フォトクロミック化合物、追記型光記録分子材料、表示材料及び蛍光ラベル材料
【課題】記録保持性、耐久性に優れ、且つ、情報記録時に体積変化を伴わない高感度光記録媒体として有用なフォトクロミック化合物、及びこれを用いた追記型光記録分子材料、表示材料及び蛍光ラベル材料の提供。
【解決手段】フォトクロミック化合物は、下記の一般式(1)で表されることを特徴とする。
【解決手段】フォトクロミック化合物は、下記の一般式(1)で表されることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック化合物及びそれを用いた追記型光記録分子材料、表示材料、蛍光ラベル材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の光記録媒体は、記録媒体中に光応答性の色素を分散させ、この色素の熱劣化反応を利用して情報を記録、再生している。即ち、細く絞り込んだ光ビームを記録媒体上に照射することによって、光ビームの熱エネルギーを用い、照射箇所の反射率や屈折率などを変化させ、照射部分と非照射部分の違いを利用している。このようなヒートモード記録方式は、光ビームの熱エネルギーを用いているため、エネルギー効率が悪い。また、S/N比や記録密度、耐久性の点で問題があった。
【0003】
これに対して、フォトクロミック化合物のフォトクロミズムを利用した光記録媒体が提案されている(特許文献1)。フォトクロミズムとは、光照射により単一の分子が化学結合を組み換え、それによって吸収スペクトルの異なる2つの異性体を可逆的に生成する現象をいう。フォトクロミズムを利用した光記録媒体では、2つの異性体の色調の変化を情報として記録する。これら2つの異性体は吸収スペクトルが異なるため、一方の異性体の生成状態における所定波長に対する光の吸収強度と他方の状態における光の吸収強度との違いを検出することによって情報の再生が可能となる。一般的に、2つの異性体は無色状態の開環体と着色状態の閉環体からなり、開環体に光を照射することにより閉環体が生成される。
【0004】
また、特許文献2には、スルホン型ジアリールエテン系のフォトクロミック化合物として、エテン部位とアリール部位の結合位置が2位の熱不可逆性の逆フォトクロミック化合物が提案されている。逆フォトクロミック化合物とは、初期状態(開環体)が着色しており、光照射によって着色状態(閉環体)となるものである。
さらに、非特許文献1には、スルホン型ジアリールエテン系のフォトクロミック化合物であって、エテン部位とアリール部位の結合位置が3位のものが報告されている(非特許文献1の図16(B2))。この化合物は開環体と閉環体とが可逆に変化する。
【0005】
ところが、フォトクロミズムを利用した光記録媒体は、フォトクロミック化合物の高い光可逆反応性のため、再生光等の記録光以外の光照射による情報の破壊が問題になる。
このような課題を解決するものとして、本発明者らは、光反応により誘起される脱離反応により閉環体から縮環体に非可逆で変化するフォトクロミック化合物を見出した(特許文献3)。脱離反応により閉環体から変化した縮環体が再び閉環体に戻る反応は通常では起こりにくいことから、脱離反応により得られる縮環体は安定性に優れる。このような性質から、特許文献3に記載のフォトクロミック化合物は記録保持性、耐久性に優れた光記録媒体の光記録分子材料として有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-134365号公報
【特許文献2】特開2009-062344号公報
【特許文献3】特開2010-064968号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kim et al., Chem. Comm., 2005, p. 2503
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献3に記載のフォトクロミック化合物は、脱離反応により閉環体から物質を放出して縮環体に変化するため、体積収縮を伴う。フォトクロミック化合物を光記録分子材料として用いる場合、該フォトクロミック化合物を適当なバインダ樹脂材料に分散させて光記録媒体を形成することが考えられる。従って、特許文献3に記載のフォトクロミック化合物を用いて光記録媒体を形成すると、情報を記録する毎に体積収縮して光記録媒体にひずみやゆがみが生じるおそれがある。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、記録保持性、耐久性に優れ、且つ、情報記録時に体積変化を伴わない高感度光記録媒体として有用なフォトクロミック化合物及びこれを用いた追記型光記録分子材料、表示材料及び蛍光ラベル材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、固体中でも高いフォトクロミック反応を示し、閉環状態が熱的に安定なヘキサトリエン骨格フォトクロミック分子に着目し、追記型光記録材料に展開可能な化合物の開発を進めた結果、下記の骨格構造(1)及び(1’)を有するフォトクロミック化合物が優れた諸特性を有することを見出した。
【化1】
(上記した骨格構造(1)において、Xは、水素、ハロゲン、シアノ基、−CH3や−C2H5等の炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐型アルキル基、−OCH3や−OCH2CH5等の炭素数1〜5のアルコキシ基、又はCH3COO−から成るグループの中から選択される置換基、Zは五員環(環上に炭素以外の原子を含んでも良い)の脂環式化合物、又は複素芳香族五員環、R1、R2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルコキシ基、ハロゲン元素、シアノ基、又はホルミル基を表す。また、Phはフェニル基を表す。)
【0011】
これまで知られているフォトクロミック材料の一つに下記の骨格構造(2)
【化2】
を有するジアリールエテン化合物が知られているが、骨格構造(1)と(2)の比較から明らかなように、本発明のフォトクロミック化合物は、アリール基がスルホン化されているという特徴を有する。このような特徴的な構造は、本発明者が様々な構造のジアリールエテン化合物に関し、その分子構造と開環量子収率及び閉環量子収率との関係を調べた結果、スルホン化により開環量子収率が低下する傾向があることを見出した知見に基づき得られたものである。従って、本発明に係るフォトクロミック化合物は、閉環量子収率に比べて開環量子収率が非常に低いという特徴を有し、光照射によりいったん開環体(1)から閉環体(1’)に変化すると、開環体(1)にはほとんど戻らない。
【0012】
骨格構造(1)及び(1’)を有する本発明のフォトクロミック化合物において、X、Z、R1、R2として特定の構造のものを選択することにより、本発明のフォトクロミック化合物は、光照射によって開環体から閉環体に変化し、その変化は非可逆となる。このようなフォトクロミック化合物を用いて追記型光記録分子材料や表示材料等を構成した場合、開環体(1)から閉環体(1’)に変化させる光を記録光とし、この閉環体の蛍光波長を与える励起光の波長を再生光とする。
ここで、開環体から閉環体に非可逆で変化するとは、開環体から閉環体への変化のみが起こり、閉環体は開環体へ変化しないことをいう。なお、開環体から閉環体に非可逆で変化する場合とは、フォトクロミック化合物の開環量子収率が、測定不能もしくは1×10-4 以下である場合をいう。
【0013】
上記骨格構造(1)及び(1’)を有する本発明のフォトクロミック化合物は、閉環状態の吸収スペクトルが、開環状態の吸収スペクトルよりも波長にして100nm以上変位していることが好ましく、また、長波長側に変位していることが好ましい。スペクトルの変位(シフト)によって、記録光と再生光との間の干渉などの相互の影響を抑制することができる。
すなわち、一般式(1)で表される開環状態を、一般式(1’)で表される閉環状態へ変化させる光である記録光の波長と、一般式(1’)で表される閉環状態に蛍光発光を与える光である励起光つまり上記の再生光の波長とが、少なくとも100nm以上異なることが好ましい。さらに、再生光が、記録光より長波長側に変位(シフト)していることが好ましい。
【0014】
本発明のフォトクロミック化合物の好ましい例は、下記の式(3)もしくは式(4)で表されるジアリールエテン構造から成る。
【化3】
【化4】
式(3)及び式(4)で表されるフォトクロミック化合物は、いずれも開環量子収率(閉環状態から開環状態への光反応量子収率)が 1×10-5 以下であり、開環体から閉環体に非可逆で変化する。
【0015】
上記した本発明のフォトクロミック化合物は、光照射によって単一の分子が開環状態から吸収スペクトルの異なる閉環状態に変化し、しかも、閉環状態から開環状態に非常に戻りにくいことから、追記型光記録媒体の材料として有用である。
