説明

フタロペリノン化合物

【課題】新規なフタロペリノン化合物およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】一般式[I]で表されるフタロペリノン化合物およびその構造異性体を提供する:


式[I]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフタロペリノン化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,8−ジアミノナフタレン誘導体とフタル酸無水物誘導体から合成されるフタロペリノン化合物は、染料、顔料として、インクや高分子材料などの種々の材料の着色に利用されている。
【0003】
これらのフタロペリノン化合物としては、例えば特許文献1〜4に開示のものなどが挙げられるが、近年、色材に対して、耐熱性、耐候性、色相などの種々の光学特性に関する要求が多様化してきており、その選択の幅を広げるためにも新たなフタロペリノン化合物の合成が望まれている。
【0004】
また、種々の有機色素について蛍光性が確認されており、このような蛍光色素は電界発光素子の発光材料や、蛍光標識試薬、レーザー用色素、シンチレータなど様々用途に使用されている。
【0005】
しかし、特許文献1〜4に開示のフタロペリノン化合物についてはプラスチックの着色材としての用途しか検討されておらず、蛍光性色素として有用なフタロペリノン化合物については知られていない。
【特許文献1】特開平6−80896号公報
【特許文献2】特開平7−97531号公報
【特許文献3】特開平8−48894号公報
【特許文献4】特開2002−348495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、2−ヒドロキシナフタレン−3,6−ジカルボン酸から誘導される1,8−ジアミノナフタレン誘導体を原料に用いて合成される、新規なフタロペリノン化合物、特に、染料、顔料、塗料、インク、各種樹脂などの着色用途のみならず、電界発光素子の発光材料、蛍光標識試薬、レーザー用色素、シンチレータなどに用いられる蛍光色素としても有用な新規フタロペリノン化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、2−ヒドロキシナフタレン−3,6−ジカルボン酸誘導体から1,8−ジアミノナフタレン誘導体の合成に成功し、これを用いて新規なフタロペリノン化合物を合成した。
【0008】
即ち、本発明は、一般式[I]または一般式[II]で表されるフタロペリノン化合物を提供する:
【化1】

式[I]
【化2】

式[II]
[式中、XおよびXは、同一であっても異なっていてもよく、炭素原子数1〜6のアルキル基、および水素原子からなる群より選択される基;
は、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数7〜12のアラルキル基、炭素原子数2〜6のアシル基、および水素原子からなる群より選択される基;
Rは、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、フェノキシ基、炭素原子数7〜12のアラルキル基、炭素原子数2〜7のアルコキシカルボニル基、シアノ基、およびニトロ基からなる群より選択される基;
nは0〜4の整数;
nが2〜4の整数である場合には、Rはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい]。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の一般式[I]または一般式[II]で表されるフタロペリノン化合物は、下記の一般式[III]で表される1,8−ジアミノナフタレン誘導体と、一般式[IV]で表されるフタル酸無水物誘導体および/またはそのジカルボン酸体とを反応させることにより得られる。
【化3】

式[III]
【化4】

式[IV]
【0010】
一般式[III]で表される1,8−ジアミノナフタレン誘導体は、下記スキーム1により、一般式[V]で表される2−ヒドロキシナフタレン−3,6−ジカルボン酸誘導体をニトロ化した後、還元することにより調製することができる。一般式[V]で表される化合物のニトロ化は、例えば濃硫酸と濃硝酸の混合物(混酸)を用いて達成され、一般式[VI]で表される化合物の還元は、例えば、塩化第一錫などの錫化合物と塩酸を用いて行えばよい。
[スキーム1]
【化5】

