説明

フォトルミネッセンス光のピーク波長取得方法、ピーク波長取得装置、プログラム及び情報記録媒体

【課題】高コスト化を招くことなく、活性層のPLピーク波長を精度良く取得することができるフォトルミネッセンス光のピーク波長取得方法を提供する。
【解決手段】 主制御装置は、複数の温度で、戻り光の光強度とPL光の光強度を計測し、該戻り光の光強度に基づいて、試料に入射した励起光の光強度を算出し、計測されたPL光の光強度を規格化する(S415〜S423)。そして、主制御装置は、規格化されたPL光の光強度の温度依存性から、規格化されたPL光の光強度が最大になる温度を求め、PLピーク波長を算出する(S441〜S445)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトルミネッセンス光のピーク波長取得方法、ピーク波長取得装置、プログラム及び情報記録媒体に係り、更に詳しくは、面発光レーザにおけるフォトルミネッセンス光のピーク波長取得方法、面発光レーザにおけるフォトルミネッセンス光のピーク波長を取得するピーク波長取得装置、面発光レーザにおけるフォトルミネッセンス光のピーク波長を取得する装置で用いられるプログラム、及び該プログラムが記録された情報記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
垂直共振器型の面発光レーザ素子(Vertical Cavity Surface Emitting Laser、以下では、「VCSEL」ともいう)は、基板に垂直な方向に光を射出するものであり、基板に平行な方向に光を射出する端面発光型の半導体レーザ素子よりも低価格、低消費電力、小型、2次元デバイスに好適、かつ、高性能であることから、近年、注目されている。
【0003】
VCSELの応用分野としては、プリンタにおける光書き込み系の光源(発振波長:780nm帯)、光ディスク装置における書き込み用光源(発振波長:780nm帯、850nm帯)、光ファイバを用いるLAN(Local Area Network)などの光伝送システムの光源(発振波長:1.3μm帯、1.5μm帯)が挙げられる。さらには、ボード間、ボード内、集積回路(LSI:Large Scale Integrated circuit)のチップ間、及び集積回路のチップ内の光伝送用の光源としても期待されている。
【0004】
VCSELのデバイス特性を左右する重要な設計パラメータとして、VCSELの発振波長と活性層の利得ピーク波長との差がある。この差は、「デチューニング」と呼ばれている。
【0005】
上記VCSELの発振波長は、共振器構造体とそれを挟む上下の多層膜反射鏡(DBR)とにより決定される共振波長である。
【0006】
上記活性層の利得ピーク波長は、電流もしくは光励起により活性層にキャリアが注入されたときの、正味の利得が最大になる波長である。
【0007】
これら共振波長と利得ピーク波長とが一致していると、発振閾値が小さくなる。
【0008】
しかしながら、環境温度が高くなるなどでVCSELの温度が上昇すると、利得ピーク波長が共振波長よりも長波長になる。利得ピーク波長と共振波長とが異なっていると、VCSELから取り出される光は、活性層の最も利得が高い波長の光ではなくなる。そこで、VCSELの温度が上昇するにつれて、発振閾値の上昇や光出力の低下等の発光特性の変化が生じることになる。
【0009】
このように、デチューニングは、デバイス特性を左右する設計パラメータである。
【0010】
また、デチューニングは、温度による発振閾値の変化に密接に関連するパラメータであるため、発振閾値と相関を有する特性の温度依存性をコントロールする際の非常に重要なパラメータとなりうる。
【0011】
そして、このデチューニングを制御するには、多層膜反射鏡(DBR)及び共振器構造体を形成する際に、数ナノメートル(nm)の精度が要求される。
【0012】
また、デチューニングは共振波長と利得ピーク波長とで決定されるため、特にデチューニングを厳密に制御しなければならないような素子を得ようとする場合、共振波長に加えて、利得ピーク波長も高精度に求め、実際にデチューニングがどれほどの値であるかを知ることは非常に重要である。
【0013】
共振波長は、ウエハ上に複数の半導体層がエピタキシャル成長によって積層された状態で、その光反射スペクトルを測定することで求めることができる。この光反射スペクトルには、ストップバンド幅と呼ばれる多層膜反射鏡(DBR)の高反射帯域が存在する。そして、この高反射帯域のほぼ中心部に、共振によるディップ(反射率が少し低下する部分)があり、そのディップの先端が共振波長である。
【0014】
利得ピーク波長は、電流もしくは光励起により高密度のキャリアが活性層に生成されたときに、正味の利得が最大になる波長であるため、ウエハ上に複数の半導体層がエピタキシャル成長によって積層された状態で測定することは困難である。
【0015】
そこで、利得ピーク波長と強い相関関係がある活性層のフォトルミネッセンス光のスペクトルにおけるピーク波長を目安にすることが通常行われている。なお、以下では、フォトルミネッセンス光を「PL光」ともいい、該PL光のスペクトルを「PLスペクトル」と略述し、該PLスペクトルにおけるピーク波長を「PLピーク波長」と略述する。
【0016】
従って、VCSELの設計において、共振波長と活性層のPLピーク波長を指定することが通常行われている。
【0017】
ところで、活性層のPLスペクトルを多層膜反射鏡(DBR)を通して測定すると、測定されたPLスペクトルにおけるピーク波長は、共振波長と同じになってしまう。すなわち、固有の共振波長に共振した波長のみが多層膜反射鏡(DBR)を通して出てくることになり、活性層自体のPLピーク波長は測定できない。
【0018】
そこで、例えば、特許文献1には、λcを共振器の共振波長とし、λaを活性層の利得ピーク波長とし、Δλhを熱処理または通電による利得ピーク波長λaのシフト量とし、ΔλTを環境温度の上昇による利得ピーク波長λaのシフト量とするとき、成長直後の活性層における室温の利得ピーク波長λa(0)を、λa(0)=λc+Δλh−ΔλTを満たすように初期設定する垂直共振器型面発光半導体レーザの製造方法が開示されている。
【0019】
また、特許文献2には、基板上に多層膜反射鏡と共振器とを有する第1のキャリブレーション構造を形成する第1の工程と、第1のキャリブレーション構造における活性層のフォトルミネッセンス測定から発光ピーク波長を求める第2の工程と、活性層の発光ピーク波長が所定の波長となるように、活性層の形成条件を調整する第3の工程と、第3の工程で得られた活性層の形成条件に基づき、活性層を含む共振器と当該共振器の上下に設けられた多層膜反射鏡とを有する面発光レーザを形成する第4の工程とを有する面発光レーザの製造方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示されている製造方法では、形成されたVCSELそのもののPLピーク波長を求めているわけではないため、その精度が不明であった。そして、安定した繰り返し再現性が得られているとはいっても、PLピーク波長の再現性が常に得られていることを保証するものではなかった。
