説明

フッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルとその製造方法、およびそれを用いた塗料

【課題】分散性の良好なフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルおよびそれを用いた塗料の提供、および生産性の良い簡便な方法で、有機溶剤を分散媒とするフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルを製造する方法の提供。
【解決手段】フッ化マグネシウム粒子が、酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤の存在下で有機溶剤中に分散されているフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルおよび該オルガノゾルとバインダー成分とを含む塗料、並びにマグネシウム塩水溶液にフッ化物水溶液を添加し生成したフッ化マグネシウムゾルを一般的な吸引ろ過や遠心分離などにより洗浄し、得られたペーストまたは粉末を、酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤および有機溶剤と共に分散させることによるフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤を分散媒とするフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルとその製造方法、およびそれを用いた塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイ関連産業の発展と共に、ディスプレイ表面などに使用する透明かつ光機能性を有する薄膜の需要が拡大している。特に、ガラス表面の反射はディスプレイにおける視認性悪化や美観を損ずる要因となり、種々の対策がとられている。
その反射防止対策の一つとして、高屈折率の物質の上に低屈折率の物質を積層することにより、それぞれの物質表面で反射した光の位相差を利用し、低反射を得ることが行われている。
現在、低屈折率膜の形成法としては、化学的に安定かつ屈折率の低い(約1.38)フッ化マグネシウムを蒸着する方法が主流であるが、ディスプレイの大画面化に伴いコストや作業性の面で限界が見え始めている。このような問題点を回避するために、現在は従来の蒸着法ではなく、生産性のよいコーティング法が用いられるようになってきている。
【0003】
コーティング法では、フッ化マグネシウムのような低屈折率微粒子のゾルが用いられる。フッ化マグネシウムのゾルとしては、マグネシウム塩水溶液にフッ化物水溶液を添加して生成したフッ化マグネシウムゲルを洗浄・濃縮して得られる水性ゾルや、水性ゾルを有機溶剤へ転相して得られるオルガノゾルが知られている(特許文献1、2参照)。しかし、これらのゾルの製造方法では、限外ろ過を用いて洗浄・濃縮を行っており、ゾル中のフッ化マグネシウム濃度に限界があるだけでなく、生産性に問題を抱えている。さらに、オルガノゾルは、フッ化マグネシウム粒子表面は親水性が高いため、アルコールなどの水混和性有機溶剤を分散媒体とするオルガノゾルとしてのみ得ることができる。
【0004】
したがって、バインダー成分などと混合して塗料を得る際に、水混和性有機溶剤と相溶性の良いバインダー成分に限定されると言った問題が生じる。また、限外ろ過など生産性の悪い工程を含まない方法も提案されているが、同じく水混和性有機溶剤を分散媒とするオルガノゾルにとどまっている。
これらの課題を解決するために、フッ化マグネシウム微粒子粉末を、樹脂型顔料分散剤を用いて有機溶剤へ分散する方法も開発されている(特許文献3参照)。しかし、用いられている樹脂型顔料分散剤は塩基性であり、分散性の良好なフッ化マグネシウム粒子の分散体は得られていない。
【特許文献1】特開平7−69621号公報
【特許文献2】特開平2−26824号公報
【特許文献3】特開平10−732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、分散性の良好なフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルおよびそれを用いた塗料を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、生産性の良い簡便な方法で、有機溶剤を分散媒とするフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルは、フッ化マグネシウム粒子が、酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤の存在下で有機溶剤中に分散されていることを特徴とする。
また、本発明の塗料は、フッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルと、バインダー成分とを含むことを特徴とする。
また、本発明のフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルの製造方法は、下記(a)工程、(b)工程及び(c)工程を有する、または下記(a)工程、(b)工程、(d)工程及び(c')工程を有することを特徴とする。
(a)工程:マグネシウム塩水溶液とフッ化物水溶液とを混合してフッ化マグネシウム粒子の凝集体スラリーを得る工程。
(b)工程:(a)工程で得られたフッ化マグネシウム粒子の凝集体スラリー中の、未反応物および副生成物のイオン種を除去し、フッ化マグネシウム粒子のペーストを得る工程。
