フコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質の製造方法
【課題】藻類から高純度のFCPを高収量で取得できる製造方法を提供すること。
【解決手段】
次の工程(1)〜(4);
(1)オキナワモズクの盤状体または糸状体を細胞破砕処理してチラコイド膜を分離す
る工程
(2)得られたチラコイド膜を界面活性剤含有緩衝液で可溶化してチラコイド膜の可溶
化液を得る工程
(3)得られた可溶化液をイオン交換クロマトグラフィーに供し粗フコキサンチン−ク
ロロフィルa/cタンパク質を得る工程
(4)得られた粗フコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質をゲルろ過クロマト
グラフィーまたは限外ろ過に供する工程
を含むことを特徴とするフコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質の製造方法。
【解決手段】
次の工程(1)〜(4);
(1)オキナワモズクの盤状体または糸状体を細胞破砕処理してチラコイド膜を分離す
る工程
(2)得られたチラコイド膜を界面活性剤含有緩衝液で可溶化してチラコイド膜の可溶
化液を得る工程
(3)得られた可溶化液をイオン交換クロマトグラフィーに供し粗フコキサンチン−ク
ロロフィルa/cタンパク質を得る工程
(4)得られた粗フコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質をゲルろ過クロマト
グラフィーまたは限外ろ過に供する工程
を含むことを特徴とするフコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質の製造方法に関し、更に詳細には、オキナワモズクの盤状体または糸状体を原料とし、高純度のフコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質を高収量で得ることが可能なフコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フコキサンチン-クロロフィルa/cタンパク質(以下、「FCP」ということがある)は、フコキサンチンとクロロフィルが結合した、光合成初期過程において光エネルギーを受容して反応中心に伝達する周辺アンテナ色素-タンパク複合体であり、主として褐藻・珪藻類の光合成膜(チラコイド膜)内に存在する。
【0003】
このような光合成タンパク質に結合する光合成色素は、近年太陽電池に用いる増感色素としての応用が検討されており、最近では光合成タンパク質そのものをも太陽電池として応用する可能性が検討されてきている。また、FCPを構成するフコキサンチンには、種々の生理活性が見出されており、体内摂取による抗腫瘍効果(特許文献1)や神経細胞保護効果(特許文献2)、血糖値上昇抑制効果(特許文献3)等が報告されている。フコキサンチンは、生体内ではFCPに結合した状態で安定に存在しており、単離したFCPから容易に分離することができるため、FCPはフコキサンチンを製造するための中間原料としても有用である。
【0004】
しかしながら、これまでFCPについて、珪藻類であるキクロテラ・メネギニアーナ(Cyclotella meneghiniana)やジャイアントケルプ(Macrocystis pyrifera)から単離されたという報告があるのみであり(非特許文献1〜3)、FCPを多量に高純度で分離・精製する方法については、ほとんど検討されていないのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−158156号公報
【特許文献2】特開2001−335480号公報
【特許文献3】特開2007−297370号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Supramolecular Assembly of Fucoxanthin-Chlorophyll-Protein Complexes Isolated from a Brown Alga,Petalonia fascia.Electron Microscopic Studies,Tetzuya Katoh and Tomoko Ehara,Plant Cell Physiol.1990,31(4),439-447
【非特許文献2】Fucoxanthin-Chlorophyll Proteins in Diatoms: 18 and 19 kDa Subunits Assemble into Different Oligomeric States ,Claudia Bu¨chel, Biochemistry 2003, 42, 13027-13034
【非特許文献3】Subunit Composition and Pigmentation of Fucoxanthin-Chlorophyll Proteins in Diatoms: Evidence for a Subunit Involved in Diadinoxanthin and Diatoxanthin Binding,Anja Beer, Kathi Gundermann, Janet Beckmann, and Claudia Bu¨chel, Biochemistry 2006, 45, 13046-13053
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、藻類から高純度のFCPを高収量で取得できる分離・精製方法の確立が望まれており、本発明は、そのようなFCPの製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究をした結果、沖縄原種の褐藻類であるオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus)について、藻体の前駆体である盤状体または糸状体は、成熟藻体に比べて単位重量当たりのチラコイド膜量が多く、またチラコイド膜を可溶化し、これをイオン交換クロマトグラフィーおよびゲルろ過カラムクロマトグラフィーで精製することによって、高純度のFCPを高収量で得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
次の工程(1)〜(4);
(1)オキナワモズクの盤状体または糸状体を細胞破砕処理してチラコイド膜を分離す
る工程
(2)得られたチラコイド膜を界面活性剤含有緩衝液で可溶化してチラコイド膜の可溶
化液を得る工程
(3)得られた可溶化液をイオン交換クロマトグラフィーに供し粗フコキサンチン−ク
ロロフィルa/cタンパク質を得る工程
(4)得られた粗フコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質をゲルろ過クロマト
グラフィーまたは限外ろ過に供する工程
を含むことを特徴とするフコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、生体における構造を維持した高純度のFCPを高収量で得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1におけるイオン交換クロマトグラフィーのクロマトグラムである。
【図2】実施例1におけるゲルろ過クロマトグラフィーのクロマトグラムである。
【図3】比較例1においてチラコイド膜の可溶化液をショ糖密度勾配超遠心分離した写真(a)および各バンドの吸収スペクトル(b)である。
【図4】比較例1におけるイオン交換クロマトグラフィーのクロマトグラムである。
【図5】比較例2においてチラコイド膜の可溶化液をショ糖密度勾配超遠心分離した写真(a)および各バンドの吸収スペクトル(b)である。
【図6】比較例2におけるゲルろ過クロマトグラフィーのクロマトグラムである。
【図7】試験例1における各精製FCPの吸収スペクトルである。
【図8】試験例1における各精製FCPのSDS−PAGE泳動図である。
【図9】試験例2におけるゲルろ過HPLCのクロマトグラムである。
【図10】試験例2におけるゲルろ過HPLCにより溶出時間と分子量をプロットした図である。
【図11】試験例3におけるCN−PAGE泳動図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明においては、原料の褐藻類として、ナガマツモ科(Chordaceae)のオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus)を使用する。また、オキナワモズクは、成熟体から遊走子の放出、遊走子から盤状体または糸状体の発生、盤状体または糸状体の着床による直立体の形成、直立体から成熟体への成長という生育サイクルを有するが、本発明ではこのうちの、盤状体または糸状体を用いる。なお、盤状体または糸状体は、上記生育サイクルのうちの遊走子と直立体の中間に位置するものであり、別名で呼ばれることもがあるが、本発明においてはこれらの何れも含む。
