フォイル軸受
【課題】軸受隙間に生じる流体の圧力を高め、フォイル軸受による負荷容量を高める。
【解決手段】リーフフォイル(リーフ30)の自由端31に、複数の切り欠き部31aと、軸受面33に連続した複数のランド部31bとを交互に設ける。切り欠き部31aを介して流体を流動させることにより、スラスト軸受隙間Tの大隙間部T2の流体をダイナミックに流動させることができ、小隙間部T1に送り込む流体が増大して流体の圧力が高められる。
【解決手段】リーフフォイル(リーフ30)の自由端31に、複数の切り欠き部31aと、軸受面33に連続した複数のランド部31bとを交互に設ける。切り欠き部31aを介して流体を流動させることにより、スラスト軸受隙間Tの大隙間部T2の流体をダイナミックに流動させることができ、小隙間部T1に送り込む流体が増大して流体の圧力が高められる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜状のリーフフォイルに形成された軸受面と、この軸受面で形成される楔状の軸受隙間に生じる流体膜の圧力で、回転部材を支持するフォイル軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンや過給機(ターボチャージャ等)の軸は高速で回転駆動される。また、軸に取り付けられたタービン翼は高温に晒される。そのため、これらの軸を支持する軸受には、高温・高速回転といった過酷な環境に耐え得ることが要求される。この種の用途の軸受として、油潤滑の転がり軸受や油動圧軸受を使用する場合もある。しかし、潤滑油などの液体による潤滑が困難な場合、エネルギー効率の観点から潤滑油循環系の補機を別途設けることが困難な場合、あるいは液体のせん断による抵抗が問題になる場合、等の条件下では、油を用いた軸受の使用は制約を受ける。そこで、上記のような条件下での使用に適合する軸受として、空気動圧軸受が着目されている。
【0003】
空気動圧軸受としては、回転側と固定側の双方の軸受面を剛体で構成したものが一般的である。しかしながら、この種の空気動圧軸受では、回転側と固定側の軸受面間に形成される軸受隙間の管理が不十分であると、安定限界を超えた際にホワールと呼ばれる自励的な軸の触れ回りを生じ易い。そのため、使用される回転速度に応じた隙間管理が重要となる。しかし、ガスタービンや過給機のように、温度変化の激しい環境では熱膨張の影響で軸受隙間の幅が変動するため、精度の良い隙間管理は極めて困難となる。
【0004】
温度変化の大きい環境下でも隙間管理を容易にできる軸受としてフォイル軸受が知られている。フォイル軸受は、曲げに対して剛性の低い可撓性を有する薄膜(フォイル)で軸受面を構成し、軸受面のたわみを許容することで荷重を支持するものである。フォイル軸受では、フォイルの可撓性により、軸の回転速度や荷重、周囲温度等の運転条件に応じた適切な軸受隙間が形成される。このため、フォイル軸受は安定性に優れるという特徴があり、一般的な空気動圧軸受と比較して高速での使用が可能である。また、一般的な動圧軸受では、数μm程度の軸受隙間を常時確保する必要があるため、製造時の公差、さらには温度変化が激しい場合の熱膨張まで考慮すると、厳密な隙間管理は困難である。これに対して、フォイル軸受の場合には、数十μm程度の軸受隙間に管理すれば足り、その製造や隙間管理が容易となる利点を有する。
【0005】
また、ガスタービンや過給機の軸には、タービンの高速回転により発生する気流のスラスト方向の反力が加わるため、軸をラジアル方向だけでなくスラスト方向にも支持する必要がある。例えば、特許文献1〜3には、回転軸をラジアル方向に支持するフォイル軸受が示されている。また、特許文献4〜6には、回転軸をスラスト方向に支持するフォイル軸受が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−364643号公報
【特許文献2】特開2003−262222号公報
【特許文献3】特開2009−299748号公報
【特許文献4】特開昭61−36725号公報
【特許文献5】実開昭61−38321号公報
【特許文献6】特開昭63−195412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、図20に示すフォイル軸受100は、スラスト方向の支持に用いられるものであり、複数(図示例では8枚)のリーフフォイル110を有するいわゆるリーフ型のフォイル軸受である。各リーフフォイル110は、円周方向一端が自由端111とされ、円周方向他端が固定端112として円盤状のスラスト部材120の端面に固定される。各リーフフォイル110にはスラスト軸受面113が形成される。図21に示すように、回転部材130の端面131とリーフフォイル110のスラスト軸受面113との間には、楔状のスラスト軸受隙間140が形成される。リーフフォイル110の自由端111付近においてスラスト軸受隙間140の小隙間部141が形成され、自由端111を越えた直後(図示例では固定端112付近)にスラスト軸受隙間140の大隙間部142が形成される。回転部材130が矢印C方向に回転すると、スラスト軸受隙間140の流体膜が流動する。このとき、小隙間部141を流れる流体は高圧となり、大隙間部142を流れる流体は相対的に低圧となる。従って、図22に示すように、リーフフォイル110の自由端111付近には高圧領域Hが形成され、リーフフォイル110の固定端112付近には低圧領域Lが形成される。尚、図21のバネ150は、リーフフォイル110のバネ性を模式的に表すものである。
【0008】
このとき、大隙間部142を流れる流体の流速は均一ではない。すなわち、大隙間部142のうち、回転部材130の端面付近(図示例では上方部分)では、小隙間部141(高圧領域H)から高圧の流体が流入することで流速が速くなる(図21の矢印v1’参照)。一方、大隙間部142のうち、スラスト軸受面113付近(図示例では下方部分)における流体は、小隙間部141から流入する高圧の流体の影響を受けにくいため、流速が遅い(図21の矢印v2’参照)。このため、大隙間部142の図中下方部分の流体は小隙間部141へほとんど流入せず、小隙間部141における流体の圧力が高まりにくい。
【0009】
以上のような問題は、リーフ型のフォイル軸受に生じる問題であり、スラスト方向に支持に用いられるフォイル軸受だけでなく、ラジアル方向の支持に用いられるフォイル軸受においても同様に生じる。
【0010】
そこで、本発明は、軸受隙間に生じる流体の圧力を高め、リーフ型のフォイル軸受の負荷容量を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するためになされた本発明は、固定部材と、回転部材と、固定部材と回転部材の間に配置され、円周方向一端を自由端とした複数のリーフフォイルとを備え、リーフフォイルに設けられた軸受面で楔状の軸受隙間を形成し、この軸受隙間に生じる流体膜で回転部材を支持するフォイル軸受であって、リーフフォイルの自由端に、複数の切り欠き部と、軸受面に連続した複数のランド部とを交互に設けたことを特徴とする。
【0012】
このように、リーフフォイルの自由端に、複数の切り欠き部及びランド部を交互に設けることで、軸受隙間の流体をダイナミックに流動させ、軸受隙間の流体の圧力を高めることができる。その理由は次の通りである。例えば図6に示すように、リーフフォイル30の自由端31をジグザグ状に形成し、複数の切り欠き部31a及びランド部31bを交互に設けた場合、図4に示すように、自由端31付近にスラスト軸受隙間Tの小隙間部T1が形成され、回転部材(フランジ部40)が矢印D方向に回転すると、小隙間部T1の流体の圧力が高められる。この高圧の流体の一部が、切り欠き部31aを介してリーフフォイル30の裏側(軸受面33と反対側)に抜けることにより(図4の矢印A参照)、スラスト軸受隙間Tの大隙間部T2のスラスト部材21側部分(図中下方部分)の流体が流動する(図4の矢印v2参照)。その結果、スラスト軸受隙間Tの大隙間部T2における流体の運動量が増大して、図21に示す場合と比べて大隙間部T2から小隙間部T1へ流入する流体の量が増えるため、小隙間部T1における圧力が高められる。
【0013】
リーフフォイルの自由端は、例えばジグザグ状(図5及び図6参照)に形成したり、波形(図7参照)に形成したりすることができる。
【0014】
上記のフォイル軸受では、例えば、1枚のフォイルに、複数のリーフフォイルと、複数のリーフフォイルを連結する連結部とを一体に設けることができる。これにより、複数のリーフフォイルを一度に固定部材又は回転部材に取り付けることができる。また、このようなフォイルを複数組み合せてフォイル部材を構成すれば、より多くのリーフフォイルの一度に固定部材又は回転部材に取り付けることができる。
【0015】
