説明

フォトマスク及び回路基板の製造方法

【課題】高解像度化が求められているプリント配線板等の回路基板の製造に適したフォトマスクを提供すること、及び、生分解性など分解性とすることが可能で、また、アルカリ処理により廃棄が可能な環境負荷が小さいフォトマスクを提供すること。
【解決手段】式−(O・CH・CO)−で表わされるグリコール酸繰り返し単位を70モル%以上有するポリグリコール酸を含有するフィルムを少なくとも1層備えるフォトマスク、ポリグリコール酸を含有するフィルム及び他の熱可塑性樹脂を含有するフィルムとの積層フィルムを備えるフォトマスク、並びに、これらフォトマスクを使用する回路基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体や液晶ディスプレイまたはプリント配線基板などの回路基板の製造や金属箔のエッチング加工などの際に用いられるフォトマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体や液晶ディスプレイまたはプリント配線基板などの回路基板の製造や金属箔のエッチング加工においては、マスクのパターンを光学的に転写するフォトリソグラフィーが広く用いられている。この技術には、感光性樹脂を用いたフォトレジスト法が用いられている。
【0003】
例えば、回路基板の製造においては、銅箔等の金属層を備える基材に感光性の樹脂組成物を積層してフォトレジスト層とし、光学的に透明な基材の表面に回路パターン等の露光用パターンが形成されたフォトマスク(ネガフィルム)を該フォトレジスト層に密着させて、紫外線等の活性光線を照射し、フォトマスクを透過させて露光を行う。次いで、フォトマスクを剥離した後、溶剤(現像液)を噴霧などで適用して、未露光部分に対応する未硬化のレジストを除去することでレジスト画像を形成(現像)する。その後、塩化第二銅水溶液などを用いてエッチングを行って、活性光線照射時に未硬化のレジストの下にあった銅箔等の金属層を除去する。続いて、硬化したレジストを溶剤により除去し、必要に応じてめっき処理を行って、銅箔等の金属による所定パターンの回路を形成する方法が一般的に行われている。
【0004】
特に、近年、環境問題などの面から、未硬化のレジストを除去する現像液として弱アルカリ水溶液を用いるものが多くなってきている。また、硬化レジストを除去するために強アルカリ水溶液が用いられることが多い。
【0005】
レジスト層を所定のパターンに硬化させるために、紫外線等の活性光線は、フォトマスクを透過して照射される。フォトマスクの透明性が低いと、レジスト層が十分に露光されなかったり、光が散乱したりして、解像度が悪化するなどの問題が生ずる。
【0006】
フォトマスクは、光学的に透明な基材上に、ハロゲン化銀乳剤層を設け、HeCdレーザー、アルゴンレーザーなどの照射により所定のパターンに露光して描画した後、現像、定着処理を行って作製する(特許文献1参照)。
【0007】
光学的に透明な基材としては、従来、厚み1.6〜5.0mm程度のソーダライムガラスや石英ガラスなどのガラスが用いられてきた。ガラス基材は、フラット性が高く、温度湿度等の変化による寸法変化が少ないが、重く、割れやすいため、作業性の低下や保管場所の確保などの問題があった。
【0008】
そこで、フォトマスクとしては、割れにくく取扱い性に優れ、透明性が高い樹脂フィルムを基材とするフィルムマスクが使用されるようになってきた。フィルムマスクの基材としては、紫外線等の活性光線の透過性に優れ、透明性が高く、ヘイズ値が低いポリエステルフィルム、特に、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」という。)が使用され、中でも、機械的特性も優れていることから、2軸延伸ポリエステルフィルム、特に、2軸延伸PETフィルムが用いられている。
【0009】
近年、プリント配線板の回路の微細化、液晶ディスプレイ配線への応用展開、さらには半導体の直接実装等により、ますます高解像度化が求められているので、フォトマスクの基材フィルムには、いっそうの透明性や透過性の向上、特に短波長領域での活性光線の透過性の向上が要求され、また、温度湿度等の変化に対する寸法安定性が求められている(特許文献2参照)。
【0010】
フォトマスクの基材として、ポリエステルフィルム、なかでも2軸延伸ポリエステルフィルムを用いて、さらに透明性や透過性を高めようとすると、該基材フィルムのすべり性が悪化するために、フィルムにキズが入りやすくなったり、フィルムの巻き取り性や走行性が低下して、フィルムに皺が発生したりするという問題があった。この問題を解決するために、ポリエステルフィルム中に無機または有機の粒子を含有させたり、さらに、積層ポリエステルフィルムとしたりする方法が提案されている。また、ポリエステル重縮合金属触媒残渣を減少させることで、波長365nmでの光線透過率を80%以上とする方法も提案されている。しかし、これらの方法でも、まだ十分満足できる段階には至っていない。
【0011】
また、フォトマスクは、フォトレジストと密着して使用されることから感光性樹脂が付着する場合もあり、使用を繰り返していると表面が損傷する場合もあるので、定期的に交換される。フォトマスクは高価であるため、汚染や損傷を防止することにより、交換頻度を下げることが求められている。また、廃棄処理の容易性も求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−343734号公報
【特許文献2】特開2002−72451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、いっそうの高解像度化が求められているプリント配線板等の回路基板の製造などに適したフォトマスクを提供することにあり、さらに、生分解性など分解性とすることが可能で、また、アルカリ処理により廃棄が可能な環境負荷が小さいフォトマスクを提供することにある。
【0014】
また、本発明の課題は、前記のフォトマスクを使用して、いっそうの高解像度化を実現できる回路基板の効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、基材として、式−(O・CH・CO)−で表わされるグリコール酸繰り返し単位を70モル%以上有するポリグリコール酸(以下、「PGA」ということがある。)を含有するフィルムを少なくとも1層備えるフォトマスクとすることによって、課題を解決できることを見いだし、本発明を想到した。