【0013】
上記盤状体または糸状体(以下、「盤状体等」ということがある)は、天然由来のものであってもよいが、人工的に培養されたものを使用することが好ましく、特に盤状体等の種苗を直立体を形成させない条件で培養、増加されたものを利用することにより、多量に盤状体等を得ることができるので好ましい。
【0014】
上記の直立体を形成させない条件での培養は、オキナワモズクの盤状体等の種苗を、培養容器へ着床させない条件で培養することにより行われ、例えば、連続攪拌培養したり、着床しにくい材料で形成した培養容器中で培養すれば良い。
【0015】
具体的に、連続攪拌により直立体を形成させずに培養する場合は、攪拌子や攪拌機による機械攪拌や、通気等による攪拌を行い、培養液全体を攪拌しながら培養すれば良い。なお、フラスコ等で培養を行う場合には、攪拌と同時に炭酸供給が行えるため通気による攪拌が好ましく、培養タンク等で培養を行う場合には効率の点から機械攪拌が好ましい。攪拌条件は容器の大きさ等により適宜変化するが、例えば、培養容器として5lの容量の平底フラスコを用い、通気による攪拌を行う場合には、培養容器内に空気を0.1l/分〜10l/分、好ましくは1l/分〜5l/分で導入すれば良い。
【0016】
上記培養の際に用いる培養液は、オキナワモズクの盤状体等を培養することができるものであれば特に制限されないが、滅菌された人工海水または海水に、窒素、リン酸等を含む栄養塩、ホウ素、マンガン等の微量元素、EDTA等のキレート剤、ビタミンB群等の栄養素等(以下、これらを「栄養成分」という)を添加した培養液が好ましく、特に前記栄養成分の内、栄養塩、微量元素およびキレート化合物を添加した培養液が好ましい。これらの栄養成分は0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜1質量%(以下、単に「%」という)の濃度で培養液に存在することが好ましい。これらの栄養成分は、例えば、KW−21(第一製網製)の商品名で市販されている藻類培養液を用いることができ、これを上記濃度で添加すれば良い。
【0017】
また、この培養は恒温条件下で行うことが好ましく、具体的には培養容器を恒温槽等で15℃〜35℃、好ましくは20℃〜30℃の温度に保ち培養を行えば良い。
【0018】
更に、この培養は光照射条件下で行うことが好ましく、具体的には500ルクス〜30,000ルクス、好ましくは4,000ルクス〜10,000ルクスの照度、8L:16D〜24L:0D、好ましくは12L:12D〜24L:0Dの光周期で照射を行えば良い。
【0019】
上記した培養方法により、オキナワモズクの盤状体等のみを繰り返し、増殖させて培養することができる。なお、盤状体等は、培養容器中に着床すると、すぐに直立体を形成し、成熟体にまで成長してしまうので、盤状体等を着床させることは盤状体等を多く得るためには適さない。
【0020】
上記の培養方法に使用するオキナワモズクの盤状体等の種苗は、例えば、次のようにして得ることができる。すなわち、まず、単子嚢を形成していない母藻を数本程度と、盤状体等が着床することのできる物質(以下、「着床担体」という)とを共に滅菌海水に入れ、恒温条件で培養し、遊走子から変化した盤状体または糸状体を着床担体に着床させる。
【0021】
ここで着床担体としては、ガラス、アクリル、プラスチック、ポリカーボネート、繊維、岩石、砂等が好ましく、特にガラス板(スライドガラス)、アクリル板が好ましい。また、滅菌海水は海水または人工海水をオートクレーブあるいはろ過することにより得られる。この滅菌海水には、上記盤状体等の培養と同様に、栄養素、微量元素、キレート剤およびビタミン類等の栄養成分を適宜添加することができる。
【0022】
盤状体等が着床担体に着床するまでの培養は、上記盤状体等の培養と同様の条件で行えば良い。また、前記培養と同時に、盤状体等が着床担体に着床できる程度に通気等の攪拌を行っても良い。
【0023】
次いで、盤状体等が着床した着床担体を取りだし、滅菌海水で洗浄した後、上記盤状体等の培養と同様の条件で再度培養する。
【0024】
上記盤状体等が着床した着床担体の培養においては、培養2、3日後から1日おきに平筆よる洗浄を行う。この洗浄に用いる水としては、滅菌海水および水道水が使用されるが、水道水での洗浄は10秒以内で行うことが好ましい。
【0025】
上記盤状体等が着床した着床担体の培養開始後8日〜10日の十分に成長した盤状体等を、検鏡(100倍)により雑藻の少ない部分を選んで掻き取って盤状体等の種苗とすることができる。また、必要により上記で掻き取った盤状体等を試験管に入れて滅菌海水を使用して3回程度ピペッティングで洗浄し、その後、寒天平板(海水に0.5〜10%の寒天と0.01〜10%の栄養成分(藻類培養液)を添加した寒天培地)に塗りつけて、温度15〜35℃、好ましくは20〜30℃、照度500〜30,000ルクス、好ましくは4,000〜10,000ルクス、光周期8L:16D〜24L:0D、好ましくは12L:12D〜24L:0Dの条件下で培養しても良い。この培養から20〜30日後、寒天平板に増殖してきた盤状体等のうち、雑藻が混入していないコロニーを選択し、これを掻き取って盤状体等の種苗とすることができる。
【0026】
上記のようにして得られたオキナワモズクの盤状体等は、成熟藻体と比べて単位重量当たりのチラコイド膜量が多く、また硬い皮膜がないためチラコイド膜を抽出しやすく、疎水性であるFCPを生体条件を保ったまま取り出すことが可能である。
【0027】
次に上記オキナワモズクの盤状体等の細胞を破砕してチラコイド膜を分離する。細胞破砕方法としては、例えば、物理的処理、化学的処理、酵素的処理、加熱処理、自己消化、浸透圧溶解、原形質溶解等を挙げることができる。これらの中でも物理的処理が好ましく、具体的には、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、フレンチプレス等による処理、あるいはこれらの組み合わせを例示できる。これらの中でも、直接物理的にタンパク質を破壊する恐れが無く、最もマイルドな処理方法であるためフレンチプレスが好ましく、その圧力は通常100〜180MPa程度であり、好ましくは140〜160MPaである。フレンチプレス処理にあたっては、盤状体等を予め水、緩衝液等で5〜10倍程度に希釈することにより、チラコイド膜の収率を向上させることができる。
【0028】
細胞破砕処理においては、0〜10℃程度の低温下で行うことにより、FCPの変性を抑制しながら、内在性のプロテアーゼによるFCPの分解を抑制することができる。特にクロロフィルa分解酵素の活性は非常に強いため、EDTAを添加して活性を抑制しているが、低温下でのすばやい処置を取る他に効き目は無い。プロテアーゼ阻害剤を使用した場合、同時に添加する塩によってFCP中の色素の結合安定性に影響を及ぼすおそれがある上、このクロロフィルa分解酵素の活性は特に落ちないため、これを加えることは好ましくない。また、希釈倍率が低く、破砕処理溶液の粘性が高くなると処理中に熱を発生し、低温条件を保つことが困難となり、望ましくない。
【0029】
得られた破砕物を遠心分離等の固液分離手段に供することにより、チラコイド膜を分離することができる。例えば、破砕物を12,000gで20分遠心分離に供し、細胞壁等を沈下させる一方、チラコイド膜を含有する上清を分離することができる。さらに、上清を75,000 g、60分超遠心分離処理すると、粗チラコイド膜が沈下する。この沈殿をさらに40,000g、20分程度超遠心分離に供することにより、低い分子量の不純物を除き、チラコイド膜を濃縮した沈殿が得られる。
【0030】
次いで、分離したチラコイド膜を界面活性剤含有緩衝液で可溶化させる。緩衝液は、特に限定されるものではないが、Tris緩衝液、Mes緩衝液等が好適に使用できる。またpHは、一般的に6〜8の範囲が好ましく、さらに7.5付近が好ましい。緩衝剤の濃度は、通常10〜50mM程度が適当である。界面活性剤としては、n−ドデシル−β−D−マルトシド(DDM)、オクチルスクロース、トリトンX−100(登録商標)等の非イオン性界面活性剤が使用できるが、中でもDDMがFCPの変性を抑制しつつ、チラコイド膜からFCPを選択的に可溶化できることから好ましい。界面活性剤の濃度は、それぞれに固有のcmc(臨界ミセル濃度)で決められる。濃度が高いほうが可溶化能も高いが蛋白質の分解を招く場合があるため、なるべく低く保つ最適化が好ましい。また、界面活性剤の濃度はチラコイド膜の濃度にも依存するため、cmcとチラコイド膜の濃度に応じて適宜設定される。例えば、チラコイド膜をクロロフィル濃度0.25mg/mLで添加し界面活性剤としてDDMを使用する場合、DDM濃度は、0.4〜0.6w/v%程度が好適である。このようにしてチラコイド膜を界面活性剤含有緩衝液に添加し、0〜4℃、20分程度インキュベートすることにより、チラコイド膜を可溶化できる。
