説明

フッ化ビニリデンコポリマー

本発明は、フッ化ビニリデン(VDF)モノマーと式(I):


(式中、互いに等しいかまたは異なる、R1、R2、R3のそれぞれは独立して水素原子またはC〜C炭化水素基であり、そしてROHは水素または少なくとも1つのヒドロキシル基を含むC〜C炭化水素部分である)の少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)とに由来する繰り返し単位を含む線状半結晶性コポリマー[ポリマー(A)]であって、前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する0.05〜10モル%の繰り返し単位を含み、そして少なくとも40%のランダムに分布した単位(MA)の分率によって特徴付けられ、向上した熱安定性を有するポリマー(A)に、その製造方法に、それを含む組成物に、および電池におけるまたは親水性膜の製造のためのバインダーとしてのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、向上した熱安定性を有する、親水性(メタ)アクリルモノマーに由来する繰り返し単位を含むフッ化ビニリデンコポリマーに、それらの製造方法に、それを含む組成物に、および電池におけるまたは親水性膜の製造のためのバインダーとしてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
親水性(メタ)アクリルモノマー(例えば、アクリル酸)に由来する繰り返し単位を含むフッ化ビニリデン(VDF)コポリマーは、当該技術分野ではよく知られている。
【0003】
かかるコポリマーは、PVDFの機械的特性および化学的不活性に、金属、例えばアルミニウムもしくは銅への好適な接着性、または親水特性を追加することを目的に開発されてきた。
【0004】
多くの場合、これらの材料は、グラフト化コポリマーを得るために、あらかじめ形成されたPVDF材料の表面官能基化によって製造されるが;グラフト化コポリマーは、グラフト化が、フッ素化主鎖上にフリーラジカル発生を提供することによる、ラジカル経路によって一般に開始されるので、制御されないラジカル副反応が起こり、不十分に可溶性の、一般に架橋した材料をもたらし、および/または鎖切断を発生させ、その結果最終材料が損なわれた機械的特性を有するという欠点に悩まされる。
【0005】
分子構造の正確な制御が必要とされるときには線状コポリマーが従って一般に好ましい。
【0006】
(特許文献1)(日本合成ゴム株式会社(日本))1989年8月29日は、とりわけ、15〜95重量%のアルキルアクリレートおよびアルコキシ置換アルキルアクリレートから選択された少なくとも1つの単位を含む、実質的にランダムな線状フッ化ビニリデン・アクリル酸エステルコポリマーを開示している。前記コポリマーは、好適なモノマーを乳化、懸濁、溶液または塊状重合によって製造することができ、乳化重合が好ましい。
【0007】
(特許文献2)2001年8月9日は、フルオロカーボン単位がテトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニルまたはフッ化ビニリデンに由来し、炭化水素単位が酢酸ビニル、ビニルアルコール、アクリル酸、アクリレート、メタクリレートに由来する、フルオロカーボンおよび炭化水素繰り返し単位を含む線状フルオロポリマーを開示している。前記材料は、超臨界二酸化炭素を含む媒体中での重合によって製造される。(特許文献2)2001年8月9日は、アクリル酸モノマーが固有の反応性を有し、そしてまた他のモノマーの領域への物理的親和性の欠如のために、フルオロカーボンモノマーとよりもむしろそれら自身と反応する傾向があることを教示している。「塊状」構造は一般に、重合条件の関数として得られる。CO超臨界重合では、選択される界面活性剤の選択は炭化水素モノマーの分布の均質性を向上させることができる。
【0008】
(特許文献3)(ALLIED SIGNAL INC(米国))1999年3月9日は、第1のコポリマーの存在下に、少なくとも1つの硬化部位プロバイダー(例えば、アクリル酸)と、少なくとも2つのフッ素化コモノマー単位とを反応させることによって得られた、主として第1の半結晶性フルオロコポリマーからなるコアと、主として第2の非晶質フルオロコポリマーからなるシェルとを含む、コア−シェル構造を有するフルオロポリマー粒子を含む室温合体可能な水性フルオロポリマー分散系を開示している。非晶質ターポリマーをもたらす前記第2重合工程は、硬化部位プロバイダーの連続添加によって実施することができる。
【0009】
フッ化ビニリデンと親水性(メタ)アクリルモノマーとの共重合は、かかるコポリマーの非常に異なる反応性およびそれらの固有の非相溶性のために、実際には容易でない課題のままである。
【0010】
こうして、ランダム分布が標的とされながら、塊状型構造が得られる。親水性(メタ)アクリルモノマー単位のこの一様でない分布は、コポリマーそれ自体の熱安定性に劇的に影響を及ぼす。
【0011】
この問題は、より少量の親水性(メタ)アクリルモノマー、特にアクリル酸を含むコポリマーであって、連結アクリル酸の塊状領域の形成が標的特性の生成コポリマーを実質的に激減させ、その結果接着性の改質が全く得られないコポリマーにおいて特に決定的に重要であることが分かった。アクリル酸組み込みの増加したレベルは逆に、フルオロ材料の熱安定性に劇的に影響を及ぼす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第4,861,851号明細書
【特許文献2】国際公開第01/57095号パンフレット
【特許文献3】米国特許第5,880,204号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように依然として当該技術分野には、全体フッ化ビニリデン主鎖の全体にわたって親水性(メタ)アクリルモノマーに由来する繰り返し単位の実質的にランダムな分布を有する、こうして向上した熱安定性を示す、親水性(メタ)アクリルモノマーに由来する繰り返し単位を含むフッ化ビニリデン線状コポリマーが必要とされている。
【0014】
また、当該技術分野では、上記のようなコポリマーの容易な製造を可能にする重合法も必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は有利にも、フッ化ビニリデン(VDF)モノマーと式:
【化1】

