説明

フェーズドアレイアンテナ及びその位相制御方法

【課題】 各アンテナ素子から出力される信号の移相量を調整することにより、各パネルから放射される信号の位相面をアンテナパネル全体として揃え、高効率な電力伝送を行うことのできるフェーズドアレイアンテナ及びその位相制御方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 パイロット信号の到来方向とアンテナパネルとがなす到来方向角度に基づいて、パイロット信号の到来方向に直交するアンテナ基準線と各アンテナ素子との間の距離を算出し、算出されたそれぞれの距離に応じて、各アンテナ素子から放射させるマイクロ波の移相量を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、SSPS(Space Solar Power System)に適用されるフェーズドアレイアンテナに関し、特に、受電設備への電力送電ビーム方向を高精度で制御することのできるフェーズドアレイアンテナ及びその位相制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の利用による二酸化炭素排出量の増加に伴い、地球温暖化などの環境問題や化石燃料枯渇などのエネルギー問題がクローズアップされている。このためクリーンエネルギーの需要は年々高まっており、それらの問題に対する解決方法の一つとしてSSPS計画が挙げられている。
SSPS計画とは、図6に示すように、巨大な太陽電池パネルを搭載した人口衛星を赤道上空に打ち上げ、太陽光によって発電した電力を太陽電池パネルの中の発信モジュールによりマイクロ波に変換する。そして、マイクロ波100をマイクロ波送電部101から地上に設けた受電設備102へ送電し、地上において再び電力に変換して利用するという計画である。
これにより太陽発電の欠点である天候や時間帯に左右されること無く、クリーンなエネルギーを安定して供給することができる。この計画の実現のためには、大電力送電、マイクロ波ビーム制御、運用コストの低減などが技術課題として挙げられ、それらを満足させる方法の一つとして、上記マイクロ波送電部101に積層アクティブ集積アンテナ(Active Integrated Antenna :AIA)を用いる方法が挙げられている。また、送電の更なる高効率化を図るために、上記積層アクティブ集積アンテナにレトロディレクティブ機能を搭載することなどが検討されている。
【0003】
上記レトロディレクティブ機能とは、地上に設けられた受電設備102から送られてくるパイロット信号(誘導信号)をマイクロ波送電部101が備える送電アンテナにより受信し、受信したパイロット信号の位相情報を送電アンテナから放射させる送信波に反映させることによって、この送信波をパイロット信号の到来方向に指向させる機能である。
【0004】
このレトロディレクティブ機能は、従来、よく使用されている方式であり、例えば、特開平8−37743号公報(特許文献1)にその一例が開示されている。また、特開2004−32879号公報(特許文献2)に開示されている技術では、レトロディレクティブ機能において、パイロット信号の到来方向角度の検出精度を向上させ、送信波の位相制御の精度向上を図っている。
【特許文献1】特開平8−37743号公報
【特許文献2】特開2004−32879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したようなSSPSにおける送電アンテナでは、二次元配列された約1m四方のアンテナパネル200をそれぞれ結合点にて結合することにより、大面積のアンテナパネルを構築している。このため、図7に示すように、各アンテナパネル200が接合点Pを中心に折れ曲がったりするおそれがある。また、各パネル200は剛体ではないため、各パネル200が連続的に振動する可能性もある。
このような場合であっても、上述のレトロディレクティブ機能を用いることにより、図8に示すように、アンテナパネル200毎に、送信波の送信方向を揃えることは可能である。
【0006】