【0031】
得られたチラコイド膜の可溶化液を、イオン交換クロマトグラフィーに供する。用いるイオン交換樹脂としては、弱陰イオン交換樹脂が好ましい。弱陰イオン交換樹脂としては、DEAE-Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア社製)、DE52(ワットマン社製)などの市販品がある。溶離液のpHは、一般的にpH6〜8であればよい。溶離液は、FCPを安定化して保存するのに最適な緩衝液と界面活性剤濃度を選択することが好ましく、この観点から上記チラコイド膜の可溶化で使用可能な緩衝剤および界面活性剤を用い得るが、界面活性剤濃度はより低くすることが好適である。DDMを使用する場合は、0.03〜0.075w/v%の範囲が好ましい。
【0032】
イオン交換クロマトグラフィーにあたっては、イオン強度を経時的に変化させて溶離液に濃度勾配をつけることが好ましい。例えば、NaClを用いて、リニア型、カーブ型、ステップワイズ型などの任意の変化方法によってイオン強度を経時的に変化させることができる。また、溶離液の流速は、一般的に0.5〜1.5mL/分程度であるが、カラムにパックされるゲルの最大圧力を考慮して適宜設定すればよい。このような分離条件により、粗FCPのピークが明確に分離されたクロマトグラムを得ることができ、当該ピークの分画を分離回収することにより、粗FCPが得られる。
【0033】
得られた粗FCPは、さらにゲルろ過クロマトグラフィーまたは限外ろ過に供し精製される。ゲルろ過材としてはデキストラン系、アガロース系、セルロース系、アクリルアミド系等の一般的なものを使用できるが、約20〜500kDaの分子量を有する物質を分画できるゲルが好ましく、例えば、Superdex200PG(GEヘルスケア社製)等が好適に用いられ得る。溶離液は、イオン交換クロマトグラフィーと同様である。流速はカラムの径に合わせて中圧を保つ流速であることが望ましく、例えば、Hi Load 26/60 superdex 200PG であれば1.5〜2.0mL/分程度が分離がよい。一方、分子量分画としてゲルろ過クロマトグラフィーと同様の原理を持つ限外ろ過によっても精製が可能である。限外ろ過の素材としては酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、セラミック等が利用でき、構造としては中空糸膜、スパイラル膜、平膜等の一般的なものが利用できるが、約20〜500kDaの分子量を有する物質を分画できるポアサイズが好ましく、例えば旭化成ラボモジュール AHP-1010、旭化成ラボモジュール SIP-1013等を組み合わせて使用することにより目的の分子量の蛋白質を選択的に取得できる。
【0034】
以上のようにして得られるFCPは、クロロフィルおよびフコキサンチンが安定に結合して生体条件を維持しているとともに、他の精製方法と比較して純度が高いものである。FCPは、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量が54〜56kDaであり、約18.2kDaと約17.5kDaのサブユニットから構成される。また、FCPはN末端にSer-Phe-Glu-Ser-Glu-Ile-Gly-Ala-Glnのアミノ酸配列を含み、FCP遺伝子由来のアミノ酸配列が報告されている唯一の褐藻類であるケルプ(Macrocystis pyrifera)由来のFCPタンパク5種類とホモロジーが認められる。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
参 考 例 1
オキナワモズク盤状体の培養:
(盤状体種苗の調製)
天然産のオキナワモズクを母藻とし、これを滅菌海水(海水を90〜100℃に加熱後冷却したもの)でよく洗浄後、検鏡して単子嚢が形成されていないことを確認して10cmにカットした。カットして得られた3本の母藻を滅菌海水を満たした500mlビーカーにスライドガラスと共に入れ、盤状体がスライドガラス上に着床できる程度の弱通気下、25℃の恒温槽(NLR350:サンヨー製)中、光照射条件下で培養した。光照射条件は、照度5,000ルクス、光周期12L:12Dとした。培養24時間後に盤状体が着床したスライドガラスを取りだし、滅菌海水で洗浄したあと、滅菌海水に藻類培養液(KW21:第一製網(株)製)を0.25ml/lの濃度で添加した培地を満たした200mlコニカルビーカーに移して培養を開始した。
【0037】
コニカルビーカーでの培養3日後から1日おきにナイロン平筆(FMF−15:(株)アサヒペン製)を用いて洗浄を行った。洗浄に用いる洗浄用水には滅菌海水と水道水を使用した。水道水での洗浄は流水にして10秒以内で行うようにした。培養から8日〜10日後の十分成長した盤状体は、検鏡(100倍)により雑藻の少ない部分を選んでカミソリで掻き取った。この盤状体を試験管に入れて滅菌海水を使用してピペッティングで3回洗浄した。洗浄後、寒天平板(海水に1.0%の寒天と0.1%の藻類培養液を添加した寒天培地)に塗りつけて恒温槽を用いて、温度23℃、照度4,000ルクス、光周期12L:12Dの条件下で培養した。培養から20〜30日後、寒天平板に盤状体が増殖してきたので、雑藻が混入していないコロニーを選択してとり、別の寒天平板に移植してオキナワモズクの盤状体種苗を調製した。
【0038】
(盤状体の培養)
藻類培養液(KW21:第一製網(株)製)を0.1%添加したろ過海水を120℃で15分間オートクレーブしたものを培養液とした。この培養液4lを5lの平底フラスコに入れ、これに実施例1で調製したオキナワモズク盤状体種苗を5g加え、空気を4.6l/分で導入し、温度23℃、照度4,000ルクス、光周期12L:12Dの条件下で1週間培養した。1週間培養後、盤状体は17.5gとなり、培養開始時の3.5倍の重量となった。また、検鏡の結果、盤状体の大きさの変化はほとんど認められなかったことから、この重量の増加は盤状体の成長によるものでなく、盤状体の増殖によるものであった。また、培養液中に直立体の形成は認められなかった。
【0039】
実 施 例 1
FCPの分離・精製:
(細胞破砕処理)
参考例1で得られたオキナワモズクの盤状体をMes buffer (pH 6.5)(10mM MES/KOH pH 6.5, 2 mM KCl, 5 mM EDTA)で10倍に希釈してホモジナイズした後、4℃、150MPaでフレンチプレス破砕した。破砕物を遠心分離(12,000g、20分、4℃)して上清を分取した。上清を超遠心分離処理(75,000g、60分、4℃)し、沈殿をホモジナイズ後、さらに超遠心分離処理(40,000g、20分、4℃)し、沈殿としてチラコイド膜を得た。
【0040】
(チラコイド膜の可溶化)
得られた沈殿を10mM b-dodecyl maltoside(DDM)含有10mM Mes buffer (pH 6.5)に、クロロフィルa濃度が0.25mg/mLとなるように添加し、4℃で20分間インキュベートした。
【0041】
(イオン交換クロマトグラフィー)
得られた可溶化液について、以下の条件によりイオン交換クロマトグラフィーを行った。結果を図1に示す。図1中のIは、遊離色素、IIは粗FCP、IIIは光化学系複合体のピークである。IIのピークを分取して粗FCPを得た。
カラム:DEAE-sepharose Fast Flow(GEヘルスケア社製)
溶離液:0-0.75M NaCl, 0.03% DDM,2mM KCl, 25mM Tris-HCl pH7.4(NaCl濃度:0〜20
分(0M)+20〜100分(0→0.2M)+100〜120分(0.2→0.75M)
流 速:2.0ml/min.
検 出:フォトダイオードアレイ, 250-700nm
【0042】
(ゲルろ過クロマトグラフィー)
得られた画分について、下記条件によるゲルろ過クロマトグラフィーに供した。結果を図2に示す。図に示すピークを分取して精製FCPを得た。
カラム:Hi Load 26/60 superdex 200PG(GEヘルスケア社製)
溶離液:0.03% DDM, 2mM KCl, 25mM Tris-HCl pH7.4
流 速:2.0ml/min.
