説明

フェーズドアレーアンテナ

【課題】 レーダ装置に用いるフェーズドアレーアンテナにおいて、送信電力の一部が素子間相互結合により送受切り替えスイッチにつながれた終端器で消費されるため、アンテナの効率が低下する。
【解決手段】 信号の送受信を行う第1のアンテナと、信号の受信のみを行う第2のアンテナと、前記第1のアンテナに送信信号を分配するとともに前記第1のアンテナと前記第2のアンテナからの受信信号を合成する給電回路とを備えたフェーズドアレーアンテナであって、前記第2のアンテナは、前記第1のアンテナが前記送信信号を送信する時にもれこんだ送信信号を反射するスタブを設けることで、信号送信時の効率低下を防ぐようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はフェーズドアレーアンテナに関するものである。詳しくは、航空機、艦船または地上用機器に搭載するレーダ装置に用いるフェーズドアレーアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェーズドアレーアンテナは、素子アンテナを平面または曲面状に並べたアレーアンテナの各素子アンテナにビーム走査を行うための移相器を設けたものである。従来の機械的に駆動するアンテナに比べ、高速にビーム走査を行うことができ、また、各素子アンテナに増幅器を分散配置することが可能であることから、信頼性の向上が見込めるため、航空機、艦船または地上用レーダ装置のアンテナとして盛んに用いられている。
【0003】
従来のフェーズドアレーアンテナでは、後でも説明するように、送信信号の一部は素子アンテナと給電線路間の不整合や素子間の相互結合による隣接素子アンテナからのもれこみにより、素子アンテナからサーキュレータに返ってくる。これらの電力は低雑音増幅器を保護するために、送受切り替えスイッチを介して終端器に送られ、熱に変えられる。
【0004】
素子間相互結合による隣接素子アンテナからのもれこみによる効率低下は、素子間隔が狭い場合に顕著であり、たとえば、素子間隔がλ/2(λは運用波長)の無限平面アレーの場合、素子間相互結合による理論的な効率上限はπ/4であることが知られている。
この場合、高電力増幅器で付与される電力の内、20%以上が必ず終端器で消費されることになる。
【0005】
このような、素子間結合による効率低下を防ぐ技術として、与えられた配列格子の格子点に複数の素子アンテナを設けてなるアレーアンテナ装置において、複数の素子アンテナの中から素子アンテナの間引きを行う際に、励振しない間引き素子アンテナの放射素子をアレーアンテナの開口面上に残したまま、励振しない間引き素子アンテナの給電点に取り付けた終端抵抗を取り除くようにした技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4515925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の技術では、励振しない間引き素子アンテナの放射素子を開口面に残したまま、励振しない間引き素子の給電点に取り付けた終端素子を取り除くとともに、給電点との間の給電線路を取り除いたのみであるので、素子間隔や、素子形式によっては間引き素子で反射されたRF信号が放射素子からのRF信号に逆相で重畳されることで、アンテナ覆域内の素子アンテナ利得を低下させる。
【0008】
また、素子アンテナにより、整合状態が異なることで、隣接素子で反射され、再放射したRF信号が相互結合により受信されることによる素子パターンのばらつきを増大させることにより、受信サイドローブを上昇させる等の問題を引き起こす可能性があった。
このような受信サイドローブの上昇はレーダ装置において受信クラッタ電力の増大を招き、探知距離の減少等の問題を引き起こしていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るフェーズドアレーアンテナは、信号の送信および受信を行う第1のアンテナと、信号の受信を行う第2のアンテナと、前記第1のアンテナに送信信号を分配するとともに前記第1のアンテナと前記第2のアンテナからの受信信号を合成する給電回路とを備えたフェーズドアレーアンテナであって、前記第2のアンテナは、前記第1のアンテナが前記送信信号を送信する際に前記第2のアンテナにもれ込んだ前記送信信号を所定の位相で反射するスタブと接続され、前記第2のアンテナが前記受信信号の受信の際には前記受信信号を増幅する増幅器と可変減衰器と位相器を介して前記給電回路と接続される。
