説明

フッ化水素を含む化合物中の水分量の測定方法及び装置

【課題】 本発明の課題は、フッ化水素を含む化合物中の水分量を精度よく定量できる水分量の測定方法を提供することである。
【解決手段】 一般式:XF・nHF(ただし、X:K、NH、Na、Liのいずれか1種類、n>0の有理数、を示す。)で表されるフッ化水素を含む化合物を加熱分解し、発生するガス中の水分中の水分量を定量することにより、該化合物中の水分量を求めることを特徴とするフッ化水素を含む化合物の水分量の測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化水素を含む化合物中の水分量を定量する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に物質中の水分の定量方法として、固体試料では水の沸点(100℃)よりやや高い温度、例えば100〜110℃などで加熱し、重量減少量から水分量を求める加熱法や、モレキュラーシーブスやシリカゲル、塩化カルシウムなどの水分の吸着剤と共にデシケーター中に保存乾燥し、上記の吸着剤の重量増加量より水分量を求める乾燥法などがある(非特許文献1)。また、固体及び液体中の水分量の測定ではカールフィッシャー法、気体中の水分量の測定では赤外分光光度計を用いる方法、液体中の水分量の測定では電気伝導率を測定する方法などが広く用いられている。そのカールフィッシャー法の原理はメタノールなどの低級アルコール及び、ピリジンなどの有機塩基の存在で水が下記反応式(1)のように定量的に反応することを利用し、さらに沃化物イオンを含む電解液中で電解により反応式(2)のように沃素イオンから沃素を生成させ、検出電極で沃素が消費されたことを検出し、反応式(1)よりHOとIの反応が1:1の反応であることから電解に要した電気量より定量している。
【0003】
+SO+2HO+CHOH+3CN→3CN・HI+CN・HSOCH ・・・(1)
2I → I+2e ・・・(2)
また赤外吸光光度計を用いた方法ではO−H伸縮振動による3000〜4000cm−1付近の吸収、H−O−H変角振動による1500〜1700cm−1の吸収を検出して定量可能である。電気伝導率を測定する方法として、例えば、無水フッ化水素酸中の水分の定量方法(0.01〜0.4%)は国際標準化機構(ISO)によって、白金電極間の電気伝導率を測定して含有する水分の定量方法が定められている(非特許文献2)。その他の方法としては、SF中の水分の分析方法として電極間の電気伝導率を測定することで水分量の分析を実施できることが報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−308502号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】水分の定量(東京化学同人、第1版、P16)
【非特許文献2】Draft. International Standard., ISO/DIS 3700.2(1978)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし上記の方法を、フッ化水素を含む化合物中の水分量の定量に用いた場合、[1]カールフィッシャー法では、該化合物がカールフィッシャー液中に溶解が困難な為、水分気化法を用いることが考えられるが、この方法では、フッ化水素とカールフィッシャー液中の沃素が反応する、[2]赤外吸光光度計を用いる場合ではフッ化水素と水のO−H伸縮振動による3000〜4000cm−1付近の吸収のピーク位置が重なる、[3]電気伝導率を測定する方法では化合物中の不純物の影響を受けるなど、それぞれ妨害要素がある為、精度よく水分量を定量することが困難である。したがって、フッ化水素を含む化合物中の水分量を精度よく定量できる方法は報告されていない。
【0007】
従って、本発明の目的はフッ化水素を含む化合物中の水分量を精度よく定量する方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はフッ化水素を含む化合物を加熱分解し、発生するガス中の水分量を分析することで、フッ化水素を含む化合物中の水分量を定量できることを見出し、本発明に到ったものである。
