説明

フェルラ酸含有画分の製造方法

【課題】植物素材及び乳酸菌を用いたフェルラ酸含有画分の製造方法、乳酸菌及びフェルラ酸を含有する植物素材由来の乳酸菌発酵飲食品、フェルラ酸産生能を有する乳酸菌のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】フェルラ酸産生能を有する乳酸菌を植物素材中で培養する工程を含むフェルラ酸含有画分の製造方法、フェルラ酸産生能を有する乳酸菌及びフェルラ酸を含有する植物素材由来の乳酸菌発酵飲食品、フェルラ酸産生能を有する乳酸菌のスクリーニング方法。上記乳酸菌は、フェルラ酸エチルを0.05重量%添加した培地において、前記乳酸菌の至適温度で48時間培養したとき、フェルラ酸エチルの30%以上をフェルラ酸として遊離し、フェルラ酸を0.05重量%添加した培地において、前記乳酸菌の至適温度で48時間培養したとき、フェルラ酸の30%以上をジヒドロフェルラ酸として遊離しない性質を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェルラ酸産生能を有する乳酸菌を植物素材中で培養する工程を含むことを特徴とするフェルラ酸含有画分の製造方法に関する。また、フェルラ酸産生能を有する乳酸菌及びフェルラ酸を含有する植物素材由来の乳酸菌発酵飲食品、フェルラ酸産生能を有する乳酸菌のスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
植物体内には多様なフェノール性化合物が含まれており、中でもフェルラ酸は広く植物体内に存在し、米ぬかや果物、野菜の皮等に多く含まれていることが知られている。フェルラ酸をはじめとするフェノール性化合物は、フリーラジカルを補足したり、活性酸素を除去したりすることにより、高い抗酸化活性を示すことが報告されている。また、フェルラ酸の機能性については多数の報告があり、抗腫瘍(抗酸化)、糖尿病改善(インスリン分泌促進、血糖値降下)、心血管疾患の改善作用等の他、近年ではアルツハイマー症予防への効果が注目されている。そのため、フェルラ酸の効果的な摂取が、これら疾患の予防・改善につながると考えられている。また、フェルラ酸はその高い抗酸化作用により、食品の酸化防止剤、変色防止剤としても利用されている。
【0003】
フェルラ酸は、食物中では主に食物繊維(ヘミセルロース)や糖等とエステルの形態で結合しており、そのままの状態では生体内での吸収性が悪い。結合型のフェルラ酸は、腸内細菌等により分解を受けることでその一部が遊離のフェルラ酸となり、腸管より吸収されるとされているが、生成したフェルラ酸は腸内細菌により更に代謝されてしまうことも知られている。そのため、個々人の腸内細菌叢によらず、植物素材から機能性の高いフェルラ酸等を効果的に摂取するためには、事前にフェルラ酸を遊離の形に変換しておくことが重要であると考えられる。
【0004】
植物体からフェルラ酸を遊離する方法として、物理化学的処理、酵素処理、微生物処理等による方法についての報告がある。物理化学的処理法としては、米ぬかから米サラダ油、脂肪酸を抽出した残渣をアルカリ処理してフェルラ酸を生成する方法(特許文献1)があるが、高温でアルカリ処理し、その後抽出操作が必要となるため、工程が煩雑といった課題がある。リグニンを、水蒸気を含む気体で高温高圧処理することにより、フェルラ酸等の化合物量を増加させる方法(特許文献2)も知られているが、高温高圧処理のための設備が必要となり、汎用性は低い。
【0005】
酵素を用いる方法としては、米ぬかのエタノール抽出物を酵素処理することにより、フェルラ酸を遊離する方法(特許文献3)が知られているが、エタノール抽出とその後の乾燥工程があり、作業が煩雑でエネルギーコストも高い。フェルラ酸エステラーゼやキシラナーゼ、セルラーゼ活性を有する酵素を用いて、遊離フェルラ酸を高含有する発酵アルコール飲料を製造する方法(特許文献4)も報告があるが、実際の工程を考えると、酵素の添加・反応工程が煩雑となり、酵素のコストの問題もある。
【0006】
微生物を用いる方法としては、ペニシリウム・クリソゲナムの培養液とシュガービートパルプを反応させることによりフェルラ酸を遊離する方法(特許文献5)や、フェルラ酸エステラーゼ活性を有する麹菌を使用すること特徴とする高香味穀類蒸留酒に関する特許(特許文献6)があるが、これらの微生物はプロテアーゼ等の他の酵素活性も強いため、植物素材の風味を大きく変えてしまう可能性がある。
【0007】
また、遊離のフェルラ酸を合成する方法として、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)を用いて、オイゲノールからフェルラ酸を産生する方法(特許文献7、8)が知られているが、オイゲノールは、過剰摂取により血尿・痙攣・下痢・吐き気・意識喪失・めまい・動悸等の症状があらわれるほか、皮膚に触れるとアレルギー反応により皮膚炎を起こすことがある。そのため、食品に残存した場合の安全性に課題がある。ベンズアルデヒド誘導体を触媒の存在下、マロン酸または無水酢酸と反応させることによりフェルラ酸を誘導させる方法(特許文献9)も知られているが、135℃程度に加熱処理する必要があり、そのための設備が必要となるため汎用性が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平7−78032
