説明

フォトリソグラフィー工程排水の処理方法

【課題】簡便な方法で、十分な処理効果を得ることができるフォトリソグラフィー工程排水の処理方法を提供する。
【解決手段】フォトリソグラフィー工程排水に疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤を添加した後、固液分離処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトリソグラフィー工程排水の処理方法に関し、特にカラーフィルター等を製造する際のフォトリソグラフィー工程において、現像工程や、基板の洗浄工程等で生じる排水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等の集積回路、プリント基板、カラーフィルター、液晶ディスプレイ等の製造工程においては、感光性樹脂成分を含有するフォトレジストをウェハ、ガラス板、銅張積層板等の基板上に塗布し、現像パターン等が形成されたフォトマスクを介してフォトレジストを露光して光反応させ、その後の現像工程でフォトレジストの露光部または未露光部をアルカリ水溶液等の現像液により除去することで、所定のパターンを形成した後、基板を洗浄するフォトリソグラフィー法が用いられている。したがって、このフォトリソグラフィー法において、現像工程や、基板の洗浄工程で生じるフォトリソグラフィー工程排水には、フォトレジストや現像液が含まれることとなる。
【0003】
このようにして生じるフォトリソグラフィー工程排水の処理方法としては、例えば、濾過法がある。しかしながら、この濾過法においては、フォトリソグラフィー工程排水は通常アルカリ条件下で濾過されるが、かかる条件下ではフォトレジストは凝集しにくく、濾過膜に適した凝集が難しいため、安定した運転を行うことが困難であるという問題がある。
【0004】
また、フォトリソグラフィー工程排水の処理方法として、フォトリソグラフィー法における基板の洗浄工程で生じるテトラアルキルアンモニウム及び少量のフォトレジストを含有する排水をpH5以上かつ9未満の条件下で逆浸透膜装置に加圧供給する方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法では、テトラアルキルアンモニウムをある程度効果的に処理することができるが、濾過膜による処理におけるフォトレジストの凝集濾過性及び運転安定性の点で未だ満足できるものではない。
【0005】
この特許文献1の問題を解決する方法として、フォトレジスト含有排水のpHを酸性に調整してから、フォトレジストの凝集沈殿に適するようにpHを調製してフォトレジストを凝集沈殿させ、膜処理を行う方法がある(特許文献2参照)。しかしながら、この特許文献2の方法においても清澄な処理水を得られない場合があり、十分な処理効果を得ることができなかった。すなわち、特許文献2等の従来の処理では、フォトレジスト及び現像液の成分、具体的には、樹脂、光重合性のモノマー、光重合開始剤、界面活性剤、顔料、シナジスト(pigment derivative)や分散剤ポリマー、溶剤等の種々の有機物や濁質成分が相互に作用することにより、分離し難い安定な化合物を形成しているためか、十分な処理効果を得ることができなかった。また、簡便な処理方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−276824号公報
【特許文献2】特開2006−255668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述した事情に鑑み、簡便な方法で、十分な処理効果を得ることができるフォトリソグラフィー工程排水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記目的を達成するために鋭意検討した結果、凝集沈殿処理、加圧浮上処理、濾過処理等の固液分離処理を行う際に、疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤を被処理水であるフォトリソグラフィー工程排水に添加することにより、上記目的が達成されることを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明のフォトリソグラフィー工程排水の処理方法は、フォトリソグラフィー工程排水に疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤を添加した後、固液分離処理を行うことを特徴とする。
【0010】
そして、前記疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤が、下記一般式(1)で表されるカチオン性モノマーを重合して得られるカチオン性ポリマーを含有することが好ましい。
【0011】
【化1】

(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、R及びRはそれぞれ炭素数1〜3のアルキル基を表し同一でも異なっていてもよい。Rはベンジル基を表し、Yは−O−または−NH−を表す。mは1〜3の整数であり、X1−はハロゲンアニオン、モノアルキル硫酸アニオンまたは鉱酸に由来するアニオンを表す。)
