説明

フォトレジスト膜形成用樹脂溶液の不純物除去方法、不純物除去用濾過部材及び不純物除去用濾過装置

【課題】フォトレジスト膜形成用の樹脂溶液から、高い除去効率で、イオン性不純物や金属不純物を除去する不純物除去方法及び不純物除去用濾過装置を提供する。
【解決手段】フォトレジスト膜形成用の樹脂溶液を、繊維径20μm以下、密度が70〜110g/mのポリオレフィン系の不織布に、放射線グラフト重合法によりイオン交換基及び/又はキレート基を1meq/g以上固定化し、層厚20mm以上に加圧積層してなる濾過部材に透過させるフォトレジスト膜形成用の樹脂溶液から、高い除去効率で、イオン性不純物や金属不純物を除去する不純物除去方法及び不純物除去用濾過装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウエハのような半導体基板やガラス基板のような基板上に微細な電子回路パターンを形成するためのフォトリソグラフィにおけるフォトレジスト膜形成用の樹脂溶液の不純物除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から半導体製造工程においてシリコンウエハのような半導体基板上に微細な電子回路パターンを形成したり、液晶基板製造工程においてガラス基板上に液晶駆動用回路となる微細な電子回路パターンを形成するためにフォトリソグラフィ技術が用いられている。
【0003】
具体的には、例えば半導体製造工程においては、半導体ウエハ上に酸化ケイ素等の絶縁膜、Al、Si、Cu、Tiやそれらの金属の合金等の金属膜あるいは低誘電層間絶縁膜などを形成し、その上に、感光性樹脂溶液を塗布してフォトレジスト膜を形成する。そして、その上から露光装置により所望のパターンが形成されたマスクを介して露光し、アルカリ現像などによりレジストパターンを形成して、上記の絶縁膜、金属膜、低誘電層間絶縁膜に対してエッチング処理を行い、その後レジストパターンを除去して所望の電子回路パターンを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−344715公報
【特許文献2】特開2002−317285公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような電子回路パターン形成後のレジストパターン除去は、例えば、プラズマなどのエネルギーによりレジストを灰化させるアッシング処理を行った後に、基板表面を洗浄液により洗浄することにより行われている。
【0006】
このようなレジストパターンの除去工程では、アッシング処理後のレジスト除去面に、レジストアッシング残渣と呼ばれる不完全灰化物が残存することがある。
【0007】
このレジストアッシング残渣は、一部が無機化しており、洗浄液により洗浄することが難しいという問題がある。
【0008】
ところで、フォトレジスト形成用の樹脂溶液には、ポジ型やネガ型のノボラック樹脂が多く用いられているが、これらの樹脂の合成には、反応触媒として、有機、無機の各種の酸類や各種の金属触媒が使用され、その結果、フォトレジスト形成用の樹脂溶液中には、Na、K、Ca、Fe、Mg、Zn等の金属イオンや各種の陰イオンが多く存在しており、これらがアッシング残渣の原因となっている可能性がある。特に、次世代のレジスト用の樹脂溶液としては、粘度の高いものが使用されるといわれており、これらの金属イオンや陰イオンの濃度は、さらに高くなって、アッシング残渣への影響がより大きくなることが予想される。
【0009】
アッシング後の多様な残渣を効果的に除去する方法として、アッシング残渣を溶解除去する洗浄液の使用が提案されている。例えば、特許文献1には、レジスト残渣等を剥離するための剥離液として、フッ化水素酸の塩、水溶性有機溶媒、所定のメルカプト基含有防食剤、および水を含有するフォトレジスト用剥離液が記載され、特許文献2には、フッ素化合物、硫黄・水酸基含有化合物、水溶性有機溶剤、水、および塩基性化合物からなる剥離液が記載されている。
【0010】
しかし、これらは、腐食性の薬剤などを使用するため、取り扱いに難点がある上に、洗浄廃液の処理の問題も生じる。
【0011】
さらに、半導体の金属導体の微細化が進んで線幅がナノメータオーダーになった場合には、微量の金属イオンや陰イオンでも、アルミ配線に対して腐食作用を及ぼす恐れがある。
【0012】
このため、従来から、フォトレジスト膜形成用の樹脂溶液をビーズ状のイオン交換樹脂で処理して金属イオンや各種陰イオンを除去することが提案されている。
【0013】
しかし、フォトレジスト用の樹脂溶液は、一般に非水系の溶剤が使われているため、イオン交換樹脂によるイオン交換機能が殆ど発揮できないという問題がある。
