説明

フッ化カリウム分散液およびそれを用いる含フッ素有機化合物の製造方法

【課題】フッ素化剤としての活性が高いフッ化カリウム分散液を提供すること。
【解決手段】フッ化カリウムおよびその5〜50重量倍のメタノールを含んでなる混合物と、メタノールよりも沸点が高い非プロトン性有機溶媒とを混合し、得られる混合物を濃縮することにより得られる実質的にフッ化カリウムと非プロトン性有機溶媒とからなるフッ化カリウム分散液、および、該フッ化カリウム分散液と求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物とを接触させることを特徴とする含フッ素有機化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化カリウム分散液およびそれを用いる含フッ素有機化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化カリウムは、有機化合物のフッ素化剤として有用である。フッ化カリウムを用いた有機化合物のフッ素化反応は、通常、無機塩が析出した不均一な状態で実施するので、フッ化カリウムの形状によっては反応性が低下することがある。また、フッ化カリウムは吸湿性を有しているが、該フッ素化反応は求核置換反応であり、水分によって反応性が低下することもある。そこで、フッ化カリウム1g当たり0.5〜0.6mlのメタノールを用いてフッ化カリウムのメタノール溶液を調製し、これに40〜60mlの芳香族化合物と2〜3gの非プロトン性極性溶媒を加えて、蒸留することにより得られるフッ化カリウム分散液を反応に用いる方法が提案された(特許文献1参照。)。しかしながら、かかる方法で得られたフッ化カリウム分散液は、未だそのフッ素化剤としての反応性が十分ではないため、高価な相間移動触媒を用いて反応を実施する必要があり、工業的に実施するためには、さらなる反応性の向上が求められていた。
【0003】
【特許文献1】特表昭63−502181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況の下、本発明者らは、より反応性の高いフッ素化剤を開発すべく、鋭意検討を行ったところ、フッ化カリウムおよびその5〜50重量倍のメタノールを含んでなる混合物と、非プロトン性有機溶媒とを混合し、得られる混合物を濃縮することにより得られる実質的にフッ化カリウムと非プロトン性有機溶媒とからなるフッ化カリウム分散液が、工業的に満足できるフッ素化剤としての反応性を有しており、該フッ化カリウム分散液を用いれば、相間移動触媒を用いることなく、効率よく有機化合物のフッ素化反応が進行することを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、フッ化カリウムおよびその5〜50重量倍のメタノールを含んでなる混合物と、メタノールよりも沸点が高い非プロトン性有機溶媒とを混合し、得られる混合物を濃縮することにより得られる実質的にフッ化カリウムと非プロトン性有機溶媒とからなるフッ化カリウム分散液およびそれを用いる含フッ素有機化合物の製造方法等を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、有機化合物のフッ素化反応に対する反応性が高いフッ化カリウム分散液を容易に得ることができる。該フッ化カリウム分散液を用いれば、高価な相間移動触媒を用いなくても、医農薬および電子材料等の各種化学製品やその合成中間体等として重要な含フッ素有機化合物を効率よく製造できるので、工業的に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
フッ化カリウムとしては、市販のものを用いることもできるし、後述のように水酸化カリウムとフッ化水素とを反応させて用いることもできる。市販のものを用いる場合、その性状は特に限定されない。例えば乾燥品、水和物のいずれも使用できる。
【0009】
メタノールは、市販のものを用いることができる。無水品のみならず、5重量%程度まで水を含んでいても使用できる。メタノールの使用量は、フッ化カリウムに対し5〜50重量倍の範囲である。得られる混合物としては、フッ化カリウムがメタノールに完全に溶解した溶液であることが好ましい。かかる溶液を調製するためのメタノールの使用量は、溶解時や使用時の温度および含水量等の条件により異なるが、フッ化カリウムに対して8重量倍以上であることが、より好ましい。
【0010】
フッ化カリウムおよびその5〜50重量倍のメタノールを含んでなる混合物の調製は、例えば、フッ化カリウムとメタノールとを混合する方法、または、水酸化カリウムとフッ化水素とをメタノール中で混合する方法等が挙げられる。前者の場合、フッ化カリウムとメタノールとの混合順序は特に限定されない。通常、常圧条件下で混合するが、減圧条件もしくは加圧条件下で混合してもよい。混合温度は、通常0〜100℃、好ましくは20〜70℃の範囲である。
【0011】
水酸化カリウムとフッ化水素とをメタノール中で混合する方法が、コスト面からは好ましい。
【0012】
水酸化カリウムは、市販のものをそのまま用いることもできるし、乾燥処理した後に用いることもできる。また、任意の方法により製造したものを用いることもできる。その形状は特に限定されず、例えば、片状、錠剤状または棒状であってもよいし、水溶液であっても、アルコール溶液であってもよい。水の含量は少ない方が好ましく、アルコール溶液を用いる場合は、メタノール溶液が好ましい。
【0013】
フッ化水素は、通常、市販のものを用いることができ、その性状は特に限定されない。フッ化水素ガスまたはフッ化水素酸が使用可能であり、操作性や入手性等の点からは、フッ化水素酸を用いることが好ましい。上記フッ化水素は、市販のものをそのまま用いてもよいし、メタノールや水と混合して用いてもよい。フッ化水素ガスを用いる場合、反応に不活性なガスと混合して用いてもよい。フッ化水素酸を用いる場合、その濃度は、高い方が好ましい。フッ化水素の使用量は、水酸化カリウムに対して、通常0.9〜1.1モル倍、好ましくは0.99〜1.01モル倍の範囲である。
【0014】
水酸化カリウムとフッ化水素とメタノールの混合順序は特に限定されないが、通常、水酸化カリウムとメタノールの混合物に、フッ化水素ガスあるいはフッ化水素酸を加えることが好ましい。通常、常圧条件下で混合するが、減圧条件もしくは加圧条件下で混合してもよい。混合温度は、通常0〜100℃、好ましくは20〜70℃の範囲である。
【0015】
本発明のフッ化カリウム分散液の製造に用いる溶媒は、非プロトン性有機溶媒であって、後述するメタノール留出除去時の圧力条件下での沸点がメタノールよりも高いものであれば特に限定されず、非極性溶媒を用いてもよいが、後述するフッ素化反応溶媒としてそのまま用いることができる点で、非プロトン性極性溶媒を用いることが好ましい。かかる溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上の混合溶媒として用いてもよい。非プロトン性極性溶媒としては、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル溶媒;スルホラン、ジメチルスルホン、メチルエチルスルホン等のスルホン溶媒;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド等のスルホキシド溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアルキルアミド溶媒;ブチロニトリル、アジポニトリル等のニトリル溶媒;等が挙げられる。好ましくは、スルホン溶媒、スルホキシド溶媒またはアルキルアミド溶媒である。また、非極性溶媒を用いる場合は、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の炭素数6〜8の脂肪族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;等が挙げられる。
【0016】
上記メタノールよりも沸点が高い非プロトン性有機溶媒の使用量は、フッ化カリウムに対して、通常1重量倍以上であれば本発明の目的は達せられ、その上限は特にないが、あまり多すぎると生産性が低下するため、実用的には20重量倍以下である。
【0017】
本発明のフッ化カリウム分散液は、例えば下記(a)〜(c)に示す操作方法により製造される。
(a)フッ化カリウムおよびその5〜50重量倍のメタノールを含んでなる混合物と、非プロトン性極性溶媒とを混合し、得られた混合物を濃縮する方法
(b)フッ化カリウムおよびその5〜50重量倍のメタノールを含んでなる混合物と、非極性溶媒とを混合し、得られた混合物を濃縮した後、非プロトン性極性溶媒を加え、得られた混合物を濃縮する方法
(c)メタノールの沸点以上の温度条件下、非プロトン性極性溶媒中に、フッ化カリウムおよびその5〜50重量倍のメタノールを含んでなる混合物を加えながら濃縮する方法
上記(a)〜(c)のうち、反応活性の点において好ましい態様としては(c)の方法が挙げられる。
【0018】