検 出:UV,254nm
【0043】
比 較 例 1
実施例1と同様にして得たチラコイド膜の可溶化液について、ショ糖密度勾配超遠心分離により分画を行った。ショ糖密度勾配の条件は10%-20%-30%-40%で行い、200,000g,16時間超遠心分離を行った。結果を図3に示す。得られた分画のうち、band2を分取し、以下の条件によるイオン交換クロマトグラフィーに供した。結果を図4に示す。IVのピークを分取し、精製FCPを得た。
カラム:DEAE Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア社製)
溶離液:0-0.75M NaCl, 0.03% DDM,2mM KCl, 25mM Tris-HCl pH7.4(NaCl濃度:0〜20
分(0M)+20〜100分(0→0.2M)+100〜120分(0.2→0.75M)
流 速:2.0ml/min.
検 出:フォトダイオードアレイ, 250-700nm
【0044】
比 較 例 2
実施例1と同様にして得たチラコイド膜の可溶化液について、ショ糖密度勾配超遠心分離により分画を行った。ショ糖密度勾配の条件は10%-20%-30%-40%で行い、200,000g,16時間超遠心分離を行った。結果を図5に示す。得られた分画のうち、band2を分取し、以下の条件によるゲルろ過クロマトグラフィーに供した。結果を図6に示す。図6に示されるピークを分取し、精製FCPを得た。
カラム:Hi Load 26/60 superdex 200PG(GEヘルスケア社製)
溶離液:0.03% DDM, 2mM KCl, 25mM Tris-HCl pH7.4
流 速:2.0ml/min.
検 出:UV,254nm
【0045】
試 験 例 1
FCPの光合成活性および純度の評価:
実施例1および比較例1〜2で得られた精製FCPを緩衝液(0.03% DDM, 25mM Tris-HCl pH7.4)で溶解し、分光光度計により、それぞれの吸収スペクトルを測定した。結果を図7に示す(A:比較例1、B:実施例1、C:比較例2)。フコキサンチンの結合は、クロロフィルcと比べて弱いと考えられるが、結合したフコキサンチンを示す530nmの吸光度とクロロフィルcを示す437nmにおける吸光度の比(A530/A437)によって、FCPが生体条件を維持した状態で分離されているか否か評価し得る。図7より、実施例1(B)と比較例1(A)は、A530/A437が0.3となり、0.25である比較例2(C)と比べて、より色素の結合が安定に維持された状態で分離されていることが示された。また、それぞれの精製FCPをSDS−PAGEに供しCBB染色したところ、FCPを構成するサブユニットの17〜18kDa付近のバンド以外の場所には、実施例1(B)では何も検出されなかった。以上より、実施例1の精製FCPが、生体条件を維持した状態で、かつ高純度であることが示された。
【0046】
さらに、比較例2(C)のバンドについてPVDF膜に転写後、アミドブラック染色を行ったところ、18.2kDa,17.5kDaの2本のバンドが確認され、FCPのサブユニットは18.2kDa,17.5kDaの2種類存在することが示唆された。
【0047】
試 験 例 2
ゲルろ過HPLCによるFCPの分析:
実施例1および比較例1〜2で得られた精製FCPについて以下の条件によりゲルろ過HPLCによる分析を行った。結果を図9および10に示す。図9より、比較例1および2の精製FCP(FCP−AおよびC)では、不純物と考えられるピークがみられるのに対し、実施例1の精製FCP(B)では、この不純物のピークは全く無くなり、純度が高いことが示された。また図10より、FCPの分子量は約55kDaであり、3量体を形成していることが示された。
(ゲルろ過HPLC条件)
カラム:TOSOH TSKgel G4000PWXL
溶離液:0.075% DDM, 2mM KCl, 25mM Tris-HCl pH7.4
流 速:1.0ml/min.
検 出:フォトダイオードアレイ, 250-700nm
【0048】
試 験 例 3
界面活性剤の検討:
オキナワモズク盤状体より調製したチラコイド膜(4.5μgクロロフィルa:チラコイド膜の濃度は、メタノールで抽出して660nmの吸光度を測定し、クロロフィルa濃度を決定してクロロフィルaのグラム数あたりで算出)を遠沈し、上澄み液を除去したものに、懸濁液を加えて懸濁し、全体で30マイクロリットルの溶液にした。これに下記(I)〜(IV)の界面活性剤溶液を10マイクロリットル加えて氷上で10分間攪拌した。これを一度遠心して上澄みを取りだし可溶化液とした。(1)、(2)はそれぞれ界面活性剤溶液(I)、(II)を用いて一度可溶化した残渣を同じ界面活性剤溶液で再度可溶化したものである。(3)〜(6)はそれぞれ界面活性剤溶液(I)〜(IV)を用いて可溶化したものである。これらの可溶化液を懸濁液で二倍希釈したものを10マイクロリットルずつ電気泳動用ゲルのウェルにロードした。Clear Native PAGE(文献参照:Advantages and limitations of clear-native PAGE, Ilka Wittig and Hermann Schagger, Proteomics 2005, 5,4338-4346)と呼ばれる非破壊条件のポリアクリルアミド電気泳動を行なった。標品として分子量マーカー(Invitrogen社製,NativeMark、図11中ではMの表示)の他、単離したFCP(図11中ではFの表示)を同時に泳動した。得られたゲルをクマシブリリアントブルー染色したものを図11に示した。
【0049】
懸濁液:25%(v/v)Grycerol,50mM Tris-HCl pH 70, 10mM MgCl2, 120mM 6-Amino
hexanoic acid
界面活性剤溶液:(I) 10%(w/v) DDM aq.
(II) 5% (v/v) Triton X-100 aq.
(III) 5% (v/v) LDAO (Lauryldimethylamine-oxide) aq.
(IV) 5% (w/v) LDS (Lithium dodecyl sulfate) aq.
電気泳動条件:
ゲル:BioRad社製レディーゲルJ(5-15%)
アノード液:25mMTris-HCl pH 7.0
カソード液:50mM Tricine, 7.5mM Tris,0.05% Triton X-100, 0.05% DOC(Deoxycholic acid)
定電流:4mA
温度:4度
【0050】
FCPのバンドが最もはっきり検出できたのは、DDMで一回可溶化した(3)のみであった。DDMで二回目可溶化した(1)にはFCPのバンドはほとんど出ておらず、DDMによる一回の可溶化でFCPはほぼ全て可溶化されてきたことが示された。Triton X-100での可溶化では、一回目(4)、二回目(2)共に、FCPよりも分子量の大きい光化学系という他の光合成タンパクが可溶化されてきているが、可溶化されたFCPの量は非常に少なかった。LDAO(5)、LDS(6)での可溶化では、共にFCPの部分にはバンドが無く、より分子量の低いところに濃いバンドが現れていることより、FCPがサブユニットまで分解されてしまっていることが示唆される。このため、光合成機能を保った状態での可溶化には強すぎる可溶化剤であることが示された。これらの結果を総合すると、DDMが最適であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、オキナワモズクの盤状体等から、高純度のFCPを高収量で得ることができる。したがって、健康食品や医薬品等に用い得るフコキサンチンの原料や太陽電池の増感色素の製造方法として有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、フコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質の製造方法に関し、更に詳細には、オキナワモズクの盤状体または糸状体を原料とし、高純度のフコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質を高収量で得ることが可能なフコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フコキサンチン-クロロフィルa/cタンパク質(以下、「FCP」ということがある)は、フコキサンチンとクロロフィルが結合した、光合成初期過程において光エネルギーを受容して反応中心に伝達する周辺アンテナ色素-タンパク複合体であり、主として褐藻・珪藻類の光合成膜(チラコイド膜)内に存在する。
【0003】
このような光合成タンパク質に結合する光合成色素は、近年太陽電池に用いる増感色素としての応用が検討されており、最近では光合成タンパク質そのものをも太陽電池として応用する可能性が検討されてきている。また、FCPを構成するフコキサンチンには、種々の生理活性が見出されており、体内摂取による抗腫瘍効果(特許文献1)や神経細胞保護効果(特許文献2)、血糖値上昇抑制効果(特許文献3)等が報告されている。フコキサンチンは、生体内ではFCPに結合した状態で安定に存在しており、単離したFCPから容易に分離することができるため、FCPはフコキサンチンを製造するための中間原料としても有用である。
