、同時に局所麻酔剤としてのリドカインの経皮吸収性を損なうことなく、優れた鎮痛、抗炎症作用を併せ持つ経皮吸収製剤となること見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明は、上記した従来の問題点を解決した、フェルビナクの可溶化剤を最終製剤中に実質的に含有しなくとも、フェルビナクの高い放出性を示すフェルビナク含有経皮吸収製剤を提供することを第一の課題とする。
また本発明は、局所麻酔剤と、非ステロイド系消炎鎮痛剤であるフェルビナクを配合した貼付剤において、局所麻酔剤の放出性を損なうことなく、優れた非ステロイド系消炎鎮痛剤の放出性を示すことが可能である貼付剤を提供することを第二の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決する本発明は、その基本的態様として、有効成分としてフェルビナク、及び吸収促進剤としてリドカイン又はその薬学的に許容される塩を含有してなることを特徴とするフェルビナク含有経皮吸収貼付剤である。
【0012】
より具体的には、本発明は、フェルビナクの含有量が、薬物含有膏体全重量に対して0.1〜10重量%であり、リドカイン又はその薬学的に許容される塩の含有量が、薬物含有膏体全重量に対して0.01〜20重量%であるフェルビナク含有経皮吸収貼付剤である。
【0013】
なかでも、本発明は貼付剤基剤が、ゴム系高分子であり、当該ゴム系高分子が、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体であるフェルビナク含有経皮吸収貼付剤である。
【0014】
また本発明は、別の観点からみて、最終製剤中に、フェルビナクの可溶化剤を実質的に含有しないことを特徴とする上記した各フェルビナク含有経皮吸収製剤でもある。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、消炎鎮痛剤成分としてフェルビナク、及び吸収促進剤としてリドカイン又はその薬学的に許容される塩を含有してなることを特徴とするフェルビナク含有経皮吸収貼付剤が提供される。
特に本発明は、貼付剤基剤中に、フェルビナクに対する吸収促進剤としてのリドカイン又はその薬学的に許容される塩を組み合わせることにより、フェルビナクの可溶化剤を実質的に配合しなくても、フェルビナクを膏体組成物中に均一に含有させることができ、フェルビナクの高い放出性が発揮され、同時に、局所麻酔剤としてのリドカインの経皮吸収性を低下させることなく、優れた鎮痛・抗炎症効果を発揮する経皮吸収製剤を提供できるものである。
【0016】
後記する試験例の結果からも判明するように、このリドカインの配合による吸収促進効果は、消炎鎮痛剤のなかでもフェルビナクに対して特異的なものであり、したがって、臨床的に極めて有用なフェルビナクを含有する経皮吸収製剤である貼付剤を提供できる点で、本発明の医療上の効果は多大なものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】試験例1の対比検討(1)に基づく、フェルビナクに関するin vitroラット皮膚透過性試験の結果を示すグラフである。
【図2】試験例1の対比検討(1)に基づく、リドカインに関するin vitroラット皮膚透過性試験の結果を示すグラフである。
【図3】試験例1の対比検討(2)に基づく、比較例のケトプロフェンに関するin vitroラット皮膚透過性試験の結果を示すグラフである。
【図4】試験例1の対比検討(2)に基づく、リドカインに関するin vitroラット皮膚透過性試験の結果を示すグラフである。
【図5】試験例1の対比検討(3)に基づく、比較例のインドメタシンに関するin vitroラット皮膚透過性試験の結果を示すグラフである。
【図6】試験例1の対比検討(3)に基づく、リドカインに関するin vitroラット皮膚透過性試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、上記するように、その基本的態様は、消炎鎮痛薬効成分としてのフェルビナク、及び吸収促進剤としてリドカイン又はその薬学的に許容される塩を含有してなることを特徴とするフェルビナク含有経皮吸収貼付剤である。
本発明の貼付剤における有効成分であるフェルビナクの配合量は、薬物含有膏体全重量に対して0.1〜10重量%であり、特に0.2〜5重量%とするのが好ましい。
