説明

フォトカプラの寿命予測装置、電力変換装置およびフォトカプラの寿命予測方法

【課題】フォトカプラを介してPWM信号の伝送を行いながら、フォトカプラの寿命を予測できるようにする。
【解決手段】ゲート信号発生器5にて生成されたゲートドライブ用PMW信号SU1、SD1をフォトカプラFU1、FU2をそれぞれ介してゲートドライバ9、11にそれぞれ絶縁伝送するとともに、寿命予測装置21、22にそれぞれ入力し、フォトカプラFU1、FU2の出力信号SU2、SD2の立ち下がりの傾きに基づいて、フォトカプラFU1、FU2の電流変換効率を寿命予測装置21、22にてそれぞれ推定し、フォトカプラFU1、FU2が寿命限界に到達する時期を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフォトカプラの寿命予測装置、電力変換装置およびフォトカプラの寿命予測方法に関し、特に、高電圧側と低電圧側との間を絶縁しながら信号を伝送するフォトカプラの電流変換効率(CTR:curent Transfer Ratio)の推定方法に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年の車両機器では、高効率化および省エネ対策を図るために、駆動力を生む電動機の駆動システムに、昇降圧コンバータおよびインバータの搭載が行われている。
図10は、従来の昇降圧コンバータを用いた車両駆動システムの概略構成を示すブロック図である。
図10において、車両駆動システムには、昇降圧コンバータ1102に電力を供給する電源1101、電圧の昇降圧を行う昇降圧コンバータ1102、昇降圧コンバータ1102から出力された電圧を3相電圧に変換するインバータ1103および車両を駆動する電動機1104が設けられている。なお、電源1101は、架線からの給電電圧または直列接続されたバッテリーから構成することができる。
【0003】
そして、車両駆動時には、昇降圧コンバータ1102は、電源1101の電圧(例:280V)を電動機1104の駆動に適した電圧(例:750V)に昇圧し、インバータ1103に供給する。そして、スイッチング素子をオン/オフ制御することにより、昇降圧コンバータ1102にて昇圧された電圧を3相電圧に変換して、電動機1104の各相に電流を流し、スイッチング周波数を制御することで車両の速度を変化させることができる。
【0004】
一方、車両の制動時には、インバータ1103は、電動機1104の各相に生じる電圧に同期してスイッチング素子をオン/オフ制御することにより、整流動作を行い、直流電圧に変換してから、昇降圧コンバータ1102に供給する。そして、昇降圧コンバータ1102は、電動機1104から生じる電圧(例:750V)を電源1101の電圧(例:280V)に降圧して電力の回生動作を行うことができる。
【0005】
図11は、図10の昇降圧コンバータの概略構成を示すブロック図である。
図11において、昇降圧コンバータ1102には、エネルギーの蓄積を行うリアクトルL、電荷の蓄積を行うコンデンサC、インバータ1103に流入する電流を通電および遮断するスイッチング素子SW1、SW2、スイッチング素子SW1、SW2の導通および非導通を指示する制御信号をそれぞれ生成する制御回路1111、1112が設けられている。
【0006】
そして、スイッチング素子SW1、SW2は直列に接続されるとともに、スイッチング素子SW1、SW2の接続点には、リアクトルLを介して電源1101が接続されている。ここで、スイッチング素子SW1には、制御回路1111からの制御信号に従ってスイッチング動作を行うIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)1105が設けられ、IGBT1105に流れる電流と逆方向に電流を流すフライホイールダイオードD1がIGBT1105に並列に接続されている。
【0007】
また、スイッチング素子SW2には、制御回路1112からの制御信号に従ってスイッチング動作を行うIGBT1106が設けられ、IGBT1106に流れる電流と逆方向に電流を流すフライホイールダイオードD2がIGBT1106に並列に接続されている。そして、IGBT1106のコレクタは、コンデンサCおよびインバータ1103の双方に接続されている。
【0008】
図12は、昇圧動作時に図11のリアクトルに流れる電流の波形を示す図である。
図12において、昇圧動作では、スイッチング素子SW1のIGBT1105がオン(導通)すると、IGBT1105を介してリアクトルLに電流Iが流れ、LI2/2のエネルギーがリアクトルLに蓄積される。
次に、スイッチング素子SW1のIGBT1105がオフ(非導通)すると、スイッチング素子SW2のフライホイールダイオードD2に電流が流れ、リアクトルLに蓄えられたエネルギーがコンデンサCに送られる。
【0009】
一方、降圧動作では、スイッチング素子SW2のIGBT1106がオン(導通)するとIGBT1106を介してリアクトルLに電流Iが流れ、LI2/2のエネルギーがリアクトルLに蓄積される。
次に、スイッチング素子SW2のIGBT1106がオフ(非導通)すると、スイッチング素子SW1のフライホイールダイオードD1に電流が流れ、リアクトルLに蓄えられたエネルギーが電源1101へ回生される。
【0010】
ここで、スイッチング素子のオン時間(ON Duty)を変更することで、昇降圧の電圧を調整することが可能であり、概略の電圧値は以下の(1)式にて求めることができる。
L/VH=ON Duty(%) (1)
ただし、VLは電源電圧、VHは昇降圧後の電圧、ON Dutyはスイッチング素子SW1、SW2のスイッチング周期に対する導通期間の割合である。
【0011】
ここで、実際には負荷の変動、電源電圧VLの変動などがあるので、昇降圧後の電圧VHを監視し、昇降圧後の電圧VHが目標値となるように、スイッチング素子SW1、SW2のオン時間(ON Duty)の制御が行われている。
また、車体筐体に接地される制御回路1111、1112側は低圧であり、スイッチング素子SW1、SW2に接続されるアーム側は高圧となる。このため、スイッチング素子SW1、SW2の破壊などの事故が発生しても、人体が危険に晒されることがないようにするために、アーム側とは、フォトカプラやパルストランスを用いて制御回路1111、1112と電気的に絶縁しながら信号の授受が行われる。
ここで、フォトカプラは、パルストランスと比較して小型かつ安価という理由で、近年では車両に用いられつつある。
【0012】
図13は、フォトカプラを用いたPWM信号の伝送回路の構成を示す図である。
図13において、フォトカプラFCには、順電流Ifによって赤外光を放射する赤外発光ダイオードPD1、赤外発光ダイオードPD1から放射された赤外光を受光する受光ダイオードPD2および受光ダイオードPD2で発生した光電流をベース電流として電流増幅動作を行うフォトトランジスタM2が設けられている。そして、赤外発光ダイオードPD1には抵抗R28が並列接続されるとともに、赤外発光ダイオードPD1のカソードは抵抗R29および抵抗R00を順次介して電界効果型トランジスタM1に接続されている。なお、抵抗R28は、電界効果型トランジスタM1のオフ時に流れる漏れ電流やノイズ電流などの暗電流によって赤外発光ダイオードPD1が点灯しないようにするために設けられたものである。