【0021】
また、特許文献2に開示されている製造方法では、得られた発光ピーク波長が前回の発光ピーク波長と大きく異なった場合、「キャリブレーション構造における活性層=VCSELの活性層」という仮定が崩れてしまう。
【0022】
しかも、キャリブレーション構造を一定期間毎に形成しなければならないため、VCSELそのものを形成するのとほとんど変わらない時間とコストが必要であった。
【0023】
本発明は、かかる事情の下になされたもので、その第1の目的は、高コスト化を招くことなく、活性層のPLピーク波長を精度良く取得することができるフォトルミネッセンス光のピーク波長取得方法を提供することにある。
【0024】
また、本発明の第2の目的は、高コスト化を招くことなく、活性層のPLピーク波長を精度良く取得することができるフォトルミネッセンス光のピーク波長取得装置を提供することにある。
【0025】
また、本発明の第3の目的は、PLピーク波長を取得する装置の制御用コンピュータにて実行され、活性層のPLピーク波長を精度良く取得することを可能とするプログラム及びそのプログラムが記録された記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、第1の観点からすると、活性層を含む共振器構造体、及び該共振器構造体を挟んで設けられた半導体多層膜反射鏡を含む複数の半導体層が積層された面発光レーザ素子における、前記活性層のフォトルミネッセンス光のピーク波長を取得するピーク波長取得方法であって、レーザ光を用いて前記活性層を励起し、フォトルミネッセンス光を発光させる工程と、複数の温度で、前記フォトルミネッセンス光の光強度をそれぞれ測定する工程と、前記フォトルミネッセンス光の光強度の温度依存性から、前記フォトルミネッセンス光の光強度が最大になる温度を求める工程と、前記フォトルミネッセンス光の光強度が最大になる温度と、予め得られているフォトルミネッセンス光の波長シフトの温度依存性とに基づいて、前記面発光レーザ素子の使用温度における前記活性層のフォトルミネッセンス光のピーク波長を算出する工程と、を含むピーク波長取得方法である。
【0027】
これによれば、高コスト化を招くことなく、活性層のPLピーク波長を精度良く取得することができる。
【0028】
本発明は、第2の観点からすると、活性層を含む共振器構造体、及び該共振器構造体を挟んで設けられた半導体多層膜反射鏡を含む複数の半導体層が積層された面発光レーザ素子における、前記活性層のフォトルミネッセンス光のピーク波長を取得するピーク波長取得装置であって、面発光レーザ素子の温度を制御する温度制御装置と、レーザ光を射出して前記活性層を励起し、フォトルミネッセンス光を発光させるレーザ装置と、前記フォトルミネッセンス光の光強度を検出する光検出器と、前記温度制御装置によって前記面発光レーザ素子の温度を変化させ、前記光検出器の出力に基づいて複数の温度で前記フォトルミネッセンス光の光強度をそれぞれ測定し、該光強度の温度依存性から、該光強度が最大になる温度を求め、該温度と予め得られているフォトルミネッセンス光の波長シフトの温度依存性とに基づいて、前記面発光レーザ素子の使用温度における前記活性層のフォトルミネッセンス光のピーク波長を算出する処理装置と、を備えるピーク波長取得装置である。
【0029】
これによれば、高コスト化を招くことなく、活性層のPLピーク波長を精度良く取得することができる。
【0030】
本発明は、第3の観点からすると、活性層を含む共振器構造体、及び該共振器構造体を挟んで設けられた半導体多層膜反射鏡を含む複数の半導体層が積層された面発光レーザ素子における、前記活性層のフォトルミネッセンス光のピーク波長を取得する装置で用いられるプログラムであって、レーザ光を用いて前記活性層を励起し、フォトルミネッセンス光を発光させる手順と、複数の温度で、前記フォトルミネッセンス光の光強度をそれぞれ測定する手順と、前記フォトルミネッセンス光の光強度の温度依存性から、前記フォトルミネッセンス光の光強度が最大になる温度を求める手順と、前記フォトルミネッセンス光の光強度が最大になる温度と、予め得られているフォトルミネッセンス光の波長シフトの温度依存性とに基づいて、前記面発光レーザ素子の使用温度における前記活性層のフォトルミネッセンス光のピーク波長を算出する手順と、を前記装置の制御用コンピュータに実行させるプログラムである。
【0031】
これによれば、活性層のPLピーク波長を精度良く取得することができる。
【0032】
本発明は、第4の観点からすると、本発明のプログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な情報記録媒体である。
【0033】
これによれば、本発明のプログラムが記録されているために、コンピュータに実行させることにより、活性層のPLピーク波長を精度良く取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係るレーザプリンタの概略構成を説明するための図である。
【図2】図1における光走査装置を示す概略図である。
【図3】図2の光源に含まれる面発光レーザ素子の構成を説明するための図である。
【図4】面発光レーザ素子の製造方法を説明するための図(その1)である。
【図5】面発光レーザ素子の製造方法を説明するための図(その2)である。
【図6】面発光レーザ素子の製造方法を説明するための図(その3)である。
【図7】面発光レーザ素子の製造方法を説明するための図(その4)である。
【図8】面発光レーザ素子の製造方法を説明するための図(その5)である。
【図9】面発光レーザ素子の製造方法を説明するための図(その6)である。
【図10】面発光レーザ素子の製造方法を説明するための図(その7)である。
【図11】面発光レーザ素子の反射スペクトルを説明するための図である。
【図12】活性層のPLスペクトルを図11に重ねた図である。
【図13】活性層のPLスペクトルの波長シフトを説明するための図である。
【図14】PL光の光強度と温度との関係を説明するための図である。
【図15】検査装置の構成を説明するための図である。
【図16】検査装置の主制御装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【図17】検査装置の変形例を説明するための図である。
【図18】図17の検査装置の主制御装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図16に基づいて説明する。図1には、一実施形態に係る画像形成装置としてのレーザプリンタ1000の概略構成が示されている。
【0036】
