説明

フタロシアニン化合物

【課題】 ヘキサン等の炭素原子数6〜15の脂肪族炭化水素系溶媒や水に溶解でき、従来適用できない用途にも有用性のあるフタロシアニン化合物を提供する。
【解決手段】 α位の置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、NHRまたはORを表わし(Rは、炭素原子数6〜20個のアルキル基を表わし、Rは、炭素原子数1〜8個のアルキル基を少なくとも1個有するフェニル基を表わす)、β位の置換基はそれぞれ独立して、NHR、SRまたはORを表わし(Rは、炭素原子数6〜20個のアルキル基を表わし、Rは、炭素原子数4〜20個のアルキル基または炭素原子数1〜8個のアルキル基を少なくとも1個有するフェニル基を表わし、Rは、炭素原子数4〜20個のアルキル基または炭素原子数1〜8個のアルキル基若しくはハロゲン原子を少なくとも1個有するフェニル基を表わし、複数のR〜Rは、それぞれ同一であっても異なっていてもよ)、中心金属は、無金属、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表わすフタロシアニン化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フタロシアニン化合物に関するものである。詳しくは、本発明は、800〜1100nm、特に850〜1000nmの近赤外線の波長域に最大吸収波長を有しかつ粘着材(粘着層)での耐光性に優れるフタロシアニン化合物および当該フタロシアニン化合物を用いてなる近赤外線吸収フィルターに関するものである。
【0002】
本発明のフタロシアニン化合物は、半透明ないし透明性を有しかつ熱線を遮蔽する目的の熱線遮蔽材、自動車用の熱線吸収合わせガラス、熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽樹脂ガラス、可視光線透過率が高くかつ近赤外線光のカット効率の高い近赤外線吸収フィルター、特にプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルター、フラッシュ定着などの非接触定着トナー用の近赤外線吸収剤として、また、保温蓄熱繊維用の近赤外線吸収剤、赤外線による偵察に対し偽装性能(カモフラージュ性能)を有する繊維用の赤外吸収剤、半導体レーザーを使う光記録媒体、キセノンランプをバックライトとする液晶ディスプレイ用フィルター、光学文字読取機等における書き込みあるいは読み取りの為の近赤外線吸収色素、近赤外光増感剤、感熱転写・感熱孔版等の光熱交換剤、レーザービームを使用して樹脂を熱融着させるレーザー融着用の光熱交換剤、近赤外線吸収フィルター、眼精疲労防止剤あるいは光導電材料等、さらに組織透過性の良い長波長域の光に吸収を持つ腫瘍治療用感光性色素、カラーブラウン管選択吸収フィルター、カラートナー、インクジェット用インク、改ざん偽造防止用インク、改ざん偽造防止用バーコード用インク、近赤外吸収インク、写真やフィルムの位置決め用マーキング剤、およびゴーグルのレンズや遮蔽板、プラスチックリサイクルの際の仕分け用の染色剤、ならびにPETボトルの成形加工時のプレヒーティング助剤などに用いる際に優れた効果を発揮するものである。特に上記した特性を考慮すると、本発明のフタロシアニン化合物は、近赤外線吸収フィルター、特にプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルターに好適に使用できる。
【背景技術】
【0003】
近年、薄型で大画面にできるディスプレイとしてフラットパネルディスプレイが注目されている。なかでも、プラズマディスプレイパネル(PDP:Plasma Display Panel)や液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)等が市場に大きく広がり注目されている。PDPは、厚さが薄く、大画面化が容易であるため、近年、薄型・大画面の次世代ディスプレイとしての期待が高まっている。しかしながら、PDPは、キセノンガスを放電励起させ、これにより蛍光体を励起させて発色しているが、キセノンガスを放電励起する際に近赤外線が発生する。この近赤外線が、家電用テレビ、クーラー、ビデオデッキ等のリモコン等の周辺電子機器、さらには伝送系光通信の誤動作を誘発することがあり、この近赤外線をカットする近赤外線吸収フィルターを前面に設置して、近赤外線の放射を低減することが必要とされる。
【0004】
一方、プラズマディスプレイは、590nm近傍の強い発光により赤色の光の色純度が大きく落ちる。また、蛍光体を励起するためのペニングガスの主成分であるネオンガスによって、585nm近傍では橙色のネオン光が発光色によらず常に発光する。このため、プラズマディスプレイは、これらを減らし自然色に近い色を得るための580〜600nm領域の光を選択的に吸収する色補正フィルターを有する。また、プラズマディスプレイでは、上記近赤外線吸収フィルター及び色補正フィルターに加えて、電磁波を效率的に遮断できる電磁波遮蔽フィルター;大きな外光の反射に対する反射防止層を、その前面に配置する必要がある。すなわち、プラズマディスプレイは、赤外線吸収、電磁波遮蔽、色補正、反射防止という、様々な機能を有するフィルム形態の材料を積層した一つの前面フィルターで構成され、それぞれのフィルムは、基材フィルム、その上に形成される各機能性物質のコーティング層、粘着層、保護フィルム、及び離型フィルムなど、非常に多くの層構造を有し、その作製工程が複雑で手間がかかるという問題がある。このような問題を鑑みて、前面フィルターに使用されるフィルム数を減らす方法が種々検討されている。
【0005】
具体的には、離型フィルムと保護フィルムは、前面フィルター作製時にそれぞれのフィルムを積層した後に捨てられる材料であって、それぞれのフィルムの機能が統合されるとその使用量を減らすことができる。さらに、粘着層も、それぞれのフィルムを積層するために使われるので、必要なフィルムの数が低減するとその使用量が減り、また、コーティングがなされる基材フィルムも、フィルム等の機能を統合するとその使用枚数が低減すると、考えられる。
【0006】
これらの方法のうち、赤外線吸収色素を粘着層に含める方法が有力な方法として提示されている(例えば、特許文献1参照)。ここで、赤外線吸収色素としては、アントラキノン系、フタロシアニン系、シアニン系、ジチオール−金属錯体系、ジインモニウム系などが一般的に挙げられる。これらのうち、フタロシアニン系色素は、一般的に可視光線透過率が高く、近赤外線光のカット効率が高く、近赤外域の選択吸収能に優れる上、耐熱性や耐光性にも優れるため、様々な構造のフタロシアニン化合物が報告されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【0007】
特許文献2には、フタロシアニン骨格のα位に−OR基、およびβ位に2つの酸素原子を介した置換基、水素原子またはハロゲン原子を導入する構造を有するフタロシアニン化合物が開示されている。このようなフタロシアニン化合物は、700〜800nmにシャープな吸収を有し、分子吸光係数は150,000以上と高く、長期安定性および耐光性にも優れるため、現在一般に使用されている780nm近傍発振の半導体レ−ザ−を用いる光記録媒体(光ディスク、光カード等)の記録材料に好適である(段落「0012」)ことを報告している。また、具体的なフタロシアニン化合物の構造として、β位にカテコール由来の構造が開示されている(段落「0023」〜「0024」)。
【0008】
また、特許文献3には、式(1):MPc(−O−R−O−)(−YR(−Z)(−SOA)[Rは、置換された又は置換されていない1,2−アリーレン基を表し、xは、1〜8の整数を表す]で示されるフタロシアニン化合物が開示されている。このようなフタロシアニン化合物は、電磁スペクトルの近赤外線領域(750〜900nm)の範囲で強い吸収最大を示す(段落「0001」)。また、好ましいフタロシアニン化合物として、α及びβ位すべてにカテコール由来の構造が導入されたものが開示されている(段落「0017」、「0026」、「0033」、「0037」)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−119722号公報
【特許文献2】特開平7−179042号公報
【特許文献3】特開平10−1481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献2に開示されるフタロシアニン化合物は、α位に−OR基、およびβ位に2つの酸素原子を介した置換基、水素原子またはハロゲン原子が導入された構造を有するため、フタロシアニン骨格にアミン基(−NHR)を持たない。このため、特許文献2に開示されるフタロシアニン化合物は、700〜800nm域に最大吸収波長を有する(段落「0012」)が、近赤外線のより長波長域(800〜1000nm)の光を吸収することが困難である。事実、実施例で製造されたフタロシアニン化合物も最大吸収波長は720nm前後のもののみである(段落「0128」の表2参照)。また、特許文献3に好ましく開示されるフタロシアニン化合物は、α及びβ位すべてにカテコール由来の構造が導入された構造を有する。このようなフタロシアニン化合物もまた、上記実施例と同様、フタロシアニン骨格にアミン基(−NHR)を持たないため、最大吸収波長を長波長領域に持たせることが出来ない。事実、実施例で製造されたフタロシアニン化合物も最大吸収波長は、最大でも832nmである(段落「0034」)。上記に加えて、このフタロシアニン化合物のように、α及びβ位すべてにカテコール由来の構造を導入することは困難である。
【0011】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされ、800〜1000nm、特に850〜1000nmの近赤外線の波長域に最大吸収波長を有し粘着材(粘着層)中での耐光性や耐候性に優れかつ製造が容易であるフタロシアニン化合物を提供することを目的とする。
【0012】
本発明の他の目的は、上記フタロシアニン化合物を含む近赤外線吸収フィルター、特にプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行なった結果、フタロシアニン骨格の一方のα及びβ位をまたぐようにカテコールあるいは1,2−ベンゼンジチオール由来の構造を導入し、かつ残りの4個のα位にアミン基(−NR’R”)を導入することによって、得られたフタロシアニン化合物は、粘着材(粘着層)中に混合しても優れた耐光性や耐候性を発揮でき、また、最大吸収波長を長波長化でき、さらに高いグラム吸光係数が達成できることを見出した。また、このような構造を有するフタロシアニン化合物の製造方法についてさらに鋭意検討を行なった結果、全ハロゲン化フタロニトリルを式:H−A−Rの化合物と反応させた後、式:H−X−Ar−X’−Hのカテコールまたは1,2−ベンゼンジチオール誘導体と反応させることによって、フタロシアニン骨格の4個のα位および該α位に隣接する4個のβ位に−X−Ar−X’−を正確に導入することができ、これにより所望のフタロシアニン化合物を高純度でかつ高収率で製造できることをも知得した。上記知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、上記目的は、下記式(1):
【0015】
【化1】

【0016】
式中、XおよびX’は、それぞれ独立して、酸素原子(−O−)または硫黄原子(−S−)を表わし;Arは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいo−フェニレン基、置換基を有してもよいo−ナフチレン基、または置換基を有してもよいo−アントリレン基を表わし、ここで、置換基は、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20個のアルキル基、−OY(Yは、炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わす)、または−SY’(Y’は、炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わす)を表わし;Aは、それぞれ独立して、酸素原子(−O−)、硫黄原子(−S−)または単結合(−)を表わし;Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいフェニル基若しくはナフチル基、置換基を有していてもよいアラルキル基または置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わし;R’およびR”は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基または置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わし;Mは、無金属、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表わす、
で示されるフタロシアニン化合物またはその位置異性体によって達成される。
【0017】
また、本発明の他の目的は、本発明のフタロシアニン化合物を含む近赤外線吸収フィルター、特にプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルターよって達成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明のフタロシアニン化合物は、800〜1100nm、特に850〜1000nmの波長域で高い近赤外線カット効率を発揮しつつ、粘着材(粘着層)中での耐光性に優れる。また、本発明のフタロシアニン化合物は、複雑な工程を必要とせずに簡便なプロセスによって、高純度でかつ高収率で製造できる。
【0019】
したがって、本発明のフタロシアニン化合物は、半透明ないし透明性を有しかつ熱線を遮蔽する目的の熱線遮蔽材、自動車用の熱線吸収合わせガラス、熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽樹脂ガラス、可視光線透過率が高くかつ近赤外線光のカット効率の高い近赤外線吸収フィルター、特にプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルター、フラッシュ定着などの非接触定着トナー用の近赤外線吸収剤として、また、保温蓄熱繊維用の近赤外線吸収剤、赤外線による偵察に対し偽装性能(カモフラージュ性能)を有する繊維用の赤外吸収剤、半導体レーザーを使う光記録媒体、キセノンランプをバックライトとする液晶ディスプレイ用フィルター、光学文字読取機等における書き込みあるいは読み取りの為の近赤外線吸収色素、近赤外光増感剤、感熱転写・感熱孔版等の光熱交換剤、レーザービームを使用して樹脂を熱融着させるレーザー融着用の光熱交換剤、近赤外線吸収フィルター、眼精疲労防止剤あるいは光導電材料等、さらに組織透過性の良い長波長域の光に吸収を持つ腫瘍治療用感光性色素、カラーブラウン管選択吸収フィルター、カラートナー、インクジェット用インク、改ざん偽造防止用インク、改ざん偽造防止用バーコード用インク、近赤外吸収インク、写真やフィルムの位置決め用マーキング剤、およびゴーグルのレンズや遮蔽板、プラスチックリサイクルの際の仕分け用の染色剤、ならびにPETボトルの成形加工時のプレヒーティング助剤などに用いる際に優れた効果を発揮するものである。特に上記した特性を考慮すると、本発明のフタロシアニン化合物は、近赤外線吸収フィルター、特にプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルターに好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】耐候性試験の具体的な方法を示す図である。
【図2】合成例5−1のフタロシアニン(101)、比較例1の比較フタロシアニン(A)および比較例2の比較おフタロシアニン(B)の波長域400〜1100nmにおける吸光度を示すグラフである。
【図3】実施例6において、合成例5−1、5−10〜12で得られたフタロシアニン(101)及び(109)〜(111)ならびに比較例1および2で得られた比較フタロシアニン(A)及び(B)の耐候性試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明の第一は、下記式(1):
【0023】
【化2】