(c)工程:(b)工程で得られたフッ化マグネシウム粒子のペーストに、樹脂型顔料分散剤および有機溶剤を添加し、分散する工程。
(d)工程:(b)工程で得られたフッ化マグネシウム粒子のペーストから水を除去し、フッ化マグネシウムの粉末を得る工程。
(c')工程:(d)工程で得られたフッ化マグネシウム粒子の粉末に、樹脂型顔料分散剤および有機溶剤を添加し、分散する工程。
【発明の効果】
【0007】
本発明のフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルは、フッ化マグネシウム粒子が酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤の存在下で有機溶剤中に分散されているため、分散性が良好である。また、本発明のフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルは、酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤を用いることにより、水混和性の有機溶剤ばかりでなく非水混和性の有機溶剤も分散媒とすることができるため、様々な疎水性バインダー成分との安定な混和が可能である。
また、本発明のフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルの製造方法は、限外ろ過などを用いての濃縮工程がないために、簡便に高濃度のフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルを合成することが可能であり、コストや生産性の点で優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
まず、本発明のフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルについて説明する。
本発明のフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルは、フッ化マグネシウム粒子が、酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤の存在下で、有機溶剤中に分散されている。
フッ化マグネシウム粒子は、反射防止膜のフィラーとして用いる場合には、一次粒子径が10〜100nmのものが好ましい。
本発明における有機溶剤としては、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、炭化水素系溶剤、ハロゲン系溶剤などの中から、要求に応じて1種類を単独で、あるいは2種以上を混合して使用できる。特に、本発明のフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルは、水混和性の有機溶剤だけでなく非水混和性の有機溶剤も分散媒とできる点で、従来のフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルとは大きく異なっている。
【0009】
非水混和性の有機溶剤とは、水にほとんど溶解しない有機溶剤であり、例えば、ケトン系溶剤として、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン;アルコール系溶剤として、イソペンチルアルコール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール;炭化水素系溶剤として、トルエン、キシレン、ノルマルヘキサン;エステル系溶剤として、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソペンチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸ペンチル;ハロゲン系溶剤として、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロルエタン、1,2−ジクロルエチレン、1,1,1−トリクロルエタン、1,1,2,2−テトラクロルエタン、トリクロルエチレン、テトラクロルエチレン、クロルベンゼン、ジクロルメタン、ジクロルベンゼン等が挙げられる。これらの溶剤は、要求に応じて、1種類を単独で、あるいは2種以上を混合して使用できる。
【0010】
本発明における酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤は、樹脂構造中にフッ化マグネシウム粒子表面に対する親和性の高い酸性官能基と、有機溶剤やバインダー成分に対する親和性の高い部位とを持ち、分子量が重量平均で1000〜1000000程度の重合体である。
酸性官能基は、塩基性を示すフッ化マグネシウム粒子の表面に対して強い吸着力を有し、フッ化マグネシウム粒子表面に効率的に吸着する。酸性官能基としては、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等が挙げられる。
一方、有機溶剤やバインダー成分に対する親和性の高い部位としては、例えば、アルキル鎖や芳香環などの、一般的に炭化水素で構成される疎水性を有する部位が挙げられる。
【0011】
酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤の基本構造は、特に制限はないが、一般的な樹脂、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。