[V] [VI] [III]
[一般式[III]、[V]、および[VI]において、X、X、およびXは、一般式[I]および一般式[II]と同意]。
【0011】
一般式[V]で表される2−ヒドロキシナフタレン−3,6−ジカルボン酸誘導体は、例えば、国際公開96/032366号パンフレットに記載される方法により調製することができる。
【0012】
本発明のフタロペリノン化合物の原料として用いられる、一般式[III]で表される1,8−ジアミノナフタレン誘導体において、XおよびXの具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基などの炭素原子数1〜6のアルキル基や水素原子が挙げられる。
【0013】
また一般式[III]で表される1,8−ジアミノナフタレン誘導体において、X3の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基などの炭素原子数1〜6のアルキル基;ベンジル基、フェネチル基、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基などの炭素原子数7〜12のアラルキル基;アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基などの炭素原子数2〜6のアシル基;および水素原子が挙げられる。
【0014】
本発明のフタロペリノン化合物の原料として用いられる、一般式[IV]で表されるフタル酸無水物誘導体が有していても良い置換基Rの例としては、塩素、臭素、ヨウ素、フッ素などのハロゲン原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基などの炭素原子数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、n−ブトキシ基、n−ヘキシルオキシ基などの炭素原子数1〜6のアルコキシ基;フェノキシ基;ベンジル基、フェネチル基、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基などの炭素原子数7〜12のアラルキル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロピルオキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、n−ヘキシルオキシカルボニル基などの炭素原子数2〜7のアルコキシカルボニル基;シアノ基;およびニトロ基が挙げられる。
【0015】
本発明のフタロペリノン化合物の原料として用いられる、一般式[IV]で表されるフタル酸無水物誘導体またはそのジカルボン酸体は、市販のものを用いてもよいし、当業者に周知の常套方法により合成してもよい。
【0016】
一般式[IV]で表されるフタル酸無水物誘導体の具体例としては、フタル酸無水物、3−クロロフタル酸無水物、3−ブロモフタル酸無水物、4−クロロフタル酸無水物、4−ブロモフタル酸無水物、3,4−ジクロロフタル酸無水物、3,4−ジブロモフタル酸無水物、3,5−ジクロロフタル酸無水物、3,5−ジブロモフタル酸無水物、3,6−ジクロロフタル酸無水物、3,6−ジブロモフタル酸無水物、4,5−ジクロロフタル酸無水物、4,5−ジブロモフタル酸無水物、3,4,5−トリクロロフタル酸無水物、3,4,5−トリブロモフタル酸無水物、3,4,6−トリクロロフタル酸無水物、3,4,6−トリブロモフタル酸無水物、3,4,5,6−テトラクロロフタル酸無水物、3,4,5,6−テトラブロモフタル酸無水物、3−メチルフタル酸無水物、4−メチルフタル酸無水物、3,4−ジメチルフタル酸無水物、3,6−ジメチルフタル酸無水物、4,5−ジメチルフタル酸無水物、3−プロピルフタル酸無水物、4−tert−ブチルフタル酸無水物、3−メトキシフタル酸無水物、4−メトキシフタル酸無水物、3,4−ジメトキシフタル酸無水物、3,6−ジメトキシフタル酸無水物、および4,5−ジメトキシフタル酸無水物などが挙げられる。
【0017】
一般式[IV]で表されるフタル酸無水物誘導体は、そのジカルボン酸体の形で用いてもよく、フタル酸無水物誘導体とそのジカルボン酸体の混合物として用いてもよい。
【0018】
次に、一般式[III]で表される1,8−ジアミノナフタレン誘導体と、一般式[IV]で表されるフタル酸無水物誘導体および/またはそのジカルボン酸体との縮合反応工程について説明する。