【0024】
式中、XおよびX’は、それぞれ独立して、酸素原子(−O−)または硫黄原子(−S−)を表わし;Arは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいo−フェニレン基、置換基を有してもよいo−ナフチレン基、または置換基を有してもよいo−アントリレン基を表わし、ここで、置換基は、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20個のアルキル基、−OY(Yは、炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わす)、または−SY’(Y’は、炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わす)を表わし;Aは、それぞれ独立して、酸素原子(−O−)、硫黄原子(−S−)または単結合(−)を表わし;Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいフェニル基若しくはナフチル基、置換基を有していてもよいアラルキル基または置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わし;R’およびR”は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基または置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わし;Mは、無金属、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表わす、
で示されるフタロシアニン化合物またはその位置異性体に関するものである。
【0025】
本発明のフタロシアニン化合物は、高い可視光線透過率、高い近赤外線光のカット効率、優れた近赤外吸収能、優れた溶媒溶解性、優れた樹脂との相溶性、優れた耐熱性、優れた耐光性及び優れた耐候性を有する。一般的に、プラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルターの粘着層には、ガラス転移点(Tg)の低い樹脂が使用されているため、粘着層は、柔軟性があり、少量ではあるが溶剤が残存しており、また、不純物が多く含まれている。ここで、不純物は、粘着層の上記特性により、粘着層中を比較的自由に動き回っている。このような粘着層に色素を入れると、色素がこの自由に動き回っている不純物と接触する機会が多いため、不純物による悪影響(例えば、粘着剤の作用基による変性など)を色素が受けやすく、しばしば色素の特性を低下させる要因となっていた。このため、従来は、色素は、粘着層に含ませずに別途近赤外線吸収フィルターを設けていた。
【0026】
これに対して、本発明のフタロシアニン化合物は、フタロシアニン骨格の一方のα及びβ位をまたぐようにカテコールあるいは1,2−ベンゼンジチオール由来の構造(即ち、−X−Ar−X’−)を有することを特徴とする。−X−Ar−X’−の構造はフタロシアニン骨格に2箇所で結合(固定)されているため、フタロシアニン骨格のベンゼン環部分は、自由に動くことが困難である。ゆえに、本発明のフタロシアニン化合物は、粘着層に入れても不純物との接触があまり起こらないため、不純物によるフタロシアニン化合物の特性の低下を有意に抑制・防止できる。したがって、本発明のフタロシアニン化合物は、粘着層中でも優れた効果(高い可視光線透過率、高い近赤外線光のカット効率、優れた近赤外吸収能、優れた溶媒溶解性、優れた樹脂との相溶性、優れた耐熱性、優れた耐光性及び優れた耐候性など)、特に優れた耐光性を発揮できる。また、カテコールや1,2−ベンゼンジチオール由来の構造(即ち、−X−Ar−X’−)の存在により、フェノールやベンゼンチオールを用いて2分子で2箇所を結合する場合と比較して、1分子で2箇所を結合することができるため、フタロシアニン化合物自体の分子量を下げたり、用いる試薬の量を減らすことができる。このため、本発明のフタロシアニン化合物は、グラム吸光係数(ε)を増大させる(例えば、グラム吸光係数が同じ色素があったとすると分子量が小さい色素の方が少ない量で同じ吸収性能を発現する)ことが可能であり、ゆえに少ない量のフタロシアニン化合物で優れた効果(高い可視光線透過率、高い近赤外線光のカット効率、優れた近赤外吸収能、優れた溶媒溶解性、優れた樹脂との相溶性、優れた耐熱性、優れた耐光性及び優れた耐候性など)を発揮できる。
【0027】
ゆえに、本発明のフタロシアニン化合物は、半透明ないし透明性を有しかつ熱線を遮蔽する目的の熱線遮蔽材、自動車用の熱線吸収合わせガラス、熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽樹脂ガラス、可視光線透過率が高くかつ近赤外線光のカット効率の高い近赤外線吸収フィルター、特にプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルター、フラッシュ定着などの非接触定着トナー用の近赤外線吸収剤として、また、保温蓄熱繊維用の近赤外線吸収剤、赤外線による偵察に対し偽装性能(カモフラージュ性能)を有する繊維用の赤外吸収剤、半導体レーザーを使う光記録媒体、キセノンランプをバックライトとする液晶ディスプレイ用フィルター、光学文字読取機等における書き込みあるいは読み取りの為の近赤外線吸収色素、近赤外光増感剤、感熱転写・感熱孔版等の光熱交換剤、レーザービームを使用して樹脂を熱融着させるレーザー融着用の光熱交換剤、近赤外線吸収フィルター、眼精疲労防止剤あるいは光導電材料等、さらに組織透過性の良い長波長域の光に吸収を持つ腫瘍治療用感光性色素、カラーブラウン管選択吸収フィルター、カラートナー、インクジェット用インク、改ざん偽造防止用インク、改ざん偽造防止用バーコード用インク、近赤外吸収インク、写真やフィルムの位置決め用マーキング剤、およびゴーグルのレンズや遮蔽板、プラスチックリサイクルの際の仕分け用の染色剤、ならびにPETボトルの成形加工時のプレヒーティング助剤などに用いる際に優れた効果を発揮するものである。特に上記した特性を考慮すると、本発明のフタロシアニン化合物は、近赤外線吸収フィルター、特にプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルターに好適に使用できる。
【0028】
また、本発明のフタロシアニン化合物は、近赤外線領域の中でも700〜1100nmの波長領域に最大吸収波長(λmax)を有する。ここで、特にフタロシアニン化合物を近赤外線吸収フィルター、特にプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルターに使用する場合には、フタロシアニン化合物は、700〜1100nm、特に周囲の他のリモートコントローラーや赤外線データ通信に使用される波長域である800〜1100nm、より好ましくは850〜1000nmの波長領域に最大吸収波長(λmax)を有することが好ましい。なお、本明細書において、フタロシアニン化合物の最大吸収波長(λmax)は、フタロシアニン化合物のクロロホルム中での最大吸収波長(λmax)を分光光度計(島津製作所製:UV−1650PC)を用いて測定した値(nm)である。
【0029】
さらに、本発明のフタロシアニン化合物のグラム吸光係数としては、特に制限されないが、上記したような用途、特に近赤外線吸収フィルター、特にプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルターへの使用を考慮すると、好ましくは40以上、より好ましくは50以上、さらに好ましくは60以上である。また、本発明のフタロシアニン化合物のグラム吸光係数の上限は、高いほど好ましいため、特に制限されないが、通常、120であり、好ましくは100である。なお、本明細書において、フタロシアニン化合物のグラム吸光係数は、以下の方法に従って、測定した。メスフラスコに、フタロシアニン化合物80mgをクロロホルム中に、0.016g/L濃度となるように溶解した。このようにして調製した溶液を1cm角のパイレックス製セルに入れ、分光光度計(島津製作所製:UV−1650PC)を用いて透過スペクトルを測定した。また、測定した吸光度をAとしたとき、グラム吸光係数を以下の式で計算した。
【0030】
【数1】

【0031】
上記式(1)で示されるフタロシアニン化合物の位置異性体も、本発明の技術的範囲に含まれる。ここで、「位置異性体」とは、一般的には、フタロニトリルからフタロシアニンを製造する際に生じる分子中の置換基位置の異なる異性体をいう。本明細書において、上記式(1)で示されるフタロシアニン化合物における位置異性体は、下図のように(1)、(1a)、(1b)、(1c)の構造を意味する。なお、本明細書では、下記式でしめされる単位を、「フタロシアニン構成単位」と称し、すなわち、本発明のフタロシアニン化合物は、4個のフタロシアニン構成単位と中心金属(式(1)中の「M」)から構成される。
【0032】
【化3】

【0033】
ここで、式(1)で示されるフタロシアニン化合物の位置異性体は、すべてのフタロシアニン構成単位について上記構造となる場合のみならず、一部が上記位置異性体の構造となる場合双方を包含する。
【0034】
また、一般的に、フタロシアニン化合物は、下記式(2):
【0035】
【化4】

【0036】
で示される構造を有するが、本明細書では、上記式(2)中、フタロシアニン骨格のZ2、Z3、Z6、Z7、Z10、Z11、Z14、Z15を一括して「β位」と、また、フタロシアニン骨格のZ1、Z4、Z5、Z8、Z9、Z12、Z13、Z16を一括して「α位」と称する。このため、フタロシアニン骨格のZ2、Z3、Z6、Z7、Z10、Z11、Z14、Z15の置換基を、フタロシアニン核の8箇所のβ位に置換する置換基または単に「β位の置換基」と、また、フタロシアニン骨格のZ1、Z4、Z5、Z8、Z9、Z12、Z13、Z16の置換基を、フタロシアニン核の8箇所のα位に置換する置換基または単に「α位の置換基」とも称する。
【0037】
上記式(1)において、Mは、無金属、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表わすものである。ここで、無金属とは、金属以外の原子、例えば、2個の水素原子であることを意味する。また、金属としては、鉄、マグネシウム、ニッケル、コバルト、銅、パラジウム、亜鉛、バナジウム、チタン、インジウム、錫等、マンガンが挙げられる。金属酸化物としては、チタニル、バナジル、酸化マンガン等が挙げられる。金属ハロゲン化物としては、塩化アルミニウム、塩化インジウム、塩化ゲルマニウム、塩化錫、塩化珪素等が挙げられる。好ましくは、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物であり、具体的には、亜鉛、銅、コバルト、ニッケル、鉄、バナジル、チタニル、塩化インジウム、塩化錫であり、より好ましくは銅、バナジルおよび亜鉛である。
【0038】
上記式(1)において、置換基「−X−Ar−X’−」は、フタロシアニン骨格のα位及びβ位をまたいで存在する置換基である。このように、フタロシアニン骨格中に置換基「−X−Ar−X’−」の構造がフタロシアニン骨格に2箇所で結合(固定)される構造により、フタロシアニン骨格のベンゼン環部分の運動が抑制される。ゆえに、本発明のフタロシアニン化合物の置換基は粘着層中で固定され安定した構造をとるため、粘着層に入れても不純物からの攻撃を受けにくく(不純物との接触が起こりにくく)、フタロシアニン化合物の特性の低下を有意に抑制・防止できる。したがって、本発明のフタロシアニン化合物は、粘着層中でも優れた効果(高い可視光線透過率、高い近赤外線光のカット効率、優れた近赤外吸収能、優れた溶媒溶解性、優れた樹脂との相溶性、優れた耐熱性及び優れた耐光性や耐候性など)を維持しつつ、優れた耐光性を発揮できる。上記利点に加えて、置換基「−X−Ar−X’−」由来の構造の存在により、フタロシアニン化合物自体の分子量は低く抑えられる。このため、フタロシアニン化合物のグラム吸光係数(ε)を増大させることが可能であり、ゆえに少ない量のフタロシアニン化合物で優れた効果(高い可視光線透過率、高い近赤外線光のカット効率、優れた近赤外吸収能、優れた溶媒溶解性、優れた樹脂との相溶性、優れた耐熱性、優れた耐光性及び優れた耐候性など)を発揮できる。
【0039】
なお、式(1)から明らかなように、置換基「−X−Ar−X’−」は、フタロシアニン化合物1個当たり、4個存在する。これらの置換基「−X−Ar−X’−」中の置換基「X」、「X’」及び「Ar」は、各フタロシアニン構成単位において、それぞれ、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。
【0040】
上記式(1)中、X及びX’は、酸素原子(−O−)または硫黄原子(−S−)を表わす。この際、X及びX’は、同一であってももしくは異なるものであってもよいが、同一であることが好ましい。また、X及びX’は、各フタロシアニン構成単位において、それぞれ、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。
【0041】
また、Arは、置換基を有してもよいo−フェニレン基、置換基を有してもよいo−ナフチレン基、または置換基を有してもよいo−アントリレン基を表わす。この際、Arもまた、各フタロシアニン構成単位において、それぞれ、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。得られるフタロシアニン化合物の分子量(グラム吸光係数)、溶解性などを考慮すると、Arは、置換基を有してもよいo−フェニレン基または置換基を有してもよいo−ナフチレン基であることが好ましい。
【0042】
ここで、Arは、無置換であってもあるいは置換基を有してもよい。後者の場合、Arに場合によっては存在する置換基としては、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20個のアルキル基、−OY(Yは、炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わす)、または−SY’(Y’は、炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わす)を表わす。ハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子であり、好ましくはフッ素原子、塩素原子、臭素原子であり、さらに好ましくはフッ素原子、塩素原子である。また、炭素原子数1〜20個のアルキル基としては、炭素原子数1〜20個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基であり、好ましくは炭素原子数1〜8個の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−イソプロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2−メチル−1−イソプロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられる。これらのうち、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が好ましく、tert−ブチル基が特に好ましい。−OY(Yは、炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わす)は、炭素原子数1〜20個の直鎖、分岐鎖または環状のアルコキシル基であり、好ましくは炭素原子数1〜8個の直鎖、分岐鎖または環状のアルコキシル基である。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、1,2−ジメチル−プロポキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、1,3−ジメチルブトキシ基、1−イソプロピルプロポキシ基などが挙げられる。これらのうち、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基が好ましい。−SY’(Y’は、炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わす)は、炭素原子数1〜20個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキルチオ基であり、好ましくは炭素原子数1〜8個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基が硫黄原子に結合したアルキルチオ基であり、この際、硫黄原子に結合するアルキル基の例は、上記アルキル基の記載と同様であり、好ましくは、炭素原子数1〜4のアルキルチオ基である。上記のうち、Arに場合によっては存在する置換基は、炭素原子数1〜8個の直鎖または分岐鎖のアルキル基、アルコキシル基が好ましく、特にtert−ブチル基が好ましい。ここで、置換基のArへの結合数は、特に制限されないが、得られるフタロシアニン化合物の耐光性、環化反応の反応性などを考慮すると、1〜4個、より好ましくは1〜3個、さらにより好ましくは1もしくは2個である。また、置換基のArへの結合位置もまた、特に制限されない。例えば、置換基がArとしてのo−フェニレン基に1個結合する場合には、置換基はo−フェニレン基の3位または4位のいずれに結合してもよく、また、o−フェニレン基に2個結合する場合には、置換基は、o−フェニレン基の3,4位、3,5位、3,6位、4,5位のいずれに結合してもよく、好ましくは4,5位に結合する。これらのうち、Arが、4,5位に置換基を有するカテコール由来の基(カテコールユニット;即ち、式(1)中、X及びX’が酸素原子または硫黄原子であり、Arがo−フェニレン基である場合)が特に好ましい。また、置換基がArとしてのo−ナフチレン基に1個結合する場合には、置換基はo−ナフチレン基の1,2,3位のいずれかに結合することが好ましく、o−ナフチレン基に2個結合する場合には、置換基はo−ナフチレン基に1,2位、2,3位のいずれかに結合することが好ましい。
【0043】
上記式(1)中、R’およびR”は、水素原子、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基または置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わす。なお、R’およびR”は、それぞれ、同一であってもあるいは異なるものであってもよく、また、各フタロシアニン構成単位において、それぞれ、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。このように、フタロシアニン骨格のα位に−N(R’)(R”)が存在すると、可視光線透過率を高く維持しながら(即ち、可視光吸収を抑えながら)、最大吸収波長を長波長化することができる。また、上記置換基−N(R’)(R”)中のR’及びR”を適宜選択することによって、得られるフタロシアニン化合物の最大吸収波長を容易に制御できる。このため、本発明のフタロシアニン化合物をプラズマディスプレー用の近赤外線吸収フィルター(誤動作防止フィルター)として使用しても、ディスプレーからでる近赤外線光を効率よくカットし、かつ可視光線の透過率が高いため、優れた画像の鮮明さが達成できる。具体的には、フタロシアニン化合物の可視光線透過率は、少なくとも65%以上、好ましくは70%以上であることが好ましい。
【0044】
ここで、R’およびR”としての炭素原子数1〜20個のアルキル基としては、炭素原子数1〜20個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基であり、好ましくは炭素原子数1〜8個の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−イソプロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2−メチル−1−イソプロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、イコシル基、3−メチル−1−イソプロピルブチル基、2−メチル−1−イソプロピル基、1−tert−ブチル−2−メチルプロピル基、n−ノニル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基などが挙げられる。これらのうち、2−エチルヘキシル基、n−ヘキシル基が好ましい。また、R’およびR”としてのアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基などが例示できるが、これらに限定されるものではない。また、上記フェニル基またはアラルキル基に場合によっては存在する置換基、ならびに上記アルキル基によっては存在する置換基については、下記に詳述する。
【0045】
上記のうち、R’およびR”の一方が水素原子であり、かつ他方が炭素原子数1〜20個のアルキル基であることが好ましく、より好ましくはR’およびR”の一方が水素原子であり、かつ他方がn−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ヘキシル基;置換基としてアリール基を1〜3個有する、炭素原子数1〜3のアルキル基であり、特に好ましくはR’およびR”の一方が水素原子であり、かつ他方が2−エチルヘキシル基、n−ヘキシル基である;またはR’およびR”の一方が水素原子であり、かつ他方が置換基としてフェニル基を1若しくは2個有するメチル基若しくはエチル基である。ここで、例えば、R’が水素原子でありR”がフェニル基を2個有するメチル基である−N(R’)(R”)としては、ベンズヒドリルアミノ基があり、また、R’が水素原子でありR”がフェニル基を1個有するエチル基である−N(R’)(R”)としては、1−または2−フェニルエチルアミノ基がある。
【0046】
上記式(1)中、Aは、酸素原子(−O−)、硫黄原子(−S−)または単結合(−)を表わす。この際、Aは、各フタロシアニン構成単位において、それぞれ、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。また、Rは、置換基を有していてもよいフェニル基若しくはナフチル基、置換基を有していてもよいアラルキル基または置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わす。この際、Rは、各フタロシアニン構成単位において、それぞれ、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。
【0047】
ここで、Rとしての炭素原子数1〜20個のアルキル基としては、炭素原子数1〜20個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基であり、好ましくは炭素原子数1〜8個の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−イソプロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2−メチル−1−イソプロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられる。これらのうち、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基が好ましく、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基が特に好ましい。また、Rとしてのアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基などが例示できるが、これらに限定されるものではない。上記のうち、Rは、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基であることが好ましく、より好ましくは無置換のあるいは置換基を有するフェニル基である。Rが置換基を有する場合の置換基としては、上記に制限されず、以下に詳述するような置換基もまた同様にして使用されうる。また、フェニル基への置換基の結合数及び結合位置も、上記に制限されない。具体的には、フェニル基への置換基の結合数は、1〜5のいずれの整数であってもよいが、好ましくは1〜4、より好ましくは1〜3、最も好ましくは1または2である。またフェニル基への置換基の結合位置は、特に制限されない。
【0048】
以下、フェニル基またはアラルキル基に場合によっては存在する置換基について説明する。上記フェニル基またはアラルキル基に場合によっては存在する置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アシル基、アルキル基、フェニル基、アルコキシル基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルキルチオ基、カルバモイル基、アリールオキシカルボニル基、オキシアルキルエーテル基、シアノ基などが例示できるが、これらに限定されるものではない。これらの置換基は、フェニル基またはアラルキル基に1〜5個置換可能であり、これらの置換基の種類も、複数個置換する場合には同種若しくは異種のいずれであっても良い。上記置換基よりその一部をより具体的な例を挙げて以下に示す。
【0049】
まず、上記フェニル基またはアラルキル基に場合によっては存在する置換基のうちハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子、好ましくはフッ素原子、塩素原子である。
【0050】
また、上記フェニル基またはアラルキル基に場合によっては存在する置換基のうちアシル基としては、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ブチルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、ヘキシルカルボニル基、ベンゾイル基、p−tert−ブチルベンゾイル基など等が挙げられ、これらのうち、エチルカルボニル基が好ましい。
【0051】
また、上記フェニル基またはアラルキル基に場合によっては存在する置換基のうちアルキル基とは、炭素原子数1〜20個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基であり、好ましくは炭素原子数1〜8個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−イソプロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2−メチル−1−イソプロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられる。これらのうち、メチル基及びエチル基が好ましい。より具体的には、アルキル基を有するフェニル基の例としては、2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2,6−ジエチルフェニル基などがある。
【0052】
上記フェニル基またはアラルキル基に場合によっては存在する置換基のうち、アルコキシル基は、炭素原子数1〜20個の直鎖、分岐鎖または環状のアルコキシル基であり、好ましくは炭素原子数1〜8個の直鎖、分岐鎖または環状のアルコキシル基である。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、1,2−ジメチル−プロポキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、1,3−ジメチルブトキシ基、1−イソプロピルプロポキシ基などが挙げられる。これらのうち、メトキシ基及びエトキシ基が好ましい。より具体的には、アルコキシル基を有するフェニル基の例としては、4−メトキシフェニル基、4−エトキシフェニル基、2,6−ジメトキシフェニル基、2,6−ジエトキシフェニル基などがある。
【0053】
上記フェニル基またはアラルキル基に場合によっては存在する置換基のうち、ハロゲン化アルキル基とは、炭素原子数1〜20個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基の一部がハロゲン化されたものであり、好ましくは炭素原子数1〜8個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基の一部がハロゲン化されたものである。具体的には、クロロメチル基、ブロモメチル基、トリフルオロメチル基、クロロエチル基、2,2,2−トリクロロエチル基、ブロモエチル基、クロロプロピル基、ブロモプロピル基などが挙げられる。
【0054】
上記フェニル基またはアラルキル基に場合によっては存在する置換基のうち、ハロゲン化アルコキシル基とは、炭素原子数1〜20個の直鎖、分岐鎖または環状のアルコキシル基の一部がハロゲン化されたものであり、好ましくは炭素原子数1〜8個の直鎖、分岐鎖または環状のアルコキシル基の一部がハロゲン化されたものである。具体的には、クロロメトキシ基、ブロモメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、クロロエトキシ基、2,2,2−トリクロロエトキシ基、ブロモエトキシ基、クロロプロポキシ基、ブロモプロポキシ基などが挙げられる。
【0055】
上記フェニル基またはアラルキル基に場合によっては存在する置換基のうち、アルキルアミノ基とは、炭素原子数1〜20個のアルキル部位を有するアルキルアミノ基、好ましくは炭素原子数1〜8個のアルキル部位を有するアルキルアミノ基である。具体的には、(ジ)メチルアミノ基、(ジ)エチルアミノ基、(ジ)n−プロピルアミノ基、(ジ)n−ブチルアミノ基、(ジ)sec−ブチルアミノ基、(ジ)n−ペンチルアミノ基、(ジ)n−ヘキシルアミノ基、(ジ)n−ヘプチルアミノ基、(ジ)n−オクチルアミノ基、(ジ)2−エチルヘキシルアミノ基などが挙げられる。これらのうち、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n−プロピルアミノ基、n−ブチルアミノ基、n−ヘキシルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基が好ましい。
【0056】
上記フェニル基またはアラルキル基に場合によっては存在する置換基のうち、アルコキシカルボニル基とは、アルコキシル基のアルキル基部分にヘテロ原子を含んでもよい炭素原子数1〜8個、好ましくは1〜5個のアルコキシカルボニル、またはヘテロ原子を含んでもよい炭素原子数3〜8個、好ましくは5〜8個の環状アルコキシカルボニルを示す。具体的には、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基などが挙げられる。これらのうち、メトキシカルボニル基及びエトキシカルボニル基が好ましい。
【0057】
一方、非置換の炭素原子数1〜20個のアルキル基は、上述したように、炭素原子数1〜20の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基のいずれかであればよく、好ましくは炭素原子数1〜8の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−イソプロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2−メチル1−イソプロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられる。
【0058】
ここでは、アルキル基に場合によっては存在する置換基について説明する。上記炭素原子数1〜20個のアルキル基に場合によっては存在する置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルコキシル基、ヒドロキシアルコキシル基、アルコキシアルコキシル基、ハロゲン化アルコキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アリール基などが例示できるが、これらに限定されるものではない。これらの置換基の種類は、複数個置換する場合には同種若しくは異種のいずれであっても良い。これらの置換基の一部のより具体的な例としては、先にフェニル基またはアラルキル基に場合によっては存在する置換基の一部のより具体的な例として挙げたものであつてもよいため、ここでは省略する。また、置換基としての、アリール基の具体的な例もまた特に制限されないが、例えば、フェニル基、ナフチル基などがあり、好ましくはフェニル基である。
【0059】
本発明において、α位及びβ位に導入される置換基「−A−R」及び「−N−(R’)(R”)」は、フタロシアニン構成単位(フタロシアニン骨格の各ベンゼン環)に均質になる(各ベンゼン環に同数の置換基が存在する)ように配置される。すなわち、4個の−A−R及び4個の−N(R’)(R”)は、フタロシアニン骨格の各ベンゼン環のα位及びβ位に1個ずつ存在する。これにより、所望のフタロシアニン化合物の製造工程が容易であり、また、種々の特性(可視光線透過率、近赤外線光のカット効率、近赤外吸収能、溶媒溶解性、樹脂との相溶性、耐熱性、耐光性及び耐候性など)を向上できる。
【0060】
したがって、本発明のフタロシアニン化合物の好ましい例としては、下記化合物がある。なお、下記例示では、上記式(1)のフタロシアニン化合物のMについては規定していない。本発明のフタロシアニン化合物はこれに限定されるものではなく、以下に例示するフタロシアニン化合物が無金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物である場合を包含することは言うまでもない。また、下記例示には、位置異性体は記載されないが、各フタロシアニン化合物の位置異性体も含まれることは言うまでもない。
【0061】
【化5】