【0016】
また、上記した本発明のフォトクロミック化合物を樹脂等の材料中に分散させて適宜の形状に成形すれば、表札や広告などの表示部材とすることができる。この表示部材は、表示させたい文字や図柄等の表示情報を記録光で書き込むことができ、その後、再生光を照射することで、書き込まれた文字や図柄等を表示させることができる。表示部材の内部から発光する文字等を表示することができるので、審美性に優れ、人目を惹きつける表示を実現することができる。さらに、表示情報を何度も追加して書き込むことができる。また、例えば人が近付いたとき等、必要に応じて再生光を照射して文字や図柄等を表示させることも可能であり、常時、再生光を照射する場合に比べて、表示を際立たせることができ、維持コストの低減を図ることができる。
【0017】
本発明のフォトクロミック化合物を用いて形成された表示部材は、データの追加が可能であり、かつ記録されたデータは再生光なしには不可視であるという特性を有する。このような特性を利用することにより、例えば次のような有用なラベル材料を提供することができる。すなわち、市場に提供される商品が、本発明のフォトクロミック化合物を含むラベル材料を伴って流通するようにすれば、生産から消費、或いは廃棄までの各段階において情報を記録することができるので、商品の流通経路の追跡可能性(トレーサビリティ)を向上させることができる。このようなラベル材料は、商品の生産から消費・廃棄までの各段階に限らず、工場での製造工程等の各段階においても情報を記録することができるので、品質管理等に用いることができる。また、記録された情報は再生光の照射によってのみ視認することができるので、記録情報を秘匿することも可能である。
【0018】
さらに本発明のフォトクロミックの化合物は、紫外光照射に伴って可視域に新たな吸収バンドを形成し、その吸収バンドを記録光によって光励起すると蛍光を発する光刺激蛍光特性を有している。近年、光刺激に伴って蛍光特性がON状態とOFF状態の間をスイッチできる蛍光タンパク質がバイオラベルなどの生体観測用色素として注目されている(宮脇らWO2005/113772)。このような光刺激蛍光を利用することで、従来の蛍光顕微鏡の解像度を飛躍的に向上させることが可能である(Science 2006年 313° 1642-1645)。本発明でもたらされるフォトクロミックの化合物についても光刺激により蛍光がON状態になることから、類似の超高分解能観察用蛍光ラベル色素としての応用が可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のフォトクロミック化合物は、光の照射によりフォトクロミック反応を起こし、開環体から吸収スペクトルが変位した閉環体に変化する。本発明のフォトクロミック化合物の特徴は閉環量子収率に比べて開環量子収率が非常に低いため、閉環体は安定性に優れる。このため、記録光や再生光の照射によって開環体に戻ることがほとんどない。
【0020】
このような性質から、本発明のフォトクロミック化合物は、種々の光機能性材料として有用であり、特に、記録された情報が消失することがないことから、記録保持性、耐久性に優れた高感度光記録分子材料として有用である。
特に、縮環体として、再生光を照射したときに蛍光発光するものを採用することにより、三次元光記録、近接場光記録、ホログラム型光記録が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のフォトクロミック化合物のいくつかの実施例の化学構造を示す図。
【図2】フォトクロミック化合物A1の合成経路の一部を示す図。
【図3】フォトクロミック化合物A2の合成経路の一部を示す図。
【図4】フォトクロミック化合物A3の合成経路の一部を示す図。
【図5】フォトクロミック化合物A1の吸収スペクトルの変化を示す図。
【図6】フォトクロミック化合物A1の閉環体の発光スペクトルを示す図。
【図7】フォトクロミック化合物A1を追記型光記録分子材料として用いたときのフォトクロミック反応の例を示す図。
【図8】フォトクロミック化合物A2の吸収スペクトルの変化を示す図。
【図9】フォトクロミック化合物A2の閉環体の吸収スペクトルを示す図。
【図10】フォトクロミック化合物A3の吸収スペクトルの変化を示す図。
【図11】フォトクロミック化合物A3の閉環体の発光スペクトルを示す図。
【図12】実施例に係るフォトクロミック化合物のフォトクロミック特性を示す表。
【図13】フォトクロミック化合物を用いた追記型光記録デバイスの構造を示す図。
【図14】本発明のフォトクロミック化合物の閉環量子収率が非常に高く、且つ、閉環量子収率に比べて開環量子収率が低いことを説明するための図。
【図15】比較例のフォトクロミック化合物の構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に本発明のフォトクロミック化合物の具体的な実施例をその化学式(A1)〜(A5)で示す。図1中、Meはメチル基を示すが、以下に示す図では一部、Meを省略している。
化学式(A1)〜(A5)で示されるいずれのフォトクロミック化合物(以下、フォトクロミック化合物A1〜A5と呼ぶ)も紫外光の照射により閉環体に変化する。
【0023】
1.合成方法
フォトクロミック化合物A1〜A5はさまざまな方法により合成可能である。下記に、化合物A1〜A3の合成方法の例を示す。
(1)フォトクロミック化合物A1〈TaTO4-Ph3〉の合成(図2)
褐色ナスフラスコに、4,5-Bis(2,4-dimethyl-5-phenylthiophen-3-yl)-2-phenylthiazole 42mg(78μmol, 1.0eq.)を入れてCH2Cl2 8mlに溶かし、撹拌しながら70% m-Chloroperbenzoic acid(m-CPBA) (東京化成工業株式会社(TCI)製)0.116g(0.470mmol, 6.0eq. )を加え、室温で25時間撹拌した。続いて、反応溶液を水でクエンチし、CH2Cl2で抽出して淡黄色固体を得た。暗室中でカラムクロマトグラフィ[Hexane/EtOAc(4:1)次いでEtOAc]でラフに分け、その8割ほどを順相HPLC[Hexane/EtOAc(75:25)]×7回で単離精製し、その精製物を1H NMR(300MHz; CDCl3),DART-MSで同定した。目的物の収量は36mg、収率は76%であった。
【0024】
(2)フォトクロミック化合物A2〈BDMTFO4-Ph〉の合成(図3)
褐色ナスフラスコに、1,2-Bis(2,4-dimethyl-5-phenylthiophen-3-yl)3,3,4,4,5,5-hexafluorocyclopentene(TCI製)49.55mg(90.32μmol, 1.0eq.)を入れてCH2Cl2 10mlに溶かし、撹拌しながら70% m-Chloroperbenzoic acid(m-CPBA)(TCI製)0.135g(0.547mmol, 6.05eq. )を加え、室温で約2日間撹拌した。続いて、反応溶液を水でクエンチし、CH2Cl2で抽出して淡黄色固体を得た。(暗室中で)カラムクロマトグラフィ[Hexane/EtOAc(4:1)]で2つの成分に分け、それぞれHPLC[Hexane/EtOAc(90:10)]で精製した。得られた2成分をFAB-MS測定した結果、ジオキシド体(580)とテトラオキシド体(612)であることが分かった。ジオキシド体は赤色固体、テトラオキシド体は黄色発光固体であった。
【0025】
(3)フォトクロミック化合物A3〈BDMTFO4-TerPh〉の合成(図4)
褐色ナスフラスコに、1,2-Bis[2,4-dimethy-5-(2,4-diphenylphenyl)thiophen-3-yl]perfluorocyclopentene 50.96mg(59.74μmol, 1.0eq.)を入れてCH2Cl2 2mlに溶かし、撹拌しながら70% m-Chloroperbenzoic acid(m-CPBA)(TCI製)0.151g(0.613mmol, 10.02eq. )を加え、室温で約4日間撹拌した。TCLで原料消失し、ジオキシド体(赤色)とテトラオキシド体(黄色)の生成を確認した。反応溶液を水でクエンチし、CH2Cl2で抽出して黄色のcrude 0.111gを得た。これをカラムクロマトグラフィ[Hexane/EtOAc(4:1)からグラデュエード]でラフに分取し、順相HPLC[Hexane/EtOAc(4:1)]で精製した。
【0026】
2.フォトクロミック特性
上記したフォトクロミック化合物A1〜A3について、種々のフォトクロミック特性を調べた結果を以下に示す。
【0027】
(1)フォトクロミック化合物A1のフォトクロミック特性
