説明

フタル酸モノマーをベースとする改善された加水分解安定性を有する歯科材料

【課題】高い加水分解安定性を有する重合性フタル酸モノマーの提供。
【解決手段】一般式I:


の重合性フタル酸誘導体を含有する歯科材料。一般式Iにおいて、R1は、HまたはC1〜C5アルキル残基であり、R2は、H、フェニル、ベンジルまたはC1〜C8アルキル残基であり、Q1は、存在しないか、またはC1〜C15アルキレン残基であり、Q2は、存在しないか、または(n+1)価の脂肪族C1〜C20残基であり、そしてQ1およびQ2は、同時には非存在になり得ず、Q1およびQ2の炭素鎖はOまたはSにより介在され得、XおよびYは独立して、存在しないか、またはO、Sもしくは(-CO-NR4-)であり、R4は、H、CH3またはC2H5であり、n、mは独立して、1、2または3を意味し、R3は、H、CH3、C2H5、Cl、BrまたはOCH3であり、ベンゼン環の2個のカルボキシル基は、一緒になって無水物基を形成し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い加水分解安定性を有する重合性フタル酸モノマー、およびそれらの接着歯科材料におけるモノマー成分としての使用、特に、歯科接着剤およびセメントの調製のための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
4-メタクリロイルオキシエチルトリメリト酸(4-MET)およびその対応する無水物(4-META)は、歯科用接着剤における接着モノマーとして、歯構造物と金属基材との両方への優れた接着特性を示し、従って、種々の異なる世代の多くのぞうげ質接着促進剤において、および金属プライマーにおいて、用途を見出している(非特許文献1)。4-METAは、水溶液中で非常に迅速に加水分解して4-METになり、そして4-METは接着特性を担うと考えられている(非特許文献2)。
【0003】
しかし、4-METの水溶液は、貯蔵安定性ではない。なぜなら、メタクリレート基が加水分解により外れるからである。水溶液中で、42℃でほんの8週間の貯蔵後に、使用される元の化合物の大部分が加水分解により分解することが見出されている。従って、共溶媒として水を含有するセルフエッチングエナメル質-ぞうげ質接着剤中での4-METAおよび4-METの使用には、大いに問題がある。
【0004】
特許文献1は、加水分解安定性である、4-(2-エトキシカルボニル-アリルオキシ)-フタル酸などの有機酸および無水物のエーテル化合物を開示し、そしてこれらの化合物が、セルフエッチング歯科用接着剤の調製のために適切であるといわれていることを開示する。しかし、これらの化合物の加水分解安定性は、同様に、不充分なものである。
【0005】
特許文献2は、最高2のpHを有する水性の単一成分セルフエッチング歯科用接着剤を開示し、この接着剤は、重合性のN-置換アルキルアクリルモノマーまたはアクリルアミドモノマーを含有し、このモノマーは、少なくとも1個のホスホン酸基またはスルホン酸基を有する。これらのモノマーは、加水分解安定性であるはずである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1681283号明細書
【特許文献2】国際公開第03/035013号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Changら,「4-META use in dentistry:a literature review」,J.Prosthet.Dent.87(2002)216-224
【非特許文献2】S.Fujisawa,S.Ito,Dent.Mat.J.18(1999)54-62
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、非常に良好に重合性であり、酸性条件下で高い加水分解安定性を示し、極性溶媒に溶解し、歯構造物への良好な基材接着を促進し、そして生理学的に無害である、フタル酸誘導体をベースとする接着歯科材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
一般式I:
【0010】
【化1】