このレーザプリンタ1000は、光走査装置1010、感光体ドラム1030、帯電装置1031、現像ローラ1032、転写チャージャ1033、除電ユニット1034、クリーニングユニット1035、トナーカートリッジ1036、給紙コロ1037、給紙トレイ1038、レジストローラ対1039、定着ローラ1041、排紙ローラ1042、排紙トレイ1043、通信制御装置1050、及び上記各部を統括的に制御するプリンタ制御装置1060などを備えている。なお、これらは、プリンタ筐体1044の中の所定位置に収容されている。
【0037】
通信制御装置1050は、ネットワークなどを介した上位装置(例えばパソコン)との双方向の通信を制御する。
【0038】
プリンタ制御装置1060は、CPU、該CPUにて解読可能なコードで記述されたプログラム及び該プログラムを実行する際に用いられる各種データが格納されているROM、作業用のメモリであるRAM、アナログデータをデジタルデータに変換するAD変換回路などを有している。そして、プリンタ制御装置1060は、上位装置からの要求に応じて各部を制御するとともに、上位装置からの画像情報を光走査装置1010に送る。
【0039】
感光体ドラム1030は、円柱状の部材であり、その表面には感光層が形成されている。すなわち、感光体ドラム1030の表面が被走査面である。そして、感光体ドラム1030は、図1における矢印方向に回転するようになっている。
【0040】
帯電装置1031、現像ローラ1032、転写チャージャ1033、除電ユニット1034及びクリーニングユニット1035は、それぞれ感光体ドラム1030の表面近傍に配置されている。そして、感光体ドラム1030の回転方向に沿って、帯電装置1031→現像ローラ1032→転写チャージャ1033→除電ユニット1034→クリーニングユニット1035の順に配置されている。
【0041】
帯電装置1031は、感光体ドラム1030の表面を均一に帯電させる。
【0042】
光走査装置1010は、帯電装置1031で帯電された感光体ドラム1030の表面を、上位装置からの画像情報に基づいて変調された光束により走査し、感光体ドラム1030の表面に画像情報に対応した潜像を形成する。ここで形成された潜像は、感光体ドラム1030の回転に伴って現像ローラ1032の方向に移動する。なお、この光走査装置1010の構成については後述する。
【0043】
トナーカートリッジ1036にはトナーが格納されており、該トナーは現像ローラ1032に供給される。
【0044】
現像ローラ1032は、感光体ドラム1030の表面に形成された潜像にトナーカートリッジ1036から供給されたトナーを付着させて画像情報を顕像化させる。ここでトナーが付着した像(以下では、便宜上「トナー像」ともいう)は、感光体ドラム1030の回転に伴って転写チャージャ1033の方向に移動する。
【0045】
給紙トレイ1038には記録紙1040が格納されている。この給紙トレイ1038の近傍には給紙コロ1037が配置されており、該給紙コロ1037は、記録紙1040を給紙トレイ1038から1枚ずつ取り出し、レジストローラ対1039に搬送する。該レジストローラ対1039は、給紙コロ1037によって取り出された記録紙1040を一旦保持するとともに、該記録紙1040を感光体ドラム1030の回転に合わせて感光体ドラム1030と転写チャージャ1033との間隙に向けて送り出す。
【0046】
転写チャージャ1033には、感光体ドラム1030の表面のトナーを電気的に記録紙1040に引きつけるために、トナーとは逆極性の電圧が印加されている。この電圧により、感光体ドラム1030の表面のトナー像が記録紙1040に転写される。ここで転写された記録紙1040は、定着ローラ1041に送られる。
【0047】
定着ローラ1041では、熱と圧力とが記録紙1040に加えられ、これによってトナーが記録紙1040上に定着される。ここで定着された記録紙1040は、排紙ローラ1042を介して排紙トレイ1043に送られ、排紙トレイ1043上に順次、積み重ねられる。
【0048】
除電ユニット1034は、感光体ドラム1030の表面を除電する。
【0049】
クリーニングユニット1035は、感光体ドラム1030の表面に残ったトナー(残留トナー)を除去する。残留トナーが除去された感光体ドラム1030の表面は、再度帯電装置1031に対向する位置に戻る。
【0050】
次に、前記光走査装置1010の構成について説明する。
【0051】
この光走査装置1010は、一例として図2に示されるように、光源14、カップリングレンズ15、開口板16、シリンドリカルレンズ17、反射ミラー18、ポリゴンミラー13、第1走査レンズ11a、第2走査レンズ11b、及び走査制御装置(図示省略)などを備えている。そして、これらは、光学ハウジング30の所定位置に組み付けられている。
【0052】
なお、以下では、便宜上、主走査方向に対応する方向を「主走査対応方向」と略述し、副走査方向に対応する方向を「副走査対応方向」と略述する。
【0053】
カップリングレンズ15は、光源14から出力された光束を略平行光とする。
【0054】
開口板16は、開口部を有し、カップリングレンズ15を介した光束のビーム径を規定する。
【0055】
シリンドリカルレンズ17は、開口板16の開口部を通過した光束を、反射ミラー18を介してポリゴンミラー13の偏向反射面近傍に副走査対応方向に関して結像する。
【0056】
光源14とポリゴンミラー13との間の光路上に配置される光学系は、偏向器前光学系とも呼ばれている。本実施形態では、偏向器前光学系は、カップリングレンズ15と開口板16とシリンドリカルレンズ17と反射ミラー18とから構成されている。
【0057】
ポリゴンミラー13は、高さの低い正六角柱状部材からなり、側面に6面の偏向反射面が形成されている。このポリゴンミラー13は、副走査対応方向に平行な軸のまわりを等速回転しながら、反射ミラー18からの光束を偏向する。
【0058】
第1走査レンズ11aは、ポリゴンミラー13で偏向された光束の光路上に配置されている。
【0059】
第2走査レンズ11bは、第1走査レンズ11aを介した光束の光路上に配置されている。そして、この第2走査レンズ11bを介した光束が、感光体ドラム1030の表面に照射され、光スポットが形成される。この光スポットは、ポリゴンミラー13の回転に伴って感光体ドラム1030の長手方向に移動する。すなわち、感光体ドラム1030上を走査する。このときの光スポットの移動方向が「主走査方向」である。また、感光体ドラム1030の回転方向が「副走査方向」である。
【0060】
ポリゴンミラー13と感光体ドラム1030との間の光路上に配置される光学系は、走査光学系とも呼ばれている。本実施形態では、走査光学系は、第1走査レンズ11aと第2走査レンズ11bとから構成されている。なお、第1走査レンズ11aと第2走査レンズ11bの間の光路上、及び第2走査レンズ11bと感光体ドラム1030の間の光路上の少なくとも一方に、少なくとも1つの折り返しミラーが配置されても良い。