【0013】
また、フォトトランジスタM2のコレクタは、抵抗RLを介して電源電圧Vcc2に接続されるとともに、フォトトランジスタM2のコレクタを介して出力される出力信号Voutは、抵抗RLPFを介してIGBTドライブIC30に入力される。
ここで、IGBTドライブIC30には、IGBTドライブIC30の入力端子のプルアップ機能、フォトカプラFCからの出力信号Voutの2値化機能、IGBTのゲートドライブ機能およびIGBTの過電流/過温保護機能が備えられている。そして、IGBTドライブIC30の入力端子のプルアップ機能では、耐ノイズ性の向上を目的として、IGBTドライブIC30内のカレントミラー回路から最大80μA程度の定常電流ILV-ICが抵抗RLPFを介して外部に吐き出され、フォトカプラFCにてより多くの電流が引き込まれないと、IGBTをオンするしきい値に到達しないようにされている。
【0014】
そして、電界効果型トランジスタM1のゲートに入力信号Vinが入力されると、順電流Ifが赤外発光ダイオードPD1に流れ、赤外光が放射される。そして、赤外発光ダイオードPD1から放射された赤外光は、受光ダイオードPD2にて受光され、その赤外光に応じた光電流がフォトトランジスタM2のベースに流れる。そして、フォトトランジスタM2のベースに光電流が流れると、フォトトランジスタM2にコレクタ電流Icが流れるとともに、IGBTドライブIC30内のカレントミラー回路から定常電流ILV-ICが抵抗RLPFを介して外部に吐き出され、片端を電源電圧Vcc2に接続された抵抗RLに流れる電流はIc−ILV-ICとなる。そして、コレクタ電流Icの変化に伴う抵抗RLの他端電圧の変化が、フォトカプラFCからの出力信号Voutとして抵抗RLPFを介してIGBTドライブIC30に入力される。
【0015】
ここで、フォトカプラFC単体の入出力特性は、電流変換効率(CTR:Current Transfer Ratio)、すなわちIc/Ifにて定義することができる。そして、フォトカプラFCを用いて回路設計を行う際には、(1)フォトトランジスタM2の電流増幅率hfeの温度特性、(2)赤外発光ダイオードPD1の発光効率の寿命劣化、(3)電流変換効率のバラツキなどの点を考慮する必要がある。
そして、産業、鉄道、自動車などの分野では、−40〜+100℃の環境下において、フォトカプラFCが長期に渡って継続使用されるため、例えば、100℃、15000時間の累積使用を行った場合においても、電流変換効率の劣化および温度依存性に対応しながら、−40℃でも動作するように抵抗RLの値が決定される。
【0016】
図14は、20℃におけるフォトカプラの発光ダイオードに流れる順電流Ifをパラメータとした時の電流変換効率のコレクタ/エミッタ電圧依存性を示す図である。
図14において、フォトトランジスタM2のコレクタ/エミッタ電圧Vceが0.5V以上では、フォトカプラFCの電流変換効率は順電流Ifにかかわらずほぼ一定である。
図15は、フォトカプラの発光ダイオードに流れる順電流Ifに対するフォトトランジスタのコレクタ電流Icをパラメータとした時の電流変換効率の温度依存性を示す図である。
図15において、低温になるほど、フォトカプラFCの電流変換効率は低下し、この要因としては、フォトトランジスタM2の電流増幅率hfeの温度特性が挙げられる。
【0017】
図16は、フォトカプラの発光ダイオードに流れる順電流Ifをパラメータとした時の電流変換効率の経時特性を示す図である。
図16において、フォトカプラFCの電流変換効率は、発光ダイオードPD1の順電流If、環境温度、累積使用時間に依存して低下し、特に、フォトカプラFCの連続使用時間が1000時間を越えると、電流変換効率の低下が顕著に表れる。このフォトカプラFCの電流変換効率の低下の主な原因は、発光ダイオードPD1の発光効率の低下であり、発光ダイオードPD1の順電流Ifが大きく、環境温度が高いほど電流変換効率の低下が著しくなる。
なお、フォトカプラFCの特性はロットおよび固体によるバラツキが大きく、最低保証として、−40℃において8%を目安とする必要がある。
また、図13のフォトカプラFCを用いたPWM信号の伝送回路において、入力信号Vinと出力信号Voutとの間には伝搬遅延が発生する。
【0018】
図17は、フォトカプラを用いたPWM信号の伝送回路における入力信号と出力信号の伝搬遅延時間の定義を示す図である。
図17において、図13の発光ダイオードPD1に流れる順電流Ifの立ち上がりから、出力信号Voutのロウレベルのしきい値VINLに達するまでの遅延時間をTpHL、図13の発光ダイオードPD1に流れる順電流Ifの立ち下がりから、出力信号Voutのハイレベルのしきい値VINHに達するまでの遅延時間をTpLHと定義する。
【0019】
ここで、図13のIGBTドライブIC30の出力が反転する時の入力端子での電位は、出力がハイレベルの時にはVINL、出力がロウレベルの時にはVINHとし、IGBTドライブIC30の出力が反転する時に誤動作しないようにするために、VINL≦VINHとして、ヒステリシスが設けられている。そして、IGBTドライブIC30の出力がハイレベルになるには、IGBTドライブIC30に入力されるフォトカプラFCからの出力信号Voutの値が、Vout≦VINL、IGBTドライブIC30の出力がロウレベルになるには、Vout≧VINHの関係を満たす必要がある。
【0020】
図18(a)は、負荷抵抗RLに対するフォトカプラの伝搬遅延時間特性を示す図、図18(b)は、周囲温度Taに対するフォトカプラの伝搬遅延時間特性を示す図である。
図18において、フォトカプラFCによる遅延時間TpHLは、抵抗RLや周囲温度Taにかかわらずほとんど変化しないにもかかわらず、遅延時間TpLHは、抵抗RLや周囲温度Taが大きくなるに従って増大する。
この結果、抵抗RLや周囲温度Taが大きくなるに従って、フォトカプラFCからの出力信号Voutのロウレベルの期間が長くなり、IGBTのオンの期間が長くなることから、インバータの上下アームが短絡し、IGBTの破壊を引き起こす。このため、IGBTのゲート信号にデッドタイムを設け、インバータの上下アームが短絡するのを防止することが行われている。
【0021】
図19は、IGBTのゲート信号のデッドタイムの設定方法を示す図である。
図19において、上アームのゲート電圧の立ち下がりに対して下アームのゲート電圧が遅れて立ち上がるようにデッドタイムDT1が設定され、下アームのゲート電圧の立ち下がりに対して上アームのゲート電圧が遅れて立ち上がるようにデッドタイムDT2が設定される。
このデッドタイムDT1、DT2は、フォトカプラFCの特性バラツキや使用環境に対応できるようにするために、遅延時間TpHLと遅延時間TpLHとの差ΔTに対して余裕を持たせて設定する必要がある。一方、デッドタイムDT1、DT2を大きくすると、PWM信号のデューティ比の可変範囲を狭め、IGBTの出力の制御応答性に大きな影響を与えることから、通常は5μs程度に設定される。