【0016】
すなわち、本発明によれば、式−(O・CH・CO)−で表わされるグリコール酸繰り返し単位を70モル%以上有するPGAを含有するフィルムを少なくとも1層備えることを特徴とするフォトマスクが提供される。
【0017】
また、本発明によれば、実施の態様として、以下(1)〜(5)のフォトマスクが提供される。
【0018】
(1)前記PGAを含有するフィルムが、さらに、ポリ乳酸を含有するフィルムである前記のフォトマスク。
【0019】
(2)前記PGAを含有するフィルムと、他の熱可塑性樹脂を含有するフィルムとの積層フィルムを備える前記のフォトマスク。
【0020】
(3)前記他の熱可塑性樹脂を含有するフィルムが、ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート、及び環状オレフィン重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有するフィルムである前記のフォトマスク。
【0021】
(4)露光用パターンが、前記PGAを含有するフィルムの面に形成されている前記の積層フィルムを備えるフォトマスク。
【0022】
(5)露光用パターンが、前記他の熱可塑性樹脂を含有するフィルムの面に形成されている前記の積層フィルムを備えるフォトマスク。
【0023】
さらに、本発明によれば、前記のフォトマスクを使用する回路基板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、いっそうの高解像度化が求められているプリント配線板等の回路基板の製造などに適したフォトマスクが提供されるという効果が奏される。また、本発明によれば、前記のフォトマスクを使用することにより、いっそうの高解像度化を実現した回路基板の製造方法が提供されるという効果が奏され、特に、従来より短波長の活性光線を照射して回路パターンを形成することができるので、より微細な回路パターンの形成が可能となるという効果が奏される。また、本発明によれば、生分解など分解可能なフォトマスクを得ることができるので、環境負荷を小さくできるという効果が奏される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.ポリグリコール酸
本発明のフォトマスクは、式−(O・CH・CO)−で表わされるグリコール酸繰り返し単位を70モル%以上有するPGAを含有するフィルムを少なくとも1層備えるものである。
【0026】
該フィルムに含まれるPGAの、式−(O・CH・CO)−で表わされる繰り返し単位の含有割合は、PGAの全モノマー単位を100モル%とした場合に、70モル%以上が必要であり、好ましくは85モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは99モル%以上であり、その上限は、100モル%である。したがって、PGAは、式−(O・CH・CO)−で表わされるグリコール酸繰り返し単位のみからなるグリコール酸のホモポリマー(グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリドの開環重合物を含む)に加えて、上記グリコール酸繰り返し単位を70モル%以上含むPGA共重合体を含むものである。
【0027】
該フィルムに含まれるPGAの式−(O・CH・CO)−で表わされる繰り返し単位の含有割合が70モル%よりも少ないと、優れた透明性が得られず、生分解性も低下する。該繰り返し単位の含有割合が70モル%以上であれば、その他の成分として少量の共重合成分を導入することにより、PGAの結晶性を制御して、押出温度の低下や延伸性の向上が可能となる。また、PGAに少量の共重合成分を導入することは、フォトマスクの基材が、該PGAを含むフィルムと他の熱可塑性樹脂を含むフィルムを備える積層フィルムであるフォトマスクを形成する際、積層界面の接着性を向上させ、また共押出の押出温度を調整できる点でも好ましい。
【0028】
上記グリコリド等のグリコール酸モノマーとともに、PGA共重合体を与えるコモノマーとしては、例えば、シュウ酸エチレン(即ち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド類、ラクトン類、カーボネート類、エーテル類、エーテルエステル類、アミド類などの環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類と、こはく酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類またはそのアルキルエステル類との実質的に等モルの混合物;またはこれらの2種以上を挙げることができる。これらの中でも、共重合させやすく、かつ物性に優れた共重合体が得られやすい点で、ラクチド、カプロラクトン、トリメチレンカーボネートなどの環状化合物;乳酸などのヒドロキシカルボン酸などが好ましく用いられる。これらコモノマーは、その重合体を、上記グリコリド等のグリコール酸モノマーとともに、PGA共重合体を与えるための出発原料として用いることもできる。
【0029】
PGAは、グリコール酸の脱水重縮合、グリコール酸アルキルエステルの脱アルコール重縮合、グリコリドの開環重合などにより合成することができる。これらの中でも、グリコリドを少量の触媒(例えば、有機カルボン酸錫、ハロゲン化錫、ハロゲン化アンチモン等のカチオン触媒)の存在下に、約120℃から約250℃の温度に加熱して、開環重合する方法によってPGAを合成する方法が好ましい。
【0030】
すなわち、本発明のフォトマスクが備えるフィルムに含有されるPGAとしては、所望の高分子量ポリマーを効率的に製造するために、グリコリド70〜100質量%及び他の環状モノマー30〜0質量%を開環重合して得られるPGAが好ましい。他のコモノマーとしては、2分子間の環状モノマーであってもよいし、環状モノマーでなく両者の混合物であってもよいが、本発明のフォトマスクとするためには、環状モノマーが好ましい。
【0031】
以下、グリコリド70〜100質量%及び他の環状モノマー30〜0質量%を開環重合して得られるPGAについて詳述する。
【0032】
〔グリコリド〕