【0004】
しかしながら、これまでFCPについて、珪藻類であるキクロテラ・メネギニアーナ(Cyclotella meneghiniana)やジャイアントケルプ(Macrocystis pyrifera)から単離されたという報告があるのみであり(非特許文献1〜3)、FCPを多量に高純度で分離・精製する方法については、ほとんど検討されていないのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−158156号公報
【特許文献2】特開2001−335480号公報
【特許文献3】特開2007−297370号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Supramolecular Assembly of Fucoxanthin-Chlorophyll-Protein Complexes Isolated from a Brown Alga,Petalonia fascia.Electron Microscopic Studies,Tetzuya Katoh and Tomoko Ehara,Plant Cell Physiol.1990,31(4),439-447
【非特許文献2】Fucoxanthin-Chlorophyll Proteins in Diatoms: 18 and 19 kDa Subunits Assemble into Different Oligomeric States ,Claudia Bu¨chel, Biochemistry 2003, 42, 13027-13034
【非特許文献3】Subunit Composition and Pigmentation of Fucoxanthin-Chlorophyll Proteins in Diatoms: Evidence for a Subunit Involved in Diadinoxanthin and Diatoxanthin Binding,Anja Beer, Kathi Gundermann, Janet Beckmann, and Claudia Bu¨chel, Biochemistry 2006, 45, 13046-13053
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、藻類から高純度のFCPを高収量で取得できる分離・精製方法の確立が望まれており、本発明は、そのようなFCPの製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究をした結果、沖縄原種の褐藻類であるオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus)について、藻体の前駆体である盤状体または糸状体は、成熟藻体に比べて単位重量当たりのチラコイド膜量が多く、またチラコイド膜を可溶化し、これをイオン交換クロマトグラフィーおよびゲルろ過カラムクロマトグラフィーで精製することによって、高純度のFCPを高収量で得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
次の工程(1)〜(4);
(1)オキナワモズクの盤状体または糸状体を細胞破砕処理してチラコイド膜を分離す
る工程
(2)得られたチラコイド膜を界面活性剤含有緩衝液で可溶化してチラコイド膜の可溶
化液を得る工程
(3)得られた可溶化液をイオン交換クロマトグラフィーに供し粗フコキサンチン−ク
ロロフィルa/cタンパク質を得る工程
(4)得られた粗フコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質をゲルろ過クロマト
グラフィーまたは限外ろ過に供する工程
を含むことを特徴とするフコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、生体における構造を維持した高純度のFCPを高収量で得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1におけるイオン交換クロマトグラフィーのクロマトグラムである。
【図2】実施例1におけるゲルろ過クロマトグラフィーのクロマトグラムである。
【図3】比較例1においてチラコイド膜の可溶化液をショ糖密度勾配超遠心分離した写真(a)および各バンドの吸収スペクトル(b)である。
【図4】比較例1におけるイオン交換クロマトグラフィーのクロマトグラムである。
【図5】比較例2においてチラコイド膜の可溶化液をショ糖密度勾配超遠心分離した写真(a)および各バンドの吸収スペクトル(b)である。
【図6】比較例2におけるゲルろ過クロマトグラフィーのクロマトグラムである。
【図7】試験例1における各精製FCPの吸収スペクトルである。
【図8】試験例1における各精製FCPのSDS−PAGE泳動図である。
【図9】試験例2におけるゲルろ過HPLCのクロマトグラムである。
【図10】試験例2におけるゲルろ過HPLCにより溶出時間と分子量をプロットした図である。
【図11】試験例3におけるCN−PAGE泳動図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明においては、原料の褐藻類として、ナガマツモ科(Chordaceae)のオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus)を使用する。また、オキナワモズクは、成熟体から遊走子の放出、遊走子から盤状体または糸状体の発生、盤状体または糸状体の着床による直立体の形成、直立体から成熟体への成長という生育サイクルを有するが、本発明ではこのうちの、盤状体または糸状体を用いる。なお、盤状体または糸状体は、上記生育サイクルのうちの遊走子と直立体の中間に位置するものであり、別名で呼ばれることもがあるが、本発明においてはこれらの何れも含む。
【0013】
上記盤状体または糸状体(以下、「盤状体等」ということがある)は、天然由来のものであってもよいが、人工的に培養されたものを使用することが好ましく、特に盤状体等の種苗を直立体を形成させない条件で培養、増加されたものを利用することにより、多量に盤状体等を得ることができるので好ましい。
【0014】
上記の直立体を形成させない条件での培養は、オキナワモズクの盤状体等の種苗を、培養容器へ着床させない条件で培養することにより行われ、例えば、連続攪拌培養したり、着床しにくい材料で形成した培養容器中で培養すれば良い。
【0015】
具体的に、連続攪拌により直立体を形成させずに培養する場合は、攪拌子や攪拌機による機械攪拌や、通気等による攪拌を行い、培養液全体を攪拌しながら培養すれば良い。なお、フラスコ等で培養を行う場合には、攪拌と同時に炭酸供給が行えるため通気による攪拌が好ましく、培養タンク等で培養を行う場合には効率の点から機械攪拌が好ましい。攪拌条件は容器の大きさ等により適宜変化するが、例えば、培養容器として5lの容量の平底フラスコを用い、通気による攪拌を行う場合には、培養容器内に空気を0.1l/分〜10l/分、好ましくは1l/分〜5l/分で導入すれば良い。
【0016】
上記培養の際に用いる培養液は、オキナワモズクの盤状体等を培養することができるものであれば特に制限されないが、滅菌された人工海水または海水に、窒素、リン酸等を含む栄養塩、ホウ素、マンガン等の微量元素、EDTA等のキレート剤、ビタミンB群等の栄養素等(以下、これらを「栄養成分」という)を添加した培養液が好ましく、特に前記栄養成分の内、栄養塩、微量元素およびキレート化合物を添加した培養液が好ましい。これらの栄養成分は0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜1質量%(以下、単に「%」という)の濃度で培養液に存在することが好ましい。これらの栄養成分は、例えば、KW−21(第一製網製)の商品名で市販されている藻類培養液を用いることができ、これを上記濃度で添加すれば良い。
【0017】
また、この培養は恒温条件下で行うことが好ましく、具体的には培養容器を恒温槽等で15℃〜35℃、好ましくは20℃〜30℃の温度に保ち培養を行えば良い。
【0018】
更に、この培養は光照射条件下で行うことが好ましく、具体的には500ルクス〜30,000ルクス、好ましくは4,000ルクス〜10,000ルクスの照度、8L:16D〜24L:0D、好ましくは12L:12D〜24L:0Dの光周期で照射を行えば良い。
【0019】
上記した培養方法により、オキナワモズクの盤状体等のみを繰り返し、増殖させて培養することができる。なお、盤状体等は、培養容器中に着床すると、すぐに直立体を形成し、成熟体にまで成長してしまうので、盤状体等を着床させることは盤状体等を多く得るためには適さない。
【0020】
