説明

フッ化ビニリデン系重合体の製造方法

【課題】嵩密度の高いフッ化ビニリデン系重合体を得ることが可能であり、かつ付帯設備の増加や重合系内でのスケール付着の増大がおこらない、フッ化ビニリデン系重合体の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法は、フッ化ビニリデンを主成分とするモノマーを、懸濁剤を含む水性媒体中に分散し、懸濁重合を行うことにより、フッ化ビニリデン系重合体を製造する方法であり、前記懸濁重合が、親水性‐親油性バランス(HLB)が1〜8のソルビタン脂肪酸エステルの存在下で行われることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ化ビニリデン系重合体の製造方法に関し、詳しくは嵩密度の高いフッ化ビニリデン系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化ビニリデン系重合体は、耐薬品性、耐候性、耐汚染性等に優れ、溶融成型して各種フィルムや成形品を製造するための材料として利用されている。また、フッ化ビニリデン系重合体は、塗料やバインダー樹脂としても利用されている。
【0003】
フッ化ビニリデン系重合体は、様々な重合法により合成することができるが、工業的生産では、乳化重合法、懸濁重合法により合成されている。乳化重合法では、0.2〜0.5μm程度の小粒径のラテックスが生成するため、重合後、凝集剤を用いた造粒処理が施されているが、乳化剤や凝集剤等を充分に除去するためには複雑な後処理が必要となる。一方、懸濁重合法では50〜300μm程度の粒径のビーズが生成し、簡易な洗浄処理で不純物の少ない重合体が得られる。
【0004】
フッ化ビニリデン系重合体の懸濁重合においては通常、加圧条件下でフッ化ビニリデン等のモノマーを重合する。懸濁重合で得られるフッ化ビニリデン系重合体の粒子内部は多孔質になりやすく、これに伴い得られるフッ化ビニリデン系重合体の嵩密度が低下しやすい。フッ化ビニリデン系重合体の嵩密度が低下すると、フッ化ビニリデン系重合体を成形する際に、成形機内への空気の持ち込み量が多くなり、その結果、脱気が不十分となって、成形体中にボイドを発生させたり、成形中に発泡が生じたりする。また、保管や輸送においても嵩が大きくなり、製品コストの増大につながる。
【0005】
フッ化ビニリデン系重合体の懸濁重合粒子を高密度化させるために、重合後半にフッ化ビニリデンを追加することも可能であるが、高圧ポンプ等の付帯設備の増加や重合系内でのスケール付着(樹脂の付着)の増大等の問題がある。
【0006】
また、フッ化ビニリデン系重合体の製造方法として、重合開始時には単量体の見掛けの臨界温度以下で懸濁重合を行い、重合粒子が生成した後に該臨界温度以上に重合温度を上昇させることにより、重合時間の短縮および重合触媒の使用量の低減を可能とするフッ化ビニリデン系重合体の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、該フッ化ビニリデン系重合体の製造方法は、温度を厳密にコントロールする必要があった。また、単量体を追加仕込みすることで見掛け比重の高い重合体を得る方法が記載されているが、高圧ポンプでのモノマーの投入に加え、臨界温度以上への温度上昇が必要であり、設備コスト負担の増大や重合操作が煩雑となる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭46−3588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、嵩密度の高いフッ化ビニリデン系重合体を得ることが可能であり、かつ付帯設備の増加や重合系内でのスケール付着の増大がおこらない、フッ化ビニリデン系重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を達成するため鋭意研究を重ねた結果、フッ化ビニリデン系重合体を特定のソルビタン脂肪酸エステルの存在下で懸濁重合を行うことにより製造すると、嵩密度の高いフッ化ビニリデン系重合体を、付帯設備の増加等を伴わず、スケール付着の増大がおこらない簡便な方法で製造することが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法は、フッ化ビニリデンを主成分とするモノマーを、懸濁剤を含む水性媒体中に分散し、懸濁重合を行うことにより、フッ化ビニリデン系重合体を製造する方法であり、
前記懸濁重合が、親水性‐親油性バランス(HLB)が1〜8のソルビタン脂肪酸エステルの存在下で行われることを特徴とする。
【0011】
