説明

フェロセニルビホスフィンリガンドを含むパラジウム複合体の存在下での芳香族アミン類の製造方法

本発明は、式Iの化合物(式中、R1が1,3-ジメチル-ブチル、1,3,3-トリメチル-ブチル又はA1基であり、ここで、R3、R4及びR5が、各々他のものから独立して、水素又はC1-C4アルキルであり;そしてR2が水素であるか;又はR1及びR2が一緒になりA2基を形成し、ここでR6及びR7は、各々他のものから独立して、水素又はC1-C4アルキルであるか;又はR1及びR2は一緒になってA3基を形成し、ここでR8及びR9は、各々他のものから独立して、水素又はC1-C4アルキルである}で表される化合物の製造方法であって、式II{式中、R1及びR2は式Iについて定義されるとおりであり、Xが臭素又は塩素である}で表される化合物が、塩基及び触媒量の少なくとも1のパラジウム複合体化合物の存在下でアンモニアと反応され、ここで当該パラジウム複合体化合物は、少なくとも1のフェロセニル-ビホスフィンリガンドを含む、方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルト-ビシクロプロピル-又はオルトC6-C7アルキル置換ハロベンゼン類、5-ハロ-ベンゾノルボルネン類又は5-ハロ-ベンゾノルボルナジエン類のアミノ化のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オルト-ビシクロプロピル-又はオルト-C6-C7アルキル-置換一級アミン類、例えば2-ビシクロプロピル-2-イル-フェニルアミン及び2-(1,3-ジメチル-ブチル)-フェニルアミンは、WO 03/074491及びWO 03/010149に記載される殺菌剤などの殺菌剤の製造のための価値の高い中間体である。
【0003】
5-アミノ-ベンゾノルボルネン類及び5-アミノ-ベンゾノルボルナジエン類、例えば9-イソプロピル-1,2,3,4-テトラヒドロ-1,4-メタノ-ナフタレン-5-イルアミンは、例えばWO 04/035589に記載される殺菌剤などの殺菌剤の製造のための価値の高い中間体である。
【0004】
農薬は、一般的に大量に製造される。例えば、殺菌剤であるクロロタロニルは、2005年に23,000メートルトン超の量が製造された。
【0005】
一般論として、立体的に需要の少ないオルト置換基を有するアニリン類、例えばオルト-トリルーアミンは、Journal of the American Chemical Society, 128, 10028-10029, 2006に記載されるパラジウム触媒クロスカップリングを用いてハロベンゼン類をアンモニアと反応させることにより調製することができる。しかしながら、より立体的に阻害されるハロベンゼン類、例えばオルト-ビシクロプロピル-置換ハロベンゼン類、5-ハロ-ベンゾノルボルネン類又は5-ハロ-ベンゾノルボルナジエン類の1ステップアミノ化においてパラジウム含有触媒を成功裏に使用することは、記載されていなかった。
【0006】
WO 03/074491によると、オルト-ビシクロプロピル-置換一級アニリン類は、対応するオルト-ビシクロプロピル-置換ハロベンゼン類を2ステップ反応、第一にパラジウム(II)-触媒反応中のベンゾフェノン-イミンと反応させ、次に当該反応生成物をヒドロキシルアミンヒドロクロリド及び酢酸ナトリウムと、又は酸、例えば塩酸と反応させることにより、製造することができる。一級アニリン類の製造のためのこのような反応過程は、2つの反応ステップを必要とし、そしてベンゾフェノンイミンの価格が比較的高いことのため、オルト-ビシクロプロピル-置換一級アニリン類の大規模製造には不適切である。さらに、ブロモ-又はヨードベンゼン類のみについての反応課程がWO 03/074491に記載され、そしてクロロベンゼン類についての反応過程は記載されていない。WO 03/074491に記載された反応過程は、より低い反応性しか有しないが、経済的に安い2-(2-クロロフェニル)-ビシクロプロパン類を高い収量でイミノ化するのには適していない。
【0007】
銅含有触媒を用いて立体的に阻たげられたオルト-ビシクロプロピル-置換ハロベンゼン類を1ステップでうまくアミノ化することが知られており、そしてWO 06/061226に記載される。一級アニリン類の製造のためのかかる反応過程は、銅塩廃液の管理についての高い費用のため、オルト-アルキル-置換一級アニリン類の大規模製造のためには魅力的なものではない。さらに、WO 06/061226に記載される反応過程は、より低い反応性であるが、経済的に安い2-(2-クロロフェニル)ビシクロプロパン類を高収量でアミノ化することには適していない。
【0008】
様々な5-アミノ-ベンゾノルボルネン類又は5-アミノ-ベンゾノルボルナジエン類、その製造方法、及び殺菌剤の製造における中間体としての使用は、WO 04/035589に記載されている。WO 04/035589によると、これらのアミンは、以下のスキーム1に概説されるように調製されうる。
【化1】

