説明

フザリウムおよびフザリウムマイコトキシンに対する生物的制御剤

本発明は、植物体中および植物体外でフザリウム植物病原体、病害症状、およびマイコトキシンを制御するための、新規の子嚢菌類真菌、スフェロデス・ミコパラシチア(Sphaerodes mycoparasitia)株IDAC 301008-01に関する。使用、方法、組成物、配列、および産物もまた本明細書に開示する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、殺菌(mycocidal)効果を有する新規の生物的制御剤、それに関連する組成物、およびそれらの使用に関する。特に、本剤は、フザリウム属の真菌に対する殺菌効果を有する。本発明は、さらに、単離された真菌接種材料、遺伝子、タンパク質、および/または生物に関し、それらを含む使用、方法、組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
フザリウムは、植物および土壌に広く分布している糸状菌である。ある種のフザリウム種は植物病原体である。例えば、フザリウム・オキシスポラム(oxysporum)は、100を超える植物種においてフザリウム萎凋(wilt)病を引き起こす。それは、植物木部でコロニー形成し、遮断および分解をもたらすことにより起こる。これが起こると、植物に葉の萎凋および黄変のような症状が出現し、最終的には植物の死滅がもたらされる。この状態が、世界中の市場からのグロミシェル(Gros Michel)バナナ品種の衰退および消失の主因であった。最近、優勢なキャベンディッシュ(Cavendish)品種の植物を、新たな株が攻撃し始めており、それを解決しなければ、この品種も世界の市場から消失するであろうと懸念されている。
【0003】
フザリウム根腐れ病(root rot)は、森林種苗場における実生死滅の主因であり、移植後の第一生長季における生存率の低下も引き起こす。この病害は、いくつかのフザリウム種により引き起こされ、世界の多くの地域において一般的である。この病害は、西カナダおよび米国において、そして北中部諸州および南部諸州においても、特に問題となっている。さらに、真菌フザリウム・シルシナタム(circinatum)により引き起こされるマツ漏脂病(pitch canker)は、マツノキの重篤な病害であり、特に、米国およびニュージーランドにおいて、森林産業にとって脅威となっている。ラジアータマツまたはモントレーマツは、この病害に対して高度に感受性であり、カリフォルニアのいくつかの区域では成熟樹木の死滅率が80%に達する。
【0004】
「イヤーブライト(ear blight)」または「腐敗病(scab)」としても公知のフザリウム赤かび病(Head Blight)(FHB)は、フザリウムにより引き起こされるコムギ、オオムギ、オートムギ、およびその他の小粒穀類の病害である。トウモロコシおよびメイズは、「イヤーロット(ear rot)」として公知の類似の状態により影響を受けることがある。上記の状態は、作物の収量および等級を低下させることがあり、マイコトキシンにより穀粒を汚染する可能性がある。穀類産業は、FHBのために年間ほぼ50億ドルを要していると推定されている。近年、FHBは、西カナダにおける商業的に重要なコムギ作物およびオオムギ作物に関する高まりつつある重大な問題となっている。過去に、いくつかの影響を受けた圃場において収量が30%以上低下したカナダにおいて、FHBに主として関連している二つの種として、フザリウム・オキシスポラムおよびフザリウム・アベナセウム(avenaceum)が同定された。FHBおよびイヤーロットの収穫された穀粒は、飼料拒絶、一般の消化障害、下痢、出血に関連しているデオキシニバレノール(DON)トリコテセンのようなマイコトキシンにより、しばしば汚染されている。北米における毒素産生性3-アセチルデオキシニバレノール(3-ADON)フザリウム・グラミネアラム(graminearum)集団の出現は、かなり最近の現象である。それは15-ADON化学型に取って代わりつつある。さらに、実験室条件下でも圃場条件下でも、F.グラミネアラムに類似しているF.カルモラム(culmorum)のマイコトキシンプロファイルは、世界的に、トウモロコシ、メイズ、およびコムギの生産にとってさらなる脅威となっている。現在、FHBおよび関連マイコトキシンのための効果的な制御措置は存在しない。さらに、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、オートムギ、またはその他の小粒穀類の抵抗性品種も存在しない。殺真菌剤は、効果的であり得るが、一時的にしか病害を抑制することができない。
【0005】
一般的な植物病原体であることに加えて、フザリウム種は、動物に日和見感染する場合があり、ヒトにおいても表在性感染および/または全身感染の原因菌となり得る。フザリウムは、最も薬物耐性である真菌のうちの一つであり、フザリウム感染を処置することは困難であり、侵襲性の感染は致命的にもなり得る。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、菌寄生効果および抗マイコトキシン効果を有する、株IDAC 301008-01あるいは株SMCD2220-01として同定された新規の子嚢菌類真菌、スフェロデス・ミコパラシチア(Sphaerodes mycoparasitia)に関する。さらに、マイコトキシンタンパク質を、S.ミコパラシチア株IDAC 301008-01から単離した。使用、方法、組成物、配列、および産物も、本明細書に開示する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
(図1)(A)修飾レオニアン(Leonian's)寒天および(B)ポテトデキストロース寒天における2週間のインキュベーションの後のスフェロデス・ミコパラシチカ(Sphaerodes mycoparasitica)培養物の上面を示す顕微鏡写真であり、(C)および(D)は下面である。
(図2)単極性および二極性の発芽パターン、ならびに菌糸融合(矢印)形成パターンを示す、スフェロデス・ミコパラシチカ子嚢胞子発芽を示す顕微鏡写真である。
(図3)スフェロデス・ミコパラシチカを示す顕微鏡写真である。(A)子嚢果、(B)頚部から発生したガラス質剛毛(矢印)、(C)網状子嚢胞子(矢印)、(D)平滑子嚢胞子(矢印)、(E)三角形子嚢胞子(矢印)、(F)菌糸周囲の子嚢果上に産生されたフィアライド、(G)子嚢果子殻壁の表面から発生したアンプル状フィアライド、(H)成熟子嚢果および初期子嚢果の形成、(I)フザリウム・オキシスポラムの生存菌糸上に寄生したS.ミコパラシチカによるフック様構造の形成(矢印)、ならびに(J)F.アベナセウムの生存菌糸上のフック様構造の拡大写真。(A)および(H)についてのスケールバーは50pmであり;(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(G)、および(J)については10pmであり;(I)については25pmである。
(図4)図4(A)は、顕著な壁装飾および目立つ不規則な縦方向の葉脈(矢印)を示すスフェロデス・ミコパラシチカ子嚢胞子を示す顕微鏡写真であり;(B)はスフェロデス・クアドラングラリス(quadrangularis)子嚢胞子を示す。スケールバー5pm。
(図5)図5(a)は、スフェロデス・ミコパラシチカ培養物から回収された細胞外タンパク質による、(A)フザリウム・オキシスポラムおよび(B)フザリウム・グラミネアラムの菌糸体増殖の阻害を示す顕微鏡写真であり;図5(b)は、S.ミコパラシチカ細胞外タンパク質による、(A)フザリウム・オキシスポラムおよび(B)フザリウム・グラミネアラムの菌糸体増殖の阻害率を示すグラフである。
(図6)スフェロデス・ミコパラシチカ培養物から回収されたf1細胞外タンパク質およびf2細胞外タンパク質を示すFPLCクロマトグラムである。
(図7)スフェロデス・ミコパラシチカ培養物から回収された、精製された細胞外タンパク質のSDS-PAGEゲルの顕微鏡写真である。レーンMはマーカータンパク質を含有している。レーン1は、ピークf1から精製されたタンパク質を含有している。レーン2は、ピークf2から精製されたタンパク質を含有している。
(図8)対照(A-cおよびB-c)と比較された、精製されたタンパク質f1およびf2による、F.オキシスポラム胞子発芽(A-a〜b)およびF.グラミネアラム胞子発芽(B-1〜b)の阻害を示す顕微鏡写真である。
(図9)HPLCにより分析された、ポテトデキストロースブロスにおけるスフェロデス・ミコパラシチカによる3-ADON分解のレベルを示すグラフである。
(図10)無土壌生長ミックスの種々の層を有する容器(4×4×16cm)においてコムギ植物を生長させるための系の模式図である。
(図11)20分間100Vで1%アガロースゲル電気泳動にかけられた、S.ミコパラシチカ(SM)、五つのフザリウム株(Fa=F.アベナセウム、Fo=F.オキシスポラム、Fs=F.スポロトリキオイデス(sporotrichioides)、Fg3=F.グラミネアラム化学型3、およびFg15=F.グラミネアラム化学型15)、二つのトリコデルマ(Trichoderma)種(T22=T.ハルジアナム(harzianum)T22およびTv=T.ビリデ(viride))、二つのクラドスポリウム(Cladosporium)種(ACC=C.クラドスポリオイデス(cladosporioides)およびCM=C.ミノウラエ(minourae))、ならびにペニシリウム・オーランチオグリセウム(aurantiogriseurn)(PA)についての、SmyITSF/Rプライマーにより増幅されたPCR産物を示すゲルの顕微鏡写真である。バンドのサイズは、ほぼ300〜400bpである。
(図12)(A)スフェロデス・ミコパラシチカ(10倍ずつ減少する3.8×102〜3.8×10-2ngの範囲);(B)フザリウム・グラミネアラム3-ADCIN(10倍ずつ減少する2.7×103〜2.7×10-1ngの範囲);(C)トリコデルマ・ハルジアナムT-22(10倍ずつ減少する7.0×102〜7.0×10-2ngの範囲)についての直線的標準曲線を示すグラフである。
(図13)10倍ずつ減少する3.8×102〜3.8×10-2ngの範囲の、0.025蛍光線を含む、スフェロデス・ミコパラシチカ(SMCD 2220-01)についてのRT-PCR S字形カラー曲線を示すグラフである。
(図14)属特異的定量化リアルタイムPCRを使用して、春コムギ根においてモニタリングされた、(A)F.グラミネアラム(Fgra);(b)S.ミコパラシチカ(SM);および(C)トリコデルマ・ハルジアナム(T-22)についてのゲノムDNAの量を示すグラフである。全ての値が六つの複生物の平均値であった。エラーバーはSDを示す。
(図15)フザリウム・グラミネアラム株と前接種されたスフェロデス・ミコパラシチカSMCD2220-01(SNI)との二重培養アッセイまたは単独で増殖させたF.グラミネアラム3-ADON化学型および15-ADON化学型から抽出された全DNAから、Tox5-1/2プライマーセットを使用することにより増幅されたtri5遺伝子配列のリアルタイム蛍光曲線を示すグラフである。
(図16)スフェロデス・ミコパラシチカの子嚢果および子嚢胞子の顕微鏡写真である:(A)F.アベナセウムのコロニー上のS.ミコパラシチカ子嚢果の形成(矢印は、子嚢果がフザリウム培養物の近傍または周囲に産生されたことを示す);(B)F.オキシスポラムコロニー上に産生されている多数のS.ミコパラシチカ開口型(ostiolated)子嚢殻の産生(矢印は、子嚢殻がフザリウム単離物上に形成されたことを示す);(C)未発芽の暗褐色を帯びた網状S.ミコパラシチカ子嚢胞子;(D)単極性の発芽孔を示すF.オキシスポラム濾液懸濁物中のS.ミコパラシチカの発芽中の子嚢胞子:(E)F.オキシスポラム濾液への3日懸濁の後のS.ミコパラシチカの単極性の発芽中の胞子;(F)F.オキシスポラム濾液への3日懸濁+1日PDAにおける二極性の発芽を例示するS.ミコパラシチカの子嚢胞子;(G)F.アベナセウム濾液懸濁+1日PDAにおけるS.ミコパラシチカの二極性の発芽のパターン:(H)F.アベナセウム濾液に3日懸濁され、1日PDA上でインキュベートされたS.ミコパラシチカ胞子における単極性の発芽;(I)F.アベナセウム濾液懸濁物中で3日インキュベートされ、さらに1日PDA上でインキュベートされた後のS.ミコパラシチカ子嚢胞子により示された単極性および二極性の発芽。スケールバーは、(C)〜(H)については10μm、(I)については20μmである。SM、Fa、およびFoは、それぞれ、S.ミコパラシチカ、F.アベナセウム、およびF.オキシスポラムを表す。
(図17)F.オキシスポラムコロニーから単離された胞子によるスフェロデス・ミコパラシチカ生体栄養性菌寄生性真菌の胞子発芽パターンを示すグラフである。F.アベナセウム濾液懸濁物中の単極性(■)および二極性(□)の発芽;ならびにF.オキシスポラム濾液懸濁物中の単極性

および二極性

の発芽。1=1日懸濁、2=1日懸濁+1日PDAインキュベーション、3=3日懸濁、4=3日懸濁+1日PDAインキュベーション。S.ミコパラシチカについての各インキュベーション日数は別々に分析した。
(図18)四つの異なるインキュベーション日数における、六つのフザリウム株の濾液および水懸濁処理におけるスフェロデス・ミコパラシチカ子嚢胞子の発芽を示すグラフである。異なる処理における懸濁は以下の通りであった:Fave濾液=F.アベナセウム濾液;Foxy濾液=F.オキシスポラム濾液;Fgra3濾液=F.グラミネアラム化学型3濾液;Fgra15濾液=F.グラミネアラム化学型15濾液;Fpro濾液=F.プロリフェラタム(proliferatum)濾液;Fspo濾液=F.スポロトリキオイデス濾液;および水=対照。インキュベーションの日数は以下の通りであった:1日懸濁=異なる懸濁処理において1日懸濁された胞子;1日懸濁+PDA=懸濁処理において1日懸濁され、次いで、さらに1日、PDA培地へ接種された胞子;3日懸濁=異なる懸濁処理において3日懸濁された胞子;および3日懸濁+PDA=懸濁処理において3日懸濁され、次いで、さらに1日、PDA培地へ接種された胞子。
(図19)5日間、同時接種処理(同日)

および前接種処理(フザリウム接種の1日前)

において、スフェロデス・ミコパラシチカによりチャレンジされた二重培養アッセイ、ならびに対照(菌寄生菌なし)