市販されている酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤としては、例えば、ソルスパース3000、ソルスパース21000、ソルスパース26000、ソルスパース36600、ソルスパース41000、(アビシア社製);ディスパービック108、ディスパービック110、ディスパービック111、ディスパービック112、ディスパービック116、ディスパービック142、ディスパービック180、ディスパービック2000、ディスパービック2001、(ビックケミー社製);ディスパロン3600N、ディスパロン1850(楠本化成社製);PA111(味の素ファインテクノ社製);EFKA4401、EFKA4550(エフカ アディティブズ社製)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
本発明のフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルを含む塗料から形成される塗膜の屈折率を下げるために、酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤として、フッ素原子を有する酸性樹脂型顔料分散剤を使用することが好ましい。フッ素原子を有する酸性樹脂型顔料分散剤としては、例えば、炭素数1〜20のフルオロアルキル基を有するフルオロアルキル(メタ)アクリレート類と、酸性官能基を有するエチレン性不飽和モノマーと、必要に応じて他のエチレン性不飽和モノマーとを共重合してなるアクリル樹脂が挙げられる。
【0013】
炭素数1〜20のフルオロアルキル基を有するフルオロアルキル(メタ)アクリレート類としては、例えば、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、3−(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロ−3−メチルブチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)エチル(メタ)アクリレート、1H、1H、3H−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H、1H、5H、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H、1H、7H−ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、1H、1H、9H−ヘキサデカフルオロノニル(メタ)アクリレート、1H−1−(トリフルオロメチル)トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H、1H、3H−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0014】
酸性官能基を有するエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、カルボキシル基を有するものとしてアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等;リン酸基を有するものとしてメタクリロイルエチルホスフェート等;スルホン基を有するものとしてスチレンスルホン酸等が挙げられる。
他のエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、エチレン、スチレン、プロピレン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル等が挙げられる。
【0015】
本発明のフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルにおける酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤の含有量は、フッ化マグネシウム粒子の重量を基準として1〜100重量%であることが好ましく、5〜40重量%であることがより好ましい。酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤の含有量が1重量%より少ないと、分散不良を起こしやすく、100重量%より多いと、フッ化マグネシウム粒子の濃度が低下してしまうためである。
【0016】
次に、本発明のフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルの製造方法について説明する。
本発明のフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルの製造方法は、マグネシウム塩水溶液にフッ化物水溶液を添加し、生成したフッ化マグネシウム粒子の凝集体スラリーを一般的な吸引ろ過や遠心分離などにより洗浄し、得られたフッ化マグネシウム粒子のペーストまたは粉末を、酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤の存在下で有機溶剤中に分散させることを特徴とする。
【0017】
すなわち、本発明のフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルの製造方法は、下記(a)工程、(b)工程及び(c)工程を有する、または下記(a)工程、(b)工程、(d)工程及び(c')工程を有する。
(a)工程:マグネシウム塩水溶液とフッ化物水溶液とを混合してフッ化マグネシウム粒子の凝集体スラリーを得る工程。
(b)工程:(a)工程で得られたフッ化マグネシウム粒子の凝集体スラリー中の、未反応物および副生成物のイオン種を除去し、フッ化マグネシウム粒子のペーストを得る工程。
(c)工程:(b)工程で得られたフッ化マグネシウム粒子のペーストに、樹脂型顔料分散剤および有機溶剤を添加し、分散する工程。
