説明

フォトバイオリアクタおよび群体性藻類の培養方法

【課題】 細胞群体に損傷を与えることなくこれを適正なサイズに解体することによりその増殖を促進し、延いてはバイオ燃料の市場競争力の獲得に寄与することが可能なフォトバイオリアクタを提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明にかかるフォトバイオリアクタ100は、培養液102が内部に導入され、炭素固定を行う群体性藻類を培養する培養槽104と、培養槽104に備えられ、培養液102に二酸化炭素を含む気体を毎分培養液102の容積の4分の1以上送り込み、気体の気泡により群体性藻類の細胞群体を解体させる気体送込装置110と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素固定を行う群体性藻類を培養槽にて培養するフォトバイオリアクタ、および群体性藻類の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石資源に依存しない燃料として、バイオ燃料が提案されている。バイオ燃料としては、トウモロコシやサトウキビ等を原料にしたものが知られているが、近年では面積当たりの収量が高く、食糧生産と競合しない藻を原料としたものが最も注目されている。具体的には、シュードコリシスチス(Pseudochoricystis ellipsoidea)、ボトリオコッカス(Botryococcus braunii)といった藻を大量に培養する研究が既に進められており、さらに新しい有望株としてオーランチオキトリウムが発見されたとの報告もある(非特許文献1参照)。
【0003】
上記のような藻からバイオ燃料を生成する技術は、市場競争力の獲得も見込まれつつあり、実用化に向けて着実に研究が進められている。このような状況において、バイオ燃料となる藻の培養から抽出に到るまでの全体プロセスを高効率化する装置の開発が進められている。特許文献1には、微細藻類の培養に用いられるバイオリアクタ(フォトバイオリアクタ)について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−118689号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】山路達也、“オーランチオキトリウムが、日本を産油国にする”、[online]、平成23年2月25日、Wired Vision、[平成23年3月17日検索]、インターネット<URL:http://wiredvision.jp/blog/yamaji/201102/201102251301.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
群体性藻類を培養する場合その細胞群体が大きくなりすぎると、内部への光の透過や栄養の浸透が減少し、増殖が鈍るとの指摘がある。しかしながら、上記特許文献1ではこのことについて何らの言及もされておらず、一切対策が講じられていない。
【0007】
細胞群体の大きさが増したことによりその増殖が鈍ることを防ぐためには、単純には、攪拌翼等で培養槽内を掻き混ぜ、機械的な力により細胞群体を解体することが考えられる。しかし、機械的な力により細胞群体を解体する手法は、その細胞を傷つけてしまうことが多く、結果としてその細胞の増殖を余計に鈍らせてしまうことがある。また、機械的な力が加えられた結果、その細胞が破裂し、内在する炭化水素が流出してしまうおそれもある。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、細胞群体に損傷を与えることなくこれを適正なサイズに解体することによりその増殖を促進し、延いてはバイオ燃料の市場競争力の獲得に寄与することが可能なフォトバイオリアクタ、およびその群体性藻類の培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、培養液に通気する炭素源としての二酸化炭素を含む気体の気泡が水面ではじける動作に着目した。この気泡が水面ではじける動作により、細胞群体に損傷を与えることなくその解体を促進することができる。しかし、単純に炭素源としての二酸化炭素を供給するだけでは細胞群体の解体効果は殆ど目に見えるものではなく、培養槽全体で見れば細胞群体は徐々に大きくなっていきその増殖が鈍っていく。そこで、さらに研究を重ね、気泡が水面ではじける動作により細胞群体を適正に解体可能な条件を見つけ出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