しかしながら、各アンテナパネル200から放射されるマイクロ波の位相面をパネル全体として揃えることはできないため、高い送電効率が得られないなどの問題があった。また、各アンテナパネル200間でマイクロ波の位相面が異なるため、電力レベルの高い不要波が目標地点以外の方向に放射される可能性があり、この結果、他のシステムに悪影響を及ぼす可能性があるという問題もあった。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、各アンテナ素子から出力される信号の移相量を調整することにより、各パネルから放射される信号の位相面をアンテナパネル全体として揃えることにより、高効率な電力伝送を行うことのできるフェーズドアレイアンテナ及びその位相制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、複数のアンテナ素子が配列配置された複数のアンテナパネルを直線状又は平面状に接続した構成を有し、各前記アンテナ素子に入出力する信号の位相を制御することにより、受信設備から送信されたパイロット信号の到来方向に対し信号を放射するフェーズドアレイアンテナであって、前記パイロット信号の到来方向と前記アンテナパネルとがなす到来方向角度に基づいて、前記パイロット信号の到来方向に直交するアンテナ基準線と各前記アンテナ素子との間の距離をそれぞれ算出する距離算出手段と、算出された前記距離に応じて、各前記アンテナ素子から放射させる信号の移相量をそれぞれ決定する移相量決定手段とを具備するフェーズドアレイアンテナを提供する。
【0009】
上記構成によれば、距離算出手段により、パイロット信号の到来方向に直交するアンテナ基準線とアンテナ素子との間の距離がそれぞれ算出される。そして、移相量決定手段によって、移相量が、各アンテナ素子について算出された距離に応じてそれぞれ決定される。そして、これら移相量を用いることにより、各アンテナパネルに配列配置された各アンテナ素子から放射される信号の移相面をアンテナパネル全体として揃えることが可能となる。
【0010】
上記記載のフェーズドアレイアンテナにおいて、前記アンテナパネル毎に、各前記アンテナパネル上に設定されたパネル基準点を通るとともに前記到来方向角度に直交するパネル基準線が設定され、且つ、前記パネル基準線のうちのいずれかが前記アンテナ基準線として用いられ、前記距離算出手段は、前記パネル基準線とそのパネル基準線が設定された前記アンテナパネルに配列配置されている各前記アンテナ素子との間の距離を前記到来方向角度に基づいてそれぞれ算出する第1の距離算出手段と、隣接する前記アンテナパネルの前記パネル基準線間の距離を算出し、算出した前記パネル基準線間の距離を積算することにより、前記アンテナ基準線と各前記パネル基準線との間の距離をそれぞれ算出する第2の距離算出手段と、前記第1の距離算出手段による算出結果と、前記第2の距離算出手段による算出結果とを用いることにより、前記アンテナ基準線と各前記アンテナ素子との間の距離をそれぞれ算出する第3の距離算出手段とを具備すると良い。
【0011】
上記構成によれば、第1の算出手段により、アンテナパネル毎に、そのアンテナパネルに設定されているパネル基準線と、そのアンテナパネルに配置されている各アンテナ素子との間の距離が算出される。また、第2の算出手段により、隣接するアンテナパネルのパネル基準線間の距離がそれぞれ算出されるので、アンテナ基準線と各パネル基準線との間の距離を得ることができる。
そして、第2の算出手段により得られたアンテナ基準線とパネル基準線との間の距離に、更に、第1の距離算出手段により算出されたパネル基準線とアンテナ素子との間の距離を加算することにより、アンテナ基準線と各アンテナ素子との間の距離を得ることができる。
【0012】
上記記載のフェーズドアレイアンテナにおいて、前記パネル基準点は、前記アンテナパネルの端部に設定されていると良い。
【0013】
上記構成によれば、パネル基準点をアンテナパネルの端部に設定するので、隣接するアンテナパネルに設定されたパネル基準線間の距離を容易に算出することが可能となる。
【0014】