(d)工程:(b)工程で得られたフッ化マグネシウム粒子のペーストから水を除去し、フッ化マグネシウムの粉末を得る工程。
(c')工程:(d)工程で得られたフッ化マグネシウム粒子の粉末に、樹脂型顔料分散剤および有機溶剤を添加し、分散する工程。
フッ化マグネシウムの一次粒子径は、電子顕微鏡(SEM)で観察すると、10〜100nmである。(d)工程で得られたフッ化マグネシウム粒子の粉末の示唆熱分析を行うと、5〜20重量%の結晶水を含有するものである。
【0018】
本発明に使用されるマグネシウム塩は、水に可溶の塩であり、例えば、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、スルファミン酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、蟻酸マグネシウム等、クエン酸マグネシウム、安息香酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウムなどが挙げられる。マグネシウム塩は、1種を単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
また、本発明に使用されるフッ化物は、水に可溶な塩であり、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、フッ化ルビジウム、フッ化アンモニウム、フッ化グアニジン、フッ化第4級アンモニウム、酸性フッ化アンモニウム、フッ化水素などが挙げられる。フッ化物は、1種を単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0019】
本発明における(a)工程では、マグネシウムイオンとフッ化物イオンのモル比は特に限定しないが、効率良くフッ化マグネシウム粒子を製造するためには化学量論比付近が好ましい。具体的には、マグネシウムイオン/フッ化物イオンの値が、1.5〜2.5が好ましい。また、マグネシウム塩水溶液とフッ化物水溶液の混合方法は特に限定はしないが、マグネシウム塩水溶液へフッ化物水溶液を添加する方法が好ましい。なぜなら、フッ化物水溶液へマグネシウム塩水溶液を添加する方法では、得られるフッ化マグネシウム粒子の大きさが不均一になりやすいためである。さらに、上記と同様な理由により、一気に混合するよりもゆっくり滴下する方が好ましい。反応は、0〜100℃で行うことができるが、40〜60℃が好ましい。40℃より低いと、結晶水が多いフッ化マグネシウムが生成し、フッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルを塗料化し塗膜にした場合、塗膜の白化原因となりやすく、60℃より高いと、フッ化マグネシウムの粒子径が大きくなってしまうためである。また、滴下時間は、0.1〜10時間が好ましい。0.1時間より短いと、反応が不均一になりやすく、10時間より長いと、生産性が悪くなるためである。(a)工程で生成するフッ化マグネシウム粒子の凝集体スラリーにおけるフッ化マグネシウム粒子の濃度は、凝集体スラリーの重量を基準として0.1〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.5〜5重量%である。フッ化マグネシウム粒子の濃度が0.1重量%より低いと製造効率が悪くなり、10重量%より高いと均一なフッ化マグネシウム粒子が得られにくいためである。
【0020】
本発明における(b)工程は、(a)工程で得られたフッ化マグネシウム粒子の凝集体スラリー中の、未反応物および副生成物のイオン種を除去し、フッ化マグネシウム粒子のペーストを得る工程である。未反応物および副生成物のイオン種を除去する方法としては、吸引ろ過、加圧ろ過、遠心分離などが用いられるが、これに限定されるものではない。さらに、洗浄後の廃液の伝導度は1.0mS/cm以下となることが好ましい。1.0mS/cmを超える場合、分散時に未反応物および副生成物のイオン種が分散阻害を起こすためである。
【0021】
本発明における(c)工程は、(b)工程で得られたフッ化マグネシウム粒子のペーストに、酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤および有機溶剤を添加し、分散する工程である。使用する分散機としては、ペイントコンディショナー(レッドデビル製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノーミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル、ホモミキサー、ホモジナイザー(エム・テクニック社製「クレアミックス」等)、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)等が挙げられる。また、フッ化マグネシウム粒子のペーストと酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤のみで、アトライターや2本ロール等の乾式処理を行った後、有機溶剤を添加し、上記分散機で分散してもよい。さらに、分散機にメディアを用いる場合には、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ、磁性ビーズ、スチレンビーズ等を用いることが好ましい。
【0022】
本発明における(d)工程は、(b)工程で得られたフッ化マグネシウム粒子のペーストから水を除去し、フッ化マグネシウムの粉末を得る工程である。フッ化マグネシウム粒子のペーストから水を除去し粉末を得る方法としては、オーブンを用いた熱乾燥や減圧乾燥が挙げられる。乾燥凝集をできるだけ防ぐためには40〜90℃の減圧乾燥が好ましい。さらに、乾燥温度を低くするために、フッ化マグネシウム粒子のペースト中に含有する水分をメタノール、エタノール、アセトンなどの親水性かつ低沸点有機溶剤に置換することもできる。また、乾燥凝集を抑制するため、スプレードライヤーなどの乾燥装置を用いることも好ましい。
