説明

フジミナ抽出物を含有する骨治療組成物

【課題】安全性が高くかつ簡便に投与できる骨治療組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の骨治療組成物は、フジミナ抽出物を含有する。本発明の骨治療組成物は、経口用組成物または注射用組成物として有用である。本発明の骨治療組成物は、骨粗鬆症、大理石骨病、骨硬化症、高カルシウム血症、骨ページェット病、腎性骨異栄養症、慢性関節リウマチ、変形性関節炎などの骨代謝異常の治療に用いられ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フジミナ抽出物を含有する骨治療組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
骨は、骨形成と骨吸収との再構築(リモデリング)を繰り返すことによって形態と機能とを維持している。骨形成および骨吸収は、それぞれ骨芽細胞および破骨細胞が担っている。骨芽細胞はコラーゲン分泌や石灰化などの骨形成に関与し、破骨細胞は石灰化した骨の破壊や吸収を行う。
【0003】
通常、骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収とは平衡状態にあり、これらの細胞間の相互応答機構により骨量が一定に保たれる。閉経、老化、炎症などによりこの平衡状態が破綻すると、骨粗鬆症、大理石骨病、骨硬化症、高カルシウム血症、骨ページェット病、腎性骨異栄養症、慢性関節リウマチ、変形性関節炎などの骨代謝異常を発症する。骨吸収が骨形成を上回り、リモデリングのバランスが崩れると、骨粗鬆症を発症する。
【0004】
骨粗鬆症などの骨量が減少する疾患は、骨形成の促進、骨吸収の抑制、またはこれらのバランスの改善により治療できることが期待される。すなわち、骨粗鬆症などの治療には、間葉系幹細胞からの骨芽細胞への分化を促進すること、破骨細胞前駆細胞からの破骨細胞への分化を抑制することが求められる。このような活性を有するホルモン、低分子物質、生理活性タンパク質などの薬剤の探索、開発が、精力的に進められている。
【0005】
現在、骨粗鬆症には、ビスホスホネート製剤(アレンドロネート、リセドロネートなど)、ビタミンD製剤(アルファカルシドール、カルシトリオールなど)、ビタミンK2製剤(メナテトレノン)、カルシトニン製剤、女性ホルモン製剤(エストリオール、イプリフラボン)、カルシウム製剤(アスパラギン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウムなど)などが用いられているが、それぞれに副作用などの問題がある。例えば、ビタミンD製剤、カルシウム製剤には高カルシウム血症発症のリスクがあり、女性ホルモン製剤は乳癌の発生率を高め、ビスホスホネート製剤は服用法が煩雑である。
【0006】
ところで、南アメリカを原産とするつる性多年草であるフジミナ(Boussingaultia baselloides)の葉が、中国では、ダイエット食品として知られているほか、鎮痛薬および健胃薬として民間療法に使用されている。フジミナのエタノール抽出物は、攣縮薬によって誘発されるラット胃底部の収縮を抑制し(非特許文献1)、エタノールによって誘発されるラットの胃病変を緩和する(非特許文献2)ことが報告されている。フジミナの熱水抽出物は単純ヘルペスウイルスや3型アデノウイルスに対して抗ウイルス作用を示し(非特許文献3)、フジミナのブタノール抽出物は糖尿病モデルマウスに対して糖尿病治療効果を示す(非特許文献4)という報告もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Lin W.C.ら、「Inhibitory effects of ethanolic extracts of Boussingaultia gracilis on the spasmogen-induced contractions of the rat isolated gastric fundus」、J. Ethnopharmacol.、1997年、第56巻、第1号、p.89-93
【非特許文献2】Lin W.C.ら、「Prevention of ethanol-induced gastric lesions in rats by ethanolic extracts of Boussingaultia gracilis、Chin. Pharm. J.、1996年、第48巻、p.259-270
【非特許文献3】Chiang L.C.ら、「In vitro anti-herpes simplex viruses and anti-adenoviruses activity of twelve traditionally used medicinal plants in Taiwan」、Biol. Pharm. Bull.、2003年、第26巻、第11号、p.1600-1604
