説明

フッ化ビニリデンカチオン界面活性剤

式(I)
【化1】


のフッ化ピリジニウムカチオン化合物であって、
式中
Rfが、F(CF26(CH2CF2m(CH2CH2n−であり、
mおよびnが各々独立して、1〜3の整数であり、
Rが、H、C1〜C5の直鎖状アルキルもしくは分枝状アルキル、またはC1〜C5の直鎖状アルコキシもしくは分枝状アルコキシであり、水性媒体または溶媒中において表面張力を低下させるため、また、発泡剤として使用するために界面活性剤の性質を有する化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性媒体または溶媒における表面張力を低下させるため、および発泡剤として使用するためのフッ化ピリジニウムカチオン界面活性剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ペルフルオロ四級アンモニウム誘導体などのフッ化カチオン化合物は業界で知られており、それらは飽和ペルフルオロアルキル末端鎖を有する。例えば、米国特許第4,836,958号明細書に開示されたフッ化カチオン化合物は、18個までの炭素原子を有するそのようなペルフルオロアルキル末端鎖基を含有する。「Molecular Aggregation Structure and Surface Properties of Poly(fluoroalkylacrylate)Thin Films」Macromolecules(2005)、38(13)、5699−5705頁で、ホンダらは、個々のペルフルオロアルキル鎖が平行方向に維持されるためには少なくとも8個の炭素のペルフルオロアルキル鎖が必要であると述べている。連続8個未満のペルフルオロ化炭素しか含有しないペルフルオロアルキル鎖では、再配向が起こり、望ましい界面特性の発現における材料の性能を低下させるか、またはさらに除去する。市販品として入手できるフッ化ピリジニウムカチオン界面活性剤は通常、少なくとも8個以上の炭素の飽和ペルフルオロアルキル末端鎖を含有する。
【0003】
フッ化界面活性剤の価格の高さは、それに組み込まれたフッ素の量によって決まる。フッ素の含量が高いほど高価になる。したがって、より短いフッ化鎖または鎖中のより少ないフッ素置換を有する一方で、それより長い完全フッ化ペルフルオロ鎖を含有するフッ化界面活性剤の界面特性に比較して、等価か、またはさらにより良好な界面特性を提供するフッ化界面活性剤を提供することが望ましい。
【0004】
短い部分的フッ化末端鎖を有するフッ化ピリジニウムカチオン界面活性剤が種々の適用において望ましい界面効果を提供し、石油分野およびガス分野の適用において特に有用であることが本発明において発見された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、式(I)
【0006】
【化1】

【0007】
の化合物であって、
式中、
Rfは、F(CF26(CH2CF2m(CH2CH2n−であり、
mおよびnは各々独立して1〜3の整数であり、
RはH、C1〜C5の直鎖状もしくは分枝状状アルキル、またはC1〜C5の直鎖状もしくは分枝状アルコキシである化合物を含んでなる。
【0008】
本発明はさらに、水性媒体または溶媒を、上記の式(I)の化合物に接触させることを含んでなる、水性媒体または溶媒の界面効果を改変する方法を含んでなる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書に用いられる用語「界面活性剤」は、表面活性剤を意味し、界面における選択的吸着により界面活性剤を含有する媒体の表面張力を、低濃度でも効果的に低下させる物質のことである。界面活性剤は、純粋な化合物であってもよいし、同種化合物または異種化合物の混合物であってもよい。
【0010】
本明細書に用いられる用語「掘削液」とは、掘削操作前または掘削時に炭化水素またはガスを含有する地下帯を貫通する坑井または坑井ボアに加えられる液体を意味する。例としては、水、塩水、溶媒、炭化水素、界面活性剤、油類、石油、破砕液、刺激液、油ベースの掘削泥、粘度安定剤、処理液、およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0011】