(式中、互いに等しいかまたは異なる、R1、R2、R3のそれぞれは独立して水素原子またはC〜C炭化水素基であり、そしてROHは水素または少なくとも1つのヒドロキシル基を含むC〜C炭化水素部分である)
の少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)とに由来する繰り返し単位を含む線状半結晶性コポリマー[ポリマー(A)]であって、
前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する0.05〜10モル%の繰り返し単位を含み、そして少なくとも40%のランダムに分布した単位(MA)の分率によって特徴付けられるコポリマー[ポリマー(A)]を提供することによって上述の問題を解決する。
【0016】
本発明の別の目的は、上記のような線状半結晶性コポリマーの新規製造方法であって、反応容器内でフッ化ビニリデン(VDF)モノマーと親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)とをラジカル開始剤の存在下に水性媒体中で重合させる工程を有利にも含み、
−親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)を含む水溶液を連続的に供給する工程と、
−前記反応器容器内の圧力を、フッ化ビニリデンの臨界圧力よりも上に維持する工程と
を含む方法である。
【0017】
本発明の別の目的は、上に定義されたようなポリマー(A)とVDFポリマーとを含む組成物である。
【0018】
本発明のさらに別の目的は、Li電池電極でのまたは親水性膜の製造のためのバインダーとしての上に詳述されたような線状半結晶性コポリマーの使用である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本出願者は、ポリマー(A)のポリフッ化ビニリデン主鎖内の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)の実質的にランダムな分布が、フッ化ビニリデンポリマーの他の傑出した特性、例えば、熱安定性および機械的特性を損なうことなく、組成物中の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)の低レベルでさえ、生じたコポリマーの接着性および/または親水性挙動の両方への変性モノマー(MA)の効果を有利にも最大にすることを見いだした。
【0020】
ポリマー(A)は、フッ化ビニリデン(VDF)モノマーにおよび少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位を含む。
【0021】
本明細書で言及されるVDFモノマーは、フッ化ビニリデンに加えて、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、およびフルオロアルキルビニルエーテルなどの、フッ化ビニリデンと共重合可能な少なくとも1つの通常使用されるモノマーを含むことができる。しかしながら、フッ化ビニリデンモノマー中のフッ化ビニリデンの量は、耐化学薬品性、耐候性、および耐熱性などの、フッ化ビニリデン樹脂の優れた特性を損なわないように、少なくとも70モル%であることが好ましい。非常に好ましくは、VDFモノマーは、フッ化ビニリデン以外のいかなるモノマーも含まない、すなわち、VDFモノマーはフッ化ビニリデンである。
【0022】
用語「少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)」は、ポリマー(A)が上記のような1つもしくは2つ以上の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位を含んでもよいことを意味すると理解される。本文の残りにおいて、表現「親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)」および「モノマー(MA)」は、本発明の目的のためには、複数形および単数形の両方で、すなわち、それらが1つもしくは2つ以上の両方の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)を意味すると理解される。
【0023】
好ましくは、ポリマー(A)は本質的に、VDFモノマーおよびモノマー(MA)に由来する繰り返し単位からなる。
【0024】
ポリマー(A)は、その物理−化学的特性に影響を及ぼさないし、またそれらを損なわない欠陥、末端基などの他の部分をさらに含んでもよい。
【0025】
親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)は好ましくは式:
【化2】

(式中、R1、R2、ROHのそれぞれは上に定義されたような意味を有し、R3は水素であり;より好ましくは、R1、R2、R3のそれぞれは水素であり、一方ROHは上に詳述されたものと同じ意味を有する)
に従う。
【0026】
親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)の非限定的な例は、とりわけ、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0027】
モノマー(MA)はより好ましくは:
−式:
【化3】

のヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、
−式
【化4】

のいずれかの2−ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、
−式:
【化5】

のアクリル酸(AA)、
−およびそれらの混合物
の中から選択される。
【0028】
最も好ましくは、モノマー(MA)はAAおよび/またはHEAである。
【0029】
ポリマー(A)においてランダムに分布した単位(MA)の分率が少なくとも40%であることが絶対必要である。この条件が満たされているポリマーのみが、接着性および/または親水性などの他の特性と組み合わせて十分な耐熱性を有する。
【0030】
表現「ランダムに分布した単位(MA)の分率」は、次式:
【数1】