【発明の効果】
【0010】
この発明のフェーズドアレーアンテナによれば、送信時には、隣接する間引き素子の終端器での電力消費を抑えてアンテナ効率を向上できるとともに、受信時には、全素子を用いてビームを形成することで、受信ビームで要求される低サイドローブ特性を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1に係るフェーズドアレーアンテナの構成図である。
【図2】本発明の他の実施の形態に係るフェーズドアレーアンテナの構成図である。
【図3】従来のフェーズドアレーアンテナの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここでは、まず従来のフェーズドアレイアンテナの構成と動作の説明により課題をあらためて示した後に、この発明に係るフェーズドアレイアンテナについて説明する。
【0013】
図3は従来のフェーズドアレーアンテナの構成の一例を示す図である。
図3において1は素子アンテナ、2は素子アンテナに接続され、送受信号を分離するサーキュレータ、3、7は送受切り替えスイッチ、4は送信信号を増幅する高電力増幅器、5はサーキュレータからもれこんだ送信信号を吸収する終端器、6は受信信号を増幅する低雑音増幅器、8は移相器、9は各素子アンテナに送信信号を分配し、受信信号を合成する給電回路である。
なお、図3において(a)は送信状態で、送受切替スイッチ3、7が共に送信側にたおれている場合を示す。図3(b)は受信状態で、送受切替スイッチが受信側に倒れている場合を示す。
【0014】
次に動作について説明する。送信状態(図3(a))において、給電回路9で分配された信号は移相器8で所望のビームを形成するための位相を与えられ、送受切り替えスイッチ7を介して高電力増幅器4で増幅されてサーキュレータ2に送られ、素子アンテナ1から放射される。
素子アンテナ1から放射されたRF信号は移相器であたえられた位相に基づき空間で所望のビームを形成し、遠方の目標で反射され、受信信号としてアンテナに帰ってくる。
【0015】
RF信号が戻ってくるまでの時間差により、受信状態(b)において各素子アンテナで受信された受信信号は、サーキュレータ2と送受切り替えスイッチ3を介して低雑音増幅器6へ送られ、増幅されたのち、移相器8にて所望のビームを形成するための位相を与えられ、給電回路9にて合成されて、受信機に送られる。
【0016】
近年のデバイス技術の進歩により、高電力増幅器4に使われるデバイスは従来のガリウム砒素からガリウム窒素、シリコンカーバイド等の高電圧・高出力デバイスにシフトしている。これらのデバイスにより、マイクロ波帯において数十〜百ワットレベルの出力を1台の高電力増幅器で実現することが可能になりつつある。
【0017】
したがって、フェーズドアレーアンテナにおいても、従来にくらべ少ない素子数で同一の送信電力を得ることが可能である。
しかしながら、このような高電力増幅器は高価であることから、アレー開口上において高電力増幅器を接続する素子を少なくする。いわゆる素子間引きにより、アレー開口利得の低下を抑えながら高電力増幅器を削減することが考えられる。
【0018】
特許文献1では、励振しない間引き素子アンテナの放射素子を開口面に残したまま、励振しない間引き素子の給電点に取り付けた終端素子を取り除くとともに、給電点との間の給電線路を取り除いたのみであるので、素子間隔や、素子形式によっては間引き素子で反射されたRF信号が放射素子からのRF信号に逆相で重畳されることで、アンテナ覆域内の素子アンテナ利得を低下させるという問題があった。
【0019】
また、素子アンテナにより、整合状態が異なることで、隣接素子で反射され、再放射したRF信号が相互結合により受信されることによる素子パターンのばらつきを増大させることにより、受信サイドローブを上昇させる等の問題を引き起こす可能性があった。
このような受信サイドローブの上昇はレーダ装置において受信クラッタ電力の増大を招き、探知距離の減少等の問題を引き起こしていた。
【0020】
実施の形態1.