開環重合によってPGAを形成するグリコリドは、ヒドロキシカルボン酸の1種であるグリコール酸の2分子間環状エステルである。グリコリドの製造方法は、特に限定されないが、一般的には、グリコール酸オリゴマーを熱解重合することにより得ることができる。グリコール酸オリゴマーの解重合法として、例えば、溶融解重合法、固相解重合法、溶液解重合法などを採用することができ、また、クロロ酢酸塩の環状縮合物として得られるグリコリドも用いることができる。なお、所望により、グリコリドとしては、グリコリド量の20質量%を限度として、グリコール酸を含有するものを使用することができる。
【0033】
本発明のフォトマスクの基材フィルムに含有されるPGAは、グリコリドのみを開環重合させて形成してもよいが、他の環状モノマーを共重合成分として同時に開環重合させて共重合体を形成してもよい。共重合体を形成する場合には、グリコリドの割合は、70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは98質量%以上、最も好ましくは99質量%以上である実質的にPGAホモポリマーである。
【0034】
〔環状モノマー〕
グリコリドとの共重合成分として使用することができる他の環状モノマーとしては、ラクチドなど他のヒドロキシカルボン酸の2分子間環状エステルの外、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等)、トリメチレンカーボネート、1,3−ジオキサンなどの環状モノマーを使用することができる。好ましい他の環状モノマーは、他のヒドロキシカルボン酸の2分子間環状エステルであり、ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、L−乳酸、D−乳酸、α−ヒドロキシ酪酸、α−ヒドロキシイソ酪酸、α−ヒドロキシ吉草酸、α−ヒドロキシカプロン酸、α−ヒドロキシイソカプロン酸、α−ヒドロキシヘプタン酸、α−ヒドロキシオクタン酸、α−ヒドロキシデカン酸、α−ヒドロキシミリスチン酸、α−ヒドロキシステアリン酸、及びこれらのアルキル置換体などを挙げることができる。特に好ましい他の環状モノマーは、乳酸の2分子間環状エステルであるラクチドであり、L体、D体、ラセミ体、これらの混合物のいずれであってもよい。
【0035】
他の環状モノマーは、30質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下、最も好ましくは1質量%以下の割合で用いられる。グリコリドと他の環状モノマーとを開環共重合することにより、PGA(共重合体)の融点を低下させて成形温度を下げたり、結晶化速度を制御して押出加工性や延伸加工性を改善することができる。しかし、これらの環状モノマーの使用割合が大きすぎると、形成されるPGA(共重合体)の結晶性が損なわれて、耐熱性や機械的強度などが低下することがある。なお、PGAが、グリコリド100質量%から形成される場合は、他の環状モノマーは0質量%であり、このPGAも本発明の範囲に含まれる。
【0036】
〔開環重合反応〕
グリコリドの開環重合または開環共重合(以下、総称して、「開環(共)重合」ということがある。)は、好ましくは、少量の触媒の存在下に行われる。触媒は、特に限定されないが、例えば、ハロゲン化錫(例えば、二塩化錫、四塩化錫など)や有機カルボン酸錫(例えば、2−エチルヘキサン酸錫などのオクタン酸錫)などの錫系化合物;アルコキシチタネートなどのチタン系化合物;アルコキシアルミニウムなどのアルミニウム系化合物;ジルコニウムアセチルアセトンなどのジルコニウム系化合物;ハロゲン化アンチモン、酸化アンチモンなどのアンチモン系化合物;などがある。触媒の使用量は、環状エステルに対して、質量比で、好ましくは1〜1,000ppm、より好ましくは3〜300ppm程度である。
【0037】
グリコリドには通常、微量の水分と、グリコール酸及び直鎖状のグリコール酸オリゴマーからなるヒドロキシカルボン酸化合物とが不純物として含まれている。これら不純物の全プロトン濃度を、好ましくは0.01〜0.5モル%、より好ましくは0.02〜0.4モル%、特に好ましくは0.03〜0.35モル%に調整することにより、生成するPGAの溶融粘度や分子量等の物性を制御することができる。全プロトン濃度の調整は、精製したグリコリドに水を添加することによっても実施することができる。
【0038】
グリコリドの開環(共)重合は、塊状重合でも、溶液重合でもよいが、多くの場合、塊状重合が採用される。分子量調節のために、ラウリルアルコールなどの高級アルコールや水などを分子量調節剤として使用することができる。また、物性改良のために、グリセリンなどの多価アルコールを添加してもよい。塊状重合の重合装置としては、押出機型、パドル翼を持った縦型、ヘリカルリボン翼を持った縦型、押出機型やニーダー型の横型、アンプル型、板状型、管状型など様々な装置の中から、適宜選択することができる。また、溶液重合には、各種反応槽を用いることができる。
【0039】
重合温度は、実質的な重合開始温度である120℃から300℃までの範囲内で目的に応じて適宜設定することができる。重合温度は、好ましくは130〜270℃、より好ましくは140〜260℃、特に好ましくは150〜250℃である。重合温度が低すぎると、生成したPGAの分子量分布が広くなりやすい。重合温度が高すぎると、生成したPGAが熱分解を受けやすくなる。重合時間は、3分間〜20時間、好ましくは5分間〜18時間の範囲内である。重合時間が短すぎると重合が充分に進行し難く、所定の重量平均分子量を実現することができない。重合時間が長すぎると生成したPGAが着色しやすくなる。
【0040】
生成したPGAを固体状態とした後、所望により、さらに固相重合を行ってもよい。固相重合とは、PGAの融点(Tm)未満の温度で加熱することにより、固体状態を維持したままで熱処理する操作を意味する。この固相重合により、未反応モノマー、オリゴマーなどの低分子量成分が揮発・除去される。固相重合は、好ましくは1〜100時間、より好ましくは2〜50時間、特に好ましくは3〜30時間で行われる。
【0041】
また、固体状態のPGAを、その融点Tm+38℃以上、好ましくはTm+38℃からTm+100℃までの温度範囲内で溶融混練する工程により熱履歴を与えることによって、結晶性を制御してもよい。
【0042】