に従って、VDFモノマーに由来する2つの繰り返し単位の間に含まれる、(MA)モノマー配列の平均数(%)と、(MA)モノマー繰り返し単位の全平均数(%)とのパーセント比を意味することを意図される。
【0031】
(MA)繰り返し単位のそれぞれが孤立している、すなわち、VDFモノマーの2つの繰り返し単位の間に含まれるとき、(MA)配列の平均数は(MA)繰り返し単位の平均全数に等しいので、ランダムに分布した単位(MA)の分率は100%であり:この値は(MA)繰り返し単位の完全にランダムな分布に相当する。従って、(MA)単位の全数に対して孤立(MA)単位の数が大きければ大きいほど、上記のような、ランダムに分布した単位(MA)の分率の百分率値は高い。
【0032】
ポリマー(A)における(MA)モノマー繰り返し単位の全平均数の測定は、任意の好適な方法によって行うことができる。とりわけ、例えばアクリル酸含有率の測定に好適な酸−塩基滴定法を、側鎖に脂肪族水素を含む(MA)モノマー(例えば、HPA、HEA)の定量に適切な、NMR法を、ポリマー(A)製造中の全供給(MA)モノマーおよび未反応残存(MA)モノマーに基づく重量収支を挙げることができる。
【0033】
(MA)モノマー配列の平均数(%)は、標準方法に従って例えば19F−NMRによって測定することができる。
【0034】
ランダムに分布した単位(MA)の分率は、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、最も好ましくは少なくとも70%である。
【0035】
ポリマー(A)は、好ましくは少なくとも0.1モル%、より好ましくは少なくとも0.2モル%の前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位を含む。
【0036】
ポリマー(A)は、好ましくは多くとも10モル%、より好ましくは多くとも7.5モル%、さらにより好ましくは多くとも5モル%、最も好ましくは多くとも3モル%の前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位を含む。
【0037】
ポリマー(A)は有利には、0.1dl/gより上および多くとも20dl/gの、好ましくは0.2〜15dl/gの範囲の、より好ましくは0.5〜10.0dl/gの範囲の固有粘度を有する。
【0038】
ポリマー(A)が、特にリチウム電池の電極を形成するための、バインダーとして使用されるべきであるならば、それは好ましくは少なくとも1.0dl/gの、より好ましくは少なくとも1.5dl/gの固有粘度を有し;また、最大固有粘度はこの場合には一般に5dl/g、好ましくは4dl/gである。
【0039】
ポリマー(A)は半結晶性である。用語半結晶性は、検出可能な融点を有するポリマー(A)を意味することを意図される。半結晶性ポリマー(A)は有利には少なくとも0.4J/gの、好ましくは少なくとも0.5J/gの、より好ましくは少なくとも1J/gのASTM D 3418に従って測定される融解熱を有すると一般に理解される。
【0040】
半結晶性ポリマー(A)は、それらが追加の架橋処理なしに、必要とされる特性、および特に好適な機械的特性を示すので、非晶質生成物よりもかなりの利点を有する。
【0041】
優れた結果は、ポリマー(A)が30〜60J/gの、好ましくは35〜55J/gの、最も好ましくは40〜50J/gの融解熱を有するときに得られた。かかる要件に適合するポリマー(A)は、本発明の目的に向かって十分に挙動することが分かった。
【0042】
ポリマー(A)は線状コポリマーである、すなわち、それは、VDFモノマーおよび(MA)モノマーからの繰り返し単位の実質的に線状の配列でできた高分子からなり;ポリマー(A)は従ってグラフト化および/または櫛型ポリマーとは区別できる。
【0043】
ポリマー(A)は有利には向上した耐熱性を有する。特に、ポリマー(A)は、350℃超の、好ましくは360℃超の、より好ましくは380℃超の温度でのISO 11358標準に従う窒素下のTGA分析において、1重量%の重量を損失する。
【0044】
本発明の別の目的は、上記のような線状半結晶性コポリマーの新規製造方法である。本発明の方法は有利には、反応容器内でラジカル開始剤の存在下に水性媒体中でフッ化ビニリデン(VDF)モノマーと親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)とを反応させる工程を含み、前記方法は、
−親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)を含む水溶液を連続的に供給する工程と、
−前記反応器容器の圧力を、フッ化ビニリデンの臨界圧力よりも上に維持する工程と
を含む。
【0045】
フッ化ビニリデンの臨界圧力は4.43MPa(44.3バールに相当する)であることが知られている。
【0046】
全体重合運転の間ずっと、圧力はフッ化ビニリデンの臨界圧力より上に維持されることが絶対必要である。一般に圧力は50バール超の、好ましくは75バール超の、さらにより好ましくは100バール超の値に維持される。
【0047】
親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)の水溶液の連続供給が重合運転の全継続期間の間ずっと続けられることもまた必須である。
【0048】
これらの2つの条件を組み合わせることによってようやく、ポリマー(A)のVDFモノマーポリマー主鎖内の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)のほぼ統計的な分布を得ることが有利にも可能である。
【0049】
典型的には、VDFモノマーの、および、任意選択的に、親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)の初期装入物は、プロセスの開始時に反応容器へ装填される。
【0050】
表現「連続供給」または「連続的に供給すること」は、重合が終わるまで、親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)の水溶液の遅い、小増分添加が行われることを意味する。
【0051】
重合中に連続的に供給される親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)の水溶液は合計して、反応中に供給されるモノマー(MA)の総量(すなわち、初期装入プラス連続供給)の少なくとも50重量%になる。モノマー(MA)の総量の好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、最も好ましくは少なくとも80重量%が重合中に連続的に供給される。モノマー(MA)の総量の50重量%未満が連続的に供給されるとき、重合中のモノマー(MA)濃度の変動が典型的に起こり:こうしてより高い初期モノマー(MA)濃度に遭遇してモノマー(MA)−塊状構造をもたらし得る。
【0052】
VDFモノマーの増分添加は、この要件が必須ではない場合でさえ、重合中に達成することができる。簡単さのために、必要とされるVDFモノマーを全て重合の開始時に導入することが一般には好ましいであろう。
【0053】
一般に、本発明の方法は、少なくとも35℃の、好ましくは少なくとも40℃の、より好ましくは少なくとも45℃の温度で実施される。
【0054】
本発明の別の目的は、ポリマー(A)と少なくとも1つのVDFポリマーとを含む組成物(C)である。
用語「VDFポリマー」は、VDFに由来する少なくとも70モル%の繰り返し単位と、任意選択的に、少なくとも1つの他の好適なフッ素化コモノマー、例えば、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレンなどに由来する30モル%以下の繰り返し単位とを含むポリマーを意味することを意図される。VDFホモポリマーが本発明の組成物にとって特に有利である。
【0055】
前記組成物(C)は有利には、少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも10重量%のポリマー(A)を含む。
【0056】
本出願者は、少なくとも5重量%のポリマー(A)の量が、上に詳述されたような組成物から製造された層/膜の接着性および表面特性を実質的に改質するために既に満足できるものであることを意外にも見いだした。
【0057】
このように、組成物(C)はとりわけ、VDFポリマーでの希釈により、極めて高価なポリマー(A)の必要量を低減することによって、ポリマー(A)成分により提供される接着性/親水性の標的特性を達成するために使用することができる。
【0058】
さらに、本発明の目的は、特にリチウム電池および/または電気二重層コンデンサの電極を形成するための、バインダーとしての上記のようなポリマー(A)の、または上に詳述されたような組成物(C)の使用である。
