説明

フォトクロミック組成物、および光学物品

【課題】 ポリカーボネート樹脂などからなる光学シートを接合するための接着層として機能するフォトクロミック組成物であって、該組成物使用した積層体が、優れた密着性、耐熱性、フォトクロミック性を示すフォトクロミック組成物を提供する。特に、熱水と接触した場合においても、光学シート同士の密着性を低下させない接着層を形成できるフォトクロミック組成物を提供する。
【解決手段】 非反応性ポリウレタン樹脂(A成分)と、イソシアネート化合物(B成分)と、フォトクロミック化合物(C成分)を含むフォトクロミック組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフォトクロミック組成物に関する。具体的には、ポリカーボネート樹脂製の光学シート又はフィルム同士を接合するためのフォトクロミック性接着剤として好適に使用できる新規なフォトクロミック組成物に関する。また、本発明は、該フォトクロミック組成物からなる接着層を介して光学シート又は光学フィルムが互いに接合されてなる積層構造を含む光学物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年米国を中心として、防眩性を有するサングラスに、透明で優れた耐衝撃性を有するポリカーボネートを用いたプラスチック製レンズの需要が急速に高まっている。そして、このようなプラスチック製サングラスは、フォトクロミック化合物を含有させることによって、周囲の明るさに応じて透過率が変化して防眩性を調節できる、プラスチック製フォトクロミックサングラスが急速に人気を得ている。
【0003】
このようなプラスチック製フォトクロミックサングラスは、様々な方法で製造されている。具体的には、プラスチックレンズの表面にフォトクロミック化合物を含むコーティング組成物を塗布する方法、プラスチックレンズの材質自体にフォトクロミック化合物を混合し、レンズを形成する方法が挙げられる。
【0004】
また、部分的な加工ができること、平滑なフォトクロミック層を形成できること、及び射出成型でプラスチックレンズを製造する際に、同時にフォトクロミック特性を付与できるという点で、以下の方法も検討が進んでいる。つまり、フォトクロミック化合物とポリウレタン樹脂とを含むフォトクロミック性接着剤を使用する方法である。具体的には、該フォトクロミック性接着剤をポリカーボネート樹脂などの光学シートに積層した「フォトクロミック積層体」を作製し、次いで、該積層体をレンズ成型用の金型内に装着し、射出成型や熱圧着を行う方法である。この方法によれば、該積層体を有するプラスチック製フォトクロミックサングラスを製造することができる(特許文献1〜4参照)。
【0005】
該方法により得られるプラスチック製フォトクロミックサングラス(光学物品)は、射出成型、または熱圧着により該積層体とプラスチックレンズとの表面を接合しているため、該積層体と該レンズとの界面の密着性は非常に高いものとなる。
【0006】
上記特許文献1、及び2に記載された方法で光学物品においては、使用したポリウレタン樹脂の構造によるものと考えられるが、光学シートとフォトクロミック性接着剤の密着性が十分でないため、光学シートが剥離する問題があった(フォトクロミック積層体そのものの密着性が十分でないため、光学シートが剥離する場合があった)。さらに、該ポリウレタン樹脂の耐熱性が十分ではないため、射出成型や熱圧着を行う際に光学歪が生じたりするといった問題もあった。そのため、該接着剤からなる層のマトリックス樹脂(ポリウレタン樹脂)自体の耐熱性を向上することが求められていた。
【0007】
一方、特許文献3、及び4に記載された方法では、2液型のポリウレタン樹脂(末端にイソシアネート基を有する化合物と末端に水酸基を有する化合物との混合物)を採用している。この方法は、2液型のポリウレタン樹脂、及びフォトクロミック化合物を含む組成物を光学シート上へ積層し、この積層後に、2液型のポリウレタン樹脂を反応させて、高分子量のウレタン樹脂層(接着剤層)を形成している。この方法によれば、積層前の前記組成物は比較的分子量が低いため、該組成物自体の溶解性、及びフォトクロミック化合物の溶解性を低下させないという利点がある。さらに、積層後に、2液型のポリウレタン樹脂を反応させて高分子量ポリウレタン樹脂とするため、耐熱性も向上できる。
【0008】
しかしながら、この方法で得られるフォトクロミック性接着剤であっても、フォトクロミック積層体そのものの密着性が十分ではなく、光学シートが剥離する問題を解消できなかった。プラスチック製フォトクロミックサングラスは、日常生活で使用するにあたり、高湿度下や、温水と接触する場合があり、このような状況下におかれても、光学シートと該接着剤との密着性が高くなければならない。しかしながら、上記2液型のポリウレタン樹脂を反応させて得られるフォトクロミック性接着剤では、高いフォトクロミック特性を維持したまま、例えば、熱水と接触させた後、光学シートと該接着剤が高い密着性を維持することは困難であり、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許公開2004096666号公報
【特許文献2】特表2003−519398号公報
【特許文献3】米国公開特許20050233153号公報
【特許文献4】米国公開特許20020006505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の第一の目的は、光学シート又はフィルムを接合するときの接着層として使用した場合に、優れた密着性、及び耐熱性を有し、かつ優れたフォトクロミック性を発揮するフォトクロミック組成物を提供することにある。
【0011】
また、本発明の第二の目的は、光学シート又はフィルム上がフォトクロミック性を有する接着層により接合された積層構造(例えば、フォトクロミック積層体)を含んでなる光学物品であって、密着性、耐熱性、およびフォトクロミック特性に優れた光学物品を提供することにある。
【0012】
さらに、本発明の第三の目的は、上記したような光学物品を製造するに当たり、光学シート又はフィルムとしてポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂を使用した場合であっても、外観不良を起こすことなく、光学物品を製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は上記課題を解決すべく、フォトクロミック性接着層の構造と得られる光学物品の特性との関係について鋭意検討を行った。その結果、末端停止したポリウレタン樹脂(非反応性ポリウレタン樹脂)、イソシアネート基を有するイソシアネート化合物、及びフォトクロミック化合物とを含むフォトクロミック組成物を、上記フォトクロミック性接着剤に使用することにより、得られるフォトクロミック積層体シートの自体の密着性(接着剤からなる層と光学シートとの密着性)、フォトクロミック性、耐久性を改善することができることを見出した。
【0014】
さらに、有機溶媒を使用しないで上記フォトクロミック性接着層を形成するか、或いは有機溶媒を用いてキャスト膜を形成した後、乾燥(溶媒除去)することによって、上記フォトクロミック性接着層となる“フォトクロミック化合物が分散した特定のポリウレタン樹脂を含んでなるフォトクロミック性接着シート”を別途準備し、該“フォトクロミック接着性シート”を用いてフォトクロミック積層体を製造した場合には、溶媒による悪影響が回避でき、フォトクロミック性が低下しないこと、を見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、下記〔1〕〜〔13〕に示されるものである。
【0016】
〔1〕非反応性ポリウレタン樹脂(A)、分子内に少なくとも1つのイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(B)、及びフォトクロミック化合物(C)とを含んでなることを特徴とするフォトクロミック組成物。
【0017】
〔2〕前記非反応性ポリウレタン樹脂(A)が、分子内に2つ以上の水酸基を有する数平均分子量400〜3000のポリオール化合物(A1)と、分子内に2つ以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物(A2)と、分子内に2つ以上のイソシアネート基と反応しうる基を有する分子量50〜300の鎖延長剤(A3)とを反応して得られる、分子鎖の末端にイソシアネート基を有する反応性ポリウレタン樹脂(A4)と、
分子内に1つのイソシアネート基と反応しうる基を有する反応停止剤(A5)
とを反応して得られる、非反応性のウレタン樹脂である前記〔1〕のフォトクロミック組成物。
【0018】
〔3〕前記非反応性ポリウレタン樹脂(A)を得るに際して使用する(A1)成分、(A2)成分、(A3)成分、及び(A5)成分の量比が、前記(A1)成分に含まれる水酸基の総モル数をn1とし、前記(A2)成分に含まれるイソシアネート基の総モル数をn2とし、前記(A3)成分に含まれるイソシアネート基反応しうる基の総モル数をn3とし、前記(A5)成分に含まれるイソシアネート基と反応しうる基の総モル数をn5としたときに、
n1:n2:n3:n5=0.30〜0.89:1:0.1〜0.69:0.01〜0.20となる前記〔2〕のフォトクロミック組成物。
【0019】
〔4〕前記イソシアネート化合物(B)の分子量が1000未満である前記〔1〕のフォトクロミック組成物。
【0020】
〔5〕前記ポリオール化合物(A1)が、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、及びポリエステルジオールより選ばれる少なくとも1種のポリオール化合物である前記〔1〕のフォトクロミック組成物。
【0021】
〔6〕前記ポリイソシアネート化合物(A2)の30質量%以上が、脂肪族ポリイソシアネート化合物、及び脂環式ポリイソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種のポリイソシアネート化合物である前記〔1〕のフォトクロミック組成物。
【0022】
〔7〕前記鎖延長剤(A3)が、ジアミン化合物、アミノアルコール化合物、アミノカルボン酸化合物、アミノチオール化合物、及びジオール化合物から選ばれる少なくとも1種の鎖延長剤である前記〔1〕のフォトクロミック組成物。
【0023】
〔8〕前記反応停止剤(A5)が、分子内にピペリジン構造、ヒンダードフェノール構造、トリアジン構造、ベンゾトリアゾール構造、またはアルキル鎖を有する化合物である前記〔1〕のフォトクロミック組成物。
【0024】
〔9〕前記非反応性ポリウレタン樹脂(A)100質量部に対して、前記イソシアネート化合物(B)を0.01〜20質量部、前記フォトクロミック化合物(C)を0.1〜20質量部含む前記〔1〕のフォトクロミック組成物。
【0025】
〔10〕前記非反応性ポリウレタン樹脂(A)100質量部に対して、さらに有機溶媒(D)を5〜900質量部含む前記〔9〕のフォトクロミック組成物。
【0026】
〔11〕互いに対向する2枚の光学シート又は光学フィルムが前記〔1〕のフォトクロミック組成物から得られる接着層を介して接合されてなる積層構造を含んでなる光学物品。
【0027】
〔12〕前記積層構造における、互いに対向する2枚の光学シート又は光学フィルムの少なくとも一方が、ポリカーボネート樹脂よりなることを特徴とする前記〔11〕の光学物品。
【0028】
〔13〕前記〔12〕の光学物品を製造する方法であって、
平滑な基材上に前記〔10〕のフォトクロミック組成物を延展せしめた後に、乾燥して有機溶媒(D)を除去し、非反応性ポリウレタン樹脂(A)と、イソシアネート化合物(B)と、フォトクロミック化合物(C)とを含むフォトクロミック性接着シートを準備する工程、及び
互いに対向する2枚の光学シート又は光学フィルムの間に上記フォトクロミック接着性シートを介在させて、少なくとも水分の存在下で該2枚の光学シート又は光学フィルムを接合することにより前記積層構造を作製する工程、
を含んでなることを特徴とする方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明のフォトクロミック組成物は、接着剤またはバインダーとして機能する。該組成物からなる接着層でポリカーボネート樹脂製の光学シート又はフィルムを接合して得られる積層体(フォトクロミック積層体)は、優れた密着性、及び優れたフォトクロミック特性を示す。さらに、上記接着層は、優れた耐熱性を示すため、上記積層体を金型に装着し、次いで該金型にポリカーボネート樹脂の熱可塑性樹脂を射出成形することによって光学物品を製造した場合でも、密着性やフォトクロミック特性が低下し難く、光学歪が生じ難い。
【0030】
また、本発明の方法によれば、耐溶剤性に劣るポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂からなる光学シート又はフィルムを使用しても、有機溶媒による悪影響が回避できるので、フォトクロミック性を低下させることがない。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明のフォトクロミック組成物は、非反応性ポリウレタン樹脂(A)(以下、単にA成分ともいう。)、(B)分子内に少なくとも1つのイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(以下、単にB成分ともいう)、及び(C)フォトクロミック化合物(以下、単にC成分ともいう。)を含んでなることを特徴とする。以下、これらA成分、B成分、及びC成分について説明する。
【0032】
A成分:非反応性ポリウレタン樹脂
上記の通り、従来技術では、フォトクロミック性接着剤に使用されているポリウレタン樹脂は、イソシアネート基を有する反応性ポリウレタン樹脂(プレポリマー)と、イソシアネート基と反応しうる基を有するプレポリマー(ポリオール)を混合し、塗膜を形成後、両者を反応させて高分子量化するものであった。これに対し、本発明のフォトクロミック組成物に使用するA成分としては、非反応性ポリウレタン樹脂であり、ポリウレタン樹脂末端は不活性化されている。つまり、該非反応性ポリウレタン樹脂は、下記のイソシアネート化合物(B)と反応しない樹脂である。そして、該非反応性ポリウレタン樹脂は、付加重合、重縮合、ラジカル重合、イオン重合、開環重合などの重合反応を生じることがない樹脂を意味する。具体的には、非反応性ポリウレタン樹脂は、イソシアネート基、水酸基、アミノ基(−NH基)、カルボキシル基、チオール基、酸クロライド基、エポキシ基、アルコキシシリル基、前記アルコキシシリル基の加水分解した基、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基などの、他のポリマー、または下記に詳述するイソシアネート化合物(B)と反応する基が実質的に存在しないものを指す。また、該非反応性ポリウレタン樹脂を得るためには、後述する分子内に1つのイソシアネート基と反応しうる基を有する反応停止剤(A5)を、ポリウレタン樹脂末端に残存するイソシアネート基と反応させることにより、ポリウレタン樹脂末端に非反応性基を導入することができる(末端が停止されているポリウレタン樹脂を製造できる)。
【0033】
該A成分にフォトクロミック化合物を混合することで、フォトクロミック性接着剤として用いることは可能である。しかしながら、本発明は、該A成分と、下記に詳述するB成分とを組み合わせて、フォトクロミック性接着剤(層)のマトリックス樹脂を形成することにより、より優れた耐熱性、密着性、及びフォトクロミック特性を発揮することができる。
【0034】
A成分である非反応性ポリウレタン樹脂は、分子内に、イソシアネート基や水酸基などの反応性を有する基を有さない樹脂であり、その製造方法は、特に制限されるものではない。中でも、得られるフォトクロミック組成物が、優れた耐熱性、密着性、フォトクロミック特性を発揮するためには、以下の方法により製造されることが好ましい。具体的には、先ず、
(A1)分子内に2つ以上の水酸基を有する数平均分子量400〜3000のポリオール化合物(以下、単にA1成分ともいう。)と、
(A2)分子内に2つ以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物(以下、単にA2成分ともいう。)と、
(A3)分子内に2つ以上のイソシアネート基と反応しうる官能基を有する分子量50〜300の鎖延長剤(以下、単にA3成分ともいう。)とを
反応させて、分子鎖の末端にイソシアネート基を有する反応性ポリウレタン樹脂((A4)、以下単にA4成分ともいう。)を得る。
【0035】
次いで、この反応性ポリウレタン樹脂(A4)と、
(A5)分子内に1つのイソシアネート基と反応しうる基を有する反応停止剤(以下、単にA5成分ともいう。)とを反応させることにより、非反応性ポリウレタン樹脂(A)を製造することが好ましい。反応性ポリウレタン樹脂(A4)の末端のイソシアネート基と反応停止剤(A5)のイソシアネート基と反応しうる基とを反応させることにより、非反応性ポリウレタン樹脂(A)を得ることができる。以下、これら成分について説明する。
【0036】
A1成分:ポリオール化合物
A1成分のポリオール化合物は、生成するA成分として非反応性ポリウレタン樹脂が高架橋体になり過ぎないという理由から分子中に含まれる水酸基数は2〜6であることが好ましい。更に、有機溶剤への溶解性を考慮すれば、該水酸基数は2〜3であることがより好ましい。
【0037】
A1成分の数平均分子量は400〜3000であることが好ましい。このA1成分はポリマーであり、そのため、分子量は数平均分子量で示す。得られるA成分の耐熱性、及びフォトクロミック組成物のフォトクロミック特性(発色濃度、退色速度、耐候性など)、中でも、フォトクロミック化合物の耐候性の観点から、数平均分子量は、400〜2500であることが好ましく、400〜1500であることがより好ましい。
【0038】
また、A1成分としては公知のポリオール化合物を何ら制限なく使用することが可能である。具体的には、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリエステルポリオールなどのポリオール化合物を使用することが好ましい。これらは単独で使用しても良く、2種類以上を併用しても構わない。その中でも、耐熱性、密着性、耐候性、耐加水分解性などの観点から、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオールを使用することが好ましい。以下、A1成分として使用される各種化合物について詳しく説明する。
【0039】
ポリエーテルポリオール: A1成分として使用されるポリエーテルポリオールとしては、“分子中に活性水素含有基を2個以上有する化合物”と“アルキレンオキサイド”との反応により得られるポリエーテルポリオール化合物及び該ポリエーテルポリオール化合物の変性体であるポリマーポリオール、ウレタン変性ポリエーテルジポリオール、ポリエーテルエステルコポリマーポリオール等を挙げることが出来る。
【0040】
なお、上記“分子中に活性水素含有基を2個以上有する化合物”としては、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、トリエタノールアミン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどが挙げられ、これらは単独で使用しても、2種類以上を混合して使用しても構わない。また、前記“アルキレンオキサイド”としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等の環状エーテル化合物が挙げられ、これらは単独で使用しても、2種類以上を混合して使用しても構わない。
【0041】
このようなポリエーテルポリオールは、試薬としてまたは工業的に入手可能であり、市販されているものを例示すれば、旭硝子株式会社製「エクセノール(登録商標)」シリーズ、「エマルスター(登録商標)」、株式会社ADEKA製「アデカポリエーテル」シリーズなどを挙げることができる。
【0042】
ポリカーボネートポリオール: A1成分として使用されるポリカーボネートポリオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−4−ブチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ダイマー酸ジオール、ビスフェノールA のエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド付加物、ビス(β−ヒドロキシエチル)ベンゼン、キシリレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の低分子ポリオール類の1種類以上のホスゲン化より得られるポリカーボネートポリオール、或いはエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、及びジフェニルカーボネート等によるエステル交換法により得られるポリカーボネートポリオール等を挙げることができる。
【0043】
これらポリカーボネートポリオールは、試薬としてまたは工業的に入手可能であり、市販されているものを例示すれば、旭化成ケミカルズ株式会社製「デュラノール(登録商標)」シリーズ、株式会社クラレ製「クラレポリオール(登録商標)」シリーズ、ダイセル化学工業株式会社製「プラクセル(登録商標)」シリーズ、日本ポリウレタン工業株式会社製「ニッポラン(登録商標)」シリーズ、宇部興産株式会社製「ETERNACOLL(登録商標)」シリーズなどを挙げることができる。
【0044】