における(A)フザリウム・グラミネアラム化学型3および(B)フザリウム・グラミネアラム化学型15の直線的な菌糸体増殖を示すグラフである。
(図20)スライド培養アッセイ上のF.グラミネアラム3-ADON(Fgra3)化学型および15-ADON(Fgra15)化学型と、S.ミコパラシチカ(S)生体栄養性菌寄生性真菌との間の相互作用の顕微鏡写真である:(A)S.ミコパラシチカの単一の菌糸体、(B)赤色複合体を含むF.グラミネアラム菌糸体、(C)S.ミコパラシチカによるF.グラミネアラムからの赤色複合体の吸収(矢印)、(D)F.グラミネアラム化学型3と相互作用する菌糸体のみからのS.ミコパラシチカによる結晶形の赤色複合体の分泌(矢印)、(E)S.ミコパラシチカによる一連のフック様構造の形成、(F)フック形構造の形成、結晶様化合物の分泌(矢印)、および内部吸器を伴う、S.ミコパラシチカのF.グラミネアラム菌糸体への寄生、(G)F.グラミネアラム上のS.ミコパラシチカによる貫通ペグ(penetration-peg)形成の開始、(H)感染または貫通された菌糸体細胞および非感染菌糸体細胞、(I)フザリウム宿主内部の吸器の分枝、(J)S.ミコパラシチカとのコンタクトゾーンにおけるF.グラミネアラム化学型15のみによる広範囲の短い分枝構造の形成。スケールバー:(A)〜(I)5μm、(J)20μm。
(図21)スライド培養アッセイにおける、スフェロデス・ミコパラシチカの存在下での、F.グラミネアラム化学型3(Fgra3)および15(Fgra15)宿主の感染細胞と非感染細胞との間の直径の差を示すグラフである。異なる小文字により区別されたバーは、P=0.05でt検定を使用して、二つの異なるF.グラミネアラム化学型について、感染菌糸、対、非感染菌糸のサイズに有意差があることを表す。
(図22)プライマーセット;(A)Tox5-1/2(270ng(Log10=2.90)〜0.27ng(Log10=-0.60)の範囲のゲノムDNA、0.005蛍光線における読み取り);(B)Tox5-1/2(30ng(Log10=1.48)〜0.03ng(Log10=-1.52)の範囲のゲノムDNA、0.005蛍光線における読み取り);および(C)Fg16NF/R(270ng(Log10=2.43)〜0.027ng(Log10=-1.57)の範囲のDNA鋳型;10倍希釈系列、0.025蛍光線における読み取り)を使用して三つ組で実施されたPCR反応による、フザリウム・グラミネアラム化学型3および15のゲノムDNA濃度標準物、対、サイクル閾値(Ct)の標準曲線のグラフである。エラーバーは、tri5遺伝子特異的プライマーセットおよびF.グラミネアラム特異的プライマーセットから導出されたF.グラミネアラム化学型3および15の標準曲線の平均値についての標準偏差を示す。
(図23)DNA抽出のため、F.グラミネアラム化学型3-ADONまたは15-ADONの菌糸体プラグを取得するために使用された二重培養アッセイについての実験セットアップの模式図である。サンプリングゾーン(Sゾーン)は、相互作用ゾーン(Iゾーン)のおよそ0.2cm後ろに位置する0.5×1.5cm2の試料区域を示す。Iゾーンとは、F.グラミネアラム(Fgra)とS.ミコパラシチカ(SM)との間の相互作用ゾーンまたはコンタクトゾーンを表す。
(図24)F.グラミネアラム株と前接種されたスフェロデス・ミコパラシチカ(SM)との二重培養アッセイまたは単独で増殖させた化学型3および15のF.グラミネアラム培養物から抽出された全DNAから、Fg16NF/Rプライマーセットを使用して増幅されたF.グラミネアラム配列のリアルタイム蛍光曲線を示すグラフである。
(図25)Tox5-1/2(tri5遺伝子特異的)プライマーセットおよびFg16NF/R(F.グラミネアラム特異的)プライマーセットにより増幅されたF.グラミネアラム化学型3および15からのDNAの異なる濃度の比較を示すグラフである。S.ミコパラシチカが1日前接種された5日二重培養アッセイから真菌DNAを抽出した。P=0.05でのt検定による、Tox5-1/2プライマーセットおよびFg16NF/Rプライマーセットそれぞれについての、S.ミコパラシチカにより処理されたF.グラミネアラム化学型3および15と、未処理のF.グラミネアラム化学型3および15との比較(Tox5-1/2プライマーにより増幅されたDNAについてはLog10変換した)。
(図26)生物剤および化学剤とのコンタクトゾーンにおけるフザリウム・グラミネアラム菌糸体の顕微鏡写真である:(A)スフェロデス・ミコパラシチカ生体栄養性菌寄生菌による可視の細胞変化なし;(B)トリコデルマ・ハルジアナム死体栄養性菌寄生菌による細胞剥離;(C)殺真菌剤によりチャレンジされた時の鎖状の3-ADON厚膜胞子形成;(D)殺真菌剤によりチャレンジされた時のクラスタ状の15-ADON厚膜胞子形成。スケールバーは、(A)=5μm、(B)〜(D)=10μmを示す。
(図27)三つの別々の処理によるインビトロアッセイにおけるF.グラミネアラム化学型3(3-ADON産生体)およびF.グラミネアラム化学型15(15-ADON産生体)についての異なるTri遺伝子の遺伝子発現を示すグラフである:(A)Tri4遺伝子;(B)Tri5遺伝子;(C)Tri6遺伝子;および(D)Tri10遺伝子。説明:B3=S.ミコパラシチカ+3-ADON産生F.グラミネアラム;F3=Folicur+3-ADON産生F.グラミネアラム;T3=T.ハルジアナム+3-ADON産生F.グラミネアラム;B15=S.ミコパラシチカ+15-ADON産生F.グラミネアラム;F15=Folicur+15-ADON産生F.グラミネアラム;およびT15=T.ハルジアナム+15-ADON産生F.グラミネアラム。F.グラミネアラム化学型3および15における三つの異なる処理についての平均値を、P=0.05でLSD検定により別々に分析した。値は三つの試料の平均値±SEである。
(図28)三つの別々の処理によるインビトロアッセイにおけるF.グラミネアラム化学型3(3-ADON産生体)およびF.グラミネアラム化学型15(15-ADON産生体)についてのPKS遺伝子の遺伝子発現を示すグラフである:(A)PKS4および(B)PKS13。説明:B3=S.ミコパラシチカ+3-ADON産生F.グラミネアラム;F3=Folicur+3-ADON産生F.グラミネアラム;T3=T.ハルジアナム+3-ADON産生F.グラミネアラム;B15=S.ミコパラシチカ+15-ADON産生F.グラミネアラム;F15=Folicur+15-ADON産生F.グラミネアラム;およびT15=T.ハルジアナム+15-ADON産生F.グラミネアラム。F.グラミネアラム化学型3および15における三つの異なる処理についての平均値を、P=0.05でLSD検定により別々に分析した。値は三つの試料の平均値±SEである。
(図29)六つの別々の処理から抽出されたゼアラレノン(ZEA)についての液体薄層クロマトグラフィ(TLC)分析の顕微鏡写真である。説明:B3=S.ミコパラシチカ+3-ADON産生F.グラミネアラム;F3=Folicur+3-ADON産生F.グラミネアラム;T3=T.ハルジアナム+3-ADON産生F.グラミネアラム;F15=Folicur+15-ADON産生F.グラミネアラム;T15=T.ハルジアナム+15-ADON産生F.グラミネアラム;B15=S.ミコパラシチカ+15-ADON産生F.グラミネアラム、およびZEA=ゼアラレノンの標準物。
(図30)四つの異なるマイコトキシン−ZEA、DON、3ADON、および15ADON全てについて作製された、F.グラミネアラム単独対照に対する、Folicur殺真菌剤によりチャレンジされたF.グラミネアラム化学型の比率を示すグラフである。説明は、F.グラミネアラム3-ADON化学型およびFolicur(■)、ならびにF.グラミネアラム15-ADON化学型およびFolicur(□)を示す。
(図31)生物剤および化学剤との共培養後のフザリウム株における相対的AUR遺伝子発現を示すグラフである。説明:15ADON−F.グラミネアラム15-アセチル-デオキシニバレノール化学型;3ADON−F.グラミネアラム15-アセチル-デオキシニバレノール化学型;F.cul.−F.カルモラム;F.ave.−F.アベナセウム;B−スフェロデス・ミコパラシチカ(生体栄養性菌寄生菌);Tricho−トリコデルマ・ハルジアナム(死体栄養性菌寄生菌);Fol−Folicur(テブコナゾール)殺真菌剤。
(図32)真菌菌糸の色により証明されたAUR遺伝子発現の変化を示すグラフである。説明:Ds#71232B:赤色、高度に有毒、4時間80℃に耐性;Es#4E040B:中程度に赤色、中程度に有毒、4時間40℃に耐性;Bs#A86608:白色、無毒、4時間40℃に感受性。
(図33)フザリウム感受性オオムギ品種へのF.グラミネアラム、S.ミコパラシチカの接種、および異なる濃度のS.ミコパラシチカによるF.グラミネアラム感染オオムギの処理の、(A)植物の背丈;(b)1植物あたりの平均穂数;および(C)5穂の平均重量に対する効果を示すグラフである。
(図34)フザリウム感受性コムギ品種へのF.グラミネアラム、S.ミコパラシチカの接種、および異なる濃度のS.ミコパラシチカによるF.グラミネアラム感染コムギの処理の、(A)植物の背丈;(b)1植物あたりの平均穂数;および(C)5穂の平均重量に対する効果を示すグラフである。
(図35)フザリウム赤かび病症状の重度に対するS.ミコパラシチカの生物的制御効果を、市販の殺真菌剤により提供される防御と比較したグラフである。
(図36)プライマーセット:(A)Tox5-1/2(270ng(Log10=2.90)〜0.27ng(Log10=-0.60)の範囲のゲノムDNA、0.005蛍光線における読み取り);および(B)Fg16NF/R(270ng(Log10=2.43)〜0.027ng(log10=-1.57)の範囲のDNA鋳型;10倍希釈系列、0.025蛍光線における読み取り)を使用して三つ組で実施されたPCR反応による、フザリウム・グラミネアラム化学型3ゲノムDNA濃度標準、対、サイクル閾値(Ct)の標準曲線を示すグラフである。
(図37)RT-PCRを利用してオオムギ穂において検出された、F.グラミネアラム化学型3-ADONゲノムDNAに対する、S.ミコパラシチカ(B)およびFolicur殺真菌剤(Fol)による処理の効果を示すグラフである。処理は以下の通りであった:Fus−F.グラミネアラム;B-Fus−S.ミコパラシチカおよびF.グラミネアラム;Fol-Fus−Folicur殺真菌剤およびF.グラミネアラム。
(図38)スフェロデス・ミコパラシチカ-フザリウム種菌寄生アッセイを示す顕微鏡写真である:(A-a)フック形コンタクト構造(矢印);(B-b)クランプ様の巻き付いた細胞(矢印)、「a」および「b」は、それぞれ、(A)および(B)についての概略図である。スケールバー=5μm。
(図39)スフェロデス・ミコパラシチカ-フザリウム種相互作用における細胞内寄生期、菌糸阻害応答期、およびアナモルフィック期を示す顕微鏡写真である:(A)F.エクイセチ(equiseti)におけるS.ミコパラシチカによる細胞内寄生(矢印);(B)S.ミコパラシチカによりチャレンジされた時のフザリウム菌糸阻害応答;ロゼット様の形状への菌糸の変形(矢印);(C)ガラス質S.ミコパラシチカアナモルフィック期;(D)F.カルモラムからの赤色色素の吸着を伴うスフェロデス・ミコパラシチカのアナモルフィック期。スケールバーA、C、D=5μm;B=20μm。
(図40)図40Aおよび40Bは、F.エクイセチ内部のスフェロデスによる細胞内寄生(矢印)の顕微鏡写真であり、図40Cおよび40Dは、フック形コンタクト構造(矢印)を含むF.エクイセチ内部のスフェロデスにより産生された細胞内菌糸の顕微鏡写真である。図40Aおよび40Bは光学顕微鏡検の下で捕獲された;図40Cおよび40Dにおいては、菌糸をラクトフクシンにより染色し、それぞれ、蛍光顕微鏡検および共焦点レーザー顕微鏡検の下で画像を捕獲した。スケールバー=5μm。
(図41)スフェロデス・ミコパラシチカ生体栄養性菌寄生菌による、1週間スライド培養における、F.エクイセチ(■)およびF.カルモラム(□)の寄生細胞および非寄生細胞の平均菌糸直径を示すグラフである。データは平均値および標準偏差である。同一の小文字は、P=0.05でのt検定により、寄生菌糸と非寄生菌糸との間に有意差がないことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
発明の詳細な説明
スフェロデス・ミコパラシチカ(子嚢菌門(Ascomycetes)メラノスポラ目(Melanosporales))を、コムギまたはアスパラガスの圃場に起因するフザリウム・アベナセウム、フザリウム・グラミネアラム、およびフザリウム・オキシスポラムの単離物から単離した。この種は、子嚢胞子のサイズ、形(紡錘形および三角形)、ならびに壁装飾(網状および平滑)の独特の組み合わせを特徴とする。また、子嚢果子殻壁の表面、菌糸周囲の子嚢果、および菌糸から発生する不規則に分枝した分生子柄において、単純フィアライドから分生子が産生される。S.ミコパラシチカは、フィアライド・アナモルフ(phialidic anamorph)を有し、子嚢果子殻壁の表面上に単純フィアライドを産生するか、または菌糸周囲の子嚢果上および分生子柄上に不規則に散在する単純フィアライドを産生する。S.ミコパラシチカは、フザリウムの生存菌糸に寄生してフック様構造を形成する。
【0009】
S.ミコパラシチカの大サブユニットリボソームRNA遺伝子(LSU)からの1266bp DNA配列が、SEQ ID NO:1に示される。

【0010】
S.ミコパラシチカの小サブユニットリボソームRNA遺伝子(SSU)からの1233bp DNA配列が、SEQ ID NO:2に示される。

【0011】
スフェロデス・ミコパラシチカの単純培養物は、Saskatchewan Microbial Collection and Databaseにアクセッション番号SMCD2220-01の下で、International Depository Authority of Canada Collection(1015 Arlington Street, Winnipeg, Canada, R3E 3R2)にアクセッション番号IDAC301008-01の下で、寄託されている。
【0012】
スフェロデス・ミコパラシチカは、抗真菌剤として有用であり得る。S.ミコパラシチカは、フザリウム菌の感染を処理するか、寛解させるか、またはその他の方式で制御するために使用され得る。S.ミコパラシチカは、フザリウム・アベナセウム、フザリウム・グラミネアラム、および/またはフザリウム・オキシスポラムの感染を処理するか、寛解させるか、またはその他の方式で制御し、植物の健康または生長を改善するために特に有用であると考えられる。
【0013】
S.ミコパラシチカは、真菌感染、特に、フザリウム感染が発生する確率を減じるための予防剤として使用され得る。
【0014】
S.ミコパラシチカは、フザリウム萎凋病またはフザリウム赤かび病により影響を受けた植物を処理するために使用され得る。S.ミコパラシチカは、そのような状態が蔓延するのを妨げるため、またはそのような状態が発生するリスクを減じるための予防措置として使用され得る。
【0015】
本発明において、S.ミコパラシチカは、適当な起源から単離され得る。例えば、S.ミコパラシチカは、Vujanovic V, et.al. Can.J.Microbiol.48(9):841-847(2002)に記載された方法により、コムギ圃場に起因するF.グラミネアラムまたはF.アベナセウムの単離物から単離され得る。International Depositary Authority of Canada(IDAC 301008-01)に寄託されたS.ミコパラシチカも利用可能である。
【0016】
S.ミコパラシチカは、フザリウム菌の感染を処理するか、寛解させるか、またはその他の方式で制御するために使用され得る。S.ミコパラシチカは、任意の適当な様式で、処理を必要とする生物に適用され得る。例えば、S.ミコパラシチカ単離物は、直接使用されてもよいし、または土壌に適用される、顆粒に基づく接種材料、ピートに基づく接種材料、種子に適用される、もしくは開花期に適用される、液体に基づく接種材料へとさらに加工されてもよい。
【0017】
S.ミコパラシチカは、発酵を介して作製され、防除組成物へと製剤化され得る。適当な発酵過程には、発酵培地(固体または液内)の選択、発酵成分の濃度、酸素移動容量、インキュベーション温度、回収の時期、および回収後処理が含まれる。目標は、豊富で、安定的で、かつ有効な菌寄生性微生物集団を確実にするための最適条件を確立することである。S.ミコパラシチカを防除組成物へと製剤化する場合には、(i)作製、加工、および保管の間の安定性を確実にし、(ii)適用を支援し、(iii)不利な環境条件から防除剤を防御し、かつ(iv)標的における防除活性を促進する成分を選択するよう注意するべきである。不活化された宿主/病原体またはその化合物への曝露は、S.ミコパラシチカの活性を改善する可能性がある。
【0018】
本明細書に開示された製剤は、一般的に、(i)活性成分、(ii)担体(しばしば、高密度の活性成分を支持し、標的へと送達するために使用される不活性材料)を含み、任意で(iii)補助物質(UV線からの防御により活性成分の機能を促進し、持続させる化合物、標的における耐雨性を確実にする化合物、ならびに水分を保持するかもしくは脱水に対して防御する化合物、またはHynesおよびBoyetchko(2006, Soil Biology & Biochemistry 38:845-84)により開示されたもののような標準的な農業機器を使用した生物的防除剤の拡散および分散を促進する化合物)を含むと考えられる。
【0019】
S.ミコパラシチカからの内部転写スペーサー(Internal Transcribed Spacer)リボソームDNAが配列決定された。ITS領域からの560bp DNA配列は、SEQ ID NO:3に示される。

【0020】
本発明は、S.ミコパラシチカの同定のために有用なプライマーセット、SmyITSF/R(SmyITSFはSEQ ID NO:4であり、SmyITSRはSEQ ID NO:5である)を提供する。