前記懸濁剤が、セルロース誘導体であることが好ましい。
前記懸濁重合を行う際に、前記モノマー100質量部に対して、懸濁剤が0.02質量部以上、0.25質量部未満、前記ソルビタン脂肪酸エステルが0.01質量部以上、0.5質量部未満存在することが好ましい。
【0012】
得られるフッ化ビニリデン系重合体の嵩密度が0.46g/cm3以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法は、付帯設備の増加や重合系内でのスケール付着の増大がおこらない簡便な方法で嵩密度の高いフッ化ビニリデン系重合体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】比較例1で得られた、フッ化ビニリデン系重合体粉末(c1)の断面のSEM写真である。
【図2】実施例1で得られた、フッ化ビニリデン系重合体粉末(1)の断面のSEM写真である。
【図3】実施例2で得られた、フッ化ビニリデン系重合体粉末(2)の断面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明について具体的に説明する。
本発明のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法は、フッ化ビニリデンを主成分とするモノマーを、懸濁剤を含む水性媒体中に分散し、懸濁重合を行うことにより、フッ化ビニリデン系重合体を製造する方法であり、前記懸濁重合が、親水性‐親油性バランス(HLB)が1〜8のソルビタン脂肪酸エステルの存在下で行われることを特徴とする。
【0016】
〔フッ化ビニリデンを主成分とするモノマー〕
本発明のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法では、フッ化ビニリデンを主成分とするモノマーを原料として用いる。
【0017】
なお、フッ化ビニリデンを主成分とするモノマーとは、モノマー100モル%あたり、フッ化ビニリデンを50モル%以上含むモノマーを意味し、通常はフッ化ビニリデンを80モル%以上含むモノマーであり、好ましくは95モル%以上含むモノマーである。
【0018】
フッ化ビニリデンを主成分とするモノマーとしては、フッ化ビニリデン以外のモノマー(以下、他のモノマーとも記す。)を、50モル%以下含んでいてもよく、他のモノマーが含まれる場合には通常は20モル%以下、好ましくは5モル%以下含まれる。
【0019】
前記他のモノマーとしては、例えばフッ化ビニリデンと共重合可能なフッ素系単量体あるいはエチレン、プロピレン等の炭化水素系単量体、カルボキシル基含有モノマー、カルボン酸無水物基含有モノマーが挙げられる。なお、他のモノマーは、一種単独でも、二種以上でもよい。
【0020】
前記フッ化ビニリデンと共重合可能なフッ素系単量体としては、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペルフルオロメチルビニルエーテルに代表されるペルフルオロアルキルビニルエーテル等を挙げることができる。
前記カルボキシル基含有モノマーとしては、不飽和一塩基酸、不飽和二塩基酸、不飽和二塩基酸のモノエステル等が好ましい。
【0021】
前記不飽和一塩基酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、2−カルボキシエチルアクリレート、2−カルボキシエチルメタクリレート等が挙げられる。前記不飽和二塩基酸としては、マレイン酸、シトラコン酸等が挙げられる。また、前記不飽和二塩基酸のモノエステルとしては、炭素数5〜8のものが好ましく、例えばマレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステル、シトラコン酸モノエチルエステル等を挙げることができる。中でも、カルボキシル基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、シトラコン酸、マレイン酸モノメチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステルが好ましい。また、カルボキシル基含有モノマーとしてはアクリロイロキシエチルコハク酸、メタクリロイロキシエチルコハク酸、アクリロイロキシエチルフタル酸、メタクリロイロキシエチルフタル酸等を用いてもよい。
前記カルボン酸無水物基含有モノマーとしては、前記不飽和二塩基酸の酸無水物、具体的には、無水マレイン酸、無水シトラコン酸が挙げられる。
【0022】
〔懸濁剤〕
本発明のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法では、懸濁剤を用いる。