【0059】
バインダーとしての上に詳述された使用は、ポリマー(A)との関連で記載されるだろうが;上に詳述されたような組成物(C)は本明細書で以下に詳述される全ての実施形態においてポリマー(A)の代わりに使用できると理解される。
【0060】
ポリマー(A)をバインダーとして使用するとき、ポリマー(A)のバインダー溶液が一般に調製される。
【0061】
本発明によるバインダー溶液を提供するべくポリマー(A)を溶解させるために使用される有機溶剤は、好ましくは極性のものであってもよく、その例には、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリエチル、およびリン酸トリメチルが挙げられてもよい。本発明に使用されるフッ化ビニリデンポリマーは通常のものよりはるかに大きい重合度を有するので、上述の有機溶剤の中でもN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドまたはN,N−ジメチルアセトアミドなどの、より大きい溶解力を有する窒素含有有機溶剤を使用することがさらに好ましい。これらの有機溶剤は、単独でかまたは2つ以上の化学種の混合物で使用されてもよい。
【0062】
上に詳述されたようなポリマー(A)のバインダー溶液を得るために、100重量部のかかる有機溶剤に0.1〜10重量部、特に1〜5重量部のコポリマー(A)を溶解させることが好ましい。0.1重量部より下では、ポリマーは溶液中で余りにも小さい割合を占め、こうして、粉末状の電極材料を結び付けるその性能を示すのに失敗しがちである。10重量部より上では、溶液の異常に高い粘度が得られ、その結果、電極形成組成物の調製が困難になるのみならず、ゲル化現象の回避が問題であり得る。
【0063】
ポリマー(A)バインダー溶液を調製するために、コポリマー(A)を30〜200℃、より好ましくは40〜160℃、さらに好ましくは50〜150℃の高温で有機溶剤に溶解させることが好ましい。30℃より下では、溶解は長い時間を必要とし、一様な溶解が困難になる。
【0064】
電極形成組成物は、こうして得られたポリマー(A)バインダー溶液へ、粉末状の電極材料(電池または電気二重層コンデンサ用の活性物質)と、導電性付与添加剤および/または粘度調整剤などの、任意の添加剤とを加え、分散させることによって得られてもよい。
【0065】
また、本発明の目的はこのように、ポリマー(A)または組成物(C)と、粉末状の電極材料と、任意選択的に、導電性付与添加剤および/または粘度調整剤とを含む電極形成組成物である。
【0066】
リチウムイオン電池用の陽極を形成する場合は、活性物質は、LiMY(式中、Mは、Co、Ni、Fe、Mn、CrおよびVなどの遷移金属の少なくとも1つの化学種を意味し;Yは、OもしくはSなどのカルコゲンを意味する)の一般式で表される複合金属カルコゲニドを含んでもよい。これらの中で、LiMO(式中、Mは上のものと同じものである)の一般式で表されるリチウムベースの複合金属酸化物を使用することが好ましい。それの好ましい例には、LiCoO、LiNiO、LiNiCo1−x(0<x<1)、およびスピネル−構造化LiMnが挙げられてもよい。
【0067】
代替案として、さらにリチウムイオン電池用の陽極を形成する場合は、活性物質は、組成式AB(XO1−f(式中、Aは、A金属の20%未満を表す別のアルカリ金属で部分置換されていてもよい、リチウムであり、Bは、0を含む、+1〜+5の酸化レベルでの、そして主要+2レドックス金属の35%未満を表す1つ以上の追加の金属で部分置換されていてもよい、Fe、Mn、Niまたはそれらの混合物の中から選ばれた+2の酸化レベルでの主要レドックス遷移金属であり、XOは、XがP、S、V、Si、Nb、Moもしくはそれらの組み合わせのいずれかである任意のオキシアニオンであり、Eはフルオリド、ヒドロキシドもしくはクロリド陰イオンであり、fは、一般に0.75〜1(極端を含む)からなる、XOオキシアニオンのモル分率である)のリチオ化もしくは部分リチオ化遷移金属オキシアニオンベースの電極材料を含んでもよい。
【0068】
上のAB(XO1−f活性物質は、好ましくはホスフェートベースであり、規則正しいまたは修正オリビン構造を有してもよい。
【0069】
より好ましくは、上記のような活性物質は、式Li3−xM’M”2−y(XO(式中、0≦x≦3、0≦y≦2であり;M’およびM”は同じもしくは異なる金属であり、その少なくとも1つはレドックス遷移金属であり;XOは主として、別のオキシアニオンで部分置換されていてもよいPOであり、ここで、Xは、P、S、V、Si、Nb、Moもしくはそれらの組み合わせのいずれかである)に従う。さらにより好ましくは、活性物質は、組成式Li(FeMn1−x)PO(式中、0≦x≦1であり、xは好ましくは1である)を有するホスフェートベースの電極材料(すなわち、式:LiFePOのリン酸リチウム鉄)である。
【0070】
リチウム電池用の陰極を形成する場合は、活性物質は好ましくは、グラファイト、活性炭などの炭素質材料、またはフェノール樹脂、ピッチなどの炭化によって得られる炭素質材料を含んでもよい。炭素質材料は好ましくは、約0.5〜100μmの平均直径を有する粒子の形態で使用されてもよい。
【0071】
導電性付与添加剤は、制限された電子伝導性を示す、LiCoOまたはLiFePOなどの、活性物質を使用する場合に特に、本発明の電極形成組成物の塗布および乾燥によって形成される、得られた複合電極層の導電性を向上させるために添加されてもよい。それの例には、カーボンブラック、グラファイト微細粉末および繊維などの、炭素質材料、ニッケルおよびアルミニウムなどの、金属の微細粉末および繊維が挙げられてもよい。
【0072】
電気二重層コンデンサ用の活性物質は好ましくは、0.05〜100μmの平均粒径(繊維径)および100〜3000m/gの比表面積を有する、すなわち、電池用の活性物質のそれらと比較して比較的小さい粒径(繊維径)および比較的大きい比表面積を有する、活性炭、活性炭素繊維、シリカまたはアルミナ粒子などの、微細粉末または繊維を含んでもよい。
【0073】
陽極用の好ましい電極形成組成物は、
(a)総重量(a)+(b)+(c)に対して、1〜10重量%、好ましくは2〜9重量%、より好ましくは約3重量%の量で、ポリマー(A)と、
(b)総重量(a)+(b)+(c)に対して、2〜10重量%、好ましくは4〜6重量%、より好ましくは約5重量%の量で、導電性付与添加剤としてのカーボンブラックと、
(c)80〜97重量%、好ましくは85〜94重量%、より好ましくは約92重量%の量で、粉末状の電極材料、好ましくは上に詳述されたような、一般式LiMYで表される複合金属カルコゲニド、または、上に詳述されたような、組成式AB(XO1−fのリチオ化もしくは部分リチオ化遷移金属オキシアニオンベースの電極材料と
を含む。
【0074】
本発明のさらに別の目的は、親水性膜の製造のための上記のような、ポリマー(A)のまたは組成物(C)の使用である。
【0075】
本発明は従って、ポリマー(A)または組成物(C)を含む親水性膜の製造方法に、および上記のような、ポリマー(A)または組成物(C)を含む親水性膜に関する。
【0076】
親水性膜の製造のための上に詳述された使用、方法およびそれからの膜は、ポリマー(A)との関連で詳細に記載されるだろうが;上に詳述されたような組成物(C)は本明細書で以下に詳述される全ての実施形態においてポリマー(A)の代わりに使用できると理解される。
【0077】
本発明の目的のためには、用語膜はその通常の意味を有する、すなわち、それは本質的に、それと接触する化学種の透過を抑える不連続の、一般に薄い界面を意味する。この界面は分子的に均質であっても、すなわち、構造上完全に一様であってもよいし(緻密膜)、またはそれは、例えば、有限の寸法の空洞、穴もしくは孔を含有する、化学的にもしくは物理的に不均質であってもよい(多孔性膜)。用語「孔」、「空洞」および「穴」は、本発明の文脈内では同じ意味として用いられる。
【0078】
本発明の膜は好ましくは多孔性膜である。多孔性膜は一般に、相互連結された孔を持った空洞構造を有する。
【0079】
多孔性膜は一般に、平均孔径(d)および気孔率(ε)、すなわち、全膜の多孔性である分率によって特徴付けられる。
【0080】
本発明の多孔性膜は、有利には少なくとも1%の、好ましくは少なくとも2%の、より好ましくは少なくとも3%の、そして有利には多くとも90%の、好ましくは多くとも80%の気孔率(ε)を有する。
【0081】
これらの孔は一般に、有利には少なくとも0.01μmの、好ましくは少なくとも0.05μmの、より好ましくは少なくとも0.1μmの、そして有利には多くとも50μmの、好ましくは多くとも25μmの、より好ましくは多くとも10μmの平均直径(d)を有する。
【0082】
