説明

フォトクロミック積層体、及びその製造方法

【課題】光学シート又は光学フィルムがフォトクロミック性を有する接着層により接合された積層体であって、優れた密着性、並びに優れた耐熱性および優れたフォトクロミック特性を有する積層体を提供する。
【解決手段】 互いに対向する2枚の光学シート又はフィルムが、(A)分子鎖中にウレア結合を有するポリウレタン−ウレア樹脂、及び(B)フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック組成物からなる第1接着層と、 前記第1接着層の両側に形成される第2接着層とを介して接合されてなるフォトクロミック積層体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック組成物からなる接着層を介して光学シート又はフィルムが互いに接合されてなる新規なフォトクロミック積層体に関する。詳しくは、フォトクロミック組成物からなる第1接着層の両表面に第2接着層を有し、第2接着層上に光学シート又はフィルムが積層された新規なフォトクロミック積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年米国を中心として、防眩性を有するサングラスなどに、透明で優れた耐衝撃性を有するポリカーボネートを用いたプラスチック基材の需要が急速に高まっている。そして、このようなプラスチック製サングラスにおいては、フォトクロミック色素と組み合わせることによって、周囲の明るさに応じて透過率が変化することにより防眩性を調節できるプラスチック製フォトクロミックサングラスが急速に人気を得ている。
【0003】
しかしながら、プラスチック製フォトクロミックサングラスの加工は、必ずしも容易ではない。
【0004】
たとえば、アクリレートコポリマーにフォトクロミック剤を添加したフォトクロミック性塗料を用いる方法が知られているが、以下の点で改善の余地があった。該塗料を用いる方法としては、具体的には、ポリカーボネートフィルム表面に該塗料からなるフォトクロミック性被膜を形成した複合フィルムを準備し、該複合フィルムを金型内に装着してポリカーボネート樹脂を射出成形する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法では良好なフォトクロミック特性を有するサングラスを得ることは困難であった。
【0005】
また、前記特許文献1に記載された方法において、前記複合フィルムに代えて“フォトクロミック色素を含有するポリウレタン樹脂接着層によりポリカーボネートシートを接合した積層シート”を用いる方法がある(特許文献2及び特許文献3参照)。しかしながら、この方法では、上記積層シートにおけるポリカーボネートシートの密着性や耐熱性が不十分であった。このため、上記積層体を金型に装着し、次いで該金型にポリカーボネート樹脂を射出成形することによって光学物品を製造した場合、得られる光学物品において剥離が生じたり、光学歪が生じたりするといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−5910号公報
【特許文献2】特表2003−519398号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2004−096666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、光学シート又は光学フィルムがフォトクロミック性を有する接着層により接合された積層体であって、優れた密着性、並びに優れた耐熱性および優れたフォトクロミック特性を有する積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題を解決すべく、フォトクロミック性ポリウレタン樹脂接着層の構造と得られる光学物品の特性との関係について鋭意検討を行った。その結果、(1)ポリウレタン−ウレア樹脂を使用して形成したフォトクロミック性ポリウレタン−ウレア樹脂接着層(第一接着層)を用いた場合には、得られる積層体の耐熱性、フォトクロミック性およびその耐久性などが優れたものとなること、並びに、該接着層の両表面に、さらに別の接着層(第二接着層)を設けることにより、上記フォトクロミック特性、耐久性を損なうことなく、光学シート又はフィルムの接着強度を高められることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
互いに対向する2枚の光学シート又はフィルムが、
(A)分子鎖中にウレア結合を有するポリウレタン−ウレア樹脂、及び(B)フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック組成物からなる第1接着層と、
前記第1接着層の両側に存在する第2接着層と
を介して接合されてなるフォトクロミック積層体である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフォトクロミック積層体は、優れた密着性、フォトクロミック特性を示す。さらに、フォトクロミック化合物を含む第一接着層は、耐熱性が高いため、本発明の光学物品を金型に装着し、次いで該金型にポリカーボネート樹脂などの熱可塑性樹脂を射出成形することによって、光学物品を製造した場合でも密着性やフォトクロミック特性が低下し難く、光学歪が生じ難い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のフォトクロミック積層体の層構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のフォトクロミック積層体は、互いに対向する2枚の光学シート又はフィルムが、(A)分子鎖中にウレア結合を有するポリウレタン−ウレア樹脂、及び(B)フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック組成物からなる第1接着層と、前記第1接着層の両側に存在する第2接着層とを介して接合されてなる。つまり、本発明の積層体は、前記第1接着層の両側に第2接着層が形成され、さらに、その第2接着層上に光学シート又はフィルムが積層されてなるものである。
先ず、第1接着層を形成するフォトクロミック組成物について説明する。
【0013】
第1接着層を形成するフォトクロミック組成物
本発明において、フォトクロミック組成物は、(A)分子鎖中にウレア結合を有するポリウレタン−ウレア樹脂(以下、単に(A)成分ともいう。)、及び(B)フォトクロミック化合物(以下、単にB成分ともいう。)を含んでなる。以下、これらA成分およびB成分について説明する。
【0014】
A成分:ポリウレタン−ウレア樹脂
従来のフォトクロミック性接着剤又はバインダーに使用されているポリウレタン樹脂は、1,4−ブタンジオールなどのジオール化合物を用いウレタン結合で鎖延長されるウレタン樹脂であり、該樹脂の分子中にはウレア結合は存在しないものであった。これに対し、本発明で使用するフォトクロミック組成物のA成分は、分子鎖中にウレア結合(−R−NH−CO−NH−)を有するポリウレタン−ウレア樹脂である。このようなポリウレタン−ウレア樹脂を樹脂成分に使用することにより、該フォトクロミック組成物を接着剤又はバインダーとして使用したときの耐熱性、密着性、フォトクロミック化合物の耐久性を向上させることが可能である。
【0015】
このような効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、本発明者等は次のように推定している。すなわち、ポリウレタン樹脂がウレア結合を有することにより、分子の剛直性が高くなると共に、分子鎖間の水素結合がより強固となるため、耐熱性が向上したものと推定している。また、フォトクロミック化合物の耐久性が向上することに関しては、ウレア結合の存在により分子鎖間の水素結合がより強固となることによって空気中の酸素が該ポリウレタン−ウレア樹脂中へ拡散し難くなり、フォトクロミック化合物の一般的な劣化機構として知られている光酸化劣化が抑制されたためであると推定している。さらに、接着強度が向上することに関しては、ウレア結合の存在により分子鎖間の水素結合が強固となって樹脂の凝集破壊が起こりにくくなったためであると推定している。
【0016】
A成分として使用するポリウレタン−ウレア樹脂は、分子鎖中にウレア結合を有するポリウレタン−ウレア樹脂であれば特に制限されないが、フォトクロミック特性が良好であるという理由から、分子の末端にイソシアネート基を有しないポリウレタン−ウレア樹脂であることが好ましい。また、フォトクロミック特性、密着性の観点から、
(A1)ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、およびポリエステルポリオールよりなる群から選ばれる少なくとも1種のポリオール化合物(以下、単にA1成分ともいう。)と、
(A2)分子内に2つ以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物(以下、単にA2成分ともいう。)と、
(A3)イソシアネート基と反応し得る基を分子内に2つ以上有し、その内の少なくとも1つがアミノ基であるアミノ基含有化合物(以下、単にA3成分ともいう。)
とを反応して得られるポリウレタン−ウレア樹脂であることが好ましい。このようなポリウレタン−ウレア樹脂においては、原料であるA3成分としてアミノ基を有する化合物を使用することに起因して、分子内にウレア結合が導入される。以下、これら成分について説明する。
【0017】
A1成分:ポリオール化合物
A1成分のポリオール化合物としては、生成するポリウレタン−ウレア樹脂が高架橋体になり過ぎないという理由から分子中に含まれる水酸基数が2〜6であることが好ましく、有機溶剤への溶解性を考慮すれば、分子中に含まれる水酸基数は2〜3であることがより好ましい。また、前述のポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリエステルポリオールなどのポリオール化合物は、単独で使用しても良く、2種類以上を併用しても構わないが、耐熱性、密着性、耐候性、耐加水分解性などの観点から、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオールを使用することが好ましく、その中でも特にポリカーボネートポリオールを使用することが好ましい。
以下、A1成分として使用される各種化合物について詳しく説明する。
【0018】
ポリエーテルポリオール: A1成分として使用されるポリエーテルポリオールとしては、分子中に活性水素含有基を2個以上有する化合物とアルキレンオキサイドとの反応により得られるポリエーテルポリオール化合物及び該ポリエーテルポリオール化合物の変性体である、ポリマーポリオール、ウレタン変性ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルコポリマーポリオール等を挙げることが出来る。
【0019】
なお、上記分子中に活性水素含有基を2個以上有する化合物としては、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、トリエタノールアミン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの分子中に水酸基を1個以上有するグリコール、グリセリン等のポリオール化合物が挙げられ、これらは単独で使用しても、2種類以上を混合して使用しても構わない。
【0020】
また、前記アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等の環状エーテル化合物が挙げられ、これらは単独で使用しても2種類以上を混合して使用しても構わない。
【0021】
A1成分のポリエーテルポリオールにおいては、得られるポリウレタン−ウレア樹脂の耐熱性、及びフォトクロミック特性(発色濃度、退色速度、耐候性など)、特にフォトクロミック化合物の耐候性の観点から、数平均分子量は400〜3000、特に400〜2000であることが好ましく、400〜1500であることが最も好ましい。
【0022】
このようなポリエーテルポリオールは、試薬としてまたは工業的に入手可能であり、市販されているものを例示すれば、旭硝子株式会社製「エクセノール(登録商標)」シリーズ、「エマルスター(登録商標)」、株式会社ADEKA製「アデカポリエーテル」シリーズなどを挙げることができる。
【0023】
ポリカーボネートポリオール:A1成分として使用されるポリカーボネートポリオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−4−ブチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ダイマー酸ジオール、ビスフェノールA のエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド付加物、ビス(β−ヒドロキシエチル)ベンゼン、キシリレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の低分子ポリオール類の1種類以上のホスゲン化より得られるポリカーボネートポリオール、或いはエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、及びジフェニルカーボネート等によるエステル交換法により得られるポリカーボネートポリオール等を挙げることができる。A1成分としてのポリカーボネートポリオールにおいては、ポリエーテルポリオールにおける場合と同様な理由から、数平均分子量は400〜3000、特に400〜2000であることが好ましく、400〜1500であることが最も好ましい。これらポリカーボネートポリオールは、試薬としてまたは工業的に入手可能であり、市販されているものを例示すれば、旭化成ケミカルズ株式会社製「デュラノール(登録商標)」シリーズ、株式会社クラレ製「クラレポリオール(登録商標)」シリーズ、ダイセル化学工業株式会社製「プラクセル(登録商標)」シリーズ、日本ポリウレタン工業株式会社製「ニッポラン(登録商標)」シリーズ、宇部興産株式会社製「ETERNACOLL(登録商標)」シリーズなどを挙げることができる。
【0024】
ポリカプロラクトンポリオール: A1成分として使用されるポリカプロラクトンポリオールとしては、ε−カプロラクトンの開環重合により得られる化合物が使用できる。A1成分としてのポリカプロラクトンポリオールにおいては、ポリエーテルポリオールにおける場合と同様な理由から、数平均分子量は400〜3000、特に400〜2000であることが好ましく、400〜1500であることが最も好ましい。このようなポリカプロラクトンポリオールは、試薬としてまたは工業的に入手可能であり、市販されているものを例示すれば、ダイセル化学工業株式会社製「プラクセル(登録商標)」シリーズなどを挙げることができる。
【0025】
ポリエステルポリオール: A1成分として使用されるポリエステルポリオールとしては、多価アルコールと多塩基酸との縮合反応により得られるポリエステルポリオールなどを挙げることができる。ここで、前記多価アルコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3,3’−ジメチロールヘプタン、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、3,3−ビス(ヒドロキシメチル)ヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどが挙げられ、これらは単独で使用しても、2種類以上を混合して使用しても構わない。また、前記多塩基酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、オルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、これらは単独で使用しても、2種類以上を混合して使用しても構わない。
【0026】
A1成分としてのポリエステルポリオールにおいては、ポリエーテルポリオールにおける場合と同様な理由から、数平均分子量は400〜3000、特に400〜2000であることが好ましく、400〜1500であることが最も好ましい。これらポリエステルポリオールは、試薬としてまたは工業的に入手可能であり、市販されているものを例示すれば、DIC株式会社製「ポリライト(登録商標)」シリーズ、日本ポリウレタン工業株式会社製「ニッポラン(登録商標)」シリーズ、川崎化成工業株式会社製「マキシモール(登録商標)」シリーズなどを挙げることができる。
【0027】
A2成分:ポリイソシアネート化合物
A2成分として使用される分子内に2つ以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物としては、脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環式ポリイソシアネート化合物、芳香族ポリイソシアネート化合物、及びこれらの混合物が使用される。これらの中でも、耐候性の観点から脂肪族ポリイソシアネート化合物及び/又は脂環式ポリイソシアネート化合物を使用することが好ましい。また、同様の理由からA2成分のポリイソシアネート化合物の30〜100質量%、特に50〜100質量%が脂肪族ポリイソシアネート化合物であることが好ましい。なお、A2成分のポリイソシアネート化合物において、分子内に含まれるイソシアネート基の数は2以上であればよいが、有機溶剤への溶解性などの観点から、分子内に含まれるイソシアネート基の数は2であることが好ましい。
【0028】
A2成分として好適に使用できるポリイソシアネート化合物を例示すれば、
テトラメチレン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、オクタメチレン−1,8−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサン−1,6−ジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート化合物、
シクロブタン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、2,4−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、2,6−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物、ヘキサヒドロトルエン−2,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン−2,6−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,3−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,4−ジイソシアネート、1,9−ジイソシアナト−5−メチルノナン、1,1−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、2−イソシアナト−4−[(4−イソシアナトシクロヘキシル)メチル]−1−メチルシクロヘキサン、2−(3−イソシアナトプロピル)シクロヘキシルイソシアネートなどの脂環式ポリイソシアネート化合物、
フェニルシクロヘキシルメタンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)の異性体混合物、トルエン−2,3−ジイソシアネート、トルエン−2,4−ジイソシアネート、トルエン−2,6−ジイソシアネート、フェニレン−1,3−ジイソシアネート、フェニレン−1,4−ジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、キシリレンジイシシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、1,3−ジイソシアナトメチルベンゼン、4,4’−ジイソシアナト−3,3’−ジメトキシ(1,1’−ビフェニル)、4,4’−ジイソシアナト−3,3’−ジメチルビフェニル、1,2−ジイソシアナトベンゼン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)−2,3,5,6−テトラクロロベンゼン、2−ドデシル−1,3−ジイソシアナトベンゼン、1−イソシアナト−4−[(2−イソシアナトシクロヘキシル)メチル]2−メチルベンゼン、1−イソシアナト−3−[(4−イソシアナトフェニル)メチル)−2−メチルベンゼン、4−[(2−イソシアナトフェニル)オキシ]フェニルイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート化合物
を挙げることができる。
【0029】
これらの中でも、得られるポリウレタン−ウレア樹脂の耐候性の観点から、上記の通り、A2成分のポリイソシアネート化合物の30〜100質量%、特に50〜100質量%が、脂肪族ポリイソシアネート化合物、及び脂環式ポリイソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種のポリイソシアネート化合物であることが好ましい。好適な化合物を具体的に例示すると、テトラメチレン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、オクタメチレン−1,8−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサン−1,6−ジイソシアネート、シクロブタン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、2,4−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、2,6−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物、ヘキサヒドロトルエン−2,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン−2,6−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,3−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,4−ジイソシアネートが挙げられる。これらのイソシアネート化合物は、単独で使用してもよく、2種類以上を併用しても構わない。
【0030】
また、このポリイソシアネート化合物は、光安定性能、酸化防止性能、または紫外線吸収性能等の機能性を付与する構造を分子内に有する化合物であってもよい。以下、光安定性能を発揮するピペリジン構造を有するポリイソシアネート化合物を例にして説明する。該ポリイソシアネート化合物としては、分子内に3つのイソシアネート基を有するトリイソシアネート化合物と、分子内に1つのイソシアネート基と反応しうる基(アミノ基、水酸基、カルボキシル基、またはチオール基)とピペリジン構造を有する化合物との反応物が挙げられる。トリイソシアネート化合物としては、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、1,8−ジイソシアナト−4−イソシアナトメチルオクタン、2−イソシアナトエチル(2,6−ジイソシアナト)ヘキサノエート、1−メチルベンゼン−2,4,6−トリイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4,4’−トリイソシアネート、トリフェニルメタン−4,4’,4’’−トリイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネートなどを挙げることができる。また、分子内に1つのイソシアネート基と反応しうる基とピペリジン構造を有する化合物としては、下記のピペリジン構造を有する反応停止剤(A5)で説明する、一般式(1)で示される化合物が挙げられる。前記トリイソシアネート化合物の1つのイソシアネート基と、例えば、後述の一般式(1)で示された化合物のイソシアネート基と反応しうる基とを反応させることにより、分子内に2つのイソシアネート基が存在する化合物(ジイソシアネート化合物)を得ることができる。
【0031】
また、前記トリイソシアネート化合物と反応させる化合物として、分子内に1つのイソシアネート基と反応しうる基とヒンダードフェノール構造、トリアジン構造、又はベンゾトリアゾール構造を有する化合物を使用することもできる。これら化合物を使用することにより、酸化防止性能、または紫外線吸収性能を有するポリイソシアネート化合物となる。
【0032】
これらのポリイソシネート化合物は、単独で使用してもよく、2種類以上を併用しても構わない。
【0033】
A3成分:アミノ基含有化合物
A3成分として使用されるアミノ基含有化合物は、イソシアネート基と反応し得る基を分子内に2つ以上有し、該基の内の少なくとも半数以上がアミノ基であるアミノ基含有化合物である。アミノ基は、−NH、または−NH(R)で示され、Rはアルキル基、特に炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましい。また、アミノ基以外のイソシアネート基との反応性基は、水酸基(−OH)、メルカプト基(−SH)およびカルボキシル基〔−C(=O)OH〕等である。
【0034】
このアミノ基含有化合物を使用することにより、ポリウレタン−ウレア樹脂を容易に合成できる。アミノ基の最大数は、当然のことながら、イソシアネート基と反応し得る基の全数である。
【0035】
該A3成分は、ポリウレタン−ウレア樹脂を合成する際の鎖延長剤として機能するものであり、鎖延長剤として、A3成分を用いることによりポリウレタン樹脂中にウレア結合が導入され、ポリウレタン−ウレア樹脂となる。
【0036】
得られるポリウレタン−ウレア樹脂を適度の硬さにし、また、耐熱性、密着性、フォトクロミック特性を良好に維持するためには、アミノ基含有化合物の分子量は、50〜300であることが好ましく、50〜250であることがより好ましく、55〜200であることが最も好ましい。
【0037】
A3成分のアミノ基含有化合物としては、ジアミン、トリアミン、アミノアルコール、アミノカルボン酸、およびアミノチオールよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が好適に使用し得る。本発明においてアミノ基含有化合物として好適に使用される化合物を具体的に例示すれば、ジアミンおよびトリアミンとして、イソホロンジアミン、エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,2−ジアミノブタン、1,3−ジアミノブタン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、ピペラジン、N,N−ビス−(2−アミノエチル)ピペラジン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス−(4−アミノ−3−ブチルシクロヘキシル)メタン、1,2−、1,3−及び1,4−ジアミノシクロヘキサン、ノルボルネンジアミン、ノルボルナンジアミン、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジン、フェニレンジアミン、4,4’−ジフェニルメタンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジプロピルエチレンジアミン、N,N’−ジブチルエチレンジアミン、N−メチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,2,5−ペンタントリアミン等を挙げることができる。
【0038】
また、アミノアルコールとしては、2−アミノエタノール、3−アミノプロパノール、4−アミノブタノール、5−アミノペンタノール、6−アミノヘキサノール、2−ピペリジンメタノール、3−ピペリジンメタノール、4−ピペリジンメタノール、2−ピペリジンエタノール、4−ピペリジンエタノール等を挙げることができ、アミノカルボン酸としては、グリシン、アラニン、リシン、ロイシン等を挙げることができ、アミノチオールとしては、1−アミノチオール、2−アミノエタンチオール等を挙げることができる。これらのアミノ基含有化合物は、単独で使用しても良く、2種類以上を併用しても構わない。
【0039】
前記鎖延長剤においては、耐熱性、密着性、フォトクロミック化合物の耐久性などの観点から、特にジアミンを使用することが好ましい。この理由は、A成分を合成する際に、アミノ基含有化合物を用いることにより、得られるポリウレタン−ウレア樹脂がウレア結合を有することになり、分子の剛直性が高くなると共に、分子鎖間の水素結合がより強固となるため、耐熱性が向上するものと推定している。また、フォトクロミック化合物の耐久性が向上することに関しては、ウレア結合の存在により分子鎖間の水素結合がより強固となることによって、空気中の酸素が該ポリウレタン−ウレア樹脂中へ拡散し難くなり、フォトクロミック化合物の一般的な劣化機構として知られている光酸化劣化が抑制されたためであると推定している。さらに、密着強度が向上することに関しては、ウレア結合の存在により分子鎖間の水素結合が強固となって樹脂の凝集破壊が起こりにくくなったためであると推定している。
【0040】
A成分の合成方法
これらA1成分、A2成分およびA3成分を反応させてA成分を得る場合には、所謂ワンショット法又はプレポリマー法を採用することができ、たとえば次のような方法によって好適にA成分を得ることができる。
【0041】
まず、A1成分とA2成分とを反応さてウレタンプレポリマーを得、次いで該ウレタンプレポリマーとA3成分を反応させることによりA成分を製造することができる。
【0042】
上記方法において、A1成分とA2成分との反応は、溶媒の存在下または非存在下で両者を窒素あるいはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下中、25〜120℃で0.5〜24時間反応させればよい。溶媒としては、メチルエチルケトン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)などの有機溶媒が使用できる。反応に際しては、ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基と不純物としての水との反応を避けるため、各種反応試剤及び溶媒は、予め脱水処理を行い、十分に乾燥しておくことが好ましい。また、上記反応を行う際には、ジラウリル酸ジブチルスズ、ジメチルイミダゾール、トリエチレンジアミン、テトラメチル−1,6−ヘキサジアミン、テトラメチル−1,2−エタンジアミン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンなどの触媒を用いてもよい。触媒を使用する際の添加量としては、該A成分の合計100質量部に対して0.001〜1質量部であることが好ましい。
【0043】
このようにして得られたウレタンプレポリマーとA3成分との反応は、溶媒の存在下または非存在下で両者を窒素あるいはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下中、25〜120℃で0.5〜24時間反応させればよい。溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブタノール、2−ブタノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、DMF、DMSO、THFなどを使用することができる。
【0044】
上記方法において反応に使用するA1成分、A2成分およびA3成分の量比は適宜決定すればよいが、得られるポリウレタン−ウレア樹脂の耐熱性、接着強度、フォトクロミック特性(発色濃度、退色速度、耐候性など)などのバランスの観点から、次のような量比とすることが好ましい。すなわち、A1成分に含まれる、水酸基の総モル数をn1とし、A2成分に含まれるイソシアネート基の総モル数をn2とし、A3成分に含まれるイソシアネート基と反応しうる基(具体的にはアミノ基、水酸基、メルカプト基及び又はカルボキシル基等)の総モル数をn3としたときに、
n1:n2:n3=0.3〜0.9:1:0.1〜0.7となる量比、
特に、n1:n2:n3=0.35〜0.85/1/0.15〜0.65となる量比とすることが好ましく、
n1:n2:n3=0.4〜0.8/1/0.2〜0.6となる量比とすることが最も好ましい。
【0045】
ここで、上記n1〜n3は、各成分として用いる化合物の使用モル数と該化合物1分子中に存在する各基の数の積として求めることができる。
【0046】
このような反応により得られたポリウレタン−ウレア樹脂は、必要に応じて溶媒を留去する、或いは水などの貧溶媒中に反応液を滴下し、ポリウレタン−ウレア樹脂を沈降・濾過後、乾燥させるなどの後処理を行って、A成分として使用しても良いし、反応溶媒に溶解したまま本発明のフォトクロミック組成物として使用することも可能である。
【0047】
A成分のポリウレタン−ウレア樹脂は、得られるポリウレタン−ウレア樹脂の耐熱性、接着強度、フォトクロミック特性(発色濃度、退色速度、耐候性など)などの観点から、その分子量は、5千〜15万、特に8千〜10万であることが好ましく、1万〜6万であることが最も好ましい。なお、上記ポリウレタン−ウレア樹脂の分子量は、ポリエチレンオキシド換算によるゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)を用いて、カラム:Shodex KD−805、KD−804(昭和電工株式会社製)、溶離液:LiBr(10mmol/L)/DMF溶液、流速:1ml/min、検出器:RI検出器、ポリウレタン−ウレア樹脂試料溶液:0.5%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液の条件により測定した分子量を意味する。
【0048】
ポリウレタン−ウレア樹脂におけるウレア結合は、単位分子量(1,000)当たり0.05〜4.0個存在することが好ましい。単位分子量当たりのウレア結合の数は、該ポリウレタン−ウレア樹脂の(A1)成分、(A2)成分、(A3)成分の比率、さらには前記GPC分析により求めた数平均分子量により求めることができる。このウレア結合の割合は、平均値である。
【0049】
また、A成分であるポリウレタン−ウレア樹脂は、(i)本発明のフォトクロミック組成物を用いて光学シート又はフィルムどうしを貼付し積層体とするとき、或いは(ii)得られた積層体を用いた光学物品を製造するときの加工性の観点、さらには(iii)これら積層体又は光学物品の表面にハードコート層を形成する場合において、ハードコート液を塗布したり、硬化させたりするときの加工性の観点から、通常60〜200℃、特に80〜150℃の耐熱性を有することが好ましい。なお、ここでいう耐熱性とは、熱機械測定装置(セイコーインスツルメント社製、TMA120C)を用いて、下記条件で測定した軟化点を意味する。
〔測定条件〕 昇温速度:10℃/分、測定温度範囲:30〜200℃、プローブ:先端径0.5mmの針入プローブ。
【0050】
A5成分:機能性付与化合物
本発明においては、上記したA1〜A3成分の他に、分子内に1または2つのイソシアネート基と反応しうる基を有し、かつ、分子内にピペリジン構造、ヒンダードフェノール構造、トリアジン構造、またはベンゾトリアゾール構造を有する機能性付与化合物を用いることが好ましい。このような機能性付与化合物を用いることによって、ポリウレタン−ウレア樹脂に、ピペリジン構造、ヒンダードフェノール構造、トリアジン構造、またはベンゾトリアゾール構造を付与することができ、ヒンダードアミン光安定性能、酸化防止性能、または紫外線吸収性能等の機能性に優れたポリウレタン−ウレア樹脂とすることができる。
【0051】
分子内に1または2つのイソシアネート基と反応しうる基を有し、かつ、分子内にピペリジン構造、ヒンダードフェノール構造、トリアジン構造、またはベンゾトリアゾール構造を有する機能性付与化合物
イソシアネート基と反応しうる基とは、アミノ基(−NH、及び−NH(R))、水酸基(−OH)、メルカプト基(−SH:チオール基)、カルボキシル基〔−C(=O)OH〕、又は酸クロライド基〔−C(=O)OCl〕が挙げられる。特に、優れた効果を発揮するポリウレタン−ウレア樹脂を得るためには、このイソシアネート基と反応しうる基は分子内に1つであることが好ましい。この理由は、明らかではないが、以下のように考えられる。該基が1つであることにより、ポリウレタン−ウレア樹脂の側鎖、末端に機能性付与化合物が導入される。そのため、ラジカル等の耐久性を低下させる物質に効率よく、機能性付与化合物が作用できるものと考えられる。
【0052】
また、前述のピペリジン構造、ヒンダードフェノール構造、トリアジン構造、またはベンゾトリアゾール構造は、光安定化効果(ピペリジン構造)、酸化防止効果(ヒンダードフェノール構造)、または紫外線吸収効果(トリアジン構造、又はベンゾトリアゾール構造)を発揮する。これらの構造を有する化合物を使用することにより、A成分であるポリウレタン−ウレア樹脂自体、及びフォトクロミック化合物の耐久性(光安定性、酸化防止性能、紫外線吸収性能)を向上することができる。中でも、フォトクロミック化合物の耐久性を向上させるためには、ピペリジン構造を有する化合物を使用することが好ましい。以下、A5成分として使用される各種化合物について詳しく説明する。
【0053】
ピペリジン構造を有する機能性付与化合物
本発明でA5成分として使用されるピペリジン構造を有する機能性付与化合物としては、下記一般式(i)で示される構造を分子内に有する化合物が好適に使用できる。
【0054】
【化1】

