説明

フォトバクテリウム・ダムセラの蛋白質およびその使用

【課題】安価で、製造が容易で、再現性の良いフォトバクテリウム感染に対して有効なワクチンを創り出す。
【解決手段】フォトバクテリウム・ダムセラ(Photobacterium damselae)亜種ピシシダ(piscicida)の55kDa細胞外蛋白質の誘導体は、フォトバクテリウム感染に対するワクチンの基盤であり、それによってパスツレラ症から魚を防御する。ウサギ免疫グロブリンが硬骨魚類の補体カスケードを活性化できないと考えられるとき、この防御効果は明白である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトバクテリウム・ダムセラ(Photobacterium damselae)亜種ピシシダ(piscicida)の新規分泌型蛋白質、及びは魚のパスツレラ症に対するワクチンにおける該蛋白質又は該蛋白質をコードする核酸配列の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトバクテリウム・ダムセラ(Photobacterium damselae)亜種ピシシダ(piscicida)(正式にはパスツレラ・ピシシダ(Pasteurella piscicida))による感染死は、世界中の温水域における養殖業界に甚だしい損害をもたらす。この疾患(パスツレラ症)は、日本では主にブリの養殖に影響を及ぼし、地中海では鯛およびスズキの養殖場に損害をもたらして、多大な経済的損失を与える。抗生物質治療は概して効果がなく、環境に悪い影響を与えるので望ましくない。この疾患に対するワクチンの開発は遅れており、これは主にこの病原菌が通性細胞内寄生性で、したがって一般的に免疫防御機構に曝露されないためである。今まで、ワクチンの研究は、熱又はホルマリンによって死滅する細胞から調製したバクテリンに焦点を当ててきた。「DI21」と称する細胞外生成物(ECP)に富んだバクテリンワクチンは、ヨーロッパのある種の国々で市販されている。これらのバクテリンによって得られる効果の程度は変動が大きく、防御期間も短いことが多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
安価で、製造が容易で、再現性の良いフォトバクテリウム感染に対して有効なワクチンを創り出すために、この分野で未だ満たされていない要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の態様では、本発明はフォトバクテリウム・ダムセラ亜種ピシシダの単離された、又は精製された55kDa細胞外蛋白質或いはその誘導体及びそれに対する抗体を提供する。
【0005】
第2の態様では、本発明は該55kDa蛋白質をコードする単離核酸配列又はその相同体又は断片又は厳密な条件下でそれにハイブリダイズする配列を提供する。p55核酸配列を有するDNA発現ベクター及びDNA発現ベクターで形質転換された宿主細胞もまた、提供される。
【0006】
第3の態様では、本発明はフォトバクテリウム・ダムセラ亜種ピシシダの単離された、又は精製された55kDa細胞外蛋白質、或いはその誘導体及び薬剤として許容される担体を含むワクチン組成物を提供する。
【0007】
他の態様では、本発明は薬剤としてのフォトバクテリウム・ダムセラ亜種ピシシダの単離された、又は精製された55kDa細胞外蛋白質又はそれらの誘導体の使用を提供する。
【0008】
他の態様では、本発明は魚のパスツレラ症を予防又は治療するための薬剤製造におけるフォトバクテリウム・ダムセラ亜種ピシシダの単離された、又は精製された55kDa細胞外蛋白質又はその誘導体の使用を提供する。
【0009】
さらに他の態様では、本発明はフォトバクテリウム・ダムセラ亜種ピシシダの単離された、又は精製された55kDa細胞外蛋白質、或いはその誘導体、及び薬剤として許容される担体を含むワクチン組成物を魚に投与することを含む、魚のパスツレラ症の予防方法又は治療方法を提供する。
【0010】
他の態様では、本発明は
(a)場合によっては指数増殖期中期までフォトバクテリウム・ダムセラ亜種ピシシダを培養して増殖させる段階、
(b)細胞から上清を分離する段階、
(c)場合によって該上清を濃縮する段階、及び
(d)不活性化剤で該上清を不活性化する段階を含む、パスツレラ症に対するワクチンの調製方法を提供する。
【0011】
該不活性化剤は、ホルムアルデヒドであることが好ましい。本発明にはまた、p55に富んだフォトバクテリウム・ダムセラ亜種ピシシダの不活性化細胞培養上清を含むワクチン組成物がまた、含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(配列番号1)は、MT1415(フォトバクテリウム・ダムセラ亜種ピシシダの病原種)で同定されたp55蛋白質のDNA配列を示した配列である。
【図2】(配列番号2)は、p55の推定アミノ酸配列を示した配列で、成熟蛋白質を形成するために切断され得る16個のアミノ酸シグナル配列には影がつけてある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の対象である蛋白質は、毒性フォトバクテリウム ダムセラ亜種ピシシダの細胞外生成物(ECP)の調製物から精製された。SDS−PAGEによって、この精製蛋白質は、55kDaマーカーの側に移動することが確かめられた。便宜上、この蛋白質は55kDa蛋白質又はp55と称することにする。この蛋白質は、感染のときに腹膜の貪食細胞におけるアポトーシスの誘導に重要な役割を果たす。55kDa蛋白質をクローニングして、配列決定した。DNA配列を図1に、推定アミノ酸配列を図2に示す。「単離された」p55遺伝子又は核酸配列とは、フォトバクテリウム・ダムセラゲノム内の天然の状態以外の遺伝子又は配列を意味すると理解される。
【0014】
本発明の55kDa蛋白質は、実際には大きさが55kDaに近いWO01/10459に開示されているフォトバクテリウムのいわゆる55kDa ECP蛋白質複合体とは異なる。55kDa ECP複合体は、少なくとも2種類の異なる実体から成ることが示され、そのいずれも本明細書で開示したp55配列に関係づけられるN末端配列を有さない。WO01/10459の55kDa ECP複合体は、鉄を補給した培養条件で発現するが、一方本発明の55kDa蛋白質は培地の鉄濃度とは独立した、指数増殖期中期の主要な分泌蛋白質である。さらに、WO01/10459の55kDa ECP複合体に対して生じた抗血清を使用してECP調製物を処理してこの蛋白質を除去しても、処理したECP調製物のアポトーシス誘発特性は影響を受けなかった。
【0015】
精製した天然p55で魚を免疫することによってフォトバクテリウム感染に対する防御的免疫応答が惹起されるかどうかを評価しようとした。しかし、該蛋白質は、精製した天然型を投与すると魚には非常に有毒で、速やかな死をもたらすことが発見された。代わりに、我々は、ウサギにおいて55kDa蛋白質に対して生じた抗体(毒性フォトバクテリウム細胞によって分泌されたp55に対してインビボにおいて特異的に結合する)が著しくフォトバクテリウム関連死を減少させ得ることを示すために、受動投与方法を使用した(実施例3)。