懸濁剤としては、特に限定はないが、メチルセルロース、メトキシ化メチルセルロース、プロポキシ化メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ゼラチン等を用いることができる。
【0023】
懸濁剤としてはセルロース誘導体を用いることが好ましく、メチルセルロース、
ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が好ましい。
懸濁剤の使用量としては、懸濁重合を行う際に使用する全モノマー(フッ化ビニリデンを主成分とするモノマー)100質量部に対して0.02質量部以上、0.25質量部未満存在することが好ましく、0.03質量部以上、0.2質量部未満存在することがより好ましく、0.05質量部以上、0.1質量部以下存在することが特に好ましい。前記範囲内では、モノマーの懸濁粒子が安定であり、気泡の発生も少なく好ましい。
【0024】
〔水性媒体〕
本発明のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法では、前述のように水性媒体中に前記フッ化ビニリデンを主成分とするモノマーを分散させ、懸濁重合を行う。
【0025】
水性媒体としては、水または水を主成分70質量%以上とする水と、1,1,2,2,3−ペンタフルオロ−1,3−ジクロロプロパン、1,1,1,2,2−ペンタフルオロ−3,3−ジクロロプロパン、モノヒドロペンタフルオロジクロロプロパン等のハロゲン化炭化水素媒体との混合媒体等を用いることができる。水性媒体としては水が好ましく、前記水としては、イオン交換水、純水等の精製された水を用いることが好ましい。
【0026】
懸濁重合を行う際の水性媒体の使用量としては、使用する全モノマー(フッ化ビニリデンを主成分とするモノマー)100質量部に対して100〜1000質量部であることが好ましく、より好ましくは200〜500質量部である。
【0027】
〔HLBが1〜8のソルビタン脂肪酸エステル〕
本発明のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法は、懸濁重合を親水性‐親油性バランス(HLB)が1〜8のソルビタン脂肪酸エステルの存在下で行うことを特徴とする。
【0028】
なお、HLBは、0〜20の値を取る水と油への親和性の程度を示す値である。HLBは0に近いほど親油性が高く、20に近いほど親水性が高くなる。
HLBを求める方法としては、幾つかの方法があるが、本発明においてHLBは、Griffinの式によって決定される値である。
【0029】
本発明では、HLBが1〜8のソルビタン脂肪酸エステルを用いるが、HLBとしては1〜7が好ましく、1〜5がより好ましく、1〜3が最も好ましい。
本発明に用いるソルビタン脂肪酸エステルとしては、HLBが1〜8であればよいが、通常は、ソルビタンのトリ脂肪酸エステル、ソルビタンのジ脂肪酸エステル、ソルビタンのモノ脂肪酸エステル、およびこれらの混合物を用いることができる。
【0030】
本発明に用いることができる前記ソルビタンのトリ脂肪酸エステルとしては、ソルビタントリオレエート(Sorbitan trioleate)(HLB:2.3)、ソルビタントリステアレート(Sorbitan tristearate)(HLB:2.3)が挙げられ、前記ソルビタンのモノ脂肪酸エステルとしては、ソルビタンモノオレエート(Sorbitan monooleate)(HLB:6.8)、ソルビタンモノステアレート(Sorbitan monostearate)(HLB:6.8)、ソルビタンモノパルミテート(Sorbitan monopalmitate)(HLB:7.3)が挙げられる。また、HLBが1〜8のソルビタン脂肪酸エステルとしては、ソルビタンセスキオレエート(Sorbitan sesquioleate)(HLB:4.9)を用いることもできる。なお、ソルビタンセスキオレエートは、エステル化度の異なるソルビタンのオレイン酸エステルの混合物である。
【0031】
本発明に用いることができるHLBが1〜8のソルビタン脂肪酸エステルとしては、ソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート等が好ましく、ソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレートがより好ましい。
【0032】
