説明

フザリウム・オキシスポラムの新菌株

【課題】各種の病害防除に有効で、かつ主要作物に病原性を示さない新規微生物を開発し、広範な抗菌スペクトルを有する新規生物農薬を開発する。
【解決手段】 上記課題を解決し得る新規微生物Fusarium oxysporum NPF−9901菌株、同NPF−9905菌株、同NPF−9910菌株を開発するのに成功した。これら本発明に係るFusarium oxysporumの新菌株を有効成分とする防除剤は、それぞれ単独で各種の植物病害防除に有効で、かつ各種の施用方法が適用可能であり、省資源、省力化、環境保全面からみて、本発明はすぐれた生物農薬を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フザリウム属の新菌株に関し、更に詳細には、広範な植物病害防除に有効で、かつ主要作物に病原性を示さない新規微生物フザリウム・オキシスポラムNPF−9901菌株、NPF−9905菌株及びNPF−9910菌株に関する。またNPF-9901菌株、NPF−9905菌株、NPF−9910菌株の少なくとも一つを含有する植物病害防除剤、並びにこれらを利用した植物病害防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物病害防除法としては、輪作、太陽熱利用等の耕種的、物理的防除、化学農薬による化学的防除、病害抵抗性品種の利用、更には、天敵、弱毒ウイルス、拮抗微生物等を用いた生物的防除が挙げられる。このうち、化学農薬、特に有機合成殺菌剤の開発研究は目覚ましく発達し、より効力が高く、多数の様々な作用を有する剤が次々と開発され、更には色々な施用法が開発されたことにより、これらを用いた化学的防除法は病害防除並びに防除作業の省力化等に大きく貢献してきた。しかしながら、近年、いわゆる薬剤耐性菌の出現により、防除効果が低下するという現象が一部作物、病害で認められており、問題化してきている。また、作物の指定産地化が進むにつれて連作を余儀なくされ、その結果、化学農薬では難防除とされる土壌伝染性病害の発生も各地で深刻な問題となっている。
【0003】
このような背景のもと、近年、化学農薬の使用に偏った防除体系を見直し、化学農薬からより環境への安全性が高いと想定される微生物を利用した生物防除(いわゆる生物農薬あるいは微生物農薬)も提案され、一部は実用化段階に達してきつつある。
【0004】
植物病害の生物防除に関する研究としては、弱毒ウイルスの利用、病原菌の弱病原性或るいは非病原性系統微生物の利用、拮抗微生物の利用等が試みられている。その中でも、拮抗微生物の利用に関する研究事例は多数あり、更に拮抗微生物のうちでフザリウム属菌を用いての病害防除研究についても、多数の事例はあるが、その実用化に成功した例は極めて少ない。
【0005】
フザリウム属菌は、一般に土壌及び植物残さに生息する糸状菌である。本属の菌は植物病原菌に拮抗することにより、病害防除活性を発現するとされている。フザリウム属菌を利用したイネ分野における病害防除活性の過去の発明としては、イネばか苗病やイネ苗立枯細菌病などに起因する病害に有効なことが開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。また、ナスやイチゴなどの園芸作物に発生する各種の病害に有効なことが報告されている(例えば、特許文献3、4、及び非特許文献1参照)。しかしながら、1種類のフザリウム属菌で各種の植物病害を防除する実用化システムの構築に成功した例は報告されていない。
【特許文献1】特開平5−65209号公報
【特許文献2】特開平11−89562号公報
【特許文献3】特開平1−299207号公報
【特許文献4】特開平1−165506号公報
【非特許文献1】日本植物病理学会報、57:506−511(1991年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記したように、化学農薬による病害防除は耐性菌の出現によって防除効果が低下する可能性が高く、その場合新たなる殺菌剤の開発を必要とする。また、化学農薬では難防除とされる病害防除においては、代替或るいは併用手段を講じなくてはならない。さらに、環境に対してより安全性の高い防除技術の確立も望まれている。また従来の技術では1種類のフザリウム菌により、イネや園芸作物に発生する病害を防除することは見出されておらず、このような広範囲の病害を防除する方法としては、化学農薬との併用や複数の微生物を利用して防除するなどの手段を講じなくてはならなかった。