〔重量平均分子量(Mw)〕
これらの重合方法によって得られたPGAの重量平均分子量(Mw)は、25,000〜800,000の範囲内であり、好ましくは50,000〜700,000、より好ましくは80,000〜600,000、さらに好ましくは120,000〜500,000、特に好ましくは150,000〜400,000の範囲内にあるものを選択する。
【0043】
〔融点(Tm)〕
本発明のフォトマスクの基材フィルムに含有されるPGAの融点(Tm)は、197〜245℃であり、共重合成分の種類及び含有割合によって調整することができる。好ましくは200〜243℃、より好ましくは、205〜238℃、特に好ましくは210〜235℃である。PGAの単独重合体の融点は、通常220℃程度である。融点が低すぎると、機械的強度が不十分であったり、成形加工を行う場合の温度管理が難しくなったりする。融点が高すぎると、加工性が不足したり、フィルムの柔軟性が不足したりすることがある。また、融点が高すぎると、成形温度が高くなるので、PGAやその他の添加成分の熱分解や酸化が生じることがある。
【0044】
〔結晶化温度(TC)〕
本発明のフォトマスクに含有されるPGAの結晶化温度(TC)は、通例75〜100℃であり、好ましくは80〜97℃、より好ましくは85〜95℃、特に好ましくは88〜93℃である。PGAの結晶化温度(TC)は、試料PGAを、50℃から10℃/分の昇温速度で約250℃まで加熱し、この温度で2分間保持した後、液体窒素により急速(約100℃/分)に冷却して得られた非晶試料を、示差走査熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気中、室温付近から10℃/分の昇温速度で再加熱する過程で検出される結晶化による発熱ピークの温度を意味する。結晶化温度(TC)が高すぎると、本発明のフォトマスクの製造工程において、結晶化が早く始まってしまい、未延伸フィルムが得られず、その後の延伸操作等による機械的強度や表面性状の制御が行えなくなる。結晶化温度(TC)が低すぎると、粗大なPGAの結晶が形成され、機械的強度が低下することがある。結晶化温度(TC)の調整は、PGAの分子量、重合成分の種類や量を適宜選択することなどにより行うことができる。
【0045】
〔溶融粘度〕
本発明のフォトマスクの基材フィルムに含有されるPGAの溶融粘度は、270℃の温度及び剪断速度122sec−1で測定して、100〜2,000Pa・sであることが好ましく、より好ましくは200〜1,500Pa・s、さらに好ましくは250〜1,000Pa・sである。270℃、122sec−1におけるPGAの溶融粘度が100Pa・sを下回る場合は、PGAの分子量が低く、使用中に分解しやすくなるおそれがある。また、溶融粘度が2,000Pa・sを上回る場合、ポリマー押出工程において、押出機への負荷や濾圧が高くなる問題が生じたり、他の熱可塑性樹脂を含有するフィルムとの共押出による積層が困難になるおそれがある。
【0046】
2.フォトマスクの基材フィルム
本発明のフォトマスクは、式−(O・CH・CO)−で表わされるグリコール酸繰り返し単位を70モル%以上有するPGAを含有するフィルム(以下、単に「PGAを含有するフィルム」ということがある。)を少なくとも1層備えることを特徴とする。
【0047】
したがって、本発明のフォトマスクとしては、該PGAを含有するフィルムのみの単層または複数層からなるフォトマスク保護用フィルムと、該PGAを含有するフィルム及び他の熱可塑性樹脂を含有するフィルムを備える積層フィルムからなるフォトマスク保護用フィルムとのいずれも含まれる。
【0048】
〔他の樹脂及び添加剤〕
該PGAを含有するフィルムには、本発明の目的を阻害しない範囲内において、PGAのほか、他の熱可塑性樹脂を配合することができる。
【0049】
例えば、ポリ乳酸(以下、「PLA」ということがある。)、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリβ−プロピオラクトン、ポリカプロラクトンなどの脂肪族ポリエステル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリグリコール類;変性ポリビニルアルコール;ポリウレタン;ポリL−リジンなどのポリアミド類;など他の熱可塑性樹脂を必要に応じて配合することができる。生分解性などの分解性を調整する観点から、PLAを配合することが好ましい。
【0050】
これらの含有量は、紫外線等の活性光線の透過を阻害せず、光透過性が保たれる範囲内であるので、PGAを含有するフィルムの全成分を100質量%とした際に、30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0051】
また、PGAを含有するフィルムには、必要に応じて、無機フィラー、可塑剤、熱安定剤、光安定剤、防湿剤、防水剤、撥水剤、滑剤、離型剤、カップリング剤、酸素吸収剤などの通常配合される各種添加剤を含有させることができる。
【0052】
これらの含有量は、上述のように本発明の目的を阻害しない範囲内であり、特に、紫外線等の活性光線の透過を阻害せず、光透過性が保たれる範囲内であるので、具体的にはPGAを含有するフィルムの全成分を100質量%とした際に、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。
【0053】
〔積層フィルムであるフォトマスクの基材フィルム〕
本発明のフォトマスクは、前記PGAを含有するフィルム単層を基材とするものであってもよいが、該PGAを含有するフィルムの複数層を基材とするものであってもよい。PGAを含有するフィルムの複数層は、モノマー組成が異なるPGAを含有するフィルムの層を含むものであってもよいし、平均分子量、溶融粘度等を異にするPGAを含有するフィルムの層を含むものであってもよいし、配合する他の樹脂や添加剤が異なるフィルムの層を含むものであってもよい。
【0054】