【非特許文献4】Lin H.Y.、「Studies on the chemical constituents and antihyperglycemic effect of Boussingaultia gracilis」、中国医薬学院(台湾台中市)修士論文、1986年、p.12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安全性が高くかつ簡便に投与できる骨治療組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、天然物のフジミナの抽出物に骨治療効果があることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、フジミナ抽出物を含有する骨治療組成物を提供する。
【0011】
1つの実施態様では、上記抽出物はエタノール抽出物である。
【0012】
1つの実施態様では、上記組成物は経口用組成物または注射用組成物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、安全性が高くかつ簡便に投与できる骨治療組成物を提供することができる。本発明の骨治療組成物は、天然物の植物に由来するので、経口用組成物または注射用組成物として有用である。本発明の骨治療組成物は、骨芽細胞の形成に影響を及ぼすことなく、破骨細胞の形成を抑制することにより、骨バランスを骨形成優位の方向にシフトさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】フジミナのエタノール抽出物(BBE)のマウス骨髄初代培養における骨芽細胞(図1A)および破骨細胞(図1B)の形成に及ぼす影響を示すグラフである。
【図2】フジミナのエタノール抽出物(BBE)の破骨細胞前駆細胞からの破骨細胞の形成に及ぼす影響を示すグラフである。
【図3】フジミナのエタノール抽出物(BBE)およびエストラジオールの骨粗鬆症モデルマウスにおける骨密度および骨量の減少に及ぼす影響を示すグラフである。
【図4】フジミナのエタノール抽出物(BBE)およびエストラジオールの骨粗鬆症モデルマウスにおける子宮重量の減少に及ぼす影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の骨治療組成物は、フジミナ抽出物を含有する。
【0016】
フジミナは、学名をBoussingaultia baselloides(またはAnredera baselloidesもしくはAnredera cordifolia)といい、中国、台湾では、「藤三七」、「雲南白薬」、「川七」と呼ばれ、アカザカズラという和名のつる性多年草である。
【0017】
本発明において、フジミナ抽出物とは、フジミナから溶媒によって抽出された抽出物をいう。
【0018】
抽出に用いるフジミナの部位は、特に限定されないが、好ましくは葉である。
【0019】
抽出に用いるフジミナの形状は特に限定されない。乾燥物、または乾燥物を粉砕したものであってもよい。抽出効率を考慮すると、好ましくは乾燥粉末である。フジミナは、乾燥前に、必要に応じて裁断され得る。乾燥法、粉砕法としては、当業者が通常用いる手段が用いられる。乾燥法としては、例えば、風乾法、加熱乾燥法、減圧乾燥法、凍結乾燥法が挙げられる。粉砕法としては、例えば、粉砕機や摩砕機を用いて微粉末化または微粒化する方法が挙げられる。
【0020】
抽出に用いる溶媒は特に限定されない。例えば、水、有機溶媒、これらの混合物が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、アルコール、ケトン、エステルが挙げられる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの低級アルコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールなどの多価アルコールが挙げられる。抽出に用いる溶媒としては、好ましくは水、低級アルコール、これらの混合物であり、より好ましくは水、エタノール、これらの混合物であり、さらに好ましくはエタノールである。
【0021】
抽出の条件(溶媒の量、温度、時間など)は特に限定されない。例えば、溶媒の量は、フジミナに対して、好ましくは1〜100倍容量/乾燥質量、より好ましくは5〜20倍容量/乾燥質量である。抽出温度は、溶媒の種類に応じて異なるが、通常は室温〜溶媒の沸点、好ましくは40〜85℃、より好ましくは70〜85℃である。抽出時間は、溶媒の種類、量、抽出温度に応じて異なる。例えば、エタノールを用いて室温で抽出する場合は、好ましくは2〜5時間、より好ましくは3〜4時間であり、熱水を用いて抽出する場合は、好ましくは4〜7時間、より好ましくは5〜6時間である。抽出は、単回抽出であってもよく、あるいは抽出残渣を用いた複数回抽出であってもよい。