【0007】
本発明は、このような問題を解決し、化学農薬による防除に代わる手段、あるいは併用する手段として新しい生物農薬、しかも一種の微生物により、イネや園芸作物に発生する多数の病害の防除を可能とする生物農薬を開発する目的でなされたものであり、更には環境保全等につながるものである。更に一種類の微生物のみでイネや園芸作物などに対する植物病害防除を示す優れた技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために各種植物の根圏、根面あるいは土壌より非常に多数のフザリウム属に属する糸状菌を分離し、これらの糸状菌について、各種作物病害に対する防除活性について検討した。その結果、ススキのクラウン内部から分離した菌株NPF−9901、NPF−9905、NPF9910株がそれぞれ非常にすぐれた作物病害防除作用を有するという有用な新知見を得、本発明を完成するに至った。
【0009】
このようにして新たに分離した3菌株は、後記する菌学的性質を有することから、いずれもフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)に属するものと認められたが、非常にすぐれた作物病害防除作用を有する点で従来既知の菌株とは明らかに区別することができるので、これらを新菌株と同定し、NPF−9901株をフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)NPF−9901と命名し、NPF−9905をフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)NPF−9905株、NPF−9910株をフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)NPF−9910と命名した。
【0010】
これら本発明に係る新規微生物、フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)NPF−9901菌株、フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)NPF−9905菌株及びフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)NPF−9910菌株は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託し、各々、以下の寄託番号が付与されている。
フザリウム・オキシスポラムNPF−9901: FERM P−20469
フザリウム・オキシスポラムNPF−9905: FERM P−20470
フザリウム・オキシスポラムNPF−9910: FERM P−20471
【0011】
フザリウム、オキシスポラム(Fusarium oxysporum)NPF−9901菌株、フザリウム、オキシスポラム(Fusarum oxysporum)NPF−9905菌株及びフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)NPF-9910菌株は、以下の性質を有する。
【0012】
(1)培地上での性質
PDA培地(ポテトデキストロース)上及びツァペック培地(NaNO3 2.0g、K2HPO4 1.0g、MgSO4・7H2O 0.5g、KCl 0.5g、FeSO4・7H2O 0.01g、ショ糖30g、寒天15g、蒸留水1000ml)上での菌糸伸長は早く、綿毛状の気中菌糸を僅かに生じ、培養子座は軟質である。PDA培地上では桃色〜紫色の色素を培地中に生産する。
【0013】
(2)形態的性質
小型分生胞子は、隔壁を有する菌糸から生じる隔壁のない短い小梗(phialide)上に擬頭状をなして形成される。形は長楕円または卵型で、0〜1隔壁、大きさは2〜4×6〜11μm(平均3.5×8μm)である。大型分生胞子は、主にオレンジ色に着色した分生子座(Sprodochia)のモノフィアライド上に形成される。3〜5隔膜、3隔膜が主体であり、頂部は僅かにかぎ状に湾曲し、基部は踵状の形態を呈する。大きさは4〜6×40〜55μm(平均5×50μm)である。厚膜胞子は菌糸上或るいは大型分生胞子上に形成され、大きさは直径7〜12μmである。
