説明

フォトクロミックコーティング液

【課題】 必要に応じてウレタン系プライマーが施用された基材の表面に塗布して硬化させることによりフォトクロミックコート層を与えるフォトクロミックコーティング剤であって、これら基材表面に対する施用性が良好であり、かつ基材に対する密着性が高く、優れたフォトクロミック特性を有するフォトクロミックコート層を与えるフォトクロミックコーティング剤を提供する。
【解決手段】 たとえば、単独重合したときに得られる硬化体のLスケールロックウェル硬度60以上である重合性単量体成分と、単独重合硬化体のLスケールロックウェル硬度が40以下である重合性単量体成分の混合物を含むラジカル重合性単量体成分100重量部、フォトクロミック化合物0.01〜20重量部、シリコーン系またはフッ素系界面活性剤0.001〜5重量部からなるフォトクロミックコーティング剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミックプラスチックレンズを製造する際に好適に使用できるフォトクロミックコーティング液に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック眼鏡とは、太陽光のような紫外線を含む光が照射される屋外ではレンズが速やかに着色してサングラスとして機能し、そのような光の照射がない屋内においては退色して透明な通常の眼鏡として機能する眼鏡であり、近年その需要は増大している。
【0003】
フォトクロミック性を有するプラスチックレンズの製造方法としては、フォトクロミック性を有しないレンズの表面にフォトクロミック化合物を含浸させる方法(以下、含浸法という)、あるいはプラスチックレンズの表面にフォトクロミック性を有する硬化性組成物からなるコーティング剤(以下、フォトクロミックコーティング剤ともいう)を塗布した後にこれを硬化させてフォトクロミック性を有する樹脂層(フォトクロミックコート層)を設ける方法(以下、コーティング法という)、あるいはモノマーにフォトクロミック化合物を溶解させそれを重合させることにより直接フォトクロミックレンズを得る方法(以下、練り混み法という)が知られている。
【0004】
ところで、上記含浸法においては基材レンズとしてフォトクロミック化合物が拡散し易い柔らかい基材を用いる必要があり、また練りこみ法においても良好なフォトクロミック性を発現させるためには特殊なモノマー組成物を使用する必要がある。一方、コーティング法は、原理的にはどのようなレンズ基材に対してもフォトクロミック性を付与できるという利点を有している。
【0005】
このようにコーティング法はフォトクロミックプラスチックレンズの製法として優れた方法であるといえるが、基材さらには必要に応じてフォトクロミックコート層上に形成されるハードコート層に対して十分な密着性を有し、且つ良好なフォトクロミック特性を発現するフォトクロミックコート層を形成する技術は未だ確立されていない。
【0006】
従来、コーティング方法としては、(i)ウレタンオリゴマー中にフォトクロミック化合物を溶解させたものをレンズ表面に塗布し、それを硬化する方法(特許文献1参照)、(ii)単官能、2官能および多官能ラジカル重合性単量体を組み合わせた重合性単量体組成物にフォトクロミック化合物を溶解し、それをレンズ表面に塗布し、硬化する方法(特許文献2参照)、(iii)2種類以上の2官能(メタ)アクリルモノマーのみの組み合わせからなるモノマー組成物にフォトクロミック化合物を溶解し、それをレンズ表面に塗布、硬化する方法(特許文献3参照)、(iv)N―アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド、触媒(好ましくは酸性触媒)及びフォトクロミック化合物等からなる組成物をレンズ表面に塗布、熱硬化する方法(特許文献4参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第98/37115号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5914174号公報
【特許文献3】国際公開第01/02449号パンフレット
【特許文献4】国際公開第00/36047号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記(i)の方法には、得られるフォトクロミックコート層の架橋密度が低いためにフォトクロミック特性の温度依存性が大きくなるばかりでなく、フォトクロミックコート層上にハードコートを施用する際にハードコート液中にフォトクロミック化合物が溶出するなどといった問題がある。また(ii)、(iii)及び(iv)の方法には、眼鏡レンズ基材とフォトクロミックコート層との密着性が十分でないという問題がある。
【0009】
そこで、本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、基材に対して高い密着性を有するコート層を与えるコーティング剤として、「シラノール基または加水分解によりシラノール基を生成する基を有するラジカル重合性単量体を含有するラジカル重合性単量体、アミン化合物およびフォトクロミック化合物を夫々特定量含有してなる硬化性組成物」からなるフォトクロミックコーティング剤を見出すことに成功し(国際公開第03/011967号パンフレット)、さらに上記接着性フォトクロミックコーティング剤中にマレイミド基を含むラジカル重合性単量体を配合することにより、安定した密着性を得ることにも成功した(特願2002−372835号、以下、これらコーティング剤を総称して接着性フォトクロミックコーティング剤ともいう)。しかしながら、これら接着性フォトクロミックコーティング剤について高温高湿条件下での使用を想定した煮沸促進試験を行った結果、基材の種類等によっては膜の密着性が低下しコート層が剥離する場合があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
密着性や接着性を改善する技術としては、プライマーを用いて被接着体間にプライマー層を設けることが知られている。例えば、ハードコート層とレンズ基材との密着性を向上させるためのプライマーとして、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂またはポリアセタール樹脂等が提案されている。しかしながら、プラスチックレンズ基材と上記したようなフォトクロミックコート層との密着性を改良することを目的としてプライマーの効果について検討された例は、本発明者が知る限りで存在しない。
【0011】
そこで本発明者らは、これらプライマーを用いることにより、プラスチックレンズ基材とフォトクロミックコート層との密着性を改良できるのではないかと考え様々なプライマーについてその効果を検討したところ、ポリウレタン樹脂プライマーを用いた場合には、密着性が改良される場合があるという知見を得るに至った。しかしながら、プラスチックレンズのハードコート用のプライマーとして一般的に使用されているウレタン系プライマーを使用した場合には、密着性は改良されるものの、最終的に得られる積層体の光学物性やフォトクロミック特性などの点で問題があることが明らかとなった。
【0012】
即ち、プラスチックレンズ用に使用されているウレタン系プライマーとしては、下記1)〜3)のようなものが知られているが、それぞれ次のような問題があることが明らかとなった。
【0013】
1)予めポリイソシアネートと活性水素化合物を反応させてポリウレタンを合成し、そのポリウレタンを溶媒に溶かして得た塗料をレンズ基材に塗布した後、溶媒を揮発させることによりプライマー層を形成するもの。このタイプのプライマーを使用した場合には、得られるプライマー層が架橋構造を有していないためにフォトクロミックコーティング剤を塗布する際にプライマー層を構成するポリウレタンが該コーティング剤中に溶出し、フォトクロミックコーティング剤を汚染してしまい、所望のフォトクロミック性が得られないという問題が起こる。例えば、特開昭63−87223号公報に記載のジオールとジイソシアネートの反応により生成させたポリウレタン樹脂を溶媒に溶かした溶液をレンズ基材に塗布した後、加熱処理して溶媒を揮発させることにより熱可塑性のポリウレタンからなるプライマー層を形成し、その上にフォトクロミックコーティング剤を塗布した場合には、フォトクロミックコート層のフォトクロミック特性が低下する。
【0014】
2)ポリイソシアネートと活性水素化合物、さらに必要に応じて硬化触媒を混合し、塗布後、必要に応じて加熱硬化することにプライマー層を形成するもの。このタイプのプライマーは、保護基で保護されていないポリイソシアネートを用いているために活性水素化合物の反応が速く、混合液の保存安定性が悪いためプライマーを塗布するときの作業性・操作性(施用性)が悪く、得られるプライマー層の光学特性の再現性に問題がある。
【0015】
3)ポリイソシアネートのイソシアネート基をメチルエチルケトン等の保護基によりブロックし常温で不活性化したブロック型ポリイソシアネートと活性水素化合物、必要に応じて硬化触媒を混合し、塗布後に加熱することにより、保護基をはずしながら架橋させることによってプライマー層を形成するもの。このタイプのプライマーは、上述の保存安定性は改良されているものの、保護基をはずすために高温を必要とし、さらにフォトクロミックコート層との密着性を強めるためには、140℃以上の高温をかける必要があり、プラスチックレンズ基材が熱変形したり黄変色したりするという問題が起こる。
【0016】
また、同じウレタン系プライマーとして、分子量を比較的高くし、分子中のイソシアネート基含有量を少なく調整した湿気硬化型ポリウレタン樹脂のプライマー(該プライマーはその名の通り、大気中の水分と反応してカルバミン酸を生じ、脱炭酸してアミンを生成し、そのアミンと残存イソシアネート基が尿素結合を生じることで架橋硬化する。)があるが、水分と反応し硬化するという硬化機構から、液を大気中で開放して使用することはできず、さらに粘度が高いため薄いコート膜を形成するのが難しいばかりでなく、硬化過程で炭酸ガスを発生するために硬化膜に気泡が残る問題があるためレンズ基材等の光学用途に用いた例は知られておらず、もっぱら建築用等このような現象が問題とならない用途に用いられているものである。
【0017】
本発明者等は、密着性の向上についてはウレタン系プライマーを用いた場合に効果があること、上記湿気硬化型ポリウレタン樹脂プライマーは一液である上に架橋硬化に高温を必要としないため、レンズ基材の熱による変形や変色を起すことがないという利点に着目し、工夫次第ではレンズ用プライマーとして使用できるのではないかと考え更に検討を行なった。
【0018】
その結果、ある特定の溶媒を使用し、更に必要に応じてレベリング剤を併用することにより施用性が改良され、スピンコート法により薄い塗膜を形成することが可能となること及び塗膜の厚さを薄くした場合には硬化膜中に気泡が残らなくなり、光学特性およびフォトクロミック特性を低下させることなくフォトクロミックコート層の密着特性を向上させることができることを見出した。
【0019】
また、上記の国際公開第03/011967号パンフレットに開示されているフォトクロミックコーティング剤は優れたものではあるが、本発明者等が該フォトクロミックコーティング剤について更に検討を行ったところ、用いる基材の材質によって、或いは密着耐久性を向上させるためにウレタン系プライマーを用いた場合には、該フォトクロミックコーティング剤を施用する際の濡れ性が十分ではなく、また、フォトクロミックコート層と基材またはプライマー層との界面に生じる荒れにより外観不良が起るおそれがあることが判明した。
【0020】
したがって、プラスチックレンズ等の基材にフォトクロミック特性がさらに良好なフォトクロミックコート層が強固かつ安定に密着した、フォトクロミックプラスチックレンズとして好適に使用できる積層体を提供することと、フォトクロミックモノマーの施用性や塗膜の光学特性がさらに良好であり、かつ基材に対する密着性が高く、優れたフォトクロミック特性を有するフォトクロミックコート層を与えるフォトクロミックコーティング剤を提供することが要望される。
【0021】
本発明者らは、フォトクロミック化合物を含有するラジカル重合性単量体にシリコーン系またはフッ素系界面活性剤を添加した場合には、基材に対する濡れ性(施用性)や塗膜の光学特性が向上することを見出したことによって、本発明を完成するに至った。
【0022】
このような目的を達成するために開発された技術として下記(1)〜(13)に示されるものがあるが、本発明はその中で下記(11)〜(13)に該当する。
【0023】
(1) 光学基材の少なくとも一方の表面上に湿気硬化性ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体の硬化体からなるポリウレタン樹脂層が形成された積層構造を含んでなることを特徴とする積層体。
(2) 光学基材が三次元架橋体で構成される面を有し、当該面上に前記ポリウレタン樹脂層が形成されていることを特徴とする(1)に記載の積層体。
(3) 前記ポリウレタン樹脂層の厚さが0.1〜10μmであり、該層中に気泡が実質的に存在しないことを特徴とする(1)又は(2)に記載の積層体。
(4) 光学基材の少なくとも一方の表面上に、湿気硬化性ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体並びに沸点が70℃以上で且つ溶解度パラメーターが8以上である溶媒を含むコーティング液を塗布した後に溶媒を除去し、次いで湿気硬化性ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体を硬化させることを特徴とする(1)〜(3)の何れかに記載の積層体の製造方法。
(5) 前記湿気硬化性ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体の溶液が、さらにレベリング剤を含有することを特徴とする(4)に記載の製造方法。
(6) 光学基材の表面にポリウレタン樹脂層およびフォトクロミック化合物を含有する樹脂層がこの順で積層された積層構造を含んでなることを特徴とする積層体。
(7) 上記(1)、(2)、(3)または(6)に記載の積層体からなることを特徴とする光学物品。
(8)湿気硬化性ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体並びに沸点が70℃以上で且つ溶解度パラメーターが8以上である溶媒を含む光学基材用コーティング液。
(9) ラジカル重合性単量体成分100重量部、シリコーン系またはフッ素系界面活性剤0.001〜5重量部およびフォトクロミック化合物0.01〜20重量部を含有してなる硬化性組成物。
(10) 上記(9)記載の硬化性組成物を硬化させてなるフォトクロミック性硬化体。
(11) 上記(9)記載の硬化性組成物からなるフォトクロミックコーティング剤。
(12) 光学基材の表面の少なくとも一部が、(11)記載のフォトクロミックコーティング剤の硬化体から成るフォトクロミックコート層で覆われてなることを特徴とするフォトクロミック光学物品。
(13) フォトクロミック化合物を含有する樹脂層が、(11)記載のフォトクロミックコーティング剤の硬化体からなる(6)に記載の積層体。
【発明の効果】
【0024】
前記積層体(1)、(2)、(3)によれば、ポリウレタン樹脂層による光学特性の悪化がないばかりでなく該層により耐衝撃性が大幅に改良されることから、それ自体が耐衝撃性の高いプラスチックレンズとして有用であるばかりでなく、前記接着性フォトクロミックコーティング剤さらにはそれ以外のフォトクロミックコーティング剤の硬化膜との密着性(接着性)が高いためコーティング法によりフォトクロミックプラスチックレンズ等の光学物品を製造する際の原料基材(中間材料)として特に有用である。すなわち、前記の積層体は、基材の高い光学特性を保ったまま耐衝撃性を改良するものであり、それ自体が眼鏡レンズ等の光学物品として有用なものである。さらに本発明の積層体は、その表面にフォトクロミックコート層を形成したときに該フォトクロミックコート層と強固に密着するという優れた効果を有する。
【0025】
前記の積層体の製造方法(4)、(5)および前記光学基材用コーティング液(8)を採用することにより、分子量の高い湿気硬化性ポリウレタン樹脂を用いているにもかかわらず、スピンコートによる施用が可能になり薄い均一な厚さの塗膜形成が可能になるばかりでなく、塗膜中に気泡が残存するのを防止することが可能となり、良好な光学特性を有する本発明の積層体を製造することが可能となる。すなわち前記製造方法および光学基材用コーティング液は、従来光学用途には用いられていない湿気硬化型ポリウレタン樹脂系プライマーを光学用途に適用可能にしたものであり、光学用途に用いられて来た従来のウレタン系プライマーの持つ様々な問題を解決するものである。さらに、これら技術は、プラスチックレンズの分野において、基材の種類によらずフォトクロミック性を付与することが可能なコーティング法により実用に耐え得るフォトクロミックプラスチックレンズを製造するための方法としても有用性は高い。