【0022】
また、例えば、特許文献1には、機器に組み込まれて信号の送受信に使用されている状態のフォトカプラにおける入力側の発光素子を駆動した時のフォトカプラの出力側における信号レベルに基づいて、フォトカプラの動作状態を検出する方法が開示されている。
また、例えば、特許文献2には、発光ダイオードの通電経路に設けられたホールド電流制限用の抵抗器にスピードアップコンデンサを並列接続するとともに、スピードアップコンデンサには抵抗器を直列接続することにより、フォトカプラの発光素子に流れるピーク電流およびホールド電流を簡単な回路構成にて個々に設定する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2004−37155号公報
【特許文献2】特開平8−149085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかしながら、従来のフォトカプラFCを用いたPWM信号の伝送回路では、フォトカプラFCの電流変換効率の劣化を予測することができないため、フォトカプラFCの電流変換効率の劣化や温度依存性のバラツキに対応しながら余裕を持たせて抵抗RLの値を決定する必要がある。このため、図19のデッドタイムDT1、DT2を大きくとる必要があり、PWM信号のデューティ比の可変範囲を狭め、IGBTの出力の制御応答性に大きな影響を与えるという問題があった。
【0024】
また、従来のフォトカプラFCの電流変換効率の測定方法では、フォトカプラFCの出力側のコレクタ電流Icを計測する必要があるだけでなく、電流値が16mA程度と小さなフォトカプラFCの入力側の順電流Ifを計測する必要がある。このため、フォトカプラFCの電流変換効率を精度よく計測するのが困難であるとともに、車両駆動システムなどにおいては、測定対象が低圧側と高圧側に分かれることから、PWM信号の伝送を行いながら、フォトカプラFCの電流変換効率の劣化を予測することができないという問題があった。
【0025】
また、特許文献1に開示された方法では、フォトカプラの出力信号がしきい値を横切ったかどうかしか判定できないため、フォトカプラの出力信号を用いただけではフォトカプラの電流変換効率を推定することができず、フォトカプラの寿命を予測することができないという問題があった。
また、特許文献2に開示された方法では、フォトカプラの発光素子に流れるピーク電流およびホールド電流を個々に設定することはできても、フォトカプラの寿命を予測することができないという問題があった。
そこで、本発明の目的は、フォトカプラを介してPWM信号の伝送を行いながら、フォトカプラの寿命を予測することが可能なフォトカプラの寿命予測装置、電力変換装置およびフォトカプラの寿命予測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上述した課題を解決するために、請求項1記載のフォトカプラの寿命予測装置によれば、フォトカプラの出力側の信号の立ち上がりまたは立ち下がりの傾きを前記フォトカプラの出力側で検出する傾き検出手段と、前記傾き検出手段にて検出されたフォトカプラの出力側の信号の立ち上がりまたは立ち下がりの傾きに基づいて、前記フォトカプラの電流変換効率を推定する電流変換効率推定手段とを備えることを特徴とする。
【0027】
また、請求項2記載のフォトカプラの寿命予測装置によれば、前記傾き検出手段は、前記フォトカプラの出力側の信号が異なるレベルの複数のしきい値に達したかを検出するレベル検出手段と、前記フォトカプラの出力側の信号が異なるレベルの複数のしきい値に達した時の時間差を測定する時間間隔測定手段とを備え、前記電流変換効率推定手段は、前記フォトカプラの出力側の信号が異なるレベルの複数のしきい値に達した時の時間差に基づいて、前記フォトカプラの電流変換効率を推定することを特徴とする。
【0028】
また、請求項3記載のフォトカプラの寿命予測装置によれば、前記電流変換効率推定手段は、実質的に等しい環境温度で測定された時間差に基づいて、前記フォトカプラの電流変換効率を推定することを特徴とする。
また、請求項4記載のフォトカプラの寿命予測装置によれば、前記フォトカプラの温度を計測する温度センサをさらに備え、前記電流変換効率推定手段は、前記温度センサにて計測された温度に基づいて前記フォトカプラの電流変換効率の温度依存性を補正しつつ、前記フォトカプラの電流変換効率を推定することを特徴とする。
【0029】
また、請求項5記載のフォトカプラの寿命予測装置によれば、前記電流変換効率推定手段にて推定された前記フォトカプラの電流変換効率の時間的な履歴に基づいて、前記フォトカプラが寿命限界に到達する時期を予測する寿命予測手段をさらに備えることを特徴とする。
また、請求項6記載のフォトカプラの寿命予測装置によれば、前記フォトカプラの出力側の信号は、前記フォトカプラを構成するフォトトランジスタの光電流が作用する信号であることを特徴とする。
【0030】
また、請求項7記載の電力変換装置によれば、上アーム用および下アーム用としてそれぞれ作動するように互いに直列に接続され、負荷へ流入する電流を通電および遮断する1対のスイッチング素子と、前記スイッチング素子の導通および非導通を指示する制御信号を生成する制御回路と、前記制御信号に基づいて前記スイッチング素子の制御端子を駆動する駆動回路と、前記制御回路と前記駆動回路とが絶縁されるように前記スイッチング素子ごとに設けられ、前記制御回路と前記駆動回路との間で信号を伝送するフォトカプラと、前記フォトカプラの出力側の信号が異なるレベルの複数のしきい値に達した時の時間差に基づいて、前記フォトカプラの電流変換効率を推定する寿命予測手段とを備えることを特徴とする。
【0031】
また、請求項8記載のフォトカプラの寿命予測方法によれば、フォトカプラの出力側の信号が異なるレベルの複数のしきい値に達した時の時間差を測定するステップと、前記フォトカプラの出力側の信号が異なるレベルの複数のしきい値に達した時の時間差に基づいて、前記フォトカプラの電流変換効率を推定するステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように、本発明によれば、フォトカプラの出力側の信号の立ち下がりの傾きをフォトカプラの出力側で算出することで、フォトカプラの入力側の信号を参照することなく、フォトカプラの寿命を予測することが可能となる。このため、フォトカプラを介してPWM信号の伝送するような正規の動作を中止することなく、フォトカプラの寿命を個々に予測することが可能となり、フォトカプラを用いた回路設計における自由度を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態に係るフォトカプラの寿命予測装置について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るフォトカプラの寿命予測装置が適用される昇降圧コンバータ用インテリジェントパワーモジュールの概略構成を示すブロック図である。