本発明における(c')工程は、(d)工程で得られたフッ化マグネシウム粒子の粉末に、酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤および有機溶剤を添加し、分散する工程である。分散方法は、(c)工程と同様の方法を用いることができる。
【0023】
最後に、本発明の塗料について説明する。
本発明の塗料は、本発明のフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルと、バインダー成分とを含むものである。
本発明における塗料を構成するバインダー成分としては、被膜を形成し得る従来公知のバインダー成分であれば使用可能であり、例えば、塗料用樹脂、重合性モノマー、加水分解性の有機金属化合物、ケイ酸ソーダ等のケイ酸液などが挙げられる。これらのバインダー成分は1種を単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
塗料用樹脂としては、特に制限はないが、一般的な樹脂、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ブチラール樹脂、酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。塗膜の屈折率を下げるために、フッ素原子を含む樹脂が好ましい。
【0024】
重合性モノマーとしては、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの重合を行えるものであれば特に限定はなく、例えば、スチレン、メチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレートなどの非イオン性モノマー、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、o−およびp−スチレンスルホネート、およびこれらの塩などのアニオン性モノマー、N−(3−アクリルアミドプロピル)アンモニウムメタクリレート、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)−N、1、2−ジメチル−5−ビニルピリジニウムメトスルフェート、およびこれらの塩などのカチオン性モノマー、ジビニルベンゼン、エチレンジアクリレート、N、N−メチレンビスアクリルアミドなどの架橋モノマーが挙げられる。塗膜の屈折率を下げるためには、フッ素原子を含むモノマーを用いることが好ましい。
【0025】
加水分解性の有機金属化合物としては、一般式R1nMm(OR2m-n[式中、R1、R2:アルキル基、アリール基、ビニル基、アクリル基などの炭化水素基、M:金属原子、m=元素の配位数、n=0、1、2、または3]で表されるケイ素、チタニウム、ジルコニウム、アルミニウムなどのアルコキシド、またはその誘導体を用いることができる。加水分解性の有機金属化合物としては、特に、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどの有機ケイ素化合物が好ましい。
【0026】
本発明における塗料には、粘度や固形分量を調整するために、有機溶剤を添加することができる。有機溶剤は、塗料中に含まれるフッ化マグネシウムのオルガノゾルの分散媒である有機溶剤や、バインダー成分との相溶性を考えて選択することができる。有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、ハロゲン系溶剤、炭化水素溶剤などが挙げられる。これらの有機溶剤は、要求に応じて1種類を単独で、あるいは2種以上を混合して使用できる。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。実施例中、部および%は、重量部および重量%を表す。また、重合体の重量平均分子量は、GPC(ポリスチレン換算)で測定した。
【0028】
(実施例1)
酢酸マグネシウム4水和物825.72部を純水3200部に溶解して酢酸マグネシウム水溶液を調整した。一方、フッ化アンモニウム284.47部を純水3200部に溶解してフッ化アンモニウム水溶液を調整した。上記酢酸マグネシウム水溶液をステンレス製容器に仕込み、液温を50℃に上昇させた後、適度な攪拌下で上記フッ化アンモニウム水溶液を3時間かけて滴下した。この反応における酢酸マグネシウムとフッ化アンモニウムのモル比は1:2である。滴下終了後、さらに1時間攪拌し、フッ化マグネシウム凝集体スラリーを得た。得られたフッ化マグネシウム凝集体スラリーを吸引ろ過した後、得られたフッ化マグネシウムの水ウェットケーキを純水3000部にリスラリーし再び吸引ろ過する作業を、ろ液の伝導度が<500μS/cmになるまで繰り返し行った。その後、得られたフッ化マグネシウムの水ウェットケーキを90℃下で減圧乾燥し、フッ化マグネシウムの粉末240部を得た。このフッ化マグネシウムの粉末は、電子顕微鏡(SEM)で観察すると、一次粒子が10〜30nmであった。また、示差熱分析の結果、約10%の結晶水を含有していた。
【0029】
次に、得られたフッ化マグネシウムの粉末 10部、酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤(ビックケミー社製「ディスパービック111」)3部、メチルイソブチルケトン12部、ジルコニアビーズ(直径1.25mm)70部を70mLサンプル瓶へ仕込み、ペイントシェーカーで2時間分散した。得られたフッ化マグネシウム粒子のメチルイソブチルケトンゾルは、若干青白色のほぼ透明なゾルであった。得られたゾルの平均粒子径を、粒度分布計(日機装社製「Microtrac」)で測定した。結果を表1に示す。