【0016】
受動免疫の利益を凌ぐことができるのは活性型免疫であり、それによって、実施例4に示したように、天然型よりも毒性の少ない蛋白質誘導体でワクチン接種した後では、魚自身によって55kDa蛋白質に対する抗体が作られる。
【0017】
蛋白質の「誘導体」とは、天然に生じる(天然型)蛋白質と比較して改変された1級、2級及び/又は3級アミノ酸配列を有する55kDa蛋白質の変種のことで、魚に対する該蛋白質の毒性の減少をもたらす1種又は複数の化学的又は物理学的処理段階を経た天然55kDa蛋白質を含む。該誘導体は、シグナル配列(アミノ酸1〜16)を欠失していてもよく、又は含んでいてもよい。「免疫原性」誘導体とは、病原感染性を中和し、および/又は抗体−補体又は抗体依存性細胞毒性を媒介して、免疫した宿主におけるパスツレラ症に対する防御をもたらす抗体を惹起することができる誘導体のことである。この誘導体の免疫原性は、動物を免疫し、(たとえば、ウェスタンブロッティング分析によって)動物の抗血清が特異的にp55を認識できるかどうかを調べることによって試験することができる。p55の毒性を除去した免疫原性誘導体は、感受性のある魚類に投与すると、生理食塩水を注射した対照魚よりも高いRPS(ワクチンの有効率relative percent survival)を生じる。
【0018】
たとえば、55kDa蛋白質の毒性を除去した免疫原性誘導体は、魚類に対する蛋白質の毒性を排除するため、又は減少させるために部位特異的変異誘発によって操作されても、魚において、フォトバクテリウムの抗原を認識し、(交差)反応する抗体の産生を誘導し、かつ/又はこの病原体による感染を防御する魚の免疫応答を誘導する能力を維持している、実質的に相同な組換え型変種である。
【0019】
或いは、該誘導体は、熱処理、マイクロ波、光、水処理、超音波、冷却処理、凍結、凍結及び解凍、凍結乾燥、尿素又は界面活性剤による変性、ホルムアルデヒド処理、又は蛋白質の3D構造の改変をもたらすことが知られているその他の任意の処理を受けた天然p55或いは単離された、又は精製されたp55であってよい。
【0020】
天然のp55の誘導体は、フォトバクテリウム・ダムセラ亜種ピシシダの細胞外生成物を調製することによってもたらすことができる。p55は、指数増殖期中期まで増殖させた細菌培養物中の主要な分泌蛋白質で、これらの条件下で分泌蛋白質の85%を上回ることを発見した(より成長した細菌の上清−指数増殖期後期から定常期では、p55はまた存在するが、より複雑な蛋白質パターンを示す)。一態様では、本発明は一般に、ワクチンにおいて使用するためのp55に富んだ不活性化ECP調製物に関する。好ましくは、これらのECP調製物は、通常の鉄条件下で調製する、すなわち、鉄分の補給もせず、鉄キレート剤も含めない培地中で細胞を増殖させる。該培地の鉄濃度は、好ましくは<15μM、より好ましくは<10μM、より好ましくは<1μM、最も好ましくは<0.1μMである。本発明の好ましい実施形態は、好ましくは指数増殖期中期まで増殖させ、不活性化させたフォトバクテリウム・ダムセラ亜種ピシシダの濃縮培養上清を含むワクチンに関する。「指数増殖期中期」とは、600nmの吸光度(OD)が0.5〜0.7、好ましくは0.55〜0.65、より好ましくは約0.6を意味する。該上清は、不活性化段階の前に細胞から分離することが好ましい。該細胞培養上清は、使用するために(不活性化の前後に)、たとえば、1.5〜200倍、場合によって5〜150倍、たとえば、50〜100倍に場合によって濃縮する。遠心濾過装置、限外濾過、真空透析、硫酸アンモニウム沈殿などの通常の上清濃縮法を使用することができる。実施例1は濃縮培養上清を調製する1方法を示し、実施例4はホルムアルデヒドによる不活性化段階を教示する。不活性化剤の適切な例には、ホルムアルデヒド、サポニン、ベータ−プロピオラクトン(BPL)及びバイナリーエチレンイミン(BEI)が含まれる。
【0021】
一実施形態では、該誘導体は天然p55と同一のアミノ酸配列(プラス/マイナスシグナル配列)を有して組換えによって発現するが、宿主細胞内で組換え体を発現させた結果、蛋白質の折り畳み、糖修飾又はその他の翻訳後処理が天然状態の蛋白質のものとは異なる。構造的又は化学的特性のいかなる違いも、魚に対する毒性の減少に反映し得る。たとえば、実施例4で免疫に使用したE.コリの組換え発現蛋白質は、おそらく折り畳みが誤っているために封入体を形成する。
【0022】
該誘導体は、たとえば、該蛋白質のクローニング及び組換え発現、又は該蛋白質の酵素的切断及び/又は化学的切断及びその後の蛋白質断片の精製によって調製された蛋白質の非毒性の部分、断片又はエピトープであることができる。一実施形態では、該誘導体はトリプシンなどの蛋白質分解酵素で消化するか、又は臭化シアンなどの化学物質で切断することによって調製されたp55の断片である。
【0023】
本発明の趣旨から、p55蛋白質の「部分」又は「断片」とは、55kDa蛋白質の少なくとも6個、好ましくは少なくとも10個、より好ましくは少なくとも15個、より好ましくは少なくとも25個、場合によっては少なくとも35個、又は少なくとも45個の隣接したアミノ酸を有する任意のペプチド分子を意味するものと理解される。該蛋白質の「部分」は、完全長アミノ酸配列であってよい。
【0024】
「単離された」又は「精製された」蛋白質とは、該蛋白質の原料である細胞又は組織の細胞物質又はその他の混入蛋白質が実質的に含まれないか、又は化学合成の場合、化学的前駆体又はその他の化学物質が実質的に含まれないと定義される。「実質的に細胞物質を含まない」といういい方には、単離された、又は組換えによって生じた細胞の細胞成分から該蛋白質が分離された該蛋白質の調製物が含まれる。一実施形態では、「実質的に細胞物質を含まない」といういい方には、非55kDa蛋白質(本明細書ではまた「混入蛋白質」と称する)が約30%未満、より好ましくは混入蛋白質が約20%未満、さらにより好ましくは混入蛋白質が約10%未満、最も好ましくは混入蛋白質が約5%未満である55kDa蛋白質の調製物が含まれる。55kDa蛋白質又はその生物学的に活性のある部分を組換えによって産生するときはまた、培地を実質的に含まないことが好ましく、すなわち、培地が蛋白質調製物の量の約20%未満、より好ましくは約10%未満、最も好ましくは約5%未満である。
【0025】
フォトバクテリウム・ダムセラ亜種ピシシダには、幾何学的に異なるいくつかの単離物がある。この分野の研究者等になじみ深い種の例には、MT1415、PP3、MT1375、MT1588、MT1594、DI21、B51、EPOY8803−II、PTAVSA95、ATCC29690、CECT(Coleccion Espanola de Cultivos Tipo)4780、CECT4781、CECT5063及びCECT5064が含まれる。これらの種の核酸配列及び発現した蛋白質のアミノ酸配列には、ある程度の変動がある。本発明で使用した55kDa蛋白質は、いかなる特定の材料種にも限定はされないが、ATCC29690およびEPOY8803−IIなどのフォトバクテリウム・ダムセラのある種の無害な種には存在しない可能性がある。当業者であれば、SDS−PAGE分析又はウェスタンブロッティング分析によって、PCRによって、又はdo Vale他、Fish&Shellfish Immunology 15(2003):129〜144に記載された反復アポトーシス測定法によって、種にこの蛋白質が存在しないことを容易に試験することができる。特定の幾何学的部位において55kDa変種が一般種と一致することは、この部位のワクチンを設計するとき、有利であり得る。