【0062】
【化6】

【0063】
【化7】

【0064】
【化8】

【0065】
【化9】

【0066】
【化10】

【0067】
本発明のフタロシアニン化合物またはその位置異性体の製造方法は、特に制限されるものではなく、特開2001−106689号公報、特開2005−220060号公報などの従来公知の方法を適当に利用することができるが、好ましくは、溶融状態または有機溶媒中で、フタロニトリル化合物と金属塩とを環化反応する方法が特に好ましく使用できる。以下、本発明のフタロシアニン化合物またはその位置異性体の製造方法の特に好ましい実施形態を記載する。しかしながら、本発明は、下記好ましい実施形態に制限されるものではない。
【0068】
すなわち、下記式(3):
【0069】
【化11】

【0070】
で示されるフタロニトリル化合物を、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物および有機酸金属(本明細書中では、一括して「金属塩」とも称する)からなる群から選ばれる一種と環化反応させることによって、フタロシアニン化合物(1)が製造できる。なお、上記式(3)中、置換基「X」、「X’」、「Ar」、「A」、「R」、「R’」及び「R”」は、所望のフタロシアニン化合物(1)の構造によって規定され、上記式(1)の定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。このため、各フタロシアニン構成単位中の上記置換基が異なる場合には、各置換基に対応する置換基を有するフタロニトリル化合物が複数種使用される。また、フタロシアニン化合物の位置異性体は、上記式(3)のフタロニトリル化合物やその位置異性体を使用して同様に下記に詳述する製造方法を用いて同様に製造できるため、下記説明では、フタロシアニン化合物の位置異性体の製造方法の説明を省略する。
【0071】
上記製造方法において、上記式(3)フタロニトリル化合物は、所望のフタロシアニン構造に応じて適宜選択され、それぞれ異なる4種類のフタロニトリル化合物を用いてもよいし、1種類のフタロニトリル化合物のみを用いてもよい。
【0072】
または、下記式(4):
【0073】
【化12】

【0074】
ただし、X、X’、Ar、A及びRは、上記式(1)と同様の定義であり、Zは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等のハロゲン原子、好ましくはフッ素原子および塩素原子、特に好ましくはフッ素原子を表わす、
で示されるフタロニトリル化合物を、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物及び有機酸金属からなる群から選ばれる一種と環化反応させた後、該反応生成物をさらに下記式:H−N(R’)(R”)(式中、R’及びR”は、上記式(1)と同様の定義である)で示されるアミノ化合物(以下、単に「アミノ化合物」とも称する)と反応させることによって、本発明のフタロシアニン化合物を製造してもよい。
【0075】
具体的には、上記式(4)のフタロニトリル化合物を、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物及び有機酸金属からなる群から選ばれる一種と環化反応させることによって、アミノ基(上記式(1)中の−N(R’)(R”))を持たない化合物(フタロシアニン誘導体)を合成し、次に、このようにして合成されたフタロシアニン誘導体をさらに上記式のアミノ化合物と反応させることによって、本発明のフタロシアニンを製造することができる。当該方法は、上記式のアミノ化合物のアミノ基との求核置換反応性がハロゲン原子との場合で有意に高く、他の置換基とはほとんど求核置換反応性を示さないことを利用したものであり、ハロゲン原子が上記式のアミノ化合物と求核置換反応することによりアミノ基(上記式(1)中の−N(R’)(R”))を選択的に所望の位置に導入できる。このため、フタロシアニン骨格の所望の位置に効率よくアミノ基(上記式(1)中の−N(R’)(R”))を導入でき、目的とするフタロシアニン化合物の純度及び収率を向上することができるとともに850から1000nmの任意の場所に最大吸収波長を有するフタロシアニンを得ることができる。
【0076】
上記態様において、出発原料である式(2)のフタロニトリル化合物は、特開昭64−45474号公報や特開2007−230999号公報に開示されている方法などの、従来既知の方法により合成でき、また、市販品を用いることもできる。好ましくは、下記方法が使用される。ただし、本発明のフタロシアニン化合物の製造方法が下記方法によって限定されるものではない。具体的には、上記式(1)中、Aが酸素原子または硫黄原子である場合には、下記反応式に示されるように、式(5)で示されるハロゲン化フタロニトリルを、式(6):H−A−Rで示される化合物と反応させることによって得る。この際、式(5)において、Z、Z、ZおよびZは、それぞれ独立して、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等のハロゲン原子、好ましくはフッ素原子および塩素原子、特に好ましくはフッ素原子を表わす。また、上記式(6)中、A及びRは、上記式(1)と同様の定義である。なお、下記において、同一の置換基については、上記と同様の定義であるため、各説明を省略する。
【0077】
【化13】

【0078】
このように予め式(5)のハロゲン化フタロニトリルの4位に置換基−A−Rを導入することによって、ここで得られる式(7)の反応生成物と次工程の式(8):HX−Ar−X’Hの化合物との反応により、置換基−X−Ar−X−は確実に式(7)の反応生成物の5,6位をまたぐように導入されうる。また、式(5)で示されるハロゲン化フタロニトリルと式(6):H−A−Rで示される化合物との反応では、反応性の観点から、求核置換反応はまず4位で起こる。このため、上記反応によって、置換基−A−Rは、式(5)のハロゲン化フタロニトリルのβ位(4位または5位)に選択的に導入される。
【0079】
上記反応において、式(6)の化合物(H−A−R)を複数種使用する場合には、式(6)の化合物(H−A−R)のそれぞれの混合割合は、目的とするフタロニトリル化合物の構造によって適宜選択される。また、式(6)の化合物の使用量は、これらの反応が進行して所望の式(7)の反応生成物を製造できる量であれば特に制限されないが、例えば、式(5)のハロゲン化フタロニトリルに1個の置換基−A−Rを導入する場合には、式(6)の化合物(H−A−R)の添加量は、化学量論的には式(5)のハロゲン化フタロニトリルと同等であるが、反応効率などを考慮すると、式(6)の化合物(H−A−R)を式(5)のハロゲン化フタロニトリルに対して多めに添加することが好ましい。具体的には、式(6)の化合物(H−A−R)を、式(5)のハロゲン化フタロニトリル1モルに対して、好ましくは0.8〜10モル、より好ましくは1〜3モルの量で、式(5)のハロゲン化フタロニトリルを反応させる。
【0080】
また、式(5)のハロゲン化フタロニトリルと式(6)の化合物との反応は、無溶媒下であるいは有機溶媒中で行われてもよいが、好ましくは有機溶媒中で行なわれる。この際使用できる有機溶媒としては、アセトニトリル、ベンゾニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。これらのうち、好ましくはメチルエチルケトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、メチルイソブチルケトンであり、より好ましくはメチルエチルケトン、アセトニトリルである。溶媒を使用する際の有機溶媒の使用量は、式(5)のハロゲン化フタロニトリルと式(6)の化合物(H−A−R)を合わせた固形分が有機溶媒中の濃度で、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜40質量%となるような量である。
【0081】
式(5)のハロゲン化フタロニトリル及び式(6)の化合物の添加形態は、特に制限されない。例えば、上記反応を有機溶媒中で行なう場合には、上記反応は、ア)式(5)のハロゲン化フタロニトリルと式(6)の化合物とを、一括してもしくは別々に、段階的にもしくは連続して、有機溶媒に添加する;イ)式(6)の化合物を、段階的にもしくは連続して、式(5)のハロゲン化フタロニトリルを有機溶媒に溶解した溶液に添加する;ウ)式(5)のハロゲン化フタロニトリルを、段階的にもしくは連続して、式(6)の化合物を有機溶媒に溶解した溶液に添加する;エ)式(5)のハロゲン化フタロニトリルを有機溶媒に溶解した溶液を、段階的にもしくは連続して、式(6)の化合物を有機溶媒に溶解した溶液に添加する;オ)(6)の化合物を有機溶媒に溶解した溶液を、段階的にもしくは連続して、式(5)のハロゲン化フタロニトリルを有機溶媒に溶解した溶液に添加するなどによって行なわれる。これらのうち、上記反応効率などを考慮すると、イ)、オ)の添加方法が好ましく、オ)の添加方法が特に好ましい。なお、上記エ)やオ)において、使用する有機溶媒の種類は、式(5)のハロゲン化フタロニトリル及び式(6)の化合物で、同じであってもあるいは異なるものであってもよいが、好ましくは同じである。
【0082】
また、式(5)のハロゲン化フタロニトリルと式(6)の化合物との反応は、反応中に発生するハロゲン化水素(例えば、フッ化水素)等を除去するために、これらのトラップ剤を使用することが好ましい。トラップ剤を使用する際の具体的なトラップ剤の例としては、フッ化カリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、塩化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムなどが挙げられ、これらのうち、フッ化カリウム、炭酸カルシウムおよび水酸化カルシウムが好ましく、フッ化カリウムと炭酸カルシウムが最も好ましい。また、トラップ剤を使用する際のトラップ剤の使用量は、反応中に発生するハロゲン化水素等を効率良く除去できる量であれば特に制限されないが、式(5)のハロゲン化フタロニトリル1モルに対して、通常1〜10モル、好ましくは1.05〜5モルである。また、トラップ剤を使用する際に、トラップ剤は、いずれの時期に添加してもよいが、好ましくは式(5)のハロゲン化フタロニトリルまたは式(6)の化合物に添加し、より好ましくは式(5)のハロゲン化フタロニトリルを有機溶媒に溶解した溶液または式(6)の化合物を有機溶媒に溶解した溶液に添加し、さらに好ましくは式(5)のハロゲン化フタロニトリルを有機溶媒に溶解した溶液に添加する。
【0083】
上記式(5)のハロゲン化フタロニトリルと式(6)の化合物との反応条件は、この反応が進行する条件であれば特に制限されない。具体的には、式(5)のハロゲン化フタロニトリルと式(6)の化合物との反応を、−20〜120℃、より好ましくは−10〜80℃の反応温度で、1〜24時間、より好ましくは2〜12時間、行なう。
【0084】
また、上記式(1)中、Aが単結合である場合のフタロシアニン化合物の製造方法は、特に制限されず、例えば、特開2007−230999号公報に記載の方法等、公知の方法を必要であれば修飾して使用できる。以下、当該方法の好ましい形態を記載する。すなわち、下記反応式に示されるように、ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属の存在下で、式(5)で示されるハロゲン化フタロニトリルを、式(6’):R−MgQ[ここで、Qは、ハロゲン原子であり、好ましくは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子であり、より好ましくは臭素原子またはヨウ素原子である]で示される化合物と反応させることによって得る。この際、式(5)において、Z、Z、ZおよびZは、それぞれ独立して、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等のハロゲン原子、好ましくはフッ素原子および塩素原子、特に好ましくはフッ素原子を表わす。また、上記式(6’)中、Rは、上記式(1)と同様の定義である。なお、下記において、同一の置換基については、上記と同様の定義であるため、各説明を省略する。
【0085】
【化14】