【0021】
本発明のプライマーは、S.ミコパラシチカに選択的であり、PCR技術およびRT-PCR技術を使用することにより、工業製品、植物材料、種子試料、および環境的試料における真菌を評価し、定量化するために使用され得る。
【0022】
SmyITSF/Rプライマーセットは、遺伝子発現の分析、真菌病原体検出、および生存植物における真菌の定量化における定量的リアルタイムPCR技術のために使用され得る。
【0023】
SmyITSF/Rプライマーセットは、SMCD2220-01、七つのフザリウム種、九つの異なる子嚢菌類真菌単離物、二つの接合菌類真菌、および三つの担子菌類真菌株において試験された。
【0024】
PCRにおいて、このプライマーセットは、SMCD2220-01のみを増幅し、その他の真菌は増幅しなかった。F.グラミネアラム感染春コムギの根バイオマス、全バイオマス、根長、全長、および種子発芽は、S.ミコパラシチカの処理により、F.グラミネアラムの接種と比較して、有意に増加した。さらなるRT-PCR研究において、SmyITSF/R特異的プライマーを、対照としてのF.グラミネアラム-Fg12NF/Rおよびトリコデルマ-TGP4-F/Rと組み合わせて、S.ミコパラシチカのために使用したところ、プライマーは、生物的制御病原体-植物相互作用の評価において高い精度を示した。
【0025】
スフェロデス・ミコパラシチカからの全細胞外タンパク質抽出物は、フザリウム胞子発芽の有意な阻害を示した。本発明は、S.ミコパラシチカからの細胞外タンパク質抽出物を含む抗真菌剤を提供する。二つのタンパク質が全タンパク質抽出物から単離され、一つは13kDaの分子量を有し、一つは50kDaの分子量を有していた。本発明は、これらのタンパク質の一方または両方を含む抗真菌剤を提供する。
【0026】
従来の分子生物学的技術が、本発明のタンパク質を単離し、特徴決定し、作製するために使用され得る。例えば、本発明のタンパク質についての遺伝子を同定するためには、S.ミコパラシチカをF.オキシスポラム濾液によりチャレンジし、アップレギュレートされたmRNAを標準的なノーザンブロットにより単離することができる。逆転写酵素PCR(RT-PCR)によりmRNAからcDNAを作製することができる。cDNAを、増幅し、精製し、適切なベクターへ挿入することができる。このベクターを適切な宿主細胞へ挿入することができる。
【0027】
クローニングおよび発現は、同定されたタンパク質のためのプライマーを設計することによる、抗微生物タンパク質をコードする遺伝子の単離に焦点を当てることがある。単離された遺伝子を、当該タンパク質の大規模作製のための産業的な株を生成するため、適当な/効率的なプロモーターを用いて、適当な発現ベクター(酵母または細菌)にクローニングすることができる。これらのベクターは、Promega、Invitrogen、Clontech、またはその他の会社から購入され得る。クローニングされた遺伝子をタンパク質発現について試験することができ、発現されたタンパク質が(Hisタグカラムまたはその他のカラムを使用して)精製されると考えられる。精製されたタンパク質を、ディスクプレートアッセイ法および/またはマイクロタイタープレートアッセイ法(例えば、Drummond and Waigh, 2000, Recent Research Developments in Phytochemistry.4:143-152)により、抗真菌活性について植物病原性真菌に対して試験することができる。次いで、遺伝子変異、またはエンハンサー、イントロン、もしくはタンパク質に特異的なプロモーター(GAにより誘導可能)の付加、または付加欠失を含むrDNA技術を、タンパク質の作製を増強するために使用することができる。
【0028】
選択された遺伝子を、当業者に公知の技術を使用して、病原性真菌に対する抗真菌活性を有するトランスジェニック系統を作出するため、コムギおよびオオムギに形質転換することができる(例えば、Sanghyun et.al., 2008 J.Expt.Botany, 59, 2371-2378;Dennis et.al., 2007.Plant Cell Reports.26:631-639)。
【0029】
S.ミコパラシチカは、デオキシニバレノール(DON)マイコトキシンを分解する能力を示した。本発明は、アセチルデオキシニバレノール、特に、3-アセチルデオキシニバレノールを分解する方法を提供する。
【0030】
S.ミコパラシチカを純粋なDONによりチャレンジし、アップレギュレートされたmRNAを標準的なノーザンブロットにより単離することができる。アップレギュレートされたタンパク質についての遺伝子を同定するため、逆転写酵素PCRを使用することができ、次いで、適切なcDNA構築物を、タンパク質作製のための適切なベクターへ挿入することができる。さらに、抗マイコトキシン特性を有するトランスジェニック植物を作出するため、組換えDNA技術を適用することができる。
【0031】
本発明は、S.ミコパラシチカ、その単離物、培養物、またはタンパク質を含む抗真菌組成物を提供する。本発明は、以後、集合的に「抗真菌剤」と呼ばれる、S.ミコパラシチカ、その単離物、培養物、またはタンパク質を、植物の部位に適用することを含む、植物の真菌病を制御する方法およびマイコトキシン解毒の方法も提供する。
【0032】
本発明の組成物は、例えば、植物の種子、生長培地(例えば、土壌もしくは水)、または植物の葉へ適用され得る。
【0033】
本発明は、抗真菌剤と、最終生成物の安定性および性能を確実にするであろう農業的に許容される担体または希釈剤とを含む組成物を提供する。担体または希釈剤は、活性成分と適合性であり、農業的に許容され、容易な粒子の分散および付着を可能にする優れた吸収力および適当な容積密度を有するべきである。
【0034】
本明細書に記載の組成物は、当技術分野における確立されている実務に従って、水性スプレー、粒剤、および粉剤として適用され得る。水性スプレーは、一般的に、本発明の化合物の水和剤または乳剤を、比較的多量の水と混合して、分散剤を形成させることにより調製される。
【0035】
水和剤は、抗真菌剤、固形担体、および界面活性剤の微細に分割された混合物を含み得る。固形担体は、アタパルジャイト粘土、カオリン粘土、モンモリロナイト粘土、珪藻土、微細に分割されたシリカ、精製されたケイ酸、またはそれらの組み合わせの中から一般的に選ばれる。本明細書において有用であり得る界面活性剤は、水和能、浸透能、および/または分散能を有する。それらは、典型的には、約0.5重量%〜約10重量%の量で存在する。本明細書における界面活性剤は、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキル硫酸エステル、ナフタレンスルホン酸および濃縮ナフタレンスルホン酸、スルホン化リグニン、および非イオン性界面活性剤より選ばれ得る。
【0036】
乳剤は、非水混和性溶媒および界面活性剤の混合物である液体担体の中に本発明の抗真菌剤を含み得る。本明細書において有用であり得る溶媒には、キシレン、アルキルナフタレン、石油蒸留物、テルペン溶媒、エーテル-アルコール、有機エステル溶媒、またはそれらの適当な組み合わせのような芳香族炭化水素溶媒が含まれる。
【0037】
本発明の組成物が、汚染源の制御および接種材料分散のため、植物の残渣もしくはリターに適用される場合、または出芽前防御のために土壌に適用される場合、粒剤または粉剤がスプレーより便利であり得る。
【0038】
一つの態様において、本明細書に記載の抗真菌剤は、アルギン酸ペレットに封入される。ペレットは、任意の適当な様式で調製され得る。例えば、一つの有用な方法は、Harvesonら(2002, Plant Disease;Vol.86, No.9 1025-1030)に記載されている。
【0039】
組成物は、抗真菌剤において有用なその他の活性物質を含み得る。例えば、本明細書に記載の組成物は、トリコデルマ、硫黄、ニーム油、ローズマリー油、ホホバ油、枯草菌(Bacillus subtilis)、アリルアミン類(例えば、テルビナフィン)、代謝拮抗薬(例えば、フルシトシン)、アゾール類(例えば、ケトコナゾール、イトラコナゾール)、エキノキャンディン類(例えば、カスポファンギン)、ポリエン類(例えば、アンフォテリシンB)、全身用薬剤(例えば、グリセオフルビン)、またはそれらの組み合わせのような、その他の抗真菌剤を含み得る。
【0040】
本明細書に記載の組成物は、約0.1重量%〜約95重量%の抗真菌剤、ならびに約0.1重量%〜約95重量%の担体および/または界面活性剤を含有し得る。播種前の植物種子への直接適用は、いくつかの場合において、極めて薄く、種子の重量に基づき1または2重量%未満を占める、実質的に均一のコーティングを得るため、本発明の粉末固形化合物または粉剤のいずれかを種子と混合することにより達成され得る。しかしながら、いくつかの場合において、種子の表面上の本発明の化合物の均一の分布を容易にするための担体として、メタノールのような非植物毒性溶媒が便利に利用される。
【0041】
本明細書に記載の組成物は、植物における真菌感染の処理において有用であり得る。従って、本明細書に記載の組成物は、S.ミコパラシチカ、その単離物、培養物、またはタンパク質と、薬学的に許容される担体とを含み得る。
【0042】
S.ミコパラシチカは、フザリウムの存在下で胞子形成する。S.ミコパラシチカ子嚢胞子は、種々の標準的な実験条件(滅菌蒸留水、素寒天(water agar)、および市販の培地)、ならびに熱ショック処理または低温ショック処理の下で、発芽に対して抵抗性であることが判明した。対照的に、フザリウム濾液によって修正された一般のポテトデキストロース寒天培地で、胞子発芽が得られた。フザリウム濾液に懸濁された胞子については、胞子発芽率の有意な改善が得られた。F.アベナセウムおよびF.オキシスポラムの濾液が、最も高い発芽を誘導し、F.スポロトリキオイデスおよびF.プロリフェラタムは、より低い発芽頻度を誘発した。有益真菌接種材料:トリコデルマ・ハルジアナム(BioWorks Inc.(Victor, NY, USA)より入手可能なRootShield(登録商標);RootShieldはBioWorks Inc.の登録商標である)、ペニシリウム・ビライー(bilaii)(Novozymes Biologicals Ltd.(Saskatoon, SK, CA)より入手可能なJumpStart(登録商標);JumpStartはPhilom Bios Inc.の登録商標である)、およびケトミウム・グロボサム(Chaetomium globosum)の濾液は、発芽に対して影響を及ぼさなかった。F.アベナセウム濾液に懸濁された子嚢胞子は、二極性の発芽パターンを示した。他方、F.オキシスポラム濾液に懸濁された場合には、有意な量の胞子が、単極性の発芽パターンを示した。F.オキシスポラムで増殖されたS.ミコパラシチカは、F.アベナセウムに移された時、3子孫世代において同一の菌寄生性発芽パターンを維持し、このことから、ゲノムにより調節される安定的な発現が示された。
【0043】
本発明は、F.アベナセウムもしくはF.オキシスポラム、またはそれらの濾液、抽出物、もしくは組成物にS.ミコパラシチカを曝すことにより、S.ミコパラシチカに胞子形成させる方法を提供する。
【0044】
本発明は、S.ミコパラシチカ、またはその単離物、培養物、遺伝子、もしくはタンパク質を含む抗真菌組成物を作製する方法を提供する。方法は、以下の工程を含む:
(a)S.ミコパラシチカ胞子形成を誘導する工程;
(b)S.ミコパラシチカを培養する工程;
(c)S.ミコパラシチカを回収する工程。
【0045】
方法は、以下の任意工程のうちのいずれかをさらに含んでいてもよい:
(d)S.ミコパラシチカを保管/保存する工程;
(e)S.ミコパラシチカを適用する工程;
(f)S.ミコパラシチカを評価する工程;
(g)S.ミコパラシチカタンパク質を作製する工程;
(h)S.ミコパラシチカタンパク質を回収する工程;
(i)S.ミコパラシチカタンパク質を分画する工程;
(j)S.ミコパラシチカタンパク質を分離する工程;
(k)S.ミコパラシチカタンパク質を保管/保存する工程;
(l)S.ミコパラシチカタンパク質を適用する工程;
(m)S.ミコパラシチカタンパク質を評価する工程。
【実施例】
【0046】
実施例1
試料採取、真菌増殖、および顕微鏡検
Vujanovic Vら(2002, Can.J.Microbiol.48(9):841-847)に記載された方法を使用して、カナダの農業圃場からの様々なフザリウム分類群および関連生体栄養性菌寄生菌の選択的な単離のため、ミクロブタニル(Myclobutanil)寒天(MBA)培地を使用した。スフェロデスは、Saskatchewanのコムギ圃場に起因するF.グラミネアラム単離物から時々回収され、F.アベナセウム単離物から豊富に回収され;Quebec、Canadaのアスパラガス圃場からのフザリウム・オキシスポラムからも単離された。Harveson&Kimbrough(2001, Int.J Plant Sci.162(2):403-410)により提唱された方法に従って、各フザリウム種から菌寄生菌の単胞子単一培養物を得た。抗生物質(100μg/lストレプトマイシン硫酸塩および13μg/lネオマイシン硫酸塩;Sigma-Aldrich Canada Ltd., Oakville, ON, CA)が補足されたポテトデキストロース寒天(PDA)(Difco, BD Biosciences, Mississauga, ON, CA)で単一子嚢胞子単離物を維持し、Saskatchewan Microbial Collection and Database(SMCD2220-01)およびInternational Depositary Authority of Canada(IDAC 301008-01)コレクションにおいて-80℃で保管した。修飾レオニアン寒天(MLA)培地およびポテトデキストロース寒天(PDA)培地で、真菌の増殖を評価した。Jordan&Barnett(1978, Mycologia 70(2):300-312)により提唱されたスライド培養法により、スフェロデスとフザリウム株との間の生体栄養性相互作用を調査した。2週間のインキュベーション(21℃〜22℃)の後、Carl Zeiss AxioCam ICc1カメラを用いて、Carl Zeiss Axioskop2の下で、子嚢果、子嚢胞子、菌糸体、およびアナモルフィック構造の形態学的研究を実施した。顕微鏡下観察のための真菌材料は、ラクトフクシン色素およびラクトフェノールコットンブルー色素でマウントした。
【0047】
DNAの抽出、増幅、および配列決定
三つのスフェロデス株:コムギからのF.アベナセウム上のSMCD 2220-01、コムギからのF.グラミネアラム上のSMCD 2220-02、およびアスパラガスからのF.オキシスポラム上のSMCD 2220-03を、1週間、21℃でPDA培地で培養した後、DNA抽出を行った。ゲノムDNAを、DNeasy(登録商標)Plant Mini Kit(Qiagen Inc., Mississauga, ON, CA;DNEasyは、Qiagen GmbH Corp(Hilden, Fed.Rep.Germany)の登録商標である)により抽出した。LSU(大サブユニット)rDNA断片を、当業者に公知の技術を使用して、プライマーセットNS1/NS6(例えば、Gardes & Bruns, 1993, Molecular Ecology 2:113-118;White et al. 1990, PCR Protocols:a guide to methods and application:315-322.Academic Press, New York)およびLS1/LR5(例えば、Hausner et al. 1993, Canadian Journal of Botany 71:52-63;Rehner & Samuels, 1995, Canadian Journal of Botany 73(Suppl.1):S816-S823;Zhang & Blackwell, 2002, Mycological Research 106:148-155)を使用して増幅した。真菌ゲノムDNA試料の標的領域を、2.5μlの10×緩衝液、5μlのQ緩衝液、0.5μl 10mM dNTP、1μlの各プライマー、0.13μlの0.625単位のTaq DNAポリメラーゼ、2μlの抽出された真菌DNA、および12.87μlの滅菌超純粋Millipore水を含有している25μl反応混合物中で、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用して増幅した。Qiagen Taq PCRコアキットは、Qiagen Inc.(Mississauga, ON, CA)から購入した。精製されたDNA PCR産物を配列決定した。
【0048】
配列整列化および系統学的分析
この研究からのLSUの配列と、GenBankから検索された配列とを、Clustal Xソフトウェア(バージョン1.82)(Thompson et al. 1997, Nucleic Acids Research 24:4876-4882)を使用して整列化し、Bioedit(Hall, 1999, Nucleic Acids Symposium Series 41:95-98)で編集した。近隣結合アプローチを使用して、PAUP(Phylogenetic Analysis Using Parsimony)4.0b10ソフトウェア(Swofford 2000)により、距離系統樹を作製し、反復回数1,000でブートストラップ分析を使用してバリデートした。50%より高いブートストラップ値を示す配列により、真菌の距離系統樹を調製した。配列キシラリア・ヒポキシロン(Xylaria hypoxylon)U47841を系統樹の樹根とした。
【0049】
分類学:スフェロデス・ミコパラシチカ株IDAC 301008-01として、International Depositary Authority of Canadaにある、スフェロデス・ミコパラシチカ・ブヤノビッチ(Vujanovic)新種(図1〜5)[MycoBank番号:MB 515144]。
【0050】
培養物の特徴:MLA上で培養されたスフェロデス・ミコパラシチカ株IDAC 301008-01のコロニーは、PDA上よりも急速に増殖した。1日1.1cm、対、0.6cm(21〜22℃)。わずかに浸液した菌糸体および空中の菌糸からなり、多数の子嚢果の産生のため粒状。MLA(図1Aおよび1C)およびPDA(図1Bおよび1D)で、培養物は、両面に、黄色〜桃褐色を帯びた羊毛質の菌糸体を産生した。37℃では、増殖は記録されなかった。菌糸は、白色〜淡黄色であり、直径2.5〜5.0μmであり、隔壁を有し、子嚢胞子発芽の直後に菌糸融合が起こった(図2)。ポテトデキストロース寒天(PDA)上のコロニーは、豊富な白色〜淡黄色の空中菌糸体および少数の子嚢果を伴い拡散した。子嚢果、子嚢殻または閉子嚢殻、散在または小さな群に凝集、表在性、洋ナシ状〜球状、開口型(成熟時)、薄〜濃黄色を帯びた褐色、半透明、多量の成熟子嚢胞子のため黒色に見える、高さ250〜300μm、直径200〜280μm。頚部は存在しない〜長さ25〜75μm、基底部の幅20〜70gmの短い円錐状または円柱状、長さ10〜40μmの短い垂直の剛毛の冠により囲まれている場合もある。子殻、膜質、3〜6層、厚さ8〜10μm、半透明、淡黄色〜薄褐色、多角菌糸組織に配置された直径8〜15μmの細胞により構成される。子嚢、8胞子、棍棒状、50〜75×17〜25μm、頂部は円形、頂端構造なし、薄壁を有し、成熟時に消失する。側糸、存在しない。子嚢胞子、子嚢内部に不規則に配置され、初めはガラス質であるが、褐色〜濃褐色となる、厚い壁を有し、単細胞性、紡錘状〜稀に三角形、18〜24×9〜12μm、粒状〜稀に平滑、不規則な横断面を有し、各末端に強力に先端突起を有する発芽孔を有する。フィアライド、ガラス質、アンプル状、子嚢果上に直接、または子嚢果周囲の菌糸上、および不規則に分枝した分生子柄上に産生される。
【0051】
S.ミコパラシチカ株IDAC 301008-01は、図3に示される特色の独特の組み合わせを有する。子嚢果の高さは、一般に、250μm未満であり、円錐状〜円柱状の頸部を有する(図3A)。剛毛の長さは一般に40μm未満であり(図3B)、胞子の長さは一般に23μm未満である(図3C)。胞子は、顕著な壁装飾、および図4Aの矢印により示された目立つ不規則な縦方向の葉脈を示す。スフェロデス・クアドラングラリスの胞子を、比較のため、図4Bに示す。S.ミコパラシチカ株IDAC 301008-01胞子は、時に、三角の形状を示す(図3Dおよび3E)。S.ミコパラシチカ株IDAC 301008-01の初期子嚢果および成熟子嚢果の形成を、図3Hに示す。この株は、子嚢果子殻壁の表面上に単純フィアライドを産生し、あるいは、フィアライドは、菌糸周囲の子嚢果上および特殊な分枝パターンを有する分生子柄上に不規則に散在することもある(図3Fおよび3G)。S.ミコパラシチカ株IDAC 301008-01は、フザリウムの生存菌糸への寄生のため、フック様構造を形成する(図3Iおよび3J)。
【0052】
実施例2
スフェロデス・ミコパラシチカ(SMCD 2220-01)21℃単離物を、ポテトデキストロースブロス(PDB)培養培地で培養した。約3mlの培養物を、50ml PDB増殖培地を含有している250mlエルレンマイヤーフラスコに移した。フラスコを、室温で回転振とう機(150rpm)上で7日間インキュベートした。
【0053】
細胞外タンパク質抽出:若い菌糸体を、Whatman(登録商標)No.1濾紙(Whatmanは、Whatman International Ltd.(Kent, UK)の登録商標である)でろ過した。細胞外タンパク質を含有している、ろ過された培養培地を、4℃での4000rpmでの遠心分離により、3000ダルトンカットオフ膜を有するAmicon限外濾過遠心管により濃縮した。
【0054】
ディスク拡散アッセイ:細胞外タンパク質抽出物の抗真菌活性を、Roberts&Selitrennikoff(1986, Biochim.Biophys.Acta, 880:161-170)により記載されたような放射状ディスクプレート拡散アッセイにより、無菌条件下で試験した。F.オキシスポラムおよびF.グラミネアラムに対する抗真菌活性についての単離されたタンパク質のアッセイを、ポテトデキストロース寒天を含有しているペトリ皿において実施した。活発に増殖中の真菌プレートからの菌糸体プラグを、ペトリ皿の中心に置き、無菌濾紙ディスク(直径5mmのWhatman(登録商標)濾紙no.1)を、寒天表面上の菌糸体コロニーの縁から0.5cmの距離に置いた。2.5μgの細胞外タンパク質を含有しているアリコート(60μL)を、ディスクに添加した。滅菌蒸留水および緩衝液を対照とした。次いで、プレートを4日間室温でインキュベートし、阻害について調査した。菌糸体コロニーの面積を測定し、対照による菌糸体コロニーの面積に対する低下%を計算することにより、真菌増殖の阻害を決定した(図5A)。発芽の4日目の後、F.オキシスポラムの菌糸伸長の約30%の阻害、およびF.グラミネアラムの菌糸伸長の35%の阻害が観察された(図5B)。
【0055】
細胞外タンパク質の高速タンパク質液体クロマトグラフィ(FPLC):タンパク質を、製造業者の説明書に従って、FPLC AKTA(登録商標)精製システム(GE Healthcare, Biosciences AB, CA:AKTAは、GE Healthcare Bio-Sciences AB Ltd.(Uppsala, Sweden)の登録商標である)を使用して、Superdex 75 GL 10/30カラムを通して分画した。カラムを、滅菌水、および0.15M NaClを含有している50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)により予め平衡化し、続いて、タンパク質注入(約500μL)および1.0ml/分の流速での同緩衝液によるタンパク質溶出を行った。0.8mlの画分を各チューブに収集した。Superdex(登録商標)75(Superdexは、GE Healthcare Bio-Sciences AB Ltd.(Uppsala, Sweden)の登録商標である)でのゲルろ過により、タンパク質は、二つの明瞭なピーク(f1およびf2)ならびに少数のより小さなピークに分解された(図6)。全てのピーク画分からの試料をプールし、沈降させ、抗真菌活性について試験した。
【0056】
ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE):FPLC画分から回収されたタンパク質のSDS-PAGE(12%)を、Laertunli(1970, Nature 227:680-685)の方法に従って実施した。全てのピークを与えるFPLC画分をプールし、1:4容量の冷アセトンでの沈降により回収し、-20℃で一夜維持した。12,000gでの10分間の遠心分離の後、沈降したタンパク質(ペレット)を、極少量(30μL)のアッセイ緩衝液に溶解させた。トリス-グリシン緩衝液(pH8.3)および適切なマーカーで、5%濃縮用ゲル(pH6.8)および12%分離用アクリルアミドゲル(pH8.8)を有するSDS-PAGEにより、タンパク質を分析した。SDS電気泳動の前に、タンパク質を、等しい容量の5%βメルカプトエタノール含有試料緩衝液(60mMトリス-HCl緩衝液、4%SDS、pH6.8)と混合した。標準的なマーカータンパク質の混合物(Bio-Radタンパク質マーカー、Bio-Rad Laboratories Inc., Mississauga, ON, CA)を使用した。V全ての試料を95℃で5分間加熱し、室温まで冷却した後、ゲルに負荷した。タンパク質を、銀染色法(Bio-Rad Silver染色キット、Bio-Rad Laboratories Inc., Mississauga, ON, CA)により可視化した。標準分子量マーカーの移動度との比較により、タンパク質分子量を推定した。f1およびf2のピークにおいて、それぞれ、分子量13kDaおよび50kDaのタンパク質バンドが検出された(図7)。
【0057】
マイクロタイタープレートアッセイ:FPLC画分から回収されたタンパク質の抗真菌活性を試験するため、マイクロタイタープレートアッセイ法(Ghosh, 2006, Ann.Bot.98:1145-1153;Yadav et al. 2007, J.Med.Microbiol.56:637-644)により、胞子発芽の阻害率を実施した。分画されたタンパク質の可能性のある毒性を、F.オキシスポラムおよびF.グラミネアラムを使用して、増殖阻害率アッセイにより試験した。分画されたタンパク質のインビトロ抗真菌活性を、96穴マイクロタイタープレートにおいて決定した。マイクロプレートウェルにおいて、10μlのポテトデキストロースブロス(PDB;BD Biosciences, Mississauga, ON, CA)を、3μlのF.オキシスポラムおよびF.グラミネアラムの胞子懸濁物と混合した。7μLの一定分量の異なるピーク含有タンパク質画分を、マイクロタイタープレート内の懸濁物に添加した(12〜8ウェル)。水25および緩衝液を陰性対照として使用した。次いで、マイクロタイタープレートを暗所で室温でインキュベートした。24時間後、倒立蛍光顕微鏡を使用して、未処理ウェルおよび処理ウェルの両方において、胞子発芽の阻害についての観察を行った。顕微鏡内の発芽胞子および未発芽胞子の数、ならびに菌糸体により覆われた面積の割合を、増殖阻害率を決定するために使用した。f1およびf2のタンパク質含有ピークは、24時間後、対照処理と比較して、胞子発芽に対して阻害効果を及ぼした。
【0058】
遊走子嚢からの胞子の放出は、これらのタンパク質画分により阻害された。F.オキシスポラム(図8A-c)およびF.グラミネアラム(図8B-c)の対照により処理された胞子においては、二次分枝(菌糸体形成)が観察された。F.オキシスポラム(図8A-a〜b)およびF.グラミネアラム(図8B-a〜b)のf1タンパク質およびf2タンパク質により処理された胞子においては、分枝が観察されなかった。対照により処理された胞子からの発芽管(菌糸)のサイズは、100μm超であったが、それに対して、タンパク質により処理された胞子については10〜15μmであった(図8A-a〜b;8B-a〜b)。
【0059】
実施例3
S.ミコパラシチカ(SMCD 2220-01)の活発に増殖中の菌糸体を、3日間、21℃で、震とうフラスコにおいてポテト10デキストロースブロス(PDB)で培養し、次いで、洗浄した。湿った菌糸体(0.1g)を、100μg/mL 3-ADON(Sigma-Aldrich Canada Ltd., Oakville, ON, CA)が補足された1mlのPDA培地に再懸濁させ、10日間インキュベートした。
【0060】
S.ミコパラシチカの0.2cm2プラグを、7日間、RTで、100μgの15濃度の3-ADONを含有している1ml PDBにおいてインキュベートした。TLCアッセイおよびHPLCアッセイにより、DON分解について試料を分析した。
【0061】
3-ADONの抽出:
3-ADONを、VasavadaおよびHsieh(1987, Appl.Micro.Biotechnol.26:517-521)により開示された方法により抽出した。試料入りフラスコの中の消費培地を、Whatman(登録商標)濾紙でろ過して、菌糸体を避けた。10mlの容量の酢酸エチルにより3回、3-ADONを培地から抽出した。培地および溶媒の混合物を激しく振とうし、相の分離のため、5分間、放置した。有機相を吸引し、残余の水を除去するため、硫酸ナトリウムに通した。溶媒を室温で蒸発させた。残さを、分析のため、アセトニトリルに再溶解させた。
【0062】
TLCによるDONの分析:
薄層クロマトグラフィ(TLC)を、DONを分析するために使用した。Andreaら(2004, J.Basic Microbiol.44:147-156)により開示された方法により、TLCを実施した。乾燥残さを、75μlに溶解させ、蛍光指示薬(60 F254、0.2mm層;Merck Frosst Canada Ltd, Kirkland, PQ, CA)によりコーティングされたシリカゲルTLCプレートに負荷した。スポットを、40 5分間、酢酸エチル-トルエン(3:1)を含む溶媒系で泳動させた。ゲルプレートに、20%塩化アルミニウムを含む95%エタノールを噴霧した。トリコテセンを、短波長UV光(254nm)下で暗いスポットとして可視化した。クロマトグラムを、ゲルドキュメンテーション系を使用して撮影した。純粋な3-ADONの既知の標準対照(Sigma-Aldrich Canada Ltd., Oakville, ON, CA)を、その他の処理と比較するために利用した。S.ミコパラシチカを含有している試料は、対照試料より有意に少ない3-ADONを示した。
【0063】
高速液体クロマトグラフィ(HPLC)
250×直径4.60mm、Prodigy 5μ ODS(3)100A、5μミクロンC18カラム(Phenomenex Inc., Torrance, CA USA)およびフォトダイオード-アレイ(PDA)検出器を有するWater's HPLCを、勾配溶媒系(水-0.005%(v/v)トリフルオロ酢酸含有アセトニトリル)と共に使用した。PDA検出器はUVスペクトル(200〜600nm)を測定した。試料をアセトニトリルに溶解させ、自動インジェクターを使用して、20μlをカラムに負荷した。1ml/分の速度で、移動相として溶媒を使用して、DONを溶出させた。Sigma-Aldrich(Sigma-Aldrich Canada Ltd., Oakville, ON, CA)から入手した3-ADONを、標準物として使用した。結果を図9に示す。S.ミコパラシチカを含む試料は、はるかに低下したレベルの3-ADONを含有していた。
【0064】
実施例4
ポテトデキストロース寒天(PDA)、ポテトデキストロースブロス(PDB)、酵母抽出物、麦芽エキス寒天(MEA)、寒天、およびペプトンは、BD Biosciences(Mississauga, ON, CA)から購入した。ストレプトマイシン硫酸塩、ネオマイシン硫酸塩、および分析等級のその他の試薬は、Sigma-Aldrich Canada Ltd.(Oakville, ON, CA)から購入した。
【0065】
真菌株および増殖条件
四つの植物病原性フザリウム株(F.アベナセウム、F.スポロトリキオイデス、F.オキシスポラム、およびF.プロリフェラタム);三つの有益真菌接種材料(トリコデルマ・ハルジアナム(RootShield(登録商標))、ペニシリウム・ビライー(JumpStart(登録商標))、およびケトミウム・グロボサム;ならびにF.オキシスポラム宿主から単離された一つの菌寄生性真菌株(スフェロデス・ミコパラシチカSMCD 2220-01)を、抗生物質(100mg/Lストレプトマイシン硫酸塩および12mg/Lネオマイシン硫酸塩)によって修正されたPDAで維持し、この研究を通して使用した。S.ミコパラシチカ菌寄生性真菌単離物は、F.オキシスポラム宿主から分離され、モノスポリウム培養は、わずかに修飾されたHarveson RM、Kimbrough JW(2001, Int.J.Plant Sci.162:403-410)により記載された方法に従って、達成された。成熟子嚢殻を採取し、2ml滅菌水ブランクに懸濁させ、振とうした。次いで、胞子懸濁物をPDAプレート上に広げた。数分後、Carl Zeiss Stemi 1000解剖顕微鏡の補助下で、個々の胞子を取り出し、100ml/lのフザリウム濾液が補足されたPDAに移した。全ての真菌単離物を、Saskatchewan Microbial Collection and Database(Canada)(SMCD)のカルチャーコレクションにおいて維持した。
【0066】
胞子産生
活発に増殖中の単胞子スフェロデス培養物の端から菌糸体プラグを切り取り、修飾レオニアン寒天(MLA:マルトース、6.25g;麦芽エキス、6.25g;KH2PO4、1.25g;酵母抽出物、1.Og;MgSO4.7H2O、0.625g;ペプトン、0.625g;寒天、20g、および1LのdH2O)に置いた。接種されたMLAプレートを、1ヶ月間、暗条件で室温(23℃)でインキュベートした後、発芽アッセイのために胞子を収集した。解剖顕微鏡の補助下で、子嚢果から滲出し、孔口に位置していた成熟胞子を、無菌針で慎重に採取することにより回収し、1ml滅菌蒸留水で2mlチューブに添加した。次いで、残存する栄養細胞または菌糸体を除去するため、懸濁物を4枚のチーズクロス薄層でろ過した。胞子懸濁物の密度を血球計数器で計数し、1ml当たりおよそ5〜6×105胞子に滅菌水で調整した。新鮮に調製された水性胞子懸濁物を使用した。
【0067】
真菌濾液の調製
四つの病原性フザリウム株および三つの有益真菌株を、各々100ml PDB培地を含む500mlフラスコにおいて、室温(23℃)で、7日間、振とう培養で増殖させた。
【0068】
PDB培地における7日間のインキュベーションの後、濾紙でろ過することにより菌糸体を除去し、次いで、濾液をフィルター滅菌した。新鮮に調製された真菌濾液を、胞子発芽試験のために利用した。
【0069】
スフェロデス・ミコパラシチカ株SMCD 2220-01は、F.アベナセウムおよびF.オキシスポラムのようなフザリウム種において、またはそれらと共に接種された時、胞子形成することが見出された。S.ミコパラシチカは、F.オキシスポラムおよびF.アベナセウムの両方においておよそ同量の子嚢果を産生することが観察された。S.ミコパラシチカは、F.プロリフェラタム、F.スポロトリキオイデス、P.ビライー、T.ハルジアナム、およびC.グロボサムのような、その他のフザリウム株または真菌株においては、子実体を産生しないことが見出された。これらの生体栄養性菌寄生菌とフザリウム種との間のコンタクトゾーンにおいては、フック形コンタクト構造が形成された。
【0070】
スフェロデス胞子発芽に対する熱処理および低温処理の効果
水性子嚢胞子懸濁物を、20分間、60℃および65℃で熱ショックに供し、5分間および20分間、4℃、-20℃、および-70℃で低温処理した。次いで、熱ショックおよび低温ショックを受けた胞子を、1日および3日間、WAおよびPDAに移し、接種した。胞子発芽の読み取りを毎日チェックした。熱処理および低温処理に供されなかった胞子を、対照として使用した。
【0071】
3日間、熱処理群および低温処理群のいずれにおいても発芽は観察されなかった。7日までさらに観察を続けたが、胞子発芽は観察されなかった。
【0072】
様々な培地における発芽
水性胞子懸濁物を以下の培地の表面へ移し接種した:
−1.5%素寒天(WA)、PDA、MLA、MEA、カーネーション葉寒天(CLA);
−1.5%素寒天+100ml/lのフザリウム濾液;
−100ml/lのフザリウム濾液を含むPDA。
【0073】
利用されたフザリウム株は、F.アベナセウム、F.オキシスポラム、F.プロリフェラタム、およびF.スポロトリキオイデスであった。次いで、子嚢胞子が接種されたプレートを、3日間、室温(23℃)でインキュベートした。胞子発芽を毎日調査した。
【0074】
結果を表1にまとめる。スフェロデスについての各インキュベーション日数は別々に分析した。各カラム内の数字は、子嚢胞子発芽(%)の平均値±標準偏差を表す。同一文字が後続する各培地処理についての各カラム内の平均値は、マンホイットニーのU検定の後、P≦0.05で、有意差なしである。
【0075】
(表1)様々な培地におけるS.ミコパラシチカの胞子形成

