説明

フォトクロミックレンズ

【課題】優れた光応答性を有するとともに、高い耐久性を有するフォトクロミックレンズを提供すること。
【解決手段】フォトクロミック色素および樹脂成分を含むフォトクロミック膜を有するフォトクロミックレンズ。前記フォトクロミック膜は無機粒子を更に含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミックレンズに関するものであり、詳しくは、高い光応答性と優れた耐久性を兼ね備えたフォトクロミックレンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機フォトクロミック染料を応用したフォトクロミックレンズが眼鏡用として市販されている(例えば特許文献1参照)。これらは明るい屋外で発色して高濃度のカラーレンズと同様な防眩効果を有し、室内に移ると高い透過率を回復するものである。
【0003】
フォトクロミックレンズには、所定の光が入射するとすばやく応答して発色し、上記光がない環境下に置かれると速やかに退色することが求められる。従来、このフォトクロミックレンズの発退色の反応速度は、分子構造に起因するフォトクロミック色素固有の特性に依存すると考えられていた。そのため、特定の分子構造を有するフォトクロミック色素を使用することにより、フォトクロミック膜の光に対する応答性(反応速度)を改善することが検討されてきた。
これに対し、近年、フォトクロミック膜に適度な柔軟性(流動性)を持たせることにより、膜中でフォトクロミック色素が動き易くなり、発退色の反応速度が大きく向上することが報告されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2005/014717A1
【特許文献2】WO2008/001578A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようにフォトクロミック膜に適度な柔軟性を持たせることで光応答性を改善することはできるが、膜強度が弱くなるためレンズの耐久性は低下することなる。そこでレンズの耐久性を確保するために、フォトクロミック膜上にフォトクロミック膜よりも硬い機能性膜(ハードコート、反射防止膜等)を形成することが考えられるが、高硬度な機能性膜の下層に柔軟なフォトクロミック膜が存在すると、眼鏡レンズを枠入れする際や眼鏡使用時などに機能性膜表面に加わる衝撃を下層の硬さによって緩和することができないため、機能性膜表面にクラック、傷等が発生し、やはり耐久性は低下してしまう。
以上の通り、優れた光応答性と耐久性を兼ね備えたフォトクロミックレンズを得ることは、従来困難であった。
【0006】
そこで本発明の目的は、優れた光応答性を有するとともに、高い耐久性を有するフォトクロミックレンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、フォトクロミック色素と樹脂成分を含むフォトクロミック膜へ無機粒子を添加することで、フォトクロミック膜の光応答性と強度を同時に向上させることができることを新たに見出した。中でも無機粒子の添加によって光応答性が向上することは、従来知られていなかった新たな知見である。この点について本発明者は、無機粒子が存在することでポリマーマトリックスの架橋密度が低く抑えられ、その結果フォトクロミック膜においてフォトクロミック色素が動きやすくなることが、発退色の反応速度の向上に寄与していると推察している。単にポリマーマトリックスを柔らかくするのみでは上記の通り耐久性低下の課題があるのに対し、無機粒子がフィラーとして存在することで膜硬度を確保できることが、光応答性と耐久性の両立につながっていると考えられる。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0008】
即ち、上記目的は、下記手段によって達成された。
[1]フォトクロミック色素および樹脂成分を含むフォトクロミック膜を有するフォトクロミックレンズであって、
前記フォトクロミック膜が無機粒子を更に含むことを特徴とするフォトクロミックレンズ。
[2]レンズ基材上に、前記フォトクロミック膜と機能性膜をこの順に有する[1]に記載のフォトクロミックレンズ。
[3]前記無機粒子は、コロイド粒子である[1]または[2]に記載のフォトクロミックレンズ。
[4]前記無機粒子は、シリカまたはアルミナのコロイド粒子である[1]〜[3]のいずれかに記載のフォトクロミックレンズ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い光応答性と耐久性を兼ね備えたフォトクロミックレンズを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、フォトクロミック色素および樹脂成分を含むフォトクロミック膜を有するフォトクロミックレンズに関する。本発明のフォトクロミックレンズは、眼鏡レンズとして好適に使用されるものであって、前記フォトクロミック膜に無機粒子を更に含むことを特徴とする。これにより、高い光応答性と耐久性の両立が可能となることについては先に説明した通りであり、また後述の実施例において実証する。