【0061】
光源14は、一例として図3に示されるように、面発光レーザ素子100を有している。なお、本明細書では、レーザ発振方向をZ軸方向とし、Z軸方向に直交する面内における互いに直交する2つの方向をX軸方向及びY軸方向として説明する。図3は面発光レーザ素子100をXZ面に平行に切断したときの切断面を示す図である。
【0062】
面発光レーザ素子100は、発振波長が780nm帯の面発光レーザ素子であり、基板101、バッファ層102、下部半導体DBR103、下部スペーサ層104、活性層105、上部スペーサ層106、上部半導体DBR107、コンタクト層109などを有している。
【0063】
基板101は、n−GaAs単結晶基板である。
【0064】
バッファ層102は、基板101の+Z側の面上に積層され、n−GaAsからなる層である。
【0065】
下部半導体DBR103は、バッファ層102の+Z側の面上に積層され、n−Al0.93Ga0.07Asからなる低屈折率層と、n−Al0.3Ga0.7Asからなる高屈折率層のペアを42.5ペア有している。各屈折率層の間には、電気抵抗を低減するため、一方の組成から他方の組成へ向かって組成を徐々に変化させた厚さ20nmの組成傾斜層が設けられている。そして、各屈折率層はいずれも、隣接する組成傾斜層の1/2を含んで、発振波長をλとするとλ/4の光学的厚さとなるように設定されている。なお、光学的厚さがλ/4のとき、その層の実際の厚さDは、D=λ/4n(但し、nはその層の媒質の屈折率)である。
【0066】
下部スペーサ層104は、下部半導体DBR103の+Z側に積層され、ノンドープのAl0.33Ga0.67Asからなる層である。
【0067】
活性層105は、下部スペーサ層104の+Z側に積層され、GaInAsP/Al0.33Ga0.67Asからなる3重量子井戸構造の活性層である。
【0068】
上部スペーサ層106は、活性層105の+Z側に積層され、ノンドープのAl0.33Ga0.67Asからなる層である。
【0069】
下部スペーサ層104と活性層105と上部スペーサ層106とからなる部分は、共振器構造体とも呼ばれており、隣接する組成傾斜層の1/2を含んで、その厚さが1波長の光学的厚さとなるように設定されている。なお、活性層105は、高い誘導放出確率が得られるように、電界の定在波分布における腹に対応する位置である共振器構造体の中央に設けられている。
【0070】
上部半導体DBR107は、上部スペーサ層106の+Z側に積層され、p−Al0.93Ga0.07Asからなる低屈折率層とp−Al0.33Ga0.67Asからなる高屈折率層のペアを32ペア有している。各屈折率層の間には組成傾斜層が設けられている。そして、各屈折率層はいずれも、隣接する組成傾斜層の1/2を含んで、λ/4の光学的厚さとなるように設定されている。
【0071】
上部半導体DBR107における低屈折率層の1つには、p−Al0.99Ga0.01Asからなる被選択酸化層が厚さ30nmで挿入されている。この被選択酸化層の挿入位置は、上部スペーサ層106から2ペア目の低屈折率層中である。
【0072】
コンタクト層109は、上部半導体DBR107の+Z側に積層され、p−GaAsからなる層である。
【0073】
なお、このように基板101上に複数の半導体層が積層されたものを、以下では、便宜上「積層体」ともいう。そして、該積層体における+Z側の面を「表面」、−Z側の面を「裏面」という。
【0074】
次に、面発光レーザ素子100の製造方法について説明する。ここでは、基板101として、直径が75mmのn−GaAs単結晶基板を用い、複数の面発光レーザ素子100を同時に製造する。
【0075】
(1)上記積層体を有機金属気相成長法(MOCVD法)あるいは分子線エピタキシャル成長法(MBE法)による結晶成長によって作成する(図4参照)。
【0076】
III族の原料には、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)を用い、V族の原料には、フォスフィン(PH)、アルシン(AsH)を用いている。また、p型ドーパントの原料には四臭化炭素(CBr)、ジメチルジンク(DMZn)を用い、n型ドーパントの原料にはセレン化水素(HSe)を用いている。
【0077】
(2)積層体を試料として検査装置50(図15参照)にセットし、複数の計測点において活性層105のPLピーク波長を求める。なお、検査装置50及びPLピーク波長の取得方法の詳細については後述する。
【0078】
(3)積層体の表面における発光部となる領域に、一辺がL1(例えば、25μm)の正方形状のレジストパターンを形成する。
【0079】
(4)誘導結合型(ICP)ドライエッチング法で、上記レジストパターンをフォトマスクとしてメサ構造体(以下では、便宜上「メサ」と略述する)を形成する。ここでは、エッチングの底面は下部スペーサ層104中に位置するようにした。
【0080】
(5)フォトマスクを除去する(図5参照)。
【0081】
(6)積層体を水蒸気中で熱処理する。メサの外周部から被選択酸化層108中のAlが選択的に酸化される。そして、メサの中央部に、Alの酸化物108aによって囲まれた酸化されていない領域108bを残留させる(図6参照)。これにより、発光部の駆動電流の経路をメサの中央部だけに制限する、酸化狭窄構造体が作成される。上記酸化されていない領域108bが電流通過領域(電流注入領域)である。ここでは、種々の予備実験の結果から、電流通過領域108bが所望の大きさとなるように、熱処理の条件(保持温度、保持時間等)を適切に選択している。
【0082】
(7)プラズマCVD法を用いて、誘電体であるSiN、SiON及びSiOのいずれかからなる厚さが150nm〜300nmのパッシベーション膜111を形成する(図7参照)。
【0083】
(8)レーザ光の射出面となるメサ上部に、p側電極コンタクトの窓開け用のエッチングマスクを作製する。
【0084】
(9)BHFにてパッシベーション膜111をエッチングし、p側電極コンタクトの窓開けを行う。
【0085】
(10)エッチングマスクを除去する(図8参照)。
【0086】
(11)p側電極、電極パッド及び配線部材となる部分以外をフォトレジストによりマスクする。
【0087】
(12)p側の電極材料を蒸着する。p側の電極材料としてはCr/AuZn/Auからなる多層膜、もしくはAuZn/Ti/Auからなる多層膜が用いられる。
【0088】
(13)光出射部の電極材料をリフトオフし、p側電極113を形成する(図9参照)。ここでは、アセトン等のフォトレジストが溶解する溶液中で超音波洗浄することでp側電極113を形成している。このp側電極113で囲まれた領域が射出領域である。
【0089】
(14)基板101の裏側を所定の厚さ(例えば、100μm)まで研磨する。
