説明

フォトマスク関連基板の洗浄方法及び洗浄装置

【課題】洗浄後の欠陥の発生が極めて少ないフォトマスク関連基板を得られる洗浄方法及び洗浄装置提供することを目的とする。
【解決手段】フォトマスク関連基板の洗浄方法において、少なくとも、前記フォトマスク関連基板の表面の異物をあらかじめ除去する前処理工程と、該前処理工程の後に前記フォトマスク関連基板にUV光を照射するUV照射工程と、該UV照射工程の後に前記フォトマスク関連基板を湿式で洗浄する湿式洗浄工程とを行うことを特徴とするフォトマスク関連基板の洗浄方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被洗浄物が、フォトマスク用基板、フォトマスクブランク、フォトマスク、あるいはその製造中間体等のフォトマスク関連基板である洗浄方法及び洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、半導体集積回路の高集積化等に伴ってパターンの微細化が急速に進み、これに対して露光工程でのレジスト解像度を上げるために、露光波長の短波長化及びレンズの開口数の増大を図ることにより対応している。
【0003】
上記半導体集積回路の製造等に使用するフォトリソグラフィー法では、回路パターンをフォトレジストに焼き付ける原図としてフォトマスクが使用される。
【0004】
IC、LSI又はVLSI等の半導体集積回路の製造をはじめとして、広範囲な用途に用いられているフォトマスクは、露光光をほぼ完全に遮断する遮光部を持つバイナリーマスクや、光を減衰させつつ光透過部に対して光の位相を反転させ、露光光の回折による明暗のコントラスト低下を防止するハーフトーン位相シフトマスク等が実用化されているが、これらは石英やCaF等の透明基板上にクロム化合物や金属シリサイド化合物の遮光部を持つものである。
【0005】
フォトマスクは、基本的には上記のような透光性基板(フォトマスク基板)上に、上記のような金属又は金属化合物を含む遮光膜材料の薄膜による遮光膜を成膜したフォトマスクブランクの該遮光膜に、電子線リソグラフィー法等によりレジストパターン等を形成し、エッチングにより遮光材料へパターンを転写するといった手順で製造され、極めて高い清浄度を求められることから、各工程においては厳密な洗浄が行われる。
【0006】
このようなフォトマスクの製造工程に用いる洗浄方法としては、硫酸等の酸溶液やアンモニア等のアルカリ溶液を用いる洗浄を組み合わせて用いたり、オゾン水等の機能水や水素水を用いたり、また、浸漬法や、パドル法、スプレー法による洗浄や、さらに超音波を印加したり、スピン乾燥やIPA乾燥等の乾燥法を組み合わせて用いられている。
【0007】
しかし、このような湿式洗浄を用いた場合、湿式洗浄における濡れ性にバラつきがあると、洗浄力低下の原因となってしまうという問題がある。そこで湿式洗浄における濡れ性改善のために、UV照射処理、またはUVオゾン洗浄が広く用いられている。
【0008】
従来のUVオゾン洗浄法や装置等に関しては、例えば特許文献1や特許文献2等に開示がなされている。
具体的に例えば、特許文献1には、光学装置用部品の洗浄方法として、光学部品と保持具を有する光学装置用部品を効率的かつ確実に洗浄することを目的とした洗浄方法の発明が開示されており、光学装置用部品を密閉した処理室内の支持台上に配置し、光学装置用部品の上方に設けられたガス導入部から酸素を含む清浄なドライエアーを送り込み、下方に設けられたガス排出部から排気する処理室内の上部と下部とに適当な間隔で複数配置された低圧水銀ランプからの紫外線でオゾンを発生させることで光学装置用部品の表面に付着した有機物を分解、揮発させて洗浄するUVオゾン洗浄方法が開示されている。
【0009】
また、フォトマスク関連基板の湿式洗浄の前にUV照射を行うことによって、基板主表面及び端面の濡れ性が改善でき、湿式洗浄を容易にすることが特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−169806号公報
【特許文献2】特開2009−262046号公報
【特許文献3】特開2005−221929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、UV照射した後にフォトマスク関連基板の洗浄で湿式洗浄を行うと、欠陥が多数発生することがわかった。特にこれらの欠陥は、0.08から0.50μm程度の大きさの異物や欠陥がスジ状に連なったもの(以下、「スジ状汚れ」ということもある)であることが判明した。
