説明

フォトクロミック化合物

【課題】実用的な発色濃度を有する新規なフォトクロミック化合物の提供。
【解決手段】式(1)で表されるシクロファンジアルデヒドと式(2)で表されるベンジル誘導体


とを反応させ、その後に酸化反応させることで得られる、アルキレンジカルコゲン置換基を導入したフェニル基を有するパラシクロファンタイプの化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、サングラスや光変調素子をはじめとする光学材料や、記録材料や表示体などのデバイス用材料や、表示・非表示や発色・消色の切り替えが可能なインクやコート剤などの印刷材料に使用することができるフォトクロミック化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
光を照射することで色(可視光の透過率)を変化させる機能を持つフォトクロミック材料は、まぶしさを防ぐためのメガネや、光スイッチ、または表示・非表示の切り替え機能を有するインクなどの表示材料として利用される。また、光ディスクなどの記録材料やホログラムとしての応用も研究されている。
【0003】
フォトクロミック材料による色の変化は光照射によるフォトクロミック化合物の可逆的な化学変化によって発現される。ここでは、この光照射による色の変化を調光機能と呼ぶ。代表的なフォトクロミック化合物としては、スピロピラン系化合物、スピロオキサジン系化合物、ナフトピラン系化合物、フルギド系化合物およびジアリールエテン系化合物などが挙げられ、さまざまな用途に用いられてきた。しかしながら調光機能にはその用途に適した色や発色濃度や発色速度などの特性が求められるため、様々な誘導体や新しい分子骨格を有する化合物が開発され続けている。
【0004】
こうした状況の中で本発明者らは、非特許文献1(第1世代HABI)および非特許文献2(第2世代HABI)に示すように、消色反応が極めて速く、発色体の半減期がミリ秒単位と短時間であるラジカル散逸抑制型フォトクロミック化合物を開発した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Physical Organic Chemistry 20, pp857-863 (2007)
【非特許文献2】Journal of the American Chemical Society 131(12), pp4227-4229 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記第2世代HABIであるフォトクロミック化合物は、下記一般式(A)で表される。
【化3】

(式(A)中、Ar〜Arは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアリール基である。)
【0007】
このフォトクロミック化合物に励起光を照射すると、2つのイミダゾール環を結合する炭素−窒素結合が切れてイミダゾールビラジカルが生成する。このイミダゾールビラジカル体をここでは単にビラジカルと呼ぶ。このビラジカルが発色体の本質であり、ビラジカルが再結合して再び炭素−窒素結合が回復することで消色体に戻る。2つのイミダゾール環はパラシクロファン骨格で連結されているが、そのことによってビラジカルが散逸することを防ぐ。この仕組みを表して上記フォトクロミック化合物をラジカル散逸抑制型フォトクロミック化合物という。
【0008】
上記ラジカル散逸抑制型フォトクロミック化合物は、発色体がビラジカルであるために、発色体の寿命(ここではその半減期を寿命とする)がミリ秒単位と短時間であることが特徴である。また発色体の寿命は、言いかえると消色体への反応速度であり、上記フォトクロミック化合物は消色体への反応速度が速い化合物である。消色体への反応速度が速すぎると、発色体の存在比が少なくなり、発色濃度が低くなってしまい透過率が上昇してしまうために、用途に適した発色濃度にする方法が求められている。
【0009】
例えばサングラス用途では高い発色濃度が求められるが、上記フォトクロミック化合物をサングラス用途として用いた場合では、化合物に励起光が当たって発色体となっても消色体へ戻る時間がミリ秒単位と極めて短いため発色体が蓄積せず発色濃度が低くなってしまう(色づきにくい)。そこで発色濃度を向上させるため、または所望の発色濃度を実現する方法が必要となる。
【0010】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、用途に応じた実用的な発色濃度を有するフォトクロミック化合物を開発するべく、発色濃度向上のための分子設計方法およびこの方法によって作製されたフォトクロミック化合物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために、フォトクロミック化合物の発色濃度向上について鋭意検討を進めた。その結果、発色濃度を高くする方法として、下記一般式(I)で表されるアルキレンジカルコゲン置換基を導入したフェニル基を有する化合物を使用することで、このような置換基のない化合物や単純にアルキルカルコゲン基が導入された化合物よりも発色濃度が向上することを見出した。
【0012】
【化4】