本発明は、複数のアンテナ素子が配列配置された複数のアンテナパネルを直線状又は平面状に接続した構成を有するフェーズドアレイアンテナに用いられ、各前記アンテナ素子に入出力する信号の位相を制御することにより、受信設備から送信されたパイロット信号の到来方向に対し信号を放射させるフェーズドアレイアンテナの位相制御方法であって、前記パイロット信号の到来方向と前記アンテナパネルとがなす到来方向角度に基づいて、前記パイロット信号の到来方向に直交するアンテナ基準線と各前記アンテナ素子との間の距離をそれぞれ算出する距離算出過程と、算出された前記距離に応じて、各前記アンテナ素子から放射させる信号の移相量を決定する移相量決定過程とを具備するフェーズドアレイアンテナの位相制御方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のフェーズドアレイアンテナ及びその位相制御方法によれば、各アンテナ素子から出力される信号の移相量を調整し、各アンテナパネルから放射される信号の位相面をアンテナパネル全体として揃えるので、高効率な電力伝送を行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明に係るフェーズドアレイアンテナをSSPSに適用した場合の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るフェーズドアレイアンテナの概略構成を示した図である。
図1に示すように、本実施形態に係るフェーズドアレイアンテナは、O−XYZの直交座標系において、X−Y平面上にN行N列で二次元配列された複数のアンテナパネルCを備えている。隣接するアンテナパネルCは、各結合点(図示略)において、結合されている。各アンテナパネルCは、例えば、一辺がA(例えば、1m程度)の正方形であり、このようなアンテナパネルCが互いに結合されていることにより、パネル全体として1km四方の大型フェーズドアレイアンテナが構築されている。
【0017】
各アンテナパネルCには、複数のアンテナ素子20がX軸方向及びY軸方向に所定の距離間隔で、二次元配列されている。例えば、各アンテナパネルCには、X軸方向及びY軸方向に、互いの距離間隔がいずれもaとなるように、アンテナ素子20が2次元配列されている。なお、アンテナパネルCの端面とその端面に最も近いアンテナ素子20との距離は、いずれもa/2とされている。
【0018】
次に、本実施形態に係るフェーズドアレイアンテナの電気的構成について、図2を参照して説明する。
図2は、本実施形態に係るフェーズドアレイアンテナの電気的構成を示すブロック図である。この図において、図1と同一の構成要素には、同一の符号を付している。
【0019】
図2において、受信回路30は、受信用アンテナ素子120により受信されたパイロット信号を所定のレベルになるように増幅又は減衰して、角度検出回路40へ出力する。角度検出回路40は、RF干渉計を備えており、各アンテナパネルCが備える複数の受信用アンテナ素子120により受信されたパイロット信号の位相差を測ることにより、パイロット信号を送信してきた受電設備102(例えば、図6参照)の方向を求め、その方向を示す角度信号を演算処理部50へ出力する。
演算処理部50は、マイクロコンピュータを備えており、入力された角度信号に基づいて、後述の位相制御処理を実行することにより、各アンテナ素子20から出力されるマイクロ波の移相量をそれぞれ演算し、各可変移相器60へ出力する。
【0020】
一方、マイクロ波発生部60は、基準マイクロ波信号を生成して分波回路70へ出力する。分波回路70は、入力された基準マイクロ波信号を分波して、各アンテナ素子20にそれぞれ対応して設けられている可変移相器80に出力する。
各可変移相器80は、演算処理回路50からそれぞれ入力された初期位相信号に基づいて、分波回路70から入力された基準位相のマイクロ波に移相量を生じさせ、電力増幅器90へ出力する。
電力増幅器90は、アンテナ素子20にそれぞれ対応して設けられ、外部電源(宇宙太陽発電部)より供給された電力を可変移相器80から出力される信号の位相及び周波数のマイクロ波へ増幅し、アンテナ素子20へ出力する。
アンテナ素子20は、それぞれ電力増幅された各位相差を有するマイクロ波を受電設備102(図6参照)に向けて放射する。
【0021】
次に、上述した演算処理部50により行われる位相制御処理について説明する。本実施形態係る位相制御処理は、O−XYZ座標系に配置されたフェーズドアレイアンテナにおいて、列毎に行われるものとする。ここでは、説明の便宜上、図1に示したO−XYZ座標系に配置されたフェーズドアレイアンテナにおいて、Y=a/2の列に配置されたアンテナ素子20を一例として取り上げ、これらのアンテナ素子20から出力されるマイクロ波に対する位相制御処理について説明する。