次に、この発明の実施の形態1に係るフェーズドアレーアンテナについて、図を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施の形態1に係るフェーズドアレーアンテナの構成を示す図である。
図1において1はON素子アンテナ(信号の送受信を行う励振する素子アンテナ。第1のアンテナに相当)、2は励振素子アンテナに接続され、送受信号を分離するサーキュレータ(送受信号切替部の一例に相当)、3は送受切り替えスイッチ(第1の送受切り替えスイッチに相当)、4は送信信号を増幅する高電力増幅器、5はサーキュレータからもれこんだ送信信号を吸収する終端器、6は受信信号を増幅する低雑音増幅器、7は送受切り替えスイッチ(第2の送受切り替えスイッチに相当)、8は移相器、9は各素子アンテナに送信信号を分配し、受信信号を合成する給電回路、10は受信信号に適切な励振分布を与える可変減衰器、11は間引き素子アンテナ(信号の受信のみを行う間引き素子アンテナ。第2のアンテナに相当)、12は間引き素子においてもれ込んだRF信号を適切な位相で反射するスタブ、31は送受切り替えスイッチ(第3の送受切り替えスイッチに相当)、71は送受切り替えスイッチ(第4の送受切り替えスイッチに相当)である。
なお、図1(a)は送信状態であり、送受切替スイッチ3、7、31、71が送信側にたおれている場合を示し、図1(b)は受信状態で、送受切替スイッチ3、7、31、71が受信側にたおれている場合を示す。
【0021】
次に、実施の形態1に係るフェーズドアレーアンテナの動作について説明する。
図1の送信状態(図1(a))において、給電回路9において分配された信号は移相器8で所望のビームを形成するための位相を与えられ、送受切り替えスイッチ7を介して高電力増幅器4で増幅されてサーキュレータ2に送られ、ON素子アンテナ1から放射される。
ON素子アンテナ1から放射されたRF信号は移相器8で与えられた位相に基づき空間で所望のビームを形成する。
【0022】
このときON素子アンテナ1から放射されたRF信号の一部は、素子間相互結合により隣接する間引き素子11に結合するが、送受切り替えスイッチ31を介して、予め設定したスタブ12で適切な位相で反射されることで、再度、間引き素子11から放射されることで、ON素子アンテナ1からの送信信号に重畳され、ON素子アンテナ1の効率向上に寄与する。
【0023】
RF信号が戻ってくるまでの時間差により、受信状態(図1(b))において各ON素子アンテナ1で受信された受信信号は、サーキュレータ2、送受切り替えスイッチ3を介して低雑音増幅器6へ送られ、増幅されたのち、移相器8にて所望のビームを形成するための位相を与えられる。さらに、減衰器10にて所望の励振分布を与えられ、給電回路9にて合成されて、受信機に送られる。
また、間引き素子11で受信された受信信号は送受切り替えスイッチ31を介して、低雑音増幅器6へ送られ、増幅された後、移相器8にて所望のビームを形成するための位相を与えられる。更に、減衰器10にて所望の励振分布を与えられ、ON素子からの受信信号同様、給電回路9にて合成され、受信ビームを形成する。
【0024】
ここで、減衰器10には低サイドローブを実現するための分布、たとえばドルフチェビシェフ分布、テイラー分布に応じた減衰量を設定するとともに、ON素子の系統に対し間引き素子の系統ではサーキュレータ2が無いこと等による系統間の利得のばらつきを補正する減衰量を設定する。
【0025】
また、受信状態ではすべての素子アンテナに給電線路と低雑音増幅器がつながれており、素子アンテナの整合条件が全素子で同じであることから、隣接素子で反射され、再放射したRF信号が相互結合により受信されることによる受信素子パターンのばらつきが小さくなり、受信ビームで要求される低サイドローブ特性を容易に得ることができる。
【0026】
以上のように、この発明の実施例によれば、従来のフェーズドアレーアンテナでは送信時に、隣接する間引き素子の終端器で消費されていた電力を、スタブ12にて反射、再放射させることで、アンテナの効率を向上させるとともに、受信時には全素子を用いてビームを形成することで、受信ビームで要求される低サイドローブ特性を容易に得ることができる。
【0027】
なお、本実施の形態では、送信信号と受信信号を分離する機器としてサーキュレータ2を用いているが、このサーキュレータに限るものではなく、送受信号を分離する機能を備える機器であればよい。例えば、送受切り替えスイッチでもよい。
【0028】