以下、本発明のフォトクロミックレンズについて、更に詳細に説明する。
【0011】
レンズ基材
フォトクロミックレンズの製造方法としては、レンズ基材上にフォトクロミック色素を含む樹脂コーティングを設ける方法(コーティング法)、レンズ基材にフォトクロミック色素を含浸させる方法(含浸法)または練りこむ方法(練りこみ法)等が用いられる。本発明のフォトクロミックレンズは、いずれの方法により形成されたものであってもよく、上記含浸法または練りこみ法により形成されるフォトクロミックレンズでは、フォトクロミック色素を含有するレンズ基材そのものがフォトクロミック膜となる。一方、コーティング法ではレンズ基材は特に限定されるものではなく、プラスチック、無機ガラス等の通常のレンズ基材を用いることができる。なお、含浸法または練りこみ法では、良好なフォトクロミック特性を発揮し得るためには各種樹脂の中から適切な基材材料を選択すべきであるが、コーティング法はそのような基材に対する制約がないため好ましい。上記プラスチックとしては、例えばメチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、イオウ含有共重合体、ハロゲン共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、エピチオ基を有する化合物を材料とする重合体、スルフィド結合を有するモノマーの単独重合体、スルフィドと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ポリスルフィドと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ポリジスルフィドと一種以上の他のモノマーとの共重合体等などが挙げられる。基材の厚さは、特に限定されるものではないが、通常1〜30mm程度である。また、その上にフォトクロミック膜が形成される基材の表面形状は特に限定されず、平面、凸面、凹面等の任意の形状であることができる。本発明のフォトクロミックレンズが視力矯正用の眼鏡レンズの場合、レンズ基材としては、屈折率ndが1.5〜1.8程度のものを使用することが通常である。レンズ基材としては、通常無色のものが使用されるが、透明性を損なわない範囲で着色したものを使用することもできる。
【0012】
コーティング法では、フォトクロミック膜は通常、レンズ基材上に直接または他の機能性膜を介して間接的に設けられる。フォトクロミック膜とレンズ基材との間に形成され得る機能性膜の一例としては、ハードコートやプライマーを挙げることができる。ここで形成されるハードコートは無機蒸着膜であってもよく、後述する有機系ハードコートであってもよい。または、レンズ基材上に耐摩耗性を付与するために、特表2001−520699号公報に記載されている組成物から形成されたハードコートを設けることも可能である。また、レンズ基材とフォトクロミック膜との間に形成されるプライマーとしては、接着層として機能し得る、ポリウレタン等の公知の樹脂を用いることができる。
ここで形成されるハードコート、プライマーの厚さはいずれも、例えば0.5〜10μm程度である。なお、レンズ基材としてはハードコート付きで市販されているものもあり、本発明のフォトクロミックレンズは、そのようなレンズ基材上にフォトクロミック膜を有するものであることもできる。
【0013】
フォトクロミック膜
上記含浸法または練りこみ法により形成されるフォトクロミックレンズでは、フォトクロミック色素を含有するレンズ基材そのものがフォトクロミック膜となる。一方、コーティング法では、フォトクロミック色素と硬化性成分を含むフォトクロミック液をレンズ基材上に直接または間接に塗布した後に硬化処理を施すことによって、硬化体(樹脂成分)中にフォトクロミック色素を含むフォトクロミック膜を形成することができる。ここでフォトクロミック液に無機粒子を添加すると、硬化性成分の間に無機粒子が存在することでポリマーマトリックスの架橋密度が低く抑えられる結果、ポリマーマトリックスとしての柔軟性は確保され、フォトクロミック色素が動きやすい状態を実現することができると考えられる。これに加えてポリマーマトリックス中に存在する無機粒子が膜硬度向上に寄与することが、フォトクロミック色素の動きやすさにより高い光応答性を実現しつつ、高い耐久性を有するフォトクロミック膜が得られる理由であると、本発明者は推察している。即ち、上記フォトクロミック液は、硬化性成分、フォトクロミック色素、無機粒子、重合開始剤、および任意に添加される添加剤から調製することができる。以下に、各成分について説明する。
【0014】
(i)硬化性成分
フォトクロミック膜形成のために使用可能な硬化性成分は、特に限定されず、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニル基、アリル基、スチリル基等のラジカル重合性基を有する公知の光重合性モノマーやオリゴマー、それらのプレポリマーを用いることができる。これらのなかでも、入手のし易さ、硬化性の良さから(メタ)アクリロイル基または(メタ)アクリロイルオキシ基をラジカル重合性基として有する化合物が好ましい。即ち、フォトクロミック膜に含まれる樹脂成分は、アクリル系モノマーの重合反応により形成される樹脂(アクリル系樹脂)であることが好ましい。なお、前記(メタ)アクリロイルは、アクリロイルとメタクリロイルの両方を示し、(メタ)アクリロイルオキシとは、アクリロイルオキシとメタクリロイルオキシの両方を示す。その詳細については、WO2008/001578A1段落[0050]〜[0075]を参照できる。
