説明

フォトニック伝送システムにおける偏光状態と偏波モード分散の測定方法およびその装置

本発明は、フォトニック伝送システム内で伝送される信号の、光信号から抽出されたひとつまたは複数のパルスの各種周波数に関する偏光状態の具体的数値を、光フーリエ変換器を用いてひとつまたは複数のパルスの偏光状態の周波数成分を時間領域に変換することによって評価し、サンプリング、定量化し、その後解析を行う方法と装置に関する。上記の解析結果を用いて、伝送された信号の周波数、関連するPMDベクトルおよびその信号の中にあるDGDに関する偏光状態の変化を計算する。上記の情報は、システム内の通信品質を改善するために、PMD補償装置の制御信号として使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトニック伝送システムにおいて光信号から抽出されたパルスの偏光状態を監視し、これを微分群遅延の数値を計算するための根拠として使用する方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
すでに、フォトニック伝送システムにおける偏波モード分散(PMD)の監視を実行できるさまざまな装置はよく知られている。多くの特許出願において、この種のシステムにおけるPMDの測定と監視を行うための各種の手法が提案されている。しかしながら、これらの周知の手法は、波長分解能と測定速度に関わる限り、不十分あるいは少なくとも改善の余地があり、これは本発明の応用分野において致命的な問題である。
【0003】
米国特許出願公開US−A−2004/008991号は、フォトニック伝送システムの中に存在する信号を、振動周波数が変化する連続波レーザにより発生される光搬送波と光混合することにより生成される信号のヘテロダイン検波によってPMDを測定する方法を開示している。このように、信号のスペクトル全体を走査することにより、システムのPMDの数値を計算することが可能である。しかしながら、レーザによって行う走査は複雑で、本来的に低速なプロセスである。これに対し、PMDは変化の大きな力学を有するランダムなプロセスであり、すなわち監視速度を高めることが重要となる。偏光状態とPMDは、ヘテロダインを用いた手段によって検出される振幅と周波数に基づいて評価され、この方法は本発明で検討された方法とは本質的に異なる。US−A−2004/008991号で開示されているシステムには、混合プロセス、連続波レーザ、ヘテロダイン検波機構が必要であり、その結果、システムはかなり複雑である。
【0004】
日本特許出願公開JP−A−2004−138615号もまた、フォトニックリンクの中のPMDを測定するシステムを開示しており、これは、そのリンクにより伝送され、複数の帯域幅に分割された特異的信号のスペクトルのコヒーレンス解析(振幅と位相の測定を含む)によって行われる。しかしながら、同出願で提案されている方法はある特定の信号に基づいているため、リンクは同時に動作できず、またヘテロダイン偏光計を必要とするため、局部発振器による周波数掃引が帯域幅ごとに異なる。この方法には、複雑さと動作速度の点で、前節に記載した出願と同じ制約がある。
【0005】
さらに、米国特許出願公開US−A−2004/151416号は、フォトニック伝送システムにより伝送される信号によって包囲される周波数範囲をサブバンドに分割することに基づくPMDの測定方法を開示している。基準信号は、これらの帯域幅のひとつひとつについて計算される。この基準信号について、レーザ源からの信号との混合が行われる。当初のシステム信号のPMDの数値は、すべてのサブバンドからの情報を照合することによって計算される。この方法は非常に複雑であり、波長分解能はデバイス内で実現できるサブバンドの数に限定される。
【0006】
また、欧州特許出願公開EP−A−1494373号は、伝送された光信号のひずみに基づくPMDアナライザを開示している。このひずみは、信号の直接成分(ダイレクトコンポーネント: direct component)(DC)と交互に変化する成分(オルタネーティングコンポーネント: alternating component)(AC)に基づいて評価され、これがPMDに起因するひずみを示す。この方法では、複数のフィルタを特定の周期で正確に配置しなければならず、その構成はシステムの信号発生速度に応じて異なる。
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/008991号明細書
【特許文献2】特開2004−138615号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2004/151416号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1494373号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本出願人は、周知のシステムにともなう問題や欠点のいくつかを、少なくとも部分的に解消できる方法と装置を実現することが有益であろうと考えた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポアンカレ球におけるその4つのベクトル成分(S0,S1,S2,S3)によって定義される偏光状態(SOP)を、フォトニック伝送システム内の光信号から抽出された光パルスに基づいて監視することができる方法と装置からなり、光信号は、そのパラメータ(振幅、位相、周波数、時間位置またはエンベロープ等)のいくつかにおいて、光パルスに変調された情報(アナログまたはデジタル)を伝える。この方法は、光パルスの多数の周波数(SOPの周波数成分)に関するSOPの具体的な数値を評価し、その変化に基づいて、光信号がその伝送中に偏波モード分散(PMD)の効果によって受ける微分群遅延(DGD)の数値を計算することができる。より具体的には、本発明は、光信号から抽出されたパルスのSOPの周波数成分の評価を、装置への入力信号の偏光をポアンカレ球における少なくとも4つの異なる角度で回転させ、その後、この回転した偏光をポアンカレ球の一定の角度に配向された偏光装置に投影し、最後に光フーリエ変換器(OFT)によって周波数成分の時間領域への変換を実行できるサブシステムを用いて実現する方法と装置からなる。このようにして、光入力信号から抽出されたパルスの、座標軸を形成するポアンカレ球の4つのベクトル上への投影が計算される。これらのパルスの偏光は、たとえば、一般性を損なうことなく、4つの光路への分割とその各々における回転による方法(パラレルアーキテクチャ)か、あるいは連続か否かを問わず、逐次パルスによる方法(シリアルアーキテクチャ)によって実行される。