【0055】
(式中、
、R、R、及びRは、それぞれ、炭素数1〜4のアルキル基であり、特に、メチル基であることが好ましい。)。
【0056】
上記ピペリジン環の窒素原子、または、4位の炭素原子にイソシアネート基と反応しうる基を有する化合物が、ピペリジン構造を有する機能性付与化合物に該当する。
【0057】
以下、より具体的な化合物について説明する。
【0058】
本発明でA5成分として使用される機能性付与化合物の中で、ポリウレタン−ウレア樹脂の末端にピペリジン構造を導入しうる化合物としては、下記一般式(1)で示される化合物などを挙げられる。
【0059】
【化2】

【0060】
(式中、
、R、R、及びRは、前記一般式(i)におけるものと同義であり、
は、炭素数1〜10のアルキル基、または水素原子であり、
は炭素数1〜20のアルキレン基、又は炭素数3〜20のポリメチレン基であり、aは0または1であり、
Xは、イソシアネート基と反応しうる基である。)。
【0061】
上記一般式(1)において、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基であるが、4つのアルキル基全てメチル基であることが好ましい。
【0062】
は、炭素数1〜10のアルキル基、または水素原子である。中でも、入手の容易さの観点から、炭素数1〜4のアルキル基、または水素原子であることが好ましい。なお、R〜Rが炭素数1〜4のアルキル基であるため、Rが水素原子であっても、立体障害の影響でRが結合している窒素原子とイソシアネート基が反応することはない。
【0063】
は、炭素数1〜20のアルキレン基、又は炭素数3〜20のポリメチレン基であり、好ましくは炭素数1〜10のアルキレン基、又は炭素数3〜10のポリメチレン基である。なお、aは、Rの数を示すが、aが0の場合は、Xが直接ピペリジン環に結合しているものを指す。
【0064】
Xは、イソシアネート基と反応しうる基であり、好ましくは、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、またはチオール基である。中でも、イソシアネート基との反応性、入手の容易さなどの観点からアミノ基、及び水酸基であることが好適である。
【0065】
上記式(1)で示される機能性付与化合物を具体的に例示すれば、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ヒドロキシピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−アミノピペリジン、2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン、2,2,6,6−テトラメチル−4−アミノピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−アミノメチルピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−アミノブチルピペリジンなどを挙げることができる。
【0066】
また、ポリウレタン−ウレア樹脂の末端にピペリジン構造を導入しうる化合物としては、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの反応物である下記化合物も使用することが出来る。
【0067】
【化3】

【0068】
なお、上記化合物において、nは5〜20の範囲を満足することが好ましい。
【0069】
本発明で使用されるA5成分の中で、ポリウレタン−ウレア樹脂の主鎖中にピペリジン構造を導入しうる化合物としては、下記一般式(2)、(3)、(4)で示される化合物などを使用することが好適である。
【0070】
下記式(2)
【0071】
【化4】

【0072】
(式中、
、R、R、及びR10は、それぞれ、炭素数1〜4のアルキル基であり、
11は、炭素数1〜20のアルキレン基、又は炭素数3〜20のポリメチレン基であり、
12は、炭素数1〜20のアルキレン基、又は炭素数3〜20のポリメチレン基であり、bは0または1であり、
Yは、イソシアネート基と反応しうる基である。)
で示される化合物も好適に使用できる。
【0073】
上記一般式(2)において、R、R、R、及びR10は、それぞれ、炭素数1〜4のアルキル基であるが、4つのアルキル基全てメチル基であることが好ましい。
【0074】
11は、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数3〜20のポリメチレン基であり、好ましくは炭素数1〜10のアルキレン基、または炭素数3〜10のポリメチレン基である。
【0075】
12は、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数3〜20のポリメチレン基であり、好ましくは炭素数1〜10のアルキレン基、または炭素数3〜10のポリメチレン基である。なお、bが0の場合には、Yが直接ピペリジン環に結合しているものを指す。
【0076】
Yは、前記一般式(1)中のXと同様である。
【0077】
上記式(2)で示される機能性付与化合物を例示すれば、下記化合物などを挙げることができる。
【0078】
【化5】

【0079】
下記式(3)
【0080】
【化6】

【0081】
(式中、
13、R14、R15、及びR16は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基であり、
17は、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数3〜20のポリメチレン基であり、cは0または1であり、
18は、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数3〜20のポリメチレン基であり、
Zは、イソシアネート基と反応しうる基である。)
で示される化合物も好適に使用できる。
【0082】
上記一般式(3)において、R13、R14、R15、及びR16は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基であるが、4つのアルキル基全てメチル基であることが好ましい。
【0083】
17は、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数3〜20のポリメチレン基であり、好ましくは炭素数1〜10のアルキレン基、または炭素数3〜10のポリメチレン基である。なお、cが0の場合には、Zが直接ピペリジン環に結合しているものを指す。
【0084】
18は、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数3〜20のポリメチレン基である。
【0085】
Zは、前記一般式(1)中のXと同様である。
【0086】
上記一般式(3)で示されるピペリジン環含有化合物を例示すれば、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−メトキシ−4−ピペリジニル)セバケートなどを挙げることができる。
【0087】
【化7】

【0088】
(式中、
19、R20、R21、及びR22は、それぞれ、炭素数1〜4のアルキル基であり、
23は、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数3〜20のポリメチレン基であり、R24は、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数3〜20のポリメチレン基であり、
V及びWは、それぞれ、イソシアネート基と反応しうる基である。)
上記一般式(4)において、R19、R20、R21、及びR22は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基であるが、4つのアルキル基全てがメチル基であることが好ましい。
【0089】
23は、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数3〜20のポリメチレン基であり、好ましくは炭素数1〜10のアルキレン基、または炭素数3〜10のポリメチレン基であり、
24は、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数3〜20のポリメチレン基であり、好ましくは炭素数1〜10のアルキレン基、または炭素数3〜10のポリメチレン基である。なお、dは0または1であり、dが0の場合には、Vが直接ピペリジン環に結合するものを指す。
【0090】
また、V及びWは、前記一般式(1)中のXと同様であり、同一の基であっても、異なる基であってもよい。
【0091】
上記一般式(4)で示されるピペリジン環含有化合物を例示すれば、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールなどを挙げることができる。
【0092】
ヒンダードフェノール構造を有する機能性付与化合物
本発明でA5成分として使用されるヒンダードフェノール構造を有する機能性付与化合物としては、下記一般式(ii)で示される構造を分子内に有する化合物が好適に使用できる。
【0093】
【化8】

【0094】
(式中、
25、R26、R27、及びR28は、それぞれ、炭素数1〜18のアルキル基、または水素原子であり、
25、またはR26の少なくともどちらか一方は、炭素数4以上のアルキル基である。)。
【0095】
そして、上記構造の1位の炭素原子にイソシアネート基と反応しうる基を有する化合物が、ヒンダードフェノール構造を有する機能性付与化合物となる。上式(ii)における4位の水酸基は、R25とR26の少なくとも一方がアルキル基であるため、その立体障害の影響からイソシアネート基とは反応しにくい。そのため、4位の水酸基は、イソシアネート基と反応しうる基とはならない。
【0096】
上記のような構造を分子内に有し、イソシアネート基と反応しうる基を2つ有する化合物は、前記ピペリジン構造を有する機能性付与化合物で説明したとおり、A成分のポリウレタン−ウレア樹脂の主鎖中にヒンダードフェノール構造を導入することができる。また、イソシアネート基と反応しうる基が1つの場合には、該ポリウレタン−ウレア樹脂の側鎖、末端にヒンダードフェノール構造を導入することができる。
【0097】
ヒンダードフェノール構造を有する機能性付与化合物の中でも、好ましい化合物としては、下記一般式(5)を挙げることができる。
【0098】
【化9】

【0099】
(式中、
25、R26、R27、及びR28は、それぞれ、炭素数1〜18のアルキル基、または水素原子であり、R25、またはR26のうち少なくともどちらか一方は、炭素数4以上のアルキル基であり、
29は、炭素数1〜10のアルキレン基、または炭素数3〜10のポリメチレン基であり、eは0または1であり、
Uは、イソシアネート基と反応しうる基である。)。
【0100】
上記一般式(5)において、R25、およびR26は、炭素数1〜18のアルキル基、または水素原子であり、どちらか一方は、炭素数4以上のアルキル基である。好ましくは、R25、及びR26のどちらか一方が、tert−ブチル基である。一方の基が炭素数4以上のアルキル基であることにより、得られるフォトクロミック組成物の耐久性をより向上できる。
【0101】
27、及びR28は、炭素数1〜18のアルキル基、または水素原子であり、より好ましくは炭素数1〜10のアルキル基、または水素原子である。
【0102】
また、Uは、イソシアネート基と反応しうる基であり、アミノ基、水酸基、チオール基、カルボキシル基、または酸クロライド基であり、特に、好ましくは、アミノ基、水酸基、チオール基、カルボキシル基である。
【0103】
29は、炭素数1〜10のアルキレン基、または炭素数3〜10のポリメチレン基であり、好ましくは炭素数1〜5のアルキレン基、または炭素数3〜5のポリメチレン基である。また、eは、R29の数を示すが、0または1である。eが0の場合は、Uが直接ベンゼン環に結合しているものを指す。好ましくは、eが0である化合物である。
【0104】
ヒンダードフェノール構造を有する機能性付与化合物を具体的に例示すれば、3−メチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3,5−ジメチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−ブチル−6−メチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−ブチル−5−エチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−ブチル−6−エチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−オクチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−オクチル−5−メチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−オクチル−5−エチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−オクチル−6−メチル−4−ヒドロキシ安息香酸、2−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3−t−ブチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3−t−ブチル−5−エチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3−t−オクチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3−t−オクチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3−t−オクチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、3−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−ブチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−ブチル−5−エチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−ブチル−6−エチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−オクチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−オクチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−オクチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3,5−ジドデシル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、4−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−ブチル−5−エチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−ブチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−ブチル−6−エチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−オクチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−オクチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−オクチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニルアミン、3,5−ジイソプロピル−4−ヒドロキシフェニルアミン、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアミンなどを挙げることができる。
【0105】
この中でもより好ましい化合物として、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−ブチル−6−メチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−ブチル−5−エチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−ブチル−6−エチル−4−ヒドロキシ安息香酸、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3−t−ブチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3−t−ブチル−5−エチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−ブチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−ブチル−5−エチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−ブチル−6−エチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、4−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−ブチル−5−エチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−ブチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−ブチル−6−エチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアミンを挙げることができる。
【0106】
トリアジン構造、またはベンゾトリアゾール構造を有する機能性付与化合物
本発明でA5成分として使用されるトリアジン構造、またはベンゾトリアゾール構造を有する機能性付与化合物としては、下記一般式(iii)、(iv)で示される構造を分子内に有する化合物が好適に使用できる。
【0107】
【化10】

【0108】
【化11】

【0109】
上記のような構造を分子内に有し、イソシアネート基と反応しうる基を2つ有する化合物は、前記ピペリジン構造を有する機能性付与化合物で説明したとおり、A成分のポリウレタン−ウレア樹脂の主鎖中にトリアジン構造、またはベンゾトリアゾール構造を導入することができる。また、イソシアネート基と反応しうる基が1つの場合には、該ポリウレタン−ウレア樹脂の側鎖、末端にトリアジン構造、またはベンゾトリアゾール構造を導入することができる。
【0110】
トリアジン構造、またはベンゾトリアゾール構造を有する機能性付与化合物の中でも、好ましい化合物としては、下記一般式(6)及び、(7)を挙げることができる。先ず、トリアジン構造を有する化合物について説明する。
【0111】
下記一般式(6)
【0112】
【化12】

【0113】
(式中、
30、R31、R32、R33、R34、及びR35は、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基、アルキルオキシ基、水素原子、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、またはチオール基であり、
前記アルキル基、及びアルキルオキシ基は、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、及びチオール基から選ばれる置換基を有していてもよく、
ただし、R30〜R35のうち、1つまたは2つの基は、イソシアネート基と反応しうる基である。)
で示される化合物が好適に使用できる。
【0114】
上記一般式(6)において、R30、R31、R32、R33、R34、及びR35は、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルキルオキシ基である。より好ましくは、炭素数1〜5のアルキル基、または炭素数1〜5のアルキルオキシ基である。また、これら基は、イソシアネート基と反応しうる基、好ましくはアミノ基、水酸基、カルボキシル基、またはチオール基を置換基として有していてもよい。
【0115】
また、上記一般式(6)におけるR30、R31、R32、R33、R34、及びR35は、水素原子、またはイソシアネート反応しうる基であってもよく、好ましくは、水素原子、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、又はチオール基である。
【0116】
但し、R30、R31、R32、R33、R34、及びR35のうち、1つまたは2つの基が、イソシアネート基と反応しうる基、好ましくは、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、又はチオール基でなければならない。
【0117】
中でも、R30、R31、R32、R33、R34、及びR35は、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、tert−ブチル基、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシエチルオキシ基、3−ヒドロキシプロピルオキシ基、2−ヒドロキシプロピルオキシ基、水素原子、または水酸基であることが好ましい。そして、そのうち1つ、または2つの基が、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシエチルオキシ基、3−ヒドロキシプロピルオキシ基、2−ヒドロキシプロピルオキシ基、または水酸基であることが好ましい。
【0118】
具体的な化合物を例示すると、2−(2, 4−ジヒドロキシフェニル)−4, 6−ジフェニル−s −トリアジン、2−(2, 4−ジヒドロキシフェニル)−4, 6−ビス(2, 4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2, 4−ジヒドロキシフェニル)−4,6−ビス(2−メトキシフェニル)−s−トリアジン、2−(2, 4−ジヒドロキシフェニル)−4, 6−ビス(4−メトキシフェニル)−s−トリアジン、2−(2, 4−ジヒドロキシフェニル)−4, 6−ビス(2, 4−ジメトキシフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−ヒドロキシメチルフェニル)−4, 6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2ヒドロキシ−4−ヒドロキシメチルフェニル)−4, 6−ビス(2, 4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル)−4, 6−ジフェニル−s −トリアジン、2−(2ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル)−4, 6−ビス(2, 4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシエチルオキシ)フェニル)−4, 6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシエチルオキシ)フェニル)−4, 6−ビス(2, 4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシプロピル)フェニル)−4, 6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシプロピル)フェニル)−4, 6−ビス(2, 4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−(3−ヒドロキシプロピル)フェニル)−4, 6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2ヒドロキシ−4−(3−ヒドロキシプロピル)フェニル)−4, 6−ビス(2, 4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル)−4, 6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル)−4, 6−ビス(2, 4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−(4−ヒドロキシブチル)フェニル)−4, 6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2ヒドロキシ−4−(4−ヒドロキシブチル)フェニル)−4, 6−ビス(2, 4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−(3−ヒドロキシブチル)フェニル)−4, 6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2ヒドロキシ−4−(3−ヒドロキシブチル)フェニル)−4, 6−ビス(2, 4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−(4−ヒドロキシブチルオキシ)フェニル)−4, 6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2ヒドロキシ−4−(4−ヒドロキシブチルオキシ)フェニル)−4,6−ビス(2, 4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−フェニル−4, 6−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−s−トリアジン、2−(2, 4−ジメトキシフェニル)−4, 6−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−s−トリアジン、2−(2, 4−ジメチルフェニル)−4, 6−ビス(2−ヒドロキシ−4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−フェニル−4, 6−ビス(2−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−メトキシ−4−エチルフェニル)−4, 6−ビス(2−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−エトキシ−4−メチルフェニル)−4, 6−ビス(2−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−メチル−4−プロピルフェニル)−4, 6−ビス(2−(4−ヒドロキシブチルオキシ)−4−メチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−メトキシ−4−プロピルフェニル)−4, 6−ビス(2−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−エトキシ−4−プロピルフェニル)−4, 6−ビス(2−ヒドロキシプロピルオキシ−4−ジメチルフェニル)−s−トリアジンなどを挙げることができる。
【0119】
次に、ベンゾトリアゾール構造を有する好ましい機能性付与化合物について説明する。好ましい化合物としては、下記一般式(7)で示される化合物が挙げられる。
【0120】
【化13】