図1において、昇降圧コンバータ用インテリジェントパワーモジュールには、負荷へ流入する電流を通電および遮断するスイッチング素子SWU、SWDおよびスイッチング素子SWU、SWDの導通および非導通を指示する制御信号をそれぞれ生成する制御回路1が設けられている。
【0034】
ここで、制御回路1は、CPUまたは論理IC、あるいは論理ICとCPUが搭載されたシステムLSIなどで構成することができる。そして、制御回路1には、昇降圧指令値SPをVH検出回路13にて生成されたPWM信号SD6と比較するVH比較器4、VH比較器4による比較結果に基づいて、ゲートドライブ用PMW信号SU1、SD1のデューティ比を制御するゲート信号発生器5、VH検出回路13にて生成されたPWM信号SD6から不要な高域成分を除去するローパスフィルタ6が設けられている。
【0035】
そして、制御回路1は、PWM制御によってスイッチング素子SWU、SWDを動作させるゲートドライブ用PMW信号SU1、SD1を生成することができる。そして、PWM制御では、各相のアームにおけるスイッチング素子SWU、SWDのオン・オフを、正弦波上の電圧指令値と搬送波(代表的には三角波)との電圧比較に従って制御することができる。そして、上アーム2側のスイッチング素子SWUのオン期間に対応するハイレベル期間と、下アーム3側のスイッチング素子SWDのオン期間に対応するローレベル期間との集合について、一定期間でその基本成分が正弦波になるようにデューティ比を制限することができる。
【0036】
また、スイッチング素子SWU、SWDはそれぞれ上アーム2用および下アーム3用として動作するように直列に接続されている。そして、スイッチング素子SWUには、ゲート信号SU3に従ってスイッチング動作を行うIGBT7が設けられ、IGBT7に流れる電流と逆方向に電流を流すフライホイールダイオードDU1がIGBT7に並列に接続されている。また、IGBT7が形成されたチップには、チップの温度変化に起因するダイオードDU2のVF変化を測定原理として用いた温度センサ、および抵抗RU1、RU2を介してIGBT7のエミッタ電流を分流して主回路電流を検出する電流センサが設けられている。
【0037】
また、スイッチング素子SWDには、ゲート信号SD3に従ってスイッチング動作を行うIGBT8が設けられ、IGBT8に流れる電流と逆方向に電流を流すフライホイールダイオードDD1がIGBT8に並列に接続されている。また、IGBT8が形成されたチップには、チップの温度変化に起因するダイオードDD2のVF変化を測定原理として用いた温度センサ、およびIGBT8のエミッタ電流を抵抗RD1、RD2を介して分流して主回路電流を検出する電流センサが設けられている。
【0038】
なお、スイッチング素子SWU、SWDとしては、例えば、IGBT7、8の他、パワーMOSFETやバイポーラトランジスタなどを用いるようにしてもよい。
そして、上アーム2側には、IGBT7の制御端子を駆動するためのゲート信号SU3を生成するゲートドライバ9が設けられるとともに、温度センサからの過熱検知信号SU5および電流センサからの過電流検知信号SU4を監視しながら、ゲートドライバ9の駆動を制御することでIGBT7を保護するIGBT保護回路10が設けられている。
【0039】
また、下アーム3側には、IGBT8の制御端子を駆動するためのゲート信号SD3を生成するゲートドライバ11が設けられるとともに、温度センサからの過熱検知信号SD5および電流センサからの過電流検知信号SD4を監視しながら、ゲートドライバ11の駆動を制御することでIGBT8を保護するIGBT保護回路12が設けられている。
さらに、下アーム3側には、IGBT7からの出力信号VHをPWM信号SD6に変換するVH検出回路13が設けられ、VH検出回路13には、三角波を生成する三角波生成器14、IGBT7からの出力信号VHを分圧する分圧回路16、分圧回路16にて分圧されたIGBT7からの出力信号VHのレベル調整を行うレベル調整部15およびレベル調整されたIGBT7からの出力信号VHと、三角波生成器14にて生成された三角波との比較結果に基づいてPWM信号SD6を生成する比較回路17が設けられている。
【0040】
また、車体筐体に接地される制御回路1側と、高圧となる上アーム2側および下アーム3側との間には、フォトカプラFU1〜FU3が介挿され、制御回路1では、フォトカプラFU1〜FU3を用いて上アーム2側および下アーム3側と電気的に絶縁しながら信号の授受を行うことができる。
ここで、上アーム2側および下アーム3側には、フォトカプラFU1、FU2からの出力信号SU2、SD2の立ち下がりの傾きに基づいて、フォトカプラFU1、FU2の電流変換効率をそれぞれ推定する寿命予測装置21、22がそれぞれ設けられている。
【0041】
そして、ゲート信号発生器5は、IGBT7、8の導通または非導通をそれぞれ指示するゲートドライブ用PMW信号SU1、SD1を生成し、このゲートドライブ用PMW信号SU1、SD1をフォトカプラFU1、FU2をそれぞれ介してゲートドライバ9、11にそれぞれ絶縁伝送するとともに、寿命予測装置21、22にそれぞれ絶縁伝送する。 そして、ゲートドライバ9、11は、ゲートドライブ用PMW信号SU1、SD1にそれぞれ基づいてゲート信号SU3、SD3を生成し、IGBT7、8の制御端子をそれぞれ駆動することにより、IGBT7、8をそれぞれスイッチング動作させる。
【0042】
ここで、温度センサから出力された過熱検知信号SU5、SD5がIGBT保護回路10、12にそれぞれ入力されるとともに、電流センサから出力された過電流検知信号SU4、SD4がIGBT保護回路10、12にそれぞれ入力される。そして、IGBT保護回路10、12は、IGBT7、8が破壊しない閾値を超過した場合には、そのことをゲートドライバ9、11にそれぞれ通知する。そして、ゲートドライバ9、11は、IGBT7、8が破壊しない閾値を超過したという通知をIGBT保護回路10、12からそれぞれ受け取ると、ゲート信号SU3、SD3の生成をそれぞれ停止することにより、IGBT7、8に流れる電流を遮断する。
【0043】
また、IGBT7からの出力信号VHはVH検出回路13に入力され、分圧回路16およびレベル調整部15にてレベル調整が行われた後、三角波生成器14にて生成された三角波との電圧比較に従って、比較回路17にてPWM信号SD6が生成される。そして、比較回路17にて生成されたPWM信号SD6は、フォトカプラFU3を介して制御回路1側に絶縁伝送され、制御回路1側に絶縁伝送されたPWM信号SD7は、ローパスフィルタ6にて不要な高域成分が除去された後、VH比較器4に入力される。そして、VH比較器4は、フォトカプラFU3を介してPWM信号SD7が送られると、そのPWM信号SD7を昇降圧指令値SPと比較することにより、PWM信号SD7が昇降圧指令値SPに従うようにゲートドライブ用PMW信号SU1、SD1のデューティ比をゲート信号発生器5に制御させることができる。
【0044】