【0026】
本発明は、配列番号1及び配列番号2で与えられる配列にそれぞれ実質的に相同な核酸配列及びアミノ酸配列である誘導体を包含する。「実質的に相同である」とは、参照配列と比較したとき、該参照配列に対して少なくとも50%の相同性、より好ましくは少なくとも60%の相同性、より好ましくは少なくとも70%の相同性、より好ましくは少なくとも80%、85%、90%、95%、98%以上の相同性を有する配列を意味する。
【0027】
2種類のアミノ酸配列又は2種類の核酸配列の相同性割合を決定するには、比較を最適にするために該配列を整列させる(たとえば、第2アミノ酸配列又は核酸配列に最適に整列させるために、第1アミノ酸の配列又は核酸配列にギャップを導入することができ、比較のためにギャップの中に入った非相同配列は無視することができる)。2種類の配列を同じ長さにする必要はない。特記しなければ、比較する配列全体の長さは、整列の範囲全体である。場合によって、比較のための参照配列の長さは、該参照配列の長さの少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも60%、さらにより好ましくは少なくとも70%、80%、又は90%である。
【0028】
第1の(参照)配列の位置が該配列の対応する位置と同じアミノ酸残基又はヌクレオチドによって占有されるとき、該分子はその位置において相同である(すなわち、その位置において同一である)。核酸配列を比較する場合、遺伝子コードの縮重によって、該ヌクレオチドを含むコドントリプレットが比較すべき両分子において同一のアミノ酸をコード化している特定の位置においてまた、相同性が存在する。
【0029】
2種類の配列の相同性割合は、配列の占める相同な位置の数の関数である(すなわち、%相同性=相同な位置の数/位置の総数)。場合によって、配列の比較及び相同性割合の決定は、数学的アルゴリズムを使用して実現することができる。適切なアルゴリズムは、Altschul他、(1990)J.Mol.Biol.215:430〜10のNBLAST及びXBLASTプログラムに組み込まれている。
【0030】
本発明の核酸配列には、厳密な条件下で参照配列番号1にハイブリダイズする配列もまた、含まれる。本発明の意味において、「厳密な」ハイブリダイゼーション条件とは、Sambrook他、Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、1.101−1〜104に記載された条件として定義され、すなわち、陽性のハイブリダイゼーションシグナルは、1xSSC緩衝液及び0.1% SDSによって55℃、好ましくは62℃、最も好ましくは68℃で1時間、特に0.2xSSC緩衝液及び0.1%SDSによって55℃、好ましくは62℃、最も好ましくは68℃で1時間洗浄した後でも認められる。
【0031】
本発明の配列には、参照核酸配列の断片が含まれる。55kDa蛋白質核酸参照配列の「断片」とは、少なくとも10個、好ましくは少なくとも20個、より好ましくは少なくとも30個、より好ましくは少なくとも50個、場合によっては少なくとも75個、又は少なくとも100個の隣接したヌクレオチドを含む配列の任意の部分である。配列番号1の断片は、1つにはパスツレラ症又は毒性のあるフォトバクテリウム・ダムセラ亜種ピシシダによる感染の診断において使用することができる。たとえば、このような断片は、診断用PCRキットのDNAプライマーとして使用することができる。
【0032】
本発明の他の態様は、ベクター、好ましくはp55(又はその一部)をコードする核酸配列を含む発現ベクターに関する。本明細書では、「ベクター」という用語は、自身に結合した他の核酸を輸送することができる核酸分子を意味する。ベクターの1種は、他のDNA部分を連結することができる環状2本鎖DNAループであるプラスミドである。他の種類のベクターはウイルスベクターで、他のDNA部分をウイルスゲノムに連結することができる。ある種のベクターは、作動可能に結合させた遺伝子の発現を対象とすることができる。このようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」と称する。一般的に、組換えDNA技術に使用される発現ベクターは、プラスミド型である。しかし、本発明は、同等の機能を備えたウイルスベクター(たとえば、複製欠損型レトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ関連ウイルス)などのこのようなその他の形態の発現ベクターを含めるものとする。
【0033】
本発明の組換え発現ベクターは、宿主細胞における核酸の発現に適した形態の本発明の核酸を含み、該組換え発現ベクターは、発現に使用する宿主細胞に基づいて選択され、発現させる核酸配列に作動可能に結合した、1種又は複数の調節配列を含むことを意味する。本発明の発現ベクターは、(DNAワクチンとして)55kDa抗原を企図した受容体内で発現させるために使用した真核細胞発現ベクター、又は(組換え抗原ワクチンを産生させるために)最終的な受容体以外の宿主生物内で発現させるための原核細胞若しくは真核細胞発現ベクターであることができる。或いは、該組換えベクターは、たとえばT7プロモーター制御配列及びT7ポリメラーゼを使用して、インビトロで転写翻訳され得る。
【0034】
発現ベクター内で、「作動可能に結合した」とは、(たとえば、インビトロ転写/翻訳系において、又は該ベクターを宿主細胞に導入するとき宿主において)関心のあるヌクレオチド配列が、ヌクレオチド配列の発現を可能にする方法で制御配列(類)に結合されることを意味するものとする。「調節配列」という用語は、プロモーター、エンハンサー及びその他の発現制御要素(たとえば、ポリアデニル化シグナル)を含むものとする。このような制御配列は、たとえば、Goeddel、Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185、Academic Press、San Diego、Calif(1990)に記載されている。制御配列には、多くの種類の宿主細胞におけるヌクレオチド配列の構成的発現を対象とする配列、及びある種の宿主細胞のみにおけるヌクレオチド配列の発現を対象とする配列(たとえば、組織特異的制御配列)を含む。当業者であれば、該発現ベクターの設計は、形質転換する宿主細胞の選択、所望する蛋白質の発現濃度などの要素に左右され得ることが理解されよう。本発明の発現ベクターは、宿主細胞に導入され、それによって、本明細書で説明した核酸によってコード化された融合蛋白質又はペプチド(たとえば、55kDa蛋白質、p55の誘導体型、p55と異種ペプチドとの融合蛋白質など)を含めた蛋白質又はペプチドを産生することができる。