【0014】
(3)生理学的性質
生育温度は10〜35℃であり、最適温度は25〜30℃である。pH4.0〜8.0の間で生育可能であり、最適pHは6.0〜7.0である。
【0015】
本発明は、これらの新規微生物を基本的技術思想とするものである。即ち、本発明は、植物病害防除に有効で、かつ主要作物に病原性を示さない新規微生物フザリウム・オキシスポラムNPF−9901菌株、NPF−9905菌株及びNPF−9910菌株である。また、NPF−9901菌株、NPF−9905菌株、NPF−9910菌株の少なくとも一つを含有する植物病害防除剤、並びにこれらを利用した植物病害防除方法である。
【0016】
本発明に係るフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)NPF−9901菌株(FERM P−20469)、NPF−9905菌株(FERM P−20470)又はNPF−9910菌株(FERM P−20471)は、いずれも作物に対して病原性を示すことがないので(例えば、その分生胞子懸濁液に24時間浸漬したイネ種子を播種したり、パセリなどの園芸作物の苗に株元灌注しても何らの病原性も認められなかった)、自由に防除剤の有効成分として使用することができる。本発明の防除剤に用いるNPF−9901菌株、NPF−9905菌株又はNPF−9910菌株は、ふすまなどの資材培養、固形培地上での静置培養、液体培養等の公知の手段で増殖させたものを用いればよく、生存細胞が増殖するのであれば特に培地の種類、培養条件等に制限されることはない。
【0017】
本発明で用いる防除剤としては、NPF−9901菌株、NPF−9905菌又はNPF−9910菌自体のほか、その懸濁液ないし培養液、又はその処理物(濃縮物、ペースト状物、乾燥物、希釈物等)を広く包含するものである。本発明における新規微生物NPF−9901菌株、NPF−9905菌株又はNPF−9910菌株を病害防除剤として用いる場合には、各々微生物の胞子又は培養菌体を単独で用いても良いが、通常は、担体、界面活性剤、分散剤又は補助剤等を配合して常法により例えば、粉剤、粒剤、水和剤、顆粒水和剤、フロアブル剤などの形態に製剤化して使用すると更に好ましい。好適な担体としては、例えばクレー、タルク、ベントナイト、珪藻土、ホワイトカーボン、カオリン、バーミキュライト、消石灰、珪砂、硫安、尿素等の固体担体が挙げられ、界面活性剤及び分散剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸金属塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジナフチルメタンジスルホシ酸ナトリウム、リグニン酸ナトリウム等が挙げられる。補助剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース、ポリオキシエチレングリコール、アラビアゴム、澱粉、乳糖等が挙げられる。
【0018】
次に、本発明の防除剤の使用方法を述べる。まず、地上部に発生する病害の防除に用いる場合は、胞子体、培養菌体又は生菌製剤の場合とも、水等に適宜希釈した後にスプレーヤーにより植物全体に散布することにより、予防的或るいは治療的に効果を発現する。また、種子伝染性病害又は土壌伝染性病害の防除に用いる場合は、胞子体、培養菌体又は生菌製剤の場合とも、種子又は根を浸漬、噴霧、塗布或るいは粉衣処理の少なくともひとつの処理をするか、土壌に直接混和するか、水等に懸濁した後に灌注処理することにより、種子或るいは土壌中の病原菌の生育を抑制し、防除効果を発現する。
【0019】
使用量としては、製剤の剤型、適用方法、適用場所、適用すべき病害の種類、所望の防除効果などに応じて使用量は適宜選定されるが、粉剤、粒剤、或るいは水で希釈する製剤の場合は、当該菌の胞子濃度が、102〜109程度、好ましくは104〜109の範囲で使用するのが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明による新規微生物フザリウム・オキシスポラムNPF−9901菌株、NPF−9905菌株、及びNPF−9910菌株の少なくとも1つを含有する防除剤は、イネ及び園芸植物に茎葉処理、植物種子又は植物根に浸漬又は粉衣処理、更には土壌に潅注又は混和処理することにより、各種作物病害に対して高い防除効果が期待でき、農業生産上有用である。また、本発明は、一種の微生物による各種の作物病害防除を可能とする生物農薬の利用であり、本発明は、省資源、省力化、環境保全等につながるものである。