フッ化カリウム分散液中にメタノールや水を実質的に残存させない目的において、メタノールや水と共沸する溶媒を用いて濃縮してもよい。メタノールや水と共沸する溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒;等が挙げられる。
【0019】
濃縮時の操作圧力は、通常0.7〜200kPaの範囲であり、操作温度は、通常20〜200℃の範囲である。
【0020】
かくして得られるフッ化カリウム分散液は、実質的にフッ化カリウムと上記非プロトン性有機溶媒からなり、フッ化カリウムの微粉末が非プロトン性有機溶媒中に分散した混合物である。かかるフッ化カリウム分散液中のフッ化カリウムの含有量は、通常5〜70重量%の範囲である。
【0021】
特に、フッ化カリウムがメタノールに完全に溶解した溶液を用いて調製されたフッ化カリウム分散液中のフッ化カリウムは、通常、1次粒子の粒子径が0.1〜5μmであって、その一部または全てが凝集して体積換算平均粒子径5〜25μmの粒子を形成している。
【0022】
本発明のフッ化カリウム分散液は、フッ素化反応用組成物としての実用性がある。以下、求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物と、本発明のフッ化カリウム分散液とを接触させる有機化合物のフッ素化方法(本明細書において、単に「フッ素化反応」と記することもある。)について詳細に説明する。
【0023】
求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物としては、例えば、
置換されていてもよい脂肪族炭化水素化合物上の少なくとも1つの水素原子が求核的にフッ素原子で置換され得る基で置換された有機化合物;
置換されていてもよい芳香族炭化水素化合物上の少なくとも1つの水素原子が求核的にフッ素原子で置換され得る基で置換された有機化合物;
置換されていてもよい複素芳香族化合物上の少なくとも1つの水素原子が求核的にフッ素原子で置換され得る基で置換された有機化合物;
等が挙げられ、本フッ素化反応により、それぞれ対応する、
置換されていてもよい脂肪族炭化水素化合物上の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された有機化合物;
置換されていてもよい芳香族炭化水素化合物上の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された有機化合物;
置換されていてもよい複素芳香族化合物上の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された有機化合物;
を与える。
【0024】
脂肪族炭化水素化合物としては、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、デカン、シクロプロパン、2,2−ジメチルシクロプロパン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の直鎖状、分枝鎖状または環状の炭素数1〜20のアルカンが挙げられる。かかる脂肪族炭化水素化合物上に置換していてもよい基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、3−フェノキシフェニル基、2,3,5,6−テトラフルオロフェニル基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルフェニル基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシフェニル基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルフェニル基、2−ピリジル基等の炭素数5〜20の置換されていてもよいアリール基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、トリフルオロメトキシ基等の炭素数1〜20の置換されていてもよいアルコキシ基;フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基、3−フェノキシフェノキシ基等の炭素数6〜20の置換されていてもよいアリールオキシ基;ベンジルオキシ基、4−メチルベンジルオキシ基、4−メトキシベンジルオキシ基、3−フェノキシベンジルオキシ基、2,3,5,6−テトラフルオロベンジルオキシ基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルベンジルオキシ基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシベンジルオキシ基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルベンジルオキシ基等の炭素数7〜20の置換されていてもよいアラルキルオキシ基;フッ素原子;アセチル基、エチルカルボニル基等の炭素数2〜20の置換されていてもよいアルキルカルボニル基;ベンゾイル基、2−メチルベンゾイル基、4−メチルベンゾイル基、4−メトキシベンゾイル基等の炭素数7〜20の置換されていてもよいアリールカルボニル基;ベンジルカルボニル基、4−メチルベンジルカルボニル基、4−メトキシベンジルカルボニル基等の炭素数8〜20の置換されていてもよいアラルキルカルボニル基;カルボキシ基;等のフッ素化反応に関与しない基が挙げられる。かかる基で置換された脂肪族炭化水素化合物としては、例えばフルオロメタン、トリフルオロメタン、メトキシメタン、エトキシメタン、メトキシエタン、トルエン、4−メトキシトルエン、3−フェノキシトルエン、2,3,5,6−テトラフルオロトルエン、2,3,5,6−テトラフルオロ−パラキシレン、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシトルエン、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルトルエン、2−プロピルナフタレン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、4−メチルアセトフェノン、フェニルアセトン等が例示される。
【0025】
芳香族炭化水素化合物としては、例えばベンゼン、ナフタレン等の炭素数6〜20の芳香族炭化水素化合物が挙げられる。かかる芳香族炭化水素化合物上に置換していてもよい基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、3−フェノキシフェニル基、2,3,5,6−テトラフルオロフェニル基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルフェニル基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシフェニル基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルフェニル基、2−ピリジル基等の炭素数5〜20の置換されていてもよいアリール基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、トリフルオロメトキシ基等の炭素数1〜20の置換されていてもよいアルコキシ基;フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基、3−フェノキシフェノキシ基等の炭素数6〜20の置換されていてもよいアリールオキシ基;ベンジルオキシ基、4−メチルベンジルオキシ基、4−メトキシベンジルオキシ基、3−フェノキシベンジルオキシ基、2,3,5,6−テトラフルオロベンジルオキシ基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルベンジルオキシ基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシベンジルオキシ基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルベンジルオキシ基等の炭素数7〜20の置換されていてもよいアラルキルオキシ基;アセチル基、エチルカルボニル基等の炭素数2〜20の置換されていてもよいアルキルカルボニル基;ベンゾイル基、2−メチルベンゾイル基、4−メチルベンゾイル基、4−メトキシベンゾイル基等の炭素数7〜20の置換されていてもよいアリールカルボニル基;ベンジルカルボニル基、4−メチルベンジルカルボニル基、4−メトキシベンジルカルボニル基等の炭素数8〜20の置換されていてもよいアラルキルカルボニル基;カルボキシ基;スルホンアミド基;シアノ基;アミド基;フッ素原子;等のフッ素化反応に関与しない基が挙げられる。また、これらの基のうち、隣接する2つの基が互いに結合して、その結合炭素原子とともに環を形成していてもよい。かかる基で置換された芳香族炭化水素化合物としては、例えばシアノベンゼン、テレフタロニトリル、イソフタロニトリル、オルソフタロニトリル、フルオロベンゼン、1,4−ジフルオロベンゼン、ベンゼンスルホンアミド、ビフェニル、2−フェニルナフタレン、ジフェニルエーテル、ベンゾフェノン、1,2−ジフェニルエタノン等が挙げられる。
【0026】