【0035】
本発明の他の態様は、本発明の組換え発現ベクターが形質転換によって導入された宿主細胞に関する。宿主細胞は、E.コリ、(バキュロウイルス発現ベクターを使用した)昆虫細胞、酵母細胞又は哺乳類細胞などの任意の原核細胞又は(多細胞真核生物内の真核細胞を含めた)真核細胞であることができる。その他の適切な宿主細胞は、当業者には公知である(たとえば、Goeddel、前述)。
【0036】
原核細胞における蛋白質の発現は、融合蛋白質又は非融合蛋白質のいずれかの発現を対象とする構成型プロモーター又は誘導型プロモーターを含有するベクターによって、E.コリにおいて最もよく実施される。融合ベクターは、それらのコード化する蛋白質に、通常は組換え蛋白質のアミノ末端に、いくつかのアミノ酸を付加する。しばしば、融合発現ベクターにおいて、蛋白質分解酵素切断部位は融合部分及び組換え蛋白質の接合部に導入され、融合部分から組換え蛋白質の分離を可能にし、その後の融合蛋白質の精製を可能にする。このような酵素及びそれらの同族認識配列には、活性化第X因子、トロンビン及びエンテロキナーゼが含まれる。一般的な融合発現ベクターには、標的組換え蛋白質にグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)が融合したpGEX(Pharmacia Biotech Inc.、Smith、D.B.and Johnson、K.S.(1988)Gene 67:31〜40)、マルトースE結合蛋白質が融合したpMAL(New England Biolabs、Beverly、Mass.)及びプロテインAが結合したpRIT5(Pharmacia、Piscataway、N.J.)が含まれる。
【0037】
精製された天然p55はまた、本発明の範囲内に包含され、従来の蛋白質精製方法を使用してフォトバクテリウム・ダムセラ細胞培養物から抽出又は精製することができる。
【0038】
p55遺伝子は、核酸ワクチン(NAV)に組み込まれ、それによってNAVは生きた動物の宿主細胞によって取り込まれ、細胞基質内でp55遺伝子の発現を生じることができる。DNAベクターに挿入されたp55遺伝子は、魚類細胞においてインビボで発現させるために、魚に(たとえば、筋肉内に)直接接種することができる。したがって、本発明の一態様では、薬剤として許容される担体、及びp55をコードする核酸配列が転写制御配列に作動可能に結合しているDNAプラスミドを含む核酸ワクチンが提供される。転写制御配列には、プロモーター、ポリアデニル化配列、及びメチル化されていないCpGジヌクレオチドを有する免疫刺激オリゴヌクレオチドなどのその他のヌクレオチド配列、或いはその他の抗原蛋白質又はアジュバントサイトカインをコードするヌクレオチド配列が含まれる。原核細胞性又はウイルス性転写制御配列(類)の存在によって、魚類細胞におけるp55遺伝子の発現が可能になる。DNAプラスミド自身は、ワクチン組成物を調製するために細菌細胞において複製されることができるが、一般的に原核細胞におけるp55遺伝子の発現を可能にする転写制御配列を欠いている。インビボでの発現に最適となるように、ワクチン接種する魚類に内在する転写制御配列を選択することが好ましい可能性がある。たとえば、内在性サイトカイン又はアクチン遺伝子プロモーターを考慮することができる。該DNAは、裸の形態で存在することができ、又は細胞による取り込みを容易にする薬剤(たとえば、リポソーム又は陽イオン性脂質)と一緒に投与することができる。魚DNAワクチンの接種技術は、参照により、本明細書に組み込む米国特許第5780448号により詳細に説明されている。
【0039】
本発明のワクチンは、パスツレラ症の危険性のある魚又はパスツレラ症に罹患した魚に投与するためのものである。罹患しやすい種の例には、ブリ(Seriola quinqueradiata)、アユ(Plecoglossus altivelis)、マダイ(Acanthopagrus schlegeli)、クロダイ(Pagrus major)、雷魚(Channa maculata)、キジハタ(Epinephelus akaara)、oval file fish(Navodan modestus)、シマスズキ(Morone saxatilis)、雑種シマスズキ(M.saxatilis x M.Chrysops)、ゴウシュウマダイ(Sparus aurata)、スズキ(Dicentrarchus labrax)、ボラ(Mugil種)、イソギンポ(Pictiblennius yatabei)、ヒラメ(Pralichthys olivaceus)及びシタビラメ(Solea senegalensis)が含まれる。
【0040】
ワクチンの一般的な投与経路は、筋肉内(特に、apical muscle)又は(大きな魚の場合は)腹腔内への注射、飼料に入れて経口的に、或いは海水又は淡水に浸すことによる。抗原ワクチンの好ましい接種経路は、腹腔内注射による。本発明のワクチンを注射によって投与するためには、魚の体重は少なくとも2グラム、好ましくは10グラム以上であることが推奨される。(ゴウシュウマダイ及びスズキなどの)ある種の魚は、若齢のときにパスツレラ症に最も弱いので、体重が50g以下のときに、場合によっては浸漬することによって該魚にワクチン接種することが好まれる可能性がある。浸漬又は経口投与の場合に好ましい体重は、少なくとも2グラムである。
【0041】
本発明のワクチンは、予防又は治療目的のために魚に投与することができる。
【0042】
ワクチンの有効投与量は、対象の大きさ及び種、並びに投与様式によって変化し得る。最適な投与量は、獣医師又は養殖業者が試行錯誤によって決定することができる。魚がワクチン接種に対して受けるストレスのために、該ワクチンは単発ワクチンとして1回投与形態で施されることが好ましい。ワクチンは、1回投与量に組換え体又は精製蛋白質を約1μgと1000μgとの間、好ましくは約10μgと200μgとの間、より好ましくは約50μgと100μgとの間を適切に含むことができる。単回投与単位は、処置する魚に投与することが好ましい。注射可能なワクチンの場合、単回投与単位の量は、0.025から0.5mlが適切で、0.05から0.2mlが好ましく、場合によっては約0.1mlである。
【0043】
DNAワクチンの場合、プラスミドの投与量は動物当たり最小限10μgから1000μgまでが、インビボでの抗原の適切な発現に十分であろう。
【0044】