図5は2M-THF溶液中におけるフォトクロミック化合物A1の開環体から閉環体への変化に伴う吸収スペクトルの変化を示す。具体的には、化合物A1の開環体に313nmの紫外光を照射し続けた場合の30秒毎の吸収スペクトルの変化を示しており、破線5aは開環体の吸収スペクトルを、太い実線5bは閉環体の吸収スペクトルを示す。その他の細い実線は、化合物A1が開環体から閉環体に変化する過程における吸収スペクトルを示す。図5より、化合物A1は313nmの紫外光を360秒間(30秒×12)照射し続けることにより開環体から閉環体に変化することがわかる。また、フォトクロミック化合物A1は開環体から閉環体に変化することにより吸収スペクトルが長波長側に100nm以上変化していることがわかる。
【0028】
図6はフォトクロミック化合物A1の閉環体の発光スペクトルを示す。図5及び図6から、フォトクロミック化合物A1は、波長300〜400nmの紫外光照射により開環体から閉環体に変化し、波長490nm付近の青緑色光で閉環体を励起することにより波長576nm付近の橙色の光を発することがわかる。
【0029】
従って、化合物A1を追記型光記録分子材料に用いた場合、記録書き込み光として波長300nm〜400nmの紫外光を、記録読み出し光として波長490nmの青緑色光を、検出光として波長576nmの光を用いることができる。しかも、開環体は波長490nmの光を吸収しないことから、記録読み出し光を照射しても開環体が閉環体に変化することがなく、追記型光記録分子材料として有用である。すなわち追記型光記録材料分子として化合物A1は光反応後のスペクトルシフトが大きく、記録書き込み光と記録読み出し光のクロストークを容易に抑制できるという優位性を有している。
なお、化合物A1の閉環体に436nmの光照射を12時間行って蛍光観測を続けた結果、蛍光強度の低下率は1%以下であった。これは436nmの光照射では閉環体が開環体に戻る開環反応が進行しないことを示しており、追記型光記録材料として利用可能であることがわかる。
図7にフォトクロミック化合物A1を追記型光記録分子材料として用いたときのフォトクロミック反応を示す。
【0030】
(2)フォトクロミック化合物A2
図8は2M-THF中におけるフォトクロミック化合物A2の開環体から閉環体への変化に伴う吸収スペクトルの変化を示す。具体的には、化合物A2の開環体に313nmの紫外光を照射し続けた場合の9分毎の吸収スペクトルの変化を示しており、破線8aは開環体の吸収スペクトルを、太い実線8bは閉環体の吸収スペクトルを示す。その他の細い実線は、化合物A2が開環体から閉環体に変化する過程における吸収スペクトルを示す。図8より、化合物A2は313nmの紫外光を81分間(9分×9)照射し続けることにより開環体から閉環体に変化することがわかる。
【0031】
また、フォトクロミック化合物A1と同様、化合物A2も開環体から閉環体に変化することにより吸収スペクトルが長波長側に100nmほど変化していることがわかる。フォトクロミック化合物A2は、波長280〜300nmの紫外光照射により開環体から閉環体に変化し、青紫色光(波長423nm)で閉環体を励起することにより緑色光(波長550nm)の光を発する。しかも、開環体は青紫色光(波長423nm)を吸収しないことから、フォトクロミック化合物A2も追記型光記録分子材料として有用である。
【0032】
図9は化合物A2の閉環体に436nmの光を46時間照射し続けた後、313nmの紫外光を照射した場合の吸収スペクトル変化を示している。図9中、実線9aは化合物A2の閉環体に光を照射する前の吸収スペクトルを、破線9bは436nmの光を46時間照射し続けた場合の吸収スペクトルを示す。また、実線9cは、436nmの光を46時間照射し続けた後、さらに313nmの紫外光を80分間照射した場合の吸収スペクトルを示す。
図9から、化合物A2の閉環体に46時間の光照射を行った後でもおよそ90%の閉環体が残留していることがわかる。また、436nmの光照射に続いて313nmの紫外光を80分間照射した結果、閉環体の吸収スペクトルがほぼ回復していることがわかる。このことから、化合物A2は、436nmの光照射によって光開環反応が進行し、313nmの紫外光照射によって光閉環反応が進行する。光閉環反応の進行速度に比べて光開環反応の進行速度は非常に遅いことから、化合物A2の光開環反応は十分に抑制されていることがわかる。
【0033】
たとえば既存の音楽CD(700MB=8×7×108bit、74分=4440秒)においては1bitの再生に約80×10-8秒(=4440秒÷(56×108bit))を所要することになる。図9の実験結果をみると、化合物A2は46時間の光照射を行っても90%の閉環体が残留していることから、46時間の光記録再生が可能な化合物といえる。従って、1bitあたり46時間の光記録再生が可能な化合物A2を利用した仮想的な光ディスクでは約2×1011回(=46×3600秒÷(80×10-8秒))の記録再生が可能と期待される。これは74分の音楽ディスクを約3千万年間にわたって再生し続けることに対応することから、このような仮想的な音楽ディスクでは記録の再生可能回数に実用上の制限がほぼなくなる。なお、上述の化合物A1の場合には、これを上回る情報保持性能、非破壊記録再生能を有している。
【0034】
(3)フォトクロミック化合物A3
図10は2M-THF中におけるフォトクロミック化合物A3の開環体から閉環体への変化に伴う吸収スペクトルの変化を示す。具体的には、化合物A3の開環体に340nmの紫外光を照射し続けた場合の5秒毎の吸収スペクトルの変化を示しており、破線10aは開環体の吸収スペクトルを、太い実線10bは閉環体の吸収スペクトルを示す。その他の細い実線は、化合物A3が開環体から閉環体に変化する過程における吸収スペクトルを示す。図10より、化合物A3は340nmの紫外光を5秒間照射し続けることにより開環体から閉環体に変化することがわかる。吸収スペクトルの変化を示し、図11はフォトクロミック化合物A3の閉環体の発光スペクトルを示す。フォトクロミック化合物A1と同様、化合物A3も開環体から閉環体に変化することにより吸収スペクトルが長波長側に100nm以上変化していることがわかる。また、フォトクロミック化合物A3は、波長300〜350nmの紫外光照射により開環体から閉環体に変化し、波長445nm付近の青紫色光で閉環体を励起することにより波長550〜560nmの緑色光を発することがわかる。
【0035】
従って、化合物A3を追記型光記録分子材料に用いた場合、記録書き込み光として波長300〜350nmの紫外光を、記録読み出し光として波長445nmの青紫色光を、検出光として波長550〜560nmの緑色光を用いることができる。しかも、開環体は波長445nmの青紫色光を吸収しないことから、フォトクロミック化合物A3も追記型光記録分子材料として有用である。
【0036】
図12にフォトクロミック化合物A1〜A3の閉環体、開環体のモル吸光係数、発光量子収率、反応量子収率をまとめて示す。図12中、閉環体の発光量子収率、開環体の発光量子収率とは、光照射により閉環体から開環体へ変化する割合(収率)、開環体から閉環体に変化する割合(収率)をそれぞれ意味し、開環反応量子収率、閉環反応量子収率と同義である。
なお、図12中、「光反応量子収率」が「測定不能」とあるのは1×10-5以下であることを、着色体の発光波長と量子収率」が「−」とあるのは発光が見られないことを示している。また、「未測定」は、当該化合物についての発光特性の測定を未だ行っていないことを示している。
【0037】
図12から明らかなように、いずれのフォトクロミック化合物A1〜A3も、閉環体の光反応量子収率(開環量子収率)は、開環体の光反応量子収率(閉環量子収率)よりも非常に低く、且つ、2×10-5以下であり、開環体から閉環体に非可逆で変化することがわかる。
また、化合物A1、A3は閉環体の発光量子収率が高いため、追記型光記録分子材料として用いたときに、検出光(閉環体を励起したときの発光)を高感度で検出することができる。
【0038】
3.その他の特性
フォトクロミック化合物A1及びA3は、アモルファスであり、バインダ樹脂材料に分散させなくても薄膜を形成することができる。このような性質により、フォトクロミック化合物A1及びA3は、他の材料を加えることなく単独で追記型光記録デバイスを製造することができる。これに対して、フォトクロミック化合物A2、A4及びA5は、図13に示すように、バインダ樹脂材料1中に分散させて光記録分子材料10とし、これを薄膜成形することで追記型光記録デバイスを製造することができる。
なお、フォトクロミック化合物A1及びA3のみがアモルファス分子となる理由は、これら化合物はフォトクロミック化合物A2及びA4よりもベンゼン環の数が多いためと考えられるが、詳細は不明である。
【0039】
本発明に係るフォトクロミック化合物はいずれも閉環量子収率が非常に高い。その理由を図14を参照しつつ説明する。なお、図14にはフォトクロミック化合物A4のスルホン化前の構造(後述の比較例B5の構造)を示しているが、高い閉環量子収率はスルホン化する前後で変化しない。