【0012】
また、前記疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤が、下記一般式(2)で表されるカチオン性モノマーと疎水性官能基を有するノニオン性モノマーとを共重合して得られるカチオン性ポリマーを含有することが好ましい。
【0013】
【化2】

(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、R及びRはそれぞれ炭素数1〜3のアルキル基を表し同一でも異なっていてもよい。Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはベンジル基を表し、Yは−O−または−NH−を表す。mは1〜3の整数であり、X2−はハロゲンアニオン、モノアルキル硫酸アニオンまたは鉱酸に由来するアニオンを表す。)
【0014】
また、前記フォトリソグラフィー工程排水に、無機凝集剤を添加してもよい。
【発明の効果】
【0015】
フォトリソグラフィー工程排水に疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤を添加した後、凝集沈殿処理、加圧浮上処理、濾過処理等の固液分離処理を行うことにより、フォトリソグラフィー工程排水に含まれるフォトレジストや現像液の凝集効果が向上するため、簡便な方法で十分な処理効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
本発明のフォトリソグラフィー工程排水の処理方法は、フォトリソグラフィー工程排水に疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤を添加した後、固液分離処理を行うものである。
【0017】
IC、LSI等の集積回路、プリント基板、カラーフィルター、液晶ディスプレイ等の製造工程においては、感光性樹脂成分を含むフォトレジストを、ウェハ、ガラス板、銅張積層板等の基板上に塗布し、現像パターン等が形成されたフォトマスクを介してフォトレジストを露光して光反応させ、その後の現像工程でフォトレジストの露光部または未露光部をアルカリ水溶液等の現像液により除去することで、所定のパターンを形成した後、基板を洗浄するフォトリソグラフィー法が用いられている。本発明の被処理水(原水)であるフォトリソグラフィー工程排水は、このフォトリソグラフィー法において、現像工程や、基板の洗浄工程等で生じる排水であって、フォトレジスト及び現像液を含有する排水である。具体的には、本発明における被処理水であるフォトリソグラフィー工程排水は、樹脂、光重合性のモノマーや光重合開始剤からなる感光性樹脂成分の他、顔料、顔料を安定分散化させるためのシナジスト(pigment derivative)、アニオン性等の分散剤ポリマー、メタクリル酸のホモポリマーやメタクリル酸のコポリマーからなるメタクリル酸系ポリマー等のバインダー樹脂等の添加剤や溶剤等を含むフォトレジストと、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等のアルカリ成分及びノニオン性等の界面活性剤等を含む現像液とを含有する排水である。
【0018】
ここで、フォトリソグラフィー工程において使用したフォトレジストがネガ型フォトレジストの場合は、露光された部分が現像液に不溶化し、露光されず不溶化されなかった部分が現像液に溶解する。したがって、ネガ型フォトレジストの場合は、現像工程で生じる排水や、現像工程後に行う基板の洗浄工程で生じる排水は、感光性樹脂成分そのものを主に含有する。一方、フォトリソグラフィー工程において使用したフォトレジストがポジ型フォトレジストの場合は、露光された部分が現像液に溶解する。したがって、ポジ型フォトレジストの場合は、現像工程で生じる排水や、現像工程後に行う基板の洗浄工程で生じる排水は、感光性樹脂成分が露光により変化して可溶化した成分を主に含有することになるが、このような感光性樹脂成分が露光により変化して可溶化した成分も、本発明で処理対象としているフォトリソグラフィー工程排水が含有する感光性樹脂成分と称する。
【0019】
そして、フォトリソグラフィー工程排水に添加する凝集剤は、本発明においては、疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤である。なお、この疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤は電解質なので、水に溶解するものである。
【0020】
疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤としては、例えば、少なくとも下記一般式(1)で表されるカチオン性モノマーを重合して得られるカチオン性ポリマー、具体的には、下記一般式(1)で表されるカチオン性モノマーを重合して得られるホモポリマーや、下記一般式(1)で表されるモノマーと共重合可能なビニルモノマーとを重合して得られるコポリマーが挙げられる。なお、下記一般式(1)において、Rが疎水性官能基である。
【0021】
【化1】