複素芳香族化合物としては、例えばピリジン、キノリン、ピリミジン等の炭素数5〜20の複素芳香族化合物が挙げられる。かかる複素芳香族化合物上に置換していてもよい基としては、上記した芳香族炭化水素化合物上に置換していてもよい基として例示したフッ素化反応に関与しない基が挙げられる。かかる基で置換された複素芳香族化合物としては、例えば3−メチルピリジン、4−フェニルピリジン等が挙げられる。
【0027】
求核的にフッ素原子で置換され得る基としては、例えば塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基、スルホ基、置換されていてもよいアルキルスルホニルオキシ基、置換されていてもよいアリールスルホニルオキシ基、置換されていてもよいアルキルカルボニルオキシ基または置換されていてもよいアリールカルボニルオキシ基等が挙げられる。かかる基を2以上有する場合には、それらは互いに同一であってもよいし、相異なってもよい。
【0028】
置換されていてもよいアルキルスルホニルオキシ基としては、例えばメタンスルホニルオキシ基、エタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基等が挙げられる。置換されていてもよいアリールスルホニルオキシ基としては、例えばパラトルエンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、1−ナフタレンスルホニルオキシ基等が挙げられる。置換されていてもよいアルキルカルボオキシ基としては、例えばトリフルオロアセトキシ基、ペンタフルオロエチルカルボニルオキシ基等が挙げられる。置換されていてもよいアリールカルボニルオキシ基としては、例えばテトラフルオロベンゾイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
【0029】
求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物としては、例えば1−クロロブタン、1−ブロモブタン、1−ヨードブタン、1−クロロシクロブタン、1−クロロペンタン、1−ブロモペンタン、1−クロロシクロペンタン、1−クロロ−4−ブロモブタン、1−クロロヘキサン、1−ブロモヘキサン、1,6−ジブロモヘキサン、1−クロロヘプタン、1−ブロモヘプタン、2−クロロへプタン、2−ブロモヘプタン、1−クロロオクタン、1−ブロモオクタン、2−クロロオクタン、2−ブロモオクタン、ベンジルクロライド、ベンジルブロマイド、(1−クロロエチル)ベンゼン、(1−ブロモエチル)ベンゼン、4−メトキシベンジルクロライド、4−メチルベンジルブロマイド、3,4,5−トリフルオロベンジルブロマイド、パラトルエンスルホン酸n−ブチル、メタンスルホン酸n−ブチル、パラトルエンスルホン酸n−ペンチル、メタンスルホン酸n−ペンチル、パラトルエンスルホン酸n−ヘキシル、メタンスルホン酸n−ヘキシル、パラトルエンスルホン酸n−ヘプチル、メタンスルホン酸n−ヘプチル、パラトルエンスルホン酸n−オクチル、メタンスルホン酸n−オクチル、トリフルオロ酢酸n−ブチル、テトラフルオロ安息香酸n−ブチル、トリフルオロ酢酸n−オクチル、4−クロロニトロベンゼン、4−ブロモニトロベンゼン、2−クロロニトロベンゼン、2−ブロモニトロベンゼン、2,4−ジクロロニトロベンゼン、2,6−ジクロロニトロベンゼン、3,5−ジクロロニトロベンゼン、4−シアノクロロベンゼン、4−シアノブロモベンゼン、1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼン、テトラクロロテレフタロニトリル、テトラクロロイソフタロニトリル、テトラクロロオルソフタロニトリル、1,3−ジクロロ−4,6−ジニトロベンゼン、2−クロロキノリン、2−クロロ−5−ニトロピリジン、2−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジン、4,5,6−トリクロロピリミジン等が挙げられる。
【0030】
かかる求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物と、本発明のフッ化カリウム分散液とを接触させることにより、含フッ素有機化合物が得られる。ここで、求核的にフッ素原子で置換され得る基を2以上有する有機化合物を用いる場合には、それらは相異なる置換基であってもよく、通常、以下のような反応性を示し、最も反応性が高い基のみがフッ素原子に置換されることもあるし、反応条件によっては同一または相異なる2以上の基がフッ素原子に置換されることもある。
【0031】
置換されていてもよい芳香族炭化水素化合物上の少なくとも1つの水素原子が求核的にフッ素原子で置換され得る基で置換された有機化合物の場合は、通常、パラ位やオルト位に電子吸引性の基を有する求核的にフッ素原子で置換され得る基が優先的にフッ素原子に置換される。例えば、4−クロロニトロベンゼンの反応において、塩素原子とニトロ基はともに求核的にフッ素原子で置換され得る基であるが、より電子吸引性の高いニトロ基をパラ位に持つ塩素原子が優先的にフッ素原子に置換され、通常は4−フルオロニトロベンゼンが選択的に生成する。もちろん、例えば、本発明のフッ化カリウム分散液を大過剰量用いる等、反応条件を適宜選択すればニトロ基もフッ素原子に置換され、パラジフルオロベンゼンを得ることもできる。
【0032】
また、置換されていてもよい複素芳香族化合物上の少なくとも1つの水素原子が求核的にフッ素原子で置換され得る基で置換された有機化合物の場合は、通常、複素芳香環を構成するヘテロ原子に対して、2位、4位または6位の求核的にフッ素原子で置換され得る基が優先的にフッ素原子に置換される。例えば、2−クロロ−3−ニトロピリジンでは、通常、2位のクロル基が置換され2−フルオロ−3−ニトロピリジンが生成する。もちろん、例えば、本発明のフッ化カリウム分散液を大過剰量用いる等、反応条件を適宜選択すればニトロ基もフッ素原子に置換され、2,3−ジフルオロピリジンを得ることもできる。
【0033】
本発明のフッ化カリウム分散液の使用量は、通常、求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物上のフッ素化反応を所望する基に対し、フッ化カリウムを1モル倍以上含む量であればよい。その上限は特にないが、求核的にフッ素原子で置換され得る基を1つのみ有する場合は、反応効率の観点から好ましくは1.5〜5モル倍である。また、求核的にフッ素原子で置換され得る基を2以上有する場合は、上記反応性の優先順位に基づき、フッ素反応を所望する基が優先的にフッ素原子で置換される範囲で使用量を適宜設定すればよい。
【0034】
フッ素化反応は、溶媒の存在下に実施する。溶媒としては、通常、本発明のフッ化カリウム分散液に含まれる溶媒をそのまま使用することができるが、フッ素化反応において、それと同一または別種の溶媒を、さらに追加して用いてもよい。かかる溶媒としては、上述の非プロトン性極性溶媒と同一のものが例示される。
【0035】
接触温度があまり低いとフッ素化反応が進行しにくく、また接触温度があまり高いと原料や生成物の分解等副反応が進行するおそれがあるため、実用的な接触温度は、通常20〜250℃の範囲である。
【0036】
フッ素化反応は、求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物と、本発明のフッ化カリウム分散液とを接触させることにより実施され、それらの混合順序は特に限定されない。例えば、反応温度条件下で求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物に本発明のフッ化カリウム分散液を加えていってもよいし、その逆でもよい。また、両試剤を同時に混合した後に反応温度を調整してもよい。
【0037】
フッ素化反応は、常圧条件下で実施してもよいし、加圧条件下で実施してもよい。また、反応の進行は、例えばガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、NMR、IR等の通常の分析手段により確認することができる。
【0038】
フッ素化反応終了後、得られた反応混合物に、晶析処理や蒸留処理等を施したり、必要に応じて水および/または水と混和しない有機溶媒を加えて抽出処理し、得られる有機層に濃縮処理を施したりすることにより、含フッ素有機化合物を単離することができる。単離した含フッ素有機化合物を、例えば蒸留、カラムクロマトグラフィー等の通常の精製手段によりさらに精製してもよい。
【0039】
ここで、水と混和しない有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;等が挙げられる。
【0040】