【0076】
胞子発芽に対する真菌濾液の効果
水性胞子懸濁物を、1:2(水性胞子懸濁物1部:真菌濾液2部)の比率で、1日および3日間、四つの別々の病原性フザリウムおよび三つの有益真菌株の濾液に懸濁させ、次いで、濾液に懸濁された胞子を、さらに1日、PDAに移し、接種した。対照処理は、滅菌蒸留水またはPDBで懸濁させた。
【0077】
胞子発芽
子嚢胞子発芽の顕微鏡下評価を、1日および3日間のインキュベーションの後に実施した。Carl Zeiss Axioskop2顕微鏡の200倍および400倍の対物レンズを利用して、ペトリ皿で胞子をスコア化し、右上角から出発して、50まで計数し続け、系統的に50個の胞子を選ぶことにより、発芽した胞子の割合を得た。培地プレート上の子嚢胞子懸濁物の各液滴を小単位と見なし、各プレートに三つの小単位が存在した。各処理について各培地プレートを複製し、各処理について3レプリカが存在した。実験を2回反復した。発芽管が明白に認知可能となった時に初めて、子嚢胞子を発芽した胞子と見なした。発芽した子嚢胞子を計数し、全子嚢胞子数に対する割合として記録した。
【0078】
結果を表2にまとめる。各カラム内の数字は、子嚢胞子発芽(%)の平均値±標準偏差を表した。スフェロデスについての各インキュベーション日数は別々に分析した。同一文字が後続する各濾液懸濁処理についてのスフェロデスの各カラム内の平均値は、P≦0.05でのマンホイットニーのU検定の後、有意差なしであった。
【0079】
(表2)S.ミコパラシチカ胞子発芽に対する真菌濾液の効果

