説明

フェルール対、雄型フェルール、雌型フェルール及び光コネクタ

【課題】割スリーブを利用することなくフェルール同士を光学的に接続可能な技術の提供。
【解決手段】本発明のフェルール対3は、先端が相手側と対向すると共に、先側から後側に向かって広がるように外周面11bがテーパ状に傾斜する軸状の挿入部11と、軸線L1に沿って挿入部11を貫通する孔からなり、一方の光ファイバ103の端末103aが挿入部11の先端11aに表れた状態で保持される雄側保持孔部13とを有する雄型フェルール1と、底21aが挿入部11の先端と対向すると共に、底側から開口側に向かって広がるように内周面21bが逆テーパ状に傾斜する挿入部と嵌合させるための窪み状の受け部21と、受け部21の後側に延設される軸状の本体部22と、軸線に沿って本体部22を貫通する孔からなり、他方の光ファイバ203の端末203aが底に表れた状態で保持される雌側保持孔部23とを有する雌型フェルール2とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェルール対、雄型フェルール、雌型フェルール及び光コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバを用いた光ケーブルは、一般的に、多量の情報の高速通信が可能であることから、家庭用、産業用の情報通信に広く利用されている。光ケーブルは、例えば、自動車に装備されている各種電装品(例えば、カーナビゲーションシステム)の通信用途にも、利用され始めている。このような光通信の発達に伴って、光ファイバの端末同士を光学的に接続(光信号を伝達可能に接続)すると共に、光ファイバと光電変換素子とを光学的に接続する光コネクタが種々提案されている。
【0003】
光コネクタには、光ファイバの端末を保持する軸状のフェルールが備えられている。光ファイバは、その端面がフェルールの先端面と揃えられた状態(所謂、面一の状態)で、フェルールに固定されている。一方のフェルールの先端面は、相手側の光コネクタに備えられている他方のフェルール(相手側フェルール)の先端面に対して突き合わせられる。このようにして、フェルールで保持された光ファイバの端末同士が光学的に接続されている。
【0004】
この種の光コネクタでは、特許文献1に示されるように、割スリーブと称される筒状の部材を利用して、フェルール同士(光ファイバ同士)の軸ずれを抑制しつつフェルールの先端面同士を突き合わせている。割スリーブの一方の開口部からは一方の光コネクタが備えるフェルールが挿入され、その他方の開口部からは相手側フェルールが挿入される。そして、割スリーブ内において、フェルールの先端面同士が、互いに突き合わせられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−208631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように割スリーブを利用してフェルール同士を光学的に接続する場合、フェルールには、割スリーブを取り付けるための部分(所謂、取付代)を余分に設ける必要があり、フェルールが軸線方向(光コネクタの嵌合方向)に大きくなってしまうという問題があった。
【0007】
また、上記のように割スリーブを利用すると、部品点数が増加するという問題もあった。
【0008】
本発明の目的は、割スリーブを利用することなく、フェルール同士を光学的に接続可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るフェルール対は、先端が相手側と対向すると共に、先側から後側に向かって広がるように外周面がテーパ状に傾斜する軸状の挿入部と、軸線に沿って前記挿入部を貫通する孔からなり、一方の光ファイバの端末が前記挿入部の先端に表れた状態で保持される雄側保持孔部とを有する雄型フェルールと、底が前記挿入部の先端と対向すると共に、底側から開口側に向かって広がるように内周面が逆テーパ状に傾斜する前記挿入部と嵌合させるための窪み状の受け部と、この受け部の後側に延設される軸状の本体部と、軸線に沿って前記本体部を貫通する孔からなり、他方の光ファイバの端末が前記底に表れた状態で保持される雌側保持孔部とを有する雌型フェルールと、を備える。
【0010】
前記フェルール対において、前記挿入部の外周面の軸線に対する傾斜角度と、前記受け部の内周面の軸線に対する傾斜角度とが共に、10°〜30°の範囲であることが好ましい。
【0011】
前記フェルール対において、前記雌型フェルールは、前記底上に凹部を有することが好ましい。