【0121】
(式中、
36、及びR37は、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルキルオキシ基、水素原子、アリール基であり、
前記アルキル基、及びアルキルオキシ基は、イソシアネート基と反応しうる基を有していてもよく、ただし、該イソシアネート基と反応しうる基は、1つのみであり、
前記アリール基は、炭素数1〜5のアルキル基を置換基として有していてもよく、
38は、水素原子、又はハロゲン原子である。)
上記一般式(7)において、R36、及びR37は、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のアルキルオキシ基である。これらの基にはイソシアネート基と反応しうる基、具体的には、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、酸クロライド基、またはチオール基を有していてもよい。ただし、該イソシアネート基と反応しうる基は1つのみである。
【0122】
また、R36、及びR37は、炭素数1〜5のアルキル基を置換基として有するアリール基、好ましくは、炭素数1〜5のアルキル基を置換基として有するフェニル基、または水素原子であってもよい。
【0123】
好適なR36、及びR37を例示すれば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、フェニル基、ベンジル基、1,1−ジメチルベンジル基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基、アミノ基、アミノメチル基、アミノエチル基、アミノプロピル基、及びカルボキシル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基に対応する酸クロライド基等が挙げられる。
【0124】
具体的な化合物としては、3−[3’−(2’’H−ベンゾトリアゾール−2’’−イル)−4’−ヒドロキシフェニル]プロピオン酸、3−[3’−(2’’H−ベンゾトリアゾール−2’’−イル)− 5’−メチル−4’−ヒドロキシフェニル]プロピオン酸、3−[3’−(2’’H−ベンゾトリアゾール−2’’−イル)−5’−エチル−4’−ヒドロキシフェニル]プロピオン酸、3−[3’−(2’’H−ベンゾトリアゾール−2’’−イル)−5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル]プロピオン酸、3−[3’−(5’’−クロロ−2’’H−ベンゾトリアゾール−2’’−イル)−5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル]プロピオン酸、3−[3’−(2’’H−ベンゾトリアゾール−2’’−イル)−4’’−ヒドロキシ−5’’−(1’,1’−ジメチルベンジル)フェニル]プロピオン酸、3−[3’−(2’’H−ベンゾトリアゾール−2’’−イル)−4’’−ヒドロキシ−5’’−(1’’,1’’,3’’,3’’−テトラメチルブチル)フェニル]プロピオン酸、及びそれらの酸クロライド化合物、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α, α-ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(ヒドロキシメチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(ヒドロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(ヒドロキシプロピル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−(ヒドロキシメチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−(ヒドロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−(ヒドロキシプロピル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−(ヒドロキシメチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−(ヒドロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−(ヒドロキシプロピル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−t−オクチル−5’−(ヒドロキシメチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−t−オクチル−5’−(ヒドロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−t−オクチル−5’−(ヒドロキシプロピル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−(ヒドロキシエチル)フェニル]−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾールなどを挙げることができる。
【0125】
上記A5成分は、ポリウレタン−ウレア樹脂、及びフォトクロミック化合物の耐候性の向上を目的として、得られるポリウレタン−ウレア樹脂の末端、主鎖、側鎖などのいずれにも導入することが可能であるが、ウレタン−ウレア樹脂本来の耐熱性、機械的強度(剥離強度)を損なわないという観点から、ポリウレタン−ウレア樹脂の末端に導入することが好ましい。
【0126】
A1〜A5成分を使用したA成分の合成方法
これらA1成分、A2成分、A3成分およびA5成分を反応させてA成分を得る場合には、所謂ワンショット法又はプレポリマー法を採用することができ、たとえば次のような方法によって好適にA成分を得ることができる。
【0127】
合成方法1(末端に機能性付与化合物を有するA成分)
A1成分、A2成分及びA3成分の反応は、既述の方法により行うことができる。得られたウレタンポリマーとA5成分との反応は、溶媒の存在下または非存在下で両者を窒素あるいはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下中、25〜120℃で0.5〜24時間反応させればよい。溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブタノール、2−ブタノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、DMF、DMSO、THFなどを使用することができる。
【0128】
合成方法2(主鎖に機機能性付与化合物を有するA成分)
A1成分とA2成分とを反応さてウレタンプレポリマーを得、さらに分子内に2つのイソシアネート基と反応しうる基を有するA5成分を混合・反応させることにより、機能性付与化合物を有するウレタンプレポリマーを得、次いで該ウレタンプレポリマーとA3成分を反応させることにより、本発明のA成分を製造することができる。
【0129】
上記方法において、A1成分とA2成分との反応、さらにA5成分との反応は、溶媒の存在下または非存在下で両者を窒素あるいはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下中、25〜120℃で0.5〜24時間反応させればよい。溶媒としては、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)などの有機溶媒が使用できる。反応に際しては、ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基と不純物としての水との反応を避けるため、各種反応試剤及び溶媒は、予め脱水処理を行い、十分に乾燥しておくことが好ましい。また、上記反応を行う際には、ジラウリル酸ジブチルスズ、ジメチルイミダゾール、トリエチレンジアミン、テトラメチル−1,6−ヘキサジアミン、テトラメチル−1,2−エタンジアミン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンなどの触媒を添加してもよい。触媒を使用する際の添加量としては、該A成分の合計100質量部に対して0.001〜1質量部であることが好ましい。
【0130】
このようにして得られたウレタンプレポリマーとA3成分との反応は、溶媒の存在下または非存在下で両者を窒素あるいはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下中、25〜120℃で0.5〜24時間反応させればよい。溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブタノール、2−ブタノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、DMF、DMSO、THFなどを使用することができる。
【0131】
合成方法3(側鎖に機能性付与化合物を有するA成分)
まず、分子内に1つのイソシアネート基と反応しうる基を有するA5成分と、イソシアネート基を3つ有するトリイソシアネート化合物を反応させ、側鎖に機能性構造を有するジイソシアネート化合物を合成する。このジイソシアネート化合物とA1成分、及びA2成分とを反応さてウレタンプレポリマーを得、次いでA3成分と反応させることにより、本発明のA成分を製造することができる。
【0132】
上記方法において、トリイソシアネート化合物とA5成分との反応は、溶媒の存在下または非存在下で両者を窒素あるいはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下中、25〜120℃で0.5〜24時間反応させればよい。溶媒としては、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)などの有機溶媒が使用できる。反応に際しては、ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基と不純物としての水との反応を避けるため、各種反応試剤及び溶媒は、予め脱水処理を行い、十分に乾燥しておくことが好ましい。
【0133】
上記の方法により得られた側鎖に機能性付与化合物を有するジイソシアネート化合物、A1成分、及びA2成分との反応は、溶媒の存在下または非存在下で両者を窒素あるいはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下中、25〜120℃で0.5〜24時間反応させればよい。溶媒としては、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)などの有機溶媒が使用できる。反応に際しては、ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基と不純物としての水との反応を避けるため、各種反応試剤及び溶媒は、予め脱水処理を行い、十分に乾燥しておくことが好ましい。また、上記反応を行う際には、ジラウリル酸ジブチルスズ、ジメチルイミダゾール、トリエチレンジアミン、テトラメチル−1,6−ヘキサジアミン、テトラメチル−1,2−エタンジアミン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンなどの触媒を添加してもよい。触媒を使用する際の添加量としては、該A成分の合計100質量部に対して0.001〜1質量部であることが好ましい。
【0134】
このようにして得られたウレタンプレポリマーとA3成分との反応は、溶媒の存在下または非存在下で両者を窒素あるいはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下中、25〜120℃で0.5〜24時間反応させればよい。溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブタノール、2−ブタノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、DMF、DMSO、THFなどを使用することができる。
【0135】
各成分の配合割合、A成分の特性
上記方法において反応に使用するA1成分、A2成分、A3成分、およびA5成分の量比は適宜決定すればよいが、得られるポリウレタン−ウレア樹脂の耐熱性、接着強度、フォトクロミック特性(発色濃度、退色速度、耐候性など)などのバランスの観点から、次のような量比とすることが好ましい。すなわち、A1成分に含まれる水酸基の総モル数をn1とし、A2成分に含まれるイソシアネート基の総モル数をn2とし、A3成分に含まれるイソシアネート基と反応しうる基(具体的にはアミノ基、水酸基、メルカプト基及び/又はカルボキシル基)の総モル数をn3とし、A5成分に含まれるイソシアネート基と反応しうる基(具体的にはアミノ基、水酸基、メルカプト基及び/又はカルボキシル基)の総モル数をn5としたときに、n1:n2:n3:n5=0.3〜0.89/1.0/0.1〜0.69/0.01〜0.2となる量比、特にn1:n2:n3:n5=0.34〜0.83/1.0/0.15〜0.60/0.02〜0.15となる量比とすることが好ましく、n1:n2:n3:n5=0.4〜0.78/1.0/0.2〜0.5/0.02〜0.1となる量比とすることが最も好ましい。
【0136】
このような反応により得られたポリウレタン−ウレア樹脂は、反応溶媒に溶解しているまま使用しても構わないが、必要に応じて溶媒を留去する、或いは水などの貧溶媒中に反応液を滴下し、ポリウレタン−ウレア樹脂を沈降・濾過後、乾燥させるなどの後処理を行って、A成分として使用すればよい。
【0137】
A6成分:反応停止剤
上記反応により得られたポリウレタン−ウレア樹脂の末端にイソシアネート基が残存している場合には、イソシアネート基と反応する活性水素を有する反応停止剤を添加し、末端を不活性化することが好ましい。末端にイソシアネート基が残存している場合には、フォトクロミック特性が低下する傾向が見られる。イソシアネート基が残存するかどうかは、赤外線吸収スペクトルを測定することにより判断可能である。
【0138】
また、後述する(D)成分である分子内に少なくとも1つのイソシアネート基を有するイソシアネート化合物を用いて光学物品の密着強度をより向上させる場合には、ポリウレタン−ウレア樹脂は、その末端が非反応性基により停止されている必要がある。末端が非反応性基により停止されているポリウレタン−ウレア樹脂は、末端がイソシアネート基であるポリウレタン−ウレア樹脂と、分子内に1つのイソシアネート基と反応しうる基を有する反応停止剤とを反応させることにより得ることができる。
【0139】
前述のイソシアネート基と反応しうる基とは、アミノ基(−NH、及び−NH(R))、水酸基(−OH)、メルカプト基(−SH:チオール基)、カルボキシル基〔−C(=O)OH〕、又は酸クロライド基〔−C(=O)OCl〕が挙げられる。
【0140】
この反応停止剤は、イソシアネート基と反応しうる基を分子内に1つだけ有する。イソシアネート基と反応しうる基が分子内に2つ以上存在すると、ポリウレタン−ウレア樹脂が高分子量化し、有機溶剤希釈時に高粘度になるため、塗膜形成が困難になり、また、得られるフォトクロミック性接着剤の接着性(光学シートとの密着性)を低下させてしまう。該反応停止剤を、ポリウレタン−ウレア樹脂の末端に導入することにより、ウレタン−ウレア樹脂の数平均分子量を制御することが可能となり、密着性、耐熱性、及びフォトクロミック特性を容易に目的の物性に調整できる。
【0141】
反応停止剤としては、アミン、アルコール、チオール、及びカルボン酸を用いることができる。具体的には、ノルマルブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、ジブチルアミン、ジイソプロピルアミン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、酢酸等を挙げることができる。
【0142】
また、上記したA5成分である機能性付与化合物を反応停止剤として使用することにより、ポリウレタン−ウレア樹脂に機能性付与化合物を導入すると同時に末端のイソシアネート基を不活性化することもできる。つまり、A5成分を後述するA6成分として使用することもできる。
【0143】
以下に本発明において、好適に使用できる反応停止剤(A6成分)を説明する。
【0144】
A6成分:反応停止剤
反応停止剤として好ましい化合物は、下記一般式(8)、及び(9)で示すことができる。
【0145】
【化14】

【0146】
(式中、
39は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシカルボニル基または水素原子であり、
40は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはエステル基である。)
39が水素原子である化合物をA5成分として用いた場合には、ポリウレタン−ウレア樹脂の末端は、−NH(R40)となるが、この−NH(R40)は、他のポリマー、およびイソシアネート化合物とは実質的に反応しない。そのため、−NH(R40)は、イソシアネート基と反応しうる基には該当しない。
【0147】
上記一般式(8)において、R39は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシカルボニル基または水素原子である。中でも、R39は、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシカルボニル基、または水素原子であることが好ましい。前記アリール基、及びアラルキル基は、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子を置換基として有してもよい。
【0148】
好適なR39を例示すれば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、フェニル基、ベンジル基、1,1−ジメチルベンジル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基、又は水素原子等が挙げられる。
【0149】
また、R40は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはアルキルオキシカルボニル基である。中でも、R40は、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはアルキルオキシカルボニル基であることが好ましい。前記アリール基は、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子を置換基として有してもよい。
【0150】
好適なR40を例示すれば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、フェニル基、ベンジル基、1,1−ジメチルベンジル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、又はカルボキシプロピル基等が挙げられる。
【0151】
下記一般式(9)
【0152】
【化15】