一般的に、ワクチンは注射又は周囲の水から送達するために、液体溶液、懸濁液、又はエマルジョンとして調製される。たとえば、水槽、水浴又は魚を維持する海の囲いに添加するために、液体エマルジョン又は乳化可能な濃縮物を調製することができる。液体媒体に溶解又は懸濁するため、又は固形飼料に混合するために適した固形(たとえば、粉末)剤形は、投与前にまた、調製することができる。該ワクチンは、滅菌希釈剤又は溶媒で再構成するためにすぐに使える形態に凍結乾燥(lyophilize)、場合によっては凍結乾燥(freeze−dry)することができる。たとえば、凍結乾燥ワクチンは、(場合によっては、包装されたワクチン製品の一部として提供される)生理食塩水で再構成することができる。核酸ワクチンは、分子の安定性及び長期貯蔵寿命のため、凍結乾燥するために特に適している。本発明の医薬品ワクチン組成物は、すぐに放出するか、又は長期に亘って放出する形態で投与することができる。
【0045】
本発明の一実施形態では、p55又はp55コード配列を有する発現ベクターは、医薬品組成物において薬剤として許容できる担体又は賦形剤と一緒にする。薬剤として許容できる担体又は賦形剤には、従来の医薬品添加物が含まれ、たとえば、水、油又は生理食塩水などの溶媒、デキストロース、グリセロール、スクロース、トリカイン、湿潤剤又は乳化剤、充填剤、被覆剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、希釈剤、潤滑剤、pH緩衝剤或いはムラミルジペプチド等の従来のアジュバント、アブリジン、水酸化アルミニウム、油類(たとえば、鉱油)、サポニン、ブロック共重合体及び当業界で公知のその他の物質であることができる。本発明の好ましい実施形態では、ワクチン組成物は、単離された又は精製されたp55又はその誘導体及びアジュバントを含む。好ましいアジュバントは、フロイント不完全アジュバントである。場合によって、p55蛋白質又は誘導体は、生理食塩水溶液(たとえば、PBS)に懸濁し、約1:1の体積比でフロイント不完全アジュバントによって乳化する。
【0046】
魚を免疫するために、p55抗原又はp55遺伝子ベクターは、通常適切な媒体に入れて筋肉注射によって、腹腔内に注射することによって非経口的に、試料に入れて経口的に、又は浸漬によって投与することができる。本発明の好ましい抗原性ワクチン組成物は、注射又は浸漬による投与に適した形態である。DNAワクチン接種は一般的に、筋肉内注射による。
【0047】
フォトバクテリウム・ダムセラ亜種ピシシダ(正式にはPasteurella piscicida)による感染、又は魚類が感染しやすい多数の疾患を治療又は予防するために、組み合わせワクチンにおける、又は一種又は複数の成分を別々に含むキットにおける抗原又は抗原類と本発明のワクチンとを連続して、又は同時に投与することが所望され得る場合もある。
【0048】
本発明のワクチンを一緒にすることができるその他の抗原には、たとえば、以下の病原体由来の抗原が含まれる。フォトバクテリウム・ダムセラ亜種ピシシダ、イリドウイルス種、ノダウイルス種、ビブリオ種、エドワードシエラ種、ストレプトコッカス種、ラクトコッカス種及びノカルディア種。
【0049】
本発明の一部として開示した新規抗原はまた、フォトバクテリウム・ダムセラに対する抗体のスクリーニングにおいて、たとえば、魚がこの細菌に曝露したことを試験するための診断キットの調製において有用である。
【0050】
精製p55抗原に対して生じた抗体はまた、本発明内に含まれる。このような抗体は、疾患の管理及び魚の健康において、診断及び治療両方に適用し得ることが考えられる。ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体のいずれもこの観点において有用である。動物、たとえば、マウスを蛋白質で免疫し、免疫原性特異的モノクローナル抗体を生じるハイブリドーマを選択する方法は、当業界では周知である(たとえば、Kohler and Milstein(1975)Nature 256:495〜497を参照)。サンドイッチ測定法及びELISAは、診断測定法の具体的な例として挙げることができる。
【0051】
実施例
【実施例1】
【0052】
フォトバクテリウム・ダムセラ亜種ピシシダのp55のクローニング及び配列決定
フォトバクテリウム・ダムセラ細菌(MT1415種)は、NaClを最終濃度1%(w/v)で補給したトリプトソイブロス(TSB)で、22℃で振盪しながら(100rpm)、600nmの吸光度が約0.6になるまで(指数増殖期中期)増殖させる。細菌細胞は、遠心し、その後孔径0.22μmのフィルターで濾過することによって除去する。細胞を含まない上清は、Vivaflow 200濃縮器(Sartorius AG、Goettingen)を使用して100倍に濃縮し、20mM Tris−HCl(pH8.0)で透析する。
【0053】
濃縮した培養上清について、SDS−PAGEを行う。55kDaのバンドは、クーマシーブルー染色後、ゲルから切り出す。精製した蛋白質をその位置でトリプシン消化し、2種類のHPLC精製ペプチドのエドマン分解を実施する。
【0054】
断片は以下の配列、NNDKPDASDDKYADYVVR及びYTAAATEYTVIDALFHSPTFRを生じる。下線を引いた領域を使用して、縮重プライマーA1及びBそれぞれを設計する。全細菌DNAは、従来の技術に従ってMT1415種から調製し、プライマーA1及びBを使用したPCR増幅の鋳型として使用する。200bp増幅断片をアガロースゲルから切り出し、QIAquickゲル抽出キット(Qiagen)を使用して精製し、製造者の指示に従ってpGEM−T Easyベクター(Promega)にクローニングし、配列決定して、所望する断片に対応することを確認する。
【0055】
前述したPCRから得られた200bp断片は、AlkPhos Direct(Amersham Biosciences)で標識して、MT1415種の制限酵素消化全DNAのサザンブロット分析用のプローブとして使用する。関連のある反応断片を含有するアガロース切片のDNAをQiaquickゲル抽出キット(Qiagen)を使用して抽出する。3100bp HindIII−HindIII断片をpBluescript II KS(Stratagene)に挿入し、4100bpNcol−BamHI断片をpET−32b(Novagen)にクローニングする。形質転換体をプライマーA1及びBを使用してPCRによって選択し、配列決定する。
【0056】
他のDNAプローブは、4000bp Ncol−BamHI断片及びプライマーP4(5’−GGCCATGATGAATCTGAAGG−3’)及びT7(5’−GTAATACGACTCACTATAGGGC−3’)を含有する組換えプラスミドを使用してPCRによって作製する。このDNA断片は、前述した方法に従って、MT1415全DNAのサザンブロット分析でプローブとして使用する。1000bp HindIII−HindIII反応性断片を含有するアガロースゲルの領域を切り出し、該DNAはQIAquickゲル抽出キット(Qiagen)を使用して抽出し、pBluescript II KSベクター(Stratagene)にクローニングする。所望する構築物による形質転換体は、プライマーP4及びT7を使用したPCRによって同定し、配列決定する。
【0057】
