説明

フコイダン抽出物の製造方法

【課題】
ワカメなどのフコイダンを含む藻類原料からフコイダン抽出物を簡易に取得することができるフコイダン抽出物の製造方法を提供する。
【解決手段】
ワカメなどのフコイダンを含む藻類原料を40℃以上100℃以下の温度で加熱する加熱工程と、0℃以上40℃以下で塩分濃度が5質量%以下の水溶液に前記藻類原料を浸漬しつつ振とうする振とう工程と、前記振とう工程後の水溶液をフコイダン抽出物として取得する振とう抽出工程と、前記藻類原料に中性塩を添加する添加工程と、前記添加工程により前記藻類原料から排出する液体をフコイダン抽出物として取得する抽出工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワカメなどのフコイダンを含む藻類を原料として、フコイダン抽出物を簡易に取得するフコイダン抽出物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フコイダンは、L−フコース(6−デオキシ−L−ガラクトース)を主たる構成糖とし、褐藻にのみ含まれている硫酸化多糖であり、抗腫瘍活性作用、抗血液凝固活性作用、血糖値上昇抑制作用、血圧上昇抑制作用などの点から注目されている。ワカメ(Undaria pinnatifida)は、褐藻綱コンブ目に属する海藻で、藻体内にフコイダンを含有している。
【0003】
しかし、これまでのところ、ワカメ、特にそのメカブを除いた部位は、同じ褐藻綱コンブ目に属するガゴメや褐藻綱ナガマツモ目に属するオキナワモズクと比べて、フコイダンを抽出するための原料としての利点を見出せていないことなどから、あまり注目されていない。
【0004】
ところで、原料となる海藻からのフコイダンの主な抽出方法としては、熱水による抽出(例えば、非特許文献1、2、3、特許文献1、2、3、4、5参照)、酸による抽出(例えば、非特許文献1、2、3、特許文献6、7、8、9、10、11、12、13参照)、アルカリによる抽出(例えば、非特許文献1、特許文献14、15、16参照)、有機溶剤による抽出(例えば、非特許文献1、特許文献17参照)などが挙げられる。そして、本発明者もこれらの方法を用いて、各種海藻からフコイダンを抽出している。
【0005】
しかし、これらの方法では、いずれも溶媒が必要であるため、フコイダンが溶媒中に拡散し、得られる水溶液中のフコイダンの濃度は低くなる。さらに、酸による抽出やアルカリによる抽出では、酸やアルカリの薬品を用いるため、その取り扱いのための知識や相応の設備を要し、かつ、その取り扱いに際しては危険を伴う。
【0006】
水、中性塩、緩衝液を用いる抽出方法はもっとも温和な方法であるが、抽出力が弱いとされており(例えば、非特許文献1参照)、褐藻からのフコイダンの抽出には、これらの方法があまり用いられていない。確かに原料となる海藻に切断、細断または粉砕などの処理を施すことにより、これらの方法においても藻体内のフコイダンの抽出効率の向上が期待できる。しかし、その処理に手間が掛かる上、フコイダンを抽出した後の原料を製品として出荷することができない。実際、本発明者も中性塩を用いて、褐藻綱ヒバマタ目に属するアカモクからフコイダンを含む液体の抽出を試みたが、他の方法に比べて非効率的であった。
【0007】
このような状況下で、フコイダンは医学的にも大変有用な物質であるにもかかわらず、現在のところ、十分量のフコイダンを安価に供給するのは困難な状況にある。
【0008】
一方、非特許文献4、5にあるように、塩蔵わかめの製造工程においては、塩もみ後に塩漬けする方法が一般的であるが、その際に作業タンクに溜まる塩水の処分に苦慮しており、有効な活用方法が求められている。
【0009】
【非特許文献1】松田和雄. 多糖の分離・精製法. 学会出版センター. 1987. p19-31.
【非特許文献2】西出英一. 秋季シンポジウム要旨(2000.10.27) 21世紀における海藻の研究と利用. 藻類 49. 2001. p51-58.