【0026】
前記他の積層体(6)は、ポリウレタン樹脂層を介在させることによって、フォトクロミックコート層と基材との密着性が良好であるという特徴を有するためフォトクロミックプラスチックレンズとして有用であり、特にポリウレタン樹脂層が光学用湿気硬化型ウレタン系プライマーの硬化体からなるものは、前記したような多くのメリットを有するコーティング法で製造でき、しかもコーティング層は安定且つ強固に密着しており、更にフォトクロミック特性を含めた光学特性が良好であるという特徴を有する。フォトクロミックコート層を有する本発明の積層体は、優れた光学特性及びフォトクロミック特性を有するばかりでなく、煮沸といった高湿度の過酷な条件下でもフォトクロミックコート層が剥離することがない強固な密着性を示す。従って本発明の積層体は、長期間使用した場合でも、コーティング膜の剥離が生じるようなことがなく信頼性の高いフォトクロミック性光学物品(例えばフォトクロミックプラスチックレンズ)となるものである。
【0027】
本発明のフォトクロミックコーティング剤(11)は、使用した時に、基材等に対する濡れ性(施用性)や塗膜の光学特性が向上するという効果を有する。本発明のフォトクロミックコーティング剤の中でもそれを構成する硬化性組成物における(i)ラジカル重合性単量体成分が、単独に重合したときに得られる硬化体のLスケールロックウェル硬度が60以上であるラジカル重合性単量体成分と、単独重合硬化体のLスケールロックウェル硬度が40以下であるラジカル重合性単量体成分の混合物を含むものは、フォトクロミックコーティング剤として使用した時に、上記本発明の効果が発現することに加えて、得られるフォトクロミックコート層のフォトクロミック特性が良好となるという特徴を有する。
【0028】
また、(ii)(a)シラノール基又は加水分解によりシラノール基を生成する基を有するラジカル重合性単量体(以下、単にシリルモノマーともいう。)及び/又はイソシアネート基を有するラジカル重合性単量体(以下、単にイソシアネートモノマーともいう。)又は(b)シラノール基または加水分解によりシラノール基を生成する基を有する化合物であってラジカル重合性基を有しない化合物を全ラジカル重合体成分100重量部に対して0.5〜20重量部、特に1〜10重量部含有するものは、フォトクロミックコーティング剤として使用した時に、上記本発明の効果が発現することに加えて、得られるフォトクロミックコート層の基材に対する密着性が良好となるという特徴を有する。更に、(iii)上記(ii)の硬化性組成物であってラジカル重合体成分が単独に重合したときに得られる硬化体のLスケールロックウェル硬度が60以上である重合性単量体成分と、単独重合硬化体のLスケールロックウェル硬度が40以下である重合性単量体成分の混合物を含むものは上記(i)と(ii)の特徴を併せ持つという特徴を有する。
【0029】
そして、本発明のフォトクロミックコーティング剤は、使用した時に、基材等に対する濡れ性(施用性)が良好であるばかりでなく、得られるフォトクロミック層のフォトクロミック特性及び光学特性が良好で、且つ基材に対する密着性が高いという優れた特徴を有する。したがって、本発明のフォトクロミックコーティング剤は、コーティング法によりフォトクロミックレンズを製造する際のフォトクロミックコーティング剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
前記(1)の積層体は、プラスチックレンズ基材等の光学基材(ここで、光学基材とは光学材料からなる表裏一対の主要面を有する基材を意味する。)の少なくとも一方の表面上に湿気硬化性ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体の硬化体からなるポリウレタン樹脂層が形成されてなる。ここで、光学基材としては、光透過性を有する基材であれば特に限定されず、ガラス及びプラスチックレンズ、家屋や自動車の窓ガラス等公知の光学基材が挙げられるが、プラスチックレンズを用いるのが特に好適である。
【0031】
プラスチックレンズとしては、(メタ)アクリル樹脂系、ポリカーボネート系樹脂等の熱可塑性樹脂レンズ;多官能(メタ)アクリル樹脂、アリル系樹脂、チオウレタン系樹脂、ウレタン系樹脂およびチオエポキシ系樹脂等の架橋性樹脂レンズ等、現在プラスチックレンズとして使用されている公知のものが使用できるが、本発明の光学基材用コーティング液によりポリウレタン樹脂層を形成する場合には、光学基材用コーティング液の溶媒の選択幅が広がるため(別言すれば基材を侵さない溶媒の範囲が広いため)、光学基材用コーティング液が施用される表面は三次元架橋体で構成されているのが好ましい。即ち、プラスチック材料が架橋樹脂である場合にはそのまま使用できるが、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂からなる場合には、その表面に三次元架橋体層を形成するのが好ましい。この三次元架橋体層は特に限定されないが、好適な例としては所謂ハードコート層を挙げることができる。
【0032】
前記(1)の積層体は、上記光学基材の表面に前記本発明の光学基材用コーティング液(8)(以下、「光学用湿気硬化型ウレタン系プライマー」ともいう)の硬化体からなるウレタン樹脂層が形成されていることを最大の特徴とする。該層が形成されることにより、光学基材の耐衝撃性を改良でき、更に前記したような接着性フォトクロミックコーティング剤等を施用してフォトクロミックコート層を形成したときの該コート層の基材への密着性(接着性)を高くすることが可能となる。
【0033】
ここで上記硬化体層を形成する硬化体は、光学用湿気硬化型ウレタン系プライマーの成分である湿気硬化型ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体が硬化して得られるポリウレタン樹脂である。前記したようにプラスチックレンズ基材上にウレタン樹脂層が形成されたものは知られているが、湿気硬化型ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体を光学材料用のプライマーとして使用した例は知られておらず、したがって、これらの硬化体であるウレタン樹脂(その構造は、硬化前の化合物の構造に対応するものであるから、該ウレタン樹脂は従来の光学用途に使用されていたウレタン系プライマーによるものとは当然異なるものである)からなる層を有する光学基材は新規である。
【0034】
本発明で使用する湿気硬化型ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体とは、分子中に複数存在するイソシアネート基の一部が例えば大気中の水分と反応してカルバミン酸を生じた後に脱炭酸してアミンを生成し、該アミンと残存イソシアネート基が反応して尿素結合を生じることにより架橋硬化するイソシアネート基含有化合物またはこのような化合物の前駆体となる化合物又は化合物の組合せを意味し、例えば、分子量を比較的高く、好適には数平均分子量で300〜5000、特に500〜3000として、1分子中において末端に存在するイソシアネート基の平均含有量を0.001モル%〜50モル%、好ましくは0.1モル%〜10モル%、最も好ましくは0.5モル%〜5モル%に調整されたポリウレタンオリゴマー或いはポリウレタンポリマー;これらポリウレタンオリゴマーやポリウレタンポリマーの前駆体となる“イソシアネート化合物或いはその誘導体”又は“これら「イソシアネート化合物或いはその誘導体」と活性水素含有化合物との組合せ”を使用することができる。なお、ここでいうイソシアネート基の平均含有量(モル%)とは、特定量の化合物中に存在するイソシアネート基のモル数を化学的に定量して求め、得られたイソシアネート基のモル数を当該特定量の中に含まれる化合物のモル数(特定量の重量を数平均分子量で除した値)で除することによって化合物1分子中に存在するイソシアネート基のモル数を求め、さらに該モル数を化合物の分子量(数平均分子量)で除した値を%表記したものを意味する。これら湿気硬化型ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体は、例えば建築用途用のプライマーとして市販されており、工業的に或いは試薬として入手可能である。
【0035】
好適に使用できる湿気硬化型ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体を例示すれば、(1)トリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニール)チオホスフェート、テトラメチルキシレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート化合物;トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジエソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、水添キシレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシナネートメチルオクタン、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイイソシアネート等の脂肪族イソシアネート化合物など、および/または(2)これらイソシアネート化合物と活性水素を有する化合物とをイソシアネート基が残るような仕込み比で種々の方法で結合させたポリイソシアネート化合物またはポリイソシアネートオリゴマー化合物、(3)イオウ若しくはハロゲン基を1種または2種以上含むポリイソシアネート、およびその変性体などが挙げられる。変性体の例としてはビュウレット、イソシアヌレート、アロファネート、カルボジイミドなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせてもよい。
【0036】
これらの中でも、比較的低温で優れた密着性を発現できる観点から、脂肪族イソシアネート化合物及び/又は該脂肪族イソシアネート化合物と活性水素を有するような化合物とをイソシアネート基が残るような仕込み比で種々の方法で結合させたポリイソシアネート化合物またはポリイソシアネートオリゴマー化合物、特に塗膜性の点から環状脂肪族イソシアネート化合物及び/又は該環状脂肪族イソシアネート化合物と活性水素を有する化合物とをイソシアネート基が残るような仕込み比で種々の方法で結合させたポリイソシアネート化合物またはポリイソシアネートオリゴマー化合物が好ましい。
【0037】
また、得られるポリイソシアネート化合物またはポリイソシアネートオリゴマー化合物が空気中の水分などと反応して硬化する速度が速いという観点から、芳香族イソシアネート化合物及び/又は該芳香族イソシアネート化合物と活性水素を有するような化合物とをイソシアネート基が残るような仕込み比で種々の方法で結合させたポリイソシアネート化合物またはポリイソシアネートオリゴマー化合物も好適に使用できる。この場合、水分とイソシアネートとの反応の結果、ウレア結合が生成するが、本発明におけるポリウレタン樹脂層にはこのようなウレア結合が含まれていてもよい。
【0038】
なお、上記活性水素を有する化合物としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルキレングリコール類;ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコール類;ポリ(ジエチレンアジペート)、ポリ(テトラメチレンアジペート)、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)、ポリ(ネオペンチレンアジペート)などのポリ(アルキレンアジペート)類;ポリ−ε−カプロラクトン、ポリカプロラクトンジオール、ポリカプロラクトントリールなどのポリカプロラクトン類;ポリ(1,4−ブタンジエン)グリコール、ポリ(1,2−ブタンジエン)グリコールなどのポリブタジエングリコール類;ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)などのポリ(アルキレンカーボネート)類;ポリエステルポリオール類;1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオールなどの3個以上のヒドロキシ基を含有するポリオール類;シリコーンポリオール等が挙げられるが、その他の公知の活性水素含有化合物の使用も可能である。これらの中でもポリアルキレングリコール類、3個以上のヒドロキシ基を含有するポリオール類、ポリアルキレンアジペート類、ポリアルキレンカーボネート類、ポリカプロラクトン類、ポリエステルポリオール類を用いた場合には、硬化させる際の加熱温度をより低くすることができ、基材の熱変形や変色をより確実に防止することができる。
【0039】
なお、上記した活性水素を有する化合物は単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。特に湿気硬化型ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体としてトリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族イソシアネート化合物を用いる場合には、得られるポリイソシアネート化合物またはポリイソシアネートオリゴマーの結晶性が高くなる場合もあり、2種類以上の活性水素を有する化合物を用いることが好ましい。
【0040】
また、硬化速度が速いという観点から、前記湿気硬化型ウレタン系プライマーにおける湿気硬化型ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体の分子量は、比較的高いほうが好ましい。分子量を高くする手法としては、前述のイソシアネート化合物と活性水素を有する化合物とをイソシアネート基が残るような仕込み比で種々の方法で結合させる際に、イソシアネート基の残る量を少なくするように調整する方法がある。あるいは、湿気硬化型ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体の分子中に複数存在するイソシアネート基を鎖延長剤などにより結合する方法もある。ここで、鎖延長剤としては、先述したような活性水素を有する化合物やエチレンジアミン等のジアミン化合物が挙げられるが、これらの中でも、鎖延長反応の制御のし易さという観点から、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール等のアルキレングリコール類や、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類が好適に用いられる。
【0041】
前記光学用湿気硬化型ウレタン系プライマーの硬化体からなる層は、該硬化体のみから成っていてもよいが、一般的に表面硬度の向上を目的としてよく使用される微粒子状無機物を含んでいてもよい。ここで、微粒子状無機物とは、平均粒子形が約1〜300nmのものが好ましく、さらに好ましくは約1〜200nmのものが用いられる。
【0042】
微粒子状無機物の具体例としては、二酸化ケイ素などの酸化ケイ素化合物、三酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物、二酸化チタンなどの酸化チタン化合物、二酸化ジルコニウムなどの酸化ジルコニウム化合物、二酸化スズなどの酸化スズ化合物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンなどの酸化アンチモン化合物等が挙げられる。
【0043】
また、前記光学用湿気硬化型ウレタン系プライマーの硬化体からなる層の厚さは特に限定されないが、良好な光学特性および必要に応じて該層上に形成されるフォトクロミックコート層との密着性(接着性)の観点から、0.1〜10μm、特に1〜7μmであるのが好適である。また、光学特性の観点から、該層中に気泡が実質的に存在しないことが好適である。なお、ここで「気泡が実質的に存在しない」とは、目視による観察の結果で、気泡の存在が認められない状態をいう。このような特徴(厚さ及び気泡のなさ)を有するウレタン樹脂層は、例えば建材用に市販されている湿気硬化型ポリウレタン樹脂プライマーをそのまま用いた場合には得ることができず、前記した本発明の製造方法を採用することによって初めて得ることができたものである。
【0044】