膜は、フラットシートの形態下にあることができるか、または薄いチューブもしくは繊維(中空繊維膜)の形態下に製造することができる。フラットシート膜は、高い可塑化が必要とされるときに一般に好ましい。中空繊維への膜の成形は、高い表面積のコンパクトモジュールが必要とされるときに特に有利である。
【0083】
本発明の膜は、化学処理工業において特に水性媒体の、精密濾過および好ましくは限外濾過などの、様々な分離プロセスで、ならびに生物医学用途で、例えば、血液透析用に、薬物の制御放出用に、腎臓、肺および膵臓などの、人工臓器用に使用することができる。
【0084】
当業者は、必要とされる気孔率および平均孔径を有する膜を得るために、向上した熱安定性および傑出した親水性を有するポリマー(A)を加工することを可能にする好適な標準技法を知っている。
【0085】
膜が緻密膜であるべきであるならば、本発明の方法は有利には、上に定義されたようなポリマー(A)のキャスティングおよび/または溶融成形を含む。
【0086】
溶融成形は、ダイからのシートとしての押出によってかブローンフィルムとしてかのいずれかで緻密膜を製造するために普通に用いられる。
【0087】
膜が多孔性膜であるべきであるならば、本発明の方法は有利には、照射技法、フィルム膨張、鋳型浸出技法、溶液沈殿技法の1つを含む少なくとも1つの工程を含む。
【0088】
照射技法によれば、従来技術によって製造された上記のようなポリマー(A)のフィルムは、典型的にはポリマー鎖を切断し、そして感作/損傷トラックを残す、好適な放射源からの荷電粒子を先ず照射され;次に前記照射フィルムは、感作トラックに沿って優先的エッチし、それによって孔を形成する好適なエッチ液に通される。
【0089】
フィルム膨張では、多孔性膜はその後の延伸および伸長によって製造され;こうして、上記のようなコポリマー(A)の延伸フィルムは典型的にはドローダウン下に押し出され;冷却後に、フィルムは有利には元の延伸と直角に伸長され、その結果ポリマーの結晶性構造は典型的には変形させられ、細隙状の空洞が有利にも形成される。
【0090】
鋳型浸出技法によれば、均質なフィルムが膜材料(すなわち、上記のようなポリマー(A))と浸出可能な成分との混合物から製造される。フィルムが形成された後、浸出可能な成分は好適な溶剤で除去され、多孔性膜が形成される。浸出可能な成分は、可塑剤、低分子量VDFポリマーなどの、可溶性の低分子量固体または液体であることができる。
【0091】
溶液沈殿技法では、上記のようなポリマー(A)を含む透明な溶液が2つの相、すなわち、膜のマトリックスを形成する固体の、ポリマーに富む相と膜孔を形成する液体の、ポリマーに乏しい相とへ沈殿させられる。溶液からの前記ポリマー沈殿は、冷却、溶剤蒸発、非溶剤への注液による沈殿、気相からの非溶剤の吸収などの、幾つかの方法で達成することができる。
【0092】
キャスティングは溶液キャスティングを一般に含み、溶液キャスティングでは、典型的にはキャスティングナイフまたはドローダウン棒が、好適な支持体の全域に上記のようなポリマー(A)の適切なポリマー溶液の均一なフィルムを薄く塗るために使用される。キャスティングを行われた後、溶剤は一般に蒸発して一様な緻密膜を残す。
【0093】
本発明の好ましい実施形態によれば、本方法は、鋳型浸出技法を含む少なくとも1つの工程を含む。
【0094】
本発明のこの好ましい実施形態によれば、上記のようなポリマー(A)を含む100重量部の熱可塑性組成物(TC)は、50〜250重量部の可塑剤および、任意選択的に、0〜80重量部の前記コポリマー(A)用の良好な溶剤と混合されて混合物(Mx)を提供し;前記混合物(Mx)はフィルムへ加工され;フィルムは次に、好適な抽出溶剤による可塑剤の(および任意選択的に良好な溶剤の)抽出にかけられる。
【0095】
可塑剤として、水素化可塑剤が一般に使用されても、好ましくは使用されてもよい。クエン酸エステル、フタル酸エステル、トリメリット酸エステル、セバシン酸エステル、アジピン酸エステル、アゼライン酸エステルなどのエステルまたはポリエステルにとりわけ言及することができる。それらの例には、例えば、アジピン酸−プロピレングリコール型、およびアジピン酸−1,3−ブチレングリコール型のアジピン酸ベースのポリエステル;例えば、セバシン酸−プロピレングリコール型のセバシン酸ベースのポリエステル;例えば、アゼライン酸−プロピレングリコール型、およびアゼライン酸−1,3−ブチレングリコール型のアゼライン酸ベースのポリエステル;例えば、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシルのようなアルキルフタレート;アルキルおよびアシルシトレート、例えば、クエン線トリエチル、アセチルクエン酸トリエチル、クエン酸トリ−n−ブチル、アセチルクエン酸トリ−nブチル、クエン酸トリオクチル、アセチルクエン酸トリオクチル、クエン酸トリヘキシル、アセチルクエン酸トリヘキシル、ブチリルクエン酸トリヘキシルまたはo−ブチリルクエン酸トリヘキシル;とりわけトリメリット酸トリメチル、トリメリット酸トリ−(2−エチルヘキシル)、トリメリット酸トリ−(n−オクチル,n−デシル)、トリメリット酸トリ−(ヘプチル,ノニル)、トリメリット酸n−オクチルのような、アルキルトリメリテートが挙げられてもよい。
【0096】
ポリマー(A)用の良好な溶剤として、コポリマー(A)を20〜250℃の温度範囲で溶解できるものが使用されてもよい。それらの例には、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、プロピレンカーボネート、シクロヘキサン、メチルイソブチルケトン、フタル酸ジメチル、およびこれらの溶剤混合物が挙げられてもよい。N−メチルピロリドン(NMP)が高温でのその安定性の観点から特に好ましい。
【0097】
ポリマー(A)用の良好な溶剤は、混合物(Mx)がキャスティングによって処理されるときに、それが前記混合物(Mx)の粘度を調整するのに有利に役立ち得るので、特に有利である。
【0098】
そのように得られた混合物(Mx)は、膜への所望の形状を有利に得るために、押出成形、射出成形、圧縮成形および/またはキャスティングによって加工してフィルムをもたらすことができる。
【0099】
次に、そのように得られたフィルムは、可塑剤を抽出するための抽出溶剤および任意選択的に良好な溶剤中へ浸漬される。厚さ、抽出溶剤の性質およびかき混ぜに依存して、数分〜数時間の範囲の時間で完全な可塑剤抽出を獲得する室温での抽出を実施することが可能である。一般に、2、3分の時間が可塑剤を完全に抽出するのに十分である。抽出後に多孔性膜が得られる。
【0100】
抽出溶剤として、可塑剤を溶かすが、ポリマーの膨潤を引き起こさないように、ポリマー(A)と相溶性ではない溶剤が一般に使用される。
【0101】
最も普通に使用されるクラスの溶剤は、脂肪族アルコール、特に短鎖、例えば1〜6個の炭素原子を有するもの、より好ましくはメタノールおよびイソプロパノールである。
【0102】
ポリマー(A)は、独特な熱可塑性ポリマー成分として単独でか、別の好適な熱可塑性ポリマーとの混合剤でかのいずれかで親水性膜の製造のために使用できることもまた理解される。
【0103】
ポリマー(A)と少なくとも1つのVDFポリマーとを含む組成物、すなわち、上に詳述されたような本発明の組成物(C)が本発明の目的に特に有利である。本出願者は、少なくとも5重量%の量が、上に詳述されたような組成物から製造された膜の表面特性を実質的に改質するのに既に満足できるものであることを意外にも見いだした。
【0104】
本発明は、以下の実施例によってより詳細に例示され、その目的は本発明の範囲を単に例示するものであり、限定するものではない。
【実施例】
【0105】
VDF/AAポリマー中の平均AA含有率の測定
ポリマー(A)中の全平均AA含有率は、カルボン酸基の酸−塩基滴定によって測定する。従った手順を本明細書で以下に詳述する。
【0106】
約0.5gのポリマー(A)のサンプルを注意深く量り取り、70〜80℃の温度でアセトンに溶解させる。5mlの水を次に、ポリマーの凝固を回避するように激しい撹拌下に滴々加える。約−270mVでの中性転移で、酸性度の完全な中和まで0.1Nの濃度を有する水性NaOHでの滴定を次に実施する。AA含有率をこうして、測定した酸当量に基づいて求める。
【0107】
ランダムに分布したAA単位分率の測定
ランダムに分布したAA単位の分率は、19F−NMRによって測定する。
【0108】
孤立AA単位に隣接する(次式においてボールド体の)フッ化ビニリデン単位のCF部分に関連するシグナルは−94ppmのピークに相当することが分かった。
−CHCF−[CHCH(COOH)]−CHCF−CH
このシグナルの強度とスペクトルのピーク全ての強度との比から、100VDF単位当たりのAA配列の平均数(すなわち、AA配列のモル%)を求め、こうしてAA配列のモル%と全平均AAモル%との比:
【数2】