本発明のA1成分としては、耐熱性、密着性、耐候性、耐加水分解性などの観点から、ポリカーボネートポリオールを使用することが好ましい。特に、ポリカーボネート樹脂からなる光学シート又はフィルムを接合して積層体を製造する場合においては、接着層と被接着層とが同じ骨格を有し、親和性が向上することにより密着性が安定するため、ポリカーボネートポリオールを用いたA1成分を使用することが好ましい。
【0045】
ポリカプロラクトンポリオール: A1成分として使用されるポリカプロラクトンポリオールとしては、ε−カプロラクトンの開環重合により得られる化合物が使用できる。
【0046】
このようなポリカプロラクトンポリオールは、試薬としてまたは工業的に入手可能であり、市販されているものを例示すれば、ダイセル化学工業株式会社製「プラクセル(登録商標)」シリーズなどを挙げることができる。
【0047】
ポリエステルポリオール: A1成分として使用されるポリエステルポリオールとしては、“多価アルコール”と“多塩基酸”との縮合反応により得られるポリエステルポリオールなどを挙げることができる。ここで、前記“多価アルコール”としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3,3’−ジメチロールヘプタン、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、3,3−ビス(ヒドロキシメチル)ヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどが挙げられ、これらは単独で使用しても、2種類以上を混合して使用しても構わない。また、前記“多塩基酸”としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、オルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、これらは単独で使用しても、2種類以上を混合して使用しても構わない。
【0048】
これらポリエステルジオールは、試薬としてまたは工業的に入手可能であり、市販されているものを例示すれば、DIC株式会社製「ポリライト(登録商標)」シリーズ、日本ポリウレタン工業株式会社製「ニッポラン(登録商標)」シリーズ、川崎化成工業株式会社製「マキシモール(登録商標)」シリーズなどを挙げることができる。
【0049】
A2成分:ポリイソシアネート化合物
本発明でA2成分として使用される“分子内に2つ以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物”としては、脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環式ポリイソシアネート化合物、芳香族ポリイソシアネート化合物、及びこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、耐候性の観点から、脂肪族ポリイソシアネート化合物、及び脂環式ポリイソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種のポリイソシアネート化合物を使用することが好ましい。また、特に耐候性を向上させる観点から、A2成分のポリイソシアネート化合物の30質量%以上、特に50質量%以上が、脂肪族ポリイソシアネート化合物、及び脂環式ポリイソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種のポリイソシアネート化合物であることが好ましい。最も好ましい態様としては、A2成分の100質量%が、脂肪族ポリイソシアネート化合物、及び脂環式ポリイソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種のポリイソシアネート化合物である。
【0050】
A2成分のポリイソシアネート化合物において、分子内に含まれるイソシアネート基の数は2以上であればよい。ただし、得られる非反応性ポリウレタン樹脂の溶解性などを考慮すると、分子内に含まれるイソシアネート基の数は2であることが好ましい。分子内に3つ以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物を主として使用した場合には、得られる非反応性ポリウレタン樹脂の架橋密度が高くなり、有機溶剤への溶解性が低下するおそれがある。
【0051】
A2成分として好適に使用できるポリイソシアネート化合物を例示すれば、
テトラメチレン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、オクタメチレン−1,8−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサン−1,6−ジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート化合物、
シクロブタン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、2,4−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、2,6−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物、ヘキサヒドロトルエン−2,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン−2,6−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,3−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,4−ジイソシアネート、1,9−ジイソシアナト−5−メチルノナン、1,1−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、2−イソシアナト−4−[(4−イソシアナトシクロヘキシル)メチル]−1−メチルシクロヘキサン、2−(3−イソシアナトプロピル)シクロヘキシルイソシアネートなどの脂環式ポリイソシアネート化合物、又は
フェニルシクロヘキシルメタンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)の異性体混合物、トルエン−2,3−ジイソシアネート、トルエン−2,4−ジイソシアネート、トルエン−2,6−ジイソシアネート、フェニレン−1,3−ジイソシアネート、フェニレン−1,4−ジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、キシリレンジイシシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、1,3−ジイソシアナトメチルベンゼン、4,4’−ジイソシアナト−3,3’−ジメトキシ(1,1’−ビフェニル)、4,4’−ジイソシアナト−3,3’−ジメチルビフェニル、1,2−ジイソシアナトベンゼン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)−2,3,5,6−テトラクロロベンゼン、2−ドデシル−1,3−ジイソシアナトベンゼン、1−イソシアナト−4−[(2−イソシアナトシクロヘキシル)メチル]2−メチルベンゼン、1−イソシアナト−3−[(4−イソシアナトフェニル)メチル)−2−メチルベンゼン、4−[(2−イソシアナトフェニル)オキシ]フェニルイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート化合物
を挙げることができる。
【0052】
これらの中でも、得られる非反応性ポリウレタン樹脂(得られるフォトクロミック組成物)の耐候性の観点から、上記の通り、A2成分のポリイソシアネート化合物の30質量%以上、特に50質量%以上が、脂肪族ポリイソシアネート化合物、及び脂環式ポリイソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種のポリイソシアネート化合物であることが好ましい。好適な化合物を具体的に例示すると、テトラメチレン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、オクタメチレン−1,8−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサン−1,6−ジイソシアネート、シクロブタン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、2,4−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、2,6−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物、ヘキサヒドロトルエン−2,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン−2,6−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,3−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,4−ジイソシアネートが挙げられる。これらのイシシアネート化合物は、単独で使用してもよく、2種類以上を併用しても構わない。
【0053】
また、このポリイソシアネート化合物は、光安定性能、酸化防止性能、または紫外線吸収性能等の機能性を付与する構造を分子内に有する化合物であってもよい。以下、光安定性能を発揮するピペリジン構造を有するポリイソシアネート化合物を例にして説明する。該ポリイソシアネート化合物としては、分子内に3つのイソシアネート基を有するトリイソシアネート化合物と、分子内に1つのイソシアネート基と反応しうる基(アミノ基、水酸基、カルボキシル基、またはチオール基)とピペリジン構造を有する化合物との反応物が挙げられる。トリイソシアネート化合物としては、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、1,8−ジイソシアナト−4−イソシアナトメチルオクタン、2−イソシアナトエチル(2,6−ジイソシアナト)ヘキサノエート、1−メチルベンゼン−2,4,6−トリイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4,4’−トリイソシアネート、トリフェニルメタン−4,4’,4’’−トリイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネートなどを挙げることができる。また、分子内に1つのイソシアネート基と反応しうる基とピペリジン構造を有する化合物としては、下記のピペリジン構造を有する反応停止剤(A5)で説明する、一般式(1)で示される化合物が挙げられる。前記トリイソシアネート化合物の1つのイソシアネート基と、例えば、後述の一般式(1)で示された化合物のイソシアネート基と反応しうる基とを反応させることにより、分子内に2つのイソシアネート基が存在する化合物(ジイソシアネート化合物)を得ることができる。
【0054】
また、前記トリイソシアネート化合物と反応させる化合物として、分子内に1つのイソシアネート基と反応しうる基とヒンダードフェノール構造、トリアジン構造、又はベンゾトリアゾール構造を有する化合物を使用することもできる。これら化合物を使用することにより、酸化防止性能、または紫外線吸収性能を有するポリイソシアネート化合物となる。
【0055】
これらのポリイソシネート化合物は、単独で使用してもよく、2種類以上を併用しても構わない。
【0056】
A3成分:鎖延長剤
本発明でA3成分として使用される鎖延長剤は、分子内に2つ以上のイソシアネート基と反応しうる官能基を有する分子量50〜300の化合物である。なお、鎖延長剤はポリマーではないため、該分子量は、鎖延長剤そのものの分子量を指す。
【0057】
該A3成分は、ポリウレタン樹脂を合成する際の鎖延長剤として機能するものであり、鎖延長剤としてA3成分を用いることにより、本発明の非反応性ポリウレタン樹脂の分子量、耐熱性、フォトクロミック特性などの制御が可能となる。該鎖延長剤の分子量が50未満の場合には、得られる非反応性ポリウレタン樹脂が硬くなりすぎる傾向がある。また、得られるフォトクロミック組成物の耐熱性は向上するものの、密着性やフォトクロミック特性が低下する傾向にある。一方で、該鎖延長剤の分子量が300を越える場合には、得られる非反応性ポリウレタン樹脂が柔らかくなりすぎる傾向がある。そのため、得られるフォトクロミック組成物の耐熱性、密着性、フォトクロミック特性のいずれも低下する傾向にある。以上のことから、該鎖延長剤の分子量は、50〜250であることがより好ましく、55〜200であることが最も好ましい。
【0058】
本発明のA3成分は、ジアミン化合物、トリアミン化合物、アミノアルコール化合物、アミノカルボン酸化合物、アミノチオール化合物、ジオール化合物、及びトリオール化合物から選ばれる少なくとも1種の鎖延長剤であることが好ましい。以下、ジアミン化合物、トリアミン化合物、アミノアルコール化合物、アミノカルボン酸化合物、アミノチオール化合物をまとめて、アミノ基含有化合物とする場合もある。アミノ基含有化合物としては、分子内に少なくとも2つ以上のイソシアネート基と反応する基を有し、その内の少なくとも1つがアミノ基(−NH基、及び−NH(R)基、Rは置換基)であり、アミノ基以外のイソシアネート基との反応性基は、水酸基(−OH基)、メルカプト基(−SH基:チオール基)、又はカルボキシル基〔−C(=O)OH基〕である。
【0059】
A3成分のアミノ基含有化合物として好適な化合物を例示すれば、ジアミン化合物、及びトリアミン化合物として、イソホロンジアミン、エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,2−ジアミノブタン、1,3−ジアミノブタン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、ピペラジン、N,N−ビス−(2−アミノエチル)ピペラジン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス−(4−アミノ−3−ブチルシクロヘキシル)メタン、1,2−、1,3−及び1,4−ジアミノシクロヘキサン、ノルボルネンジアミン、ノルボルナンジアミン、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジン、フェニレンジアミン、4,4’−ジフェニルメタンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジプロピルエチレンジアミン、N,N’−ジブチルエチレンジアミン、N−メチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,2,5−ペンタントリアミン等を挙げることができる。
【0060】
また、アミノアルコール化合物としては、2−アミノエタノール、3−アミノプロパノール、4−アミノブタノール、5−アミノペンタノール、6−アミノヘキサノール、2−ピペリジンメタノール、3−ピペリジンメタノール、4−ピペリジンメタノール、2−ピペリジンエタノール、4−ピペリジンエタノール等を挙げることができる。
【0061】
アミノカルボン酸としては、グリシン、アラニン、リシン、ロイシン等を挙げることができる。
【0062】
アミノチオールとしては、1−アミノチオール、2−アミノエタンチオール等を挙げることができる。
【0063】
また、A3成分のジオール化合物、及びトリオール化合物として好適に使用される化合物を例示すれば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,4−ヘプタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−ビス(ヒドロキシエチル)−シクロヘキサン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。
【0064】
以上のアミノ基含有化合物、ジオール化合物、及びトリオール化合物などの鎖延長剤は、単独で使用してもよく、2種類以上を併用しても構わない。
【0065】
前記鎖延長剤においては、耐熱性、密着性、フォトクロミック化合物の耐久性などの観点から、アミノ基含有化合物を使用することが好ましく、特にジアミン化合物を使用することがより好ましい。この理由は、A成分を合成する際に、アミノ基含有化合物を用いることにより、得られるポリウレタン樹脂がウレア結合を有することになり、分子の剛直性が高くなると共に、分子鎖間の水素結合がより強固となるため、耐熱性が向上するものと推定している。また、フォトクロミック化合物の耐久性が向上することに関しては、ウレア結合の存在により分子鎖間の水素結合がより強固となることによって、空気中の酸素が該ポリウレタン樹脂中へ拡散し難くなり、フォトクロミック化合物の一般的な劣化機構として知られている光酸化劣化が抑制されたためであると推定している。さらに、密着強度が向上することに関しては、ウレア結合の存在により分子鎖間の水素結合が強固となって樹脂の凝集破壊が起こりにくくなったためであると推定している。
【0066】
A4成分:分子鎖の末端にイソシアネート基を有する反応性ポリウレタン樹脂
本発明におけるA4成分は、前記A1、A2、及びA3成分を反応して得られる分子鎖の末端にイソシアネート基を有する反応性ポリウレタン樹脂のことである。
【0067】
当該A4成分を合成する際には、前記A1成分、A2成分、及びA3成分を用い、一般的なワンショット法又はプレポリマー法を採用することができる。例えば、プレポリマー法として、A1成分とA2成分とを反応させてウレタンプレポリマーを得、次いで該ウレタンプレポリマーとA3成分を反応させることにより、本発明A4成分である分子鎖の末端にイソシアネート基を有する反応性ポリウレタン樹脂を製造することができる。
【0068】
A1成分、A2成分、及びA3成分の量比は、下記に詳述するが、得られるA4成分の末端に、イソシアネート基が存在するような量比とすればよい。具体的には、A1成分のイソシアネート基と反応しうる官能基(具体的には水酸基)の総モル数をn1とし、A2成分に含まれるイソシアネート基の総モル数をn2とし、A3成分に含まれるイソシアネート基と反応しうる官能基(具体的にはアミノ基、水酸基、チオール基、又はカルボキシル基)の総モル数をn3としたときに、n1とn3との総和(n1+n3)が、n2よりも小さくなる量比とすればよい。具体的には、0.01≦n2−(n1+n3)≦0.2とすることが好ましい。上記n1、n2、及びn3は、各成分として用いる化合物の使用モル数と該化合物1分子中に存在する各基の数の積として求めることができる。
【0069】
得られるA4成分の数平均分子量は、5千〜15万であることが好ましく、さらに8千〜10万であることが好ましく、特に1万〜6万であることが好ましい。なお、この反応性ポリウレタン樹脂(A4成分)の分子量は、ポリエチレンオキシド換算によるゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)を用いて、カラム:Shodex KD−805、KD−804(昭和電工株式会社製)、溶離液:LiBr(10mmol/L)/DMF溶液、流速:1ml/min、検出器:RI検出器、ポリウレタン樹脂試料溶液:0.5%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液の条件により測定した数平均分子量を指す。
【0070】
A5成分:分子内に1つのイソシアネート基と反応しうる基を有する反応停止剤
本発明で使用されるA5成分は、分子内に1つのイソシアネート基と反応しうる基を有する反応停止剤であり、該A5成分を用いることにより、本発明の非反応性ポリウレタン樹脂の末端に、非反応性基を導入することができる。
【0071】
前述のイソシアネート基と反応しうる基とは、アミノ基(−NH基、及び−NH(R)基)、水酸基(−OH基)、メルカプト基(−SH基:チオール基)、カルボキシル基〔−C(=O)OH基〕、又は酸クロライド基〔−C(=O)OCl基〕が挙げられる。
【0072】
この反応停止剤は、イソシアネート基と反応しうる基を分子内に1つだけ有する。2つ以上該基が存在すると、A4成分との反応に際し得られるA成分が高分子量化し、有機溶剤希釈時に高粘度になるため、塗膜が困難になる。また、得られるフォトクロミック性接着剤の接着性(光学シートとの密着性)を低下させてしまう。該反応停止剤を、本発明の非反応性ウレタン樹脂末端に導入することにより、非反応性ウレタン樹脂の数平均分子量を制御することが可能となり、密着性、耐熱性、及びフォトクロミック特性を容易に目的の物性に調整できる。
【0073】
また、該反応停止剤は、その分子内に、ピペリジン構造、ヒンダードフェノール構造、トリアジン構造、またはベンゾトリアゾール構造を有する化合物を用いることが好ましい。その理由は、前記のピペリジン構造、ヒンダードフェノール構造、トリアジン構造、またはベンゾトリアゾール構造が、光安定化効果(ピペリジン構造)、酸化防止効果(ヒンダードフェノール構造)、または紫外線吸収効果(トリアジン構造、又はベンゾトリアゾール構造)を発揮する部位となるからである。これらの構造を有する反応停止剤を使用することにより、A成分である非反応性ポリウレタン樹脂自体、及びフォトクロミック化合物の耐久性(光安定性、酸化防止性能、紫外線吸収性能)を向上することができる。中でも、フォトクロミック化合物の耐久性を向上させるためには、ピペリジン構造を有する化合物を使用することが好ましい。以下、A5成分として使用される各種反応停止剤について詳しく説明する。
【0074】
ピペリジン構造を有する反応停止剤
本発明でA5成分として使用されるピペリジン構造を有する反応停止剤としては、下記一般式(i)で示される構造を分子内に有する化合物が好適に使用できる。
【0075】
【化1】

