説明

フォトマスク用基板またはフォトマスクブランクを収納する収納ケース

【課題】 フォトマスク用ガラス基板等の表面の品質及び収納ケースの内部に異物が存在するかを容易に検査することができる収納ケースを提供する。
【解決手段】 フォトマスク用基板17を収納する収納ケース11は、蓋12とケース本体13とから主に構成されている。蓋12とケース本体13とは金属材料からなる。蓋12がケース本体13に接合されると、収納ケース11の内部に基板収容室51が形成される。基板収容室51を画成する内面52,53には黒色皮膜が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトリソグラフィに用いられるフォトマスク用基板またはフォトマスクブランクを収納する収納ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
フォトリソグラフィで用いられる露光装置、例えば、半導体露光装置では、ウエハに配線パターンを露光するために、フォトマスクが用いられる。半導体デバイス等の高集積化が進むにつれて、フォトマスクの配線パターンもより一層の微細化が求められている。合成石英ガラスが主に用いられるフォトマスク用基板に、クロムが主に用いられる遮光材料からなる遮光膜を成膜して、フォトマスクブランクに加工する。そして、フォトマスクブランクの上にフォトレジスト材料が塗布される。次いで、露光のための配線パターンがフォトリソグラフィにより形成されて、フォトマスクが製造される。フォトマスク用ブランクを製造するための成膜プロセスとフォトマスクの配線パターンを形成するプロセスとは、フォトマスク用基板の製造現場とは異なる場所で行われる。それゆえに、フォトマスク用基板またはフォトマスクブランクを保管及び運搬する必要が生じる。そのような保管及び運搬には、専用の収納ケースが使用される。このような収納ケースの内部に異物が存在すると、フォトマスク用基板またはフォトマスクブランクの表面に異物が付着して汚染されることが起こり得る。
【0003】
ここで、異物とは、収納ケースの一部と材料とが擦れて生じる微粒子や、収納ケースの外部から侵入する埃のような微粒子などである。これらの異物の大きさは、概ね0.3から50μm程度である。
【0004】
このため、フォトマスク用基板またはフォトマスクブランクを収納した収納ケースを保管している間や収納ケースを搬送している間に、収納ケースの内部に存在する異物がそれらの表面に付着することを防ぐために、フォトマスク用基板またはフォトマスクブランクを収納する前に、フォトマスク用基板またはフォトマスクブランクを供給する供給元は、収納ケースの内部に異物が混入することがないことを検査する。検査後、フォトマスク用基板またはフォトマスクブランクが収納ケースに収容されて、収納ケースごと前述の製造現場等の供給先に搬送される。収納ケースを受け取った供給先は、フォトマスク用基板またはフォトマスクブランクの品質を確認するために、収納ケースからフォトマスク用基板またはフォトマスクブランクを取り出して、その表面に傷がないことを検査する。供給元における検査では、暗室内で、収納ケースの内部を構成する部材に光を照射して、反射される光に基づいて収納ケースの内部に異物がないかを確認する。
【0005】
ところで、フォトマスク用基板またはフォトマスクブランクを保管する収納ケースの内部に化学成分がある場合には、フォトマスク用基板またはフォトマスクブランクは、その化学成分を吸着することがある。このような化学成分の吸着によって、フォトマスク用基板またはフォトマスクブランクの表面が汚染される。このような汚染された表面に、後の工程で形成される遮光膜やレジスト膜には厚みムラが生じる可能性がある。
【0006】
このような化学成分の吸着を防ぐ手段として、下記特許文献1〜4に開示されているように、活性炭等の吸着材を含むフィルターを装着したケースやそのようなフィルターの機構をケースに設けることが提案されている。これらによれば、ケース内外の気圧差を解消し、輸送時に生じる気圧差による外部環境から、ケース内部の基板等が汚染されることを防ぐことが可能である。しかしながら、ケースの材料からアウトガスがケースの内部に発生する。このアウトガスは化学成分であるので、フォトマスク用基板またはフォトマスクブランクは、そのアウトガスを吸着する可能性がある。
【0007】