(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、R及びRはそれぞれ炭素数1〜3のアルキル基を表し同一でも異なっていてもよい。Rはベンジル基を表し、Yは−O−または−NH−を表す。mは1〜3の整数であり、X1−はハロゲンアニオン、モノアルキル硫酸アニオンまたは鉱酸に由来するアニオンを表す。)
【0022】
上記一般式(1)で表されるカチオン性モノマーの具体例としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−エチルアミノエチル(メタ)アクリレートや、N−メチル−N−エチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドの塩化ベンジル4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0023】
また、上記一般式(1)で表されるカチオン性モノマーと共重合可能なビニルモノマーは、カチオン性ビニルモノマー、ノニオン性ビニルモノマー、アニオン性ビニルモノマーのいずれでもよい。このような上記一般式(1)で表されるカチオン性ポリマーと共重合可能なカチオン性ビニルモノマーの具体例としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの酸塩もしくはその4級アンモニウム塩、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドの酸塩もしくはその4級アンモニウム塩、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。また、上記一般式(1)で表されるカチオン性ポリマーと共重合可能なノニオン性ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、Nイソプロピルアクリルアミド、Nメチル(NNジメチル)アクリルアミド等が挙げられる。上記一般式(1)で表されるカチオン性ポリマーと共重合可能なアニオン性ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸及びこれらのアルカリ金属塩等が挙げられる。勿論、アニオン性モノマーを共重合させる場合は、共重合体全体としてカチオン性になるように、共重合比を設定する必要がある。
【0024】
上記一般式(1)で表されるカチオン性モノマーと共重合可能なビニルモノマーとの重合割合は特に限定されないが、例えば、上記式(1)で表されるカチオン性モノマー:共重合可能なビニルモノマー=10〜99:1〜90(モル%)である。
【0025】
また、フォトリソグラフィー工程排水に添加する疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤として、下記一般式(2)カチオン性モノマーと、疎水性官能基を有するノニオン性モノマーとを共重合させて得られるカチオン性ポリマーが挙げられる。
【0026】
【化2】

(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、R及びRはそれぞれ炭素数1〜3のアルキル基を表し同一でも異なっていてもよい。Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはベンジル基を表し、Yは−O−または−NH−を表す。mは1〜3の整数であり、X2−はハロゲンアニオン、モノアルキル硫酸アニオンまたは鉱酸に由来するアニオンを表す。)
【0027】
上記一般式(2)で表されるカチオン性モノマーの具体例としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−エチルアミノエチル(メタ)アクリレートや、N−メチル−N−エチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドの4級アンモニウム塩や塩化ベンジル4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0028】
また、上記一般式(2)等のカチオン性モノマーと共重合させる疎水性官能基を有するノニオン性モノマーとしては、例えば、Nメチル(NNジメチル)アクリルアミド、アクリロニトリル、スチレン、メチルもしくはエチル(メタ)アクリレート塩等が挙げられる。
【0029】
上記一般式(2)で表されるカチオン性モノマーと疎水性官能基を有するノニオン性モノマーとの重合割合は特に限定されないが、例えば、上記式(2)で表されるカチオン性モノマー:共重合可能なビニルモノマー=30〜80:20〜70(モル%)である。
【0030】