上記の培養方法に使用するオキナワモズクの盤状体等の種苗は、例えば、次のようにして得ることができる。すなわち、まず、単子嚢を形成していない母藻を数本程度と、盤状体等が着床することのできる物質(以下、「着床担体」という)とを共に滅菌海水に入れ、恒温条件で培養し、遊走子から変化した盤状体または糸状体を着床担体に着床させる。
【0021】
ここで着床担体としては、ガラス、アクリル、プラスチック、ポリカーボネート、繊維、岩石、砂等が好ましく、特にガラス板(スライドガラス)、アクリル板が好ましい。また、滅菌海水は海水または人工海水をオートクレーブあるいはろ過することにより得られる。この滅菌海水には、上記盤状体等の培養と同様に、栄養素、微量元素、キレート剤およびビタミン類等の栄養成分を適宜添加することができる。
【0022】
盤状体等が着床担体に着床するまでの培養は、上記盤状体等の培養と同様の条件で行えば良い。また、前記培養と同時に、盤状体等が着床担体に着床できる程度に通気等の攪拌を行っても良い。
【0023】
次いで、盤状体等が着床した着床担体を取りだし、滅菌海水で洗浄した後、上記盤状体等の培養と同様の条件で再度培養する。
【0024】
上記盤状体等が着床した着床担体の培養においては、培養2、3日後から1日おきに平筆よる洗浄を行う。この洗浄に用いる水としては、滅菌海水および水道水が使用されるが、水道水での洗浄は10秒以内で行うことが好ましい。
【0025】
上記盤状体等が着床した着床担体の培養開始後8日〜10日の十分に成長した盤状体等を、検鏡(100倍)により雑藻の少ない部分を選んで掻き取って盤状体等の種苗とすることができる。また、必要により上記で掻き取った盤状体等を試験管に入れて滅菌海水を使用して3回程度ピペッティングで洗浄し、その後、寒天平板(海水に0.5〜10%の寒天と0.01〜10%の栄養成分(藻類培養液)を添加した寒天培地)に塗りつけて、温度15〜35℃、好ましくは20〜30℃、照度500〜30,000ルクス、好ましくは4,000〜10,000ルクス、光周期8L:16D〜24L:0D、好ましくは12L:12D〜24L:0Dの条件下で培養しても良い。この培養から20〜30日後、寒天平板に増殖してきた盤状体等のうち、雑藻が混入していないコロニーを選択し、これを掻き取って盤状体等の種苗とすることができる。
【0026】
上記のようにして得られたオキナワモズクの盤状体等は、成熟藻体と比べて単位重量当たりのチラコイド膜量が多く、また硬い皮膜がないためチラコイド膜を抽出しやすく、疎水性であるFCPを生体条件を保ったまま取り出すことが可能である。
【0027】
次に上記オキナワモズクの盤状体等の細胞を破砕してチラコイド膜を分離する。細胞破砕方法としては、例えば、物理的処理、化学的処理、酵素的処理、加熱処理、自己消化、浸透圧溶解、原形質溶解等を挙げることができる。これらの中でも物理的処理が好ましく、具体的には、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、フレンチプレス等による処理、あるいはこれらの組み合わせを例示できる。これらの中でも、直接物理的にタンパク質を破壊する恐れが無く、最もマイルドな処理方法であるためフレンチプレスが好ましく、その圧力は通常100〜180MPa程度であり、好ましくは140〜160MPaである。フレンチプレス処理にあたっては、盤状体等を予め水、緩衝液等で5〜10倍程度に希釈することにより、チラコイド膜の収率を向上させることができる。
【0028】
細胞破砕処理においては、0〜10℃程度の低温下で行うことにより、FCPの変性を抑制しながら、内在性のプロテアーゼによるFCPの分解を抑制することができる。特にクロロフィルa分解酵素の活性は非常に強いため、EDTAを添加して活性を抑制しているが、低温下でのすばやい処置を取る他に効き目は無い。プロテアーゼ阻害剤を使用した場合、同時に添加する塩によってFCP中の色素の結合安定性に影響を及ぼすおそれがある上、このクロロフィルa分解酵素の活性は特に落ちないため、これを加えることは好ましくない。また、希釈倍率が低く、破砕処理溶液の粘性が高くなると処理中に熱を発生し、低温条件を保つことが困難となり、望ましくない。
【0029】
得られた破砕物を遠心分離等の固液分離手段に供することにより、チラコイド膜を分離することができる。例えば、破砕物を12,000gで20分遠心分離に供し、細胞壁等を沈下させる一方、チラコイド膜を含有する上清を分離することができる。さらに、上清を75,000 g、60分超遠心分離処理すると、粗チラコイド膜が沈下する。この沈殿をさらに40,000g、20分程度超遠心分離に供することにより、低い分子量の不純物を除き、チラコイド膜を濃縮した沈殿が得られる。
【0030】
次いで、分離したチラコイド膜を界面活性剤含有緩衝液で可溶化させる。緩衝液は、特に限定されるものではないが、Tris緩衝液、Mes緩衝液等が好適に使用できる。またpHは、一般的に6〜8の範囲が好ましく、さらに7.5付近が好ましい。緩衝剤の濃度は、通常10〜50mM程度が適当である。界面活性剤としては、n−ドデシル−β−D−マルトシド(DDM)、オクチルスクロース、トリトンX−100(登録商標)等の非イオン性界面活性剤が使用できるが、中でもDDMがFCPの変性を抑制しつつ、チラコイド膜からFCPを選択的に可溶化できることから好ましい。界面活性剤の濃度は、それぞれに固有のcmc(臨界ミセル濃度)で決められる。濃度が高いほうが可溶化能も高いが蛋白質の分解を招く場合があるため、なるべく低く保つ最適化が好ましい。また、界面活性剤の濃度はチラコイド膜の濃度にも依存するため、cmcとチラコイド膜の濃度に応じて適宜設定される。例えば、チラコイド膜をクロロフィル濃度0.25mg/mLで添加し界面活性剤としてDDMを使用する場合、DDM濃度は、0.4〜0.6w/v%程度が好適である。このようにしてチラコイド膜を界面活性剤含有緩衝液に添加し、0〜4℃、20分程度インキュベートすることにより、チラコイド膜を可溶化できる。
【0031】
得られたチラコイド膜の可溶化液を、イオン交換クロマトグラフィーに供する。用いるイオン交換樹脂としては、弱陰イオン交換樹脂が好ましい。弱陰イオン交換樹脂としては、DEAE-Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア社製)、DE52(ワットマン社製)などの市販品がある。溶離液のpHは、一般的にpH6〜8であればよい。溶離液は、FCPを安定化して保存するのに最適な緩衝液と界面活性剤濃度を選択することが好ましく、この観点から上記チラコイド膜の可溶化で使用可能な緩衝剤および界面活性剤を用い得るが、界面活性剤濃度はより低くすることが好適である。DDMを使用する場合は、0.03〜0.075w/v%の範囲が好ましい。
【0032】
イオン交換クロマトグラフィーにあたっては、イオン強度を経時的に変化させて溶離液に濃度勾配をつけることが好ましい。例えば、NaClを用いて、リニア型、カーブ型、ステップワイズ型などの任意の変化方法によってイオン強度を経時的に変化させることができる。また、溶離液の流速は、一般的に0.5〜1.5mL/分程度であるが、カラムにパックされるゲルの最大圧力を考慮して適宜設定すればよい。このような分離条件により、粗FCPのピークが明確に分離されたクロマトグラムを得ることができ、当該ピークの分画を分離回収することにより、粗FCPが得られる。
【0033】
得られた粗FCPは、さらにゲルろ過クロマトグラフィーまたは限外ろ過に供し精製される。ゲルろ過材としてはデキストラン系、アガロース系、セルロース系、アクリルアミド系等の一般的なものを使用できるが、約20〜500kDaの分子量を有する物質を分画できるゲルが好ましく、例えば、Superdex200PG(GEヘルスケア社製)等が好適に用いられ得る。溶離液は、イオン交換クロマトグラフィーと同様である。流速はカラムの径に合わせて中圧を保つ流速であることが望ましく、例えば、Hi Load 26/60 superdex 200PG であれば1.5〜2.0mL/分程度が分離がよい。一方、分子量分画としてゲルろ過クロマトグラフィーと同様の原理を持つ限外ろ過によっても精製が可能である。限外ろ過の素材としては酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、セラミック等が利用でき、構造としては中空糸膜、スパイラル膜、平膜等の一般的なものが利用できるが、約20〜500kDaの分子量を有する物質を分画できるポアサイズが好ましく、例えば旭化成ラボモジュール AHP-1010、旭化成ラボモジュール SIP-1013等を組み合わせて使用することにより目的の分子量の蛋白質を選択的に取得できる。
【0034】