【特許文献2】特許第4398867
【特許文献3】特開2006−166834
【特許文献4】特開2010−148485
【特許文献5】特開2006−67803
【特許文献6】特開2004−236634
【特許文献7】特開平9−154591
【特許文献8】特開平5−227980
【特許文献9】特許第3271873
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、植物素材及び乳酸菌を用いたフェルラ酸含有画分の製造方法、乳酸菌及びフェルラ酸を含有する植物素材由来の乳酸菌発酵飲食品、フェルラ酸産生能を有する乳酸菌のスクリーニング方法を提供すること等を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明者らは、食経験があり、安全に食することができる乳酸菌をターゲットとして、フェルラ酸を植物素材から遊離する乳酸菌を探索した結果、一部の乳酸菌において、フェルラ酸を遊離するフェルラ酸エステラーゼ活性を見出した。ところが、驚くべきことに、そのうちの多くの乳酸菌はフェルラ酸をさらに代謝する活性をもっていた。本発明者らは鋭意検討の結果、フェルラ酸エステラーゼ活性を持ち、且つフェルラ酸代謝活性を持たないか又は一定以下のフェルラ酸代謝活性を持つ乳酸菌を取得することに成功した。このような乳酸菌で植物素材を発酵させることにより、機能性成分であるフェルラ酸を遊離、蓄積することができ、摂食した際のフェルラ酸の吸収性・機能性を高めた飲食品を提供することができる。さらに、本発明は、フェルラ酸を遊離、蓄積する乳酸菌を取得するための方法として、フェルラ酸産生能を有する乳酸菌のスクリーニング方法を提供する。
【0011】
すなわち、本発明は下記(1)から(15)を提供する。
(1)フェルラ酸産生能を有する乳酸菌を植物素材中で培養する工程を少なくとも含むことを特徴とする、フェルラ酸含有画分の製造方法。
(2)フェルラ酸産生能を有する乳酸菌が下記性質(A)及び(B)を有するものである、上記(1)に記載のフェルラ酸含有画分の製造方法;
性質(A):フェルラ酸エチルを0.05重量%添加した培地において、前記乳酸菌の至適温度で48時間培養したとき、前記フェルラ酸エチルの30%以上をフェルラ酸として遊離する性質、
性質(B):フェルラ酸を0.05重量%添加した培地において、前記乳酸菌の至適温度で48時間培養したとき、前記フェルラ酸の30%以上をジヒドロフェルラ酸として遊離しない性質。
(3)フェルラ酸産生能を有する乳酸菌がラクトバチルス属の乳酸菌である、上記(1)又(2)に記載の製造方法。
(4)フェルラ酸産生能を有する乳酸菌が下記乳酸菌群から選択、上記(3)に記載のフェルラ酸含有画分の製造方法;
乳酸菌群:ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・ブクネリ、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンス、ラクトバチルス・ガリナラム、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・デルブルイッキー。
(5)前記培養後の植物素材中からフェルラ酸を精製する工程をさらに含むことを特徴とする、上記(1)から(4)のいずれか1項に記載のフェルラ酸含有画分の製造方法。
(6)植物素材が、野菜、穀物、果物、草類、豆類、芋類、種子、米ぬか、ふすま等からなる群から選択される素材に由来するものである、上記(1)から(5)のいずれか1項に記載のフェルラ酸含有画分の製造方法。
(7)植物素材が食物繊維分解酵素により酵素処理されたものである、上記(1)から(6)のいずれか1項に記載のフェルラ酸含有画分の製造方法。
(8)フェルラ酸産生能を有する乳酸菌及びフェルラ酸を少なくとも含有する植物素材由来の乳酸菌発酵飲食品。
(9)フェルラ酸産生能を有する乳酸菌が下記性質(A)及び(B)を有するものである、上記(8)に記載の乳酸菌発酵飲食品;
性質(A):フェルラ酸エチルを0.05重量%添加した培地において、前記乳酸菌の至適温度で48時間培養したとき、前記フェルラ酸エチルの30%以上をフェルラ酸として遊離する性質、
性質(B):フェルラ酸を0.05重量%添加した培地において、前記乳酸菌の至適温度で48時間培養したとき、前記フェルラ酸の30%以上をジヒドロフェルラ酸として遊離しない性質。
(10)フェルラ酸産生能を有する乳酸菌がラクトバチルス属の乳酸菌である、上記(8)又は(9)に記載の乳酸菌発酵飲食品。
(11)フェルラ酸産生能を有する乳酸菌が下記乳酸菌群から選択される乳酸菌である、上記(10)に記載の乳酸菌発酵飲食品;
乳酸菌群:ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・ブクネリ、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンス、ラクトバチルス・ガリナラム、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・デルブルイッキー。
(12)植物素材が、野菜、穀物、果物、草類、豆類、芋類、種子、米ぬか、ふすま等からなる群から選択される素材である、上記(8)から(11)のいずれか1項に記載の乳酸菌発酵飲食品。