本明細書に用いられる用語「坑井液」とは、炭化水素またはガスを含有する地下帯を貫通する坑井または坑井ボアに生じるか、または加えられる液体を意味する。例としては、掘削液、水、塩水、溶媒、炭化水素、界面活性剤、油類、石油、破砕液、刺激液、油ベースの掘削泥、粘度安定剤、処理液、およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0012】
本明細書に用いられる用語「液体処理流または気体処理流」とは、炭化水素またはガスの抽出操作において、炭化水素またはガスを含有する地下帯を貫通する坑井または坑井ボア領域内に注入される液体組成物または気体組成物、あるいはこれらの組合せを意味する。例としては、ストリーム、掘削液、坑井液、水、塩水、溶媒、炭化水素、界面活性剤、破砕液、刺激液、油ベースの掘削泥、粘度安定剤、処理液、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0013】
本発明は、式(I)
【0014】
【化2】

【0015】
の化合物であって、
式中、
Rfは、F(CF26(CH2CF2m(CH2CH2n−であり、
mおよびnは各々独立して1〜3の整数であり、
RはH、C1〜C5の直鎖状もしくは分枝状アルキル、またはC1〜C5の直鎖状または分枝状アルコキシであるフッ化ピリジニウムカチオン化合物を含んでなる。
【0016】
式(I)の好ましい化合物は、mが1または2であり、nが1または2の化合物である。より好ましい化合物は、mが1または2であり、nが1の式(I)の化合物である。式(I)の他の好ましい実施形態は、Rが水素、メチル、エチル、メトキシまたはエトキシのものである。
【0017】
式(I)の化合物は、一般的にはアルコールなどの溶媒中、ピリジンとフッ化ヨウ素との反応後、得られた生成物とアリールスルホン酸との反応によって調製される。
【0018】
このような調製の一例は以下に詳述する。化合物C613CH2CF2CH2CH2Iなどのヨウ化物中間体は、オートクレーブ反応器中、d−(+)−リモネンの存在下、約240℃で約12時間、C613CH2CF2Iをエチレンと接触させることによって調製される。次いで、C613CH2CF2CH2CH2Iなどの得られたヨウ化物中間体を、一般的には不活性ガス下でピリジンと接触させる。この反応は、約80℃で数時間、一般的には約20時間還流させる。反応混合物を冷却し生成物を公知の方法を用いて単離し乾燥する。本実施例の生成物はC613CH2CF2CH2CH2+(C25)I-であり、次いでこれを約60℃に加熱しながら不活性ガス下でアルコールと処理する。アルコール中、p−トルエンスルホン酸などのアリールスルホン酸溶液を反応フラスコに滴下して加える。この反応液を、蒸留液中のCH3Iがガスクロマトグラフィーによりもはや検出できなくなるまで、約60℃に数時間、一般的には75〜80時間加熱しながら、蒸留溶媒を補充するために追加の溶媒を加える。標準的技法を用いて、生成物のC613CH2CF2CH2CH2+25ρ−CH364SO3-を単離する。上記操作後の他の実施形態において、C613CH2CF2CH2CF2Iをエチレンと反応させることにより、化合物C613CH2CF2CH2CF2CH2CH2Iを調製することができ、次いでこれを反応させて、C613(CH2CF22CH2CH2+25ρ−CH364SO3-を形成する。
【0019】
式(I)のフッ化ピリジニウムカチオン化合物を含んでなる界面活性剤は、コーティング剤、油/ガス分野、消火、重合、表面処理および保護、農業、繊維、カーペット、フロアリング、石およびタイルなどにおける硬質処理および保護、光起電力材料で、また、自動車、除草剤、印刷、紙工業および皮革工業などでの多くの適用における使用に好適である。
【0020】
本発明の一実施形態において、本発明の組成物は、媒体または基質の表面張力または他の表面特性に影響を与える界面活性剤として有用である。式(I)の化合物を水性媒体または溶媒と接触させる。好適な媒体の例は、水、コーティング組成物、ラテックス、ポリマー、床仕上塗料、消火剤、インク、乳化剤、発泡剤、剥離剤、撥水剤、流れ調整剤、フィルム蒸発防止剤、湿潤剤、浸透剤、洗浄剤、研剤、電気めっき剤、腐食防止剤、エッチング液、ハンダ付け剤、分散助剤、微生物剤、パルプ化助剤、すすぎ助剤、研磨助剤、パーソナル・ケア組成物、乾燥剤、静電防止剤、床磨き剤、および結合剤よりなる群から選択される。この実施形態は、媒体の表面張力および他の表面特性、または媒体が適用される基質の表面張力および他の表面特性に影響を与えるために有用である。本発明の化合物を用いて変化させることのできる表面挙動のタイプとしては、例えば、湿潤、浸透、拡散、レベリング、流展、乳化、分散、撥水、剥離、潤滑、エッチング、結合、および安定化が挙げられる。