の重合性フタル酸誘導体を含有することを特徴とする歯科材料であって、一般式Iにおいて、
R1は、H、メチルまたはC1〜C5アルキル残基であり、
R2は、H、フェニル、ベンジルまたはC1〜C8アルキル残基であり、
Q1は、存在しないか、またはC1〜C15アルキレン残基であり、ここでその炭素鎖は、OもしくはSにより介在され得、
Q2は、存在しないか、または(n+1)価の脂肪族C1〜C20残基であり、ここでその炭素鎖は、OもしくはSにより介在され得、そしてQ1およびQ2は、同時には非存在になり得ず、
Xは、存在しないか、またはO、Sもしくは(-CO-NR4-)であり、ここでR4は、H、CH3またはC2H5であり、
Yは、存在しないか、またはO、Sもしくは(-CO-NR5-)であり、ここでR5は、H、CH3またはC2H5であり、
n、mは、互いに独立して、各場合において、1、2または3を意味し、
R3は、H、CH3、C2H5、Cl、BrまたはOCH3であり、
ここでベンゼン環の2個のカルボキシル基は、一緒になって無水物基を形成し得る、
歯科材料。
(項目2)
前記可変物のうちの少なくとも1つが、以下の意味:
R1は、Hまたはメチルである、
R2は、HまたはC1〜C4アルキル残基である、
Q1は、存在しないか、またはC2〜C12アルキレン残基であり、ここでその炭素鎖は、Oにより介在され得る、
Q2は、存在しないか、または(n+1)価の脂肪族C1〜C10残基であり、ここでその鎖は、Oにより介在され得、そしてQ1およびQ2は、同時には非存在になり得ない、
Xは、存在しないか、またはO、Sもしくは(-CO-NR4-)であり、ここでR4は、H、CH3またはC2H5である、
Yは、存在しないか、またはOもしくは(-CO-NR5-)-であり、ここでR5は、CH3またはC2H5である、
n、mは、互いに独立して、1または2である、
R3は、H、CH3、C2H5またはOCH3である、
のうちの1つを有する、上記項目に記載の歯科材料。
(項目3)
前記可変物のうちの少なくとも1つが、以下の意味:
R1は、Hまたはメチルであり、特にHである、
R2は、H、メチルまたはエチルであり、特にメチルである、
Q1は、C1〜C12アルキレン残基であり、特にC2〜C12アルキレン残基であり、ここでその鎖は、Oにより介在され得、好ましくは、直鎖C1〜C6アルキレン残基である;
Q2は、存在しないか、または(n+1)価の脂肪族C1〜C8残基であり、ここでその鎖は、Oにより介在され得、そしてQ1およびQ2は、同時には非存在になり得ない、
Xは、存在しない、
Yは、存在しないか、またはOであり、好ましくはOである、
n、mは、互いに独立して、1または2である、
R3は、H、CH3、またはOCH3である、
のうちの1つを有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目4)
1種以上のさらなるラジカル重合性モノマー(コモノマー)を含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目5)
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、ジ(メタ)アクリル酸ビスフェノール-A、ビス-GMA(メタクリル酸とビスフェノール-A-ジグリシジルエーテルとの付加生成物)、UDMA(メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)とジイソシアン酸2,2,4-トリメチルヘキサメチレンとの付加生成物)、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリトリトール、ジ(メタ)アクリル酸グリセロール、ジ(メタ)アクリル酸1,4-ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸1,10-デカンジオール、ジ(メタ)アクリル酸1,12-ドデカンジオール、
および/あるいは
1種以上のN-モノ置換アクリルアミドまたはN-ジ置換アクリルアミドである、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドもしくはN-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、1種以上のN-モノ置換メタクリルアミドである、N-エチルメタクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、N-ビニルピロリドン、1種以上の架橋性アリルエーテル、
および/あるいは
1種以上の架橋性ピロリドン、1,6-ビス(3-ビニル-2-ピロリドニル)-ヘキサン、1種以上の架橋性ビスアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、エチレンビスアクリルアミド、1種以上の架橋性ビス(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジエチル-1,3-ビス(アクリルアミド)-プロパン、1,3-ビス(メタクリルアミド)-プロパン、1,4-ビス(アクリルアミド)-ブタン、1,4-ビス(アクリロイル)-ピペラジン、
あるいはこれらの混合物、
を含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目6)
1種以上のラジカル重合性の酸基含有モノマー(接着モノマー)を含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目7)
マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリト酸無水物、10-メタクリロイルオキシデシルマロン酸、N-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)-N-フェニルグリシン、4-ビニル安息香酸、
および/あるいは
ビニルホスホン酸、4-ビニルフェニルホスホン酸、4-ビニルベンジルホスホン酸、2-メタクリロイルオキシエチルホスホン酸、2-メタクリルアミドエチルホスホン酸、4-メタクリルアミド-4-メチル-ペンチル-ホスホン酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸エチルエステル、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸2,4,6トリメチルフェニルエステル、
および/あるいは
リン酸一水素2-メタクリロイルオキシプロピル、リン酸二水素2-メタクリロイルオキシプロピル、リン酸水素2-メタクリロイルオキシエチルフェニル、ジペンタエリトリトール-ペンタメタクリロイルオキシホスフェート、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル、リン酸モノ-(1-アクリロイル-ピペリジン-4-イル)-エステル、リン酸二水素6-(メタクリルアミド)ヘキシル、リン酸二水素1,3-ビス-(N-アクリロイル-N-プロピル-アミノ)-プロパン-2-イル、
および/あるいは
ビニルスルホン酸、4-ビニルフェニルスルホン酸、3-(メタクリルアミド)プロピルスルホン酸、
あるいはこれらの混合物、
を含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目8)
ラジカル重合用開始剤を含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目9)
有機充填材および/または無機充填材を含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目10)
溶媒、安定剤、矯味矯臭剤、染料、殺微生物活性成分、フッ化物イオン放出添加剤、光学光沢剤、可塑剤および/またはUV吸収剤を含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目11)
a)0.1重量%〜50重量%、好ましくは1重量%〜40重量%、そして特に好ましくは2重量%〜30重量%の一般式Iの重合性フタル酸誘導体、
b)0.01重量%〜10重量%、特に好ましくは0.1重量%〜3.0重量%の開始剤、
c)0重量%〜80重量%、好ましくは0重量%〜60重量%、そして特に好ましくは5重量%〜50重量%のコモノマー、
d)0重量%〜30重量%、好ましくは0重量%〜15重量%の接着モノマー、
e)0重量%〜80重量%の充填材、
f)0重量%〜70重量%、好ましくは0重量%〜60重量%、そして特に好ましくは0重量%〜50重量%の溶媒
を含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目12)
接着剤として使用するための上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料であって、0重量%〜20重量%の充填材を含有する、歯科材料。
(項目13)
コンポジットとして使用するための上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料であって、20重量%〜80重量%の充填材を含有する、歯科材料。
(項目14)
歯科材料の調製のための、式Iの化合物の使用。
(項目14A)
歯科材料の調製のための、式I
【0011】
【化1A】

の化合物の使用であって、式Iにおいて、
R1は、H、メチルまたはC1〜C5アルキル残基であり、
R2は、H、フェニル、ベンジルまたはC1〜C8アルキル残基であり、
Q1は、存在しないか、またはC1〜C15アルキレン残基であり、ここでその炭素鎖は、OもしくはSにより介在され得、
Q2は、存在しないか、または(n+1)価の脂肪族C1〜C20残基であり、ここでその炭素鎖は、OもしくはSにより介在され得、そしてQ1およびQ2は、同時には非存在になり得ず、
Xは、存在しないか、またはO、Sもしくは(-CO-NR4-)であり、ここでR4は、H、CH3またはC2H5であり、
Yは、存在しないか、またはO、Sもしくは(-CO-NR5-)であり、ここでR5は、H、CH3またはC2H5であり、
n、mは、互いに独立して、各場合において、1、2または3を意味し、
R3は、H、CH3、C2H5、Cl、BrまたはOCH3であり、
ここでベンゼン環の2個のカルボキシル基は、一緒になって無水物基を形成し得る、
使用。
(項目15)
接着剤、セメント、セルフエッチング接着剤またはセルフエッチングセメントの調製のための、上記項目のうちのいずれかに記載の使用。
【0012】
(摘要)
一般式I:
【0013】
【化2】