前記(1)の積層体を製造する方法は特に限定されないが、前記(4)の製造方法を採用する、即ち、光学材料基材の少なくとも一方の表面上に光学用湿気硬化型ウレタン系プライマーを塗布した後に溶媒を除去し、湿気硬化性ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体を硬化させることにより製造するのが好適である。
【0045】
上記製造方法で使用する光学用湿気硬化型ウレタン系プライマーは、湿気硬化性ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体並びに沸点(常圧)が70℃以上で且つ溶解度パラメーターが8以上である溶媒を含む溶液であれば特に限定されない。ここで、湿気硬化性ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体とは、前記積層体についての説明で説明した通りのものである。
【0046】
上記光学用湿気硬化型ウレタン系プライマーで使用する沸点が70℃以上で且つ溶解度パラメーターが8以上である溶媒は、湿気硬化型ポリウレタン樹脂等の希釈溶媒であり、このような希釈溶媒を使用することにより前記のような優れた特徴を有する硬化体層を得ることが可能になる。本発明で好適に使用される上記希釈溶媒を具体的に例示すると、酢酸ブチル、アセチルアセトン、メチルイソブチルケトン、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、キシレン、メチルエチルケトン、アセト酢酸メチル、トルエン、酢酸エチル等を挙げることができる。本発明の製造方法においてはこれらから選ばれる少なくとも1種の溶媒を使用するのが好適である。
【0047】
これら溶媒中の湿気硬化型ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体の含有量としては、湿気硬化型ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体並びに上記希釈溶媒の合計重量を基準として5〜80重量%が好ましく、密着性を確保しながら、炭酸ガスの痕跡を低減するには、10〜50重量%の範囲がさらに好ましい。
【0048】
さらに、前記光学用湿気硬化型ウレタン系プライマーは、塗膜の平滑性を向上させるという理由からレベリング剤を含有するのが好適である。レベリング剤としては、公知のものが何ら制限なく使用できるが、好適なものを例示すれば、シリコーン系、フッ素系、アクリル系、ビニル系等を挙げることができる。該レべリング剤の使用量は湿気硬化型ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体の合計重量(樹脂成分の重量)を基準として、0.05〜15重量%、特に0.1〜10重量%であるのが好適である。
【0049】
さらにまた、前記光学用湿気硬化型ウレタン系プライマーは、前記したような微粒子状無機物を含むこともできる。該微粒子状無機物の含有量は特に限定されないが、湿気硬化型ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体の合計重量(樹脂成分の重量)を基準として、30重量%以下、特に10重量%以下であるのが好適である。また、硬化に際して、硬化促進、低温硬化等を可能とする目的で各種の硬化剤が含まれていても何ら問題はない。好適に使用される硬化剤としては、各種エポキシ樹脂硬化剤、あるいは、各種有機ケイ素樹脂硬化剤等が知られている。これらの硬化剤の具体例としては、各種の有機酸及びそれらの酸無水物、三級アミン化合物などの窒素含有有機化合物、有機錫化合物、有機亜鉛化合物などの各種金属錯化合物あるいは金属アルコキシド、さらにアルカリ金属の有機カルボン酸塩、炭酸塩等の各種塩が挙げられる。その際の添加量としては、湿気硬化型ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体の合計重量(樹脂成分の重量)を基準として0.1〜5重量%、特に0.5〜2重量%であるのが好適である。
【0050】
光学基材の表面上に光学用湿気硬化型ウレタン系プライマーを塗布する方法は特に限定されず、ディッピング、スピンコーティング、ディップスピンコーティングなどの方法が挙げられるが、光学用湿気硬化型ウレタン系プライマーを、水分を含む大気と接触するような状態(該プライマーの硬化が始まってしまうような状態)で保存することを避けることができるという理由からスピンコートによる塗布法を採用するのが好ましい。即ち、光学用湿気硬化型ウレタン系プライマーを密封できる容器に入れておき、必要時に必要量を取り出して、レンズ表面に塗布すれば上記のような硬化をさけることが可能であるが、それにはスピンコートによる塗布方法が最も適している。さらに、塗膜の膜厚を薄膜化することで、生成する炭酸ガスを速やかに系外に放出することで、塗膜上に光学的に問題となる炭酸ガスの抜けた跡を低減することが可能である。このときの膜厚としては0.1〜10μmの範囲が好適であるが、密着性および光学特性を考慮すると1〜7μmの範囲が特に好ましい。10μm以上の時は、炭酸ガスの抜け跡が顕著に残るため好ましくない。また0.1μm以下では、膜の均一性が低下するため、密着性が著しく低下し好ましくない。
【0051】
なお、光学用湿気硬化型ウレタン系プライマーをプラスチックレンズ基材等の光学基材に施用するに際しては、その施用前に、密着性を向上させる目的で基材の前処理を行なうことが好ましい。前処理としては、有機溶剤による脱脂処理、塩基性水溶液又は酸性水溶液による化学的処理、研磨剤を用いた研磨処理、大気圧プラズマ或いは低圧プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、火炎処理またはUVオゾン処理等を挙げることができるが、プラスチックレンズとプライマー層の密着性の観点から、有機溶剤による脱脂処理、アルカリ処理、プラズマ処理、又はコロナ放電処理、或いはこれらを組合わせた処理を行なうのが好適である。
【0052】
前記(4)の製造方法では、上記のようにして光学用湿気硬化型ウレタン系プライマーを塗布した後に、前記希釈溶媒を除去した後に該プライマー層を硬化すればよい。上記したような厚さで塗布された光学用湿気硬化型ウレタン系プライマーは、大気中の水分との接触によって速やかに硬化が可能な状態(即ち、脱炭酸前の状態)となっていると考えられるので、塗布終了後直ちに加熱して溶媒を除去するとともに脱炭酸反応および尿素結合形成を行うことにより、硬化させることができる。このときの加熱温度は特に限定されないが、加熱による基材の変形や変色を防止するという観点から、湿度10%〜70%、室温〜130℃、特に80〜120℃の範囲であるのが好適である。本発明の方法では、湿気硬化型ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体を用いているので、このような比較的低温でも十分に硬化させることができる。硬化時間は特に限定されないが通常10分〜3時間の範囲である。
【0053】
このようにして製造された前記(1)の積層体は、それ自体をレンズ等の光学物品として使用することもできるが、更に上記プライマー層上にフォトクロミックコート層を積層することによりフォトクロミック性レンズ等のフォトクロミック性光学物品とすることもできる。
【0054】
フォトクロミックコート層を積層する方法としては、従来技術の項で説明したあらゆる公知技術が適応可能であるが、フォトクロミック特性、光学特性およびフォトクロミック層の耐溶剤性、耐擦傷性および密着性の観点から、国際公開第03/011967号パンフレットあるいは特願2002−372835号で本発明者等が提案している「シラノール基または加水分解によりシラノール基を生成する基を有するラジカル重合性単量体を含有するラジカル重合性単量体、アミン化合物およびフォトクロミック化合物を夫々特定量含有してなる硬化性組成物からなるフォトクロミックコーティング剤又はこれに更にマレイミド基を含むラジカル重合性単量体を配合したコーティング剤(接着性フォトクロミックコーティング剤)」等を塗布し、硬化させる方法が好適に採用される。
【0055】
上記接着性フォトクロミックコーティング剤で使用されるシラノール基または加水分解によりシラノール基を生成する基を有するラジカル重合性単量体としては、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、(3−アクリロイルオキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、(3−アクリロイルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3−アクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタクリロイルオキシメチル)ジメチルエトキシシラン、メタクリロイルオキシメチルトリエトキシシラン、メタクリロイルオキシメチルトリメトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルジメチルエトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルジメチルメトキシシラン等を挙げることができる。該単量体の使用量は特に限定されないが全コーティング剤重量を基準として0.5〜20重量%、特に1〜10重量%であるのが好適である。
【0056】
また、マレイミド基を含むラジカル重合性単量体としては4,4'−ジフェニルメタンビスマレイミド、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート等が使用できる。該ラジカル重合性単量体の使用量は特に限定されないが、全コーティング剤重量を基準として0.05〜15重量%、特に0.1〜10重量%であるのが好適である。
【0057】
また、シラノール基または加水分解によりシラノール基を生成する基を有するラジカル重合性単量体及び必要に応じて使用されるマレイミド基を含むラジカル重合性単量と共に使用できるこれら以外の他のラジカル重合性単量体としては、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ウレタンオリゴマーテトラアクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサメタクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサアクリレート、ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、グリシジルメタクリレート、平均分子量776の2,2−ビス(4−アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン、平均分子量475のメチルエーテルポリエチレングリコールメタアクリレート等を挙げることができる。これら他のラジカル重合性単量体の使用量は特に限定されないが、全コーティング剤重量を基準として20〜90重量%、特に40〜80重量%であるのが好適である。
【0058】
また、アミン化合物としては、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N,N―ジメチルアミノエチルメタアクリレート、N,N―ジエチルアミノエチルメタアクリレート等が使用できる。アミン化合物の使用量は特に限定されないが、全コーティング剤重量を基準として0.01〜15重量%、特に0.1〜10重量%であるのが好適である。
【0059】
なお、湿気硬化性ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体の硬化体からなるプライマー層上にフォトクロミックコーティング層を形成するときは、アミン化合物は必ずしも必須成分ではない。該接着性フォトクロミックコーティング剤からアミン化合物を除いたコーティング剤でも実用に耐え得る充分な密着性を与えることができる。アミン化合物の添加は、確かに密着性を向上させるものの、該接着性フォトクロミックコーティング液が十分な密着性を与えるための使用可能時間に制限があり、使用面で使いづらいことがあった。
【0060】
しかし、湿気硬化性ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体の硬化体からなる層を使用した場合の前記(1)の積層体は、アミン化合物の添加が必ずしも必要ないため、使用時間を大きく延長でき、使用面および経済的に有益である。
【0061】
また、フォトクロミック化合物としては、ナフトピラン誘導体、クロメン誘導体、スピロオキサジン誘導体、スピロピラン誘導体、フルギミド誘導体等の公知のフォトクロミック化合物が使用できる。フォトクロミック化合物の使用量は特に限定されないが、全コーティング剤重量を基準として0.1〜30重量%、特に1〜10重量%であるのが好適である。
【0062】
前記(1)の積層体の前記プライマー層上に接着性フォトクロミックコーティング剤等のフォトクロミックコーティング剤を施用する場合、必要に応じて前述したような前処理を行った後にこれらコーティング剤を塗布し、これを硬化させればよい。この際の塗布方法は特に限定されず公知の被覆(コーティング)方法がなんら制限なく適用できる。具体的には、該組成物をスピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、ディップ−スピンコーティング等の方法で塗布する方法が例示される。このような方法により塗布されるコーティング剤層の厚さ(硬化後のコート層の厚さに対応する)は特に限定されないが、特にフォトクロミック化合物を添加した場合には、フォトクロミック化合物濃度が低くても充分な発色濃度が得られ、またフォトクロミック特性の耐久性も良好なため、該厚さは比較的厚い方が好ましい。しかしながら一方で、コーティング層の厚さが厚い方が初期の黄色さも増加するため、硬化後のコート層厚さが10〜100μm、特に20〜50μmとなるような厚さであるのが好ましい。このような厚めのコーティング厚さとするには、該組成物の25℃における粘度を20〜1000cP、特に50〜800cP、さらには70〜500cPとするのが好適である。因みに、プラスチックレンズに汎用的に施用されているハードコート用コーティング剤等のコーティング組成物は均一な塗膜を得るために溶媒等が含まれているため、その25℃における粘度は通常5cP以下であり、またそれにより得られるコーティング層の厚さも数μm以下であり、このような厚さと比較すると上記10〜100μmという厚さは非常に厚いものである。
【0063】
また、硬化方法としては使用するラジカル重合開始剤の種類に応じて光硬化法、あるいは熱硬化法が適宜採用される。得られるコート膜の物性及び外観等の観点からは、光重合開始剤を用いて光照射により硬化させた後、加熱して重合を完結させる方法を採用するのが好適である。この際に、熱重合開始剤を併用しても構わない。このとき、光硬化に使用される光源としては、メタルハライドランプ、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、殺菌ランプ、キセノンランプ、カーボンアーク、タングステンランプ等の有電極ランプ、または無電極ランプ等を用いることができる。また、光源として電子線を用いてもよく、この場合には光重合開始剤を添加せずにコーティング層を硬化させることもできる。また、熱硬化法としては、重合炉中で熱を施して熱重合させる方法、または重合炉中で赤外線を照射して重合硬化させる方法等を挙げることができる。
【0064】
このようにして作成した該組成物の硬化体からなるフォトクロコート層が形成されたレンズ材料はそのままでも使用することが可能であるが、より好ましくはさらにハードコート材でフォトクロコート層表面を被覆することが好ましい。ハードコート層で被覆することにより、該光学材料の耐擦傷性を向上させることができる。当該ハードコート層としては公知のものがなんら制限なく使用でき、シランカップリング剤やケイ素、ジルコニウム、アンチモン、アルミニウム等の酸化物のゾルを主成分とするハードコート用コーティング剤を塗布後硬化させたものや、有機高分子体を主成分とするハードコート用コーティング剤を塗布後硬化させたものが挙げられる。該組成物中にシリルモノマーを採用することにより、より強固にまた簡便に十分な密着性を得ることができる。
【0065】
また、さらに必要に応じてハードコート層上に、SiO、TiO、ZrO等の金属酸化物から成る薄膜の蒸着や有機高分子体の薄膜の塗布等による反射防止処理、帯電防止処理等の加工及び2次処理を施すことも勿論可能である。
【0066】
ところで、上記したような国際公開第03/011967号パンフレットに開示されているフォトクロミックコーティング剤は優れたものではあるが、適用される基材の材質によって、或いは密着耐久性を向上させるためにウレタン系プライマーを用いた場合には、該フォトクロミックコーティング剤を施用する際の濡れ性が十分ではなく、また、フォトクロミックコート層と基材またはプライマー層との界面に生じる荒れにより外観不良が起るおそれがあることが判明した。