(13)下記ステップを少なくとも含むことを特徴とする、フェルラ酸産生能を有する乳酸菌のスクリーニング方法;
ステップ(a):フェルラ酸エチルを含有する培地で検体乳酸菌を培養し、産生されたフェルラ酸を定量するステップ、
ステップ(b):フェルラ酸を含有する培地で検体乳酸菌を培養し、産生されたジヒドロフェルラ酸を定量するステップ、
ステップ(c):検体乳酸菌の下記性質(C)及び(D)の有無を評価し、フェルラ酸産生能を判定するステップ;
性質(C):ステップ(a)において、フェルラ酸エチルに対して一定割合以上のフェルラ酸を産生する性質、
性質(D):ステップ(b)において、フェルラ酸に対して一定割合以上のジヒドロフェルラ酸を産生しない性質。
(14)上記(13)に記載のスクリーニング方法によってフェルラ酸産生能を有すると判定された乳酸菌であって、下記性質を有する乳酸菌;
性質(A):フェルラ酸エチルを0.05重量%添加した培地において、前記乳酸菌の至適温度で48時間培養したとき、前記フェルラ酸エチルの30%以上をフェルラ酸として遊離する性質、
性質(B):フェルラ酸を0.05重量%添加した培地において、前記乳酸菌の至適温度で48時間培養したとき、前記フェルラ酸の30%以上をジヒドロフェルラ酸として遊離しない性質。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、非常に簡便、効率的、安価な方法で、フェルラ酸含有画分を製造することができる。特に、本発明の製造方法は乳酸菌発酵を利用するため、特別な設備を必要とせず、10℃から50℃といったコントロールしやすい温度帯で野菜素材中のフェルラ酸量を増加させることができる。また、原料として植物素材を用いるため、得られるフェルラ酸含有画分は、安全性、栄養価が非常に高く、乳酸菌による発酵のため風味にも優れ、特に飲食品の用途に好適である。フェルラ酸含有画分中の植物由来成分は、フェルラ酸等が生体内で吸収しやすい形態となっているため、摂取した際に高い機能性が期待できるほか、遊離フェルラ酸による保存性の向上、変色防止効果が期待される。
【0013】
本発明はさらに、フェルラ酸産生能を有する乳酸菌のスクリーニング方法を提供する。本発明スクリーニング方法によれば、本発明製造方法等に好適に利用できる乳酸菌を効率よくスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】フェルラ酸エチルを0.05重量%添加したMRS−Broth培地で供試菌株を48時間培養した後の、培養上清に遊離したフェルラ酸量比を示す。
【図2】フェルラ酸エチルを0.05重量%添加したMRS−Broth培地で供試菌株を48時間培養した後の、培養上清に遊離したジヒドロフェルラ酸量比を示す。
【図3】フェルラ酸を0.05重量%添加したMRS−Broth培地で供試菌株を48時間培養した後の、培養上清のフェルラ酸(FA)及びジヒドロフェルラ酸(DHFA)量比を示す。
【図4】米ぬか抽出物を供試菌株で48時間発酵した後の上清に含まれるフェルラ酸量を示す。発酵していない米ぬか抽出物中のフェルラ酸量を1として相対的に表した。
【図5】キシラナーゼ処理したブロッコリー汁素材を供試菌株で48時間発酵した後の上清に含まれるフェルラ酸量を示す。発酵していないブロッコリー汁素材中のフェルラ酸量を1として相対的に表す。
【図6】キシラナーゼ処理した米ぬか抽出物を供試菌株で48時間発酵した後の上清に含まれるフェルラ酸量を示す。発酵していない抽出物中のフェルラ酸量を1として相対的に表す。
【図7】ブロッコリー汁を供試菌株で48時間発酵した後の上清に含まれるフェルラ酸量を示す。発酵していないブロッコリー汁素材中のフェルラ酸量を1として相対的に表す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1)本発明フェルラ酸含有画分の製造方法
本発明フェルラ酸含有画分の製造方法は、フェルラ酸産生能を有する乳酸菌を植物素材中で培養する工程を少なくとも含むことを特徴とする、フェルラ酸含有画分の製造方法である。
【0016】
フェルラ酸産生能を有する乳酸菌は、植物素材中で遊離のフェルラ酸の産生に好適な条件で培養したときに、フェルラ酸を遊離できる乳酸菌である限りにおいて特に限定されない。具体的には、植物素材よりフェルラ酸を遊離し、且つフェルラ酸を分解しないか又は分解の程度が一定以下であることを指標として選択することができる。このように選択される乳酸菌は、植物等に含まれるフェノール性化合物が有するエステル結合を切断する活性を持ち、多様な機能性が知られているフェルラ酸を植物素材より遊離することができる。
【0017】
フェルラ酸産生能を有する乳酸菌としては、下記性質(A)及び(B)を有するものが例示される。
性質(A):フェルラ酸エチルを0.05重量%添加した培地において、前記乳酸菌の至適温度で48時間培養したとき、前記フェルラ酸エチルの30%以上をフェルラ酸として遊離する性質。
性質(B):フェルラ酸を0.05重量%添加した培地において、前記乳酸菌の至適温度で48時間培養したとき、前記フェルラ酸の30%以上をジヒドロフェルラ酸として遊離しない性質。
【0018】