【0014】
すなわち、非水溶液で比誘電率が小さいものでは、電解質がイオンにほとんど解離しないため、不純物はフリーなイオンとしては存在せず、感光性樹脂を構成するノボラック樹脂誘導体やナフトキノンジアジド誘導体の官能基に塩として結合していたり、不純物元素を中心として溶媒和して電荷的に中性の形態や微粒子として存在しているものと考えられる。
【0015】
したがって、水溶液中で行われる水和イオンが水溶液中を移動して、脱水和反応によりイオン交換体に吸着するという通常の水和イオンを仲介してのイオン交換反応は行われない。このため、ノボラック樹脂誘導体やナフトキノンジアジド誘導体のような分子構造の大きい化合物に対しては、十分にイオン交換能を発揮することができない。
【0016】
しかも、フォトレジスト膜形成用の樹脂溶液は、比重が大きいため、イオン交換樹脂が浮いてしまい、溶液とイオン交換樹脂との接触率が低くなる場合があり、イオン交換樹脂による非水溶液の不純物の除去効率は低いものになっていた。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、これらの問題を解決するため、イオン交換基を固定する基材として不織布に着目し、これをフィルター型に成形して、不織布を構成する繊維の材質、繊維径、繊維固定の方式、不織布の密度、固定化するイオン交換基の量、積層枚数、積層した層高などについて、組合せを変えながら実験を繰り返したところ、不織布として微細な高密度ポリオレフィン系の繊維からなる不織布を使用し、そのイオン交換基及び/又はキレート基の固定量等を適当な範囲に設定するとともに、得られた基材を所定の層厚の巻回層とすることにより、通液1回あたりのイオン除去効率を、イオン交換樹脂カラムを用いた場合の1000倍以上にまで高めることが可能であるとの知見を得た。
【0018】
このような高い除去効率が得られる要因としては、(1)繊維径が細く密に詰まり、かつ、加圧積層した層厚が20mm以上とされているため、不織布表面に固定化されたイオン交換基及び/又はキレート基と不純物との接触効率が非常に高い、(2)不織布の基材がポリオレフィンであるため有機成分による耐汚染性が高い、(3)含水率が低いため(ポリオレフィン繊維の含水率は5%以下、イオン交換樹脂の含水率は40〜60%)イオン成分との親和性が高い等が考えられる。
【0019】
本発明のフォトレジスト膜形成用樹脂溶液の不純物除去方法は、かかる知見に基いてなされたもので、基板上に微細な電子回路パターンを形成するためのフォトリソグラフィにおけるフォトレジスト膜形成用の樹脂溶液を、繊維径20μm以下、密度が70〜110g/mのポリオレフィン系の不織布に、放射線グラフト重合法によりイオン交換基及び/又はキレート基を1meq/g以上固定化した濾過基材を円筒状のコア部材上に6〜10kgf/cmの張力を加えつつ巻回し固定してなる層厚20mm以上の巻回層に透過させ、前記樹脂溶液中の金属成分及び/又は陰イオン成分を除去することを特徴とする。
【0020】
本発明に使用されるポリオレフィン系の不織布は、イオン交換樹脂のように分子骨格中に芳香環や極性基がないため、通過する樹脂中の有機系の不純物による目詰まりが生じにくい。
【0021】
本発明に使用する不織布を構成するポリオレフィン繊維の繊維径は、20μm以下であり、特に5〜18μmの範囲にあることが好ましい。
【0022】
また、ポリオレフィン繊維を不織布に加工する際の繊維間の結着方法としては、熱融着法、接着剤を用いる方法、溶剤で一部溶解する方法などあるが、本発明では、熱融着法による不織布を用いる。熱融着法による不織布は、繊維素材以外に他の成分が加えられることがないので、不織布からの溶出成分を低く抑えることができる。
【0023】
本発明に用いる不織布は、繊維径20μm以下の繊維を、密度が70〜110g/mとなるように集積し、熱融着(必要に応じてニードルパンチと熱ロールの組合せ等)による熱融着により形成される。
【0024】
本発明に用いる不織布の厚さは、0.1〜2mmの範囲であることが好ましい。
【0025】
この不織布は、通常の布や紙の用途に用いられる不織布と違い、フェルト状を呈している。
【0026】
なお、本発明に用いる機材のポリオレフィン系不織布の含水率は、5%以下、好ましくは1%以下である。
【0027】
本発明に用いるイオン交換基及び/又はキレート基の固定されたポリオレフィン系不織布は、ポリオレフィン系不織布に窒素雰囲気中でガンマ線又は電子線を照射してポリオレフィン繊維表面にラジカルを形成した後、この不織布にイオン交換機又はキレート基を有する反応性モノマーを含浸し反応させることにより得られる。
【0028】