このスジ状汚れは、欠陥サイズとして問題のある大きさをもつ異物あるいは欠陥が連なるため、フォトマスクとした場合、パターンと重なる可能性が飛躍的に増加し、微細なパターン形成に悪影響を及ぼすため、その対策が急務であった。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、洗浄後のフォトマスク関連基板の欠陥の発生が極めて少ないフォトマスク関連基板を得られる洗浄方法及び洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、フォトマスク関連基板の洗浄方法において、少なくとも、前記フォトマスク関連基板の表面の異物をあらかじめ除去する前処理工程と、該前処理工程の後に前記フォトマスク関連基板にUV光を照射するUV照射工程と、該UV照射工程の後に前記フォトマスク関連基板を湿式で洗浄する湿式洗浄工程とを行うことを特徴とするフォトマスク関連基板の洗浄方法を提供する。
【0014】
このような洗浄方法であれば、被洗浄物であるフォトマスク関連基板上のスジ状汚れを極めて少なくすることができる。
【0015】
この場合、前記前処理工程において、前記フォトマスク関連基板を回転又は前後に揺動しながら、前記フォトマスク関連基板の表面を除電し、且つガスブローを行うことが好ましい。
このように、気体を用いたガスブローを行うときに被洗浄物である前記フォトマスク関連基板をブローに対して相対的に回転又は前後に揺動すると、均一性よくブローできる。さらに前記フォトマスク関連基板の表面を除電することによって、異物除去能を高めることができる。
【0016】
また、前記UV照射工程において、波長172nmのエキシマ光を用いて、前記フォトマスク関連基板にUV光を照射することが好ましい。
UV照射工程を行うことにより、比較的小さな有機異物は、UV光を吸収して解離や分解し、オゾンと反応して、揮発性反応生成物となり除去される。また、このように表面の有機物が除去されることによって、被洗浄物の表面は親水性となる。このときUV光として波長172nmのエキシマ光を用いて照射を行うと、このような被洗浄物の親水化処理に特に好適である。
【0017】
また、前記湿式洗浄工程において、機能水を用いて、メガソニック洗浄又は高圧ノズルを用いた洗浄を行うことにより、前記フォトマスク関連基板を洗浄することができる。
このように、本発明においては、酸やアルカリ成分の残存量を低減させる目的で、硫酸等の酸溶液を用いずに、オゾン水等の機能水を用いて、メガソニック洗浄又は高圧ノズルを用いた洗浄を行い、分解した異物を除去することができる。
【0018】
また、前記UV照射工程において、前記フォトマスク関連基板を、設置床面に垂直に設けたランプハウス内に鉛直方向に配列されたランプに対して上下方向に平行移動させながら、前記フォトマスク関連基板にUV光を照射することが好ましい。
このように、フォトマスク関連基板にUV光を照射させることによって、洗浄対象面内の清浄度及びその均一性を高めることができる。また、被洗浄物であるフォトマスク関連基板を、ランプに対して上下方向に平行移動させながら処理することで、分解された異物が自然落下し、基板表面に残存することもない。
【0019】
また、前記フォトマスク関連基板として、フォトマスク用基板、フォトマスクブランク、フォトマスク、及びそれらの製造中間体から選ばれるいずれかの基板を用いることができる。
このように、本発明の洗浄方法は、上記様々なフォトマスク関連基板に対し、幅広く適用することができる。
【0020】
また本発明は、前記洗浄方法に用いる洗浄装置であって、前記前処理工程を行う前処理ユニットと、前記UV照射工程を行うUV照射ユニットと、前記湿式洗浄工程を行う湿式洗浄ユニットと、基板を搬送する搬送手段とを有し、
前記UV照射ユニットが、設置床面に垂直に設けたランプハウス内に鉛直方向に配列されたランプを有し、被洗浄物である前記フォトマスク関連基板を前記ランプに対して上下方向に平行移動させる機構を有するものであることを特徴とするフォトマスク関連基板の洗浄装置を提供する。
【0021】
このような洗浄装置であれば、洗浄後の欠陥を極めて少なくすることができる上、洗浄対象面内の清浄度及びその均一性を高めることができ、分解された異物が自然落下するので、基板表面への残存を容易に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明のフォトマスク関連基板の洗浄方法であれば、被洗浄物であるフォトマスク関連基板上のスジ状汚れを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の洗浄方法の一例を示すフロー図である。
【図2】本発明の洗浄装置の一例を示す概略図である。