【0153】
(式中、
41は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはアルキルオキシカルボニル基であり、
Zは、水酸基、カルボキシル基、またはチオール基である。)
で示される化合物も、反応停止剤として好適に使用できる。
【0154】
上記一般式(9)において、R41は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはアルキルオキシカルボニル基であり、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはアルキルオキシカルボニル基であることが好ましい。このアリール基、及びアラルキル基は、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子を置換基として有してもよい。好ましい基としては、炭素数1〜5のアルキル基、フェニル基、ハロゲン原子を有するフェニル基が挙げられる。好適なR41を例示すれば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、フェニル基、ベンジル基、1,1−ジメチルベンジル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、及びカルボキシプロピル基等が挙げられる。
【0155】
上記一般式(9)におけるZは、ポリウレタン−ウレア樹脂末端に存在するイソシアネート基と反応しうる基であり、具体的には水酸基、カルボキシル基、またはチオール基であり、好ましくは水酸基である。
【0156】
上記一般式(8)、及び(9)で示される具体的な化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、tert−ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、4−ヘプチルアミン、オクチルアミン、1,1−ジプロピルブチルアミン、フェニルアミン、ベンジルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジ−tert−ブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、メチルエチルアミン、メチルブチルアミン、メチルペンチルアミン、メチルヘキシルアミン、メチルヘプチルアミン、メチルオクチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、エチルペンチルアミン、エチルヘキシルアミン、エチルヘプチルアミン、エチルオクチルアミン、プロピルブチルアミン、イソプロピルブチルアミン、プロピルペンチルアミン、プロピルヘキシルアミン、プロピルヘプチルアミン、プロピルオクチルアミンなどのアミン類;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2−ブタノール、tert−ブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デカノール、2−デカノールなどのアルコール類;メタンチオール、エタンチオール、1−プロパンチオール、2−プロパンチオール、1−ブタンチオール、2−ブタンチオール、プロパンチオール、ヘキサンチオール、ヘプタンチオール、オクタンチオール、ドデカンチオール、2−メチル−1−ブタンチオール、2−メチルプロパンチオール、3−メチル−2−ブテンチオール、1,1−ジメチルヘプタンチオール、シクロヘキサンチオール、シクロペンタンチオール、ベンゼンチオール、ベンゼンメタンチオール、2,6−ジメチルベンゼンチオールなどのチオール類;酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸などのカルボン酸類などが挙げられる。
【0157】
以上の反応停止剤は、単独で用いても、2種類以上を混合して用いても構わない。
【0158】
A6成分の配合割合、A成分の特性
A6成分は、上記したA5成分と同様の方法で反応させてポリウレタン−ウレア樹脂に導入することができる。
【0159】
A1成分、A2成分、A3成分及びA6成分の量比は適宜決定すればよいが、得られるポリウレタン−ウレア樹脂の耐熱性、接着強度、フォトクロミック特性(発色濃度、退色速度、耐候性など)などのバランスの観点から、次のような量比とすることが好ましい。前述のように、A1成分、A2成分、及びA3成分の量比は、A1成分に含まれる水酸基の総モル数をn1とし、A2成分に含まれるイソシアネート基の総モル数をn2とし、A3成分に含まれるイソシアネート基と反応しうる官能基(具体的にはアミノ基、水酸基、メルカプト基及び/又はカルボキシル基)の総モル数をn3とし、前記A6成分に含まれるイソシアネート基と反応しうる基の総モル数をn6としたときに、n1:n2:n3:n6=0.30〜0.89:1:0.1〜0.69:0.01〜0.20となる量比とすることが好ましい。得られるフォトクロミック組成物(フォトクロミック性接着剤)が、優れた密着性、耐久性、フォトクロミック特性を発揮するためには、好ましくは、n1:n2:n3:n6=0.34〜0.83:1:0.15〜0.6:0.02〜0.15、より好ましくは、n1:n2:n3:n6=0.4〜0.78:1:0.2〜0.5:0.02〜0.1である。ここで、上記n1、n2、n3、及びn6は、各成分として用いる化合物の使用モル数と該化合物1分子中に存在する各基の数の積として求めることができる。
【0160】
なお、A6成分導入前のA成分は、末端にイソシアネート基を有するものである。そのため、n1とn3との総和(n1+n3)は、n2よりも小さい値となる(n1+n3<n2)。そして、A成分の末端を不活性化するためには、n6が、n2と、n1とn3との総和の差(n2−(n1+n3))以上とならなければならない。A成分を合成する場合、最も好ましい配合は、上記量比を満足し、かつ、n2と、n1、n3、及びn6との総和が等しくなる場合である(n2=n1+n3+n6)。
【0161】
A成分の末端を不活性化するに際し、n1、n3、及びn6の総和がn2以上(n2≦n1+n3+n6)となる配合量で、A6成分を使用することもできる。この場合、過剰に加えたA6成分は、再沈することにより除去してもよい。また、過剰のA6成分が本発明の効果を損なわない程度の量である場合には、そのまま、フォトクロミック組成物を形成することもできる。この場合、フォトクロミック組成物を形成した際、該A6成分はB成分と反応して消費されると考えられる。そのため、過剰のA6成分が本発明の効果を損なわない程度の量であれば、特に問題とならない。ただし、本来ポリウレタン−ウレア樹脂の生成に使用されるべきA6成分中のイソシアネート基が消費されてしまうため、最も好ましい態様は、n1+n3+n6=n2となるようにA6成分を使用することである。
【0162】
なお、A5成分のみをA6成分の代わりに使用した場合には、前記n6は、n5と読み替えることができる。また、反応停止剤として、A5成分とA6成分とを併用した場合には、前記n6は、n6とn5の合計(n6+n5)と読み替えることができる。
【0163】
また、反応停止剤、すなわちA5、A6成分を使用して得られるポリウレタン−ウレア樹脂((A)成分)は、これら反応停止剤によって、分子量、耐熱性、ウレア結合量が大きく変化するものではない。そのため、これら反応停止剤を使用して得られるポリウレタン−ウレア樹脂も、ポリエチレンオキシド換算の数平均分子量は5千〜15万、特に8千〜10万であり、1万〜6万であることが最も好ましく、ウレア結合は単位分子量(1,000)当たり0.05〜4.0個存在することが好ましく、 耐熱性は60〜200℃、特に80〜150℃であることが好ましい。
【0164】
B成分:フォトクロミック化合物
B成分として用いるフォトクロミック化合物をとしては、クロメン化合物、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、スピロピラン化合物などの公知のフォトクロミック化合物を何ら制限なく使用することが出来る。これらは、単独使用でもよく、2種類以上を併用しても良い。
【0165】
上記のフルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、スピロピラン化合物およびクロメン化合物としては、例えば特開平2−28154号公報、特開昭62−288830号公報、WO94/22850号パンフレット、WO96/14596号パンフレットなどに記載されている化合物を挙げることができる。
【0166】
特に、クロメン化合物としては上記特許文献に記載されたもの以外にも、優れたフォトクロミック性を有するクロメン化合物が知られており、このようなクロメン化合物はB成分として好適に使用できる。このようなクロメン化合物としては、特開2001−031670号、特開2001−011067号、特開2001−011066号、特開2000−344761号、特開2000−327675号、特開2000−256347号、特開2000−229976号、特開2000−229975号、特開2000−229974号、特開2000−229973号、特開2000−229972号、特開2000−219678号、特開2000−219686号、特開平11−322739号、特開平11−286484号、特開平11−279171号、特開平09−218301号、特開平09−124645号、特開平08−295690号、特開平08−176139号、特開平08−157467号、米国特許5645767号公報、米国特許5658501号公報、米国特許5961892号公報、米国特許6296785号公報、日本国特許第4424981号公報、日本国特許第4424962号公報、WO2009/136668号パンフレット、WO2008/023828号パンフレット、日本国特許第4369754号公報、日本国特許第4301621号公報、日本国特許第4256985号公報、WO2007/086532号パンフレット、特開平2009−120536号、特開2009−67754号、特開2009−67680号、特開2009−57300号、日本国特許4195615号公報、日本国特許4158881号公報、日本国特許4157245号公報、日本国特許4157239号公報、日本国特許4157227号公報、日本国特許4118458号公報、特開2008−74832号、日本国特許3982770号公報、日本国特許3801386号公報、WO2005/028465号パンフレット、WO2003/042203号パンフレット、特開2005−289812号、特開2005−289807号、特開2005−112772号、日本国特許3522189号公報、WO2002/090342号パンフレット、日本国特許第3471073号公報、特開2003−277381号、WO2001/060811号パンフレット、WO00/71544号パンフレット等に開示されている。
【0167】
これら他のフォトクロミック化合物の中でも、発色濃度、初期着色、耐久性、退色速度などのフォトクロミック特性の観点から、インデノ(2,1−f)ナフト(2,1−b)ピラン骨格を有するクロメン化合物を1種類以上用いることがより好ましい。さらにこれらクロメン化合物中でもその分子量が540以上の化合物は、発色濃度および退色速度に特に優れるため好適である。
【0168】
このようなクロメン化合物は下記の一般式で表すことができる。
【0169】
【化16】

【0170】
前記一般式(10)で示される構造を有するクロメン化合物は、特にその置換基を制限されることなく、公知の置換基を有していても良い。
【0171】
前記クロメン化合物の中でも、前述の通り、発色濃度、初期着色、耐久性、退色速度などのフォトクロミック特性の観点から、下記一般式(11)で示されるインデノ(2,1−f)ナフト(1,2−b)ピラン構造を有するクロメン化合物がより好ましい。
【0172】
【化17】

【0173】
前記一般式(11)で示される構造を有するクロメン化合物は、特にその置換基を制限されることなく、公知の置換基を有していても良い。
【0174】
本発明において好適に使用できるフォトクロミック化合物を例示すると、以下のものが挙げられる。
【0175】
【化18】