また、ゲート信号発生器5にて生成されたゲートドライブ用PMW信号SU1、SD1がフォトカプラFU1、FU2をそれぞれ介してゲートドライバ9、11にそれぞれ絶縁伝送されると、フォトカプラFU1、FU2からの出力信号SU2、SD2が寿命予測装置21、22にそれぞれ入力される。そして、フォトカプラFU1、FU2からの出力信号SU2、SD2が寿命予測装置21、22にそれぞれ入力されると、寿命予測装置21、22は、フォトカプラFU1、FU2の出力信号SU2、SD2の立ち下がりの傾きに基づいて、フォトカプラFU1、FU2の電流変換効率をそれぞれ推定し、フォトカプラFU1、FU2が寿命限界に到達する時期を予測することができる。
【0045】
図2は、本発明の第1実施形態に係るフォトカプラの寿命予測装置の概略構成を示すブロック図である。
図2において、フォトカプラFCには、順電流Ifによって赤外光を放射する赤外発光ダイオードPD1、赤外発光ダイオードPD1から放射された赤外光を受光する受光ダイオードPD2および受光ダイオードPD2で発生した光電流をベース電流として電流増幅動作を行うフォトトランジスタM2が設けられている。そして、赤外発光ダイオードPD1にはR28が並列接続されるとともに、赤外発光ダイオードPD1のカソードは抵抗R29および抵抗R00を順次介して電界効果型トランジスタM1に接続されている。
【0046】
また、フォトトランジスタM2のコレクタは、抵抗RLを介して電源電圧Vcc2に接続されるとともに、フォトトランジスタM2のコレクタを介して出力される出力信号Voutは、抵抗RLPFを介してIGBTドライブIC30に入力される。なお、IGBTドライブIC30の入力端子とフォトトランジスタM2のコレクタとの間に挿入された抵抗RLPFは微小ノイズを除去するためのもので、抵抗RLPFは必ずしも挿入する必要はない。
【0047】
また、フォトカプラFCの寿命予測装置31には、フォトカプラFCからの出力信号Voutと基準電圧Vref1とを比較する演算増幅器32、フォトカプラFCからの出力信号Voutと基準電圧Vref2とを比較する演算増幅器33、フォトカプラFCからの出力信号Voutが基準電圧Vref1、Vref2にそれぞれ達した時の時間差を測定するパルス時間間隔測定回路34、パルス時間間隔測定回路34にて測定される時間差とフォトカプラFCの電流変換効率との関係が記述されたパルス時間間隔/CTR特性マップ35、パルス時間間隔測定回路34にて測定される時間差に基づいてフォトカプラFCの電流変換効率を推定するパルス時間間隔/CTR推測ユニット36、パルス時間間隔/CTR推測ユニット36にて推定された電流変換効率の推移を登録するCTRトレンドテーブル37および電流変換効率の推移に基づいてフォトカプラFU1、FU2が寿命限界に到達する時期を予測する寿命限界到達推定ユニット38が設けられている。
【0048】
なお、フォトカプラFCの寿命予測装置31にて検出される信号は、フォトカプラFCを構成するフォトトランジスタM2の光電流が作用する信号ならばどれでもよく、例えば、IGBTドライブIC30の入力端子に入力される信号(出力信号Vout)であってもよいし、フォトトランジスタM2のコレクタ端子の電圧であってもよい。また、基準電圧Vref1、Vref2は、フォトカプラからの出力信号Voutの立ち下がりが傾いている部分の異なるレベルに設定することができる。
また、パルス時間間隔/CTR推測ユニット36は、実質的に等しい環境温度でパルス時間間隔測定回路34にて測定された時間差に基づいて、フォトカプラFCの電流変換効率を推定することが望ましい。
【0049】
そして、電界効果型トランジスタM1のゲートに入力信号Vinが入力されると、順電流Ifが赤外発光ダイオードPD1に流れ、赤外光が放射される。そして、赤外発光ダイオードPD1から放射された赤外光は、受光ダイオードPD2にて受光され、その赤外光に応じた光電流がフォトトランジスタM2のベースに流れる。そして、フォトトランジスタM2のベースに光電流が流れると、フォトトランジスタM2にコレクタ電流Icが流れるとともに、IGBTドライブIC30内のカレントミラー回路から定常電流ILV-ICが抵抗RLPFを介して外部に吐き出され、片端を電源電圧Vcc2に接続された抵抗RLに流れる電流はIc−ILV-ICとなる。そして、コレクタ電流Icの変化に伴う抵抗RLの他端電圧の変化が、以下の式に示すように、フォトカプラFCからの出力信号Voutとして抵抗RLPFを介してIGBTドライブIC30に入力される。
Vout=Vcc2−RL×(Ic−ILV-IC)+RLPF×ILV-IC
【0050】
さらに、IGBTドライブIC30に入力される出力信号Voutは寿命予測装置31に入力される。そして、IGBTドライブIC30に入力される出力信号Voutが寿命予測装置31に入力されると、出力信号Voutのレベルが演算増幅器32、33にて基準電圧Vref1、Vref2とそれぞれ比較される。そして、出力信号Voutのレベルが基準電圧Vref1、Vref2にそれぞれ達すると、演算増幅器32、33の出力レベルがロウレベルからハイレベルにそれぞれ変化し、演算増幅器32、33の出力レベルが変化した時の時間差がパルス時間間隔測定回路34にて測定され、その測定結果がパルス時間間隔/CTR推測ユニット36に送られる。
【0051】
そして、演算増幅器32、33の出力レベルが変化した時の時間差がパルス時間間隔/CTR推測ユニット36に送られると、パルス時間間隔/CTR推測ユニット36は、パルス時間間隔/CTR特性マップ35を参照することにより、フォトカプラFCの電流変換効率を推定し、その推定結果を寿命限界到達推定ユニット38に送るとともに、CTRトレンドテーブル37に登録する。そして、フォトカプラFCの電流変換効率の推定結果がCTRトレンドテーブル37に登録されると、寿命限界到達推定ユニット38は、CTRトレンドテーブル37を参照することにより、フォトカプラFCが寿命限界に到達する時期を予測することができる。
【0052】
これにより、フォトカプラFCの出力信号Voutの立ち下がりの傾きをフォトカプラFCの出力側で算出することで、フォトカプラFCの入力側の信号(赤外発光ダイオードPD1に流れる順電流If)を参照することなく、フォトカプラの寿命を予測することが可能となる。このため、フォトカプラFCを介してPWM信号の伝送するような正規の動作を中止することなく、フォトカプラFCの寿命を個々に予測することが可能となり、フォトカプラFCを用いた回路設計における自由度を向上させることが可能となる。
【0053】
図3は、図2のIGBTドライブICの概略構成を示すブロック図である。
図3において、IGBTドライブIC30には、IGBTドライブIC30の入力端子のプルアップ機能、フォトカプラFCからの出力信号Voutの2値化機能、IGBTのゲートドライブ機能およびIGBTの過電流/過温保護機能が備えられている。
すなわち、IGBTドライブIC30には、定常電流ILV-ICを外部に吐き出すためのカレントミラー回路から構成される電流源41、フォトカプラFCからの出力信号Voutを2値化する2値化回路42、IGBTのゲートドライブを行うためのMOS−FETドライバ44、IGBTの過電流/過温保護を行うための論理回路43、45、温度信号比較器46、電流信号比較器47が設けられている。