【0019】
一般式[III]で表される1,8−ジアミノナフタレン誘導体と一般式[IV]で表されるフタル酸無水物誘導体および/またはそのジカルボン酸体の縮合反応は、特に限定されず、公知のフタロペリノン系化合物の合成方法によって達成される。例えば、溶媒の存在下または不存在下に、一般式[III]で表される1,8−ジアミノナフタレン誘導体と一般式[IV]で表されるフタル酸無水物誘導体および/またはそのジカルボン酸体とを、50〜250℃、好ましくは70〜200℃に加熱することにより行うことができる。
【0020】
反応時の圧力は特に限定されず、大気圧下、加圧下、または減圧下の何れの条件で行ってもよい。
一般式[III]で表される1,8−ジアミノナフタレン誘導体と一般式[IV]で表されるフタル酸無水物誘導体および/またはそのジカルボン酸体の縮合反応は、空気中で行ってもよいが、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気にて行うのがより好ましい。反応時間は、一般式[III]で表される1,8−ジアミノナフタレン誘導体、あるいは一般式[IV]で表されるフタル酸無水物誘導体および/またはそのジカルボン酸体の種類によっても異なるが、1〜10時間が好ましく、1.5〜4時間がより好ましい。
【0021】
一般式[III]で表される1,8−ジアミノナフタレン誘導体と一般式[IV]で表されるフタル酸無水物誘導体および/またはそのジカルボン酸体の使用量は特に制限されないが、反応後の生成物の精製が容易であることなどから、両者のモル比率が80/100〜100/80であるのが好ましく、90/100〜100/90であるのが特に好ましい。
【0022】
本発明のフタロペリノン化合物の合成に溶媒を用いる場合の溶媒としては、一般式[III]で表される化合物と一般式[IV]で表される化合物との縮合反応に不活性であり、反応の進行を阻害するものでなければ特に制限されない。例えば、酢酸、プロピオン酸、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、フェノール、クレゾール、フェノキシエタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、メタノール、エタノール、iso−プロパノール、およびこれらの混合溶媒などが挙げられる。
【0023】
溶媒を用いる場合の、溶媒の使用量は特に制限されないが、通常、一般式[III]で表される1,8−ジアミノナフタレン誘導体と一般式[IV]で表されるフタル酸無水物誘導体および/またはそのジカルボン酸体の合計重量に対して5〜50重量倍、好ましくは5〜20重量倍程度であるのがよい。
【0024】
本発明のフタロペリノン化合物の合成時には必要に応じ酸触媒を添加してもよい。酸触媒としては例えば、硫酸、p−トルエンスルホン酸、塩酸、酢酸、安息香酸、または塩化亜鉛などを用いることができる。酸触媒を用いる場合、その使用量は式[IV]で表されるフタル酸無水物誘導体および/またはそのジカルボン酸体に対して、0.1モル当量までであるのがよい。
【0025】
このようにして合成された本発明のフタロペリノン化合物は、一般式[I]または[II]においてXが水素原子である場合には、常法に従い、塩基の存在下に、臭化メチル、臭化エチルなどのハロゲン化アルキルや塩化ベンジルなどのハロゲン化アラルキルなどと反応させアルキル化またはアラルキル化してもよく、無水酢酸、無水プロピオン酸、塩化アセチル、塩化プロピオニルなどのアシル化剤と反応させてアシル化してもよい。
【0026】
このようにして得られる、一般式[I]および/または一般式[II]の化合物は、それらの混合物として用いてもよいし、所望により公知の方法により、両者を分離して単一の化合物として用いてもよい。かかる一般式[I]および/または[II]で示される本発明のフタロペリノン化合物は着色剤として、染料、顔料、塗料、インク、各種樹脂などの着色に用いることができる。また、本発明のフタロペリノン化合物は溶液、固体、薄膜などの状態で蛍光性を示すものであり、蛍光色素として、電界発光素子の発光材料、蛍光標識試薬、レーザー用色素、シンチレータなどの種々の用途に用いることが出来る。
【実施例1】
【0027】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【化6】