以上のようにして得られるFCPは、クロロフィルおよびフコキサンチンが安定に結合して生体条件を維持しているとともに、他の精製方法と比較して純度が高いものである。FCPは、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量が54〜56kDaであり、約18.2kDaと約17.5kDaのサブユニットから構成される。また、FCPはN末端にSer-Phe-Glu-Ser-Glu-Ile-Gly-Ala-Glnのアミノ酸配列を含み、FCP遺伝子由来のアミノ酸配列が報告されている唯一の褐藻類であるケルプ(Macrocystis pyrifera)由来のFCPタンパク5種類とホモロジーが認められる。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
参 考 例 1
オキナワモズク盤状体の培養:
(盤状体種苗の調製)
天然産のオキナワモズクを母藻とし、これを滅菌海水(海水を90〜100℃に加熱後冷却したもの)でよく洗浄後、検鏡して単子嚢が形成されていないことを確認して10cmにカットした。カットして得られた3本の母藻を滅菌海水を満たした500mlビーカーにスライドガラスと共に入れ、盤状体がスライドガラス上に着床できる程度の弱通気下、25℃の恒温槽(NLR350:サンヨー製)中、光照射条件下で培養した。光照射条件は、照度5,000ルクス、光周期12L:12Dとした。培養24時間後に盤状体が着床したスライドガラスを取りだし、滅菌海水で洗浄したあと、滅菌海水に藻類培養液(KW21:第一製網(株)製)を0.25ml/lの濃度で添加した培地を満たした200mlコニカルビーカーに移して培養を開始した。
【0037】
コニカルビーカーでの培養3日後から1日おきにナイロン平筆(FMF−15:(株)アサヒペン製)を用いて洗浄を行った。洗浄に用いる洗浄用水には滅菌海水と水道水を使用した。水道水での洗浄は流水にして10秒以内で行うようにした。培養から8日〜10日後の十分成長した盤状体は、検鏡(100倍)により雑藻の少ない部分を選んでカミソリで掻き取った。この盤状体を試験管に入れて滅菌海水を使用してピペッティングで3回洗浄した。洗浄後、寒天平板(海水に1.0%の寒天と0.1%の藻類培養液を添加した寒天培地)に塗りつけて恒温槽を用いて、温度23℃、照度4,000ルクス、光周期12L:12Dの条件下で培養した。培養から20〜30日後、寒天平板に盤状体が増殖してきたので、雑藻が混入していないコロニーを選択してとり、別の寒天平板に移植してオキナワモズクの盤状体種苗を調製した。
【0038】
(盤状体の培養)
藻類培養液(KW21:第一製網(株)製)を0.1%添加したろ過海水を120℃で15分間オートクレーブしたものを培養液とした。この培養液4lを5lの平底フラスコに入れ、これに実施例1で調製したオキナワモズク盤状体種苗を5g加え、空気を4.6l/分で導入し、温度23℃、照度4,000ルクス、光周期12L:12Dの条件下で1週間培養した。1週間培養後、盤状体は17.5gとなり、培養開始時の3.5倍の重量となった。また、検鏡の結果、盤状体の大きさの変化はほとんど認められなかったことから、この重量の増加は盤状体の成長によるものでなく、盤状体の増殖によるものであった。また、培養液中に直立体の形成は認められなかった。
【0039】
実 施 例 1
FCPの分離・精製:
(細胞破砕処理)
参考例1で得られたオキナワモズクの盤状体をMes buffer (pH 6.5)(10mM MES/KOH pH 6.5, 2 mM KCl, 5 mM EDTA)で10倍に希釈してホモジナイズした後、4℃、150MPaでフレンチプレス破砕した。破砕物を遠心分離(12,000g、20分、4℃)して上清を分取した。上清を超遠心分離処理(75,000g、60分、4℃)し、沈殿をホモジナイズ後、さらに超遠心分離処理(40,000g、20分、4℃)し、沈殿としてチラコイド膜を得た。
【0040】
(チラコイド膜の可溶化)
得られた沈殿を10mM b-dodecyl maltoside(DDM)含有10mM Mes buffer (pH 6.5)に、クロロフィルa濃度が0.25mg/mLとなるように添加し、4℃で20分間インキュベートした。
【0041】
(イオン交換クロマトグラフィー)
得られた可溶化液について、以下の条件によりイオン交換クロマトグラフィーを行った。結果を図1に示す。図1中のIは、遊離色素、IIは粗FCP、IIIは光化学系複合体のピークである。IIのピークを分取して粗FCPを得た。
カラム:DEAE-sepharose Fast Flow(GEヘルスケア社製)
溶離液:0-0.75M NaCl, 0.03% DDM,2mM KCl, 25mM Tris-HCl pH7.4(NaCl濃度:0〜20
分(0M)+20〜100分(0→0.2M)+100〜120分(0.2→0.75M)
流 速:2.0ml/min.
検 出:フォトダイオードアレイ, 250-700nm
【0042】
(ゲルろ過クロマトグラフィー)
得られた画分について、下記条件によるゲルろ過クロマトグラフィーに供した。結果を図2に示す。図に示すピークを分取して精製FCPを得た。
カラム:Hi Load 26/60 superdex 200PG(GEヘルスケア社製)
溶離液:0.03% DDM, 2mM KCl, 25mM Tris-HCl pH7.4
流 速:2.0ml/min.
検 出:UV,254nm
【0043】
比 較 例 1
実施例1と同様にして得たチラコイド膜の可溶化液について、ショ糖密度勾配超遠心分離により分画を行った。ショ糖密度勾配の条件は10%-20%-30%-40%で行い、200,000g,16時間超遠心分離を行った。結果を図3に示す。得られた分画のうち、band2を分取し、以下の条件によるイオン交換クロマトグラフィーに供した。結果を図4に示す。IVのピークを分取し、精製FCPを得た。
カラム:DEAE Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア社製)
溶離液:0-0.75M NaCl, 0.03% DDM,2mM KCl, 25mM Tris-HCl pH7.4(NaCl濃度:0〜20
分(0M)+20〜100分(0→0.2M)+100〜120分(0.2→0.75M)
流 速:2.0ml/min.
検 出:フォトダイオードアレイ, 250-700nm
【0044】
比 較 例 2
実施例1と同様にして得たチラコイド膜の可溶化液について、ショ糖密度勾配超遠心分離により分画を行った。ショ糖密度勾配の条件は10%-20%-30%-40%で行い、200,000g,16時間超遠心分離を行った。結果を図5に示す。得られた分画のうち、band2を分取し、以下の条件によるゲルろ過クロマトグラフィーに供した。結果を図6に示す。図6に示されるピークを分取し、精製FCPを得た。
カラム:Hi Load 26/60 superdex 200PG(GEヘルスケア社製)
溶離液:0.03% DDM, 2mM KCl, 25mM Tris-HCl pH7.4
流 速:2.0ml/min.
検 出:UV,254nm
【0045】
試 験 例 1
FCPの光合成活性および純度の評価:
実施例1および比較例1〜2で得られた精製FCPを緩衝液(0.03% DDM, 25mM Tris-HCl pH7.4)で溶解し、分光光度計により、それぞれの吸収スペクトルを測定した。結果を図7に示す(A:比較例1、B:実施例1、C:比較例2)。フコキサンチンの結合は、クロロフィルcと比べて弱いと考えられるが、結合したフコキサンチンを示す530nmの吸光度とクロロフィルcを示す437nmにおける吸光度の比(A530/A437)によって、FCPが生体条件を維持した状態で分離されているか否か評価し得る。図7より、実施例1(B)と比較例1(A)は、A530/A437が0.3となり、0.25である比較例2(C)と比べて、より色素の結合が安定に維持された状態で分離されていることが示された。また、それぞれの精製FCPをSDS−PAGEに供しCBB染色したところ、FCPを構成するサブユニットの17〜18kDa付近のバンド以外の場所には、実施例1(B)では何も検出されなかった。以上より、実施例1の精製FCPが、生体条件を維持した状態で、かつ高純度であることが示された。
【0046】
さらに、比較例2(C)のバンドについてPVDF膜に転写後、アミドブラック染色を行ったところ、18.2kDa,17.5kDaの2本のバンドが確認され、FCPのサブユニットは18.2kDa,17.5kDaの2種類存在することが示唆された。
【0047】
試 験 例 2
ゲルろ過HPLCによるFCPの分析:
実施例1および比較例1〜2で得られた精製FCPについて以下の条件によりゲルろ過HPLCによる分析を行った。結果を図9および10に示す。図9より、比較例1および2の精製FCP(FCP−AおよびC)では、不純物と考えられるピークがみられるのに対し、実施例1の精製FCP(B)では、この不純物のピークは全く無くなり、純度が高いことが示された。また図10より、FCPの分子量は約55kDaであり、3量体を形成していることが示された。
(ゲルろ過HPLC条件)
カラム:TOSOH TSKgel G4000PWXL
溶離液:0.075% DDM, 2mM KCl, 25mM Tris-HCl pH7.4
流 速:1.0ml/min.