上記一般式(2)等のカチオン性モノマーと、疎水性官能基を有するノニオン性モノマーと、さらに、その他のビニルモノマーを共重合させてもよい。ビニルモノマーは、カチオン性ビニルモノマー、ノニオン性ビニルモノマー、アニオン性ビニルモノマーのいずれでもよい。カチオン性ビニルモノマーの具体例としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの酸塩もしくはその4級アンモニウム塩、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドの酸塩もしくはその4級アンモニウム塩、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。また、ノニオン性ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、Nイソプロピルアクリルアミド、Nメチル(NNジメチル)アクリルアミド等が挙げられる。アニオン性ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸及びこれらのアルカリ金属塩等が挙げられる。勿論、アニオン性モノマーを共重合させる場合は、共重合体全体としてカチオン性になるように、共重合比を設定する必要がある。
【0031】
このような疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤を構成する疎水性官能基を有するカチオン性ポリマーは、0.1N−NaClを溶媒とした固有粘度が、30℃で5dl/g以上であることが好ましく、また、15dl/g以下であることが好ましい。15dl/gより高いとフォトリソグラフィー工程排水中での分散性が悪くなるためである。なお、疎水性官能基を有する有機高分子凝集剤を構成する疎水性官能基を有するカチオン性ポリマーは、1N−NaCl中では析出するものである。
【0032】
また、疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤を構成する疎水性官能基を有するカチオン性ポリマーは、カチオン性モノマー単位が10モル%以上であることが好ましい。10モル%以上であれば、フォトリソグラフィー工程排水の含有成分を十分に凝集させることができ、10モル%未満では、カチオン性が低いためか、凝集効果が低下してしまう場合があるためである。
【0033】
疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤の形態に特に限定はなく、粉末状、逆相エマルション状、サスペンション状の分散液、水溶液状のいずれでもよい。
【0034】
そして、疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤をフォトリソグラフィー工程排水に添加する形態も特に限定されず、フォトリソグラフィー工程排水と疎水性官能基を有するカチオン性ポリマーが接触して、フォトリソグラフィー工程排水中に含まれる濁質(SS)、すなわち感光性樹脂成分や顔料等に、疎水性官能基を有するカチオン性ポリマーが吸着してフロックを形成するようにすればよい。例えば、疎水性官能基を有するカチオン性ポリマーを0.1〜1質量%となるように溶解させた水溶液を、フォトリソグラフィー工程排水に添加することが好ましい。なお、2種以上の疎水性官能基を有するカチオン性ポリマーをフォトリソグラフィー工程排水に添加してもよい。
【0035】
また、疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤をフォトリソグラフィー工程排水に添加する量に特に制限は無いが、フォトリソグラフィー工程排水に対して、0.5〜100mg/L程度とすることが好ましい。なお、この添加量は、主にフォトリソグラフィー工程排水の水質に依るものであり、主に濁質の原因である顔料の濃度に依存する。したがって、被処理水であるフォトリソグラフィー工程排水の顔料濃度に応じて、添加濃度を調整すればよい。
【0036】
このような、疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤をフォトリソグラフィー工程排水に添加することにより、フォトリソグラフィー工程排水に含まれる感光性樹脂成分や顔料等の濁質と非常に強固で大きなフロック(凝集物)を形成することができるため、簡便な方法で、フォトリソグラフィー工程排水を十分処理することができ、清澄な処理水が得られる。このような疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤を用いることにより、十分な処理効果を得ることができる作用機構を、カラーフィルターを製造する際に現像工程や基板の洗浄工程で生じる排水を例に、以下に説明する。
【0037】
カラーフィルターを製造するためのフォトレジストには、上述したように、感光性樹脂成分、顔料及びアニオン性の分散剤ポリマーが含有されており、アニオン性の分散剤ポリマーによってアニオン性を帯びた顔料微粒子が安定に存在している。また、現像液には水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等のアルカリ成分及びノニオン性界面活性剤が含有されている。そして、カラーフィルターを製造するためのフォトレジストは一般的にネガ型であるので、現像工程や、基板の洗浄工程等で生じる排水(フォトリソグラフィー工程排水)には、未露光のフォトレジストと現像液が含有されている。したがって、フォトレジストに含有されている上記アニオン性の分散剤ポリマーによってアニオン性を帯びた顔料微粒子は、現像液に含まれるノニオン性界面活性剤によって顔料表面のアニオン性の電荷がシールドされ、アニオン性が弱められる。