【0009】
すなわち、一般式:XF・nHF(ただし、X:K、NH、Na、Liのいずれか1種類、n>0の有理数、を示す。)で表されるフッ化水素を含む化合物を加熱分解し、発生するガス中の水分量を定量することにより、該化合物中の水分量を求めることを特徴とするフッ化水素を含む化合物の水分量の測定方法を提供するものである。
【0010】
さらには、該加熱分解により発生するガスを冷却して液体にした後、該液体の電気伝導率の測定を行なうことにより該ガス中の水分量を定量すること、または、該加熱分解により発生するガスを塩基で中和した後に、該塩基の水分量をカールフィッシャー法により定量すること、を特徴とするフッ化水素を含む化合物の水分量の測定方法を提供するものである。
【0011】
また、一般式:XF・nHF(ただし、X:K、NH、Na、Liのいずれか1種類、n>0の有理数、を示す。)で表されるフッ化水素を含む化合物の加熱分解部と、該加熱分解部より排出されるガス中のフッ化水素を捕集するための冷却トラップを有する捕集部と、該捕集部で捕集されたフッ化水素中の水分量を測定する水分量測定器を有する測定部と、を備え、該加熱分解部は、加熱手段を有する反応器と、フッ化水素を含む化合物を該反応器内に導入する導入口と、該反応器内で加熱分解により発生するガスを排出する排出口と、を有し、該冷却トラップは、該反応器の排出口より排出されるガスを内部に導入する導入口と、捕集したフッ化水素を排出する排出口と、を有し、該水分量測定器は、水分量の測定手段と、該冷却トラップの排出口より排出される捕集されたフッ化水素を該水分量の測定手段に導入する導入口と、を有し、該加熱分解部の排出口と該冷却トラップの導入口を接続する通路と、該冷却トラップの排出口と該水分量測定器の導入口を接続する通路と、を有し、該加熱分解部の排出口と該冷却トラップの導入口を接続する通路は、圧力測定手段を備えることを特徴とする、フッ化水素を含む化合物の水分量測定装置、
または、一般式:XF・nHF(ただし、X:K、NH、Na、Liのいずれか1種類、n>0の有理数、を示す。)で表されるフッ化水素を含む化合物の加熱分解部と、該加熱分解部より排出されるガス中のフッ化水素を捕集するための冷却トラップを有する捕集部と、該捕集部で捕集されたフッ化水素を中和する中和槽を有する中和部と、該中和部での中和処理後に水分量を測定する水分量測定器を有する測定部と、を備え、該加熱分解部は、加熱手段を有する反応器と、フッ化水素を含む化合物を該反応器内に導入する導入口と、該反応器内で発生するガスを排出する排出口と、を有し、該冷却トラップは、該反応器の排出口より排出されるガスを内部に導入する導入口と、捕集したフッ化水素を排出する排出口と、を有し、該中和槽は、内部にフッ化水素を中和する中和剤と、該冷却トラップの排出口より排出されるフッ化水素を導入する導入口と、フッ化水素を中和した中和剤を排出する排出口と、を有し、該水分量測定器は、水分量の測定手段と、該中和槽の排出口より排出されるフッ化水素を中和した中和剤を該水分量の測定手段に導入する導入口と、を有し、該加熱分解部の排出口と該冷却トラップの導入口を接続する通路と、該冷却トラップの排出口と該中和槽の導入口を接続する通路と、該中和槽の排出口と該水分量測定器の導入口を接続する通路と、を有し、該加熱分解部の排出口と該冷却トラップの導入口を接続する通路は、圧力測定手段を備えることを特徴とする、フッ化水素を含む化合物の水分量測定装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、フッ化水素を含む化合物中の水分量を精度よく定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施の形態に係る水分量測定装置の概略図である。
【図2】第2の実施の形態に係る水分量測定装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、発明をさらに詳述する。