(式(I)中、Arは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいフェニル基を表し、Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキレン鎖を表し、Xは、それぞれ独立して、酸素、硫黄またはセレンを表し、ただしRがメチレン鎖またはモノアルキル置換メチレン鎖のときXは酸素である。)
【0013】
すなわち本発明はフォトクロミック化合物の発色濃度を向上するための分子設計方法であって、またその設計方法によって設計されたフォトクロミック化合物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明が提供する分子設計方法は、シクロファン骨格を有する上記一般式(I)で表されるフォトクロミック化合物に示すように、アルキレンジカルコゲン置換基を導入したフェニル基を有することにより、発色濃度を高くすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】フォトクロミック化合物(I−1)の紫外可視吸収スペクトル
【図2】フォトクロミック化合物(I−2)の紫外可視吸収スペクトル
【図3】フォトクロミック化合物(I−3)の紫外可視吸収スペクトル
【図4】フォトクロミック化合物(A−1)の紫外可視吸収スペクトル
【図5】フォトクロミック化合物(A−2)の紫外可視吸収スペクトル
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の分子設計方法によって発色濃度を高くしたフォトクロミック化合物は、上記一般式(I)で表されるフォトクロミック化合物に示すように、アルキレンジカルコゲン置換基を導入したフェニル基を備えることで発色濃度を高くするものである。
【0017】
上記式(I)において、Arは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいフェニル基を表し、2つのArは同じであっても異なっていてもよいが、合成上の容易さを考慮すれば同じであることが好ましい。フェニル基に置換基がある場合には、この置換基としてはアルキレンジカルコゲン基、アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキル基、ヒドロキシル基、ハロゲン基、シアノ基またはニトロ基などが例示できる。
【0018】
これらの置換基の置換位置については、アルキレンジカルコゲン基の場合には、フェニル基の2位と3位、または3位と4位(なお、イミダゾール環への結合位置を1位とする)にまたがって環状に結合している例が挙げられ、特に3位と4位への結合が好ましい。また、アルキレンジカルコゲン基以外の置換基の置換位置については、フェニル基のパラ位が好ましく、1つの環に2つの置換基が結合する場合にはメタ位とパラ位が好ましい。
【0019】
アルキレンジカルコゲン基としては、具体的には後述するものと同じものが挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシ、またはヘキシルオキシなどが好ましい。アルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジプロピルアミノ、またはジブチルアミノなどが好ましい。アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、またはブチルなどが好ましい。
【0020】
次に、上記式(I)または式(II)におけるアルキレンジカルコゲン基(各式中で示された−X−R−X−基、またはArの選択肢である−X−R−X−基)について説明する。
【0021】
Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキレン鎖を表すが、アルキレン鎖として具体的には、メチレン鎖、エチレン鎖、プロピレン鎖、またはブチレン鎖などが挙げられ、これらは、メチル、エチル、プロピルまたはブチルなどで置換されていてもよい。Xは、それぞれ独立して、酸素、硫黄またはセレンを表し、同じフェニル基に結合する2つのXは同じ元素であっても異なる元素であってもよいが、同じであることが好ましい。
【0022】
−X−R−X−基としては、メチレンジオキシ、エチレンジオキシ、プロピレンジオキシ、メチレンジチオ、エチレンジチオ、プロピレンジチオ、メチレンジセレノ、エチレンジセレノ、またはプロピレンジセレノなどが挙げられ、メチレンジオキシ、エチレンジオキシ、またはエチレンジチオなどが好ましい。
【0023】
また、同じイミダゾール環に関連するアルキレンジカルコゲン基が2つ存在する場合(すなわち、式(I)のArがアルキレンジカルコゲン基の場合)、これら2つのアルキレンジカルコゲン基は同じ構造であっても異なる構造であってもよいが、同じ構造であることが好ましい。さらに、1つのフォトクロミック分子中にアルキレンジカルコゲン基が4つ存在する場合、これら4つのアルキレンジカルコゲン基は同じ構造であっても異なる構造であってもよいが、同じ構造であることが好ましい。
【0024】
このようなフォトクロミック化合物は、下記式(1)で表されるシクロファンジアルデヒドと下記式(2)で表されるベンジル誘導体とを反応させ、その後に酸化反応させることで得られる。
【0025】
【化5】