の重合性フタル酸誘導体を含有する歯科材料であって、一般式Iにおいて、R1は、H、メチルまたはC1〜C5アルキル残基であり;R2は、H、フェニル、ベンジルまたはC1〜C8アルキル残基であり;Q1は、存在しないか、またはC1〜C15アルキレン残基であり、ここでその炭素鎖は、OまたはSにより介在され得;Q2は、存在しないか、または(n+1)価の脂肪族C1〜C20残基であり、ここでその炭素鎖は、OもしくはSにより介在され得、そしてQ1およびQ2は、同時には非存在になり得ず;Xは、存在しないか、またはO、Sもしくは(-CO-NR4-)-であり、ここでR4は、H、CH3またはC2H5であり;Yは、存在しないか、またはO、Sもしくは(-CO-NR5-)-であり、ここでR5は、H、CH3またはC2H5であり;n、mは、互いに独立して、各場合において、1、2または3を意味し;R3は、H、CH3、C2H5、Cl、BrまたはOCH3であり、ここでベンゼン環の2個のカルボキシル基は、一緒になって無水物基を形成し得る。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、非常に良好に重合性であり、酸性条件下で高い加水分解安定性を示し、極性溶媒に溶解し、歯構造物への良好な基材接着を促進し、そして生理学的に無害である、フタル酸誘導体をベースとする接着歯科材料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記目的は、本発明により、一般式I:
【0016】
【化3】

の少なくとも1種の重合性フタル酸誘導体を含有する歯科材料によって達成され、一般式Iにおいて、
R1は、H、メチルまたはC1〜C5アルキル残基であり、
R2は、H、フェニル、ベンジルまたはC1〜C8アルキル残基であり、
Q1は、存在しないか、またはC1〜C15アルキレン残基であり、ここでその炭素鎖は、OもしくはSにより介在され得、
Q2は、存在しないか、または(n+1)価の脂肪族C1〜C20残基であり、ここでその炭素鎖は、OもしくはSにより介在され得、そしてQ1およびQ2は、同時には非存在であり得ず、
Xは、存在しないか、またはO、Sもしくは(-CO-NR4-)であり、ここでR4は、H、CH3またはC2H5であり、ここでQ1が存在しない場合、Xは存在せず、
Yは、存在しないか、またはO、Sもしくは(-CO-NR5-)であり、ここでR5は、H、CH3またはC2H5であり、ここでQ2が存在しない場合、Yは存在せず、
n、mは、互いに独立して、各場合において、1、2または3を意味し、
R3は、H、CH3、C2H5、Cl、BrまたはOCH3であり、そして
ここでベンゼン環の2個のカルボキシル基は、一緒になって無水物基を形成し得る。
【0017】
Q1は、好ましくは、0個〜4個のヘテロ原子を含み、そしてQ2は、好ましくは、0個〜6個のヘテロ原子を含む。炭素鎖がOまたはSにより介在されるとの語句は、これらのヘテロ原子がその炭素鎖に組み込まれていること、すなわち、その両側で炭素原子に接していることを意味すると理解されるべきである。従って、炭素原子の数は、ヘテロ原子の数より少なくとも1大きい。
【0018】
上記可変物のうちの少なくとも1つが以下の意味:
R1は、Hまたはメチルである、
R2は、HまたはC1〜C4アルキル残基である、
Q1は、存在しないか、またはC2〜C12アルキレン残基であり、ここでその炭素鎖は、Oにより介在され得る、
Q2は、存在しないか、または(n+1)価の脂肪族C1〜C10残基であり、ここでその炭素鎖は、Oにより介在され得、そしてQ1およびQ2は、同時には非存在になり得ない、
Xは、存在しないか、またはO、Sもしくは(-CO-NR4-)であり、ここでR4は、H、CH3またはC2H5である、
Yは、存在しないか、あるいはOまたは(-CO-NR5-)-であり、ここでR5は、CH3またはC2H5である、
n、mは、互いに独立して、1または2である、
R3は、H、CH3、C2H5またはOCH3である、
のうちの1つを有する、式Iの化合物が好ましい。
【0019】
全ての可変物が上記好ましい意味のうちの1つを有する化合物が、特に好ましい。
【0020】
上記可変物のうちの少なくとも1つ、好ましくは全ての可変物が、以下の意味:
R1は、Hまたはメチルであり、特にHである、
R2は、H、メチルまたはエチルであり、特にメチルである、
Q1は、C1〜C12アルキレン残基であり、特に、C2〜C12アルキレン残基であり、ここでその鎖は、Oにより介在され得、好ましくは、直鎖C1〜C6アルキレン残基である;
Q2は、存在しないか、または(n+1)価の脂肪族C1〜C8残基であり、ここでその炭素鎖は、Oにより介在され得、そしてQ1およびQ2は、同時には非存在になり得ない、
Xは、存在しない、
Yは、存在しないか、またはOであり、好ましくはOである、
n、mは互いに独立して、1または2である、
R3は、H、CH3、またはOCH3である、
のうちの1つを有する、式Iの化合物が、非常に特に好ましい。
【0021】
ここでまた、全ての可変物が上記好ましい意味のうちの1つを有する化合物が、特に好ましい。
【0022】
式(I)のフタル酸誘導体は、加水分解に対する高い抵抗性および良好なぞうげ質接着により特徴付けられるのみでなく、さらに、歯科材料における使用のためにかなり有利である、低い細胞傷害性を有することによってもまた、特徴付けられることが見出された。
【0023】
一般式Iの重合性フタル酸誘導体は、容易に調製され得る。例えば、OH-官能基化フタル酸誘導体は、Br-アルキル-官能基化(メタ)アクリルアミドと反応して、一般式Iのフタル酸誘導体を形成し得る:
【0024】
【化4】