【0038】
このように、フォトレジストと現像液とを含有するフォトリソグラフィー工程排水は、顔料微粒子のアニオン性が弱められるため、ゼータ電位が零に近く、疎水性官能基を有さないカチオン性有機高分子凝集剤を添加しても、濁質となる顔料微粒子に吸着できず、顔料を含んだ大きなフロックを形成することができない。しかしながら、本発明のように、疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤をフォトリソグラフィー工程排水に添加することにより、ゼータ電位が零に近くアニオン性が非常に小さい顔料微粒子に対して静電的な吸着ではなく疎水性相互作用(疎水結合)を起こすことができるため、顔料を含んだ大きなフロックを形成することができる。したがって、フォトリソグラフィー排水を十分処理することができ、濁度が低く清澄な処理水を得ることができる。
【0039】
また、フォトリソグラフィー工程排水に無機凝集剤を添加してもよい。無機凝集剤を添加することにより、微小な濁質や水溶性の濁質の除去が可能となるため、得られる処理水をより清澄にすることができる場合がある。また、無機凝集剤を添加することにより、上記疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤と無機凝集剤との相互作用により、疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤単独で使用する場合よりも強固なフロックを形成することができる。なお、無機凝集剤の添加は、後述する固液分離処理の前であればよく、疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤をフォトリソグラフィー工程排水に添加する前でも後でもよく、また、疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤と同時に添加してもよい。
【0040】
無機凝集剤に特に限定はなく、例えば、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム(PAC)等のアルミニウム塩、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、ポリ硫酸第二鉄等の鉄塩などが挙げられる。また、無機凝集剤の添加量にも特に限定はなく、フォトリソグラフィー工程排水の性状に応じて調整すればよいが、フォトリソグラフィー工程排水に対して概ねアルミニウム又は鉄換算で1〜5000mg/Lである。
【0041】
ここで、通常、排水処理方法においては無機凝集剤を多量に使用する場合が多いが、本発明においては、疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤を用いているため、感光性樹脂成分や顔料等の凝集効果に優れているので、無機凝集剤の添加量を低減することができる。
【0042】
また、フォトリソグラフィー工程排水にアニオン性有機高分子凝集剤やノニオン性有機高分子凝集剤を添加してもよい。アニオン性有機高分子凝集剤やノニオン性有機高分子凝集剤を、上記疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤と併用することにより、凝集フロックが大きくなるため、得られる処理水をより清澄にすることができる場合が多い。なお、アニオン性有機高分子凝集剤やノニオン性有機高分子凝集剤の添加は、疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤をフォトリソグラフィー工程排水に添加する後で且つ後述する固液分離処理の前がよい。
【0043】
アニオン性有機高分子凝集剤やノニオン性有機高分子凝集剤に特に限定はなく、排水処理で通常使用されるアニオン性有機高分子凝集剤やノニオン性有機高分子凝集剤を用いることができる。アニオン性有機高分子凝集剤としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリルアミドの共重合物、及び、それらのアルカリ金属塩等が挙げられる。また、ノニオン性有機高分子凝集剤としては、ポリ(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。また、アニオン性有機高分子凝集剤やノニオン性有機高分子凝集剤の添加量にも特に限定はなく、フォトリソグラフィー工程排水の性状に応じて調整すればよいが、フォトリソグラフィー工程排水に対して、それぞれ概ね0.01〜10mg/Lである。
【0044】