【0086】
上記反応によると、ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属を用いることにより、上記式(6’)の化合物(グリニャール試薬)のシアノ基への攻撃が抑制され、式(5)で示されるハロゲン化フタロニトリルからの置換反応の選択性(置換生成物の収率)が向上できる。即ち、また、式(5)で示されるハロゲン化フタロニトリルと式(6’):R−MgQで示される化合物との反応では、反応性の観点から、求核置換反応はまず4位で起こる。このため、上記反応によって、置換基−Rは、式(5)のハロゲン化フタロニトリルのβ位(4位または5位)に選択的に導入される。
【0087】
上記反応において、ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属は、特に制限されない。具体的には、ハロゲン化アルカリ金属としては、ハロゲン化リチウムが好ましく使用され、より好ましくは塩化リチウムおよび臭化リチウムである。また、ハロゲン化アルカリ土類金属としては、フッ化マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、塩化カルシウムが好ましく使用される。これらの中でも、溶媒への溶解性、並びに反応性および選択性の影響を考慮すると、塩化リチウムが最も好ましい。ここで、上記ハロゲン化アルカリ金属およびハロゲン化アルカリ土類金属は、それぞれ、単独で使用されても若しくは2種以上が混合物の形態で使用されても、またはこれらの1種若しくは2種以上を適宜組み合わせて使用されてもよい。
【0088】
また、上記式(6’)の化合物(以下、「グリニャール試薬」とも称する)は、既知の有機ハロゲン化物から、以下に示すような既知の方法で製造することができる。また、グリニャール試薬は、市販品であってもよい。例えば、溶媒(通常はエーテル系溶媒、好ましくはテトラヒドロフラン(THF))にマグネシウムを加えたものに、有機ハロゲン化物または有機ハロゲン化物溶液を添加することにより、容易に製造することができる。なお、グリニャール試薬は水などに対して不安定であるので、その調製は、水分を排除した雰囲気下、例えば不活性ガス(好ましくは窒素またはアルゴン)雰囲気下で行う必要があり、溶媒も脱水したものを使用する必要がある。また、グリニャール試薬を調製するために使用するマグネシウム量は、理論的必要量に対して、通常1倍以上で、1.5倍以下、好ましくは1.3倍以下、より好ましくは1.2倍以下である。またグリニャール試薬溶液の濃度は、好ましくは0.1〜2(モル/L)、より好ましくは1(モル/L)程度である。
【0089】
また、グリニャール試薬は水などに対して不安定であるため、グリニャール試薬を調製した溶液は、そのまま合成反応に用いられることが好ましい。通常、グリニャール試薬と式(5)で示されるハロゲン化フタロニトリルとのカップリングでは、基質である当該式(5)のハロゲン化フタロニトリルまたはその溶液に、グリニャール試薬溶液を添加することにより、反応が行われる。なお、このような添加形態が好ましいが、グリニャール試薬溶液に、基質またはその溶液を添加してもよいし、グリニャール試薬溶液と基質溶液とを同時に反応容器に添加・混合してもよい。
【0090】
上記反応に使用する溶媒は、特に限定されず、添加剤(ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属)、グリニャール試薬および式(5)のハロゲン化フタロニトリルが溶解するものを使用することができる。グリニャール試薬が分解しないようにするため、充分に脱水した溶媒を使用することが好ましい。好ましい溶媒としては、エーテル系溶媒であり、より好ましいものはTHFおよびジエチルエーテルがある。上記溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0091】
グリニャール試薬溶液と式(5)のハロゲン化フタロニトリルとの添加・混合、およびその後のカップリング反応を充分に進行させるための撹拌は、水分を除去した雰囲気、例えば不活性ガス(好ましくは窒素またはアルゴン)雰囲気下で行うことが好ましい。
【0092】
ハロゲン化アルカリ金属等の存在下での、上記グリニャール試薬と、基質である式(5)のハロゲン化フタロニトリルとのカップリング反応は、グリニャール試薬の溶液、および基質溶液の少なくとも一方に、ハロゲン化アルカリ金属等を含ませて、グリニャール試薬溶液および基質溶液を混合することにより行うことができる。なお基質溶液を用いる場合、その濃度には特に限定は無いが、反応速度を向上させるためには、基質溶液の濃度はできる限り高い方が好ましい。
【0093】
ハロゲン化アルカリ金属等のグリニャール試薬への配位または相互作用を促進するために、ハロゲン化アルカリ金属等を含むグリニャール試薬溶液を反応に使用することが好ましい。より好ましくは、グリニャール試薬溶液および基質溶液の両方に、ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属を含ませておく。
【0094】
ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ金属の合計添加量は、特に制限されないが、グリニャール試薬中のマグネシウム1モルあたり、好ましくは0.1〜5モル、より好ましくは0.5〜4モル、さらに好ましくは1〜3モル程度である。
【0095】
グリニャール試薬及び基質(式(5)のハロゲン化フタロニトリル)は、基質中の置換しようとするハロゲン原子1モルあたり、グリニャール試薬中のMg量が、好ましくは1〜3モル、より好ましくは1.2〜2モル、さらに好ましくは1.3〜1.7モルとなるように、反応させることが好ましい。すなわち、例えば、1分子中に1つのマグネシウムを有するグリニャール試薬を用いて、含ハロゲン芳香族ニトリル化合物の一置換体を製造しようとする場合、基質1モルあたりのグリニャール試薬量は、好ましくは1〜3モル、より好ましくは1.2〜2モル、さらに好ましくは1.3〜1.7モルであり、二置換体の製造を予定する場合、基質1モルあたりのグリニャール試薬量は、好ましくは2〜6モル、より好ましくは2.4〜4モル、さらに好ましくは2.6〜3.4モルである。
【0096】
グリニャール試薬と基質との混合および反応は、副反応を抑制するために、低温で行うことが好ましい。但しあまりに低い温度は、特別な設備および冷却コストがかかり過ぎる。このようなことを考慮すると、混合および反応温度は、好ましくは50℃〜−35℃、より好ましくは40℃〜−20℃、さらに好ましくは30〜−5℃である。
【0097】
グリニャール試薬と基質との混合中および混合後に、通常、反応溶液を前記温度で撹拌することにより、反応を充分に進行させる。この撹拌時間は、好ましくは1時間〜数日、より好ましくは10〜48時間、さらに好ましくは24時間程度である。次いで、酸性水溶液と反応溶液とを混合することにより、反応を終了させることができる。
【0098】
このような反応によって、上記式(7)や(7’)の反応生成物が得られるが、ここで、式(7)や(7’)の反応生成物は、そのままの形態で次工程の式(8):HX−Ar−X’Hの化合物との反応に供してもよいが、精製した後、次工程の式(8):HX−Ar−X’Hの化合物との反応に供することが好ましい。ここで、精製方法としては、特に制限されず、洗浄、溶媒抽出、シリカゲルやアルミナ等によるカラムクロマトグラフィー、濾過、蒸留、好ましくは固体蒸留、再結晶、再沈及び昇華などの、公知の方法が使用できる。
【0099】
上記反応によって得られた式(7)や(7’)の反応生成物は、次に、式(8):HX−Ar−X’Hの化合物との反応に供される。ここで、式(7)や(7’)の反応生成物は、フタロニトリルの4位の位置にすでに−A−R基が導入されているため、下記反応式に示されるように、当該式(8)の化合物との反応によって、X−Ar−X’は高い確率でフタロニトリルの5,6位をまたぐように導入されうる。
【0100】
【化15】