【0015】
(ii)フォトクロミック色素
フォトクロミック液に添加し得るフォトクロミック色素としては、公知のものを使用することができ、例えば、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物等のフォトクロミック化合物が挙げられ、本発明においては、これらのフォトクロミック化合物を特に制限なく使用することができる。その詳細については、WO2008/001578A1段落[0076]〜[0088]を参照できる。フォトクロミック液中のフォトクロミック色素の濃度は、前記硬化性成分100質量部に対して、0.01〜20質量部とすることが好ましく、0.1〜10質量部とすることが更に好ましい。
【0016】
(iii)重合開始剤
フォトクロミック液に添加する重合開始剤は、重合方法に応じて、公知の熱重合開始剤および光重合開始剤から適宜選択することができる。それらの詳細については、WO2008/001578A1段落[0089]〜[0090]を参照できる。
【0017】
(iv)無機粒子
無機粒子としては、分散性に優れた粒子が容易に得られる点で、無機酸化物粒子を用いることが好ましい。好ましい無機酸化物粒子としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化亜鉛粒子等を挙げることができ、中でも膜強度をより一層向上する観点から、シリカ粒子およびアルミナ粒子が好ましく、シリカ粒子が特に好ましい。無機粒子は、フォトクロミック膜中に樹脂成分100質量部に対して0.5〜3.0質量部の量で含まれることが、フォトクロミック膜の硬度と透過性の観点から好ましい。また、一般にナノ粒子と呼ばれる粒子サイズ(直径ないし長径)が1〜100nm程度の無機粒子を使用することが、眼鏡レンズとして好適な透過性を有するフォトクロミックレンズを得るうえで好ましい。この点から無機粒子の粒子サイズは、10〜50nmであることがより好ましい。
【0018】
上記無機粒子は、フォトクロミック液へ乾燥状態で添加することもできるが、無機粒子をフォトクロミック液中で安定かつ均一に分散させるためには、無機粒子を適当な溶媒に分散させた状態でフォトクロミック液に添加することが好ましい。これにより、無機粒子が全体に均一に存在するフォトクロミック膜を容易に得ることができるためである。この点からは、無機粒子(コロイド粒子)が分散したコロイド溶液の状態で、無機粒子をフォトクロミック液に添加することがより好ましい。中でも、有機溶媒またはモノマーを分散媒とするコロイド溶液の状態で、無機粒子をフォトクロミック液に添加することが好ましい。このようなコロイド溶液に含まれる無機粒子(コロイド粒子)は、シリコンによる表面処理等によって表面が疎水化処理されているため、硬化性成分との親和性に優れフォトクロミック液中で均一に分散可能なためである。分散媒としては、トリプロピレングリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート等のアクリルモノマー、メトキシプロピルアセテート等のエステル系溶媒、メトキシプロパノール等のアルコール系溶媒等の有機溶媒を挙げることができる。上記溶液における無機粒子濃度は、例えば20〜50質量%程度であるが、特に限定されるものではない。
【0019】
(iv)添加剤
フォトクロミック液には、フォトクロミック色素の耐久性の向上、発色速度の向上、退色速度の向上や成形性の向上のために、さらに界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等の添加剤を添加してもよい。これら添加剤としては、公知の化合物が何ら制限なく使用できる。その詳細については、WO2008/001578A1段落[0092]〜[0097]を参照できる。
【0020】
以上説明した成分を含むフォトクロミック液を塗布および硬化することにより、フォトクロミック膜を形成することができる。本発明において、フォトクロミック液の調製方法は特に限定されず、所定量の各成分を秤取り混合することにより行うことができる。なお、各成分の添加順序は特に限定されず全ての成分を同時に添加してもよいし、モノマー成分のみを予め混合し、重合させる直前にフォトクロミック色素や他の成分を添加・混合してもよい。前記フォトクロミック液は、25℃での粘度が20〜500cpsであることが好ましく、50〜300cpsであることがより好ましく、60〜200cpsであることが特に好ましい。この粘度範囲とすることにより、フォトクロミック液の塗布が容易となり、所望の厚さのフォトクロミック膜を容易に得ることができる。フォトクロミック液の塗布は、スピンコート法等の公知の塗布方法によって行うことができる。
【0021】