【0022】
フジミナ抽出物の形状は特に限定されない。液状物、あるいは液状物を濃縮または乾燥したペースト状物または粉末状物であってもよい。濃縮法、乾燥法としては、当業者が通常用いる手段が用いられる。濃縮法としては、例えば、強制循環法、液膜流下法、プレート法、遠心法が挙げられる。乾燥法としては、例えば、風乾法、加熱乾燥法、減圧乾燥法、凍結乾燥法、スプレードライ法が挙げられる。フジミナ抽出物に、例えば、賦形剤(例えば、デキストリン)を添加したものを、スプレードライ法などにより乾燥してもよい。
【0023】
本発明の骨治療組成物は、経口用組成物または注射用組成物である。
【0024】
本発明の骨治療組成物が含有するフジミナ抽出物の量は、特に限定されないが、経口用組成物の場合、好ましくは30〜99.9質量%、より好ましくは50〜99.8質量%であり、注射用組成物の場合、好ましくは1〜10μg/mL、より好ましくは5〜10μg/mLである。
【0025】
本発明の骨治療組成物は、用途に応じて種々の形状であり得、種々の添加物を含有し得る。
【0026】
経口用組成物の形状としては、例えば、錠剤、口腔内崩壊錠、カプセル剤、丸剤、トローチ剤、顆粒剤、散剤、懸濁剤、乳剤、液剤、シロップ剤が挙げられる。
【0027】
経口用組成物が含有する添加剤としては、例えば、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、溶解補助剤、流動化剤、甘味料、香料、発泡剤、界面活性剤、防腐剤が挙げられる。
【0028】
賦形剤としては、例えば、ブドウ糖、果糖、乳糖、白糖、還元麦芽糖、糖アルコール(D−マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、トレハロース、マルチトール、ラクチトールなど)が挙げられる。
【0029】
崩壊剤としては、例えば、クロスポビドン、カルボキシスターチナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、澱粉、部分α化澱粉、コーンスターチ、乳糖、炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム結晶セルロース、低置換度ヒドロキシピロピルセルロース、クロスカルメロースクロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルメロース、ヒドロキシプロピルスターチが挙げられる。
【0030】
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、ステアリン酸、軽質無水ケイ酸、硬化ナタネ油、硬化ひまし油、グリセリン脂肪酸エステル、フマル酸ステアリルナトリウム、安息香酸ナトリウム、L-ロイシン、L-バリンが挙げられる。
【0031】
結合剤としては、例えば、ゼラチン、寒天、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、デキストリン、キタンサンガム、アラビアゴム末、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、部分けん化ポリビニルアルコール、メチルセルロース、プルラン、部分α化澱粉、糖類が挙げられる。
【0032】
溶解補助剤としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、クエン酸ナトリウム、塩化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムが挙げられる。
【0033】
流動化剤としては、例えば、水和二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸が挙げられる。
【0034】
甘味料としては、例えば、アスパルテーム、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、ステビア、ソーマチンが挙げられる。
【0035】
香料としては、例えば、ミント、レモン、オレンジが挙げられる。
【0036】
発泡剤としては、例えば、酒石酸塩、クエン酸塩、重炭酸塩が挙げられる。
【0037】
界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸ナトリウムなどのアニオン系界面活性剤、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレンヒマシ油誘導体などの非イオン系界面活性剤などが挙げられる。