【0076】
(式中、
、R、R、及びRは、それぞれ、炭素数1〜4のアルキル基であり、特に、メチル基であることが好ましい。)。そして、上記ピペリジン環の窒素原子、または、4位の炭素原子にイソシアネート基と反応しうる基を有する化合物が、ピペリジン構造を有する反応停止剤に該当する。
【0077】
以下、より具体的な化合物について説明する。
【0078】
本発明でA5成分として使用される反応停止剤の中で、反応性ポリウレタン樹脂の末端にピペリジン構造を導入しうる化合物としては、下記一般式(1)で示される化合物などを使用することが好適に挙げられる。
【0079】
【化2】

【0080】
(式中、
、R、R、及びRは、前記一般式(i)におけるものと同義であり、
は、炭素数1〜10アルキル基、または水素原子であり、
は炭素数1〜20のアルキレン基、又は炭素数3〜20のポリメチレン基であり、aは0または1であり、
Xは、イソシアネート基と反応しうる基である。)。
【0081】
上記一般式(1)において、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基であるが、4つのアルキル基全てメチル基であることが好ましい。
【0082】
は、炭素数1〜10アルキル基、または水素原子である。中でも、入手の容易さの観点から、炭素数1〜4アルキル基、または水素原子であることが好ましい。なお、R〜Rが炭素数1〜4のアルキル基であるため、Rが水素原子であっても、立体障害の影響でRが結合している窒素原子とイソシアネート基が反応することはない。
【0083】
は、炭素数1〜20のアルキレン基、又は炭素数3〜20のポリメチレン基であり、好ましくは炭素数1〜10のアルキレン基、又は炭素数3〜10のポリメチレン基である。なお、aは、R6の数を示すが、aが0の場合は、Xが直接ピペリジン環に結合しているものを指す。
【0084】
Xは、イソシアネート基と反応しうる基であり、好ましくは、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、またはチオール基である。中でも、イソシアネート基との反応性、入手の容易さなどの観点からアミノ基、及び水酸基であることが好適である。
【0085】
上記式(1)で示される反応停止剤を具体的に例示すれば、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ヒドロキシピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−アミノピペリジン、2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン、2,2,6,6−テトラメチル−4−アミノピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−アミノメチルピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−アミノブチルピペリジンなどを挙げることができる。
【0086】
また、反応性ポリウレタン樹脂の末端にピペリジン構造を導入しうる化合物としては、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの反応物である下記化合物も使用することが出来る。
【0087】
【化3】

【0088】
なお、上記化合物において、nは5〜20の範囲を満足することが好ましい。
【0089】
ヒンダードフェノール構造を有する反応停止剤
本発明でA5成分として使用されるヒンダードフェノール構造を有する反応停止剤としては、下記一般式(ii)で示される構造を分子内に有する化合物が好適に使用できる。
【0090】
【化4】

【0091】
(式中、
、R、R、及びR10は、それぞれ、炭素数1〜18アルキル基、または水素原子であり、
、またはRの少なくともどちらか一方は、炭素数4以上のアルキル基である。)。そして、上記構造の1位の炭素原子にイソシアネート基と反応しうる基を有する化合物が、ヒンダードフェノール構造を有する反応停止剤となる。上記式(ii)における4位の水酸基は、RとRの少なくとも一方がアルキル基であるため、その立体障害の影響からイソシアネート基とは反応しない。そのため、4位の水酸基は、イソシアネート基と反応しうる基から除外して考えられる。
【0092】
上記のような構造を分子内に有し、さらに、イソシアネート基と反応しうる基を1つ有することにより、A成分の非反応性ポリウレタン樹脂の末端に、非反応性基としてヒンダードフェノール構造を導入することができる。
【0093】
ヒンダードフェノール構造を有する反応停止剤の中でも、好ましい化合物としては、下記一般式(2)を挙げることができる。
【0094】
【化5】

【0095】
(式中、
、R、R、及びR10は、それぞれ、炭素数1〜18のアルキル基、または水素原子であり、R、またはRのうち少なくともどちらか一方は、炭素数4以上のアルキル基であり、
11は、炭素数1〜10のアルキレン基、または炭素数3〜10のポリメチレン基であり、bは0または1であり、
Yは、イソシアネート基と反応しうる基である。)。
【0096】
上記一般式(2)において、R、およびRは、炭素数1〜18のアルキル基、または水素原子であり、どちらか一方は、炭素数4以上のアルキル基である。好ましくは、R、及びRのどちらか一方が、tert−ブチル基である。一方の基が炭素数4以上のアルキル基であることにより、得られるフォトクロミック組成物の耐久性をより向上できる。
【0097】
、及びR10は、炭素数1〜18のアルキル基、または水素原子であり、より好ましくは炭素数1〜10のアルキル基、または水素原子である。
【0098】
また、Yは、イソシアネート基と反応しうる基であり、アミノ基、水酸基、チオール基、カルボキシル基、または酸クロライド基であり、特に、好ましくは、アミノ基、水酸基、チオール基、カルボキシル基である。
【0099】
11は、炭素数1〜10のアルキレン基、または炭素数3〜10のポリメチレン基であり、好ましくは炭素数1〜5のアルキレン基、または炭素数3〜5のポリメチレン基である。また、bは、R11の数を示すが、0または1である。bが0の場合は、Yが直接ベンゼン環に結合しているものを指す。好ましくは、bが0である化合物である。
【0100】
ヒンダードフェノール構造を有する反応停止剤を具体的に例示すれば、3−メチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3,5−ジメチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−ブチル−6−メチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−ブチル−5−エチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−ブチル−6−エチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−オクチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−オクチル−5−メチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−オクチル−5−エチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−オクチル−6−メチル−4−ヒドロキシ安息香酸、2−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3−t−ブチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3−t−ブチル−5−エチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3−t−オクチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3−t−オクチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3−t−オクチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、3−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−ブチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−ブチル−5−エチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−ブチル−6−エチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−オクチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−オクチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−オクチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3,5−ジドデシル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、4−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−ブチル−5−エチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−ブチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−ブチル−6−エチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−オクチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−オクチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−オクチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニルアミン、3,5−ジイソプロピル−4−ヒドロキシフェニルアミン、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアミンなどを挙げることができる。
【0101】
この中でもより好ましい化合物として、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−ブチル−6−メチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−ブチル−5−エチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−t−ブチル−6−エチル−4−ヒドロキシ安息香酸、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3−t−ブチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2−(3−t−ブチル−5−エチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸、3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−ブチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−ブチル−5−エチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(3−t−ブチル−6−エチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、4−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−ブチル−5−エチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−ブチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、4−(3−t−ブチル−6−エチル−4−ヒドロキシフェニル)酪酸、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアミン、3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニルアミンを挙げることができる。
【0102】
トリアジン構造、またはベンゾトリアゾール構造を有する反応停止剤
本発明でA5成分として使用されるトリアジン構造、またはベンゾトリアゾール構造を有する反応停止剤としては、下記一般式(iii)、(iv)で示される構造を分子内に有する化合物が好適に使用できる。
【0103】
【化6】