かくして得られる含フッ素有機化合物としては、例えば1−フルオロブタン、1−フルオロシクロブタン、1−フルオロペンタン、1−フルオロシクロペンタン、1,4−ジフルオロブタン、1−クロロ−4−フルオロブタン、1−フルオロヘキサン、1,6−ジフルオロヘキサン、1−フルオロヘプタン、2−フルオロへプタン、1−フルオロオクタン、2−フルオロオクタン、ベンジルフルオライド、(1−フルオロエチル)ベンゼン、4−メトキシベンジルフルオライド、4−メチルベンジルフルオライド、3,4,5−トリフルオロベンジルフルオライド、4−フルオロニトロベンゼン、2−フルオロニトロベンゼン、2,4−ジフルオロニトロベンゼン、2,6−ジクロロフルオロベンゼン、3,5−ジフルオロニトロベンゼン、4−シアノフルオロベンゼン、1−フルオロ−2,4−ジニトロベンゼン、テトラフルオロテレフタロニトリル、テトラフルオロイソフタロニトリル、テトラフルオロオルソフタロニトリル、1,3−ジフルオロ−4,6−ジニトロベンゼン、2−フルオロキノリン、2−フルオロ−5−ニトロピリジン、2−フルオロ−5−トリフルオロメチルピリジン、4,6−ジフルオロ−5−クロロ−ピリミジン、4,5,6−トリフルオロピリミジン等が挙げられる。
【0041】
以下、本発明のフッ素化方法の具体例として、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドの製造方法について、さらに説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0042】
テトラクロロテレフタル酸ジクロライドと本発明のフッ化カリウム分散液をと接触させれば、通常、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドが得られる。該生成物は、医農薬原料等として利用できる有用な化合物である(例えば、中国特許公開第1458137号明細書および特許第2606892号公報参照。)。
【0043】
テトラクロロテレフタル酸ジクロライドは、例えば特公平2−11571号公報等に記載の公知の方法により製造することができる。
【0044】
本発明のフッ化カリウム分散液の使用量は、通常、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドに対して、フッ化カリウムを6モル倍以上含む量であればよく、その上限は特にないが、経済的な観点から好ましくは10モル倍以下の範囲で用いる。
【0045】
通常の接触温度は上述のとおりであるが、好ましくは120〜200℃の範囲である。
【0046】
フッ素化反応終了後、例えば減圧蒸留等の通常の単離操作により、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドを単離することができる。得られたテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドは、例えば精留等の通常の精製方法により、さらに精製してもよい。
【0047】
また、得られたテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドとアルコールとを反応させることにより、テトラフルオロテレフタル酸ジエステルを製造することもできる。以下、該反応をエステル化反応と記載することもある。
【0048】
テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドは、フッ素化反応により得られる混合物から単離した後に用いてもよいし、フッ素化反応により得られる混合物をそのまま用いてもよい。
【0049】
アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、シクロヘキサノール等の炭素数1〜6のアルコールが挙げられる。
【0050】
アルコールとして、例えば式(1)
R’OH (1)
(式中、R’は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
で示されるアルコールを用いれば、式(2)

(式中、R’は上記と同一の意味を表す。)
で示されるテトラフルオロテレフタル酸ジエステルが得られる。
【0051】
Rで示される炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の直鎖状、分枝鎖状または環状のアルキル基が挙げられる。
【0052】
アルコールの使用量は特に制限されず、溶媒を兼ねて過剰量用いてもよいが、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドに対して、通常2〜50モル倍の範囲である。
【0053】
テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドとして、フッ素化反応後の混合物をそのまま用いる場合は、有機溶媒を新たに使用することなく実施することができるが、単離されたものを用いる場合は、有機溶媒の存在下に実施することが好ましい。かかる有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル等のエーテル溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;等が挙げられる。有機溶媒の使用量は、特に限定されない。
【0054】
エステル化反応は、必要により有機溶媒の存在下に、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドとアルコールとを混合することにより実施され、その混合順序は特に限定されない。
【0055】
エステル化反応の温度は特に限定されず、通常0〜100℃の範囲である。
【0056】
エステル化反応は、通常、常圧条件下で実施されるが、加圧条件下に実施してもよい。反応の進行は、例えばガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等の通常の分析手段により確認することができる。
【0057】
エステル化反応終了後、反応混合物に、以下に例示する単離手段を施すことにより、テトラフルオロテレフタル酸ジエステルを単離することができる。なお、反応混合物中には、通常、塩化カリウム等の無機塩が析出するので、必要によりろ過処理等を施し、無機塩を除去した後に単離処理を施すことができる。
【0058】
<単離手段例1>
例えば、反応混合物を濃縮処理し、得られた残渣と水とを混合することにより、テトラフルオロテレフタル酸ジエステルを結晶として析出させることができる。かかる結晶をろ過処理により分取すれば、テトラフルオロテレフタル酸ジエステルを単離することができる。
【0059】
<単離手段例2>
例えば、反応混合物と水とを、必要により水と混和しない有機溶媒の存在下に混合し、分液処理を施すことにより、テトラフルオロテレフタル酸ジエステルを有機層として取り出すこともできる。かかる有機層を濃縮処理すれば、テトラフルオロテレフタル酸ジエステルを単離することができる。ここで、水と混和しない有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル等のエーテル溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;等が挙げられ、その使用量は特に限定されない。
【0060】
単離されたテトラフルオロテレフタル酸ジエステルは、例えば晶析、カラムクロマトグラフィー等の通常の精製手段により、さらに精製してもよい。
【0061】
かくして得られるテトラフルオロテレフタル酸ジエステルとしては、例えば2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジエチル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジ(n−プロピル)、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジイソプロピル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジ(n−ブチル)、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジ(tert−ブチル)等が挙げられる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0063】
実施例1
還流冷却管を付した500mlフラスコに、フッ化カリウム(ナカライテスク社から購入;商品コード28611−95)30gとメタノール400gを仕込み、30分間加熱還流したところ、フッ化カリウムは完全に溶解した。該溶液にトルエン100gを加え、常圧下、90〜100℃で、メタノール/トルエン混合液を200g留去した。さらにフラスコ内にトルエン100gを加え、さらにメタノール/トルエン混合液を200g留去した。次いで、フラスコ内にスルホラン110gを加え、130℃に昇温し、メタノール/トルエン混合液を留去した。140℃に昇温し、留出液がほとんど出なくなった後、同温度で6kPaまで減圧してトルエンを留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。