【0038】
防腐剤としては、例えば、安息香酸、パラオキシ安息香酸、これらの塩が挙げられる。
【0039】
注射用組成物の形状としては、例えば、アンプル剤、バイアル剤、プレフィルドシリンジ剤、バッグ剤が挙げられる。
【0040】
注射用組成物が含有する添加剤としては、例えば、pH調整剤、電解質、糖類、ビタミン類、薬理学的に許容される塩もしくは脂肪酸、アミノ酸が挙げられる。
【0041】
pH調節剤としては、例えば、クエン酸、酒石酸、酢酸、乳酸などの有機酸、塩酸、リン酸などの無機酸、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの無機塩基が挙げられる。
【0042】
電解質としては、従来より輸液に用いられているもの、例えば、生体の機能や体液の電解質バランスを維持するうえで必要とされる各種無機成分(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンなど)の水溶性塩(塩化物、硫酸塩、酢酸塩、グルコン酸塩、乳酸塩など)が挙げられる。
【0043】
糖類としては、従来より輸液に用いられているもの、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトースなどの単糖類、蔗糖、ラクトース、マルトースなどの二糖類、グリセロールなどの多価アルコール、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなどの糖アルコール、デキストラン類が挙げられる。
【0044】
ビタミン類としては、水溶性または脂溶性の各種ビタミン、例えば、ビタミンA、プロビタミンA、ビタミンD、プロビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6群、パントテン酸、ビオチン、ミオ−イノシトール、コリン、葉酸、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンP、ビタミンUが挙げられる。
【0045】
薬理学的に許容される塩もしくは脂肪酸としては、例えば、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属、ギ酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、カプリル酸、コハク酸、リンゴ酸などの有機酸、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシククロヘキシルアミンなどの有機塩基が挙げられる。
【0046】
アミノ酸としては、例えば、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、
システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、
イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、
スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリンが挙げられる。N−アセチルメチオニンなどのアミノ酸誘導体であってもよい。
【0047】
上記添加剤は、用途に応じて当業者が通常用いる手段により適宜配合される。配合量も、用途に応じて適宜設定される。
【0048】
本発明の組成物の投与の態様は特に限定されない。本発明の組成物を投与することにより、骨治療効果が表れる。本発明の組成物は、骨芽細胞の形成に影響を及ぼすことなく、破骨細胞の形成を抑制することにより骨治療効果を奏する。具体的には、骨粗鬆症などの治療に効果がある。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0050】
(実施例1:フジミナ抽出物のマウス骨髄初代培養における骨芽細胞および破骨細胞の形成に及ぼす影響)
(フジミナ抽出物の調製)
フジミナの乾燥葉(中国瀋陽市瀋陽薬科大学より提供を受けた)を切り刻み、10倍容量の70%エタノールに浸漬し、85℃にて4時間保持して抽出処理を行い、フジミナ抽出液を得た。乾燥葉を抽出液から取り出し、新たに10倍容量の70%エタノールに浸漬し、同様の処理を行った。さらに、同様の処理を繰り返した。合計3回の上記抽出処理で得られたフジミナ抽出液を混合し、ろ過した。ろ液を40℃にて乾燥し、次いで凍結乾燥し、22.5%の収率でフジミナ抽出物(粉末)を得た。フジミナ抽出物は、瀋陽薬科大学薬学部製剤分析研究室による分析の結果、29.3%のタンパク質、2.5%の脂質、13.0%の繊維質、および53.5mg/gのフラボノイドを含有していた。
【0051】
(マウス骨髄初代培養)