【0021】
上記式(I)のフッ化ピリジニウムカチオン化合物は、媒体中の表面張力を低下させるために、界面活性剤としての使用に好適である。媒体中の得られた表面張力値は、約0.5重量%未満の界面活性剤濃度において、1メートル当り、約25ミリニュートン未満であり、好ましくは、1メートル当り、約20ミリニュートン未満であり、より好ましくは、1メートル当り、約19ミリニュートン未満である。このように低下した表面張力を、約0.2重量%未満、または約0.1重量%未満の濃度で得られることが多い。界面活性剤は、界面活性剤の両親媒性によって決まる界面への選択的吸着による低濃度での表面張力の低下におけるその有効性を特徴としている。用語の「両親媒性」とは、2種の異なる媒体への吸引力を意味する。界面活性剤は通常、水溶性の親水性部分と水不溶性の親油性部分を含んでなる。
【0022】
本発明はさらに、媒体を上記に定義した式(I)の化合物と接触させることを含んでなる、水性媒体または溶媒の表面効果を改変する方法を含んでなる。このような表面効果の一つは、媒体を式(I)のフッ化ピリジニウムカチオン化合物と接触させることによる媒体の表面張力の低下である。他の表面挙動変化の例としては、湿潤性、浸透性、拡展性、レベリング性、流動性、乳化性、液体中分散の安定性、撥水性、剥離性、潤滑性、エッチング性、および結合性の向上が挙げられる。多種多様な媒体のいずれも本発明の方法における使用に好適である。一般的に媒体は、上記のような水性液媒体または溶媒である。
【0023】
低い表面張力が必要とされる例としては、コーティング組成物および水性洗浄製品と非水性洗浄製品が挙げられ、各々、ガラス、木材、金属、煉瓦、コンクリート、セメント、天然石ならびに人工石、タイル、合成フロアリング、ラミネート、紙、繊維材料、リノリウムならびに他のプラスチック、樹脂、天然ゴムならびに合成ゴム、繊維ならびに織物、および塗料用のコーティング組成物ならびに水性および非水性洗浄製品;ポリマー;および床、家具、靴、インク、自動車保護用のワックス、仕上げ剤、均染剤および光沢剤が挙げられる。湿潤剤の適用としては、枯草剤、殺菌剤、除草剤、ホルモン成長調節剤、殺寄生虫薬、殺虫剤、殺菌剤、殺細菌剤、殺線虫剤、殺微生物剤、落葉剤または肥料、治療剤、抗菌剤、フルオロケミカル血液代用薬、織物加工浴、および紡糸仕上げを含有する組成物用の湿潤剤が挙げられる。パーソナル・ケア製品における適用としては、シャンプー、コンディショナー、クリームリンス、皮膚用化粧品(治療用ならびに保護用のクリームならびにローション、オイルならびに撥水性化粧用パウダー、脱臭剤および制汗剤など)、爪研き剤、口紅、および練り歯磨きが挙げられる。さらなる適用としては、織物保護製品(衣服、カーペットおよび椅子張り用のしみ前処理剤および/またはしみ抜き剤など)、および洗濯物用の洗浄剤が挙げられる。他の適用としては、洗浄補助剤(車洗浄剤用および自動食器洗い機において)、油井処理剤(掘削泥および三次油井回収を改善するための添加剤など)、極圧潤滑剤、貫通時間改善のための潤滑切削油、筆記用インク、印刷用インク、写真現像液、森林火災消火用乳剤、乾式化学消火剤、エアゾール式消火器、医療廃棄物の固化または封入化用ゲル形成のための増粘剤、フォトレジスト、展開剤、洗浄液、腐食組成物、展開剤、研磨剤、および半導体ならびにエレクトロニクスの製造、処理、および操作における絶縁インクが挙げられる。式(I)の界面活性剤は、ガラス表面および写真フィルム用の防曇剤として、また、磁気テープ、写真記録、フロッピーディスク、ディスクドライブ、ゴム組成物、PVC、ポリエステルフィルム、および写真フィルム用の静電防止剤として、および光学用素子(ガラス、プラスチック、またはセラミックなど)用の表面処理剤として、機能する製品に組み込むことができる。他の適用は、乳化剤、発泡剤、剥離剤、撥水剤、流れ調整剤、フィルム蒸発防止剤、湿潤剤、浸透剤、洗浄剤、研剤、電気めっき剤、腐食防止剤、ハンダ付け剤、分散助剤、微生物剤、パルプ化助剤、すすぎ助剤、研磨助剤、乾燥剤、静電防止剤、粘着防止剤、結合剤、および油田用化学薬品においてである。
【0024】