ポリオレフィン系不織布に、固定するイオン交換基及び/又はキレート基の量は、1meq/g以上、好ましくは1.5〜3.0meq/gである。
【0029】
本発明においてポリオレフィン系不織布に固定されるイオン交換基としては、たとえば、スルホン酸基、カルボン酸基、4級アンモニウム基及び3級アミン基等が例示され、これらは1種又は2種以上がポリオレフィン系不織布に固定される。
【0030】
また、本発明においてポリオレフィン系不織布に固定されるキレート基としては、例えばアミン基、アミノカルボン酸基、ヒドロキシルアミン基、リン酸類基及びチオ化合物基が例示され、これらは1種又は2種以上がポリオレフィン系不織布に固定される。
【0031】
キレート基として固定されるアミン基としては、アミドキシム基、シッフ塩基、N−メチルグルカミン基等があり、アミノカルボン酸基としては、イミノ二酢酸基、エチレンジアミン基等があり、アミノエタノール基としては、イミノジエタノール基等があり、リン酸類基としては、リン酸基、アミノリン酸基等があり、チオ化合物基としては、ジチオカルバミン基等があるが、キレート系性能を有し、ポリオレフィン繊維と化学的に結合可能な官能基であれば特に限定されるものではない。
【0032】
なお、上記ポリオレフィン系不織布に固定されるイオン交換基やキレート基の末端基がナトリウム型、カリウム型またはアンモニア型等である場合、不純物除去反応後にナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン等の成分が放出されるため好ましくない。ポリオレフィン系不織布に固定されるイオン交換基やキレート基の末端基を予めH型やOH型にすることで不純物除去反応後のこれらの不純成分の溶出を防止することができる。
【0033】
本発明における濾過部材の一実施形態は、繊維径20μm以下、密度が70〜110g/mのポリオレフィン系の不織布に、放射線グラフト重合法によりイオン交換基及び/又はキレート基を1meq/g以上固定化した濾過基材を、透液性の円筒状のコア部材上に6〜10kgf/cmの張力を加えつつ巻回し固定して層厚20mm以上の巻回層を形成してなることを特徴とする。この実施形態では、被処理液は、巻回層の厚さ方向に透過されて金属やイオン性の不純物が除去される。
【0034】
また、本発明おける濾過部材の他の実施形態では、前記濾過基材を、非透液性の円筒状のコア部材上に6〜10kgf/cmの張力を加えつつ巻回し固定して層厚20mm以上の巻回層を形成し、これを円筒状のカラムに同軸的に、かつカラム内壁との間に隙間が生じないように密に挿入して用いられる。
【0035】
この実施形態では、被処理液は、カラムの一端側から他端側に、すなわち、巻回層の層と平行する方向に透過されて金属やイオン性の不純物が除去される。
【0036】
なお、濾過基材の層厚は、濾過基材をコア部材に張力6〜10kgf/cmで巻き付けたときの層厚である。
【0037】
層厚が20mm未満では、金属不純物や陰イオンの除去効果が不十分となる。
【0038】
本発明により不純物を除去できるフォトレジスト膜形成用の樹脂溶液としては、例えばポジ型やネガ型のノボラック樹脂溶液のような各種の公知の感光性樹脂溶液が挙げられる。
【0039】
本発明は、粘度50mPa・s以上、100mPa・s以上さらには200mPa・s以上のような高粘度の樹脂溶液からもNa、K、Ca、Fe、Mg、Zn等の金属イオンやCl、SO42−のような各種の陰イオンをppbオーダーまで除去することが可能である。また、このフォトレジスト膜形成用の樹脂溶液をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PEGMEA)やトルエンなどの芳香族炭化水素系の有機溶剤で希釈して処理しても同様の効果を得ることができる。
【0040】
なお、処理するフォトレジスト膜形成用樹脂溶液の不純物濃度が目標値よりも高過ぎる場合には、予め、この樹脂溶液をビーズ状のイオン交換体及び/又はビーズ状のキレート吸着材に接触させて、不純物濃度を低くした上で、本発明のポリオレフィン系の不織布にイオン交換基及び/又はキレート基を固定化した濾過部材で処理するようにすれば、濾過部材1個あたりの負荷が軽減され、樹脂溶液の処理量を多くして、不純物の除去されたフォトレジスト膜形成用樹脂溶液を効率的に得ることができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明においては、フォトレジスト膜形成用の樹脂溶液を、微細なポリオレフィン系の繊維からなる不織布に、イオン交換基及び/又はキレート基を固定化し、層厚20mm以上に加圧積層してなる濾過部材に透過させるので、樹脂溶液中の金属成分及び/又は陰イオン成分は、イオン交換基及び/又はキレート基の非常に近い位置を通過することになり、高い除去率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に用いる不純物除去用の濾過部材の構成を概略的に示す部分断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の濾過部材に用いる不織布の電子顕微鏡写真である。