(式(2)中、Arは置換基を有していてもよいフェニル基を表し、Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキレン鎖を表し、Xは、それぞれ独立して、酸素、硫黄またはセレンを表し、ただしRがメチレン鎖またはモノアルキル置換メチレン鎖のときXは酸素である。)
【0026】
本発明の発色濃度を高くするフォトクロミック化合物を製造する際に使用するベンジル誘導体は、例えばベンゼン環上に1つ以上のアルキレンジカルコゲン置換基を有し、そのうちの少なくとも1つが3,4置換(なお、イミダゾール環への結合位置を1位とする)であることが好ましい。
【0027】
ベンジル誘導体の例(2−1)
【化6】

【0028】
ベンジル誘導体の例(2−1)としては、例えば、Xが酸素である、3,4−メチレンジオキシベンジル、3,4−(モノメチルメチレンジオキシ)ベンジル、3,4−(ジメチルメチレンジオキシ)ベンジル、3,4−エチレンジオキシベンジル、3,4−プロピレンジオキシベンジル、3,4−ブチレンジオキシベンジル、3,4,3’,4’−ビス(メチレンジオキシ)ベンジル、3,4,3’,4’−ビス(モノメチルメチレンジオキシ)ベンジル、3,4,3’,4’−ビス(ジメチルメチレンジオキシ)ベンジル、3,4,3’,4’−ビス(エチレンジオキシ)ベンジル、3,4,3’,4’−ビス(プロピレンジオキシ)ベンジル、3,4,3’,4’−ビス(ブチレンジオキシ)ベンジル;Xが硫黄である、3,4−(ジメチルメチレンジチオ)ベンジル、3,4−エチレンジチオベンジル、3,4−プロピレンジチオベンジル、3,4−ブチレンジチオベンジル、3,4,3’,4’−ビス(ジメチルメチレンジチオ)ベンジル、3,4,3’,4’−ビス(エチレンジチオ)ベンジル、3,4,3’,4’−ビス(プロピレンジチオ)ベンジル、3,4,3’,4’−ビス(ブチレンジチオ)ベンジル;Xがセレンである、3,4−(ジメチルメチレンジセレノ)ベンジル、3,4−エチレンジセレノベンジル、3,4−プロピレンジセレノベンジル、3,4−ブチレンジセレノベンジル、3,4,3’,4’−ビス(ジメチルメチレンジセレノ)ベンジル、3,4,3’,4’−ビス(エチレンジセレノ)ベンジル、3,4,3’,4’−ビス(プロピレンジセレノ)ベンジル、3,4,3’,4’−ビス(ブチレンジセレノ)ベンジルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
ベンジル誘導体の例(2−2)
【化7】

【0030】
ベンジル誘導体の例(2−2)としては、Xが共に酸素であるがRがそれぞれ異なる、3,4−メチレンジオキシ−3’,4’−(モノメチルメチレンジオキシ)ベンジル、3,4−メチレンジオキシ−3’,4’−(ジメチルメチレンジオキシ)ベンジル、3,4−メチレンジオキシ−3’,4’−エチレンジオキシベンジル、3,4−メチレンジオキシ−3’,4’−プロピレンジオキシベンジル、3,4−メチレンジオキシ−3’,4’−ブチレンジオキシベンジル、3,4−(モノメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−(ジメチルメチレンジオキシ)ベンジル、3,4−(モノメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−エチレンジオキシベンジル、3,4−(モノメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−プロピレンジオキシベンジル、3,4−(モノメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−ブチレンジオキシベンジル、3,4−(ジメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−エチレンジオキシベンジル、3,4−(ジメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−プロピレンジオキシベンジル、3,4−(ジメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−ブチレンジオキシベンジル、3,4−エチレンジオキシ−3’,4’−プロピレンジオキシベンジル、3,4−エチレンジオキシ−3’,4’−ブチレンジオキシベンジル、3,4−プロピレンジオキシ−3’,4’−ブチレンジオキシベンジルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
ベンジル誘導体の例(2−3)
【化8】