【0015】
加熱分解時の加熱温度は、一般式:XF・nHF(ただし、X:K、NH、Na、Liのいずれか1種類、n>0の有理数、を示す。)で表されるフッ化水素を含む化合物中の水分を完全に揮発させるため、水の沸点以上またはフッ化水素を含む化合物の分解温度以上であることが好ましい。例えば上記一般式:XF・nHFの、XがKの場合、KF・HFの分解温度である220 ℃以上、XがNaの場合、NaF・HFの分解温度である270℃以上、XがNHの場合、NHF・HFの分解温度である150℃以上、XがLiの場合、LiF・HFの分解温度である20℃以上の温度で加熱することが好ましい。更に加熱温度が、分解温度付近では分解速度が遅いため分解効率が悪くなる虞があり、また高すぎると加熱分解を行なう容器の材料を侵す虞があるため、上記一般式:XF・nHFのXがK、Na、Liのいずれか1種類の場合は、400〜500℃、上記一般式:XF・nHFのXがNHの場合は、200℃〜300℃の範囲で加熱することが更に好ましい。
【0016】
加熱分解により発生するガスを冷却して液体にするためには、フッ化水素の融点(19℃)以下に冷却する必要がある。加熱分解により固相と気相に分解する場合(上記一般式:XF・nHFのXがK、Na、Liのいずれか1種類の場合)、固体と発生するガスを分離する必要があるが、不活性ガスをキャリヤガスとして用いることにより該気相部のガスを取り出し分離することができる。この場合、水分量を精度よく定量するためには水分管理されたキャリヤガスを使用する必要があることから、該気相部のガスを効率よく分離するためには、捕集トラップ等で加熱分解により発生するガスを冷却捕集することで該気相部のガスを取り出すことが好ましい。冷却捕集する場合、加熱分解により発生するガスが液体で捕集されると液状に捕集されたフッ化水素は蒸気圧を持つため、捕集効率を考慮すると、凝固点(−84℃)以下の温度で冷却捕集することにより固体の状態で捕集することが好ましい。加熱分解により発生するガスを固体の状態で捕集する場合、フッ化水素の融点(19℃)以下まで昇温して液体の状態にできる。
【0017】
加熱分解により発生するガス中の水分量を定量する方法として、電気伝導率を測定する方法、カールフィッシャー法を用いる方法などの公知の水分量の測定方法を用いることができる。
【0018】
加熱分解により発生するガス中の水分量を定量する方法として、電気伝導率を測定する方法を用いる場合、気体での電気伝導率の測定が困難であるため液体で電気伝導率を測定する必要がある。このため、加熱分解により発生するガスを液体にする必要がある。液体にする方法としては、上記の方法を用いることが好ましい。
【0019】
電気伝導率の測定で得られた加熱分解により発生するガス中の水分量の測定結果を、水分量の測定に用いたフッ化水素を含む化合物の質量と加熱分解により発生するガスを除いた残りの固体の質量との差に乗ずることで、フッ化水素を含む化合物中の水分量に換算できる。具体的には、以下に換算式(1)を示す。
【0020】
加熱分解により発生するガス中の水分量の測定値×(水分量の測定に用いたフッ化水素を含む化合物の質量−加熱分解により発生するガスを除いた残りの固体の質量) ・・・(1)
加熱分解により発生するガス中の水分量を定量する方法として、カールフィッシャー法を用いる場合、加熱分解により発生するガスを塩基で中和した後に、カールフィッシャー法で測定する必要がある。中和は、加熱分解により発生するガスの全量を塩基と反応させることが必要である。
【0021】
中和に用いる塩基として有機塩基が好ましく、特に、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ビピリジン、トリピリジンなどのアミン類がより好ましい。また有機塩基としてアミン類を用いる場合、加熱分解により発生するガスの全量に対して1モル等量以上のアミン類を用いることが好ましく、1モル等量未満では十分に中和が行なわれない可能性があるため、後の水分測定で誤差を生じる虞がある。
【0022】