一方で、特許文献5で開示されているように、収納ケースの材質として金属を使用することが提案されている。この文献では、収納ケースの材質として金属を使用しているので、収納ケースの材料を起因とするアウトガスが生じない。従って、フォトマスク用基板またはフォトマスクブランクにアウトガスによる化学成分が吸着されることが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−153221号公報
【特許文献2】特開2004−179449号公報
【特許文献3】特開2004−193272号公報
【特許文献4】特開2009−055005号公報
【特許文献5】特開2009−179531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来技術に開示されている収納ケースの材質は金属であるため、収納ケースの内部は金属光沢を有する。フォトマスク用基板またはフォトマスクブランクを収納ケースに入れる前の収納ケース内部の異物を検出する作業において、この収納ケースの内部を構成する蓋及びケース本体の内面に光を照射しても、これらの内面の金属光沢により反射される光と異物により散乱される光とを識別することが難しい。このため、収納ケース内に存在する異物を検出することが困難である。ひいては、収納ケース内から異物を完全に取り除くことが難しくなる。
【0010】
本発明は上記の従来技術の問題点を解消し、フォトマスク用ガラス基板またはフォトマスクブランクの表面の品質及び収納ケースの内部に異物が存在するかを容易に検査することができるフォトマスク用ガラス基板またはフォトマスクブランク用の収納ケースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に従えば、金属材料から形成された蓋部材と、金属材料から形成され、前記蓋部材が接合されることにより前記収納ケースの内部に基板収容室が形成されるケース本体とを備え、前記基板収容室を画成する内面に黒色皮膜が形成されているフォトマスク用基板またはフォトマスクブランクを収納する収納ケースが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に従えば、フォトマスク用基板またはフォトマスクブランクを収納する収納ケースは、金属材料から形成された蓋部材と、金属材料から形成され、前記蓋部材が接合されることにより前記収納ケースの内部に基板収容室が形成されるケース本体とを備えており、フォトマスク用基板又はフォトマスクブランクが収納される基板収容室を画成する、ケース本体と蓋部材との内面には、黒色皮膜が形成されているので、これらの内面には金属光沢が生じにくい。収納ケースの内部検査作業において、ケース本体と蓋部材との内面に光が照射されることによって反射される光のうち、金属光沢に起因する光が生じにくくなる。このため、そのような光は異物の散乱によると容易に識別することができる。ひいては、収納ケース内から異物を取り除くことが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態の収納ケースを示す斜視図である。
【図2】図1に示される収納ケースのII−II線断面図である。
【図3】本発明の実施形態の収納ケースを示す側面図である。
【図4】本発明の実施形態の収納ケースが搬送されている状態を示す説明図である。
【図5】本発明の実施例1及び参考例の収納ケースの内面に照射された光の波長と収納ケースの内面による光の反射率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態のフォトマスク用基板またはフォトマスクブランクを収納する収納ケースの構造を図面を参照して説明する。以下の説明では、フォトマスク用基板を収納する場合を説明する。
【0015】
図1に示すように、収納ケース11は、蓋(蓋部材)12とケース本体13とから主に構成されており、蓋12とケース本体13とはそれぞれ金属材料からなる。ケース本体13は長方形の平板形状をしている。ケース本体13の上面14の端部分には、ケース本体13を周回している溝15が形成されている。この溝15に、弾性体であるO−リング16が装着されている。ケース本体13の上面14には、フォトマスク用基板17を支持する複数の支持部材21,22がそれぞれ4個ずつ設けられている。フォトマスク用基板17がこれらの支持部材21,22の上に置かれる。
【0016】