【0022】
図3は、図1に示したフェーズドアレイアンテナにおいて、Y=a/2におけるZ−X断面図の一部を抜き出して示した図である。なお、以下の説明においては、図1において、最も左端に位置しているアンテナパネルをアンテナパネルC1とし、最も右端に位置しているアンテナパネルをアンテナパネルCnと定義する。また、図3には、これらのアンテナパネルC1乃至Cnのうち、M−1行、M行、M+1行に配置されているアンテナパネルCm−1、Cm、Cm+1が一例として抜き出されて示されている。
【0023】
まず、本実施形態に係る演算処理部50による位相制御処理においては、図3に示すようなX−Z平面において、アンテナパネル毎にパネル基準線L1乃至Ln(図示略、以下同様)が設定され、更に、全アンテナパネルC1乃至Cn(図示略、以下同様)において基準とされるアンテナ基準線Sが設定されている。
本実施形態において、上記パネル基準線L1乃至Lnは、各アンテナパネルC1乃至Cn上に設定された所定のパネル基準点P1乃至Pn(図示略、以下同様)をそれぞれ通り、且つ、上記パイロット信号の到来方向に直交するように設定される。ここでは、一例として、パネル基準点P1乃至Pnを各アンテナパネルC1乃至Cnの左端部(例えば、左端部におけるパネルの結合点)に設定している。更に、上記アンテナ基準線Sとして、アンテナパネルC1のパネル基準線L1を用いる。
【0024】
そして、本実施形態に係る演算処理部50により実行される位相制御処理においては、上述したアンテナ基準線Sと各アンテナパネルC1乃至Cnに配置されたそれぞれのアンテナ素子20との距離をそれぞれ求め(距離算出処理)、その距離に応じた移相量をアンテナ素子20毎に決定し(移相量決定処理)、決定した移相量を各アンテナ素子20に対して与えることにより、図5に示すように、全アンテナパネルC1乃至Cnに配置された全アンテナ素子20から出力されるマイクロ波の位相面をそろえることとしている。
【0025】
まず、図3に示したアンテナパネルCmに配置されているアンテナ素子のうち、このアンテナパネルCmのパネル基準点Pmから数えてn番目に配置されているアンテナ素子20m,nと上記アンテナ基準線Sとの間の距離DM,nは、以下の(1)式にて求めることができる。
【0026】
【数1】

【0027】
上記(1)式において、DMは、図3に示すように、アンテナ基準線Sとパネル基準線Lmとの間の距離であり、dm,nは、パネル基準線Lmとアンテナ素子20m,nとの間の距離である。
ここで、上記距離dm,nは、アンテナパネルCmのパネル基準点Pmからアンテナ素子20m,nまで、パネル面に沿って計られた距離K及びアンテナパネルCmのパネル面の法線方向とパイロット信号とがなす到来方向角度θmとを用いて、以下の(2)式にて、求めることができる(第1の距離算出処理;図4のステップSA1)。
【0028】
【数2】

【0029】
次に、上記(1)式における距離DMは、隣接するアンテナパネル間のパネル基準線間の距離(以下「パネル間距離」という)D1乃至Dn−1をそれぞれ求め、続いて、アンテナパネルCmとアンテナ基準線Sとの間に介在するアンテナパネルC1乃至Cm−1に係るパネル間距離D1乃至Dm−1を積算することにより求めることができる(第2の距離算出処理;図4のステップSA2)。
【0030】
まず、図3に示す隣接するアンテナパネルCmとCm+1のパネル間距離Dmは、パネルアンテナCmの長さAと上記到来方向角度θmとを用いて、以下の(3)で与えられる。
【0031】
【数3】

【0032】
そして、同様の手法により、アンテナパネルC1とCmとの間に介在するアンテナパネルC1乃至Cm−1におけるパネル間距離D1乃至Dm−1を求め、これらのパネル間距離D1乃至Dm−1を積算することにより、アンテナ基準線Sとパネル基準線Lmとの間の距離DMを求めることができる。これを式で表すと以下の(4)式のようになる。
【0033】
【数4】

【0034】
そして、上記(4)式に上記(3)式を代入することにより、上記(4)式は、以下の(5)式で表される。