【0054】
そして、電流源41にて生成された定常電流ILV-ICを外部に吐き出しながら、IGBTドライブIC30にPWM信号が入力されると、2値化回路42にて2値化された後、論理回路43を介してMOS−FETドライバ44に供給され、IGBTのゲートドライブが行われる。
また、IGBT温度信号が温度信号比較器46に入力されるとともに、IGBT電流信号が電流信号比較器47に入力され、IGBTが破壊しない閾値を超過した場合には、論理回路45を介してアラーム信号が出力されるとともに、論理回路43にてゲート信号の生成を停止させることにより、IGBTに流れる電流を遮断し、IGBTを破壊から保護することができる。
【0055】
図4(a)は、図2のフォトカプラの初期状態における入力側の電圧Vinの立ち上がり波形および出力側の電圧Voutの立ち下がり波形、図4(b)は、図2のフォトカプラの初期状態における入力側の電圧Vinの立ち下がり波形および出力側の電圧Voutの立ち上がり波形、図4(c)は、図2のフォトカプラの寿命劣化状態における入力側の電圧Vinの立ち上がり波形および出力側の電圧Voutの立ち下がり波形、図4(d)は、図2のフォトカプラの寿命劣化状態における入力側の電圧Vinの立ち下がり波形および出力側の電圧Voutの立ち上がり波形を示すである。
【0056】
図4において、フォトカプラFCの寿命劣化状態では、フォトカプラFCの初期状態に比べて、出力電圧Voutの立ち上がりの傾きにはほとんど変化が見られないのに対して、出力電圧Voutの立ち下がりの傾きが小さくなる。従って、フォトカプラFCからの出力電圧Voutの立ち下がりの傾きを監視することにより、フォトカプラFCの寿命劣化状態を判定することができる。
【0057】
図5は本発明の一実施形態に係るフォトカプラの電流変換効率と出力側の電圧Voutの立ち下がり時間TpLHとの関係について温度をパラメータとして示す図、図6は、本発明の一実施形態に係るフォトカプラの電流変換効率と出力側の電圧Voutの立ち上がり時間TpHLとの関係について温度をパラメータとして示す図である。
図5および図6において、フォトカプラFCによる立ち上がり波形の遅延時間TpLHは、フォトカプラFCの電流変換効率の依存性が少ないのに対して、フォトカプラFCによる立ち下がり波形の遅延時間TpHLは、フォトカプラFCの電流変換効率が劣化するに従って大きくなり、特に、温度が低くなるに従ってその傾向が顕著に表れる。
従って、フォトカプラFCからの出力電圧Voutの立ち下がりの傾きを監視することにより、フォトカプラFCの寿命劣化状態を判定することができ、フォトカプラFCが寿命限界に到達する時期を予測することができる。
【0058】
図7は、本発明の一実施形態に係るフォトカプラの電流変換効率の寿命限界の予測方法を示す図である。
図7において、図2のパルス時間間隔/CTR推測ユニット36にて推定されたフォトカプラFCの電流変換効率が経過時間に沿ってCTRトレンドテーブル37に登録され、フォトカプラFCの電流変換効率のトレンドTRがCTRトレンドテーブル37に登録される。
そして、命限界到達推定ユニット38は、フォトカプラFCの電流変換効率のトレンドTRがCTRトレンドテーブル37に登録されると、フォトカプラFCの電流変換効率のトレンドTRに沿った推定寿命線LSを算出し、その推定寿命線LSがフォトカプラFCの電流変換効率の寿命限界TCに達する時期を予測することにより、フォトカプラFCの寿命を判定することができる。
【0059】
なお、フォトカプラFCの電流変換効率のトレンドTRに沿った推定寿命線LSを算出する方法としては、例えば、最小2乗法を用いることができる。
また、上述した実施形態では、図2の演算増幅器32、33のレベルが変化した時の時間差に基づいて、フォトカプラFCの電流変換効率の推定および寿命の予測を図1の上アーム2側および下アーム3側で行う方法について説明したが、図2の演算増幅器32、33のレベルが変化した時の信号をPWM信号に変換しながら制御回路1側に伝送し、フォトカプラFCの電流変換効率の推定および寿命の予測を制御回路1側で行うようにしてもよい。
【0060】
ここで、フォトカプラFCからの出力電圧Voutの立ち下がりの傾きは、図5に示すように、フォトカプラFCの電流変換効率が同じであっても、温度による依存性が大きいことから、実質的に等しい環境温度で出力電圧Voutの立ち下がりの傾きを測定することが好ましい。あるいは、フォトカプラFCの使用状況によって環境温度が変化する場合には、フォトカプラFCの電流変換効率の温度依存性を補正しながら、フォトカプラFCの電流変換効率を推定することが好ましい。
【0061】
図8は、本発明の第2実施形態に係るフォトカプラの寿命予測装置の概略構成を示すブロック図である。
図8において、フォトカプラFCの寿命予測装置51には、図2の寿命予測装置31の構成に加え、温度補正テーブル39が設けられるとともに、フォトカプラFCの近傍には温度センサ40が設けられている。なお、温度補正テーブル39には、例えば、フォトカプラFCの電流変換効率と周囲温度が与えられた時に、予め定められた温度におけるフォトカプラFCの電流変換効率を求めるための対応関係を登録することができる。
【0062】
そして、IGBTドライブIC30に入力される出力信号Voutが寿命予測装置51に入力されると、出力信号Voutのレベルが演算増幅器32、33にて基準電圧Vref1、Vref2とそれぞれ比較される。そして、出力信号Voutのレベルが基準電圧Vref1、Vref2にそれぞれ達すると、演算増幅器32、33の出力レベルがロウレベルからハイレベルにそれぞれ変化し、演算増幅器32、33の出力レベルが変化した時の時間差がパルス時間間隔測定回路34にて測定され、その測定結果がパルス時間間隔/CTR推測ユニット36に送られる。また、この時に温度センサ40にて計測されたフォトカプラFCの周囲温度がパルス時間間隔/CTR推測ユニット36に送られる。
【0063】
そして、演算増幅器32、33の出力レベルが変化した時の時間差がパルス時間間隔/CTR推測ユニット36に送られると、パルス時間間隔/CTR推測ユニット36は、パルス時間間隔/CTR特性マップ35を参照することにより、フォトカプラFCの電流変換効率を推定するとともに、温度センサ40による計測値および温度補正テーブル39を参照しながら、その推定されたフォトカプラFCの電流変換効率の温度依存性を補正し、その補正結果を寿命限界到達推定ユニット38に送るとともに、CTRトレンドテーブル37に登録する。そして、フォトカプラFCの電流変換効率の補正結果がCTRトレンドテーブル37に登録されると、寿命限界到達推定ユニット38は、CTRトレンドテーブル37を参照することにより、フォトカプラFCが寿命限界に到達する時期を予測することができる。
【0064】
図9は、本発明の第3施形態に係るフォトカプラの寿命予測装置の概略構成を示すブロック図である。