本発明のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法において、前記HLBが1〜8のソルビタン脂肪酸エステルは、二次懸濁剤として作用すると考えられる。懸濁重合の際に前記HLBが1〜8のソルビタン脂肪酸エステルが系中に存在することにより、本発明の製造方法により得られるフッ化ビニリデン系重合体の嵩密度を高くすることができる。前記HLBが1〜8のソルビタン脂肪酸エステルを用いることにより、得られるフッ化ビニリデン系重合体の嵩密度が高くなる理由は明らかではないが、本発明者らは二次懸濁剤の存在により、モノマーの懸濁粒子内部にとりこまれる気泡、水泡の安定性が低下し、粒子内部から排除され易くなるためと推定した。
【0033】
HLBが1〜8のソルビタン脂肪酸エステルの使用量としては、懸濁重合を行う際に使用する全モノマー(フッ化ビニリデンを主成分とするモノマー)100質量部に対して0.01質量部以上、0.5質量部未満存在することが好ましく、0.03質量部以上、0.3質量部未満存在することがより好ましく、0.05質量部以上、0.1質量部以下存在することが特に好ましい。前記範囲内では、嵩密度の高い粒子が得られるため好ましい。
【0034】
〔懸濁重合〕
本発明のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法は、前述のようにフッ化ビニリデンを主成分とするモノマーを、懸濁剤を含む水性媒体中に分散し、懸濁重合を行うが、該懸濁重合が、前記HLBが1〜8のソルビタン脂肪酸エステルの存在下で行われることを特徴とする。
【0035】
本発明のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法においては、前記HLBが1〜8のソルビタン脂肪酸エステルが存在する以外は、従来の懸濁重合と同様の方法で行うことができる。なお、本発明のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法において用いる、フッ化ビニリデンを主成分とするモノマー、懸濁剤、水性媒体、HLBが1〜8のソルビタン脂肪酸エステルの種類や使用量としては、前述の通りである。
【0036】
懸濁重合においては、通常重合開始剤を用いるが、重合開始剤としては、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジノルマルプロピルペルオキシジカーボネート、ジノルマルヘプタフルオロプロピルペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、イソブチリルペルオキサイド、ジ(クロロフルオロアシル)ペルオキサイド、ジ(ペルフルオロアシル)ペルオキサイド、t−ブチルペルオキシピバレート等が使用できる。その使用量は、懸濁重合に使用する全モノマー(フッ化ビニリデンを主成分とするモノマー)を100質量部とすると、0.05〜5質量部、好ましくは0.1〜2質量部である。
【0037】
また、酢酸エチル、酢酸メチル、炭酸ジエチル、アセトン、エタノール、n−プロパノール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、プロピオン酸エチル、四塩化炭素等の連鎖移動剤を添加して、得られるフッ化ビニリデン系重合体の重合度を調節することも可能である。その使用量は、通常は、懸濁重合に使用する全モノマー(フッ化ビニリデンを主成分とするモノマー)を100質量部とすると、0.1〜5質量部、好ましくは0.4〜3質量部である。
【0038】
また、懸濁重合における重合温度Tは、重合開始剤の10時間半減期温度T10に応じて適宜選択され、通常はT10−25℃≦T≦T10+25℃の範囲で選択される。例えば、t‐ブチルペルオキシピバレートおよびジイソプロピルペルオキシジカーボネートのT10はそれぞれ、54.6℃および40.5℃である。したがって、t‐ブチルペルオキシピバレートおよびジイソプロピルペルオキシジカーボネートを重合開始剤として用いた重合では、その重合温度Tはそれぞれ29.6℃≦T≦79.6℃および15.5℃≦T≦65.5℃の範囲で適宜選択される。重合時間は特に制限されないが、生産性等を考慮すると100時間以下であることが好ましい。重合時の圧力は通常加圧下で行われ、好ましくは2.0〜8.0MPa‐Gである。
【0039】
上記の条件でフッ化ビニリデンを主成分とするモノマーの懸濁重合を行うことにより、嵩密度の高いフッ化ビニリデン系重合体を得ることができる。
本発明のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法は、懸濁重合をHLBが1〜8のソルビタン脂肪酸エステルの存在下で行うことにより実施可能であり、付帯設備の増加を必要としない。また、本発明のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法は、重合系内のスケール付着の増大がおこらない。