【0032】
ベンジル誘導体の例(2−3)としては、一方のXが酸素で他方のXが硫黄でありRがそれぞれ同じかまたは異なる、3,4−メチレンジオキシ−3’,4’−(ジメチルメチレンジチオ)ベンジル、3,4−メチレンジオキシ−3’,4’−エチレンジチオベンジル、3,4−メチレンジオキシ−3’,4’−プロピレンジチオベンジル、3,4−メチレンジオキシ−3’,4’−ブチレンジチオベンジル、3,4−(モノメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−(ジメチルメチレンジチオ)ベンジル、3,4−(モノメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−エチレンジチオベンジル、3,4−(モノメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−プロピレンジチオベンジル、3,4−(モノメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−ブチレンジチオベンジル、3,4−(ジメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−(ジメチルメチレンジチオ)、3,4−(ジメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−エチレンジチオベンジル、3,4−(ジメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−プロピレンジチオベンジル、3,4−(ジメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−ブチレンジチオベンジル、3,4−エチレンジオキシ−3’,4’−(ジメチルメチレンジチオ)ベンジル、3,4−エチレンジオキシ−3’,4’−エチレンジチオベンジル、3,4−エチレンジオキシ−3’,4’−プロピレンジチオベンジル、3,4−エチレンジオキシ−3’,4’−ブチレンジチオベンジル、3,4−プロピレンジオキシ−3’,4’−(ジメチルメチレンジチオ)ベンジル、3,4−プロピレンジオキシ−3’,4’−エチレンジチオベンジル、3,4−プロピレンジオキシ−3’,4’−プロピレンジチオベンジル、3,4−プロピレンジオキシ−3’,4’−ブチレンジチオベンジル、3,4−ブチレンジオキシ−3’,4’−(ジメチルメチレンジチオ)ベンジル、3,4−ブチレンジオキシ−3’,4’−エチレンジチオベンジル、3,4−ブチレンジオキシ−3’,4’−プロピレンジチオベンジル、3,4−ブチレンジオキシ−3’,4’−ブチレンジチオベンジルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
ベンジル誘導体の例(2−4)
【化9】

【0034】
ベンジル誘導体の例(2−4)としては、一方のXが酸素で他方のXがセレンでありRがそれぞれ同じかまたは異なる、3,4−メチレンジオキシ−3’,4’−(ジメチルメチレンジセレノ)ベンジル、3,4−メチレンジオキシ−3’,4’−エチレンジセレノベンジル、3,4−メチレンジオキシ−3’,4’−プロピレンジセレノベンジル、3,4−メチレンジオキシ−3’,4’−ブチレンジセレノベンジル、3,4−(モノメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−(ジメチルメチレンジセレノ)ベンジル、3,4−(モノメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−エチレンジセレノベンジル、3,4−(モノメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−プロピレンジセレノベンジル、3,4−(モノメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−ブチレンジセレノベンジル、3,4−(ジメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−(ジメチルメチレンジセレノ)、3,4−(ジメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−エチレンジセレノベンジル、3,4−(ジメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−プロピレンジセレノベンジル、3,4−(ジメチルメチレンジオキシ)−3’,4’−ブチレンジセレノベンジル、3,4−エチレンジオキシ−3’,4’−(ジメチルメチレンジセレノ)ベンジル、3,4−エチレンジオキシ−3’,4’−エチレンジセレノベンジル、3,4−エチレンジオキシ−3’,4’−プロピレンジセレノベンジル、3,4−エチレンジオキシ−3’,4’−ブチレンジセレノベンジル、3,4−プロピレンジオキシ−3’,4’−(ジメチルメチレンジセレノ)ベンジル、3,4−プロピレンジオキシ−3’,4’−エチレンジセレノベンジル、3,4−プロピレンジオキシ−3’,4’−プロピレンジセレノベンジル、3,4−プロピレンジオキシ−3’,4’−ブチレンジセレノベンジル、3,4−ブチレンジオキシ−3’,4’−(ジメチルメチレンジセレノ)ベンジル、3,4−ブチレンジオキシ−3’,4’−エチレンジセレノベンジル、3,4−ブチレンジオキシ−3’,4’−プロピレンジセレノベンジル、3,4−ブチレンジオキシ−3’,4’−ブチレンジセレノベンジルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
ベンジル誘導体の例(2−5)
【化10】