【0025】
具体例:N-(11-ブロモウンデシル)-N-メチルアクリルアミドと4-ヒドロキシフタル酸との反応:
【0026】
【化5】

本発明により好ましい一般式Iの重合性フタル酸誘導体の例は:
【0027】
【化6】

【0028】
【化7】

である。
【0029】
一般式Iの重合性フタル酸誘導体に加えて、本発明による歯科材料は、好ましくは、少なくとも1種のさらなるラジカル重合性モノマー(コモノマー)、特に、少なくとも1種の単官能性または多官能性(メタ)アクリル酸誘導体を含有する。単官能性(メタ)アクリル酸誘導体とは、1個の(メタ)アクリル酸基を有する化合物を意味し、多官能性(メタ)アクリル酸誘導体化合物とは、2個以上、好ましくは2個〜4個の(メタ)アクリル酸基を有する化合物を意味する。多官能性モノマーは、架橋効果を有する。
【0030】
本発明により好ましい、単官能性または多官能性(メタ)アクリル酸誘導体は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、ジ(メタ)アクリル酸ビスフェノール-A、ビス-GMA(メタクリル酸とビスフェノール-A-ジグリシジルエーテルとの付加生成物)、UDMA(メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)とジイソシアン酸2,2,4-トリメチルヘキサメチレンとの付加生成物)、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリトリトール、ならびにジ(メタ)アクリル酸グリセロール、ジ(メタ)アクリル酸1,4-ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸1,10-デカンジオール、およびジ(メタ)アクリル酸1,12-ドデカンジオールである。
【0031】
特に好ましい単官能性または多官能性(メタ)アクリル酸誘導体は、N-モノ置換アクリルアミドまたはN-ジ置換アクリルアミド(例えば、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドまたはN-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド)、N-モノ置換メタクリルアミド(例えば、N-エチルメタクリルアミドまたはN-(2-ヒドロキシエチル)メタクリルアミド)、およびN-ビニルピロリドンまたはアリルエーテルである。これらのモノマーは、高い加水分解安定性により特徴付けられ、そしてそれらの比較的低い粘度に起因して、希釈モノマーとして特に適切である。
【0032】
高い加水分解安定性を有する好ましい多官能性(メタ)アクリル酸誘導体は、架橋性ピロリドン(例えば、1,6-ビス(3-ビニル-2-ピロリドニル)-ヘキサン)、またはビスアクリルアミド(例えば、メチレンビスアクリルアミドもしくはエチレンビスアクリルアミド)、ビス(メタ)アクリルアミド(例えば、N,N’-ジエチル-1,3-ビス(アクリルアミド)-プロパン、1,3-ビス(メタクリルアミド)-プロパン、1,4-ビス(アクリルアミド)-ブタンもしくは1,4-ビス(アクリロイル)-ピペラジン)であり、これらは、対応するジアミンから、(メタ)アクリル酸クロリドを用いての転換により合成され得る。
【0033】
上に名称を列挙したモノマーの混合物が、好ましくは使用される。
【0034】
式Iの化合物、および必要に応じて、上に名称を列挙したコモノマーに加えて、本発明による歯科材料はまた、好ましくは、ラジカル重合性の酸基含有モノマー(接着モノマー)を含有し得る。好ましい酸基は、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基およびスルホン酸基である。
【0035】
重合性カルボン酸を有する好ましいモノマーは、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリト酸無水物、10-メタクリロイルオキシデシルマロン酸、N-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)-N-フェニルグリシンおよび4-ビニル安息香酸である。
【0036】
好ましいホスホン酸モノマーは、ビニルホスホン酸、4-ビニルフェニルホスホン酸、4-ビニルベンジルホスホン酸、2-メタクリロイルオキシエチルホスホン酸、2-メタクリルアミドエチルホスホン酸、4-メタクリルアミド-4-メチル-ペンチル-ホスホン酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸エチルエステルまたは2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸2,4,6トリメチルフェニルエステルである。
【0037】
好ましい酸性重合性リン酸エステルは、リン酸一水素2-メタクリロイルオキシプロピル、リン酸二水素2-メタクリロイルオキシプロピル、リン酸水素2-メタクリロイルオキシエチルフェニル、ジペンタエリトリトール-ペンタメタクリロイルオキシホスフェート、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル、リン酸モノ-(1-アクリロイル-ピペリジン-4-イル)-エステル、リン酸二水素6-(メタクリルアミド)ヘキシルおよびリン酸二水素1,3-ビス-(N-アクリロイル-N-プロピル-アミノ)-プロパン-2-イルである。
【0038】
好ましい重合性スルホン酸は、ビニルスルホン酸、4-ビニルフェニルスルホン酸または3-(メタクリルアミド)プロピルスルホン酸である。
【0039】
さらに、本発明による歯科材料はまた、好ましくは、ラジカル重合用開始剤を含有する。
【0040】
好ましくは、ベンゾフェノン、ベンゾインおよびその誘導体、またはα-ジケトンもしくはその誘導体(例えば、9,10-フェナントレンキノン、1-フェニル-プロパン-1,2-ジオン、ジアセチルまたは4,4’-ジクロロベンジル)が、ラジカル光重合を開始させるために使用される。ショウノウキノンおよび2,2-ジメトキシ-2-フェニル-アセトフェノンが好ましくは使用され、そして非常に特に好ましくは、還元剤としてのアミン(例えば、4-(ジメチルアミノ)-ベンゾエート、メタクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、N,N-ジメチル-sym-キシリジンまたはトリエタノールアミン)と組み合わせられたα-ジケトンが使用される。ノリッシュI型光開始剤(とりわけ、アシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド、モノアシルトリアルキルゲルマニウム化合物、ジアシルジアルキルゲルマニウム化合物(例えば、ベンゾイルトリメチルゲルマニウム、ジベンゾイルジエチルゲルマニウムまたはビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウム))もまた、特に好ましい。異なる光開始剤の混合物(例えば、ショウノウキノンおよび4-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルと組み合わせられた、ジベンゾイルジエチルゲルマニウム)も使用され得る。
【0041】
好ましくは、レドックス開始剤組み合わせ物(例えば、過酸化ベンゾイルと、N,N-ジメチル-sym-キシリジンまたはN,N-ジメチル-p-トルイジンとの組み合わせ物)が、室温で行われる重合のための開始剤として、使用される。さらに、過酸化物と還元剤(例えば、アスコルビン酸、バルビツレートまたはスルフィン酸)とからなるレドックス系もまた、特に適切である。
【0042】
本発明により使用される組成物はさらに、好ましくはまた、有機充填材粒子または無機充填材粒子を含有して、機械特性を改善するか、または粘度を調節する。好ましい無機粒子充填材は、酸化物(例えば、ZrO2およびTiO2、またはSiO2、ZrO2および/もしくはTiO2の混合酸化物)をベースとする非晶質球状材料(0.005μm〜2.0μm、好ましくは0.1μm〜1μmの平均粒子サイズを有する)、ナノ粒子充填材あるいは極微小充填材(例えば、発熱性ケイ酸または沈降ケイ酸であり、5nm〜200nm、好ましくは10nm〜100nmの平均粒子サイズを有する)、ミニフィラー(例えば、石英、ガラスセラミックまたはガラス粉末であり、0.01μm〜1μmの平均粒子サイズを有する)、ならびにX線不透過性充填材(例えば、三フッ化イッテルビウムまたはナノ粒子酸化タンタル(V)または硫酸バリウムであり、10nm〜1000nm、好ましくは10nm〜300nmの平均粒子サイズを有する)である。この粒子サイズは、電子顕微鏡法(TEMおよびREM)によって、または散乱光法によって、決定される。
【0043】
さらに、本発明により使用される組成物は、さらなる添加剤(とりわけ、溶媒(例えば、水またはエタノールまたは対応する溶媒混合物)、および例えば、安定剤、矯味矯臭剤、染料、殺微生物活性成分、フッ化物イオン放出添加剤、光学光沢剤、可塑剤またはUV吸収剤)を含有し得る。
【0044】
以下の構成要素:
a)0.1重量%〜50重量%、好ましくは1重量%〜40重量%、そして特に好ましくは2重量%〜30重量%の、一般式Iの重合性フタル酸誘導体、
b)0.01重量%〜10重量%、特に好ましくは0.1重量%〜3.0重量%の開始剤、
c)0重量%〜80重量%、好ましくは0重量%〜60重量%、そして特に好ましくは5重量%〜50重量%のコモノマー、
d)0重量%〜30重量%、好ましくは0重量%〜15重量%の接着モノマー、
e)0重量%〜80重量%の充填材、
f)0重量%〜70重量%、好ましくは0重量%〜60重量%、そして特に好ましくは0重量%〜50重量%の溶媒、
を含有する、一般式Iの重合性フタル酸誘導体をベースとする歯科材料が、特に好ましい。
【0045】
コモノマー(c)として、上記組成物は、好ましくは、多官能性モノマー(すなわち、1個より多くのラジカル重合性基を有するモノマー)、または主として多官能性であるモノマーを含有するモノマー混合物を含有する。
【0046】
さらに、溶媒(f)として水を含有する組成物が好ましい。式(I)のフタル酸誘導体の、極性溶媒への溶解度は、良好である。
【0047】
好ましい充填材含有量は、その所望の用途に依存する。接着剤は、好ましくは、0重量%〜20重量%の充填材を含有し、そしてセメントおよびコンポジットは、好ましくは、20重量%〜80重量%の充填材を含有する。
【0048】
このことはまた、溶媒含有量にも適用される。接着剤は、好ましくは、0重量%〜60重量%、特に好ましくは5重量%〜60重量%の溶媒を含有する。0重量%〜30重量%、特に、2重量%〜20重量%の水を含有する接着剤が、特に好ましい。
【0049】
本発明の主題はまた、歯科材料、特に、接着剤またはセメント、非常に特に、セルフエッチング接着剤またはセルフエッチングセメントの調製のための、式Iの化合物の使用である。
【0050】
本発明は、実施形態の実施例によって、以下でより詳細に説明される。
【実施例】
【0051】
実施形態の実施例
(実施例1)
4-[11-(アクリロイル-メチル-アミノ)-ウンデシルオキシ]フタル酸(AAUPA)の合成
第1段階:4-ヒドロキシフタル酸
【0052】
【化8】