さらに、得られたフッ化マグネシウムのメチルイソブチルケトンゾル10部、重合性モノマー(日本合成化学社製「紫光UV1700B」)2部、光重合開始剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製「イルガキュア184」)0.1部、およびメチルイソブチルケトン2部を混合し、塗料化した。得られた塗料を、100μmのコロナ処理ポリエチレンテレフタレートフィルム上に、#16バーコーターにより塗工し、80℃オーブンにて1分間乾燥後、紫外線照射機(高圧水銀ランプ使用、積算光量:288mJ/m2)にて露光し塗膜を得た。
得られた塗膜のヘイズをヘイズメーター(日本電色工業社製「NDH2000」)で測定し、屈折率をアッベ屈折率計(アタゴ社製「NAR−1T」)で測定した。結果を表1に示す。
【0030】
(実施例2)
実施例1で得られたフッ化マグネシウムの水ウェットケーキを、メタノール3000部にリスラリーし吸引ろ過し、フッ化マグネシウムのメタノールウェットケーキを得た。さらに、このフッ化マグネシウムのメタノールウェットケーキをメチルイソブチルケトン3000部にリスラリーし吸引ろ過し、フッ化マグネシウムのメチルイソブチルケトンウェットケーキを得た。このフッ化マグネシウムのメチルイソブチルケトンウェットケーキ中の固形分は50%であった。
次に、得られたフッ化マグネシウムのメチルイソブチルケトンウェットケーキ20部、酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤(ビックケミー社製「ディスパービック111」)3部、メチルイソブチルケトン10部、ジルコニアビーズ(直径1.25mm)70部を70mLサンプル瓶へ仕込み、ペイントシェーカーで2時間分散した。得られたフッ化マグネシウム粒子のメチルイソブチルケトンゾルは、若干青白色のほぼ透明なゾルであった。得られたゾルの分散粒子径を、実施例1と同様の方法を用いて測定した。結果を表1に示す。
さらに、得られたゾルを用いて、実施例1と同様な方法で塗料化および塗膜の形成を行い、得られた塗膜の物性を実施例1と同様な方法で測定した。結果を表1に示す。
【0031】
(実施例3)
メチルイソブチルケトンの代わりに、トルエンを使用した以外は、実施例1と同様にして、フッ化マグネシウム粒子のトルエンゾルを得た。得られたフッ化マグネシウム粒子のトルエンゾルは、若干青白色の半透明なゾルであった。
さらに、得られたゾルを用いて、実施例1と同様な方法で塗料化および塗膜の形成を行い、得られた塗膜の物性を実施例1と同様な方法で測定した。結果を表1に示す。
【0032】
(実施例4)
メチルイソブチルケトンの代わりに、酢酸イソブチルを使用した以外は、実施例1と同様にして、フッ化マグネシウム粒子の酢酸イソブチルゾルを得た。得られたフッ化マグネシウム粒子の酢酸イソブチルゾルは、若干青白色の半透明なゾルであった。
さらに、得られたゾルを用いて、実施例1と同様な方法で塗料化および塗膜の形成を行い、得られた塗膜の物性を実施例1と同様な方法で測定した。結果を表1に示す。
【0033】
(実施例5)
酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤として、ビックケミー社製「ディスパービック111」の代わりに、アビシア社製「ソルスパース3000」を使用した以外は、実施例1と同様にして、フッ化マグネシウム粒子のメチルイソブチルケトンゾルを得た。得られたフッ化マグネシウム粒子のメチルイソブチルケトンゾルは、若干青白色のほぼ透明なゾルであった。
さらに、得られたゾルを用いて、実施例1と同様な方法で塗料化および塗膜の形成を行い、得られた塗膜の物性を実施例1と同様な方法で測定した。結果を表1に示す。
【0034】
(実施例6)
酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤として、ビックケミー社製「ディスパービック111」の代わりに、味の素ファインテクノ社製「PA111」)を使用した以外は、実施例1と同様にして、フッ化マグネシウム粒子のメチルイソブチルケトンゾルを得た。得られたフッ化マグネシウム粒子のメチルイソブチルケトンゾルは、若干青白色の半透明なゾルであった。
さらに、得られたゾルを用いて、実施例1と同様な方法で塗料化および塗膜の形成を行い、得られた塗膜の物性を実施例1と同様な方法で測定した。結果を表1に示す。
【0035】
(実施例7)
実施例1で得られたゾルを用いて、重合性モノマーとして、「紫光UV1700B」の代わりに、1H、1H、7H−ドデカフルオロヘプチルメタクリレートを使用した以外は、実施例1と同様な方法で塗料化および塗膜の形成を行い、得られた塗膜の物性を実施例1と同様な方法で測定した。結果を表1に示す。
【0036】
(実施例8)
酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤として、ビックケミー社製「ディスパービック111」の代わりに、下記フッ素原子を有する樹脂型顔料分散剤Aを使用した以外は、実施例1と同様にして、フッ化マグネシウム粒子のメチルイソブチルケトンゾルを得た。得られたフッ化マグネシウム粒子のメチルイソブチルケトンゾルは、若干青白色のほぼ透明なゾルであった。
さらに、得られたゾルを用いて、実施例1と同様な方法で塗料化および塗膜の形成を行い、得られた塗膜の物性を実施例1と同様な方法で測定した。結果を表1に示す。
樹脂型顔料分散剤Aの合成