該フッ化カリウム分散液を100℃まで冷却し、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド22gと混合した。得られた混合物を145℃に昇温し、同温度で攪拌しながら3時間保温・攪拌した。反応後、100℃まで冷却し、トルエン100gを加えた後、室温まで冷却した。トルエン溶液の一部をサンプリングし、ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いて分析したところ、主生成物として2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドが得られ、原料が消失していることを確認した。反応液に、メタノール15gを滴下し、窒素ガスを用いて副生するフッ化水素ガスをフラスコ外へ除きながら、室温で12時間攪拌した。析出した結晶をろ別し、該結晶をトルエン10gで洗浄した。ろ液と洗液を合一し、水100gを加えた後、炭酸カリウムを300mg加えて、水層のpHを7に調整した。該混合物を分液処理して得られた有機層をガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの収率:88%
2,3,5−トリフルオロ−6−クロロテレフタル酸ジメチルの収率:8%
ジフルオロ、ジクロロテレフタル酸ジメチルの収率(3異性体合計):5%
【0064】
実施例2
還流冷却管を付した200mlフラスコにスルホラン110gを仕込み、内温140℃まで昇温した。ここに、フッ化カリウム(ナカライテスク社から購入;商品コード28611−95)30gをメタノール350gに溶解させた溶液を滴下しながら、メタノールを留去した。フッ化カリウム/メタノール溶液を全量仕込み、メタノールがほとんど留出しなくなった後、トルエン50gを加え、メタノール/トルエン混合液を留去した。留出液がほとんど出なくなった後、同温度で6kPaまで減圧してトルエンを留去することによりフッ化カリウム分散液を得た。
該フッ化カリウム分散液を100℃まで冷却し、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド22gと混合した。得られた混合物を145℃に昇温し、同温度で攪拌しながら3.5時間保温・攪拌した。反応後、100℃まで冷却し、トルエン100gを加えた後、室温まで冷却した。メタノール15gを滴下し、窒素ガスを用いて副生するフッ化水素ガスをフラスコ外へ除きながら、室温で12時間攪拌した。析出した結晶をろ別し、該結晶をトルエン10gで洗浄した。ろ液と洗液を合一し、水100gを加えた後、炭酸カリウムを400mg加えて、水層のpHを7に調整した。該混合物を分液し、得られた有機層をエバポレーター(減圧度10〜100kPa、水浴30〜50℃)で濃縮することにより、オイル状の残渣を得た。かかる残渣と水110gとを混合したところ、混合物から結晶が析出した。エバポレーター(減圧度10〜100kPa、水浴30〜50℃)で、該混合物から5g程度の水を留出除去することにより、上記残渣に含まれていたトルエンを共沸除去した。室温まで冷却し、結晶をろ過・乾燥することにより、17.2gの薄黄色結晶を得た。該結晶をガスクロマトグラフィー面積百分率法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの純度は93%であった。
単離収率:93%。
【0065】
実施例3
還流冷却管を付した200mlフラスコにスルホラン110gを仕込み、内温140℃まで昇温した。ここに、フッ化カリウム(ナカライテスク社から購入;商品コード28611−95)30gをメタノール350gに溶解させた溶液を滴下しながら、メタノールを留去した。フッ化カリウム/メタノール溶液を全量仕込み、メタノールがほとんど留出しなくなった後、160℃/2.7kPaの条件で、さらにメタノールを留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。
該フッ化カリウム分散液を100℃まで冷却し、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド22gと混合した。得られた混合物を145℃に昇温し、同温度で攪拌しながら3.5時間保温・攪拌した。反応後、100℃まで冷却し、トルエン100gを加えた後、室温まで冷却した。メタノール15gを滴下し、窒素ガスを用いて副生するフッ化水素ガスをフラスコ外へ除きながら、室温で12時間攪拌した。析出した結晶をろ別し、該結晶をトルエン10gで洗浄した。ろ液と洗液を合一し、水100gを加えた後、炭酸カリウムを600mg加えて、水層のpHを7に調整した。該混合物を分液し、得られた有機層をエバポレーター(減圧度10〜100kPa、水浴30〜50℃)で濃縮することにより、オイル状の残渣を得た。かかる残渣と水110gとを混合したところ、混合物から結晶が析出した。エバポレーター(減圧度10〜100kPa、水浴30〜50℃)で、該混合物から5g程度の水を留出除去することにより、上記残渣に含まれていたトルエンを共沸除去した。室温まで冷却し、結晶をろ過・乾燥することにより、17.4gの薄黄色結晶を得た。該結晶をガスクロマトグラフィー面積百分率法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの純度は92%であった。
単離収率:93%。
【0066】
実施例4
還流冷却管を付した50mlフラスコに、フッ化カリウム(ナカライテスク社から購入;商品コード28611−95)480mgとメタノール5gを仕込み、30分間加熱還流したところ、フッ化カリウムは完全に溶解した。該溶液にトルエン5gを加え、常圧下、90〜100℃で、メタノール/トルエン混合液を留去した。メタノールがほとんど留出しなくなった後、ジメチルスルホン1.7gを加え、140℃に昇温してトルエンを留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。
該フッ化カリウム分散液を100℃まで冷却し、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド340mgと混合した。得られた混合物を145℃に昇温し、同温度で攪拌しながら2時間保温・攪拌した。反応後、室温まで冷却し、メタノールを10g加え、析出した結晶を粉砕した後、室温で1時間攪拌した。酢酸エチルを10g加え、ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの収率:75%
2,3,5−トリフルオロ−6−クロロテレフタル酸ジメチルの収率:12%
ジフルオロ、ジクロロテレフタル酸ジメチルの収率(3異性体合計):11%
【0067】
比較例1
還流冷却管を付した50mlフラスコに、フッ化カリウム(ナカライテスク社から購入;商品コード28611−95)960mgとメタノール2gを加え、30分還流したが、フッ化カリウムは完全には溶解しなかった。得られた混合物にスルホラン3gおよびトルエン3gを加え、常圧下130℃で、メタノール/トルエン混合液を留去した。メタノールがほとんど留出しなくなった後、140℃に昇温し、トルエンを留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。
該フッ化カリウム分散液を100℃まで冷却し、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド680mgと混合した。得られた混合物を150℃に昇温し、同温度で攪拌しながら4時間保温・攪拌した。反応後、室温まで冷却し、メタノールを5g加え、室温で1時間攪拌した。酢酸エチルを10g加え、ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの収率:0%
2,3,5−トリフルオロ−6−クロロテレフタル酸ジメチルの収率:0%
ジフルオロ−ジクロロテレフタル酸ジメチルの収率(3異性体合計):0%
2−フルオロ−3,5,6−トリクロロテレフタル酸ジメチルの収率:1%
2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジメチルの収率:98%
【0068】
実施例5
還流冷却管を付した50mlフラスコにスルホラン25gを仕込み、内温140℃まで昇温した。ここに、フッ化カリウム(ナカライテスク社から購入;商品コード28611−95)4.5gをメタノール60gに溶解させた溶液を滴下しながら、メタノールを留去した。フッ化カリウム/メタノール溶液を全量仕込み、メタノールがほとんど留出しなくなった後、トルエン10gを加え、メタノール/トルエン混合液を留去した。留出液が常圧ではほとんど出なくなった後、同温度で6kPaまで減圧してトルエンを留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。
該フッ化カリウム分散液を100℃まで冷却し、2,4−ジクロロニトロベンゼン5gと混合した。得られた混合物を180℃に昇温し、同温度で攪拌しながら10時間保温・攪拌した。反応後、100℃まで冷却し、トルエン100gを加えた後、室温まで冷却した。析出した結晶をろ別し、該結晶をトルエン10gで洗浄した。ろ液と洗液を合一し、得られた溶液をガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
2,4−ジフルオロニトロベンゼンの収率:92%
フルオロ、クロロニトロベンゼンの収率(2異性体合計):8%
【0069】
実施例6