【非特許文献3】西澤一俊・千原光雄. 藻類研究法. 共立出版. 1979. P616-630.
【非特許文献4】太田冬雄. 水産加工技術. 恒星社厚生閣. 1980. p244-246.
【非特許文献5】小川廣男・能登谷正浩. 海藻食品の品質保持と加工・流通. 恒星社厚生閣. 2002. p17-27.
【特許文献1】特開2000−239301号公報
【特許文献2】特開2000−351801号公報
【特許文献3】特開2003−259842号公報
【特許文献4】特開2005−110675号公報
【特許文献5】特開2005−225924号公報
【特許文献6】特開平7−138166号公報
【特許文献7】特開平10−191940号公報
【特許文献8】特開平10−237103号公報
【特許文献9】特開2000−236889号公報
【特許文献10】特開2000−239302号公報
【特許文献11】特開2000−351790号公報
【特許文献12】特開2002−262788号公報
【特許文献13】特開2002−265380号公報
【特許文献14】特開平11−80202号公報
【特許文献15】特開2002−220402号公報
【特許文献16】特表2005−518462号公報
【特許文献17】特開2001−31585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述のごとき実情を鑑みてなされたものであり、ワカメなどのフコイダンを含む藻類原料からフコイダン抽出物を簡易に取得することができるフコイダン抽出物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ワカメに、塩化ナトリウムなどの中性塩を添加すると、液胞の中の水が外に出ていく。当初、本発明者は、細断や粉砕などの処理を施していないワカメの葉体に中性塩を添加した時に、藻体外に排出する液体について、用いたワカメの葉体の表面はぬめりがなく滑らかであったこと、排出した液体は無色透明であったこと、排出した液体は粘性がなかったこと、中性塩では多糖の抽出力が弱いと言われていること、原料に細断や粉砕などの処理を施していなかったこと、中性塩の添加と同時に原料を加熱していなかったことなどから、フコイダンはほとんど含まれていないと考えていた。
【0012】
しかし、この排出液中に2.0g/lの海藻多糖が含まれていることを確認し、この海藻多糖を定性分析した結果、フコイダンが液体とともにワカメの藻体外に排出されていることを見出し、本発明に至った。なお、本明細書において、中性塩とは、塩酸などの強酸と水酸化ナトリウムなどの強塩基の中和によって生じる塩をいう。
【0013】
すなわち、請求項1の発明は、フコイダンを含む藻類原料に中性塩を添加する添加工程と、前記添加工程により前記藻類原料から排出する液体をフコイダン抽出物として取得する抽出工程とを有することを特徴とするフコイダン抽出物の製造方法である。
【0014】
フコイダンを含む藻類原料としては、褐藻綱コンブ目に属する海藻、チガイソ科、ツルモ科、コンブ科の海藻が好ましく、ワカメ(Undaria pinnatifida)が特に好ましい。ワカメに、塩化ナトリウム、塩化カリウムまたは塩化カルシウムなどの中性塩を添加することにより、加熱並びに細断及び粉砕の処理をしなくとも、細胞の原形質が縮み、液胞内の水が藻体外に出て行く、いわゆる原形質分離が起こるが、このときの排出液中にフコイダンが含まれることがわかった。つまり、本発明者は、多糖の抽出において抽出力が弱いとされる中性塩によるフコイダンの抽出法が、ワカメにおいては有効であることを見出した。なお、添加工程では、藻類原料に中性塩を直接、添加しても、中性塩を主成分とする物質の添加により中性塩を添加してもよい。
【0015】
本発明の方法は、これまでのフコイダンの抽出方法のように溶媒を必要としないことを特徴とするため、藻体内から出たフコイダンが溶媒中に拡散することがない。また、添加する物質が塩化ナトリウムや塩化カリウムなどの中性塩で良いため、取り扱いが容易であり、製造従事者の危険度が小さい。そして、ワカメの藻体に粉砕、細断及び焼却などの処理を施す必要がないため、フコイダンを抽出した後の原料を製品として利用可能である。さらに、中性塩の添加に際し、原料のワカメを加熱する必要がないので、製造に手間が掛からない。加えて、中性塩として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなどの比較的入手し易いものを用いることができ、それらを単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0016】