上記のようなフォイル軸受は、高速運転時にはリーフフォイルの軸受面とこれに対向する面との間に流体膜が形成され、これらの面が非接触状態となるが、起動時や停止時の低速回転状態では、リーフフォイルの軸受面やこれに対向する面の表面粗さ以上の流体膜を形成することが困難となる。そのため、回転部材と固定部材とがリーフフォイルを挟んで接触し、リーフフォイルの表面が損傷する恐れがある。このため、リーフフォイルの軸受面に被膜を設け、損傷を防止することが好ましい。
【0016】
また、複数のリーフフォイル同士、あるいは、リーフフォイルとリーフフォイルが固定される面との間は、荷重変動や振動に伴い微小変位の摺動が生じている。このため、リーフフォイルの軸受面と反対側の面に被膜を設け、摺動による損傷を防止することが好ましい。
【0017】
フォイル軸受は、液体での潤滑が困難な箇所に用いられることが多いので、上記のような被膜には、DLC膜やチタンアルミナイトライド膜、あるいは二硫化モリブデン膜を用いることができる。DLC膜やチタンアルミナイトライド膜は硬質で摩擦係数が低く、強度面で優れている。一方、二硫化モリブデン膜は、スプレー等で噴射することができるため、被膜を簡単に形成することができる。
【0018】
以上のような構成は、スラスト方向の支持に用いられるフォイル軸受だけでなく、ラジアル方向の支持に用いられるフォイル軸受にも適用できる。
【0019】
また、以上のようなフォイル軸受は、ガスタービンや過給機のロータ支持用として好適に使用できる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、軸受隙間の流体の運動量を増大させることにより、軸受隙間に生じる流体膜の圧力が高められ、フォイル軸受の負荷容量を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】マイクロガスタービンを概念的に示す図である。
【図2】上記マイクロガスタービンのロータの支持構造を示す断面図である。
【図3】上記ロータ支持構造に組み込まれたラジアルフォイル軸受の断面図である。
【図4】上記ロータ支持構造に組み込まれたスラストフォイル軸受であって、本発明の実施形態に係るスラストフォイル軸受の側面図である。
【図5】上記スラストフォイル軸受の軸受部材の斜視図である。
【図6】上記スラストフォイル軸受のリーフフォイルの平面図である。
【図7】他の実施形態に係るスラストフォイル軸受のリーフフォイルの平面図である。
【図8】他の実施形態に係るスラストフォイル軸受のリーフフォイルの平面図である。
【図9】他の実施形態に係るスラストフォイル軸受の軸受部材の平面図である。
【図10】他の実施形態に係るスラストフォイル軸受の軸受部材の平面図である。
【図11】他の実施形態に係るスラストフォイル軸受の軸受部材の斜視図である。
【図12】図11のスラストフォイル軸受のフォイルの平面図である。
【図13】(a)〜(c)は、図11のスラストフォイル軸受の2枚のフォイルを組み付ける様子を示す斜視図である。
【図14】本発明の実施形態に係るラジアルフォイル軸受のフォイルの平面図である。
【図15】上記ラジアルフォイル軸受の断面図である。
【図16】他の実施形態に係るラジアルフォイル軸受の断面図である。
【図17】上記ラジアルフォイル軸受のフォイル部材の斜視図である。
【図18】(a)は上記フォイル部材の組立方法を説明する平面図であり、(b)は同側面図である。
【図19】過給機を概念的に示す図である。
【図20】従来のフォイル軸受の斜視図である。
【図21】図20のフォイル軸受の側面図である。
【図22】図20のフォイル軸受のリーフフォイルの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1に、マイクロガスタービンと呼ばれるガスタービン装置の構成を示す。このマイクロガスタービンは、翼列を形成したタービン1及び圧縮機2と、発電機3と、燃焼器4と、再生器5とを主に備える。タービン1、圧縮機2、及び発電機3には、水平方向に延びる共通の軸6が設けられ、この軸6と、タービン1および圧縮機2とで一体回転可能のロータが構成される。吸気口7から吸入された空気は、圧縮機2で圧縮され、再生器5で加熱された上で燃焼器4に送り込まれる。この圧縮空気に燃料を混合して燃焼させ、このときの高温、高圧のガスでタービン1を回転させる。タービン1の回転力が軸6を介して発電機3に伝達され、発電機3が回転することにより発電し、この電力がインバータ8を介して出力される。タービン1を回転させた後のガスは比較的高温であるため、このガスを再生器5に送り込んで燃焼前の圧縮空気との間で熱交換を行うことで、燃焼後のガスの熱を再利用する。再生器5で熱交換を終えたガスは、排熱回収装置9を通った後、排ガスとして排出される。
【0024】
図2に、ロータの支持構造、特に、タービン1と圧縮機2との軸方向間における軸6の支持構造を示す。この領域は高温、高圧のガスで回転されるタービン1に隣接しているため、ここでは空気動圧軸受、特にフォイル軸受が好適に使用される。具体的には、軸6をラジアル方向に支持するラジアルフォイル軸受10と、軸6に設けられたフランジ部40を両スラスト方向に支持するスラストフォイル軸受20とで、ロータが回転自在に支持される。本実施形態では、本発明の一実施形態に係るフォイル軸受をスラストフォイル軸受20に適用した場合を説明する。
【0025】
ラジアルフォイル軸受10は、図3に示すように、内周に軸6が挿入され、ケーシング42(図2参照)に固定された円筒状の外方部材11と、外方部材11の内周面11aに固定され、円周方向に並べて配された複数のリーフフォイル(リーフ12)とで構成される。
【0026】
リーフ12は、ばね性に富み、かつ加工性のよい金属、例えば鋼材料や銅合金からなる厚さ20μm〜200μm程度の帯状フォイルで形成される。本実施形態のように流体膜として空気を用いる空気動圧軸受では、雰囲気に潤滑油が存在しないため、油による防錆効果は期待できない。鋼材料や銅合金の代表例として、炭素鋼や黄銅を挙げることができるが、一般的な炭素鋼では錆による腐食が発生し易く、黄銅では加工ひずみによる置き割れを生じることがある(黄銅中のZnの含有量が多いほどこの傾向が強まる)。そのため、帯状フォイルとしては、ステンレス鋼もしくは青銅製のものを使用するのが好ましい。
【0027】
各リーフ12は、金属製のフォイルで形成され、円周方向一方(軸6の回転方向(矢印参照)先行側)の端部12aが自由端とされ、円周方向他方の端部12bが外方部材11に固定される。リーフ12の固定端12bは、外方部材11の内周面11aに形成された軸方向溝11bに嵌合固定される。リーフ12の自由端12a側の一部領域は、他のリーフ12と半径方向に重ねて配される。複数のリーフ12の内径側の面は、孔や段差のない平滑な曲面状をなしたラジアル軸受面12cを構成し、各リーフ12のラジアル軸受面12cと軸6の外周面6aとの間に、円周方向一方へ向けて半径方向幅を狭めた楔状のラジアル軸受隙間Rが形成される。
【0028】
スラストフォイル軸受20は、図4に示すように、軸6の外周面6aから外径に突出して設けられたフランジ部40(回転部材、図2参照)と、ケーシング42に固定された円盤状のスラスト部材21(固定部材、図5参照)と、フランジ部40とスラスト部材21との間に配された複数のリーフフォイル(リーフ30)とを備える。本実施形態では、フランジ部40の軸方向両側に軸受部材20aが設けられ(図2参照)、軸受部材20aは、図5に示すように、円盤状のスラスト部材21(固定部材)と、スラスト部材21の端面21aに円周方向等間隔に並べた状態で固定された複数のリーフ30とで構成される。
【0029】
リーフ30は、上記のリーフ12と同様の材質及び厚さを有する金属製の1枚のフォイルからなり、スラスト部材21の円周方向に沿った扇形を成している。リーフ30の円周方向一方(軸6の回転方向先行側、図中左側)の端部は自由端31とされ、円周方向他方の端部はスラスト部材21に固定された固定端32とされる。各リーフ30のうち、スラスト部材21と反対側の面には、フランジ部40側を凸とする曲面状のスラスト軸受面33が設けられる。スラスト軸受面33は、孔や段差のない平滑な曲面状をなす。尚、バネ30aは、リーフ30のバネ性を模式的に表すものであり、実際には設けられていない。
【0030】
各リーフ30の自由端31には、図6に示すように、複数の切り欠き部31aと、スラスト軸受面33と連続したランド部31bとが、自由端31の延在方向(本実施形態では半径方向)で交互に設けられる。図示例では、自由端31をジグザグ状に形成することで、三角形の切り込み部31a及びランド部31bが交互に形成される。
【0031】