【0104】
【化7】

【0105】
上記のような構造を分子内に有し、さらに、イソシアネート基と反応しうる基を1つ有することにより、A成分の非反応性ポリウレタン樹脂の末端に、非反応性基としてトリアジン構造、またはベンゾトリアゾール構造を導入することができる。
【0106】
トリアジン構造、またはベンゾトリアゾール構造を有する反応停止剤の中でも、好ましい化合物としては、下記一般式(3)及び、(4)を挙げることができる。先ず、トリアジン構造を有する反応停止剤について説明する。
【0107】
下記一般式(3)
【0108】
【化8】

【0109】
(式中、
12、R13、R14、R15、R16、及びR17は、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基、アルキルオキシ基、水素原子、アミノ基、または水酸基であり、
前記アルキル基、及びアルキルオキシ基は、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、及びチオール基から選ばれる置換基を有していてもよく、
ただし、R12〜R17のうち、1つの基は、イソシアネート基と反応しうる基、もしくはイソシアネート基と反応しうる置換基を有する基である。)で示される化合物が好適に使用できる。
【0110】
上記一般式(3)において、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17は、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10アルキルオキシ基である。より好ましくは、炭素数1〜5のアルキル基、または炭素数1〜5のアルキルオキシ基である。また、これら基は、イソシアネート基と反応しうる基、好ましくはアミノ基、水酸基、カルボキシル基、またはチオール基を置換基として有していてもよい。
【0111】
また、上記一般式(3)におけるR12、R13、R14、R15、R16、及びR17は、水素原子、またはイソシアネート基と反応しうる基、もしくはイソシアネート基と反応しうる置換基を有する基であってもよいが、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17のうち、1つの基が、イソシアネート基と反応しうる基、もしくはイソシアネート基と反応しうる置換基を有する基である。
【0112】
中でも、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17は、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、tert−ブチル基、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシエチルオキシ基、3−ヒドロキシプロピルオキシ基、2−ヒドロキシプロピルオキシ基、水素原子、またはアミノ基であることが好ましい。そして、そのうち1つの基が、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシエチルオキシ基、3−ヒドロキシプロピルオキシ基、2−ヒドロキシプロピルオキシ基、またはアミノ基であることが好ましい。
【0113】
前記一般式(3)において、ベンゼン環に直接水酸基が結合している場合(R12、R13、R14、R15、R16、又はR17が水酸基の場合)には、この水酸基は、電子的な影響によりイソシアネート基との反応性が低い。そのため、R12、R13、R14、R15、R16、又はR17が水酸基の場合は、イソシアネート基と反応しうる基には該当しない。
【0114】
具体的な化合物を例示すると、2−(2−ヒドロキシ−4−ヒドロキシメチルフェニル)−4, 6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−ヒドロキシメチルフェニル)−4, 6−ビス(2, 4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル)−4, 6−ジフェニル−s −トリアジン、2−(2ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル)−4, 6−ビス(2, 4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシエチルオキシ)フェニル)−4, 6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシエチルオキシ)フェニル)−4, 6−ビス(2, 4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシプロピル)フェニル)−4, 6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシプロピル)フェニル)−4, 6−ビス(2, 4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−(3−ヒドロキシプロピル)フェニル)−4, 6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2ヒドロキシ−4−(3−ヒドロキシプロピル)フェニル)−4, 6−ビス(2, 4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル)−4, 6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル)−4, 6−ビス(2, 4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−(4−ヒドロキシブチル)フェニル)−4, 6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2ヒドロキシ−4−(4−ヒドロキシブチル)フェニル)−4, 6−ビス(2, 4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−(3−ヒドロキシブチル)フェニル)−4, 6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2ヒドロキシ−4−(3−ヒドロキシブチル)フェニル)−4, 6−ビス(2, 4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−(4−ヒドロキシブチルオキシ)フェニル)−4, 6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2ヒドロキシ−4−(4−ヒドロキシブチルオキシ)フェニル)−4,6−ビス(2, 4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2,4−ビス(2−メトキシ−4−エチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシメチル−4−メチルフェニル)−s−トリアジン、2,4−ビス(2−エトキシ−4−メチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシメチル−4−メチルフェニル)−s−トリアジン、
2,4−ビス(2−メチル−4プロピルフェニル)−6−(2−(4−ヒドロキシブチルオキシ)−4−メチルフェニル)−s−トリアジン、2,4−ビス(2−メトキシ−4−プロピルフェニル)−6−(2−ヒドロキシメチル−4−メチルフェニル)−s−トリアジン、2,4−(2−エトキシ−4−プロピルフェニル)−6−(2−ヒドロキシプロピルオキシ−4−ジメチルフェニル)−s−トリアジンなどを挙げることができる。
【0115】
次に、ベンゾトリアゾール構造を有する好ましい反応停止剤について説明する。好ましい化合物としては、下記一般式(4)で示される化合物が挙げられる。
【0116】
【化9】

【0117】
(式中、
18、及びR19は、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルキルオキシ基、水素原子、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシカルボニル基、又はイソシアネート基と反応しうる基であり、
前記アルキル基、及びアルキルオキシ基は、イソシアネート基と反応しうる基を有していてもよく、ただし、R18、及びR19において、イソシアネート基と反応しうる基は1つのみであり、
前記アリール基、及びアラルキル基は、炭素数1〜5のアルキル基を置換基として有していてもよく、
20は、水素原子、又はハロゲン原子である。)
前記一般式(4)において、ベンゼン環に直接結合している水酸基は、その電子的な影響によりイソシアネート基との反応性が低い。そのため、該水酸基は、イソシアネート基と反応しうる基には該当しない。
【0118】
上記一般式(4)において、R18、及びR19は、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10アルキルオキシ基、水素原子、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシカルボニル基、又はイソシアネート基と反応しうる基である。
【0119】
前記アルキル基、及びアルキルオキシ基には、イソシアネート基と反応しうる基、具体的には、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、酸クロライド基、またはチオール基を有していてもよい。ただし、該イソシアネート基と反応しうる基は、1つのみである。
【0120】
また、R18、及びR19は、炭素数1〜5のアルキル基を置換基として有するアリール基、もしくはアラルキル基であり、好ましくは、炭素数1〜5のアルキル基を置換基として有するフェニル基である。
【0121】
好適なR18、及びR19を例示すれば、水素原子、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、フェニル基、ベンジル基、1,1−ジメチルベンジル基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基、アミノ基、アミノメチル基、アミノエチル基、アミノプロピル基が挙げられる。また、カルボキシル基の酸クロライド基等も挙げることができる。
【0122】
好適な基の中でも、R18、およびR19は、必ず、一方の基に、1つのイソシアネート基と反応しうる基を有さなければならない。
【0123】
具体的な化合物としては、3−[3’−(2’’H−ベンゾトリアゾール−2’’−イル)−4’−ヒドロキシフェニル]プロピオン酸、3−[3’−(2’’H−ベンゾトリアゾール−2’’−イル)− 5’−メチル−4’−ヒドロキシフェニル]プロピオン酸、3−[3’−(2’’H−ベンゾトリアゾール−2’’−イル)−5’−エチル−4’−ヒドロキシフェニル]プロピオン酸、3−[3’−(2’’H−ベンゾトリアゾール−2’’−イル)−5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル]プロピオン酸、3−[3’−(5’’−クロロ−2’’H−ベンゾトリアゾール−2’’−イル)−5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル]プロピオン酸、3−[3’−(2’’H−ベンゾトリアゾール−2’’−イル)−4’’−ヒドロキシ−5’’−(1’,1’−ジメチルベンジル)フェニル]プロピオン酸、3−[3’−(2’’H−ベンゾトリアゾール−2’’−イル)−4’’−ヒドロキシ−5’’−(1’’,1’’,3’’,3’’−テトラメチルブチル)フェニル」プロピオン酸、及びそれらの酸クロライド化合物、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(ヒドロキシメチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(ヒドロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(ヒドロキシプロピル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−(ヒドロキシメチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−(ヒドロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−(ヒドロキシプロピル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−(ヒドロキシメチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−(ヒドロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−(ヒドロキシプロピル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−t−オクチル−5’−(ヒドロキシメチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−t−オクチル−5’−(ヒドロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−t−オクチル−5’−(ヒドロキシプロピル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−(ヒドロキシエチル)フェニル]−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾールなどを挙げることができる。
【0124】
上記A5成分は、本発明の非反応性ポリウレタン樹脂、及びフォトクロミック化合物の耐候性の向上を目的として、得られる非反応性ポリウレタン樹脂の末端に導入することが可能であり、主鎖や側鎖ではなく末端に導入することにより、ウレタン樹脂本来の耐熱性、機械的強度(剥離強度)を損なわないという利点が考えられる。
【0125】
その他の反応停止剤
本発明でA5成分としてしては、前述したピペリジン構造、ヒンダードフェノール構造、トリアジン構造、またはベンゾトリアゾール構造を有する耐候性の向上を目的とした反応停止剤以外にも、一般的なアミン、アルコール、チオール、及びカルボン酸を用いることができる。これらの化合物は、分子内にイソシアネート基と反応しうる基を1つ有することにより、A成分の非反応性ポリウレタン樹脂の末端に、非反応性基を導入することができる。
【0126】
本発明で使用されるその他の反応停止剤の中でも、好ましい化合物としては、下記一般式(5)、及び(6)を挙げることができる。
【0127】
【化10】

【0128】
(式中、
21は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシカルボニル基または水素原子であり、
22は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはエステル基である。)
21が水素原子である化合物をA5成分として用いた場合には、非反応性ウレタン樹脂の末端は、−NH(R22)基となるが、この−NH(R22)基は、他のポリマー、およびイソシアネート化合物とは実質的に反応しない。そのため、−NH(R22)基は、イソシアネート基と反応しうる基には該当しない。
【0129】
上記一般式(5)において、R21は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシカルボニル基または水素原子である。中でも、R21は、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシカルボニル基、または水素原子であることが好ましい。前記アリール基、及びアラルキル基は、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子を置換基として有してもよい。
【0130】
好適なR21を例示すれば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、フェニル基、ベンジル基、1,1−ジメチルベンジル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基、又は水素原子等が挙げられる。
【0131】
また、R22は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはアルキルオキシカルボニル基である。中でも、R22は、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはアルキルオキシカルボニル基であることが好ましい。前記アリール基は、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子を置換基として有してもよい。
【0132】
好適なR22を例示すれば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、フェニル基、ベンジル基、1,1−ジメチルベンジル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、又はカルボキシプロピル基等が挙げられる。
【0133】
下記一般式(6)
【0134】
【化11】