すなわち、本発明にかかるフォトバイオリアクタの代表的な構成は、培養液が内部に導入され、炭素固定を行う群体性藻類を培養する培養槽と、培養槽に備えられ、培養液に二酸化炭素を含む気体を毎分この培養液の容積の4分の1以上送り込み、気体の気泡により群体性藻類の細胞群体を解体させる気体送込装置と、を有することを特徴とする。
【0011】
かかる構成によれば、二酸化炭素を含む気体が大量に送り込まれ、その大量の気泡により細胞群体に損傷を与えずにこれを適正なサイズに解体することができる。したがって、培養する群体性藻類の増殖を促進することができる。これにより、群体性藻類の生産コストが低減されるので、バイオ燃料の市場競争力の獲得に寄与することが可能となる。
【0012】
上記気体送込装置の上方に、網状の隙間を持ち光を透過するじゃま板を更に有するとよい。これにより、上昇してくる気泡の一部がじゃま板に付着する。じゃま板に付着した気泡は他の気泡と合体して大きくなり、再び上昇を開始し、水面ではじけて細胞群体を解体する。これより、じゃま板より上の部分では気泡同士の合体による大きな気泡が見られ、じゃま板より下の部分ではこの大きな気泡に対し相対的に小さな気泡が見られる。大きな気泡は細胞群体の解体に有利であり、小さな気泡は二酸化炭素の溶解に有利であるため、二酸化炭素の溶解と細胞群体の解体の両立を図ることができる。
【0013】
上記気体送込装置が上記培養槽の底面に設置され、気体送込装置の空気噴出面が平坦であるとよい。これにより、高い二酸化炭素の溶解効果、および水面で気泡がはじける際の高い細胞群体の解体効果を得ることができる。
【0014】
上記気体送込装置が設置される培養槽の底面が、すり鉢状に陥没しているとよい。これにより、高い二酸化炭素の溶解効果を得ることができる。
【0015】
上記培養液に消泡剤を添加しているとよい。これにより、確実に水面で気泡がはじけるようになるため、高い細胞群体の解体効果を得ることができる。
【0016】
本発明にかかる群体性藻類の培養方法の代表的な構成は、培養液が内部に導入された培養槽にて、炭化固定を行う群体性藻類を培養する群体性藻類の培養方法であって、培養槽の底面に平坦な空気噴出面を持つ気体送込装置を設置し、培養液に、気体送込装置から二酸化炭素を含む気体を毎分この培養液の容積の4分の1以上送り込み、気体の気泡により群体性藻類の細胞群体を解体させることを特徴とする。
【0017】
上述したフォトバイオリアクタにおける技術的思想に対応する構成要素やその説明は、当該群体性藻類の培養方法にも適用可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、細胞群体に損傷を与えることなくこれを適正なサイズに解体することによりその増殖を促進し、延いてはバイオ燃料の市場競争力の獲得に寄与することが可能なフォトバイオリアクタ、およびその群体性藻類の培養方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるフォトバイオリアクタの概略構成を示す側断面図である。
【図2】図1に示す気体送込装置の空気噴出面の最適な形状について説明する概念図である。
【図3】気泡が水面ではじける動作による細胞群体の解体と、機械攪拌による細胞群体の解体とを比較する図である。
【図4】本発明の第2実施形態にかかるフォトバイオリアクタの概略構成を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0021】
図1は、本発明の第1実施形態にかかるフォトバイオリアクタ100の概略構成を示す側断面図である。図1に示すように、フォトバイオリアクタ100は、培養液102が内部に導入された培養槽104にて、光合成反応により炭素固定を行う群体性藻類を培養する。かかる群体性藻類としては、例えばボトリオコッカス(Botryococcus braunii)が挙げられる。
【0022】
培養液102(培地)としては、培養する群体性藻類によって適したものを採用する。例えば、富栄養条件下で良好な生育を示すボトリオコッカスでは、十分な栄養塩を加えたものを採用する。pHに関しても、その群体性藻類に適したものになるように設定する。培養液102には、後述の気体送込装置110から送り込まれる炭素源としての二酸化炭素が溶解し、群体性藻類はこの溶解した二酸化炭素を用いて光合成反応による炭素固定を実施する。
【0023】
培養槽104は開放池方式(例えば天面が開口した円状の水槽)であって、その深さは太陽光が底面104aまで届くように設定される。具体例としては、40cm〜80cm程度に設定することが好ましい。これは、培養槽104の深さを深く設定しすぎると光合成反応に必要な太陽光が底面104aまで届かなくなり、群体性藻類の増殖が鈍るためである。なお、培養槽104としては、チューブ方式やパネル方式等の閉鎖系の構成を採用してもよい。