軸6が円周方向一方に回転すると、ラジアルフォイル軸受10の各リーフ12のラジアル軸受面12cと軸6の外周面6aとの間に、円周方向一方へ向けて半径方向幅を狭めた楔状のラジアル軸受隙間Rが形成される(図3参照)。このラジアル軸受隙間Rに生じる流体膜(空気膜)で、軸6がラジアル方向に非接触支持される。これと同時に、スラストフォイル軸受10の各リーフ30のスラスト軸受面33とフランジ部40の軸方向両側の端面41との間に、円周方向一方へ向けて軸方向幅を狭めたスラスト軸受隙間Tが形成される(図4参照)。このスラスト軸受隙間Tに生じる流体膜(空気膜)で、軸6が両スラスト方向に非接触支持される。尚、実際のラジアル軸受隙間R及びスラスト軸受隙間Tの幅は数十μm程度の微小なものであるが、図3及び図4ではその幅を誇張して描いている。
【0032】
このとき、図4に示すように、スラスト軸受隙間Tの小隙間部T1における高圧の流体の一部は、そのまま軸6の回転方向先行側に抜け、これにより大隙間部T2のフランジ部40付近(図中上方部分)の流体が流動する(図4の矢印v1参照)。これと同時に、小隙間部T1の流体の一部が切り欠き部31aを介してリーフ30の裏側(図中下方)に抜けることにより、大隙間部T2のスラスト軸受面33付近(図中下方部分)の流体が流動する(図4の矢印v2参照)。これにより、大隙間部T2全体の流体がダイナミックに流動し、大隙間部T2から次の小隙間部T1に流入する流体量が増大するため、小隙間部T1に生じる圧力を高めてスラスト方向の負荷容量を高めることができる。
【0033】
また、このとき、ラジアルフォイル軸受10のリーフ12及びスラストフォイル軸受20のリーフ30の有する可撓性により、各リーフ12、30の軸受面12c、33が、荷重や軸6の回転速度、周囲温度等の運転条件に応じて任意に変形するため、ラジアル軸受隙間R及びスラスト軸受隙間Tは運転条件に応じた適切幅に自動調整される。そのため、高温、高速回転といった過酷な条件下でも、ラジアル軸受隙間R及びスラスト軸受隙間Tを最適幅に管理することができ、軸6を安定して支持することが可能となる。
【0034】
フォイル軸受10、20では、軸6の停止直前や起動直後の低速回転時において、リーフ12のラジアル軸受面12c及びリーフ30のスラスト軸受面33や、軸6の外周面6a及びフランジ部40の端面41に表面粗さ以上の厚さの空気膜を形成することが困難となる。そのため、ラジアル軸受面12cと軸6の外周面6aとの間、及び、スラスト軸受面33とフランジ部40との間で金属接触を生じる。この金属接触による摩擦力を減じて、リーフ12、30の損傷及びトルク低減を図るため、ラジアル軸受面12c及びスラスト軸受面33には、表面を低摩擦化する被膜を形成するのが望ましい。この種の被膜としては、例えばDLC膜、チタンアルミナイトライド膜、あるいは二硫化モリブデン膜を使用することができる。DLC膜、チタンやアルミナイトライド膜はCVDやPVDで形成することができ、二硫化モリブデン膜はスプレーで簡単に形成することができる。特にDLC膜やチタンアルミナイトライド膜は硬質であるので、これらで被膜を形成することにより、ラジアル軸受面12c及びスラスト軸受面33の耐摩耗性をも向上させることができ、軸受寿命を増大させることができる。尚、上記のような皮膜は、ラジアル軸受面12c及びスラスト軸受面33に形成する代わりに、あるいはこれに加えて、これらの面と対向する軸6の外周面6a及びフランジ部40の端面41に形成してもよい。
【0035】
軸受の運転中は、リーフ12の裏面(ラジアル軸受面12cと反対側の面)と外方部材11の内周面11aとの間や、リーフ30の裏面(スラスト軸受面33と反対側の面)とスラスト部材21の端面21aとの間でも微小摺動が生じるため、この摺動部分、すなわちリーフ12、30の裏面やこれと接触する外方部材11の内周面11a及びスラスト部材21の端面21aの一方又は双方にも上記の被膜を形成することにより、耐摩耗性の向上を図ってもよい。なお、振動の減衰作用を向上させるためには、この摺動部である程度の摩擦力が存在する方が好都合な場合もあるので、この部分の被膜にはそれほど低摩擦性は要求されない。従って、この部分の被膜としては、DLC膜やチタンやアルミナイトライド膜を使用するのが好ましい。
【0036】
本発明は上記の実施形態に限られない。尚、以下の説明において、上記の実施形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0037】
リーフ30の自由端31の形状は上記に限らず、例えば図7に示すように、リーフ30の自由端31を波型に形成してもよい。あるいは、図8に示すように、リーフ30の自由端31に、半径方向に離隔した複数箇所に複数の切り込み31aを設けてもよい。また、切り込み31a及びランド部31bの形状は、三角形(図6参照)や波形(図7参照)、円弧形状(図8参照)の他、矩形や台形としてもよい(図示省略)。
【0038】
また、上記の実施形態では、リーフ30の自由端31が半径方向に沿って延在している場合を示したが、これに限らず、例えば図9及び図10に示すように、リーフ30の自由端31の外径端を、内径側に向けて軸6の回転方向先行側に傾斜させてもよい。これにより、軸6の回転に伴って、スラストフォイル軸受20の軸受部材20aの外径側の空気がリーフ30に沿って内径側に送り込まれるため(図9の点線矢印参照)、スラスト軸受隙間Tに多量の空気を送り込むことができ、スラスト軸受隙間Tにおける圧力がさらに高められる。具体的には、例えば図9に示すように、リーフ30の自由端31をポンプインタイプのスパイラル形状に配列することができる。あるいは、図10に示すように、リーフ30の自由端31をヘリングボーン形状としてもよい。尚、ヘリングボーン形状とは、自由端31の外径端及び内径端を半径方向中央に向けて軸6の回転方向先行側に傾斜させた略V字形状のことを言う。
【0039】
また、上記の実施形態では、複数のリーフフォイルを一枚ずつ別々に形成した場合を示したが、これに限らず、例えば一枚のフォイルに複数のリーフフォイルを形成してもよい。例えば図11に示す実施形態では、複数のリーフフォイルを有する2枚のフォイル60、60’を組み合せてフォイル部材50を構成し、このフォイル部材50をスラスト部材21に固定している。
【0040】
ここで、フォイル60、60’の構成を説明する。尚、フォイル60、60’は全く同じ構成であるため、一方のフォイル60の構成のみを説明し、他方のフォイル60’の説明は省略する(図11及び図13では、他方のフォイル60’のうち、一方のフォイル60と対応する箇所に「’」を付して示す)。
【0041】
フォイル60は円形を成し、その中心に軸6を挿通するための円形の穴63が設けられる。本実施形態では、1枚のフォイル60にワイヤカット加工やプレス加工等で略L字型の切り込みを入れることにより、円周方向等間隔に配置された複数(図示例では4枚)のリーフ61及び連結部62が形成される。具体的には、円形のフォイル60の円周方向等間隔の複数箇所(図示例では4箇所)に、穴63から外径向きにジグザグ状に延び、フォイル60の外径端よりも手前で終わる半径方向の切り込み64が設けられる。そして、各切り込み64の外径端から、円周方向他方(軸6の回転方向後方側、図12の反時計周り方向)に円周方向の切り込み65が延びている。これらの切り込み64、65をフォイル60に形成することで、円周方向一方の端部61aを軸方向に上下動自由な自由端とした複数のリーフ61と、これらを連結する連結部62とを一体に形成することができる。連結部62は、複数のリーフ61の外周を囲む環状部62aと、環状部62aから内径向きに延びた複数(図示例では4つ)の延在部62bとを有し、延在部62bはリーフ61の円周方向他方の端部61b(図12に点線で示す)と連続している。図示例では、連結部62の延在部62bとリーフ61とが円周方向同じ長さであり、これらが円周方向交互に設けられる。リーフ61の自由端61aは、複数の切り欠き部61a1及びランド部61a2を交互に有するジグザグ状に形成される。
【0042】
2枚のフォイル60、60’は、図13に示す方法で組み立てられる。尚、2枚のフォイル60、60’の材質及び形状は全く同じであるが、図13では、理解しやすいように一方のフォイル60’に散点を付している。また、ここでは、フォイル60、60’の中心軸方向を上下方向として説明する。
【0043】
まず、図13(a)に示す2枚のフォイル60、60’を、図13(b)に示すように上下に重ねて配置し、上側のフォイル60の半径方向の切り込み64から、下側のフォイル60’のリーフ61’の自由端61a’を差し込む。これにより、下側のフォイル60’のリーフ61’の自由端61a’が、上側のフォイル60の連結部62(延在部62b)の上方に配される。そして、2枚のフォイル60、60’を相対的に回転させることにより、図13(c)に示すように、下側のフォイル60’のリーフ61’の自由端61a’が、上側のフォイル60のリーフ61の端部61bの上方に達する。以上により、上側のフォイル60のリーフ61と、下側のフォイル60’のリーフ61’とが、円周方向交互に配されたフォイル部材50が得られる。このとき、各リーフ61、61’の上面に設けられたスラスト軸受面61c、61c’は、円周方向交互に配され、且つ、円周方向で途切れなく配されている。このフォイル部材50をスラスト部材21に固定することで、図11に示す軸受部材20aが完成する。