【0176】
【化19】

【0177】
【化20】

【0178】
【化21】

【0179】
【化22】

【0180】
【化23】

【0181】
【化24】

【0182】
【化25】

【0183】
【化26】

【0184】
フォトクロミック組成物におけるB成分の配合量は、フォトクロミック特性の観点から、A成分100質量部に対して0.01〜20質量部とすることが好適である。上記配合量が少なすぎる場合には、十分な発色濃度や耐久性が得られない傾向があり、多すぎる場合には、フォトクロミック化合物の種類にもよるが、A成分に対しフォトクロミック組成物が溶解しにくくなり、組成物の均一性が低下する傾向があるばかりでなく、接着力(密着力)が低下する傾向もある。発色濃度や耐久性といったフォトクロミック特性を維持したまま、プラスチックフィルムなどの光学基材との密着性を十分に保持するためには、B成分の添加量はA成分100質量部に対して0.5〜10重量、特に1〜7質量部とすることがより好ましい。
【0185】
任意成分
フォトクロミック組成物は、A成分およびB成分以外に、任意成分として(C)有機溶媒(以下、単にC成分ともいう。)、(D)分子内に2つ以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物、その他成分を含んでいてもよい。以下、これら任意成分について説明する。
【0186】
C成分:有機溶媒
フォトクロミック組成物に有機溶媒を配合することにより、ポリウレタン−ウレア樹脂(A成分)とフォトクロミック化合物(B成分)、さらには、必要に応じて配合されるその他の成分が混合しやすくなり、組成物の均一性を向上させることができる。また、本発明のフォトクロミック組成物の粘度を適度に調整することができ、光学シート又はフィルムに本発明のフォトクロミック組成物を塗布するときの操作性および塗布層厚の均一性を高くすることもできる。なお、光学シート又はフィルムとして有機溶媒に侵され易い材質のものを使用した場合には、外観不良が生じたり、フォトクロミック特性が低下したりするという問題が発生することが懸念されるが、このような問題は、後述する方法を採用することにより回避することが出来る。また、本発明のフォトクロミック組成物においては、後述するように、様々な種類の溶媒が使用できるので、溶媒として光学シート又はフィルムを侵し難い溶媒を選択して使用することによっても上記問題の発生を防止することができる。
【0187】
C成分として好適に使用できる有機溶媒を例示すれば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等の多価アルコール誘導体;ジアセトンアルコール;メチルエチルケトン、ジエチルケトンなどのケトン類;トルエン;ヘキサン;ヘプタン;酢酸エチル、酢酸−2−メトキシエチル、酢酸−2−エトキシエチルなどのアセテート類;DMF;DMSO;THF;シクロヘキサノン;及びこれらの組み合せを挙げることができる。
【0188】
これらの中から、使用するA成分の種類や光学シート又はフィルの材質に応じて適宜選定して使用すればよい。たとえば、光学シート又はフィルムとしてポリカーボネート樹脂製のものを使用し、直接本発明のフォトクロミック組成物を塗布する場合には、溶媒としては、アルコール類、又は多価アルコール誘導体を使用することが好ましい。
【0189】
また、光学シート又はフィルムに本発明のフォトクロミック組成物を塗布したときの塗布層或いは後述する方法を採用した場合におけるフォトクロミック接着性シート平滑性を保持しながら、有機溶剤が残りにくく、乾燥速度を速めることができるという理由から、C成分としては90℃未満の沸点を有する有機溶媒と、90℃以上の沸点を有する有機溶剤を混合して用いることが好適である。沸点が90℃未満、90℃以上の有機溶媒の配合割合は、使用する他の成分に応じて適宜決定すればよい。中でも、優れた効果を発揮するためには、全有機溶媒量を100質量%としたとき、沸点が90℃未満の有機溶媒が20〜80質量%、沸点が90℃以上の有機溶媒が80〜20質量%とすることが好ましい。
【0190】
また、C成分を添加する場合の添加量は、前記したようなC成分添加により得られる効果の観点から、A成分100質量部に対して、5〜900質量部、特に20〜750質量部とすることが好ましく、40〜400質量部とすることが最も好ましい。
【0191】
D成分:分子内に1つ以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物
前記フォトクロミック組成物には、イソシアネート基を有するイソシアネート化合物を配合することもできる。D成分としてさらに分子内に少なくとも1つのイソシアネート基を有するイソシアネート化合物を用いることによって、後述する光学物品の密着強度をより向上させることができる。
【0192】
分子内に少なくとも1つのイソシアネート基を有するイソシアネート化合物としては、公知のイソシアネート化合物を何ら制限なく使用することができる。これらは、単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0193】
D成分を、前述のA成分に添加することにより、優れた密着性を発揮する要因については定かではないが、下記のように考えられる。D成分に含まれるイソシアネート基の一部が、本発明のフォトクロミック組成物中に含まれる水分や、環境中の湿度(すなわち、水分の存在下)により加水分解してアミノ基を生じる。この生じたアミノ基が、D成分に残存するイソシアネート基と反応することによりウレア結合を有する反応生成物となる。ここで生じた反応生成物のウレア結合が、A成分中に存在するウレア結合、及びウレタン結合との間に水素結合を形成することで、フォトクロミック性接着層の凝集力が向上し、密着性、及び耐熱性が向上すると考えられる。特に、熱水と接触させた後でも、密着性(光学シートと該接着層との密着性)を高く維持することができる。この効果は、2液型のポリウレタン樹脂を使用した場合よりも、優れている。
【0194】
このD成分の反応生成物は、本発明のフォトクロミック組成物、及び得られるフォトクロミック性接着剤(層)の赤外吸収スペクトルを比較することで確認できる。フォトクロミック化合物と該接着剤層において、イソシアネート基の吸収の減少を確認することで反応生成物の生成を確認できる。この反応生成物の確認は、例えば、イソシアネート基とメチレン基とのピーク強度比から確認できる。フォトクロミック組成物では、イソシアネート基由来の吸収が確認できる。一方、水分の存在下で製造されたフォトクロミック積層体から取り出したフォトクロミック性接着層では、該イソシアネート基の吸収が時間と共に減少し、最終的には消失することが確認できる。また、該接着層においては、イソシアネート基の吸収の減少と共に、ウレア結合の吸収が増加することも確認できる。このことから、該接着層には、D成分の反応生成物(ウレア結合を有する反応生成物)が存在することが確認できる。
【0195】
上記のイソシアネート化合物としては、前述のA2成分として例示したイソシアネート化合物に加えて、1−アダマンチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、イソプロピルイソシアネート、ブチルイソシアネート、tert−ブチルイソシアネート、ヘキサンイソシアネート、ノニルイソシアネート、ドデシルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、4−メチルシクロヘキシルイソシアネート、アリルイソシアネート、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート、1,1−ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート、イソシアン酸m−トリル、イソシアン酸フェニル、3,5−ジ(トリフルオロメチル)フェニルイソシアネート、4−フルオロフェニルイソシアネート、4−(トリフルオロメトキシ)フェニルイソシアネート、3−(トリフルオロメチル)フェニルイソシアネート、1−イソシアナト−2,4−ジメトキシベンゼン、イソシアナト酢酸エチル、2−イソシアナトベンゾイルクロリド、3−イソシアナト−1,2,4,5−テトラメチルベンゼン、4−イソシアナト−4−プロピルペンタン、1−イソシアナト−1−プロペン、3−ブロモ−2−(4−イソシアナトフェニル)チオフェン、イソシアナトプロピルジメチルシリルシクロヘキシルポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン、イソシアナトプロピルジメチルシリルイソブチルポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン等の分子内に1つのイソシアネート基を有する化合物を挙げることができる。
【0196】
また、1,3,5−トリス(6−イソシアナトヘキシル)ビュレット、(2,4,6−トリオキトリアジン−1,3,5(2H,4H,6H)トリイル)トリス(ヘキサメチレン)イソシアネート、1−メチルベンゼン−2,4,6−トリイルトリイソシアネート、4,4’,4’ ’−メチリジントリス(イソシアナトベンゼン)、メチルシラントリイルトリスイソシアネート、2,6−ジイソシアナトカプロン酸2−イソシアナトエチル、2,6−ビス[(2−イソシアナトフェニル)メチル]フェニルイソシアネート、トリス(3−メチル−6−イソシアナトベンゾイル)メタン、トリス(4−メチル−3−イソシアナトベンゾイル)メタン、トリス(3−イソシアナトフェニル)メタン、トリス(3−メチル−4−イソシアナトベンゾイル)メタン、トリス(4−メチル−2−イソシアナトベンゾイル)メタン等の分子内に3つのイソシアネート基を有する化合物を挙げることができる。また、イソシアネート基を3つ有するイソシアヌレート化合物を挙げることができる。
【0197】
さらには、テトライソシアナトシラン、[メチレンビス(2,1−フェニレン)]ビスイソシアネート等の分子内に4つのイソシアネート基を有する化合物を挙げることができる。
【0198】
また、分子内に2つ以上のイソシアネート基を有するイソシネート化合物に対して、前述のA3成分を反応させて得られる、イソシアネート化合物(D’)(以下、単にD’成分ともいう。)を本発明のD成分として用いることもできる。
【0199】
上記D’成分を合成する際には、ジイソシアネート化合物である前述のA2成分と、前述のA3成分であるアミノアルコール化合物、またはジオール化合物とを反応させたものであることが好ましい。その中でも、ジイソシアネート化合物としては、テトラメチレン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、オクタメチレン−1,8−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサン−1,6−ジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネ−ト、又はシクロブタン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、2,4−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、2,6−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物、ヘキサヒドロトルエン−2,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン−2,6−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,3−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,4−ジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネートを使用することが好ましい。
【0200】
一方、アミノアルコール化合物としては、2−アミノエタノール、3−アミノプロパノール、4−アミノブタノール、5−アミノペンタノール、6−アミノヘキサノール、2−ピペリジンメタノール、3−ピペリジンメタノール、4−ピペリジンメタノール、2−ピペリジンエタノール、4−ピペリジンエタノールを使用することが好ましい。
【0201】
また、ジオール化合物としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,4−ヘプタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−ビス(ヒドロキシエチル)−シクロヘキサン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコールを使用することが好ましい。
【0202】
該D’成分は、分子内に1つ以上のイソシアネート基が存在していなければならない。そのため、該D’成分を合成する際には、A2成分のイソシアネート基の総モル数が、A3成分のイソシアネート基と反応しうる基の総モル数よりも、大きくならなければならない。
【0203】
前記D成分に含まれるイソシアネート基は、ブロック剤で保護されている状態で使用することもできる。ブロック剤としては、例えば、酸アミド系、ラクタム系、酸イミド系、イミダゾール系、尿素系、オキシム系化合物などが使用できる。具体的には、アセトアニリド、酢酸アミド、ε−カプロラクタム、コハク酸イミド、マレイン酸イミド、ジメチルピラゾール、チオ尿素、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトオキシムなどを挙げる事ができる。
【0204】
D成分(D’成分)に含まれるイソシアネート基の数は、1つでも構わないが、2つ以上であることが好ましい。D成分の分子内に、2つ以上のイソシアネート基を有することにより、フォトクロミック性接着剤層を形成する際に、分子量が大きいウレア樹脂(D成分の反応生成物)を形成できる。その結果、D成分の反応生成物とA成分との凝集力が向上するため密着性向上の効果が高くなると考えられる。一方で、D成分の分子内に、4つ以上のイソシアネート基が存在する場合には、網目状に架橋したウレア樹脂で形成するため、A成分との間で相分離が生じやすくなり、本発明のフォトクロミック接着層が白濁する傾向がある。そのため、D成分(D’成分を含む)は、分子内に2つ、または3つのイソシアネート基を有する化合物が好ましく、特に、2つのイソシアネート基を有する化合物が好ましい。
【0205】
また、D成分は、耐候性の観点から脂肪族イソシアネート化合物、および脂環式イソシアネート化合物から選ばれるイソシアネート化合物であることが好ましい。芳香族イソシアネート化合物は、A成分との間で相分離が生じやすく、本発明のフォトクロミック接着層が白濁する傾向が見られる。これは、芳香族イソシアネート化合物が脂肪族イソシアネート化合物、および脂環式イソシアネート化合物よりも反応性が速く、さらに凝集力が高いことに起因していると考えている。この白濁の観点からも、D成分は、脂肪族イソシアネート化合物、および脂環式イソシアネート化合物から選ばれるイソシアネート化合物であることが好ましい。
【0206】
本発明において、前記D成分(前記D’成分を含む)の分子量は、特に制限されるものではないが、1000未満であることが好ましい。該D成分の分子量が1000以上の場合、得られるフォトクロミック性接着層の耐熱性、および膜強度が低下する傾向がある。これは、高分子量化したイソシアネート化合物を配合すると、D成分の反応生成物におけるウレア結合以外の構造部に影響を与えるものと考えられる。また、密着性を向上させるために、イソシアネート基のモル数をある一定量以上存在させようとした場合、分子量が大きいイソシアネート化合物ではA成分に対する配合量が増加する。その結果、該反応生成物のウレア結合以外の構造部が影響を与え易くなると考えられる。この点からも、D成分の分子量は、1000未満であることが好ましい。以上のことから、D成分の分子量は、より好ましくは750以下、最も好ましくは600以下である。当然のことながら、前記D’成分の分子量も、同様の理由で1000未満であることが好ましい。このD成分(D’成分)は、前記の通り、ポリマーではない方が好ましい。そのため、前記D成分(D’成分)の分子量は、D成分(D’成分)そのものの分子量を指す。D成分の分子量の下限は、その単体化合物の分子量であり、特に制限されるものではないが、100である。
【0207】
D成分の配合量
フォトクロミック組成物におけるD成分の配合量は、密着性、耐熱性、及びフォトクロミック特性の観点から、A成分100質量部に対して0.01〜20質量部とすることが好適である。上記配合量が少なすぎる場合には、十分な密着性、及び耐熱性の向上効果が得られず、多すぎる場合には、該フォトクロミック組成物から得られる接着層の白濁、密着性の低下、フォトクロミック化合物の耐久性低下などが起こる傾向がある。発色濃度や耐久性といったフォトクロミック特性を維持したまま、プラスチックフィルムなどの光学基材との密着性を向上させるためには、D成分の配合量は、A成分100質量部に対して0.1〜10質量部、特に0.5〜5質量部とすることが好ましい。この際、D成分のイソシアネート基の割合は、A成分100質量部に対して、0.01〜10.0質量部、より好ましくは0.02〜5.0質量部、もっとも好ましくは0.1〜3.0質量部である。ここで、イソシアネート基の量は、B成分の分子量と1分子当たりのイソシアネート基の数から求めることができる。
【0208】