【0021】
例えば、イネ苗いもち病菌(Pyricularia oryzae)、イネばか苗病菌(Fusarium moniliforme)、イネもみ枯細菌病菌(Burkholderia glumae)、イネ褐条病菌(Acidovorax avenae)、イネ苗立枯病菌(Fusarium sp.)といったイネ病害菌に起因する多数のイネ病害を1種類のフザリウム菌株で同時に防除することができ、本発明に係る新菌株は抗菌スペクトルが非常に広範であるという特徴を有する。したがって、病害ごとにそれぞれ別の防除剤を施用する必要がなく、省力化が達成される。農業人口の減少、農作業者の高齢化が問題となっている今日、防除回数の低減はきわめて特筆すべき著効である。
【0022】
また、本発明に係る新菌株は、イネ病害を広範に防除できるだけでなく、サツマイモつる割病菌(Fusarium oxysporum)にも有効であって、各種園芸作物の病害防除にも広く使用することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0024】
(実施例1:水和剤)
フザリウム・オキシスポラムNPF−9901菌株(FERM P−20469)又はフザリウム・オキシスポラムNPF−9905菌株(FERM P−20470)又はフザリウム・オキシスポラムNPF−9910菌株(FERM P−20471)をPD液体培地中で培養し、得られた胞子を蒸留水に懸濁して作成したフザリウム属菌胞子懸濁液8重量部、珪藻土40重量部、クレー50重量部、ジナフタレンジスルホン酸ナトリウム1重量部及びリグニンスルホン酸ナトリウム1重量部を混合乾燥後、粉砕して水和剤とした。
【0025】
(実施例2:粒剤)
フザリウム・オキシスポラムNPF−9901菌株又はフザリウム・オキシスポラムNPF−9905菌株又はフザリウム・オキシスポラムNPF−9910菌株をPD液体培地中で培養し、得られた胞子を蒸留水に懸濁して作成したフザリウム属菌胞子懸濁液30重量部、ラウリルアルコール硫酸エステルのナトリウム塩1重量部、リグニンスルホン酸ナトリウム1重量部、カルボキシメチルセルロース2重量部及びクレー90重量部を均一に混合粉砕する。この混合物を、押出式造粒機を用いて14〜32メッシュの粒状に加工した後、乾燥して粒剤とした。
【0026】
(実施例3:イネ苗いもち病防除効果試験)
フザリウム・オキシスポラムNPF−9901菌、NPF−9905菌及びNPF−9910菌をPD液体培地中で培養し、得られた胞子を蒸留水に懸濁し、胞子懸濁液を調製した。水温15℃で浸種処理を行ったイネいもち病菌罹病籾(品種:コシヒカリ)33gを、この胞子懸濁液或るいは実施例1で作製したNPF−9901菌株の水和剤懸濁液に浴比1:2(籾:懸濁液)で、32℃、24時間催芽時浸漬処理を行った後、1処理あたり33gを均等に3区に分けて育苗培土に播種した。3日間の加温処理(32℃)後、ガラス温室にて18日間育苗した後に、全苗について発病の有無を調査し、数1により発病苗率を算出した。試験規模は1区8.5×13.5cm(115cm2;プラスチックパック)で3連制で行い、結果を表1に示した。
【0027】
(比較例1:市販フザリウム・オキシスポラム製剤(マルカライト水和剤:エーザイ生科研社製)のイネ苗いもち病防除効果試験)
実施例3と同様に、水温15℃で浸種処理を行ったイネいもち病菌罹病籾(品種:コシヒカリ)33gをマルカライト水和剤の10倍希釈液に浴比1:2(籾:希釈液)で32℃、24時間催芽時浸漬処理を行った後、1処理あたり33gを均等に3区に分けて育苗培土に播種した。3日間の加温処理(32℃)後、ガラス温室にて18日間育苗した後に、全苗について発病の有無を調査し、数1により発病苗率を算出した。試験規模は1区8.5×13.5cm(115cm2;プラスチックパック)で3連制で行い、結果を表1に示した。
【0028】