【0080】
実施例5
F.グラミネアラム3-ADONは、コムギにおいて最も病原性であり、マイコトキシン産生性(mycotoxigenic)であるため、3-ADONを、人工気象室で制御された条件の下で、菌寄生菌-フザリウム-コムギ根相互作用を定量化するために使用した。
【0081】
真菌株および増殖
フザリウム株:F.グラミネアラム3-ADON株SMCD2243、生体栄養性菌寄生菌スフェロデス・ミコパラシチカSMCD2220-01、および菌寄生特性を有する対照株としてのトリコデルマ・ハルジアナムT-22(RootShield−市販品)を、抗生物質によって修正されたPDAで維持した。
【0082】
分類群特異的プライマー
F.グラミネアラムに特異的なプライマーセット、Fg1 2NFiR(Nicholson et al. 1998.Plant Pathology 53:17-37);トリコデルマに特異的なプライマーセット、TGP4-F IR(Kim and Knudsen 2008.Applied Soil Ecology 40:100-108);およびS.ミコパラシチカSMCD2220-01に特異的なプライマーセット、SmyITSF/Rを、この研究において使用した。
【0083】
菌寄生/フザリウム/植物相互作用
コムギCDC-TEAL 2001植物に、マイコトキシン産生性かつ病原性のフザリウム、およびトリコデルマ(対照菌寄生菌)またはスフェロデスSMCD2220-01を接種し、人工気象室条件での14日間のインキュベーションの後、制御された条件の下で、コムギの根における真菌DNAの量を評価するため、RT-PCR定量化に供した。
【0084】
増殖条件および真菌接種
S.ミコパラシチカ、T.ハルジアナム、およびF.グラミネアラムから5個の菌糸体プラグを切り取り、各々100mLのPDB(ポテトデキストロースブロス)を含む500mLフラスコ内の三つの別々の振とう培養物に移し、室温(23℃)で14日間増殖させた。PDB培地における14日間のインキュベーションの後、液体培地を除去するため、真菌培養物をWhatman(登録商標)No.1濾紙でろ過した。次いで、菌糸体を、20個の無菌ガラスビーズおよび40mLのオートクレーブ処理済み蒸留水を含む50mL無菌Falconチューブに移した。次いで、菌糸体材料が充填されたFalconチューブを、菌糸体をより小さな片へ分離するため、1分間、激しくボルテックス処理した。ガラスビーズおよびより大きな菌糸体の塊を除去するため、菌糸体懸濁物を2枚のチーズクロス層でろ過した。次いで、フロースルーを、段階希釈のための菌糸体懸濁物ストック(100)として使用した。菌糸体懸濁物のストックを、10-2、10-3、および10-4の範囲の系列にさらに希釈した。この希釈系列を、混釈平板法を使用して、PDAに播種した。CFU(コロニー形成単位)の数を計数し記録した。菌糸体懸濁物を、滅菌水で、S.ミコパラシチカおよびT.ハルジアナムについては、約10-5〜10-6CFU/mL、F.グラミネアラムについては、約10-4〜10-5CFU/mLに調整した。
【0085】
菌寄生菌-病原体-コムギ根の間の相互作用の定量化を、春コムギCDC-TEAL 2001において実施した。コムギ植物を、10gの無土壌生長ミックスの種々の層を含む容器(4×4×16cm)(図10)で生長させた。全ての種子を播種前に表面滅菌した。容器10は、濾紙で内張りされており、第1層20を構成する6gのPro-Mix(登録商標)無土壌ミックス(Sun Gro Horticulture Canada Ltd., Delta, BC, CA;Pro-Mixは、Premier Horticulture Ltd., Riviere-du-Loop, PQ, CAの登録商標である)が充填されていた。次いで、この層20の上に、およそ5〜6×104CFUのF.グラミネアラム菌糸体懸濁物によって修正されホモジナイズされたPro-Mix(登録商標)ミックス、あるいは水のみを含むPro-Mix(登録商標)ミックスのいずれかの第2層30(1g)が重層されていた。第2層30の次は、およそ5〜6×105CFUのS.ミコパラシチカあるいはT.ハルジアナムの菌糸体懸濁物あるいは水のみが補足されホモジナイズされたSunshine(登録商標)ピートモス(Sunshineは、Sun Gro Horticulture Canada Ltd., Seba Beach, AB, CAの登録商標である)の第3層40(1g)であった。次いで、6個の春コムギ種子を第3層40の上に播き、2gのSunshine(登録商標)ピートモスの第5層60を被せた(図10)。春コムギ種子を、250μmol/m2/sの光強度で、16hの光周期(22℃日/15℃夜)の下で発芽させ生長させ、2日毎に給水し、14日毎に1300ppmのNPK(20-20-20)肥料を使用して施肥した。実験内の全ての処理を三つの複製物で行い、実験を2回反復した。
【0086】
Zadokの生長段階13(Zadoks et al. 1974, Weed Research 14:415-421)に相当する、実生生長期中期(mid-seedling growth)に、根付きのコムギ植物をポットから取り出し、全ての土壌粒子を除去するため水道水の流水下で洗浄した。洗浄された根を濾紙で乾燥させた。発芽した種子の数、全バイオマス、根バイオマス、全長、および根長を計数し測定した。種子発芽の割合を以下の式で計算した:(特定の処理において発芽した種子の数/対照処理において発芽した種子の数)×100%。次いで、根を、DNeasy(登録商標)Plant Mini Kit(Qiagen Inc., Mississauga, ON, CA)による全DNA抽出に供した。異なる処理の根から抽出された全DNAを、リアルタイムPCR定量化において利用した。
【0087】
統計分析
春コムギ植物の根バイオマス(g)、全バイオマス(g)、根長(cm)、全長(cm)、種子発芽(%);ならびに根からのS.ミコパラシチカ、T.ハルジアナム、およびF.グラミネアラムのゲノムDNA定量化を、分散分析(ANOVA)を使用することにより分析した。ANOVA要件を満たすために必要とされる場合には、Log10変換を実施した。二つより多い試料についての多重比較は、P=0.05で、チューキーのスチューデント化された範囲(studentized range)の検定を利用することにより分析した(SPSS 1990)。
【0088】
コムギ生長および真菌接種
F.グラミネアラム感染春コムギの根バイオマス、全バイオマス、根長、全長、および種子発芽は、F.グラミネアラム単独の接種と比較して、S.ミコパラシチカの処理により有意に増加した(表3)。
【0089】
(表3)春コムギ植物の根バイオマス(g)、全バイオマス(g)、根長(cm)、全長(cm)、および種子発芽(%)に対するSMCD2220-01(SM)およびF.グラミネアラム3-ADON(Fgra)接種処理の効果

* 表された値は、六つの複製物の平均値±平均値の標準偏差である。各カラム内の同一文字が後続する値は、チューキーの範囲検定(P<0.05)を使用して有意差なしである。
【0090】
表3、菌寄生菌S.ミコパラシチカは、バイオマス刺激および生物的防御または生物的制御の両方を示す。
【0091】
スフェロデス特異的プライマーセットのコンフォメーション
SmyITSF/Rプライマーセットを、S.ミコパラシチカ、七つのフザリウム種、九つの異なる子嚢菌類真菌単離物、二つの接合菌類真菌、および三つの担子菌類真菌株で試験した。このプライマーセットは、S.ミコパラシチカのみを増幅した。
【0092】
図11は、20分間100Vで1%アガロースゲル電気泳動にかけられた、S.ミコパラシチカ(SM)、五つのフザリウム株(Fa=F.アベナセウム、Fo=F.オキシスポラム、Fs=F.スポロトリキオイデス、Fg3=F.グラミネアラム化学型3、およびFg15=F.グラミネアラム化学型15)、二つのトリコデルマ種(T22=T.ハルジアナムT22およびTv=T.ビリデ)、二つのクラドスポリウム種(CC=C.クラドスポリオイデスおよびCM=C.ミノウラエ)、ならびにペニシリウム・オーランチオグリセウム(PA)についてのSmyITSF/Rプライマーにより増幅されたPCR産物を示す。バンドのサイズは、ほぼ300〜400bpである。
【0093】
標準曲線
S.ミコパラシチカ、F.グラミネアラム、およびT.ハルジアナムからのDNAの既知の希釈濃度に基づく標準曲線を構築した。標準曲線は、S.ミコパラシチカについては3.8×102〜3.8×10-2ng、F.グラミネアラム化学型3については2.7×103〜2.7×10-1ng、T.ハルジアナムについては7.0×102〜7.0×10-2ngの範囲の10倍希釈DNAの系列を使用して達成された。定量化は、真菌ゲノムDNA(ng/μl)のlog10とリアルタイムPCRサイクル閾値(Ct)との間の直線的な関係(S.ミコパラシチカについてはr2=0.999、F.グラミネアラムについてはr2=0.998、T.ハルジアナムについてはr2=0.996)を示した(三つ全ての真菌単離物について、0.025という蛍光シグナル閾値を使用した)(図12A、12B、および12C)。
【0094】
図13は、10倍ずつ減少する3.8×102〜3.8×10-2ngの範囲を示す、0.025蛍光線を含む、スフェロデス・ミコパラシチカ(SMCD 2220-01)についてのRT-PCR S字形カラー曲線を示す。
【0095】
スフェロデスの生物的制御効果のRT-PCRによる確認
S.ミコパラシチカSMCD2220-01およびF.グラミネアラムの量を調べるリアルタイムPCRによって、S.ミコパラシチカSMCD2220-01およびT.ハルジアナムによる処理において検出されたF.グラミネアラムDNAの量が有意に低下していたことが確認された(図14A)。以前に、菌寄生性スフェロデス・レチスポラ(retispora)による処理が、スイカ植物においてF.オキシスポラムの有意な抑制を示すことが観察された(Harveson et al. 2002, Plant Dis.86:1025-1030)。検出されたS.ミコパラシチカDNAの量は、F.グラミネアラムを接種されたコムギとフザリウムを接種されていないコムギとの間で有意差なしであった(図14B)。F.グラミネアラム接種処理において検出されたT.ハルジアナムDNAの量は、非フザリウム処理と比較して、有意に低下していることが観察された(図14C)。
【0096】
結論として、インビトロの培養物に基づく研究において、S.ミコパラシチカSMCD2220-01のみが、コムギ種子発芽および二次根形成を増強することが観察され、T-22は出芽後の苗立ち枯れ症状を誘導した。人工気象室内の制御された条件の下で、S.ミコパラシチカSMCD2220-01は、春コムギ根におけるF.グラミネアラムの量を低下させるのみならず、春コムギ実生の生存および生長を改善することができた。T.ハルジアナムとは対照的に、検出されたS.ミコパラシチカSMCD2220-01 DNAの量は、F.グラミネアラムを接種されたコムギとフザリウムを接種されていないコムギとの間で有意差なしであった。従って、S.ミコパラシチカSMCD2220-01は、コムギにおけるF.グラミネアラム病原体のためのより優れた生物的制御候補であり得る。
【0097】
実施例6
本明細書に開示された生長条件を使用したコムギ宿主における菌寄生菌-フザリウム相互作用の試験からの定量的RT-PCRの結果は、フザリウムDONマイコトキシン産生に関係している遺伝子の蓄積を有意に減少させるS.ミコパラシチカSMCD2220-01の効率も確認した。
【0098】
使用した株:F.グラミネアラム3-ADON SMCD2243株、F.グラミネアラム15-ADON SMCD2244株、およびS.ミコパラシチカSMCD2220-01株。
【0099】
使用したプライマーセット:フザリウムのためのTox5-1/2(Wu et al. 2002.J.Environ Monit.4:377-382)およびS.ミコパラシチカのためのSmyITSF/R(本明細書に開示)。
【0100】
結果を図15にまとめる。フザリウム・グラミネアラム株と前接種されたスフェロデス・ミコパラシチカSMCD2220-01(SM)との二重培養アッセイ、または単独で増殖させたF.グラミネアラム3-ADON化学型および15-ADON化学型から抽出された全DNAから、Tox5-1/2プライマーセットを使用することにより増幅されたtri5遺伝子配列のリアルタイム蛍光曲線。
【0101】
実施例7
スフェロデス子嚢胞子の発芽に対する、異なるフザリウム種から収集された濾液の効果を、この研究において評価した。子嚢胞子発芽パターンも評価した。
【0102】
培地、試薬、および化学物質:ポテトデキストロース寒天(PDA)、ポテトデキストロースブロス(PDB)、酵母抽出物、麦芽エキス寒天(MEA)、寒天、およびペプトンは、Difco(Becton Dickinson Diagnostics, Sparks, Maryland)から購入した。ストレプトマイシン硫酸塩、ネオマイシン硫酸塩、および分析等級のその他の試薬は、Sigma-Aldrich(Oakville, ON, CA)から購入した。
【0103】
真菌株および増殖条件:四つの植物病原性フザリウム株(F.アベナセウムSMCD 2241、F.オキシスポラムSMCD 2242、F.プロリフェラタム(Matsush.)ニレンベルグ(Nirenberg)SMCD 2244、およびF.スポロトリキオイデス・シェルブ(Sherb)SMCD 2243)、三つの有益真菌接種材料(T.ハルジアナム(RootShield(登録商標))、P.ビライー([JumpStart(登録商標))、およびケトミウム・グロボサム・クンゼ(Kunze);ならびに一つの菌寄生性真菌株S.ミコパラシチカを、抗生物質(100mg/Lストレプトマイシン硫酸塩および12mg/Lネオマイシン硫酸塩)によって修正されたPDAで維持し、この研究を通して使用した。菌寄生性真菌S.ミコパラシチカの単離物を、以前に記載されたようにミクロブタニル寒天(MBA)選択培地においてF.オキシスポラム宿主から分離し、成熟子嚢殻を採取し、次いで、それを、子嚢胞子の放出を助長するため、2mL滅菌蒸留水ブランクに懸濁させ振とうすることにより、単胞子培養を達成した。次いで、子嚢胞子懸濁物をPDAプレート上に広げた。数分後、Carl Zeiss Stemi 1000解剖顕微鏡を使用して、個々の胞子を同定し、それらを取り出し、100mL/Lのフザリウム濾液(F.アベナセウムおよびF.オキシスポラム)が補足されたPDAに移した。全ての真菌単離物を、Saskatchewan Microbial Collection and Database(Canada)(SMCD)のカルチャーコレクションにおいて維持した。
【0104】
子嚢胞子産生:活発に増殖中の単胞子由来のS.ミコパラシチカ培養物の端から菌糸体プラグを切り取り、修飾レオニアン寒天(MLA:マルトース、6.25g;麦芽エキス、6.25g;KH2PO4、1.25g;酵母抽出物、1.0g;MgSO4・7H2O、0.625g;ペプトン、0.625g;寒天、20g、および1LのdH2O)(Malloch and Cain 1971)に置いた。接種された修飾レオニアン寒天(MLA)プレートを、1ヶ月間、暗条件で室温(23℃)でインキュベートした後、発芽アッセイのための胞子を収集した。成熟子嚢胞子を、Goh and Vujanovic(2010)に従って収集した。
【0105】
真菌濾液の調製:四つの病原性フザリウム株および三つの有益真菌株を、各々100mL PDB培地を含む500mLフラスコにおいて、室温(23℃)で、7日間、振とう培養(250rpm)で増殖させた後、真菌濾液を抽出した。インキュベーション後、濾紙(Whatman(登録商標)グレードNo.1)でろ過することにより菌糸体を除去し、次いで、0.02μm孔径ニトロセルロースフィルター(Fisher Scientific Ltd., Nepean, ON, CA)で濾液をフィルター滅菌した。真菌濾液の新鮮調製物のみを、この研究における胞子発芽試験のために利用した。
【0106】
S.ミコパラシチカ胞子発芽に対する熱処理および低温処理の効果:S.ミコパラシチカにおける子嚢胞子発芽を調査するため、熱活性化処理および低温ショック処理を実施した。水性子嚢胞子懸濁物を、20分間、60℃および65℃で熱ショックに供し、5分間および20分間、4℃、-20℃、および-70℃で低温処理した。次いで、熱ショックおよび低温ショックを受けた胞子(10μL)を、1日および3日間、素寒天(WA)およびPDAに移し、接種した。胞子発芽の読み取りを毎日チェックした。熱処理および低温処理に供されなかった胞子を、対照として使用した。全ての処理を三つの複製物で行い、実験を2回反復した。
【0107】
7日間にわたり、全ての熱処理および低温処理において、発芽は観察されなかった。
【0108】
様々な培地における発芽:S.ミコパラシチカの水性胞子懸濁物(10μL)を以下の培地の表面へ移し接種した:1.5%素寒天(WA)、PDA、MLA、MEA、カーネーション葉寒天(CLA)(Tschanz et al. 1976)、1.5%素寒天+100mL/Lのフザリウム濾液、および100mL/Lのフザリウム濾液を含むPDA。フザリウム濾液は、F.アベナセウム、F.オキシスポラム、F.プロリフェラタム、およびF.スポロトリキオイデスを使用して作出した。次いで、S.ミコパラシチカ子嚢胞子が接種されたプレートを、3日間、室温(23℃)でインキュベートし、胞子発芽を毎日調査した。全ての処理を三つの複製物で行い、実験を2回反復した。
【0109】
1.5%WA、PDA、MLA、MEA、およびCLAにおいては、胞子発芽は存在しなかった。100mL/Lのフザリウム濾液によって修正された1.5%WA培地およびPDA培地の胞子発芽に対する効果を調査した。表4にまとめる。
【0110】
単独のWAまたはPDA、およびF.プロリフェラタムまたはF.スポロトリキオイデスのいずれかを含むWAまたはPDAにおいて、最初の3日間に発芽は記録されず、観察を7日目まで続けた。しかしながら、F.アベナセウムまたはF.オキシスポラムのいずれかの濾液がWAおよびPDAに添加された時には、S.ミコパラシチカにおける子嚢胞子発芽率が3日間のインキュベーションの後に激的に増加した。3日目、S.ミコパラシチカについての発芽は、フザリウム濾液によって修正されたPDAにおいて、フザリウム濾液が補足されたWAにおける増殖と比較して、増加した。
【0111】
(表4)素寒天およびポテトデキストロース寒天のチェックを含む、様々な型のフザリウム濾液補足培地におけるスフェロデス・ミコパラシチカ子嚢胞子の発芽率

* 各カラム内の数字は、子嚢胞子発芽(%)の平均値±標準偏差を表した。
** スフェロデスについての各インキュベーション日数は別々に分析した。同一文字が後続する各培地についての各カラム内の平均値は、P≦0.05でのクラスカル・ウォリス検定の後、有意差なしである。
【0112】
胞子発芽に対する真菌濾液の効果:四つの異なる植物病原性フザリウム種および三つの有益真菌単離物からの真菌濾液を、S.ミコパラシチカの胞子発芽および宿主特異性応答を研究するために利用した。S.ミコパラシチカの水性胞子懸濁物を、1:2(水性胞子懸濁物1部:真菌濾液2部)の比率で、1日および3日間、四つの別々の病原性フザリウム種および三つの有益真菌株の濾液に懸濁させた。次いで、濾液に懸濁された胞子(10μL)を、さらに1日、PDAに移し、接種した(胞子発芽をPDAプレート上で計数した)。さらなる1日のPDA培地への接種の後、Goh and Vujanovic(2010)に従って、胞子発芽を計数した。対照処理は、滅菌蒸留水またはPDBで懸濁させた。実験を通しての四つの別々の時系列(chronosequences)での異なる処理についての略語:1日懸濁とは、1日のフザリウム濾液懸濁を表し、1日懸濁+1日PDAとは、1日の濾液懸濁およびPDA培地上でのさらなる1日のインキュベーションを表し、3日懸濁とは、3日間の懸濁を表し、3日懸濁+1日PDAとは、3日間の濾液懸濁およびPDA上でのさらなる1日のインキュベーションを表す。
【0113】
P.ビライーおよびC.グロボサムの真菌濾液による処理においては、胞子発芽は観察されなかった。水懸濁対照およびPDB懸濁対照の両方が、3日+1日PDAでのみ、およそ1.8〜3.8%のS.ミコパラシチカの胞子発芽を誘発するようであった(表5)。病原性F.スポロトリキオイデスおよび有益T.ハルジアナムの濾液に懸濁されたS.ミコパラシチカの子嚢胞子は、1日懸濁では発芽を示さなかったが、1日懸濁+1日PDAの後、およびその他のインキュベーション処理においては、小数の子嚢胞子発芽が観察された。F.プロリフェラタム濾液に懸濁された子嚢胞子は、1日、1日+1日PDA、3日、および3日+1日PDAについて少量発芽するのが観察された。スフェロデス子嚢胞子は、F.アベナセウム濾液懸濁において最も多数の発芽子嚢胞子を示した。1日懸濁処理において、F.アベナセウム濾液におけるS.ミコパラシチカの子嚢胞子発芽は、その他の処理より有意に高かった(89.2%)。S.ミコパラシチカの子嚢胞子をF.オキシスポラム濾液に懸濁させた時、胞子発芽の量は対照と比較して増加した。F.オキシスポラム濾液処理において、1日懸濁については、発芽が記録されなかった。しかしながら、2日目、F.オキシスポラム濾液懸濁において、小数の子嚢胞子が刺激された。子嚢胞子発芽率および応答に基づき、S.ミコパラシチカは、F.アベナセウムおよびF.オキシスポラムに対する高い特異性を示した。
【0114】
(表5)四つの時系列で評価された、異なるフザリウムおよび生物的制御真菌の濾液に懸濁されたスフェロデス・ミコパラシチカ子嚢胞子の胞子発芽率。対照処理は、滅菌蒸留水(SDW)またはポテトデキストロースブロス(PDB)で懸濁された。