支持部材21は、直方体状のベースであり、フォトマスク用基板17の表面を傷つけないよう、その上面は平坦である。支持部材21は、ケース本体13の上面14の4つの頂点近傍にそれぞれ配置されている。支持部材22は、直方体状のベースではあるが、上面が平坦な平坦部28と、平坦部28から円柱状に突出し、かつ、先端30が屈曲して鍵状の形状を有する鍵部29とからなる。鍵部29は、この鍵部29が設けられている平坦部28を中心として平坦部28と平行な面内で回転方向61,62に回転自在に、平坦部28に取り付けられている。支持部材22は、上面14を形成している4つの側辺の中央に相当する上面14の側端近傍にそれぞれ配置されている。ケース本体13の上面14上で、支持部材21の高さと支持部材22の平坦部28の高さとは略同一である。
【0017】
図1及び図2に示すように、フォトマスク用基板17が支持部材21の上面と支持部材22の平坦部28に設置され、次に、全ての支持部材22の、鍵部29の先端30を回転方向61に回転して、この先端30をフォトマスク用基板17の上方に配置する。このようにして、フォトマスク用基板17が平坦部28と先端30との間に挟まれることによって、フォトマスク用基板17が支持部材22の平坦部28から離れることが規制されて、フォトマスク用基板17の位置が支持部材21の上面と支持部材22との平坦部28に固定される。なお、図2では、説明のため、後述する蓋フレーム24とケースフレーム25等の図示を省略している。
【0018】
支持部材21,22は、アウトガスを極力発生しにくい素材からなる。加えて、O−リング16も、アウトガスを極力発生しにくい素材からなる。具体的には、O−リング16や支持部材21,22は、ポリテトラフルオロエチレンやテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂あるいは、ポリオレフィン系エラストマー(例えば、オレフィン系樹脂(PPやPE等)のマトリクスにオレフィン系ゴム(EPR)を分散させたもの)やポリエステル系エラストマー(例えば、ポリエステルのマトリクスにゴムを分散させたもの)から形成される。一般に、フッ素系樹脂の摩擦係数は小さいので、フォトマスク用基板17の表面に対して摩擦が生じにくい。
【0019】
フォトマスク用基板17は四角板の形状を有しており、330mm×450mm〜1680mm×1720mmの寸法を有している。フォトマスク用基板17の厚みは、例えば、5mm〜17mmである。収納ケース11はこれらのサイズに適した大きさを有する。フォトマスク用基板17は、例えば、石英ガラスから主に構成されており、酸化チタン等の添加物を加えられた石英ガラスも用いることができるが、特に限定されない。支持部材22の鍵部29及び先端30は、このような寸法のフォトマスク用基板17を保持することができるように、支持部材22に形成されている。
【0020】
蓋12は、下面(図1の下側)が開放しており、かつ、内部空間が中空である直方体状をしている。蓋12は、ケース本体13の上面14及びフォトマスク用基板17を覆うように、ケース本体13に取り外し可能に取り付けられる。図2に示すように、蓋12の下端面には蓋12を周回するように突出部23が形成されている。この突出部23がケース本体13の溝15に嵌る。このようにして、蓋12はケース本体13に装着(接合)されて、フォトマスク用基板17が収納される基板収容室51が収納ケース11の内部に形成され、基板収容室51は、蓋12の内面52とケース本体13の内面53により画成されている。
【0021】
図2及び図3に示すように、蓋12及びケース本体13が金属からなるので、基板収容室51からは、フォトマスク用基板17が吸収するようなアウトガスが発生することはない。このため、アウトガスの吸収が原因となる、フォトマスク用基板17に形成される遮光膜やレジスト膜には厚みムラが生じることを防ぐことができる。
【0022】
基板収容室51を画成する蓋12の内面52及びケース本体13の内面53上には、黒色皮膜処理がなされている。このため、内面52,53には金属光沢が生じにくい。これにより、ケース本体13の上面14(内面53)と蓋12の内部空間とに異物があるか否かを確認する検査において、内面52,53に光が照射されても、内面52,53によって反射される光が抑えられるので、反射される光が異物の散乱によるものと特定しやすい。このため、蓋12の内部空間及びケース本体13の上面14に存在する異物を容易に発見して取りだすことができる。