【0009】
スキーム1に示される合成において、6-ニトロ-アントラニル酸(A)から生成される3-ニトロベンザインは、環状1,4-ジエン(B)、例えば5-イソプロピル-シクロペンタジエンとディーエルス-アルダー反応で反応させて、5-ニトロ-ベンゾノルボルナジエン(C)を形成する。標準的な触媒還元条件(例えば、ラネーニッケル又はパラジウム担持炭素を入れたメタノールなどの溶媒を用いて)、5-ニトロ-ベンゾノルボルナジエン(C)の5-ニトロ基及び2,3-二重結合の両方を還元して、5-アミノ-ベンゾノルボルネン(D)を形成する。穏和触媒還元条件下(例えば、塩化アンモニウム又はアルミニウム合金の存在下での金属亜鉛を用いて)アミノ-ベンゾノルボルナジエン類(E)を形成する。(D)の例は、例えば3-ジフルオロメチル-1-メチル-1H-ピラゾール-4-カルボン酸のアミドの前駆体である5-アミノ-9-イソプロピル-ベンゾノルボルネンである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
スキーム1に概説される合成についての問題点は、多くの所望していない異性体不純物が形成されるということである。例えば、5-ニトロ-ベンゾノルボルナジエン(C)、(式中、R4、R5、R6及びR7は、全てHであり、そしてYは、CH-イソ-プロピルである)の製法において、ディーエルス-アルダー反応により、以下の:
【化2】

で表される部位異性体が形成される。
【0011】
残念なことに、所望される異性体C1は比較的低い収量でしか形成されない。不所望の異性体が、ディーエルス-アルダー反応の終わり又は後期段階のいずれかにおいて、例えば結晶化又は分画蒸留などの慣用技術、又はクロマトグラフィー法により取り除かれるものの、当該合成経路は大規模生産に適していない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の問題は、従って、オルト-ビシクロプロピル-又はオルト-C6-C7アルキル-置換一級アニリン類、5-アミノ-ベンゾノルボルネン類及び5-アミノ-ベンゾノルボルナジエン類の製造のための新規方法であって、既知の方法の上記欠点を避け、そして経済的に妥当な費用で、そして高収量かつ良好な性質で簡単に管理可能な様式でこれらの化合物を製造することを可能にするための新規方法を提供する。
【0013】
従って、本発明は、以下の式I:
【化3】

{式中、
1が、1,3-ジメチル-ブチル、1,3,3-トリメチル-ブチル又は以下の:
【化4】

[式中、R3、R4及びR5は、各々他のものから独立して、水素又はC1-C4アルキルである]
で表されるA1基であり;
2が水素であるか;又は
1及びR2が、一緒になって以下の:
【化5】

[式中、R6及びR7は、各々他のものから独立して水素又はC1-C4アルキルである]
で表されるA2基を形成するか;又は
1及びR2は、一緒になって以下の:
【化6】

[式中、R8及びR9は、各々他のものから独立して、水素又はC1-C4アルキルである]
で表されるA3基を形成する}
で表される化合物の製造方法であって、以下の式II:
【化7】

[式中、R1及びR2は、式Iについて定義されるとおりであり、そしてXは臭素又は塩素である]
で表される化合物を、塩基及び触媒量の少なくとも1のパラジウム複合体化合物の存在下でアンモニアと反応させることを含む、方法に関する。ここで、当該パラジウム複合体化合物は、少なくとも1のフェロセニル-ビホスフィン(フェロセニル-ビホスフィン)リガンドを含む。
【0014】
式Iの化合物は、様々な立体異性体で生じる。本発明に従った方法は、その個別の立体異性体の製造及び任意の比率の立体異性体の混合物の製造を含む。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に記載の方法は、好ましくは、式Iの化合物[式中、R1がA1基であり、ここでR3、R4及R5が、各々他のものから独立して水素又はC1-C4アルキルであり;そしてR2が水素であるか;又はR1及びR2が一緒になってA2基を形成し、ここでR6及びR7が各々他のものから独立して水素又はC1-C4アルキルであるか;又はR1及びR2が一緒になってA3基を形成し、ここでR8及びR9が各々他のものから独立して水素又はC1-C4アルキルである]の製造に適している。
【0016】
本発明に記載の方法は、好ましくは、式Iの化合物[式中、R1がA1であり、R3 が水素又はC1-C4アルキル及びR2、R4及びR5が水素である]の製造に適している。
【0017】
本発明に記載の方法は、好ましくは式Iの化合物[式中、R1がA1であり、R3が水素又はメチルであり、そしてR2、R4及びR5が水素である]の製造に適している。
【0018】
本発明に記載の方法は、以下の式IA:
【化8】