【図3】図2の不織布にイオン交換基を固定化した状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明の一実施形態の濾過部材の製作過程を示す図である。
【図5】本発明の他の実施形態の濾過部材の製作過程を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態の不純物除去装置(モジュール)の一実施形態を示す断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に用いる不純物除去装置のシステム構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
次に、本発明の一実施形態について説明する。
【0044】
図1は、本発明の一実施形態に用いる不純物除去用の濾過部材を概略的に示す部分断面図である。
【0045】
この濾過部材1は、図2に示すような、繊維径20μm以下、密度が70〜110g/mの繊維間を熱融着により固定したポリオレフィン系の不織布1aに、イオン交換基及び/又はキレート基を放射線グラフト重合法により1meq/g以上固定化した、図3に示す濾過基材1Aを用いて、図4に示す方法で製作される。
【0046】
すなわち、この実施形態の濾過部材1は、図4に示すように、濾過基材1Aを、張力6〜10kgf/cmでメッシュで形成された透液性のコア部材2上に(A)、層厚が20mm以上となるように巻き付け(B)、両端をカットした後、一端側に、流出口となる短管3aを有する上部エンドプレート3を、他端側に、下部エンドプレート4を、それぞれ熱溶着により固定化する(C)ことにより構成されている。符号5は短管3a外周に設けた凹溝に嵌合されたO−リングである。
【0047】
この実施形態では、被処理液は、矢印で示すように、濾過部材1の側面の濾過基材1Aから巻回層の厚さ方向に透過し、処理液は、上部エンドプレート3の短管3aから排出される(D)。
【0048】
図5は、本発明の他の実施形態の濾過部材を製作する方法を説明するための図である。
【0049】
この濾過部材1は、図5に示すように、濾過基材1Aを、張力6〜10kgf/cmでメッシュで形成された非透液性の棒状のコア部材2上に(A)、層厚が20mm以上となるように巻き付け(B)、両端をカットした後(C)、円筒状のカラム6に挿入し(D)、両端に環状の押さえ部材8,8を装着して構成される(D)。
【0050】
この実施形態では、被処理液は、矢印で示すように、円筒状のカラム7の一方の端部から流入して濾過基材1Aの巻回層を層方向に透過し、他方の端部から流出する(E)。
【0051】
図6は、本発明の一実施形態である、濾過部材1をポリプロピレン製のハウジングに組み込んで構成された濾過モジュールの断面図である。
【0052】
この濾過モジュール9では、実施例形態1の濾過部材1(符号Bは保持部材)を、円筒状のハウジング本体10内に、短管3aをハウジングの上部端板11の中央の流出口12の下部に設けた段穴にO−リング5を介して液密に挿入させて同軸的に配設されている。ハウジング本体10の下部には、下部端板13が配置されて濾過部材1を支持しており、上部端板11と下部端板13は、シール部材14を介してハウジング本体10を上下から保持し、ボルト15,15によって固定されている。環状の保持部材16は、ボルト17によって、シール部材14を上部端板11又は下部端板13に保持固定している。
【0053】
被処理液は、上部端板11の濾過部材1の外側となる位置に設けた流入口13から流入し、濾過部材1の濾過基材1Aを透過してコア部材2内に入り、短管3aを経て上部端板11の流出口12から排出される。
【0054】
図7は、本発明の一実施形態に用いた不純物除去システムの構成を概略的に示す図である。
【0055】
この不純物除去システムは、フォトレジスト膜形成用の樹脂溶液18を収容する気密タンク19、図4に示した濾過モジュール7、収容タンク20、気密タンク19の上部空間に窒素ガスを送って気密タンク19内を加圧する窒素ガス配管21、気密タンク19内の樹脂溶液を濾過モジュール7に送る流量調整バルブ22を備えた樹脂溶液配管23及び濾過モジュール7を通過した樹脂溶液を収容タンク20に送る流量調整バルブ24を備えた精製樹脂溶液配管25から構成されている。