【0012】
前記フェルールにおいて、前記凹部は、前記他方の光ファイバを囲むよう前記底上に配されることが好ましい。
【0013】
本発明に係る雄型フェルールは、前記フェルール対をなすいずれか1つの雄型フェルールからなる。
【0014】
本発明に係る雌型フェルールは、前記フェルール対をなすいずれか1つの雌型フェルールからなる。
【0015】
本発明に係る光コネクタは、前記雄型フェルール又は前記雌型フェルールを備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、割スリーブを利用することなく、フェルール同士を光学的に接続可能な技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態1に係る1組の光コネクタ同士が互いに嵌合した状態が示される断面図
【図2】実施形態1に係る雄型フェルールの軸線方向に沿った断面図
【図3】先側から見た実施形態1の雄型フェルールの正面図
【図4】実施形態1に係る雌型フェルールの軸線方向に沿った断面図
【図5】先側から見た実施形態1の雌型フェルールの正面図
【図6】互いに嵌合する前の状態の実施形態1に係るフェルール対の説明図
【図7】互いに嵌合した後の状態の実施形態1に係るフェルール対の説明図
【図8】実施形態2に係る雄型フェルールの軸線方向に沿った断面図
【図9】先側から見た実施形態2の雄型フェルールの正面図
【図10】実施形態2に係る雌型フェルールの軸線方向に沿った断面図
【図11】先側から見た実施形態2の雌型フェルールの正面図
【図12】実施形態3に係る雌型フェルールの軸線方向に沿った断面図
【図13】先側から見た実施形態3の雌型フェルールの正面図
【図14】互いに嵌合する前の状態の実施形態4に係るフェルール対の説明図
【発明を実施するための形態】
【0018】
<実施形態1>
(光コネクタ)
以下、本発明の実施形態1を図1乃至図7を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態1に係る1組の光コネクタ100,200同士が互いに嵌合した状態が示される断面図である。本実施形態の雄側光コネクタ100及び雌側光コネクタ200は、自動車に装備されている各種電装品の光通信用コネクタとして用いられるものである。図1の右側において、雄側光コネクタ100が示されており、その左側において、雌側光コネクタ200が示されている。雄側光コネクタ100は、一方の光ファイバ103の端末103aを保持するフェルール(雄側フェルールの一例)1を備えている。これに対して、雌側光コネクタ200は、他方の光ファイバ203の端末203aを保持するフェルール(雌型フェルールの一例)2を備えている。なお、以下の説明においては、各光コネクタ100,200の嵌合側を、それぞれの先側(前方)とし、前記嵌合側の反対側を、それぞれの後側(後方)とする。また、上下方向については、図1の上側を各光コネクタ100,200の上側とし、その下側を各光コネクタ100,200の下側とする。
【0019】
雄側光コネクタ100は、光ファイバ103等を収容するキャビティ101aが形成された合成樹脂製の雄側ハウジング101と、この雄側ハウジング101の前方に形成されると共にフェルール1が挿通される挿通孔102aが形成された筒状の保護筒部102とを備えている。光ファイバ103は、その外周を被覆するシース104と共に光ケーブル105をなしている。光ファイバ103の先側は、光ケーブル105の端部(シース14の端部)から露出しており、その露出した部分の光ファイバ103にフェルール1が取り付けられている。フェルール1の詳細は、後述する。フェルール1の後側には、外側に張り出した形状のフランジ部106が取り付けられている。フェルール1は、このフランジ部106に取り付けられた状態で、挿通孔102aに挿通される。フェルール1は、挿通孔102aから前方に向かって突出した状態で、保護筒部102によって包囲されている。キャビティ101aの前方には、内側に突出したバネ受け部101bが設けられている。このバネ受け部101bと、それよりも前方に配されているフランジ部106との間には、バネ107が介在されている。このバネ107の弾性力によって、フェルール1が前方に向かって付勢されている。つまり、本実施形態のフェルール1は、雄側ハウジング101内において軸線方向に沿って移動可能であると共に、バネ107によって前方に付勢されている。
【0020】