【0067】
このような不都合が生じた場合には、以下に説明する本発明のフォトクロミックコーティング剤を用いることで、かかる問題を解消することができる。
【0068】
すなわち、本発明のフォトクロミックコーティング剤は、ラジカル重合性単量体成分100重量部に対して、シリコン系(シリコーン系)またはフッ素系界面活性剤0.001〜5重量部およびフォトクロミック化合物0.01〜20重量部を含有してなるフォトクロミック性硬化性組成物からなる。
【0069】
上記フォトクロミック性硬化性組成物で使用するラジカル重合性単量体は、特に限定されないが、フォトクロミックコーティング剤として使用した時に、得られるフォトクロミックコート層のフォトクロミック特性が良好であるという理由から、前記国際公開第03/011967号に開示されているフォトクロミックコーティング剤で使用されているラジカル重合性単量体と同様に、単独に重合したときに得られる硬化体のLスケールロックウェル硬度が60以上である重合性単量体(以下、高硬度モノマーとも言う)成分と、単独重合硬化体のLスケールロックウェル硬度が40以下である重合性単量体(以下、低硬度モノマーとも言う。該成分は単独重合しないラジカル重合性単量体も含む。)成分の混合物を含むのが好適である。さらに、上記高硬度モノマーでも低硬度モノマーでもないモノマー、すなわち、単独硬化体のLスケールロックウェル硬度が40を超え60未満を示すモノマー(以下、中硬度モノマーとも言う)を使用することも可能である。
【0070】
なお、Lスケールロックウェル硬度とは、JIS−B7726に従って測定される硬度を意味し、各モノマーの単独重合体について該測定を行うことにより上記硬度の条件を満足するかどうかを簡単に判定することができる。具体的には、後述する実施例に示すように、モノマーを重合させて厚さ2mmの硬化体を得、これを25℃の室内で1日保持した後にロックウェル硬度計を用いて、Lスケールロックウェル硬度を測定することにより容易に確認することができる。ただし、上記Lスケールロックウェル硬度の測定に供する重合体においては、仕込んだ単量体が有する重合性基の90%以上が重合している必要がある。重合性基の90%以上が重合していれば、通常硬化体のLスケールロックウェル硬度は、ほぼ一定の値として測定される。
【0071】
前記、高硬度モノマーは、硬化後の硬化体の耐溶剤性、硬度、耐熱性等を向上させる効果を有する。これらの効果をより効果的なものとするためには、単独重合体のLスケールロックウェル硬度が65〜130を示すラジカル重合性単量体が好ましい。また、前記低硬度モノマーは、硬化体を強靭なものとしまたフォトクロミック化合物の退色速度を向上させる効果を有する。
【0072】
上記フォトクロミック性硬化性組成物におけるラジカル重合性単量体成分中の高硬度モノマー、低硬度モノマーおよび中硬度モノマーの含有量は特に限定されないが、硬化体の耐溶剤性や硬度、耐熱性等の硬化体特性、あるいは発色濃度や退色速度等のフォトクロミック特性のバランスを良好なものとするため、全ラジカル重合性単量体中、低硬度モノマーは5〜70重量%であり高硬度モノマーは5〜95重量%であり、残部が中硬度モノマーであることが好ましい。さらに、配合される高硬度モノマーとして、ラジカル重合性基を3つ以上有する単量体が、ラジカル重合性単量体中少なくとも5重量%以上配合されていることが特に好ましい。
【0073】
また、上記フォトクロミック性硬化性組成物におけるラジカル重合性単量体成分は、フォトクロミックコーティング剤として使用した時に得られるフォトクロミックコート層の基材に対する密着性が良好となるという理由から、ラジカル重合性単量体成分は、シリルモノマー及び/又はイソシアネートモノマーを、高硬度モノマー、低硬度モノマー又は中硬度モノマーとして、全ラジカル重合体成分100重量部に対して0.5〜20重量部、特に1〜10重量部含有するのが好適である。
【0074】
さらに、上記フォトクロミック性硬化性組成物におけるラジカル重合性単量体成分は、フォトクロミックコーティング剤として使用した時に得られるフォトクロミックコート層の基材に対する密着性をより高め、層中に含まれるフォトクロミック化合物の耐久性を向上させることができるという理由から、分子中に少なくとも一つのエポキシ基と少なくとも一つのラジカル重合性基を有するラジカル重合性単量体(以下、単にエポキシ系モノマーとも言う。)を、高硬度モノマー、低硬度モノマー又は中硬度モノマーとして全ラジカル重合性単量体成分重量基準で0.01〜30重量%、特に0.1〜20重量%含有するのが好適である。
【0075】
前記高硬度モノマー、低硬度モノマー、中硬度モノマー、シリルモノマー、イソシアネートモノマー及びエポキシ系モノマーは、前記国際公開第03/011967号に開示されているフォトクロミックコーティング剤においてもその使用が推奨されているものである。前記高硬度モノマー、低硬度モノマー、中硬度モノマー、シリルモノマー、イソシアネートモノマー及びエポキシ系モノマーとしては、前記国際公開第03/011967号で好適に使用できる前記高硬度モノマー、低硬度モノマー、中硬度モノマー、シリルモノマー、イソシアネートモノマー及びエポキシ系モノマーと同じものが好適に使用できる。
【0076】
本発明のフォトクロミックコーティング剤で好適に使用できる高硬度モノマーを具体的に例示すると、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ウレタンオリゴマーテトラアクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサメタクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサアクリレート、ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等;分子量2,500〜3,500の4官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー社、EB80等)、分子量6,000〜8,000の4官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー社、EB450等)、分子量45,000〜55,000の6官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー社、EB1830等)、分子量10,000の4官能ポリエステルオリゴマー(第一工業製薬社、GX8488B等)等;ビスフェノールAジメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン等;エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,9−ノニレングリコールジメタクリレート、ネオペンチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチレングリコールジアクリレート等;ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、テトラプロピレングリコールジメタクリレート等;ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート、エチレングリコールビスグリシジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
【0077】
本発明で好適に使用できる低硬度モノマーを具体的に例示すれば、トリアルキレングリコールジアクリレート、テトラアルキレングリコールジアクリレート、ノニルアルキレングリコールジアクリレート、ノニルアルキレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類;平均分子量776の2,2−ビス(4−アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン等;平均分子量526のポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量360のポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量475のメチルエーテルポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量1,000のメチルエーテルポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量375のポリプロピレングリコールメタアクリレート、平均分子量430のポリプロピレンメタアクリレート、平均分子量622のポリプロピレンメタアクリレート、平均分子量620のメチルエーテルポリプロピレングリコールメタアクリレート、平均分子量566のポリテトラメチレングリコールメタアクリレート、平均分子量2,034のオクチルフェニルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート、平均分子量610のノニルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート、平均分子量640のメチルエーテルポリエチレンチオグリコールメタクリレート、平均分子量498のパーフルオロヘプチルエチレングリコールメタクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等;ステアリルメタクリレート、ラウリルメタアクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ラウリルアクリレート等を挙げることができる。これら低硬度モノマーの中でも、平均分子量475のメチルエーテルポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量1,000のメチルエーテルポリエチレングリコールメタアクリレート、トリアルキレングリコールジアクリレート、テトラアルキレングリコールジアクリレート、ノニルアルキレングリコールジアクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ラウリルアクリレートが特に好ましい。
【0078】
本発明のフォトクロミックコーティング剤で好適に使用できる中硬度モノマーを具体的に例示すれば、平均分子量650のポリテトラメチレングリコールジメタアクリレート、平均分子量1,400のポリテトラメチレングリコールジメタアクリレート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチルチオエチル)スルフィドのごとき2官能(メタ)アクリレート;ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、酒石酸ジアリル、エポキシこはく酸ジアリル、ジアリルフマレート、クロレンド酸ジアリル、ヘキサフタル酸ジアリル、アリルジグリコールカーボネートのごとき多価アリル化合物;1,2−ビス(メタクリロイルチオ)エタン、ビス(2−アクリロイルチオエチル)エーテル、1,4−ビス(メタクリロイルチオメチル)ベンゼンのごとき多価チオアクリル酸および多価チオメタクリル酸エステル化合物;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸のごとき不飽和カルボン酸;メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メタクリル酸ビフェニルのごときアクリル酸およびメタクリル酸エステル化合物;フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニルのごときフマル酸エステル化合物;メチルチオアクリレート、ベンジルチオアクリレート、ベンジルチオメタクリレートのごときチオアクリル酸およびチオメタクリル酸エステル化合物;スチレン、クロロスチレン、メチルスチレン、ビニルナフタレン、α−メチルスチレンダイマー、ブロモスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルピロリドンのごときビニル化合物;オレイルメタクリレート、ネロールメタクリレート、ゲラニオールメタクリレート、リナロールメタクリレート、ファルネソールメタクリレートのごとき分子中に不飽和結合を有する炭化水素鎖の炭素数が6〜25の(メタ)アクリレートなどのラジカル重合性単官能単量体等が挙げられる。
【0079】
本発明のフォトクロミックコーティング剤で好適に使用できるシリルモノマーを具体的に例示すれば、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、(3−アクリロイルオキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、(3−アクリロイルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3−アクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタクリロイルオキシメチル)ジメチルエトキシシラン、メタクリロイルオキシメチルトリエトキシシラン、メタクリロイルオキシメチルトリメトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルジメチルエトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルジメチルメトキシシラン等を挙げることができる。
【0080】
本発明のフォトクロミックコーティング剤で好適に使用できるイソシアネートモノマーを具体的に例示すれば、2−イソシアナトエトキシメタアクリレート、4−(2−イソシアナトイソプロピル)スチレン等を挙げることができる。
【0081】
本発明のフォトクロミックコーティング剤で好適に使用できるエポキシ系モノマーを具体的に例示すれば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、β−メチルグリシジルメタクリレート、ビスフェノールA−モノグリシジルエーテル−メタクリレート、4−グリシジルオキシメタクリレート、3−(グリシジル−2−オキシエトキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−(グリシジルオキシ−1−イソプロピルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−グリシジルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、平均分子量540のグリシジルオキシポリエチレングリコールメタアクリレート等が挙げられる。これらの中でもグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートおよび平均分子量540のグリシジルオキシポリエチレングリコールメタアクリレートが特に好ましい。
【0082】
本発明のフォトクロミックコーティング剤で使用する前記フォトクロミック性硬化性組成物は、上記したようなラジカル重合性単量体成分100重量部に対して、シリコン系またはフッ素系界面活性剤を0.001〜5重量部含有する。特定量のシリコン系またはフッ素系の界面活性剤を添加することにより本発明の組成物をフォトクロミックコーティング剤として用いたときの硬化体塗膜(フォトクロミックコート層)のフォトクロミック特性や基材密着性に悪影響を与えることなく基材に対する濡れ性を向上させると共に外観不良発生を防止することが可能となる。同じ界面活性剤でもシリコン系やフッ素系以外の界面活性剤(例えばグリセリン脂肪酸エステルやポリオキシエチレンアルキルエーテルなど)を用いた場合には、濡れ性を若干向上させる効果は見られるものの、塗膜の外観不良を解消することはできない。また、このような界面活性剤を用いて十分な濡れ性を得るためには添加量を多くする必要があり、硬化膜の基材密着性やフォトクロミック性能が低下してしまう。なお、効果の観点から、シリコン系またはフッ素系界面活性剤の含有量はラジカル重合性単量体成分100重量部に対して0.01〜2重量部、特に0.02〜1重量部であるのが好適である。
【0083】
本発明のフォトクロミックコーティング剤で使用されるシリコン系の界面活性剤としては、シリコーン鎖(ポリアルキルシロキサンユニット)を疎水基とする公知の界面活性剤が何ら制限なく使用できるが、入手の容易さの観点から下記式で示されるものを使用するのが好適である。
【0084】
【化1】