上記性質(A)、(B)の有無の試験において、フェルラ酸エチル及びフェルラ酸としては、例えば東京化成工業株式会社などの公知のものを用いることができる。培地としては、乳酸菌の生育に好適なものを用いることができ、例えばMRS−Broth培地や脱脂乳培地など通常用いる培地の中から、最も対象の乳酸菌の生育に適した培地を適宜選択して使用できる。乳酸菌の生育に好適な培養条件を採用し、これにより培養48時間で乳酸菌数が十分に増え、フェルラ酸又はジヒドロフェルラ酸の産生能を適切に評価できる。遊離したフェルラ酸又はジヒドロフェルラ酸の割合は、培養上清を高速液体クロマトグラフィー法に供し、フェルラ酸エチル、フェルラ酸又はジヒドロフェルラ酸のピーク面積を検出することにより算出できる。培地の種類、至適温度等の培養条件、高速液体クロマトグラフィー法の条件等、より具体的には後述の実施例に記載の方法を採用することができる。性質(A)において、「前記フェルラ酸エチルの30%以上をフェルラ酸として遊離する性質」における「30%以上」とは、30%から100%であればよいが、40%以上、50%以上と割合が高い程好ましい。性質(B)において、「前記フェルラ酸の30%以上をジヒドロフェルラ酸として遊離しない性質」としては、中でも「前記フェルラ酸の20%以上をジヒドロフェルラ酸として遊離しない性質」がより好ましく、「前記フェルラ酸の10%以上をジヒドロフェルラ酸として遊離しない性質」さらにより好ましく、ジヒドロフェルラ酸を実質的に遊離しないことが最も好ましい。
【0019】
フェルラ酸産生能を有する乳酸菌の具体例としては、ラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属、ストレプトコッカス属、ラクトコッカス属、ロイコノストック属、オエノコッカス属、に属する乳酸菌が例示される。ラクトバチルス属としては、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンス、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ガリナラム、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・ブクネリ、ラクトバチルス・デルブルイッキー、ラクトバチルス・ガセリ等が例示される。なかでも、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・ブクネリ及びラクトバチルス・ガセリが好ましく、ラクトバチルス・ヘルベティカスFERM−P21079、FERM−BP05445、FERM−P21883、ラクトバチルス・ファーメンタムJCM1173、ラクトバチルス・アシドフィルスFERM−P14161、ラクトバチルス・ロイテリJCM1112、ラクトバチルス・ブクネリNCFB1652及びラクトバチルス・ガセリJCM5813がより好ましく、ラクトバチルス・ヘルベティカスFERM−P21079、ラクトバチルス・ヘルベティカスFERM−BP05445及びFERM−P21883が最も好ましい。
【0020】
植物素材とは、結合型、エステル型のフェルラ酸が少量でも含まれるものであれば特に限定されないが、野菜、穀物、果物、草類、豆類、芋類、種子、米ぬか、ふすま等の素材に由来するものが挙げられる。植物素材とは、上記に例示された植物素材等そのものであってもよいが、植物素材を適宜加工等して得られるものであってもよい。加工方法としては、ミキサー等による粉砕等が例示されるが、特に限定されるものではない。乳酸菌が生育するための十分な水分があることが好ましいが、植物素材を調整後に水分を添加などして調整することもできる。
【0021】
より効率的に植物素材からフェルラ酸を遊離するため、食物繊維分解酵素により植物素材を事前に酵素処理してもよい。使用する酵素としては、キシラナーゼ、セルラーゼ等が例示されるが特に限定されるものではない。例えば、野菜汁に上記酵素を添加し、上記酵素の至適温度で数時間から2日程度酵素反応させて得られる植物素材を用いることにより、より効率的にフェルラ酸を遊離することができる。
【0022】
フェルラ酸産生能を有する乳酸菌を植物素材中で培養する方法は、植物素材中で乳酸菌が生育し、植物素材からフェルラ酸を遊離できる条件である限り特に限定されない。例えば、植物素材に乳酸菌培養物を0.5から10%程度添加し、乳酸菌が生育可能な温度範囲で1日から7日発酵させることにより培養できるが、これに限定されない。
【0023】
本発明フェルラ酸含有画分の製造方法によって得られるフェルラ酸含有画分は、植物素材中で乳酸菌を培養して得られる培養物そのものであってもよいが、培養物に添加物等を添加し、又は不純物を除去する等して得られるものであってもよい。また、培養物からフェルラ酸を分画、精製する等して、フェルラ酸濃度がより高いフェルラ酸含有画分とすることもできる。
【0024】
(2)本発明乳酸菌発酵飲食品
本発明乳酸菌発酵飲食品は、フェルラ酸産生能を有する乳酸菌、フェルラ酸を少なくとも含有する、植物素材由来の乳酸菌発酵飲食品である。
【0025】
フェルラ酸産生能を有する乳酸菌としては、植物素材中で遊離のフェルラ酸の産生に好適な条件で培養したときに、フェルラ酸を遊離できる乳酸菌である限りにおいて特に限定されず、具体的には上記(1)本発明フェルラ酸含有画分製造方法で説明したものを用いることができる。
【0026】