* 各カラム内の数字は、子嚢胞子発芽(%)の平均値±標準偏差を表した。
** S.ミコパラシチカについての各インキュベーション日数は別々に分析した。同一文字(上付の)が後続する各濾液懸濁処理についてのS.ミコパラシチカの各カラム内の平均値は、P≦0.05でのクラスカル・ウォリス検定の後、有意差なしである。
【0115】
胞子発芽評価:子嚢胞子発芽の顕微鏡下評価を、1日および3日間のインキュベーションの後に実施した(胞子発芽を懸濁物上で計数した)。Carl Zeiss Axioskop2顕微鏡の200倍および400倍の対象レンズを通して観察しながら、ペトリ皿において胞子をスコア化し、右上角から出発して、50まで計数し続け、系統的に50個の胞子を選ぶことにより、発芽した胞子の割合を得た。増殖培地プレート上の子嚢胞子懸濁物の各液滴を、小単位と見なし、各プレートに三つの小単位または複製物が存在した。実験を2回反復した。発芽管が子嚢胞子の幅(およそ12μm)を越えた時に初めて、子嚢胞子を、発芽したと見なした。発芽した子嚢胞子を計数し、計数された全子嚢胞子数に対する割合として記録した。
【0116】
S.ミコパラシチカからの子嚢胞子は、2種類の発芽パターンを示した。F.オキシスポラム濾液懸濁物においては、単極性の発芽がより優勢であった(図16A、16B、16D、16E)。S.ミコパラシチカからの胞子の少数は、F.オキシスポラム濾液への3日懸濁処理+1日PDAにおいて、より短い二極性の発芽を生ずることが見出された(図16F)。F.アベナセウム濾液懸濁において、S.ミコパラシチカの子嚢胞子は、二極性発芽のより高い優位性を示した(図16G)。F.アベナセウム濾液懸濁においても単極性の発芽が見出された;しかしながら、それはF.オキシスポラム濾液処理の場合より低かった。一般的に、これらの単極性発芽胞子は、(F.アベナセウム濾液懸濁において)F.オキシスポラム濾液懸濁胞子にはほとんど見出されなかった、より大きな網様組織、およびより長い菌糸の形成を生じた(図16H、16I)。F.オキシスポラム濾液への懸濁を通して活性化された、S.ミコパラシチカにおける発芽子嚢胞子の大部分が、極性発芽孔の先端で、90°(図16E、16F)または90°〜180°(図16F)のいずれかの角度であることが検出された。しかしながら、極少数の胞子は180°の角度で発芽した(図16D)。大部分の(F.アベナセウム濾液処理により)活性化された胞子は、180°の角度での発芽を示した(図16G)。
【0117】
実施例8
この研究においては、F.グラミネアルム3-ADON株および15-ADON株に対するS.ミコパラシチカの宿主特異性を評価した。
【0118】
培地、試薬、および化学物質:ポテトデキストロース寒天(PDA)、ポテトデキストロースブロス(PDB)、酵母抽出物、麦芽エキス寒天(MEA)、寒天、およびペプトンは、Difco(Becton Dickinson Diagnostics)から購入した。ストレプトマイシン硫酸塩、ネオマイシン硫酸塩、および分析等級のその他の試薬は、Sigma-Aldrich(Oakville, ON, CA)から購入した。リアルタイムPCR反応のためのIQ SYBR Green Supermixは、Bio-Rad Laboratories(Mississauga, ON, CA)から取得した。
【0119】
真菌株および増殖:全ての植物病原性フザリウム株:フザリウム・グラミネアラム3-ADON(Fgra3)SMCD 2243、および15-ADON(Fgra15)SMCD 2244化学型、F.アベナセウム(Fave)SMCD 2241、F.オキシスポラム(Foxy)SMCD2242、F.プロリフェラタム(Fpro)SMCD 2244、F.スポロトリキオイデス(Fspo)SMCD 224;ならびに一つの菌寄生性スフェロデス・ミコパラシチカSMCD 2220株を、Saskatchewan Collection and Database(SMCD)から回収し、抗生物質(100mg/Lストレプトマイシン硫酸塩および12mg/Lネオマイシン硫酸塩)によって修正されたPDAで維持し、この研究を通して使用した。
【0120】
胞子産生および発芽アッセイ:S.ミコパラシチカの子嚢胞子を、以前に記載されたようにして、修飾レオニアン寒天(MLA)で産生させ、回収し、調製した。また、以前に記載されたようにして、フザリウム種濾液を調整し、六つの異なるフザリウム濾液におけるS.ミコパラシチカ胞子発芽アッセイを実施した。
【0121】
F.グラミネアラム化学型3-ADONおよび15-ADONの濾液に懸濁されたスフェロデス・ミコパラシチカ胞子発芽は、いずれも、インキュベーション1日目には、F.アベナセウムと比較して、より低く、残りのインキュベーション日数では、F.アベナセウムおよびF.オキシスポラムの両方と比較して、より低かった(P≦0.05;マンホイトニー検定による)(図17)。F.グラミネアラム濾液処理と、F.プロリフェラタム濾液処理と、F.スポロトリキオイデス濾液処理との間の発芽の有意差は、インキュベーションの最初の2日間には観察されなかった。しかしながら、その後のインキュベーション時点で、F.グラミネアラム濾液による処理は、F.スポロトリキオイデス濾液処理と比較して、有意に高いS.ミコパラシチカの発芽率を示した(図18)。
【0122】
二重培養アッセイ:GohおよびVujanovic(2009, Mycologia DOI:10.3852/69-171)に開示されたようにして、F.グラミネアラム化学型に対する菌糸低下/阻害または傷害の程度を調査するため、二重培養アッセイを評価した。S.ミコパラシチカは、F.グラミネアラム3株および15株と比較して、増殖が遅い真菌である。従って、S.ミコパラシチカを、暗所で21℃で、1日、PDAプレートへ前接種し、その後、フザリウム菌糸体プラグを接種した。上に示された両方の処理についてのフザリウム株の直線的な菌糸体増殖を、5日間、毎日、測定し、記録した。F.グラミネアラムとS.ミコパラシチカとの間のコンタクトゾーンのおよそ0.2cm後ろに位置するほぼ0.5×1.5cm2(サンプリングゾーン)を切り出し、DNA抽出に供した。各処理を三つの複製物で行い、実験を2回反復した。F.グラミネアラムのみを接種されたPDAプレートが陽性対照であった。DNeasy(登録商標)Plant Mini Kitを使用して、全ゲノムDNAを抽出した。DNAを、50μlの緩衝液AEで1回溶出させ、(下記のような)リアルタイムPCR定量化アッセイまで-20℃で保管した。
【0123】
S.ミコパラシチカは、F.グラミネアラム3-ADON化学型(1日0.74cm;n=6)および15-ADON化学型(1日0.68cm;n=6)と比較して、より遅い菌糸体増殖(1日0.56cm;n=9)を示したため、前接種法を使用して、二重培養におけるF.グラミネアラム菌糸体の直線的増殖を評価した。S.ミコパラシチカを、1日、PDAに前接種した後、F.グラミネアラムを接種した。前接種アプローチは、同時接種アプローチと比較して、F.グラミネアラム化学型3および15の直線的増殖の抑制の有意差を示した(3日目に開始)(図19Aおよび19B)。
【0124】
菌寄生の確立:S.ミコパラシチカと両F.グラミネアラム化学型株との間の融合生体栄養性菌寄生相互作用、および細胞内寄生相互作用を、Goh&Vujanovic(2009)に記載された方法に従って、スライド培養において調査し評価した。
【0125】
F.グラミネアラム3-ADONおよび15-ADONのPDAへの接種の3日目、フザリウム株上のスフェロデス・ミコパラシチカによって、クランプ様構造またはフック様構造は形成されなかった。接種の5日目、クランプ様およびフック様のコンタクト構造、ならびに(吸器による)フザリウム菌糸細胞貫通が観察された(図20E〜20I)。さらに、3日目、S.ミコパラシチカは、スライド培養においてF.グラミネアラム3-ADONの菌糸体から赤色色素を除去した(図20A〜20D)。その結果、S.ミコパラシチカ菌糸体が、赤色を帯びた色となった(図20C)。4日目と5日目の間に、赤色の結晶様ペレットの形成が、菌寄生菌の菌糸表面に検出された(図20D)。観察された色変化の機序は、未だ不明である。F.グラミネアラム化学型15-ADONについては、赤色複合体の取り込み、またはS.ミコパラシチカ菌糸による赤色結晶様構造の放出は認められなかった。にもかかわらず、花様の菌糸構造が出現し、15-ADON F.グラミネアラムの増殖阻害の可能性が示された(図20J)。感染菌糸および非感染菌糸の直径の有意差が、両方のF.グラミネアラム化学型について見られた(図21)。
【0126】
プライマーおよび標準曲線:F.グラミネアラム特異的プライマーセット(Fg16NF/R)およびトリコテセンTri5遺伝子特異的プライマーセット(Tox5-1/2)を、この研究において使用した。F.グラミネアラムからの10倍希釈ゲノムDNAの系列(F.グラミネアラム特異的プライマーセットについては、2.7×102〜2.7×10-2ng/μl、Tox5-1/2プライマーセットについては、2.7×102〜2.7×10-1ng/μlの3-ADON株DNAおよび3.0×101〜3.0×10-2ng/μlの15-ADON株DNA)を使用することにより、サイクル閾値(Ct)に基づき、F.グラミネアラムプライマーセットおよびTri5遺伝子プライマーセットについての標準曲線を生成した。Opticon Monitorソフトウェアバージョン3.1(Bio-Rad Laboratories Inc., Mississauga, ON, CA)により、Ct値を記録して、得た。サイクル閾値(Ct)値、対、上記のような10倍連続希釈F.グラミネアラムDNAの濃度の対数(log10)をプロットすることにより、異なるプライマーセットについての標準曲線を構築した。各10倍段階希釈物の平均値および標準偏差を得るため、二つのF.グラミネアラム化学型のゲノムDNAの異なるプライマーセットによる増幅を三つ組で実行した。
【0127】
リアルタイムPCR定量化:(上記のような)サンプリングゾーンから抽出された全ゲノムDNAに対するリアルタイムPCR増幅を、MiniOpticon(Bio-Rad Laboratories Inc., Mississauga, ON, CA)を使用して実施した。全てのリアルタイムPCR反応を、25μlの全容量でリアルタイムPCR MJ白色チューブ(Bio-Rad Laboratories Inc., Mississauga, ON, CA)を利用することにより実施した。全てのリアルタイムPCRアッセイについての反応混合物は、12.5μlのIQ Supermix(Bio-Rad Laboratories Inc., Mississauga, ON, CA)、1μlの各10μM順方向/逆方向プライマー(Invitrogen)、9.5μlの滅菌UltraPure Millipore水、および1μlのDNA鋳型であった。使用されたFg16NF/RプライマーセットについてのリアルタイムPCR条件は、Nicholsonら(1998, Physiol.Mol.Plant Pathol.53:17-37)に概説されており、融解曲線分析は60〜95℃で行った。Tox5-1/2プライマーセットのためのパラメーターは、Schnerrら(2001, Int.J.Food microbiol.71:53-61)に記載されている通りであった。
【0128】
異なるF.グラミネアラムDNA起源により、異なるプライマーセットについての標準曲線を、構築した(図22)。F.グラミネアラム化学型3および15についてのサンプリングゾーン(図23)における増殖の抑制または阻害を、F.グラミネアラム特異的プライマーセットおよびtri5遺伝子特異的プライマーセットを用いたリアルタイムPCR増幅により、さらに確認した。Fg16NF/Rプライマーセットによる四つの異なる処理(F.グラミネアラム化学型3または15のみ、およびS.ミコパラシチカを前接種されたF.グラミネアラム化学型3または15)についてのS字形曲線を、Opticon Monitorソフトウェアバージョン3.1を使用して生成し、図24に例示した。
【0129】
Fg16NF/Rプライマーセットを使用した場合、サンプリングゾーンにおけるF.グラミネアラム化学型3 DNAの量は、S.ミコパラシチカを前接種した時、非接種処理と比較して有意に減少した(P=0.01)(図25)。しかしながら、F.グラミネアラム化学型15のDNAは、相当低下したが、有意ではなかった(t検定を使用してP=0.085)。Tox5-1/2プライマーセットを使用した場合、tri5遺伝子断片の量は、S.ミコパラシチカでチャレンジされたF.グラミネアラム化学型3および15の両方において認め得るほどに減少した(P≦0.05)。
【0130】
実施例9
この研究においては、F.グラミネアラム3-ADON株および15-ADON株によるTri遺伝子およびPKS遺伝子の発現に対する、S.ミコパラシチカ(生体栄養性菌寄生菌)およびT.ハルジアナム(死体栄養性菌寄生菌)の効果を評価した。
【0131】
真菌株および増殖:二つのフザリウム・グラミネアラム3-ADON化学型(SMCD 2243)および15-ADON化学型(SMCD 2244)、トリコデルマ・ハルジアナム死体栄養性菌寄生菌(SMCD 2166)、ならびにスフェロデス・ミコパラシチカ生体栄養性菌寄生菌(SMCD 2220)を、Saskatchewan Microbial Collection and Database(SMCD)から入手した。全ての株を、抗生物質(100mg/Lストレプトマイシン硫酸塩および12mg/Lネオマイシン硫酸塩;Sigma-Aldrich Canada Ltd., Oakville, ON, CA)によって修正されたポテトデキストロース寒天(PDA, BD Biosciences, Mississauga, ON, CA)で維持した後、研究を開始した。
【0132】
化学的殺真菌剤対照:100μmol/Lの濃度のテブコナゾールを、Folicur(登録商標)432F(43.2%テブコナゾール、Bayer CropScience Inc., Saskatoon, SK, CA;Folicurは、Bayer Aktiengesellschaft, Leverkusen, Fed.Rep.Germanyの登録商標である)から調製した。この殺真菌剤調製物を、研究を通して使用した。
【0133】
インビトロアッセイ、試料採取、およびRNA抽出:Xueら(2009, Can.J.Plant Pathol.31:169-179)により開示されたようにして、最少培地において、F.グラミネアラムと、Folicur(登録商標)(100μmol/Lテブコナゾール)または生物剤(T.ハルジアナムまたはS.ミコパラシチカ)との間の二重培養アッセイを実施した。接種された二重培養プレートを、1週間、暗条件で室温(23℃)でインキュベートした。化学剤または生物剤のいずれかの1週間の接種の後、F.グラミネアラムの菌糸体を回収した。相互作用の境界からおよそ0.5cm離れた箇所で、0.5cm2の菌糸体プラグを切り取り、液体窒素で真菌細胞を破壊した。試料からの全RNAを、Aurum Total RNAミニキットを使用して抽出し、抽出されたRNAを、製造業者の推奨に従い、DNAse(Bio-Rad Laboratories Inc., Mississauga, ON, CA)で処理した。次いで、試料を遺伝子発現分析まで-70℃で保管した。
【0134】
インビトロ研究において、F.グラミネアラム3-ADON化学型および15-ADON化学型の両方が、各処理に対応して菌糸体形態学を変化させた(図26A〜26B)。しかしながら、主要な特徴的区別は、菌寄生菌と比較して、テブコナゾール殺真菌剤に曝された時に、クラスタ状または鎖状の厚膜胞子を豊富に産生するF.グラミネアラム化学型の傾向であった(図26C〜26D)。F.グラミネアラム化学型15(15-ADON産生体)の場合、このフザリウム株における四つ全てのトリコテセン遺伝子−Tri4、Tri5、Tri6、およびTri10が、化学的テブコナゾールにより処理された時に、生物剤(S.ミコパラシチカまたはT.ハルジアナムのいずれか)の同時接種処理と比較して、大量に誘導されることが見出された(図27A〜27D)。F.グラミネアラム化学型3(3-ADON産生体)は、死体栄養性菌寄生性トリコデルマ・ハルジアナムと同時接種された時に、Tri4遺伝子、Tri5遺伝子、およびTri10遺伝子の誘導を示すことが観察された(図27A、27B、27D)。F.グラミネアラム化学型3を、Folicur(登録商標)殺真菌剤により処理した時には、Tri10遺伝子のみが誘導された(図27D)。一般に、生体栄養性菌寄生性スフェロデス・ミコパラシチカによりチャレンジした時には、四つ全てのTri遺伝子が有意に抑止された(図27A〜27D)。
【0135】
リアルタイム逆転写PCR:製造業者の説明書に従って、MiniOpticon Cycler System(Bio-Rad Laboratories Inc., Mississauga, ON, CA)で、IScript One-Step RT-PCR kit with SYBR Greenを使用することにより、リアルタイムRT-PCRを実施した。増幅および遺伝子発現のために使用されたプライマーセットを、表6にまとめた。
【0136】
(表6)リアルタイムPCRにより、Tri4、Tri5、Tri6、Tri10、PKS4、PKS13、およびβチューブリンを増幅するために使用されたプライマーセット