水酸化ナトリウム(251.9g,6.30mol)を、鋼容器内の4-スルホフタル酸(水中50%,258.4g,0.525mol)に、撹拌しながら少しずつ添加した。約3分の1のNaOHの添加後、この次第に粘度が高まる混合物を180℃に加熱した。この添加が終了したら、この混合物を200℃でさらに2時間撹拌した。冷却中に、その残渣を水(1000ml)に溶解させた。濃塩酸(620ml,pH=1)を、氷冷しながら添加した。この溶液を酢酸エチル(5×400ml)で抽出した。合わせた有機相をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、そしてロータリーエバポレーターで濃縮した。わずかに黄色の固体を酢酸エチルから再結晶した。68.64g(0.377mol;収率72%)の白色固体が得られた。
1H-NMR (DMSO-d6, 400 MHz):δ= 6.90−6.93 (m, 2H), 7.69 (dd, 1H; J = 2.4 Hz, 6.6 Hz), 10.41 (br s, 1H), 12.87 (br s, 2H)。
13C-NMR (DMSO-d6, 100 MHz):δ= 114.2, 116.2, 120.7, 131.5, 137.3, 160.1, 167.4, 169.5。
【0053】
第2段階:4-ヒドロキシフタル酸無水物
【0054】
【化9】

【0055】
4-ヒドロキシフタル酸(23.80g,0.131mol)を、200℃に予熱した油浴中で1時間加熱した。冷却後、褐色がかった固体を酢酸エチル/n-ヘキサン(1:1)から再結晶した。15.82g(96.4mmol;収率74%)の白色固体が得られた。
1H-NMR (DMSO-d6, 400 MHz):δ= 7.25 (d, 1H; J = 2.0 Hz), 7.28 (dd, 1H; J = 2.0 Hz, 8.5 Hz), 7.89 (d, 2H, J = 8.0 Hz), 11.44 (br s, 1H)。
13C-NMR (DMSO-d6, 100 MHz):δ= 111.0, 120.7, 123.0, 127.6, 133.9, 162.7, 163.2, 164.8。
【0056】
第3段階:11-メチルアミノ-ウンデカノール
【0057】
【化10】

【0058】
11-ブロモウンデカノール(25.12g,0.10mol)およびメチルアミン(水中41%,127ml,1.50mol)のエタノール(50ml)中の溶液を、70℃で7時間加熱し、そして周囲温度でさらに16時間撹拌した。その溶媒を留去した。冷却後、その白色固体を苛性ソーダ(2N,200ml)およびジエチルエーテル(300ml)に溶解させた。相を分離し、そしてその水相をジエチルエーテル(2×100ml)で抽出した。合わせた有機相をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、そしてロータリーエバポレーターで濃縮した。その粗製生成物をジエチルエーテルから再結晶した。13.23g(65.7mmol,収率67%)の白色固体(融点:58℃)が得られた。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz):δ= 1.24−1.38 (m, 14H), 1.43−1.58 (m, 4H), 2.41 (s, 3H), 2.55 (t, 2H; J = 7.4 Hz), 3.57 (t, 2H; J = 6.4 Hz)。
13C-NMR (CDCl3, 100 MHz):δ= 25.9, 27.3, 29.5, 29.6, 29.6, 29.6, 29.6, 29.8, 33.0, 36.4, 52.1, 62.4。
【0059】
第4段階:N-(11-ヒドロキシ-ウンデシル)-N-メチルアクリルアミド
【0060】
【化11】