植物素材としては、上記(1)本発明フェルラ酸含有画分製造方法で説明したものを用いることができる。例えば、野菜汁、果汁等を用いた場合、風味、栄養価が優れた乳酸菌発酵飲料を提供することができる。
【0027】
本発明乳酸菌発酵飲食品中のフェルラ酸濃度は、植物素材中にどの程度含まれているかによるが、本発明の乳酸菌により、素材中のフェルラ酸量を増加させることができる。
【0028】
本発明乳酸菌発酵飲食品の製造方法は特に限定されないが、本発明フェルラ酸含有画分の製造方法により製造することができる。
(3)本発明スクリーニング方法
本発明スクリーニング方法は、下記ステップを少なくとも含むことを特徴とする、フェルラ酸産生能を有する乳酸菌のスクリーニング方法である;
ステップ(a):フェルラ酸エチルを含有する培地で検体乳酸菌を培養し、産生されたフェルラ酸を定量するステップ、
ステップ(b):フェルラ酸を含有する培地で検体乳酸菌を培養し、産生されたジヒドロフェルラ酸を定量するステップ、
ステップ(c):検体乳酸菌の下記性質(C)及び(D)の有無を評価し、フェルラ酸産生能を判定するステップ;
性質(C):ステップ(a)において、フェルラ酸エチルに対して一定割合以上のフェルラ酸を産生する性質、
性質(D):ステップ(b)において、フェルラ酸に対して一定割合以上のジヒドロフェルラ酸を産生しない性質。
【0029】
本発明スクリーニング方法によれば、フェルラ酸産生能に優れた乳酸菌をスクリーニングすることができる。
【0030】
ステップ(a)から(c)において、検体乳酸菌とはフェルラ酸産生能の有無の判定対象となる乳酸菌である。ステップ(a)及び(b)における培養条件は乳酸菌が好適に生育できる限りにおいて特に限定されず、例えば検体乳酸菌の生育に好適な培地にて至適温度で、乳酸菌数が十分に達する適当な時間(例えば12から48時間程度)培養することが例示される。含有するフェルラ酸エチル、フェルラ酸の培地中の濃度も特に限定されないが、例えば0.01から1重量%、好ましくは0.05重量%程度が例示される。フェルラ酸、ジヒドロフェルラ酸の定量方法は、例えば高速液体クロマトグラフィー法を採用することができ、例えば上記(1)本発明フェルラ酸含有画分の製造方法で説明した方法を採用することができる。性質(C)及び(D)における一定割合とは、所望のフェルラ酸産生能に応じて適宜設定することができ、例えば10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%又は90%等と設定することができる。
【0031】
このようにして所望のフェルラ酸産生能を有する乳酸菌をスクリーニングすることができ、例えば下記性質を有する乳酸菌を、フェルラ酸産生能を有する乳酸菌として得ることができる。
性質(A):フェルラ酸エチルを0.05重量%添加した培地において、前記乳酸菌の至適温度で48時間培養したとき、前記フェルラ酸エチルの30%以上をフェルラ酸として遊離する性質、
性質(B):フェルラ酸を0.05重量%添加した培地において、前記乳酸菌の至適温度で48時間培養したとき、前記フェルラ酸の30%以上をジヒドロフェルラ酸として遊離しない性質。
【0032】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例
に限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
(フェルラ酸遊離活性を持つ菌株の選抜試験)
試験には表1に示した菌株を使用し、MRS−Broth培地(DIFCO)にて37℃(ラクトコッカス・ラクティス及びラクトバチルス・ケフィラノファシエンスは30℃)で16時間培養した。0.05%フェルラ酸エチル(東京化成工業株式会社)を添加したMRS−Broth培地に菌液を3%接種し、37℃(ラクトコッカス・ラクティス及びラクトバチルス・ケフィラノファシエンスは30℃)にて48時間培養した。培養上清を分画分子量3kDaのUFフィルターに通し、通過液を高速液体クロマトグラフィーにて分析した。Agilent technology Series 1200 HPLC systemを用い、カラムはHydrosphere C18,S−5μm,12nm (4.6 mm ID×250mm: YMC) を用いた。溶媒はA液:0.05% TFA in 5%アセトニトリル、B液:0.05% TFA in 95%アセトニトリルを用い、B液の量が、0→3分は25%、8分までに30%、9分までに100%、9→14分は100%、15分までに25%、15→20分は25%のグラジエントで行った。溶媒流量は1ml/分、インジェクション量は10μlとし、フェルラ酸の検出は320nmで、フェルラ酸の代謝産物であるジヒドロフェルラ酸の検出は210nmで行った。同定は保持時間で行い、そのピーク面積値から濃度を算出した。
【0034】