【0085】
【化2】

【0086】
【化3】

(式中、Rはアルキル基であり、a、bおよびxは、それぞれ独立に0〜20の整数であり、yは1〜20の整数である。)
また、フッ素系の界面活性剤としては、フッ化炭素鎖を有する界面活性剤であれば特に限定されず、パーフルオロアルキル基含有のエステル系オリゴマーやパーフルオロアルキル基含有アルキレンオキサイド付加物、フッ素系脂肪族系ポリマーエステルなどが使用できる。
【0087】
本発明のフォトクロミックコーティング剤で好適に使用できるシリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤を具体的に例示すると、日本ユニカー社製『L―7001』、『L−7002』、『L−7604』、『FZ−2123』、大日本インキ化学工業(株)社製『メガファックF−470』、『メガファックF−1405』、『メガファックF−479』、住友スリーエム社製『フローラッドFC−430』等を挙げることができる。
【0088】
本発明のフォトクロミックコーティング剤で使用されるフォトクロミック化合物は、公知のフォトクロミック化合物を何ら制限なく使用することができる。例えば、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物等のフォトクロミック化合物がよく知られており、本発明においては、これらのフォトクロミック化合物を制限なく使用することができ、例えば前記国際公開第03/011967号に開示されているフォトクロミックコーティング剤で好適に使用できるとされているフォトクロミック化合物と同じものが好適に使用できる。
【0089】
本発明のフォトクロミックコーティング剤で好適に使用できるフォトクロミック化合物を具体的に例示すれば、次のような化合物を挙げることができる。
【0090】
【化4】