【0036】
ベンジル誘導体の例(2−5)としては、Xが共に硫黄であるがRがそれぞれ異なる、3,4−(ジメチルメチレンジチオ)−3’,4’−エチレンジチオベンジル、3,4−(ジメチルメチレンジチオ)−3’,4’−プロピレンジチオベンジル、3,4−(ジメチルメチレンジチオ)−3’,4’−ブチレンジチオベンジル、3,4−エチレンジチオ−3’,4’−プロピレンジチオベンジル、3,4−エチレンジチオ−3’,4’−ブチレンジチオベンジル、3,4−プロピレンジチオ−3’,4’−ブチレンジチオベンジルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
ベンジル誘導体の例(2−6)
【化11】

【0038】
ベンジル誘導体の例(2−6)としては、一方のXが硫黄で他方のXがセレンでありRがそれぞれ同じかまたは異なる、3,4−(ジメチルメチレンジチオ)−3’,4’−(ジメチルメチレンジセレノ)、3,4−(ジメチルメチレンジチオ)−3’,4’−エチレンジセレノベンジル、3,4−(ジメチルメチレンジチオ)−3’,4’−プロピレンジセレノベンジル、3,4−(ジメチルメチレンジチオ)−3’,4’−ブチレンジセレノベンジル、3,4−エチレンジチオ−3’,4’−(ジメチルメチレンジセレノ)ベンジル、3,4−エチレンジチオ−3’,4’−エチレンジセレノベンジル、3,4−エチレンジチオ−3’,4’−プロピレンジセレノベンジル、3,4−エチレンジチオ−3’,4’−ブチレンジセレノベンジル、3,4−プロピレンジチオ−3’,4’−(ジメチルメチレンジセレノ)ベンジル、3,4−プロピレンジチオ−3’,4’−エチレンジセレノベンジル、3,4−プロピレンジチオ−3’,4’−プロピレンジセレノベンジル、3,4−プロピレンジチオ−3’,4’−ブチレンジセレノベンジル、3,4−ブチレンジチオ−3’,4’−(ジメチルメチレンジセレノ)ベンジル、3,4−ブチレンジチオ−3’,4’−エチレンジセレノベンジル、3,4−ブチレンジチオ−3’,4’−プロピレンジセレノベンジル、3,4−ブチレンジチオ−3’,4’−ブチレンジセレノベンジルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
ベンジル誘導体の例(2−7)
【化12】