【0101】
上記反応において、式(8)の化合物(HX−Ar−X’H)を複数種使用する場合には、上記式(6)の場合と同様、式(8)の化合物のそれぞれの混合割合は、目的とするフタロニトリル化合物の構造によって適宜選択される。また、式(8)の化合物の使用量は、式(7)の反応生成物と式(8)の化合物との反応が進行して所望の式(9)の化合物を製造できる量であれば特に制限されない。式(8)の化合物の添加量は、化学量論的には式(7)の反応生成物と同等であるが、反応効率などを考慮すると、式(8)の化合物を、式(7)の化合物1モルに対して、好ましくは0.8〜1.2モル、より好ましくは0.9〜1.1モルの量で添加する。
【0102】
また、式(7)の反応生成物と式(8)の化合物との反応は、無溶媒下であるいは有機溶媒中で行われてもよいが、好ましくは有機溶媒中で行なわれる。この際使用できる有機溶媒としては、アセトニトリル、ベンゾニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。これらのうち、好ましくはメチルエチルケトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、メチルイソブチルケトンであり、より好ましくはメチルエチルケトン、アセトニトリルである。溶媒を使用する際の有機溶媒の使用量は、式(7)の反応生成物と式(8)を合わせた固形分の有機溶媒中の濃度が、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは2〜20質量%となるような量である。
【0103】
式(7)の反応生成物及び式(8)の化合物の添加形態は、特に制限されない。例えば、上記反応を有機溶媒中で行なう場合には、上記反応は、ア’)式(7)の反応生成物と式(8)の化合物とを、一括してもしくは別々に、段階的にもしくは連続して、有機溶媒に添加する;イ’)式(8)の化合物を、段階的にもしくは連続して、式(7)の反応生成物を有機溶媒に溶解した溶液に添加する;ウ’)式(7)の反応生成物を、段階的にもしくは連続して、式(8)の化合物を有機溶媒に溶解した溶液に添加する;エ’)式(7)の反応生成物を有機溶媒に溶解した溶液を、段階的にもしくは連続して、式(8)の化合物を有機溶媒に溶解した溶液に添加する;オ’)(6)の化合物を有機溶媒に溶解した溶液を、段階的にもしくは連続して、式(7)の反応生成物を有機溶媒に溶解した溶液に添加するなどによって行なわれる。これらのうち、上記反応効率などを考慮すると、イ’)やオ’)の添加方法が好ましく、オ’)の添加方法が特に好ましい。なお、上記エ’)やオ’)において、使用する有機溶媒の種類は、式(7)の反応生成物及び式(8)の化合物で、同じであってもあるいは異なるものであってもよいが、好ましくは同じである。
【0104】
また、式(7)の反応生成物と式(8)の化合物との反応は、反応中に発生するハロゲン化水素(例えば、フッ化水素)等を除去するために、これらのトラップ剤を使用することが好ましい。トラップ剤を使用する際の具体的なトラップ剤の例としては、フッ化カリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、塩化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムなどが挙げられ、これらのうち、フッ化カリウム、炭酸カルシウムおよび水酸化カルシウムが好ましく、フッ化カリウムや炭酸カルシウムが最も好ましい。また、トラップ剤を使用する際のトラップ剤の使用量は、反応中に発生するハロゲン化水素等を効率良く除去できる量であれば特に制限されないが、式(7)の反応生成物1モルに対して、通常1〜10モル、好ましくは1.05〜5モルである。また、トラップ剤を使用する際に、トラップ剤は、いずれの時期に添加してもよいが、好ましくは式(7)の反応生成物または式(8)の化合物に添加し、より好ましくは式(7)の反応生成物を有機溶媒に溶解した溶液または式(8)の化合物を有機溶媒に溶解した溶液に添加し、さらに好ましくは式(7)の反応生成物を有機溶媒に溶解した溶液に添加する。
【0105】
上記式(7)の反応生成物と式(8)の化合物との反応条件は、この反応が進行する条件であれば特に制限されない。具体的には、式(7)の反応生成物と式(8)の化合物との反応を、−20〜120℃、より好ましくは−10〜80℃の反応温度で、1〜24時間、より好ましくは2〜12時間、行なう。
【0106】
このような反応によって、上記式(9)の化合物が得られるが、ここで、式(9)の化合物は、そのままの形態で次の環化反応に供してもよいが、精製した後、次の環化反応に供することが好ましい。ここで、精製方法としては、特に制限されず、洗浄、溶媒抽出、シリカゲルやアルミナ等によるカラムクロマトグラフィー、濾過、蒸留、好ましくは固体蒸留、再結晶、再沈及び昇華などの、公知の方法が使用できる。
【0107】
上記反応によって得られた式(9)の化合物は、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物及び有機酸金属からなる群から選ばれる一種と環化反応させることにより、フタロシアニン骨格の一つのα位がハロゲン原子であるフタロシアニン化合物(以下、「フタロシアニン前駆体」とも称する)を得る。このようにして得られたフタロシアニン前駆体をさらに下記式:H−N(R’)(R”)(式中、R’及びR”は、上記式(1)と同様の定義である)で示されるアミノ化合物(以下、単に「アミノ化合物」とも称する)と反応させることによって、本発明のフタロシアニン化合物を製造されうる。
【0108】
ここで、環化反応は、上記反応によって得られた式(9)の化合物及び金属、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物及び有機酸金属からなる群から選ばれる一種を溶融状態または有機溶媒中で反応させることが好ましい。この際使用できる金属、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物及び有機酸金属としては、反応後に得られる式(1)のフタロシアニンのMに相当するものが得られるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、上記式(1)におけるMは、鉄、銅、亜鉛、バナジウム、チタン、インジウム及びスズ等の金属、当該金属の、塩化物、臭化物、ヨウ化物等の金属ハロゲン化合物、酸化バナジウム、酸化チタニル及酸化銅等の金属酸化物、酢酸塩等の有機酸金属、ならびにアセチルアセトナート等の錯体化合物及びカルボニル鉄等の金属カルボニル等が挙げられる。これらのうち、好ましくは金属、金属酸化物及び金属ハロゲン化物であり、より好ましくは三塩化バナジウム、塩化銅(I)、塩化銅(II)、ヨウ化亜鉛、塩化スズであり、特に好ましくは三塩化バナジウム、塩化銅(I)、ヨウ化亜鉛である。
【0109】
また、上記方法において、環化反応は無溶媒中でも行なえるが、有機溶媒を使用して行なうことが好ましい。有機溶媒は、式(9)の化合物との反応性の低い、好ましくは反応性を示さない不活性な溶媒であればいずれでもよく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1−クロロナフタレン、1−メチルナフタレン、エチレングリコール、及びベンゾニトリル等の不活性溶媒;ならびにピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトフェノン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、1−クロロナフタレン、1−メチルナフタレン及びベンゾニトリルが、より好ましくは、ベンゾニトリルが使用される。
【0110】
上記式(9)の化合物と金属化合物との反応条件は、当該反応が進行する条件であれば特に制限されるものではないが、例えば、有機溶媒100部(以下、「質量部」を意味する)に対して、式(9)の化合物を2〜50部、好ましくは10〜40部の範囲の合計量で、かつ金属化合物を式(9)の化合物4モルに対して1.0〜4.0モル、好ましくは1.0〜2.0モルの範囲で仕込んで、反応温度30〜250℃、好ましくは80〜200℃の範囲で、1〜40時間、好ましくは2〜30時間、反応させる。なお、反応後は、従来公知のフタロシアニンの合成方法に従って、濾過、洗浄、乾燥することにより、次工程に用いることのできるフタロシアニン誘導体を効率よく、しかも高純度で得ることができる。
【0111】
上記反応によってフタロシアニン骨格のα位にアミノ基(−N(R’)(R”))を持たないフタロシアニン前駆体が製造される。次に、このフタロシアニン前駆体と式:H−N(R’)(R”)(式中、R’及びR”は、上記式(1)と同様の定義である)で示されるアミノ化合物(以下、単に「アミノ化合物」とも称する)との反応により、本発明のフタロシアニン化合物が製造される。
【0112】
フタロシアニン前駆体と上記アミノ化合物との反応は、必要であれば、反応に用いる化合物と反応性のない不活性な液体の存在下で混合し、一定の温度に加熱することにより行うことができ、好ましくは、反応させるアミノ化合物中で、一定の温度に加熱することにより行う。不活性な液体としては、例えば、1,2,4−トリメチルベンゼン、ベンゾニトリル、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、トルエン、キシレンなどが挙げられ、これらは単独であるいは2種以上の混合液の形態で用いることができる。
【0113】
上記反応では、フタロシアニン前駆体のα位に選択的にアミノ基(−N(R’)(R”))が導入できる。ここで、上記式のアミノ化合物の添加量は、フタロシアニン前駆体のα位に選択的にアミノ基(−N(R’)(R”))が導入できる量であれば特に制限されない。好ましくは、上記式のアミノ化合物の添加量は、フタロシアニン前駆体1モルに対して、1〜48モル、より好ましくは4〜40モルの範囲で仕込む。
【0114】
次に、この反応産物に、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等の無機分を、発生してくるハロゲン化水素をトラップする目的で、フタロシアニン誘導体1モルに対して、1〜16モル、好ましくは3〜8モルの範囲でトラップ剤を仕込んでもよい。この際、使用できるトラップ剤は、上記環化反応におけるものと同様である。また、上記フタロシアニン前駆体とアミノ化合物との反応条件は、この反応が進行する条件であれば特に制限されない。例えば、反応温度は、好ましくは20〜200℃、より好ましくは30〜150℃であり、反応時間は、好ましくは1〜40時間、より好ましくは2〜30時間である。なお、反応後は、従来公知のフタロシアニンの置換反応による合成方法に従って、無機分を濾過し、アミノ化合物を留去や洗浄などを行なうことにより、目的とする本発明のフタロシアニン化合物を複雑な製造工程を経ることなく効率よく、しかも高純度で得ることができる。
【0115】
このように製造された本発明のフタロシアニン化合物は、800〜1100nm、特に850〜1000nmの波長域で高い近赤外線カット効率を発揮しつつ、粘着材(粘着層)中での優れた耐光性を示す。したがって、本発明のフタロシアニン化合物は、半透明ないし透明性を有しかつ熱線を遮蔽する目的の熱線遮蔽材、自動車用の熱線吸収合わせガラス、熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽樹脂ガラス、可視光線透過率が高くかつ近赤外線光のカット効率の高い近赤外線吸収フィルター、特にプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルター、フラッシュ定着などの非接触定着トナー用の近赤外線吸収剤として、また、保温蓄熱繊維用の近赤外線吸収剤、赤外線による偵察に対し偽装性能(カモフラージュ性能)を有する繊維用の赤外吸収剤、半導体レーザーを使う光記録媒体、キセノンランプをバックライトとする液晶ディスプレイ用フィルター、光学文字読取機等における書き込みあるいは読み取りの為の近赤外線吸収色素、近赤外光増感剤、感熱転写・感熱孔版等の光熱交換剤、レーザービームを使用して樹脂を熱融着させるレーザー融着用の光熱交換剤、近赤外線吸収フィルター、眼精疲労防止剤あるいは光導電材料等、さらに組織透過性の良い長波長域の光に吸収を持つ腫瘍治療用感光性色素、カラーブラウン管選択吸収フィルター、カラートナー、インクジェット用インク、改ざん偽造防止用インク、改ざん偽造防止用バーコード用インク、近赤外吸収インク、写真やフィルムの位置決め用マーキング剤、およびゴーグルのレンズや遮蔽板、プラスチックリサイクルの際の仕分け用の染色剤、ならびにPETボトルの成形加工時のプレヒーティング助剤などに用いる際に優れた効果を発揮するものである。特に上記した特性を考慮すると、本発明のフタロシアニン化合物は、近赤外線吸収フィルター、特にプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルターに好適に使用できる。
【0116】
ゆえに、本発明の第二は、本発明のフタロシアニン化合物を含む近赤外線吸収フィルター、特にプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルターに関する。ここで、本発明のフタロシアニン化合物は、上記近赤外線吸収フィルター中に、1種を単独で含まれてもあるいは2種以上を混合物の形態で含まれてもよい。以下、本発明の特に好ましい形態であるPDP用近赤外線吸収フィルターについて詳細に説明する。
【0117】
本発明のPDP用近赤外線吸収フィルターは、本発明のフタロシアニン化合物を基材に含有してなるもので、本発明でいう基材に含有するとは、基材の内部に含有されることはもちろんのこと、基材の表面に塗布した状態、基材と基材の間に挟まれた状態などを意味する。基材としては、透明樹脂板、透明フィルム、透明ガラス等が挙げられる。上記フタロシアニン化合物を用いて、本発明のプラズマディスプレイパネル用フィルターを作製する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の3つの方法が利用できる。
【0118】
本発明のプラズマディスプレイパネル用フィルターは、上記式(1)で表されるフタロシアニン化合物を基材に含有してなるもので、本発明でいう基材に含有するとは、基材の内部に含有されることはもちろんのこと、基材の表面に塗布した状態、基材と基材の間に挟まれた状態などを意味する。基材としては、透明樹脂板、透明フィルム、透明ガラス等が挙げられる。上記フタロシアニン化合物を用いて、本発明のプラズマディスプレイパネル用フィルターを作製する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の3つの方法が利用できる。
【0119】
すなわち、(1)樹脂に上記フタロシアニン化合物を混練し、加熱成形して樹脂板あるいはフィルムを作製する方法;(2)上記フタロシアニン化合物を含有する塗料(液状ないしペースト状物)を作製し、透明樹脂板、透明フィルムあるいは透明ガラス板上にコーティングする方法;および(3)上記フタロシアニン化合物を粘着剤に含有させて、合わせ樹脂板、合わせ樹脂フィルム、合わせガラス等を作製する方法、等である。これらのうち、上述したように、本発明のフタロシアニン化合物は粘着剤中でも優れた安定性を示す。このため、本発明のフタロシアニン化合物が上記(3)の形態で使用されることが好ましい。このように粘着層中に近赤外線吸収作用を付与することによって、必要なフィルムの数を低減できると同時に、コーティングがなされる基材フィルムも、フィルム等の機能を統合するとその使用枚数が低減でき、好ましい。
【0120】
まず、樹脂に上記フタロシアニン化合物を混練し、加熱成形する(1)の方法において、樹脂材料としては、樹脂板または樹脂フィルムにした場合にできるだけ透明性の高いものが好ましく、具体例としては、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル等のビニル化合物、およびそれらのビニル化合物の付加重合体、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリシアン化ビニリデン、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体、シアン化ビニリデン/酢酸ビニル共重合体などのビニル化合物またはフッ化系化合物の共重合体、ポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン等のフッ素を含む樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリペプチド、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等を挙げることができるが、これらの樹脂に限定されるものではなく、ガラス代替となるような高硬度、高透明性を有する樹脂、チオウレタン系等の熱硬化樹脂、ARTON(登録商標、日本合成ゴム株式会社製)、ZEONEX(登録商標、日本ゼオン株式会社製)、OPTPOREZ(日立化成株式会社製)、O−PET(鐘紡株式会社製)等の光学用樹脂を用いることも好ましい。
【0121】
本発明のプラズマディスプレイパネル用フィルターの作製方法としては、用いるベース樹脂によって、加工温度、フィルム化条件等が多少異なるが、通常、(I)本発明のフタロシアニン化合物を、ベース樹脂の粉体あるいはペレットに添加し、150〜350℃に加熱、溶解させた後、成形して樹脂板を作製する方法、(II)押出機によりフィルム化する方法、および(III)押出機により原反を作製し、30〜120℃で2〜5倍に、1軸ないし2軸に延伸して10〜200μm厚のフィルムにする方法等が挙げられる。なお、混練する際に、紫外線吸収剤、可塑剤等の通常の樹脂成形に用いる添加剤を加えてもよい。本発明のフタロシアニン化合物の添加量は、作製する樹脂の厚み、目的の吸収強度、目的の可視光透過率等によって異なるが、通常、該樹脂に対して0.0005〜20質量%、好ましくは0.0010〜10質量%である。また、本発明のフタロシアニン化合物とメタクリル酸メチルなどの塊状重合によるキャスティング法を用いた樹脂板、樹脂フィルムを作製することもできる。
【0122】
次に、塗料化してコーティングする(2)の方法としては、本発明のフタロシアニン化合物をバインダー樹脂および有機系溶媒に溶解させて塗料化する方法、フタロシアニン化合物を数μm以下に微粒化してアクリルエマルジョン中に分散して水系塗料とする方法、等がある。前者の方法では、通常、脂肪族エステル系樹脂、アクリル系樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、芳香族エステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリオレフィン樹脂、芳香族ポリオレフィン樹脂、ポリビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニル系変成樹脂、(PVB、EVA等)あるいはそれらの共重合樹脂をバインダー樹脂として用いる。さらに、ARTON(登録商標、日本合成ゴム株式会社製)、ZEONEX(登録商標、日本ゼオン株式会社製)、OPTPOREZ(日立化成株式会社製)、O−PET(鐘紡株式会社製)等の光学用樹脂を用いることもできる。溶媒としては、ハロゲン系、アルコール系、ケトン系、エステル系、脂肪族炭化水素系、芳香族炭化水素系、エーテル系溶媒、あるいはそれらの混合物系などを用いることができる。
【0123】
本発明のフタロシアニン化合物の濃度は、コーティングの厚み、目的の吸収強度、目的の可視光透過率等によって異なるが、バインダー樹脂の質量に対して、通常、0.1〜30%である。また、バインダー樹脂濃度は、塗料全体に対して、通常、1〜50%である。アクリルエマルション系水系塗料の場合も同様に、未着色のアクリルエマルション塗料に本発明のフタロシアニン化合物を微粉砕950〜500nm)したものを分散させて得られる。塗料中には、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の通常塗料に用いるような添加物を加えてもよい。上記の方法で作製した塗料は、透明樹脂フィルム、透明樹脂板、透明ガラス等の上にバーコーダー、ブレードコーター、スピンコーター、リバースコーター、ダイコーターあるいはスプレーなどでコーティングして、本発明のプラズマディスプレイパネル用フィルターを作製することができる。コーティング面を保護するために保護層を設けたり、透明樹脂板、透明樹脂フィルム等をコーティング面に貼り合わせることもできる。また、キャストフィルムも本方法に含まれる。
【0124】
さらに、上記フタロシアニン化合物を粘着剤に含有させて、合わせ樹脂板、合わせ樹脂フィルム、合わせガラス等を作製する(3)の方法においては、粘着剤として、一般的なシリコン系、ウレタン系、アクリル系、SBR系等の樹脂用あるいは合わせガラス用のポリビニルブチラール粘着剤(PVA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体系粘着剤(EVA)、カルボキシル化ポリオレフィン、塩素化ポリオレフィン等のポリオレフィン系等の合わせガラス用の公知の透明粘着剤が使用できる。より具体的な粘着剤としては、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート等を主成分として重合したポリマーがある。粘着剤は、合成してもあるいは市販品を使用してもよい。後者の例としては、アクリセットAST(日本触媒)等が挙げられる。この際、粘着剤のTgは、特に制限されないが、−80℃以上0℃以下が好ましい。当該範囲であれば、本発明のフタロシアニン化合物と粘着剤との混練時の組成物中での劣化が抑制され、かつ該組成物を用いて他の機能性フィルムと貼りあわせることができるため、簡便かつ経済的でありうる。
【0125】
また、本発明のフタロシアニン化合物を、樹脂固形分に対して、好ましくは0.01〜30質量%、より好ましくは0.1〜10質量%の量で、添加した粘着剤を用いて透明な樹脂板同士、樹脂板と樹脂フィルム、樹脂板とガラス、樹脂フィルム同士、樹脂フィルムとガラス、ガラス同士を接着してフィルターを製作する。また、熱圧着する方法もある。さらに、上記の方法で作製したフィルムあるいは板を、必要に応じて、ガラスや、樹脂板上に貼り付けることもできる。フィルターの厚みは作製するプラズマディスプレイの仕様によって異なるが、通常、0.1〜10mm程度である。また、フィルターの耐光性を上げるためにUV吸収剤を含有した透明フィルム(UVカットフィルム)を外側に貼り付けることもできる。
【0126】
本発明のフタロシアニン化合物をプラズマディスプレーパネル用の近赤外吸収フィルター(誤動作防止フィルター)として使用する場合には、ディスプレーからでる近赤外線光をカットするためにディスプレーの前面に設置するため、可視光線の透過率が低いと、画像の鮮明さが低下する。このため、フィルターの可視光線の透過率は高いほど良く、フタロシアニン化合物は、少なくとも65%、好ましくは70%以上であることが好ましい。また、近赤外線光のカット領域は、リモコンや伝送系光通信に使用されている800〜1100nm、好ましくは850〜1000nmであるため、本発明のフタロシアニン化合物の上記領域の平均光線透過率は、30%以下、好ましくは15%以下であることが好ましい。このために必要であれば、上記一般式(1)で表されるフタロシアニン化合物を2種以上組み合わせてもよい。また、フィルターの色調を変えるために、可視領域に吸収を持つ他の色素を加えることも好ましい。また、色調用色素のみを含有するフィルターを作製し、後で貼り合わせることもできる。特にスパッタリングなどの電磁波カット層を設けた場合、元のフィルター色に比べて色合いが大きく異なる場合があるため、色調は重要である。
【0127】
上記の方法で得たフィルターをさらに実用的にするためには、プラズマティスプレーから出る電磁波を遮断する電磁波カット層、反射防止(AR)層、ノングレア(AG)層を設けることもできる。それらの作製方法は、特に制限を受けない。例えば、電磁波カット層は、金属酸化物等のスパッタリング方法が利用できるが、通常はSnを添加したIn(ITO)が、一般的である。また、誘電体層と金属層を基材上に交互にスパッタリングなどで積層させることで、近赤外線、遠赤外線から電磁波まで1100nm以上の光をカットすることもでききる。誘電体層としては、酸化インジウム、酸化亜鉛などの透明な金属酸化物であり、金属層としては、銀あるいは銀−パラジウム合金が一般的であり、通常、誘電体層よりはじまり3層、5層、7層あるいは11層程度積層する。この場合、ディスプレイより出る熱も同時にカットできるが、本発明のフタロシアニン化合物は、熱線遮蔽効果に優れるため、より耐熱効果を向上できる。基材としては、本発明のフタロシアニン化合物を含有するフィルターをそのまま利用してもよいし、樹脂フィルムあるいはガラス上にスパッタリングした後に該フタロシアニン化合物を含有するフィルターと貼り合わせてもよい。また、電磁波カットを実際に行う場合は、アース用の電極を設置する必要がある。反射防止層は、表面の反射を抑えてフィルターの透過率を向上させるために、金属酸化物、フッ化物、ホウ化物、炭化物、窒化物、硫化物等の無機物を、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト法等で単層あるいは多層に積層させる方法、アクリル樹脂、フッ素樹脂等の屈折率の異なる樹脂を単層あるいは多層に積層させる方法等がある。また、反射防止処理を施したフィルムを該フィルター上に貼り付けることもできる。また、必要であれば、ノングレア(AG)層を設けることもできる。ノングレア(AG)層は、フィルターの視野角を広げる目的で、透過光を散乱させるために、シリカ、メラミン、アクリルなどの微粉体をインキ化して、表面にコーティングする方法等を用いることができる。インキの硬化は、熱硬化あるいは光硬化等を用いることができる。また、ノングレア処理をしたフィルムを該フィルター上にはり付けることもできる。さらに必要であれば、ハードコート層を設けることもできる。
【0128】
プラズマティスプレー用のフィルターの構成は、必要に応じて変更することができる。通常、近赤外線吸収化合物を含有するフィルター上に反射防止層を設けたり、さらに必要であれば、反射防止層の反対側にノングレア層を設ける。また、電磁波カット層を組み合わせる場合は、近赤外線吸収化合物を含有するフィルターを基材として、その上に電磁波カット層を設けるか、あるいは近赤外線吸収化合物を含有するフィルターと電磁波カット能を有するフィルターを貼り合わせて作製できる。その場合、さらに、両面に反射防止層を作製するか、必要であれば、片面に反射防止層を作製し、その反対面にノングレア層を作製することもできる。また、色補正するために、可視領域に吸収を有する色素を加える場合は、その方法については制限を受けない。本発明のプラズマディスプレイパネル用フィルターは、800〜1100nm、特に850〜1000nmの波長域の近赤外光を特異的に透過することができるため、ディスプレイの色再現性の向上に加え、周辺電子機器のリモコン、伝送系光通信等が使用する波長に悪影響を与えず、それらの誤動作を防ぐことができる。
【実施例】
【0129】
以下、実施例を説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0130】
なお、下記実施例において、フタロシアニン化合物の最大吸収波長(λmax)を下記方法に従って評価した。
【0131】
<最大吸収波長(λmax)の測定>
フタロシアニン化合物の最大吸収波長(λmax(nm))は、フタロシアニン化合物のクロロホルム中での最大吸収波長(λmax)を分光光度計(島津製作所製:UV−1650PC)を用いて測定した値であり、単位はnmである。
【0132】
合成例1−1:3,5,6−トリフルオロ−4−フェニルチオフタロニトリルの合成
下記反応式に従って、3,5,6−トリフルオロ−4−フェニルチオフタロニトリルを合成した。
【0133】
【化16】