フェルビナクの配合量が、0.1重量%未満であるとフェルビナクの薬効が十分に得られない場合があり、また、10重量%を超えて配合すると、皮膚刺激を生じたり、膏体の物性を損なったりして好ましいものでない。
【0019】
一方、本発明において、フェルビナクと共に配合されるリドカインは、それ自体が局所麻酔剤として、鎮痛作用を示すほか、本発明ではフェルビナクに対する吸収促進剤として作用するものである。
その場合のリドカインの配合量は、薬物含有膏体全重量に対して0.01〜20重量%配合するのが好ましく、より好ましくは0.1〜10重量%である。
配合量が0.01重量%未満であると、フェルビナクの皮膚透過性を十分に高めることができず、逆に20重量%を超えて配合しても、リドカインの配合効果は期待できないばかりか、かえって皮膚刺激を生じたり、膏体の物性を損なったりする場合もあるため、好ましいものではない。
【0020】
本発明にあっては、フェルビナクと共にリドカインを貼付剤基剤に配合することによって、最終製剤中に、フェルビナクの可溶化剤を実質的に含有しないフェルビナク含有経皮吸収貼付剤が得られることが、また別の特徴でもある。
【0021】
本発明において、「可溶化剤を実質的に含有しない」とは、目的とする製剤の製造工程上、やむを得ず製剤中に、使用した溶媒が微量に残留するが、最終製剤の経皮吸収性に影響しない程度であれば、可溶化剤を含有しないことを意味する。
すなわち、その残留溶媒が、最終製剤における薬物の放出性に影響を与えない程度の量であれば、「可溶化剤を実質的に含有しない」とみなすことができる。
【0022】
本発明が提供する貼付剤に用いられる膏体組成物は、フェルビナク、およびリドカインを貼付剤基剤成分と混合することにより調製することができる。
かかる貼付剤基剤成分は、膏体組成物である粘着剤層の基剤となるものであれば特に限定されないが、ゴム系高分子、アクリル系高分子、およびシリコン系高分子等の疎水性高分子が好ましく使用される。
【0023】
ゴム系高分子としては、例えばスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(以下、SISと称する)、ポリイソブチレン(以下、PIBと称する)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(以下、SBSと称する)、スチレン−ブタジエンゴム(以下、SBRと称する)、イソプレンゴム等が挙げられ、その中でも特にSISが好ましい。
【0024】
また、アクリル系高分子としては、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、2−エチルヘキシルメタアクリレート等に代表される(メタ)アクリル酸誘導体を少なくとも一種含有させて共重合したものであれば特に限定されないが、例えば、医薬品添加物辞典2007(日本医薬品添加剤協会編集)に粘着剤として収載されているアクリル酸・アクリル酸オクチルエステル共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル・ビニルピロリドン共重合体溶液、アクリル酸エステル−酢酸ビニルコポリマー、アクリル酸2−エチルヘキシル−メタクリル酸2−エチルヘキシル・メタクリル酸ドデシル共重合体、アクリル酸メチル−アクリル酸2−エチルヘキシル共重合樹脂エマルジョン、アクリル樹脂アルカノールアミン液に含有するアクリル系高分子等の粘着剤、DURO−TAKアクリル系粘着剤シリーズ(ナショナルスターチアンドケミカル社製)、オイドラギットシリーズ(樋口商会)等を使用することができる。
【0025】
さらに、シリコン系高分子の具体例としては、ポリオルガノシロキサン等のシリコーンゴムを挙げることができる。
【0026】
このような疎水性高分子は2種以上混合して使用してもよく、これら高分子の組成全体の質量に基づく配合量は、粘着剤層の形成、及び十分な薬物透過性を考慮して、5〜80重量%、好ましくは10〜70重量%、さらに好ましくは10〜50重量%である。
【0027】