【0090】
(15)研磨された基板101の裏側にn側電極114を形成する(図10参照)。ここでは、n側電極114はAuGe/Ni/Auからなる多層膜である。
【0091】
(16)アニールによって、p側電極113とn側電極114のオーミック導通をとる。これにより、メサは発光部となる。
【0092】
(17)チップ毎に切断する。
【0093】
そして、種々の後工程を経て、面発光レーザ素子100となる。
【0094】
図11には、上記積層体の表面から光を当てたときに、該積層体で反射された光のスペクトル(以下では、「反射スペクトル」と略述する)の一例が示されている。図11における0.9(=90%)以上の反射率を有する波長帯域Aのほぼ中央に、光強度の鋭い落ち込みが見られる。このときの波長が共振波長λoである。この共振波長λoは、半導体DBRの構成、構造、共振器構造体の膜厚によって、ある程度の範囲で任意に設定することが可能である。
【0095】
そして、波長帯域Aより短い波長の光、例えば、図11における波長λb(700nm)の光を射出するレーザを用意し、該レーザから射出された光(以下では、「励起用レーザ光」ともいう)を積層体の表面から入射すると、該励起用レーザ光に対する積層体の反射率は低いため、励起用レーザ光は活性層まで到達し、活性層を励起することができる。
【0096】
励起された活性層からの光は、波長が共振波長λoと一致する光のみを外部に取り出すことができる。
【0097】
図12は、活性層のPLスペクトルを図11に重ねた図である。通常、VCSELでは、電流注入によって発振すると、活性層の温度が上昇し、利得ピーク波長はPLピーク波長よりも長波長側にシフトするため、VCSELの設計では、利得ピーク波長を共振波長よりも短く設定することが多い。
【0098】
活性層のPLスペクトルは、ある波長幅を持った山形のピークを有している。しかしながら、VCSELでは、波長が共振波長λoと一致する光しか外部に取り出すことができない。そこで、従来は、VCSELそのもののPL波長を測定しても、活性層のPLピーク波長を求めることはできなかった。
【0099】
なお、VCSELからの取り出されたPL光の波長(=共振波長)は、分光器を用いて測定することができる。そして、その光強度は、光パワーメータなどで測定することができる。
【0100】
活性層のPL光の波長自体は共振波長λoに依存している。通常、共振波長λoの温度依存性は0.06nm/K程度である。そこで、活性層のPL光の波長は、温度による影響はほとんどない。
【0101】
一方、活性層のPLピーク波長の温度依存性は、活性層の種類によるが、共振波長λoの温度依存性よりも1桁ほど大きい。
【0102】
そこで、活性層のPLスペクトルは、温度が変化すると、一例として図13に示されるように、波長がシフトする。
【0103】
すなわち、上部半導体DBRを介して測定されるPL光の光強度は、一例として図14に示されるように、温度によって変化する。なお、以下では、上部半導体DBRを介して測定されるPL光の光強度を、「PL光測定強度」ともいう。
【0104】
そして、PL光測定強度と温度との関係において、PL光測定強度が最大となるときの温度をTPLとすると、温度TPLにおけるPL光の波長が共振波長λoである。そこで、VCSELが使用される温度T(℃)でのPLピーク波長λPL(単位:nm)は、次の(1)式で求めることができる。ここで、αは、PLピーク波長の温度係数(nm/K)である。
【0105】
λPL=λo−α×(TPL−(273+T)) ……(1)
【0106】
このように、PL光測定強度の温度依存性を計測することで、VCSELにおける活性層のPLピーク波長を求めることが可能である。
【0107】
上記αは、VCSELと同じ材料で作成された測定用構造体を用いて、そのPLピーク波長を種々の温度で測定し、その測定結果から1Kの温度変化あたりのPLピーク波長のシフト量として予め求められている。
【0108】
次に、上記検査装置50について説明する。
【0109】
この検査装置50は、一例として図15に示されるように、XYテーブル51、駆動装置52、加熱装置53、温度検出器54、温度コントローラ55、レーザ装置56、対物レンズ57、2つのビームスプリッタ(58、59)、3つの光検出器(60、61、62)、分光器63、主制御装置64、A/D変換器65、表示装置66、入力装置67などを備えている。なお、図15における矢印は、代表的な信号や情報の流れを示すものであり、各ブロックの接続関係の全てを表すものではない。
【0110】
XYテーブル51は、試料が載置されるテーブルである。このXYテーブル51は、一例としてアルミニウムを切削加工したものである。なお、XYテーブル51の材質は、温度の均一性が高い材質であれば良い。
【0111】
試料は、真空チャックでXYテーブル51上に保持される。なお、ここでは、上記積層体が試料となる。
【0112】
駆動装置52は、主制御装置64の指示に応じて、XYテーブル51をXY面内で2次元的に移動させる。
【0113】
加熱装置53は、XYテーブル51の直下に配置されたペルチェ素子を有し、XYテーブル51を加熱する。
【0114】
温度検出器54は、XYテーブル51に埋め込まれている熱電対を有し、XYテーブル51の温度を計測する。なお、以下では、XYテーブル51の温度を「テーブル温度」と略述する。
【0115】
温度コントローラ55は、テーブル温度が、主制御装置64から指示された温度になるように、温度検出器54の出力信号を参照しながら加熱装置53を制御する。ここでは、温度コントローラ55は、いわゆるPID制御を行う。
【0116】
また、温度コントローラ55は、テーブル温度を主制御装置64に通知する。
【0117】
レーザ装置56は、波長が650nm帯のレーザ光を射出する半導体レーザを有している。なお、レーザ光の波長は、上記波長帯域Aより短い波長であれば良い。また、半導体レーザに代えて、より短波長のYAGレーザを用いても良い。
【0118】
ビームスプリッタ58は、レーザ装置56から射出されたレーザ光(励起用レーザ光)の光路上に配置された分割面を有し、該励起用レーザ光を反射光と透過光とに分割する。この反射光は、XYテーブル51上の試料表面に向かう。なお、ビームスプリッタ58の分割面として、いわゆるハーフミラーを用いることができる。
【0119】
対物レンズ57は、ビームスプリッタ58とXYテーブル51上の試料表面との間に配置され、ビームスプリッタ58の分割面で反射された励起用レーザ光を集光する。
【0120】
光検出器60は、ビームスプリッタ58の分割面を透過した励起用レーザ光の光路上に配置され、該励起用レーザ光を受光する。光検出器60は、受光光量に応じた信号をレーザ装置56に出力する。レーザ装置56は、光検出器60の出力信号に基づいて、射出されるレーザ光の光強度が一定になるように半導体レーザを制御する制御部を有している。
【0121】