図1に示す通り、供試した40株のうち11株が、添加したフェルラ酸エチルの30%以上をフェルラ酸に変換した。特にラクトバチルス・ヘルベティカスFERM−P21079、FERM−BP05445、FERM−P21883、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンスJCM6985、ラクトバチルス・ガセリJCM5813の5株はフェルラ酸エチルの80%以上をフェルラ酸に変換した。それ以外では、ラクトバチルス・ファーメンタムJCM1173、ラクトバチルス・ロイテリJCM1112、ラクトバチルス・アシドフィルスFERM−P14161、ラクトバチルス・ブクネリNCFB1652、ラクトバチルス・ガセリJCM1130、JCM1031が30%以上のフェルラ酸を生成した。一方で、供試した14株はフェルラ酸エチルを代謝したが、フェルラ酸を蓄積せず、フェルラ酸が更に代謝されたジヒドロフェルラ酸を主に生成した(図2)。また、供試した14株はフェルラ酸エチルをほとんど代謝しなかった。特に、フェルラ酸エチルの30%以上をフェルラ酸に変換すると評価された上記11株の内、ラクトバチルス・ヘルベティカスFERM−P21079、FERM−BP05445、FERM−P21883、ラクトバチルス・ロイテリJCM1112、ラクトバチルス・アシドフィルスFERM−P14161及びラクトバチルス・ブクネリNCFB1652の6株はジヒドロフェルラ酸を実質的に生成せず、ラクトバチルス・ファーメンタムJCM1173及びラクトバチルス・ガセリJCM5813は少量のジヒドロフェルラ酸しか生成しなかった。したがって、これら菌株は特にフェルラ酸産生能が高いことが明らかになった。以上のように、一部の乳酸菌において、フェルラ酸エステルからフェルラ酸を遊離し、蓄積する活性があることが見出された。
【0035】
【表1】

【実施例2】
【0036】
(フェルラ酸代謝活性を持たない菌株の評価)
実施例1で評価した菌株のうち、フェルラ酸遊離活性を示した5株と、コントロールとしてジヒドロフェルラ酸を生成した5株を試験に用いた。MRS−Broth培地にて37℃で16時間培養した菌液を、0.05%フェルラ酸を添加したMRS−Broth培地に3%接種し、37℃にて48時間培養した。培養上清を実施例1と同様の方法で処理し、HPLCにてフェルラ酸、ジヒドロフェルラ酸を定量した。
【0037】
図3に示す通り、実施例1でジヒロドフェルラ酸のみを産生していたJCM1131、JCM1132、JCM1185、JCM1126、JCM2010は、添加したフェルラ酸をほぼ全てジヒドロフェルラ酸に変換した。一方、ラクトバチルス・ヘルベティカスFERM−P21079、FERM−BP05445、ラクトバチルス・アシドフィルスFERM−P14161、ラクトバチルス・ガセリJCM5813、ラクトバチルス・ファーメンタムJCM1173ではフェルラ酸をほとんど代謝・分解せず、ジヒドロフェルラ酸も産生しなかった。以上の方法により、フェルラ酸代謝活性を持たないか、当該活性が低い菌株を評価することができた。
【実施例3】
【0038】
(選抜した株による植物素材の発酵試験)
実施例1,2で選抜されたフェルラ酸遊離活性を持ち、かつフェルラ酸代謝活性のない乳酸菌について、植物素材を発酵させた際のフェルラ酸遊離能を調べた。植物素材として、まずフェルラ酸含量が多いとされる米ぬかを使用した。新鮮な米ぬかを10倍量の水に懸濁し、90℃で1時間煮出した後、ろ紙でろ過した。ろ液 1LにMRS−Broth 55gを溶解し、滅菌後、米ぬか抽出物として発酵試験に用いた。供試菌株はMRS−Broth培地にて37℃で16時間培養し、米ぬか抽出物に3%接種して、37℃にて48時間発酵した。培養上清を実施例1と同様の方法で処理し、HPLCにてフェルラ酸を定量した。
【0039】
図4に示す通り、ラクトバチルス・ヘルベティカスFERM−P21079、FERM−P21883でフェルラ酸量が1.5倍以上増加したほか、ラクトバチルス・ヘルベティカスFERM−BP05445で1.2倍フェルラ酸が増加した。一方で、フェルラ酸代謝活性のあるラクトバチルス・ガセリJCM1131ではフェルラ酸が0.3倍に減少した。以上の結果から、フェルラ酸遊離活性を持ち、かつフェルラ酸代謝活性のない乳酸菌を用いることで、植物素材中の遊離フェルラ酸量を増加させることが可能となった。
【実施例4】
【0040】
(食物繊維分解酵素との併用効果1)
食物繊維分解酵素との併用効果を調べるため、ブロッコリー濃縮物をキシラナーゼ処理したものを原料として発酵した際のフェルラ酸遊離能を調べた。市販のブロッコリー混濁濃縮汁100gを1Lの水に懸濁し、95℃で5分間加熱した。50℃まで冷却後、5gのキシラナーゼ(SIGMA)を添加し、50℃で20時間処理した。この酵素処理液1LにMRS−Broth 55gを添加して溶解後、滅菌したものをブロッコリー汁素材として発酵試験に用いた。供試菌株はMRS−Broth培地にて37℃で16時間培養し、ブロッコリー汁素材に3%接種して、37℃にて48時間発酵した。培養上清を実施例1と同様の方法で処理し、HPLCにてフェルラ酸を定量した。
【0041】
図5に示す通り、ラクトバチルス・ヘルベティカスFERM−BP05445が1.5倍増加したほか、ラクトバチルス・ロイテリJCM1112で1.4倍、ラクトバチルス・ヘルベティカスFERM−P21883で1.3倍、ラクトバチルス・アシドフィルスFERM−P14161で1.2倍に増加した。一方で、フェルラ酸代謝活性のあるラクトバチルス・ガセリJCM1131ではフェルラ酸が0.2倍に減少した。以上の結果から、食物繊維分解酵素との併用においても、遊離のフェルラ酸量を増加することができることが示された。
【実施例5】
【0042】
(食物繊維分解酵素との併用効果2)