【0044】
また、上記の実施形態では、ロータをスラスト方向に支持するスラストフォイル軸受に本発明を適用した場合を示したが、これに限らず、ロータをラジアル方向に支持するラジアルフォイル軸受に本発明を適用することもできる。例えば、図14に示すように、外方部材11(固定部材)に取り付けられたリーフ12の自由端12aに、複数の切り欠き部12a1と、ラジアル軸受面12cに連続した複数のランド部12bとを交互に設けることができる。これにより、図15に示すように、ラジアル軸受面12cと軸6の外周面6aとの間のラジアル軸受隙間Rのうち、ラジアル軸受面12cの自由端12a付近で形成される小隙間部R1の流体が、切り欠き部12a1を介して外径側に流動する(矢印B参照)。これにより、大隙間部R2の流体をダイナミックに流動させることができ、大隙間部R2から小隙間部R1に流入する流体量を増やして小隙間部R1における圧力を高めることができる。
【0045】
また、上記のラジアルフォイル軸受10において、複数のリーフを一枚のフォイルで構成することもできる。例えば図16及び図17に示すフォイル部材70は、一枚の帯状フォイルを軸6周りに周回させることで、半径方向にフォイルを重ねた渦巻き状の形態をなす。本実施形態では、周回数を2回とし、フォイルの両端70b、70cを円周方向のほぼ同位置に配置した場合を例示している。これによりフォイル部材70の略全周にわたって、2つのフォイルを半径方向で重ねた二重フォイル部Wが形成される。二重フォイル部Wのうち、外側のフォイルを部分的に内径側に立ち上げることにより、内径端を自由端とした第一リーフ71が形成され、内側のフォイルを部分的に内径側に立ち上げることにより、内径端を自由端とした第二リーフ72が形成される。第一リーフ71および第二リーフ72は、フォイルの両端部70b、70c付近を除いて円周方向で交互に配置されている。
【0046】
第一リーフ71および第二リーフ72の内周面は外径側を凸とする曲面状の軸受面70dを構成し、この軸受面70dと軸6の外周面6aとの間に、軸6の回転方向に向かって縮小する楔状のラジアル軸受隙間Rが形成される。各リーフ71、72の自由端は、回転方向先行側に隣接する他のリーフと半径方でオーバーラップしている。
【0047】
図18に示すフォイル部材70の製作に際しては、まず、図18(a)に示すように、金属製の平板状フォイル70の一方の側縁部に、ワイヤカット加工やプレス加工により適宜の間隔で複数のL字型の切込み73を形成する。この時、他方の側縁部76および隣接する切り込み73間の領域77は、分断することなく一体状態にして残す。次に、同図(b)に示すように、切り込み73で形成された舌片部74を同方向に折り曲げ、その後、各舌片部74を内径側にして平板状フォイル70を二重の渦巻き状にローリングさせる。二巻き目のフォイルをローリングさせる際には、一巻き目の隣接する舌片部74の間に、二巻き目の舌片部74を配置する。この時、二巻き目の舌片部74は、舌片部74を切り起こすことで一巻き目のフォイル70に形成された開口部75を通して一巻き目の舌片部74の間に導入する。以上の手順により、各舌片部74で第一リーフ71および第二リーフ72が形成される。これらのリーフ71、72は、側縁部76、および隣接する切り込み間の領域77を一体に有する環状部70eで弾性変形可能に保持される。
【0048】
以上の手順で製作したフォイル部材70は、外方部材11の内径側に配置した状態で、その一端を外方部材11に取り付けることにより、外方部材11に固定される。例えば上述したフォイル部材70の製作工程で、帯状フォイルの一端部に外径方向に起立する取り付け部70aを形成し、この取り付け部70aを外方部材11の内周に形成した軸方向溝11bに嵌合固定することで、フォイル部材70を外方部材11に固定することができる。
【0049】
以上の実施形態では、リーフフォイルを固定部材(スラスト部材21、外方部材11)に取り付けた場合を示したが、リーフフォイルを回転部材(軸6、フランジ部40)に取り付けてもよい。この場合、リーフフォイルに設けられた軸受面と固定部材との間に、楔状のスラスト軸受隙間が形成される。ただし、この場合、リーフフォイルが軸6と共に高速で回転することとなるため、遠心力によりリーフフォイルが変形する恐れがある。特に、スラストフォイル軸受20のリーフフォイルを回転させると、遠心力でリーフフォイルが変形する恐れが高い。従って、リーフフォイルの変形を回避する観点からは、リーフフォイルを固定部材に取り付けることが好ましい。
【0050】
また、以上の実施形態では、スラストフォイル軸受20が、フランジ部40の軸方向両側に軸受部材20aを有し、フランジ部40を両スラスト方向に支持する構成を示したが、これに限らず、フランジ部40の軸方向一方にのみ軸受部材20aを設け、スラスト方向一方にのみ支持する構成としてもよい。このような構成は、スラスト方向他方の支持が不要な場合や、スラスト方向他方の支持を他の構成で達成する場合などに適用できる。
【0051】
また、以上の実施形態では、本発明に係るフォイル軸受をガスタービンに適用した場合を示したが、これに限らず、例えば図19に示すような過給機に適用してもよい。この過給機は、エンジン83に空気を送り込むいわゆるターボチャージャであり、圧縮機81と、タービン82とを備える。圧縮機81及びタービン82は軸6で連結されている。軸6は、ラジアルフォイル軸受10とスラストフォイル軸受20とでラジアル方向及び両スラスト方向に支持される。図示例では、ラジアルフォイル軸受10を軸方向に離隔した2箇所に設けている。図示しない吸気口から吸入された空気は、圧縮機81で圧縮され、燃料を混合してエンジン83に供給される。エンジン83で燃料を混合した圧縮空気を燃焼させ、エンジン83から排気された高温、高圧のガスでタービン82を回転させる。このときのタービン82の回転力が、軸6を介して圧縮機81に伝達される。タービン82を回転させた後のガスは、排ガスとして外部に排出される。
【0052】
本発明にかかるフォイル軸受は、マイクロタービンや過給機に限らず、潤滑油などの液体による潤滑が困難である、エネルギー効率の観点から潤滑油循環系の補機を別途設けることが困難である、あるいは液体のせん断による抵抗が問題になる等の制限下で使用される自動車等の車両用軸受、さらには産業機器用の軸受として広く使用することが可能である。
【0053】
なお、以上に述べたフォイル軸受は、圧力発生流体として空気を使用した空気動圧軸受のみならず、圧力発生流体として潤滑油を使用した油動圧軸受としても使用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 タービン
2 圧縮機
3 発電機
6 軸
10 ラジアルフォイル軸受
11 外方部材
12 リーフ
12c ラジアル軸受面
20 スラストフォイル軸受
21 スラスト部材(固定部材)
30 リーフ(リーフフォイル)
31 自由端
31a 切り欠き部
31b ランド部
32 固定端
33 スラスト軸受面
40 フランジ部(回転部材)
H 高圧領域
L 低圧領域
R ラジアル軸受隙間
T スラスト軸受隙間
T1 小隙間部
T2 大隙間部
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜状のリーフフォイルに形成された軸受面と、この軸受面で形成される楔状の軸受隙間に生じる流体膜の圧力で、回転部材を支持するフォイル軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンや過給機(ターボチャージャ等)の軸は高速で回転駆動される。また、軸に取り付けられたタービン翼は高温に晒される。そのため、これらの軸を支持する軸受には、高温・高速回転といった過酷な環境に耐え得ることが要求される。この種の用途の軸受として、油潤滑の転がり軸受や油動圧軸受を使用する場合もある。しかし、潤滑油などの液体による潤滑が困難な場合、エネルギー効率の観点から潤滑油循環系の補機を別途設けることが困難な場合、あるいは液体のせん断による抵抗が問題になる場合、等の条件下では、油を用いた軸受の使用は制約を受ける。そこで、上記のような条件下での使用に適合する軸受として、空気動圧軸受が着目されている。
【0003】
空気動圧軸受としては、回転側と固定側の双方の軸受面を剛体で構成したものが一般的である。しかしながら、この種の空気動圧軸受では、回転側と固定側の軸受面間に形成される軸受隙間の管理が不十分であると、安定限界を超えた際にホワールと呼ばれる自励的な軸の触れ回りを生じ易い。そのため、使用される回転速度に応じた隙間管理が重要となる。しかし、ガスタービンや過給機のように、温度変化の激しい環境では熱膨張の影響で軸受隙間の幅が変動するため、精度の良い隙間管理は極めて困難となる。