【図3A】本発明の洗浄装置におけるUV照射ユニットの一例を示す概略図である。
【図3B】開口したUV照射ユニットを示す図である。
【図4】比較例における検査結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
前述のように、従来の洗浄方法を用いてフォトマスク等のフォトマスク関連基板(以下、単に「基板」ということもある)を洗浄すると、洗浄後にも関わらず欠陥が多数発生するとの問題があり、その対策が急がれていた。
【0025】
上記問題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、湿式洗浄時に比較的大きな異物が存在する場合、この異物に起因してスジ状の欠陥が発生することをつきとめた。
【0026】
その原因は以下のように考えられる。
湿式洗浄により基板を洗浄するためには、たとえばスピン洗浄の場合、基板の中心等を回転軸として被洗浄物である基板を回転しつつ、基板に洗浄液をかけることによって、基板全体に洗浄液が行き渡るようにする。
【0027】
このとき、比較的大きな異物は洗浄液とともに脱落し、除去されるが、このとき生じた上記異物が流れた痕跡あるいは痕跡物が、比較的小さな欠陥あるいは異物となってスジ状にならび、基板表面にスジ状汚れとなる。
【0028】
また本発明者は、保管中にフォトマスク関連基板に付着した、クリーンルーム中の浮遊物や、保管ケース、保管カセット、キャリア、クリーンルーム等の部材として用いられている樹脂系有機物が、基板の表面に吸着する等によってこの比較的大きな欠陥を形成する原因の1つとなっていることを突き止めた。
【0029】
本発明者は、このような樹脂系有機物等がUV照射工程の際に存在していると、UV照射時に、そのエネルギーを吸収し、被洗浄物の表層面に溶着し、その後の湿式洗浄や乾燥工程において、この溶着した有機物が基点となってスジ状汚れを形成するとの考えに至った。
【0030】
さらに、被洗浄物の表面に異物がある状態でUV照射を行うと、異物の陰となる部分が生じ、前記陰となった部分の濡れ性が被洗浄物の他の部分と異なるために、その後の湿式洗浄で乾きムラや洗浄ムラとなり、前記汚れの原因となるとの考えに至った。
【0031】
本発明は、上記の知見及び発見に基づいて完成されたものであり、以下、本発明について図面を参照しながらさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図2は、本発明の洗浄装置の一例を示す図である。
【0032】
図2に示すように、本発明の洗浄装置1は、フォトマスク関連基板の表面の異物をあらかじめ除去する前処理工程を行う前処理ユニット2と、前処理工程の後にフォトマスク関連基板にUV光を照射するUV照射工程を行うUV照射ユニット3と、UV照射工程の後にフォトマスク関連基板を湿式で洗浄する湿式洗浄工程を行う湿式洗浄ユニット4と、基板を搬送する搬送手段5a、5b、5c、5dとを有している。
【0033】
前処理ユニット2は、液体を用いた処理が可能なウエット処理ユニットや、気体を用いた処理が可能なエアーブローユニット等、前処理の方法に応じたものを、適宜選択することができる。
【0034】
UV照射ユニット3は、例えば図3Aに示すように、設置床面に垂直に設けたランプハウス32内に鉛直方向に配列されたランプ33を有し、被洗浄物であるフォトマスク関連基板Pをランプ33に対して上下方向に平行移動させる機構(基板移動機構34)を有するものであることが好ましい。
このようにしてフォトマスク関連基板にUV光を照射させることによって、洗浄対象面内の清浄度及びその均一性を高めることができる。また、UV照射ユニット3では、異物を酸化分解し、その後最終薬液による処理を行うが、ここで用いられるUV照射ユニット3は、左右にランプを設けた縦型タイプであり、基板を縦方向に処理することで、分解された異物が自然落下し、基板表面に残存しないタイプを使用することが望ましい。
【0035】
このような本発明のUV照射ユニットでは、UV照射室31内の基板対向面に均一間隔で設けられた複数の供給口から、エアーと不活性ガスの混合ガスをUV照射室31内に搬送された基板に向けて供給する構成とすることが好ましい。これは、ガスを基板の一方端側から供給することとすると、基板の下側(ガス流の上流側)には相対的にオゾン化率の低い混合ガスが供給される一方、基板の上側(ガス流の下流側)には相対的にオゾン化率の高い混合ガスが供給されることとなるため、例え均一なUV光照射が行われたとしても、洗浄後の表面の清浄度が不均一なものとなってしまう恐れがあるためである。
【0036】