【0010】
この測定方法とシステムは、光信号の周波数成分の時間領域への変換とそれらのサンプリングおよびこれに続く定量化で補完される。光信号の周波数成分の時間領域への変換は、光フーリエ変換要素あるいは直接フーリエ変換(時間領域から周波数成分へ)またはその逆(周波数成分から時間領域へ)を実行できる装置によって行われる。
【0011】
このように、光フーリエ変換装置(OFT)の出力で生成される光信号は、光検出器装置によって電気信号に変換され、アナログ−デジタル変換器によって時間サンプリングされ、デジタル処理される。時間領域のサンプリングにより、非常に高速でのサンプリングが可能なデバイスの商業的有用性という固有の利益を享受でき、これは、ひとつの光パルスから得られる大量の周波数サンプルの処理への有用性を意味する。
【0012】
本願の応用分野でこのOFT装置を利用することにより、その出力ポートにおいて、入力ポートに存在する光信号の周波数成分(スペクトル)のモジュールに比例するエンベロープを有する光信号を提供するという特徴が得られる。この装置はさまざまな方法で実現でき、その一例として、一般性を損なうことなく、光ファイバの一区分または回折ネットワーク等、有意な色分散の数値を提供する手段によって光信号を伝播する方法がある。
【0013】
つまり、偏光の回転、偏光装置を用いた投影、周波数領域から時間領域への変換、光検出およびサンプリングからなる本願に記載の方法では、光信号から抽出されたパルスからSOP周波数成分の変化を計算し、その中に存在するDGDを、ひとつまたは複数の光パルスによって提供される情報のみに基づいて計算することができる。これによって、多大な利益が提供される。
【0014】
本発明は、フォトニック伝送システムにおける通信品質の分野、より詳しくは、PMD監視および補償サブシステムにおいて利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の上記およびその他の特徴と利点を、限定的なものではなく、あくまでも一例にすぎない好ましい実施形態に関する以下の詳細な記述と添付の図面を用いてより明確に説明する。
【0016】
以下に本発明の好ましい実施例を説明するために、添付の図面を参照することとし、この中で、同じ参照数字は同じまたは同様の部品について使用されている。まず図1を参照すると、この概略図は偏光状態とモード分散を測定するための装置の応用分野を示す。この応用分野はフォトニック伝送システム(1)に対応し、このシステムでは、システムの受信または中間段階のいずれかにおいて、PMDモニタブロック(2)でそのDGDを推測することによってPMDが測定される。伝送システムPMDは、一般性を損なうことなく、システムを通過する光パルスと、システム内に時間逆多重化の光サンプリングから生じる光パルスがあればその光パルスと、システム内に周波数逆多重化に起因する光パルスがあればその光パルスの両方(3)について測定される。測定されたこの信号は、フォトニック伝送システム内の通信品質を改善するために、測定されたDGDを補償できるPMD補償ブロック(4)への入力として使用される。
【0017】
図2は、測定対象の信号の偏光に必要な回転をシリアル方式で実現することにより、偏光状態とモード分散を測定するための装置の実施例を示す。この実施例はシステムの光信号(20)から始まり、この信号は自動偏光制御サブシステム(5)に供給され、このサブシステムは一連のコマンドによって、光信号の各パルスの偏光について実行される回転を逐次的に変化させる。各回転の後に取得される異なる信号は固定偏光器(6)に投影され、その後、その周波数成分が光フーリエ換算器(7)(OFT)によって時間領域に変換される。最後に、異なる回転と投影に対応する信号がアナログ−デジタル変換器(8)によって光検出、サンプリングされ、全体としてデジタル処理され、これによってポアンカレ球上の周波数に応じた偏光状態の変化を評価して、システムのDGDの数値(30)を提供する。
【0018】
図3は、測定対象の信号の偏光に必要な回転をパラレル方式で実現することにより、偏光状態とモード分散を測定するための装置の実施例を示す。この実施例はシステムの光信号(20)から始まり、これは4つの異なる光路に分割され、光路(5A)ごとに異なる一定の量だけ偏光を回転させるサブシステムに供給される。各光路において、前の実施例において記載したものと同じ動作が実行され、各回転後に得られるトレースが固定偏光器(6)の上に投影され、次にその周波数成分が光フーリエ変換器(7)(OFT)によって時間領域に変換される。最後に、各光路に対応する異なるトレースが光検出、サンプリングされ、全体として処理され、ポアンカレ球上の周波数に応じた偏光状態の変化を把握して、システムのDGDの数値(30)を提供する。
【0019】
上記のシリアル方式による実施例とパラレル方式による実施例の両方において、ポアンカレ球上の周波数に応じた偏光状態の変化が計算される。図4は、利用可能なDGDの数値予測の例を示すが、これによって他の使用方法が排除されることにはならない。この方法において、光検出され、サンプリングされたサンプル群全体から、偏光状態のいずれか3つの数値が3つの所与の周波数(a),(b),(c)について考慮される。これらのサンプルを使い、それによって画定される平面(10)が計算され、これらを囲むその平面上の角度(11)がわかる。この角度と各サンプルが対応する周波数がわかれば、偏光状態の周波数変化と、その平面に垂直なPMDベクトル(12)を見つけることができ、このモジュールによってDGDの数値が得られる。