雌側光コネクタ200は、フェルール2が収容される合成樹脂製の雌側ハウジング201を備える。雌側ハウジング201は、雄側光コネクタ100が嵌入される筒状のフード部201aを備える。このフード部201aの内側には、前方に向かって突出した形状の嵌合筒部201bが設けられている。この嵌合筒部201bは、雄側ハウジング101の保護筒部102内に嵌入されるように構成されている。また、雌側ハウジング201は、フード部201aの後方に上方が開口した下ハウジング部201cを備えている。この下ハウジング部201cの上方からは、蓋状の上ハウジング部202が組み付けられる。この下ハウジング201cと、上ハウジング202とで囲まれた筒状の空間内に、他方の光ケーブル205の端部と、フェルール2の後側とが収容されている。なお、フェルール2の後側には、雄側と同様のフランジ部206が取り付けられており、このフランジ部206と共にフェルール2は、前記空間内に収容されている。フランジ部206は、下ハウジング201cと上ハウジング202との間で挟まれた状態で位置決めされている。光ケーブル205の端部からは、他方の光ファイバ203が露出しており、その露出した部分の光ファイバ203にフェルール2が取り付けられている。フェルール2の詳細は、後述する。
【0021】
光ファイバ103,203は、光信号を伝搬させる部材からなり、コアと、このコアの外側に形成されるクラッドとから構成される公知の光ファイバからなる。光ファイバ103,203の外周には、それぞれシース104,204が設けられている。また、光ケーブル105,205の端部には、それぞれ係合部材108,208が外嵌されている。光ケーブル105,205は、これらの係合部材108,208を介して、各ハウジング101,201に取り付けられている。
【0022】
図1に示されるように、雄側光コネクタ100と雌側光コネクタ200とが互いに嵌合すると、一方のフェルール1の先端が他方のフェール2の先端に対して挿し込まれる形で互いに嵌合して、光ファイバ103,203同士が光学的に接続される。なお、本明細書では、雄型フェルール1と雌型フェルール2とからなる一対のフェルールを、特に、フェルール対3と称する。以下、図2ないし図7を参照しつつ、各フェルール1,2について、詳細に説明する。
【0023】
(雄型フェルール1)
図2は、実施形態1に係る雄型フェルール1の軸線方向に沿った断面図であり、図3は、先側から見た実施形態1の雄型フェルール1の正面図である。雄型フェルール1は、全体として軸状をなしている。雄型フェルール1は、所定の金型を利用して合成樹脂材料を一体成形等して製造される。フェルール1は、先側に配される軸状の挿入部11と、この挿入部11の後方に接続する軸状の雄側本体部とに説明の便宜上、分けられる。この雄側本体部の後端に、上述したフランジ部106が取り付けられる。また、フェルール1には、その軸線L1に沿って貫通する孔からなり、光ファイバ103を保持するための保持孔部(雄側保持孔部)13が設けられている。
【0024】
挿入部11は、相手側の雌型フェルール2の先端に設けられている窪み状の部分に挿入される部分である。挿入部11は、先端が先細り形状をなした軸状をなしている。挿入部11の先側は、円錐台状をなしており、相手側と対向する先端面11aと、先端面11aを取り囲むと共に先側から後側に向かって広がるようにテーパ状に傾斜したテーパ状外周面11bとを備えている。つまり、挿入部11の先側は、斜面になっている。また、挿入部11の後側は、円柱状をなしており、テーパ状外周面11bの後端から後方に向かって延びた筒状の外周面11cを備えている。
【0025】
先端面11aは、図3に示されるように、円形状をなしている。この先端面11aの中心には、保持孔部12の一方の開口端13cが配されている。この開口端13cからは、光ファイバ103の端面103bが露出される。先端面11aは、雄型フェルール1の軸線L1に対して垂直に配されている。テーパ状外周面11bは、相手側の雌型フェルール2の先端部分と直に接触する部分である。テーパ状外周面11bと、挿入部11(雄型フェルール1)の軸線L1とがなす角度θ1は、例えば、10°〜30°の範囲に設定される。
【0026】
保持孔部13は、先側に配されると共に、光ファイバ103の端末103aを位置決めした状態で固定する位置決め孔部13bと、この位置決め孔部13bの後方に配されると共に、位置決め孔部13bによって固定された部分よりも後方にある光ファイバ103の端末103aを収容する収容孔部13aとからなる。なお、収容孔部13aは、上述した雄側本体部に亘って形成されている。図2に示されるように、位置決め孔部13bの内径は、収容孔部13aの内径よりも小さく設定されている。