【0024】
群体性藻類を培養する場合その細胞群体が大きくなりすぎると、内部への光の透過や栄養の浸透が減少し、増殖が鈍る問題がある。そこでここでは、培養槽104の底面104aに、炭素源としての二酸化炭素を含む気体を噴出する空気噴出面110aの平坦な気体送込装置110を設置し、その気体送込装置110から培養液102にこの気体を大量に送り込むことで、この気体の気泡が水面ではじける動作により細胞群体を解体する。
【0025】
具体的には、ポンプ116によって、少なくとも毎分培養液102の容積の4分の1以上の気体を気体送込装置110から噴出させる。気体の噴出量を上げれば細胞群体の解体がより促進され、気体の噴出量を下げれば細胞群体の解体が後退するので、細胞群体のサイズを適正にコントロールするようこの範囲内で気体の噴出量を調節するとよい。なお、この4分の1以上という範囲は、実験の結果、一定以上の効果が確認された範囲であって、この範囲内でなければ全く効果を奏さないという性質のものではない。
【0026】
細胞群体の解体をより促進するためには、培養液102に消泡剤を添加するとよい。これは、消泡剤を添加することで、気体送込装置110から噴出した気体の気泡が、確実に水面ではじけるようになるためである。消泡剤としては既知の汎用のものを利用することができる。
【0027】
なお、二酸化炭素を含む気体を噴出する装置に関しては、従来よりフォトバイオリアクタに採用されているが、これは専ら光合成反応に利用される二酸化炭素を培養液に溶解させることを目的としたものである。光合成反応に利用される二酸化炭素を培養液に溶解させることを目的とした気体を噴出する装置は、本実施形態のように毎分培養液102の容積の4分の1以上という大量の気体を送り込むものではなく、細胞群体の解体効果はほぼ得られない。
【0028】
逆に、本実施形態のフォトバイオリアクタ100では、毎分培養液102の容積の4分の1以上という大量の気体を送り込むので、太陽光受光のため深さがとれない開放池方式の培養槽104の欠点とされてきた二酸化炭素の溶解不足のおそれを抑制できる。なお、二酸化炭素が充分溶解される場合には気体に多く二酸化炭素を含有させる必要はなく、二酸化炭素の含有量は低くてよい。
【0029】
図2は、図1に示す気体送込装置110の空気噴出面110aの最適な形状について説明する概念図である。図2(a)が図1に示す気体送込装置110の空気噴出面110aからの気体の噴出を説明する図であり、図2(b)、(c)が比較例としての気体送込装置112、114の空気噴出面112a、114aからの気体の噴出を説明する図である。
【0030】
細胞群体の解体効果を高めるためには、水面の広い範囲で気泡がはじけるようにすることが効果的である。また、二酸化炭素を効果的に溶解させるためには、気泡が上昇する際にしっかりと分散していることが必要である。一般に、水中で噴出した気体は、放射状に広がって上昇する。
【0031】
図2(a)に示すように、気体送込装置110の空気噴出面110aを平坦とする本実施形態の構成では、水中で噴出した気体が放射状に広がって(分散して)、水面の広い範囲で気泡がはじける。したがって、高い二酸化炭素の溶解効果、および高い細胞群体の解体効果を得ることができる。
【0032】
一方、図2(b)に示すように、市販のエアストーンのような気体送込装置112では、充分に気体を噴出する能力を持たせることが困難であり、細胞群体の解体効果をほぼ得ることが出来ない。また、図2(c)に示すように、中心が膨出した空気噴出面114aを持つ気体送込装置114では、中心付近に気泡が集まりやすくなる傾向があり、本実施形態の構成ほど二酸化炭素の溶解効果および細胞群体の解体効果を得ることはできない。
【0033】
再び図1を参照する。図1に示すように、平坦な空気噴出面110aを持つ気体送込装置110の上方には、網状の隙間を持ち光を透過するじゃま板118が備えられる。上昇してくる気泡の一部は、このじゃま板118に付着する。じゃま板118に付着した気泡は他の気泡と合体して大きくなり、再び上昇を開始し(浮力が気泡の半径の3乗に比例するため)、水面ではじけて細胞群体を解体する。
【0034】
これより、じゃま板118より上の部分では気泡同士の合体による大きな気泡が見られ、じゃま板より下の部分ではこの大きな気泡に対し相対的に小さな気泡が見られる。大きな気泡は細胞群体の解体に有利であり、小さな気泡は二酸化炭素の溶解に有利であるため、二酸化炭素の溶解と細胞群体の解体の両立を図ることができる。なお、じゃま板118は、光が透過するものであれば、パンチングメタルのような穴あきの平板や金網で構成してよい。光を透過するものとしているのは、じゃま板118の下側に存在する群体性藻類の光合成反応を妨げないようにするためである。