ddY系雄性マウス(8週齢)を頸椎脱臼にて安楽死させ、大腿骨および脛骨を無菌的に摘出した。骨の周囲の結合組織および軟組織をメスで取り除き、骨の両端を切断した後、10%ウシ胎児血清(FBS;GIBCO(登録商標))、ペニシリン(50units/mL)/ストレプトマイシン(50μg/mL)を含むα−MEM培地(MP Biomedicals LLC.社)を、26G針付きシリンジを用いて大腿骨および脛骨に注入し、骨髄細胞を押し出した。回収した骨髄細胞を遠心(1,000rpm、5分)し、上清を除去した後、培地に再懸濁し、24ウェルプレートの各ウェルに700万個播種した。37℃、5%COのインキュベーター内で培養を開始し、培養開始1日後、一部のウェルに10nMデキサメタゾン、0.2mMアスコルビン酸および2.5mMβ-グリセロリン酸を加え(骨芽細胞の形成処理)、一部のウェルに10nM活性型ビタミンD(カルシトリオール)を加え(破骨細胞の形成処理)、その後、3日毎に培地交換を行いながら培養した。フジミナ抽出物の骨芽細胞および破骨細胞の形成に及ぼす影響をみるため、培養開始1日後、一部のウェルに2.5〜10μg/mLのフジミナ抽出物を加えた。
【0052】
(骨芽細胞の定量)
培養後の細胞を10%ホルマリン/PBS(pH7.4)で固定し、PBSで3回洗浄した。洗浄後の細胞に再賦活液(50mM MgCl、100mM Tris−HCl(pH7.4))を加えた。細胞を室温にて30分間静置した後、PBSで洗浄した。洗浄後の細胞にALP染色液(0.1mg/mL ナフトールAS−MXリン酸ナトリウム、0.6mg/mL fast blue RR salt、200mM Tris−HCl(pH8.5);和光純薬工業株式会社)を加えた。細胞を37℃にて30分間静置し、細胞が染色されたのを確認後、蒸留水で洗浄した。ALP染色陽性細胞を骨芽細胞として、染色部位をNIH image(National Institute of Health, USA)で画像解析し、定量した。結果を図1Aに示す。
【0053】
(破骨細胞の定量)
培養後の細胞を10%ホルマリン/PBS(pH7.4)で固定し、PBSで3回洗浄した。洗浄後の細胞にエタノール−アセトン混液(1:1)を加えた。室温にて1分間静置した細胞に、TRAP染色液(0.1mg/mL ナフトールAS−MXリン酸ナトリウム、0.6mg/mL fast red violet LB salt、50mM 酒石酸ナトリウム、100mM 酢酸ナトリウム(pH5.0;和光純薬工業株式会社)を加えた。細胞を37℃にて30分間静置し、細胞が染色されたのを確認後、蒸留水で洗浄した。TRAP染色陽性の多核細胞を破骨細胞として、細胞数を数え、定量した。結果を図1Bに示す。アスタリスクは、危険率5%未満でコントロールと有意差があることを表す。
【0054】
図1より明らかなように、フジミナ抽出物は、2.5〜10μg/mLの濃度で破骨細胞の形成を濃度依存的に抑制したが(図1B)、骨芽細胞の形成には影響を及ぼさなかった(図1A)。この結果、フジミナ抽出物は、骨リモデリングにおける骨吸収を抑制する可能性が示唆された。
【0055】
(実施例2:フジミナ抽出物のマウス腹腔マクロファージからの破骨細胞の形成に及ぼす影響)
破骨細胞の前駆細胞であるマウス腹腔マクロファージ(RAW264.7細胞;ATCC)を10%FBS、ペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM培地(日水製薬株式会社)に懸濁し、96ウェルプレートの各ウェルに2,000個播種した。37℃、5%COのインキュベーター内で培養を開始し、培養開始1日後、各ウェルに75、150または300ng/mLの可溶型receptor activator of nuclear factor-κB ligand(RANKL;和光純薬工業株式会社)を加え、その後、3日毎に培地交換を行いながら培養した(破骨細胞の形成処理)。フジミナ抽出物の破骨細胞の形成に及ぼす影響をみるため、培養開始1日後、一部のウェルに2.5〜10μg/mLのフジミナ抽出物を加えた。実施例1と同様にして、培養後の細胞をTRAP染色し、TRAP染色陽性の多核細胞を破骨細胞として、細胞数を数え、定量した。結果を図2に示す。アスタリスクは、危険率5%未満でコントロールと有意差があることを表す。
【0056】