【0027】
図6は、互いに嵌合する前の状態の実施形態1に係るフェルール対の説明図である。図6の右側において、光ファイバ103の端末103aを保持した雄型フェルール1の軸線方向に沿った断面図が示されている。光ファイバ103の端末103aは、接着剤が塗布された状態で保持孔部13に挿し込まれ、保持孔部13の所定位置で固定された状態で保持される。
【0028】
光ファイバ103の端末103aは、先側に配されている相対的に外径が小さな小径部103a1と、後側に配されている相対的に外径が大きな大径部103a2とからなる。具体的には、小径部103a1は、コアとこのコアの外側を覆うクラッドとからなる部分である。これに対して、大径部103a2は、コア及びクラッドの他に、被覆材が外側に形成されている部分である。位置決め孔部13bは、光ファイバ103の端末103aのうち、小径部103a1を接着剤等で固定した状態で保持する。収容孔部13aは、主として、大径部103a2を収容する。なお、収容孔部13aの先側は、先側に向かって漸次、内径が小さく設定されており、位置決め孔部13bと繋がっている。
【0029】
位置決め孔部13bで固定されている光ファイバ103(小径部103a1)の端面103bは、挿入部11の先端面11aにある開口端13cから露出して表れると共に、先端面11aと同一平面(所謂、面一)となるように揃えられている。例えば、光ファイバ103が位置決め孔部13bに固定された状態で、先端面11a及び端面103bを研磨することによって、先端面11aと端面103bとを揃えることができる。なお、光ファイバ103を保持孔部13に取り付ける際、雄型フェルール1は所定の治具を利用して固定されており、固定された状態で、保持孔部13の後側の開口端から、前側の開口端13cに向かって光ファイバ103が挿し込まれる。なお、光ファイバ103は、その軸線が雄型フェルール1の軸線L1と一致するように、雄型フェルール1に保持されている。
【0030】
(雌型フェルール2)
図4は、実施形態1に係る雌型フェルール2の軸線方向に沿った断面図であり、図5は、先側から見た実施形態1の雌型フェルール2の正面図である。雌型フェルール2は、全体としては、雄型フェルール1と同様、軸状をなしているものの、その外形(直径)は雌型フェルール2よりも大きく設定されている。また、雌型フェルール2の先端は、窪み状をなしており、雄型フェルール1の先端と嵌合できるように構成されている。なお、雌型フェルール2も、所定の金型を利用して合成樹脂材料を一体成形等して製造される。
【0031】
フェルール2は、先側に配されている窪み状の受け部21と、この受け部21の後方に接続する軸状の雌側本体部22とに、説明の便宜上、分けられる。この雌側本体部22の後端に、上述したフランジ部206が取り付けられる。また、フェルール2には、その軸線L2に沿って貫通する孔からなり、光ファイバ203を保持するための保持孔部(雌側保持孔部)23が設けられている。
【0032】
受け部21は、相手側の雄型フェルール1の先端にある挿入部11が挿し込まれて、嵌合する部分である。受け部21は、全体としては、有底の筒状をなしており、先側から後側に向かって窪んだ部分を含んでいる。受け部21は、相手側の先端面11aと対向する底面21aと、この底面21a側から先側(開口側)に向かって広がるように逆テーパ状に傾斜した逆テーパ内周面21bとを備えている。底面21aと逆テーパ内周面21bとで囲まれた窪み状の空間S1に、相手側の挿入部11が収容される。受け部21の外周面21cは筒状をなしている。また、受け部21の先端面21dは、円環状をなしており、空間S1の入口(開口端)を取り囲んでいる。なお、底面21aは、受け部21の後端に位置すると共に、雌側本体部22の先端に位置するものとする。
【0033】
底面21aは、図5に示されるように、円形状をなしている。この底面21aの中心には、保持孔部21の一方の開口端23cが配されている。この開口端23cからは、光ファイバ203の端面203bが露出されている。底面21aは、雌型フェルール2の軸線L2に対して垂直に配されている。逆テーパ内周面21bは、雌型フェルール2が相手側の雄型フェルール1と嵌合する際、雄型フェルール1の先端にある挿入部11のテーパ外周面11bと直に接触する部分である。この逆テーパ内周面21bと雌型フェルール2の軸線L2とがなす角度θ2は、例えば、相手側における角度θ1と同じに設定される。つまり、角度θ2も、10°〜30°の範囲に設定される。
【0034】