また、本実施の形態では、ON素子アンテナ(励振素子アンテナ)1は送信と受信を行っているが、信号の送信のみを行う送信専用のアンテナであってもよい。この場合、図2に示すように、フェーズドアレーアンテナは送信専用のアンテナと受信専用のアンテナを平面または曲面状に並べた構成であり、用途に応じて、このような送信専用アンテナと受信専用アンテナを配置したアンテナ構成としてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 ON素子アンテナ(第1のアンテナ)、2 サーキュレータ、3 送受切り替えスイッチ(第1の送受切り替えスイッチ)、4 高電力増幅器、5 終端器、6 低雑音増幅器、7 送受切り替えスイッチ(第2の送受切り替えスイッチ)、8 移相器、9 給電回路、10 可変減衰器、11 間引き素子アンテナ(第2のアンテナ)、12 スタブ、31 送受切り替えスイッチ(第3の送受切り替えスイッチ)、71 送受切り替えスイッチ(第4の送受切り替えスイッチ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号の送信および受信を行う第1のアンテナと、信号の受信を行う第2のアンテナと、前記第1のアンテナに送信信号を分配するとともに前記第1のアンテナと前記第2のアンテナからの受信信号を合成する給電回路とを備えたフェーズドアレーアンテナであって、
前記第2のアンテナは、前記第1のアンテナが前記送信信号を送信する際に前記第2のアンテナにもれ込んだ前記送信信号を所定の位相で反射するスタブと接続され、前記第2のアンテナが前記受信信号の受信の際には前記受信信号を増幅する増幅器と可変減衰器と位相器を介して前記給電回路と接続されることを特徴とするフェーズドアレーアンテナ。
【請求項2】
前記第1のアンテナは、送信信号と受信信号を分離する送受信号切換部と接続されており、前記送信信号の送信の際に前記送受信号切換部の片端は前記送信信号を増幅する増幅器と位相器を介して前記給電回路と接続されるとともに、前記送受信号切換部の他端は終端器と接続され、前記受信信号の受信の際に前記送受信号切換部の片端は前記増幅器を介して開放されるとともに、前記送受信号切換部の他端は前記受信信号を増幅する増幅器と可変減衰器と位相器を介して前記給電回路と接続されることを特徴とする請求項1記載のフェーズドアレーアンテナ。
【請求項3】
信号の送信および受信を行う第1のアンテナと、信号の受信を行う第2のアンテナと、前記第1のアンテナに送信信号を分配するとともに前記第1のアンテナと前記第2のアンテナからの受信信号を合成する給電回路とを備えたフェーズドアレーアンテナであって、
前記第1のアンテナに接続され、送信信号と受信信号を分離する送受信号切換部と、
受信信号が出力される前記送受信号切換部の一方の端子に接続され、接続先を終端器と前記受信信号を増幅する受信信号増幅器との間で切り替える第1の送受切り替えスイッチと、
前記受信信号増幅器に接続され、前記受信信号に所定の励振分布を与える可変減衰器と、
前記送受信号切換部の他方の端子に接続され、送信信号を増幅して出力する送信信号増幅器と、
前記給電回路に接続された位相器と接続され、接続先を前記可変減衰器と前記送信信号増幅器との間で切り替える第2の送受切り替えスイッチと、
前記第2のアンテナに接続され、接続先を前記受信信号を増幅する受信信号増幅器と入力された信号を所定の位相で反射するスタブとの間で切り替える第3の送受切り替えスイッチと、
前記受信信号増幅器に接続され、前記受信信号に所定の励振分布を与える可変減衰器と、
前記給電回路に接続された位相器と接続され、接続先を前記可変減衰器と終端器との間で切り替える第4の送受切り替えスイッチと、
を備え、
送信時において、前記第1、第2、第3、第4の送受切り替えスイッチの各々の接続先は、前記終端器、前記送信信号増幅器、前記スタブ、前記終端器であり、
受信時において、前記第1、第2、第3、第4の送受切り替えスイッチの各々の接続先は、前記受信信号増幅器、前記可変減衰器、受信信号増幅器、前記可変減衰器である、
ことを特徴とするフェーズドアレーアンテナ。
【請求項4】
前記第1のアンテナと前記第2のアンテナは、平面または曲面状に隣接して配置されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載のフェーズドアレーアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−26817(P2013−26817A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159696(P2011−159696)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】