励起用レーザ光が試料に照射されると、試料からは、励起用レーザ光の戻り光(以下では、「戻り光」と略述する)、及びPL光が射出される。
【0122】
ビームスプリッタ59は、ビームスプリッタ58の+Z側に配置され、試料からのPL光及び戻り光の光路上に配置された分割面を有し、該PL光及び戻り光を反射光と透過光とに分割する。
【0123】
光検出器61は、ビームスプリッタ59で反射された光の光路上に配置され、該光を受光する。光検出器61は、受光光量に応じた信号をA/D変換器65を介して主制御装置64に出力する。なお、PL光の光強度に比べて、戻り光の光強度のほうが格段に大きいため、光検出器61の出力信号は、戻り光の光強度を反映したものとすることができる。
【0124】
分光器63は、ビームスプリッタ59の+Z側に配置され、ビームスプリッタ59の分割面を透過した光に含まれる戻り光を除去するとともに、PL光の波長を求める。分光器63は、PL光の波長を、A/D変換器65を介して主制御装置64に通知する。
【0125】
光検出器62は、分光器63を介したPL光の光路上に配置され、該PL光を受光する。光検出器62は、受光光量に応じた信号をA/D変換器65を介して主制御装置64に出力する。
【0126】
表示装置66は、例えばCRT、液晶ディスプレイ(LCD)及びプラズマ・ディスプレイ・パネル(PDP)などを用いた表示部(図示省略)を備え、主制御装置64から指示された各種情報を表示する。
【0127】
入力装置67は、例えばキーボード、マウス、タブレット、ライトペン及びタッチパネルなどのうち少なくとも1つの入力媒体(図示省略)を備え、使用者から入力された各種情報を主制御装置64に通知する。なお、入力媒体からの情報はワイヤレス方式で入力されても良い。また、表示装置66と入力装置67とが一体化されたものとして、例えばタッチパネル付きLCDなどがある。
【0128】
主制御装置64は、CPU、フラッシュメモリ、RAMなどを備えている。そして、フラッシュメモリには、CPUにて解読可能なコードで記述された複数のプログラム、及び各プログラムの実行に用いられる各種データ等が格納されている。RAMは、作業用のメモリである。CPUは、フラッシュメモリに格納されているプログラムにしたがって検査装置50の全体の動作を制御する。
【0129】
次に、PLピーク波長を取得する処理(PLピーク波長取得処理)での主制御装置64のCPUの動作について図16を用いて説明する。図16のフローチャートは、主制御装置64のCPUによって実行される一連の処理アルゴリズムに対応している。なお、試料としての積層体は、すでにXYテーブル51上に載置されているものとする。
【0130】
また、PL光を計測するときのテーブル温度として、10℃〜60℃の範囲内で複数の温度が使用者によって設定されており、低い方から順に1から始まる連番が付けられて、フラッシュメモリに格納されている。
【0131】
また、PL光を計測する計測位置として、積層体表面の有効エリア内で、その中心を原点として5mmおきに格子状に複数の位置が使用者によって設定されており、それぞれのX座標とY座標に、1から始まる連番が付けられて、フラッシュメモリに格納されている。
【0132】
最初のステップS401では、テーブル温度が何番目の温度であるかを示す温度カウンタNtに初期値1をセットする。
【0133】
次のステップS403では、計測位置が何番目の計測位置であるかを示す位置カウンタNcに初期値1をセットする。
【0134】
次のステップS405では、駆動装置52を介して、XYテーブル51をNc番目の計測位置に移動させる。
【0135】
次のステップS407では、温度コントローラ55に対して、テーブル温度がNt番目の温度となるように指示する。
【0136】
次のステップS409では、温度コントローラ55の出力信号に基づいて、テーブル温度がNt番目の温度で安定しているか否かを判断する。例えば、テーブル温度を所定の時間間隔で複数回求め、Nt番目の温度で略一定(ばらつきが±0.5℃以下)でなければ、ここでの判断は否定され、ステップS411に移行する。
【0137】
このステップS411では、所定時間待機した後、上記ステップS409に戻る。
【0138】
一方、上記ステップS409において、例えば、テーブル温度を所定の時間間隔で複数回求め、Nt番目の温度で略一定であれば、ステップS409での判断は肯定され、ステップS413に移行する。
【0139】
このステップS413では、レーザ装置56に励起用レーザ光の射出を指示する。
【0140】
次のステップS415では、光検出器61の出力信号に基づいて、戻り光の光強度を取得する。
【0141】
次のステップS417では、戻り光の光強度に基づいて、試料内部に入射した励起用レーザ光(以下では、「励起光」という)の光強度を算出する。ここでは、「レーザ装置56から射出された励起用レーザ光の光強度」−「戻り光の光強度」から、励起光の光強度を算出した。
【0142】
次のステップS419では、分光器63の出力信号に基づいて、PL光の波長(=共振波長)を取得する。
【0143】
次のステップS421では、光検出器62の出力信号に基づいて、PL光の光強度を取得する。
【0144】
次のステップS423では、上記励起光の光強度に基づいて、PL光の光強度を規格化する。そして、規格化されたPL光の光強度とPL光の波長とテーブル温度とを組にしてRAMに保存する。ここでは、一例として、「測定されたPL光の光強度」÷「励起光の光強度」を、規格化されたPL光の光強度としている。
【0145】
次のステップS425では、位置カウンタNcの値が、計測位置の総数であるNcmax以上であるか否かを判断する。位置カウンタNcの値がNcmax未満であれば、ここでの判断は否定され、ステップS427に移行する。
【0146】
このステップS427では、位置カウンタNcの値に1を加算する。
【0147】
次のステップS429では、駆動装置52を介して、XYテーブル51をNc番目の計測位置に移動させる。そして、上記ステップS415に戻る。
【0148】
以降、ステップS425での判断が肯定されるまで、ステップS415からステップS429までの処理を繰り返す。
【0149】
位置カウンタNcの値がNcmax以上になれば、ステップS425での判断が肯定され、ステップS431に移行する。
【0150】
このステップS431では、レーザ装置56に励起用レーザ光の射出停止を指示する。
【0151】
次のステップS433では、温度カウンタNtの値が、計測温度の総数であるNtmax以上であるか否かを判断する。温度カウンタNtの値がNtmax未満であれば、ここでの判断は否定され、ステップS435に移行する。
【0152】
このステップS435では、温度カウンタNtの値に1を加算する。そして、上記ステップS403に戻る。
【0153】
以降、ステップS433での判断が肯定されるまで、ステップS403からステップS435までの処理を繰り返す。