【0061】
11-メチルアミノウンデカン-1-オール(10.07g,50.0mmol)をジクロロメタン(30ml)に溶解させた。水酸化ナトリウム(2.40g,60.0mmol)の水(30ml)中の溶液を添加した。この混合物を-5℃まで冷却し、そしてアクリル酸クロリド(4.75g,52.5mmol)およびBHT(10mg)のジクロロメタン(30ml)中の溶液を滴下により添加した。この添加が終了したら、この反応混合物を-5℃で2時間、そして室温でさらに16時間撹拌した。有機相と水相とを分離した。その水相をNaClで飽和させ、そしてジクロロメタン(2×50ml)で抽出した。合わせた有機相をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、そしてロータリーエバポレーターで濃縮した。その粗製生成物をカラムクロマトグラフィー(SiO2/酢酸エチル)により精製した。10.38g(40.6mmol;収率81%)の黄色がかった液体が得られた。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz):δ(2つの異性体) = 1.18−1.40 (m, 14H), 1.50−1.62 (m, 4H), 2.99 (s, 1.7H), 3.06 (s, 1.3H), 3.15 (br s, 1H), 3.34 (t, 1.2H; J = 7.6 Hz), 3.41 (t, 0.8H; J = 7.6 Hz), 3.59 (t, 2H; J = 6.7 Hz), 5.66 (dd, 1H; J = 2.0 Hz, 10.6 Hz), 6.29 (dq, 1H; J = 2.0 Hz, 8.2 Hz), 6.57 (qd, 1H, J = 4.4 Hz, 10.4 Hz)。
13C-NMR (CDCl3, 100 MHz):δ= 25.8, 26.6, 26.8, 27.1, 28.9, 29.3, 29.4, 29.4, 29.5, 32.7, 34.0, 35.4, 48.1, 50.1, 62.5, 127.6, 127.9, 166.2, 166.5。
【0062】
第5段階:N-(11-ブロモウンデシル)-N-メチルアクリルアミド
【0063】
【化12】

【0064】
ジエチルエーテル(250ml)を、N-(11-ヒドロキシ-ウンデシル)-N-メチルアクリルアミド(38.31g,0.150mol)およびBHT(10mg)に添加した。三臭化リン(13.53g,50.0mmol)を滴下により添加した。最初は溶解しなかった固体が完全に溶解し、そして黄色がかった油状物が沈殿した。この反応混合物を周囲温度で撹拌した。24時間後、水(100ml)およびジクロロメタン(200ml)を添加し、そして相を分離した。その水相をジクロロメタン(2×100ml)で抽出した。合わせた有機相をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、ロータリーエバポレーターで濃縮し、そして高真空で乾燥させた。その黄色がかった油状物をジクロロメタン(100ml)に溶解させ、そして珪藻土を充填したフリット付きガラスフィルタで濾過した(n-ヘキサン/酢酸エチル 1:1)。その溶出物をロータリーエバポレーターで濃縮し、そして高真空下で乾燥させた。25.25g(79.3mmol;収率53%)の黄色がかった油状物が得られた。
1H-NMR (DMSO-d6, 400 MHz):δ(2つの異性体) = 1.18−1.56 (m, 16H), 1.74−1.83 (m, 2H), 2.86 (s, 1.7H), 3.01 (s, 1.3H), 3.29−3.37 (m, 2H), 3.51 4.04 (t, 2H; J = 6.8 Hz), 5.61−5.65 (m, 1H), 6.07−6.13 (m, 1H), 6.72 (dd, 1H; J = 10.0 Hz, 16.2 Hz)。
13C-NMR (DMSO-d6, 100 MHz):δ= 25.9, 26.3, 26.6, 27.5, 28.1, 28.5, 28.7, 28.8, 28.8, 28.9, 32.2, 33.3, 34.8, 35.0, 46.9, 48.9, 126.6, 128,3, 128.7, 164.9, 165.0。
【0065】
第6段階:4-[11-(アクリロイル-メチル-アミノ)-ウンデシルオキシ]フタル酸(AAUPA)
【0066】
【化13】