図14に示すように、X線構造解析結果から得られたフォトクロミック化合物の開環状態の分子構造では、破線P1及びP2で示した原子間距離はそれぞれ2.95Å、2.69Åであり、ファンデルワールス半径よりも短く、吸引的な相互作用が働いていることがわかる。この相互作用は、開環体のコンフォメーションをフォトクロミック反応に適した構造に固定化する役割を果たす。その結果、破線P3で示す原子間距離は3.5Å程度になり、非常に短い(これは、グラファイトの面間距離3.45Åと同程度である。)。このため、開環状態から閉環状態に変化しやすいと思われる。
【比較例】
【0040】
上記した実施例に係るフォトクロミック化合物A1〜A5との比較のため、既に知られているフォトクロミック化合物の分子構造を開環量子収率及び閉環量子収率と共に図15に示す。いずれの比較例も学術論文等の非特許文献で既に報告されている。そこで、発明者が実際に開環量子収率及び閉環量子収率を測定した化合物B5、B6と区別するために、非特許文献から引用した開環量子収率及び閉環量子収率については、当該非特許文献の名称と共に示した。なお、図15に示す分子構造中、単なる線で示す箇所はメチル基(Me)が結合していることを示す。
【0041】
図15中、式(B1)で示す比較例のフォトクロミック化合物をスルホン化することにより式(B2)で示す比較例のフォトクロミック化合物が得られる。これら比較例の開環量子収率から明らかなように、スルホン化することにより開環量子収率が大きく低下している。一方、スルホン化により閉環量子収率も低下したが、開環量子収率に比べるとその低下率は小さい。
【0042】
式(B3)で示す比較例のフォトクロミック化合物をスルホン化すると実施例のフォトクロミック化合物A1が得られる。このフォトクロミック化合物B3の開環量子収率は0.07であり、一方、実施例のフォトクロミック化合物A1の開環量子収率は1×10-5以下である。従って、この場合もスルホン化により開環量子収率が大きく低下した。
【0043】
式(B4)で示す比較例のフォトクロミック化合物をスルホン化すると実施例のフォトクロミック化合物A2が得られる。このフォトクロミック化合物B4の開環量子収率は0.015であり、一方、実施例のフォトクロミック化合物A2の開環量子収率は2×10-5以下である。従って、この場合もスルホン化により開環量子収率が大きく低下した。
【0044】
式(B5)で示す比較例のフォトクロミック化合物をスルホン化すると実施例のフォトクロミック化合物A4が得られ、式(B6)で示す比較例のフォトクロミック化合物をスルホン化すると実施例のフォトクロミック化合物A5が得られる。これら実施例のフォトクロミック化合物A4及びA5も開環量子収率は未測定であるが、比較例B5及びB6の開環量子収率が0.008、0.007であること、スルホン化により開環量子収率が低下することから、実施例のフォトクロミック化合物A4及びA5の開環量子収率も非常に小さい値を示すことが予想された。
【符号の説明】
【0045】
1…バインダ樹脂材料
10…光記録分子材料
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック化合物及びそれを用いた追記型光記録分子材料、表示材料、蛍光ラベル材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の光記録媒体は、記録媒体中に光応答性の色素を分散させ、この色素の熱劣化反応を利用して情報を記録、再生している。即ち、細く絞り込んだ光ビームを記録媒体上に照射することによって、光ビームの熱エネルギーを用い、照射箇所の反射率や屈折率などを変化させ、照射部分と非照射部分の違いを利用している。このようなヒートモード記録方式は、光ビームの熱エネルギーを用いているため、エネルギー効率が悪い。また、S/N比や記録密度、耐久性の点で問題があった。
【0003】
これに対して、フォトクロミック化合物のフォトクロミズムを利用した光記録媒体が提案されている(特許文献1)。フォトクロミズムとは、光照射により単一の分子が化学結合を組み換え、それによって吸収スペクトルの異なる2つの異性体を可逆的に生成する現象をいう。フォトクロミズムを利用した光記録媒体では、2つの異性体の色調の変化を情報として記録する。これら2つの異性体は吸収スペクトルが異なるため、一方の異性体の生成状態における所定波長に対する光の吸収強度と他方の状態における光の吸収強度との違いを検出することによって情報の再生が可能となる。一般的に、2つの異性体は無色状態の開環体と着色状態の閉環体からなり、開環体に光を照射することにより閉環体が生成される。
【0004】
また、特許文献2には、スルホン型ジアリールエテン系のフォトクロミック化合物として、エテン部位とアリール部位の結合位置が2位の熱不可逆性の逆フォトクロミック化合物が提案されている。逆フォトクロミック化合物とは、初期状態(開環体)が着色しており、光照射によって着色状態(閉環体)となるものである。
さらに、非特許文献1には、スルホン型ジアリールエテン系のフォトクロミック化合物であって、エテン部位とアリール部位の結合位置が3位のものが報告されている(非特許文献1の図16(B2))。この化合物は開環体と閉環体とが可逆に変化する。
【0005】
ところが、フォトクロミズムを利用した光記録媒体は、フォトクロミック化合物の高い光可逆反応性のため、再生光等の記録光以外の光照射による情報の破壊が問題になる。
このような課題を解決するものとして、本発明者らは、光反応により誘起される脱離反応により閉環体から縮環体に非可逆で変化するフォトクロミック化合物を見出した(特許文献3)。脱離反応により閉環体から変化した縮環体が再び閉環体に戻る反応は通常では起こりにくいことから、脱離反応により得られる縮環体は安定性に優れる。このような性質から、特許文献3に記載のフォトクロミック化合物は記録保持性、耐久性に優れた光記録媒体の光記録分子材料として有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-134365号公報
【特許文献2】特開2009-062344号公報
【特許文献3】特開2010-064968号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kim et al., Chem. Comm., 2005, p. 2503
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献3に記載のフォトクロミック化合物は、脱離反応により閉環体から物質を放出して縮環体に変化するため、体積収縮を伴う。フォトクロミック化合物を光記録分子材料として用いる場合、該フォトクロミック化合物を適当なバインダ樹脂材料に分散させて光記録媒体を形成することが考えられる。従って、特許文献3に記載のフォトクロミック化合物を用いて光記録媒体を形成すると、情報を記録する毎に体積収縮して光記録媒体にひずみやゆがみが生じるおそれがある。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、記録保持性、耐久性に優れ、且つ、情報記録時に体積変化を伴わない高感度光記録媒体として有用なフォトクロミック化合物及びこれを用いた追記型光記録分子材料、表示材料及び蛍光ラベル材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、固体中でも高いフォトクロミック反応を示し、閉環状態が熱的に安定なヘキサトリエン骨格フォトクロミック分子に着目し、追記型光記録材料に展開可能な化合物の開発を進めた結果、下記の骨格構造(1)及び(1’)を有するフォトクロミック化合物が優れた諸特性を有することを見出した。
【化1】
(上記した骨格構造(1)において、Xは、水素、ハロゲン、シアノ基、−CH3や−C2H5等の炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐型アルキル基、−OCH3や−OCH2CH5等の炭素数1〜5のアルコキシ基、又はCH3COO−から成るグループの中から選択される置換基、Zは五員環(環上に炭素以外の原子を含んでも良い)の脂環式化合物、又は複素芳香族五員環、R1、R2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルコキシ基、ハロゲン元素、シアノ基、又はホルミル基を表す。また、Phはフェニル基を表す。)
【0011】
これまで知られているフォトクロミック材料の一つに下記の骨格構造(2)
【化2】