食物繊維分解酵素との併用効果を調べるため、米ぬかをキシラナーゼ処理したものを原料として発酵した際のフェルラ酸遊離能を調べた。新鮮な米ぬか100gを1Lの50mM MESバッファーに懸濁し、95℃で5分間加熱した。50℃まで冷却後、5gのキシラナーゼ(SIGMA)を添加し、50℃で20時間処理した。この酵素処理液1LにMRS−Broth 55gを溶解し、滅菌後、酵素分解米ぬか抽出物として発酵試験に用いた。供試菌株はMRS−Broth培地にて37℃で16時間培養し、酵素処理米ぬか抽出物に3%接種して、37℃にて48時間発酵した。但し、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンスについては培養・発酵を30℃で行った。培養上清を実施例1と同様の方法で処理し、HPLCにてフェルラ酸を定量した。
【0043】
図6に示す通り、ラクトバチルス・ヘルベティカスFERM−BP05445ではフェルラ酸量が約10倍と著しく増加しており、ラクトバチルス・ロイテリJCM1112でも5倍以上に増加していた。また、ラクトバチルス・アシドフィルスFERM−P14161、ラクトバチルス・ヘルベティカスFERM−P21883、FERM−P21079、ラクトバチルス・ガセリJCM5813及びラクトバチルス・ケフィラノファシエンスJCM6985でも4.2〜2.4倍フェルラ酸が増加した。なお、各培養物中のフェルラ酸含量は、ラクトバチルス・ヘルベティカスFERM−BP05445は1.9mg/L、ラクトバチルス・ロイテリJCM1112は1.0mg/L、ラクトバチルス・アシドフィルスFERM−P14161は0.8mg/L、ラクトバチルス・ヘルベティカスFERM−P21883は0.7mg/L、ラクトバチルス・ヘルベティカスFERM−P21079は0.5mg/Lであった。以上の結果から、食物繊維分解酵素と併用することにより、遊離のフェルラ酸量を著しく増加することができることが示された。このようにして得られた発酵物は、通常の野菜素材よりも遊離フェルラ酸含量が高く、摂取した際の高い機能性が期待できる。
【実施例6】
【0044】
(野菜素材を用いた発酵試験)
次に、野菜素材を使用した場合の発酵性とフェルラ酸含量の変化を調べた。植物素材としてブロッコリー濃縮物を使用し、選抜された乳酸菌を用いて発酵させた際のフェルラ酸遊離能を調べた。市販のブロッコリー混濁濃縮汁100gを1Lの水に懸濁し、95℃で30分間殺菌したものをブロッコリー汁素材として発酵試験に用いた。供試菌株はMRS−Broth培地にて37℃で16時間培養し、ブロッコリー汁素材に3%接種して、37℃にて48時間発酵した。但し、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンスについては培養・発酵を30℃で行った。培養上清を実施例1と同様の方法で処理し、HPLCにてフェルラ酸を定量した。
【0045】
図7に示す通り、ラクトバチルス・ガセリJCM5813でフェルラ酸量が2倍増加したほか、ラクトバチルス・ファーメンタムJCM1173で1.6倍、ラクトバチルス・ヘルベティカスFERM−P21883、FERM−BP05445及びラクトバチルス・アシドフィルスFERM−P14161で1.5倍増加した。また、ラクトバチルス・ロイテリJCM1112で1.4倍、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンスJCM6985及びラクトバチルス・ヘルベティカスFERM−P21079で1.3倍フェルラ酸が増加した。以上の結果から、植物素材としてブロッコリー汁素材を発酵させた場合にも、遊離フェルラ酸量を増加できることが示された。
【実施例7】
【0046】
(野菜発酵飲料の試作)
選択された乳酸菌を用いて、実際に野菜を発酵した際の発酵性と風味への影響を調べた。市販のキャロット混濁濃縮汁、ブロッコリー混濁濃縮汁、ケール混濁濃縮汁を水で還元し、95℃で15分加熱殺菌した。乳酸菌として実施例5でフェルラ酸遊離能が最も高かったラクトバチルス・ヘルベティカスFERM−BP05445を用い、0.5%の酵母エキスを含む12%還元脱脂乳で37℃、16時間培養した後、野菜汁に3%接種して37℃で16時間発酵した。
【0047】
表2に示すように、選択された乳酸菌は様々な野菜汁中でも成育し、適度な酸度の上昇、pHの低下が見られた。風味についても酸味が強すぎず、非常に良好であった。以上の結果から、このようにして選択された乳酸菌によって、野菜の良好な発酵が可能であることが確認された。
【0048】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、フェルラ酸産生能を有する乳酸菌を植物素材中で培養する工程を含むことを特徴とするフェルラ酸含有画分の製造方法、フェルラ酸産生能を有する乳酸菌及びフェルラ酸を含有する植物素材由来の乳酸菌発酵飲食品、フェルラ酸産生能を有する乳酸菌のスクリーニング方法等に関する。本発明は食品分野、医薬分野等に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェルラ酸産生能を有する乳酸菌を植物素材中で培養する工程を少なくとも含むことを特徴とする、フェルラ酸含有画分の製造方法。
【請求項2】