【0135】
(式中、
23は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはアルキルオキシカルボニル基であり、
Zは、水酸基、カルボキシル基、またはチオール基である。)
で示される化合物も、反応停止剤として好適に使用できる。
【0136】
上記一般式(6)において、R23は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはアルキルオキシカルボニル基であり、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはアルキルオキシカルボニル基であることが好ましい。このアリール基、及びアラルキル基は、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子を置換基として有してもよい。好ましい基としては、炭素数1〜5のアルキル基、フェニル基、ハロゲン原子を有するフェニル基が挙げられる。好適なR23を例示すれば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、フェニル基、ベンジル基、1,1−ジメチルベンジル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、及びカルボキシプロピル基等が挙げられる。
【0137】
上記一般式(6)におけるZは、A4成分である反応性ポリウレタン樹脂末端に存在するイソシアネート基と反応しうる基であり、具体的には水酸基、カルボキシル基、またはチオール基であり、好ましくは水酸基である。
【0138】
上記一般式(5)、及び(6)で示される具体的な化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、tert−ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、4−ヘプチルアミン、オクチルアミン、1,1−ジプロピルブチルアミン、フェニルアミン、ベンジルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジ−tert−ブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、メチルエチルアミン、メチルブチルアミン、メチルペンチルアミン、メチルヘキシルアミン、メチルヘプチルアミン、メチルオクチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、エチルペンチルアミン、エチルヘキシルアミン、エチルヘプチルアミン、エチルオクチルアミン、プロピルブチルアミン、イソプロピルブチルアミン、プロピルペンチルアミン、プロピルヘキシルアミン、プロピルヘプチルアミン、プロピルオクチルアミンなどのアミン類、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2−ブタノール、tert−ブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デカノール、2−デカノールなどのアルコール類、メタンチオール、エタンチオール、1−プロパンチオール、2−プロパンチオール、1−ブタンチオール、2−ブタンチオール、プロパンチオール、ヘキサンチオール、ヘプタンチオール、オクタンチオール、ドデカンチオール、2−メチル−1−ブタンチオール、2−メチルプロパンチオール、3−メチル−2−ブテンチオール、1,1−ジメチルヘプタンチオール、シクロヘキサンチオール、シクロペンタンチオール、ベンゼンチオール、ベンゼンメタンチオール、2,6−ジメチルベンゼンチオールなどのチオール類、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸などのカルボン酸類などが挙げられる。
【0139】
以上の反応停止剤は、単独で用いても、2種類以上を混合して用いても構わないが、非反応性ポリウレタン樹脂、及びフォトクロミック化合物の耐久性を向上させるという観点から、ピペリジン構造を有する反応停止剤、またはヒンダードフェノール構造を有する反応停止剤を用いることが好適である。
【0140】
次に、上記A1〜A5成分を使用したA成分の合成方法について説明する。
【0141】
A成分の合成方法
これらA1成分、A2成分、A3成分からA4成分を合成し、次いで、A4成分およびA5成分を反応させてA成分を得る場合には、所謂ワンショット法又はプレポリマー法を採用することができる。例えば、次のような方法によって好適にA成分を得ることができる。A1成分とA2成分とを反応さてウレタンプレポリマーを得、次いで該ウレタンプレポリマーとA3成分を反応させ、A4成分である反応性ポリウレタン樹脂を得る。得られたA4成分に残存する末端イソシアネート基と、分子内に1つのイソシアネート基と反応しうる基を有する反応停止剤A5成分を反応させることにより、本発明のA成分を製造することができる。
【0142】
上記方法において、A1成分とA2成分との反応は、溶媒の存在下または非存在下で両者を窒素あるいはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下中、25〜120℃で0.5〜24時間反応させればよい。溶媒としては、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)などの有機溶媒が使用できる。反応に際しては、A2成分であるジイソシアネート化合物中のイソシアネート基と不純物としての水との反応を避けるため、各種反応試剤及び溶媒は、予め脱水処理を行い、十分に乾燥しておくことが好ましい。また、上記反応を行う際には、ジラウリル酸ジブチルスズ、ジメチルイミダゾール、トリエチレンジアミン、テトラメチル−1,6−ヘキサジアミン、テトラメチル−1,2−エタンジアミン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンなどの触媒を添加してもよい。触媒を使用する際の添加量としては、該A成分の合計100質量部に対して0.001〜1質量部であることが好ましい。
【0143】
このようにして得られたウレタンプレポリマーとA3成分との反応は、溶媒の存在下または非存在下で両者を窒素あるいはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下中、25〜120℃で0.5〜24時間反応させればよい。溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブタノール、2−ブタノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、DMF、DMSO、THFなどを使用することができる。この反応により、分子鎖の末端にイソシアネート基を有する反応性ポリウレタン樹脂であるA4成分が得られる。
【0144】
さらに、得られたA4成分とA5成分との反応は、溶媒の存在下または非存在下で両者を窒素あるいはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下中、25〜120℃で0.5〜24時間反応させればよい。溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブタノール、2−ブタノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、DMF、DMSO、THFなどを使用することができる。
【0145】
各成分の配合割合、A成分の特性
上記方法において反応に使用するA1成分、A2成分、A3成分、A4成分、及びA5成分の量比は適宜決定すればよいが、得られるポリウレタン樹脂の耐熱性、接着強度、フォトクロミック特性(発色濃度、退色速度、耐候性など)などのバランスの観点から、次のような量比とすることが好ましい。前述のように、A1成分、A2成分、及びA3成分の量比は、A1成分に含まれる、“イソシアネート基と反応しうる官能基”(具体的には水酸基)の総モル数をn1とし、A2成分に含まれるイソシアネート基の総モル数をn2とし、A3成分に含まれる、“イソシアネート基と反応しうる官能基”(具体的にはアミノ基、水酸基、メルカプト基及び/又はカルボキシル基)の総モル数をn3とし、前記A5成分に含まれるイソシアネート基と反応しうる基の総モル数をn5としたときに、
n1:n2:n3:n5=0.30〜0.89:1:0.1〜0.69:0.01〜0.20となる量比とすることが好ましい。得られるフォトクロミック組成物(フォトクロミック性接着剤)が、優れた密着性、耐久性、フォトクロミック特性を発揮するためには、好ましくは、n1:n2:n3:n5=0.34〜0.83:1:0.15〜0.6:0.02〜0.15、より好ましくは、n1:n2:n3:n5=0.4〜0.78:1:0.2〜0.5:0.02〜0.1である。ここで、上記n1、n2、n3、及びn5は、各成分として用いる化合物の使用モル数と該化合物1分子中に存在する各基の数の積として求めることができる。
【0146】
なお、A4成分の項目にて説明したとおり、反応性ポリウレタン樹脂であるA4成分は、末端にイソシアネート基を有するものである。そのため、n1とn3との総和(n1+n3)は、n2よりも小さい値となる(n1+n3<n2)。そして、A成分を非反応性ポリウレタン樹脂とするためには、n5が、n2と、n1とn3との総和の差(n2−(n1+n3))以上とならなければならない。A成分を合成する場合、最も好ましい配合は、上記量比を満足し、かつ、n2と、n1、n3、及びn5との総和が等しくなる場合である(n2=n1+n3+n5)。
【0147】
非反応性ポリウレタン樹脂であるA成分を製造するに際し、n1、n3、及びn5の総和がn2以上(n2≦n1+n3+n5)となる配合量で、A5成分を使用することもできる。この場合、過剰に加えたA5成分は、再沈することにより除去してもよい。また、過剰のA5成分が本発明の効果を損なわない程度の量である場合には、そのまま、フォトクロミック組成物を形成することもできる。この場合、フォトクロミック組成物を形成した際、該A5成分はB成分と反応して消費されると考えられる。そのため、過剰のA5成分が本発明の効果を損なわない程度の量であれば、特に問題とならない。ただし、本来ウレア樹脂の生成に使用されるべきB成分中のイソシアネート基が消費されてしまうため、最も好ましい態様は、n1+n3+n5=n2となるようにA5成分を使用することである。
【0148】
このような反応により得られた非反応性ポリウレタン樹脂(A成分)は、反応溶媒に溶解しているまま使用しても構わないが、必要に応じて溶媒を留去する、或いは水などの貧溶媒中に反応液を滴下し、非反応性ポリウレタン樹脂を沈降・濾過後、乾燥させるなどの後処理を行って、A成分として使用すればよい。
【0149】
A成分の非反応性ポリウレタン樹脂は、得られる非反応性ポリウレタン樹脂の耐熱性、接着強度、フォトクロミック特性(発色濃度、退色速度、耐候性など)などの観点から、その数平均分子量は、5千〜15万であることが好ましく、さらに8千〜10万であることが好ましく、特に1万〜6万であることが最も好ましい。なお、上記ポリウレタン樹脂の数平均分子量は、ポリエチレンオキシド換算によるゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)を用いて、カラム:Shodex KD−805、KD−804(昭和電工株式会社製)、溶離液:LiBr(10mmol/L)/DMF溶液、流速:1ml/min、検出器:RI検出器、ポリウレタン樹脂試料溶液:0.5%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液の条件により測定した数平均分子量である。
【0150】
A成分である非反応性ポリウレタン樹脂は、軟化点が60〜200℃、特に80〜150℃となることが好ましい。上記範囲の軟化点を満足する非反応性ポリウレタン樹脂を使用することにより、光学シート又はフィルム同士を接合して積層体(フォトクロミック積層体)とするときの加工性が良好となる。また、該非反応性ポリウレタン樹脂を使用することにより、得られた積層体を用いた光学物品を製造するときの加工性が良好となる。さらに、これら積層体、又は光学物品の表面にハードコート層を形成する場合において、ハードコート液を塗布したり、硬化させたりするときの加工性も良好となる。なお、ここでいう軟化点とは、熱機械測定装置(セイコーインスツルメント社製、TMA120C)を用いて、下記条件で測定した軟化点を意味する。
〔測定条件〕 昇温速度:10℃/分、測定温度範囲:30〜200℃、プローブ:先端径0.5mmの針入プローブ。
【0151】
次に、B成分である分子内に少なくとも1つのイソシアネート基を有するイソシアネート化合物について説明する。
【0152】
B成分:分子内に少なくとも1つのイソシアネート基を有するイソシアネート化合物
本発明における分子内に少なくとも1つのイソシアネート基を有するイソシアネート化合物としては、公知のイソシアネート化合物を何ら制限なく使用することができる。これらは、単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0153】
該B成分を、前述のA成分に添加することにより、優れた密着性を発揮する要因については定かではないが、下記のように考えられる。該B成分に含まれるイソシアネート基の一部が、本発明のフォトクロミック組成物中に含まれる水分や、環境中の湿度(すなわち、水分の存在下)により加水分解してアミノ基を生じる。この生じたアミノ基が、B成分に残存するイソシアネート基と反応することによりウレア結合を有する反応生成物となる。ここで生じた反応生成物のウレア基が、A成分中に存在するウレア結合、及びウレタン結合との間に水素結合を形成することで、フォトクロミック性接着層の凝集力が向上し、密着性、及び耐熱性が向上すると考えられる。特に、熱水と接触させた後でも、密着性(光学シートと該接着層との密着性)を高く維持することができる。この効果は、2液型のポリウレタン樹脂を使用した場合よりも、優れている。
【0154】
このB成分の反応生成物は、本発明のフォトクロミック組成物、及び得られるフォトクロミック性接着剤(層)の赤外吸収スペクトルを比較することで確認できる。フォトクロミック化合物と該接着剤層において、イソシアネート基の吸収の減少を確認することで反応生成物の生成を確認できる。この反応生成物の確認は、例えば、イソシアネート基とメチレン基とのピーク強度比から確認できる。フォトクロミック組成物では、イソシアネート基由来の吸収が確認できる。一方、水分の存在下で製造されたフォトクロミック積層体から取り出したフォトクロミック性接着層では、該イソシアネート基の吸収が時間と共に減少し、最終的には消失することが確認できる。また、該接着層においては、イソシアネート基の吸収の減少と共に、ウレア結合の吸収が増加することも確認できる。このことから、該接着層には、B成分の反応生成物(ウレア結合を有する反応生成物)が存在することが確認できる。
【0155】
上記のイソシアネート化合物としては、前述のA2成分として例示したイソシアネート化合物に加えて、1−アダマンチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、イソプロピルイソシアネート、ブチルイソシアネート、tert−ブチルイソシアネート、ヘキサンイソシアネート、ノニルイソシアネート、ドデシルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、4−メチルシクロヘキシルイソシアネート、アリルイソシアネート、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート、1,1−ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート、イソシアン酸m−トリル、イソシアン酸フェニル、3,5−ジ(トリフルオロメチル)フェニルイソシアネート、4−フルオロフェニルイソシアネート、4−(トリフルオロメトキシ)フェニルイソシアネート、3−(トリフルオロメチル)フェニルイソシアネート、1−イソシアナト−2,4−ジメトキシベンゼン、イソシアナト酢酸エチル、2−イソシアナトベンゾイルクロリド、3−イソシアナト−1,2,4,5−テトラメチルベンゼン、4−イソシアナト−4−プロピルペンタン、1−イソシアナト−1−プロペン、3−ブロモ−2−(4−イソシアナトフェニル)チオフェン、イソシアナトプロピルジメチルシリルシクロヘキシルポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン、イソシアナトプロピルジメチルシリルイソブチルポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン等の分子内に1つのイソシアネート基を有する化合物を挙げることができる。
【0156】
また、1,3,5−トリス(6−イソシアナトヘキシル)ビュレット、(2,4,6−トリオキトリアジン−1,3,5(2H,4H,6H)トリイル)トリス(ヘキサメチレン)イソシアネート、1−メチルベンゼン−2,4,6−トリイルトリイソシアネート、4,4’、4’ ’−メチリジントリス(イソシアナトベンゼン)、メチルシラントリイルトリスイソシアネート、2,6−ジイソシアナトカプロン酸2−イソシアナトエチル、2,6−ビス[(2−イソシアナトフェニル)メチル]フェニルイソシアネート、トリス(3−メチル−6−イソシアナトベンゾイル)メタン、トリス(4−メチル−3−イソシアナトベンゾイル)メタン、トリス(3−イソシアナトフェニル)メタン、トリス(3−メチル−4−イソシアナトベンゾイル)メタン、トリス(4−メチル−2−イソシアナトベンゾイル)メタン等の分子内に3つのイソシアネート基を有する化合物を挙げることができる。また、イソシアネート基を3つ有するイソシアヌレート化合物を挙げることができる。
【0157】
さらには、テトライソシアナトシラン、[メチレンビス(2,1−フェニレン)]ビスイソシアネート等の分子内に4つのイソシアネート基を有する化合物を挙げることができる。
【0158】
また、分子内に2つ以上のイソシアネート基を有するイソシネート化合物に対して、前述のA3成分を反応させて得られる、イソシアネート化合物(B’)(以下、単にB’成分ともいう。)を本発明のB成分として用いることもできる。
【0159】
上記B’成分を合成する際には、ジイソシアネート化合物である前述のA2成分と、前述のA3成分のうちアミノアルコール化合物、またはジオール化合物とを反応させたものであることが好ましい。その中でも、ジイソシアネート化合物としては、
テトラメチレン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、オクタメチレン−1,8−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサン−1,6−ジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネ−ト、又は
シクロブタン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、2,4−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、2,6−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物、ヘキサヒドロトルエン−2,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン−2,6−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,3−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,4−ジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネートを使用することが好ましい。
【0160】
一方、アミノアルコール化合物としては、2−アミノエタノール、3−アミノプロパノール、4−アミノブタノール、5−アミノペンタノール、6−アミノヘキサノール、2−ピペリジンメタノール、3−ピペリジンメタノール、4−ピペリジンメタノール、2−ピペリジンエタノール、4−ピペリジンエタノールを使用することが好ましい。
【0161】
また、ジオール化合物としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,4−ヘプタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−ビス(ヒドロキシエチル)−シクロヘキサン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコールを使用することが好ましい。
【0162】
該B’成分は、分子内に1つ以上のイソシアネート基が存在していなければなない。そのため、該B’成分を合成する際には、A2成分のイソシアネート基の総モル数が、A3成分のイソシアネート基と反応しうる基の総モル数よりも、大きくならなければならない
前記B成分に含まれるイソシアネート基は、ブロック剤で保護されている状態で使用することもできる。ブロック剤としては、例えば、酸アミド系、ラクタム系、酸イミド系、イミダゾール系、尿素系、オキシム系化合物などが使用できる。具体的には、アセトアニリド、酢酸アミド、ε−カプロラクタム、コハク酸イミド、マレイン酸イミド、ジメチルピラゾール、チオ尿素、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトオキシムなどを挙げる事ができる。
【0163】
B成分(B’成分)に含まれるイソシアネート基の数は、1つでも構わないが、2つ以上であることが好ましい。B成分の分子内に、2つ以上のイソシアネート基を有することにより、フォトクロミック性接着剤層を形成する際に、分子量が大きいウレア樹脂(B成分の反応生成物)を形成できる。その結果、B成分の反応生成物とA成分との凝集力が向上するため密着性向上の効果が高くなると考えられる。一方で、B成分の分子内に、4つ以上のイソシアネート基が存在する場合には、網目状に架橋したウレア樹脂で形成するため、A成分との間で相分離が生じやすくなり、本発明のフォトクロミック接着層が白濁する傾向がある。そのため、B成分(B’成分を含む)は、分子内に2つ、または3つのイソシアネート基を有する化合物が好ましく、特に、2つのイソシアネート基を有する化合物が好ましい。
【0164】
また、該B成分は、耐候性の観点から脂肪族イソシアネート化合物、および脂環式イソシアネート化合物から選ばれるイソシアネート化合物であることが好ましい。芳香族イソシアネート化合物は、A成分との間で相分離が生じやすく、本発明のフォトクロミック接着層が白濁する傾向が見られる。これは、芳香族イソシアネート化合物が脂肪族イソシアネート化合物、および脂環式イソシアネート化合物よりも反応性が速く、さらに凝集力が高いことに起因していると考えている。この白濁の観点からも、B成分は、脂肪族イソシアネート化合物、および脂環式イソシアネート化合物から選ばれるイソシアネート化合物であることが好ましい。
【0165】
本発明において、前記B成分(前記B’成分を含む)の分子量は、特に制限されるものではないが、1000未満であることが好ましい。該B成分の分子量が1000以上の場合、得られるフォトクロミック性接着層の耐熱性、および膜強度が低下する傾向がある。これは、高分子量化したイソシアネート化合物を配合すると、B成分の反応生成物におけるウレア結合以外の構造部が影響を与えるものと考えられる。また、密着性を向上させるために、イソシアネート基のモル数をある一定量以上存在させようとした場合、分子量が大きいイソシアネート化合物ではA成分に対する配合量が増加する。その結果、該反応生成物のウレア結合以外の構造部が影響を与え易くなると考えられる。この点からも、B成分の分子量は、1000未満であることが好ましい。以上のことから、B成分の分子量は、より好ましくは750以下、最も好ましくは600以下である。当然のことながら、前記B’成分の分子量も、同様の理由で1000未満であることが好ましい。このB成分(B’成分)は、前記の通り、ポリマーではない方が好ましい。そのため、前記B成分(B’成分)の分子量は、B成分(B’成分)そのものの分子量を指す。B成分の分子量の下限は、その単体化合物の分子量であり、特に制限されるものではないが、100である。
【0166】
(B成分の配合量)
本発明のフォトクロミック性組成物におけるB成分の配合量は、密着性、耐熱性、及びフォトクロミック特性の観点から、A成分100質量部に対して0.01〜20質量部とすることが好適である。上記配合量が少なすぎる場合には、十分な密着性、及び耐熱性の向上効果が得られず、多すぎる場合には、該フォトクロミック性組成物から得られる接着層の白濁、密着性の低下、フォトクロミック化合物の耐久性低下などが起こる傾向がある。発色濃度や耐久性といったフォトクロミック特性を維持したまま、プラスチックフィルムなどの光学基材との密着性を向上させるためには、B成分の配合量は、A成分100質量部に対して0.1〜10質量部、特に0.5〜5質量部とすることが好ましい。この際、B成分に含まれるイソシアネート基の割合は、A成分100質量部に対して、0.01〜10.0質量部、より好ましくは0.02〜5.0質量部、もっとも好ましくは0.1〜3.0質量部である。ここで、イソシアネート基の量は、B成分の分子量と1分子当たりのイソシアネート基の数から求めることができる。
【0167】
C成分:フォトクロミック化合物
本発明のフォトクロミック組成物でC成分として用いるフォトクロミック化合物としては、クロメン化合物、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、スピロピラン化合物などの公知のフォトクロミック化合物を何ら制限なく使用することが出来る。これらは、単独使用でもよく、2種類以上を併用しても良い。
【0168】
上記のフルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、スピロピラン化合物およびクロメン化合物としては、例えば特開平2−28154号公報、特開昭62−288830号公報、WO94/22850号パンフレット、WO96/14596号パンフレットなどに記載されている化合物を挙げることができる。
【0169】
特に、クロメン化合物としては上記特許文献に記載されたもの以外にも、優れたフォトクロミック性を有するクロメン化合物が知られており、このようなクロメン化合物はB成分として好適に使用できる。このようなクロメン化合物としては、特開2001−031670号、特開2001−011067号、特開2001−011066号、特開2000−344761号、特開2000−327675号、特開2000−256347号、特開2000−229976号、特開2000−229975号、特開2000−229974号、特開2000−229973号、特開2000−229972号、特開2000−219678号、特開2000−219686号、特開平11−322739号、特開平11−286484号、特開平11−279171号、特開平09−218301号、特開平09−124645号、特開平08−295690号、特開平08−176139号、特開平08−157467号、米国特許5645767号公報、米国特許5658501号公報、米国特許5961892号公報、米国特許6296785号公報、日本国特許第4424981号公報、日本国特許第4424962号公報、WO2009/136668号パンフレット、WO2008/023828号パンフレット、日本国特許第4369754号公報、日本国特許第4301621号公報、日本国特許第4256985号公報、WO2007/086532号パンフレット、特開平2009−120536号、特開2009−67754号、特開2009−67680号、特開2009−57300号、日本国特許4195615号公報、日本国特許4158881号公報、日本国特許4157245号公報、日本国特許4157239号公報、日本国特許4157227号公報、日本国特許4118458号公報、特開2008−74832号、日本国特許3982770号公報、日本国特許3801386号公報、WO2005/028465号パンフレット、WO2003/042203号パンフレット、特開2005−289812号、特開2005−289807号、特開2005−112772号、日本国特許3522189号公報、WO2002/090342号パンフレット、日本国特許第3471073号公報、特開2003−277381号、WO2001/060811号パンフレット、WO00/71544号パンフレット等に開示されている。
【0170】
これら他のフォトクロミック化合物の中でも、発色濃度、初期着色、耐久性、退色速度などのフォトクロミック特性の観点から、インデノナフト「2,1−f」ナフト「2,1−b」ピラン骨格を有するクロメン化合物を1種類以上用いることがより好ましい。さらにこれらクロメン化合物中でもその分子量が540以上の化合物は、発色濃度および退色速度に特に優れるため好適である。その具体例として、以下のものが挙げられる。
【0171】
【化12】