【0091】
【化5】

【0092】
【化6】

【0093】
【化7】

【0094】
【化8】

【0095】
【化9】

上記フォトクロミック化合物は好ましい発色色調を得るために異なる種類の化合物を適宜混合して使用するのが好適である。
【0096】
本発明のフォトクロミックコーティング剤で使用する前記フォトクロミック性硬化性組成物において、フォトクロミック化合物の配合量は、全ラジカル重合性単量体100部に対して、0.01〜20重量部、好ましくは0.05〜15重量部、さらに好ましくは0.1〜10重量部の範囲である。フォトクロミック化合物の配合量が0.01重量部以下では発色濃度が低くなることがあり、一方、20重量部以上では重合性単量体に十分に溶解しないため不均一となり、発色濃度のむらが生じることがある。
【0097】
上記硬化性組成物においては、フォトクロミックコーティング剤として使用した時に得られるフォトクロミックコート層の基材に対する密着性を良好なものとするために、前記したシリルモノマー及び/またはイソシアネートモノマーに代えて或いはこれらモノーと合わせてシリルモノマー以外の化合物であって、シラノール基または加水分解によりシラノール基を生成する基を有する化合物をさらに含有することができる。このような化合物としてはγ-アミノプロピルトリエトシキシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトシキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等を挙げることができる。該シランカップリング剤の使用量は特に限定されないが、全ラジカル重合性単量体100重量部に対して0.5〜20重量部、特に1〜10重量部であるのが好適である。
【0098】
上記硬化性組成物には、フォトクロミック化合物の耐久性の向上、発色速度の向上、退色速度の向上や成形性の向上のために、さらに、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等の添加剤を添加しても良い。また、硬化性組成物を硬化させるために後述する重合開始剤を配合することも極めて好ましい。添加するこれら添加剤としては、公知の化合物が何ら制限なく使用される。
【0099】
このような酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤としては、ヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェーノール酸化防止剤、フェノール系ラジカル補足剤、イオウ系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物等を好適に使用できる。これら酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤は、2種以上を混合して使用しても良い。これら酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤の添加量は、全重合性単量体100重量部に対し、0.001〜20重量部の範囲が好ましい。
【0100】
本発明のフォトクロミックコーティング剤で使用する前記フォトクロミック性硬化性組成物を硬化させてフォトクロミック性硬化体を得る方法は特に限定されず、用いるラジカル重合性単量体の種類に応じた公知の重合方法を採用することができる。重合開始手段は、種々の過酸化物やアゾ化合物などのラジカル重合開始剤の使用、または紫外線、α線、β線、γ線等の照射あるいは両者の併用によって行うことができる。
【0101】
ラジカル重合開始剤としては、特に限定されず、公知のものが使用できるが、代表的なものを例示すると、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルオキシカーボネート等のパーカーボネート類;2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサン−1−カーボニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられる。これらラジカル重合開始剤の使用量は、重合条件や開始剤の種類、ラジカル重合性単量体の種類や組成によって異なり、一概に限定できないが、一般には、全ラジカル重合性単量体成分100重量部に対して0.01〜10重量部の範囲で用いるのが好適である。
【0102】
上記ラジカル重合開始剤は単独で用いても良いし、複数を混合して用いても良い。
【0103】
また紫外線等の光照射により重合させる場合には、光重合開始剤としてベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾフェノール、アセトフェノン4,4'−ジクロロベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−イソプロピルチオオキサントン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6―トリメチルベンゾイル)−フェニルフォシフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−フォスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1等を使用することが好ましい。これら光重合開始剤は、全ラジカル重合性単量体成分100重量部に対して0.001〜5重量部の範囲で用いるのが一般的である。
【0104】
特に好ましい重合方法は、上記光重合開始剤を配合した本発明の硬化性組成物に対し紫外線を照射し硬化させた後、さらに加熱して重合を完結させる方法である。
【0105】
本発明のフォトクロミックコーティング剤で使用する前記フォトクロミック性硬化性組成物は、上記重合開始剤等を用いることにより硬化させて、それ単独でフォトクロミック性の材料として用いることも可能であるが、本発明では、眼鏡レンズ等の光学材料をコーティングするコーティング剤として使用する。特に、上記したような光学基材上に形成されたウレタン系プライマー層に対して、本発明の硬化性組成物は優れた濡れ性を有し、密着性が高いフォトクロミック層を形成できる。
【0106】
該光学材料としては、特に限定されず、眼鏡レンズ、家屋や自動車の窓ガラス等公知の光学材料が挙げられる。
【0107】
眼鏡レンズとしては、(メタ)アクリル樹脂系、ポリカーボネート系樹脂、アリル系樹脂、チオウレタン系樹脂、ウレタン系樹脂およびチオエポキシ系樹脂等のプラスチック系の眼鏡レンズ、ガラス系の眼鏡レンズが公知であり、本発明の硬化性組成物を眼鏡レンズのコーティング材として用いる場合には、特に制限されることなくいずれの眼鏡レンズにも使用できるが、プラスチック系の眼鏡レンズ用のコーティング材として使用することがより好ましく、(メタ)アクリル樹脂系、ポリカーボネート系樹脂、アリル系樹脂、チオウレタン系樹脂、ウレタン系樹脂およびチオエポキシ系樹脂等の眼鏡レンズのコーティング材として使用することがより好ましい。
【0108】
眼鏡レンズ等の光学材料のコーティング材として用いる場合には、該光学材料へ本発明の硬化性組成物をスピンコーティング、ディッピング等で塗布し、その後、光照射して硬化させる方法、あるいは加熱硬化させる方法が好適であり、より好ましくは光照射により硬化させた後、さらに加熱して重合を完結させる方法である。
【0109】
このようなコーティング層の厚さは特に限定されないが、フォトクロミック化合物濃度が低くても充分な発色濃度が得られ、またフォトクロミック特性の耐久性も良好なため、該厚さは比較的厚い方が好ましい。しかしながら一方で、コーティング層の厚さが厚い方が初期の黄色さも増加するため、該コーティング層の厚さは10〜100μmであるのが好ましく、20〜50μmであるのがより好ましい。
【0110】
また、本発明のフォトクロミックコーティング剤のコーティング膜と上記のような基材との間にプライマー層を有する積層体を形成していてもよい。このとき、プライマー層は前記した湿気硬化性ポリウレタン樹脂及び/又はその前駆体の硬化体からなる層であることが密着性の観点から極めて好ましい。
【0111】
以下、実施例および比較例を掲げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例1〜18および比較例1〜5は、前記(1)〜(8)に関するものであり、実施例19〜25が本願発明の実施例に該当し、参考例1〜6が本願発明の比較例に該当する。
【0112】
実施例1
レンズ基材としてCR39(アリル樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.50)を用いた。このレンズ基材をアセトンで十分に脱脂し、プライマーとして三井武田ケミカル社製湿気硬化型プライマー『タケネートM-605N』と酢酸ブチルを重量比で1:1となるように調合し、窒素雰囲気下で均一になるまで充分に撹拌した。このプライマーのアミン当量法により求めたイソシアネート基含有量は2.4モル%であった。これをMIKASA製スピンコーター1H−DX2を用いて、スピンコートした。これを恒温器を用いて110℃、1時間で硬化してプライマー層を有するレンズ基材を作成した。フォトクロミック硬化膜を作成するために、レンズ基材の前処理として、ナビタス社製コロナ処理装置マルチダインを用いて表面に処理を施した。フォトクロミック重合性組成物としては、ラジカル重合性単量体である2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン/ポリエチレングリコールジアクリレート(平均分子量532)/トリメチロールプロパントリメタクリレート/ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート(ダイセルユーシービー社、EB−1830)/グリシジルメタクリレートをそれぞれ50重量部/15重量部/15重量部/10重量部/10重量部の配合割合で配合した。このラジカル重合性単量体の混合物100重量部に対して下記式
【0113】
【化10】