p55の完全なDNA配列を図1に示し(配列番号1)、推定1次構造を図2に示す(配列番号2)。該蛋白質はアミノ酸の長さが513個で、非膜蛋白質に一般的な疎水性親水性特性を示す。SignalP、バージョン1.1(www.cbs.dtu.dk/services/SignalP)を使用したアミノ酸配列の分析によって、アミノ酸残基16と17との間に切断部位を有する推定シグナルペプチドの存在が明らかである。偶然に、p55からトリプシン様ペプチドのエドマン分解によって得られた配列の1つは、アミノ酸残基17、アスパラギンから開始する。トリプシンはアラニン(残基16)のカルボキシル側のペプチド結合を切断しないことを考えると、アスパラギン17は成熟蛋白質のN末端を表すことを結論づけることができる。成熟型蛋白質の予測分子量(56.185kDa)は、SDS−PAGEによって予測された大きさと一致する。p55の一次構造を使用したデータベース検索によって、p55の最初の340個のアミノ酸残基とE.コリ O157:H7の機能が未知である推定プロファージ蛋白質との間にいくらか相同性があることがわかった。
【実施例2】
【0058】
E.コリにおけるp55の発現
完全長p55遺伝子を含有するPCR断片を2種類の異なる発現ベクター:pET−28a(+)(Novagen)及びpQE−31(Qiagen)にクローニングし、それぞれ組換えプラスミドpETp55及びpQEp55を得た。BL21E.コリ種(pET−28(+)ベクター)及びM15E.コリ種(pQE−31ベクター)それぞれについて、E.コリ細胞は、従来の方法によって形質転換し、形質転換体はカナマイシン50μg/ml又はカナマイシン50μg/ml及びアンピシリン200μg/mlを補給したLuriaブロス(LB)中で37℃で振盪しながら8時間増殖させる。これらの培養物は、それぞれの抗生物質を入れた新鮮なLBで1:100に希釈し、37℃で振盪しながら3時間増殖させる。次に、IPTGを最終濃度1mMまで添加し、増殖を37℃で5時間継続する。IPTG誘導細胞を遠心によってペレットにする。
【0059】
pETp55プラスミドを有するE.コリ細胞のSDS−PAGE分析によって、(封入体画分に存在する)不溶性57kDa蛋白質の盛んな発現が明らかになった。(実施例3で説明した)p55に特異的な抗体を使用したこれらの細胞のウェスタンブロッティング分析によって、この蛋白質の正体が確認された。この蛋白質の見かけ上の分子量は、標準的p55によって示される分子量よりも2kDa大きく、これらのE.コリ細胞では前駆体型p55のシグナル配列は切断されないことを示唆している。不溶性5kDa蛋白質は、アポトーシス活性を有さない。
【0060】
(実施例3で説明した)p55に対する抗体を使用したpQEp55発現ベクターを有するE.コリM15細胞のウェスタンブロッティング分析によって、p55発現が低濃度であることが確認された。それにもかかわらず、これらの組換え細胞によって生じるp55は、SDS−PAGEによって正確な分子量を示す。さらに、発現した蛋白質は、超音波処理した細胞を遠心した後に得られた可溶性画分に見いだされ、これらの細胞で産生されるp55は正確に折り畳まれていることを示唆している。これらの可溶性抽出物をスズキに注射すると、注射して6時間後に腹腔内に多数のアポトーシス細胞を見いだすことができる。該組換え蛋白質のアポトーシス効果は、精製した天然p55を注射したときに見られるものと形態学的に区別することはできない。精製された天然のp55は、フォトバクテリウム・ダムセラの濃縮培養上清を2x天然−PAGE緩衝液(SDSを含めず、ベータ−メルカプトエタノールの濃度を5mMに減じること以外は、SDS−PAGE試料緩衝液と同じ組成である)で1:1に希釈することによって調製し、その後10%天然−PAGEによって分離する。ゲルの端の列を切断し、クーマシーブルーで染色し、主要な蛋白質バンドの位置を決定するために使用する。p55蛋白質を含有する切片を切断し、溶出緩衝液として20mM Tris−HCl(pH8.0)を使用して拡散(4℃でゆっくり撹拌する)によって抽出するために細かく切り刻む。
【実施例3】
【0061】
フォトバクテリウム55kDa蛋白質に対するウサギ抗血清を使用した受動免疫(3種類の独立した実験を実施する)
魚:体重約100gの西洋スズキ(Dicentrachus labrax)を再還流系でバイオフィルターを通して供給されたUV滅菌海水を入れたガラス水槽に維持する。水温は、23±1℃で一定にして、塩分は35‰である。
【0062】
免疫血清の作製:55kDa蛋白質に対する過免疫血清は、フロイント不完全アジュバントで乳化した精製蛋白質をウサギに3回投与することによって作製する。精製p55蛋白質は以下の通りに調製する。前記の実施例1で説明したように調製したMT1415種の濃縮培養上清についてクーマシーブルーSDS−PAGEを行う。電気泳動によって分離させた後、55kDaバンドをゲルから切り出し、溶出緩衝液(0.02% SDS、ベータ−メルカプトエタノール10mM、PMSF 34mg/ml)中で細分し、4℃で振盪しながら一晩インキュベートする。次に、アクリルアミド懸濁液を4℃で3000gで15分間遠心する。上清を収集し、同条件下で再度遠心する。該上清を収集し、−80℃で凍結し、凍結乾燥する。次に、該凍結乾燥蛋白質を蒸留水2mlに再懸濁して、該蛋白質をアセトン(90%v/v)で−20℃で一晩沈殿させる。沈殿させた蛋白質は、4℃で3000gで10分間遠心することによって回収し、90%(v/v)アセトンで洗浄し、室温で一晩乾燥し、PBSに再懸濁する。ウサギは最後に免疫してから1週間後に採血する。対照血清は、同ウサギの免疫前血清である。
【0063】
攻撃:フォトバクテリウム・ダムセラ亜種ピシシダ種PTAVSA95を解凍し、1%NaClを含有するトリプトソイ寒天(TSA−1)に接種する。一晩培養を行い、次に1%NaClを含有するトリプトソイブロス寒天(TSB−1)に再懸濁する。細菌密度は分光光度計(Beckman DU−65)によって、600nmで測定し、既に測定した吸光度/CFU曲線によってコロニー形成単位(CFU)の期待値が予測されるまで、希釈を行う。攻撃用量として使用した実際のCFUは、TSA−1プレートにTSB−1による希釈物を広げ、24℃で接種してから48時間後の生細胞数によって検査する。攻撃接種物は、シリンジで吸い取り、各魚に100μlを腹腔内(i.p.)注射することによって接種する。死因を確認するため、TSA−1上で培養することによって、該病原体を頭腎及び/又は死んだ魚から再単離する。
【0064】
ワクチン接種及び攻撃の前に、魚は全て0.003%(v/v)エチレングリコールモノフェニルエーテルで麻酔する。
【0065】
(実験1)
1群8匹の魚に、55kDa蛋白質に対して生じた採血1回目のウサギ抗血清を魚1匹当たり100μlずつ腹腔内注射によって投与する。1群8匹の魚に、同様の方法で採血1回目のウサギ抗血清を魚1匹当たり300μlずつ投与する。最後の対照群8匹には、正常なウサギの血清を魚1匹当たり300μlずつ投与する。フォトバクテリウム感染による死亡率は非常に特徴的であるので、陰性対照群は必要ない。各試験群の魚を独立した槽で維持する。ワクチン接種直後、まだ麻酔状態にある間に、各魚にフォトバクテリウムをコロニー形成単位(CFU)2.24x10個の攻撃用量で投与する。