好適な媒体としては、コーティング組成物、ラテックス、ポリマー、床仕上塗料、消火剤、水、食塩水、インク、乳化剤、発泡剤、剥離剤、撥水剤、流れ調整剤、フィルム蒸発防止剤、湿潤剤、浸透剤、洗浄剤、研剤、電気めっき剤、腐食防止剤、エッチング液、ハンダ付け剤、分散助剤、微生物剤、パルプ化助剤、すすぎ助剤、研磨助剤、パーソナル・ケア組成物、乾燥剤、静電防止剤、床磨き剤、または結合剤が挙げられる。
【0025】
本発明の他の実施形態において、本発明の式(I)の化合物は、ガス分野および石油分野の適用において有用である。本明細書における炭化水素は、地下帯から産出または回収されるガス製品または石油製品のいずれかである。坑井または坑井ボアは、炭化水素含有地下帯などを貫通するために掘削され作出される。本発明の界面活性剤は、湿潤性および坑井ボア周囲の地下層の表面張力などの表面条件を改変または改善するために有用であり、また、油井またはガス井の回収性および生産性を増大させる目的で浸透率および流動率を改善するためにも有用である。
【0026】
式(I)の化合物は界面活性剤または発泡液として作用する。ガス分野および石油分野では、式(I)の化合物は一般に、水、食塩水、KCl溶液、HCl溶液、炭化水素、ハロゲン化炭素、掘削液、坑井液、刺激液、液体処理流、気体処理流、およびそれらの混合物よりなる群から選択される水性媒体中で用いられる。界面活性剤としての組成物は、このような操作において使用されるか、または遭遇する液体、油、凝縮物、および泥の表面張力、湿潤性、または粘度を変化させることにより、ガスまたは石油の回収率を増大させるために、地下層に対する掘削液、坑井液、および他の処理液における添加剤として用いられる。界面活性剤は、地下層の多孔岩石媒体または土壌媒体の発泡のため、または他の公知の坑井または坑井ボアの処置のために用いることができる。
【0027】
本発明の化合物は、式(I)のフッ化ピリジニウムカチオン化合物および媒体を含んでなる界面活性剤または発泡液を提供し、式(I)のフッ化ピリジニウムカチオン化合物は、約0.001重量%〜約50重量%の範囲、好ましくは、約0.01重量%〜約30重量%の範囲、より好ましくは、約0.05重量%〜約20重量%の範囲の濃度である。
【0028】
本発明はさらに、1)本発明の式(I)の組成物を提供するステップ、および2)組成物を圧縮空気または圧縮不活性気体に接触させて発泡液を作出するステップを含んでなる、炭化水素含有地下帯を貫通する坑井ボア内に導入する坑井液を発泡させる方法を含んでなる。
【0029】
本発明はさらに、地下層に接触した担体である媒体に、上記の式(I)の化合物を添加することを含んでなる、炭化水素含有地下層内の表面張力を低下させる方法を含んでなる。接触させる方法の一つは、例えば、ダウンホール、坑井、または坑井ボアを通して、地下層内に、本発明の化合物を含有する担体または媒体を注入することである。地下層から石油またはガスを除去するために操作時に地下層に接触させる液体または気体などの担体または媒体に、式(I)の化合物を添加する。例としては、地下層からの炭化水素抽出時に使用される掘削液、坑井液、刺激液、液体処理流、気体処理流、破砕液、粘土安定化液、または他の液体または気体が挙げられる。本発明の化合物は、種々の液体の予備フラッシュ注入の予備処理段階において、またはマトリックス作業または刺激作業において;種々の液体における主要段階において、または層の特定の時間の浸漬において;または界面活性組成物を含有する液体のより良好な配置を達成するための移動操作に関する後処理段階において使用される1種または複数種の担体または媒体中に用いることができる。本発明の化合物は、液体、乳液、分散液、または発泡剤の形態で用いられる。
【0030】
発泡性は、生産および回収を増大させる目的で石油分野および/またはガス分野に適用される掘削液、坑井液、刺激液、および他の液体への添加剤として用いられる本発明の界面活性剤の望ましい性質である。本発明の化合物を含有する水性または溶媒ベースの掘削液、坑井液、刺激液、液体処理流または気体処理流、または他の担体もしくは媒体は、掘削時または坑井処理過程時に発泡し、したがって、生産および回収の増大のために利点を提供する。界面活性および発泡性からのこのような利点の一例としては、掘削ビットおよび坑井ボア処理領域周囲からの微粉除去の補助、および掘削ビットおよび坑井ボア処理領域周囲に液体が接触している場合の浸透性ならびに湿潤性の調整が挙げられる。本発明の界面活性剤を添加することにより、石油/ガス坑井掘削液および処理液の発泡性が高まる。これらの微粉が効果的に除去されないと、掘削ビットヘッドに損傷が生じる結果となり、取替えまたは修理に時間およびコストが費やされる可能性がある。また、本発明の界面活性剤は、炭化水素の粘度を低下させ抽出をより容易にするために有用である。