【0056】
この実施形態においては、気密タンク19内に収容された金属不純物や陰イオン等を含むフォトレジスト膜形成用の樹脂溶液18は、気密タンク19内へ窒素ガス配管21を経由して窒素ガスを圧入することにより、樹脂溶液配管23を通って所定の流量で送り出され、濾過モジュール7を通過する際、金属純物や陰イオン成分が除去され精製樹脂溶液配管25を経て収容タンク20に収容される。
【0057】
この実施形態では、処理されるフォトレジスト膜形成用の樹脂溶液の粘度は25℃で100cP程度であり、窒素ガスの圧力は、0.1〜0.2MPa程度である。なお、この樹脂溶液をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PEGMEA)やトルエンなどの芳香族炭化水素系の有機溶剤で希釈して処理するようにしてもよい。
【0058】
(実施例)
次に本発明の実施例について説明する。
【0059】
なお、以下の実施例で使用した各装置等の仕様および実験条件等は、以下のとおりである。
【0060】
[試験濾過モジュール]
(濾過部材)
母材:高密度ポリエチレン不織布(熱融着タイプ)
高密度ポリエチレンの密度:≧0.942
繊維径 18μm
含水率:1%以下
(加熱乾燥式水分計(エー・アンド・ディー社製 MX−50)により
測定)
目付及び厚さ:55g/m、0.23mm[不織布(A)]
70g/m、0.35mm[不織布(B)]
105g/m、0.43mm[不織布(C)]
実施例の濾過部材に用いた濾過基材(A),濾過基材(B),濾過基材(C)は、上記不織布(A),不織布(B),不織布(C)に放射線グラフト重合によってスルホン酸基を、それぞれ濾過基材(A)50meq/g、濾過基材(B)1.50meq/g及び、濾過基材(C)2.65meq/gとなるよう導入したものである。
【0061】
濾過部材(A),濾過部材(B),濾過部材(C)は、以下のコア部材上に、濾過基材を一定の張力(6〜10kgf/cm)を加えながら所定の層厚となるように巻き付け、上下にエンドプレートを熱溶着して固定し、外周に押さえ部材を装着して作成した。
【0062】
寸法:φ72mm(フランジ径)×250mm(有効長)、
上下エンドプレート:PP(ポリプロピレン)製
コア部材:φ25.5mm、PP(ポリプロピレン)製
(ハウジング材質)
PP(ポリプロピレン)製
[試験濾過システム]
図5に示すシステム構成
(気密タンク)
材質:PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)
容量:5000ml
(配管)
材質:PFA
[被処理試料(フォトレジスト溶液)]
AZ SR−220(AZ ELECTRONIC MATERIALS社製商品名)
樹脂: ノボラック樹脂誘導体、ナフトキノンジアジド誘導体
溶媒:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)
濃度 :>80%
粘度:4cP(at25℃)
被処理樹脂溶液は、AZ SR−220に、不純物(ナトリウム)が300000ppbとなるよう調整したものを用いた(不純物量は、ICP−MS(パーキンエルマー社製 ELANDRC−II)により測定)。
【0063】
被処理樹脂溶液の水分量は、0.16質量%である。
【0064】
[使用器具等の洗浄]
PTFE製気密タンク(容積5000ml)、PP製ハウジング、サンプリング用PE(ポリエチレン)製容器(容積300ml)は、全て金属汚染を排除するため予め、1.0N硝酸で1時間以上浸漬させた後、超純水で流水洗浄し、十分に乾燥させた後に使用した。
【0065】
濾過部材(A),濾過部材(B)及び濾過部材(C)をPP製ハウジングに挿入して組み立てた図4に示す構造の濾過モジュール(A),濾過モジュール(B)及び濾過モジュール(C)を用意し、これらの濾過モジュール内に超純水を100mL/minで12時間以上通液し、不純物の洗浄を行った後に、窒素ガスをブローして内部の水分を除去した。
【0066】
(実施例1)
濾過部材(A),濾過部材(B),濾過部材(C)をセットした上述の各濾過モジュールのPTFE製気密タンク19に、被処理試料(フォトレジスト液)5000mlを収容して気密タンク19を密閉し、気密タンク19の上部から窒素ガスを導入し、気密タンク19内の圧力を0.2MPaまで加圧し流量調整バルブを操作して、空間速度(SV)=10(1/h)となるように、濾過モジュール(A)の出口から流出する被処理試料(フォトレジスト液)の通液速度を調整して被処理試料(フォトレジスト液)の不純物除去処理を行った。