としてランダムに分布したAA単位の分率を最終的に求めることが可能である。
【0109】
コポリマーVDF−HEA
VDF/HEAポリマー中の全平均HEA含有率の測定
コポリマーのHEA含有率は、ポリマー(A)主鎖VDFモノマー単位のCH部分の全強度に関して、本明細書で以下に明らかなようなCH基:
【化6】

のH原子の強度を測定する、H NMRによって測定した。
【0110】
ランダムに分布したHEA単位分率の測定
ランダムに分布したHEA単位の分率は、ランダムに分布したAA単位分率を測定するために従ったものに類似の手順に従って、19F−NMRによって測定する。
【0111】
ポリマー(A)の固有粘度の測定(DMF25℃で)
固有粘度[η]は、Ubbelhode粘度計での、ポリマー(A)を約0.2g/dlの濃度でジメチルホルムアミドに溶解させることによって得られた溶液の、25℃での、降下時間に基づき次の方程式:
【数3】

(式中、cはg/dl単位のポリマー濃度であり、
ηは、相対粘度、すなわち、サンプル溶液の降下時間と溶剤の降下時間との比であり、
ηspは、比粘度、すなわち、η−1であり、
Гは、ポリマー(A)については3に相当する、実験因子である)
を用いて測定した。
【0112】
TGA分析
TGA分析は、動的モードで、窒素雰囲気下に、ISO 11358標準に従って実施した。それぞれ、ポリマー(A)の0.5、0.75および1重量%の重量損失を得るために必要とされる温度を記録した。これらの温度が高ければ高いほど、ポリマー(A)の熱安定性は高い。
【0113】
DSC分析
DSC分析は、ASTM D3418標準に従って実施した。Tm2は、第2加熱サイクルで測定されるような、溶融温度を示し;Txxは、中間冷却サイクル中に測定されるような、結晶化温度である。
【0114】
ポリマー(A)の接触角の測定
水MilliQに向けての静的接触角測定は、ASTM D2578−84、D5725−99に従って、G10−Kruss機器を用いて、溶液キャスティングによって得られた緻密フラットポリマー(A)シートに関して実施した。各値は、少なくとも5滴の測定値の平均として求めた。
【0115】
VDF−AAコポリマーの合成
実施例1
880rpmの速度で作動する羽根車を備えた4リットル反応器に、以下の原料を順次導入した:
−脱塩水:2473g;
−懸濁化剤:0.8g(DOW Chemical製のMethocel(登録商標)K100GR)。
【0116】
反応器を次に、温度を14℃に維持しながら繰り返し排気し、窒素(1バール)でパージした。次に2gのアクリル酸(AA)および次にイソドデカン中の開始剤過ピバリン酸t−アミルの溶液(75%)の3gをオートクレーブへ導入し、直後に、1050gのVDFモノマーを反応器へ導入した。反応器を次に、120バールの圧力に相当する、52℃の設定点温度が達成されるまで徐々に加熱した。37gのAA/1リットルの溶液を含む水溶液を供給することによって圧力を全体重合運転中120バールに等しく一定に保った。671分後に、大気圧に達するまで懸濁液を脱ガスすることによって重合を停止させた。合計550mlのAA溶液を反応器に装入した。ポリマーを次に濾過によって集め、撹拌タンク中で脱塩水に再び懸濁させた。この洗浄サイクル後に、ポリマーを50℃でオーブン乾燥させた。集められた乾燥粉末の量は695gであることが分かった。
【0117】
そのように得られたポリマーの組成およびDSC特性を表1にまとめる。TGA分析および熱安定性に関するデータを表2にまとめる。
【0118】
実施例2
実施例1に詳述されたものと同じ手順に従ったが、初期に反応器に1gのアクリル酸(AA)と1058gのVDFモノマーとを導入し、18.5gのAA/1リットルの溶液を含有する水溶液を連続的に供給した。528分後に、合計700mlのAA溶液を供給してしまった後に反応を停止させた。乾燥ポリマーの回収量は815gであることが分かった。そのように得られたポリマーの組成およびDSC特性を表1にまとめる。TGA分析および熱安定性に関するデータを表2にまとめる。
【0119】
比較例3
実施例1に記載されてものに類似の手順に従ったが、22gのアクリル酸(AA)と1028gのVDFとを初期にオートクレーブクレーへ導入した。追加量のAAは、651分の重合運転中に全く供給しなかった。濾過、リンス、および乾燥後に、720gの乾燥ポリマーが得られた。
【0120】
【表1】