【0031】
上記のように、炭化水素を含有する地下層に本発明のフッ化ピリジニウムカチオン界面活性剤を接触させるもう一つの利点は、地下層から炭化水素を抽出するための操作時に炭化水素の生産を刺激する方法を提供することである。本発明のフッ化界面活性化合物は、水圧破砕および酸性化などの刺激作用のための刺激液添加剤として有用である。これらの状況において、本発明の安定な泡は層面(岩石)上の刺激液の湿潤性を改善し、坑井ボア領域のより深部への貫通およびより良好な刺激が可能になる。これらの添加剤の低い界面張力によって、刺激液がダウンホールからより効率的に、そしてより容易に回収されることが可能になる。その結果、坑井はより効率的にガスおよび石油を生産できるであろう。
【0032】
本発明の界面活性化合物はさらに、坑井または坑井ボア領域における水ブロックまたは凝縮物ブロックを防止または処置するための補助として有用である。油井またはガス井の坑井ボア付近には水が蓄積して、石油またはガスの相対的浸透性を低下させることにより生産性を低下させ得ることが知られており、これは水ブロックと呼ばれている。また、液体炭化水素が蓄積し、坑井ボア領域の付近または遠方でのガス井における生産性を低下させることもあり得、これは凝縮物ブロックとして知られている。本発明の化合物は、水ブロックまたは凝縮物ブロックにおける液体のこのような蓄積の少なくとも一部除去を補助するために、またはこのようなブロックにおける液体の蓄積層を減少または防止するために使用することができる。本発明のフッ化ピリジニウムカチオン界面活性剤は、その界面活性特性により、または泡の生成により、地下層に対し、地下層の湿潤性または浸透性を変化させるために、掘削液、坑井および処理液における界面活性添加剤として特に有用である。これらの界面活性剤は、例えば、地下層の多孔岩石媒体内で用いられ、圧力変化をもたらすか、または泡として、ガス排出路をブロックして石油/ガス回収量の増加をもたらすことができる。
【0033】
本発明の化合物は、短い(6個の連続した炭素)末端完全フッ素化基を有する部分的フッ化ペルフルオロアルキル鎖を含有する界面活性剤を用いて望ましい界面効果が得られるという利点を提供する。したがって、本発明の組成物は、長鎖のペルフルオロアルキル類またはペルフルオロアルキル同族体の混合物を含有する界面活性剤よりも経済的である一方、同等か、またはより優れた性能を提供する。
【0034】
材料および試験方法
本明細書の実施例において以下の材料および試験方法が使用された。
【0035】
化合物1−C613CH2CF2CH2CH2
613CH2CF2I(170g、0.33モル)とd−(+)−リモネン(1g)とを充填したオートクレーブに、エチレン(15g、0.53モル)を導入してから、この反応器を240℃で12時間加熱した。生成物C613CH2CF2CH2CH2Iを、減圧蒸留(2666パスカルでb.p.102〜105℃)により68%の収率で得た。
【0036】
化合物2−C613CH2CF2CH2CF2CH2CH2
613(CH2CF22I(714g、1.24モル)とd−(+)−リモネン(3.2g)とを充填したオートクレーブに、エチレン(56g、2.0モル)を導入してから、この反応器を240℃で12時間加熱した。生成物C613CH2CF2CH2CF2CH2CH2Iを、減圧蒸留(1600パスカルでb.p.124〜128oC)により84%の収率で得た。
【0037】
試験方法1-表面張力の測定
分析する最高濃度のフルオロ界面活性剤用に原液を調製した。この溶液の濃度は、活性成分のパーセント、すなわち重量パーセントまたはフッ素含量により表した。この原液は、表面張力が測定される所望の油田適用に依って、脱イオン水、2%KCl水、またはHCl水中で調製した。この原液を、一晩(凡そ12時間)攪拌し、完全に混合されたことを確認した。分析用のフルオロ界面活性剤のさらなる濃度は、式Mii=Mffに従って原液を希釈することにより作製された。式中Miは、原液の濃度、Mfは、最終溶液の濃度、Vfは、サンプルの最終容量、Viは、最終サンプルを製剤化するために必要な原液の容量である。濃度希釈サンプルを十分振とうしてから、30分間静置した。次いでこれらのサンプルを混合し、小型容器に入れた。2%KCl溶液および15%HCl溶液は、抗井内の穴にポンプ注入される刺激液タイプを模するので、一般に、油田適用の表面張力測定に用いられた。2%KCl溶液は、抗井を油圧破砕するために用いられる破砕液の塩分濃度と同様であった。15%HCl溶液は、抗井内の地層岩の溶解を補助するために用いられる酸性化刺激処理液をエミュレートした。表面張力は、装置の使用説明書に従ってKruess張力計、K11版2.501を用いて測定した。Wilhelmyプレート法を用いた。公知のペリメーターの垂直プレートを天秤に取り付けて、湿潤による力を測定した。各希釈液について10回の反復試験を行い、以下の機械設定を用いた:
方法:プレート法SFT
間隔:1.0秒
湿潤長:40.2mm
読取り限界:10
最小標準偏差:2ダイン/cm
Gr.Acc.:9.80665m/s^2
より低い表面張力は、より優れた性能を示した。
【0038】
試験方法2−発泡性
油田適用のためのフルオロ界面活性剤の発泡性を評価するために使用した試験手順は、窒素による発泡試験であった。最初に、試験ベース溶液の原液を作製した。これらの溶液は、脱イオン水、2%KCl、および15%HClであった。所望のベース試験溶液中0.1%の活性成分で20mLのフルオロ界面活性剤のサンプルを調製し、一晩攪拌して完全な混合を確認した。次にサンプル溶液を、100mLのメスシリンダー(ガラス製)に加えた。次いで、この溶液に窒素を通して泡立たせて、20〜30秒でシリンダーを満たす速度で泡を生じさせた。溶液に窒素を通して泡立たせるためにフリットガラス管を用いた。泡が、シリンダーの上部に達したら、窒素を断ってタイマーを開始させた。30秒後、5分後、10分後、15分後の泡と液体の高さをmLで測定した。10mLまでの泡の高さの差異は、本法のばらつき範囲内であった。泡の質および持続性もまた記録した。各サンプルの試験に対して、少なくとも3回の反復試験を実施した。この窒素泡立ち試験は、サンプルが生じた泡量およびその泡の持続性の指標として用いられた。より長時間持続したより高い泡の高さは、優れた性能を示した。
【実施例】
【0039】
実施例1
100mLの三頚丸底フラスコに、窒素下、C613CH2CF2CH2CH2I(20.0g、0.0372モル)およびピリジン(18.6g、0.235モル)を入れた。反応液を、80℃で20時間還流させた。反応混合物を室温まで冷却してから、フリット漏斗中で灰白色固体生成物(21.44g、93%)を単離した。生成物を酢酸エチル(3×60mL)で洗浄し、一晩減圧乾燥した。生成物C613CH2CF2CH2CH2+(C55)I-は、以下のとおり特性化された:
m.p.:188〜193℃
1H NMR(DMSO−d6、400 MHz)δ9.17(2H,d,J=6.2 Hz)、8.65,1H,t−t,J1=7.8Hz,J2=1.3Hz)、8.21(2H,t,J=7.0Hz)、4.92(2H,t,J=7.2Hz)、3.47〜3.28(2H,m)、2.50(2H,t−t,J1=17.7Hz,J2=6.9Hz)
19F NMR(DMSO−d6、376MHz)δ−80.67(3F,t,J=9.8Hz)、−95.38〜−95.59(2F,m)、−111.58〜−111.80(2F,m)、−121.86〜−122.10(2F,m)、−122.90〜−123.14(2F,s)、−123.19〜−123.40(2F,m)、−126.05〜−126.24(2F,m)
【0040】
蒸留用カラムを備えた100mLの三頚丸底フラスコに、窒素下、C613CH2CF2CH2CH2+(C55)I−(10.0g、0.016モル)およびメタノール(6.8g、0.21モル)を入れ、60℃に加熱した。反応用フラスコに、p−トルエンスルホン酸(3.61g、0.019モル)のメタノール(3.4g、0.107モル)溶液を滴下により加えた。追加のメタノールを定期的に加えて蒸留溶媒を補充しながら、反応液を60℃に79時間加熱した(蒸留液中のCH3Iが、GCにより検出されなくなるまで)。次にメタノールを蒸発させると淡黄色粉末(10.71g、100%)として生成物を得た。次いで生成物C613CH2CF2CH2CH2+55ρ−CH364SO3を、メタノールに溶解して50%の溶液を得て、3.5%のNaOH水溶液で5.5±0.5のpHに中和した。試験法1および2を用い、この生成物を表面張力および発泡性に関して試験した。結果は表1〜表6に示してある。
【0041】
実施例2