図9において、フォトカプラFCには、順電流Ifによって赤外光を放射する赤外発光ダイオードPD1、赤外発光ダイオードPD1から放射された赤外光を受光する受光ダイオードPD2および受光ダイオードPD2で発生した光電流をベース電流として電流増幅動作を行うフォトトランジスタM2が設けられている。そして、赤外発光ダイオードPD1にはR28が並列接続されるとともに、赤外発光ダイオードPD1のカソードは抵抗R29および抵抗R00を順次介して電界効果型トランジスタM1に接続されている。
【0065】
また、フォトトランジスタM2のコレクタは電源電圧Vcc2に接続されるとともに、フォトトランジスタM2のエミッタは抵抗RLを介して接地電位に接続され、フォトトランジスタM2のエミッタを介して出力される出力信号Voutは、抵抗RLPFを介してIGBTドライブIC30に入力される。なお、IGBTドライブIC30の入力端子とフォトトランジスタM2のエミッタとの間に挿入された抵抗RLPFは微小ノイズを除去するためのもので、抵抗RLPFは必ずしも挿入する必要はない。
【0066】
また、フォトカプラFCの寿命予測装置131には、フォトカプラFCからの出力信号Voutと基準電圧Vref1とを比較する演算増幅器132、フォトカプラFCからの出力信号Voutと基準電圧Vref2とを比較する演算増幅器133、フォトカプラFCからの出力信号Voutが基準電圧Vref1、Vref2にそれぞれ達した時の時間差を測定するパルス時間間隔測定回路134、パルス時間間隔測定回路134にて測定される時間差とフォトカプラFCの電流変換効率との関係が記述されたパルス時間間隔/CTR特性マップ135、パルス時間間隔測定回路134にて測定される時間差に基づいてフォトカプラFCの電流変換効率を推定するパルス時間間隔/CTR推測ユニット136、パルス時間間隔/CTR推測ユニット136にて推定された電流変換効率の推移を登録するCTRトレンドテーブル137および電流変換効率の推移に基づいてフォトカプラFU1、FU2が寿命限界に到達する時期を予測する寿命限界到達推定ユニット138が設けられている。
【0067】
なお、フォトカプラFCの寿命予測装置31にて検出される信号は、フォトカプラFCを構成するフォトトランジスタM2の光電流が作用する信号ならばどれでもよく、例えば、IGBTドライブIC30の入力端子に入力される信号(出力信号Vout)であってもよいし、フォトトランジスタM2のエミッタ端子の電圧であってもよい。また、基準電圧Vref1、Vref2は、フォトカプラからの出力信号Voutの立ち上がりが傾いている部分の異なるレベルに設定することができる。
また、パルス時間間隔/CTR推測ユニット136は、実質的に等しい環境温度でパルス時間間隔測定回路134にて測定された時間差に基づいて、フォトカプラFCの電流変換効率を推定することが望ましい。
【0068】
そして、電界効果型トランジスタM1のゲートに入力信号Vinが入力されると、順電流Ifが赤外発光ダイオードPD1に流れ、赤外光が放射される。そして、赤外発光ダイオードPD1から放射された赤外光は、受光ダイオードPD2にて受光され、その赤外光に応じた光電流がフォトトランジスタM2のベースに流れる。そして、フォトトランジスタM2のベースに光電流が流れると、フォトトランジスタM2にコレクタ電流Icが流れるとともに、IGBTドライブIC30内のカレントミラー回路に定常電流ILV-ICが抵抗RLPFを介して外部から吸い込まれ、片端を接地電位に接続された抵抗RLに流れる電流はIc−ILV-ICとなる。そして、コレクタ電流Icの変化に伴う抵抗RLの他端電圧の変化が、以下の式に示すように、フォトカプラFCからの出力信号Voutとして抵抗RLPFを介してIGBTドライブIC30に入力される。
Vout=RL×(Ic−ILV-IC)+RLPF×ILV-IC
【0069】
さらに、IGBTドライブIC30に入力される出力信号Voutは寿命予測装置131に入力される。そして、IGBTドライブIC30に入力される出力信号Voutが寿命予測装置131に入力されると、出力信号Voutのレベルが演算増幅器132、133にて基準電圧Vref1、Vref2とそれぞれ比較される。そして、出力信号Voutのレベルが基準電圧Vref1、Vref2にそれぞれ達すると、演算増幅器132、133の出力レベルがロウレベルからハイレベルにそれぞれ変化し、演算増幅器132、133の出力レベルが変化した時の時間差がパルス時間間隔測定回路134にて測定され、その測定結果がパルス時間間隔/CTR推測ユニット136に送られる。
【0070】
そして、演算増幅器132、133の出力レベルが変化した時の時間差がパルス時間間隔/CTR推測ユニット136に送られると、パルス時間間隔/CTR推測ユニット136は、パルス時間間隔/CTR特性マップ135を参照することにより、フォトカプラFCの電流変換効率を推定し、その推定結果を寿命限界到達推定ユニット138に送るとともに、CTRトレンドテーブル137に登録する。そして、フォトカプラFCの電流変換効率の推定結果がCTRトレンドテーブル137に登録されると、寿命限界到達推定ユニット138は、CTRトレンドテーブル137を参照することにより、フォトカプラFCが寿命限界に到達する時期を予測することができる。
【0071】
これにより、フォトカプラFCの出力信号Voutの立ち上がりの傾きをフォトカプラFCの出力側で算出することで、フォトカプラFCの入力側の信号(赤外発光ダイオードPD1に流れる順電流If)を参照することなく、フォトカプラの寿命を予測することが可能となる。このため、フォトカプラFCを介してPWM信号の伝送するような正規の動作を中止することなく、フォトカプラFCの寿命を個々に予測することが可能となり、フォトカプラFCを用いた回路設計における自由度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の一実施形態に係るフォトカプラの寿命予測装置が適用される昇降圧コンバータ用インテリジェントパワーモジュールの概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1施形態に係るフォトカプラの寿命予測装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】図2のIGBTドライブICの概略構成を示すブロック図である。
【図4】図4(a)は、図2のフォトカプラの初期状態における入力側の電圧Vinの立ち上がり波形および出力側の電圧Voutの立ち下がり波形、図4(b)は、図2のフォトカプラの初期状態における入力側の電圧Vinの立ち下がり波形および出力側の電圧Voutの立ち上がり波形、図4(c)は、図2のフォトカプラの寿命劣化状態における入力側の電圧Vinの立ち上がり波形および出力側の電圧Voutの立ち下がり波形、図4(d)は、図2のフォトカプラの寿命劣化状態における入力側の電圧Vinの立ち下がり波形および出力側の電圧Voutの立ち上がり波形を示すである。