【0067】
処理後のフォトレジスト液の不純物濃度(ICP−MSによるナトリウム濃度。以下、同じ。)は表1に示すとおりであった。
【表1】

【0068】
(実施例2)
濾過基材(B)の層厚を、10mm、22mm、30mmとなるよう巻き付け、上下にエンドプレート3、4を熱溶着して固定化した積層フィルターを作製し、実施例1と同様にPP製ハウジングに挿入して濾過モジュールとした。濾過モジュールの出口から流出する被処理試料(フォトレジスト液)の通液速度を、空間速度(SV)=5、10、20(1/h)に変えて、実施例1と同じ被処理試料(フォトレジスト液)について不純物の除去を行った。
【0069】
処理後のフォトレジスト液の不純物濃度は表2に示すとおりであった。
【表2】

【0070】
(比較例1)
φ3/4インチ×200mm、材質:PFA(テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)のカラムに、ビーズ状の強酸性陽イオン交換樹脂(母材:スチレンジビニルベンゼン共重合体、官能基:スルホン酸基(2eq/l))、含水率:50%、ダウ・ケミカル(株)製、商品名:ダウエックスモノスフィア650C)を層高が11cm(充填体積20ml)となるように充填したイオン交換モジュールを用いて、空間速度(SV)=10(1/h)で、実施例1と同じ被処理試料(フォトレジスト液)を通液して不純物の除去を行った。
【0071】
処理後のフォトレジスト液の不純物濃度は表3に示すとおりであった。
【表3】

【0072】
(比較例2)
実施例1で用いた濾過基材(B)を5枚積層し、プリーツ状(プリーツ数:140,プリーツの高さ:22mm)に加工した後に、25.5mmのコア部材に巻き付け、上下にエンドプレートを熱溶着させて固定化した濾過部材を作製した。加工した濾過部材は、PP製ハウジングに挿入し濾過モジュールとした。この濾過モジュール内に超純水を100mL/minで12時間以上通液し、不純物の洗浄を行った後に、窒素ガスをブローして内部の水分を除去した。その後、実施例1と同様の試験を行った。
【0073】
処理後のフォトレジスト液の不純物濃度は表4に示すとおりであった。
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、フォトレジスト膜形成用の樹脂溶液中からの不純物除去において広く利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1……濾過部材、1a……ポリオレフィン系の不織布、1A……濾過基材、2……コア部材、3……上部エンドプレート、3a……短管、4……下部エンドプレート、5……O−リング、6……カラム、7……円筒状のカラム、8……押さえ部材、9……濾過モジュール、10……ハウジング本体、11……上部端板、12……流出口、13……下部端板、14……シール部材、15……ボルト、16……保持部材、17……ボルト、18……樹脂溶液、19……気密タンク、20……収容タンク、24……流量調整バルブ、25……精製樹脂溶液配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトレジスト膜形成用の樹脂溶液を、
繊維径20μm以下、密度が70〜110g/mのポリオレフィン系の不織布に、放射線グラフト重合法によりイオン交換基及び/又はキレート基を1meq/g以上固定化した濾過基材を円筒状のコア部材上に6〜10kgf/cmの張力を加えつつ巻回し固定してなる層厚20mm以上の巻回層に透過させ、
前記樹脂溶液中の金属成分及び/又は陰イオン成分を除去することを特徴とするフォトレジスト膜形成用樹脂溶液の不純物除去方法。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系の不織布が、高密度ポリエチレン又はシクロオレフィン共重合体からなることを特徴とする請求項1記載のフォトレジスト膜形成用樹脂溶液の不純物除去方法。
【請求項3】
フォトレジスト膜形成用の樹脂溶液を、
前記巻回層の厚さ方向に透過させることを特徴とする請求項1又は2に記載のフォトレジスト膜形成用樹脂溶液の不純物除去方法。
【請求項4】
フォトレジスト膜形成用の樹脂溶液を、
前記巻回層の層と平行する方向に透過させることを特徴とする請求項1又は2に記載のフォトレジスト膜形成用樹脂溶液の不純物除去方法。
【請求項5】
前記オレフィン系の不織布の含水率が5%以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のフォトレジスト膜形成用樹脂溶液の不純物除去方法。
【請求項6】