【0137】
RT-PCR試料(およそ25μL)は、3μLのRNA鋳型、8.85μLのヌクレアーゼフリー水、12.5μLのRT-PCR反応混合物(2×)、0.5μLのIScript RT酵素ミックス(50×)(Bio-Rad Laboratories Inc., Mississauga, ON, CA)、標的遺伝子特異的な順方向プライマーおよび逆方向プライマー(Invitrogen Corp., Carslbad, CA, USA)の両方の0.1μLの50μM溶液を含有していた。製造業者の推奨により概説されるように、リアルタイムPCR条件を実施した:50℃10分、95℃5分、続いて、40サイクルの95℃10秒での変性および55℃30秒でのアニーリング、95℃1分ならびに55℃1分。融解曲線分析を実施することにより、プライマーダイマー形成または非特異的PCR増幅の欠如について、PCR反応をチェックした。逆転写酵素フリーのリアルタイムRT-PCR反応を鋳型として使用して、増幅が検出されなかったため、RNA鋳型への残余ゲノムDNAの混入は排除されていた。各処理についての遺伝子発現の変化倍率は、Livak and Schmittgen(2001)により提唱された2-ΔΔCT法を使用して、βチューブリン内部参照遺伝子に対して正規化し、対照処理(最少培地上の単独のフザリウム)についての発現に対して相対的であった。ΔΔCT=(CT,標的遺伝子−CT,Fgtub処理−(CT,標的遺伝子−CT,Fgtub対照。式中、処理および対照とは、それぞれ、化学剤または生物剤によりチャレンジされたF.グラミネアラム、および単独のF.グラミネアラムを示す。
【0138】
ゼアラレノン生合成を担う標的遺伝子(PKS4およびPKS13)に基づく遺伝子発現分析について、両F.グラミネアラム化学型からのこれらの二つのポリケチド合成酵素遺伝子が、全ての化学的処理または生物学的処理において抑止されることが検出された(図28A〜28B)。S.ミコパラシチカ生体栄養性菌寄生菌による処理における、F.グラミネアラム化学型15のPKS4遺伝子およびPKS13遺伝子の抑止は、T.ハルジアナムおよびテブコナゾール殺真菌剤による処理と比較して有意に高いことが例証された(図28A〜28B)。
【0139】
Tri遺伝子は、トリコデルマ死体栄養性菌寄生菌と同時接種された時に、F.グラミネアラム化学型3において、より感受性が高いことが観察されたが、F.グラミネアラム化学型15においては、Tri遺伝子は、化学的殺真菌剤による処理に対して、より応答性であるようであった(図27A〜27D)。
【0140】
両方のF.グラミネアラム化学型についてのPKS4遺伝子が、化学剤および生体栄養性菌寄生菌剤と比較して、トリコデルマ死体栄養性菌寄生性真菌による処理に対して、より感受性が高いことがモニタリングされた(図28A)。しかしながら、F.グラミネアラム化学型15におけるPKS13遺伝子は、化学的刺激に対して、より高い感受性を示すことが見出された(図28B)。
【0141】
マイコトキシンの抽出および分析: F.グラミネアラムとS.ミコパラシチカとのコンタクトゾーンのおよそ0.5cm後ろに位置するサンプリングゾーンから切り取られた寒天菌糸体プラグ(0.5cm2)から、マイコトキシンDON、ZEA、3-ADON、および15-ADONを抽出した。抽出は、10mlの容量の酢酸エチルにより3回実施した。試料を氷上で超音波処理し、酢酸エチル中で激しく振とうし、次いで、相の分離のため5分間放置した。有機相を吸引し、水を除去するために硫酸ナトリウムに通した。溶媒を、3日間、室温(23℃)で蒸発させた。次いで、残さを、液体薄層クロマトグラフィ(TLC)分析(ZEAのみ)および高速液体クロマトグラフィ(HPLC)分析(全てのマイコトキシン)のため、2mlのアセトニトリルに再溶解させた。TLCを、40分間、酢酸エチル-トルエン(3:1)を含む溶媒系で、シリカゲル60プレート(Merck Frosst Canada Ltd, Kirkland, PQ, CA)上で実施した。ゲルプレート上の3-ADONに、20%塩化アルミニウムを含む95%エタノールを噴霧し、VasavadaおよびHsieh(1987, Appl.Microbiol.Biotech.26:517-521)により開示されたプロトコルに従って、検出し、分析した。純粋なDON、ZEA、3-ADON、および15-ADONの既知の標準対照(Sigma-Aldrich Canada Ltd., Oakville, ON, CA)を、その他の処理と比較するために利用した。四つ全てのマイコトキシンを、Water's 2695HPLC系を使用して定量化した:250×4.60mm、Luna 5μミクロンC18(2)100Aカラム(Phenomenex Inc., Torrance, CA USA)およびフォトダイオードアレイ(PDA)検出器を、均一濃度の溶媒系(メタノール:水-メタノ含有5%(v/v)(90:10)比率)と共に使用した。PDA検出器はUVスペクトル(190〜500nm)を測定した。試料をアセトニトリルに溶解させ、自動インジェクターを使用して、10μlをカラムに負荷し、25分間、0.75ml/分の速度で、移動相として溶媒を用いて、マイコトキシンを溶出させた。標準曲線に対して、DON、ZEA、3-ADON、および15-ADONの正確な量を決定するため、ピーク高さ法を取り入れた。HPLCについては、Folicurにより処理されたF.グラミネアラムから抽出されたマイコトキシンと、単独のF.グラミネアラムから抽出されたマイコトキシンとの比率を、計算した。
【0142】
産生されたDONの量は、70〜90ug/Lであった。従って、それは、TLC分析で検出するには低すぎた。ZEAは、TLCにより分析されるのに十分に高く、両方のF.グラミネアラム化学型が、その他の処理と比較して、Folicur(登録商標)による処理の下で、より多量のZEA毒素を産生することが観察された(図29)。HPLCにより、ZEAは、Folicur(登録商標)によりチャレンジされた時に、F.グラミネアラムコロニーのみと比較して低下することが見出された(図30)。DONおよび3-ADONは、Folicur(登録商標)と共に接種された時に、両方のF.グラミネアラムについて増加することが検出された(図30)。Folicur(登録商標)は、インビトロアッセイの下で、最も多量の15-ADONを誘発することがモニタリングされた(図30)。
【0143】
実施例10
この研究においては、F.グラミネアラム3-ADON株および15-ADON株によるオーロフザリン(aurofusarin)遺伝子の発現に対する、S.ミコパラシチカ(生体栄養性菌寄生菌)およびT.ハルジアナム(死体栄養性菌寄生菌)の効果を評価した。
【0144】
真菌、培地、および培養条件:真菌株は、University of Saskatchewan(Food and Bioproduct Sciences fungal collection)のカルチャーコレクションから入手した。以下の真菌種の株を使用した。植物病原性フザリウム・グラミネアラム、F.グラミネアラム(3ADON)、F.グラミネアラム(15ADON)、F.アベナセウム、F.カルモラム、F.プロリフェラタム、F.オキシスポラム、F.アルスロスポロイデス(arthrosporoides)、ならびに菌寄生性のスフェロデス・ミコパラシチカおよびトリコデルマ・ハルジアナム。真菌を、暗所で21℃で2週間、ポテトデキストロース寒天で維持した。Folicur(登録商標)も、この研究において使用した。
【0145】
オーロフザリン遺伝子発現に対する赤色の微細な差異の影響についての実験を、VCGおよびコロニー色に基づき、以前に分類されたF.アベナセウム単離物を使用して実施した。F.アベナセウム単離物の色識別番号(CIN)を、Hex Color Code Chart(http://www.2createawebsite.com/build/hex-colors.html#colorgenerator)により生成した。CINは以下の通りである:Ds#71232B:赤色、高度に有毒、4時間80℃に耐性;Es#4E040B:中程度に赤色、中程度に有毒、4時間40℃に耐性;Bs#A86608:白色、無毒、40℃4時間に感受性。各単離物の三つの複製物からの三つの0.1g菌糸体試料を混合し、DNA抽出およびRT-PCR分析のために使用した。
【0146】
真菌DNA抽出およびPCR:真菌培養物を1.5ml PDブロスで増殖させ、10,000rpmで5分間、遠心分離した。上清を廃棄し、その後、製造業者の説明に従い、Ultra Clean microbial DNA Isolation Kit(Qiagen Inc., Mississauga, ON, CA)を用いて、各表現型/VCGを代表する2週齢培養物の全DNAを、ペレットから抽出した。精製されたDNAを、50μlの溶出緩衝液に再懸濁させ、さらなる分析まで-20℃で保管した。フザリウム・グラミネアラムからのPKS領域の全長ゲノム配列(7.2Kb)を、NCBI Genbankから入手した。六つのプライマー対を設計した(表7)。
【0147】
(表7)F.グラミネアラムのPKS領域の全長ゲノム配列から設計されたPCRプライマー

【0148】
全ての反応を、2.5μlの10×PCR緩衝液、5μlのQ溶液、1μlの各プライマー(10μM)、0.5μlの10mM dNTPミックス、および1.25UのTaqポリメラーゼ(Qiagen Inc., Mississauga, ON, CA)を含有している25μl容量で実施した。反応混合物を穏和に混合し、フラッシュ遠心を与えた後、Eppendorf Master Cycler(ep gradient S)上でPCRを行った。PCRアンプリコンを、QIAquick(登録商標)PCR精製キット(Qiagen Inc., Mississauga, ON, CA;QIAquickは、Qiagen GmbH Corp., Hilden, Fed.Rep.Germanyの登録商標である)を使用して精製し、商業的に配列決定した(Plant Biotechnology Institute, Saskatoon, SK)。
【0149】
フザリウム種におけるaur遺伝子の検出および定量化のためのリアルタイムRT-PCRアッセイの開発:全ての配列を配列決定し、配列を整列化し、いくつかのプライマーセットを設計し試験した。Auro RT(SEQ ID NO:32)およびAuro RTR(SEQ ID NO:33)と命名した一つのセットを、オーロフザリン遺伝子を増幅する効率に基づき選択した。

【0150】
このプライマーセットの特異性を、上に示された増幅反応容量を使用して、フザリウムおよび菌寄生菌からのゲノムDNAを使用して、従来のPCRアッセイにより試験した。増幅プロトコルは、1サイクルの94℃120秒、35サイクルの94℃30秒(変性)、56℃30秒(アニーリング)、72℃45秒(伸長)、および1サイクルの72℃10分であった。
【0151】
βチューブリン(tub)遺伝子(結果を正規化するために使用された内在性対照遺伝子)を増幅するために使用されたプライマー対は、FGtubf(SEQ ID NO:34)およびFgtubr(SEQ ID NO:35)であった。

【0152】
標準曲線を生成するため、陽性対照鋳型の10倍段階希釈物を実施し、鋳型のlog[10]の関数としてCtをプロットすることにより、両遺伝子についてのリアルタイムRT-PCRのPCR効率をチェックした。
【0153】
オーロフザリンの存在を、病原性フザリウム・グラミネアラム、F.グラミネアラム(3ADON)、F.グラミネアラム(15ADON)、F.アベナセウム、F.カルモラム、菌寄生菌、F.プロリフェラタム、F.オキシスポラム、F.アルスロスポロイデス、ならびに菌寄生性のスフェロデス・ミコパラシチカおよびトリコデルマ・ハルジアナムにおいて、RT-PCRにより試験し、定量化した。フザリウム単離物をFolicur(登録商標)、スフェロデス、およびトリコデルマと共培養した時の、相対的な遺伝子発現を研究した。
【0154】
設計されたRT-PCRプライマーセットを、試験された真菌種に対する従来のPCRにより特異性についてチェックした。157bp長の単一バンドが、F.グラミネアラム(3ADON)、F.グラミネアラム(15ADON)、F.アベナセウム、F.カルモラムにおいて増幅されたが、その他の株においては増幅されなかった。βチューブリン遺伝子を内部対照として使用し、1週間増殖させた培養物を、オーロフザリン相対遺伝子発現について試験した。15ADONを産生するF.グラミネアラムは、F.グラミネアラム(3ADON)の次に高い遺伝子発現レベルを示し、類似の種類の発現結果が、F.アベナセウムおよびF.カルモラムにより観察された。各フザリウム種を、スフェロデス、トリコデルマ、およびFolicur(登録商標)と1週間共培養した時の、オーロフザリン相対遺伝子発現を定量化した(図31)。試験された全ての中で、S.ミコパラシチカは、オーロフザリン相対遺伝子発現を低下させる効果が最も高く、その次がトリコデルマおよびFolicur(登録商標)であった(図31)。S.ミコパラシチカは15ADON産生F.グラミネアラムに対して最も有効であるのみならず、F.カルモラムおよびF.アベナセウムおよび3ADON産生F.グラミネアラムにおいても発現レベルを効率的に低下させた(図31)。同様に、トリコデルマは、15ADON産生F.グラミネアラムおよびF.カルモラムに多少影響を与えることができたが、F.アベナセウムに対しては影響を示さず、3ADON産生F.グラミネアラムにおいては発現を増強した(図31)。最後に、Folicur(登録商標)は、15ADON産生F.グラミネアラムのaur遺伝子発現の軽微な低下を刺激することができたが、F.カルモラムおよびF.アベナセウムに対しては、より少ない影響を有していた。逆に、Folicur(登録商標)は、3ADON産生F.グラミネアラムと比較して、ほぼ2倍、発現を増加させた(図31)。
【0155】
RNA単離、逆転写、およびリアルタイムRT-PCR:全ての培養物を暗所で1週間増殖させ、発現研究のために使用した。製造業者の説明書に従って、「Total Quick RNA Cells and Tissues」キット(Bio-Rad Laboratories Inc., Mississauga, ON, CA) を使用して、真菌の全RNAを単離し、-80℃で保管した。「Deoxyribonuclease I, Amplification Grade」(Invitrogen Corp., Carlsbad, CA, USA)を使用して、試料から染色体DNA混入を除去するためのDNAse I処理を実施した。「Iscript RNA PCR Reagent Kit」(Bio-Rad Laboratories Inc., Mississauga, ON, CA)を使用して、第一鎖cDNAを合成した。aur遺伝子発現の相対的定量化を、SYBR Green PCR Master Mix(Bio-Rad Laboratories Inc., Mississauga, ON, CA)および上に示されたプライマー対を使用して、MiniOpticon Sequence Detection Systemにおいて実施した。両遺伝子についてのPCRサーマルサイクリング条件は以下の通りであった:95℃10分の第一工程、ならびに40サイクルの95℃15秒および60℃1分。SYBR green PCRマスターミックス12.5μl(Bio-Rad Laboratories Inc., Mississauga, ON, CA)は、25μlの最終容量で、6.5μlの滅菌milli-Q水、1.0μlの各プライマー(5μM)、および5μlの鋳型cDNAを添加して、反応混合物として使用した。全ての実験において、鋳型を含有していない適切な陰性対照を、可能性のある混入またはキャリーオーバーを排除するかまたは検出するため、同一の手法に供した。各試料(三つ組)を、全ての実験において2回増幅した。同一プレート上で実行された全ての真菌cDNA増幅を使用して、結果を正規化した。tub2遺伝子は、各反応に添加された全cDNAの量の差について、mRNA標的の定量を正規化するために使用された内在性対照である。リアルタイムRT-PCR分析は、蛍光シグナルが、最低検出レベルより高くなった(PCR産物が検出可能になったことを示す)最初の増幅サイクルとして定義される、サイクル閾値(CT)に基づく。相対的定量が、この研究において使用された分析法であった。試料内で、関心対象の遺伝子(aur)を、内在性対照遺伝子(tub2)のものと比較した。定量は、関心対象の遺伝子(aur)のCTから対照遺伝子(tub2)のCTを差し引くことにより、対照遺伝子に対して相対的である(ΔCT)。対応するΔΔCT値を得るため、(各試料に対応する)各ΔCT値を、検量値(FpMM6-1C)により差し引いた。相対発現レベルを生成するため、ΔΔCT値を、(PCRの倍化関数による)log2に変換した。
【0156】
全部で九つの単離物を、定量的遺伝子発現分析のため、RT-PCR分析に供した。三つの白色単離物、三つの中程度に赤色の単離物、および三つの暗赤色の単離物から構成された三種類の色試料を、この研究において使用した。白色単離物を対照として使用し、発現を正規化し、1とした。報告された通り、中程度に赤色の単離物は、40℃に耐えることができ;暗赤色の単離物は80℃に耐えることができた。RT-PCR結果を観察すると、暗赤色の単離物は、ほぼ9倍超増強された相対遺伝子発現を発現したが、中程度に赤色の単離物は、4倍増強された発現を発現した(図32)。
【0157】
実施例11
フザリウム赤かび病症状の発生、ならびにコムギおよびオオムギの穂におけるトリコテセン系マイコトキシン遺伝子の蓄積に対する、S.ミコパラシチカ接種材料の効果を評価するため、温室研究を実施した。
【0158】
真菌単離物および増殖:S.ミコパラシチカSMCD 2220およびF.グラミネアラム3-ADON化学型SMCD 2243を、Saskatchewan Microbial Collection and Database(SMCD)から入手した。これらの真菌培養物を、抗生物質が補足されたポテトデキストロース寒天(PDA、BD Biosciences, Mississauga, ON, CA)で増殖させた後、研究を行った。温室実験のため、これらの真菌株の菌糸体懸濁物(F.グラミネアラムについては104、生体栄養性菌寄生菌および拮抗真菌の両方については106)を、以下のように作製した。
【0159】
F.グラミネアラム3-ADON化学型株を、ポテトデキストロースブロス(PDA、BD Biosciences, Mississauga, ON, CA)に接種し、振とう機(100rpm)を使用して、暗所で室温(およそ21℃)で1週間インキュベートした後、温室適用のための菌糸体を回収した。菌糸体接種材料を小片へ切断するため、F.グラミネアラムの菌糸体を、滅菌済みの市販のブレンダーに移し、これらの菌糸体を104CFU/mLの濃度に調整した。
【0160】
S.ミコパラシチカを、最も優れた予備発酵酵母ペプトンデキストロース(YPD)(酵母、5g;ペプトン、10g;デキストロース、滅菌二重蒸留水1L当たり10g)ブロスに接種し、100rpmの振とう機を使用して、暗所で室温で1週間、インキュベートした後、菌糸体を回収した。菌糸体接種材料を小片へ切断するため、S.ミコパラシチカの菌糸体を、滅菌済みの市販のブレンダーに移し、温室適用のため、菌糸体を104CFU/mLの濃度に調整した。
【0161】
温室試験:フザリウム赤かび病の管理のための可能性のある生物的制御剤として、生体栄養性菌寄生菌S.ミコパラシチカおよび一つの可能性のあるフザリウム拮抗真菌単離物の効力を試験するため、フザリウム感受性のコムギCDC-TEAL品種およびオオムギBOLD品種を使用した。表面滅菌されたコムギおよびオオムギの種子を、Pro-Mix(登録商標)土壌(Sun Gro Horticulture, Delta, BC, CA)を含有している直径15cmのポットに播き、360μmol/m2/sの光強度を有する温室において、日中は23〜25℃、夜間は18〜20℃で維持し、2日毎に給水し、14日毎に1300ppmのNPK(20-20-20)肥料を使用して施肥した。実験内の全ての処理を、三つの複製物で行い、2回反復した。
【0162】
開花期に、コムギおよびオオムギの穂に、106CFU/mLの濃度のS.ミコパラシチカの菌糸体懸濁物、106CFU/mLの濃度の拮抗真菌単離物、65μmol/Lテブコナゾール、または滅菌蒸留水を噴霧した。処理は、Xueら(2009, Can.J.Plant Pathol.31:169-179)に概説されたものをわずかに修飾して、適用した。可能性のある生物的制御剤の接種の後、植物を室温で維持し、真菌増殖を可能にするため、一夜、無菌Whirl-Pak(登録商標)バッグ(Whirl-PakはAristotle Corp., Stamford, CT, USAの登録商標である)で覆った後、F.グラミネアラム接種を行った。次いで、104CFU/mLの濃度のF.グラミネアラムの菌糸体懸濁物を、植物に接種した。フザリウム・グラミネアラム接種材料を穂に噴霧し、一夜、無菌Whirl-Pak(登録商標)バッグで覆った。接種された植物を、さらに21日間維持した後、試料を採取した。Xueら(2009)に概説されたようにして、各穂の感染小穂(IS)の割合、FHB指数、FDK、および100種子の重量を調べた。FHBの視覚的な重度尺度は、StackおよびMcMullen(http://www.ag.ndsu.edu/pubs/plantsci/smgrains/pp1095w.htm)により開示された方法に従って決定された。
【0163】
オオムギにおけるフザリウム赤かび病症状に対する、異なる濃度のS.ミコパラシチカの生物的制御効果を、図33に示す。図33A、33B、および33Cのデータは、感受性オオムギ品種へのF.グラミネアラムの接種が、植物の背丈、1植物あたりの穂形成の平均数、および5穂の平均重量を有意に低下させることを示している。しかしながら、S.ミコパラシチカのオオムギ品種への接種は、生長および発達に影響しなかった。106CFU/mLの接種レベルでのS.ミコパラシチカによるF.グラミネアラム感染オオムギの処理は、フザリウム赤かび病症状の発病を防止した。より低い濃度、即ち、104CFU/mLおよび105CFU/mLのS.ミコパラシチカによるF.グラミネアラム感染オオムギの処理は、病害症状の発生に対して防御しなかった(図33A〜33C)。
【0164】
コムギにおけるフザリウム赤かび病症状に対する、異なる濃度のS.ミコパラシチカの生物的制御効果を、図34に示す。図34A、34B、および34Cのデータは、感受性コムギ品種へのF.グラミネアラムの接種が、植物の背丈、1植物あたりの平均穂形成数、および5穂の平均重量を有意に低下させることを示している。しかしながら、S.ミコパラシチカのコムギ品種への接種は、生長および発達に影響しなかった。106CFU/mLの接種レベルでのS.ミコパラシチカによるF.グラミネアラム感染コムギの処理は、フザリウム赤かび病症状の発病を防止した。より低い濃度、即ち、104CFU/mLおよび105CFU/mLのS.ミコパラシチカによるF.グラミネアラム感染コムギの処理は、病害症状の発生に対して防御しなかった(図34A〜34C)。
【0165】
図35および表8のデータは、106CFU/mLの接種レベルでのS.ミコパラシチカによるF.グラミネアラム感染オオムギの処理が、市販の殺真菌剤Folicur(登録商標)により提供されるのと比較可能なレベルで、フザリウム赤かび病症状の発生に対する防御を提供したことを示す。
【0166】
(表8)温室試験における、オオムギ品種BOLDの感染小穂の割合、フザリウム赤かび病指数、フザリウムにより傷害を受けた穀粒の割合、および100種子の重量に対する、S.ミコパラシチカ、Folicur(登録商標)殺真菌剤、およびF.グラミネアラムの効果

