説明

フッ化フラーレンを含有する溶解液、または分散液

【課題】電池活物質の添加剤、固体潤滑剤、あるいはフラーレン誘導体の前駆体等の用途に用いられ、樹脂、オイル、金属などとの複合材の形で使用されるフッ化フラーレンを溶媒に溶解、または分散させて使用する際、化学的に活性なフッ化フラーレンが分解することなく安定に存在できる溶解液、または分散液を提供する。
【解決手段】フッ化フラーレンを溶解、または分散させる溶媒として、水分含有量が20ppm以下でかつ官能基をもたない有機化合物を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池活物質の添加剤、固体潤滑剤、あるいはフラーレン誘導体の前駆体等の用途に用いられ、樹脂、オイル、金属などとの複合材の形で使用されるフッ化フラーレンを含有する溶解液、または分散液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フラーレンは、グラファイト、ダイヤモンドに次ぐ第3の炭素の同素体として、1985年に発見された新しい物質で、炭素数60、70、84、86、90、92、94、96、98などからなる閉殻構造を有するカーボンクラスターである。フラーレンは、その分子骨格を構成する炭素数によって、フラーレンC60、フラーレンC70などと呼ばれている。中でも、フラーレンC60は、サッカーボール状の構造を有した代表的なフラーレンである。これらのフラーレンは、特殊な分子構造を有することから特異的な物性が期待され、広範囲な用途分野において活発に研究されている。
【0003】
これらフラーレンにフッ素が結合したフッ化フラーレンの研究も1990年から始まり、フラーレンとフッ素ガスとの直接反応(非特許文献1、2)、フラーレンを分散させたクロロフルオロカーボン中でのフッ素ガスとの反応(非特許文献3)、無水フッ化水素中でのKrFによるフッ素化反応(非特許文献4)、MnFとの混合によるフッ素化反応(非特許文献5)などの方法により、C60からC6054までの多くの組成のフッ化フラーレンが得られている。例えば、C60、C6018、C6030、C6036、C6042、C6044、C6046、C6048などが挙げられる。C60の骨格構造が保存されている最もフッ素化度の高いフッ化フラーレンはC6048であり、C60>48)のフッ化フラーレンはC60の骨格がこわれていると考えられている。フッ素化度の増加にともないフッ化フラーレンの色はフラーレンの黒色からC6018の褐色、C6036の淡黄色、C6044以上で白色に変化する。
【0004】
フッ化フラーレンの物理化学的性質について詳細は明らかになっていないが、フッ化フラーレンは共有結合性フッ素で覆われているため分子間の相互作用が弱くなり、昇華温度はフラーレンより400℃近くも下がり、ポリテトラフルオロエチレン同様、低表面エネルギーの疎水性固体である。しかし、フッ化フラーレンの分子内の炭素とフッ素の結合は、一般のパーフルオロカーボンより著しく弱い。例えば、フッ化フラーレンをNaIのアセトン溶液に浸漬すると瞬時にヨウ素が遊離されることや、フッ化フラーレンをイソプロパノールに浸漬すると、イソプロパノールを酸化しアセトンを生成することなどが知られており(非特許文献6、7)、フッ化フラーレンは、非常に化学的に活性な化合物である。
【0005】
フッ化フラーレンの用途としては、電池活物質の添加剤(特許文献1)、固体潤滑剤(特許文献2)、プロトン伝導体としての機能を持つフラーレン誘導体の前駆体(特許文献3)などが報告されている。更に、工業的に利用する場合において、フッ化フラーレンは単独で使用されることは少なく、通常、樹脂、オイル、金属などとの複合材として使用される。
【0006】
フッ化フラーレンはナノオーダーの非常に微細な粒子の粉体であるため、粉塵等の問題により取扱が非常に難しく、液にフッ化フラーレンを溶解、または分散させた溶解液、または分散液としての取扱が望まれている。
【非特許文献1】A.Hamwi,C.Latouche,V.Marchand,J.Dupuis,R.Benoit:J.Phys.Chem.Solids,57,991(1996)
【非特許文献2】R.Mitsumoto,T.Araki,E.Ito,et al.:J.Phys.Chem.A,102、552(1998)
【非特許文献3】Y.Matsuo,T.Nakajima,S.Kasamatsu:J.Fluorine Chem.,78,7(1996)
【非特許文献4】O.V.Boltalina,A.K.Abdul−Sada,R.Tayer:J.Chem.Soc.,Perkin Trans.,2,981(1995)
【非特許文献5】O.V.Boltalina,A.Y.Borschevskii,L.Sidorov,J.M.Street,R.Tayer:J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,529(1996)
【非特許文献6】A.A.Gakh,A.A.Tuinman,J.L.Adcock,R.N.Compton:Tetrahedron Lett.,34,7167(1993)
【非特許文献7】O.V.Boltalina,N.A.Galeva:Russian Chem.Rev.,69,609(2000)
【特許文献1】特開平6−342655号公報
【特許文献2】特開平9−25490号公報
【特許文献3】特開2002−193861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フッ化フラーレンを溶解液、または分散液の状態で使用する場合、フッ化フラーレンは化学的に不安定であるため、長期に渡たり、溶解液、または分散液を安定に使用、または保存することが困難である。
【0008】
本発明は、化学的に非常に活性なフッ化フラーレンを液に溶解、または分散させて使用する際、フッ化フラーレンが分解することなく安定に存在できる溶解液、または分散液を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、溶解、分散させる溶媒として、水分含有量が20ppm以下でかつ官能基をもたない有機化合物を使用することにより、フッ化フラーレンが350時間以上にわたって分解せず安定に存在することを見出し、本発明に至ったものである。