【0040】
〔フッ化ビニリデン系重合体〕
本発明の製造方法で得られるフッ化ビニリデン系重合体は、嵩密度が高い。具体的には、本発明の製造方法で得られるフッ化ビニリデン系重合体の嵩密度は、通常は0.46g/cm3以上であり、好ましくは0.50g/cm3以上である。また、嵩密度の上限としては特に限定はないが、通常は0.80g/cm3以下である。
【0041】
本発明の製造方法で得られるフッ化ビニリデン系重合体の平均粒径としては、特に限定はないが、通常は80〜250μmであり、好ましくは130〜230μmである。
また、本発明の製造方法で得られるフッ化ビニリデン系重合体のインヘレント粘度(樹脂4gを1リットルのN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させた溶液の30℃における対数粘度。以下、同様)は、0.5〜5.0dl/gの範囲内の値であることが好ましく、1.0〜4.0dl/gの範囲内の値であることがより好ましい。
【0042】
本発明の製造方法で得られるフッ化ビニリデン系重合体としては、従来の製法により得られるフッ化ビニリデン系重合体が用いられる各種用途に用いることが可能である。すなわち、本発明の製造方法で得られるフッ化ビニリデン系重合体は、溶融成型して各種フィルムや成形品を製造するための材料として用いてもよく、塗料やバインダー樹脂として用いてもよい。
【実施例】
【0043】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
実施例、比較例で得られたフッ化ビニリデン系重合体粉末の物性は以下の方法で測定した。
【0044】
〔インヘレント粘度〕
1リットルのN,N−ジメチルホルムアミドに、フッ化ビニリデン系重合体粉末4gを添加し、80℃で8時間かけて溶解させた溶液を調整した。この溶液を30℃に保持してウベローデ粘度計で対数粘度を測定し、下式によりインヘレント粘度を求めた。
対数粘度[η]=ln(ηrel)/C
ここでηrelは、試料溶液の落下秒数/溶媒の落下秒数、Cは試料溶液の濃度(0.4g/dl)を表す。
【0045】
〔SEM観察〕
フッ化ビニリデン系重合体粉末をエポキシ樹脂で固定し、ミクロトームを用いて冷却下で粒子を切断した。切断した粒子断面を上にしてSEM試料台に固定し、白金をスパッタし、フッ化ビニリデン系重合体粉末の断面についてSEM観察を行った。
【0046】
〔平均粒径〕
フッ化ビニリデン系重合体粉末の粒度分布を、(株)平工製作所製ロータップ式II型ふるい振とう機D型を用い、JIS K 0069−3.1に従って、乾式ふるい分け法により測定した。平均粒径の算出は、粒度分布の測定結果を元に、対数正規分布法にて求めた。平均粒径は、粒度累積分布において、50%累積値(D50)を示す粒径とした。
【0047】
〔嵩密度〕
フッ化ビニリデン系重合体粉末の嵩密度は、JIS K 6721−3.3「かさ比重」の測定法に従って測定した。具体的には、充分にかき混ぜた粉末試料約120mlを嵩比重測定装置のダンパーを差し込んだ漏斗に入れた後、速やかにダンパーを引抜き、試料を受器に落とす。受器から盛り上がった試料は、ガラス棒ですり落とした後、試料の入った受器の質量を0.1gまで正確に量り、次の式によって嵩密度を求めた。
S=(C−A)/B
S:嵩密度(g/cm3
A:受器の質量(g)
B:受器の内容積(cm3
C:試料の入った受器の質量(g)
測定は3回行い、平均値を算出した。試験結果は、小数点以下3桁まで測定した数値を、3桁目を四捨五入することにより丸めて表示した。
【0048】
〔比較例1〕
内容積2リットルのオートクレーブに、1024gのイオン交換水、0.2gのメチルセルロース、400gのフッ化ビニリデン、0.6gのジイソプロピルパーオキシジカーボネート(IPP)、1.8gの酢酸エチルを仕込み、26℃で19時間懸濁重合を行った。懸濁重合の重合収率は90%であった。なお、重合収率は、仕込みのモノマー質量と、得られたポリマー質量との比から算出した。
【0049】
重合完了後、重合体スラリーを95℃で30分間熱処理した後、脱水、水洗し、さらに80℃で20時間乾燥してフッ化ビニリデン系重合体粉末(c1)を得た。
得られたフッ化ビニリデン系重合体粉末(c1)のインヘレント粘度は3.2dl/g、平均粒径は170μm、嵩密度は0.38g/cm3であった。また、フッ化ビニリデン系重合体粉末(c1)の断面のSEM写真を図1に示す。
【0050】
〔実施例1〕