上記フォトクロミック液をレンズ基材上に塗布した後、フォトクロミック液に含まれる硬化性成分の種類に応じた硬化処理(加熱、光照射等)を施すことにより、フォトクロミック膜を形成することができる。前記硬化処理は、公知の方法で行うことができる。先に説明したように、無機粒子存在下で硬化処理を行うことにより、フォトクロミック色素が動きやすいため光応答性に優れるフォトクロミック膜を得ることが可能になると考えられる。フォトクロミック膜の厚さは、フォトクロミック特性を良好に発現させる観点から、10μm以上であることが好ましく、20〜60μmであることが更に好ましい。
【0022】
機能性膜
前記フォトクロミック膜上に形成され得る機能性膜としては、特に限定されるものではないが、一例としてハードコートを挙げることができる。ハードコートとして無機蒸着膜を形成することもできるが、成膜の容易性の点からは有機系のハードコート液から形成されるハードコート(有機系ハードコート)が好ましい。有機系ハードコートとしては、レンズの耐久性向上の点からは、有機ケイ素化合物および金属酸化物粒子を含むものが好ましい。そのようなハードコートを形成可能なハードコート組成物の一例としては、特開昭63−10640号公報に記載されているものを挙げることができる。
【0023】
また、上記有機ケイ素化合物の好ましい態様としては、下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物またはその加水分解物を挙げることもできる。
(R1a(R3bSi(OR24-(a+b) ・・・(I)
【0024】
一般式(I)中、R1は、グリシドキシ基、エポキシ基、ビニル基、メタアクリルオキシ基、アクリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基、フェニル基等を有する有機基を表し、R2は炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアシル基または炭素数6〜10のアリール基を表し、R3は炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表し、aおよびbはそれぞれ0または1を示す。
【0025】
2で表される炭素数1〜4のアルキル基は、直鎖または分岐のアルキル基であって、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
2で表される炭素数1〜4のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、オレイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
2で表される炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
3で表される炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖または分岐のアルキル基であって、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
3で表される炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
上記一般式(I)で表される化合物の具体例としては、特開2007−077327号公報段落[0073]に記載されているものを挙げることができる。一般式(I)で表される有機ケイ素化合物は硬化性基を有するため、塗布後に硬化処理を施すことにより、硬化膜としてハードコートを形成することができる。
【0026】
前記ハードコートに含まれる金属酸化物粒子は、ハードコート層の屈折率の調整および硬度向上に寄与し得る。具体例としては、酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化チタニウム(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化アンチモン(Sb25)等の粒子が挙げられ、単独または2種以上の金属酸化物粒子を併用することができる。金属酸化物粒子の粒径は、耐擦傷性と光学特性とを両立する観点から、5〜30nmの範囲であることが好ましい。同様の理由から、ハードコートにおける金属酸化物粒子の含有量は、屈折率および硬度を考慮して適宜設定可能であるが、通常、ハードコート組成物の固形分あたり5〜80質量%程度である。また、上記金属酸化物粒子は、ハードコート中での分散性の点から、コロイド粒子であることが好ましい。
【0027】
有機系ハードコートは、上記成分および必要に応じて有機溶媒、界面活性剤(レベリング剤)等の任意成分を混合して調製したハードコート組成物を樹脂層上に塗布し、硬化性基に応じた硬化処理(熱硬化、光硬化等)を施すことにより形成することができる。ハードコート組成物の塗布手段としては、ディッピング法、スピンコーティング法、スプレー法等の通常行われる方法を適用することができるが、面精度の面からディッピング法、スピンコーティング法が好ましい。
【0028】