また、本発明のフォトマスクの基材フィルムは、前記PGAを含有するフィルムと他の熱可塑性樹脂を含有するフィルムとの積層フィルムであってもよい。積層フィルムであるフォトマスクの基材フィルムは、PGAを含有するフィルムがフォトレジスト層と接触するように配置されてもよいし、他の熱可塑性樹脂を含有するフィルムがフォトレジスト層と接触するように配置されてもよい。他の熱可塑性樹脂を含有するフィルムは、積層フィルムが光透過性を保つことができるものであれば制限はなく、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、アクリル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、または、環状オレフィン重合体などを使用することができるが、他の熱可塑性樹脂としては、脂肪族ポリエステルであるPLA、芳香族ポリエステルであるPET、及び環状オレフィン重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0055】
前記の他の熱可塑性樹脂が、PLAである場合は、フォトマスク全体を分解性の高いものとすることができる。PLAとしては、L−乳酸及び/またはD−乳酸を主たる構成成分として重合されたPLAの外、乳酸以外の他のモノマー単位を含む共重合体でもよい。他のモノマー単位としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリテトラメチレングリコール等のグリコール化合物;シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4'−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸;カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オン等のラクトン類;が挙げられる。
【0056】
本発明のフォトマスクの基材フィルムが備えるPLAを含有するフィルムは、PLAを使用して、押出成形、インフレーション成形等によりシート等に成形されたものが用いられる。フィルムは、未延伸でも一軸または二軸延伸してもよいが、透明性及び強度を確保する観点から延伸フィルムであることが好ましい。
【0057】
前記の他の熱可塑性樹脂が、PETである場合は、所要の機械的強度を有するフォトマスクを安価に得ることができる。PETとしては、PETホモポリマーの外に、全ジカルボン酸成分の80モル%以上がテレフタル酸であり、全グリコール成分の80モル%以上がエチレングリコールである共重合体を使用することができる。すなわち、全酸成分の20モル%以下を、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、アンスラセンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、セバチン酸などの脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサン―1,4―ジカルボン酸の如き脂環族カルボン酸;等とすることができる。また、全グリコール成分の20モル%以下を、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール等のグリコール;ハイドロキノン、レゾルシン、2,2―ビス(4―ヒドロキシジフェニル)プロパン等の芳香族ジオール;1,4―ジヒドロキシメチルベンゼン等の芳香環を有する脂肪族ジオール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール(ポリオキシアルキレングリコール);等とすることができる。PGAを含有するフィルムとの接着性、及び透明性の観点から、共重合体が好ましく用いられる。
【0058】
本発明のフォトマスクの基材フィルムが備えるPETを含有するフィルムは、PETを使用して、押出成形、インフレーション成形等によりシート等に成形されたものが用いられる。フィルムは、未延伸でも一軸または二軸延伸してもよいが、透明性及び強度を確保する観点から延伸フィルムであることが好ましい。
【0059】
前記の他の熱可塑性樹脂が、環状オレフィン重合体である場合は、フォトマスクの基材フィルム、及び、該基材フィルムを備えるフォトマスクの寸法安定性及び耐熱性が向上する。環状オレフィン重合体としては、環状オレフィンから導かれる構成単位単独から導かれるポリマー、または、直鎖状若しくは分岐状のα―オレフィンから導かれる構成単位、芳香族ビニル化合物から導かれる構成単位、及び、アルキルアクリレート若しくはアルキルメタクリレートから導かれる構成単位の少なくとも1種の構成単位と環状オレフィンから導かれる構成単位とのコポリマーが挙げられる。各構成単位の結合はブロックであってもランダムであってもよい。
【0060】
環状オレフィンとしては、ビシクロ−2−ヘプテン誘導体(ビシクロヘプト−2−エン誘導体)、トリシクロ−3−デセン誘導体、トリシクロ−3−ウンデセン誘導体、テトラシクロ−3−ドデセン誘導体、ペンタシクロ−4−ペンタデセン誘導体、ペンタシクロペンタデカジエン誘導体、ペンタシクロ−3−ペンタデセン誘導体、ペンタシクロ−3−ヘキサデセン誘導体、ペンタシクロ−4−ヘキサデセン誘導体、ヘキサシクロ−4−ヘプタデセン誘導体、ヘプタシクロ−5−エイコセン誘導体、ヘプタシクロ−4−エイコセン誘導体、ヘプタシクロ−5−ヘンエイコセン誘導体、オクタシクロ−5−ドコセン誘導体、ノナシクロ−5−ペンタコセン誘導体、ノナシクロ−6−ヘキサコセン誘導体、シクロペンタジエン−アセナフチレン付加物、1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン誘導体、1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセン誘導体等のノルボルネン環を有するものがあげられる。具体的には、日本ゼオン株式会社製ゼオノアフィルムやJSR株式会社製のARTONフィルムなどを使用することができる。これら環状オレフィン重合体のフィルムとPGAを含有するフィルムとの積層フィルムをフォトマスクの基材とすることにより、該フォトマスクを使用して200回の露光(1回の露光量50mJ/cm)を行っても、距離450mmの評点に20μmの縮みしか発生させないことができる。
【0061】
また、上記環状オレフィン重合体としては、ガラス転移点(Tg)が50〜220℃、好ましくは80〜170℃、吸水率が0.3%以下、好ましくは0.1%以下であり、光線透過率が85%超(厚み15μm換算)の透明性の高いものが好適である。
【0062】