【0040】
ベンジル誘導体の例(2−7)としては、Xが共にセレンであるがRがそれぞれ異なる、3,4−(ジメチルメチレンジセレノ)−3’,4’−エチレンジセレノベンジル、3,4−(ジメチルメチレンジセレノ)−3’,4’−プロピレンジセレノベンジル、3,4−(ジメチルメチレンジセレノ)−3’,4’−ブチレンジセレノベンジル、3,4−エチレンジセレノ−3’,4’−プロピレンジセレノベンジル、3,4−エチレンジセレノ−3’,4’−ブチレンジセレノベンジル、3,4−プロピレンジセレノ−3’,4’−ブチレンジセレノベンジルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
アルキレンジオキシ基、アルキレンジチオ基またはアルキレンジセレノ基の数は、1つのベンジル誘導体分子中に1つ以上であれば特に制限はない。また、フェニル基への置換位置として、2,3置換ではフォトクロミック分子中で立体反発を生じることがあるため、3,4位に置換した構造が好ましい。なお、メチレンジチオ基およびメチレンジセレノ基は空気中で容易に酸化されて1,3−ジチオニウムカチオン及び1,3−ジセレニウムカチオンになるため、安定な化合物として得られにくいものもある。しかしながら、このような安定性が弱い化合物であっても、不活性雰囲気下で扱うなどの工夫をすればよい。
【実施例】
【0042】
以下、本発明について実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。
【0043】
原料として、パラシクロファンジアルデヒド、3,3’,4,4’−ビス(メチレンジオキシ)ベンジル、3,3’,4,4’−ビス(エチレンジオキシ)ベンジル、3,3’,4,4’−ビス(エチレンジチオ)ベンジルは合成したものを用い、4,4’−ジメトキシベンジル、酢酸アンモニウムおよび酢酸、フェリシアンカリウム、水酸化カリウムは市販の試薬(東京化成工業株式会社製)を用いた。
【0044】
まず、パラシクロファンジアルデヒドは、公知の合成方法(Chemische Berichte 120, 1825-1828(1987)など)を参考にして得た。
【0045】
次に、3,3’,4,4’−ビス(メチレンジオキシ)ベンジルは、対応する3,4−メチレンジオキシベンズアルデヒドを原料としたピナコールカップリング反応及び一般的なスワン酸化反応によって得た。また、その他のベンジル誘導体も同様の方法を用いて得た。
【0046】
<合成例1>
パラシクロファンジアルデヒド150mgと3,3’,4,4’−ビス(メチレンジオキシ)ベンジル355mgと酢酸アンモニウム1310mgと酢酸5.5mlを混合し、110℃のオイルバスで40時間加熱攪拌を行い反応させた後に、28%アンモニア水11.0mlを加えて固体を析出させながら中和して、析出した固体を水洗浄後にろ過して、これを真空乾燥機で乾燥した。乾燥した固体をシリカゲルカラムで分離精製した後に、溶媒を濃縮して下記構造を有する中間体(I−1’)を386mg得た。NMRの分析によって中間体(I−1’)の生成を確認した。
【0047】
【化13】

【0048】
上記の中間体(I−1’)230mgをベンゼン75mlに溶解させ、この溶液に、フェリシアンカリウム6.51gと水酸化カリウム2.89gを60mlの水に溶解させた溶液を窒素下遮光条件で加えて、室温で2時間撹拌して反応させた後に水層を分離してベンゼンで抽出し、溶媒を濃縮して再結晶を行い、下記構造を有するフォトクロミック化合物(I−1)を141mg得た。NMRの分析によってフォトクロミック化合物(I−1)の生成を確認した。
【0049】
【化14】

【0050】
<合成例2>
パラシクロファンジアルデヒド70mgと3,3’,4,4’−ビス(エチレンジオキシ)ベンジル190mgと酢酸アンモニウム650mgと酢酸3.0mlを混合し、110℃のオイルバスで22時間加熱攪拌を行い反応させた後に、28%アンモニア水6.0mlを加えて固体を析出させながら中和して、析出した固体を水洗浄後にろ過して、これを真空乾燥機で乾燥した。乾燥した固体をシリカゲルカラムで分離精製した後に、溶媒を濃縮して下記構造を有する中間体(I−2’)を191mg得た。NMRの分析によって中間体(I−2’)の生成を確認した。
【0051】
【化15】

【0052】
上記の中間体(I−2’)120mgをベンゼン25mlに溶解させ、この溶液に、フェリシアンカリウム3.46gと水酸化カリウム1.54gを20mlの水に溶解させた溶液を窒素下遮光条件で加えて、室温で2時間撹拌して反応させた後に水層を分離してベンゼンで抽出し、溶媒を濃縮して再結晶を行い、下記構造を有するフォトクロミック化合物(I−2)を107mg得た。NMRの分析によってフォトクロミック化合物(I−2)の生成を確認した。
【0053】
【化16】