【数1】

【0029】
【表1】

【0030】
結果は表1に示す通り、NPF−9901菌、NPF−9905菌、及びNPF−9910菌とも、イネ苗いもち病に対して明らかな発病抑制効果を示した。またNPF−9901菌株の分生胞子を用いて調製した水和剤製剤においても同様の発病抑制効果が認められた。一方、比較例で試験を行った市販フザリウム・オキシスポラム製剤(マルカライト水和剤)ではほとんど発病抑制効果が認められず、本発明の3菌株の有用性が明らかとなった。
【0031】
(実施例4:イネばか苗病防除効果試験)
フザリウム・オキシスポラムNPF−9901菌、NPF−9905菌及びNPF−9910菌をPD液体培地中で培養し、得られた胞子を蒸留水に懸濁し、胞子懸濁液を調製した。水温15℃で浸種処理を行ったイネばか苗病菌罹病籾(品種:アカモチ)33gを、この胞子懸濁液或るいは実施例1で作製したNPF−9901菌株の水和剤懸濁液に浴比1:2(籾:懸濁液)で32℃、24時間催芽時浸漬処理を行った後、1処理あたり33gを均等に3区に分けて育苗培土に播種し、覆土した。3日間の加温処理(32℃)後、ガラス温室にて18日間育苗した後に、全苗について発病の有無を調査し、数1により発病苗率を算出した。試験規模は1区8.5×13.5cm(115cm2;プラスチックパック)で3連制で行い、結果を表2に示した。
【0032】
(比較例2:市販フザリウム・オキシスポラム製剤(マルカライト水和剤:エーザイ生科研社製)のイネばか苗病防除効果試験)
実施例4と同様に、水温15℃で浸種処理を行ったイネばか苗病菌罹病籾(品種:アカモチ)33gをマルカライト水和剤の10倍希釈液に浴比1:2(籾:希釈液)で、32℃、24時間催芽時浸漬処理を行った後、1処理あたり33gを均等に3区に分けて育苗培土に播種し、覆土した。3日間の加温処理(32℃)後、ガラス温室にて18日間育苗した後に、全苗について発病の有無を調査し、数1により発病苗率を算出した。試験規模は1区8.5×13.5cm(115cm2;プラスチックパック)で3連制で行い、結果を表2に示した。
【0033】
【表2】

【0034】
結果は表2に示す通り、NPF−9901菌、NPF−9905菌、及びNPF−9910菌とも、イネばか苗病に対して明らかな発病抑制効果を示した。またNPF−9901菌株の分生胞子を用いて調製した水和剤製剤においても同様の発病抑制効果が認められた。一方、比較例で試験を行った市販フザリウム・オキシスポラム(マルカライト水和剤)ではほとんど発病抑制効果が認められず、本発明の3菌株の有用性が明らかとなった。
【0035】
(実施例5:イネもみ枯細菌病防除効果試験)
フザリウム・オキシスポラムNPF−9901菌、NPF−9905菌及びNPF−9910菌をPD液体培地中で培養し、得られた胞子を蒸留水に懸濁し、胞子懸濁液を調製した。水温15℃で浸種処理を行ったイネもみ枯細菌病菌罹病籾(品種:コシヒカリ)33gを、この胞子懸濁液或るいは実施例1で作製したNPF−9901菌株の水和剤懸濁液に浴比1:2(籾:懸濁液)で32℃、24時間催芽時浸漬処理を行った後、1処理あたり33gを均等に3区に分けて育苗培土に播種し、覆土した。3日間の加温処理(32℃)後、ガラス温室にて18日間育苗した後に、全苗について発病の有無を調査し、数1により発病苗率を算出した。試験規模は1区8.5×13.5cm(115cm2;プラスチックパック)で3連制で行い、結果を表3に示した。
【0036】
(比較例3:市販フザリウム・オキシスポラム製剤(マルカライト水和剤:エーザイ生科研社製)のイネもみ枯細菌病防除効果試験)
実施例5と同様に、水温15℃で浸種処理を行ったイネもみ枯細菌病菌罹病籾(品種:コシヒカリ)33gをマルカライト水和剤の10倍希釈液に浴比1:2(籾:希釈液)で、32℃、24時間催芽時浸漬処理を行った後、1処理あたり33gを均等に3区に分けて育苗培土に播種し、覆土した。3日間の加温処理(32℃)後、ガラス温室にて18日間育苗した後に、全苗について発病の有無を調査し、数1により発病苗率を算出した。試験規模は1区8.5×13.5cm(115cm2:プラスチックパック)で3連制で行い、結果を表3に示した。
【0037】
【表3】

【0038】