【0066】
(実験2)
1群8匹の魚に、55kDa蛋白質に対して生じた採血1回目のウサギ抗血清を魚1匹当たり100μlずつi.p.注射によって投与する。1群8匹の魚に、採血2回目のウサギ抗血清を魚1匹当たり300μlずつ投与する。対照群8匹には、正常なウサギの血清を魚1匹当たり300μlずつ投与する。各試験群の魚を独立した槽で維持する。ワクチン接種直後、まだ麻酔状態にある間に、各魚にフォトバクテリウムをコロニー形成単位(CFU)1.87x10個の攻撃用量で投与する。
【0067】
(実験3)
1群8匹の魚に、55kDa蛋白質に対して生じた採血2回目のウサギ抗血清を魚1匹当たり300μlずつi.p.注射によって投与する。対照群8匹に正常なウサギの血清を魚1匹当たり300μlずつ投与する。各試験群の魚を独立した槽で維持する。ワクチン接種直後、まだ麻酔状態にある間に、各魚にフォトバクテリウムをコロニー形成単位(CFU)2.24x10個の曝露用量で投与する。
【0068】
曝露後1日目に最初の死亡が確認され、一方最後の死亡は5日目に確認された。続けて8日間はさらに死亡は確認されなかったので、免疫及び攻撃の15日後に試験を終了した。
【0069】
結果
これは小規模の研究にすぎないが、フォトバクテリウム・ダムセラECPから得られた55kDa蛋白質に対する抗体は実験的攻撃に対する防御に有効であることを示している(表1)。特に、ウサギ免疫グロブリンが硬骨魚類の補体カスケードを活性化できないと考えられるとき、この防御効果は明白である。さらに、該魚ではウサギ免疫グロブリンに対する免疫応答が開始し、抗体数が減少し、その結果さらに効果が減少するだろう。したがって、本研究で示された防御の程度は、非常に著しく、この経済的に重大な疾患に対するワクチンを開発するために、55kDa蛋白質は重要な可能性を秘めた標的となる。
【0070】
【表1】

【実施例4】
【0071】
封入体としてのp55及びホルマリン不活性化ECP中のp55によるワクチン接種
魚:ワクチン接種時に体重約25gの西洋スズキ(Dicentrachus labrax)幼魚を、再還流系によってバイオフィルターから供給されたUV及び、必要であれば、オゾンで滅菌した海水(30‰)で26±1℃に維持する。
【0072】
ワクチン:p55封入体−pETp55プラスミドで形質転換したBL21 E.コリ種(実施例2参照)をカナマイシン50μg/mlを補給したLuriaブロス(LB)で振盪しながら(120rpm)一晩増殖させる。次に、この培養液を使用して、カナマイシン50mg/mlを補給した新鮮なLBに接種し(1:100)、振盪しながら37℃で2時間増殖させる。IPTGを最終濃度0.1mMまで添加することによって細胞を誘発し、前述のように3時間増殖を継続する。IPTG誘発細胞は、遠心(15分、5000rpm)によってペレットにして、緩衝液A(10mM NaPO pH7.2、NaCl 0.2M、EDTA 1mM、1:1000PMSF 50mg/ml、1:10000ベータ−メルカプトエタノール)10mlに再懸濁して、氷上で25秒間3回(1分間隔)超音波処理する。エッペンドルフ管(1ml/管)に移し、遠心(15分、13000g)した後、上清を廃棄し、各管に緩衝液A1mlを添加する。次に、該ペレットを氷上で10秒間4回(1分間隔)で超音波処理し、遠心後(15分間、13000g)上清を廃棄する。該ペレットに緩衝液B(=緩衝液A+1%トリトンX−100)1mlを添加することによって再懸濁し、氷上で10秒間4回(1分間隔)超音波処理する。前述のように遠心し、上清を廃棄した後、氷上で10秒間4回(1分間隔)超音波処理することによってペレットを緩衝液A1mlに再懸濁する。遠心によって、封入体を収集し、前述のようにPBSに再懸濁して(p55の最終濃度1mg/ml)、フロイント不完全アジュバントで1:1に乳化する。
【0073】
p55濃縮ECP−指数増殖期中期のフォトバクテリウム・ダムセラ亜種ピシシダの55kDa蛋白質濃縮(>85%)細胞外生成物(ECP)は、実施例1で説明したように調製する。免疫する前に、該ECPは、蛋白質2μg/μlに希釈して、ホルムアルデヒド0.5%(v/v)(37%ホルマリン溶液、Sigma)を4℃で25時間添加することによって不活性化する。残存するホルマリンは、チオ硫酸ナトリウム2M溶液0.04%(v/v)を添加することによって中和する。次に、55kDa濃縮ECPをフロイント不完全アジュバントで1:1に乳化する。
【0074】
ワクチン接種:1群54匹の魚に、魚1匹当たり封入体ワクチン50μlをi.p.注射によって投与する。1群43匹の魚に、魚1匹当たり55kDa濃縮ECPワクチン50μlを同様の方法で接種する。魚42匹の対照群(アジュバント対照)に、フロイント不完全アジュバントで1:1に乳化したPBSを魚1匹当たり50μlでi.p.注射によって投与し、魚26匹の他の群(非注射対照)は処置しないままにする。各試験群の魚を独立した槽で維持する。
【0075】
攻撃:魚1匹当たりの攻撃用量が50μl中5.2x10CFUであること以外は、実施例3で説明したものと同様の種及び方法を使用して攻撃接種原を調製する。攻撃は、ワクチン接種後650°Dで実施する。死亡を確認するため、TSA−1で培養することによって、該病原体を頭腎及び/又は死んだ魚から再単離する。
【0076】
攻撃後2日目に最初の死亡が確認され、一方最後の死亡は8日目に確認された。続けて8日間はさらに死亡することはなかったので、試験は曝露の15日後に終了した。
【0077】
結果
(表2に示した)結果は、p55封入体ワクチン及び不活性化p55濃縮ECPワクチンの両方がフォトバクテリウム・ダムセラによる実験的感染から魚を防御するのに有効であることを示している。同程度の防御が実現するという事実から、p55が防御抗原であって、その他の混入フォトバクテリウム・ダムセラ又はE.コリ蛋白質は防御抗原ではないことが示唆される。
【0078】
【表2】

【実施例5】
【0079】
日本フォトバクテリウム・ダムセラ種に対して防御を示すための封入体型p55によるワクチン接種
魚:ワクチン接種時に体重約7〜10gの西洋スズキ(Dicentrachus labrax)幼魚を、再還流系においてバイオフィルターから供給されたUV及び、必要であれば、オゾンで滅菌した海水(30‰)で、22±1℃に維持する。
【0080】