そして、フォトリソグラフィー工程排水に有機凝結剤を添加してもよい。有機凝結剤の添加も、後述する固液分離処理の前であればよく、疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤をフォトリソグラフィー工程排水に添加する前でも後でもよく、また、疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤と同時に添加してもよいが、疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤の添加と同時または前に添加することが好ましい。有機凝結剤にも特に限定はなく、例えば、ポリエチレンイミン、エチレンジアミンエピクロルヒドリン重縮合物、ポリアルキレンポリアミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドや、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの4級アンモニウム塩を重合して得られるポリマー等、通常排水処理で使用されるカチオン性有機系ポリマーが挙げられる。また、有機凝結剤の添加量にも特に限定はなく、処理するフォトリソグラフィー工程排水の性状に応じて調整すればよいが、フォトリソグラフィー工程排水に対して概ね固形分で0.01〜10mg/Lである。
さらに、必要に応じて、殺菌剤、消臭剤、消泡剤、防食剤なども任意に併用してもよい。
【0045】
このように、フォトリソグラフィー工程排水に、疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤、必要に応じて添加する無機凝集剤、アニオン性有機高分子凝集剤、ノニオン性有機高分子凝集剤、有機凝結剤を添加し、必要に応じて撹拌等して、フォトリソグラフィー工程排水に含まれる感光性樹脂成分や顔料等の濁質を凝集させてフロックを形成した後は、生成した凝集フロックを被処理水から除去する固液分離処理をする。
【0046】
固液分離処理としては、凝集沈殿処理、加圧浮上処理、濾過処理等が挙げられる。沈殿処理や加圧浮上処理は、疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤をフォトリソグラフィー工程排水に添加する時に、カセイソーダ、消石灰や硫酸などでpH調整を行い、最後に有機系高分子凝集剤にて懸濁物をフロック化する。
【0047】
このような凝集沈殿処理、加圧浮上処理、濾過処理等の固液分離処理により、清澄な処理水が得られるが、凝集沈殿処理や加圧浮上処理、濾過処理等の固液分離処理の後段に、通常の排水処理で用いられる精密濾過膜、限外濾過膜や、逆浸透膜(RO膜)等による膜分離処理を行ってもよい。また、イオン交換処理等の脱イオン処理、活性炭処理や、脱炭酸処理等、被処理水の精製処理をさらに行ってもよい。そして、必要に応じて、紫外線照射、オゾン処理、生物処理なども行ってもよい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例に基づいてさらに詳述するが、本発明はこの実施例により何ら限定されるものではない。
(実施例1)
被処理水(原水)として、カラーフィルターを製造する際の現像工程で生じた排水(フォトリソグラフィー工程排水)を用いた。具体的には、RGB(赤緑青)三原色を形成する顔料、シナジスト、アニオン性の分散剤ポリマー、メタクリル酸系ポリマー、光重合性モノマー、光重合開始剤、ノニオン性界面活性剤及び水酸化カリウムを含有するフォトリソグラフィー工程排水(外観:濃茶色〜濃緑色、pH11.5、導電率:487mS/m、TOC(全有機炭素):430mg/L、濁度:255度、Na濃度:2.5mg/L、K濃度:488mg/L、Fe濃度:2.8mg/L、Ni濃度:0.8mg/L、Cu濃度::5.3mg/L)を被処理水とした。この被処理水を500mL入れた500mLビーカーをジャーテスターに置き、疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤として、0.1N−NaCl、30℃で測定した固有粘度が7.9dl/gのジメチルアミノエチルメタクリレートのベンジルクロライド4級化物(DAM(BzCl))の重合体(P−1)を、フォトリソグラフィー工程排水に対して40g/mL添加し、150rpmで1分間、その後50rpmで3分間撹拌した。
その後、無機凝集剤としてポリ硫酸第二鉄の水溶液製品(鉄として11質量%、20℃での比重が1.45)を、フォトリソグラフィー工程排水に対して1000g/mL添加した後、pHを7に調製し、150rpmで3分間撹拌した。
次いで、アクリル酸ナトリウム(NaA)と、アクリルアミド(AAm)とをNaA:AAm=20:80(モル%)で共重合させて得られた、1N−NaCl、30℃で測定した固有粘度が21.5dl/gのアニオン性有機高分子凝集剤を、フォトリソグラフィー工程排水に対して1g/mL添加し、150rpmで1分間、その後50rpmで3分間撹拌した。このアニオン性有機高分子凝集剤を添加した後の撹拌中に、目視によりフロック径を求めた。その後、No.5A濾紙(アドバンテック社製、保留粒子径7μm)にて濾過し、濾液の濁度を、カオリン標準液を用いた透過光測定方法により測定した。カチオン性有機高分子凝集剤を表1に、求めたフロック径及び濾液の濁度を表2に示す。
【0049】
(実施例2)
ジメチルアミノエチルメタクリレートのベンジルクロライド4級化物の重合体の添加量をフォトリソグラフィー工程排水に対して20mg/Lとした以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表2に示す。
【0050】
(実施例3)