【0023】
蓋12及びケース本体13の金属材料は、ステンレス鋼、酸化アルミニウム、アルミニウム合金のうちの少なくとも1つからなることが好ましい。蓋12及びケース本体13がこれらの材料からなれば、収納ケース11の軽量化を図ることができる。
【0024】
内面52,53上に施される黒色皮膜処理は、ブラックアルマイト処理、黒色クロメート処理のうちの少なくとも1つからなることが好ましい。ブラックアルマイト処理、黒色クロメート処理によれば、ケース内部を検査する時に、ケース内面からの反射を十分抑え、パーティクル等の異物による散乱光がより検出しやすくなる。
【0025】
内面52,53に形成されている黒色皮膜は、波長が380〜780nmである光を照射したときには、その黒色皮膜からの光の反射率が4%以下であること、すなわち、黒色皮膜は380〜780nmの波長の光に対して、4%以下の光の反射率を有することが好ましい。このような特性を有する黒色皮膜であると、ハロゲン光のような広範囲の波長帯を有する光源であっても低い反射率を示すため、ケース内面からの反射をより一層に抑えることが可能となり、異物による散乱光をより検出しやすくする。このような波長の光に対して、黒色皮膜からの光の反射率が4%以下である場合には、作業者は、反射された光を、異物による散乱に起因するものと認識し易くなる。
【0026】
蓋12の上部側面とケース本体13の下部側面とには、蓋フレーム24とケースフレーム25とがそれぞれ取り付けられている。すなわち、蓋フレーム24とケースフレーム25とは蓋12とケース本体13の外周にそれぞれ取り付けられている。蓋12の高さ方向の中間部分には、中間フレーム26が取り付けられている。蓋フレーム24は、直方体状の棒材31,32,33と梁34,35、平板状の補強部材36とが複数組み合わされて、形成されている。複数の棒材31は、蓋12の4つの側面を接触して取り囲むように蓋12の上部側端に配置されて、蓋12の枠を形成している。更には、複数の棒材32が、枠状の棒材31の外側を周回するように配置されている。ケースフレーム25と中間フレーム26とは、蓋フレーム24と概ね同様の構造を有している。
【0027】
蓋フレーム24全体の剛性を強めるために、棒材31の一部が外周の棒材32に連結されている。更には、外周の棒材32と枠状の棒材31とは、複数の棒材33によってそれぞれ接合されている。加えて、対向する2つの棒材31をそれぞれ接合する梁34,35が各棒材31の中心に取り付けられており、更には、梁34,35は外周の棒材32にも延在して、外周の棒材32にも取り付けられている。各棒材31,32,33及び各梁34,35が交差する交差部分には、交差部分の各接合を補強する三角形の平板状の補強部材36が適宜設けられている。蓋12の上面の頂点に対応する蓋フレーム24の各位置に配置されている補強部材36には、蓋フレーム24を蓋12に接合する螺子37が設けられており、この螺子37によって蓋フレーム24が蓋12の側面上部に固定されている。対向する2つの棒材32の一端には車輪38が設けられている。
【0028】
ケースフレーム25は、蓋フレーム24と同様の構造を有しており、蓋フレーム24が蓋12に固定される方法と同様にして、ケースフレーム25は、ケース本体13の下面に固定されている。ケースフレーム25の外周の棒材のうち対向する2つの棒材の一端には、移動用の車輪39が設けられている。
【0029】
中間フレーム26は、梁34,35と補強部材36と車輪38とが設けられていない以外は、蓋フレーム24と概ね同様の構造を有している。中間フレーム26は、図示しない螺子等で、蓋12の高さ方向の中間部分に取り付けられている。
【0030】
図1及び図3に示すように、蓋フレーム24の外周の棒材32の4つの頂点部分41には、貫通穴42が設けられている。蓋フレーム24の4つの頂点部分41に相当する、ケースフレーム25と中間フレーム26との頂点部分にも貫通穴43,44が設けられている。蓋12をケース本体13に取り付けた後には、これらの貫通穴42,43,44を貫通するように、4つの円柱状の固定部材45が取り付けられる。この固定部材45によって、蓋フレーム24とケースフレーム25と中間フレーム26との各々の相対的な位置が決められる。
【0031】