このような構成の本発明のUV照射ユニットは、図3Bに例示したように、UV照射室下部近傍に回転軸39a及び39bを設けて、これらの回転軸39a、39bを中心として、第1のUV照射ユニット30a側と第2のUV照射ユニット30b側を回動することで、UV照射室内を左右に開放可能として、UVランプの交換等のメンテナンスを容易なものとした構成としてもよい。
【0037】
湿式洗浄ユニット4は、従来の湿式洗浄に用いられているものを採用することができる。
また、基板を搬送する搬送手段5a〜5bは、前処理ユニット、UV照射ユニット、湿式洗浄ユニットの順に基板を搬送できるものであれば特に限定されない。例えば、上述のように、UV照射ユニットを縦型タイプとし、上下方向に平行移動させる機構を設ける場合、搬送手段を基板移動機構と一体化させてもよい。
【0038】
本発明では、例えばこのような洗浄装置を用いて、次のように、フォトマスク関連基板を洗浄する。
以下に、本発明におけるフォトマスク関連基板の洗浄方法を説明する。
【0039】
図1は、本発明フォトマスク関連基板の洗浄方法のフローを示す図である。
図1に示すように、本発明のフォトマスク関連基板の洗浄方法では、まず、前処理ユニット2で前処理を行う。
前処理工程は、液体を用いたウエット処理や、気体を用いたガスブローで異物を除去する工程等、特に有機物からなる異物を除去する工程であれば、その方法は問わないが、純水のシャワー洗浄等の液を用いる湿式工程を用いると、フォトマスク関連基板が強く撥水性を示す場合はフォトマスク関連基板の表面ではじいてしまい、乾きムラ等が生じやすいため、純水等の液を用いない乾式工程が好ましい。
【0040】
乾式工程としては、気体を用いたガスブローで行うのが好ましく、特に、Air又はN等を用いた不活性ガスによるブローを行うのが好ましい。前記気体によるガスブローを行うときに被洗浄物であるフォトマスク関連基板をブローに対して相対的に回転又は前後に揺動すると、均一性よくブローできる。この時、さらにフォトマスク関連基板の表面を、例えば0.01μmのフィルターを内蔵したクリーンエアーガンによって0.3MPaの圧力で乾燥窒素を吹き付ける等して除電することによって、異物除去能を高めることができる。
【0041】
また、清浄な気体を供給するため、フィルターを介してブローするのがよく、特に0.01μm以下のフィルターを介して、0.05〜0.7MPaの圧力により、10〜120L/min.の流量で行えばよい。
【0042】
さらに、上記気体は酸性ガス、アルカリ性ガス、有機ガスを除去することが好ましく、そのような場合にもフィルターを用いることができる。フィルターとしてはアニオン、カチオンを除去するフィルター及び、活性炭をフィルターとして用いることが好ましい。
【0043】
その他に前処理工程としては、例えば超音波ドライクリーナーを用いて行ってもよい。超音波ドライクリーナーを用いると排気の問題が少なく、除去したパーティクルの再付着を低減することができる。
【0044】
次に、UV照射ユニット3で、UV照射工程を行う。
UV照射工程に用いる光源は、200nm以下の波長の光を用いるのが好ましい。UV照射光の波長を200nm以下とすることで、照射雰囲気中の酸素分子が光吸収する効率は急速に向上し、その結果、オゾン濃度が上昇する。また比較的小さな有機異物はUV光を吸収して解離や分解する。その結果これらはオゾンと反応して、揮発性反応生成物となり除去される。
また、このように表面の有機物が除去されることによって、被洗浄物の表面は親水性となる。
【0045】
特にUV光として波長172nmのエキシマ光が被洗浄物の親水化処理に好適である。また、UV照射雰囲気に含有する酸素濃度は0.5%以上100%以下とすればよい。
【0046】
ガス供給部(35a、35b)から供給される酸素ガスの総導入量は、40〜150(L/min.)以上であることが好ましい。より好ましくは80〜130(L/min.)以上であり、更に好ましくは100〜120(L/min.)である。総導入量をこのような量としてガス供給を行えば、UV照射室31内で発生したオゾン含有ガスが基板導入部(開口部)から漏れる心配もなく、装置内部の気流を乱す恐れもないので好ましい。
【0047】
また、ガス排気経路部38a、38bを通ってガス排出部36から排出されるガスの排出量は、上述したガスの総導入量に比例することとなるが、ガス総導入量の1.1〜3.0倍であることが好ましく、更に好ましくは1.5〜2.0倍である。このような排出量とすれば、排気装置(37a、37b)の極近傍の開口部から基板搬送機構が装置内に入る構成とした場合にも、上記開口部より引き込まれた外部雰囲気が装置内へと進入することによる装置内の気流の乱れが生じることもない。