保持孔部23は、先側に配されると共に、光ファイバ203の端末203aを位置決めした状態で固定する位置決め孔部23bと、この位置決め孔部23bの後方に配されると共に、位置決め孔部23bによって固定された部分よりも後方にある光ファイバ203の端末203aを収容する収容孔部23aとからなる。位置決め孔部23b及び収容孔部23aは、雌側本体部22に形成されている。図4に示されるように、位置決め孔部23bの内径は、収容孔部23aの内径よりも小さく設定されている。
【0035】
図6の左側において、光ファイバ203の端末203aを保持した雌型フェルール2の軸線方向に沿った断面図が示されている。光ファイバ203の端末203aは、保持孔部23に挿し込まれ、保持孔部23の所定位置で固定された状態で保持される。
【0036】
光ファイバ203の端末203aは、相手側の前記光ファイバ103と同様、先側に配されている相対的に外径が小さな小径部203a1と、後側に配されている相対的に外径が大きな大径部203a2とからなる。具体的には、小径部203a1は、コアとこのコアの外側を覆うクラッドとからなる部分である。これに対して、大径部203a2は、コア及びクラッドの他に、被覆材が外側に形成されている部分である。位置決め孔部23bは、光ファイバ203の端末203aのうち、小径部203a1を接着剤等で固定した状態で保持する。収容孔部23aは、主として、大径部203a2を収容する。なお、収容孔部23aの先側は、先側に向かって漸次、内径が小さく設定されており、位置決め孔部23bと繋がっている。
【0037】
位置決め孔部23bで固定されている光ファイバ203(小径部203a1)の端面203bは、底面21aにある開口端23cから露出して表れると共に、底面21aと同一平面(所謂、面一)となるように揃えられている。光ファイバ203の端面203bは、予め端末203aが切断等されて、略直角且つ平坦な状態に整えられている。そして、光ファイバ203の端末203a(小径部203a1)は、位置決め孔部23bに先端位置が調整されつつ挿し込まれる。その際、底面21aには、開口端23cを塞ぐような壁となる部材が宛がわれ、光ファイバ203の端面203b位置が調整される。なお、光ファイバ203を保持孔部23に取り付ける際、雌型フェルール2は所定の治具を利用して固定されており、固定された状態で、保持孔部23の後側の開口端から、前側の開口端23cに向かって光ファイバ203が挿し込まれる。光ファイバ203は、その軸線が雌型フェルール2の軸線L2と一致するように、雌型フェルール2に保持されている。
【0038】
図7は、互いに嵌合した後の状態の実施形態1に係るフェルール対の説明図である。図7に示されるように、本実施形態の場合、フェルール対が互いに突き合わせられると、挿入部11が受け部21に挿入された状態で、雄型フェルール1と雌側フェルール2とが互いに嵌合して、位置決めされる。図7に示されるように、受け部21の底面21aと挿入部11の先端面11aとの間には、若干の隙間(ギャップ)d1が形成されてもよい。つまり、本実施形態の場合、雄型フェルール1(挿入部11)の先端の外径(つまり、先端面11aの直径)は、雌型フェルール2の底面21aの直径よりも若干、大きくなるように設定されており、挿入部11の先端が、受け部21の逆テーパ状内周面21bの途中で係止するように構成されている。挿入部11は、受け部21を若干、外側に押し広げる形で、受け部21と嵌合している。また、受け部21は、それ自体の弾性力によって挿入部11を外側から締め付けている。このように挿入部11が受け部21内で係止された際に、挿入部11の外周面11bと受け部21の内周面21bとは、互いに密着しており、雄型フェルール1の軸線L1と雌型フェルール2の軸線L2とは互いに位置ずれし難くなっている。
【0039】
上記のように、先端面11aと底面21aとの間に若干の隙間d1が形成されるように、挿入部11の外径と受け部21の内径とをそれぞれ設定されることによって、挿入部11が受け部21に対して、互いの軸線が一致した状態で精度良く位置決めすることができる。図7に示されるように、雄側の光ファイバ103の端面103bと、雌側の光ファイバ203bの端面203bとは、互いにフェルール1,2で保持された状態で、対向している。なお、先端面11aと底面21aとの間に隙間d1が形成されると、反射による光信号の損失や、光源側への光戻りがある程度、発生する。しかしながら、本実施形態のフェルール対のように、車載用の光コネクタに利用されるものであれば、若干、フェルール1,2同士の端面(先端面11a,及び底面21a)に隙間d1が形成されても、アンプでゲインを稼ぐこと等によって実質的に前記損失は、問題とはならない。また、前記光戻りについても、1Gbps程度の伝送速度であれば、問題とはならない。