式(1)
【化7】

式(2)
【0028】
2−ヒドロキシ−3,6−ジ−n−ブトキシカルボニル−1,8−ジアミノナフタレン375mg(1.00mmol)、フタル酸無水物149mg(1.01mmol)および酢酸7.5gを、温度計およびジムロート冷却器を備えた反応容器に仕込み、窒素雰囲気下にマグネッチクスターラーにより反応液を攪拌しながら、油浴により120℃に加熱し3時間反応を行った。
【0029】
反応終了後、反応液を室温まで冷却し、析出物を吸引ろ過により回収した後、析出物を乾燥し赤色粉末450mgを得た。
得られた赤色粉末をLC−MSにより分析したところ、m/z(+)=487であり、式(1)の化合物または式(2)の化合物、あるいは式(1)の化合物と式(2)の化合物の混合物であると確認された。LC−MS測定条件を以下に記載する。
【0030】
〔LC−MS測定条件〕
○LC
機器:alliannce 2690/996
カラム:L−column
溶媒:メタノール/0.1wt%蟻酸水溶液=90/10(体積比)[実施例1]
メタノール[実施例2]
波長:246 nm
流量:1.0 mL/min
○MS
機器:Waters micromass ZMD
プローブ:ESI(−)
温度:SourceBrock 150℃,
Desolvation 300℃
電圧:Cone 30,50V, Capillary 3.0kV
【0031】
本実施例により得られた式(1)および/または式(2)の化合物は、固体、溶液、薄膜(蒸着膜)の何れにおいても蛍光性を示すものであった。固体、溶液(40μM、トルエン)、薄膜(蒸着膜、膜厚100nm)の分光蛍光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ、F−4500)を用いて測定した蛍光スペクトルの波形を図1〜3に示す。
【0032】
なお、蒸着膜の作製は、アセトンにより超音波洗浄したスライドガラス上に、アルバック社製小型真空蒸着装置PVC−260を用い、真空度5×10−6Torr、成膜速度10nm/minにて行った。所望の膜圧への調節は、アルバック製水晶振動式膜圧計CRTM−6000にて成膜速度をモニターしシャッターの開閉により行った。
【実施例2】
【0033】
【化8】

式(3)
【化9】

式(4)
【0034】
実施例1により得られた赤色粉末30mg(0.062mmol)、無水酢酸49mg(0.480mmol)、およびピリジン5gを反応容器中で混合し、マグネチックスターラーにより反応液を攪拌しながら、室温で2時間反応させた。
【0035】
反応終了後、ロータリーエバポレーターにより約半量の溶媒を留去し、次いで残渣を吸引ろ過し析出物を回収した後に析出物を乾燥し、橙赤色の粉末20mgを得た。
得られた橙赤色粉末をLC−MSにより分析したところ、m/z(+)=529であり、式(3)の化合物または式(4)の化合物、あるいは式(3)の化合物と式(4)の化合物の混合物であると確認された。
【0036】
本実施例により得られた式(3)および/または式(4)の化合物は、固体、溶液、薄膜(蒸着膜)の何れにおいても蛍光性を示すものであった。実施例1と同様にして測定した、固体、溶液(40μM、トルエン)、薄膜(蒸着膜、膜厚100nm)の蛍光スペクトルの波形を図4〜6に示す。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例1により得られた赤色粉末の、固体での蛍光スペクトルを示す。
【図2】実施例1により得られた赤色粉末の、溶液での蛍光スペクトルを示す。
【図3】実施例1により得られた赤色粉末の、薄膜での蛍光スペクトルを示す。
【図4】実施例2により得られた橙赤色粉末の、固体での蛍光スペクトルを示す。
【図5】実施例2により得られた橙赤色粉末の、溶液での蛍光スペクトルを示す。
【図6】実施例2により得られた橙赤色粉末の、薄膜での蛍光スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[I]または一般式[II]で表されるフタロペリノン化合物:
【化1】

式[I]
【化2】

式[II]
[式中、XおよびXは、同一であっても異なっていてもよく、炭素原子数1〜6のアルキル基、および水素原子からなる群より選択される基;
は、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数7〜12のアラルキル基、炭素原子数2〜6のアシル基、および水素原子からなる群より選択される基;
Rは、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、フェノキシ基、炭素原子数7〜12のアラルキル基、炭素原子数2〜7のアルコキシカルボニル基、シアノ基、およびニトロ基からなる群より選択される基;
nは0〜4の整数;
nが2〜4の整数である場合には、Rはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい]。
【請求項2】
一般式[III]で表される1,8−ジアミノナフタレン誘導体と、一般式[IV]で表されるフタル酸無水物誘導体および/またはそのジカルボン酸体とを反応させることを含む、請求項1に記載のフタロペリノン化合物の製造方法:
【化3】

式[III]
【化4】

式[IV]
[式中、X、X、X、Rおよびnは、請求項1と同意]。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−302782(P2007−302782A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132436(P2006−132436)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】