図3に示すように、複数のクランプ46は、蓋フレーム24の上面とケースフレーム25の下面とに接触しつつ、蓋フレーム24とケースフレーム25との、収納ケース11の反対側へ突き出している4つの固定部材45の各突出部分に取り付けられる。蓋フレーム24の上面とケースフレーム25の下面とに接触しているクランプ46の上下部分が、蓋フレーム24とケースフレーム25とが互いに近づく接近方向63,64に向かうように、各クランプ46が付勢する。これにより、蓋フレーム24とケースフレーム25とに力が接近方向63,64へ加えられて、蓋12の突出部23がケース本体13の溝15に更に嵌りこみ、O−リング16が、突出部23と溝15とに密着する。このようにして、収納ケース11のフォトマスク用基板17を収容する基板収容室51が密閉される。
【0032】
蓋フレーム24、ケースフレーム25、中間フレーム26、固定部材45、クランプ46は、それらの剛性を保つために金属材料から構成されている。金属材料としては、具体的には、ステンレス鋼、酸化アルミニウム、アルミニウム合金が挙げられるが、これらに限られない。フレームの剛性が保たれるのであれば、有機材料からこれらを構成してもよい。蓋12及びケース本体13の外周に設けられている蓋フレーム24、ケースフレーム25、中間フレーム26によって、収納ケース11全体の剛性が増す。
【0033】
以下に、フォトマスク用基板を収納して、収納ケースの内部を検査し、収納ケースを搬送する場合における、本発明の収納ケースの作用を図面を参照して説明する。
【0034】
図1に示すように、フォトマスク用基板17を収納ケース11に収容しようとする作業者は、クリーンルーム内の暗室で、ケース本体13の内面53に光を照射して、ケース本体13の上面14に異物が存在していないことを確認する(図2参照)。内面53上には黒色皮膜処理がなされているので、光の散乱は、異物によるものと考えることができる。次いで、作業者は、支持部材21の上面と支持部材22の平坦部28とにフォトマスク用基板17を設置し、鍵部29の先端30を、回転方向61に回転させる。こうして、4つの支持部材22において、先端30と平坦部28との間にフォトマスク用基板17が挟まれて、フォトマスク用基板17が、支持部材21の上面と支持部材22との平坦部28とに固定される。
【0035】
次に、作業者は、クリーンルーム内の暗室で、蓋12の内面52に光を照射して、蓋12の内部に異物が存在していないことを確認する(図2参照)。内面52は黒色皮膜処理されているので、光の反射は、異物の散乱によるものと考えることができる。蓋12の内部に異物がないことが確認されたら、蓋12の突出部23をケース本体13の溝15に嵌るようにして、ケース本体13に蓋12を装着して、基板収容室51を形成する。
【0036】
次いで、図1及び図3に示すように、作業者は、蓋フレーム24とケースフレーム25と中間フレーム26の貫通穴42,43,44を貫通するように、4つの円柱状の固定部材45を取り付ける。そして、図3に示すように、蓋フレーム24の上面とケースフレーム25の下面とに接触させつつ、蓋フレーム24とケースフレーム25との、収納ケース11の反対側へ突き出している各固定部材45の突出部分にクランプ46を取り付ける。クランプ46の付勢によって、蓋12とケース本体13とは、互いに接近する接近方向63,64に力が加えられて、収納ケース11のフォトマスク用基板17を収容する基板収容室51が密閉される。それから、図4に示すように、車輪38,39(図1参照)が取り付けられている部分を下向きとして、収納ケース11全体を縦向きにする。そして、平板状のフォトマスク用基板17が、いわゆる立てられた状態で収納ケース11は供給先に向けて搬送される。
【0037】
収納ケース11を受け取った供給先は、まず、クリーンルームの暗室内で、クランプ46を固定部材45から取り除く。次に貫通穴42,43,44からこの固定部材45を取り除く。そして、ケース本体13から蓋12を取り外す。次いで、支持部材22の鍵部29の先端30を回転方向62に回転して、フォトマスク用基板17を取り出す。取り出されたフォトマスク用基板17の表面上に異物が付着していなかったかを検査する。
【0038】
上記の実施態様では、蓋12の内面52及びケース本体13の内面53上に黒色皮膜処理が施されているが、本願発明は、これに限られず、基板収容室51へアウトガスが発生することなくかつ金属光沢を抑えることができるのであれば、内面52,53には、例えば、有機材料からなる黒色塗膜を形成してもよい。支持部材21,22及びO−リングの色は特に制限されないが、黒色にしてもよい。こうすることで異物の発見が一層容易となる。