請求項2の発明は、前記添加工程の前に、前記藻類原料を40℃以上100℃以下の温度で加熱する加熱工程を有することを特徴とする請求項1記載のフコイダン抽出物の製造方法である。
ワカメの脱水率は、40℃以上100℃以下の温度で加熱する加熱工程を経ないものが約50質量%であるのに対し、その加熱工程を経たものが約60質量%である。このように、中性塩を添加する前に、ワカメを加熱することによって、フコイダンを含有する液体の排出量を高めることができる。ワカメを熱処理すると緑変するが、これはカロチノイド色素につつまれているクロロフィルが細胞中の油状物質に溶け出し呈色するものと考えられている。40℃付近より緑変し、70℃以上では瞬間的に緑変する。また、フコイダンの粘性は加熱すると喪失する。したがって、中性塩添加前の原料の加熱により、フコイダンが藻体外に排出しやすくなる。つまり、40℃以上100℃以下の温度で加熱する加熱工程は、フコイダンを含有する液体を多く取得する上で有効である。
【0017】
請求項3の発明は、前記加熱工程は、40℃以上100℃以下で塩分濃度が5質量%以下の水溶液に前記藻類原料を10秒〜5分間浸漬して加熱する工程から成ることを特徴とする請求項2記載のフコイダン抽出物の製造方法である。
本発明者は、ワカメの原藻を沸騰した海水に投入し、煮沸時間が3分間の熱水抽出を行った。しかし、煮沸時間が短時間であったことなどから、この液体からはフコイダンが検出されなかった。また、本発明者は、この工程の前後のワカメの葉体の藻体内のフコイダンの含有率を見たところ、ほぼ同じであることを確認した。これは、ワカメの葉体の藻体内のフコイダンがほとんど溶出していないことを意味する。したがって、請求項3の発明の方法を用いることにより、従来から行われている湯通し塩蔵わかめ、すなわち、ボイル塩蔵わかめの製造で一般に「湯通し」と言われている工程を経たワカメ及びその工程で利用している施設や設備をそのまま利用して、加熱工程を行うことができるので、加熱工程のために、湯通し塩蔵わかめ、すなわち、ボイル塩蔵わかめの製造工程を変更する必要がなく、また、新たな設備投資の必要がない。
【0018】
請求項4の発明は、前記加熱工程と前記添加工程との間に、0℃以上40℃以下で塩分濃度が5質量%以下の水溶液に前記藻類原料を浸漬しつつ振とうする振とう工程と、前記振とう工程後の水溶液をフコイダン抽出物として取得する振とう抽出工程とを、有することを特徴とする請求項1、2または3記載のフコイダン抽出物の製造方法である。
【0019】
請求項5の発明は、前記加熱工程と前記添加工程との間に、0℃以上40℃以下で塩分濃度が5質量%以下の水溶液中で前記藻類原料を絞る絞り工程と、前記絞り工程後の水溶液をフコイダン抽出物として取得する絞り抽出工程とを、有することを特徴とする請求項1、2、3または4記載のフコイダン抽出物の製造方法である。
【0020】
0℃以上40℃以下で塩分濃度が5質量%以下の水溶液は、真水や海水であってもよい。その水溶液中にワカメの内部にあるクエン酸が溶出することは知られているが、これまでフコイダンの溶出については知られていなかった。しかし、加熱したワカメを、冷却することを目的として海水に浸漬して振とうし、その後藻体を軽く絞ったところ、ワカメの内部にあるフコイダンについても、水溶性となったことなどにより溶出することが確認された。したがって、請求項4または5の発明の方法を用いることにより、塩蔵わかめの製造で一般に「冷却」と言われる工程における冷却水を、フコイダンを含有する液体(フコイダン抽出物)として有効に活用することができる。なお、振とう工程または絞り工程で前記水溶液を入れる容器の容積を小さくすることは、フコイダンを含有する液体の濃度を高める上で有効である。
【0021】
請求項6の発明は、前記中性塩は塩化ナトリウムであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のフコイダン抽出物の製造方法である。