で表される化合物の製造に特に適している。
【0019】
本発明に記載の方法は、好ましくは、式Iの化合物[式中、R1が、1,3-ジメチルーブチルであり、かつR2が水素である]の製造に適している。
【0020】
本発明に記載の方法は、好ましくは、式Iの化合物[式中、R1が1,3,3-トリメチル-ブチルであり、かつR2が水素である]の製造に適している。
【0021】
本発明に記載の方法は、好ましくは、式Iの化合物[式中、R1及びR2が一緒になってA2を形成し、ここでR6及びR7は各々他のものから独立して、水素又はC1-C4アルキルである]の製造に適している。
【0022】
本発明に記載の方法は、好ましくは、式Iの化合物[式中、R1及びR2が一緒になってA2基を形成し、ここでR6及びR7が各々メチルである]の製造に適している。
【0023】
本発明に記載の方法は、好ましくは、式Iの化合物[式中、R1及びR2が一緒になってA3基を形成し、ここでR8及びR9が、各々他のものから独立して水素又はC1-C4アルキルである]の製造に適している。
【0024】
本発明に記載の方法は、好ましくは、式Iの化合物[式中、R1及びR2は一緒になってA3基を形成し、ここでR8及びR9が、各々メチルである]の製造に適している。
【0025】
Xが臭素である式IIの化合物は、好ましくは本発明に記載の方法において使用される。
【0026】
Xが塩素である式IIの化合物は、好ましくは本発明に記載の方法において使用される。
【0027】
本発明に記載の方法では、式IIの化合物は、0.01M〜5Mの濃度で典型的に使用できる。より具体的に、式IIの化合物は、0.1M〜5Mの濃度で使用される。さらにより好ましくは、式Iの化合物は、0.1M〜2Mの濃度で使用される。式IIの化合物の高い濃度を使用することの可能性は、本発明の方法の重要な利点である。なぜなら、高濃度の遊離体が除かれた溶媒が必要とされるからであり、これは本発明の方法を大規模製造について特に適したものとする。
【0028】
本発明に記載の方法において使用されるパラジウム複合体化合物は、パラジウム前駆体及び少なくとも1のフェロセニルービホスフィンリガンドから形成される。本発明に記載の方法では、パラジウム複合体化合物は、好ましくはパラジウム-リガンド複合体として可溶化形態で存在する。
【0029】
パラジウム複合体化合物は、本発明に記載の方法で、すでに形成されたパラジウム複合体化合物として使用されてもよいし、又は本発明に記載の方法でin situで形成される。
【0030】
パラジウム複合体化合物を形成するために、パラジウム前駆体が、少なくとも1のフェロセニル-ビホスフィンリガンドと反応される。不完全な反応事象において、少量のパラジウム前駆体又はリガンドが反応混合物中に溶解されないというケースもある。
【0031】
適切なパラジウム前駆体は、酢酸パラジウム、パラジウム・ジクロリド、パラジウムジクロリド溶液、パラジウム2(ジベンジリデン-アセトン)3又はパラジウム(ジベンジリデン-アセトン)2、パラジウム テトラキス(トリフェニルホスフィン)、炭素担持パラジウム、パラジウム ジクロロビス(ベンゾニトリル)、パラジウム(tris-tert-ブチルホスフィン)2又はパラジウム2(ジベンジリデン-アセトン)3とパラジウム(tris-tert-ブチルホスフィン)2の混合物である。
【0032】
フェロセニル-ビホスフィン・リガンドは、パラジウム触媒反応において一般的に使用される二座第三級ホスフィン リガンドである。このような二座リガンドは、2つの配位部位を占有し、そうしてパラジウム種をキレートすることができる。
【0033】
適切なフェロセニルービホスフィン リガンドは、(R)-(-)-1-[(S)-2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)フェロセニル]エチルジ-tert-ブチルホスフィン
【化9】