【0035】
【数5】

【0036】
そして、上記(1)、(2)、及び(5)式を用いることにより、アンテナ基準線Sとアンテナ素子20m,nとの間の距離DM,nは、以下の(6)式のように表される。
【0037】
【数6】

【0038】
このようにして、演算処理部50は、各アンテナパネルC1乃至Cnに配置されている各アンテナ素子20のそれぞれについて、アンテナ基準線Sと各アンテナ素子との間の距離をそれぞれ算出する(第3の距離算出処理:図4のステップSA3)。
【0039】
そして、各アンテナ素子について、上記アンテナ基準線Sとの間の距離をそれぞれ求めると、演算処理部50は、この求めた距離に応じた移相量を算出する(図4のステップSA4)。この移相量は、距離に2π/λを乗算すればよく、以下の(7)式にて与えられる。
【0040】
【数7】

【0041】
このようにして、1列におけるアンテナ素子についてそれぞれ移相量を決定すると、その他の列におけるアンテナ素子についても、同様の位相制御処理を実行することにより、図1に示したフェーズドアレイアンテンナ上の全てのアンテナ素子について、それぞれ対応する移相量を決定する。
そして、全てのアンテナ素子について移相量をそれぞれ決定すると、演算処理部50は、決定した各移相量を図2に示した可変移相器80へ出力する(図4のステップSA5)。これにより、図5に示すように、全アンテナパネルに配置されているアンテナ素子から出力されるマイクロ波の位相面を全アンテナパネル間で揃えることが可能となり、送電効率を向上させることができる。
【0042】
なお、上述した実施形態においては、図1のように、O−XYZ座標系に配置したフェーズドアレイアンテナについて、列毎に位相制御処理を実行したが、この例に限られず、例えば、行毎に位相制御処理を実行するようにしても良い。
【0043】
また、上記(7)式を2次元に拡張すると、以下の(8)式のように表すことができ、下記の式を用いて上記位相制御処理を実行するようにしても良い。
【0044】
【数8】

【0045】
また、上述した位相制御処理を列毎、行毎にそれぞれ個別に実行することにより、各アンテナ素子に対して、移相量を2つずつ算出するようにしても良い。この場合、算出された2つの移相量を照合することにより、上述の手法により求められた移相量の信頼性を高めることが可能となる。つまり、フェーズドアレイアンテナが正常に機能している場合には、同一のアンテナ素子に対する列毎、行毎の算出結果である移相量は、ほぼ同一の値となるが、フェーズドアレイアンテナの一部に異常が生じていた場合には、列毎、行毎に得られた算出結果は、誤差が大きくなる。このように、両者の算出結果を照合し、算出誤差が予め設定されている許容誤差量を超えていた場合には、異常を検知するような構成としても良い。
【0046】
以上説明してきたように、本実施形態に係るフェーズドアレイアンテナによれば、アンテナ基準線と各アンテナ素子との間の距離をそれぞれ算出し、この距離に応じて各アンテナ素子に対する移相量を決定し、この移相量に応じた位相差を持つマイクロ波が各アンテナ素子から出力されるので、図5に示すように、各アンテナ素子から放射されるマイクロ波の位相面をアンテナパネル全体として揃えることが可能となる。これにより、送電の効率を向上させることができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
第1に、上述した実施形態においては、各パネルアンテナに設定されるパネル基準点として左端部を設定したが、この例に限られず、パネル基準点がパネルアンテナ面上のいずれかに設定されていれば、その位置については特に限定されない。また、各アンテナパネル間でパネル基準点の設定位置が異なっていても良い。
第2に、上述した実施形態においては、アンテナ基準線Sとして、各パネルアンテナに設定されたパネル基準線のうちのいずれかを採用していたが、この例に限られず、アンテナ基準線Sとして、必ずしもパネル基準線を用いる必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態に係るフェーズドアレイアンテナにおけるアンテナパネル及びアンテナ素子の配列を示した図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るフェーズドアレイアアンテナの電気的構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示したフェーズドアレイアンテナにおいて、Y=a/2におけるZ−X断面図の一部を抜き出して示した図である。