ジメチルアミノエチルメタクリレートのベンジルクロライド4級化物の重合体のかわりに、ジメチルアミノエチルメタクリレートのベンジルクロライド4級化物(DAM(BzCl))とアクリルアミド(AAm)をDAM(BzCl):AAm=60:40(モル%)で共重合させた、0.1N−NaCl、30℃で測定した固有粘度が8.5dl/gの疎水性官能性基を有するカチオン性ポリマー(P−2)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表2に示す。
【0051】
(実施例4)
ジメチルアミノエチルメタクリレートのベンジルクロライド4級化物の重合体のかわりに、ジメチルアミノエチルメタクリレートのメチルクロライド4級化物(DAM(CHCl))とアクリロニトリル(AN)をDAM(CHCl):AN=60:40(モル%)で共重合させた、0.1N−NaCl、30℃で測定した固有粘度が10.5dl/gの疎水性カチオン性ポリマー(P−3)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表2に示す。
【0052】
(実施例5)
ジメチルアミノエチルメタクリレートのベンジルクロライド4級化物の重合体のかわりに、0.1N−NaCl、30℃で測定した固有粘度が4.2dl/gのジメチルアミノエチルメタクリレートのベンジルクロライド4級化物(DAM(BzCl))の重合体(P−4)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表2に示す。
【0053】
(実施例6)
ジメチルアミノエチルメタクリレートのベンジルクロライド4級化物の重合体のかわりに、ジメチルアミノエチルメタクリレートのベンジルクロライド4級化物(DAM(BzCl))とアクリルアミド(AAm)をDAM(BzCl):AAm=10:90(モル%)で共重合させた、0.1N−NaCl、30℃で測定した固有粘度が7.6dl/gの疎水性官能基を有するカチオン性ポリマー(P−5)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表2に示す。
【0054】
(実施例7)
ジメチルアミノエチルメタクリレートのベンジルクロライド4級化物の重合体の添加量をフォトリソグラフィー工程排水に対して60mg/Lとし、無機凝集剤及びアニオン性有機高分子凝集剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表2に示す。
【0055】
(比較例1)
ジメチルアミノエチルメタクリレートのベンジルクロライド4級化物の重合体のかわりに、疎水性官能基を有さない高分子凝集剤である0.1N−NaCl、30℃で測定した固有粘度が8.1dl/gのジメチルアミノエチルメタクリレートのメチルクロライド4級化物(DAM(CHCl))の重合体(P−6)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表2に示す。
【0056】
(比較例2)
ジメチルアミノエチルメタクリレートのベンジルクロライド4級化物の重合体を用いなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表2に示す。
【0057】
(比較例3)
ジメチルアミノエチルメタクリレートのベンジルクロライド4級化物の重合体を用いず、また、無機凝集剤の添加量をフォトリソグラフィー工程排水に対して3500mg/Lとした以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表2に示す。
【0058】
この結果、疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤をフォトリソグラフィー工程排水に添加した実施例1〜7では、疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤を添加しなかった比較例1〜3と比較して大きく強固なフロックが形成され、濾過して得られた濁度は比較例1〜3と比較して顕著に低かった。また、30℃固有粘度が5dl/g以上の疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤を用いた実施例1は、30℃固有粘度が4.2dl/gの疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤を用いた実施例5と比較して、濁度が低い処理水が得られた。そして、疎水性官能基を有するカチオン性モノマーの共重合比が60%以上である実施例3は、疎水性官能基を有するカチオン性モノマーの共重合比が10%である実施例6と比較して、濁度が顕著に低い処理水が得られた。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
(比較例4)