前記イオン交換基が、スルホン酸基、カルボン酸基、4級アンモニウム基及び3級アミン基から選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のフォトレジスト膜形成用樹脂溶液の不純物除去方法。
【請求項7】
前記キレート基が、アミン基、アミノカルボン酸基、アミノエタノール基、リン酸類基及びチオ化合物基から選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のフォトレジスト膜形成用樹脂溶液の不純物除去方法。
【請求項8】
前記イオン交換基及び/またはキレート基の末端基がH型及び/またはOH型であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか項記載のフォトレジスト膜形成用樹脂溶液の不純物除去方法。
【請求項9】
前記フォトレジスト膜形成用樹脂溶液の粘度が50mpa・s以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載のフォトレジスト膜形成用樹脂溶液の不純物除去方法。
【請求項10】
前記フォトレジスト膜形成用の樹脂溶液が、有機溶剤に溶解したものであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載のフォトレジスト膜形成用樹脂溶液の不純物除去方法。
【請求項11】
前記フォトレジスト膜形成用の樹脂溶液の前記濾過部材における通液流量(SV値)が、10(1/h)以下であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項記載のフォトレジスト膜形成用樹脂溶液の不純物除去方法。
【請求項12】
前記フォトレジスト膜形成用樹脂溶液を、予めビーズ状のイオン交換体及び/又はキレート吸着材に接触通過させた後に、前記濾過部材に透過させて、前記樹脂溶液中の金属成分を除去することを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項記載のフォトレジスト膜形成用樹脂溶液の不純物除去方法。
【請求項13】
繊維径20μm以下、密度が70〜110g/mのポリオレフィン系の不織布に、放射線グラフト重合法によりイオン交換基及び/又はキレート基を1meq/g以上固定化した濾過基材を、透液性の円筒状のコア部材上に6〜10kgf/cmの張力を加えつつ巻回し固定して層厚20mm以上の巻回層を形成してなることを特徴とするフォトレジスト膜形成用樹脂溶液の不純物除去用濾過部材。
【請求項14】
繊維径20μm以下、密度が70〜110g/mのポリオレフィン系の不織布に、放射線グラフト重合法によりイオン交換基及び/又はキレート基を1meq/g以上固定化した濾過基材を、非透液性の円筒状のコア部材上に6〜10kgf/cmの張力を加えつつ巻回し固定して層厚20mm以上の巻回層を形成してなることを特徴とするフォトレジスト膜形成用樹脂溶液の不純物除去用濾過部材。
【請求項15】
被処理液流入口と処理液流出口を備えた直立円筒状のハウジング内に、
請求項13記載の濾過部材の一端に、排液管を有する上部プレートを固定し、他端にエンドプレートを固定した濾過体を、前記上部プレートの排液管を前記ハウジングの処理液流出口に接続させて同軸状に配置し、
前記ハウジングの被処理液流入口から流入する被処理液を、前記濾過部材の厚さ方向に透過させ、前記ハウジングの処理液流出口から排出するように構成してなることを特徴とするフォトレジスト膜形成用樹脂溶液の不純物除去用濾過装置。
【請求項16】
下部に被処理液流入口を有し、上部に処理液流出口を有する直立円筒状のハウジング内に、請求項14記載の濾過部材を、流路を該濾過部材で遮るように同軸状に配置し、
前記ハウジングの被処理液流入口から流入する被処理液を、前記濾過部材の層と平行する方向に透過させ、前記ハウジングの処理液流出口から排出するように構成してなることを特徴とするフォトレジスト膜形成用樹脂溶液の不純物除去用濾過装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−61426(P2013−61426A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198783(P2011−198783)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000245531)野村マイクロ・サイエンス株式会社 (116)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(000201881)倉敷繊維加工株式会社 (41)
【Fターム(参考)】