【0039】
上記の実施態様では、フォトマスク用基板を収納ケースに収納する場合を説明してきたが、フォトマスクブランクも同様に収納することが可能である。
【実施例】
【0040】
[実施例1]
短辺が850mm、長辺が1200mm、厚みが10mmのサイズを有する合成石英ガラスからなるフォトマスク用基板を研磨し、洗浄し、それから、外観検査を行った。次に、このサイズに適した、図1に示した構造を有する収納ケース11を用意した。
【0041】
収納ケース11の蓋12及びケース本体13の材質としてアルミニウムを用いた。蓋12及びケース本体13には、全体的にブラックアルマイト処理を施した。支持部材21,22の材質にはポリテトラフルオロエチレンを用いた。O−リング16の材質にはシリコンゴムを用いた。
【0042】
クリーンルーム内の暗室で、高輝度ハロゲン投光機を用いて、収納ケース11の基板収容室51に面する、蓋12の内面52とケース本体13の内面53とに光を照射して、その散乱光の有無により、基板収容室51を構成する蓋12の内部中とケース本体13の上面14に異物がないことを目視で確認した後、この収納ケース11に、フォトマスク用基板17を収納した。この収納作業もクリーンルーム内で行った。
【0043】
<評価1>
フォトマスク用基板17を収納する前に、収納ケース11の内部に存在する1μm以上の大きさの異物の個数を予め目視で測定した。それから、フォトマスク用基板17を収納ケース11に収納した。次に、収納ケース11の外側を帯電防止フィルムで梱包し、アウターケースに入れて、梱包した収納ケース11を8時間倉庫で一時保管後、4tトラックで一般道を、外気の温度が約0℃の下で12時間走行することで、収納ケース11を振動させた。次いで、クリーンルーム内で収納ケース11からフォトマスク用基板17を取り出し、フォトマスク用基板17の表面上に付着する1μm以上の大きさの異物の個数を目視で測定した。これらの作業を4回繰り返した。
【0044】
収納ケースを運搬して振動する前後で異物の個数の増加数を確認した。4回の試行から、増加した異物の個数は平均して4個であった。
【0045】
<評価2>
上記のように作製した収納ケースの光学特性を調査するために、光の波長を変化させながら光を収納ケースの内面に照射して、その光の反射特性を測定した。収納ケースの内面に照射した光の波長と、収納ケースの内面による光の反射率との関係を図5に示す。図5における横軸は光の波長(nm)を、縦軸は反射率(%)を示す。
【0046】
図5における「実施例1」と付された反射特性より、光の波長領域が300nm以上では、特に380〜780nmにおいて、収納ケースの内面による光の反射率は、概ね4%以下に抑えられていることがわかった。
【0047】
[比較例1]
実施例1と同様に製造したフォトマスク用基板を収納する収納ケースの蓋及びケース本体の材質として、皮膜処理がなされていないポリアクリロニトリルからなる収納ケースを用意した。ケース本体は黒色であり、蓋は赤色を呈しているがいずれもポリアクリルニトリル製であった。上記のような色を有する蓋とケース本体が樹脂製である収納ケースを用いていること、及び、蓋とケース本体には皮膜処理がなされていないこと以外は、実施例1と同様にしてフォトマスク用基板の収納を行った。
【0048】
<評価1>
実施例1と同様にして、比較例1の収納ケースに対して評価1を行った。その結果、増加した異物の個数は平均して4個であり、実施例1と概ね同程度であった。
【0049】
[比較例2]
収納ケースの蓋及びケース本体に表面加工が施されていない無垢のアルミニウムからなる収納ケースを用いたこと以外は実施例1と同様にしてフォトマスク用基板を収納ケースに収納した。
【0050】
<評価1>
実施例1と同様にして、比較例2の収納ケースに対して評価1を行った。その結果、増加した異物の個数は平均して200個であり、実施例1と比べ非常に多かった。
【0051】
[参考例]