【図4】図3に示した演算処理部により実行される位相制御処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態に係るフェーズドアレイアンテナの効果を示す図である。
【図6】宇宙太陽発電システムについて示した説明図である。
【図7】従来のフェーズドアレイアンテナの問題点について示した説明図である。
【図8】従来のフェーズドアレイアンテナの問題点について示した説明図である。
【符号の説明】
【0049】
20 アンテナ素子
40 角度検出回路
50 演算処理部
60 マイクロ波発生部
70 分波回路
80 可変移相器
90 電力増幅器
C アンテナパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子が配列配置された複数のアンテナパネルを直線状又は平面状に接続した構成を有し、各前記アンテナ素子に入出力する信号の位相を制御することにより、受信設備から送信されたパイロット信号の到来方向に対し信号を放射するフェーズドアレイアンテナであって、
前記パイロット信号の到来方向と前記アンテナパネルとがなす到来方向角度に基づいて、前記パイロット信号の到来方向に直交するアンテナ基準線と各前記アンテナ素子との間の距離をそれぞれ算出する距離算出手段と、
算出された前記距離に応じて、各前記アンテナ素子から放射させる信号の移相量をそれぞれ決定する移相量決定手段と
を具備するフェーズドアレイアンテナ。
【請求項2】
前記アンテナパネル毎に、各前記アンテナパネル上に設定されたパネル基準点を通るとともに前記到来方向角度に直交するパネル基準線が設定され、且つ、前記パネル基準線のうちのいずれかが前記アンテナ基準線として用いられ、
前記距離算出手段は、
前記パネル基準線とそのパネル基準線が設定された前記アンテナパネルに配列配置されている各前記アンテナ素子との間の距離を前記到来方向角度に基づいてそれぞれ算出する第1の距離算出手段と、
隣接する前記アンテナパネルの前記パネル基準線間の距離を算出し、算出した前記パネル基準線間の距離を積算することにより、前記アンテナ基準線と各前記パネル基準線との間の距離をそれぞれ算出する第2の距離算出手段と、
前記第1の距離算出手段による算出結果と、前記第2の距離算出手段による算出結果とを用いることにより、前記アンテナ基準線と各前記アンテナ素子との間の距離をそれぞれ算出する第3の距離算出手段と
を具備する請求項1に記載のフェーズドアレイアンテナ。
【請求項3】
前記パネル基準点は、前記アンテナパネルの端部に設定されている請求項2に記載のフェーズドアレイアンテナ。
【請求項4】
複数のアンテナ素子が配列配置された複数のアンテナパネルを直線状又は平面状に接続した構成を有するフェーズドアレイアンテナに用いられ、各前記アンテナ素子に入出力する信号の位相を制御することにより、受信設備から送信されたパイロット信号の到来方向に対し信号を放射させるフェーズドアレイアンテナの位相制御方法であって、
前記パイロット信号の到来方向と前記アンテナパネルとがなす到来方向角度に基づいて、前記パイロット信号の到来方向に直交するアンテナ基準線と各前記アンテナ素子との間の距離をそれぞれ算出する距離算出過程と、
算出された前記距離に応じて、各前記アンテナ素子から放射させる信号の移相量を決定する移相量決定過程と
を具備するフェーズドアレイアンテナの位相制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−287451(P2006−287451A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102757(P2005−102757)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(598048118)
【Fターム(参考)】