を有するジアリールエテン化合物が知られているが、骨格構造(1)と(2)の比較から明らかなように、本発明のフォトクロミック化合物は、アリール基がスルホン化されているという特徴を有する。このような特徴的な構造は、本発明者が様々な構造のジアリールエテン化合物に関し、その分子構造と開環量子収率及び閉環量子収率との関係を調べた結果、スルホン化により開環量子収率が低下する傾向があることを見出した知見に基づき得られたものである。従って、本発明に係るフォトクロミック化合物は、閉環量子収率に比べて開環量子収率が非常に低いという特徴を有し、光照射によりいったん開環体(1)から閉環体(1’)に変化すると、開環体(1)にはほとんど戻らない。
【0012】
骨格構造(1)及び(1’)を有する本発明のフォトクロミック化合物において、X、Z、R1、R2として特定の構造のものを選択することにより、本発明のフォトクロミック化合物は、光照射によって開環体から閉環体に変化し、その変化は非可逆となる。このようなフォトクロミック化合物を用いて追記型光記録分子材料や表示材料等を構成した場合、開環体(1)から閉環体(1’)に変化させる光を記録光とし、この閉環体の蛍光波長を与える励起光の波長を再生光とする。
ここで、開環体から閉環体に非可逆で変化するとは、開環体から閉環体への変化のみが起こり、閉環体は開環体へ変化しないことをいう。なお、開環体から閉環体に非可逆で変化する場合とは、フォトクロミック化合物の開環量子収率が、測定不能もしくは1×10-4 以下である場合をいう。
【0013】
上記骨格構造(1)及び(1’)を有する本発明のフォトクロミック化合物は、閉環状態の吸収スペクトルが、開環状態の吸収スペクトルよりも波長にして100nm以上変位していることが好ましく、また、長波長側に変位していることが好ましい。スペクトルの変位(シフト)によって、記録光と再生光との間の干渉などの相互の影響を抑制することができる。
すなわち、一般式(1)で表される開環状態を、一般式(1’)で表される閉環状態へ変化させる光である記録光の波長と、一般式(1’)で表される閉環状態に蛍光発光を与える光である励起光つまり上記の再生光の波長とが、少なくとも100nm以上異なることが好ましい。さらに、再生光が、記録光より長波長側に変位(シフト)していることが好ましい。
【0014】
本発明のフォトクロミック化合物の好ましい例は、下記の式(3)もしくは式(4)で表されるジアリールエテン構造から成る。
【化3】
【化4】
式(3)及び式(4)で表されるフォトクロミック化合物は、いずれも開環量子収率(閉環状態から開環状態への光反応量子収率)が 1×10-5 以下であり、開環体から閉環体に非可逆で変化する。
【0015】
上記した本発明のフォトクロミック化合物は、光照射によって単一の分子が開環状態から吸収スペクトルの異なる閉環状態に変化し、しかも、閉環状態から開環状態に非常に戻りにくいことから、追記型光記録媒体の材料として有用である。
【0016】
また、上記した本発明のフォトクロミック化合物を樹脂等の材料中に分散させて適宜の形状に成形すれば、表札や広告などの表示部材とすることができる。この表示部材は、表示させたい文字や図柄等の表示情報を記録光で書き込むことができ、その後、再生光を照射することで、書き込まれた文字や図柄等を表示させることができる。表示部材の内部から発光する文字等を表示することができるので、審美性に優れ、人目を惹きつける表示を実現することができる。さらに、表示情報を何度も追加して書き込むことができる。また、例えば人が近付いたとき等、必要に応じて再生光を照射して文字や図柄等を表示させることも可能であり、常時、再生光を照射する場合に比べて、表示を際立たせることができ、維持コストの低減を図ることができる。
【0017】
本発明のフォトクロミック化合物を用いて形成された表示部材は、データの追加が可能であり、かつ記録されたデータは再生光なしには不可視であるという特性を有する。このような特性を利用することにより、例えば次のような有用なラベル材料を提供することができる。すなわち、市場に提供される商品が、本発明のフォトクロミック化合物を含むラベル材料を伴って流通するようにすれば、生産から消費、或いは廃棄までの各段階において情報を記録することができるので、商品の流通経路の追跡可能性(トレーサビリティ)を向上させることができる。このようなラベル材料は、商品の生産から消費・廃棄までの各段階に限らず、工場での製造工程等の各段階においても情報を記録することができるので、品質管理等に用いることができる。また、記録された情報は再生光の照射によってのみ視認することができるので、記録情報を秘匿することも可能である。
【0018】
さらに本発明のフォトクロミックの化合物は、紫外光照射に伴って可視域に新たな吸収バンドを形成し、その吸収バンドを記録光によって光励起すると蛍光を発する光刺激蛍光特性を有している。近年、光刺激に伴って蛍光特性がON状態とOFF状態の間をスイッチできる蛍光タンパク質がバイオラベルなどの生体観測用色素として注目されている(宮脇らWO2005/113772)。このような光刺激蛍光を利用することで、従来の蛍光顕微鏡の解像度を飛躍的に向上させることが可能である(Science 2006年 313° 1642-1645)。本発明でもたらされるフォトクロミックの化合物についても光刺激により蛍光がON状態になることから、類似の超高分解能観察用蛍光ラベル色素としての応用が可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のフォトクロミック化合物は、光の照射によりフォトクロミック反応を起こし、開環体から吸収スペクトルが変位した閉環体に変化する。本発明のフォトクロミック化合物の特徴は閉環量子収率に比べて開環量子収率が非常に低いため、閉環体は安定性に優れる。このため、記録光や再生光の照射によって開環体に戻ることがほとんどない。
【0020】
このような性質から、本発明のフォトクロミック化合物は、種々の光機能性材料として有用であり、特に、記録された情報が消失することがないことから、記録保持性、耐久性に優れた高感度光記録分子材料として有用である。
特に、縮環体として、再生光を照射したときに蛍光発光するものを採用することにより、三次元光記録、近接場光記録、ホログラム型光記録が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のフォトクロミック化合物のいくつかの実施例の化学構造を示す図。
【図2】フォトクロミック化合物A1の合成経路の一部を示す図。
【図3】フォトクロミック化合物A2の合成経路の一部を示す図。
【図4】フォトクロミック化合物A3の合成経路の一部を示す図。
【図5】フォトクロミック化合物A1の吸収スペクトルの変化を示す図。
【図6】フォトクロミック化合物A1の閉環体の発光スペクトルを示す図。
【図7】フォトクロミック化合物A1を追記型光記録分子材料として用いたときのフォトクロミック反応の例を示す図。
【図8】フォトクロミック化合物A2の吸収スペクトルの変化を示す図。
【図9】フォトクロミック化合物A2の閉環体の吸収スペクトルを示す図。
【図10】フォトクロミック化合物A3の吸収スペクトルの変化を示す図。
【図11】フォトクロミック化合物A3の閉環体の発光スペクトルを示す図。
【図12】実施例に係るフォトクロミック化合物のフォトクロミック特性を示す表。
【図13】フォトクロミック化合物を用いた追記型光記録デバイスの構造を示す図。
【図14】本発明のフォトクロミック化合物の閉環量子収率が非常に高く、且つ、閉環量子収率に比べて開環量子収率が低いことを説明するための図。
【図15】比較例のフォトクロミック化合物の構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に本発明のフォトクロミック化合物の具体的な実施例をその化学式(A1)〜(A5)で示す。図1中、Meはメチル基を示すが、以下に示す図では一部、Meを省略している。
化学式(A1)〜(A5)で示されるいずれのフォトクロミック化合物(以下、フォトクロミック化合物A1〜A5と呼ぶ)も紫外光の照射により閉環体に変化する。
【0023】
1.合成方法
フォトクロミック化合物A1〜A5はさまざまな方法により合成可能である。下記に、化合物A1〜A3の合成方法の例を示す。
(1)フォトクロミック化合物A1〈TaTO4-Ph3〉の合成(図2)
褐色ナスフラスコに、4,5-Bis(2,4-dimethyl-5-phenylthiophen-3-yl)-2-phenylthiazole 42mg(78μmol, 1.0eq.)を入れてCH2Cl2 8mlに溶かし、撹拌しながら70% m-Chloroperbenzoic acid(m-CPBA) (東京化成工業株式会社(TCI)製)0.116g(0.470mmol, 6.0eq. )を加え、室温で25時間撹拌した。続いて、反応溶液を水でクエンチし、CH2Cl2で抽出して淡黄色固体を得た。暗室中でカラムクロマトグラフィ[Hexane/EtOAc(4:1)次いでEtOAc]でラフに分け、その8割ほどを順相HPLC[Hexane/EtOAc(75:25)]×7回で単離精製し、その精製物を1H NMR(300MHz; CDCl3),DART-MSで同定した。目的物の収量は36mg、収率は76%であった。