【0040】
また、雌型フェルール2が保持する光ファイバ203の端面203bは、受け部21の構造上、雄側のように研磨して調整することが難しくなっており、無研磨の状態で利用されている。本実施形態の場合、底面21aと光ファイバ203の端面203bの差は、0〜20μm程度となっている。しかしながら、上記のように、車載用の光コネクタに利用されるものであれば、雌型フェルール2が保持する光ファイバ203の端面21aのように、無研磨の状態であっても実質的に問題とはならない。
【0041】
本実施形態のフェルール対は、従来の割スリーブのような筒状の部材を利用することなく、フェルール1,2同士を光学的に接続することが可能である。その結果、割スリーブを取り付けるための部分(取付代)を余分に設ける必要がないため、本実施形態のフェルール対は、軸線方向(長手方向)における長さを短く設定すること(小型化すること)が可能である。また、本実施形態のフェルール対は、従来の割スリーブを必要としないため、従来と比べて、部非点数及び部品コストを削減することが可能である。
【0042】
また、雄型フェルール1の挿入部11の外周面11bと、雌型フェルール2の受け部21の内周面21bとは共に斜面となっており、互いに加えられる摩擦力が抑制されると共に、互いの摺動摩耗が抑制される。本実施形態のフェルール対は、例えば、仮に挿入部11の外周面と受け部21の内周面とを共に円筒状に設定した場合と比べて、着脱時における摩擦及び摩耗が抑制される。したがって、フェルール1の付勢に要する力を、比較的、小さくする設定すること(例えば、5N以下に設定すること)も可能となる。また、本実施形態のフェルール対では、互いに加えられる摩擦力が抑制(低減)されているため、雄型フェルール1が雌型フェルール2から抜けなくなることも防止される。また、互いの摩耗が抑制されるため、摩耗粉(異物)が各光ファイバ103,203の端面103b,203bに付着して、光ファイバ103,203間の光信号の伝達を妨げることも抑制される。
【0043】
また、本実施形態の雄型フェルール1,雌型フェルール2は共に、割スリーブ等のように軸線方向に沿ったスリット状の溝を備えるものではない。そのため、各フェルール1,2が、樹脂成型品であっても、成形収縮等による残留歪みの影響を受け難くなっている。また、スリット状の溝を備えていないため、各フェルール1,は、強度的に有利な構造ともなっている。
【0044】
また、長期間、フェルール1,2同士を突き合わせた状態で放置しておくと、樹脂成型品からなる本実施形態の各フェルール1,2には、所謂、クリープ現象が発生する。しかしながら、本実施形態の場合、各フェルール1,2にクリープ現象が発生しても、フェルール1,2同士の距離が短くなることはあっても、互いの軸線が位置ずれすることはない。したがって、本実施形態の各フェルール1,2は、クリープ現象が問題とならない構造にもなっている。
【0045】
なお、雄型フェルール1におけるテーパ状外周面11bと、軸線L1との間の角度θ1(及び逆テーパ内周面21bと軸線L2との間の角度θ2)が、10°未満であると、フェルール1,2間の摩擦力が大きくなって、フェルール1,2同士を引き離し難くなると共に、それらの摺動摩耗の影響(摩耗粉が光ファイバの端面に付着して、光信号の伝達を阻害すること)が無視できなくなる場合がある。これに対して、前記角度θ1(及び角度θ2)が、30°を超えると、軸線L1,L2同士が位置ずれし易くなる場合がある。
【0046】
<実施形態2>
次いで、本発明の実施形態2を、図8乃至図11を参照しつつ説明する。なお、以降の実施形態では、実施形態1と同じ構成については、同じ符号を付して、その詳細な説明は省略する。図8は、実施形態2に係る雄型フェルール1Aの軸線方向に沿った断面図であり、図9は、先側から見た実施形態2の雄型フェルール1Aの正面図である。また、図10は、実施形態2に係る雌型フェルール2Aの軸線方向に沿った断面図であり、図11は、先側から見た実施形態2の雌型フェルール2Aの正面図である。
【0047】