本発明のフォトマスクの基材フィルムが備える環状オレフィン重合体を含有するフィルムは、環状オレフィン重合体を使用して、押出成形、インフレーション成形等によりシート等に成形されたものが用いられる。フィルムは、未延伸でも一軸または二軸延伸してもよいが、透明性及び強度を確保する観点から延伸フィルムであることが好ましい。
【0063】
他の熱可塑性樹脂を含有するフィルム中の、PLA、PET及び環状オレフィン重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の含有量は、該他の熱可塑性樹脂を含有するフィルムの全成分を100質量%としたときに、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上の範囲である。
【0064】
他の熱可塑性重合体を含有するフィルムには、本発明の目的を阻害しない範囲内において、PGAのほか、無機フィラー、他の熱可塑性樹脂、可塑剤、熱安定剤、光安定剤、防湿剤、防水剤、撥水剤、滑剤、離型剤、カップリング剤、酸素吸収剤、顔料、染料などの通常配合される各種添加剤を配合することができる。
【0065】
これら各種添加剤の含有量は、上述のように本発明の目的を阻害しない範囲内であり、特に、紫外線等の活性光線の透過を阻害せず、光透過性が保たれる範囲内であるので、具体的には他の熱可塑性重合体を含有するフィルムの全成分を100質量%とした際に、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。
【0066】
〔フォトマスクの基材フィルムの厚み〕
本発明のフォトマスクにおける基材フィルムの厚みは、通例10μm〜50mm、好ましくは30μm〜30mm、より好ましくは50μm〜15mm、特に好ましくは80μm〜10mmの範囲である。基材フィルムの厚みが10μm未満ではフォトマスクの強度が低下し取扱いが困難となる。厚みが50mmを超えるとフォトマスクの重量が増大し取扱いが困難となることがある。
【0067】
本発明のフォトマスクにおける基材フィルムが、PGAを含有するフィルムと他の熱可塑性樹脂を含有するフィルムとの積層フィルムである場合は、PGAを含有するフィルムの厚みは、積層フィルム全体の厚みに対して、通例1〜95%、好ましくは5〜90%、より好ましくは10〜85%、特に好ましくは20〜80%、最も好ましくは30〜75%の範囲である。PGAを含有するフィルムの厚みの比率が1%未満であると、フォトマスクの透明性が不足して解像度が低下するおそれがある。PGAを含有するフィルムの厚みの比率が95%を超えると、コストが増加する。
【0068】
〔フォトマスクの基材フィルムの製造〕
本発明のフォトマスクにおける基材フィルムである前記PGAを含有するフィルムは、前記PGAを溶融製膜し、所望により一軸または二軸延伸し、さらに熱処理することによって製膜される。これら各工程の方法、条件はそれ自体公知の方法、条件を採用することができる。例えば、スリット状のダイを備える押出成形機を使用して、PGAを融点Tm〜300℃の温度で溶融混練してシート状に押し出し、結晶化温度(TC)より低い、通例5〜70℃、多くの場合10〜50℃の範囲内の表面温度に保持した冷却ドラムで急冷固化させて未延伸シートを形成し、この未延伸シートを、延伸温度を30〜70℃、好ましくは33〜68℃、より好ましくは35〜65℃の温度で、面積倍率で2〜100倍、好ましくは4〜60倍、より好ましくは6〜30倍で一軸延伸、または逐次若しくは同時二軸延伸を行い、その後、130〜210℃、好ましくは140〜200℃の温度で、緊張下または20%以下の弛緩下で熱処理する。延伸フィルムを製造するには、延伸ロールとテンター延伸機とを組み合わせた方式が採用されており、逐次二軸延伸を行う場合は、延伸ロールを用いて縦方向(MD)に一軸延伸した後、必要に応じて冷却または加熱処理を行った後に、テンター延伸機を用いて横方向(TD)に延伸することが好ましい。
【0069】
積層フィルムであるフォトマスクの基材フィルムを製造する方法としては、それぞれ溶融製膜して得た前記PGAを含有するフィルムと、その他の熱可塑性樹脂を含有するフィルムとを接着剤により接着する方法、共押出や押出ラミネーションにより積層フィルムを製造する方法など、公知の方法によって積層フィルムを製造することができるが、共押出により積層フィルムを得ることが好ましい。接着剤により接着する場合は、一般に使用されるアクリル系接着剤、ゴム系接着剤、ウレタン系接着剤などを使用することができ、接着剤層の厚みは、通例2〜30μm、好ましくは3〜25μm、より好ましくは4〜20μmの範囲内である。延伸処理を行った積層フィルムである基材フィルムを製造する場合は、あらかじめ積層フィルムを得た後に、一軸または二軸延伸処理及び熱処理を行ってもよいし、あらかじめ延伸処理及び熱処理を行ったフィルムを積層してもよい。
【0070】
3.フォトマスク
本発明のフォトマスクは、PGAを含有するフィルムを少なくとも1層備える基材フィルムの表面に、定法に従って露光用パターンが形成されている。露光用パターンの形成は、ハロゲン化銀エマルジョン(乳剤)を基材フィルム上に、乾燥厚みが通例1〜20μm、好ましくは2〜15μm、より好ましくは3〜10μmの範囲となるように塗布し、所要のパターンに沿ってレーザーまたは電子線等を照射して露光し、現像処理を行えばよい。
【0071】
基材フィルムが、PGAを含有するフィルムと他の熱可塑性樹脂を含有するフィルムとの積層フィルムである場合、露光用パターンは、PGAを含有するフィルム、または、他の熱可塑性樹脂を含有するフィルムのいずれに形成してもよい。すなわち、露光用パターンは、前記PGAを含有するフィルムの面に形成されてもよいし、前記他の熱可塑性樹脂を含有するフィルムの面に形成されてもよい。
【0072】
本発明のフォトマスクは、前記した基材フィルム及び露光用パターンに加えて、さらに他の層を備えていてもよい。例えば、露光用パターンの表面、または、基材フィルムの露光用パターンの側と反対側の面に、粘着剤層を介し、または介さずに透明なフィルム等を貼付する。さらに他の層を備えるものとすることにより、露光用パターンまたは基材フィルムの汚染や破損を防止する保護機能を果たすことができる。一方、さらに他の層を備えると、フォトマスクの光線透過率が低下するおそれがあり、その場合、より多くの露光量が必要となるので、露光時間が長くなって生産効率が低下することがある。透明なフィルムとしては、ポリカーボネート、PET等の芳香族ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、環状オレフィン重合体、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂などの未延伸または延伸フィルムが挙げられる。