還流冷却管を付した50mlフラスコにスルホラン25gを仕込み、内温140℃まで昇温した。ここに、フッ化カリウム(ナカライテスク社から購入;商品コード28611−95)4.5gをメタノール60gに溶解させた溶液を滴下しながら、メタノールを留去した。フッ化カリウム/メタノール溶液を全量仕込み、メタノールがほとんど留出しなくなった後、160℃/2.7kPaの条件で、さらにメタノールを留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。該フッ化カリウム分散液中のメタノール残存量をガスクロマトグラフィー面積比較法で分析したところ、スルホランに対して0.02重量%以下であった。
該フッ化カリウム分散液を100℃まで冷却し、2,4−ジクロロニトロベンゼン5gと混合した。得られた混合物を180℃に昇温し、同温度で攪拌しながら8時間保温・攪拌した。反応後、100℃まで冷却し、トルエン100gを加えた後、室温まで冷却した。析出した結晶をろ別し、該結晶をトルエン10gで洗浄した。ろ液と洗液を合一し、得られた溶液をガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
2,4−ジフルオロニトロベンゼンの収率:90%
フルオロ、クロロニトロベンゼンの収率(2異性体合計):10%
【0070】
実施例7
還流冷却管を付した50mlフラスコにジメチルスルホキシド25gを仕込み、内温 140℃まで昇温した。ここに、フッ化カリウム(ナカライテスク社から購入;商品コード28611−95)2.8gをメタノール40gに溶解させた溶液を滴下しながら、メタノールを留去した。フッ化カリウム/メタノール溶液を全量仕込み、メタノールがほとんど留出しなくなった後、同温度で6kPaまで減圧して、さらにメタノールを留去するとともに、ジメチルスルホキシドを10g留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。
該フッ化カリウム分散液を100℃まで冷却し、4−クロロニトロベンゼン5gと混合した。得られた混合物を185℃に昇温し、同温度で攪拌しながら4時間保温・攪拌した。反応後、100℃まで冷却し、トルエン100gを加えた後、室温まで冷却した。析出した結晶をろ別し、該結晶をトルエン10gで洗浄した。ろ液と洗液を合一し、得られた溶液をガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
4−フルオロニトロベンゼンの収率:97%
4−クロロニトロベンゼンの回収率:3%
【0071】
実施例8
還流冷却管を付した50mlフラスコにN−メチル−2−ピロリドン25gを仕込み、内温140℃まで昇温した。ここに、フッ化カリウム(ナカライテスク社から購入;商品コード28611−95)2.8gをメタノール40gに溶解させた溶液を滴下しながら、メタノールを留去した。フッ化カリウム/メタノール溶液を全量仕込み、メタノールがほとんど留出しなくなった後、同温度で6kPaまで減圧して、さらにメタノールを留去するとともに、N−メチル−2−ピロリドンを10g留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。
該フッ化カリウム分散液を100℃まで冷却し、ベンジルブロマイド5.5gと混合した。得られた混合物を120℃に昇温し、同温度で攪拌しながら4時間保温・攪拌した。反応後、100℃まで冷却し、トルエン100gを加えた後、室温まで冷却した。析出した結晶をろ別し、該結晶をトルエン10gで洗浄した。ろ液と洗液を合一し、得られた溶液をガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
ベンジルフルオライドの収率:93%
ベンジルブロマイドの回収率:3%
【0072】
実施例9
500mlフラスコにメタノール350gと水酸化カリウム29.0gを仕込み、室温にて攪拌し溶解させた。この溶液に、内温30℃以下を保持するように冷却攪拌しながら、47重量%フッ化水素酸22.0gを滴下した。得られた混合物は、均一溶液であった。
還流冷却管を付した200mlフラスコにスルホラン110gを仕込み、内温140℃まで昇温した。ここに、上記のフッ化カリウム/メタノール溶液を滴下しながら、メタノールと水を留去した。フッ化カリウム/メタノール溶液を全量仕込み、メタノールと水がほとんど留出しなくなった後、トルエン10gを加え、メタノール/水/トルエン混合液を留去した。留出液がほとんど出なくなった後、同温度で6kPaまで減圧してトルエンを留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。
該フッ化カリウム分散液を100℃まで冷却し、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド22gと混合した。得られた混合物を145℃に昇温し、同温度で攪拌しながら4時間保温・攪拌した。反応後、100℃まで冷却し、トルエン100gを加えた後、室温まで冷却した。メタノール15gを滴下し、窒素ガスを用いて副生するフッ化水素ガスをフラスコ外へ除きながら、室温で12時間攪拌した。析出した結晶をろ別し、該結晶をトルエン10gで洗浄した。ろ液と洗液を合一し、水100gを加えた後、炭酸カリウムを600mg加えて、水層のpHを7に調整した。該混合物を分液し、得られた有機層をエバポレーター(減圧度10〜100kPa、水浴30〜50℃)で濃縮することにより、オイル状の残渣を得た。かかる残渣と水110gとを混合したところ、混合物から結晶が析出した。エバポレーター(減圧度10〜100kPa、水浴30〜50℃)で、該混合物から5g程度の水を留出除去することにより、上記残渣に含まれていたトルエンを共沸除去した。室温まで冷却し、結晶をろ過・乾燥することにより、17.6gの薄黄色結晶を得た。該結晶をガスクロマトグラフィー面積百分率法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの純度は87%であった。
単離収率:89%。
【0073】
実施例10
200mlフラスコにメタノール53gと水酸化カリウム4.4gを仕込み、室温にて攪拌し溶解させた。この溶液に、内温30℃以下を保持するように冷却攪拌しながら、47重量%フッ化水素酸3.3gを滴下した。得られた混合物は、均一溶液であった。
還流冷却管を付した50mlフラスコにスルホラン25gを仕込み、内温140℃まで昇温した。ここに、上記のフッ化カリウム/メタノール溶液を滴下しながら、メタノールと水を留去した。フッ化カリウム/メタノール溶液を全量仕込み、メタノールと水がほとんど留出しなくなった後、160℃/2.7kPaの条件で、さらにメタノールと水を留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。
該フッ化カリウム分散液を100℃まで冷却し、2,4−ジクロロニトロベンゼン5.0gと混合した。得られた混合物を180℃に昇温し、同温度で攪拌しながら10時間保温・攪拌した。反応後、100℃まで冷却し、トルエン100gを加えた後、室温まで冷却した。析出した結晶をろ別し、該結晶をトルエン10gで洗浄した。ろ液と洗液を合一し、得られた溶液をガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
2,4−ジフルオロニトロベンゼンの収率:89%
フルオロ、クロロニトロベンゼンの収率(2異性体合計):9%
【0074】
実施例11
200mlフラスコにメタノール35gと水酸化カリウム2.7gを仕込み、室温にて攪拌し溶解させた。この溶液に、内温30℃以下を保持するように冷却攪拌しながら、47重量%フッ化水素酸2.0gを滴下した。得られた混合物は、均一溶液であった。
還流冷却管を付した50mlフラスコにN−メチル−2−ピロリドン25gを仕込み、内温140℃まで昇温した。ここに、上記のフッ化カリウム/メタノール溶液を滴下しながら、メタノールと水を留去した。フッ化カリウム/メタノール溶液を全量仕込み、メタノールと水がほとんど留出しなくなった後、同温度で6kPaまで減圧して、さらにメタノールと水を留去するとともに、N−メチル−2−ピロリドンを10g留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。
該フッ化カリウム分散液を100℃まで冷却し、ベンジルブロマイド5.5gと混合した。得られた混合物を120℃に昇温し、同温度で攪拌しながら4時間保温・攪拌した。反応後、100℃まで冷却し、トルエン100gを加えた後、室温まで冷却した。析出した結晶をろ別し、該結晶をトルエン10gで洗浄した。ろ液と洗液を合一し、得られた溶液をガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
ベンジルフルオライドの収率:94%
ベンジルブロマイドの回収率:3%
【0075】
実施例12
還流冷却管を付した500mlフラスコにスルホラン75gを仕込み、内温140℃まで昇温した。ここに、フッ化カリウム(ナカライテスク社から購入;商品コード28611−95)17.8gをメタノール209gに溶解させた溶液を滴下しながら、メタノールを留去した。フッ化カリウム/メタノール溶液を全量仕込み、メタノールがほとんど留出しなくなった後、160℃/2.7kPaの条件で、さらにメタノールを留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。
