説明

フェンダを有する自動車

【課題】フェンダ4とフードとを具備し、該フェンダ4は、その最も高さの高いフェンダ頂部8よりも車幅方向内側に位置し、かつ該フェンダ頂部8から下方に垂下しているフェンダ垂下部9を有し、該フェンダ垂下部9は、閉位置を占めたフードによって覆われると共に、上下方向に立ち上がった縦壁部12を有し、該縦壁部12には、車体1の前後方向に配列された複数の貫通孔16が形成されている自動車において、フェンダ頂部8に上方から大きな外力が加えられたとき、縦壁部12がより効果的に塑性変形して、エネルギーを効率よく吸収できるようにする。
【解決手段】複数の貫通孔16を上方から見たとき、隣り合う2つの貫通孔16の一部が互いに重なって位置するように、各貫通孔16が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前部の側部を構成するフェンダと、車体に回動開閉可能に支持されたフードとを有する自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車は、上述したフェンダとフードとを有しており、該フードは、前部エンジンルーム又は前部トランクルームの上部開口を閉鎖した閉位置と、その上部開口を開放した開位置との間を回動開閉可能に車体に支持されている。また、フェンダは、その最も高さの高いフェンダ頂部よりも車幅方向内側に位置し、かつフェンダ頂部から下方に垂下したフェンダ垂下部を有しており、そのフェンダ垂下部は、閉位置を占めたフードによって覆われる。かかるフェンダ垂下部は、その少なくとも一部が、上下方向に立ち上がった縦壁部として構成されている。
【0003】
ところで、事故発生時に、人体が車体に当ったとき、外力の加えられた車体部分を大きく塑性変形させてエネルギーを効率よく吸収し、人体に与える衝撃を小さく留めることが好ましい。そこで、上述したフェンダの縦壁部に、車体の前後方向に配列された多数の貫通孔を形成し、フェンダ頂部又はその車幅方向における近傍の部分に、上方又は斜め上方から大きな外力が加えられたとき、貫通孔の形成された縦壁部を容易に潰れた状態に塑性変形させて効率よくエネルギーを吸収できるように構成した自動車が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
上述した構成によると、貫通孔の形成されたフェンダ垂下部の縦壁部に上方又は斜め上から外力が加えられたとき、その縦壁部を容易に塑性変形させることができるので、万一、人体がフェンダ頂部又はその車幅方向近傍の部分に当ったとしても、人体に与える衝撃を効果的に小さく留めることができる。ところが、貫通孔と貫通孔の間の縦壁部部分の上方から外力が加えられたときは、その縦壁部分には貫通孔が存在せず、その縦壁部分の強度が大きくなっているため、当該縦壁部分は容易には変形せず、エネルギー吸収効率が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−222154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した新規な認識に基づきなされたものであって、その目的とするところは、フェンダ頂部又はその車幅方向近傍の部分のいかなる部位に大きな外力が加えられたときも、フェンダ垂下部の縦壁部を大きく塑性変形させて効率よくエネルギーを吸収することのできる自動車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、車体前部の車幅方向側部を構成するフェンダと、車体に回動開閉可能に支持されたフードとを具備し、前記フェンダは、その最も高さの高いフェンダ頂部よりも車幅方向内側に位置し、かつ該フェンダ頂部から下方に垂下しているフェンダ垂下部を有し、該フェンダ垂下部は、閉位置を占めたフードによって覆われると共に、その少なくとも一部が上下方向に立ち上がった縦壁部として構成されていて、該縦壁部には、車体の前後方向に配列された複数の貫通孔が形成されている自動車において、前記複数の貫通孔を上方から見たとき、隣り合う2つの貫通孔の一部が互いに重なって位置するように、各貫通孔が形成されていることを特徴とする自動車を提案する(請求項1)。
【0008】
その際、貫通孔がほぼ平行四辺形に形成されていると有利である(請求項2)。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フェンダの縦壁部に形成された複数の貫通孔を上方から見たとき、隣り合う2つの貫通孔の一部が互いに重なって位置するように、各貫通孔が形成されているので、フェンダ頂部又はその車幅方向近傍の部分のいかなる部位に大きな外力が加えられたときも、フェンダ垂下部の縦壁部を大きく変形させて効率よくエネルギーを吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】自動車の概観を示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線拡大断面図である。