【0121】
【表2】

【0122】
電極形成組成物およびそれからの電極の製造
実施例4−実施例1のポリマーを含む電極の製造
実施例1での通り製造された1gの樹脂を、フラットPTFEディスクを備えたDispermatデバイスを用いる室温での機械撹拌下に50gのN−メチルピロリドン(NMP)に溶解させた。穏やかな撹拌下に、1.67gのSuperP(導電性カーボンブラック)と30.67gの酸化リチウムコバルト(LiCoO)とを加え、スラリーを十分に混合して良好な均質性を確実にした。スラリー調製物に含められる原材料は全て前もって、(溶剤については)4Åのモレキュラーシーブを用いて乾燥させることによってか、(粉末については)100℃で一夜加熱することによってかのいずれかで順化させた。組成物の固体濃度は40重量%であり、ポリマー(A)は全固形分成分(ポリマー(A)+活性材料(カーボンブラック5%およびLi酸化物92%))の3重量%を示した。組成物を次に真空下に脱ガスし、前もって脱脂したアルミ箔上にDoctor Bladeコーティング機器を用いて薄く塗りつけた。コーティングを最後に、固定温度で溶剤除去を確実にするのに十分な時間、典型的には130℃で15分間、および/または80℃で30分間、真空オーブン中で乾燥させた。乾燥コーティングの厚さは約50μmであることが分かった。
【0123】
実施例5−実施例2のポリマーを含む電極の製造
実施例4の同じ手順を繰り返したが、実施例2に詳述された通り製造された1gのポリマーを使用した。
【0124】
比較例6−商業的に入手可能なSOLEF(登録商標)6030 VDFホモポリマーを含む電極の製造
実施例4の同じ手順を繰り返したが、2.6dl/gの固有粘度を有する1gのSOLEF(登録商標)6030 VDFホモポリマーを使用した。
【0125】
比較例7−比較例3からのポリマーを含む電極の製造
実施例4の同じ手順を繰り返したが、比較例3に詳述されたように得られた1gのポリマーを使用した。
【0126】
接着性試験
実施例4、5、6(比較)および7(比較)に詳述された通り製造された電極の接着性試験は、5mm/分の牽引速度で、23℃および50%相対湿度でISO 4624(プルオフ試験)に従って行った。データを表3にまとめる。
【0127】
【表3】

【0128】
緻密膜の製造
実施例8
実施例1での通り製造された5グラムのポリマーを45グラムのNMPに加え、混合物を完全な溶解まで撹拌した。緻密なフラットポリマーフィルムは、ガラス表面上にBraive棒コーターで溶液キャスティングし、通気オーブン中120℃で30分間乾燥させることによって得た。乾燥フィルムの最終厚さは約10μmであることが分かった。フィルムをその後70℃のNaOHの5重量%水溶液に1.5時間浸漬し、次に脱イオン水で洗浄し、室温で乾燥させて接触角測定にかける検体を提供した。データを表4にまとめる。
【0129】
実施例9
実施例8に記載されたものと同じ手順を繰り返したが、実施例2に詳述された通り製造された5グラムのポリマーを使用した。接触角測定結果を表4にまとめる。
【0130】
比較例10
実施例8に記載されたものと同じ手順を繰り返したが、1.5dl/gの固有粘度を有する5グラムのSOLEF(登録商標)1015 VDFホモポリマーを使用した。接触角測定結果を表4にまとめる。
【0131】
【表4】

【0132】
実施例11
実施例8に記載されたものと同じ手順を繰り返したが、実施例2での通り製造されたポリマー(A)とPVDFホモポリマー(SOLEF(登録商標)1015)とを含む混合物それぞれ5gを使用した。その組成を表5に詳述する。接触角測定結果もまた表5にまとめる。
【0133】
【表5】