1,1'-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(dppf)、1,1'-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノ)-フェロセン、(R)-(-)-1-[(S)-2-(ビス(4-トリフルオロメチルフェニル)ホスフィノ)フェロセニル]エチル-ジ-tert-ブチルホスフィン、(R)-(-)-1-[(S)-2-(ジ(3,5-ビス-トリフルオロメチルフェニル)ホスフィノ)フェロセニル]エチルジシクロヘキシル-ホスフィン、(R)-(-)-1-[(S)-2-(ジ(3,5-ビス-トリフルオロメチルフェニル)ホスフィノ)フェロセニル]エチルジ(3,5-ジメチルフェニル)ホスフィン、(R)-(-)-1-[(S)-2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)フェロセニル]-エチルジシクロヘキシルホスフィン、(S)-(+)-1-[(R)-2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)フェロセニル]エチルジシクロ-ヘキシルホスフィン、(S)-(+)-1-[(R)-2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)フェロセニル]エチルジフェニルホスフィン、(R)-(-)-1-[(S)-2-(ビス(3,5-ジメチル-4-メトキシフェニル)ホスフィノ)フェロセニル]エチルジシクロヘキシル-ホスフィン、(S)-(+)-1-[(R)-2-(ジ-フリルホスフィノ)フェロセニル]エチルジ-3,5-キシリルホスフィン、(R)-(-)-1-[(S)-2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル]エチルジ-tert-ブチルホスフィン、(S)-(+)-1-[(R)-2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル]エチルジ-tert-ブチルホスフィン、(R)-(-)-1-[(S)-2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル]エチルジシクロヘキシルホスフィン、(R)-(+)-1-[(R)-2-(ジフェニル-ホスフィノ)フェロセニル]エチルジシクロヘキシルホスフィン、(S)-(+)-1-[(R)-2-(ジフェニルホスフィノ)-フェロセニル]エチルジシクロヘキシルホスフィン、(R)-(-)-1-[(S)-2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)フェロセニル]-エチルジフェニルホスフィン、(R)-(-)-1-[(S)-2-(ジフェニル)ホスフィノ)フェロセニル]エチルジ(3,5-ジメチル-フェニル)ホスフィン、(R)-(-)-1-[(S)-2-(ジ-tert-ブチル-ホスフィノ)フェロセニル]エチル-ジ-o-トリルホスフィン
【化10】