【0035】
図3は気泡が水面ではじける動作による細胞群体の解体と、機械攪拌による細胞群体の解体とを比較する図である。図3(a)が気泡が水面ではじける動作によって細胞群体を解体した図であり、図3(b)が機械攪拌によって細胞群体を解体した図である。
【0036】
図3(b)に示すように、機械攪拌では、細胞群体の解体は難しくその一部(図3(b)中「範囲P1」として示す)がつながったままの状態として残ったり(完全に解体することができなかったり)、細胞が損傷して増殖が余計に鈍ったり、機械的な力が加えられた結果その細胞が破裂し内在する炭化水素が流出してしまったりするおそれがある。
【0037】
これに対し図3(a)に示すように、気泡が水面ではじける動作によれば、細胞群体を損傷させることなく、細胞群体を適正なサイズに解体することができる。特に、範囲P2に示すように、細胞群体の一部は、かなり細かい状態にまで分離される。このように微細に分離された細胞(細胞群体)に関しても損傷は受けておらず、さらに成長可能である。したがって、このように微細に分離されたいくつもの細胞が、その内部に光および栄養分を充分に取り込んで新たに成長していくため、全体として増殖を大幅に促進することができる。
【0038】
以上、上述した構成によれば、細胞群体に損傷を与えずに、細胞群体を適正なサイズに解体することができ、培養する群体性藻類の増殖を促進することができる。これにより、群体性藻類の生産コストが低減されるので、バイオ燃料の市場競争力の獲得に寄与することが可能となる。
【0039】
図4は、本発明の第2実施形態にかかるフォトバイオリアクタ200の概略構成を示す側断面図である。第2実施形態にかかるフォトバイオリアクタ200の第1実施形態との差異は、気体送込装置110が設置される培養槽204の底面204aがすり鉢状に陥没し、そのすり鉢状の上縁にかけてじゃま板118が備えられていることである。かかるフォトバイオリアクタ200では、気体送込装置210の深さが確保されるため、さらに高い二酸化炭素の溶解効果を得ることができる。
【0040】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、炭素固定を行う群体性藻類を培養槽にて培養するフォトバイオリアクタ、および群体性藻類の培養方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
100、200…フォトバイオリアクタ、102…培養液、104、204…培養槽、104a、204a…底面、110、112、114…気体送込装置、110a、114a…空気噴出面、116…ポンプ、118…じゃま板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液が内部に導入され、炭素固定を行う群体性藻類を培養する培養槽と、
前記培養槽に備えられ、前記培養液に二酸化炭素を含む気体を毎分該培養液の容積の4分の1以上送り込み、該気体の気泡により前記群体性藻類の細胞群体を解体させる気体送込装置と、
を有することを特徴とするフォトバイオリアクタ。
【請求項2】
前記気体送込装置の上方に、網状の隙間を持ち光を透過するじゃま板を更に有することを特徴とする請求項1に記載のフォトバイオリアクタ。
【請求項3】
前記気体送込装置が前記培養槽の底面に設置され、該気体送込装置の空気噴出面が平坦であることを特徴とする請求項1または2に記載のフォトバイオリアクタ。
【請求項4】
前記気体送込装置が設置される前記培養槽の底面が、すり鉢状に陥没していることを特徴とする請求項3に記載のフォトバイオリアクタ。
【請求項5】
前記培養液に消泡剤を添加していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のフォトバイオリアクタ。
【請求項6】
培養液が内部に導入された培養槽にて、炭化固定を行う群体性藻類を培養する群体性藻類の培養方法であって、
前記培養槽の底面に平坦な空気噴出面を持つ気体送込装置を設置し、
前記培養液に、前記気体送込装置から二酸化炭素を含む気体を毎分該培養液の容積の4分の1以上送り込み、該気体の気泡により前記群体性藻類の細胞群体を解体させることを特徴とする群体性藻類の培養方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−200177(P2012−200177A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66619(P2011−66619)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】