【0004】
温度変化の大きい環境下でも隙間管理を容易にできる軸受としてフォイル軸受が知られている。フォイル軸受は、曲げに対して剛性の低い可撓性を有する薄膜(フォイル)で軸受面を構成し、軸受面のたわみを許容することで荷重を支持するものである。フォイル軸受では、フォイルの可撓性により、軸の回転速度や荷重、周囲温度等の運転条件に応じた適切な軸受隙間が形成される。このため、フォイル軸受は安定性に優れるという特徴があり、一般的な空気動圧軸受と比較して高速での使用が可能である。また、一般的な動圧軸受では、数μm程度の軸受隙間を常時確保する必要があるため、製造時の公差、さらには温度変化が激しい場合の熱膨張まで考慮すると、厳密な隙間管理は困難である。これに対して、フォイル軸受の場合には、数十μm程度の軸受隙間に管理すれば足り、その製造や隙間管理が容易となる利点を有する。
【0005】
また、ガスタービンや過給機の軸には、タービンの高速回転により発生する気流のスラスト方向の反力が加わるため、軸をラジアル方向だけでなくスラスト方向にも支持する必要がある。例えば、特許文献1〜3には、回転軸をラジアル方向に支持するフォイル軸受が示されている。また、特許文献4〜6には、回転軸をスラスト方向に支持するフォイル軸受が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−364643号公報
【特許文献2】特開2003−262222号公報
【特許文献3】特開2009−299748号公報
【特許文献4】特開昭61−36725号公報
【特許文献5】実開昭61−38321号公報
【特許文献6】特開昭63−195412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、図20に示すフォイル軸受100は、スラスト方向の支持に用いられるものであり、複数(図示例では8枚)のリーフフォイル110を有するいわゆるリーフ型のフォイル軸受である。各リーフフォイル110は、円周方向一端が自由端111とされ、円周方向他端が固定端112として円盤状のスラスト部材120の端面に固定される。各リーフフォイル110にはスラスト軸受面113が形成される。図21に示すように、回転部材130の端面131とリーフフォイル110のスラスト軸受面113との間には、楔状のスラスト軸受隙間140が形成される。リーフフォイル110の自由端111付近においてスラスト軸受隙間140の小隙間部141が形成され、自由端111を越えた直後(図示例では固定端112付近)にスラスト軸受隙間140の大隙間部142が形成される。回転部材130が矢印C方向に回転すると、スラスト軸受隙間140の流体膜が流動する。このとき、小隙間部141を流れる流体は高圧となり、大隙間部142を流れる流体は相対的に低圧となる。従って、図22に示すように、リーフフォイル110の自由端111付近には高圧領域Hが形成され、リーフフォイル110の固定端112付近には低圧領域Lが形成される。尚、図21のバネ150は、リーフフォイル110のバネ性を模式的に表すものである。
【0008】
このとき、大隙間部142を流れる流体の流速は均一ではない。すなわち、大隙間部142のうち、回転部材130の端面付近(図示例では上方部分)では、小隙間部141(高圧領域H)から高圧の流体が流入することで流速が速くなる(図21の矢印v1’参照)。一方、大隙間部142のうち、スラスト軸受面113付近(図示例では下方部分)における流体は、小隙間部141から流入する高圧の流体の影響を受けにくいため、流速が遅い(図21の矢印v2’参照)。このため、大隙間部142の図中下方部分の流体は小隙間部141へほとんど流入せず、小隙間部141における流体の圧力が高まりにくい。
【0009】
以上のような問題は、リーフ型のフォイル軸受に生じる問題であり、スラスト方向に支持に用いられるフォイル軸受だけでなく、ラジアル方向の支持に用いられるフォイル軸受においても同様に生じる。
【0010】
そこで、本発明は、軸受隙間に生じる流体の圧力を高め、リーフ型のフォイル軸受の負荷容量を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するためになされた本発明は、固定部材と、回転部材と、固定部材と回転部材の間に配置され、円周方向一端を自由端とした複数のリーフフォイルとを備え、リーフフォイルに設けられた軸受面で楔状の軸受隙間を形成し、この軸受隙間に生じる流体膜で回転部材を支持するフォイル軸受であって、リーフフォイルの自由端に、複数の切り欠き部と、軸受面に連続した複数のランド部とを交互に設けたことを特徴とする。
【0012】
このように、リーフフォイルの自由端に、複数の切り欠き部及びランド部を交互に設けることで、軸受隙間の流体をダイナミックに流動させ、軸受隙間の流体の圧力を高めることができる。その理由は次の通りである。例えば図6に示すように、リーフフォイル30の自由端31をジグザグ状に形成し、複数の切り欠き部31a及びランド部31bを交互に設けた場合、図4に示すように、自由端31付近にスラスト軸受隙間Tの小隙間部T1が形成され、回転部材(フランジ部40)が矢印D方向に回転すると、小隙間部T1の流体の圧力が高められる。この高圧の流体の一部が、切り欠き部31aを介してリーフフォイル30の裏側(軸受面33と反対側)に抜けることにより(図4の矢印A参照)、スラスト軸受隙間Tの大隙間部T2のスラスト部材21側部分(図中下方部分)の流体が流動する(図4の矢印v2参照)。その結果、スラスト軸受隙間Tの大隙間部T2における流体の運動量が増大して、図21に示す場合と比べて大隙間部T2から小隙間部T1へ流入する流体の量が増えるため、小隙間部T1における圧力が高められる。
【0013】
リーフフォイルの自由端は、例えばジグザグ状(図5及び図6参照)に形成したり、波形(図7参照)に形成したりすることができる。
【0014】
上記のフォイル軸受では、例えば、1枚のフォイルに、複数のリーフフォイルと、複数のリーフフォイルを連結する連結部とを一体に設けることができる。これにより、複数のリーフフォイルを一度に固定部材又は回転部材に取り付けることができる。また、このようなフォイルを複数組み合せてフォイル部材を構成すれば、より多くのリーフフォイルの一度に固定部材又は回転部材に取り付けることができる。
【0015】
上記のようなフォイル軸受は、高速運転時にはリーフフォイルの軸受面とこれに対向する面との間に流体膜が形成され、これらの面が非接触状態となるが、起動時や停止時の低速回転状態では、リーフフォイルの軸受面やこれに対向する面の表面粗さ以上の流体膜を形成することが困難となる。そのため、回転部材と固定部材とがリーフフォイルを挟んで接触し、リーフフォイルの表面が損傷する恐れがある。このため、リーフフォイルの軸受面に被膜を設け、損傷を防止することが好ましい。
【0016】
また、複数のリーフフォイル同士、あるいは、リーフフォイルとリーフフォイルが固定される面との間は、荷重変動や振動に伴い微小変位の摺動が生じている。このため、リーフフォイルの軸受面と反対側の面に被膜を設け、摺動による損傷を防止することが好ましい。
【0017】
フォイル軸受は、液体での潤滑が困難な箇所に用いられることが多いので、上記のような被膜には、DLC膜やチタンアルミナイトライド膜、あるいは二硫化モリブデン膜を用いることができる。DLC膜やチタンアルミナイトライド膜は硬質で摩擦係数が低く、強度面で優れている。一方、二硫化モリブデン膜は、スプレー等で噴射することができるため、被膜を簡単に形成することができる。
【0018】
以上のような構成は、スラスト方向の支持に用いられるフォイル軸受だけでなく、ラジアル方向の支持に用いられるフォイル軸受にも適用できる。
【0019】
また、以上のようなフォイル軸受は、ガスタービンや過給機のロータ支持用として好適に使用できる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、軸受隙間の流体の運動量を増大させることにより、軸受隙間に生じる流体膜の圧力が高められ、フォイル軸受の負荷容量を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】マイクロガスタービンを概念的に示す図である。
【図2】上記マイクロガスタービンのロータの支持構造を示す断面図である。
【図3】上記ロータ支持構造に組み込まれたラジアルフォイル軸受の断面図である。
【図4】上記ロータ支持構造に組み込まれたスラストフォイル軸受であって、本発明の実施形態に係るスラストフォイル軸受の側面図である。
【図5】上記スラストフォイル軸受の軸受部材の斜視図である。
【図6】上記スラストフォイル軸受のリーフフォイルの平面図である。
【図7】他の実施形態に係るスラストフォイル軸受のリーフフォイルの平面図である。
【図8】他の実施形態に係るスラストフォイル軸受のリーフフォイルの平面図である。