【0172】
【化13】

【0173】
【化14】

【0174】
【化15】

【0175】
【化16】

【0176】
【化17】

【0177】
【化18】

【0178】
【化19】

【0179】
【化20】

【0180】
(C成分の配合量)
本発明のフォトクロミック性組成物におけるC成分の配合量は、フォトクロミック特性の観点から、A成分100質量部に対して0.01〜20質量部とすることが好適である。上記配合量が少なすぎる場合には、十分な発色濃度や耐久性が得られない傾向があり、多すぎる場合には、フォトクロミック化合物の種類にもよるが、A成分に対しフォトクロミック組成物が溶解しにくくなり、組成物の均一性が低下する傾向があるばかりでなく、接着力(密着力)が低下する傾向もある。発色濃度や耐久性といったフォトクロミック特性を維持したまま、プラスチックフィルムなどの光学基材との密着性を十分に保持するためには、C成分の添加量はA成分100質量部に対して、0.5〜10質量部、特に1〜5質量部とすることがより好ましい。
【0181】
任意成分
本発明のフォトクロミック性組成物は、A成分、B成分、及びC成分以外に、任意成分として(D)有機溶媒(以下、単にD成分ともいう。)、その他成分を含んでいてもよい。以下、これら任意成分について説明する。
【0182】
D成分:有機溶媒
本発明のフォトクロミック組成物に有機溶媒を配合することにより、非反応性ポリウレタン樹脂(A成分)、イソシアネート化合物(B成分)、及びフォトクロミック化合物(C成分)、さらには、必要に応じて添加されるその他の成分が混合しやすくなる。その結果、フォトクロミック組成物の均一性を向上させることができる。さらに、有機溶媒を使用することにより、フォトクロミック組成物の粘度を適度に調製することができる。そして、光学シート又はフィルムに本発明のフォトクロミック組成物を塗布するときの操作性および塗布膜の厚みの均一性を高くすることもできる。
【0183】
光学シート又はフィルムとして有機溶媒に侵され易い材質のものを使用した場合には、外観不良が生じたり、フォトクロミック特性が低下したりするという問題が発生することが懸念される。ただし、このような問題は、前記〔13〕として示した本発明の方法を採用することにより回避することが出来る。また、本発明のフォトクロミック組成物においては、後述するように、様々な種類の溶媒が使用できる。そのため、有機溶媒として光学シート又はフィルムを侵し難い溶媒を選択して使用することによっても上記問題の発生を防止することができる。
【0184】
D成分として好適に使用できる有機溶媒を例示すれば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等の多価アルコール誘導体;ジアセトンアルコール;メチルエチルケトン、ジエチルケトンなどのケトン類;トルエン;ヘキサン;ヘプタン;酢酸エチル、酢酸−2−メトキシエチル、酢酸−2−エトキシエチルなどのアセテート類;DMF;DMSO;THF;シクロヘキサノン;及びこれらの組み合せを挙げることができる。これらの中から、使用するA成分の種類や光学シート又はフィルムの材質に応じて適宜選定して使用すればよい。たとえば、光学シート又はフィルムとしてポリカーボネート樹脂製のものを使用し、直接本発明のフォトクロミック組成物を塗布する場合には、溶媒としては、アルコール類、又は多価アルコール誘導体を使用することが好ましい。
【0185】
光学シート又はフィルムに本発明のフォトクロミック組成物を塗布した際の塗布層の平滑性、又は前記〔13〕に示した本発明の方法を採用した場合のフォトクロミック接着性層(シート)の平滑性を考慮すると、前記有機溶媒は、90℃未満の沸点を有する有機溶媒と、90℃以上の沸点を有する有機溶剤を混合して用いることが好適である。このような組み合わせの有機溶媒を使用することにより、上記平滑性に加え、有機溶媒の除去が容易となり、乾燥速度を速めることもできる。沸点が90℃未満、90℃以上の有機溶媒の配合割合は、使用する他の成分に応じて適宜決定すればよい。中でも、優れた効果を発揮するためには、全有機溶媒量を100質量%としたとき、沸点が90℃未満の有機溶媒が20〜80質量%、沸点が90℃以上の有機溶媒が80〜20質量%とすることが好ましい。
【0186】
また、D成分を使用する場合の配合量は、前記したようなD成分添加により得られる効果の観点から、A成分100質量部に対して、5〜900質量部、特に100〜750質量部とすることが好ましく、200〜600質量部とすることが最も好ましい。
【0187】