図8及び図9に示されるように、本実施形態のフェルール対をなす雄型フェルール1Aは、挿入部11Aの先端面11Aaが正方形であると共に、テーパ外周面11Abが四角錐台の側面形状をなしている。また、挿入部11Aの後方は、四角柱状をなしており、その外周面11Acは角筒状である。なお、保持孔部13の形状は、実施形態1のものと同様である。相手側の雌型フェルール2Aは、図10及び図11に示されるように、受け部21Aの底面21Aaが正方形であると共に、逆テーパ内周面21Abは、前記テーパ外周面11Abが、四角錐台の側面形状を逆さに配置したような形状をなしている。なお、保持孔部23は、実施形態1と同様である。底面21Aa及び逆テーパ内周面21Abによって囲まれた部分の空間S2に、相手側の挿入部11Aが進入して、実施形態1と同様、フェルール1A,2A同士が嵌合する。
【0048】
本実施形態のように、雄型フェルール1Aの挿入部11Aの外周面11Ab、及び雌型フェルール2Aの受け部21Aの内周面21Aは、それぞれ円錐台の側面のような曲面形状でなく、複数の傾斜面で囲まれたような形状であってもよい。つまり、本発明において、雄側の挿入部の外周面形状と、雌側の受け部の内周面形状とは、円錐状(円錐台の側面形状)に限られるものではなく、共に所定の角度で傾いた他の傾斜面であってもよい。
【0049】
<実施形態3>
次いで、本発明の実施形態3を、図12及び図13を参照しつつ説明する。図12は、実施形態3に係る雌型フェルール2Bの軸線方向に沿った断面図であり、図13は、先側から見た実施形態3の雌型フェルール2Bの正面図である。本実施形態の雌型フェルール2Bの基本的な構成は、実施形態1の雌型フェルール2と同様である。ただし、本実施形態の雌型フェルール2Bは、受け部21の底面21aに、凹部24が形成されている点が、実施形態1のものと異なっている。なお、実施形態の雌型フェルール2Bは、例えば、実施形態1の雄型フェルール1と組み合せて用いられる。
【0050】
凹部24は、底面21aの中心に配されている光ファイバ203の端末203a(203a1)を取り囲むように配されている。凹部24は、図13に示されるように、正面から見て環状をなしている。この凹部24は、受け部21内に入り込んだ小さなホコリ等の異物を、収容するためのスペースとして利用される。例えば、フェルール2Aの底面21aから露出している光ファイバ203の端面203b上に異物が付着している場合、綿棒等の清掃具を利用して、前記異物が端面203bから取り除かれる。ただし、前記異物が受け部21の内面に付着(粘着)していると、前記異物を受け部21の外側まで取り出すことが難しいことがある。このような場合、前記異物は、少なくとも前記端面203bから取り除かれていれば良いため、前記凹部24内に収容されても、前記異物が光ファイバ203の光学特性に悪影響を及ぼすことはない。なお、凹部24の深さ(底面21aからの深さ)は、接続損失に影響を与える小さなホコリ等の異物を収容できれば良く、概ね0.05mm以上の深さがあることが好ましい。ただし、前記凹部24が深すぎると、光ファイバ小径部203a1の位置決め精度に影響を及ぼす虞があるため、前記凹部24の深さは、概ね0.2mm以下であることが好ましい。
【0051】
凹部24は、図12及び図13に示されるように、光ファイバ203の端末203aと取り囲むように配置されていることが好ましい。異物が受け部21の内面等に付着(粘着)して、綿棒等で移動させ難くても、このように凹部24が端面203bを取り囲むように配置されていれば、確実に異物を凹部24まで移動させることがきる。なお、他の実施形態においては、端面203bから離れた所の底面21に、異物を収容するための凹部を形成してもよい。
【0052】
<実施形態4>
次いで、本発明の実施形態4を、図14を参照しつつ説明する。図14は、互いに嵌合する前の状態の実施形態4に係るフェルール対3Cの説明図である。本実施形態のフェルール対は、雄型フェルール1Cと、雌型フェルール2Cとからなる。これらのフェルール1C,2Cの基本的な構成は、実施形態1の各フェルール1,2と同様である。ただし、本実施形態の各フェルール1C,2Cには、軸線方向に各フェルール1C,2Cを付勢するためのバネが取り付けられる取付部16,26がそれぞれ設けられている。雄側の取付部16は、挿入部11の後側に設けられており、挿入部11の先側よりも外径が小さく設定されている。また、取付部16の先端には、バネ(不図示)の先端を受けるバネ受け部15が設けられている。前記バネの後端は、図示されない雄側のハウジングの一部で係止される。これに対して、雌側の取付部26は、本体部22の後側に設けられており、本体部22の先側(及び受け部21)よりも外径が小さく設定されている。また、取付部26の先端には、バネ(不図示)の先端を受けるバネ受け部25が設けられている。前記バネの後端は、図示されない雌側のハウジングの一部で係止される。本実施形態のように、各フェルール1C,2Cに、直接、バネを取り付ける構成であってもよい。