【図9】他の実施形態に係るスラストフォイル軸受の軸受部材の平面図である。
【図10】他の実施形態に係るスラストフォイル軸受の軸受部材の平面図である。
【図11】他の実施形態に係るスラストフォイル軸受の軸受部材の斜視図である。
【図12】図11のスラストフォイル軸受のフォイルの平面図である。
【図13】(a)〜(c)は、図11のスラストフォイル軸受の2枚のフォイルを組み付ける様子を示す斜視図である。
【図14】本発明の実施形態に係るラジアルフォイル軸受のフォイルの平面図である。
【図15】上記ラジアルフォイル軸受の断面図である。
【図16】他の実施形態に係るラジアルフォイル軸受の断面図である。
【図17】上記ラジアルフォイル軸受のフォイル部材の斜視図である。
【図18】(a)は上記フォイル部材の組立方法を説明する平面図であり、(b)は同側面図である。
【図19】過給機を概念的に示す図である。
【図20】従来のフォイル軸受の斜視図である。
【図21】図20のフォイル軸受の側面図である。
【図22】図20のフォイル軸受のリーフフォイルの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1に、マイクロガスタービンと呼ばれるガスタービン装置の構成を示す。このマイクロガスタービンは、翼列を形成したタービン1及び圧縮機2と、発電機3と、燃焼器4と、再生器5とを主に備える。タービン1、圧縮機2、及び発電機3には、水平方向に延びる共通の軸6が設けられ、この軸6と、タービン1および圧縮機2とで一体回転可能のロータが構成される。吸気口7から吸入された空気は、圧縮機2で圧縮され、再生器5で加熱された上で燃焼器4に送り込まれる。この圧縮空気に燃料を混合して燃焼させ、このときの高温、高圧のガスでタービン1を回転させる。タービン1の回転力が軸6を介して発電機3に伝達され、発電機3が回転することにより発電し、この電力がインバータ8を介して出力される。タービン1を回転させた後のガスは比較的高温であるため、このガスを再生器5に送り込んで燃焼前の圧縮空気との間で熱交換を行うことで、燃焼後のガスの熱を再利用する。再生器5で熱交換を終えたガスは、排熱回収装置9を通った後、排ガスとして排出される。
【0024】
図2に、ロータの支持構造、特に、タービン1と圧縮機2との軸方向間における軸6の支持構造を示す。この領域は高温、高圧のガスで回転されるタービン1に隣接しているため、ここでは空気動圧軸受、特にフォイル軸受が好適に使用される。具体的には、軸6をラジアル方向に支持するラジアルフォイル軸受10と、軸6に設けられたフランジ部40を両スラスト方向に支持するスラストフォイル軸受20とで、ロータが回転自在に支持される。本実施形態では、本発明の一実施形態に係るフォイル軸受をスラストフォイル軸受20に適用した場合を説明する。
【0025】
ラジアルフォイル軸受10は、図3に示すように、内周に軸6が挿入され、ケーシング42(図2参照)に固定された円筒状の外方部材11と、外方部材11の内周面11aに固定され、円周方向に並べて配された複数のリーフフォイル(リーフ12)とで構成される。
【0026】
リーフ12は、ばね性に富み、かつ加工性のよい金属、例えば鋼材料や銅合金からなる厚さ20μm〜200μm程度の帯状フォイルで形成される。本実施形態のように流体膜として空気を用いる空気動圧軸受では、雰囲気に潤滑油が存在しないため、油による防錆効果は期待できない。鋼材料や銅合金の代表例として、炭素鋼や黄銅を挙げることができるが、一般的な炭素鋼では錆による腐食が発生し易く、黄銅では加工ひずみによる置き割れを生じることがある(黄銅中のZnの含有量が多いほどこの傾向が強まる)。そのため、帯状フォイルとしては、ステンレス鋼もしくは青銅製のものを使用するのが好ましい。
【0027】
各リーフ12は、金属製のフォイルで形成され、円周方向一方(軸6の回転方向(矢印参照)先行側)の端部12aが自由端とされ、円周方向他方の端部12bが外方部材11に固定される。リーフ12の固定端12bは、外方部材11の内周面11aに形成された軸方向溝11bに嵌合固定される。リーフ12の自由端12a側の一部領域は、他のリーフ12と半径方向に重ねて配される。複数のリーフ12の内径側の面は、孔や段差のない平滑な曲面状をなしたラジアル軸受面12cを構成し、各リーフ12のラジアル軸受面12cと軸6の外周面6aとの間に、円周方向一方へ向けて半径方向幅を狭めた楔状のラジアル軸受隙間Rが形成される。
【0028】
スラストフォイル軸受20は、図4に示すように、軸6の外周面6aから外径に突出して設けられたフランジ部40(回転部材、図2参照)と、ケーシング42に固定された円盤状のスラスト部材21(固定部材、図5参照)と、フランジ部40とスラスト部材21との間に配された複数のリーフフォイル(リーフ30)とを備える。本実施形態では、フランジ部40の軸方向両側に軸受部材20aが設けられ(図2参照)、軸受部材20aは、図5に示すように、円盤状のスラスト部材21(固定部材)と、スラスト部材21の端面21aに円周方向等間隔に並べた状態で固定された複数のリーフ30とで構成される。
【0029】
リーフ30は、上記のリーフ12と同様の材質及び厚さを有する金属製の1枚のフォイルからなり、スラスト部材21の円周方向に沿った扇形を成している。リーフ30の円周方向一方(軸6の回転方向先行側、図中左側)の端部は自由端31とされ、円周方向他方の端部はスラスト部材21に固定された固定端32とされる。各リーフ30のうち、スラスト部材21と反対側の面には、フランジ部40側を凸とする曲面状のスラスト軸受面33が設けられる。スラスト軸受面33は、孔や段差のない平滑な曲面状をなす。尚、バネ30aは、リーフ30のバネ性を模式的に表すものであり、実際には設けられていない。
【0030】
各リーフ30の自由端31には、図6に示すように、複数の切り欠き部31aと、スラスト軸受面33と連続したランド部31bとが、自由端31の延在方向(本実施形態では半径方向)で交互に設けられる。図示例では、自由端31をジグザグ状に形成することで、三角形の切り込み部31a及びランド部31bが交互に形成される。
【0031】
軸6が円周方向一方に回転すると、ラジアルフォイル軸受10の各リーフ12のラジアル軸受面12cと軸6の外周面6aとの間に、円周方向一方へ向けて半径方向幅を狭めた楔状のラジアル軸受隙間Rが形成される(図3参照)。このラジアル軸受隙間Rに生じる流体膜(空気膜)で、軸6がラジアル方向に非接触支持される。これと同時に、スラストフォイル軸受10の各リーフ30のスラスト軸受面33とフランジ部40の軸方向両側の端面41との間に、円周方向一方へ向けて軸方向幅を狭めたスラスト軸受隙間Tが形成される(図4参照)。このスラスト軸受隙間Tに生じる流体膜(空気膜)で、軸6が両スラスト方向に非接触支持される。尚、実際のラジアル軸受隙間R及びスラスト軸受隙間Tの幅は数十μm程度の微小なものであるが、図3及び図4ではその幅を誇張して描いている。
【0032】
このとき、図4に示すように、スラスト軸受隙間Tの小隙間部T1における高圧の流体の一部は、そのまま軸6の回転方向先行側に抜け、これにより大隙間部T2のフランジ部40付近(図中上方部分)の流体が流動する(図4の矢印v1参照)。これと同時に、小隙間部T1の流体の一部が切り欠き部31aを介してリーフ30の裏側(図中下方)に抜けることにより、大隙間部T2のスラスト軸受面33付近(図中下方部分)の流体が流動する(図4の矢印v2参照)。これにより、大隙間部T2全体の流体がダイナミックに流動し、大隙間部T2から次の小隙間部T1に流入する流体量が増大するため、小隙間部T1に生じる圧力を高めてスラスト方向の負荷容量を高めることができる。
【0033】
また、このとき、ラジアルフォイル軸受10のリーフ12及びスラストフォイル軸受20のリーフ30の有する可撓性により、各リーフ12、30の軸受面12c、33が、荷重や軸6の回転速度、周囲温度等の運転条件に応じて任意に変形するため、ラジアル軸受隙間R及びスラスト軸受隙間Tは運転条件に応じた適切幅に自動調整される。そのため、高温、高速回転といった過酷な条件下でも、ラジアル軸受隙間R及びスラスト軸受隙間Tを最適幅に管理することができ、軸6を安定して支持することが可能となる。
【0034】
フォイル軸受10、20では、軸6の停止直前や起動直後の低速回転時において、リーフ12のラジアル軸受面12c及びリーフ30のスラスト軸受面33や、軸6の外周面6a及びフランジ部40の端面41に表面粗さ以上の厚さの空気膜を形成することが困難となる。そのため、ラジアル軸受面12cと軸6の外周面6aとの間、及び、スラスト軸受面33とフランジ部40との間で金属接触を生じる。この金属接触による摩擦力を減じて、リーフ12、30の損傷及びトルク低減を図るため、ラジアル軸受面12c及びスラスト軸受面33には、表面を低摩擦化する被膜を形成するのが望ましい。この種の被膜としては、例えばDLC膜、チタンアルミナイトライド膜、あるいは二硫化モリブデン膜を使用することができる。DLC膜、チタンやアルミナイトライド膜はCVDやPVDで形成することができ、二硫化モリブデン膜はスプレーで簡単に形成することができる。特にDLC膜やチタンアルミナイトライド膜は硬質であるので、これらで被膜を形成することにより、ラジアル軸受面12c及びスラスト軸受面33の耐摩耗性をも向上させることができ、軸受寿命を増大させることができる。尚、上記のような皮膜は、ラジアル軸受面12c及びスラスト軸受面33に形成する代わりに、あるいはこれに加えて、これらの面と対向する軸6の外周面6a及びフランジ部40の端面41に形成してもよい。