【0020】
本明細書の内容をこれ以上に広範なものとすることなく、当該の分野における専門家は本発明の範囲とそれによって得られる利益を理解し、展開し、本発明の目的を実現することができると思われる。
【0021】
本発明をその好ましい実施例に従って説明したが、付属の特許請求範囲において定義されているように、同実施例を用いることなく、その基本的要素を変更した改変が可能であると理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】偏光状態を測定するための方法と手段の応用領域を示す図である。この概略図は、SOPが測定され、信号に生じるDGDの予測によってPMDが評価されるフォトニック伝送システムを示す。
【図2】PMD監視システムのシリアル方式による実現例を示す図である。
【図3】PMD監視システムのパラレル方式による実現例を示す図である。
【図4】監視された信号の偏光状態の変化に応じたDGDの評価の例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトニック伝送システムに利用可能な、偏光状態と偏波モード分散を測定するための方法であって、
フォトニック伝送システムにより伝送された信号から光パルスを抽出するステップと、
前記光パルスを、偏光の一連の回転によってポアンカレ球の座標軸に投影し、次にこれを固定された偏光に投影して、その偏光状態を把握するステップと、
前記偏光状態のスペクトル情報を、光フーリエ変換器によって時間領域に変換するステップと、
時間領域に変換された前記スペクトル情報のサンプリングを行うステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
さらに、少なくとも3つのサンプルの複数セットによって構成される異なる平面を計算し、偏光状態のスペクトル変化の速度を評価するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1と2のいずれかに記載の方法であって、
前記偏光の回転は、前記光信号を4つの光路に分割し、その各々における偏光を回転させることによって行われることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1と2のいずれかに記載の方法であって、
前記偏光の回転は、パルスの逐次的回転によって行われることを特徴とする方法。
【請求項5】
上記の請求項のいずれかに記載の方法であって、
時間領域に変換された前記スペクトル情報をサンプリングするステップは、
前記光フーリエ変換器の出力における光信号をアナログ電気信号に変換するステップと、
前記アナログ信号をデジタル信号に変換するステップと、
前記デジタル信号をデジタル手段によって処理するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
上記の請求項のいずれかに記載の方法であって、
前記偏光の回転はポアンカレ球において少なくとも4つの異なる角度で行われることを特徴とする方法。
【請求項7】
フォトニック伝送システムに利用可能な、偏光状態と偏波形モード分散を測定するための装置であって、
フォトニックシステムにより伝送された信号から抽出されたパルスからなる光信号のための入力(20)と、
前記入力信号の前記偏光を、ポアンカレ球の少なくとも4つの角度で回転させ、次に前記偏光をポアンカレ球上の固定角度で配向された偏光装置(6)によって固定偏光ベクトル上に投影するように構成されたサブシステム(5,5A,6)と、
前記光信号の周波数成分を時間領域に変換するための、前記偏光装置(6)から発せられる信号を受信するように配置された光フーリエ変換器(7)と、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項8】
請求項7に記載の装置であって、
さらに、前記光フーリエ変換器(7)からの光信号を受信し、これをアナログ電気信号に変換するように配置された光検出器を備えることを特徴とする装置。
【請求項9】
請求項8に記載の装置であって、
さらに、前記アナログ信号をサンプリングし、これをデジタル信号に変換するためのアナログ−デジタル変換器を備えることを特徴とする装置。
【請求項10】
請求項9に記載の装置であって、
さらに、前記信号をデジタル処理するための手段を備えることを特徴とする装置。
【請求項11】
請求項7から10のいずれかに記載の装置であって、
シリアルアーキテクチャ構成を有し、前記シリアルアーキテクチャが逐次的パルス回転によって回転されることを特徴とする装置。
【請求項12】
請求項7から10のいずれかに記載の装置であって、
それぞれが前記入力信号の前記偏光を回転させ、その後前記偏光を前記偏光装置(6)によって固定偏光ベクトル上に投影するように構成されたサブシステム(5A,6)を備える、少なくとも4つの光路を含むパラレルアーキテクチャ構成を有することを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−538459(P2008−538459A)
【公表日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−500218(P2008−500218)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【国際出願番号】PCT/ES2006/000099
【国際公開番号】WO2006/095036
【国際公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(507299334)ウニベルシダッド ポリテクニカ デ バレンシア (2)
【Fターム(参考)】