【0134】
多孔性膜の製造
実施例12
実施例9に詳述された通り調製された溶液(実施例2での通り製造された樹脂)を、ガラス表面上にBraive棒コーターでキャストし、脱イオン水へのその後の浸漬によって凝固させて多孔性膜を得た。ガラス表面からの剥離後に、多孔性膜を脱イオン水で洗浄し、2シートの紙の間で室温で乾燥させた。
【0135】
膜をその後70℃のNaOHの5重量%水溶液に1.5時間浸漬し、次に脱イオン水で洗浄し、室温で乾燥させた。この処理後に、膜の色は白色から茶色になった。膜の湿潤性は、蒸留水の1滴を膜の表面上に置くことによって評価し;滴は直ぐに吸着されるおよび表面の一面に広がり、こうして膜の親水性を証明した。
【0136】
実施例13
実施例12に記載されたものと同じ手順を繰り返したが、SOLEF(登録商標)1015 VDFホモポリマーを含有する、実施例10で調製された溶液を使用した。膜の湿潤性は、蒸留水の1滴を膜の表面上に置くことによって評価し;滴は表面上に留まり、吸着されず、このように膜のいかなる湿潤向上も明らかにしなかった。
【0137】
VDF−HEAの合成
実施例14(VDF−HEA)
880rpmの速度で作動する羽根車を備えた4リットル反応器に以下の原料を順に導入した:
−脱塩水:2435g;
−懸濁化剤:0.8g(DOW Chemical製のMethocel(登録商標)K100GR)。
【0138】
14℃の反応器中に存在する酸素を、5回真空に引くことおよび1バールの窒素での最終加圧によって除去した。次に1gのヒドロキシエチルアクリレート(HEA)とイソドデカン中の開始剤過ピバリン酸t−アミルの溶液(75%)の5gとをオートクレーブへ導入した。その後、1043gのVDFモノマーを反応器へ導入した。反応器を次に、120バールの反応器の圧力に相当する52℃の設定点温度に達するまで徐々に加熱した。35.7gのHEA/1リットルの溶液の水溶液を供給することによって圧力を全体重合の間120バールに維持した。690分後に、大気圧に達するまで懸濁液を脱ガスすることによって重合を停止させた。合計605ccのHEA溶液を反応器に装入した。ポリマーを次に濾過によって集め、撹拌タンク中で清浄水に再び懸濁させた。この洗浄サイクル後に、ポリマーを50℃でオーブン乾燥させた。乾燥粉末の量は713gであることが分かった。ポリマーの特性を表6に示す。窒素雰囲気での生成物の熱安定性は、TGA分析によって評価した。データを表7にまとめる。
【0139】
【表6】

【0140】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン(VDF)モノマーと式:
【化1】

(式中、R1、R2、R3のそれぞれは、互いに等しいかまたは異なり、独立して水素原子またはC〜C炭化水素基であり、そしてROHは水素または少なくとも1つのヒドロキシル基を含むC〜C炭化水素部分である)
の少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)とに由来する繰り返し単位を含む線状半結晶性コポリマー[ポリマー(A)]であって、
前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する0.05〜10モル%の繰り返し単位を含み、そして少なくとも40%のランダムに分布した単位(MA)の分率によって特徴付けられるコポリマー[ポリマー(A)]。
【請求項2】
モノマー(MA)が
−式:
【化2】

のヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、
−式:
【化3】

のいずれかの2−ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、
−式:
【化4】

のアクリル酸(AA)および
−それらの混合物
の中から選択される、請求項1に記載のポリマー(A)。
【請求項3】
ランダムに分布した単位(MA)の分率が少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、最も好ましくは少なくとも70%である、請求項1または2に記載のポリマー(A)。
【請求項4】
前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する少なくとも0.1モル%、より好ましくは少なくとも0.2モル%の繰り返し単位を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリマー(A)。
【請求項5】
前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する多くとも10モル%、より好ましくは多くとも7.5モル%、さらにより好ましくは多くとも5モル%最も好ましくは多くとも3モル%の繰り返し単位を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリマー(A)。
【請求項6】
350℃超の、好ましくは360℃超の、より好ましくは380℃超の温度でISO 11358標準に従う窒素下のTGA分析において、1重量%の重量を損失する請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリマー(A)。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の線状半結晶性コポリマーの製造方法であって、反応容器内でフッ化ビニリデンモノマーと親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)とをラジカル開始剤の存在下に水性媒体中で重合させる工程を含み、
−親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)を含む水溶液を連続的に供給する工程と、
−前記反応器容器内の圧力を、フッ化ビニリデンの臨界圧力よりも上に維持する工程と
を含む方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリマー(A)と少なくとも1つのVDFポリマー、すなわち、VDFに由来する少なくとも70モル%の繰り返し単位および、任意選択的に、少なくとも1つの他の好適なフッ素化コモノマー、例えば、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレンなどに由来する30モル%以下の繰り返し単位を含むポリマーとを含む組成物(C)。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリマー(A)または請求項8に記載の組成物(C)と、粉末状の電極材料と、任意選択的に、導電性付与添加剤および/または粘度調整剤とを含む電極形成組成物。
【請求項10】
(a)総重量(a)+(b)+(c)に対して、1〜10重量%、好ましくは2〜9重量%、より好ましくは約3重量%の量で、ポリマー(A)と、
(b)総重量(a)+(b)+(c)に対して、2〜10重量%、好ましくは4〜6重量%、より好ましくは約5重量%の量で、導電性付与添加剤としてのカーボンブラックと、
(c)粉末状の電極材料、好ましくは一般式LiMYで表される複合金属カルコゲニドと
を含む、請求項9に記載の電極形成組成物であって、上式中、MはCo、Ni、Fe、Mn、CrおよびVなどの遷移金属の少なくとも1つの化学種を意味し;Yは、80〜97重量%、好ましくは85〜94重量%、より好ましくは約92重量%の量で、OもしくはSなどのカルコゲン、または組成式AB(XO1−f(式中、Aは、A金属の20%未満を表す別のアルカリ金属で部分置換されていてもよい、リチウムであり、Bは、0を含む、+1〜+5の酸化レベルでの、そして主要+2レドックス金属の35%未満を表す1つ以上の追加の金属で部分置換されていてもよい、Fe、Mn、Niもしくはそれらの混合物の中から選ばれた+2の酸化レベルでの主要レドックス遷移金属であり、XOは、XがP、S、V、Si、Nb、Moもしくはそれらの組み合わせのいずれかである任意のオキシアニオンであり、Eはフルオリド、ヒドロキシドもしくはクロリド陰イオンであり、fは一般に0.75〜1(極端を含む)からなる、XOオキシアニオンのモル分率である)のリチオ化もしくは部分リチオ化遷移金属オキシアニオンベースの電極材料を意味する、組成物。
【請求項11】
特にリチウム電池および/または電気二重層コンデンサの電極を形成するための、バインダーとしての請求項1〜6のいずれか一項に記載の線状半結晶性コポリマーまたは請求項8に記載の組成物(C)の使用。
【請求項12】
親水性膜の製造のための請求項1〜6のいずれか一項に記載の線状半結晶性コポリマーまたは請求項8に記載の組成物(C)の使用。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の線状半結晶性コポリマーまたは請求項8に記載の組成物(C)を含む親水性膜。

【公表番号】特表2010−525124(P2010−525124A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504657(P2010−504657)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【国際出願番号】PCT/EP2008/054831
【国際公開番号】WO2008/129041
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(508305960)ソルヴェイ・ソレクシス・エッセ・ピ・ア (53)
【Fターム(参考)】