カールフィッシャー法で得られた加熱分解により発生するガス中の水分量の測定結果を、中和に用いた塩基の質量より水分量の測定に用いたフッ化水素を含む化合物の質量と加熱分解により発生するガスを除いた残りの固体の質量とを差し引いた値に乗ずることで、フッ化水素を含む化合物中の水分量に換算できる。具体的には、以下に換算式(2)を示す。
【0023】
該反応液中の水分量の測定値×(中和に用いた塩基の質量−水分量の測定に用いたフッ化水素を含む化合物の質量−加熱分解により発生するガスを除いた残りの固体の質量) ・・・(2)
また上記の、加熱分解、冷却捕集、水分量の測定において、外部からの水分の混入を防ぐことにより、より水分量を精度よく定量することができる。
【0024】
上記一般式:XF・nHFで表されるフッ化水素を含む化合物において、nが略50を超えると、融点がフッ化水素と同程度になるので、フッ化水素と同様に室温で液体として扱えるため、直接電気伝導率を測定することが可能となる。このため、加熱分解することなく直接電気伝導率の測定を行なうことで水分量を定量することができるが、XF成分が存在するため精度よく定量することは困難である。本発明によれば、加熱分解することによりXF成分を分離できるため、水分量を精度よく定量することができる。
【0025】
上記一般式:XF・nHFで表されるフッ化水素を含む化合物を加熱分解することなく中和を行ない、カールフィッシャー法を用いることにより水分量を定量することができるが、XF成分が中和した後も溶解しないため精度よく定量することは困難である。本発明によれば、カールフィッシャー法を用いる場合においても、加熱分解することによりXF成分を分離できるため、水分量を精度よく定量することができる。
また、電気伝導率測定およびカールフィッシャー法以外の方法を用いて水分量を定量する場合も、加熱分解することなく直接水分量を定量することができるが、XF成分が存在するため精度よく定量することは困難である。
【0026】
本発明によれば、電気伝導率の測定およびカールフィッシャー法以外の方法を用いる場合においても、加熱分解することによりXF成分を分離できるため、水分量を精度よく定量することができる。
【0027】
本発明に係るフッ化水素を含む化合物の水分量の測定方法及び水分量の測定装置の第1の実施の形態について、図1を用いて詳細に説明する。
【0028】
水分量測定装置100はフッ化水素を含む化合物を加熱分解し、発生するガスを冷却捕集して水分量を測定する装置である。
【0029】
水分量測定装置100は、バルブを備える導入口22より導入したフッ化水素を含む化合物11を加熱分解してガスを発生させる加熱分解器12と、加熱分解器12で発生するガスを冷却トラップ13に導入する導管8と、導管8より導入するガスをフッ化水素の凝固点(−84℃)以下に冷却することにより捕集し更に捕集後フッ化水素の融点(19℃)以上に昇温して気化させる冷却トラップ13と、冷却トラップ13で気化するガスを水分量の測定手段20に導入する導管18と、導管18より導入するガスの水分量を測定する水分量の測定手段20と、を備えている。
【0030】
また、装置系内をガス置換するための真空ポンプと窒素ガス導入路が、バルブ1とバルブ2を介して導管8に、さらに、バルブ3を介して加熱分解器12に、導管8と導管18がバルブ6を介して接続されている。
【0031】
導管8がバルブ4を介し、導管18がバルブ5を介し、それぞれ冷却トラップ13に接続され、さらに、導管18は、バルブ17を介して水分量の測定手段20に接続されている。また、導管8には圧力計7が設置されている。
【0032】
加熱分解器12には、採取したフッ化水素を含む化合物が貯留される。加熱分解器12にはフッ化水素を含む化合物を加熱するためのヒーター9を具備する。加熱分解器12の材質には発生するガス中のフッ化水素と反応しないモネル、ニッケル、白金、またはアルミナなどが好ましく、その中でもモネルまたはニッケルが特に好ましい。
【0033】