【0048】
基板表面への紫外線照射量は、単位面積当たり15mJ/cm以上であることが好ましく、さらに望ましくは、単位面積当たり30mJ/cm以上である。UV照射を行う際のオゾン発生量はUV照射量に比例し、洗浄効果に影響を及ぼすこともあるが、上記照射量以上であれば、適量の酸素存在下でUVオゾン洗浄を行う際、十分な洗浄能力を確保するためのオゾン濃度が得られ、基板表面に十分なオゾンを行き渡らせることができる。
また、紫外線照射量を過度に上げ過ぎないよう、上限値としては、単位面積当たり41.5mJ/cm以下の照射量とすることが好ましい。
【0049】
UV照射工程の後には、湿式洗浄ユニット4で湿式洗浄が行われる。
湿式洗浄としては、硫酸等の酸やアルカリを用いた洗浄でもよいが、フォトマスクにArFエキシマレーザー光が照射されると、硫酸イオンで汚染されている場合、硫酸アンモニウムの微結晶が形成されて欠陥となる。この硫酸イオンの由来は必ずしも特定されていないが、フォトマスクの表面の硫酸イオン量は低く抑制されることが好ましく、また、硫酸イオン源とならないように、製造中間体は極力硫酸イオンで汚染されない状態に洗浄されることが好ましい。表面の硫酸等の酸やアルカリ成分の残存量を低減させるためには、硫酸等の酸溶液を用いずに、オゾン水等の機能水を用いて、メガソニック洗浄又は高圧ノズルを用いた洗浄を行うことにより、UV照射工程で分解した異物を除去することが好ましい。
【0050】
このように、UV照射を行う前に、前処理工程としてフォトマスク関連基板の表面の比較的大きな異物(ある程度の大きさの固体状の表面異物)をあらかじめ除去しておけば、その後のUV照射工程のUV照射時にも、被洗浄物の表層面に溶着したり、照射光の陰を形成するような異物が存在しないため、湿式洗浄工程後のスジ状汚れを大幅に改善することができる。
【0051】
尚、被洗浄物であるフォトマスク関連基板は、フォトマスク用基板、フォトマスクブランク、フォトマスク及びそれらの製造中間体のいずれをも適用することができる。
より具体的には、フォトマスクを製造するための石英、フッ化カルシウム等の露光光に対して透明なフォトマスク用基板及びそれから加工された基板が挙げられる。
【0052】
また、遷移金属化合物、特にクロム、チタン、タングステン、タンタル、ニオブ等の金属酸化物、金属酸化窒化物、金属酸化炭化物、金属窒化物、金属窒化炭化物、金属炭化物、金属酸化窒化炭化物等の金属化合物系材料膜を透明基板上に成膜したフォトマスクブランク、またはその製造中間体を挙げることができる。
【0053】
また同様に、遷移金属とケイ素を含有する化合物、特にモリブデンやジルコニウム、タンタル、チタンを含有するケイ素酸化物、ケイ素酸化窒化物、ケイ素酸化炭化物、ケイ素窒化物、ケイ素窒化炭化物、ケイ素酸化窒化炭化物等の遷移金属ケイ素化合物材料膜を透明基板上に成膜したフォトマスクブランク又はその製造中間体を挙げることができる。
【0054】
更に同様に、ケイ素酸化物、ケイ素酸化窒化物、ケイ素酸化炭化物、ケイ素窒化物、ケイ素窒化炭化物、ケイ素酸化窒化炭化物等のケイ素化合物膜を透明基板上に成膜したフォトマスクブランク又はその製造中間体を挙げることができる。
【0055】
また、上記フォトマスクブランク上に、典型的には電子線レジストを用いてパターン形成し、レジストパターンをエッチングマスクとしてドライエッチング又はウエットエッチングによってパターン転写したフォトマスク、あるいはその製造中間体の洗浄に対しても本発明の洗浄方法は好ましく適用し得る。
【0056】
対象となるフォトマスクは、バイナリーマスクでも、ハーフトーン位相シフトマスクでも、レベンソンマスクでも、前述した膜材料等によるパターンを有するものであれば、有用に適用し得る。
【実施例】
【0057】
以下、実施例、比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの記載によって限定されるものではない。
尚、実施例1及び比較例1において、事前に、クリーンルーム保管前及びクリーンルーム内に1週間保管(放置)した後のフォトマスクブランク基板の表面検査を、集光灯(>40万Lux)にて行った。
【0058】
[実施例1]
前処理工程として、基板を回転させながら、異物のある部分に、イオナイザー付きAirガンにて0.003μmのフィルターを介して、N:Air=6:1のガスを吹き付けることにより、異物を吹き飛ばした。
その後172nmの波長のUV光を2分間照射したあとにスピン洗浄機にてメガソニックを印加した水素水(1L/min 回転数50rpm)で洗浄を行い、スピン乾燥(回転数1500rpm 30秒)した。