本発明が提供する経皮吸収製剤である貼付剤における粘着剤組成物には、可塑剤を含有させてもよい。使用され得る可塑剤としては、石油系オイル(例えば、流動パラフィン等のパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等)、スクワラン、スクワレン、植物系オイル(例えば、オリーブ油、ツバキ油、トール油、ラッカセイ油、ひまし油等)、シリコーンオイル、二塩基酸エステル(例えば、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等)、液状ゴム(例えば、ポリブテン、液状イソプレンゴム等)、液状脂肪酸エステル類(例えば、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル等)等が挙げられる。特に流動パラフィンが好ましい。
【0028】
これらの成分は2種以上混合して使用してもよく、このような可塑剤の粘着剤層の組成全体に基づく配合量は、貼付剤としての充分な凝集力の維持を考慮して合計で、1〜70重量%、好ましくは10〜60重量%、さらに好ましくは10〜50重量%である。
【0029】
本発明の粘着剤層には、製剤の粘着力を調整するために、粘着付与樹脂を配合することが望ましい。使用され得る粘着付与樹脂としては、ロジン誘導体(例えば、ロジン、ロジングリセリンエステル、水添ロジン、水添ロジングリセリンエステル、ロジンのペンタエリストールエステル等)、脂環族飽和炭化水素樹脂(例えば、アルコンP100、荒川化学工業)、脂肪族系炭化水素樹脂(例えば、クイントンB170、日本ゼオン)、テルペン樹脂(例えば、クリアロンP−125、ヤスハラケミカル)、マレイン酸レジン等が挙げられる。
【0030】
このような粘着付与樹脂の粘着剤組成物の組成全体に基づく配合量は、貼付製剤としての充分な粘着力および剥離時の皮膚への刺激性を考慮して、5〜70重量%、好ましくは5〜60重量%、さらに好ましくは10〜50重量%であることができる。
【0031】
また、必要に応じて、抗酸化剤、充填剤、架橋剤、防腐剤、紫外線吸収剤を用いることができ、抗酸化剤としては、トコフェロール及びこれらのエステル誘導体、アスコルビン酸、アスコルビン酸ステアリン酸エステル、ノルジヒトログアヤレチン酸、ジブチルヒドロキシトルエン(以下、BHTと称する)、ブチルヒドロキシアニソール等が望ましい。
【0032】
充填剤としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸塩(例えば、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等)、ケイ酸、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜鉛酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等が望ましい。
【0033】
架橋剤としては、アミノ樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、有機系架橋剤、金属または金属化合物等の無機系架橋剤が望ましい。
【0034】
防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等のパラベンが望ましい。
【0035】
紫外線吸収剤としては、p−アミノ安息香酸誘導体、アントラニル酸誘導体、サリチル酸誘導体、アミノ酸系化合物、ジオキサン誘導体、クマリン誘導体、イミダゾリン誘導体、ピリミジン誘導体等が望ましい。
【0036】
このような抗酸化剤、充填剤、架橋剤、防腐剤、紫外線吸収剤は、製剤の粘着剤層の組成全体の質量に基づいて、10重量%以下、好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下で配合することができる。
【0037】
上記したような組成を有する本発明の経皮吸収製剤である貼付剤は、いずれの方法によっても製造することができる。
例えば、一般にホットメルト法と呼ばれる、薬物を含む基剤成分を熱融解させ、剥離フィルム又は支持体に塗工後、支持体又は剥離フィルムと貼り合わせて本剤を得る方法と、もしくは一般に溶媒法と呼ばれる、薬物を含む基剤成分をトルエン、ヘキサン、酢酸エチル、およびN−メチル−2−ピロリドン等の有機溶媒に溶解させ、剥離フィルム又は支持体上に伸展して塗工し、溶剤を乾燥除去後、支持体又は剥離フィルムと貼り合わせ本剤を得る方法である。