【図5】本発明の一実施形態に係るフォトカプラの電流変換効率と出力側の電圧Voutの立ち下がり時間TpLHとの関係について温度をパラメータとして示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るフォトカプラの電流変換効率と出力側の電圧Voutの立ち上がり時間TpHLとの関係について温度をパラメータとして示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るフォトカプラの電流変換効率の寿命限界の予測方法を示す図である。
【図8】本発明の第2施形態に係るフォトカプラの寿命予測装置の概略構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の第3施形態に係るフォトカプラの寿命予測装置の概略構成を示すブロック図である。
【図10】従来の昇降圧コンバータを用いた車両駆動システムの概略構成を示すブロック図である。
【図11】図10の昇降圧コンバータの概略構成を示すブロック図である。
【図12】昇圧動作時に図11のリアクトルに流れる電流の波形を示す図である。
【図13】フォトカプラを用いたPWM信号の伝送回路の構成を示す図である。
【図14】20℃におけるフォトカプラの発光ダイオードに流れる順電流Ifをパラメータとした時の電流変換効率のコレクタ/エミッタ電圧依存性を示す図である。
【図15】フォトカプラの発光ダイオードに流れる順電流Ifに対するフォトトランジスタのコレクタ電流Icをパラメータとした時の電流変換効率の温度依存性を示す図である。
【図16】フォトカプラの発光ダイオードに流れる順電流Ifをパラメータとした時の電流変換効率の経時特性を示す図である。
【図17】フォトカプラを用いたPWM信号の伝送回路における入力信号と出力信号の伝搬遅延時間の定義を示す図である。
【図18】図18(a)は、負荷抵抗RLに対するフォトカプラの伝搬遅延時間特性を示す図、図18(b)は、周囲温度Taに対するフォトカプラの伝搬遅延時間特性を示す図である。
【図19】IGBTのゲート信号のデッドタイムの設定方法を示す図である。
【符号の説明】
【0073】
SWU、SWD スイッチング素子
1 制御回路
2 上アーム
3 下アーム
4 VH比較器
5 ゲート信号発生器
6 ローパスフィルタ
7、8 IGBT
9、11 ゲートドライバ
10、12 IGBT保護回路
13 VH検出回路
14 三角波生成器
15 レベル調整部
16 分圧回路
17 比較回路
21、22、31、51、131 寿命予測装置
FU1〜FU3、FC フォトカプラ
DU1、DU2、DD1、DD2 ダイオード
RU1、RU2、RD1、RD2、R00、R28、R29、RL、RLPF 抵抗
M1 電界効果型トランジスタ
M2 フォトトランジスタ
30 IGBTドライブIC
32、33、132、133 演算増幅器
Vref1、Vref2 基準電圧
134 パルス時間間隔測定回路
135 パルス時間間隔/CTR特性マップ
136 パルス時間間隔/CTR推測ユニット
137 CTRトレンドテーブル
138 寿命限界到達推定ユニット
39 温度補正テーブル
40 温度センサ
41 電流源
42 2値化回路
43、45 論理回路
44 MOS−FETドライバ
46 温度信号比較器
47 電流信号比較器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトカプラの出力側の信号の立ち上がりまたは立ち下がりの傾きを前記フォトカプラの出力側で検出する傾き検出手段と、
前記傾き検出手段にて検出されたフォトカプラの出力側の信号の立ち上がりまたは立ち下がりの傾きに基づいて、前記フォトカプラの電流変換効率を推定する電流変換効率推定手段とを備えることを特徴とするフォトカプラの寿命予測装置。
【請求項2】
前記傾き検出手段は、
前記フォトカプラの出力側の信号が異なるレベルの複数のしきい値に達したかを検出するレベル検出手段と、
前記フォトカプラの出力側の信号が異なるレベルの複数のしきい値に達した時の時間差を測定する時間間隔測定手段とを備え、
前記電流変換効率推定手段は、前記フォトカプラの出力側の信号が異なるレベルの複数のしきい値に達した時の時間差に基づいて、前記フォトカプラの電流変換効率を推定することを特徴とする請求項1記載のフォトカプラの寿命予測装置。
【請求項3】
前記電流変換効率推定手段は、実質的に等しい環境温度で測定された時間差に基づいて、前記フォトカプラの電流変換効率を推定することを特徴とする請求項2記載のフォトカプラの寿命予測装置。
【請求項4】
前記フォトカプラの温度を計測する温度センサをさらに備え、
前記電流変換効率推定手段は、前記温度センサにて計測された温度に基づいて前記フォトカプラの電流変換効率の温度依存性を補正しつつ、前記フォトカプラの電流変換効率を推定することを特徴とする請求項2記載のフォトカプラの寿命予測装置。
【請求項5】
前記電流変換効率推定手段にて推定された前記フォトカプラの電流変換効率の時間的な履歴に基づいて、前記フォトカプラが寿命限界に到達する時期を予測する寿命予測手段をさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載のフォトカプラの寿命予測装置。
【請求項6】
前記フォトカプラの出力側の信号は、前記フォトカプラを構成するフォトトランジスタの光電流が作用する信号であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載のフォトカプラの寿命予測装置。
【請求項7】
上アーム用および下アーム用としてそれぞれ作動するように互いに直列に接続され、負荷へ流入する電流を通電および遮断する1対のスイッチング素子と、
前記スイッチング素子の導通および非導通を指示する制御信号を生成する制御回路と、
前記制御信号に基づいて前記スイッチング素子の制御端子を駆動する駆動回路と、
前記制御回路と前記駆動回路とが絶縁されるように前記スイッチング素子ごとに設けられ、前記制御回路と前記駆動回路との間で信号を伝送するフォトカプラと、
前記フォトカプラの出力側の信号が異なるレベルの複数のしきい値に達した時の時間差に基づいて、前記フォトカプラの電流変換効率を推定する寿命予測手段とを備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項8】
フォトカプラの出力側の信号が異なるレベルの複数のしきい値に達した時の時間差を測定するステップと、
前記フォトカプラの出力側の信号が異なるレベルの複数のしきい値に達した時の時間差に基づいて、前記フォトカプラの電流変換効率を推定するステップとを備えることを特徴とするフォトカプラの寿命予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−268002(P2008−268002A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−111872(P2007−111872)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】