【0134】
具体的には、滴下ロートを備えた300ml反応容器に、テトラフルオロフタロニトリル 25.01g(124.99mmol)、炭酸カリウム 7.41g(127.54mmol)、メチルエチルケトン 100gを仕込み、反応容器を氷水で10℃に冷却した。冷却後、チオフェノール 14.45g(131.15mmol)をメチルエチルケトン58gに溶解させたものを滴下ロートに仕込み、ゆっくりと滴下して反応容器に加えた。滴下終了後、そのまま25℃で12時間撹拌した。
【0135】
反応終了後、反応液を濾過して無機塩を除き、エバポレーターにて濃縮した。濃縮物を酢酸エチル/ヘキサンで再結晶し、不純物の3,6−ジフルオロ−4,5−ビスフェニルチオフタロニトリルを除き、濾液をエバポレーターを用いて濃縮した。この再結晶の操作をもう一度行った後、ショーとシリカゲルカラムクロマトグラフィ(溶媒クロロホルム)により精製し、3,5,6−トリフルオロ−4−フェニルチオフタロニトリルを22.12g(76.21mmol、収率:テトラフルオロフタロニトリルに対して61%)得た。
【0136】
合成例1−2:3,5,6−トリフルオロ―4−(2,6−ジメチルフェノキシ)フタロニトリルの合成
下記反応式に従って、3,5,6−トリフルオロ―4−(2,6−ジメチルフェノキシ)フタロニトリルを合成した。
【0137】
【化17】

【0138】
具体的には、100mLの三口フラスコに、テトラフルオロフタロニトリル 16.01g(80.01mol)、フッ化カリウム(KF) 5.54g(95.35mmol)、アセトニトリル 50mLを投入し、攪拌下、0℃まで冷却した。冷却後、2,6−ジメチルフェノ―ル9.77g(79.98mmol)をアセトニトリル 50mLに溶かしたものを上から滴下し、その後7時間攪拌した。
【0139】
この反応液を室温に戻した後、クロロホルムを加え、有機成分を溶解させ、ろ過によりKFをろ別した。ろ液を濃縮した後、この濃縮液をアセトンに溶解し、水を加えることによって、固形分を再度析出させた。この固形分を60℃にて減圧乾燥したところ、目的の3,5,6−トリフルオロ―4−(2,6−ジメチルフェノキシ)フタロニトリルを13.8g(45.60mmol、収率:テトラフルオロフタロニトリルに対して57%)得た。
【0140】
合成例1−3:3,5,6−トリフルオロ−4−(4−メトキシフェニルチオ)フタロニトリルの合成
下記反応式に従って、3,5,6−トリフルオロ−4−(4−メトキシフェニルチオ)フタロニトリルを合成した。
【0141】
【化18】

【0142】
具体的には、滴下ロートを備えた1L反応容器に、テトラフルオロフタロニトリル 100.03g(499.93mmol)、炭酸カリウム 29.9g(514.63mmol)、メチルエチルケトン 620mlを仕込み、反応容器を−5℃まで冷却した。冷却後、4−メトキシチオフェノール 73.57g(524.75mmol)をメチルエチルケトン 180mlに溶解させたものを滴下ロートに仕込み、ゆっくりと滴下して反応容器に加えた。滴下終了後、−3℃で3時間保持し、そのあと冷却用バスを外してそのまま12時間撹拌した。
【0143】
反応終了後、濾過して無機塩を除き、エバポレーターを用いて濃縮した。この濃縮物をクロロホルム/メタノールで2回再結晶し、目的の3,5,6−トリフルオロ−4−(4−メトキシフェニルチオ)フタロニトリルを109.21g(340.97mmol、収率:テトラフルオロフタロニトリルに対して68%)得た。
【0144】
合成例1−4:3,5,6−トリフルオロ−4−(4−メチルフェニル)フタロニトリルの合成
3,5,6−トリフルオロ−4−(4−メチルフェニル)フタロニトリルを、特開平2007−230999号公報 実施例2に記載の方法で合成した。すなわち、下記反応式に従って、3,5,6−トリフルオロ−4−(4−メチルフェニル)フタロニトリルを合成した。
【0145】
【化19】

【0146】
滴下ロートと還流管とを備えた200mlの三つ口フラスコに、マグネシウム 3.86g(134.9mmol)を加え、反応容器内を窒素置換した後、テトラヒドロフラン(THF) 100mlを加えた。続いて、室温(25℃)でp−ブロモトルエン 19.24g(112.5mmol)を滴下ロートからゆっくりと滴下し、滴下終了後、還流下で1時間撹拌してグリニャール試薬(4−メチルフェニルマグネシウムブロミド)を合成した。次いで、塩化リチウム 4.77g(112.5mmol)を加えて、塩化リチウムを含む均一なグリニャール試薬溶液を調製した。
【0147】
上記グリニャール試薬の合成とは別に、温度計および滴下ロートを備えた300mlの三つ口フラスコを用意し、これにテトラフルオロフタロニトリル 15.00g(75mmol)および塩化リチウム 4.77g(112.5mmol)を加え、この反応容器を窒素置換した後、THF 150mlを加えて、基質溶液を調製した。この基質溶液を0℃まで冷却した後、先に調製したグリニャール試薬溶液をシリンジで滴下ロートに移し、反応溶液が5℃を超えないように注意しながら、グリニャール試薬溶液を滴下した。
【0148】
グリニャール試薬溶液の滴下終了後、0℃で24時間撹拌した後、1Mの塩酸水溶液を加えて反応を終了させた。これから有機相を取り出し、残りの水相をジエチルエーテルで3回抽出し、抽出で用いたジエチルエーテルをあわせた有機相を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水した。次いで、硫酸マグネシウムを濾過により除去し、有機相の溶媒をエバポレーターで留去し、得られた残渣を昇華精製することにより、目的の3,5,6−トリフルオロ−4−(4−メチルフェニル)フタロニトリルを9.60g(35.25mmol、収率:テトラフルオロフタロニトリルに対して47%)で得た。
【0149】
上記合成例1−1〜1−5の原料、目的生成物および収率を下記表1に要約する。
【0150】
【表1】

【0151】
合成例2−1:フタロニトリル(a)の合成
下記反応式に従って、フタロニトリル(a)を合成した。
【0152】
【化20】

【0153】
50mlの反応容器に、合成例1−2と同様にして製造された3,5,6−トリフルオロ―4−(2,6−ジメチルフェノキシ)フタロニトリル 1.50g(4.97mmol)、フッ化カリウム 0.74g(12.74mmol)、メチルエチルケトン 15gを仕込み、50℃まで昇温した。続いて、4−tert−ブチル−ベンゼン−1,2−ジオール 0.825g(4.96mmol)を8.3gのメチルエチルケトンに溶解させた溶液をゆっくりと反応溶液に加えた。
【0154】
3時間反応させた後、酢酸エチル 10mlを加えて析出した有機物を溶解し、濾過して無機塩を除いた。一度エバポレーターを用いて有機溶媒を除いた後、再び酢酸エチルに溶解して分液ロートに移し、水洗3回、飽和食塩水で1回有機層を洗い、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて濃縮した。濃縮物をクロロホルム/ヘキサンで再結晶し、目的のフタロニトリル(a)を1.45g(3.39mmol、収率:3,5,6−トリフルオロ―4−(2,6−ジメチルフェノキシ)フタロニトリルに対して68%)得た。
【0155】
合成例2−2:フタロニトリル(b)の合成
下記反応式に従って、フタロニトリル(b)を合成した。
【0156】
【化21】

【0157】
100mlの反応容器に、合成例1−1と同様にして製造された3,5,6−トリフルオロ−4−フェニルチオフタロニトリル 3.66g(12.61mmol)、フッ化カリウム 1.87g(32.19mmol)、メチルエチルケトン 27.6gを仕込み、50℃まで昇温した。続いて、4−tert−ブチル−ベンゼン−1,2−ジオール 2.1g(12.63mmol)を17.1gのメチルエチルケトンに溶解させた溶液をゆっくりと反応溶液に加えた。
【0158】
3時間反応させた後、酢酸エチル 10mlを加えて析出した有機物を溶解し、濾過して無機塩を除いた。一度エバポレーターを用いて有機溶媒を除いた後、再び酢酸エチルに溶解して分液ロートに移し、水洗3回、飽和食塩水で1回有機層を洗い、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて濃縮した。濃縮物をクロロホルム/ヘキサンで再結晶し、目的のフタロニトリル(b)を3.02g(7.24mmol、収率:3,5,6−トリフルオロ−4−フェニルチオフタロニトリルに対して57%)得た。
【0159】
合成例2−3:フタロニトリル(c)の合成
下記反応式に従って、フタロニトリル(c)を合成した。
【0160】
【化22】

【0161】
100mlの反応容器に、合成例1−1と同様にして製造された3,5,6−トリフルオロ−4−フェニルチオフタロニトリル 3.89g(13.4mmol)、フッ化カリウム 1.97g(33.91mmol)、メチルエチルケトン 29.3gを仕込み、50℃まで昇温した。続いて、ベンゼン−1,2−ジオール 1.48g(13.44mmol)を11.5gのメチルエチルケトンに溶解させた溶液をゆっくりと反応溶液に加えた。
【0162】
3時間反応させた後、クロロホルムを加えて析出した有機物を溶解し、濾過して無機塩を除いた。一度エバポレーターを用いて有機溶媒を除いた後、再びクロロホルムに溶解して分液ロートに移し、水洗3回、飽和食塩水で1回有機層を洗い、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて濃縮した。濃縮物をクロロホルム/ヘキサンで再結晶し、目的のフタロニトリル(c)を3.94g(10.94mmol、収率:3,5,6−トリフルオロ−4−フェニルチオフタロニトリルに対して82%)得た。
【0163】
合成例2−4:フタロニトリル(d)の合成
下記反応式に従って、フタロニトリル(d)を合成した。
【0164】
【化23】

【0165】
100mlの反応容器に、合成例1−1と同様にして製造された3,5,6−トリフルオロ−4−フェニルチオフタロニトリル 5.247g(18.08mmol)、フッ化カリウム 3.2g(55.08mmol)、メチルエチルケトン 39.5gを仕込み、50℃まで昇温した。続いて、2,3−ジヒドロキシナフタレン 2.90g(18.09mmol)を22gのメチルエチルケトンに溶解させた溶液をゆっくりと反応溶液に加え、滴下終了後65℃に昇温し、5時間反応した。
【0166】
反応終了後、反応液を濃縮しクロロホルムを加え、懸濁液状態で水で洗浄し、さらに飽和食塩水で洗浄した。有機層を濃縮して、目的のフタロニトリル(d)を4.81g(11.72mmol、収率:3,5,6−トリフルオロ−4−フェニルチオフタロニトリルに対して65%)得た。
【0167】
合成例2−5:フタロニトリル(e)の合成
下記反応式に従って、フタロニトリル(e)を合成した。
【0168】
【化24】

【0169】
300mlの反応容器に、合成例1−3と同様にして製造された3,5,6−トリフルオロ−4−(4−メトキシフェニルチオ)フタロニトリル 15.28g(47.71mmol)、フッ化カリウム 9.51g(163.68mmol)、メチルエチルケトン 115gを仕込み、50℃まで昇温した。続いて、4−tert−ブチル−ベンゼン−1,2−ジオール 7.94g(47.77mmol)を60gのメチルエチルケトンに溶解させた溶液をゆっくりと滴下して反応溶液に加えた。滴下終了後、反応溶液を65℃まで昇温し、9時間反応した。
【0170】
反応終了後、反応液を一度濃縮しクロロホルムを加えて不溶分を濾過して除き、水洗、飽和食塩水で洗浄し、さらに無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて濃縮した。濃縮物をクロロホルム/メタノールで再結晶し、目的のフタロニトリル(e)を17.26g(81.03mmol、収率:3,5,6−トリフルオロ−4−(4−メトキシフェニルチオ)フタロニトリルに対して81%)得た。
【0171】
合成例2−6:フタロニトリル(f)の合成
下記反応式に従って、フタロニトリル(f)を合成した。
【0172】
【化25】

【0173】
50mlの反応容器に、合成例1−4と同様にして製造された3,5,6−トリフルオロ−4−(4−メチルフェニル)フタロニトリル 0.81g(2.98mmol)、フッ化カリウム 0.45g(7.75mmol)、メチルエチルケトン 8gを仕込み、40℃まで昇温した。続いて、1,2−ベンゼンジチオール 4.2g(29.53mmol)を4.2gのメチルエチルケトンに溶解させた溶液をゆっくりと反応溶液に加えた。
【0174】
3時間反応させた後、一度濃縮し、クロロホルムを加えて水洗、飽和食塩水で洗浄した後無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて濃縮した。濃縮物をクロロホルム/ヘキサンで再結晶し、目的のフタロニトリル(f)を0.82g(2.19mmol、収率:3,5,6−トリフルオロ−4−(4−メチルフェニル)フタロニトリルに対して74%)得た。
【0175】
合成例2−7:フタロニトリル(g)の合成
下記反応式に従って、フタロニトリル(g)を合成した。
【0176】
【化26】

【0177】
50mlの反応容器に、合成例1−4と同様にして製造された3,5,6−トリフルオロ−4−(4−メチルフェニル)フタロニトリル 0.50g(1.83mmol)、フッ化カリウム 0.27g(4.65mmol)、メチルエチルケトン 7gを仕込み、50℃まで昇温した。続いて、ベンゼン−1,2−ジオール 0.20g(1.82mmol)を4gのメチルエチルケトンに溶解させた溶液をゆっくりと反応溶液に加えた。
【0178】
3時間反応させた後、酢酸エチルを加えて析出した有機物を溶解し、濾過して無機塩を除いた。一度エバポレーターを用いて有機溶媒を除いた後、再び酢酸エチルに溶解して分液ロートに移し、水洗3回、飽和食塩水で1回有機層を洗い、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて濃縮した。濃縮物をクロロホルム/ヘキサンで再結晶し、目的のフタロニトリル(g)を0.59g(1.72mmol、収率:3,5,6−トリフルオロ−4−(4−メチルフェニル)フタロニトリルに対して95%)得た。
【0179】
合成例2−8:フタロニトリル(h)の合成
下記反応式に従って、フタロニトリル(h)を合成した。
【0180】
【化27】