本発明のフォトクロミック組成物に水を配合することもできる。水を配合することにより、本発明のB成分に含まれるイソシアネート基を効率的に加水分解することができる。この水は、本発明のフォトクロミック組成物に最初から配合することもできる。ただし、フォトクロミック組成物の保存安定性を考慮すると、フォトクロミック組成物の使用時、つまり、該組成物により塗膜を形成し、光学シートを張り合わせる際に配合することが好ましい。また、この水は、下記に詳述するが、フォトクロミック性接着シートを形成する場合に、その雰囲気下に存在する湿気で代用することもできる。該B成分に含まれるイソシアネート基の加水分解は、フォトクロミック組成物を光学シートにコートして塗膜を形成した後に、その環境下の水分(湿気)と接触することによっても進行する。
【0188】
該水の配合量は、特に制限されるものではなく、下記に詳述する、その環境下の湿気でも対応できる。好ましい配合量を記載すれば、B成分に含まれるイソシアネート基のモル数に対して、0.01倍モル〜5倍モル、好ましくは0.05倍モル〜3倍モル、より好ましくは0.1倍モル〜2倍モルの範囲であることが好ましい。
【0189】
その他の成分
さらに、本発明で使用するフォトクロミック組成物には、フォトクロミック化合物の耐久性の向上、発色速度の向上、退色速度の向上や製膜性のために、界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等の添加剤を添加しても良い。添加するこれら添加剤としては、公知の化合物が何ら制限なく使用される。
【0190】
例えば、界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の何れも使用できるが、フォトクロミック組成物への溶解性からノニオン系界面活性剤を用いるのが好ましい。好適に使用できるノニオン性界面活性剤を具体的に挙げると、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール・ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール・フィトスタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンラノリン・ラノリンアルコール・ミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン・脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物、単一鎖ポリオキシエチレンアルキルエーテル、さらにはシリコーン系やフッ素系の界面活性剤等を挙げることができる。界面活性剤の使用に当たっては、2種以上を混合して使用してもよい。界面活性剤の添加量は、非反応性ポリウレタン樹脂(A成分)100質量部に対し、0.001〜1質量部の範囲が好ましい。
【0191】
また、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤としては、ヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェノール酸化防止剤、フェノール系ラジカル補足剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物等を好適に使用できる。これら酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤は、2種以上を混合して使用しても良い。さらにこれらの添加剤の使用に当たっては、界面活性剤と酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤を併用して使用しても良い。これら酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤の添加量は、非反応性ポリウレタン樹脂(A成分)100質量部に対し、0.001〜20質量部の範囲が好ましい。但し、これらの添加剤を使用しすぎると、ポリカーボネート樹脂製の光学シート又はフィルムなどへのフォトクロミック組成物の密着性が低下するため、その添加量は好ましくは7質量部以下、より好ましくは3質量部以下、最も好ましくは1質量部以下である。
【0192】
フォトクロミック組成物の製造方法
本発明のフォトクロミック組成物は、上記A成分、B成分及びC成分、並びに必要に応じて使用するD成分及びその他の成分を混合することにより製造できる。各成分を混合する順序は、特に制限されるものではない。
【0193】
たとえば、有機溶媒を使用しない場合、各主成分を溶融混練してフォトクロミック組成物としペレット化することも可能である。また、そのままシート成型することも可能である。また、有機溶剤を使用する場合には、各主成分を有機溶剤に溶かすことでフォトクロミック組成物を得ることができる。
【0194】
このようにして得られた本発明のフォトクロミック組成物は、フォトクロミック性接着剤、特にポリカーボネート樹脂製の光学シート又はフィルムどうしを接合するためのフォトクロミック性接着剤として好適に使用できる。そして、本発明のフォトクロミック組成物からなる接着層を介して光学シート又は光学フィルムを互いに接合することにより、前記〔11〕として示した本発明の光学物品を得ることができる。以下、該本発明の光学物品及び該光学物品の製造方法について説明する。
【0195】
なお、下記に詳述するが、光学シート又は光学フィルムと本発明のフォトクロミック組成物により接合する場合には、水分の存在下(湿気の存在下)で接合することが好ましい。
【0196】
本発明の光学物品
本発明の光学物品は、互いに対向する2枚の光学シート又は光学フィルムが本発明のフォトクロミック組成物からなる接着層を介して接合されてなる積層構造を含んでなる。このような光学物品としては、
上記積層構造のみからなるフォトクロミック積層シート又はフィルム(以下、単に、本発明の積層体ともいう。);
これら積層体に光学シート又はフィルムを更に積層したり、表面にハードコート層などのコート層を形成したりした複合積層体;
これら積層体、及び複合積層体をプラスチックレンズ本体などの光学基材と一体化した光学物品;
などを挙げることができる。プラスチックレンズ本体などの光学基材と一体化する方法としては、たとえば、上記本発明の積層体を金型内に装着した後にポリカーボネート樹脂などの光学基材(たとえばレンズ本体)を構成するための熱可塑性樹脂を射出成形する方法(以下、単に射出成形法ともいう。)、光学基材の表面に接着剤などにより上記本発明の積層体等を貼付する方法などを挙げることができる。また、光学基材を形成できる重合性モノマー中に上記積層体(複合積層体であってもよい)を浸漬した後、該重合性モノマーを硬化させることにより、光学基材中に該積層体を埋設させて一体化することもできる。そのため、該光学物品は、熱可塑性樹脂、又は熱硬化性樹脂よりなるプラスチック光学基材上に、上記積層体(複合積層体であってもよい)を積層したものであってもよいし、該プラスチック光学基材中に、上記積層体(複合積層体であってもよい)を埋設したものであってもよい。以下、本発明の光学物品を構成するこれら材料或いは部材について説明する。
【0197】
光学シート又はフィルム、及び光学基材
本発明において、光学シート又は光学フィルム、及び光学基材としては、光透過性を有するシート又はフィルム、及び光学基材が特に制限なく使用できるが、入手の容易性および加工のし易さなどの観点から樹脂製のものを使用することが好適である。光学シート又は光学フィルム、及び光学基材の原料として好適な樹脂を例示すれば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ナイロン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などが挙げられる。その中でも、密着性が良好で射出成形法に対する適用性が高いという理由からポリカーボネート樹脂が特に好ましい。また、偏光フィルム(例えば、ポリビニルアルコール製の偏光フィルムをトリアセチルセルロース樹脂フィルムではさんだもの)も、本発明の光学フィルムとして使用することが可能である。
【0198】
また、本発明における互いに対向する2枚の光学シートは、同一の樹脂からなるシートであってもよいし、異なる樹脂からなるシートであってもよい。
【0199】
本発明の積層体の製造方法
本発明の積層体は、互いに対向する2枚の光学シート又は光学フィルムを本発明のフォトクロミック組成物からなる接着層(シート)を介して接合させることにより製造される。なお、上記接着層の厚さは、フォトクロミック化合物の発色濃度、耐候性および接着強度などの観点から、5〜100μm、特に10〜50μmとすることが好ましい。
【0200】
上記接着層は、用いるフォトクロミック組成物の性状に応じて、次のような方法により得ることができる。すなわち、有機溶媒を配合することなどにより本発明のフォトクロミック組成物が適度の粘度に調製されている場合には、一方の光学シート又は光学フィルム上に本発明のフォトクロミック組成物塗布し、必要に応じて(加熱)乾燥をなった後、他の光学シート又は光学フィルムを(加熱)圧着すればよい。このとき、フォトクロミック組成物の塗布方法としては、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ディップースピンコート法、ドライラミネート法などの公知の方法が何ら制限なく用いられる。フォトクロミック組成物を塗布、さらに乾燥は、室温〜100℃の温度で、10〜100%RHの湿度下で実施されることが好ましい。特に、乾燥をこの条件で実施することにより、B成分の加水分解反応を促進し、より強固な密着力が得られる。上記のような湿度(水分の存在下)下で乾燥を行うことにより、フォトクロミック組成物に水を配合しなくとも、優れた性能を発揮するフォトクロミック性接着層(シート)とすることができる。また、水を配合した場合には、乾燥条件下で該シートを形成することもできる。
【0201】
また、有機溶媒を含む本発明のフォトクロミック組成物を使用する場合には、
平滑な基材上に本発明のフォトクロミック組成物を延展せしめた後に、乾燥して有機溶媒(D)を除去し、非反応性ポリウレタン樹脂(A)と、イソシアネート化合物(B)と、フォトクロミック化合物(C)とを含むフォトクロミック性接着シートを準備する工程、及び
互いに対向する2枚の光学シート又は光学フィルムの間に上記フォトクロミック性接着シートを介在させて、水分(湿気)の存在下で該2枚の光学シート又は光学フィルムを接合する工程を実施することにより、本発明の積層体を製造することもできる。なお、フォトクロミック性接着シートを準備する工程を水分の存在下(湿気の存在下)で実施した場合には、該フォトクロミック性接着シートに含まれるイソシアネート化合物(B)は、少なくとも一部が反応生成物になっている。これらの工程において、イソシアネート化合物(B)の反応生成物の確認は、上記の通り、赤外吸収スペクトルで分析すればよい。
【0202】
上記平滑な基材の材質としては、本発明で使用する溶剤に耐性があるもの、また本発明のポリウレタン樹脂が剥離しやすいものが好ましく、具体的に例示すれば、ガラス、ステンレス、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、さらにはシリコン系やフッ素系などの剥離性を向上させるコート層を積層させたプラスチックフィルムなどが挙げられる。このような方法を採用した場合には、溶媒の種類及び光学シート又は光学フィルムの種類によらず、溶媒の使用に起因する悪影響を排除することが可能である。フォトクロミック性接着シートは、該基材を剥がすことにより得ることができる。
【0203】
得られたフォトクロミック性接着シートは、互いに対向する2枚の光学シート又は光学フィルムの間に介在させる。そして、水の存在下で両者を接合する。前記光学シート又は光学フィルムを接合する工程において得られたフォトクロミック積層体は、そのまま使用することもできるが、以下の方法により、その状態を安定化させて使用することもできる。具体的には、接合したばかりの積層体を20℃以上60℃以下の温度で4時間以上静置しておくことが好ましい。静置する時間の上限は、特に制限されるものではないが、50時間もあれば十分である。また、静置に際しては、常圧で静置することも可能であるし、真空下で静置することも可能である。さらに、この静置した積層体を80℃以上130℃以下の温度下、30分以上3時間以下放置しておくことが好ましい(以下、加熱処理とする)。この加熱処理して得られた積層体は、その状態が非常に安定なものとなる。加熱処理された積層体は、室温〜100℃の温度、及び30〜100%RHの湿度下で加湿処理されることが好ましい。この加湿処理を実施することにより、積層シート中に存在するB成分由来のイソシアネート基を消失させることができ、フォトクロミック特性、及び密着性をより安定化させることが可能となる。さらには、加湿処理後に、常圧下、もしくは真空下において、40〜130℃で静置することにより、積層シート中に存在する過剰の水分を除去することができる。
【0204】
有機溶媒を含まない本発明のフォトクロミック性組成物を使用する場合には、共押し出し成型などにより、フォトクロミック接着性シートを作製することも可能である。このような方法で得られた接着性シートを使用する場合においても、光学シートを接合した後には、その状態を安定化させるため、上記と同じ方法で静置する時間を設け、加熱処理、及び加湿処理することが好ましい。
【実施例】
【0205】
以下に例示するいくつかの実施例によって、本発明をさらに詳しく説明する。これらの実施例は、単に、本発明を説明するためのものであり、本発明の精神及び範囲は、これら実施例に限定されるものではない。
【0206】
以下に、実施例及び比較例で各成分として使用した化合物等の略号を纏める。
【0207】
A1成分;ポリオール化合物
PL1:旭硝子株式会社製エクセノール(ポリプロピレングリコール、数平均分子量400)。
PL2:旭硝子株式会社製エクセノール(ポリプロピレングリコール、数平均分子量1000)。
PL3:旭化成ケミカルズ株式会社製デュラノール(1,5−ペンタンジオールとヘキサンジオールを原料とするポリカーボネートジオール、数平均分子量500)。
PL4:旭化成ケミカルズ株式会社製デュラノール(1,5−ペンタンジオールとヘキサンジオールを原料とするポリカーボネートジオール、数平均分子量800)。
PL5:旭化成ケミカルズ株式会社製デュラノール(1,5−ペンタンジオールとヘキサンジオールを原料とするポリカーボネートジオール、数平均分子量1000)。
PL6:旭化成ケミカルズ株式会社製デュラノール(1,5−ペンタンジオールとヘキサンジオールを原料とするポリカーボネートジオール、数平均分子量3000)。
PL7:ダイセル化学株式会社製プラクセル(ポリカプロラクトンジオール、数平均分子量500)。
PL8:DIC株式会社製ポリライト(アジピン酸と1,4−ブタンジオールから成るポリエステルジオール、数平均分子量1000)。
PL9:宇部興産株式会社製ETERNACOLL(1,4−シクロヘキサンジメタノールを原料とするポリカーボネートジオール、数平均分子量1000)。
【0208】
A2成分;ポリイソシアネート化合物
NCO1:イソホロンジイソシアネート。
NCO2:水添ジフェニルメタンジイソシアネート。
NCO3:ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート。
NCO4:トルエン−2,4−ジイソシアネート。
NCO5:ノルボルナンジイソシアネート。
【0209】
A3成分;鎖延長剤
CE1:イソホロンジアミン。
CE2:エチレンジアミン。
CE3:1,6−ジアミノヘキサン。
CE4:2−アミノエタノール。
CE5:6−アミノヘキサノール。
CE6:1,4−ブタンジオール。
CE7;2−アミノエタンチオール。
CE8:ピペラジン。
CE9:N,N’−ジエチルエチレンジアミン。
【0210】
A5成分;反応停止剤
S1;1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ヒドロキシピペリジン。
S2;1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−アミノピペリジン。
S3;ノルマルブチルアミン。
B成分;イソシアネート化合物
B1:イソホロンジイソシアネート(分子量222)。
B2:4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(分子量262)。
B3:ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート(分子量168)。
B4:キシリレンジイシシアネート(分子量188)。
【0211】
イソシアネート化合物(B5)の合成(B’成分)
撹拌羽、冷却管、温度計、窒素ガス導入管を有する三口フラスコに、エチレングリコール31g、イソホロンジイソシアネート222gを仕込み、窒素雰囲気下、70℃で6時間反応させ、イソシアネート化合物(B5)を得た。
B5:イソホロンジイソシアネート(2モル)とエチレングリコール(1モル)の反応物(分子量506)。
【0212】
イソシアネート化合物(B6)の合成(B’成分)
撹拌羽、冷却管、温度計、窒素ガス導入管を有する三口フラスコに、エチレングリコール41.3g、イソホロンジイソシアネート222gを仕込み、窒素雰囲気下、70℃で6時間反応させ、イソシアネート化合物(B6)を得た。
B6:イソホロンジイソシアネート(3モル)とエチレングリコール(2モル)の反応物(分子量790)。
【0213】
イソシアネート化合物(B7)の合成(B’成分)
撹拌羽、冷却管、温度計、窒素ガス導入管を有する三口フラスコに、平均分子量800のポリカーボネートジオール533g、イソホロンジイソシアネート222gを仕込み、窒素雰囲気下、70℃で6時間反応させ、イソシアネート化合物(B7)を得た。
B7:イソホロンジイソシアネート(3モル)と数平均分子量800のポリカーボネートジオール(2モル)の反応物(数平均分子量2266)。
【0214】
C成分:フォトクロミック化合物
PC1:下記式で示される化合物。
【0215】
【化21】