(R)-(-)-1-[(S)-2-(ビス(3,5-ジメチル-4-メトキシフェニル)ホスフィノ)フェロセニル]-エチル-ジ-tert-ブチルホスフィン
【化11】

(R)-(-)-1-[(S)-2-(ジエチルホスフィノ)フェロセニル]-エチル-ジ-tert-ブチルホスフィン
【化12】

(R)-(-)-1-[(S)-2-(P-メチル-P-イソプロピル-ホスフィノ)フェロセニル]エチルジシクロヘキシルホスフィン
【化13】

(R)-(-)-1-[(S)-2-(P-メチル-P-フェニル-ホスフィノ)フェロセニル]エチル-di-tert-ブチルホスフィン
【化14】

及びそのラセミ混合物、特に1-[2-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)-フェロセニル]エチル-ジ-o-トリルホスフィン、1-[2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)フェロセニル]エチルジ-tert-ブチル-ホスフィン及び1-[2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル]エチルジシクロヘキシルホスフィンのラセミ混合物である。
【0034】
1のパラジウム複合体化合物又はパラジウム複合体化合物の混合物は、本発明に記載の方法で使用されてもよい。
【0035】
パラジウム複合体化合物の形成のために、パラジウム前駆体として、酢酸パラジウム、パラジウム2(ジベンジリデン-アセトン)3、パラジウム(ジベンジリデン-アセトン)2、パラジウムジクロリド溶液、パラジウムジクロリド又はパラジウム2(ジベンジリデン-アセトン)3及びパラジウム(tris-tert-ブチルホスフィン)2の使用が好ましい。酢酸パラジウム又はパラジウムジクロリドの使用が特に好ましい。
【0036】
少なくとも1のリガンドが、パラジウム複合体化合物の形成に使用される。
【0037】
(R)-(-)-1-[(S)-2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)フェロセニル]エチルジ-tert-ブチル-ホスフィン及びラセミ性の1-[2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)フェロセニル]エチルジ-tert-ブチルホスフィンから選ばれる少なくとも1のリガンドを含むパラジウム複合体化合物の使用が特に好ましい。
【0038】
ラセミ性の1-[2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)フェロセニル]エチルジ-tert-ブチルホスフィンを含むパラジウム複合体化合物の使用が好ましい。
【0039】
パラジウム複合体化合物、パラジウム前駆体及び/又はリガンドが、触媒量で本発明に記載の方法で使用される。
【0040】
パラジウム複合体化合物は、式IIの化合物に対して、好ましくは1:10〜1:10000の比率、特に1:100〜1:1000の比率で使用される。
【0041】
パラジウム前駆体は、好ましくは式IIの化合物に対して、1:10〜1:10000の比率で、特に1:100〜1:1000の比率で使用される。
【0042】
リガンドは、式IIの化合物に対して、好ましくは1:10〜1:10000の比率、特に1:100〜1:1000の比率で使用される。
【0043】
適切な塩基は、例えば、アルコラート類、例えばナトリウムtert-ブタノラート、カリウムtert- ブタノラート、ナトリウムメタノラート又はナトリウム エタノラート、又は無機塩基、例えば炭酸塩、例えばK2CO3、Na2CO3又はCs2CO3、水酸化物例えば、NaOH又はKOH、リン酸塩、例えばK3PO4、又はアミド類、例えばLiNH2、NaNH2又はKNH2である。1の実施態様では、アルコラートが好ましく、そしてナトリウムtert-ブタノラートが特に好ましい。他の実施態様では、アミド類が好ましく、そしてNaNH2、KNH2又はその混合物が特に好ましい。
【0044】
NaOH又はKOHが塩基として使用される場合、相間移動触媒、例えばセチルトリメチルアンモニウム・ブロミドが使用されてもよい。
【0045】
この反応についての適量の塩基は、例えば1〜3相当量、特に1〜2相当量である。
【0046】
本発明に記載の反応は、不活性溶媒中で行われてもよい。
【0047】
本発明の1の実施態様では、本発明に記載の反応が、不活性溶媒中で行われる。適切な溶媒は、例えば以下の式V:
【化15】

{式中、Rは、C1-C6アルキル、好ましくはメチルである};
ジメトキシエタン;tert-ブチルメチルエーテル;テトラヒドロフラン;ジオキサン;tert-ブタノール;トルエン;キシレン;アニソール又はトリメチルベンゼン、例えばメシチレン;及びその混合物である。好ましい溶媒は、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン又はジグリムである。
当該実施態様では、不活性溶媒は、好ましくは無水物である。
【0048】
本発明に記載の反応は、室温で行われるか、又は高温で、好ましくは50℃〜180℃、特に50℃〜120℃の温度範囲で行われる。
【0049】
本発明に記載の反応は、通常は高圧で行われる。1の実施態様では、本発明に記載の反応は、1〜100bar、好ましくは5〜80barで行われる。
【0050】
本発明に記載の反応の反応時間は、通常1〜48時間、好ましくは4〜30時間、特に4〜18時間である。
【0051】
本発明に記載の反応は、不活性ガス雰囲気で行われてもよい。例えば、窒素又はアルゴンが不活性ガスとして使用される。
【0052】
本発明に記載の反応の1の実施態様では、当該反応は、窒素雰囲気で行われる。
【0053】
本発明に記載の反応では、式IIの化合物に対して等モル量又は過剰量、好ましくは最大500倍過剰量、特に好ましくは最大200倍過剰量、より好ましくは80倍〜120倍過剰量で、使用される。本発明の1の実施態様では、アンモニアは、10倍〜30倍過剰量で使用される。
【0054】
本発明に記載の方法では、アンモニアは、液体形態又は気体形態で反応容器中に導入することができる。
【0055】
式IIの化合物(式中、Xは臭素であり、R1がA1基であり、かつR2が水素である)は、一般的に知られており、そしてWO 03/074491に記載の方法に従って製造することができる。式IIの化合物(式中、Xが塩素であり、R1がA1基であり、かつR2が水素である)は、WO 03/074491に記載される方法と同様の様式で製造できる。例えば、式IIの化合物(式中、Xが塩素であり、R1がA1基であり、そしてR2、R3、R4及びR5が水素(化合物番号B1)は、反応スキーム1に示されるように、そして以下に記載する実施例A1-A3により説明されるように調製することができる。
【化16】