【0035】
軸受の運転中は、リーフ12の裏面(ラジアル軸受面12cと反対側の面)と外方部材11の内周面11aとの間や、リーフ30の裏面(スラスト軸受面33と反対側の面)とスラスト部材21の端面21aとの間でも微小摺動が生じるため、この摺動部分、すなわちリーフ12、30の裏面やこれと接触する外方部材11の内周面11a及びスラスト部材21の端面21aの一方又は双方にも上記の被膜を形成することにより、耐摩耗性の向上を図ってもよい。なお、振動の減衰作用を向上させるためには、この摺動部である程度の摩擦力が存在する方が好都合な場合もあるので、この部分の被膜にはそれほど低摩擦性は要求されない。従って、この部分の被膜としては、DLC膜やチタンやアルミナイトライド膜を使用するのが好ましい。
【0036】
本発明は上記の実施形態に限られない。尚、以下の説明において、上記の実施形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0037】
リーフ30の自由端31の形状は上記に限らず、例えば図7に示すように、リーフ30の自由端31を波型に形成してもよい。あるいは、図8に示すように、リーフ30の自由端31に、半径方向に離隔した複数箇所に複数の切り込み31aを設けてもよい。また、切り込み31a及びランド部31bの形状は、三角形(図6参照)や波形(図7参照)、円弧形状(図8参照)の他、矩形や台形としてもよい(図示省略)。
【0038】
また、上記の実施形態では、リーフ30の自由端31が半径方向に沿って延在している場合を示したが、これに限らず、例えば図9及び図10に示すように、リーフ30の自由端31の外径端を、内径側に向けて軸6の回転方向先行側に傾斜させてもよい。これにより、軸6の回転に伴って、スラストフォイル軸受20の軸受部材20aの外径側の空気がリーフ30に沿って内径側に送り込まれるため(図9の点線矢印参照)、スラスト軸受隙間Tに多量の空気を送り込むことができ、スラスト軸受隙間Tにおける圧力がさらに高められる。具体的には、例えば図9に示すように、リーフ30の自由端31をポンプインタイプのスパイラル形状に配列することができる。あるいは、図10に示すように、リーフ30の自由端31をヘリングボーン形状としてもよい。尚、ヘリングボーン形状とは、自由端31の外径端及び内径端を半径方向中央に向けて軸6の回転方向先行側に傾斜させた略V字形状のことを言う。
【0039】
また、上記の実施形態では、複数のリーフフォイルを一枚ずつ別々に形成した場合を示したが、これに限らず、例えば一枚のフォイルに複数のリーフフォイルを形成してもよい。例えば図11に示す実施形態では、複数のリーフフォイルを有する2枚のフォイル60、60’を組み合せてフォイル部材50を構成し、このフォイル部材50をスラスト部材21に固定している。
【0040】
ここで、フォイル60、60’の構成を説明する。尚、フォイル60、60’は全く同じ構成であるため、一方のフォイル60の構成のみを説明し、他方のフォイル60’の説明は省略する(図11及び図13では、他方のフォイル60’のうち、一方のフォイル60と対応する箇所に「’」を付して示す)。
【0041】
フォイル60は円形を成し、その中心に軸6を挿通するための円形の穴63が設けられる。本実施形態では、1枚のフォイル60にワイヤカット加工やプレス加工等で略L字型の切り込みを入れることにより、円周方向等間隔に配置された複数(図示例では4枚)のリーフ61及び連結部62が形成される。具体的には、円形のフォイル60の円周方向等間隔の複数箇所(図示例では4箇所)に、穴63から外径向きにジグザグ状に延び、フォイル60の外径端よりも手前で終わる半径方向の切り込み64が設けられる。そして、各切り込み64の外径端から、円周方向他方(軸6の回転方向後方側、図12の反時計周り方向)に円周方向の切り込み65が延びている。これらの切り込み64、65をフォイル60に形成することで、円周方向一方の端部61aを軸方向に上下動自由な自由端とした複数のリーフ61と、これらを連結する連結部62とを一体に形成することができる。連結部62は、複数のリーフ61の外周を囲む環状部62aと、環状部62aから内径向きに延びた複数(図示例では4つ)の延在部62bとを有し、延在部62bはリーフ61の円周方向他方の端部61b(図12に点線で示す)と連続している。図示例では、連結部62の延在部62bとリーフ61とが円周方向同じ長さであり、これらが円周方向交互に設けられる。リーフ61の自由端61aは、複数の切り欠き部61a1及びランド部61a2を交互に有するジグザグ状に形成される。
【0042】
2枚のフォイル60、60’は、図13に示す方法で組み立てられる。尚、2枚のフォイル60、60’の材質及び形状は全く同じであるが、図13では、理解しやすいように一方のフォイル60’に散点を付している。また、ここでは、フォイル60、60’の中心軸方向を上下方向として説明する。
【0043】
まず、図13(a)に示す2枚のフォイル60、60’を、図13(b)に示すように上下に重ねて配置し、上側のフォイル60の半径方向の切り込み64から、下側のフォイル60’のリーフ61’の自由端61a’を差し込む。これにより、下側のフォイル60’のリーフ61’の自由端61a’が、上側のフォイル60の連結部62(延在部62b)の上方に配される。そして、2枚のフォイル60、60’を相対的に回転させることにより、図13(c)に示すように、下側のフォイル60’のリーフ61’の自由端61a’が、上側のフォイル60のリーフ61の端部61bの上方に達する。以上により、上側のフォイル60のリーフ61と、下側のフォイル60’のリーフ61’とが、円周方向交互に配されたフォイル部材50が得られる。このとき、各リーフ61、61’の上面に設けられたスラスト軸受面61c、61c’は、円周方向交互に配され、且つ、円周方向で途切れなく配されている。このフォイル部材50をスラスト部材21に固定することで、図11に示す軸受部材20aが完成する。
【0044】
また、上記の実施形態では、ロータをスラスト方向に支持するスラストフォイル軸受に本発明を適用した場合を示したが、これに限らず、ロータをラジアル方向に支持するラジアルフォイル軸受に本発明を適用することもできる。例えば、図14に示すように、外方部材11(固定部材)に取り付けられたリーフ12の自由端12aに、複数の切り欠き部12a1と、ラジアル軸受面12cに連続した複数のランド部12bとを交互に設けることができる。これにより、図15に示すように、ラジアル軸受面12cと軸6の外周面6aとの間のラジアル軸受隙間Rのうち、ラジアル軸受面12cの自由端12a付近で形成される小隙間部R1の流体が、切り欠き部12a1を介して外径側に流動する(矢印B参照)。これにより、大隙間部R2の流体をダイナミックに流動させることができ、大隙間部R2から小隙間部R1に流入する流体量を増やして小隙間部R1における圧力を高めることができる。
【0045】
また、上記のラジアルフォイル軸受10において、複数のリーフを一枚のフォイルで構成することもできる。例えば図16及び図17に示すフォイル部材70は、一枚の帯状フォイルを軸6周りに周回させることで、半径方向にフォイルを重ねた渦巻き状の形態をなす。本実施形態では、周回数を2回とし、フォイルの両端70b、70cを円周方向のほぼ同位置に配置した場合を例示している。これによりフォイル部材70の略全周にわたって、2つのフォイルを半径方向で重ねた二重フォイル部Wが形成される。二重フォイル部Wのうち、外側のフォイルを部分的に内径側に立ち上げることにより、内径端を自由端とした第一リーフ71が形成され、内側のフォイルを部分的に内径側に立ち上げることにより、内径端を自由端とした第二リーフ72が形成される。第一リーフ71および第二リーフ72は、フォイルの両端部70b、70c付近を除いて円周方向で交互に配置されている。
【0046】
第一リーフ71および第二リーフ72の内周面は外径側を凸とする曲面状の軸受面70dを構成し、この軸受面70dと軸6の外周面6aとの間に、軸6の回転方向に向かって縮小する楔状のラジアル軸受隙間Rが形成される。各リーフ71、72の自由端は、回転方向先行側に隣接する他のリーフと半径方でオーバーラップしている。
【0047】