検 出:フォトダイオードアレイ, 250-700nm
【0048】
試 験 例 3
界面活性剤の検討:
オキナワモズク盤状体より調製したチラコイド膜(4.5μgクロロフィルa:チラコイド膜の濃度は、メタノールで抽出して660nmの吸光度を測定し、クロロフィルa濃度を決定してクロロフィルaのグラム数あたりで算出)を遠沈し、上澄み液を除去したものに、懸濁液を加えて懸濁し、全体で30マイクロリットルの溶液にした。これに下記(I)〜(IV)の界面活性剤溶液を10マイクロリットル加えて氷上で10分間攪拌した。これを一度遠心して上澄みを取りだし可溶化液とした。(1)、(2)はそれぞれ界面活性剤溶液(I)、(II)を用いて一度可溶化した残渣を同じ界面活性剤溶液で再度可溶化したものである。(3)〜(6)はそれぞれ界面活性剤溶液(I)〜(IV)を用いて可溶化したものである。これらの可溶化液を懸濁液で二倍希釈したものを10マイクロリットルずつ電気泳動用ゲルのウェルにロードした。Clear Native PAGE(文献参照:Advantages and limitations of clear-native PAGE, Ilka Wittig and Hermann Schagger, Proteomics 2005, 5,4338-4346)と呼ばれる非破壊条件のポリアクリルアミド電気泳動を行なった。標品として分子量マーカー(Invitrogen社製,NativeMark、図11中ではMの表示)の他、単離したFCP(図11中ではFの表示)を同時に泳動した。得られたゲルをクマシブリリアントブルー染色したものを図11に示した。
【0049】
懸濁液:25%(v/v)Grycerol,50mM Tris-HCl pH 70, 10mM MgCl2, 120mM 6-Amino
hexanoic acid
界面活性剤溶液:(I) 10%(w/v) DDM aq.
(II) 5% (v/v) Triton X-100 aq.
(III) 5% (v/v) LDAO (Lauryldimethylamine-oxide) aq.
(IV) 5% (w/v) LDS (Lithium dodecyl sulfate) aq.
電気泳動条件:
ゲル:BioRad社製レディーゲルJ(5-15%)
アノード液:25mMTris-HCl pH 7.0
カソード液:50mM Tricine, 7.5mM Tris,0.05% Triton X-100, 0.05% DOC(Deoxycholic acid)
定電流:4mA
温度:4度
【0050】
FCPのバンドが最もはっきり検出できたのは、DDMで一回可溶化した(3)のみであった。DDMで二回目可溶化した(1)にはFCPのバンドはほとんど出ておらず、DDMによる一回の可溶化でFCPはほぼ全て可溶化されてきたことが示された。Triton X-100での可溶化では、一回目(4)、二回目(2)共に、FCPよりも分子量の大きい光化学系という他の光合成タンパクが可溶化されてきているが、可溶化されたFCPの量は非常に少なかった。LDAO(5)、LDS(6)での可溶化では、共にFCPの部分にはバンドが無く、より分子量の低いところに濃いバンドが現れていることより、FCPがサブユニットまで分解されてしまっていることが示唆される。このため、光合成機能を保った状態での可溶化には強すぎる可溶化剤であることが示された。これらの結果を総合すると、DDMが最適であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、オキナワモズクの盤状体等から、高純度のFCPを高収量で得ることができる。したがって、健康食品や医薬品等に用い得るフコキサンチンの原料や太陽電池の増感色素の製造方法として有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(1)〜(4);
(1)オキナワモズクの盤状体または糸状体を細胞破砕処理してチラコイド膜を分離す
る工程
(2)得られたチラコイド膜を界面活性剤含有緩衝液で可溶化してチラコイド膜の可溶
化液を得る工程
(3)得られた可溶化液をイオン交換クロマトグラフィーに供し粗フコキサンチン−ク
ロロフィルa/cタンパク質を得る工程
(4)得られた粗フコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質をゲルろ過クロマト
グラフィーまたは限外ろ過に供する工程
を含むことを特徴とするフコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質の製造方法。
【請求項2】
工程(1)における細胞破砕処理が、圧力140〜160MPaのフレンチプレス処理を含むものである請求項1記載のフコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質の製造方法。
【請求項3】
工程(2)における界面活性剤が、n−ドデシル−β−D−マルトシド(DDM)である請求項1または2に記載のフコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質の製造方法。
【請求項4】
工程(2)における緩衝液が、Mes緩衝液またはTris緩衝液である請求項1ないし3のいずれかの項記載のフコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質の製造方法。
【請求項5】
工程(3)におけるイオン交換クロマトグラフィーが、弱陰イオン交換樹脂によるものである請求項1ないし4のいずれかの項記載のフコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかの項に記載の製造方法によって得られるフコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質。
【請求項7】
ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量が54〜56kDaであり、17.5kDaおよび18.2kDaのサブユニットから構成されるものである請求項6記載のフコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質。
【請求項1】
次の工程(1)〜(4);
(1)オキナワモズクの盤状体または糸状体を細胞破砕処理してチラコイド膜を分離す
る工程
(2)得られたチラコイド膜を界面活性剤含有緩衝液で可溶化してチラコイド膜の可溶
化液を得る工程
(3)得られた可溶化液をイオン交換クロマトグラフィーに供し粗フコキサンチン−ク
ロロフィルa/cタンパク質を得る工程
(4)得られた粗フコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質をゲルろ過クロマト
グラフィーまたは限外ろ過に供する工程
を含むことを特徴とするフコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質の製造方法。
【請求項2】
工程(1)における細胞破砕処理が、圧力140〜160MPaのフレンチプレス処理を含むものである請求項1記載のフコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質の製造方法。
【請求項3】
工程(2)における界面活性剤が、n−ドデシル−β−D−マルトシド(DDM)である請求項1または2に記載のフコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質の製造方法。
【請求項4】
工程(2)における緩衝液が、Mes緩衝液またはTris緩衝液である請求項1ないし3のいずれかの項記載のフコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質の製造方法。
【請求項5】
工程(3)におけるイオン交換クロマトグラフィーが、弱陰イオン交換樹脂によるものである請求項1ないし4のいずれかの項記載のフコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかの項に記載の製造方法によって得られるフコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質。
【請求項7】
ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量が54〜56kDaであり、17.5kDaおよび18.2kDaのサブユニットから構成されるものである請求項6記載のフコキサンチン−クロロフィルa/cタンパク質。
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図10】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【公開番号】特開2011−57649(P2011−57649A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211721(P2009−211721)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月16日 発行の「第50回 日本植物生理学会年会 要旨集」に発表
【出願人】(504426218)株式会社サウスプロダクト (15)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月16日 発行の「第50回 日本植物生理学会年会 要旨集」に発表
【出願人】(504426218)株式会社サウスプロダクト (15)
【Fターム(参考)】
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