【0073】
さらに本発明のフォトマスクにおいては、基材フィルムに空気抜き用の貫通孔を設けたり、溝を設けたりすることもできる。
【0074】
4.回路基板の製造方法
本発明のフォトマスクを使用して、プリント配線基板などの回路基板を製造するには、銅張基板、SUSまたは42アロイ等の金属面に、感光性樹脂組成物からなるフォトレジスト層を設けた後、該フォトレジスト層に、本発明のフォトマスクを、露光用パターンが形成された面の反対側の面が対置するように載置して密着させ、紫外線等の活性光線で露光して、フォトレジスト層内の感光性樹脂組成物を所定パターンに硬化させる。露光は、通常、波長193〜400nm程度の紫外線を照射することにより行い、その際の光源としては、ArFエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、キセノン灯、メタルハライドランプ、ケミカルランプ等が用いられる。本発明のフォトマスクが備えるPGAを含有するフィルムの紫外線透過率が短波長領域においても高いので、遠紫外光から近紫外光に当たる前記範囲の波長の活性光線を使用することができる。紫外線照射後は、必要に応じ加熱を行って、硬化の完全を図ることもできる。
【0075】
フォトマスクは、直接フォトレジスト層に接するように載置してもよいし、保護フィルムを貼付したフォトマスクをフォトレジスト層に接するように載置してもよい。保護フィルムとしては、通例、PETフィルム等のポリエステルフィルムが用いられるが、特に限定されるものではない。本発明のフォトマスクが備えるPGAを含有するフィルムは、フォトレジスト層との剥離性に優れているので、通例、保護フィルムを使用しなくても支障がない。
【0076】
露光が終わった後、フォトマスク(ネガフィルム)を除去した後に、フォトレジスト層の未硬化のレジストを除去し、所定のパターンに硬化したレジストを残す現像を行う。現像は、水酸化ナトリウム、炭酸ソーダ、炭酸カリウム等の0.5〜5質量%程度の弱アルカリ水溶液を用いて、レジスト層の未硬化の感光性樹脂組成物を除去し、銅箔等の金属層を露出させる。該アルカリ水溶液中には、表面活性剤、消泡剤、現像を促進させるための少量の有機溶剤等を混入させてもよい。
【0077】
続いてエッチングを行い、露出した銅箔等の金属を除去する。エッチングは、通常、塩化第二銅−塩酸水溶液や塩化第二鉄−塩酸水溶液などの酸性エッチング液を用いて常法に従ってエッチングを行う。アンモニア系のアルカリエッチング液を用いることもできる。
【0078】
次いで、強アルカリ水溶液によって硬化レジストを除去し、銅箔等の金属による所定パターンを形成し、必要に応じてめっき処理を行って、銅箔等の金属による所定パターンの回路を形成し、回路基板を得る。めっき法は、脱脂剤、ソフトエッチング剤などのめっき前処理剤を用いて前処理を行った後、めっき液を用いてめっきを行う。強アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの1〜10質量%程度の濃度のアルカリ水溶液を用いる。
【0079】
本発明のフォトマスクは、印刷配線板の製造、リードフレーム製造のほか、金属の精密加工等にも有用である。
【実施例】
【0080】
以下に実施例を示して本発明をさらに説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0081】
〔参考例〕PGA二軸延伸フィルムの製造
PGAとして、PGAホモポリマーを使用した。このPGAは、融点221℃、結晶化温度(TC)90℃、温度270℃及び剪断速度122sec−1で測定した溶融粘度が600Pa・sであり、熱安定剤として、旭電化株式会社製アデカスタブAX−71(リン酸モノステアリル50モル%とリン酸ジステアリル50モル%)を300ppmの割合で含有する。
【0082】
このPGA原料ぺレツトを、スクリュー径35mmの単軸押出機を用いて、樹脂温度が260〜270℃となるように加熱して溶融した。溶融物を、目開き100μmのフィルターを通して、長さ270mmで間隙1.5mmの直線状リップを有するTダイから押し出し、表面を40℃に保った金属ドラム上にキャストすることにより冷却し、厚み800μmの未延伸シートを作製した。未延伸シートを60℃のシート温度に調整し、延伸ロールを用いて、延伸速度2m/分で、縦方向(MD)に、延伸倍率が2.1倍となるように一軸延伸した。一軸延伸フィルムを、表面温度が33℃となるように、スポットクーラー及び冷却ロールを用いて冷却した後、テンター延伸機に導入して、フィルム温度38℃で、延伸倍率が4.0倍となるように横方向(TD)に延伸し、直ちにテンター延伸機内で該二軸延伸フィルムを乾熱雰囲気下に温度145℃で幅方向に5%の弛緩を与えて熱処理を施し、厚み100μmの逐次二軸延伸フィルムを作製した。
【0083】
(実施例1)
参考例により製造したPGA二軸延伸フィルムに、ハロゲン化銀乳剤を乾燥膜厚6μmとなるように塗布し、所定パターンを形成したオリジナルマスクフィルムを密着してレーザー照射により露光し、現像処理を行って、フォトマスクを作製した。
【0084】
銅張基板に、表1の組成を有する感光性樹脂組成物を乾燥後厚みが50μmとなるように均一に塗布した後、60℃で24時間乾燥を行って、フォトレジスト層を形成した。先に作製したフォトマスクをPGAフィルム面が該フォトレジスト層に接するように載置し、日本電池株式会社製紫外線照射装置を用いて、ランプ位置20cm、出力120W/cmで、波長365nmの紫外線を照射し、フォトレジスト層の感光性樹脂組成物を硬化させた。
【0085】
【表1】

【0086】