【0054】
<合成例3>
パラシクロファンジアルデヒド65mgと3,3’,4,4’−ビス(エチレンジチオ)ベンジル200mgと酢酸アンモニウム530mgと酢酸2.5mlを混合し、120℃のオイルバスで22時間加熱攪拌を行い反応させた後に、28%アンモニア水5.0mlを加えて固体を析出させながら中和して、析出した固体を水洗浄後にろ過して、これを真空乾燥機で乾燥した。乾燥した固体をシリカゲルカラムで分離精製した後に、溶媒を濃縮して下記構造を有する中間体(I−3’)を155mg得た。NMRの分析によって中間体(I−3’)の生成を確認した。
【0055】
【化17】

【0056】
上記の中間体(I−3’)60mgを塩化メチレン10mlに溶解させ、この溶液に、フェリシアンカリウム1.51gと水酸化カリウム0.67gを15mlの水に溶解させた溶液を窒素下遮光条件で加えて、室温で2時間撹拌して反応させた後に水層を分離して塩化メチレンで抽出し、溶媒を濃縮して再結晶を行い、下記構造を有するフォトクロミック化合物(I−3)を56mg得た。NMRの分析によってフォトクロミック化合物(I−3)の生成を確認した。
【0057】
【化18】

【0058】
<合成例4>
パラシクロファンジアルデヒド152mgと4,4’−ジメトキシベンジル336mgと酢酸アンモニウム1330mgと酢酸5.5mlを混合し、110℃のオイルバスで17時間加熱攪拌を行い反応させた後に、28%アンモニア水10.0mlを加えて固体を析出させながら中和して、析出した固体を水洗浄後にろ過して、これを真空乾燥機で乾燥した。乾燥した固体をシリカゲルカラムで分離精製した後に、溶媒を濃縮して下記構造を有する中間体(A−1’)を465mg得た。NMRの分析によって中間体(A−1’)の生成を確認した。
【0059】
【化19】

【0060】
上記の中間体(A−1’)230mgをベンゼン75mlに溶解させ、この溶液に、フェリシアンカリウム6.51gと水酸化カリウム2.91gを60mlの水に溶解させた溶液を窒素下遮光条件で加えて、室温で2時間撹拌して反応させた後に水層を分離してベンゼンで抽出し、溶媒を濃縮して固体を析出させた。析出した固体をエタノールに溶解させて再結晶を行い、下記構造を有するフォトクロミック化合物(A−1)を180mg得た。NMRの分析によってフォトクロミック化合物(A−1)の生成を確認した。
【0061】
【化20】

【0062】
<合成例5>
下記構造を有する、フェニル基が無置換のフォトクロミック化合物(A−2)は、関東化学株式会社製の試薬を用いた。
【0063】
【化21】