【0056】
調製実施例A1:3-(2-クロロフェニル)-1-シクロプロピル-プロペノンの調製
67gの30%水酸化ナトリウムを、350mlの水及び97.5g(1.1mol)のシクロプロピルメチルケトンと混合し、そして攪拌しながら90℃に熱する。143.5g(1mol)の2-クロロ-ベンズアルデヒドを滴下して得られた混合物に加え、そして攪拌を5時間行う。攪拌中に、2mlのシクロプロピルメチルケトンを2時間後及びさらに3時間後の各時点で加える。全体で6時間の反応時間の後に、50℃に冷却することを行う。反応混合液をろ過し、そして相を分離する。有機相を濃縮する。188.6gの3-(2-クロロフェニル)-1-シクロプロピル-プロペノンを黄色油の形態で得る。
1H NMR (CDCl3): 0.95-1.04 (m, 2H); 1.16-1.23 (m, 2H); 2.29-2.37 (m, 1H); 6.83 (d, J=15 Hz); 7.27-7.35 (m, 2H); 7.40-7.47 (m, 1H); 8.03 (d, J=15 Hz)
【0057】
調製実施例A2:5-(2-クロロフェニル)-3-シクロプロピル-4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾール:
250gのエタノールを、A1に従い調製された188.6gの3-(2-クロロフェニル)-1-シクロプロピル-プロペノン(1mol)に加える。53g(1.05mol)のヒドラジン水和物を20℃で滴下して加える。反応混合物を70℃で2時間攪拌する。次に反応混合物を50℃に冷却する。5.5gのシュウ酸二水和物(0.044mol)及び20gのエタノールの混合物を加えるとすぐ、固体が沈殿する。反応混合物を25℃に冷却し、シンターガラス吸引フィルターを通してろ過し、そして50gのエタノールで洗浄する。黄色ろ液を取得し、当該ろ液を60℃及び20mbar未満にてロータリーエバポレーターを用いて蒸発させることにより濃縮して、黄色油を得る。主成分5-(2-クロロフェニル)-3-シクロプロピル-4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾールを有する異性体混合物201.5gを黄色油の形態で得る。
【0058】
調製実施例A3: 2-(2-クロロフェニル)ビシクロプロピルの合成
50gの炭酸カリウム(0.36mol)を含む600gのエチレングリコールの溶液に、190℃で2時間かけて、A2に記載される通りに調製された201.5gの5-(2-クロロフェニル)-3-シクロプロピル-4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾールを加える。次に、190℃で2時間攪拌を行う。反応の終わりは、気体の発生停止により示される。次に反応混合物を100℃に冷却するとすぐに、相の分離が生じ、そして上相、つまり生成物相を分離する。158gの2-(2-クロロフェニル)ビシクロプロピルを粗生成物として得る粗生成物を例えば蒸留により精製することができる。
1H NMR (CDCl3): 0.0 - 1.13 (m, 8H); 1.95-2.02 (m, 0.63H, トランス異性体)及び2.14-2.22 (m, 0.37H, シス異性体); 6.88-6.94 (m); 7.05-7.24 (m); 7.31-7.42 (m)
【0059】
式IIの化合物(式中、Xは臭素又は塩素であり、そしてR1及びR2 は、一緒になってA2又はA3基を形成する)は、WO 07/068417に記載されるよう方法に従って製造できる。
【0060】
本発明に記載される方法において使用されるパラジウム複合体化合物、パラジウム前駆体及びリガンドは、一般的に知られており、そして大部分が市販されている。
本発明は、以下の実施例を用いてさらに詳細に説明されよう。
【0061】
実施例P1:2-ビスシクロプロピルアニリンの調製(基質/触媒比=20:1)
385mgの2-(2-クロロフェニル)ビシクロプロピル(2mmol,トランス/シス比、3:2)、288mgのナトリウムtertブトキシド(3mmol)、22.4mgの酢酸パラジウム(0.1mmol),61mgのR(-)-ジ-tertブチル-[1-[(S)-2-(ジシクロヘキシルホスファニル)-1-フェロセニル]エチル]ホスフィン(0.11mmol)、4gのアンモニア気体(0.235mol)及び1.5mlのジグリムの混合物を、加圧容器内で高圧、160℃で18時間攪拌した(アルゴン雰囲気)。次に、混合物を20mlの酢酸エチルで希釈し、そしてろ過した。残った液相を減圧下で濃縮し、そして粗製物質をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した(溶出:酢酸エチル/ヘプタン 1:5)。0.26g(75%(理論値))の純粋な2-ビシクロプロピルアニリンをやや茶色がかった液体として得た(トランス/シス比、約1:1)。
【0062】