その基板を欠陥検査装置レーザーテック製M6640にて検査したところ、欠陥の発生が極めて少ないものであった。
【0059】
[比較例1]
前処理工程を行わずに、UV照射工程とその後の湿式洗浄工程を実施例1と同様に行った。
その後欠陥検査装置レーザーテック製M6640にて検査したところ、図4に示すようにクリーンルームに放置中に付着した異物が基点となって、スジ状の汚れが多数発生していることがわかった。
【0060】
尚、実施例1及び比較例1に関して、それぞれ複数の基板に対して行うことによりスジ状の汚れの発生率も求めた。
それぞれの結果を、表1に示す。
【表1】

【0061】
表1に示すように、前処理工程を行うと、スジ状汚れの発生率が18%から3%へと大幅に減少した。
【0062】
以上のことから、特にスジ状汚れの防止に対しては、本発明の洗浄方法が非常に効果的であることが実証されたといえる。
【0063】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0064】
1…洗浄装置、 2…前処理ユニット、 3…UV照射ユニット、
4…湿式洗浄ユニット、 5、5a、5b、5c、5d…搬送手段、
30a…第一のUV照射ユニット、 30b…第二のUV照射ユニット
31…UV照射室、 32…ランプハウス、 33…UVランプ、34…基板搬送機構、
35a、35b…ガス供給部、 36…ガス排出部、 37a、37b…排気装置、
38a、38b…ガス排気経路部、 39a、39b…回転軸、 P…洗浄対象物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトマスク関連基板の洗浄方法において、少なくとも、前記フォトマスク関連基板の表面の異物をあらかじめ除去する前処理工程と、該前処理工程の後に前記フォトマスク関連基板にUV光を照射するUV照射工程と、該UV照射工程の後に前記フォトマスク関連基板を湿式で洗浄する湿式洗浄工程とを行うことを特徴とするフォトマスク関連基板の洗浄方法。
【請求項2】
前記前処理工程において、前記フォトマスク関連基板を回転又は前後に揺動しながら、前記フォトマスク関連基板の表面を除電し、且つガスブローすることを特徴とする請求項1に記載のフォトマスク関連基板の洗浄方法。
【請求項3】
前記UV照射工程において、波長172nmのエキシマ光を用いて、前記フォトマスク関連基板にUV光を照射することを特徴とする請求項1又は2に記載のフォトマスク関連基板の洗浄方法。
【請求項4】
前記湿式洗浄工程において、機能水を用いて、メガソニック洗浄又は高圧ノズルを用いた洗浄を行うことにより、前記フォトマスク関連基板を洗浄することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のフォトマスク関連基板の洗浄方法。
【請求項5】
前記UV照射工程において、前記フォトマスク関連基板を、設置床面に垂直に設けたランプハウス内に鉛直方向に配列されたランプに対して上下方向に平行移動させながら、前記フォトマスク関連基板にUV光を照射することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のフォトマスク関連基板の洗浄方法。
【請求項6】
前記フォトマスク関連基板として、フォトマスク用基板、フォトマスクブランク、フォトマスク、及びそれらの製造中間体から選ばれるいずれかの基板を用いることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のフォトマスク関連基板の洗浄方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の洗浄方法に用いる洗浄装置であって、前記前処理工程を行う前処理ユニットと、前記UV照射工程を行うUV照射ユニットと、前記湿式洗浄工程を行う湿式洗浄ユニットと、基板を搬送する搬送手段とを有し、
前記UV照射ユニットが、設置床面に垂直に設けたランプハウス内に鉛直方向に配列されたランプを有し、被洗浄物である前記フォトマスク関連基板を前記ランプに対して上下方向に平行移動させる機構を有するものであることを特徴とするフォトマスク関連基板の洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−211951(P2012−211951A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76496(P2011−76496)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】