内容積2リットルのオートクレーブに、1024gのイオン交換水、0.4gのメチルセルロース、0.2gのソルビタントリオレエート(span85、下記式(1)参照)、400gのフッ化ビニリデン、0.6gのジイソプロピルパーオキシジカーボネート(IPP)、1.8gの酢酸エチルを仕込み、26℃で31時間懸濁重合を行った。懸濁重合の重合収率は89%であった。
【0051】
重合完了後、重合体スラリーを95℃で30分間熱処理した後、脱水、水洗し、さらに80℃で20時間乾燥してフッ化ビニリデン系重合体粉末(1)を得た。
得られたフッ化ビニリデン系重合体粉末(1)のインヘレント粘度は3.1dl/g、平均粒径は150μm、 嵩密度は0.46g/cm3であった。また、フッ化ビニリデン系重合体粉末(1)の断面のSEM写真を図2に示す。
【0052】
【化1】

〔実施例2〕
内容積2リットルのオートクレーブに、1024gのイオン交換水、0.2gのメチルセルロース、0.4gのソルビタントリオレエート(span85)、400gのフッ化ビニリデン、0.6gのジイソプロピルパーオキシジカーボネート(IPP)、1.8gの酢酸エチルを仕込み、26℃で79時間懸濁重合を行った。懸濁重合の重合収率は89%であった。
【0053】
重合完了後、重合体スラリーを95℃で30分間熱処理した後、脱水、水洗し、さらに80℃で20時間乾燥してフッ化ビニリデン系重合体粉末(2)を得た。
得られたフッ化ビニリデン系重合体粉末(2)のインヘレント粘度は3.1dl/g、平均粒径は220μm、嵩密度は0.53g/cm3であった。また、フッ化ビニリデン系重合体粉末(2)の断面のSEM写真を図3に示す。
【0054】
〔比較例2〕
内容積2リットルのオートクレーブに、1024gのイオン交換水、0.4gのメチルセルロース、0.2gのソルビタンモノラウレート(span20、下記式(2)参照)、400gのフッ化ビニリデン、0.6gのジイソプロピルパーオキシジカーボネート(IPP)、1.8gの酢酸エチルを仕込み、26℃で53時間懸濁重合を行った。しかし、オートクレーブ内で重合物がクランプ(懸濁粒子が充分にできずに、大きな塊)となり、正常な懸濁重合粒子が得られなかった。
【0055】
【化2】

実施例、比較例の重合条件、得られたフッ化ビニリデン系重合体の物性を表1に示す。
【0056】
【表1】

図1〜3より、本発明のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法で得られるフッ化ビニリデン系重合体は、従来の懸濁重合により得られたフッ化ビニリデン系重合体(比較例1)と比べて、フッ化ビニリデン系重合体粉末中に空隙が少ない。
【0057】
前記表および図1〜3より明らかなように、本発明のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法で得られるフッ化ビニリデン系重合体は、従来の懸濁重合により得られたフッ化ビニリデン系重合体(比較例1)と比べて嵩密度が高い。また、HLBが大きいソルビタン脂肪酸エステルを用いて懸濁重合を行った場合(比較例2)には、フッ化ビニリデン系重合体を好適に重合することが困難であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデンを主成分とするモノマーを、懸濁剤を含む水性媒体中に分散し、懸濁重合を行うことにより、フッ化ビニリデン系重合体を製造する方法であり、
前記懸濁重合が、親水性‐親油性バランス(HLB)が1〜8のソルビタン脂肪酸エステルの存在下で行われることを特徴とするフッ化ビニリデン系重合体の製造方法。
【請求項2】
前記懸濁剤が、セルロース誘導体である請求項1に記載のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法。
【請求項3】
前記懸濁重合を行う際に、前記モノマー100質量部に対して、懸濁剤が0.02質量部以上、0.25質量部未満、前記ソルビタン脂肪酸エステルが0.01質量部以上、0.5質量部未満存在する請求項1または2に記載のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法。
【請求項4】
得られるフッ化ビニリデン系重合体の嵩密度が0.46g/cm3以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−201866(P2012−201866A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70230(P2011−70230)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】