以上ではハードコートについて説明したが、本発明のフォトクロミックレンズにおいてフォトクロミック膜上に形成される機能性膜は、ハードコートに限定されるものではなく、反射防止膜、撥水膜等の眼鏡レンズに通常設けられる各種機能性膜を上げることもできる。これら機能性膜については、いずれも公知技術を適用できる。また、眼鏡レンズに所望の性能を付与するために、フォトクロミック膜上に二層以上の機能性膜を積層することも可能である。
【0029】
以上説明した本発明のフォトクロミックレンズは、光が照射されると速やかに発色し、光照射を停止すると速やかに退色する高い光応答性を示すことができるとともに、クラックや傷の少ない高い耐久性を有することができるものである。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例により本発明を更に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0031】
[実施例1]
(1)プライマー層の形成
プラスチックレンズ基材として、メニスカス形状のジエチレングリコールビスアリルカーボネート(HOYA(株)製 商品名CR−39、中心肉厚2.0mm厚、直径75mm、凸面の表面カーブ(平均値)約+0.8)を使用し、レンズ基材の凸面上に、プライマー液としてポリウレタン骨格にアクリル基を導入したポリウレタンの水分散液(ポリカーボネートポリオール系ポリウレタンエマルジョン、粘度100mPa・s、固形分濃度38質量%)をスピンコート法により塗布した後、温度25℃湿度50%RHの雰囲気下で15分風乾処理し、厚さ約7μmのプライマー層を形成した。
【0032】
(2)フォトクロミックコーティング液の調製
プラスチック製容器にトリメチロールプロパントリメタクリレート20質量部、BPEオリゴマー(2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン)35質量部、EB6A(ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート)10質量部、平均分子量532のポリエチレングリコールジアクリレート10質量部、グリシジルメタクリレート10質量部からなるラジカル重合性組成物を調製した。このラジカル重合性組成物100質量部に対し、フォトクロミック色素として下記クロメン1を3質量部、ヒンダートアミン系酸化防止剤(BASF社Chimassorb2020)を5質量部、紫外線重合開始剤としてCGI−1870(BASF社製)0.6質量部を添加して十分に攪拌混合を行った組成物に、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製KBM503)を攪拌しながら6質量部滴下した。その後、上記で調製した組成物に対してシリカゾル(ビックケミー・ジャパン製NANOBYK−3651(メトキシプロピルアセテートとメトキシプロパノールとの混合溶媒中に直径20〜25nmのシリカコロイド粒子を20質量%含むシリカゾル))を5.0質量%添加した後、自転公転方式攪拌脱泡装置にて5分間脱泡することで、フォトクロミック性を有する硬化性組成物を得た。
【0033】
【化1】

【0034】
(3)フォトクロミック層の形成
上記(1)で形成したプライマー層上に、(2)で調製した硬化性組成物をスピンコート法でコーティングした。その後、このレンズを窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)にて、UVランプ(Dバルブ)で波長405nmの紫外線を積算光量で1800mJ/cm2(100mW/cm2、3分)照射し、さらに、100℃、60分間硬化処理を行い、無機粒子(シリカコロイド粒子)を樹脂成分100質量部に対して1質量部含有する厚さ40μmのフォトクロミック層を形成した。
【0035】
(4)ハードコート組成物の調製
マグネティックスターラーを備えたガラス製の容器にγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン17質量部、メタノール30質量部、および、水分散コロイダルシリカ(固形分40質量%、平均粒子径15nm)28質量部を加え充分に混合し、5℃で24時間攪拌を行った。次に、プロピレングリコールモノメチルエーテル15質量部、シリコ−ン系界面活性剤0.05質量部、および、硬化剤としてアルミニウムアセチルアセトネ−トを1.5質量部加え、充分に撹拌した後、濾過を行ってハードコーティング液(ハードコート組成物)を調製した。
【0036】
(5)ハードコート層の形成
上記(3)で形成したフォトクロミック層上に、上記(4)で調製したハードコーティング組成物を用いて、ディッピング法(引き上げ速度20cm/分)でコーティングを行い、100℃、60分加熱硬化することで、厚さ3μmのハードコート層を形成した。
【0037】
以上の工程により、レンズ基材上に、プライマー層、フォトクロミック層、および有機系ハードコート層をこの順に有するフォトクロミックレンズを得た。
【0038】
[実施例2]
上記(2)におけるシリカゾルの添加量を15.0質量%に変更し樹脂成分100質量部に対して無機粒子を3質量部含有するフォトクロミック層を形成した点以外、実施例1と同様の方法でフォトクロミックレンズを得た。
【0039】
[比較例1]