4-ヒドロキシフタル酸無水物(6.70g;40.8mmol)、BHT(10mg)およびN-(11-ブロモウンデシル)-N-メチルアクリルアミド(13.00g;40.8mmol)を、N,N-ジメチルホルムアミド(100ml)に溶解させた。炭酸カリウム(5.64g;40.8mmol)を添加した。この黄色懸濁物を室温で撹拌した。20日後、水(200ml)をこの反応混合物に添加し、そしてその全体を室温で1時間撹拌した。最初に曇っていた溶液から、油状の白色固体が沈殿した。その溶媒をデカンテーションにより除去した。その残渣を希薄なNa2CO3水溶液(5%;100ml)に溶解させた。この乳濁/曇った水相をMtBE(5×100ml)で洗浄した。希塩酸(2N,100ml)をその水相に添加し(pH=1)、そしてMtBE(8×100ml)での抽出を行った。合わせた抽出物をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、そしてロータリーエバポレーターで濃縮した。クロロホルム(150ml)をその残渣に添加し、そしてその全体を室温で撹拌した。20時間後、この懸濁物を濾過した。その濾過残渣をクロロホルム(50ml)で洗浄し、そして排液した。その濾液をロータリーエバポレーターで濃縮した。その残渣をクロロホルム(50ml)に溶解させた。アセトニトリル(50ml)を添加した。-18℃で72時間の貯蔵後、その溶媒をデカンテーションにより除去し、そしてその残渣を高真空下で乾燥させた。3.84g(9.2mmol;収率22%)の白色固体が得られ(融点:95℃)、これは、例えばエーテルまたはアセトンに、非常によく溶解した。
1H-NMR (DMSO-d6, 400 MHz):δ(2つの異性体) = 1.15−1.35 (m, 12H), 1.36−1.50 (m, 4H), 1.68−1.75 (m, 2H), 2.86 (s, 1.7H), 3.00 (s, 1.3H), 3.29−3.36 (m, 2H), 4.04 (t, 2H; J = 6.4 Hz), 5.61−5.65 (m, 1H), 6.06−6.13 (m, 1H), 6.72 (dd, 1H; J = 10.7 Hz, 16.9 Hz), 7.03−7.08 (m, 2H), 7.73 (d, 1H; J = 8.4 Hz), 12.89 (br, 2H)。
13C-NMR (DMSO-d6, 100 MHz):δ= 24.3, 24.8, 25.2, 25.5, 27.3, 27.5, 27.6, 27.7, 27.8, 27.9, 32.2, 33.7, 45.8, 47.8, 66.9, 112.3, 114.2, 121.3, 125.6, 127.2, 127.6, 130.1, 136.0, 159.7, 164.0, 166.2, 168.1。
【0067】
(実施例2)
実施例1からのフタル酸アクリルアミドAAUPAのラジカル光重合
2.97gのフタル酸アクリルアミドAAUPA、6.95gの架橋剤N,N’-ジエチル-1,3-ビス(アクリルアミド)-プロパン、0.03gの光開始剤ショウノウキノン、および0.05gのアミン促進剤4-(ジメチルアミノ)-安息香酸エステルの混合物を調製した。1滴のこの混合物をガラスプレートに載せ、PETフィルムで覆い、そして重合ランプ(Bluephase;Ivoclar Vivadent AG,光強度1000mW/cm-2)で20秒間照射した。次いで、この照射したシートを硬化させた。この混合物をフォトDSC(Perkin Elmer DSC 7)によりさらに試験すると、301J/gの重合熱が示された。
【0068】
(実施例3)
実施例1からのフタル酸アクリルアミドAAUPAの加水分解安定性の試験
5%のフタル酸アクリルアミドAAUPA(200ppmの2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールで安定化させた)、5%のリン酸d3、10%のD2Oおよび80%のDMSO-d6の溶液を調製し、37℃で貯蔵し、そして1H-NMRにより分光学的に試験した。12週間の静置時間の後に、1H-NMRスペクトルにおいて変化は見られなかった。
【0069】
(実施例4)
実施例1からのフタル酸アクリルアミドAAUPAをベースとする光硬化性接着剤の調製
ウシの歯のぞうげ質へのぞうげ質接着を試験するために、表1に与えられる組成を有する接着剤を調製した。次いで、ウシの歯をプラスチックシリンダーに包埋して、ぞうげ質とプラスチックとが同一面になるようにした。37%のリン酸で15秒間エッチングした後に、これらの歯を水で徹底的にすすいだ。次いで、接着剤の層をマイクロブラシで塗布し、送風機で短時間送風して溶媒を除去し、そして10秒間、ハロゲンランプ(Astralis(登録商標)7,Ivoclar Vivadent AG)の光に曝露した。1mm〜2mmずつの2層の歯科用コンポジット材料(Tetric EvoCeram,Ivoclar Vivadent AG)のコンポジットシリンダーをこの接着剤層上で重合させた。次いで、これらの試験片を水中37℃で24時間貯蔵し、そしてその接着剤の剪断強度を、ISO指針「ISO 1994-ISO TR 11405:Dental Materials Guidance on Testing of Adhesion to Tooth Structure」に従って、それぞれ31.0MPa(接着剤A)および18.2MPa(接着剤B)で決定した。
【0070】
【表1】

1) UDMA
2) ビス-GMA
3) ショウノウキノン(0.3%)、4-ジメチル-安息香酸エチルエステル(0.4%)およびアシルホスフィンオキシドLucerin TPO(1.0%,BASF)の混合物
4) 4-メタクリロイルオキシエチルトリメリト酸。
【0071】
これらの結果は、加水分解安定なフタル酸誘導体AAUPAをベースとする接着剤を用いる場合の、非常に良好なぞうげ質接着を実証する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I:
【化14】