【0181】
50mlの反応容器に、合成例1−4と同様にして製造された3,5,6−トリフルオロ−4−(4−メチルフェニル)フタロニトリル 0.71g(2.61mmol)、フッ化カリウム 0.38g(6.54mmol)、メチルエチルケトン 7.1gを仕込み、50℃まで昇温した。続いて、4−tert−ブチル−ベンゼン−1,2−ジオール 0.43g(2.59mmol)を4.3gのメチルエチルケトンに溶解させた溶液をゆっくりと反応溶液に加えた。
【0182】
3時間反応させた後、酢酸エチルを加えて析出した有機物を溶解し、濾過して無機塩を除いた。一度エバポレーターを用いて有機溶媒を除いた後、再び酢酸エチルに溶解して分液ロートに移し、水洗3回、飽和食塩水で1回有機層を洗い、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて濃縮した。濃縮物をクロロホルム/ヘキサンで再結晶し、目的のフタロニトリル(h)を1.01g(2.53mmol、収率:3,5,6−トリフルオロ−4−(4−メチルフェニル)フタロニトリルに対して98%)得た。
【0183】
合成例2−9:フタロニトリル(i)の合成
下記反応式に従って、フタロニトリル(i)を合成した。
【0184】
【化28】

【0185】
300mlの反応容器に、合成例1−5と同様にして製造された3,5,6−トリフルオロ−4−(2,6−ジメチルフェノキシ)フタロニトリル 10.00g(33.09mmol)、フッ化カリウム4.54g(78.14mmol)、メチルエチルケトン74.9gを仕込み、50℃まで昇温した。続いて1,2−ベンゼンジオール3.44g(31.21mmol)を33.2gのメチルエチルケトンに溶解させた溶液をゆっくりと滴下して反応溶液に加えた。そのまま、7時間反応した。反応終了後、濾過さらに濾物にクロロホルムをかけて生成物を洗い流し、無機塩を除いた。濾液は一度濃縮した後、クロロホルムを加えて溶解させショートシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒クロロホルム)、再結晶(クロロホルム/ヘキサン)により精製し、目的のフタロニトリル(i)を8.62g(23.16mmol、収率:3,5,6−トリフルオロ−4−(2,6−ジメチルフェノキシ)フタロニトリルに対する70%)得た。
【0186】
合成例2−9:フタロニトリル(j)の合成
下記反応式に従って、フタロニトリル(j)を合成した。
【0187】
【化29】

【0188】
300mlの反応容器に、合成例1−3と同様にして製造された3,5,6−トリフルオロ−4−(4−メトキシフェニルチオ)フタロニトリル 10.00g(31.22mmol)、フッ化カリウム 4.54g(78.14mmol)、メチルエチルケトン 74.9gを仕込み、50℃まで昇温した。続いて1,2−ベンゼンジチオール 4.44g(31.21mmol)を33.2gのメチルエチルケトンに溶解させた溶液をゆっくりと滴下して反応溶液に加えた。そのまま、7時間反応した。
【0189】
反応終了後、濾過さらに濾物にクロロホルムをかけて生成物を洗い流し、無機塩を除いた。濾液は一度濃縮した後、クロロホルムを加えて溶解させショートシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒クロロホルム)、再結晶(クロロホルム/ヘキサン)により精製し、目的のフタロニトリル(j)を11.32g(26.79mmol、収率:3,5,6−トリフルオロ−4−(4−メトキシフェニルチオ)フタロニトリルに対して86%)得た。
【0190】
上記合成例2−1〜2−9の原料、目的生成物(フタロニトリル(a)〜(j))および収率を下記表2−1及び2−2に要約する。
【0191】
【表2−1】

【0192】
【表2−2】

【0193】
【表2−3】

【0194】
合成例3−1:フタロシアニン(1)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(1)を合成した。
【0195】
【化30】

【0196】
還流冷却器を備えた反応容器に、上記合成例2−2と同様にして合成されたフタロニトリル(b) 0.426g(1.02mmol)、三塩化バナジウム 0.0578g(0.37mmol)、ベンゾニトリル 0.92g、n−オクタノール 0.055gを仕込み、180℃に昇温した。4時間反応させた後、放冷し、反応液にメタノールを7.5g加え、目的物を沈殿させた。濾過した後、濾物を100℃で真空乾燥することにより目的のフタロシアニン(1)を0.38g(0.22mmol、収率:フタロニトリル(b)に対して86%)得た。
【0197】
合成例3−2:フタロシアニン(2)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(2)を合成した。
【0198】
【化31】

【0199】
還流冷却器を備えた反応容器に、上記合成例2−1と同様にして合成されたフタロニトリル(a) 0.107g(0.25mmol)、塩化銅(I) 0.008g(0.08mmol)、ベンゾニトリル 0.27gを仕込み、180℃に昇温した。4時間反応させた後、放冷し、イソプロパノール/水の混合溶液を加え、目的物を沈殿させた。濾過した後、濾物を80℃で真空乾燥することにより目的のフタロシアニン(2)を0.102g(0.06mmol、収率:フタロニトリル(a)に対して92%)得た。
【0200】
合成例3−3:フタロシアニン(3)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(3)を合成した。
【0201】
【化32】

【0202】
還流冷却器を備えた反応容器に、上記合成例2−1と同様にして合成されたフタロニトリル(a) 0.239g(0.56mmol)、三塩化バナジウム 0.028g(0.18mmol)、ベンゾニトリル 0.6g、n−オクタノール 0.03gを仕込み、180℃に昇温した。4時間反応させた後、放冷し、反応液にメタノールを20gと水3g加え、目的物を沈殿させた。濾過した後、濾物を100℃で真空乾燥することにより目的のフタロシアニン(3)を0.07g(0.04mmol、収率:フタロニトリル(a)に対して28%)得た。
【0203】
合成例3−4:フタロシアニン(4)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(4)を合成した。
【0204】
【化33】

【0205】
還流冷却器を備えた反応容器に、上記合成例2−3と同様にして合成されたフタロニトリル(c) 0.387g(1.07mmol)、三塩化バナジウム 0.054(0.35mmol)、ベンゾニトリル 0.88g、n−オクタノール 0.06gを仕込み、180℃に昇温した。4時間反応させた後、放冷し、反応液にメタノールを7gと水1g加え、目的物を沈殿させた。濾過した後、濾物を100℃で真空乾燥することにより目的のフタロシアニン(4)を0.39g(0.26mmol、収率:フタロニトリル(c)に対して96%)得た。
【0206】
合成例3−5:フタロシアニン(5)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(5)を合成した。
【0207】
【化34】

【0208】
還流冷却器を備えた反応容器に、上記合成例2−1と同様にして合成されたフタロニトリル(a) 0.10g(0.23mmol)、ヨウ化亜鉛 0.02g(0.06mmol)、ベンゾニトリル 1.05gを仕込み、180℃に昇温した。3.5時間反応させた後、放冷し、イソプロパノール/水を加え、目的物を沈殿させた。濾過した後、濾物を80℃で真空乾燥することにより目的のフタロシアニン(5)を0.079g(0.04mmol、収率:フタロニトリル(a)に対して76%)得た。
【0209】
合成例3−6:フタロシアニン(6)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(6)を合成した。
【0210】
【化35】

【0211】
還流冷却器を備えた反応容器に、上記合成例2−8と同様にして合成されたフタロニトリル(g) 0.10g(0.30mmol)、ヨウ化亜鉛 0.07g(0.22mmol)、ベンゾニトリル1.61gを仕込み、160℃に昇温した。3時間反応させた後、放冷し、イソプロパノール/水を加え、目的物を沈殿させた。濾過した後、濾物を80℃で真空乾燥することにより目的のフタロシアニン(6)を0.07g(0.05mmol、収率:フタロニトリル(g)に対して69%)得た。
【0212】
合成例3−7:フタロシアニン(7)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(7)を合成した。
【0213】
【化36】

【0214】
還流冷却器を備えた反応容器に、上記合成例2−9と同様にして合成されたフタロニトリル(h) 0.10g(0.26mmol)、ヨウ化亜鉛 0.045g(0.14mmol)、ベンゾニトリル 1.2gを仕込み、170℃に昇温した。5時間反応させた後、放冷し、イソプロパノール/水を加え、目的物を沈殿させた。濾過した後、濾物を80℃で真空乾燥することにより目的のフタロシアニン(7)を0.08g(0.5mmol、収率:フタロニトリル(h)に対して79%)得た。
【0215】
合成例3−8:フタロシアニン(8)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(8)を合成した。
【0216】
【化37】

【0217】
還流冷却器を備えた反応容器に、上記合成例2−7と同様にして合成されたフタロニトリル(f) 0.10g(0.26mmol)、ヨウ化亜鉛 0.04g(0.13mmol)、ベンゾニトリル 1.0gを仕込み、180℃に昇温した。3時間反応させた後、放冷し、イソプロパノール/水を加え、目的物を沈殿させた。濾過した後、濾物を80℃で真空乾燥することにより目的のフタロシアニン(8)を0.10g(0.06mmol、収率:フタロニトリル(f)に対して93%)得た。
【0218】
合成例3−9:フタロシアニン(9)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(9)を合成した。
【0219】
【化38】

【0220】
還流冷却器を備えた反応容器に、上記合成例2−8と同様にして合成されたフタロニトリル(h) 0.105g(0.26mmol)、三塩化バナジウム 0.015g(0.10mmol)、ベンゾニトリル 0.24g、n−オクタノール 0.0016gを仕込み、180℃に昇温した。3.5時間反応させた後、放冷し、イソプロパノール/メタノール/水を加え、目的物を沈殿させた。濾過した後、濾物を80℃で真空乾燥することにより目的のフタロシアニン(9)を0.089g(0.05mmol、収率:フタロニトリル(h)に対して81%)得た。
【0221】
上記合成例3−1〜3−9の原料、目的生成物(フタロシアニン(1)〜(9))、収率および最大吸収波長(λmax)を下記表3に要約する。なお、下記表において、「PN」は、フタロニトリルを意味する。
【0222】
【表3】

【0223】
実施例4−1:フタロシアニン(112)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(112)を合成した。
【0224】
【化39】

【0225】
還流冷却器を備えた反応容器に、合成例3−1で得たフタロシアニン(1) 0.219g(0.13mmol)、2−エチルヘキシルアミン 0.68g(5.26mmol)、ベンゾニトリル 0.67gを仕込み、120℃まで昇温した。2時間反応させた後、反応液を冷却し、反応液をろ過して微量の不溶分を除いてからメタノールへ注いだ。析出物を濾過し、濾物にメタノールをかけて洗った後100℃で真空乾燥し、目的のフタロシアニン(112)を0.142g(0.07mmol)得た。この際、フタロシアニン(1)に対する収率は、52%であった。
【0226】
実施例4−2:フタロシアニン(113)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(113)を合成した。
【0227】
【化40】

【0228】
還流冷却器を備えた反応容器に、合成例3−6で得たフタロシアニン(6) 0.03g(0.02mmol)、2−エチルヘキシルアミン 0.24g(1.87mmol)、ベンゾニトリル0.4gを仕込み、140℃まで昇温した。4時間反応させた後、反応液を冷却し、反応液をろ過して微量の不溶分を除いてからメタノールへ注いだ。析出物を濾過し、濾物にメタノールをかけて洗った後100℃で真空乾燥し、目的のフタロシアニン(113)を0.012g(0.006mmol)得た。この際、フタロシアニン(6)に対する収率は、31%で得た。
【0229】
実施例4−3:フタロシアニン(114)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(114)を合成した。
【0230】
【化41】

【0231】
還流冷却器を備えた反応容器に、合成例3−9で得たフタロシアニン(9) 0.03g(0.02mmol)、n−ヘキシルアミン 0.097g(0.96mmol)、ベンゾニトリル0.31gを仕込み、120℃まで昇温した。5時間反応させた後、反応液を冷却し、反応液をろ過して微量の不溶分を除いてからメタノール5g、水1gの混合液の中へ滴下して加えた。析出物を濾過し、濾物にメタノールをかけて洗った後100℃で真空乾燥し、目的のフタロシアニン(114)を0.020g(0.01mmol)得た。この際、フタロシアニン(9)に対する収率は、54%で得た。
【0232】
上記合成例4−1〜4−3の原料、目的生成物(フタロシアニン(112)〜(114))、収率および最大吸収波長(λmax)を下記表4に要約する。なお、下記表において、「Ph」は、フタロシアニンを意味する。
【0233】
【表4】

【0234】
合成例5−1:フタロシアニン(101)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(101)を合成した。
【0235】
【化42】

【0236】
還流冷却器およびガス吹込み菅をつけた50mLの三ツ口フラスコに、上記合成例2−5と同様にして合成されたフタロニトリル(e) 4.47g(9.66mmol)、三塩化バナジウム 0.51g(3.24mmol)、1,2,4−トリメチルベンゼン5.4g、およびベンゾニトリル0.6gを仕込んだ。混合ガス(酸素6.8%/窒素バランス)を液中に毎分0.8mLの流量で吹き込みながら、160℃で7時間撹拌して環化反応させた。
【0237】
環化反応終了後、1,2,4−トリメチルベンゼン 12gを加え、混合ガスの流通を止め、内温を70℃にした。次に、2−エチルヘキシルアミン 10.34g(80.0mmol)を加え、液中に毎分0.8mLの流量で吹き込みながら、70℃で7時間撹拌して求核置換反応を行なった。
【0238】
窒素気流下で反応液を35℃まで冷却し、不溶分除去するために直径40mmの桐山ろ紙(No.4)を用いてろ過し、1,2,4−トリメチルベンゼン 5gをかけて洗った。結果的に、ろ紙上の残渣はほとんどなかった。洗液は始めのろ液に加え、36.1gのろ液か得られた。
【0239】
500mLのセパラブルフラスコに、メタノール 290gを入れ、55℃で撹拌しながら、ろ液を30分間で滴下した。滴下終了後、20分間55℃で保った後、撹拌を続けながら、毎時15℃の冷却速度で30℃まで冷却し、さらに1時間放冷して温度を24℃まで下げて結晶を析出させ、ろ過した。得られたろ紙上の結晶にメタノール5gをかけて洗った。
【0240】
得られた結晶を60℃で真空乾燥し、フタロシアニン(101)3.84g(1.68mmol)が得られた。フタロニトリル(e)に対する収率は69%であった。
【0241】
また、このようにして得られたフタロシアニン(101)について、400〜1100nmにおける透過率を測定し、その結果を図2に示す。
【0242】
実施例5−2:フタロシアニン(101)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(101)を合成した。
【0243】
【化43】

【0244】
還流冷却器を備えた反応容器に、上記合成例2−5と同様にして合成されたフタロニトリル(e) 0.512g(1.15mmol)、三塩化バナジウム 0.062g(0.39mmol)、ベンゾニトリル 1.2g、n−オクタノール 0.06gを仕込み、180℃まで加熱した。5時間反応させた後、ベンゾニトリル 1.9gを加えて130℃まで冷却してから、2−エチルヘキシルアミン 4.9g(37.91mmol)を加え、2時間反応させた。反応液を冷却した後、反応液をろ過して微量の不溶分を除き、ビーカーに130gのメタノールを入れ室温で撹拌しながら濾液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、溶液をしばらく静置してから濾過し、濾物は100℃で真空乾燥し、目的のフタロシアニン(101)を0.258g(0.11mmol)得た。この際、フタロニトリル(e)に対する収率は、39%であった。
【0245】
実施例5−3:フタロシアニン(102)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(102)を合成した。
【0246】
【化44】

【0247】
還流冷却器を備えた反応容器に、上記合成例2−1と同様にして合成されたフタロニトリル(a) 0.208g(0.49mmol)、三塩化バナジウム 0.021g(0.13mmol)、ベンゾニトリル 5.9g、n−オクタノール 0.024gを仕込み、180℃まで加熱した。4時間反応させた後、ベンゾニトリル 0.94gを加えて120℃まで冷却してから、2−エチルヘキシルアミン 2.0g(15.48mmol)を加え、5時間反応させた。反応液を冷却した後、反応液をろ過して微量の不溶分を除き、ビーカーに49.5gのメタノールを入れ室温で撹拌しながら濾液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、溶液をしばらく静置してから濾過し、濾物は100℃で真空乾燥し、目的のフタロシアニン(102)を0.131g(0.60mmol)得た。この際、フタロニトリル(a)に対する収率は、49%であった。
【0248】
実施例5−4:フタロシアニン(103)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(103)を合成した。
【0249】
【化45】