100mLの三頚丸底フラスコに、窒素下、C613(CH2CF22CH2CH2I(20.0g、0.0332モル)およびピリジン(17.4g、0.210モル)を入れた。この反応液を、80℃で20時間還流させた。反応混合物を室温まで冷却してから、フリット漏斗中で灰白色固体生成物(20.32g、90%)を単離した。この生成物を酢酸エチル(3×60mL)で洗浄し、一晩減圧乾燥した。生成物C613(CH2CF22CH2CH2+(C55)Iは、以下のとおり特性化された:
m.p.:138〜145℃
1H NMR(CDCl3、400MHz)δ9.49(2H,d,J=5.8Hz)、8.50(1H,t−t,J1=7.7Hz)、8.09(2H,t,J=7.1Hz)、4.93(2H,t,J=6.3Hz)、3.03(2H,t−t,J1=17.6Hz,J2=6.5Hz)、2.95〜2.76(4H,m)
19F NMR(CDCl3、376MHz)δ−81.19(3F,t−t,J1=9.9Hz,J2=2.2)、−89.83〜−90.04(2F,m)、−94.10〜−94.30(2F,m)、−112.54〜−112.74(2F,m)、−121.96〜−122.18(2F,m)、−123.09〜−123.27(2F,m)、−123.65〜−123.81(2F,m)、−126.41〜−126.54(2F,m)。
【0042】
蒸留用カラムを備えた100mLの三頚丸底フラスコに、窒素下、C613(CH2CF22CH2CH2+(C55)I-(10.0g、0.015モル)およびメタノール(6.1g、0.19モル)を入れ、60℃に加熱した。反応用フラスコに、p−トルエンスルホン酸(3.3g、0.017モル)のメタノール(3.1g、0.097モル)溶液を滴下により加えた。追加のメタノールを定期的に加えて蒸留溶媒を補充しながら、この反応液を60℃に98時間加熱した(蒸留液中のCH3Iが、GCにより検出できなくなるまで)。次にメタノールを蒸発させると淡黄色ガム(10.64g、100%)として生成物が得られた。次いで生成物C613(CH2CF22CH2CH2+(C55)ρ−CH364SO3-を、メタノールに溶解して50%の溶液を得てから、3.5%のNaOH水溶液で5.5±0.5のpHに中和した。試験法1および2を用い、この生成物を表面張力および発泡性に関して試験した。結果は表1〜表6に示してある。
【0043】
実施例3
実施例3は、実施例1および2の生成物を混合することによって調製した。実施例3は、90%のC613CH2CF2CH2CH2+55ρ−CH364SO3-と10%のC613(CH2CF22CH2CH2+(C55)ρ−CH364SO3-との混合物であった。試験法1および2を用い、この生成物を表面張力および発泡性に関して試験した。結果は表1〜表6に示してある。
【0044】
実施例4
実施例4は、実施例1および2の生成物を混合することによって調製した。実施例4は、80%のC613CH2CF2CH2CH2+55ρ−CH364SO3-と20%のC613(CH2CF22CH2CH2+(C55)ρ−CH364SO3-との混合物であった。試験法1および2を用い、この生成物を表面張力および発泡性に関して試験した。結果は表1〜表6に示してある。
【0045】
比較例A
出発物質として式C817CH2CH2Iを用い、実施例1の方法を使用した。試験法1および2を用い、生じた生成物C817CH2CH2+(C55)ρ−CH364SO3-を、表面張力および発泡性に関して試験した。結果は表1〜表6に示してある。
【0046】
比較例B
出発物質として式C617CH2CH2Iを用い、実施例1の方法を使用した。試験法1および2を用い、生じた生成物C617CH2CH2+(C55)ρ−CH364SO3-を、表面張力および発泡性に関して試験した。結果は表1〜表6に示してある。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
脱イオン水、2%KCl水溶液および15%HCl水溶液の通常の表面張力は、約72ダイン/cmである(表1〜表3に0.000%として示してある)。本発明の界面活性剤を指定の比率で添加すると、各水溶液の表面張力は有意に低下した。濃度がより高くなるほど、より良好な性能が得られた。試験の結果によれば、本発明の実施例1〜4を用いて、優れた表面張力の低下が見られた。実施例1〜4の全てが、試験されたより高い濃度において比較例A(8個の連続した完全フッ素化ペルフルオロアルキル炭素を含有する)と等しいかまたは同等であった。実施例1〜4の全てが、比較例B(6個の連続した完全フッ素化ペルフルオロアルキル炭素を含有する)よりも性能が優れていた。このように、CH2基が介在したペルフルオロアルキルを有する実施例1〜4は、比較例Bに対してより良好な性能を示した。