【0216】
D成分:有機溶媒
D1:イソプロピルアルコール。
D2:プロピレングリコール−モノ−メチルエーテル。
D3:トルエン。
D4:酢酸エチル。
D5:シクロヘキサノン。
D6:THF(テトラヒドロフラン)。
D7:ジエチルケトン。
【0217】
その他の成分
・Irganox245:エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製
非反応性ポリウレタン樹脂(U1)の合成
撹拌羽、冷却管、温度計、窒素ガス導入管を有する三口フラスコに、数平均分子量400のポリプロピレングリコール(PL1:ポリエーテルジオール)90g、イソホロンジイソシアネート(NCO1)100gを仕込み、窒素雰囲気下、70℃で6時間反応させ、プレポリマーを得た。その後、DMF800mlを加えた後、窒素雰囲気下でイソホロンジアミン(CE1)34gを滴下しながら加え、滴下終了後25℃で1時間反応させ、分子鎖の末端にイソシアネート基を有する反応性ポリウレタン樹脂(A4)を合成した。
【0218】
次いで、上記溶液に窒素雰囲気下にて、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ヒドロキシピペリジン8gを加え、110℃にて5時間反応させた後、溶媒を減圧留去することで、ウレタン樹脂の末端にピペリジン環を有する非反応性ポリウレタン樹脂(A5:U1)を得た。得られた非反応性ポリウレタン樹脂の数平均分子量は、ポリオキシエチレン換算で1万(理論値;1万)であり、耐熱性は120℃であった。ここで言う数平均分子量の理論値とは、原料に用いたA1成分、A2成分、A3成分、及びA5成分が、架橋することなく理論的に直線状にポリウレタン樹脂を精製した場合の分子量のことである。
【0219】
非反応性ポリウレタン樹脂(U2)〜(U33)の合成
表1に示すポリオール化合物(A1成分)、ポリイソシアネート化合物(A2成分)、鎖延長剤(A3成分)、反応停止剤(A5成分)、及び反応溶媒を用い、表1に示す反応条件を用いた以外は、前述のU1の合成方法と同様にして、U2〜U33の合成を実施した。得られた非反応性ポリウレタン樹脂の合成条件についても表1に示した。なお、U30は、反応停止剤(A5成分)を使用しておらず、末端にイソシアネート基を有する反応性ポリウレタン樹脂である。
【0220】
【表1】

【0221】
以上、非反応性ポリウレタン樹脂U1〜U33のA1、A2、A3、A5成分の配合割合、数平均分子量、耐熱性の結果を表2にまとめた。
【0222】
【表2】

【0223】
実施例1
フォトクロミック組成物の調製
非反応性ポリウレタン樹脂(U1)5gに、有機溶剤としてイソプロピルアルコール20gを添加し、80℃で攪拌しながら、超音波により溶解した。非反応性ポリウレタン樹脂が溶解したのを確認後、室温まで冷却し、イソホロンジイソシアネート(B成分)0.15g、フォトクロミック化合物(PC1)0.25gを加え、攪拌混合してフォトクロミック組成物を得た。
【0224】
フォトクロミック積層体の作製
得られたフォトクロミック組成物を、PET製フィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製ピューレックスフィルム、シリコン塗膜付)に塗布し、湿気の存在下(23℃、湿度50%)の実験室において、50℃で30分乾燥させた後、PET製フィルムを剥がすことにより、厚み約40μmのフォトクロミック性接着シートを得た。次いで、得られたフォトクロミック性接着シートを、厚み400μmのポリカーボネートシート2枚の間に挟み、湿気の存在下(23℃、湿度50%)の実験室において、40℃で24時間静置した後、さらに110℃で60分加熱処理することにより、目的のフォトクロミック特性を有する積層体を得た。なお、該積層体から取り出したフォトクロミック性接着シートとフォトクロミック組成物の赤外吸収スペクトルを確認したところ、該フォトクロミック性接着シートにおけるイソシアネート基のピークが減少し、イソホロンジイソシアネートが反応生成物になっていることが確認できた。また、該フォトクロミック性接着シートにおけるイソシアネート基のピークが時間と共に減少することも確認した。
【0225】
得られたフォトクロミック積層体を評価したところ、フォトクロミック特性としての発色濃度は1.0であり、退色速度は90秒であり、耐久性は94%であった。また、該フォトクロミック積層体の耐熱性は130℃であり、剥離強度は初期が80N/25mm、煮沸試験後が70N/25mmであった。なお、これらの評価は以下のようにして行った。
【0226】
フォトクロミック特性
得られた積層体を試料とし、これに、(株)浜松ホトニクス製のキセノンランプL−2480(300W)SHL−100を、エアロマスフィルター(コーニング社製)を介して23℃、積層体表面でのビーム強度365nm=2.4mW/cm、245nm=24μW/cmで120秒間照射して発色させ、積層体のフォトクロミック特性を測定した。
【0227】
1)最大吸収波長(λmax):(株)大塚電子工業製の分光光度計(瞬間マルチチャンネルフォトディレクターMCPD1000)により求めた発色後の最大吸収波長である。該最大吸収波長は、発色時の色調に関係する。
【0228】
2)発色濃度〔ε(120)−ε(0)〕:前記最大吸収波長における、120秒間照射した後の吸光度ε(120)と最大吸収波長における未照射時の吸光度ε(0)との差。この値が高いほどフォトクロミック性が優れていると言える。
【0229】
3)退色速度〔t1/2(sec.)〕:120秒間照射後、光の照射をとめたときに、試料の前記最大波長における吸光度が〔ε(120)−ε(0)〕の1/2まで低下するのに要する時間。この時間が短いほどフォトクロミック性が優れているといえる。
【0230】
4)耐久性(%)=〔(A48/A0)×100〕:光照射による発色の耐久性を評価するために次の劣化促進試験を行った。すなわち、得られた積層体をスガ試験器(株)製キセノンウェザーメーターX25により48時間促進劣化させた。その後、前記発色濃度の評価を試験の前後で行い、試験前の発色濃度(A0)および試験後の発色濃度(A48)を測定し、〔(A48)/A0〕×100〕の値を残存率(%)とし、発色の耐久性の指標とした。残存率が高いほど発色の耐久性が高い。
【0231】
剥離強度
得られた積層体を、25×100mmの接着部分を有する試験片とし、試験機(オートグラフAG5000D、島津製作所製)に装着し、クロスヘッドスピード100mm/minで引張り試験を行い、剥離強度を測定した。試験片には、初期と蒸留水を用いた煮沸試験1時間後のものを用いた。
【0232】
以上の結果を表3にまとめた。
【0233】
実施例2〜45
表3、表4に示す非反応性ポリウレタン樹脂、イソシアネート化合物、有機溶媒を用いた以外は、実施例1と同様の方法でフォトクロミック組成物を調製した。なお、当然のことながら、実施例1と同じく、フォトクロミック化合物(PC1)は、非反応性ポリウレタン樹脂(A成分)に対して5質量部(実使用量0.25g)となるように配合した。また、得られたフォトクロミック組成物を使用して、実施例1と同様の方法でフォトクロミック積層体を作製した。
【0234】
得られた各種フォトクロミック積層体の評価結果を表3、表4に示した。これら実施例において、フォトクロミック性接着シートの赤外吸収スペクトルを確認したところ、いずれのシートにおいてもイソシアネート基のピークは減少し、使用した各種イソシアネート化合物が反応生成物になっていることが確認できた。
【0235】
【表3】

【0236】
【表4】

【0237】
比較例1、及び2
表5に示す非反応性ポリウレタン樹脂、イソシアネート化合物、有機溶媒を用いた以外は、実施例1と同様の方法でフォトクロミック組成物を調製した。なお、当然のことながら、実施例1と同じく、フォトクロミック化合物(PC1)は、非反応性ポリウレタン樹脂(A成分)に対して5質量部(実使用量0.25g)となるように配合した。また、得られたフォトクロミック組成物を使用して、実施例1と同様の方法でフォトクロミック積層体を作製した。
【0238】
得られた各種フォトクロミック積層体の評価結果を表5に示した。
【0239】
【表5】

【0240】
比較例3
以下の方法により、分子鎖の末端にイソシアネート基を有するポリウレタン樹脂(I)、及び分子鎖の末端に水酸基を有するポリウレタン樹脂(II)を合成した。
【0241】
(ポリウレタン樹脂(I)の合成)
撹拌羽、冷却管、温度計、窒素ガス導入管を有する三口フラスコに、数平均分子量1000のポリカプロラクトンポリオール(ダイセル化学株式会社製プラクセル)100g、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)39.5gを仕込み、窒素雰囲気下、90℃で6時間反応させ、末端にイソシアネート基を有するプレポリマー(ポリウレタン樹脂(I))を得た。得られたプレポリマー(ポリウレタン樹脂(I))の数平均分子量は、ポリオキシエチレン換算で2500(理論値;2800)であった。
【0242】
(ポリウレタン樹脂(II)の合成)
撹拌羽、冷却管、温度計、窒素ガス導入管を有する三口フラスコに、数平均分子量1000のポリカプロラクトンポリオール(ダイセル化学株式会社製プラクセル)100g、水添ジフェニルメタンジイソシアネート61.3gを仕込み、窒素雰囲気下、90℃で6時間反応させ、末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを得た。その後、DMF200mlを加えた後、窒素雰囲気下で1,4−ブタンジオール12.7gを滴下しながら加え、滴下終了後90℃で24時間反応させ、分子鎖の末端に水酸基を有するポリウレタン樹脂(II)を合成した。得られたポリウレタン樹脂(II)の数平均分子量は、ポリオキシエチレン換算で2万(理論値;1万8千)であった。
【0243】
以上のように得られたポリウレタン樹脂(I)、ポリウレタン樹脂(II)、有機溶媒としてTHF(D6)を表6に示す配合量使用し、フォトクロミック化合物(PC1)0.25gを使用し、実施例1と同様の方法でフォトクロミック組成物を調製した。また、得られたフォトクロミック組成物を使用して、実施例1と同様の方法でフォトクロミック積層体を作製した。
【0244】
得られた各種フォトクロミック積層体の評価結果を表6に示した。
【0245】
【表6】

【0246】
上記実施例1〜45から明らかなように、本発明に従って、非反応性ポリウレタン樹脂(A成分)、及びイソシアネート化合物(B成分)を混合したフォトクロミック組成物において、優れたフォトクロミック特性、剥離強度(密着性)、耐熱性を有していることが分かる。
【0247】
一方、比較例1のように、イソシアネート化合物(B成分)を添加しない場合には、フォトクロミック特性は良好であるものの、剥離強度が低く、特に煮沸試験後に剥離強度が低下した。比較例2では、A成分として非反応性ポリウレタン樹脂ではなく、末端にイソシアネート基を有する反応性ウレタン樹脂を用いているため、フォトクロミック特性の耐久性が低下し、さらに剥離強度も十分ではなかった。また、比較例3では、末端にイソシアネート基を有するプレポリマーと、末端に水酸基を有するポリウレタン樹脂を混合し、塗膜後に高分子量化するウレタン樹脂組成物を採用している。しかし、この場合においては、フォトクロミック特性の耐久性、さらに剥離強度も十分ではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非反応性ポリウレタン樹脂(A)、
分子内に少なくとも1つのイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(B)、及び
フォトクロミック化合物(C)
とを含んでなることを特徴とするフォトクロミック組成物。
【請求項2】
前記非反応性ポリウレタン樹脂(A)が、
分子内に2つ以上の水酸基を有する数平均分子量400〜3000のポリオール化合物(A1)と、分子内に2つ以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物(A2)と、分子内に2つ以上のイソシアネート基と反応しうる基を有する分子量50〜300の鎖延長剤(A3)とを反応して得られる、分子鎖の末端にイソシアネート基を有する反応性ポリウレタン樹脂(A4)と、
分子内に1つのイソシアネート基と反応しうる基を有する反応停止剤(A5)
とを反応して得られる、非反応性のウレタン樹脂である請求項1に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項3】
前記非反応性ポリウレタン樹脂(A)を得るに際して使用する(A1)成分、(A2)成分、(A3)成分、及び(A5)成分の量比が、前記(A1)成分に含まれる水酸基の総モル数をn1とし、前記(A2)成分に含まれるイソシアネート基の総モル数をn2とし、前記(A3)成分に含まれるイソシアネート基反応しうる基の総モル数をn3とし、前記(A5)成分に含まれるイソシアネート基と反応しうる基の総モル数をn5としたときに、
n1:n2:n3:n5=0.30〜0.89:1:0.1〜0.69:0.01〜0.20となる量比である請求項2に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項4】
前記イソシアネート化合物(B)の分子量が1000未満である請求項1に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項5】
前記ポリオール化合物(A1)が、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、及びポリエステルジオールより選ばれる少なくとも1種のポリオール化合物である請求項1に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項6】
前記ポリイソシアネート化合物(A2)の30質量%以上が、脂肪族ポリイソシアネート化合物、及び脂環式ポリイソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種のポリイソシアネート化合物である請求項1に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項7】
前記鎖延長剤(A3)が、ジアミン化合物、アミノアルコール化合物、アミノカルボン酸化合物、アミノチオール化合物、及びジオール化合物から選ばれる少なくとも1種の鎖延長剤である請求項1に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項8】
前記反応停止剤(A5)が、分子内にピペリジン構造、ヒンダードフェノール構造、トリアジン構造、ベンゾトリアゾール構造、またはアルキル鎖を有する化合物である請求項1に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項9】
前記非反応性ポリウレタン樹脂(A)100質量部に対して、
前記イソシアネート化合物(B)を0.01〜20質量部、
前記フォトクロミック化合物(C)を0.1〜20質量部含む請求項1に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項10】
前記非反応性ポリウレタン樹脂(A)100質量部に対して、さらに有機溶媒(D)を5〜900質量部含む請求項9に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項11】
互いに対向する2枚の光学シート又は光学フィルムが請求項1に記載のフォトクロミック組成物から得られる接着層を介して接合されてなる積層構造を含んでなる光学物品。
【請求項12】
前記積層構造における、互いに対向する2枚の光学シート又は光学フィルムの少なくとも一方が、ポリカーボネート樹脂よりなることを特徴とする請求項11に記載の光学物品。
【請求項13】
請求項12に記載の光学物品を製造する方法であって、
平滑な基材上に請求項10に記載のフォトクロミック組成物を延展せしめた後に、乾燥して有機溶媒(D)を除去し、非反応性ポリウレタン樹脂(A)と、イソシアネート化合物(B)と、フォトクロミック化合物(C)とを含むフォトクロミック性接着シートを準備する工程、及び
互いに対向する2枚の光学シート又は光学フィルムの間に上記フォトクロミック接着性シートを介在させて、少なくとも水分の存在下で該2枚の光学シート又は光学フィルムを接合することにより前記積層構造を作製する工程、
を含んでなることを特徴とする方法。

【公開番号】特開2012−207198(P2012−207198A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169110(P2011−169110)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】