【0024】
(2)フォトクロミック化合物A2〈BDMTFO4-Ph〉の合成(図3)
褐色ナスフラスコに、1,2-Bis(2,4-dimethyl-5-phenylthiophen-3-yl)3,3,4,4,5,5-hexafluorocyclopentene(TCI製)49.55mg(90.32μmol, 1.0eq.)を入れてCH2Cl2 10mlに溶かし、撹拌しながら70% m-Chloroperbenzoic acid(m-CPBA)(TCI製)0.135g(0.547mmol, 6.05eq. )を加え、室温で約2日間撹拌した。続いて、反応溶液を水でクエンチし、CH2Cl2で抽出して淡黄色固体を得た。(暗室中で)カラムクロマトグラフィ[Hexane/EtOAc(4:1)]で2つの成分に分け、それぞれHPLC[Hexane/EtOAc(90:10)]で精製した。得られた2成分をFAB-MS測定した結果、ジオキシド体(580)とテトラオキシド体(612)であることが分かった。ジオキシド体は赤色固体、テトラオキシド体は黄色発光固体であった。
【0025】
(3)フォトクロミック化合物A3〈BDMTFO4-TerPh〉の合成(図4)
褐色ナスフラスコに、1,2-Bis[2,4-dimethy-5-(2,4-diphenylphenyl)thiophen-3-yl]perfluorocyclopentene 50.96mg(59.74μmol, 1.0eq.)を入れてCH2Cl2 2mlに溶かし、撹拌しながら70% m-Chloroperbenzoic acid(m-CPBA)(TCI製)0.151g(0.613mmol, 10.02eq. )を加え、室温で約4日間撹拌した。TCLで原料消失し、ジオキシド体(赤色)とテトラオキシド体(黄色)の生成を確認した。反応溶液を水でクエンチし、CH2Cl2で抽出して黄色のcrude 0.111gを得た。これをカラムクロマトグラフィ[Hexane/EtOAc(4:1)からグラデュエード]でラフに分取し、順相HPLC[Hexane/EtOAc(4:1)]で精製した。
【0026】
2.フォトクロミック特性
上記したフォトクロミック化合物A1〜A3について、種々のフォトクロミック特性を調べた結果を以下に示す。
【0027】
(1)フォトクロミック化合物A1のフォトクロミック特性
図5は2M-THF溶液中におけるフォトクロミック化合物A1の開環体から閉環体への変化に伴う吸収スペクトルの変化を示す。具体的には、化合物A1の開環体に313nmの紫外光を照射し続けた場合の30秒毎の吸収スペクトルの変化を示しており、破線5aは開環体の吸収スペクトルを、太い実線5bは閉環体の吸収スペクトルを示す。その他の細い実線は、化合物A1が開環体から閉環体に変化する過程における吸収スペクトルを示す。図5より、化合物A1は313nmの紫外光を360秒間(30秒×12)照射し続けることにより開環体から閉環体に変化することがわかる。また、フォトクロミック化合物A1は開環体から閉環体に変化することにより吸収スペクトルが長波長側に100nm以上変化していることがわかる。
【0028】
図6はフォトクロミック化合物A1の閉環体の発光スペクトルを示す。図5及び図6から、フォトクロミック化合物A1は、波長300〜400nmの紫外光照射により開環体から閉環体に変化し、波長490nm付近の青緑色光で閉環体を励起することにより波長576nm付近の橙色の光を発することがわかる。
【0029】
従って、化合物A1を追記型光記録分子材料に用いた場合、記録書き込み光として波長300nm〜400nmの紫外光を、記録読み出し光として波長490nmの青緑色光を、検出光として波長576nmの光を用いることができる。しかも、開環体は波長490nmの光を吸収しないことから、記録読み出し光を照射しても開環体が閉環体に変化することがなく、追記型光記録分子材料として有用である。すなわち追記型光記録材料分子として化合物A1は光反応後のスペクトルシフトが大きく、記録書き込み光と記録読み出し光のクロストークを容易に抑制できるという優位性を有している。
なお、化合物A1の閉環体に436nmの光照射を12時間行って蛍光観測を続けた結果、蛍光強度の低下率は1%以下であった。これは436nmの光照射では閉環体が開環体に戻る開環反応が進行しないことを示しており、追記型光記録材料として利用可能であることがわかる。
図7にフォトクロミック化合物A1を追記型光記録分子材料として用いたときのフォトクロミック反応を示す。
【0030】
(2)フォトクロミック化合物A2
図8は2M-THF中におけるフォトクロミック化合物A2の開環体から閉環体への変化に伴う吸収スペクトルの変化を示す。具体的には、化合物A2の開環体に313nmの紫外光を照射し続けた場合の9分毎の吸収スペクトルの変化を示しており、破線8aは開環体の吸収スペクトルを、太い実線8bは閉環体の吸収スペクトルを示す。その他の細い実線は、化合物A2が開環体から閉環体に変化する過程における吸収スペクトルを示す。図8より、化合物A2は313nmの紫外光を81分間(9分×9)照射し続けることにより開環体から閉環体に変化することがわかる。
【0031】
また、フォトクロミック化合物A1と同様、化合物A2も開環体から閉環体に変化することにより吸収スペクトルが長波長側に100nmほど変化していることがわかる。フォトクロミック化合物A2は、波長280〜300nmの紫外光照射により開環体から閉環体に変化し、青紫色光(波長423nm)で閉環体を励起することにより緑色光(波長550nm)の光を発する。しかも、開環体は青紫色光(波長423nm)を吸収しないことから、フォトクロミック化合物A2も追記型光記録分子材料として有用である。
【0032】
図9は化合物A2の閉環体に436nmの光を46時間照射し続けた後、313nmの紫外光を照射した場合の吸収スペクトル変化を示している。図9中、実線9aは化合物A2の閉環体に光を照射する前の吸収スペクトルを、破線9bは436nmの光を46時間照射し続けた場合の吸収スペクトルを示す。また、実線9cは、436nmの光を46時間照射し続けた後、さらに313nmの紫外光を80分間照射した場合の吸収スペクトルを示す。
図9から、化合物A2の閉環体に46時間の光照射を行った後でもおよそ90%の閉環体が残留していることがわかる。また、436nmの光照射に続いて313nmの紫外光を80分間照射した結果、閉環体の吸収スペクトルがほぼ回復していることがわかる。このことから、化合物A2は、436nmの光照射によって光開環反応が進行し、313nmの紫外光照射によって光閉環反応が進行する。光閉環反応の進行速度に比べて光開環反応の進行速度は非常に遅いことから、化合物A2の光開環反応は十分に抑制されていることがわかる。
【0033】
たとえば既存の音楽CD(700MB=8×7×108bit、74分=4440秒)においては1bitの再生に約80×10-8秒(=4440秒÷(56×108bit))を所要することになる。図9の実験結果をみると、化合物A2は46時間の光照射を行っても90%の閉環体が残留していることから、46時間の光記録再生が可能な化合物といえる。従って、1bitあたり46時間の光記録再生が可能な化合物A2を利用した仮想的な光ディスクでは約2×1011回(=46×3600秒÷(80×10-8秒))の記録再生が可能と期待される。これは74分の音楽ディスクを約3千万年間にわたって再生し続けることに対応することから、このような仮想的な音楽ディスクでは記録の再生可能回数に実用上の制限がほぼなくなる。なお、上述の化合物A1の場合には、これを上回る情報保持性能、非破壊記録再生能を有している。
【0034】
(3)フォトクロミック化合物A3
図10は2M-THF中におけるフォトクロミック化合物A3の開環体から閉環体への変化に伴う吸収スペクトルの変化を示す。具体的には、化合物A3の開環体に340nmの紫外光を照射し続けた場合の5秒毎の吸収スペクトルの変化を示しており、破線10aは開環体の吸収スペクトルを、太い実線10bは閉環体の吸収スペクトルを示す。その他の細い実線は、化合物A3が開環体から閉環体に変化する過程における吸収スペクトルを示す。図10より、化合物A3は340nmの紫外光を5秒間照射し続けることにより開環体から閉環体に変化することがわかる。吸収スペクトルの変化を示し、図11はフォトクロミック化合物A3の閉環体の発光スペクトルを示す。フォトクロミック化合物A1と同様、化合物A3も開環体から閉環体に変化することにより吸収スペクトルが長波長側に100nm以上変化していることがわかる。また、フォトクロミック化合物A3は、波長300〜350nmの紫外光照射により開環体から閉環体に変化し、波長445nm付近の青紫色光で閉環体を励起することにより波長550〜560nmの緑色光を発することがわかる。