【0154】
温度カウンタNtの値がNtmax以上になれば、ステップS433での判断が肯定され、ステップS441に移行する。
【0155】
このステップS441では、RAMに保存されている複数組の規格化されたPL光の光強度とテーブル温度から、計測位置毎に、規格化されたPL光の光強度とテーブル温度との関係を示す近似式を求める。
【0156】
次のステップS443では、計測位置毎に、上記近似式から、規格化されたPL光の光強度が最大となるときのテーブル温度TPLを求める。
【0157】
次のステップS445では、計測位置毎に、上記(1)式を用いて、PLピーク波長を算出する。ここでは、VCSELが使用される温度T(℃)として、室温である25℃を用いた。そして、算出結果を表示装置66に表示し、PLピーク波長取得処理を終了する。
【0158】
主制御装置64は、使用者の要求があると、計測位置毎に、PLピーク波長と共振波長とからデチューニングを算出し、算出結果を表示装置66に表示する。
【0159】
使用者は、表示装置66に表示された各計測位置でのデチューニングに基づいて、製造される面発光レーザ素子の特性予測を行うことができる。例えば、良品/不良品の仮判定を行うことができる。この場合は、検査工程において、検査対象の面発光レーザ素子の数を減らすことが可能であり、検査に要する時間を短縮することができる。
【0160】
使用者は、表示装置66に表示された各計測位置でのデチューニングに基づいて、次回の積層体の構造を調整することにより、製造歩留まりの向上を図ることができる。
【0161】
以上の説明から明らかなように、本実施形態に係る検査装置50によって、本発明のピーク波長取得装置が構成されている。そして、検査装置50の主制御装置64によって、本発明のピーク波長取得方法が実施されている。
【0162】
また、主制御装置64のCPUによって、制御用コンピュータが構成され、主制御装置64のフラッシュメモリによって、本発明の情報記録媒体が構成されている。なお、主制御装置64では、CPUによるプログラムに従う処理の少なくとも一部をハードウェアによって構成することとしても良いし、あるいは全てをハードウェアによって構成することとしても良い。
【0163】
以上説明したように、本実施形態に係る検査装置50によると、XYテーブル51、駆動装置52、加熱装置53、温度検出器54、温度コントローラ55、レーザ装置56、対物レンズ57、2つのビームスプリッタ(58、59)、3つの光検出器(60、61、62)、分光器63、主制御装置64などを備えている。
【0164】
温度コントローラ55は、XYテーブル51を加熱装置53によって加熱し、温度検出器54の出力信号を参照して、XYテーブル51の温度が、主制御装置64から指示された温度に安定的に維持されるように制御する。
【0165】
光検出器61は、主として戻り光を受光し、光検出器62は、PL光を受光する。
【0166】
ところで、VCSELを構成する半導体の屈折率は、温度依存性を有しているため、厳密にいうと、温度が変化すると反射率が変動し、それに伴って面発光レーザ素子の内部に入射する励起光の強度は変化する。そのために、XYテーブル51の温度を変えると、わずかではあっても活性層で励起される光の強度が変化し、PL光の光強度の計測結果に誤差が生じるおそれがある。
【0167】
主制御装置64は、複数の温度で、戻り光の光強度とPL光の光強度を計測し、戻り光の光強度に基づいて、試料内に入射した励起光の光強度を算出し、計測されたPL光の光強度を規格化している。これにより、PL光の光強度を精度良く求めることができる。
【0168】
そして、主制御装置64は、規格化されたPL光の光強度の温度依存性から、規格化されたPL光の光強度が最大になる温度を求め、上記(1)式を用いてPLピーク波長を算出する。
【0169】
この場合は、高コスト化を招くことなく、活性層のPLピーク波長を精度良く取得することができる。
【0170】
ところで、基本的に活性層のPLピーク波長の温度依存性は材料系でほぼ決まるため、ほぼ同じ組成の積層体を繰り返し作成するような場合では、近似式はほぼ毎回同じトレンドを有すると考えて良い。そこで、上記近似式として以前に作成した近似式を用い、パラメータをある程度求めておき、フラッシュメモリに固定パラメータとして格納しておけば、テーブル温度の数を減らすことができる。例えば、近似式が、2次関数であれば、2次の係数のみを予め固定値として求めておき、計測毎に1次の係数と切片を決定するようにすれば、最低2つのテーブル温度での計測データがあれば、近似式を同定できる。この場合は、短時間で、PLピーク波長を取得することができる。
【0171】
なお、試料内に入射する励起光の光強度が安定している場合は、図17に示される検査装置50’のように、前記ビームスプリッタ59、及び前記光検出器61はなくても良い。この場合の主制御装置64のCPUの動作が図18に示されている。ここでは、計測されたPL光の光強度は、規格化されない。
【産業上の利用可能性】
【0172】
以上説明したように、本発明のフォトルミネッセンス光のピーク波長取得方法によれば、高コスト化を招くことなく、活性層のPLピーク波長を精度良く取得するのに適している。また、本発明のフォトルミネッセンス光のピーク波長取得装置によれば、高コスト化を招くことなく、活性層のPLピーク波長を精度良く取得するのに適している。また、本発明のプログラム及び記録媒体によれば、制御用コンピュータに、活性層のPLピーク波長を精度良く取得させるのに適している。
【符号の説明】
【0173】
11a…第1走査レンズ、11b…第2走査レンズ、13…ポリゴンミラー、14…光源、50…検査装置(ピーク波長取得装置)、50’…検査装置(ピーク波長取得装置)、51…XYテーブル、52…駆動装置、53…加熱装置(温度制御装置の一部)、54…温度検出器(温度制御装置の一部)、55…温度コントローラ(温度制御装置の一部)、56…レーザ装置、57…対物レンズ、58,59…ビームスプリッタ、60,61,62…光検出器、63…分光器、64…主制御装置(処理装置)、65…A/D変換器、66…表示装置、67…入力装置、103…下部半導体DBR、104…下部スペーサ層、105…活性層、106…上部スペーサ層、107…上部半導体DBR、1000…レーザプリンタ、1010…光走査装置、1030…感光体ドラム。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0174】
【特許文献1】特開2002−289968号公報
【特許文献2】特開2010−165723号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性層を含む共振器構造体、及び該共振器構造体を挟んで設けられた半導体多層膜反射鏡を含む複数の半導体層が積層された面発光レーザ素子における、前記活性層のフォトルミネッセンス光のピーク波長を取得するピーク波長取得方法であって、