【0010】
すなわち本発明は、フッ化フラーレンが溶解、または分散している溶液において、その溶媒として、水分含有量が20ppm以下で、水酸基、ホルミル基、カルボニル基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、アジド基などの官能基をもたない有機化合物を使用することを特徴とする、フッ化フラーレンを含有する溶解液、または分散液を提供するものである。
【0011】
さらには、官能基をもたない有機化合物が、炭化水素系有機化合物においてn−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、またはトルエンなど、塩素系有機化合物において四塩化炭素など、フッ素系有機化合物においてHFC−365mfc(C)、HFC−43−10mee(C10)、HFC−52−13p(CHF13)、またはHFC−c−447ef(C)などのハイドロフルオロカーボン(HFC)、あるいはHFE−449s1(CO)、HFE−569sf2(CO)、またはHFE−347pc−f(CO)などのハイドロフルオロエーテル(HFE)などであることを特徴とする、上記の溶解液、または分散液を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、フッ化フラーレンを含有する溶解液、または分散液を350時間以上にわたって安定に使用、または保存することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を更に詳述する。本発明で使用する溶媒としては官能基をもたない有機化合物であればよいが、カールフィッシャー法により測定した溶媒の水分含有量が20ppm以下でなければならない。官能基をもたない有機化合物の溶媒の水分含有量が20ppmを超える場合、溶媒中にフッ素が遊離してくる。水分含有量が20ppmを超える、官能基をもたない有機化合物の溶媒を用いる場合、精密蒸留、またはモレキュラーシーブなどによる脱水方法により、水分含有量が20ppm以下になるまで水分を除去して用いることができる。官能基をもたない有機化合物として具体的には、炭化水素系の有機化合物としてはn−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンなど、塩素系の有機化合物としては四塩化炭素など、フッ素系の有機化合物としてはHFC−365mfc(C)、HFC−43−10mee(C10)、HFC−52−13p(CHF13)、またはHFC−c−447ef(C)などのハイドロフルオロカーボン(HFC)、あるいはHFE−449s1(CO)、HFE−569sf2(CO)、またはHFE−347pc−f(CO)などのハイドロフルオロエーテル(HFE)などが挙げられる。
【0014】
溶媒の水分含有量が20ppm以下であっても、溶媒がエタノール、アセトン、アセトニトリル、DMC(ジメチルカーボネート)などのような官能基をもつ有機化合物の場合、フッ化フラーレンは溶媒と反応し、溶媒中に徐々にフッ素が遊離してくる。また、n−ヘキサン、ベンゼン、HFC−365mfc(C)などの官能基をもたない有機化合物を溶媒に使用しても含有水分量が多いと溶媒中にフッ素が遊離してくる。
【0015】
溶媒にはフッ化フラーレンを、特定の溶解度を持って溶解する溶媒と溶解しない溶媒がある。フッ化フラーレンを溶解する溶媒を用いる場合、溶解度以下に相当する量のフッ化フラーレンを溶媒に入れるとフッ化フラーレンの溶解液となり、溶解度を超えた量のフッ化フラーレンを溶媒に入れると溶解度に相当する量は溶解するが、残りのフッ化フラーレンは溶解しないため、フッ化フラーレンの溶解液および分散液となる。さらに、フッ化フラーレンを溶解しない溶媒を用いる場合、溶媒に入れるフッ化フラーレンの量に限らず、フッ化フラーレンの分散液となる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【実施例】
【0016】
実施例1〜7、及び比較例1〜4
フッ化フラーレンは、フラーレンを200℃にてフッ素ガスと50時間反応させることにより合成した。得られたフッ化フラーレンの組成は、C6044が主成分であった。
得られたフッ化フラーレンC6044を表1に記載した溶媒20ml各々に20mg投入し、5分間超音波を照射して溶解、分散させ溶解液、または分散液を作製した。溶解液、または分散液を作製完了から350時間後、イオンクロマト装置(横河アナリティカルシステムズ製IC7000)によって、フッ化フラーレンから溶媒に遊離したフッ素量を測定した。尚、この測定条件におけるフッ素量の検出限界は0.04wt%である。
【0017】
結果を表1に記載した。表1の実施例1〜7と比較例1〜3より、水分量が20ppmに達しない溶媒の場合は、溶媒に遊離したフッ素量は検出限界の0.04wt%以下で、水分量が20ppmを超えた溶媒の場合は、溶媒に遊離したフッ素量は0.07、0.11、および0.12wt%と検出限界の0.04wt%を超えていた。また、表1の比較例4より、水分量が20ppmに達しない溶媒の場合においても、溶媒が官能基を持つ有機化合物であるDMC(ジメチルカーボネート)の場合、溶媒に遊離したフッ素量は1.05wt%と検出限界の0.04wt%を超えていた。
【0018】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化フラーレンが溶解、または分散している溶液において、その溶媒として、水分含有量が20ppm以下でかつ官能基を持たない有機化合物を使用することを特徴とする、フッ化フラーレンを含有する溶解液、または分散液。


【公開番号】特開2007−254246(P2007−254246A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84410(P2006−84410)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】