図2より明らかなように、RAW264.7細胞はRANKL存在下で破骨細胞へと分化したが、フジミナ抽出物は10μg/mLまでの濃度で破骨細胞の形成にほとんど影響を及ぼさなかった。破骨細胞の形成には、破骨細胞前駆細胞と骨芽細胞との接触が必須であり、その細胞間相互作用を担う分子がRANKLである。骨芽細胞の細胞膜上に発現するRANKLは、破骨細胞前駆細胞の細胞膜上に発現する受容体receptor activator of nuclear factor-κB(RANK)に作用して破骨細胞への分化を誘導する。事実、破骨細胞の前駆細胞であるRAW264.7細胞はRANKLの添加により破骨細胞へと分化した。フジミナ抽出物は、骨芽細胞と破骨細胞とが共存する骨髄細胞初代培養において破骨細胞の形成を抑制したが(図1B)、RANKLによって誘導されるRAW264.7細胞の破骨細胞への分化には影響を及ぼさなかった(図2)。この結果は、フジミナ抽出物の破骨細胞形成抑制作用が、RANKL以外の骨芽細胞と破骨細胞前駆細胞との細胞間相互作用を介していることを示すものである。
【0057】
(実施例3:フジミナ抽出物の骨粗鬆症モデルマウスにおける骨量減少予防効果)
(骨粗鬆症モデルマウスの作製)
ddY系雌性マウス(10週齢)の背部皮膚をペントバルビタール麻酔下で切開し、左右の卵巣を切除した後、皮膚を縫合して、骨粗鬆症モデルマウスを作製した。左右の卵巣を切除しなかったこと以外は同様にして、偽手術マウスを作製した。
【0058】
(マウスへの薬物投与)
手術してから4週間後、骨粗鬆症モデルマウスを6匹ずつ5群に分け、各群に1回あたり、フジミナ抽出物30mg/kg、100mg/kgもしくは300mg/kg、またはエストラジオール0.25mg/kg、あるいは水(コントロール群)を投与した。一方、偽手術マウスには水を投与した(6匹:偽手術群)。上記投与は経口により週3回行い、フジミナ抽出物およびエストラジオールは水に懸濁して投与した。
【0059】
投与を開始してから4週間後、マウスを頸椎脱臼にて安楽死させ、大腿骨および子宮を摘出した。大腿骨は70%エタノールにて固定し、次いで実験動物用X線CT装置(日立アロカメディカル株式会社製Latheta)にて骨密度および骨量を測定した。子宮は重量を測定した。結果を図3および4に示す。
【0060】
図3より明らかなように、骨粗鬆症モデルマウスは、偽手術マウスと比較して、大腿骨の骨密度および骨量が有意に減少した。骨量の減少は、皮質骨よりも海綿骨で顕著に認められた。フジミナ抽出物の投与は、骨粗鬆症モデルマウスの卵巣切除による骨密度および骨量の減少を用量依存的に抑制し、特に海綿骨の骨量減少に対する抑制作用が著しかった。エストラジオールの投与も、卵巣切除による骨密度および骨量の減少をフジミナ抽出物とほぼ同程度に抑制した。
【0061】
一方、図4より明らかなように、骨粗鬆症モデルマウスは、子宮の重量が有意に減少し、フジミナ抽出物の投与は、減少した子宮重量に影響を及ぼさなかったのに対し、エストラジオールの投与は、子宮重量を有意に増加させた。
【0062】
実施例1より、フジミナ抽出物は破骨細胞の分化抑制作用を有することが明らかとなり、実施例3では、フジミナ抽出物は用量依存的に骨粗鬆症モデルマウスの骨量減少を抑制したことから、フジミナ抽出物による破骨細胞分化抑制作用が骨粗鬆症の治療に有用であることを裏づけることができた。エストラジオールは閉経後骨粗鬆症の治療に用いられているが、同時に子宮内膜の肥厚や子宮癌のリスクを増大させる。事実、実施例3では、エストラジオールの投与は、卵巣切除による骨量減少を抑制したが、同時に子宮重量を有意に増加させた。フジミナ抽出物は、子宮重量に影響を及ぼさなかったことから、フジミナ抽出物による骨量減少の抑制作用は全身的なエストロゲン様作用によるものではないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、安全性が高くかつ簡便に投与できる骨治療組成物を提供することができる。本発明の骨治療組成物は、天然物の植物に由来するので、経口用組成物または注射用組成物として有用である。本発明の骨治療組成物は、骨芽細胞の形成に影響を及ぼすことなく、破骨細胞の形成を抑制することにより、骨バランスを骨形成優位の方向にシフトさせることができる。例えば、骨粗鬆症、大理石骨病、骨硬化症、高カルシウム血症、骨ページェット病、腎性骨異栄養症、慢性関節リウマチ、変形性関節炎などの骨代謝異常の治療に用いられ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フジミナ抽出物を含有する骨治療組成物。
【請求項2】
前記抽出物がエタノール抽出物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
経口用組成物または注射用組成物である、請求項1または2に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−214428(P2012−214428A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156079(P2011−156079)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】