【図3】貫通孔の形成されたフェンダをエンジンルーム側から見た斜視図である。
【図4】貫通孔の効果を説明する図である。
【図5】他の形態の貫通孔を有するフェンダを示す、図3と同様な斜視図である。
【図6】従来提案されている自動車のフェンダを示す、図3と同様な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態例を説明し、併せて従来の欠点を図面に即してより具体的に明らかにする。
【0012】
図1は自動車の外観斜視図であり、図2は図1のII−II線拡大断面図である。図における矢印Frは自動車の前進方向を示し、矢印Wは車幅方向を示している。本明細書及び特許請求の範囲における「前」又は「後」は、自動車の前進方向Frを基準とした前後を意味する。
【0013】
図1に示すように、車体1、すなわちそのメインボデーの車幅方向各側部には、サイドドア2,3が回動開閉可能に支持されており、車体前部の車幅方向各側部はフェンダ4によって構成されている。また、符号5はフードを示し、このフード5は、図1に矢印A,Bで示すように、車体前部のエンジンルームの上部開口を閉鎖した閉位置と、その上部開口を開放した開位置との間を図示していないヒンジを介して回動開閉可能に車体1に支持されている。図1は、フード5が閉位置を占めたときの様子を示している。なお、図1中、符号6は、車体1の上部を構成するルーフパネルを示し、符号7は車室前部に位置するフロントシールドガラスを示している。
【0014】
上述のように、本例の自動車は、車体前部の車幅方向側部を構成するフェンダ4と、車体1に回動開閉可能に支持されたフード5とを有していて、かかるフェンダ4とフード5は、例えば鋼板などの比較的剛性の高い板材によって構成されている。
【0015】
ここで、図2に示すように、フェンダ4は、その最も高さの高いフェンダ頂部8よりも車幅方向内側に位置し、かつそのフェンダ頂部8から下方に垂下したフェンダ垂下部9を有している。このフェンダ垂下部9は、閉位置を占めたフード5によって覆われる。フード5には、ゴムなどの軟質弾性材料により構成されたウェザストリップ10が、図示していないクリップにより取り付けられ、フード5が閉位置を占めたとき、ウェザストリップ10がフェンダ垂下部9に圧接して、エンジンルームERに対するシール性が確保される。
【0016】
フェンダ垂下部9は、その少なくとも一部が上下方向に立ち上がった縦壁部として構成されている。図に一例として示した自動車においては、図2及び図3から明らかなように、フェンダ頂部8に続く上側の縦壁部11と、その縦壁部11よりも下方に位置する下側の縦壁部12と、上下の縦壁部11,12の間に位置する傾斜中間部13とによってフェンダ垂下部9が構成され、下側の縦壁部12の下端には、フェンダ水平部14が一体に形成されている。このフェンダ水平部14は、前後方向に延びる車体1の骨格構造部材であるエプロンアッパメンバ15に、図示していないボルトとナットによって固定されている。
【0017】
ところで、先にも説明したように、事故発生時に、図2及び図3に矢印Pで示すように、フェンダ頂部8又はその車幅方向近傍の部分に、上方又は斜め上方から人体が当ったとき、フェンダ垂下部9を大きく塑性変形させてエネルギーを効率よく吸収し、人体に与える衝撃を小さく留めることが好ましい。そこで、本例の自動車には、図3に示すように、フェンダ4の下側の縦壁部12に、車体1の前後方向に配列された複数の貫通孔16が形成されている。かかる構成により、図2及び図3に矢印Pで示したように、フェンダ頂部8又はその車幅方向近傍の個所に上方から大きな外力が加えられたとき、フェンダ4の縦壁部12が容易に上下方向に潰れた状態に塑性変形することができるので、エネルギーを効率よく吸収することができる。
【0018】
ここで、上述した貫通孔16による効果をより具体的に説明する前に、従来の貫通孔とその問題点をより具体的に明らかにする。
【0019】
図6は、従来の自動車のフェンダ4Aを示す、図3と同様な斜視図である。ここに示したフェンダ4Aの縦壁部12Aにも、車体1Aの前後方向に配列された多数の貫通孔16Aが形成されている。ここに示した貫通孔16Aは、円形に形成され、しかも車体の前後方向に互いに所定の間隔をあけて配列されている。図6に矢印PAで示すように貫通孔16Aの上方からフェンダ頂部8A又はその車幅方向近傍の部位に大きな外力が加えられると、貫通孔16Aのまわりの縦壁部12Aの部分が大きく潰れた状態に塑性変形し、効率よくエネルギーを吸収することができる。
【0020】