図18に示すフォイル部材70の製作に際しては、まず、図18(a)に示すように、金属製の平板状フォイル70の一方の側縁部に、ワイヤカット加工やプレス加工により適宜の間隔で複数のL字型の切込み73を形成する。この時、他方の側縁部76および隣接する切り込み73間の領域77は、分断することなく一体状態にして残す。次に、同図(b)に示すように、切り込み73で形成された舌片部74を同方向に折り曲げ、その後、各舌片部74を内径側にして平板状フォイル70を二重の渦巻き状にローリングさせる。二巻き目のフォイルをローリングさせる際には、一巻き目の隣接する舌片部74の間に、二巻き目の舌片部74を配置する。この時、二巻き目の舌片部74は、舌片部74を切り起こすことで一巻き目のフォイル70に形成された開口部75を通して一巻き目の舌片部74の間に導入する。以上の手順により、各舌片部74で第一リーフ71および第二リーフ72が形成される。これらのリーフ71、72は、側縁部76、および隣接する切り込み間の領域77を一体に有する環状部70eで弾性変形可能に保持される。
【0048】
以上の手順で製作したフォイル部材70は、外方部材11の内径側に配置した状態で、その一端を外方部材11に取り付けることにより、外方部材11に固定される。例えば上述したフォイル部材70の製作工程で、帯状フォイルの一端部に外径方向に起立する取り付け部70aを形成し、この取り付け部70aを外方部材11の内周に形成した軸方向溝11bに嵌合固定することで、フォイル部材70を外方部材11に固定することができる。
【0049】
以上の実施形態では、リーフフォイルを固定部材(スラスト部材21、外方部材11)に取り付けた場合を示したが、リーフフォイルを回転部材(軸6、フランジ部40)に取り付けてもよい。この場合、リーフフォイルに設けられた軸受面と固定部材との間に、楔状のスラスト軸受隙間が形成される。ただし、この場合、リーフフォイルが軸6と共に高速で回転することとなるため、遠心力によりリーフフォイルが変形する恐れがある。特に、スラストフォイル軸受20のリーフフォイルを回転させると、遠心力でリーフフォイルが変形する恐れが高い。従って、リーフフォイルの変形を回避する観点からは、リーフフォイルを固定部材に取り付けることが好ましい。
【0050】
また、以上の実施形態では、スラストフォイル軸受20が、フランジ部40の軸方向両側に軸受部材20aを有し、フランジ部40を両スラスト方向に支持する構成を示したが、これに限らず、フランジ部40の軸方向一方にのみ軸受部材20aを設け、スラスト方向一方にのみ支持する構成としてもよい。このような構成は、スラスト方向他方の支持が不要な場合や、スラスト方向他方の支持を他の構成で達成する場合などに適用できる。
【0051】
また、以上の実施形態では、本発明に係るフォイル軸受をガスタービンに適用した場合を示したが、これに限らず、例えば図19に示すような過給機に適用してもよい。この過給機は、エンジン83に空気を送り込むいわゆるターボチャージャであり、圧縮機81と、タービン82とを備える。圧縮機81及びタービン82は軸6で連結されている。軸6は、ラジアルフォイル軸受10とスラストフォイル軸受20とでラジアル方向及び両スラスト方向に支持される。図示例では、ラジアルフォイル軸受10を軸方向に離隔した2箇所に設けている。図示しない吸気口から吸入された空気は、圧縮機81で圧縮され、燃料を混合してエンジン83に供給される。エンジン83で燃料を混合した圧縮空気を燃焼させ、エンジン83から排気された高温、高圧のガスでタービン82を回転させる。このときのタービン82の回転力が、軸6を介して圧縮機81に伝達される。タービン82を回転させた後のガスは、排ガスとして外部に排出される。
【0052】
本発明にかかるフォイル軸受は、マイクロタービンや過給機に限らず、潤滑油などの液体による潤滑が困難である、エネルギー効率の観点から潤滑油循環系の補機を別途設けることが困難である、あるいは液体のせん断による抵抗が問題になる等の制限下で使用される自動車等の車両用軸受、さらには産業機器用の軸受として広く使用することが可能である。
【0053】
なお、以上に述べたフォイル軸受は、圧力発生流体として空気を使用した空気動圧軸受のみならず、圧力発生流体として潤滑油を使用した油動圧軸受としても使用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 タービン
2 圧縮機
3 発電機
6 軸
10 ラジアルフォイル軸受
11 外方部材
12 リーフ
12c ラジアル軸受面
20 スラストフォイル軸受
21 スラスト部材(固定部材)
30 リーフ(リーフフォイル)
31 自由端
31a 切り欠き部
31b ランド部
32 固定端
33 スラスト軸受面
40 フランジ部(回転部材)
H 高圧領域
L 低圧領域
R ラジアル軸受隙間
T スラスト軸受隙間
T1 小隙間部
T2 大隙間部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材と、回転部材と、固定部材と回転部材の間に配置され、円周方向一端を自由端とした複数のリーフフォイルとを備え、リーフフォイルに設けられた軸受面で楔状の軸受隙間を形成し、この軸受隙間に生じる流体膜で回転部材を支持するフォイル軸受であって、
リーフフォイルの自由端に、複数の切り欠き部と、前記軸受面に連続した複数のランド部とを交互に設けたことを特徴とするフォイル軸受。
【請求項2】
リーフフォイルの自由端をジグザグ状に形成した請求項1記載のフォイル軸受。
【請求項3】
リーフフォイルの自由端を波形に形成した請求項1記載のフォイル軸受。
【請求項4】
1枚のフォイルに、複数のリーフフォイルと、複数のリーフフォイルを連結する連結部とを一体に設けた請求項1〜3の何れかに記載のフォイル軸受。
【請求項5】
前記フォイルを複数組み合せてフォイル部材を構成した請求項4記載のフォイル軸受。
【請求項6】
リーフフォイルの軸受面に被膜を設けた請求項1〜5の何れかに記載のフォイル軸受。
【請求項7】
リーフフォイルの軸受面と反対側の面に被膜を設けた請求項1〜6の何れかに記載のフォイル軸受。
【請求項8】
前記被膜が、DLC膜、チタンアルミナイトライド膜、二硫化モリブデン膜の何れかである請求項6又は7記載のフォイル軸受。
【請求項9】
回転部材をスラスト方向に支持する請求項1〜8の何れかに記載のフォイル軸受。
【請求項10】
回転部材をラジアル方向に支持する請求項1〜8の何れかに記載のフォイル軸受。
【請求項11】
ガスタービンのロータ支持に用いられる請求項1〜10の何れかに記載のフォイル軸受。
【請求項12】
過給機のロータ支持に用いられる請求項1〜10の何れかに記載のフォイル軸受。
【請求項1】
固定部材と、回転部材と、固定部材と回転部材の間に配置され、円周方向一端を自由端とした複数のリーフフォイルとを備え、リーフフォイルに設けられた軸受面で楔状の軸受隙間を形成し、この軸受隙間に生じる流体膜で回転部材を支持するフォイル軸受であって、
リーフフォイルの自由端に、複数の切り欠き部と、前記軸受面に連続した複数のランド部とを交互に設けたことを特徴とするフォイル軸受。
【請求項2】
リーフフォイルの自由端をジグザグ状に形成した請求項1記載のフォイル軸受。
【請求項3】
リーフフォイルの自由端を波形に形成した請求項1記載のフォイル軸受。
【請求項4】
1枚のフォイルに、複数のリーフフォイルと、複数のリーフフォイルを連結する連結部とを一体に設けた請求項1〜3の何れかに記載のフォイル軸受。
【請求項5】
前記フォイルを複数組み合せてフォイル部材を構成した請求項4記載のフォイル軸受。
【請求項6】
リーフフォイルの軸受面に被膜を設けた請求項1〜5の何れかに記載のフォイル軸受。
【請求項7】
リーフフォイルの軸受面と反対側の面に被膜を設けた請求項1〜6の何れかに記載のフォイル軸受。
【請求項8】
前記被膜が、DLC膜、チタンアルミナイトライド膜、二硫化モリブデン膜の何れかである請求項6又は7記載のフォイル軸受。
【請求項9】
回転部材をスラスト方向に支持する請求項1〜8の何れかに記載のフォイル軸受。
【請求項10】
回転部材をラジアル方向に支持する請求項1〜8の何れかに記載のフォイル軸受。
【請求項11】
ガスタービンのロータ支持に用いられる請求項1〜10の何れかに記載のフォイル軸受。
【請求項12】
過給機のロータ支持に用いられる請求項1〜10の何れかに記載のフォイル軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2013−47555(P2013−47555A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186347(P2011−186347)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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