【0038】
本発明が提供する外用経皮製剤である貼付剤における粘着剤層の厚みは特に限定されないが、通常は500μm以下で、好ましくは20〜300μmである。
【0039】
本発明の経皮吸収製剤である貼付剤の支持体には、伸縮性または非伸縮性の支持体を用いることができる。例えば、布、不織布、ポリウレタン、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略する)、アルミニウムシート等、またはそれらの複合素材から選択される。
【0040】
また剥離フィルムは、経皮吸収製剤である貼付剤を皮膚に適用するまで、粘着剤層を保護し、主薬成分が変質しないもので、かつ、容易に剥離できるようにシリコンコートされているものであれば特に限定されないが、その具体例としてはポリエチレンフィルム、PETフィルムまたはポリプロピレンフィルムをシリコンコートしたものが挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例、製剤例及び試験例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例、製剤例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
なお、以下の記載において、%は、特に示さない限り全て重量%を意味する。
【0042】
実施例1:フェルビナク/リドカイン配合製剤
フェルビナクとリドカインの両者を配合した外用貼付剤を調製した。
(処方)
SIS 16%
流動パラフィン 28%
BHT 1%
水添ロジングリセリンエステル 40%
リドカイン 10%
フェルビナク 5%
全 量 100%
【0043】
(製法)
予め、フェルビナクをN−メチル−2−ピロリドン、およびリドカインをトルエンに溶解させ、トルエンに溶解した残りの基剤成分と混合した。混合物を剥離フィルム上に塗工後、トルエン、およびN−メチル−2−ピロリドンを乾燥除去し、PETフィルム支持体と貼り合わせて、所望の経皮吸収製剤(粘着層の厚み100μm)を得た。
【0044】
比較例1:フェルビナク配合製剤
比較例1として、フェルビナクのみを配合した外用貼付剤を調製した。
(処方)
SIS 16%
流動パラフィン 38%
BHT 1%
水添ロジングリセリンエステル 40%
フェルビナク 5%
全 量 100%
【0045】
(製法)
予め、フェルビナクをN−メチル−2−ピロリドンに溶解した後、トルエンに溶解した残りの基剤成分と混合した。混合物を剥離フィルム上に塗工後、トルエン、およびN−メチル−2−ピロリドンを乾燥除去し、PETフィルム支持体と貼り合わせて、所望の経皮吸収製剤(粘着層の厚み100μm)を得た。
【0046】
比較例2:リドカイン配合製剤
比較例2として、リドカインのみを配合した外用貼付剤を調製した。
(処方)
SIS 16%
流動パラフィン 33%
BHT 1%
水添ロジングリセリンエステル 40%
リドカイン 10%
全 量 100%
【0047】
(製法)
予め、リドカインをトルエンに溶解した後、トルエンに溶解した残りの基剤成分と混合した。混合物を剥離フィルム上に塗工後、トルエンを乾燥除去し、PETフィルム支持体と貼り合わせて、所望の経皮吸収製剤(粘着層の厚み100μm)を得た。
【0048】
比較例3:ケトプロフェン配合製剤
比較例3として、別の消炎鎮痛剤であるケトプロフェンのみを配合した外用貼付剤を調製した。
(処方)
SIS 16%
流動パラフィン 38%
BHT 1%
水添ロジングリセリンエステル 40%
ケトプロフェン 5%
全 量 100%
【0049】
(製法)
予め、ケトプロフェンをN−メチル−2−ピロリドンに溶解した後、トルエンに溶解した残りの基剤成分と混合した。混合物を剥離フィルム上に塗工後、トルエン、およびN−メチル−2−ピロリドンを乾燥除去し、PETフィルム支持体と貼り合わせて、所望の経皮吸収製剤(粘着層の厚み100μm)を得た。
【0050】
比較例4:ケトプロフェン/リドカイン配合製剤
比較例4として、別の消炎鎮痛剤であるケトプロフェンを用い、リドカインと併用した外用貼付剤を調製した。
(処方)
SIS 16%
流動パラフィン 28%
BHT 1%
水添ロジングリセリンエステル 40%
リドカイン 10%
ケトプロフェン 5%
全 量 100%