フェルラ酸産生能を有する乳酸菌が下記性質(A)及び(B)を有するものである、請求項1に記載のフェルラ酸含有画分の製造方法;
性質(A):フェルラ酸エチルを0.05重量%添加した培地において、前記乳酸菌の至適温度で48時間培養したとき、前記フェルラ酸エチルの30%以上をフェルラ酸として遊離する性質、
性質(B):フェルラ酸を0.05重量%添加した培地において、前記乳酸菌の至適温度で48時間培養したとき、前記フェルラ酸の30%以上をジヒドロフェルラ酸として遊離しない性質。
【請求項3】
フェルラ酸産生能を有する乳酸菌がラクトバチルス属の乳酸菌である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
フェルラ酸産生能を有する乳酸菌が下記乳酸菌群から選択される、請求項3に記載のフェルラ酸含有画分の製造方法;
乳酸菌群:ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・ブクネリ、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンス、ラクトバチルス・ガリナラム、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・デルブルイッキー。
【請求項5】
前記培養後の植物素材中からフェルラ酸を精製する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載のフェルラ酸含有画分の製造方法。
【請求項6】
植物素材が、野菜、穀物、果物、草類、豆類、芋類、種子、米ぬか、ふすま等からなる群から選択される素材に由来するものである、請求項1から5のいずれか1項に記載のフェルラ酸含有画分の製造方法。
【請求項7】
植物素材が食物繊維分解酵素により酵素処理されたものである、請求項1から6のいずれか1項に記載のフェルラ酸含有画分の製造方法。
【請求項8】
フェルラ酸産生能を有する乳酸菌及びフェルラ酸を少なくとも含有する、植物素材由来の乳酸菌発酵飲食品。
【請求項9】
フェルラ酸産生能を有する乳酸菌が下記性質(A)及び(B)を有するものである、請求項8に記載の乳酸菌発酵飲食品;
性質(A):フェルラ酸エチルを0.05重量%添加した培地において、前記乳酸菌の至適温度で48時間培養したとき、前記フェルラ酸エチルの30%以上をフェルラ酸として遊離する性質、
性質(B):フェルラ酸を0.05重量%添加した培地において、前記乳酸菌の至適温度で48時間培養したとき、前記フェルラ酸の30%以上をジヒドロフェルラ酸として遊離しない性質。
【請求項10】
フェルラ酸産生能を有する乳酸菌がラクトバチルス属の乳酸菌である、請求項8又は9に記載の乳酸菌発酵飲食品。
【請求項11】
フェルラ酸産生能を有する乳酸菌が下記乳酸菌群から選択される乳酸菌である、請求項10に記載の乳酸菌発酵飲食品;
乳酸菌群:ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・ブクネリ、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンス、ラクトバチルス・ガリナラム、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・デルブルイッキー。
【請求項12】
植物素材が、野菜、穀物、果物、草類、豆類、芋類、種子、米ぬか、ふすま等からなる群から選択される素材である、請求項8から11のいずれか1項に記載の乳酸菌発酵飲食品。
【請求項13】
下記ステップを少なくとも含むことを特徴とする、フェルラ酸産生能を有する乳酸菌のスクリーニング方法;
ステップ(a):フェルラ酸エチルを含有する培地で検体乳酸菌を培養し、産生されたフェルラ酸を定量するステップ、
ステップ(b):フェルラ酸を含有する培地で検体乳酸菌を培養し、産生されたジヒドロフェルラ酸を定量するステップ、
ステップ(c):検体乳酸菌の下記性質(C)及び(D)の有無を評価し、フェルラ酸産生能を判定するステップ;
性質(C):ステップ(a)において、フェルラ酸エチルに対して一定割合以上のフェルラ酸を産生する性質、
性質(D):ステップ(b)において、フェルラ酸に対して一定割合以上のジヒドロフェルラ酸を産生しない性質。
【請求項14】
請求項13に記載のスクリーニング方法によってフェルラ酸産生能を有すると判定された乳酸菌であって、下記性質を有する乳酸菌;
性質(A):フェルラ酸エチルを0.05重量%添加した培地において、前記乳酸菌の至適温度で48時間培養したとき、前記フェルラ酸エチルの30%以上をフェルラ酸として遊離する性質、
性質(B):フェルラ酸を0.05重量%添加した培地において、前記乳酸菌の至適温度で48時間培養したとき、前記フェルラ酸の30%以上をジヒドロフェルラ酸として遊離しない性質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−205539(P2012−205539A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73414(P2011−73414)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(711002926)雪印メグミルク株式会社 (65)
【Fターム(参考)】