120mlオートクレーブ反応装置に4,5,6−トリクロロピリミジン10.3gを仕込み、上記フッ化カリウム分散液を加え、密封した。窒素を用いて、室温で内圧0.5MPaに調整した後、内温220℃まで加熱し、同温度で10時間反応させた。反応後の内圧は、220℃で0.82MPaであった。反応混合物を室温まで冷却し、上澄み液をガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
4,5,6−トリフルオロピリミジンの収率:50%
4,6−ジフルオロ−5−クロロ−ピリミジンの収率:26%
【0076】
実施例13
還流冷却管を付した200mlフラスコにスルホラン70gを仕込み、内温140℃まで昇温した。ここに、フッ化カリウム(アルドリッチ社から購入;スプレードライ品;商品コード307599)13.6gと水1.0gをメタノール180gに溶解させた溶液を滴下しながら、メタノールを留去した。フッ化カリウム/メタノール溶液を全量仕込み、メタノールがほとんど留出しなくなった後、160℃/2.7kPaの条件で、さらにメタノールを留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。
該フッ化カリウム分散液を140℃まで冷却し、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド10gと混合した。得られた混合物を内温145℃に昇温し、同温度で攪拌しながら3時間保温・攪拌した。反応後、100℃まで冷却し、トルエン20gを加えた後、室温まで冷却した。反応液にメタノール9.4gを滴下し、窒素ガスを用いて副生するフッ化水素ガスをフラスコ外へ除きながら、室温で1時間攪拌した。析出した結晶をろ別し、該結晶をトルエン50gで洗浄した。ろ液と洗液を合一し、得られた溶液をガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの収率:82%
2,3,5−トリフルオロ−6−クロロテレフタル酸ジメチルの収率:7%
ジフルオロ−ジクロロテレフタル酸ジメチルの収率(3異性体合計):5%
【0077】
比較例2
還流冷却管を付した200mlフラスコに、フッ化カリウム(アルドリッチ社から購入;スプレードライ品;商品コード307599)13.6gと水1.0gを加え、さらにメタノール20gを加えて30分還流したが、フッ化カリウムは完全には溶解しなかった。得られた混合物にスルホラン70gおよびトルエン22gを加え、常圧下130℃で、メタノール/トルエン混合液を留去した。メタノールがほとんど留出しなくなった後、140℃に昇温し、トルエンを留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。
該フッ化カリウム分散液を140℃まで冷却し、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド10gと混合した。得られた混合物を内温145℃に昇温し、同温度で攪拌しながら3時間保温・攪拌した。反応後、100℃まで冷却し、トルエン20gを加えた後、室温まで冷却した。反応液にメタノール9.4gを滴下し、窒素ガスを用いて副生するフッ化水素ガスをフラスコ外へ除きながら、室温で1時間攪拌した。析出した結晶をろ別し、該結晶をトルエン50gで洗浄した。ろ液と洗液を合一し、得られた溶液をガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの収率:1%
2,3,5−トリフルオロ−6−クロロテレフタル酸ジメチルの収率:10%
ジフルオロ−ジクロロテレフタル酸ジメチルの収率(3異性体合計):48%
2−フルオロ−3,5,6−トリクロロテレフタル酸ジメチルの収率:10%
2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジメチルの収率:4%
【0078】
実施例14
還流冷却管を付した500mlフラスコにスルホラン300gを仕込み、内温140℃まで昇温した。ここに、フッ化カリウム(アルドリッチ社から購入;スプレードライ品;商品コード307599)58gと水3gをメタノール772gに溶解させた溶液を滴下しながら、メタノールを留去した。フッ化カリウム/メタノール溶液を全量仕込み、メタノールがほとんど留出しなくなった後、160℃/2.7kPaの条件で、さらにメタノールを留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。
得られたフッ化カリウム分散液中のフッ化カリウムの粒子数および体積換算粒度分布を、レーザー センサー テクノロジー社製のインライン式粒度分布・粒子数変化測定システム(FBRM)「D600L」を用いて測定し、粒度分布データを「D600L」に付属のデータ処理システムを用いて取得した。得られた粒度分布データを、図1に示した。体積換算平均粒子径は19.7μmであった。
測定終了後、フッ化カリウム分散液を濾過して、得られたフッ化カリウム粒子を酢酸エチル100gで洗浄し、80℃、1.3kPaの条件で、乾燥した。乾燥したフッ化カリウム粒子を、Pt−Pd蒸着法により前処理し、株式会社日立製作所製の電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)「S−800」を用い、加速電圧10kVの条件で、形態観察を行なったところ、フッ化カリウム分散液中のフッ化カリウムの一次粒子の粒子径は、0.1〜5μmであった。結果を図5および図6に示した。図5は、撮影倍率が2000倍のSEM像であり、図6は、撮影倍率が5000倍のSEM像である。
【0079】
比較例3
還流冷却管を付した500mlフラスコに、フッ化カリウム(アルドリッチ社から購入;スプレードライ品;商品コード307599)83gと水5gを加え、さらにメタノール119gを加えて30分還流したが、フッ化カリウムは完全には溶解しなかった。得られた混合物にスルホラン300gおよびトルエン130gを加え、常圧下130℃で、メタノール/トルエン混合液を留去した。メタノールがほとんど留出しなくなった後、140℃に昇温し、トルエンを留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。
得られたフッ化カリウム分散液中のフッ化カリウムの粒子数および体積換算粒度分布を、レーザー センサー テクノロジー社製のインライン式粒度分布・粒子数変化測定システム(FBRM)「D600L」を用いて測定し、粒度分布データを「D600L」に付属のデータ処理システムを用いて取得した。得られた粒度分布データを、図2に示した。体積換算平均粒子径は、29.7μmであった。
測定終了後、フッ化カリウム分散液を濾過して、得られたフッ化カリウム粒子を酢酸エチル150gで洗浄し、80℃、1.3kPaの条件で、乾燥した。乾燥したフッ化カリウム粒子を、Pt−Pd蒸着法により前処理し、株式会社日立製作所製の電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)「S−800」を用い、加速電圧10kVの条件で、形態観察を行なった。結果を図7に示した。図7は、撮影倍率が2000倍のSEM像である。
【0080】
比較例4
フッ化カリウム(アルドリッチ社から購入;スプレードライ品;商品コード307599)をスルホランに分散させて、フッ化カリウム分散液を調製した。
得られたフッ化カリウム分散液中のフッ化カリウムの粒子数および体積換算粒度分布を、レーザー センサー テクノロジー社製のインライン式粒度分布・粒子数変化測定システム(FBRM)「D600L」を用いて測定し、粒度分布データを「D600L」に付属のデータ処理システムを用いて取得した。得られた粒度分布データを、図3に示した。体積換算平均粒子径は、127.2μmであった。
測定終了後、フッ化カリウム分散液を濾過して、得られたフッ化カリウム粒子を酢酸エチル150gで洗浄し、80℃、1.3kPaの条件で、乾燥した。乾燥したフッ化カリウム粒子を、Pt−Pd蒸着法により前処理し、株式会社日立製作所製の電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)「S−800」を用い、加速電圧10kVの条件で、形態観察を行なった。結果を図8に示した。図8は、撮影倍率が1000倍のSEM像である。
【0081】
実施例15
還流冷却管を付した500mlフラスコにスルホラン300gを仕込み、内温140℃まで昇温した。ここに、フッ化カリウム(ナカライテスク社から購入;商品コード28611−95)58gをメタノール772gに溶解させた溶液を滴下しながら、メタノールを留去した。フッ化カリウム/メタノール溶液を全量仕込み、メタノールがほとんど留出しなくなった後、160℃/2.7kPaの条件で、さらにメタノールを留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。