フォトクロミック組成物には水を配合することもできる。特に、イソシアネート化合物であるD成分を添加する際に水を配合することにより、本発明のD成分に含まれるイソシアネート基を効率的に加水分解することができる。この水は、本発明のフォトクロミック組成物に最初から配合することもできる。ただし、フォトクロミック組成物の保存安定性を考慮すると、フォトクロミック組成物の使用時、つまり、該組成物により塗膜を形成し、光学シートを張り合わせる際に配合することが好ましい。また、この水は、下記に詳述するが、フォトクロミック性接着シートを形成する場合に、その雰囲気下に存在する湿気で代用することもできる。D成分に含まれるイソシアネート基の加水分解は、フォトクロミック組成物を光学シートにコートして塗膜を形成した後に、その環境下の水分(湿気)と接触することによっても進行する。
【0209】
水の配合量は、特に制限されるものではなく、下記に詳述する、その環境下の湿気でも対応できる。好ましい配合量を記載すれば、D成分に含まれるイソシアネート基のモル数に対して、0.01倍モル〜5倍モル、好ましくは0.05倍モル〜3倍モル、より好ましくは0.1倍モル〜2倍モルの範囲であることが好ましい。
【0210】
その他の成分
本発明で使用するフォトクロミック組成物には、フォトクロミック化合物の耐久性の向上、発色速度の向上、退色速度の向上や製膜性のために、界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等の添加剤を添加しても良い。添加するこれら添加剤としては、公知の化合物が何ら制限なく使用される。
【0211】
例えば、界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の何れも使用できるが、フォトクロミック組成物への溶解性からノニオン系界面活性剤を用いるのが好ましい。好適に使用できるノニオン性界面活性剤を具体的に挙げると、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール・ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール・フィトスタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンラノリン・ラノリンアルコール・ミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン・脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物、単一鎖ポリオキシエチレンアルキルエーテル、さらにはシリコーン系やフッ素系の界面活性剤等を挙げることができる。
【0212】
界面活性剤の使用に当たっては、2種以上を混合して使用しても良い。界面活性剤の添加量は、ポリウレタン−ウレア樹脂(A成分)100質量部に対し、0.001〜5質量部の範囲が好ましい。
【0213】
また、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤としては、ヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェーノール酸化防止剤、フェノール系ラジカル補足剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物等を好適に使用できる。これら酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤は、2種以上を混合して使用しても良い。さらにこれらの添加剤の使用に当たっては、界面活性剤と酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤を併用して使用しても良い。これら酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤の添加量は、ポリウレタン−ウレア樹脂(A成分)100質量部に対し、0.001〜20質量部の範囲が好ましい。但し、これらの添加剤を使用しすぎると、ポリカーボネート樹脂製の光学シート又はフィルムなどへのフォトクロミック組成物の密着性が低下するため、その添加量は好ましくは7質量部以下、より好ましくは3質量部以下、最も好ましくは1質量部以下である。
【0214】
フォトクロミック組成物の製造方法
前記フォトクロミック組成物は、上記A成分及びB成分、並びに必要に応じて使用するC成分、D成分(D’成分)、及びその他の成分を混合することにより製造することができる。各成分を混合する順序は、特に制限されるものではない。
【0215】
たとえば、有機溶媒を使用しない場合、各成分を溶融混練してフォトクロミック組成物としペレット化することも可能であり、そのままシート成型することも可能である。また、有機溶剤を使用する場合には、各成分を有機溶剤に溶かすことでフォトクロミック組成物を得ることができる。
【0216】
このようにして得られたフォトクロミック組成物は、フォトクロミック性接着剤、特にポリカーボネート樹脂製の光学シート又はフィルムどうしを接合するためのフォトクロミック性接着剤として好適に使用できる。
【0217】
本発明においては、このように製造したフォトクロミック組成物から第1接着層を形成する。次に、第2接着層を形成する接着性組成物について説明する。
【0218】
第2接着層を形成する接着性組成物
第2接着層は、前記フォトクロミック組成物からなる第1接着層の両側に積層されるものである。そして、この第2接着層上に、下記に詳述する光学シート又はフィルムが積層(接着)される。第2接着層/第1接着層/第2接着層の順で積層された接着層を介して2枚の対向する光学シート又はフィルムを接合することにより、優れた密着性を発揮することができる。
【0219】
この第2接着層を形成する接着性組成物は、光学シート又はフィルムと密着するものであれば、特に制限されるものではない。中でも、該接着性組成物は、ウレタン結合、もしくはウレア結合を有する化合物(以下、単にウレタン化合物ともいう。)を含んでいることが好ましい。該ウレタン化合物を使用することにより、前記フォトクロミック組成物からなる第1接着層とより強固な密着力が得られる。これは、本発明の第1接着層に含まれるポリウレタン−ウレア樹脂と、該ウレタン化合物との間で水素結合などの分子間力が生じるためと考えている。
【0220】
接着性組成物として使用できる該ウレタン化合物としては、ウレタン(メタ)アクリレート、2液型ウレタン、湿気硬化型ウレタン、ウレタンデッドポリマーなどが挙げられる。
【0221】
ウレタン(メタ)アクリレートとしては、前記(A2)成分で説明したポリイソシアネート化合物と、前記(A1)成分で説明したジオール又はトリオールなどのポリオール化合物を反応させて得られたイソシアネート化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの分子内に水酸基と(メタ)アクリレート基を有する化合物との反応性生物を挙げることができる。
【0222】
2液型ウレタンとしては、公知の2液型ウレタン樹脂を使用することができる。これは、分子鎖末端にイソシアネート基を有する化合物と、分子鎖末端にイソシアネート基と反応し得る期(具体的には、水酸基、アミノ基等)を有する化合物の混合物を挙げることができる。
【0223】
湿気硬化型ウレタンとしては、公知の湿気硬化型ウレタン樹脂を使用することができる。分子中に2個以上の水酸基を有するポリオールと、過剰量のポリイソシアネート化合物を反応させて得られる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを挙げることができる。前記(A)成分の一部も、湿気硬化型ウレタン樹脂として使用することができる。
【0224】
ウレタンデッドポリマーは、上記ウレタン化合物と異なり、末端に反応性基を有しておらず、前記(A)成分において、末端を反応停止剤((A5)、(A6)成分)などで反応させたウレタン化合物を挙げることができる。
【0225】
この接着性組成物は、接合する対象物が、下記に詳述する光学シート又はフィルムと前記フォトクロミック組成物からなる第1接着層である。そのため、最も好ましくは、前記フォトクロミック組成物に用いた(A)ポリウレタン−ウレア樹脂と同じ成分で合成したウレタン化合物(ポリウレタン−ウレア樹脂)を使用することが好ましい。さらに、その他の成分として、フォトクロミック組成物において説明した、前記(C)成分、(D)成分、水、その他の添加成分を含むこともできる。
【0226】
また、この接着性組成物は、下記に詳述する第2接着層において詳細に説明するが、フォトクロミック化合物を含まない方が好ましい。この接着性組成物は、フォトクロミック化合物を含む組成物のものを除外するわけではないが、得られる積層体の密着性を考慮すると、フォトクロミック組成物は含まれない方が好ましい。
【0227】
また、この接着性組成物から形成される第2接着層は、第1接着層よりも薄くすることが好ましい。そのため、該接着性組成物は、第2接着層を形成する固形分(例えば、前記ウレタン化合物)100質量部に対して、該固形分を溶解させる有機溶媒、例えば、C成分で説明したアルコール類、多価アルコール誘導体、ケトン類などの有機溶媒を10〜900質量部含むようにすることが好ましい。中でも、多価アルコール誘導体を使用することが好ましい。
【0228】
以上のような接着性組成物を使用して、第2接着層を形成することができる。次に、本発明の積層体を構成する光学シート又はフィルムについて説明する。
【0229】
光学シート又はフィルム
本発明において、光学シート又はフィルム、及び光学基材としては、光透過性を有するシート又はフィルム、及び光学基材が特に制限なく使用できるが、入手の容易性および加工のし易さなどの観点から樹脂製のものを使用することが好適である。光学シート又はフィルム、及び光学基材の原料として好適な樹脂を例示すれば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ナイロン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などが挙げられる。その中でも、密着性が良好で射出成形法に対する適用性が高いという理由からポリカーボネート樹脂が特に好ましい。また、偏光フィルム(ポリビニルアルコール偏光フィルムをトリアセチルセルロース樹脂フィルムではさんだもの)も、本発明の光学フィルムとして使用することが可能である。また、本発明で使用する光学シート又はフィルムは、あらかじめメタノールなどの有機溶剤で洗浄・脱脂してもよい。さらに、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、やUVオゾン処理などを施しておくことも可能である。
【0230】
光学シート又はフィルムの厚みは、特に制限されるものではないが、2次加工性、2次加工後の安定性、さらに積層体の製造のし易さ等を考慮すると、50μm〜1mmであることが好ましい。
【0231】
次に、この光学シート又はフィルムを接合したフォトクロミック積層体について説明する。
【0232】
フォトクロミック積層体
本発明の積層体は、図1に示す構成を有する。すなわち、互いに対向する2枚の光学シート又はフィルム1が、(A)分子鎖中にウレア結合を有するポリウレタン−ウレア樹脂、及び(B)フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック組成物からなる第1接着層2と、前記第1接着層の両側に形成される第2接着層3とを介して接合されてなる。
【0233】
第2接着層を積層することにより、本発明の積層体の密着性をより向上させることができる。該第2接着層を積層することにより、積層体の密着性が向上する要因としては、以下の2点が挙げられる。
【0234】
1つ目は、フォトクロミック化合物などの光酸化劣化しやすい化合物を有する層を光学シート又は光学フィルムに直接接触させないことが挙げられる。これについては理由が定かではないが、光酸化劣化などにより分解して低分子量化したフォトクロミック化合物などが、接着層と光学シート又は光学フィルムの界面に移行することにより、両者の密着性を低下させると推察している。
【0235】
2つ目は、特に熱可塑性樹脂からなる光学シート又は光学フィルムに対して効果を発揮するが、硬化前、もしくは有機溶剤に溶解しているなど液体で流動性がある接着剤を直接光学シート又は光学フィルムに塗布することにより、光学シート又は光学フィルムを接着剤で侵しながら、また浸透することができるため、より密着力が向上すると考えられる。
【0236】
よって、第2接着層は、フォトクロミック化合物を含有しないことが好ましく、更には液体で流動性がある接着剤の状態で直接光学シート又は光学フィルムに塗布されることがより好ましい。第2接着層は、薄膜化することができる。そのため、有機溶媒を含んだ接着性組成物を、直接、光学シート又はフィルムに塗布しても、光学シート又はフィルムの透明性を大きく低下させることはない。
【0237】
この積層体において、フォトクロミック化合物を含む第1接着層の厚みは、良好なフォトクロミック特性、密着性等を考慮すると、5〜100μmであることが好ましく、20〜60μmであることがより好ましい。また、第2接着層は、優れた密着性を発揮するためには、第1接着層より薄く、1〜40μmの範囲であることが好ましく、2〜20μmであることがより好ましい。
【0238】
フォトクロミック積層体の製造方法
本発明において、積層体の製造方法は、第1接着層と、光学シート又は光学フィルムの間に第2接着層を積層する形態になっていれば、その製造方法は特に制限されない。中でも、独立して第1接着層を製造することが好ましい。
【0239】
第1接着層の製造方法(工程(1))
第1接着層は、用いるフォトクロミック組成物の性状に応じて、次のような方法により得ることができる。有機溶媒を含むフォトクロミック組成物を使用する場合には、平滑な基材上にフォトクロミック組成物を延展せしめた後、乾燥することにより有機溶媒を除去し、その後、基材を剥がすことにより、A成分と、該A成分中に分散したB成分とを含んでなる第1接着層(第1接着シート:フォトクロミック組成物からなる第1接着層)を形成することがきる。
【0240】
フォトクロミック組成物を延展する方法としては、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ディップ−スピンコート法、ドライラミネート法などの公知の方法が何ら制限なく用いられる。
【0241】
上記平滑な基材の材質としては、本発明で使用する溶剤に耐性があるもの、また本発明のポリウレタン−ウレア樹脂が剥離しやすいものが好ましく、具体的に例示すれば、ガラス、ステンレス、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、さらにはシリコン系やフッ素系などの剥離性を向上させるコート層を積層させたプラスチックフィルムなどが挙げられる。
【0242】
上記フォトクロミック組成物の塗布、さらに乾燥は、室温〜130℃の温度で、10〜100%RHの湿度下で実施されることが好ましい。特に、D成分を配合したフォトクロミック組成物を用いた場合には、湿度が存在する中で操作されることが好ましい。つまり、D成分が存在する場合、塗布、及び乾燥をこの条件で実施することにより、D成分の加水分解反応を促進し、より強固な密着力が得られる。上記のような湿度(水分の存在下)下で乾燥を行うことにより、フォトクロミック組成物に水を配合しなくとも、優れた性能を発揮する第1接着層(第1接着シート)とすることができる。また、水を配合した場合には、室温〜130℃の温度範囲で乾燥することにより該第1接着層を形成することができる。
【0243】
また、有機溶媒を含まないフォトクロミック組成物を使用する場合には、押出成型などにより、第1接着層を作製することも可能である。
【0244】
第2接着層を第1接着層の両側に積層して積層体を製造する方法
前記方法で得られた第1接着層を用いて、積層体を製造する方法は、特に制限されるものではなく、以下の方法が挙げられる。例えば、
1)あらかじめ光学シート又は光学フィルム上に第2接着層を積層させ、この第2接着層を有する2枚の光学シート又は光学フィルムで、第1接着層を挟みこむ方法、
2)第1接着層の両面に第2接着層を塗布しておき、その両面に光学シート又は光学フィルムを貼り付ける方法、
3)光学シート又は光学フィルム上に、第2接着層、第1接着層、第2接着層、さらには光学シート又は光学フィルムとなるように順次積層していく方法、
などが挙げられる。中でも、製造効率などの観点から、1)の方法を採用することが最も好ましい。
【0245】
より具体的に好適な製造方法を説明すると、
分子鎖中にウレア結合を有するポリウレタン−ウレア樹脂、及びフォトクロミック化合物を含むフォトクロミック組成物からなる第1接着層を形成する工程(1)と、
2枚の光学シート又はフィルム上に第2接着層を形成する工程(2)と、
工程(1)で得られた第1接着層と、工程(2)で得られた光学シート又はフィルム上に第2接着層を有する2枚の積層体とを、第1接着層と第2接着層とが接するように積層する工程(3)とを実施することが好ましい。
【0246】
前記工程(1)は、第1接着層を製造する方法で説明した通りである。
【0247】
前記工程(2)は、第2接着層を形成する接着性組成物が有機溶媒を含む場合には、先ず、光学シート又はフィルム上に、前記接着性組成物を延展し、乾燥すればよい。延展方法、及び乾燥方法としては、第1接着層と同様な方法で実施することができる。また、ウレタン(メタ)アクリレート系接着剤において、光重合開始剤を併用する場合においては、光硬化を実施することも可能である。また、該接着性組成物が有機溶媒を含まない場合には、共押出し成型により第2接着層と光学シート又はフィルムとを積層することができる。
【0248】
前記工程(3)は、工程(2)で得られた一方の積層体の第2接着層の上に、工程(1)で得られた第1接着層を積層し、さらに、工程(2)で得られた他方の積層体の第2接着層と該第1接着層とが接合するように配置してやればよい。なお、当然のことながら、工程(2)で得られた2枚の積層体で同時に第1接着層を挟み込んでもよい。
【0249】
工程(3)を実施することにより、フォトクロミック積層体を製造できる。得られたフォトクロミック積層体は、そのまま使用することもできるが、以下の方法により、その状態を安定化させて使用することもできる。具体的には、工程(3)を行った接合したばかりのフォトクロミック積層体を20℃以上60℃以下の温度で4時間以上静置しておくことが好ましい。静置する時間の上限は、特に制限されるものではないが、50時間もあれば十分である。また、静置に際しては、常圧で静置することも可能であるし、真空下で静置することも可能である。さらに、この静置したフォトクロミック積層体を80℃以上130℃以下の温度下、30分以上3時間以下放置しておくことが好ましい(以下、加熱処理とする)。この加熱処理して得られたフォトクロミック積層体は、その状態が非常に安定なものとなる。また、D成分を配合したフォトクロミック組成物を用いた場合には、室温〜100℃の温度、及び30〜100%RHの湿度下で加湿処理されることが好ましい。この加湿処理を実施することにより、フォトクロミック積層体中に存在するD成分由来のイソシアネート基を消失させることができ、フォトクロミック特性、及び密着性をより安定化させることが可能となる。さらには、加湿処理後に、常圧下、もしくは真空下において、40〜130℃で静置することにより、フォトクロミック積層体中に存在する過剰の水分を除去することができる。
【0250】
フォトクロミック積層体の用途
以上のような方法で本発明のフォトクロミック積層体を製造することができる。得られたフォトクロミック積層体は、そのまま使用することもできるが、光学シート又はフィルム上に、さらに合成樹脂層を設けて、眼鏡レンズ等の光学物品に適用することも可能である。
【0251】
該フォトクロミック積層体の光学シート又はフィルム上に、合成樹脂層を積層する方法は、公知の方法が採用できる。たとえば、上記本発明のフォトクロミック積層体を金型内に装着した後にポリカーボネート樹脂などの光学基材(たとえばレンズ本体:合成樹脂層)を構成するための熱可塑性樹脂を射出成形する方法(以下、単に射出成形法ともいう。)が挙げられる。また、光学基材(合成樹脂層)の表面に接着剤などにより上記本発明のフォトクロミック積層体を貼付する方法を挙げることができる。また、光学基材(合成樹脂層)を形成できる重合性モノマー中に上記フォトクロミック積層体を浸漬した後、該重合性モノマーを硬化させることにより、光学基材(合成樹脂層)中に該フォトクロミック積層体を埋設させて一体化することもできる。そのため、該光学物品は、熱可塑性樹脂、又は熱硬化性樹脂よりなるプラスチック光学基材(合成樹脂層)上に、上記フォトクロミック積層体を積層したものであってもよいし、該プラスチック光学基材(合成樹脂層)中に、上記フォトクロミック積層体を埋設したものであってもよい。
【0252】
なお、射出成形、および重合性単量体に浸漬する何れの方法においても、フォトクロミック積層体は、そのまま使用することもできるし、光学シート又は光学フィルム上に機能性膜を積層したものを使用することもできる。
【0253】
また、合成樹脂層を積層した光学物品は、その用途に応じた2次加工を行うことができる。例えば、眼鏡レンズ用途に使用する場合には、合成樹脂層上にハードコート層、反射防止膜層、防汚層、撥水層等を積層することができる。
【実施例】
【0254】
以下に例示するいくつかの実施例によって、本発明をさらに詳しく説明する。これらの実施例は、単に、本発明を説明するためのものであり、本発明の精神及び範囲は、これら実施例に限定されるものではない。
【0255】
以下に、実施例及び比較例で各成分として使用した化合物等の略号を纏める。
【0256】
(A)ポリウレタン−ウレア樹脂を形成する成分
A1成分;ポリオール化合物
PL1:旭硝子株式会社製エクセノール(ポリプロピレングリコール、数平均分子量1000)。
PL2:旭化成ケミカルズ株式会社製デュラノール(1,5−ペンタンジオールとヘキサンジオールを原料とするポリカーボネートジオール、数平均分子量500)。
PL3:旭化成ケミカルズ株式会社製デュラノール(1,5−ペンタンジオールとヘキサンジオールを原料とするポリカーボネートジオール、数平均分子量800)。
PL4:旭化成ケミカルズ株式会社製デュラノール(1,5−ペンタンジオールとヘキサンジオールを原料とするポリカーボネートジオール、数平均分子量1000)。
PL5:ダイセル化学株式会社製プラクセル(ポリカプロラクトンジオール、数平均分子量500)。
PL6:DIC株式会社製ポリライト(アジピン酸と1,4−ブタンジオールから成るポリエステルジオール、数平均分子量1000)。
PL7:旭化成ケミカルズ株式会社製デュラノール(プロパンジオールとブタンジオールを原料とするポリカーボネートジオール、数平均分子量800)。
【0257】
A2成分;ポリイソシアネート化合物
NCO1:イソホロンジイソシアネート。 (分子量222)
A3成分;アミノ基含有化合物(鎖延長剤)
CE1:イソホロンジアミン。
【0258】
A5成分;機能性付与化合物
HA1;1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ヒドロキシピペリジン。
HA2;1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−アミノピペリジン。
【0259】
A6成分:反応停止剤
HA3;ノルマルブチルアミン。
【0260】
B成分:フォトクロミック化合物
PC1:下記式で示される化合物
【0261】
【化27】