【0053】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0054】
(1)上記実施形態1では、車載用の光コネクタに利用されるフェルール対(雄型フェルール1,雌型フェルール2)を例示したが、本発明の目的を損なわない限り、本発明のフェルール対は、他の用途で利用されるものであってもよい。
【0055】
(2)上記実施形態1では、フェルール1は、バネの弾性力を利用して、軸線方向に沿って付勢されていたが、他の実施形態においては、フェルール1に取り付けられる光ファイバ103自体の弾性力を利用して、フェルール1を前方に付勢してもよい。
【0056】
(3)上記実施形態1では、雌型フェルール2は、軸線方向に沿ってバネ等を利用して付勢されていない構成であったが、他の実施形態においては、例えば、雄型フェルール1と同様、雌側ハウジング201内において軸線方向に沿って移動可能であると共に、所定のバネを利用して前方に付勢されていてもよい。また、光ファイバ203自体の弾性力を利用して、付勢されてもよい。
【0057】
(4)上記実施形態1では、フェルール1の挿入部11の先端面11aと、フェルール2の受け部21の底面21aとの間に、隙間d1が形成されていたが、本発明の目的を損なわない限り、前記隙間d1は限りなくゼロに近付けられてもよい。
【0058】
(5)各フェルール1,2の側面には、各保持孔部13,23内に接着剤を供給するための各保持孔部13,23に連なる接着剤供給路(孔)を形成してもよい。このように各フェルール1,2の側面に設けられた孔を利用して、各保持孔部13,23内に接着剤を供給し、各光ファイバ103,203の端末103a,203aを各フェルール1,2に固定してもよい。
【0059】
(6)上記実施形態3では、凹部24は、受け部21の底面21a上に1個形成されていたが、他の実施形態においては、前記凹部24が複数個、底面上に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…雄型フェルール
11…挿入部
11a…先端面
11b…外周面
θ1…雄側の傾斜角度
2…雌型フェルール
21…受け部
21a…底面
21b…内周面
θ2…雌側の傾斜角度
3…フェルール対
103…光ファイバ(雄側)
203…光ファイバ(雌側)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端が相手側と対向すると共に、先側から後側に向かって広がるように外周面がテーパ状に傾斜する軸状の挿入部と、軸線に沿って前記挿入部を貫通する孔からなり、一方の光ファイバの端末が前記挿入部の先端に表れた状態で保持される雄側保持孔部とを有する雄型フェルールと、
底が前記挿入部の先端と対向すると共に、底側から開口側に向かって広がるように内周面が逆テーパ状に傾斜する前記挿入部と嵌合させるための窪み状の受け部と、この受け部の後側に延設される軸状の本体部と、軸線に沿って前記本体部を貫通する孔からなり、他方の光ファイバの端末が前記底に表れた状態で保持される雌側保持孔部とを有する雌型フェルールと、を備えるフェルール対。
【請求項2】
前記挿入部の外周面の軸線に対する傾斜角度と、前記受け部の内周面の軸線に対する傾斜角度とが共に、10°〜30°の範囲である請求項1に記載のフェルール対。
【請求項3】
前記雌型フェルールは、前記底上に凹部を有する請求項1又は請求項2に記載のフェルール対。
【請求項4】
前記凹部は、前記他方の光ファイバを囲むよう前記底上に配される請求項3に記載のフェルール対。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のフェルール対をなす雄型フェルール。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のフェルール対をなす雌型フェルール。
【請求項7】
請求項5に記載の雄型フェルール又は請求項6に記載の雌型フェルールを備える光コネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−88462(P2013−88462A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225786(P2011−225786)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】