【0250】
還流冷却器を備えた反応容器に、上記合成例2−3と同様にして合成されたフタロニトリル(c) 0.342g(0.95mmol)、三塩化バナジウム 0.052g(0.33mmol)、ベンゾニトリル 0.82g、n−オクタノール 0.056gを仕込み、180℃まで加熱した。4時間反応させた後、ベンゾニトリル 1.25gを加えて120℃まで冷却してから、2−エチルヘキシルアミン 3.95g(30.56mmol)を加え、2時間反応させた。反応液を冷却した後、反応液をろ過して微量の不溶分を除き、ビーカーに45.5gのメタノールを入れ室温で撹拌しながら濾液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、溶液をしばらく静置してから濾過し、濾物は100℃で真空乾燥し、目的のフタロシアニン(103)を0.256g(0.13mmol)得た。この際、フタロニトリル(c)に対する収率は、55%であった。
【0251】
実施例5−5:フタロシアニン(104)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(104)を合成した。
【0252】
【化46】

【0253】
還流冷却器を備えた反応容器に、上記合成例2−2と同様にして合成されたフタロニトリル(b) 0.30g(0.72mmol)、塩化銅(I) 0.023g(0.23mmol)、ベンゾニトリル 0.61gを仕込み、180℃まで加熱した。3.5時間反応させた後、ベンゾニトリル 1.13gを加えて120℃まで冷却してから、2−エチルヘキシルアミン 2.98g(23.05mmol)を加え、2時間反応させた。反応液を冷却した後、反応液をろ過して微量の不溶分を除き、ビーカーに50gのメタノールを入れ室温で撹拌しながら濾液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、溶液をしばらく静置してから濾過し、濾物は100℃で真空乾燥し、目的のフタロシアニン(104)を0.14g(0.065mmol)得た。この際、フタロニトリル(b)に対する収率は、36%であった。
【0254】
実施例5−6:フタロシアニン(105)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(105)を合成した。
【0255】
【化47】

【0256】
還流冷却器を備えた反応容器に、上記合成例2−2と同様にして合成されたフタロニトリル(b) 0.198g(0.48mmol)、三塩化バナジウム 0.028g(0.18mmol)、ベンゾニトリル 0.066g、プソイドクメン 0.41g、n−オクタノール 0.024gを仕込み、180℃まで加熱した。5時間反応させた後、ベンゾニトリル 0.6gを加えて130℃まで冷却してから、n−ヘキシルアミン 1.54g(15.22mmol)を加え、2時間反応させた。反応液を冷却した後、反応液をろ過して微量の不溶分を除き、ビーカーに35gのメタノールを入れ室温で撹拌しながら濾液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、溶液をしばらく静置してから濾過し、濾物は100℃で真空乾燥し、目的のフタロシアニン(105)を0.101g(0.047mmol)得た。この際、フタロニトリル(b)に対する収率は、41%であった。
【0257】
実施例5−7:フタロシアニン(106)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(106)を合成した。
【0258】
【化48】

【0259】
還流冷却器を備えた反応容器に、上記合成例2−4と同様にして合成されたフタロニトリル(d) 0.228g(0.56mmol)、三塩化バナジウム 0.029g(0.18mmol)、ベンゾニトリル 0.56g、n−オクタノール 0.036gを仕込み、180℃まで加熱した。4.5時間反応させた後、ベンゾニトリル 0.8gを加えて140℃まで冷却してから、2−エチルヘキシルアミン 2.31g(17.87mmol)を加え、2.5時間反応させた。反応液を冷却した後、反応液をろ過して微量の不溶分を除き、ビーカーにメタノール50.2gとイソプロパノール5.3gを入れ室温で撹拌しながら濾液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、溶液をしばらく静置してから濾過し、濾物は100℃で真空乾燥し、目的のフタロシアニン(106)を0.158g(0.074mmol)得た。この際、フタロニトリル(d)に対する収率は、53%であった。
【0260】
実施例5−8:フタロシアニン(107)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(107)を合成した。
【0261】
【化49】

【0262】
還流冷却器を備えた反応容器に、上記合成例2−8と同様にして合成されたフタロニトリル(h) 0.115g(0.56mmol)、三塩化バナジウム 0.016g(0.18mmol)、ベンゾニトリル 0.23g、n−オクタノール 0.016gを仕込み、180℃まで加熱した。4時間反応させた後、ベンゾニトリル 0.41gを加えて100℃まで冷却してから、2−エチルヘキシルアミン 1.21g(9.36mmol)を加えた後、140℃に昇温して2時間反応させた。反応液を室温まで冷却した後、反応液をろ過して微量の不溶分を除き、ビーカーにメタノール15gと水3gを入れ室温で撹拌しながら濾液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、溶液をしばらく静置してから濾過し、濾物は100℃で真空乾燥し、目的のフタロシアニン(107)を0.128g(0.061mmol)得た。この際、フタロニトリル(h)に対する収率は、85%であった。
【0263】
実施例5−9:フタロシアニン(108)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(108)を合成した。
【0264】
【化50】

【0265】
還流冷却器を備えた反応容器に、上記合成例2−6と同様にして合成されたフタロニトリル(f) 0.157g(0.42mmol)、三塩化バナジウム 0.021g(0.18mmol)、ベンゾニトリル 0.36g、n−オクタノール 0.024gを仕込み、180℃まで加熱した。3.5時間反応させた後、ベンゾニトリル 0.59gを加えて140℃まで冷却してから、2−エチルヘキシルアミン 1.75g(13.54mmol)を加えた後、2.5時間反応させた。反応液を室温まで冷却した後、反応液をろ過して微量の不溶分を除き、ビーカーにメタノール 42.5gを入れ室温で撹拌しながら濾液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、溶液をしばらく静置してから濾過し、濾物は100℃で真空乾燥し、目的のフタロシアニン(108)を0.09g(0.045mmol)得た。この際、フタロニトリル(f)に対する収率は、43%であった。
【0266】
実施例5−10:フタロシアニン(109)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(109)を合成した。
【0267】
【化51】

【0268】
還流冷却器を備えた反応容器に、上記合成例2−10と同様にして合成されたフタロニトリル(j) 0.30g(0.71mmol)、三塩化バナジウム 0.023g(0.23mmol)、1,2,4−トリメチルベンゼン 0.45g、ベンゾニトリル 0.05gを仕込み、窒素酸素混合ガス(酸素成分7%)吹き込み下160℃まで加熱した。20時間反応させた後、ベンゾニトリル 1.13gを加えて80℃まで冷却してから2−エチルヘキシルアミン1.03g(8.52mmol)を加え、4時間反応させた。、反応液を冷却した後、反応液をろ過して微量の不溶分を除き、ビーカーに50gのメタノールを入れ室温で撹拌しながら濾液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、溶液をしばらく静置してから濾過し、濾物は100℃で真空乾燥し、目的のフタロシアニン(109)を0.16g(0.071mmol)得た。この際、フタロニトリル(j)に対する収率は、40%であった。
【0269】
実施例5−11:フタロシアニン(110)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(110)を合成した。
【0270】
【化52】

【0271】
還流冷却器を備えた反応容器に、上記合成例2−9と同様にして合成されたフタロニトリル(i) 0.30g(0.81mmol)、三塩化バナジウム 0.023g(0.23mmol)、1,2,4−トリメチルベンゼン 0.45g、ベンゾニトリル 0.05gを仕込み、窒素酸素混合ガス(酸素成分7%)吹き込み下160℃まで加熱した。20時間反応させた後、ベンゾニトリル 1.13gを加えて130℃まで冷却してから、ベンズヒドリルアミン 1.78g(9.72mmol)を加え、40時間反応させた。反応液を冷却した後、反応液をろ過して微量の不溶分を除き、ビーカーに50gのメタノールを入れ室温で撹拌しながら濾液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、溶液をしばらく静置してから濾過し、濾物は100℃で真空乾燥し、目的のフタロシアニン(110)を0.30g(0.071mmol)得た。この際、フタロニトリル(i)に対する収率は、66%であった。
【0272】
実施例5−12:フタロシアニン(111)の合成
下記反応式に従って、フタロシアニン(111)を合成した。
【0273】
【化53】

【0274】
還流冷却器を備えた反応容器に、上記合成例2−1と同様にして合成されたフタロニトリル(a) 0.30g(0.70mmol)、三塩化バナジウム 0.023g(0.23mmol)、1,2,4−トリメチルベンゼン 0.45g、ベンゾニトリル 0.05gを仕込み、窒素酸素混合ガス(酸素成分7%)吹き込み下160℃まで加熱した。20時間反応させた後、ベンゾニトリル 1.13gを加えて80℃まで冷却してから、2−エチルヘキシルアミン 1.08g(8.40mmol)を加え、4時間反応させた。反応液を冷却した後、反応液をろ過して微量の不溶分を除き、ビーカーに50gのメタノールを入れ室温で撹拌しながら濾液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、溶液をしばらく静置してから濾過し、濾物は100℃で真空乾燥し、目的のフタロシアニン(111)を0.28g(0.071mmol)得た。この際、フタロニトリル(a)に対する収率は、72%で得た。
【0275】
上記合成例5−1〜5−12の原料、目的生成物(フタロシアニン(101)〜(111))、収率および最大吸収波長(λmax)を下記表5−1及び表5−2に要約する。なお、下記表において、「PN」は、フタロニトリルを意味する。
【0276】
【表5−1】

【0277】
【表5−2】

【0278】
比較例1
100mlの4ツ口フラスコに、3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4、5−ビスフェニルチオ−6−フルオロフタロニトリル 10.00g(20.7ミリモル)、三塩化バナジウム 0.978g(6.22ミリモル)、n−オクタノール 0.81gおよびベンゾニトリル 14.19gを仕込み、ついで還流下で撹拌下約4時間保った。その後、ベンゾニトリルを30g投入し60℃に冷却後、ベンジルアミン 13.29g(124ミリモル)を加え、60℃で撹拌下約6時間を保った。冷却後、反応液をろ過し、ろ液をメタノール中に滴下晶析させ、更にメタノール1回とアセトニトリル1回で洗浄を行った。真空乾燥により比較フタロシアニン(A)を8.31g得た(収率:68.5モル%)。
【0279】
また、このようにして得られた比較フタロシアニン(A)について、400〜1100nmにおける透過率を測定し、その結果を図2に示す。
【0280】
比較例2
100mlの4ツ口フラスコに、3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4、5−ビス(4−メトキシフェニルチオ)−6−フルオロフタロニトリル 11.23g(20.7ミリモル)、三塩化バナジウム 0.978g(6.22ミリモル)、n−オクタノール 0.81gおよびベンゾニトリル 14.19gを仕込み、ついで還流下で撹拌下約4時間保った。そのご、ベンゾニトリルを30g投入し60℃に冷却後、2−エチルヘキシルアミン 16.05g(124ミリモル)を加え、60℃で撹拌下約6時間を保った。冷却後、反応液をろ過し、ろ液をメタノール中に滴下晶析させ、更にメタノール1回とアセトニトリル1回で洗浄を行った。真空乾燥により比較フタロシアニン(B)を9.18g得た(収率:66.3モル%)。
【0281】
また、このようにして得られた比較フタロシアニン(B)について、400〜1100nmにおける透過率を測定し、その結果を図2に示す。
【0282】
実施例6
上記合成例5−1、5−10〜12で得られたフタロシアニン(101)及び(109)〜(111)ならびに比較例1および2で得られた比較フタロシアニン(A)及び(B)について、以下のような耐候性試験を行ない、その結果を図3に示す。
【0283】
図3から、本発明のフタロシアニン化合物は、従来のフタロシアニン化合物に比して、有意に粘着層中での耐光性に優れることが分かる。
【0284】
<耐候性試験>
まず、各色素をトルエンで固形分5%に調整して、色素溶液を調製する。このようにして調製した色素溶液を、粘着剤(固形分:約44.4%)100部に対して約0.8部添加する。次に、上記各溶液の固形分が30%になるようにMEKで調整する。なお、色素溶液の添加量は、吸光度により適宜調整し、具体的は、下記組成とした。また、本試験で使用される粘着剤は、下記方法によって製造された化合物を使用した。
【0285】
(樹脂合成例)
モノマーとして、264.6gの2−エチルヘキシルアクリレート、150gのブチルアクリレート、180gのシクロヘキシルメタクリレートおよび5.4gのヒドロキシエチルアクリレートを秤量し、十分に混合して、重合性モノマー混合物を得た。
【0286】
160gの酢酸エチルと300gの重合性モノマー混合物とを、温度計、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器及び滴下ロートを備えたフラスコに入れた。また、上記滴下ロートに、300gの重合性モノマー混合物、16gの酢酸エチル及び0.15gのナイパーBMT−K40(重合開始剤、日本油脂社製)を入れ、良く混合して滴下用混合物とした。窒素ガスを20ml/分で流通させながら、フラスコの内温を95℃まで上昇させ、重合開始剤であるナイパーBMT−K40(0.15g)をフラスコに投入し、重合反応を開始させた。重合開始剤の投入から30分後に、滴下ロートからの滴下用混合物の滴下を開始した。滴下用混合物は、90分かけて均等に滴下された。滴下用混合物の滴下終了後、粘度の上昇に応じて酢酸エチルで希釈を行いながら、還流温度を維持しながら6時間熟成を行った。反応終了後、不揮発分が約45%になるように酢酸エチル反応液を希釈し、計算ガラス転移温度(Tg)が−35.0℃であり、計算溶解性パラメーターが9.6である樹脂を得た。この樹脂の重量平均分子量(Mw)は44万であり、酸価は0であった。
【0287】
【表6】

【0288】
さらに、上記混合物を、それぞれ、ペイントシェーカーで15分程度攪拌して、粘着剤色素溶液を得る。このようにして得られた粘着剤色素溶液を、PETフィルム(東洋紡コスモシャインA4300)の左側にアプリケーター(6.3ミル)を置き、アプリケーターの右横にこの粘着剤色素溶液をたらして、できるだけまっすぐになるように塗工する。カッターでフィルムの膜圧が不均一な部分を切り落として、A4サイズ程度にする。SUS板に上記で得られたフィルムをのせ、クリップで4方をとめた後、100℃2分間、乾燥する。次に、乾燥した試験片を適度な大きさ(2cm×2cm)に切り、ガラス面にローラーでできるだけ空気が入らないように貼り付ける(多少の気泡は無視する)。
【0289】
このようにして得られた試験片について、耐候性試験を行なった。ここで、耐候性は、耐候性試験機(島津製作所製、UNTESTER XF−180CPS)にて、図1に示すように、上記試験片に擬似太陽光を照射し、吸光度の経時変化で評価する。なお、上記試験中、照射するにつれて、気泡が多くなっていくが、吸光度の測定は気泡を避けて行なった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

式中、XおよびX’は、それぞれ独立して、酸素原子(−O−)または硫黄原子(−S−)を表わし;Arは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいo−フェニレン基、置換基を有してもよいo−ナフチレン基、または置換基を有してもよいo−アントリレン基を表わし、ここで、置換基は、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20個のアルキル基、−OY(Yは、炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わす)、または−SY’(Y’は、炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わす)を表わし;Aは、それぞれ独立して、酸素原子(−O−)、硫黄原子(−S−)または単結合(−)を表わし;Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいフェニル基若しくはナフチル基、置換基を有していてもよいアラルキル基または置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わし;R’およびR”は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基または置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わし;Mは、無金属、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表わす、
で示されるフタロシアニン化合物またはその位置異性体。
【請求項2】
Arは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいo−フェニレン基または置換基を有してもよいo−ナフチレン基であり、ここで、置換基は、炭素原子数1〜8のアルキル基である、請求項1に記載のフタロシアニン化合物またはその位置異性体。
【請求項3】
R’およびR”の一方が水素原子であり、かつ他方が置換基としてフェニル基を有してもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基である、請求項1または2に記載のフタロシアニン化合物またはその位置異性体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のフタロシアニン化合物またはその位置異性体を含む、近赤外線吸収フィルター。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−63540(P2011−63540A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215002(P2009−215002)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】