塩蔵わかめの製造に用いられる食塩、粉砕塩などの成分の主体は塩化ナトリウムである。そして、本発明者は、原料となるワカメに添加する中性塩は、塩化ナトリウムについても有効であることを確認した。したがって、請求項6の発明の方法のように、塩蔵わかめの製造で一般に「塩もみ」と言われている工程において用いられている粉砕塩などを添加工程の中性塩として用いることができる。
【0022】
請求項7の発明は、前記中性塩の添加量が前記藻類原料の湿重量の5%以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のフコイダン抽出物の製造方法である。
本発明者は、ワカメの藻体が湿重量の5%程度の塩化ナトリウムを元来含有していることを、その葉体や中肋の部位において確認した。そこで、ワカメの藻体内の細胞の浸透圧を通常より高い状態にすることを目的として、その葉体部に藻体の湿重量の5%の塩化ナトリウムを添加し、藻体内の浸透圧を高めたところ、藻体内にあるフコイダンが液胞の中の水とともに藻体外に排出されることを確認した。つまり、フコイダンの抽出を効果的なものとするためには、ワカメの湿重量の5%以上の中性塩を添加することが望ましい。
【0023】
本発明者は、塩化ナトリウムの添加量がワカメの湿重量の5%の場合と40%の場合について、フコイダンを含有する液体(フコイダン抽出物)の排出状況を観察した。すると、40%の場合の方が5%の場合よりも短時間に、この排出液を取得することができた。塩化ナトリウムの添加量に上限は無い。しかし、ワカメの水分含有量は湿重量の約9割であり、水100gに対する塩化ナトリウムの溶解度は、0℃で35.7g、40℃で36.3gである。したがって、前記工程Bにおいて、確実に藻体内の浸透圧を高い状態にするためには、ワカメの湿重量の30%から50%程度の中性塩を添加することが効率的である。なお、塩蔵わかめの製造で一般に「塩もみ」と言われる工程では、水切り後のワカメに30%から50%の粉砕塩が加えられる。それゆえ、請求項7の発明の方法では、この「塩もみ」と言われる工程を経つつ、前記抽出工程を達成することができる。
【0024】
請求項8の発明は、前記藻類原料はワカメの原藻からメカブ及び仮根を除いた部位から成ることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のフコイダン抽出物の製造方法である。
ワカメは性状により葉体、中肋、茎、メカブ、根などに区別されるが、塩蔵わかめの製造は、ワカメの原藻からメカブ及び仮根を除いた部位を原料としている。したがって、請求項8の発明では、従来から行われている塩蔵わかめの製造工程と同じ工程を経つつ、この工程のうちで一般に「塩漬け」及び「脱水」と言われる工程において排出する液体を、本発明の方法によるフコイダンを含有する液体(フコイダン抽出物)として利用することができる。つまり、塩蔵わかめの製造工程で従来廃液として処理されていた液を、有効に活用することができる。
【0025】
請求項9の発明は、前記添加工程で前記藻類原料に中性塩を添加した状態を1時間以上保ち、前記抽出工程で前記添加工程後の前記藻類原料を圧縮又は遠心分離し、前記藻類原料から排出する液体をフコイダン抽出物として取得することを、特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のフコイダン抽出物の製造方法である。
【0026】
脱水作用を確実なものとするためには、中性塩を添加してから1時間以上経過させることが望ましい。また、原形質分離が起きた後、藻体を圧縮又は遠心分離することにより、フコイダンを含有する液体の回収率が向上する。なお、ゲル濾過及びクロマトグラフィー等の技術を利用して精製することにより、本発明の方法により得られたフコイダンを含有する液体(フコイダン抽出物)から、フコイダンの含有率の高い海藻多糖類を取得することができる。精製したフコイダンは、顆粒状や飲みやすい液状に加工して、サプリメントなどの食品として利用することができる。
本発明に係るフコイダン抽出物の製造方法により取得したフコイダン抽出物は、天日乾燥、煮沸乾燥、その他の方法で乾燥させて、フコイダンを含有する藻塩として利用してもよい。
【発明の効果】
【0027】
ワカメなどのフコイダンを含む藻類原料からフコイダン抽出物を簡易に取得することができる。また、塩蔵わかめの製造工程で従来廃液として処理されていた液体を、有効に活用することができる。