比較例1で用いた収納ケースの蓋(赤色)について、実施例1と同様な評価2を行った。光学特性を調査するために、光の波長を変化させながら光を蓋の内面に照射して、その光の反射特性を測定した。この蓋の内面に照射した光の波長と、光の反射率との関係を図5に示す。図5に、「参考例」と付された蓋の内面の反射率特性曲線を示す。光の波長が300〜550nmの範囲において、蓋の内面による光の反射率は、概ね4%前後であり、光の波長が580nmを超えてから、光の反射率は急激に増加して、5%以上であることが分かる。
【0052】
比較例1では、ケース本体の材質が樹脂であるため、高輝度ハロゲン投光機を用いて蓋及びケース本体の内部に光を照射しても、その反射光の有無により、収納前の収納ケース内部に異物がなきことを確認することは容易であったと考えられる。但し、蓋及びケース本体の材質が樹脂であるため、ケースを形成する樹脂からの何らかのアウトガス成分によってフォトマスク用基板が汚染され、濡れ性が悪化し、そのフォトマスク用基板に遮光膜を成膜するとしても、その遮光膜には、成膜ムラが生じる可能性が高い。
【0053】
比較例2では、蓋及びケース本体の材質が、表面が加工されていない無垢のアルミニウムであるため、蓋及びケース本体の内部に光を照射すると、蓋及びケース本体の表面に反射される光と異物によって散乱される光とを識別することが容易ではない。このため、実施例1の収納ケースに比べて、評価における収納前の異物の検出能力が劣ったと考えられる。その結果、ケース内に異物が多数残ってしまったため、搬送中にフォトマスク用基板の表面に付着したことが原因であると考えられる。
【0054】
参考例では、蓋の表面(内面)が赤色であるため、光の波長領域(赤色領域)によっては反射率が高くなっている。
【0055】
実施例1では、黒色皮膜処理が表面に施されている金属からなる蓋及びケース本体から構成される収納ケースは黒色皮膜処理されているので、基板収容室に面する、蓋とケース本体の基板収容室面に光を照射しても、ケースそのものがその光を反射しにくい。このため、検査において、ケース内部に照射することによって反射される光は、異物によって散乱した光であることとなり、基板収容室にある異物の存在を容易に検出できることがわかる。図5から、実施例1では、光の波長領域が300nm以上の場合においては、収納ケースの内面による光の反射率は、概ね4%以下に抑えられており、その波長に関わらず、低い反射率を維持しており、参考例における赤色である蓋の表面に比べて、黒色皮膜処理された内面を有する収納ケースの方が、異物の識別性が高くなることが予測される。
【符号の説明】
【0056】
11 収納ケース
12 蓋
13 ケース本体
17 フォトマスク用基板
51 基板収容室
52,53 内面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトマスク用基板又はフォトマスクブランクを収納する収納ケースであって、
金属材料から形成された蓋部材と、
金属材料から形成され、前記蓋部材が接合されることにより前記収納ケースの内部に基板収容室が形成されるケース本体とを備え、
前記基板収容室を画成する内面に黒色皮膜が形成されているフォトマスク用基板またはフォトマスクブランクを収納する収納ケース。
【請求項2】
前記金属材料は、ステンレス鋼、酸化アルミニウム、アルミニウム合金のうちの少なくとも1つからなる請求項1記載のフォトマスク用基板またはフォトマスクブランクを収納する収納ケース。
【請求項3】
前記黒色皮膜は、ブラックアルマイト処理又は黒色クロメート処理により形成されている請求項1又は2記載のフォトマスク用基板またはフォトマスクブランクを収納する収納ケース。
【請求項4】
前記黒色皮膜は、380〜780nmの波長の光に対して、4%以下の光の反射率を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載のフォトマスク用基板またはフォトマスクブランクを収納する収納ケース。
【請求項5】
前記蓋部材と前記ケース本体の外周に、それぞれ、フレームが設けられている請求項1〜4のいずれか一項に記載のフォトマスク用基板またはフォトマスクブランクを収納する収納ケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−63702(P2012−63702A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209646(P2010−209646)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】