ところが、図6に矢印QAで示したように、1つの貫通孔16Aと、その隣りの貫通孔16Aとの間の縦壁部部分DAの上方から外力が加えられたときは、その縦壁部部分DAには、当然貫通孔が存在せず、その強度が大きくなっているため、当該部分DAは容易には塑性変形しない。このため、この場合には、エネルギーを効率よく吸収することは困難である。このように、従来の自動車においては、フェンダ頂部8A又はその車幅方向近傍の部分に対して外力が加えられたとき、その外力の作用点の前後方向の位置によって、エネルギー吸収量に差が生じてしまったのである。
【0021】
そこで、本例の自動車においては、図3及び図4に示したように、フェンダ4の縦壁部12に形成された複数の貫通孔16を上方から見たとき、隣り合う2つの貫通孔16の一部が互いに重なって位置するように、各貫通孔16が形成されている。図3及び図4に示した例では、各貫通孔16がほぼ平行四辺形に形成されていて、図4においては、隣り合った2つの貫通孔16が重なっている部分を符号Eで示してある。
【0022】
ここで、図2乃至図4に矢印Pで示したように、貫通孔16の上方からフェンダ頂部8又はその車幅方向近傍の部分に大きな外力が加えられると、その貫通孔16のまわりの縦壁部12の部分が大きく潰れた状態に塑性変形してエネルギーが効率よく吸収される。これは、従来の自動車のフェンダと変わりはない。
【0023】
一方、図4に矢印Qで示したように、隣り合う貫通孔16の上辺の間の部分Dの上方から、フェンダ頂部8又はその車幅方向近傍の部分に大きな外力が加えられたときも、隣り合う貫通孔16の一部が互いに重なっているので、矢印Qで示した外力の作用点Rの下方には、必ず貫通孔16の一部が存在する。このため、この場合も、その貫通孔16の近傍の縦壁部12の部分は大きく潰れた状態に塑性変形し、エネルギーを効率よく吸収することができる。このように、フェンダ頂部8又はその車幅方向近傍の部分の上方から大きな外力が加えられたとき、その外力の作用点の前後方向位置が、いずれの場合も、フェンダ4の縦壁部12は容易に塑性変形して、エネルギーを効率よく吸収する。外力が斜め上方から加えられたときも同様である。
【0024】
上述した構成によって、万一、フェンダ頂部8又はその車幅方向近傍の部分に人体が当ったとき、人体に与える衝撃を小さく留め、安全性を高めることができる。
【0025】
図3及び図4には、ほぼ平行四辺形に形成された貫通孔16を示したが、その貫通孔16の形態は、平行四辺形以外の適宜な形態に形成することもできる。図5は、縦壁部12に形成された貫通孔16が長孔より成る例を示しており、この場合も、その複数の貫通孔16を上方から見たとき、隣り合う2つの貫通孔16の一部が互いに重なって位置している。貫通孔を円形に形成することもできる。
【0026】
また、図示した例では、フェンダ垂下部9の下側の縦壁部12に貫通孔16を形成したが、上側の縦壁部11に貫通孔を形成することもでき、或いは上下の縦壁部11,12の両方に貫通孔を形成することもできる。但し、上側の縦壁部11は、図2から判るように、フェンダ頂部8と、フード5の車幅方向外端との間の隙間Gの近くに位置しているので、上側の縦壁部11に貫通孔16を形成すると、隙間Gを通して外部からその貫通孔が目視されてしまい、車体の外観が害されるおそれがある。その意味では、下側の縦壁部12にのみ貫通孔16を形成することが好ましい。
【0027】
上側の縦壁部11に、車体1の前後方向に配列された複数の貫通孔を形成した場合も、その複数の貫通孔を上方から見たとき、隣り合う2つの貫通孔の一部が互いに重なって位置するように、各貫通孔を形成することは当然である。
【符号の説明】
【0028】
1 車体
4 フェンダ
5 フード
8 フェンダ頂部
9 フェンダ垂下部
11,12 縦壁部
16 貫通孔
W 車幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部の車幅方向側部を構成するフェンダと、車体に回動開閉可能に支持されたフードとを具備し、前記フェンダは、その最も高さの高いフェンダ頂部よりも車幅方向内側に位置し、かつ該フェンダ頂部から下方に垂下しているフェンダ垂下部を有し、該フェンダ垂下部は、閉位置を占めたフードによって覆われると共に、その少なくとも一部が上下方向に立ち上がった縦壁部として構成されていて、該縦壁部には、車体の前後方向に配列された複数の貫通孔が形成されている自動車において、前記複数の貫通孔を上方から見たとき、隣り合う2つの貫通孔の一部が互いに重なって位置するように、各貫通孔が形成されていることを特徴とする自動車。
【請求項2】
前記貫通孔は、ほぼ平行四辺形に形成されている請求項1に記載の自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−230572(P2011−230572A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100704(P2010−100704)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】