実施例P2:2-ビスシクロプロピルアニリンの調製(基質/触媒比=100:1)
385mgの2-(2-クロロフェニル)ビシクロプロピル(2mmol,トランス/シス比、約3:2)、288mgのナトリウムtertブトキシド(3mmol)、4.5mgの酢酸パラジウム(0.02mmol)、12.2mgのR(-)-ジ-tert.ブチル-[1-[(S)-2-(ジシクロヘキシルホスファニル)-1-フェロセニル]エチル]ホスフィン(0.022mmol)、4gのアンモニア気体(0.235mol)及び1.5mlのテトラヒドロフランの混合物を、加圧容器内で高圧、120℃にて17時間(アルゴン雰囲気)で攪拌した。2-ビスシクロプロピルアニリンの収率をガスクロマトグラフィーにより測定した:86%(異性体の合計)。
【0063】
実施例P3:2-ビスシクロプロピルアニリンの調製(基質/触媒比=100:1)
385mgの2-(2-クロロフェニル)ビシクロプロピル(2mmol,トランス/シス比、約3:2)、288mgのナトリウムtertブトキシド(3mmol)、4.5mgの酢酸パラジウム(0.02mmol)、12.2mgのR(-)-di-tert.ブチル-[1-[(S)-2-(ジシクロヘキシルホスファニル)-1-フェロセニル]エチル]ホスフィン(0.022mmol)、4gのアンモニア気体(0.235mol)及び1.5mlのジメトキシエタンの混合物を、加圧容器内で高圧、120℃にて16時間(アルゴン雰囲気)で攪拌した。2-ビスシクロプロピルアニリンの収率を、ガスクロマトグラフィーにより測定した:80%(異性体の合計)。
【0064】
実施例P3:2-ビスシクロプロピルアニリンの調製(基質/触媒比=500:1)
385mgの2-(2-クロロフェニル)ビシクロプロピル(2mmol,トランス/シス比、約3:2)、288mgのナトリウムtertブトキシド(3mmol)、0.9mgの酢酸パラジウム(0.004mmol)、2.44mgのR(-)-di-tert.ブチル-[1-[(S)-2-(ジシクロヘキシルホスファニル)-1-フェロセニル]エチル]ホスフィン(0.0044mmol)、4gのアンモニア気体(0.235mol)及び1.5mlのジメトキシエタンの混合物を、加圧容器内で高圧、120℃にて16時間(アルゴン雰囲気)で攪拌した。2-ビスシクロプロピルアニリンの収率をガスクロマトグラフィーにより測定した:86%(異性体の合計)。
【0065】
実施例P4:2-ビスシクロプロピルアニリンの調製(基質/触媒比=100:1)
アルゴン雰囲気にて、599mg(1.1mmol)の(R)-(-)-1-[(S)-2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)-フェロセニル]エチルジ-tert-ブチルホスフィン及び160mg(0.24mmol)の酢酸パラジウム(トリマー)を入れた2mlのジメトキシエタンを、室温で30分間攪拌し、そして50℃で1分間攪拌する。アルゴン雰囲気下で、触媒系及び2mlのジメトキシエタンを、20.8gの2-(2-クロロフェニル)ビシクロプロピル(95%、0.11mol)及び10.5gのナトリウムtert-ブタノラート(0.11mol)を入れた30mlのジメトキシエタンにオートクレーブ内で加える。続いて、36gのアンモニア(液体)(2.11mol)を加え、そして懸濁液を119℃に加熱して、61barの圧力を得た。18時間後、反応物質を室温に冷却し、窒素で2回フラッシュし、そして30mlの水で反応をとめた。反応物質をハイフロー(hyflow)を介してろ過する。当該フィルターは、キシレン及び水で洗浄され、そして水相をキシレンで3回抽出する。有機溶媒を吸引下で取り除く。2-ビシクロプロピルアニリンの量を、ガスクロマトグラフィーにより測定した:78%(GC領域)は4.97%(GC領域)の開始物質を残していた。さらに3.57%(GC領域)のダイマー副産物及び3.55%(GC領域)脱ハロゲン副産物が検出される。
【0066】
実施例P5:5-アミノ-9-イソプロピルベンゾノルボルネンの調製-シン濃縮(syn enriched)(基質/触媒比=100:1)
221mgの5-クロロ-9-イソプロピルベンゾノルボルネン(1mmol、98%超、シン異性体(syn isomer))、192mgのナトリウムtert.ブトキシド(2mmol)、2.25mgの酢酸パラジウム(0.01mmol)、6.1mgのR(-)-ジ-tert.ブチル-[1-[(S)-2-(ジシクロヘキシルホスファニル)-1-フェロセニル]エチル]ホスフィン(0.011mmol)、4gのアンモニア気体(0.235mol)及び5mlのジメトキシエタンの混合物を加圧容器内の高い圧力で、100℃21時間攪拌した(アルゴン雰囲気)。5-アミノ-9-イソプロピルベンゾノルボルネンの収率をガスクロマトグラフィーにより測定した:90%(98%超のシン異性体)。
【0067】
上記実施例を用いて、以下の式Iの化合物を製造することができる。
【表1】