レーザ光を用いて前記活性層を励起し、フォトルミネッセンス光を発光させる工程と、
複数の温度で、前記フォトルミネッセンス光の光強度をそれぞれ測定する工程と、
前記フォトルミネッセンス光の光強度の温度依存性から、前記フォトルミネッセンス光の光強度が最大になる温度を求める工程と、
前記フォトルミネッセンス光の光強度が最大になる温度と、予め得られているフォトルミネッセンス光の波長シフトの温度依存性とに基づいて、前記面発光レーザ素子の使用温度における前記活性層のフォトルミネッセンス光のピーク波長を算出する工程と、を含むピーク波長取得方法。
【請求項2】
前記フォトルミネッセンス光を発光させる工程では、前記複数の半導体層の積層構造から得られる反射スペクトルにおいて、90%以上の反射率を有する帯域より短い波長の一定出力のレーザ光が用いられることを特徴とする請求項1に記載のピーク波長取得方法。
【請求項3】
前記測定する工程では、前記フォトルミネッセンス光の光強度とともに、前記レーザ光の戻り光の光強度を測定し、
前記温度を求める工程に先だって、
前記複数の温度において、前記レーザ光の戻り光の光強度に基づいて、前記活性層を励起したレーザ光の光強度を算出する工程と、
前記複数の温度において計測された各フォトルミネッセンス光の光強度を、前記算出されたレーザ光の光強度を用いて規格化する工程と、を含み、
前記温度を求める工程では、前記規格化されたフォトルミネッセンス光の光強度の温度依存性から、前記フォトルミネッセンス光の光強度が最大になる温度を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載のピーク波長取得方法。
【請求項4】
前記温度を求める工程では、前記フォトルミネッセンス光の光強度と温度との関係を表す近似式を求め、該近似式から、前記フォトルミネッセンス光の光強度が最大になる温度を求めることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のピーク波長取得方法。
【請求項5】
活性層を含む共振器構造体、及び該共振器構造体を挟んで設けられた半導体多層膜反射鏡を含む複数の半導体層が積層された面発光レーザ素子における、前記活性層のフォトルミネッセンス光のピーク波長を取得するピーク波長取得装置であって、
面発光レーザ素子の温度を制御する温度制御装置と、
レーザ光を射出して前記活性層を励起し、フォトルミネッセンス光を発光させるレーザ装置と、
前記フォトルミネッセンス光の光強度を検出する光検出器と、
前記温度制御装置によって前記面発光レーザ素子の温度を変化させ、前記光検出器の出力に基づいて複数の温度で前記フォトルミネッセンス光の光強度をそれぞれ測定し、該光強度の温度依存性から、該光強度が最大になる温度を求め、該温度と予め得られているフォトルミネッセンス光の波長シフトの温度依存性とに基づいて、前記面発光レーザ素子の使用温度における前記活性層のフォトルミネッセンス光のピーク波長を算出する処理装置と、を備えるピーク波長取得装置。
【請求項6】
前記レーザ装置は、前記複数の半導体層の積層構造から得られる反射スペクトルにおいて、90%以上の反射率を有する帯域より短い波長の一定出力のレーザ光を射出することを特徴とする請求項5に記載のピーク波長取得装置。
【請求項7】
前記レーザ光の戻り光の光強度を検出する第2光検出器を更に備え、
前記処理装置は、前記複数の温度において、前記レーザ光の戻り光の光強度に基づいて、前記活性層を励起したレーザ光の光強度を算出し、前記複数の温度において計測された各フォトルミネッセンス光の光強度を、前記算出されたレーザ光の光強度を用いて規格化し、該規格化されたフォトルミネッセンス光の光強度の温度依存性から、前記フォトルミネッセンス光の光強度が最大になる温度を求めることを特徴とする請求項5又は6に記載のピーク波長取得装置。
【請求項8】
前記処理装置は、前記フォトルミネッセンス光の光強度と温度との関係を表す近似式を求め、該近似式から、前記フォトルミネッセンス光の光強度が最大になる温度を求めることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載のピーク波長取得装置。
【請求項9】
活性層を含む共振器構造体、及び該共振器構造体を挟んで設けられた半導体多層膜反射鏡を含む複数の半導体層が積層された面発光レーザ素子における、前記活性層のフォトルミネッセンス光のピーク波長を取得する装置で用いられるプログラムであって、
レーザ光を用いて前記活性層を励起し、フォトルミネッセンス光を発光させる手順と、
複数の温度で、前記フォトルミネッセンス光の光強度をそれぞれ測定する手順と、
前記フォトルミネッセンス光の光強度の温度依存性から、前記フォトルミネッセンス光の光強度が最大になる温度を求める手順と、
前記フォトルミネッセンス光の光強度が最大になる温度と、予め得られているフォトルミネッセンス光の波長シフトの温度依存性とに基づいて、前記面発光レーザ素子の使用温度における前記活性層のフォトルミネッセンス光のピーク波長を算出する手順と、を前記装置の制御用コンピュータに実行させるプログラム。
【請求項10】
前記測定する手順として、前記フォトルミネッセンス光の光強度とともに、前記レーザ光の戻り光の光強度を測定し、
前記温度を求める手順に先だって、
前記複数の温度において、前記レーザ光の戻り光の光強度に基づいて、前記活性層を励起したレーザ光の光強度を算出する手順と、
前記複数の温度において計測された各フォトルミネッセンス光の光強度を、前記算出されたレーザ光の光強度を用いて規格化する手順と、を前記制御用コンピュータに更に実行させ、
前記温度を求める手順として、前記規格化されたフォトルミネッセンス光の光強度の温度依存性から、前記フォトルミネッセンス光の光強度が最大になる温度を求めることを特徴とする請求項9に記載のプログラム。
【請求項11】
前記温度を求める手順として、前記フォトルミネッセンス光の光強度と温度との関係を表す近似式を求め、該近似式から、前記フォトルミネッセンス光の光強度が最大になる温度を求めることを特徴とする請求項9又は10に記載のプログラム。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか一項に記載のプログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な情報記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−185107(P2012−185107A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49785(P2011−49785)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】