【0167】
リアルタイムPCR定量化:DNeasy(登録商標)Plant Mini Kit(Qiagen Inc., Mississauga, ON, CA)により、コムギおよびオオムギの穂から全DNAを抽出した。異なる処理の穂から抽出された全DNAを、リアルタイムPCR定量化において利用した。この研究において使用された二つの異なるプライマーセットおよびPCR条件は、Fg16NF/Rプライマーセットについては、Nicholsonら(1998)、Tox5-1/2プライマーセットについては、Schnerrら(2001)に記載されていた。温室試験から収穫された春コムギおよびオオムギの穂から抽出された全DNAを、MiniOpticon(Bio-Rad Laboratories Inc., Mississauga, ON, CA)において実施した。全てのリアルタイムPCR反応を、25μlの全容量のIQスーパーミックス(Bio-Rad Laboratories Inc., Mississauga, ON, CA)、1μlの各10μM順方向/逆方向プライマー(Invitrogen)、3.4μlのBSA(ウシ血清アルブミン)(1.47μg/μl)(Ishii and Loynachan 2004)、5.1μlの滅菌済みUltraPure Millipore水、および2μlのDNA鋳型を含むリアルタイムPCR MJ白色チューブ(Bio-Rad Laboratories Inc., Mississauga, ON, CA)を使用して、実施した。
【0168】
図36は、プライマーセット(A)Tox5-1/2(270ng(Log10=2.90)〜0.27ng(Log10=-0.60)の範囲のゲノムDNA、0.005蛍光線における読み取り)および(B)Fg16NF/R(270ng(Log10=2.43)〜0.027ng(Log10=-1.57)の範囲のDNA鋳型;10倍希釈系列、0.025蛍光線における読み取り)を使用して、三つ組で実施されたPCR反応による、F.グラミネアラム化学型3ゲノムDNA濃度標準、対、サイクル閾値(Ct)の標準曲線を示す。エラーバーは、tri5遺伝子特異的プライマーセットおよびF.グラミネアラム特異的プライマーセットから導出されたF.グラミネアラム化学型3標準曲線の平均値についての標準偏差を示す。図37は、RT-PCRを利用してオオムギ穂において検出されたF.グラミネアラム化学型3-ADONゲノムDNAに対する、S.ミコパラシチカ処理(B)およびFolicur殺真菌剤処理(Fol)の効果を示す。処理は以下の通りであった:Fus−F.グラミネアラム;B-Fus−S.ミコパラシチカおよびF.グラミネアラム;Fol-Fus−Folicur殺真菌剤およびF.グラミネアラム。得られた値は、全て、六つの複製物の平均値であった。エラーバーは、平均値の標準偏差を示す。Tox5プライマーによるF.グラミネアラムDNAの平均値は、LSD検定の前にlog10変換した。両方のプライマーセットを別々に分析した。各プライマーセット内の同一文字が後続する値は、P<0.05でLSD検定を使用して、有意差なしである。
【0169】
実施例12
本発明者らは、S.ミコパラシチカの既知のフザリウム種宿主(即ち、F.アベナセウム、F.グラミネアラム、およびF.オキシスポラム)に加えて、以下の研究に開示されるように、F.カルモラムおよびF.エクイセチも、S.ミコパラシチカにより菌寄生されることを驚くべきことに発見した。
【0170】
真菌単離物および増殖:生体栄養性菌寄生菌S.ミコパラシチカSMCD2220、スフェロデス・クアドラングラリス株CBS112764、スフェロデス・レチスポラ・レチスポラ変種株CBS994.72、および、病原性フザリウム株(F.アルスロスポリオイデス(arthrosporioides)SMCD2247、F.カルモラムSMCD2248、F.エクイセチSMCD2134、F.フロッシフェラム(flocciferum)SMCD2135、F.ポアエ(poae)SMCD2136、およびF.トルロサム(torulosum)SMCD2139)を、Saskatchewan Microbial Collection and Database(SMCD)(Saskatchewan, Canada)から入手した。全ての真菌単離物を、ポテトデキストロース寒天(PDA、BD Biosciences, Mississauga, ON, CA)で増殖させ、維持した後、研究を行った。
【0171】
真菌-真菌相互作用:スフェロデス種の単離物とフザリウム種の単離物との相互作用の調査のため、生体栄養性菌寄生菌単離物およびフザリウム単離物の両方を、スライド培養アッセイを使用して、接種し評価した。スライドを無菌湿潤チャンバーにおいて維持し、遭遇場所(コンタクトゾーン)における菌糸相互作用の毎日の観察を、20倍、40倍、および100倍の対物レンズを有するCarl Zeiss AxioCam ICc1カメラが装備されたCarl Zeiss Axioskop2の下で実施した。フザリウム菌糸にスフェロデス種を付着させる生体栄養性菌寄生性コンタクト構造の形成を調査し、記録し、文献(Jordan & Barnett, 1978, Mycologia 70:300-312;Rakvidhyasastra & Butler, 1973, Mycologia 65:580-593;Whaley & Barnett, 1963, Mycologia 55:199-210)からの図と比較した。寄生フザリウム菌糸細胞および非寄生フザリウム菌糸細胞の直径を、100倍の対物レンズを用いた光学顕微鏡検の下で測定した。各処理は、単独のスフェロデスまたはフザリウム、および同時接種されたスフェロデス-フザリウムからなる六つの複製物を使用した。実験を2回反復した。スライド培養アッセイにおいて、スフェロデス吸器により感染されたフザリウム菌糸体を、ラクトフクシンにより染色した。次いで、スライド培養におけるフザリウムおよびスフェロデスの両方の染色された菌糸を、40倍および100倍の対物レンズを有するCarl Zeiss AxioCam ICc1に接続されたCarl Zeiss Axioskop2蛍光顕微鏡により調査した。スライド培養アッセイを、Zeiss META 510共焦点レーザー走査顕微鏡検(CLSM)分析(514nm励起アルゴンおよびLP585放射フィルターによるCLSM)にも供し、Z方向積層モードを通して、C-Apochromat 63xN.A.1.2位相差水浸対物レンズの下で、細胞内菌寄生を観察し、細胞内感染を有するフザリウム菌糸をスキャンした。
【0172】
コンタクトゾーンにおける菌糸-菌糸相互作用およびコンタクト構造を、7日間調査した。3日目、スフェロデス・ミコパラシチカは、F.エクイセチおよびF.カルモラムの上でフック形コンタクト構造を産生することが見出された(図39)。5日目、F.エクイセチのより多くのフック形コンタクト構造および細胞内貫通が観察された(図39A、39A〜39D)。ラクトフクシン色素と、蛍光顕微鏡検または共焦点レーザー走査顕微鏡検との組み合わせは、寄生されたまたは貫通されたフザリウム細胞が空になるか(細胞質の喪失=無蛍光)、または健康なフザリウム細胞と比較して低い強度の(極めて弱い)蛍光を発することを明らかにした(図39A〜39D)。7日間の観察中、S.ミコパラシチカ菌糸はF.カルモラム細胞内には観察されなかった。S.ミコパラシチカは、F.エクイセチおよびF.カルモラムの両方において、フック形コンタクト構造(図38A、a)をクランプ様コンタクト構造(図38B、b)より高頻度に産生した。S.ミコパラシチカにより寄生されたF.エクイセチの菌糸の直径は、非寄生フザリウム菌糸と比較して有意に低下していることが観察されたが、F.カルモラムではそうでなかった(t検定による、それぞれ、P=0.001およびP>0.05)(図41)。
【0173】
試験されたフザリウム分類群のいずれも、菌寄生性のS.クアドラングラリスおよびS.レチスポラにとっては、スライド培養における10日間の同時接種の後ですら適当な宿主でないようであった。試験されたフザリウム株においてS.クアドラングラリスおよびS.レチスポラによるコンタクト生体栄養性寄生構造または細胞内寄生は、相互作用ゾーンまたはコンタクトゾーンに観察されなかった。F.アルスロスポリオイデス、F.フロッシフェラム、F.ポアエ、およびF.トルロサムも、S.ミコパラシチカにとって適当な宿主ではないようであった。スライド培養アッセイにおける接種のおよそ5日後、F.アルスロスポリオイデスの菌糸体は、S.ミコパラシチカにより阻害された。F.アルスロスポリオイデスは、S.ミコパラシチカとのコンタクトゾーンにおいてロゼット様の菌糸体を形成し始めた(図39B)。
【0174】
接種の5日後および7日後、F.カルモラムとのコンタクトゾーンにおいて、S.ミコパラシチカにより、アナモルフィック構造がより豊富に産生された(図40Cおよび40D)。F.カルモラム菌糸体に近接したアナモルフィック構造または無性器官は赤色であり(図40D)、遠位の器官はそうでなかった(図40C)。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】

【図25】

【図26】

【図27】

【図28】

【図29】

【図30】

【図31】

【図32】

【図33】

【図34】

【図35】

【図36】

【図37】

【図38】

【図39】

【図40】

【図41】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スフェロデス・ミコパラシチア(Sphaerodes mycoparasitia)株IDAC 301008-01の生物学的に純粋な培養物。
【請求項2】
スフェロデス・ミコパラシチア株SMCD2220-01の生物学的に純粋な培養物。
【請求項3】
SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、およびSEQ ID NO:3のいずれかに示されたヌクレオチド配列を含む、スフェロデス・ミコパラシチアの生物学的に純粋な培養物から単離された核酸分子。
【請求項4】
請求項3記載の核酸分子を含むヌクレオチド構築物であって、該核酸分子が、細胞における発現を駆動するプロモーターと機能的に連結されている、ヌクレオチド構築物。
【請求項5】
微生物細胞における核酸の発現を駆動するプロモーターと機能的に連結された核酸を含む少なくとも一つのヌクレオチド構築物が、ゲノムに安定的に組み込まれている微生物細胞であって、該核酸が、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、およびSEQ ID NO:3のうちの一つに示されたヌクレオチド配列を含む、微生物細胞。
【請求項6】
植物におけるフザリウム種により引き起こされる病害症状を制御するための、スフェロデス・ミコパラシチア株IDAC 301008-01または株SMCD2220-01の培養物の使用。
【請求項7】
植物におけるフザリウム種により引き起こされる病害症状を制御するための、請求項5記載の微生物細胞の培養物の使用。
【請求項8】
フザリウムトリコテセン系マイコトキシンデオキシニバレノール(DON)、マイコトキシン3-ADON、マイコトキシン15-ADON、マイコトキシンゼアラレノン、およびマイコトキシンオーロフザリン(aurofusarin)のうちの一つの合成を調節するための、請求項6または7記載の培養物の使用。
【請求項9】
植物におけるフザリウム種により引き起こされる病害症状を制御するための組成物であって、スフェロデス・ミコパラシチア株IDAC 301008-01および/または株SMCD2220-01の培養物と、そのための担体とを含む、組成物。
【請求項10】
植物におけるフザリウム種により引き起こされる病害症状を制御するための組成物であって、請求項5記載の微生物細胞の微生物培養物と、そのための担体とを含む、組成物。
【請求項11】
フザリウムトリコテセン系マイコトキシンデオキシニバレノール(DON)、マイコトキシン3-ADON、マイコトキシン15-ADON、マイコトキシンゼアラレノン、およびマイコトキシンオーロフザリンのうちの一つの合成を調節するための、請求項9または10記載の組成物。
【請求項12】
請求項9または10記載の組成物によって種子のバッチを処理する工程、および次いで、処理された種子を植物へと栽培する工程を含む、植物におけるフザリウム種により引き起こされる病害症状を制御するための方法。
【請求項13】
請求項6または7記載の培養物によって種子のバッチを処理する工程、および次いで、処理された種子を植物へと栽培する工程を含む、植物におけるフザリウム種により引き起こされる病害症状を制御するための方法。
【請求項14】
請求項9または10記載の組成物によって植物を処理する工程を含む、植物におけるフザリウム種により引き起こされる病害症状を制御するための方法。
【請求項15】
請求項6または7記載の培養物によって植物を処理する工程を含む、植物におけるフザリウム種により引き起こされる病害症状を制御するための方法。
【請求項16】
フザリウムマイコトキシン3-ADON、マイコトキシン15-ADON、マイコトキシンゼアラレノン、およびマイコトキシンオーロフザリンのうちの一つの合成が調節される、請求項12〜15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
13kDaの分子量を有し、スフェロデス・ミコパラシチア株IDAC 301008-01の培養物から回収可能である、細胞外タンパク質。
【請求項18】
50kDaの分子量を有し、スフェロデス・ミコパラシチア株IDAC 301008-01の培養物から回収可能である、細胞外タンパク質。
【請求項19】
植物におけるフザリウム種により引き起こされる病害症状を制御するための、請求項17または18記載の細胞外タンパク質の使用。
【請求項20】
植物におけるフザリウム種により引き起こされる病害症状を制御するための組成物であって、請求項17または18記載の細胞外タンパク質と、そのための担体とを含む、組成物。
【請求項21】
植物種子に由来するDNA試料を作製するために、植物種子の試料の一部を処理する工程;ならびに
オーロフザリンをコードする遺伝子または遺伝子配列の存在および/または発現を検出するために、SEQ ID NO:32およびSEQ ID NO:33に示された遺伝子配列のセットを含むPCRプライマーセットによってDNA試料を処理する工程
を含む、
オーロフザリンの存在について植物種子の試料を試験するための方法。
【請求項22】
SEQ ID NO:32およびSEQ ID NO:33に示されたヌクレオチド配列を含む、単離された核酸分子。
【請求項23】
請求項22記載の核酸分子を含む、ヌクレオチド構築物。

【公表番号】特表2013−502902(P2013−502902A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525827(P2012−525827)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【国際出願番号】PCT/CA2010/001253
【国際公開番号】WO2011/022809
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(512048343)ユニバーシティー オブ サスカチュワン (1)
【Fターム(参考)】