【0051】
【表4】

【0052】
【表5】

【0053】
【表6】

【0054】
本発明の実施例1〜4の全てが一般に、比較例A(8個の連続した完全フッ素化炭素を含有する)と同等の性能を示した。実施例1〜4は、比較例Bに対してより優れた性能を示した。比較例B(6個の連続した完全フッ素化炭素を含有する)は、時間が経つと泡の高さを維持しなかった。このデータにより、ペルフルオロアルキル基にCH2基が介在する実施例1〜4は、この介在を欠く比較例Bよりも優れた性能を提供することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

の化合物であって、
式中
Rfが、F(CF26(CH2CF2m(CH2CH2n−であり、
mおよびnが各々独立して、1〜3の整数であり、
Rが、H、C1〜C5の直鎖状アルキルもしくは分枝状アルキル、またはC1〜C5の直鎖状アルコキシもしくは分枝状アルコキシである化合物。
【請求項2】
水溶液中0.1重量%の濃度で約25mN/m以下の表面張力を有する請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
水、食塩水、KCl溶液、HCl溶液、炭化水素、ハロゲン化炭素、堀削液、坑井液、地下層用液体処理流および地下層用気体処理流よりなる群から選択される液体をさらに含んでなる請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記液体中0.001重量%〜50重量%の濃度範囲で存在する請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
泡形態での請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
水性媒体または溶媒媒体を請求項1に定義された式(I)の化合物と接触させることを含んでなる、前記媒体の表面効果を改変させる方法。
【請求項7】
前記媒体が、水、食塩水、KCl溶液、HCl溶液、堀削液、坑井液、刺激液、地下層および坑井ボア領域用の液体処理流または気体処理流、炭化水素、ハロゲン化炭素、コーティング組成物、ラテックス、ポリマー、床仕上塗料、床磨き剤、消火剤、インク、乳化剤、発泡剤、剥離剤、撥水剤、流れ調整剤、フィルム蒸発防止剤、湿潤剤、浸透剤、洗浄剤、研剤、電気めっき剤、腐食防止剤、エッチング液、ハンダ付け剤、分散助剤、微生物剤、パルプ化助剤、すすぎ助剤、研磨助剤、パーソナル・ケア組成物、乾燥剤、静電防止剤、および結合剤よりなる群から選択される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記表面効果が、表面張力の低下、湿潤、浸透、拡散、レベリング、流展、乳化、分散、撥水、剥離、潤滑、エッチング、結合、および安定化よりなる群から選択される請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記式(I)の化合物が、炭化水素を含有する地下層と接触させる媒体に添加され、前記媒体が、水、食塩水、KCl溶液、HCl溶液、炭化水素、ハロゲン化炭素、堀削液、坑井液、刺激液、および地下層ならびに坑井ボア領域用の液体処理流または気体処理流よりなる群から選択される請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記式(I)の化合物が、前記媒体中に約0.001重量%〜約50重量%の濃度で存在する請求項9に記載の方法。

【公表番号】特表2013−508277(P2013−508277A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534232(P2012−534232)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際出願番号】PCT/US2010/051738
【国際公開番号】WO2011/046794
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】