【実施例】
【0028】
フコイダン抽出物を取得するための手順を以下に詳細に説明する。
水切り後の湿重量が約1,000kgのワカメの原藻を、約85℃の海水の入った大型の釜に1分間投入した。このワカメを釜揚げして、海水で冷却した。この時、冷却水中に藻体内のフコイダンが出来るだけ滲み出ないようにするため、振とうは行わなかった。このワカメを水切りし、藻体の湿重量の約40%の粉砕塩をまぶして塩もみした。塩もみ後、1トン容器に投入し、約20時間塩漬けした。以上の工程により、容器中にフコイダンを含有する液体(フコイダン抽出物)が溜まった。また、ワカメを遠心分離することにより、フコイダンを含有する液体が排出された。容器中に溜まった液体及び遠心分離時に排出された液体の排出量は、約300リットルとなった。
なお、手順により獲得した液体は、湯通し塩蔵わかめの製造工程において、一般に「塩漬け」及び「脱水」と言われている工程段階で排出される液体に相当する。
【0029】
(測定例1)
実施例1の「塩漬け」工程において取得した液体中のフコイダンを含む海藻多糖類の濃度を以下に示す測定により確認した。
500mlビーカーに、実施例1において取得した液体(フコイダン抽出物)10mlを入れ、これに100mlとなるまで蒸留水を加えた。次に、この溶液に99.5%のエタノールを300ml加えたときに沈殿する沈殿物を回収し、これを凍結乾燥して得られた粉末を多糖類(粗フコイダン)として、この重量を計量した。この試験を3回実施したところ、この平均値は20.4mg(生データ:22.3mg、19.0mg、19.8mg)であった。つまり、この液体中の海藻多糖類の濃度は2.0g/l程度であった。
【0030】
(測定例2)
実施例1において取得した海藻多糖類がフコイダンを含むことを以下に示す測定(システイン−硫酸法)により精査した。
試験管に実施例1の「塩漬け」工程において取得した液体(フコイダン抽出物)1.0mlをとり、この試験管を氷冷しながら、水1容に特級硫酸6容を加えて作成した試薬4.5mlを入れて混合した。次に、この試験管を30℃の流水中で1分間保ち、沸騰水中で10分間加熱した。再び30℃の流水中でこの試験管を冷却した後、3.3%のチオグリコール酸水溶液を0.1ml加えて、これを30℃の流水中に24時間静置した。
分光光度計((株)日立製作所製U-3500)を用いて、この溶液の吸収スペクトルを300nmから500nmの範囲で計測したところ、396nm周辺に吸光度のピークがあった。これはフコースのピークと同じであった。また、その吸収スペクトルのグラフを図1に示す。この吸収スペクトルの形は、正規分布に近いものであった。これは液体中の海藻多糖類が、フコースを主たる構成糖とした硫酸化多糖、すなわち、フコイダンを含むことを示す。なお、測定時のスリット幅は4.0nmに固定した。
【0031】
(測定例3)
実施例1の工程ごとに、ワカメの葉体の海藻多糖類の含有量を希塩酸抽出アルコール分別法により測定したところ、乾燥重量に対して、原藻は約5%、これを3分間煮沸して海水で冷却したものは約5%、塩漬け後のものは約3%、遠心分離後のものは約1.5%であった。すなわち、実施例1の方法により、約70%の海藻多糖類が藻体外に排出されたことになる。
【0032】
(測定例4)
実施例1について、加熱時間を10秒、30秒、1分、2分、5分、10分、30分及び無加熱とした場合に、粉砕塩を添加して約20時間経過後にワカメの葉体から排出する液体中のヘキソースの全量を、フェノール−硫酸法(例えば、非特許文献3参照)により測定した。また、これらのフコースの全量をシステイン−硫酸法により測定した。
【0033】
以上の測定結果、これらのワカメの葉体の湿重量1kg中から排出した全糖量(ヘキソースの全量)は、10秒の場合302.5 mg、30秒の場合235.0 mg、1分の場合171.4 mg、2分の場合185.4 mg、5分の場合131.9mg、10分の場合161.8 mg、30分の場合245.9 mg、無加熱の場合1058.1 mgであった。
【0034】