【0262】
C成分:有機溶媒
C6:THF(テトラヒドロフラン)。
C7:ジエチルケトン
D成分;イソシアネート化合物
D1:イソホロンジイソシアネート(分子量222)。
D2:4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(分子量262)。
【0263】
(A)ポリウレタン−ウレア樹脂(U1)の合成
撹拌羽、冷却管、温度計、窒素ガス導入管を有する三つ口フラスコに、数平均分子量800のポリカーボネートジオール252g、イソホロンジイソシアネート100gを仕込み、窒素雰囲気下、90℃で7時間反応させ、その後、25℃まで冷却し、THF 1,200mlを加えて溶解させた。ここに、鎖延長剤であるイソホロンジアミン18.9gを滴下し、25℃で1時間反応させた後、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−アミノピペリジン 8gを加え、25℃で1時間反応させた。次いで、溶媒を減圧留去し、ポリウレタン−ウレア樹脂(U1)を得た。得られたポリウレタン−ウレア樹脂について、赤外線吸収スペクトルを測定したところ、分子末端にイソシアネート基に由来する吸収は確認されず、分子末端にイソシアネート基が残存していないことが確認された。得られたポリウレタン−ウレア樹脂の分子量は、ポリオキシエチレン換算で22,000(理論値;18,000)であり、耐熱性は100℃であった。ここで言う数平均分子量の理論値とは、原料に用いたA1成分、A2成分、A3成分、及びA5成分が、架橋することなく理論的に直線状にポリウレタン−ウレア樹脂を精製した場合の分子量のことである。
【0264】
ポリウレタン−ウレア樹脂(U2)〜(U12)の合成
表1に示すポリオール化合物(A1成分)、ポリイソシアネート化合物(A2成分)、アミノ基含有化合物(A3成分)、機能性付与化合物(A5成分)、反応停止剤(A6成分)及び反応溶媒を用い、表1に示す反応条件を用いた以外は、前述のU1の合成方法と同様にして、U2〜U12の合成を実施した。
【0265】
【表1】

【0266】
以上、ポリウレタン−ウレア樹脂U1〜U12のA1、A2、A3、A5、及びA6成分の配合割合、数平均分子量、耐熱性の結果を表2にまとめた。
【0267】
【表2】

【0268】
接着性組成物(第2接着層を形成する接着性組成物)の調製
接着性組成物1;ウレタン(メタ)アクリレート系接着剤
ウレタンオリゴマーテトラアクリレート(新中村化学社製U−4HA、4官能) 50質量部、トリエチレングリコールジメタクリレート(2官能) 40質量部、γ−グリシドキシプロピルメタアクリレート(2官能) 10質量部、さらに光重合開始剤としての1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイドの3:7の混合物(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製Irgacure1870) 0.5質量部を撹拌混合し、接着性組成物を得た。
【0269】
接着性組成物2;2液型ウレタン系接着剤
イソホロンジイソシアネートと、数平均分子量800のポリカーボネートポリオールを3:4のモル比で反応させた水酸基を末端に有するウレタンプレポリマー38質量部とTHF200質量部を混合し、これにイソシアネート基を末端に有するイソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネート5質量部を添加することで、接着性組成物2を得た。
【0270】
接着性組成物3;湿気硬化型ウレタン系接着剤
窒素雰囲気下にて数平均分子量800のポリカーボネートジオール18.0質量部、イソホロンジイソシアネート10.0質量部、DMF100質量部を仕込み、窒素雰囲気下、100℃で5時間反応させ、次いで、鎖延長剤である1,4−ブタンジオール1.2質量部を滴下し、継続して100℃で5時間反応させた後、溶媒を減圧留去し、ポリウレタン樹脂を得た。得られたポリウレタン樹脂 10gに、有機溶剤としてTHF 50gを添加し、室温で撹拌しながら溶解し、接着性組成物3を得た。
【0271】
接着性組成物4;ウレタンデッドポリマー系接着剤
ポリウレタン−ウレア樹脂(U5)10gに、有機溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテル 50gを添加し、室温で撹拌しながら溶解し、接着性組成物4を得た。
【0272】
接着性組成物5;ウレタンデッドポリマー系接着剤
ポリウレタン−ウレア樹脂(U12)10gに、有機溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテル 50gを添加し、室温で撹拌しながら溶解し、接着性組成物5を得た。
【0273】
接着性組成物6;ウレタンデッドポリマー系接着剤
ポリウレタン−ウレア樹脂(U3)10gに、有機溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテル 50gを添加し、室温で撹拌しながら溶解し、接着性組成物6を得た。
【0274】
接着性組成物7;ウレタンデッドポリマー系接着剤
ポリウレタン−ウレア樹脂(U4)10gに、有機溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテル 50gを添加し、室温で撹拌しながら溶解し、接着性組成物7を得た。
【0275】
実施例1
フォトクロミック組成物の調製
ポリウレタン−ウレア樹脂(U1)5g、フォトクロミック化合物(PC1)0.25gに、有機溶剤としてTHF8g、ジエチルケトン12g、さらにイソホロンジイソシアネート0.15gを添加し、80℃で攪拌しながら、超音波により溶解し、フォトクロミック組成物を得た。
【0276】
フォトクロミック積層体の作製
工程(1) 第1接着層の作製
上記フォトクロミック組成物を、PET製フィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製ピューレックスフィルム、シリコン塗膜付)に塗布し、湿気の存在下(23℃、湿度50%)の実験室において、50℃で30分乾燥させた後、PET製フィルムを剥がすことにより、厚み約40μmの第1接着層を得た。
【0277】
工程(2) 第2接着層を有する光学シート又はフィルムの作製
接着性組成物1を厚み400μmのポリカーボネートシート上に塗布し、フュージョンUVシステムズ社製F3000SQ(Dバルブ)を用い、窒素フロー下において1分間光硬化させることにより、膜厚5μmの第2接着層を有するポリカーボネートシートを2枚得た。
【0278】
工程(3)
次いで、工程(1)で得られた第1接着層を、工程(2)で得られた第2接着層を有するポリカーボネートシート2枚の間に挟み、減圧下40℃において12時間静置した後、110℃で1時間加熱処理し、次いで40℃、80%RH下で6時間、更に減圧下40℃において12時間静置することにより、目的のフォトクロミック特性を有するフォトクロミック積層体を得た。
【0279】
得られたフォトクロミック積層体を評価したところ、フォトクロミック特性としての発色濃度は1.1であり、退色速度は43秒であり、耐久性は98%であった。また、剥離強度は初期が150N/25mm、煮沸試験後が130N/25mmであった。なお、これらの評価は以下のようにして行った。
【0280】
フォトクロミック特性
得られた積層体を試料とし、これに、(株)浜松ホトニクス製のキセノンランプL−2480(300W)SHL−100をエアロマスフィルター(コーニング社製)を介して23℃、積層体表面でのビーム強度365nm=2.4mW/cm、245nm=24μW/cmで120秒間照射して発色させ、積層体のフォトクロミック特性を測定した。
【0281】
1)最大吸収波長(λmax):(株)大塚電子工業製の分光光度計(瞬間マルチチャンネルフォトディレクターMCPD1000)により求めた発色後の最大吸収波長である。該最大吸収波長は、発色時の色調に関係する。
【0282】
2)発色濃度〔ε(120)−ε(0)〕:前記最大吸収波長における、120秒間照射した後の吸光度ε(120)と最大吸収波長における未照射時の吸光度ε(0)との差。この値が高いほどフォトクロミック性が優れていると言える。
【0283】
3)退色速度〔t1/2(sec.)〕:120秒間照射後、光の照射をとめたときに、試料の前記最大波長における吸光度が〔ε(120)−ε(0)〕の1/2まで低下するのに要する時間。この時間が短いほどフォトクロミック性が優れているといえる。
【0284】
4)耐久性(%)=〔(A48/A0)×100〕:光照射による発色の耐久性を評価するために次の劣化促進試験を行った。すなわち、得られた積層体をスガ試験器(株)製キセノンウェザーメーターX25により48時間促進劣化させた。その後、前記発色濃度の評価を試験の前後で行い、試験前の発色濃度(A0)および試験後の発色濃度(A48)を測定し、〔(A48)/A0〕×100〕の値を残存率(%)とし、発色の耐久性の指標とした。残存率が高いほど発色の耐久性が高い。
【0285】
剥離強度
得られた積層体を、25×100mmの接着部分を有する試験片とし、試験機(オートグラフAG5000D、島津製作所製)に装着し、クロスヘッドスピード100mm/minで引張り試験を行い、剥離強度を測定した。剥離強度に関しては、初期と蒸留水を用いた煮沸試験1時間後のものについて測定を実施した。
【0286】
実施例2〜22
表3、及び表4に示すポリウレタン−ウレア樹脂、イソシアネート化合物、有機溶媒、その他の成分を用いた以外は、実施例1と同様の方法でフォトクロミック組成物を調製した。また、実施例1と同じく、フォトクロミック化合物(PC1)は、ポリウレタン−ウレア樹脂(A成分)に対して5質量部(実使用量0.25g)となるように配合した。得られたフォトクロミック組成物、表3、及び表4に示す接着性組成物を使用して、実施例1と同様の方法(工程(1)〜(3))でフォトクロミック積層体を作製した。
【0287】
但し、各接着性組成物に応じて、工程(2)は、以下の方法により乾燥、及び硬化を行い、第2接着層を有するポリカーボネートを2枚製造した。その後、得られた、第2接着層を有する2枚のポリカーボネートを用いて、実施例1の工程(3)と同様の操作を行い、フォトクロミック積層体を製造した。
【0288】
得られた各種フォトクロミック積層体の評価結果を表3、及び表4に示した。
【0289】
工程(2)
接着性組成物1の使用(乾燥、硬化方法);実施例1と同様な方法。
【0290】
接着性組成物2の使用(乾燥、硬化方法);接着性組成物2を厚み400μmのポリカーボネートシート上に塗布し、110℃で2時間乾燥、硬化させることにより、膜厚5μmの第2接着層を有するポリカーボネートシートを2枚得た。
【0291】
接着性組成物3の使用(乾燥、硬化方法);接着性組成物3を厚み400μmのポリカーボネートシート上に塗布し、110℃で5分間乾燥させた後、加湿下(40℃、80%RH)で1時間放置することにより、膜厚5μmの第2接着層を有するポリカーボネートシートを2枚得た。
【0292】
接着性組成物4〜7の使用(乾燥、硬化方法);接着性組成物4〜7を厚み400μmのポリカーボネートシート上に塗布し、110℃で10分間乾燥させることにより、膜厚5μmの接着層を有するポリカーボネートシートを2枚得た。
【0293】
【表3】

【0294】
【表4】

【0295】
比較例1〜12
表5に示すポリウレタン−ウレア樹脂、イソシアネート化合物、有機溶媒、その他の成分を用いた以外は、実施例1と同様の方法でフォトクロミック組成物を調製した。なお、当然のことながら、実施例1と同じく、フォトクロミック化合物(PC1)は、ポリウレタン−ウレア樹脂(A成分)に対して5質量部(実使用量0.25g)となるように配合した。また、得られたフォトクロミック組成物を使用して、第2接着層を設けなかった以外は実施例1と同様の方法でフォトクロミック積層体を作製した。つまり、実施例1の工程(2)を実施せず、工程(3)において、第1接着層と、第2接着層を有さないポリカーボネートフィルムとを同様の操作で接着させて、フォトクロミック積層体を製造した。得られた各種フォトクロミック積層体の評価結果を表5に示した。
【0296】
【表5】

【0297】
上記実施例1〜22から明らかなように、本発明に従って、ポリウレタン−ウレア樹脂(A成分)とフォトクロミック化合物(B成分)を含んでなる第1接着層の両側に第2接着層を形成し、この第2接着層を介して2枚の光学シート又はフィルムを接合したフォトクロミック積層体を作製することにより、優れたフォトクロミック特性、剥離強度(密着性)を有していることが分かる。
【0298】
一方、比較例1〜12のように、第2接着層を介せずに、第1接着層と2枚の光学シート又はフィルムを接合したフォトクロミック積層体を作製した場合においては、フォトクロミック特性は良好であるものの、実施例と比較して剥離強度が低下した。
【符号の説明】
【0299】
1 光学シート又はフィルム
2 第1接着層
3 第2接着層
4 フォトクロミック積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する2枚の光学シート又はフィルムが、
(A)分子鎖中にウレア結合を有するポリウレタン−ウレア樹脂、及び(B)フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック組成物からなる第1接着層と、
前記第1接着層の両側に形成される第2接着層と
を介して接合されてなるフォトクロミック積層体。
【請求項2】
前記(A)ポリウレタン−ウレア樹脂が、
(A1)ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、およびポリエステルポリオールよりなる群から選ばれる少なくとも1種のポリオール化合物と、
(A2)分子内に2つ以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物と、
(A3)イソシアネート基と反応し得る基を分子内に2つ以上有し、その内の少なくとも半数がアミノ基であるアミノ基含有化合物と
を反応して得られるポリウレタン−ウレア樹脂である請求項1に記載のフォトクロミック積層体。
【請求項3】
前記(A)ポリウレタン−ウレア樹脂を得る際に使用する成分(A1)、(A2)および(A3)の量比が、
前記成分(A1)に含まれる、水酸基の総モル数をn1とし、
前記成分(A2)に含まれるイソシアネート基の総モル数をn2とし、
前記成分(A3)に含まれる、イソシアネート基と反応し得る基の総モル数をn3としたときに、
n1:n2:n3=0.3〜0.9:1:0.1〜0.7
となる量比である請求項2に記載のフォトクロミック積層体。
【請求項4】
前記フォトクロミック組成物が、(D)イソシアネート化合物を含む請求項1に記載のフォトクロミック積層体。
【請求項5】
前記第2接着層が、フォトクロミック化合物を含まない接着組成物からなる請求項1に記載のフォトクロミック積層体。
【請求項6】
前記第2接着層が、分子内にウレタン結合、またはウレア結合を有する化合物を含む接着性組成物からなる請求項1に記載のフォトクロミック積層体。
【請求項7】
前記光学シート又はフィルムが、ポリカーボネート樹脂からなる請求項1に記載のフォトクロミック積層体。
【請求項8】
分子鎖中にウレア結合を有するポリウレタン−ウレア樹脂、及びフォトクロミック化合物を含むフォトクロミック組成物からなる第1接着層を形成する工程(1)と、
2枚の光学シート又はフィルム上に第2接着層を形成する工程(2)と、
工程(1)で得られた第1接着層と、工程(2)で得られた光学シート又はフィルム上に第2接着層を有する2枚の積層体とを、第1接着層と第2接着層とが接するように積層する工程(3)と
を有する請求項1に記載のフォトクロミック積層体の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載のフォトクロミック積層体の光学シート又は光学フィルム上に、合成樹脂層を有する光学物品。

【図1】
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【公開番号】特開2013−33131(P2013−33131A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169193(P2011−169193)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】