【0051】
(製法)
予め、ケトプロフェンをN−メチル−2−ピロリドン、およびリドカインをトルエンに溶解させ、トルエンに溶解した残りの基剤成分と混合した。混合物を剥離フィルム上に塗工後、トルエン、およびN−メチル−2−ピロリドンを乾燥除去し、PETフィルム支持体と貼り合わせて、所望の経皮吸収製剤(粘着層の厚み100μm)を得た。
【0052】
比較例5:インドメタシン配合製剤
比較例5として、別の消炎鎮痛剤であるインドメタシンのみを配合した外用貼付剤を調製した。
(処方)
SIS 16%
流動パラフィン 38%
BHT 1%
水添ロジングリセリンエステル 40%
インドメタシン 5%
全 量 100%
【0053】
(製法)
予め、インドメタシンをN−メチル−2−ピロリドンに溶解した後、トルエンに溶解した残りの基剤成分と混合した。混合物を剥離フィルム上に塗工後、トルエン、およびN−メチル−2−ピロリドンを乾燥除去し、PETフィルム支持体と貼り合わせて、所望の経皮吸収製剤(粘着層の厚み100μm)を得た。
【0054】
比較例6:インドメタシン/リドカイン配合製剤
比較例6として、別の消炎鎮痛剤であるインドメタシンを用い、リドカインと併用した外用貼付剤を調製した。
(処方)
SIS 16%
流動パラフィン 28%
BHT 1%
水添ロジングリセリンエステル 40%
リドカイン 10%
インドメタシン 5%
全 量 100%
(製法)
予め、インドメタシンをN−メチル−2−ピロリドン、およびリドカインをトルエンに溶解させ、トルエンに溶解した残りの基剤成分と混合した。混合物を剥離フィルム上に塗工後、トルエン、およびN−メチル−2−ピロリドンを乾燥除去し、PETフィルム支持体と貼り合わせて、所望の経皮吸収製剤(粘着層の厚み100μm)を得た。
【0055】
試験例1:ラット皮膚透過性試験
上記した実施例1、および比較例1〜6で調製された外用貼付剤について、雄性ラット(ウィスター系、8週齢)の摘出皮膚を使用したin vitro皮膚透過性試験を行い、本発明のフェルビナク及びリドカインの両者を配合した外用貼付剤におけるフェルビナク及びリドカインの放出性の特異性を、下記対比検討(1)〜(3)により検証した。
【0056】
[方法]
ラットの腹部皮膚を剥離し、真皮側をレセプター層側にし、その内側にはリン酸緩衝生理食塩水を満たし、ウォータージャケットには37℃の温水を還流させた。実施例1、および比較例1〜6で調製された各製剤を、円状(1.77cm)に打ち抜き、摘出皮膚を貼付し、経時的にレセプター液をサンプリングし、高速液体クロマトグラフ法により、各薬物(リドカイン、フェルビナク、ケトプロフェン、及びインドメタシン)の透過量を測定した。
【0057】
[対比検討]
(1)本発明のフェルビナク及びリドカインの両者を配合した外用貼付剤である実施例1の製剤と、フェルビナクのみを配合した比較例1の製剤、及びリドカインのみを配合した比較例2の製剤との対比による、フェルビナク及び/又はリドカインの放出性の対比。
(2)別の消炎鎮痛剤であるケトプロフェンについて、ケトプロフェンのみを配合した比較例3の製剤と、ケトプロフェン及びリドカインの両者を配合した比較例4の製剤、更にはリドカインのみを配合した比較例2との対比によるケトプロフェン及び/又はリドカインの放出性の対比。
(3)別の消炎鎮痛剤であるインドメタシンについて、インドメタシンのみを配合した比較例5の製剤と、インドメタシン及びリドカインの両者を配合した比較例6の製剤、更にはリドカインのみを配合した比較例2との対比によるインドメタシン及び/又はリドカインの放出性の対比。
【0058】
[結果]
その結果を図1〜図6に示した。
【0059】
[考察]
対比検討(1)に対する考察
図1及び図2に示した結果の対比より明らかなように、フェルビナクとリドカインの両者を配合した実施例1の外用貼付剤は、フェルビナクのみを配合した比較例1の外用貼付剤と比較して、フェルビナクの放出性は、飛躍的に高いものであった(図1)。
また、フェルビナクとリドカインの両者を配合した実施例1の外用貼付剤は、リドカインのみを配合した製剤である比較例2の外用貼付剤と比較して、ほぼ同等のリドカイン放出性を示していた(図2)。
この両者の結果を加味すると、本発明のフェルビナクとリドカインの両者を配合した外用貼付剤は、吸収促進剤としてのリドカインの良好な放出性により、フェルビナクの放出性も高まっていることが理解される。