1H、1H、7H−ドデカフルオロヘプチルメタクリレート90部、アクリル酸10部、メチルイソブチルケトン200部を冷却管、攪拌装置、温度計を備えた4つ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら100℃まで昇温してアゾビスイソブチロニトリル4部を加えて2時間重合反応を行い、さらにアゾビスイソブチロニトリル1部を加えて2時間重合を行い、樹脂型顔料分散剤A溶液を得た。樹脂型顔料分散剤Aの重量平均分子量は10,000であり、屈折率は約1.37であった。
【0037】
(実施例9)
実施例8で得られたゾルを用いて、重合性モノマーとして、「紫光UV1700B」の代わりに、1H、1H、7H−ドデカフルオロヘプチルメタクリレートを使用した以外は、実施例1と同様な方法で塗料化および塗膜の形成を行い、得られた塗膜の物性を実施例1と同様な方法で測定した。結果を表1に示す。
【0038】
(比較例1)
酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤(ビックケミー社製「ディスパービック111」)の代わりに、塩基性官能基を有する樹脂型顔料分散剤(ビックケミー社製「ディスパービック160」)を使用した以外は、実施例1と同様にして、フッ化マグネシウム粒子のメチルイソブチルケトンゾルを得た。得られたフッ化マグネシウム粒子のメチルイソブチルケトンゾルは、白色の半透明な高粘度ゾルであった。
さらに、得られたゾルを用いて、実施例1と同様な方法で塗料化および塗膜の形成を行い、得られた塗膜の物性を実施例1と同様な方法で測定した。結果を表1に示す。
【0039】
(比較例2)
酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤(ビックケミー社製「ディスパービック111」)の代わりに、中性の樹脂型顔料分散剤(味の素ファインテクノ社製「PN411」)を使用した以外は、実施例1と同様にして、フッ化マグネシウム粒子のメチルイソブチルケトンゾルを得た。得られたフッ化マグネシウム粒子のメチルイソブチルケトンゾルは、白色の半透明なゾルであった。
さらに、得られたゾルを用いて、実施例1と同様な方法で塗料化および塗膜の形成を行い、得られた塗膜の物性を実施例1と同様な方法で測定した。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化マグネシウム粒子が、酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤の存在下で有機溶剤中に分散されていることを特徴とするフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾル。
【請求項2】
酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤が、フッ素原子を有する酸性樹脂型顔料分散剤であることを特徴とする請求項1記載のフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾル。
【請求項3】
酸性官能基を有する樹脂型顔料分散剤の含有量が、フッ化マグネシウム粒子の重量を基準として1〜100重量%であることを特徴とする請求項1または2記載のフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾル。
【請求項4】
有機溶剤が非水混和性であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載のフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾル。
【請求項5】
下記(a)工程、(b)工程及び(c)工程を有するフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルの製造方法。
(a)工程:マグネシウム塩水溶液とフッ化物水溶液とを混合してフッ化マグネシウム粒子の凝集体スラリーを得る工程、
(b)工程:(a)工程で得られたフッ化マグネシウム粒子の凝集体スラリー中の、未反応物および副生成物のイオン種を除去し、フッ化マグネシウム粒子のペーストを得る工程、
(c)工程:(b)工程で得られたフッ化マグネシウム粒子のペーストに、樹脂型顔料分散剤および有機溶剤を添加し、分散する工程。
【請求項6】
下記(a)工程、(b)工程、(d)工程及び(c')工程を有するフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルの製造方法。
(a)工程:マグネシウム塩水溶液とフッ化物水溶液とを混合してフッ化マグネシウム粒子の凝集体スラリーを得る工程、
(b)工程:(a)工程で得られたフッ化マグネシウム粒子の凝集体スラリー中の、未反応物および副生成物のイオン種を除去し、フッ化マグネシウム粒子のペーストを得る工程、
(d)工程:(b)工程で得られたフッ化マグネシウム粒子のペーストから水を除去し、フッ化マグネシウムの粉末を得る工程、
(c')工程:(d)工程で得られたフッ化マグネシウム粒子の粉末に、樹脂型顔料分散剤および有機溶剤を添加し、分散する工程。
【請求項7】
請求項1ないし4いずれか記載のフッ化マグネシウム粒子のオルガノゾルと、バインダー成分とを含むことを特徴とする塗料。

【公開番号】特開2006−160585(P2006−160585A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−357991(P2004−357991)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】