結果は表3に示す通り、NPF−9901菌、NPF−9905菌、及びNPF−9910菌とも、イネもみ枯細菌病に対して明らかな発病抑制効果を示した。またNPF−9901菌株の分生胞子を用いて調製した水和剤製剤においても同様の発病抑制効果が認められた。一方、比較例で試験を行った市販フザリウム・オキシスポラム製剤(マルカライト水和剤)ではほとんど発病抑制効果が認められず、本発明の3菌株の有用性が明らかとなった。
【0039】
(実施例6:イネ褐条病防除効果試験)
フザリウム・オキシスポラムNPF−9901菌、NPF−9905菌及びNPF−9910菌をPD液体培地中で培養し、得られた胞子を蒸留水に懸濁し、胞子懸濁液を調製した。水温15℃で浸種処理を行ったイネ褐条病菌罹病籾(品種:コシヒカリ)33gを、この胞子懸濁液或るいは実施例1で作製したNPF−9901菌株の水和剤懸濁液に浴比1:2(籾:懸濁液)で、32℃、24時間催芽時浸漬処理を行った後、1処理あたり33gを均等に3区に分けて育苗培土に播種し、覆土した。3日間の加温処理(32℃)後、ガラス温室にて18日間育苗した後に、全苗について発病の有無を調査し、数1により発病苗率を算出した。試験規模は1区8.5×13.5cm(115cm2:プラスチックパック)で3連制で行い、結果を表4に示した。
【0040】
(比較例4:市販フザリウム・オキシスポラム製剤(マルカライト水和剤:エーザイ生科研社製)のイネ褐条病防除効果試験)
実施例6と同様に、水温15℃で浸種処理を行ったイネ褐条病菌罹病籾(品種:コシヒカリ)33gをマルカライト水和剤の10倍希釈液に浴比1:2(籾:希釈液)で、32℃、24時間催芽時浸漬処理を行った後、1処理あたり33gを均等に3区に分けて育苗培土に播種し、覆土した。3日間の加温処理(32℃)後、ガラス温室にて18日間育苗した後に、全苗について発病の有無を調査し、数1により発病苗率を算出した。試験規模は1区8.5×13.5cm(115cm2:プラスチックパック)で3連制で行い、結果を表4に示した。
【0041】
【表4】

【0042】
結果は表4に示すとおり、NPF−9901菌、NPF−9905菌、及びNPF−9910菌とも、イネ褐条病に対して明らかな発病抑制効果を示した。またNPF−9901菌株の分生胞子を用いて調製した水和剤製剤においても同様の発病抑制効果が認められた。一方、比較例で試験を行った市販フザリウム・オキシスポラム製剤(マルカライト水和剤)ではほとんど発病抑制効果が認められず、本発明の3菌株の有用性が明らかとなった。
【0043】
(実施例7:イネ苗立枯病防除効果試験)
フザリウム・オキシスポラムNPF−9901菌、NPF−9905菌及びNPF−9910菌をPD液体培地中で培養し、得られた胞子を蒸留水に懸濁し、胞子懸濁液を調製した。健全種籾(品種:コシヒカリ)33gを、浴比1:2(籾:水)で15℃5日間浸種を行った。浸種終了後、32℃で24時間催芽を行い、1処理あたり33gを均等に3区に分けて、イネ苗立枯病菌(Fusarium sp.)を含む育苗培土に播種し、この播種面に胞子懸濁液或るいは実施例1で作製したNPF−9901菌株の水和剤懸濁液を各40ml灌注処理し、覆土した。対照化学薬剤のダコレート水和剤(クミアイ化学社製)は400倍希釈液を40ml処理した。3日間の加温処理(32℃)後、ガラス温度にて18日間育苗した後に、全苗について発病の有無を調査し、数1により発病苗率を算出した。試験規模は1区9.0×12.5cm(112.5cm2;プラスチックパック)で3連制で行い、結果を表5に示した。
【0044】
【表5】

【0045】
結果は表5に示す通り、NPF−9901菌、NPF−9905菌、及びNPF−9910菌とも、イネ苗立枯病に対して明らかな発病抑制効果を示した。またNPF−9901菌株の分生胞子を用いて調製した水和剤製剤においても同様の発病抑制効果が認められた。またその効果は市販されている化学農薬と同等の効果であり、本発明の3菌株の有用性が明らかとなった。
【0046】
(実施例8:サツマイモつる割病防除効果試験)
フザリウム・オキシスポラムNPF−9901菌、NPF−9905菌及びNPF−9910菌をPD液体培地中で培養し、得られた胞子を蒸留水に懸濁し、胞子懸濁液を調製した。この胞子懸濁液或るいは実施例1で作製したNPF−9901菌株の水和剤懸濁液に、サツマイモ健全苗(品種:ベニコマチ)を1晩浸漬処理した。処理苗は予め作成しておいたサツマイモつる割病汚染土壌を詰めた1/5000アールワグネルポットに定植した。1試験区につき10本の苗を供試し、定植22日後に全苗の発病程度を表6の基準によって調査し、数2により発病度を算出した。結果を表7に示した。