【0068】
以下の式IIの化合物は、本発明に従った方法において使用するのに適している。
【表2】

【0069】
本発明の提示の結果として、オルト-ビシクロプロピル-置換ハロベンゼン類、5-ハロ-ベンゾノルボルネン類及び5-ハロ-ベンゾノルボルナジエン類を高い収量で、そして低い費用でアミノ化することができる。
【0070】
本発明の方法の開始化合物は、容易に手に入れることができ、そして容易に取り扱うことができるということにより区別され、さらに当該開始化合物は安価である。
【0071】
本発明の方法の好ましい実施態様において、当該方法において使用されるパラジウム及び/又はパラジウム複合体化合物はリサイクルされる。この実施態様は、経済的な観点から特に関心の高い本発明に従った方法の変法を構成する。
【0072】
本発明の好ましい実施態様では、式IIの化合物(式中、Xは塩素である)が使用される。本発明の方法の好ましい実施態様における開始化合物は、特に容易に手に入れることができ、そして経済的であることにより区別される。しかしながら、パラジウム触媒クロスカップリングの条件下で、このクラスの開始化合物、立体阻害、脱活性化、少なくともオルソ置換クロロベンゼン基質は、ブロモベンゼン基質に比べて、塩素脱離基の反応性がかなり低いためアミノ化することが特に難しい。本発明の当該実施態様は、開始化合物をパラジウム触媒クロスカップリングへとアクセス可能にすることができるので、したがってこの実施態様は、経済的観点から特に関心の高い本発明に記載の方法の変法を構成する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式I:
【化1】

{式中、
1が1,3-ジメチル-ブチル、1,3,3-トリメチル-ブチル又は以下の:
【化2】

で表されるA1基であり、ここで、R3、R4及びR5は、各々他のものから独立して、水素又はC1-C4アルキルであり;そして
2が水素であるか;又は
1及びR2が一緒になり以下の:
【化3】

で表されるA2基を形成し、ここでR6及びR7は、各々他のものから独立して、水素又はC1-C4アルキルであるか;又は
1及びR2は一緒になって以下の:
【化4】

で表されるA3基を形成し、ここでR8及びR9は、各々他のものから独立して、水素又はC1-C4アルキルである}
で表される化合物の製法であって、以下の式II:
【化5】

{式中、R1及びR2は式Iについて定義されるとおりであり、Xが臭素又は塩素である}
で表される化合物を、塩基及び触媒量の少なくとも1のパラジウ複合体化合物の存在下でアンモニアと反応させ、ここで当該パラジウム複合体化合物は、少なくとも1のフェロセニル-ビホスフィンリガンドを含む、前記方法。
【請求項2】
1が、A1基であり、ここで、R3、R4及びR5が各々他のものから独立して水素又はC1-C4アルキルであり;かつR2が、水素であるか;或いはR1及びR2は、一緒になってA2基を形成し、ここで、R6及びR7が各々他のものから独立して水素又はC1-C4アルキルであるか;又はR1及びR2は一緒になってA3基を形成し、ここでR8及びR9は、各々他のものから独立して、水素又はC1-C4アルキルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記パラジウム複合体化合物が、R(-)-ジ-tert-ブチル-[1-[(S)-2-(ジシクロヘキシルホスフィニル)フェロセニル]エチル]ホスフィン及びラセミ性ジ-tert-ブチル-[1-[2-(ジシクロヘキシルホスフィニル)フェロセニル]エチル]ホスフィンから選らばれる少なくとも1のリガンドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記パラジウム複合体化合物が、ラセミ性ジ-tert-ブチル-[1-[2-(ジシクロヘキシルホスフィニル)フェロセニル]エチル]ホスフィンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記パラジウム複合体化合物が、式IIの化合物に対して1:10000〜1:10の比率で使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
式IIの化合物が、0.01M〜5Mの濃度で使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
Xが塩素である、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2010−500304(P2010−500304A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523192(P2009−523192)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【国際出願番号】PCT/EP2007/006934
【国際公開番号】WO2008/017443
【国際公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(500584309)シンジェンタ パーティシペーションズ アクチェンゲゼルシャフト (352)
【Fターム(参考)】