【0064】
<発色濃度の測定>
評価方法として、フォトクロミック化合物の発色濃度は、2.0×10−4Mに調整したベンゼン溶液に波長365nmの励起光を照射し、可視光領域で最も透過率変化の大きな波長の透過率を観測する紫外可視吸収スペクトル分析によって発色体の発色濃度測定を行った。
【0065】
<実施例1>
合成例1で合成したフォトクロミック化合物(I−1)を用いて2.0×10−4Mのベンゼン溶液を調製した。この溶液を四面石英セルに入れ365nmの励起光を照射し、可視光領域で最も透過率変化の大きな波長の透過率を観測する紫外可視吸収スペクトル分析によって発色体の発色濃度を測定した結果、発色体の最大吸収波長632nmの透過率は56%まで低下した(消色体は透過率93%)。
【0066】
<実施例2>
合成例2で合成したフォトクロミック化合物(I−2)を用いて2.0×10−4Mのベンゼン溶液を調製した。この溶液を四面石英セルに入れ365nmの励起光を照射し、可視光領域で最も透過率変化の大きな波長の透過率を観測する紫外可視吸収スペクトル分析によって発色体の発色濃度を測定した結果、発色体の最大吸収波長619nmの透過率は66%まで低下した(消色体は透過率93%)。
【0067】
<実施例3>
合成例3で合成したフォトクロミック化合物(I−3)を用いて2.0×10−4Mのベンゼン溶液を調製した。この溶液を四面石英セルに入れ365nmの励起光を照射し、可視光領域で最も透過率変化の大きな波長の透過率を観測する紫外可視吸収スペクトル分析によって発色体の発色濃度を測定した結果、発色体の最大吸収波長666nmの透過率は58%まで低下した(消色体は透過率93%)。
【0068】
<参考例1>
合成例4で合成したフォトクロミック化合物(A−1)を用いて2.0×10−4Mのベンゼン溶液を調製した。この溶液を四面石英セルに入れ365nmの励起光を照射し、可視光領域で最も透過率変化の大きな波長の透過率を観測する紫外可視吸収スペクトル分析によって発色体の発色濃度を測定した結果、発色体の最大吸収波長603nmの透過率は73%まで低下した(消色体は透過率93%)。
【0069】
<参考例2>
合成例5で用意したフォトクロミック化合物(A−2)(関東化学株式会社製の試薬)を用いて2.0×10−4Mのベンゼン溶液を調製した。この溶液を四面石英セルに入れ365nmの励起光を照射し、可視光領域で最も透過率変化の大きな波長の透過率を観測する紫外可視吸収スペクトル分析によって発色体の発色濃度を測定した結果、発色体の最大吸収波長593nmの透過率は92%まで低下した(消色体は透過率93%)。
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示すように、アルキレンジカルコゲン置換基を導入した、一般式(I)で表されるフォトクロミック化合物は、置換基のない化合物や単純にアルコキシ基が導入された化合物よりも発色濃度が向上していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明により、フォトクロミック化合物の発色濃度を効果的に向上させる方法が示された。この方法によって分子を設計し、それを合成することで発色濃度が調節されたフォトクロミック化合物の提供が可能である。このフォトクロミック化合物は、光スイッチやサングラスまたは印刷材料などに使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるフォトクロミック化合物。
【化1】

(式(I)中、Arは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいフェニル基を表し、Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキレン鎖を表し、Xは、それぞれ独立して、酸素、硫黄またはセレンを表し、ただしRがメチレン鎖またはモノアルキル置換メチレン鎖のときXは酸素である。)
【請求項2】
下記一般式(II)で表される、請求項1に記載のフォトクロミック化合物。
【化2】

(式(II)中、Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキレン鎖を表し、Xは、それぞれ独立して、酸素、硫黄またはセレンを表し、ただしRがメチレン鎖またはモノアルキル置換メチレン鎖のときXは酸素である。)
【請求項3】
前記式(I)または式(II)において、Rが、置換基を有していてもよい、メチレン鎖、エチレン鎖、またはプロピレン鎖である、請求項1または2に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項4】
前記式(I)または式(II)において、Rが、モノメチル、モノエチル、ジメチル、またはジエチルで置換されていてもよい、メチレン鎖、エチレン鎖、またはプロピレン鎖である、請求項1〜3のいずれかに記載のフォトクロミック化合物。
【請求項5】
前記式(I)または式(II)において、同じフェニル基に結合する2つのXが同じである、請求項1〜4のいずれかに記載のフォトクロミック化合物。
【請求項6】
前記式(I)または式(II)において、−X−R−X−基がメチレンジオキシ基である、請求項1〜5のいずれかに記載のフォトクロミック化合物。
【請求項7】
前記式(I)または式(II)において、−X−R−X−基がエチレンジオキシ基である、請求項1〜5のいずれかに記載のフォトクロミック化合物。
【請求項8】
前記式(I)または式(II)において、−X−R−X−基がエチレンジチオ基である、請求項1〜5のいずれかに記載のフォトクロミック化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−121824(P2012−121824A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272177(P2010−272177)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】