【0047】
【表6】

【0048】
【数2】

【0049】
(比較例5:市販フザリウム・オキシスポラム製剤(マルカライト水和剤:エーザイ生科研社製)のサツマイモつる割病防除効果試験)
実施例8と同様に、サツマイモ健全苗(品種:ベニコマチ)をマルカライト水和剤の10倍希釈液に1晩浸漬処理した。処理苗は予め作成しておいたサツマイモつる割病汚染土壌を詰めた1/5000アールワグネルポットに定植した。1試験区につき10本の苗を供試し、定植22日後に全苗の発病程度を表6の基準によって調査し、数2により発病度を算出した。結果を表7に示した。
【0050】
【表7】

【0051】
結果は表7に示す通り、NPF−9901菌、NPF−9905菌、及びNPF−9910菌とも、サツマイモつる割病に対して明らかな発病抑制効果を示した。またNPF−9901菌株の分生胞子を用いて調製した水和剤製剤においても同様の発病抑制効果が認められた。また、比較例で試験を行った市販フザリウム・オキシスポラム製剤(マルカライト水和剤)でも高い発病抑制効果が認められ、本発明の3菌株の有用性は市販のフザリウム・オキシスポラム製剤と同等のであることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各種の植物病害防除に有効で、かつ主要作物に病原性を示さず、一種の微生物による各種の作物病害防除を可能にするフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)NPF−9901菌株(FERM P−20469)。
【請求項2】
各種の植物病害防除に有効で、かつ主要作物に病原性を示さず、一種の微生物による各種の作物病害防除を可能にするフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)NPF−9905菌株(FERM P−20470)。
【請求項3】
各種の植物病害防除に有効で、かつ主要作物に病原性を示さず、一種の微生物による各種の作物病害防除を可能にするフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)NPF−9910菌株(FERM P−20471)。
【請求項4】
請求項1に記載のNPF−9901菌株、請求項2に記載のNPF−9905菌株、請求項3に記載のNPF−9910菌株の少なくともひとつを有効成分として含有すること、を特徴とする植物病害防除剤。
【請求項5】
請求項4に記載の植物病害防除剤を植物に茎葉処理すること、を特徴とする植物病害防除方法。
【請求項6】
請求項4に記載の植物病害防除剤を植物種子あるいは植物に浸漬、噴霧、塗布又は粉衣処理の少なくともひとつの処理をすること、を特徴とする植物病害防除方法。
【請求項7】
請求項4に記載の植物病害防除剤を土壌に灌注又は混和処理すること、を特徴とする植物病害防除方法。
【請求項8】
イネ苗いもち病、イネばか苗病、イネもみ枯細菌病、イネ褐条病、イネ苗立枯病のいずれかの病害も防除するものであること、を特徴とする請求項4に記載の植物病害防除剤。
【請求項9】
更に、サツマイモつる割病も防除するものであること、を特徴とする請求項8に記載の植物病害防除剤。

【公開番号】特開2007−82499(P2007−82499A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277658(P2005−277658)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月28日 日本植物病理学会主催の「第9回 バイオコントロール研究会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月29日から3月31日 日本植物病理学会主催の「平成17年度 日本植物病理学会大会」において文書をもって発表
【出願人】(591106462)茨城県 (45)
【出願人】(000000169)クミアイ化学工業株式会社 (86)
【Fターム(参考)】