【0060】
対比検討(2)に対する考察
一方、同様な試験を、別の消炎鎮痛剤であるケトプロフェンについて、リドカインの配合の有無による両製剤の放出性を検討した場合には、リドカインについては、ほぼ同等といえる薬物放出性を示した(図4)ものの、ケトプロフェンの放出性については、リドカインの配合により、大きく抑制されていることが判明した(図3)。
【0061】
対比検討(3)に対する考察
また、別の消炎鎮痛剤であるインドメタシンにあっては、インドメタシンとリドカインの両者を配合した比較例6の外用貼付剤は、インドメタシン及びリドカインの放出性は、いずれも抑制されたものであった。
【0062】
これらの比較検討(1)〜(3)の結果からみれば、局所麻酔剤としてリドカインを非ステロイド系消炎鎮痛剤であるフェルビナクと共に配合した本発明の貼付剤にあっては、塩基性薬物である局所麻酔剤と、酸性薬物である非ステロイド系消炎鎮痛剤との配合製剤であるにも関わらず、リドカインの放出性を抑制するこことなく、その放出性に伴って、非常に優れたフェルビナクの放出性を示すことができる経皮吸収製剤であることが判明する。
【0063】
そのうえ、このリドカインを配合することにより得られる有効成分である消炎鎮痛剤の放出効果は、非ステロイド系消炎鎮痛剤のなかでも、ケトプロフェンやインドメタシンにはみられない、フェルビナクに対してのみ特異的なものであり、本発明の極めて優れた特異性が理解されるものである。
【0064】
[具体的製剤例]
以下に、上記の実施例1に示した本発明の外用貼付剤以外の具体的製剤例を、下記表1に示した。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
【表1】

粘着層の厚み:100μm
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上記載のように、本発明が提供する経皮吸収製剤により、リドカインによる優れた鎮痛効果と、フェルビナクによる優れた消炎鎮痛効果を示す製剤を提供できる。
特に本発明は、貼付剤基剤中に、フェルビナクに対する吸収促進剤としてのリドカインとフェルビナクを組み合わせることにより、フェルビナクの可溶化剤を実質的に配合しなくても、フェルビナクを膏体組成物中に均一に含有させることができ、そのうえ、リドカインの放出性を損なうことなく、かつフェルビナクの高い放出性を維持し、その結果、優れた消炎鎮痛効果を発揮する経皮吸収製剤を提供できるものであり、その医療上の効果は多大なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてフェルビナク、及び吸収促進剤としてリドカイン又はその薬学的に許容される塩を含有してなることを特徴とするフェルビナク含有経皮吸収貼付剤。
【請求項2】
フェルビナクの含有量が、薬物含有膏体全重量に対して0.1〜10重量%である請求項1に記載のフェルビナク含有経皮吸収貼付剤。
【請求項3】
リドカイン又はその薬学的に許容される塩の含有量が、薬物含有膏体全重量に対して0.01〜20重量%である請求項1に記載のフェルビナク含有経皮吸収貼付剤。
【請求項4】
貼付剤基剤が、ゴム系高分子である請求項1ないし3のいずれかに記載のフェルビナク含有経皮吸収貼付剤。
【請求項5】
ゴム系高分子が、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体である請求項4に記載のフェルビナク含有経皮吸収貼付剤。
【請求項6】
最終製剤中に、フェルビナクの可溶化剤を実質的に含有しないことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のフェルビナク含有経皮吸収製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−126793(P2011−126793A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284325(P2009−284325)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000215958)帝國製薬株式会社 (44)
【Fターム(参考)】