得られたフッ化カリウム分散液中のフッ化カリウムの粒子数および体積換算粒度分布を、レーザー センサー テクノロジー社製のインライン式粒度分布・粒子数変化測定システム(FBRM)「D600L」を用いて測定し、粒度分布データを「D600L」に付属のデータ処理システムを用いて取得した。得られた粒度分布データを、図4に示した。体積換算平均粒子径は、20.2μmであった。
測定終了後、フッ化カリウム分散液を濾過して、得られたフッ化カリウム粒子を酢酸エチル150gで洗浄し、80℃、1.3kPaの条件で、乾燥した。乾燥したフッ化カリウム粒子を、Pt−Pd蒸着法により前処理し、株式会社日立製作所製の電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)「S−800」を用い、加速電圧10kVの条件で、形態観察を行なったところ、フッ化カリウム分散液中のフッ化カリウムの一次粒子の粒子径は、0.1〜5μmであった。結果を図9および図10に示した。図9は、撮影倍率が2000倍のSEM像であり、図10は、撮影倍率が5000倍のSEM像である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】実施例14で得られたフッ化カリウム分散液の体積換算粒度分布を示す図である。
【図2】比較例3で得られたフッ化カリウム分散液の体積換算粒度分布を示す図である。
【図3】比較例4で得られたフッ化カリウム分散液の体積換算粒度分布を示す図である。
【図4】実施例15で得られたフッ化カリウム分散液の体積換算粒度分布を示す図である。
【図5】実施例14で得られたフッ化カリウム分散液中のフッ化カリウム粒子のFE−SEM像(撮影倍率2000倍)である。
【図6】実施例14で得られたフッ化カリウム分散液中のフッ化カリウム粒子のFE−SEM像(撮影倍率5000倍)である。
【図7】比較例3で得られたフッ化カリウム分散液中のフッ化カリウム粒子のFE−SEM像(撮影倍率2000倍)である。
【図8】比較例4で得られたフッ化カリウム分散液中のフッ化カリウム粒子のFE−SEM像(撮影倍率1000倍)である。
【図9】実施例15で得られたフッ化カリウム分散液中のフッ化カリウム粒子のFE−SEM像(撮影倍率2000倍)である。
【図10】実施例15で得られたフッ化カリウム分散液中のフッ化カリウム粒子のFE−SEM像(撮影倍率5000倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化カリウムおよびその5〜50重量倍のメタノールを含んでなる混合物と、メタノールよりも沸点が高い非プロトン性有機溶媒とを混合し、得られる混合物を濃縮することにより得られる実質的にフッ化カリウムと非プロトン性有機溶媒とからなるフッ化カリウム分散液。
【請求項2】
フッ化カリウムおよびその5〜50重量倍のメタノールを含んでなる混合物が、フッ化カリウムがメタノールに完全に溶解した溶液である請求項1に記載のフッ化カリウム分散液。
【請求項3】
フッ化カリウム分散液中のフッ化カリウムが、1次粒子の粒子径が0.1〜5μmであって、その一部または全てが凝集して体積換算平均粒子径5〜25μmの粒子を形成しているフッ化カリウムである請求項2に記載のフッ化カリウム分散液。
【請求項4】
フッ化カリウムおよびその5〜50重量倍のメタノールを含んでなる混合物と、メタノールよりも沸点が高い非プロトン性有機溶媒とを混合し、得られる混合物を濃縮することを特徴とする実質的にフッ化カリウムと非プロトン性有機溶媒とからなるフッ化カリウム分散液の製造方法。
【請求項5】
メタノールの沸点以上の温度条件下、メタノールよりも沸点が高い非プロトン性有機溶媒中に、フッ化カリウムおよびその5〜50重量倍のメタノールを含んでなる混合物を加えながら濃縮する工程を含む請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
フッ化カリウム分散液中のフッ化カリウムが、1次粒子の粒子径が0.1〜5μmであって、その一部または全てが凝集して体積換算平均粒子径5〜25μmの粒子を形成しているフッ化カリウムである請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
フッ化カリウムおよびその5〜50重量倍のメタノールを含んでなる混合物が、フッ化カリウムがメタノールに完全に溶解した溶液である請求項4〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
メタノールよりも沸点が高い非プロトン性有機溶媒が、非プロトン性極性溶媒である請求項4〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
非プロトン性極性溶媒が、スルホン溶媒またはスルホキシド溶媒である請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
フッ化カリウムおよびその5〜50重量倍のメタノールを含んでなる混合物が、水酸化カリウムとフッ化水素とをメタノール中で混合してなる混合物である請求項4〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
フッ化水素が、フッ化水素酸である請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物と請求項1〜3のいずれかに記載のフッ化カリウム分散液とを接触させることを特徴とする含フッ素有機化合物の製造方法。
【請求項13】
求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物が、
置換されていてもよい脂肪族炭化水素化合物上の少なくとも1つの水素原子が求核的にフッ素原子で置換され得る基で置換された有機化合物である請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物が、
置換されていてもよい芳香族炭化水素化合物上の少なくとも1つの水素原子が求核的にフッ素原子で置換され得る基で置換された有機化合物である請求項12に記載の製造方法。
【請求項15】
求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物が、
置換されていてもよい複素芳香族化合物上の少なくとも1つの水素原子が求核的にフッ素原子で置換され得る基で置換された有機化合物である請求項12に記載の製造方法。
【請求項16】
求核的にフッ素原子で置換され得る基が、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基、スルホ基、置換されていてもよいアルキルスルホニルオキシ基、置換されていてもよいアリールスルホニルオキシ基、置換されていてもよいアルキルカルボニルオキシ基または置換されていてもよいアリールカルボニルオキシ基である請求項12〜15のいずれかに記載の製造方法。
【請求項17】
テトラクロロテレフタル酸ジクロライドと請求項1〜3のいずれかに記載のフッ化カリウム分散液とを接触させることを特徴とするテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドの製造方法。
【請求項18】
請求項17に記載の製造方法により得られたテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドとアルコールとを反応させるテトラフルオロテレフタル酸ジエステルの製造方法。
【請求項19】
4,5,6−トリクロロピリミジンと請求項1〜3のいずれかに記載のフッ化カリウム分散液とを接触させることを特徴とする4,5,6−トリフルオロピリミジンの製造方法。
【請求項20】
有機化合物をフッ素化するための請求項1〜3のいずれかに記載のフッ化カリウム分散液の使用。
【請求項21】
有機化合物をフッ素化するための請求項4〜11のいずれかに記載の製造方法により得られたフッ化カリウム分散液の使用。
【請求項22】
求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物と請求項1〜3のいずれかに記載のフッ化カリウム分散液とを接触させることを特徴とする有機化合物のフッ素化方法。
【請求項23】
求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物と請求項4〜11のいずれかに記載の製造方法により得られたフッ化カリウム分散液とを接触させることを特徴とする有機化合物のフッ素化方法。
【請求項24】
フッ化カリウムおよびその5〜50重量倍のメタノールを含んでなる混合物と、メタノールよりも沸点が高い非プロトン性有機溶媒とを混合し、得られる混合物を濃縮することにより得られる実質的にフッ化カリウムと非プロトン性有機溶媒とからなるフッ素化反応用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−31028(P2008−31028A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116510(P2007−116510)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】