深冷トラップ13は、冷却するための冷却機10を具備する。冷却機10は、捕集時にフッ化水素の凝固点(−84℃)以下に冷却可能なものであればよい。深冷トラップ13の材質としてはステンレス、モネル、ニッケル、白金、またはアルミナなどが好ましく、その中でもステンレスまたはニッケルが特に好ましい。
【0034】
水分量の測定手段20は、電気伝導率を測定することにより水分量を測定する装置またはカールフィッシャー法を用いた水分量測定装置を用いることができる。1質量ppm以下の測定精度を得るには、電気伝導率を測定することにより水分量を測定する装置を用いることが好ましい。
【0035】
次に、上記の水分量測定装置100の動作について説明する。
【0036】
装置系内を真空ポンプと窒素ガスによりガス置換し0.0kPaまで減圧にした後、測定のために採取したフッ化水素を含む化合物を、バルブを開にして導入口22より加熱分解器12に導入し貯留する。貯留後、導入口22のバルブ、バルブ1、バルブ2、バルブ5、バルブ6は閉、バルブ3、バルブ4は開の状態で、ヒーター9により加熱する。
【0037】
加熱温度は、上記のとおり、水の沸点以上またはフッ化水素を含む化合物の分解温度以上であることが好ましい。例えば、採取したフッ化水素を含む化合物が、上記一般式:XF・nHFの、XがKの場合、KF・HFの分解温度である220 ℃以上、XがNaの場合、NaF・HFの分解温度である270℃以上、XがNHの場合、NHF・nHFの分解温度である150℃以上、XがLiの場合、LiF・HFの分解温度である20℃以上の温度で加熱することが好ましい。更に加熱温度が、分解温度付近では分解速度が遅いため分解効率が悪くなる虞があり、また高すぎると加熱分解を行なう容器の材料を侵す虞があるため、採取したフッ化水素を含む化合物の上記一般式:XF・nHFのXが、K、Na、Liのいずれか1種類の場合は、400〜500℃、NHの場合は、200℃〜300℃の範囲で加熱することが更に好ましい。
【0038】
加熱により発生するガスにより圧力が上昇するが、発生するガスは導管8から深冷トラップ13に導入され深冷トラップ13内にてフッ化水素の凝固点(−84℃)以下で冷却捕集される。圧力計7の圧力が0.0kPaを超えなくなると、バルブ3、バルブ4を閉の状態にして加熱分解器12の加熱を停止する。
【0039】
次に、深冷トラップ13の冷却を停止し、昇温し液体または気体の状態にし、バルブ5、バルブ17を開の状態にして取り出す。深冷トラップ13に捕集された化合物は、導管18を通って水分量の測定手段20に導入され、水分量が測定される。水分量の測定手段20で得られる水分量を化合物中の水分量に上記のとおり換算することでフッ化水素を含む化合物中の水分量を定量できる。
【0040】
以上の第1の実施の形態により、フッ化水素を含む化合物中の水分量を精度よく定量することができる。
【0041】
本発明に係るフッ化水素を含む化合物の水分量の測定方法及び水分量の測定装置の第2の実施の形態について、図2を用いて詳細に説明する。
【0042】
水分量測定装置200はフッ化水素を含む化合物を加熱分解し、発生するガスを冷却捕集し、捕集したガスを中和した後、水分量を測定する装置である。
【0043】
水分量測定装置100と同符号の部分は、水分量測定装置100と同様なため説明を省略し、水分量測定装置100と異なる部分について説明する。水分量測定装置200は、水分量測定装置100のバルブ17の上流において導管18が分岐しバルブ14を介して中和槽19が接続され、中和槽19は、バルブ16を介して水分量の測定手段20に接続されている。したがって、バルブ14と16の開閉の組合せにより、導管18からのガスを水分量の測定手段20に導入するときに、中和槽19を経由させる場合とさせない場合を任意に選択できる。
【0044】
中和槽19は、内部にフッ化水素を中和するための中和剤が充填されており、冷却トラップ13で気化したガスを導入する導入口にバルブ14と、中和したガスを排出する排出口にバルブ16と、を具備している。中和剤としては、塩基が用いられる。用いる塩基としては、有機塩基が好ましく、その中でも、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ビピリジン、トリピリジンなどのアミン類が特に好ましい。