で示される構造を持つフォトクロミック化合物を2.35重量部
【0114】
【化11】

で示される構造を持つフォトクロミック化合物を0.6重量部
【0115】
【化12】

で示される構造を持つフォトクロミック化合物を0.4重量部加え、十分に混合した後に、重合開始剤であるCGI1800{1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイドの混合物(重量比3:1)}を0.5重量部、安定剤であるビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートを5重量部、シランカップリング剤であるγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを7重量部、およびN−メチルジエタノールアミンを3重量部添加し、十分に混合した。
【0116】
続いて上記方法で得られた混合液の約2gをMIKASA製スピンコーター1H−DX2を用いて、レンズ基材の表面にスピンコートした。この表面がコートされたレンズを窒素ガス雰囲気中で出力120mW/cmのメタルハライドランプを用いて、3分間照射し、塗膜を硬化させた後にさらに120℃の恒温器にて加熱処理を行うことでフォトクロミック硬化薄膜を得た。得られる薄膜の膜厚はスピンコートの条件によって調整が可能である。本発明においてフォトクロミック硬化薄膜の膜厚を40±1μmとなるように調整した。こうして作成したフォトクロミック硬化膜を有するレンズ基材の外観の評価は硬化膜を有するレンズ基材に投影機を照射して、その投影面を観察評価した。評価基準を以下に示す。
【0117】
A:平坦であり凹凸は全く見られない
B:ごくわずかに微細な凹凸が見られる
C:部分的に凹凸が見える
D:均一に凹凸が見える、または基材に影響が見える
上述した方法で作成したレンズ基材の外観の評価はAであった。
【0118】
続いて密着性の評価を行った。評価方法としてはフォトクロミック硬化膜を有するレンズ基材を100℃の沸騰水に1時間浸し、その後室温まで冷却し30分以内にクロスハッチ試験を行った。評価基準を以下に示す。
【0119】
A:剥がれなし
B:5%未満の剥がれ
C:5%以上15%未満の剥がれ
D:15%以上の剥がれ
上述した方法で作成したレンズ基材の密着性はAであった。
【0120】
実施例2
プライマーとして三井武田ケミカル社製湿気硬化型プライマー『タケネートM-402P』を用いた以外は実施例1と同様の方法でフォトクロミック硬化膜を作成し、外観と密着性の評価を行った。なお、このプライマーのイソシアネート基含有量は2.6モル%であった。結果を表1にまとめた。
【0121】
実施例3
プライマー成分として三井武田ケミカル社製湿気硬化型プライマー『タケネートM-631N』を用い、これと酢酸ブチルを重量比で1:2となるように調合し、窒素雰囲気下で均一になるまで充分に撹拌し、レベリング剤として日本ユニカー(株)社シリコーン系レベリング剤『L-7001』を1重量部添加し、窒素雰囲気下で均一になるまで十分に撹拌した。それ以外は実施例1と同様の方法でフォトクロミック硬化膜を作成し、外観と密着性の評価を行った。なお、このプライマーのイソシアネート基含有量は4.2モル%であった。結果を表1にまとめた。
【0122】
実施例4
プライマー成分として竹林化学工業株式会社製湿気硬化型プライマー『タケシールNo.400プライマー』を使用し、これとキシレンを重量比で1:3となるように調合し、窒素雰囲気下で均一になるまで充分に撹拌して用いた以外は実施例1と同様の方法でフォトクロミック硬化膜を作成し、外観と密着性の評価を行った。なお、このプライマーのイソシアネート基含有量は3.6モル%であった。結果を表1にまとめた。
【0123】
実施例5
プライマー成分として竹林化学工業株式会社製湿気硬化型プライマー『プライマーPFR』を使用し、これと酢酸ブチルを重量比で2:1となるように調合し、窒素雰囲気下で均一になるまで充分に撹拌したものを用いた。また、レベリング剤として住友スリーエム社製レベリング剤『フローラッドFC-470』を1重量部添加し、窒素雰囲気下で均一になるまで十分に撹拌した。それ以外は実施例1と同様の方法でフォトクロミック硬化膜を作成し、外観と密着性の評価を行った。なお、このプライマーのイソシアネート基含有量は2.4モル%であった。結果を表1にまとめた。
【0124】
実施例6
プライマー成分としてアルプス化学社製湿気硬化型プライマー『ウレタンプライマー06』を用いた以外は実施例1と同様の方法でフォトクロミック硬化膜を作成し、外観と密着性の評価を行った。なお、このプライマーのイソシアネート基含有量は0.8モル%であった。結果を表1にまとめた。
【0125】
実施例7
レンズ基材としてポリカーボネートレンズ基材に日本精化社製熱硬化ハードコート剤『NSC1274』を膜厚2μmで塗布した後に110℃、1時間の条件で硬化させたものを用い、プライマー成分として三井武田ケミカル社製湿気硬化型プライマー『タケネートM-402P』を用いた以外は実施例1と同様の方法でフォトクロミック硬化膜を作成し、外観と密着性の評価を行った。結果を表1にまとめた。
【0126】
実施例8
レンズ基材としてポリカーボネートレンズ基材の表面にGE東芝シリコーン株式会社製光硬化型ハードコート剤『UVHC1105』を膜厚2μmで塗布後、120Wのメタルハライドランプを窒素雰囲気下で2分間照射して硬化させたものを用い、プライマー成分としてアルプス化学産業株式会社社製湿気硬化型プライマー『ウレタンプライマー06』を用いた以外は実施例1と同様の方法でフォトクロミック硬化膜を作成し、外観と密着性の評価を行った。結果を表1にまとめた。
【0127】
実施例9
実施例1において、フォトクロミック重合性組成物から、N−メチルジエタノールアミンを除き、プライマーの硬化時間を120℃2時間とした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1にまとめた。
【0128】
実施例10
実施例9において、フォトクロミック重合性組成物に、マレイミド化合物として、4,4'−ジフェニルメタンビスマレイミドを1.5重量部添加し、プライマーの硬化時間を110℃2時間とした以外は、実施例9と同様に行った。結果を表1にまとめた。
【0129】
実施例11
ポリカプロラクタントリオール(製品名:プラクセル305(ダイセル化学製))550gと水添4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート524gを反応させ、ポリイソシアネート化合物を得た。このポリイソシアネート化合物を湿気硬化性ウレタン樹脂のプライマー成分として使用し、さらにレベリング剤として、日本ユニカー株式会社製レベリング剤『FZ2123』を0.3重量部添加した以外は、実施例1と同様に行った。なお、このプライマーのイソシアネート基含有量は1.6モル%であった。結果を表1にまとめた。
【0130】
実施例12
1,2,6−ヘキサントリオール134gと水添4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート524gを反応させ、ポリイソシアネート化合物を得た。このポリイソシアネート化合物を湿気硬化性ウレタン樹脂のプライマー成分として使用し、さらにレベリング剤として、日本ユニカー株式会社製レベリング剤『FZ2123』を0.3重量部添加した以外は、実施例1と同様に行った。なお、このプライマーのイソシアネート基含有量は2.0モル%であった。結果を表1にまとめた。
【0131】
実施例13
実施例1において、フォトクロミック重合性組成物から、N−メチルジエタノールアミンを除き、これに日本ユニカー株式会社製レベリング剤『L−7001』を0.1重量部加えたものをフォトクロミック重合性組成物として用い、プライマー成分として三井武田ケミカル社製湿気硬化型プライマー『タケネートM-402P』を使用し、これを酢酸エチルと重量比で1:1となるように調合し、さらにレベリング剤として大日本インキ化学工業(株)社製レベリング剤『メガファックF−479』を0.5重量部添加し窒素雰囲気下で均一になるまで撹拌したものを用いた。このプライマーの硬化時間を25℃、湿度40%の環境下で10分とし、レンズ基材の前処理を省略した以外は、実施例1と同様に行った。なお、このプライマーのイソシアネート基含有量は2.4モル%であった。結果を表1にまとめた。
【0132】
実施例14
プライマー成分として大日本インキ化学工業(株)社製湿気硬化型プライマー『バーノックDM652』を用い、これと酢酸エチルを重量比で3:1となるように調合し、さらにレベリング剤として日本ユニカー株式会社製レベリング剤『L−7001』を0.5重量部添加し、窒素雰囲気下で均一になるまで十分に撹拌して用いた以外は、実施例13と同様に行った。なお、このプライマーのイソシアネート基含有量は3.6モル%であった。結果を表1にまとめた。
【0133】
実施例15
1,2,6−ヘキサントリオール134gと、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートの80:20の混合物(TDI80)287gを反応させ、ポリイソシアネート化合物を得た。これを酢酸エチルと重量比で1:2となるように調合し、さらにレベリング剤として日本ユニカー株式会社製レベリング剤『L7001』を0.5重量部添加し窒素雰囲気下で均一になるまで十分に撹拌して得られたポリイソシアネート化合物を湿気硬化性ウレタン樹脂のプライマー成分として使用した以外は、実施例13と同様に行った。なお、このプライマーのイソシアネート基含有量は1.5モル%であった。結果を表1にまとめた。
【0134】
実施例16
平均分子量1000のポリテトラメチレンエーテルジオール281g、1,2,6−ヘキサントリオール67g、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートの80:20の混合物(TDI80)195gを反応させ、ポリイソシアネート化合物を得た。これを酢酸エチルと重量比で1:2となるように調合し、さらにレベリング剤として日本ユニカー株式会社製レベリング剤『L7001』を0.5重量部添加し窒素雰囲気下で均一になるまで十分に撹拌して得られたものを湿気硬化性ウレタン樹脂のプライマー成分として使用した以外は、実施例13と同様に行った。なお、このプライマーのイソシアネート基含有量は2.4モル%であった。結果を表1にまとめた。
【0135】
実施例17
実施例16のポリイソシアネート化合物40gに対して、酢酸ブチル60g、1,4−ブタンジオール0.5g添加し、これを80℃で5時間反応させた。これにレベリング剤として日本ユニカー株式会社製レベリング剤『L7001』を0.5重量部添加し窒素雰囲気下で均一になるまで十分に撹拌して得られたものを湿気硬化性ウレタン樹脂のプライマー成分として使用した以外は、実施例13と同様に行った。なお、このプライマーのイソシアネート基含有量は0.9モル%であった。結果を表1にまとめた。
【0136】
実施例18
実施例16のポリイソシアネート化合物40gに対して、トルエン30g、プロピレングリコール0.5g添加し、これを80℃で5時間反応させた。これにレベリング剤として日本ユニカー株式会社製レベリング剤『L7001』を0.5重量部添加し窒素雰囲気下で均一になるまで十分に撹拌して得られたものを湿気硬化性ウレタン樹脂のプライマー成分として使用した以外は、実施例13と同様に行った。なお、このプライマーのイソシアネート基含有量は1.6モル%であった。結果を表1にまとめた。
【0137】
【表1】

比較例1
プライマー成分として大日本インキ社製ブロック型ポリイソシアネート『バーノックD-500』{該プライマー成分は、「背景技術」の欄で示した(ポリイソアネートのイソシネート基をメチルエチルケトン等の保護基によりブロックし常温で不活性化したブロック型ポリイソシアネートと活性水素化合物、必要に応じて硬化触媒を混合し、塗布後に加熱することにより、保護基をはずしながら架橋させることによってプライマー層を形成するもの)に該当するプライマーである。}を使用し、これと酢酸ブチルを重量比で1:1となるように調合し、窒素雰囲気下で均一になるまで充分に撹拌したものを用い、プライマーの硬化温度を130℃とした以外は実施例1と同様の方法でフォトクロミック硬化膜を作成し、外観と密着性の評価を行った。結果を表2にまとめた。
【0138】
比較例2
プライマー成分として三井武田ケミカル社製ブロック型ポリイソシアネート『タケネートB-883BS』{該プライマー成分は、「課題を解決するための手段」の欄で示した(ポリイソアネートのイソシネート基をメチルエチルケトン等の保護基によりブロックし常温で不活性化したブロック型ポリイソシアネートと活性水素化合物、必要に応じて硬化触媒を混合し、塗布後に加熱することにより、保護基をはずしながら架橋させることによってプライマー層を形成するもの)に該当するプライマーである。}を使用し、これとキシレンを重量比で1:1となるように調合し、窒素雰囲気下で均一になるまで充分に撹拌して用い、プライマーの硬化温度を130℃とした以外は実施例1と同様の方法でフォトクロミック硬化膜を作成し、外観と密着性の評価を行った。結果を表2にまとめた。
【0139】
比較例3
実施例1において、プライマーの希釈溶媒を、アセトン(沸点56℃、SP値9.8)にした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表2にまとめた。
【0140】
比較例4
実施例1において、プライマーの希釈溶媒を、ジエチルエーテル(沸点35℃、SP値7.3)にした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表2にまとめた。
【0141】
比較例5
実施例1において、プライマーの希釈溶媒を、n−オクタン(沸点126℃、SP値7.7)にした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表2にまとめた。
【0142】
【表2】