実施例1と同様の被処理水(フォトリソグラフィー工程排水)500mLを入れた500mLビーカーをジャーテスターに置き、疎水性官能基を有さないカチオン性高分子である重量平均分子量75万のポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(P−DADMAC)(P−7)を、フォトリソグラフィー工程排水に対して40g/mL添加し、150rpmで90秒間撹拌した。この撹拌中に、目視によりフロック径を求めた。その後、No.5A濾紙(アドバンテック社製、保留粒子径7μm)にて濾過し、濾液の濁度を、カオリン標準液を用いた透過光測定方法により測定した。求めたフロック径及び濾液の濁度を表3に示す。また、希釈無し、及び、2倍、5倍、10倍に純水で希釈した被処理水について、それぞれゼータ電位を測定した結果を表4に示す。
【0062】
(比較例5)
実施例1と同様の被処理水を純水で5倍に希釈したものを被処理水とした以外は、比較例4と同様の操作を行って、フロック径及び濁度を求めた。結果を表3に示す。
【0063】
(実施例8)
ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(P−DADMAC)のかわりに、0.1N−NaCl、30℃で測定した固有粘度が7.9dl/gのジメチルアミノエチルメタクリレートのベンジルクロライド4級化物(DAM(BzCl))の重合体(P−1)を用いた以外は、比較例4と同様の操作を行った。
この結果、疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤をフォトリソグラフィー工程排水に添加した実施例8や、5倍に希釈した被処理水を用いた比較例5では、比較例4と比較して大きく強固なフロックが形成された。
ここで、表4の結果から、希釈していない被処理水(比較例4)のゼータ電位は零に近いが、希釈によって顔料周囲のノニオン性界面活性剤濃度が減少し、顔料本来の電荷が出現してゼータ電位がマイナスに大きくなることが分かる。そして、希釈することによりゼータ電位をマイナスに大きくした比較例5では大きなフロックを形成することができたが、ゼータ電位が零に近い比較例4では大きなフロックを形成することができていないことから、疎水性官能基を有さないカチオン性有機高分子であるP−DADMACは顔料に静電的に吸着しているといえる。一方、実施例8では、ゼータ電位が零に近い被処理水でも大きなフロックが形成されているため、添加した疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤が疎水性相互作用を起こしているといえる。このように、本発明においては、疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤が疎水性相互作用を起こしているため、被処理水を希釈するという工程を経ずに、簡便な方法で十分に処理することができる。
【0064】
【表3】

【0065】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトリソグラフィー工程排水に疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤を添加した後、固液分離処理を行うことを特徴とするフォトリソグラフィー工程排水の処理方法。
【請求項2】
前記疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤が、少なくとも下記一般式(1)で表されるカチオン性モノマーを重合して得られるカチオン性ポリマーを含有することを特徴とする請求項1に記載するフォトリソグラフィー工程排水の処理方法。
【化1】

(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、R及びRはそれぞれ炭素数1〜3のアルキル基を表し同一でも異なっていてもよい。Rはベンジル基を表し、Yは−O−または−NH−を表す。mは1〜3の整数であり、X1−はハロゲンアニオン、モノアルキル硫酸アニオンまたは鉱酸に由来するアニオンを表す。)
【請求項3】
前記疎水性官能基を有するカチオン性有機高分子凝集剤が、下記一般式(2)で表されるカチオン性モノマーと疎水性官能基を有するノニオン性モノマーとを共重合して得られるカチオン性ポリマーを含有することを特徴とする請求項1に記載するフォトリソグラフィー工程排水の処理方法。
【化2】

(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、R及びRはそれぞれ炭素数1〜3のアルキル基を表し同一でも異なっていてもよい。Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはベンジル基を表し、Yは−O−または−NH−を表す。mは1〜3の整数であり、X2−はハロゲンアニオン、モノアルキル硫酸アニオンまたは鉱酸に由来するアニオンを表す。)
【請求項4】
前記フォトリソグラフィー工程排水に、無機凝集剤を添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載するフォトリソグラフィー工程排水の処理方法。

【公開番号】特開2012−96146(P2012−96146A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244802(P2010−244802)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】