また、全糖中のフコースの含有率は、10秒の場合14.9%、30秒の場合13.8%、1分の場合15.5%、2分の場合16.2%、5分の場合12.0%、10分の場合12.9%、30分の場合11.4%、無加熱の場合13.5%であった。なお、加熱したワカメは、それぞれ加熱直後に約10℃の海水に2分間浸漬しつつ振とうした。また、無加熱のワカメの葉体については、水切り後、直ちに粉砕塩を添加した。
【0035】
測定例1、2および3から、フコイダンの定義をフコースを主たる構成糖とした硫酸化多糖とした場合、実施例1において取得した液体(フコイダン抽出物)に含まれる海藻多糖類はフコイダンを含んでおり、この液体中の海藻多糖類の濃度は2.0g/l程度であった。また、測定例4から、加熱したワカメを海水などに浸漬しつつ振とうして冷却することにより、フコイダンを含有する液体が冷却水中に排出したことと、ワカメの加熱時間が1〜2分程度の場合にフコースの含有率が高くなったことが示される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】測定例2で測定した、実施例1で取得した海藻多糖類の吸収スペクトルのグラフである。
【図2】測定例4で測定した、実施例1で加熱時間を変えて取得した液体中のヘキソースの全量とフコースの全量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フコイダンを含む藻類原料に中性塩を添加する添加工程と、前記添加工程により前記藻類原料から排出する液体をフコイダン抽出物として取得する抽出工程とを有することを特徴とするフコイダン抽出物の製造方法。
【請求項2】
前記添加工程の前に、前記藻類原料を40℃以上100℃以下の温度で加熱する加熱工程を有することを特徴とする請求項1記載のフコイダン抽出物の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程は、40℃以上100℃以下で塩分濃度が5質量%以下の水溶液に前記藻類原料を10秒〜5分間浸漬して加熱する工程から成ることを特徴とする請求項2記載のフコイダン抽出物の製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程と前記添加工程との間に、0℃以上40℃以下で塩分濃度が5質量%以下の水溶液に前記藻類原料を浸漬しつつ振とうする振とう工程と、前記振とう工程後の水溶液をフコイダン抽出物として取得する振とう抽出工程とを、有することを特徴とする請求項1、2または3記載のフコイダン抽出物の製造方法。
【請求項5】
前記加熱工程と前記添加工程との間に、0℃以上40℃以下で塩分濃度が5質量%以下の水溶液中で前記藻類原料を絞る絞り工程と、前記絞り工程後の水溶液をフコイダン抽出物として取得する絞り抽出工程とを、有することを特徴とする請求項1、2、3または4記載のフコイダン抽出物の製造方法。
【請求項6】
前記中性塩は塩化ナトリウムであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のフコイダン抽出物の製造方法。
【請求項7】
前記中性塩の添加量が前記藻類原料の湿重量の5%以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のフコイダン抽出物の製造方法。
【請求項8】
前記藻類原料はワカメの原藻からメカブ及び仮根を除いた部位から成ることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のフコイダン抽出物の製造方法。
【請求項9】
前記添加工程で前記藻類原料に中性塩を添加した状態を1時間以上保ち、前記抽出工程で前記添加工程後の前記藻類原料を圧縮又は遠心分離し、前記藻類原料から排出する液体をフコイダン抽出物として取得することを、特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のフコイダン抽出物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−332320(P2007−332320A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−168373(P2006−168373)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【出願人】(591074736)宮城県 (60)
【Fターム(参考)】