上記(2)においてシリカゾルを添加しなかった点以外、実施例1と同様の方法でフォトクロミックレンズを得た。
【0040】
評価方法
1.光応答性の評価
得られたフォトクロミックレンズについて、以下の方法によりフォトクロミック性能(退色性)を評価した。第1半減期を、下記表1に示す。
(退色半減期の測定)
各フォトクロミックレンズ上のフォトクロミック膜に対し、キセノンランプを用い、エアロマスフィルターを介して15分間(900秒)、下層にフォトクロミック膜を有するハードコート表面に対して光照射し、フォトクロミック膜を発色させた後、光照射を止めフォトクロミック膜を退色させた。大塚電子工業製の分光光度計により波長550nmにおける透過率を測定し、得られた分光光度スペクトルから最大発色時および退色時の透過率を求め、更に下記方法により算出される第1〜第3半減期における透過率を求めた。
第1半減期=最大発色時〜透過率が[(退色時透過率)−(最大発色時透過率)]/2の値となるまでに要する時間:
第2半減期=最大発色時〜透過率が[(退色時透過率)−(第1半減期透過率)]/2の値となるまでに要する時間:
第3半減期=最大発色時〜透過率が[(退色時透過率)−(第2半減期透過率)]/2の値となるまでに要する時間。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示す結果から、シリカゾルの添加により第1半減期が小さくなり退色速度が速くなったこと、即ち光応答性が向上したことが確認できる。第2、第3半減期についても同様にシリカゾルの添加により退色速度が小さくなった。これらの結果から、シリカゾルの添加によってフォトクロミック膜の光応答性が向上可能であることが示された。
【0043】
2.耐久性の評価
(1)硬度測定
上記の実施例、比較例と同様の方法で形成したフォトクロミック層のビッカース硬さ
を、以下の方法で測定した。
JIS Z2244に従うビッカース硬さ試験を、微小硬さ試験機FM−700(Future Tech製)で行った。荷重10gf、ロード時間25sec.で膜表面に形成されたHV圧子の転写形状の対角線の長さを測定し、HV=1854*F/d^2の式からビッカース硬さを算出した。
(2)耐傷性試験
上記に実施例、比較例で作製したフォトクロミックレンズのハードコート層表面において、JIS K5600−5−4/ISO 15184に従う引っかき硬度(鉛筆法)試験を2Hの鉛筆を用いて行った後、検査ベンチ内でレンズを蛍光灯にかざして目視で観察し、傷による曇りが観察されるものを「×」、曇りの観察されないものを「○」と評価した。
以上の評価結果を、下記表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2に示すように、シリカゾルの添加によりビッカース硬さが約2割も向上した。実施例1、2のフォトクロミックレンズが、比較例1と比べて高い耐傷性を示した理由は、ハードコート層の下層に位置するフォトクロミック層が高硬度であったことにあると考えられる。また、実施例1、2のフォトクロミックレンズは、眼鏡レンズとして使用可能な高い透明性を有するものであった。
【0046】
以上の結果から、フォトクロミック膜へ無機粒子を添加することで、フォトクロミックレンズの光応答性と耐久性を改善できることが確認された。
【0047】
[実施例3]
前記の実施例1の工程(2)におけるシリカゾル5.0質量%をアルミナゾル(ビックケミー・ジャパン製NANOBYK−3601(トリプロピレングリコールジアクリレート中に直径40nmのアルミナコロイド粒子を30質量%含むアルミナゾル)5.0質量%に変えることで、樹脂成分100質量部に対して無機粒子(アルミナコロイド粒子)を1.5質量部含有するフォトクロミック層を形成した点以外、実施例1と同様の方法でフォトクロミックレンズを得た。
得られたフォトクロミックレンズについて、上記と同様の方法で光応答性を評価したところ、第1半減期は130秒台であり、また第2半減期、第3半減期ともフォトクロミック層に無機粒子を含まない前記の比較例1と比べて小さく、実施例1、2と同様に高い光応答性を有することが確認された。また、このレンズについて上記と同様の方法で耐傷性試験を行ったところ評価結果は「○」であり、アルミナゾルの添加によってフォトクロミックレンズの耐久性が改善できることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のフォトクロミックレンズは、優れた光応答性と耐久性を有することが求められる眼鏡レンズとして好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトクロミック色素および樹脂成分を含むフォトクロミック膜を有するフォトクロミックレンズであって、
前記フォトクロミック膜が無機粒子を更に含むことを特徴とするフォトクロミックレンズ。
【請求項2】
レンズ基材上に、前記フォトクロミック膜と機能性膜をこの順に有する請求項1に記載のフォトクロミックレンズ。
【請求項3】
前記無機粒子は、コロイド粒子である請求項1または2に記載のフォトクロミックレンズ。
【請求項4】
前記無機粒子は、シリカまたはアルミナのコロイド粒子である請求項1〜3のいずれか1項に記載のフォトクロミックレンズ。