フォトマスクのPGAフィルムを、硬化させたフォトレジスト層から剥離する際の剥離強度測定を行った。測定は、オリエンテック社製テンシロンRTC−1210Aを用いて、JIS Z0237に準拠し、試料幅15mm、引張速度300mm/minで、フォトマスクのPGAフィルムを引張側、硬化したフォトレジスト層を固定側として90°剥離試験を行った。結果を表2に示す。なお、剥離したフォトマスクのPGAフィルムには、硬化したフォトレジスト層の付着はまったくみられなかった。
【0087】
(比較例1)
フォトマスクの基材フィルムとして、厚み100μmのPET二軸延伸フィルム(東レ株式会社製、ルミラーT60)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、フォトマスクを製造し、90°剥離試験を行った。結果を表2に示す。なお、剥離したPETフィルムには、硬化したフォトレジスト層が部分的に付着していることがあった(面積比で平均約20%)。
【0088】
【表2】

【0089】
表2から、実施例1のPGAを含有するフィルムの層を備える本発明のフォトマスクは、フォトレジストとの剥離性に優れているので、生産効率が向上するとともに、フォトマスクの汚損が少ないことから、交換頻度を下げることができ、経済性に優れることが分かる。これに対して、従来、汎用されてきたPETフィルムを基材とする比較例1のフォトマスクでは、硬化したレジスト層から、支持フィルムを剥離するために大きな力が必要とされることが分かった。
【0090】
本発明のPGAを含有するフィルムの層を備えるフォトマスクは、硬化したフォトレジスト層との90°剥離強度(gf)15mm幅が、PETフィルムを基材とするフォトマスクと比較して、50%以下、好ましくは40%以下である。
【0091】
〔実験例1〕紫外線透過率試験
参考例で製造したPGAフィルム及び比較例1で使用したPETフィルムについて、島津製作所製の分光光度計UV2450を使用して、波長が異なる紫外線の透過率を波長毎に測定した。結果を表3に示す。
【0092】
【表3】

【0093】
表3から、本発明のフォトマスクが備えるPGAを含有するフィルムは、従来、フォトマスクの基材フィルムとして汎用されてきたPETフィルムと比較して紫外線透過率が高いことが分かった。また、ヘイズ値も低かった。したがって、本発明のフォトマスクは、より正確に回路パターンを反映することができるとともに、より小さな照射エネルギーによりレジスト層を硬化させることができるため省エネルギーであり、回路基板等の製造効率を向上させ、製造コストを低減できることが分かる。
【0094】
また、本発明のフォトマスクが備えるPGAを含有するフィルムは、特に、PETフィルムでは透過しない波長300nm以下の、より短波長領域の紫外線に対する透過率が高いことが分かった。したがって、本発明のフォトマスクを使用すれば、より短波長の紫外線を照射してフォトレジスト層を硬化させることができるので、より詳細な回路パターンを設けることができ、プリント配線板の回路の微細化、液晶ディスプレイ配線への応用展開、さらには半導体の直接実装等などの高解像度化の要求に応えられる。
【0095】
〔実験例2〕アルカリ分解性評価
水酸化ナトリウム濃度2質量%、5質量%、10質量%のアルカリ水溶液を調製し、該アルカリ水溶液100mlを三角フラスコに入れ、ウォーターバスを用いて、マグネチックスターラーで撹拌しながら、50℃または60℃に加熱した。この三角フラスコの中に、参考例で製造したPGAフィルム、及び比較例1で使用したPETフィルムから、それぞれ4cm×4cmに切り出した試料を、それぞれ浸漬した。目視により各試料が完全に消失するまでの時間を、完全分解までの時間として測定した。結果を表4に示す。
【0096】
【表4】

【0097】
表4から、本発明のフォトマスクが備えるPGAを含有するフィルムは、アルカリ水溶液によって短時間で消失することが分かった。PGAは、周知のとおり生分解性を有しているので、PGAを含有するフィルムを備える本発明のフォトマスクは、廃棄処理方法の選択肢が広く、環境負荷が小さいことが分かった。これに対して、従来、フォトマスクにおける基材フィルムとして汎用されてきたPETフィルムは、アルカリ水溶液によっても実質的に除去不可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のフォトマスクによれば、より短波長の活性光線を照射して回路パターンを形成することができるため、より微細な回路パターンの形成が可能となり、また、光透過性が高いため低照射線量で露光を行うことで省エネルギーに寄与し、生分解など分解可能なフォトマスクを得ることができるため環境負荷を小さくできるので、産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式−(O・CH・CO)−で表わされるグリコール酸繰り返し単位を70モル%以上有するポリグリコール酸を含有するフィルムを少なくとも1層備えることを特徴とするフォトマスク。
【請求項2】
前記ポリグリコール酸を含有するフィルムが、さらに、ポリ乳酸を含有するフィルムである請求項1に記載のフォトマスク。
【請求項3】
前記ポリグリコール酸を含有するフィルムと、他の熱可塑性樹脂を含有するフィルムとの積層フィルムを備える請求項1または2に記載のフォトマスク。
【請求項4】
前記他の熱可塑性樹脂を含有するフィルムが、ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート、及び環状オレフィン重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有するフィルムである請求項3に記載のフォトマスク。
【請求項5】
露光用パターンが、前記ポリグリコール酸を含有するフィルムの面に形成されている請求項3または4に記載のフォトマスク。
【請求項6】
露光用パターンが、前記他の熱可塑性樹脂を含有するフィルムの面に形成されている請求項3または4に記載のフォトマスク。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のフォトマスクを使用する回路基板の製造方法。

【公開番号】特開2012−113076(P2012−113076A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260909(P2010−260909)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】