の重合性フタル酸誘導体を含有することを特徴とする歯科材料であって、一般式Iにおいて、
R1は、H、メチルまたはC1〜C5アルキル残基であり、
R2は、H、フェニル、ベンジルまたはC1〜C8アルキル残基であり、
Q1は、存在しないか、またはC1〜C15アルキレン残基であり、ここでその炭素鎖は、OもしくはSにより介在され得、
Q2は、存在しないか、または(n+1)価の脂肪族C1〜C20残基であり、ここでその炭素鎖は、OもしくはSにより介在され得、そしてQ1およびQ2は、同時には非存在になり得ず、
Xは、存在しないか、またはO、Sもしくは(-CO-NR4-)であり、ここでR4は、H、CH3またはC2H5であり、
Yは、存在しないか、またはO、Sもしくは(-CO-NR5-)であり、ここでR5は、H、CH3またはC2H5であり、
n、mは、互いに独立して、各場合において、1、2または3を意味し、
R3は、H、CH3、C2H5、Cl、BrまたはOCH3であり、
ここでベンゼン環の2個のカルボキシル基は、一緒になって無水物基を形成し得る、
歯科材料。
【請求項2】
前記可変物のうちの少なくとも1つが、以下の意味:
R1は、Hまたはメチルである、
R2は、HまたはC1〜C4アルキル残基である、
Q1は、存在しないか、またはC2〜C12アルキレン残基であり、ここでその炭素鎖は、Oにより介在され得る、
Q2は、存在しないか、または(n+1)価の脂肪族C1〜C10残基であり、ここでその鎖は、Oにより介在され得、そしてQ1およびQ2は、同時には非存在になり得ない、
Xは、存在しないか、またはO、Sもしくは(-CO-NR4-)であり、ここでR4は、H、CH3またはC2H5である、
Yは、存在しないか、またはOもしくは(-CO-NR5-)-であり、ここでR5は、CH3またはC2H5である、
n、mは、互いに独立して、1または2である、
R3は、H、CH3、C2H5またはOCH3である、
のうちの1つを有する、請求項1に記載の歯科材料。
【請求項3】
前記可変物のうちの少なくとも1つが、以下の意味:
R1は、Hまたはメチルであり、特にHである、
R2は、H、メチルまたはエチルであり、特にメチルである、
Q1は、C1〜C12アルキレン残基であり、特にC2〜C12アルキレン残基であり、ここでその鎖は、Oにより介在され得、好ましくは、直鎖C1〜C6アルキレン残基である;
Q2は、存在しないか、または(n+1)価の脂肪族C1〜C8残基であり、ここでその鎖は、Oにより介在され得、そしてQ1およびQ2は、同時には非存在になり得ない、
Xは、存在しない、
Yは、存在しないか、またはOであり、好ましくはOである、
n、mは、互いに独立して、1または2である、
R3は、H、CH3、またはOCH3である、
のうちの1つを有する、請求項2に記載の歯科材料。
【請求項4】
1種以上のさらなるラジカル重合性モノマー(コモノマー)を含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項5】
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、ジ(メタ)アクリル酸ビスフェノール-A、ビス-GMA(メタクリル酸とビスフェノール-A-ジグリシジルエーテルとの付加生成物)、UDMA(メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)とジイソシアン酸2,2,4-トリメチルヘキサメチレンとの付加生成物)、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリトリトール、ジ(メタ)アクリル酸グリセロール、ジ(メタ)アクリル酸1,4-ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸1,10-デカンジオール、ジ(メタ)アクリル酸1,12-ドデカンジオール、
および/あるいは
1種以上のN-モノ置換アクリルアミドまたはN-ジ置換アクリルアミドである、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドもしくはN-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、1種以上のN-モノ置換メタクリルアミドである、N-エチルメタクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、N-ビニルピロリドン、1種以上の架橋性アリルエーテル、
および/あるいは
1種以上の架橋性ピロリドン、1,6-ビス(3-ビニル-2-ピロリドニル)-ヘキサン、1種以上の架橋性ビスアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、エチレンビスアクリルアミド、1種以上の架橋性ビス(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジエチル-1,3-ビス(アクリルアミド)-プロパン、1,3-ビス(メタクリルアミド)-プロパン、1,4-ビス(アクリルアミド)-ブタン、1,4-ビス(アクリロイル)-ピペラジン、
あるいはこれらの混合物、
を含有する、請求項4に記載の歯科材料。
【請求項6】
1種以上のラジカル重合性の酸基含有モノマー(接着モノマー)を含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項7】
マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリト酸無水物、10-メタクリロイルオキシデシルマロン酸、N-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)-N-フェニルグリシン、4-ビニル安息香酸、
および/あるいは
ビニルホスホン酸、4-ビニルフェニルホスホン酸、4-ビニルベンジルホスホン酸、2-メタクリロイルオキシエチルホスホン酸、2-メタクリルアミドエチルホスホン酸、4-メタクリルアミド-4-メチル-ペンチル-ホスホン酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸エチルエステル、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸2,4,6トリメチルフェニルエステル、
および/あるいは
リン酸一水素2-メタクリロイルオキシプロピル、リン酸二水素2-メタクリロイルオキシプロピル、リン酸水素2-メタクリロイルオキシエチルフェニル、ジペンタエリトリトール-ペンタメタクリロイルオキシホスフェート、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル、リン酸モノ-(1-アクリロイル-ピペリジン-4-イル)-エステル、リン酸二水素6-(メタクリルアミド)ヘキシル、リン酸二水素1,3-ビス-(N-アクリロイル-N-プロピル-アミノ)-プロパン-2-イル、
および/あるいは
ビニルスルホン酸、4-ビニルフェニルスルホン酸、3-(メタクリルアミド)プロピルスルホン酸、
あるいはこれらの混合物、
を含有する、請求項6に記載の歯科材料。
【請求項8】
ラジカル重合用開始剤を含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項9】
有機充填材および/または無機充填材を含有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項10】
溶媒、安定剤、矯味矯臭剤、染料、殺微生物活性成分、フッ化物イオン放出添加剤、光学光沢剤、可塑剤および/またはUV吸収剤を含有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項11】
a)0.1重量%〜50重量%、好ましくは1重量%〜40重量%、そして特に好ましくは2重量%〜30重量%の一般式Iの重合性フタル酸誘導体、
b)0.01重量%〜10重量%、特に好ましくは0.1重量%〜3.0重量%の開始剤、
c)0重量%〜80重量%、好ましくは0重量%〜60重量%、そして特に好ましくは5重量%〜50重量%のコモノマー、
d)0重量%〜30重量%、好ましくは0重量%〜15重量%の接着モノマー、
e)0重量%〜80重量%の充填材、
f)0重量%〜70重量%、好ましくは0重量%〜60重量%、そして特に好ましくは0重量%〜50重量%の溶媒
を含有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項12】
接着剤として使用するための請求項11に記載の歯科材料であって、0重量%〜20重量%の充填材を含有する、歯科材料。
【請求項13】
コンポジットとして使用するための請求項11に記載の歯科材料であって、20重量%〜80重量%の充填材を含有する、歯科材料。
【請求項14】
歯科材料の調製のための、式I
【化15】

の化合物の使用であって、式Iにおいて、
R1は、H、メチルまたはC1〜C5アルキル残基であり、
R2は、H、フェニル、ベンジルまたはC1〜C8アルキル残基であり、
Q1は、存在しないか、またはC1〜C15アルキレン残基であり、ここでその炭素鎖は、OもしくはSにより介在され得、
Q2は、存在しないか、または(n+1)価の脂肪族C1〜C20残基であり、ここでその炭素鎖は、OもしくはSにより介在され得、そしてQ1およびQ2は、同時には非存在になり得ず、
Xは、存在しないか、またはO、Sもしくは(-CO-NR4-)であり、ここでR4は、H、CH3またはC2H5であり、
Yは、存在しないか、またはO、Sもしくは(-CO-NR5-)であり、ここでR5は、H、CH3またはC2H5であり、
n、mは、互いに独立して、各場合において、1、2または3を意味し、
R3は、H、CH3、C2H5、Cl、BrまたはOCH3であり、
ここでベンゼン環の2個のカルボキシル基は、一緒になって無水物基を形成し得る、
使用。
【請求項15】
接着剤、セメント、セルフエッチング接着剤またはセルフエッチングセメントの調製のための、請求項14に記載の使用。

【公開番号】特開2013−82703(P2013−82703A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−216959(P2012−216959)
【出願日】平成24年9月28日(2012.9.28)
【出願人】(501151539)イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト (54)
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL−9494 Schaan Liechtenstein
【Fターム(参考)】