また、フォトクロミックコーティング剤について、以下のように調製および評価を行った。
【0143】
以下に使用した化合物の略号と名称を示す。ラジカル重合性単量体については、括弧内に「ホモ−HL」として、各化合物(モノマー)を注型重合(30℃から90℃まで20時間かけて昇温し、さらに120℃で2時間重合した。)して単独重合したときに得られる硬化体のLスケールでのロックウエル硬度を記載した。該硬度の測定方法は、硬化体を25℃の室内で1日保持した後、明石ロックウエル硬度計(形式:AR−10)を用いて測定した。なお、グリシジルメタアクリレートはエポキシ系モノマーである。
【0144】
(1)ラジカル重合性単量体
・高硬度モノマー
TMPT:トリメチロールプロパントリメタクリレート(ホモ−HL=122)
DPEHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(ホモ−HL=100)
U6A:ウレタンオリゴマーヘキサアクリレート(ホモ−HL=100)(新中村化学社:U−6HA)
EB6A:ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート(ホモ−HL=100)(ダイセル・ユーシービー社:EB1830)
GMA:グリシジルメタアクリレート(ホモ−HL=80)
BPE:2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン(ホモ−HL=110)
・低硬度モノマー
9GDA:平均分子量532のポリエチレングリコールジアクリレート(ホモ−HL<20)
MePEGMA(475):平均分子量1000のメチルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート(ホモ−HL<20)
BPEオリゴ:平均分子量776の2,2−ビス(4−アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン(ホモ−HL<40)。
【0145】
(2)フォトクロミック化合物
クロメン1
【0146】
【化13】

クロメン2
【0147】
【化14】

クロメン3
【0148】
【化15】

クロメン4
【0149】
【化16】

(3)界面活性剤
SiL1:シリコーン系界面活性剤『L7001』(日本ユニカー社製)
SiL2:シリコーン系界面活性剤『FZ2123』(日本ユニカー社製)
FL1:フッ素系界面活性剤『メガファックF−470』(大日本インキ化学工業(株)社製)
FL2:フッ素系界面活性剤『フローラッドFC−430』(住友スリーエム社製)
Re1:脂肪酸エステル系界面活性剤『アデカエストールS』(旭電化工業株式会社製)Re2:ポリグリセリンエステル系界面活性剤『アデカノールOPG』(旭電化工業株式会社製)。
【0150】
(4)光学材料
CR39(アリル樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.50)
MR(チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.60)
TE(チオエポキシ系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.71)
SPL(メタクリル系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.54)。
【0151】
(5)重合開始剤
CGI1800:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイドの混合物(重量比3:1)。
【0152】
実施例19
レンズ基材としてCR39(アリル樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.50)を用いた。このレンズ基材をアセトンで十分に脱脂し、プライマーとして三井武田ケミカル社製湿気硬化型プライマー『タケネートM-402P』と酢酸ブチルを重量比で1:1となるように調合し、さらにレベリング剤として『L-7001』(日本ユニカー社製)を上記の溶液に1重量部加えて、窒素雰囲気下で均一になるまで充分に撹拌して用いたものをMIKASA製スピンコーター1H−DX2を用いて、スピンコートした。これを恒温器を用いて110℃、1時間で硬化してプライマー層を有するレンズ基材を作成した。フォトクロミック硬化膜を作成するために、レンズ基材の前処理として、ナビタス社製コロナ処理装置マルチダインを用いて表面に処理を施した。
【0153】
フォトクロミック重合性組成物としては、ラジカル重合性単量体であり、高硬度モノマーである2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン(平均分子量776)/トリメチロールプロパントリメタクリレート/ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート(ダイセルユーシービー社、EB−1830)/グリシジルメタクリレート/ポリエチレングリコールジアクリレート(平均分子量532)、および低硬度モノマーであるをそれぞれ50重量部/15重量部/10重量部/10重量部/15重量部/の配合割合で配合した。このラジカル重合性単量体の混合物100重量部に対してクロメン1を3重量部加え、十分に混合した。さらにシリコン系界面活性剤である『L-7001』(日本ユニカー社製)を0.1部添加し、また、重合開始剤としてCGI1800を0.5部、安定剤であるビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートを5部、シリルモノマーとしてγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを7部添加し、十分に混合してフォトクロミック化合物含有硬化性組成物を得た。
【0154】
続いて上記方法で得られた混合液の約2gをMIKASA製スピンコーター1H−DX2を用いて、レンズ基材の表面にスピンコートした。この表面がコートされたレンズを窒素ガス雰囲気中で出力120/cmのメタルハライドランプを用いて、3分間照射し、塗膜を硬化させた後にさらに110℃の恒温器にて加熱処理を行うことでフォトクロミック硬化薄膜を得た。得られる薄膜の膜厚はスピンコートの条件によって調整が可能である。本発明においてフォトクロミック硬化薄膜の膜厚を40±1μmとなるように調整した。
【0155】
こうして作成したフォトクロミック硬化膜の光学物性の外観評価は、該フォトクロミック硬化膜を有するレンズ基材を反射型CCD顕微鏡にて観察評価した。評価基準を以下に示す。
【0156】
A:均一であり外観不良は全く見られない
B:ごくわずかに微細な外観不良が見られる
C:部分的に外観不良が見える
D:全体的に外観不良が見える、または基材に影響が見える
上述した方法で作成したレンズ基材の外観の評価はAであった。
【0157】
フォトクロミック硬化性組成物を各種基材に塗布する際に問題となる施用性は、該組成物の基材に対する濡れ性によって評価した。評価基準を以下に示す。
【0158】
A:濡れ性がよく、組成物は基材に均一に塗布できる
B:濡れ性がやや悪いが、組成物は基材に対しては均一に塗布できる
C:濡れ性が悪く、組成物が基材の縁部分ではじきが見られる
D:濡れ性が悪く、組成物が基材の中心部ではじきが見られる。
上述した方法で作成したフォトクロミック硬化性組成物の基材に対する施用性の評価はAであった。
【0159】
また、このフォトクロミック硬化膜を有するレンズ基材のフォトクロミック特性の評価として、以下の方法で発色濃度を測定した。
【0160】
得られたフォトクロコーティング層を有するレンズに、浜松ホトニクス製のキセノンランプL−2480(300W)SHL−100をエアロマスフィルター(コーニング社製)を介して20℃±1℃、重合体表面でのビーム強度365nm=2.4mW/cm,245nm=24μW/cmで120秒間照射して発色させ、このときの最大吸収波長を(株)大塚電子工業製の分光光度計(瞬間マルチチャンネルフォトディテクターMCPD1000)により求めた。この、最大吸収波長における吸光度{ε(120)}と、光照射していない状態の硬化体の該波長における吸光度{ε(0)}との差{ε(120)−ε(0)}を求めこれを発色濃度とした。この値が高いほどフォトクロミック性が優れているといえる。
【0161】
上述した方法で作成したフォトクロミック硬化膜を有するレンズ基材の発色濃度は610nmの最大吸収波長において0.85であり、良好なフォトクロミック特性を示した。
【0162】
続いて密着性の評価を行った。評価方法してはフォトクロミック硬化膜を有するレンズ基材を100℃の沸騰水に1時間浸し、その後室温まで冷却し30分以内にクロスハッチ試験を行った。評価基準を以下に示す。
【0163】
A:剥がれなし
B:5%未満の剥がれ
C:5%以上15%未満の剥がれ
D:15%以上の剥がれ
上述した方法で作成したレンズ基材の密着性はAであった。
【0164】
実施例20〜25
表3に示した組成のラジカル重合性単量体組成、界面活性剤、フォトクロミック化合物を使用し、その他の添加剤は実施例19と同様のものを使用してフォトクロミック重合性組成物を調整し、実施例19と同様にして本発明のフォトクロコーティング層を有するレンズを作成した。その評価結果を表4に示す。なお、表3における界面活性剤およびフォトクロミック化合物の配合量(部)は、全ラジカル重合性単量体100重量部に対する配合量(部)である。
【0165】
【表3】

【0166】
【表4】

参考例1〜6
さらに比較のために、表5で示したようなラジカル重合性単量体組成、界面活性剤、フォトクロミック化合物を使用し、実施例19と同様にしてフォトクロコーティング層を有するレンズを作成した。その評価結果を表6に示す。
【0167】
【表5】

【0168】
【表6】

上記表3及び4から明らかなように、シリコーン系界面活性剤またはフッ素系界面活性剤を含有するフォトクロミック硬化性組成物は、その施用性や光学特性が良好であり、かつ密着性やフォトクロミック特性が良好であった。
【0169】
一方、表5及び6に示した参考例1および参考例5のように、シリコーン系界面活性剤をまたはフッ素系界面活性剤を含有しないフォトクロミック硬化組成物を使用したときには、施用性及び光学特性が極めて悪かった。また、脂肪酸エステル系界面活性剤を用いた参考例2及びポリグリセリン系界面活性剤を用いた参考例3では施用性及び光学特性の改善は見られず、さらに密着性も悪かった。また、ラジカル重合性単量体組成として、低硬度モノマーを含まない参考例6においては良好なフォトクロミック特性が得られなかった。
【0170】
さらに、本発明の湿気硬化性ポリウレタン樹脂層が形成された積層構造を含む光学基材の耐衝撃性について、以下のように調製および評価を行った。
【0171】
光学基材としてCR39(アリル樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.50)を用いた。プライマーとして三井武田ケミカル社製湿気硬化型プライマー『タケネートM-605N』と酢酸ブチルを重量比で1:1となるように調合し、窒素雰囲気下で均一になるまで充分に撹拌したものを用いた。これをMIKASA製スピンコーター1H−DX2を用いて、光学基材上にスピンコートし、恒温器を用いて110℃、1時間で硬化してポリウレタン樹脂層を有する光学基材を作成した。耐衝撃性の評価は、厚さ2mm、直径65mmの試験板に127cmの高さから鋼球を自然落下させ、該試料板が破損したときの鋼球の重さで評価した。評価基準は、このときの鋼球の重さが20g以下の場合を「1」とし、20〜40gの場合を「2」、40〜60gの場合を「3」、60〜80gの場合を「4」、80g以上の場合を「5」とした。ポリウレタン樹脂層を有さないCR39の耐衝撃性の評価結果は「3」であり、上記のように作製したポリウレタン樹脂層を有するCR39の耐衝撃性の評価結果は「5」であった。このことから、ポリウレタン樹脂層による積層構造を形成することにより耐衝撃性が向上したことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性単量体成分100重量部、シリコーン系またはフッ素系界面活性剤0.001〜5重量部およびフォトクロミック化合物0.01〜20重量部を含有してなる硬化性組成物からなることを特徴とするフォトクロミックコーティング剤。
【請求項2】
前記ラジカル重合性単量体成分が、単独に重合したときに得られる硬化体のLスケールロックウェル硬度が60以上である重合性単量体成分と、単独重合硬化体のLスケールロックウェル硬度が40以下である重合性単量体成分の混合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のフォトクロミックコーティング剤。
【請求項3】
光学基材の表面の少なくとも一部が、請求項1又は2に記載のフォトクロミックコーティング剤の硬化体から成るフォトクロミックコート層で覆われてなることを特徴とするフォトクロミック光学物品。
【請求項4】
光学基材の表面にポリウレタン樹脂層およびフォトクロミック化合物を含有する樹脂層がこの順で積層された積層構造を含んでなることを特徴とする積層体であって、フォトクロミック化合物を含有する樹脂層が、請求項1又は2に記載のフォトクロミックコーティング剤の硬化体からなる積層体。

【公開番号】特開2009−244900(P2009−244900A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168732(P2009−168732)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【分割の表示】特願2004−76411(P2004−76411)の分割
【原出願日】平成16年3月17日(2004.3.17)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】