【0035】
従って、化合物A3を追記型光記録分子材料に用いた場合、記録書き込み光として波長300〜350nmの紫外光を、記録読み出し光として波長445nmの青紫色光を、検出光として波長550〜560nmの緑色光を用いることができる。しかも、開環体は波長445nmの青紫色光を吸収しないことから、フォトクロミック化合物A3も追記型光記録分子材料として有用である。
【0036】
図12にフォトクロミック化合物A1〜A3の閉環体、開環体のモル吸光係数、発光量子収率、反応量子収率をまとめて示す。図12中、閉環体の発光量子収率、開環体の発光量子収率とは、光照射により閉環体から開環体へ変化する割合(収率)、開環体から閉環体に変化する割合(収率)をそれぞれ意味し、開環反応量子収率、閉環反応量子収率と同義である。
なお、図12中、「光反応量子収率」が「測定不能」とあるのは1×10-5以下であることを、着色体の発光波長と量子収率」が「−」とあるのは発光が見られないことを示している。また、「未測定」は、当該化合物についての発光特性の測定を未だ行っていないことを示している。
【0037】
図12から明らかなように、いずれのフォトクロミック化合物A1〜A3も、閉環体の光反応量子収率(開環量子収率)は、開環体の光反応量子収率(閉環量子収率)よりも非常に低く、且つ、2×10-5以下であり、開環体から閉環体に非可逆で変化することがわかる。
また、化合物A1、A3は閉環体の発光量子収率が高いため、追記型光記録分子材料として用いたときに、検出光(閉環体を励起したときの発光)を高感度で検出することができる。
【0038】
3.その他の特性
フォトクロミック化合物A1及びA3は、アモルファスであり、バインダ樹脂材料に分散させなくても薄膜を形成することができる。このような性質により、フォトクロミック化合物A1及びA3は、他の材料を加えることなく単独で追記型光記録デバイスを製造することができる。これに対して、フォトクロミック化合物A2、A4及びA5は、図13に示すように、バインダ樹脂材料1中に分散させて光記録分子材料10とし、これを薄膜成形することで追記型光記録デバイスを製造することができる。
なお、フォトクロミック化合物A1及びA3のみがアモルファス分子となる理由は、これら化合物はフォトクロミック化合物A2及びA4よりもベンゼン環の数が多いためと考えられるが、詳細は不明である。
【0039】
本発明に係るフォトクロミック化合物はいずれも閉環量子収率が非常に高い。その理由を図14を参照しつつ説明する。なお、図14にはフォトクロミック化合物A4のスルホン化前の構造(後述の比較例B5の構造)を示しているが、高い閉環量子収率はスルホン化する前後で変化しない。
図14に示すように、X線構造解析結果から得られたフォトクロミック化合物の開環状態の分子構造では、破線P1及びP2で示した原子間距離はそれぞれ2.95Å、2.69Åであり、ファンデルワールス半径よりも短く、吸引的な相互作用が働いていることがわかる。この相互作用は、開環体のコンフォメーションをフォトクロミック反応に適した構造に固定化する役割を果たす。その結果、破線P3で示す原子間距離は3.5Å程度になり、非常に短い(これは、グラファイトの面間距離3.45Åと同程度である。)。このため、開環状態から閉環状態に変化しやすいと思われる。
【比較例】
【0040】
上記した実施例に係るフォトクロミック化合物A1〜A5との比較のため、既に知られているフォトクロミック化合物の分子構造を開環量子収率及び閉環量子収率と共に図15に示す。いずれの比較例も学術論文等の非特許文献で既に報告されている。そこで、発明者が実際に開環量子収率及び閉環量子収率を測定した化合物B5、B6と区別するために、非特許文献から引用した開環量子収率及び閉環量子収率については、当該非特許文献の名称と共に示した。なお、図15に示す分子構造中、単なる線で示す箇所はメチル基(Me)が結合していることを示す。
【0041】
図15中、式(B1)で示す比較例のフォトクロミック化合物をスルホン化することにより式(B2)で示す比較例のフォトクロミック化合物が得られる。これら比較例の開環量子収率から明らかなように、スルホン化することにより開環量子収率が大きく低下している。一方、スルホン化により閉環量子収率も低下したが、開環量子収率に比べるとその低下率は小さい。
【0042】
式(B3)で示す比較例のフォトクロミック化合物をスルホン化すると実施例のフォトクロミック化合物A1が得られる。このフォトクロミック化合物B3の開環量子収率は0.07であり、一方、実施例のフォトクロミック化合物A1の開環量子収率は1×10-5以下である。従って、この場合もスルホン化により開環量子収率が大きく低下した。
【0043】
式(B4)で示す比較例のフォトクロミック化合物をスルホン化すると実施例のフォトクロミック化合物A2が得られる。このフォトクロミック化合物B4の開環量子収率は0.015であり、一方、実施例のフォトクロミック化合物A2の開環量子収率は2×10-5以下である。従って、この場合もスルホン化により開環量子収率が大きく低下した。
【0044】
式(B5)で示す比較例のフォトクロミック化合物をスルホン化すると実施例のフォトクロミック化合物A4が得られ、式(B6)で示す比較例のフォトクロミック化合物をスルホン化すると実施例のフォトクロミック化合物A5が得られる。これら実施例のフォトクロミック化合物A4及びA5も開環量子収率は未測定であるが、比較例B5及びB6の開環量子収率が0.008、0.007であること、スルホン化により開環量子収率が低下することから、実施例のフォトクロミック化合物A4及びA5の開環量子収率も非常に小さい値を示すことが予想された。
【符号の説明】
【0045】
1…バインダ樹脂材料
10…光記録分子材料
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表されることを特徴とするフォトクロミック化合物。
【化5】
(上記した骨格構造(1)において、Xは、水素、ハロゲン、シアノ基、炭素数が1〜5の直鎖もしくは分岐型アルキル基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、又はCH3COO−から成るグループの中から選択される置換基、Zは五員環(環上に炭素以外の原子を含んでも良い)の脂環式化合物、又は複素芳香族五員環、R1、R2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルコキシ基、ハロゲン元素、シアノ基、又はホルミル基を表す。また、Phはフェニル基を表す。)
【請求項2】
一般式(1)において、Zはインドール、アザインドール、チアゾール、ベンゾチオフェンから成る複素芳香族五員環から選択されることを特徴とする請求項1に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項3】
所定波長の光を照射することによって下記の一般式(1’)
【化6】
で表される閉環体に非可逆で変化することを特徴とする請求項1または2に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項4】
一般式(1’)で表される閉環状態から一般式(1)で表される開環状態への変化について光反応量子収率が 1×10-4 以下であることを特徴とする請求項3に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項5】
一般式(1’)で表される閉環状態の吸収スペクトルが、一般式(1)で表される開環状態の吸収スペクトルよりも長波長側に変位していることを特徴とする請求項3または4に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項6】
一般式(1)で表される開環状態を、一般式(1’)で表される閉環状態へ変化させる光の波長と、一般式(1’)で表される閉環状態に蛍光発光を与える光の波長とが、少なくとも100nm以上の変位があることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載のフォトクロミック化合物。
【請求項7】
記録光の照射により情報が記録され、再生光の照射により前記情報が再生される追記型光記録媒体の記録材料として用いられる追記型光記録分子材料であって、
下記一般式(1)で表される開環体もしくはその閉環体(1’)
【化1】
(上記した骨格構造(1)及び(1’)において、Xは、水素、ハロゲン、シアノ基、炭素数が1〜5の直鎖もしくは分岐型アルキル基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、又はCH3COO−から成るグループの中から選択される置換基、Zは五員環(環上に炭素以外の原子を含んでも良い)の脂環式化合物、又は複素芳香族五員環、R1、R2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルコキシ基、ハロゲン元素、シアノ基、又はホルミル基を表す。また、Phはフェニル基を表す。)