ワクチン:p55封入体−pETp55プラスミドで形質転換したBL21 E.コリ種(実施例2参照)をカナマイシン50μg/mlを補給したLuriaブロス(LB)で振盪しながら(120rpm)一晩増殖させる。次に、この培養物を使用して、カナマイシン50mg/mlを補給した新鮮なLBに接種し(1:100)、振盪しながら37℃で2時間増殖させる。IPTGを最終濃度0.1mMまで添加することによって細胞を誘発し、前述のように3時間増殖を継続する。IPTG誘発細胞は、遠心(15分、5000rpm、SORVALローターGS−3)によってペレットにして、培地1リットル当たり緩衝液A(10mM NaPO pH7.2、NaCl 0.2M、EDTA 1mM、1:1000 PMSF 50mg/ml、1:10000ベータ−メルカプトエタノール)20mlに再懸濁して、SORVAL SS−34管(10ml/管)に移して、氷上で30秒間3回(1分間隔)超音波処理する。遠心後(15分、13000g)、該上清を廃棄し、各管に緩衝液A10mlを添加する。次に、該ペレットを氷上で30秒間4回(1分間隔)で超音波処理し、遠心後(15分間、13000g)上清を廃棄する。該ペレットに緩衝液B(=緩衝液A+1%トリトンX−100)10mlを添加することによって再懸濁して、氷上で30秒4回(1分間隔)超音波処理する。前述のように遠心し、上清を廃棄した後、ペレットを氷上で30秒間4回(1分間隔)超音波処理することによって緩衝液A1mlに再懸濁する。遠心によって、封入体を収集し、前述のようにPBSに再懸濁して、使用するまで−20℃で保存する。
【0081】
封入体のp55含量は、ウシ血清アルブミン(BSA)標準物を使用してSDS−Pageゲルを濃度測定分析することによって決定する。組換えp55蛋白質約25マイクログラム/用量の最終濃度になるように、p55封入体は必要な濃度までPBSで希釈して、フロイント不完全アジュバントで1:1に乳化する。
【0082】
ワクチン接種:ワクチン接種群及び対照として使用した1群(70匹)について、2連(それぞれ63匹及び65匹)で2種類の処理を行う。ワクチン接種する魚それぞれに、封入体ワクチン100μlをi.p.注射によって投与する。対照の魚それぞれに、フロイント不完全アジュバントで1:1に乳化したPBSを魚1匹当たり100μlでi.p.注射によって投与する。各試験群の魚を独立した槽で維持する。
【0083】
攻撃:攻撃用接種物は、実施例3で説明したように調製するが、使用したフォトバクテリウム・ダムセラは日本種PP3で、攻撃用量は魚1匹当たり100μl中5.0x10CFUである。死亡を確認するため、TSA−1で培養することによって、該病原体を頭腎及び/又は死んだ魚から再単離する。
【0084】
攻撃後3日目に最初の死亡が認められ、一方最後の死亡は7日目(ワクチン接種群)及び11日目(対照群)に認められた。続けて19日間はさらに死亡することはなかったので、試験は攻撃の30日後に終了した。
【0085】
結果
(表2に示した)結果から、p55封入体ワクチンはフォトバクテリウム・ダムセラの日本種PP3による実験的感染から魚を防御するのに有効であることが示された。
【0086】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アポトーシス誘発特性を有するフォトバクテリウム・ダムセラ(Photobacterium damselae)亜種ピシシダ(piscicida)の、単離又は精製された55kDa細胞外蛋白質又はその免疫原性誘導体。
【請求項2】
配列番号2を含む単離アミノ酸配列又はその免疫原性誘導体。
【請求項3】
配列番号1、又は実質的に相同な配列、又はその断片、又は厳密な条件下でそれにハイブリダイズする配列を含む単離核酸配列。
【請求項4】
配列番号2の免疫原性誘導体をコードする、請求項3に記載の単離核酸配列。
【請求項5】
請求項2に記載のアミノ酸配列誘導体及び薬剤として許容される担体を含むワクチン。
【請求項6】
前記誘導体が配列番号2の免疫原性断片である、請求項5に記載のワクチン。
【請求項7】
前記誘導体が組換え発現蛋白質である、請求項5又は6に記載のワクチン。
【請求項8】
請求項2に記載のアミノ酸配列又は誘導体の、薬剤としての使用。
【請求項9】
魚類のパスツレラ症を予防又は治療するための薬剤の製造における、請求項2に記載のアミノ酸配列誘導体の使用。
【請求項10】
請求項2に記載の単離アミノ酸配列に対して生じた抗体。
【請求項11】
前記核酸配列が作動可能に転写制御配列に結合している、請求項3に記載の核酸配列を含むDNA発現ベクター。
【請求項12】
請求項11に記載のDNA発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項13】
請求項11に記載のDNA発現ベクター及び薬剤として許容される担体を含むワクチン。
【請求項14】
請求項5又は請求項13に記載のワクチンを魚に投与することを含む、パスツレラ症に罹りやすい前記魚のパスツレラ症の予防方法又は治療方法。
【請求項15】
(a)フォトバクテリウム・ダムセラ(Photobacterium damselae)亜種ピシシダ(piscicida)を培養して増殖させる段階と、
(b)細胞から上清を分離する段階と、
(c)場合によって該上清を濃縮する段階と、及び
(d)不活性化剤で該上清を不活性化する段階と、
を含む、パスツレラ症に対するワクチンの調製方法。
【請求項16】
段階(a)において、前記細胞を指数増殖期中期まで増殖させ、その時点で段階(b)を実施する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記不活性化剤がホルムアルデヒドである、請求項15又は請求項16に記載の方法。
【請求項18】
不活性化細胞培養上清又はフォトバクテリウム・ダムセラ(Ph.damselae)亜種ピシシダ(piscicida)のp55に富んだ細胞外蛋白質調製物を含むワクチン組成物。
【請求項19】
前記不活性化細胞培養上清又は細胞外蛋白質調製物がワクチン組成物の単一の免疫原性成分である、請求項18に記載のワクチン組成物。
【請求項20】
鉄を補給せず、鉄キレート剤も入れずに前記細胞が培養された、請求項18又は請求項19に記載のワクチン組成物。
【請求項21】
15μm未満の鉄を含有する培地で前記細胞が培養された、請求項20に記載のワクチン組成物。
【請求項22】
指数増殖期中期まで増殖させた細胞培養物から、前記細胞培養上清が調製される、請求項18から21までのいずれかに記載のワクチン組成物。
【請求項23】
請求項15に記載の方法によって得ることができる、請求項18に記載のワクチン組成物。
【請求項24】
魚のフォトバクテリウム・ダムセラ(Photobacterium damselae)亜種ピシシダ(piscicida)による感染又は魚のパスツレラ病を診断するための試験薬の製造における、請求項2に記載の単離アミノ酸配列又は請求項3に記載の単離核酸配列又は請求項10に記載の抗体の使用。
【請求項25】
基質に固定された、請求項2に記載の単離アミノ酸配列又は請求項3に記載の単離核酸配列又は請求項10に記載の抗体を含む診断試験キット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−239780(P2011−239780A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−106096(P2011−106096)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【分割の表示】特願2006−521519(P2006−521519)の分割
【原出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】