で表され、且つ、前記記録光の照射によって開環体(1)から閉環体(1’)に非可逆で変化し、前記再生光の照射により前記閉環体(1’)が発光するフォトクロミック化合物を含むことを特徴とする追記型光記録分子材料。
【請求項8】
記録光の照射により情報が記録され、再生光の照射により前記情報が再生される表示材料であって、
下記一般式(1)で表される開環体もしくはその閉環体(1’)
【化1】
(上記した骨格構造(1)及び(1’)において、Xは、水素、ハロゲン、シアノ基、炭素数が1〜5の直鎖もしくは分岐型アルキル基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、又はCH3COO−から成るグループの中から選択される置換基、Zは五員環(環上に炭素以外の原子を含んでも良い)の脂環式化合物、又は複素芳香族五員環、R1、R2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルコキシ基、ハロゲン元素、シアノ基、又はホルミル基を表す。また、Phはフェニル基を表す。)
で表され、且つ、前記記録光の照射によって開環体(1)から閉環体(1’)に非可逆で変化し、前記再生光の照射により前記閉環体(1’)が発光するフォトクロミック化合物および樹脂材料を含む表示材料。
【請求項9】
記録光の照射により情報が記録され、再生光の照射により前記情報が再生される蛍光ラベル材料であって、
下記一般式(1)で表される開環体もしくはその閉環体(1’)
【化1】
(上記した骨格構造(1)及び(1’)において、Xは、水素、ハロゲン、シアノ基、炭素数が1〜5の直鎖もしくは分岐型アルキル基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、又はCH3COO−から成るグループの中から選択される置換基、Zは五員環(環上に炭素以外の原子を含んでも良い)の脂環式化合物、又は複素芳香族五員環、R1、R2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルコキシ基、ハロゲン元素、シアノ基、又はホルミル基を表す。また、Phはフェニル基を表す。)
で表され、且つ、前記記録光の照射によって開環体(1)から閉環体(1’)に非可逆で変化し、前記再生光の照射により前記閉環体(1’)が発光するフォトクロミック化合物を含むことを特徴とする蛍光ラベル材料。
【請求項1】
下記の一般式(1)で表されることを特徴とするフォトクロミック化合物。
【化5】
(上記した骨格構造(1)において、Xは、水素、ハロゲン、シアノ基、炭素数が1〜5の直鎖もしくは分岐型アルキル基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、又はCH3COO−から成るグループの中から選択される置換基、Zは五員環(環上に炭素以外の原子を含んでも良い)の脂環式化合物、又は複素芳香族五員環、R1、R2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルコキシ基、ハロゲン元素、シアノ基、又はホルミル基を表す。また、Phはフェニル基を表す。)
【請求項2】
一般式(1)において、Zはインドール、アザインドール、チアゾール、ベンゾチオフェンから成る複素芳香族五員環から選択されることを特徴とする請求項1に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項3】
所定波長の光を照射することによって下記の一般式(1’)
【化6】
で表される閉環体に非可逆で変化することを特徴とする請求項1または2に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項4】
一般式(1’)で表される閉環状態から一般式(1)で表される開環状態への変化について光反応量子収率が 1×10-4 以下であることを特徴とする請求項3に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項5】
一般式(1’)で表される閉環状態の吸収スペクトルが、一般式(1)で表される開環状態の吸収スペクトルよりも長波長側に変位していることを特徴とする請求項3または4に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項6】
一般式(1)で表される開環状態を、一般式(1’)で表される閉環状態へ変化させる光の波長と、一般式(1’)で表される閉環状態に蛍光発光を与える光の波長とが、少なくとも100nm以上の変位があることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載のフォトクロミック化合物。
【請求項7】
記録光の照射により情報が記録され、再生光の照射により前記情報が再生される追記型光記録媒体の記録材料として用いられる追記型光記録分子材料であって、
下記一般式(1)で表される開環体もしくはその閉環体(1’)
【化1】
(上記した骨格構造(1)及び(1’)において、Xは、水素、ハロゲン、シアノ基、炭素数が1〜5の直鎖もしくは分岐型アルキル基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、又はCH3COO−から成るグループの中から選択される置換基、Zは五員環(環上に炭素以外の原子を含んでも良い)の脂環式化合物、又は複素芳香族五員環、R1、R2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルコキシ基、ハロゲン元素、シアノ基、又はホルミル基を表す。また、Phはフェニル基を表す。)
で表され、且つ、前記記録光の照射によって開環体(1)から閉環体(1’)に非可逆で変化し、前記再生光の照射により前記閉環体(1’)が発光するフォトクロミック化合物を含むことを特徴とする追記型光記録分子材料。
【請求項8】
記録光の照射により情報が記録され、再生光の照射により前記情報が再生される表示材料であって、
下記一般式(1)で表される開環体もしくはその閉環体(1’)
【化1】
(上記した骨格構造(1)及び(1’)において、Xは、水素、ハロゲン、シアノ基、炭素数が1〜5の直鎖もしくは分岐型アルキル基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、又はCH3COO−から成るグループの中から選択される置換基、Zは五員環(環上に炭素以外の原子を含んでも良い)の脂環式化合物、又は複素芳香族五員環、R1、R2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルコキシ基、ハロゲン元素、シアノ基、又はホルミル基を表す。また、Phはフェニル基を表す。)
で表され、且つ、前記記録光の照射によって開環体(1)から閉環体(1’)に非可逆で変化し、前記再生光の照射により前記閉環体(1’)が発光するフォトクロミック化合物および樹脂材料を含む表示材料。
【請求項9】
記録光の照射により情報が記録され、再生光の照射により前記情報が再生される蛍光ラベル材料であって、
下記一般式(1)で表される開環体もしくはその閉環体(1’)
【化1】
(上記した骨格構造(1)及び(1’)において、Xは、水素、ハロゲン、シアノ基、炭素数が1〜5の直鎖もしくは分岐型アルキル基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、又はCH3COO−から成るグループの中から選択される置換基、Zは五員環(環上に炭素以外の原子を含んでも良い)の脂環式化合物、又は複素芳香族五員環、R1、R2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルコキシ基、ハロゲン元素、シアノ基、又はホルミル基を表す。また、Phはフェニル基を表す。)
で表され、且つ、前記記録光の照射によって開環体(1)から閉環体(1’)に非可逆で変化し、前記再生光の照射により前記閉環体(1’)が発光するフォトクロミック化合物を含むことを特徴とする蛍光ラベル材料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−56861(P2012−56861A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200091(P2010−200091)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【Fターム(参考)】
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