【0045】
また、導管18は分岐せず直接バルブ14に接続されてもよい。したがってこの場合、導管18は直接水分量の測定手段20に接続されない。
【0046】
水分量の測定手段20は、電気伝導率を測定することにより水分量の測定装置またはカールフィッシャー法を用いた水分量の測定装置を用いることができる。ただし、カールフィッシャー法を用いた水分量の測定装置を用いる場合、1質量ppm以下の測定精度を得るには、中和槽19により中和した化合物を導入し水分量を測定することが好ましい。電気伝導率を測定することにより水分量を測定する装置を用いる場合、中和槽19を経由させず、水分量の測定手段20に導入する。
【0047】
次に、上記の水分量測定装置200の動作について説明する。
【0048】
説明についても、水分量測定装置100と同様な部分は省略し、水分量測定装置100と異なる部分について説明する。
【0049】
深冷トラップ13の冷却を停止するまでは、水分量測定装置100と同様の動作である。さらに、中和槽19を経由させない場合は、バルブ14を閉の状態しておく以外、水分量の測定手段20で得られる水分量を化合物中の水分量に換算することでフッ化水素を含む化合物中の水分量を定量するまで、水分量測定装置100と同様の動作である。
【0050】
中和槽19を経由させる場合は、深冷トラップ13の冷却を停止し、気化のためにフッ化水素の沸点(19℃)以上に昇温し、バルブ5とバルブ14を開の状態、バルブ16とバルブ17を閉の状態にする。昇温により発生するガスは、導管18を通ってバルブ14介して中和槽19に導入され内部の中和剤で中和される。その後、中和槽19内部の中和された液は、水分量の測定手段20に導入するためにバルブ16を開にし、水分量の測定手段20に導入され、水分量が測定される。水分量の測定手段20で得られる水分量を化合物中の水分量に換算することでフッ化水素を含む化合物中の水分量を定量できる。
【0051】
以上の第2の実施の形態により、 第1の実施の形態と同様の効果が得られ、さらには、水分量の測定手段20としてカールフィッシャー法を用いる場合でも、フッ化水素を含む化合物中の水分量をより精度よく定量することができる。また、中和処理の有無により測定精度を適宜選択できる。
【0052】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で設計変更できるものであり、上記実施形態の例や下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0053】
本実施例に用いた装置の概略図を図2に示す。
あらかじめ、バルブ1を介して接続されている真空ポンプとバルブ2を介して接続されている窒素ガスにより内部を置換してある、加熱するためのヒーター9を具備するニッケル製の密閉式の加熱分解器12内に、フッ化水素を含む化合物11として123質量ppmの水分量を含むKF・HFを導入口22より10.2g充填し、ヒーター9で220℃に加熱する。123質量ppmの水分量を含むKF・HFは、FとKFを反応させKF中のHOを全量HFに反応させた後、700℃まで加熱させHFを完全に揮発させて合成した無水KFと、FとHFを反応させHF中のHOを全量HFに反応させた後、発生するO、OFを脱気して合成した無水HFと、HOとを混合して合成した。加熱分解器12内で加熱分解して発生したガスは、加熱分解器12にバルブ3(開状態)を介して接続されている導管8より更にバルブ4(開状態)を介してニッケル製の深冷トラップ13に導入され冷却捕集される。深冷トラップ13では液体窒素を冷媒とする冷却機10を用いて−196℃に冷却される。導管8に設置されている圧力計7が0.0kPaになるまで加熱分解器12を加熱し、圧力が0.0kPaまで低下した後、バルブ3、4を閉にして加熱分解器12の加熱を停止する。その後、深冷トラップ13を150℃まで昇温させ気化するガスを、深冷トラップ13にバルブ5(閉状態)を介して接続されている導管18より、バルブ5を開にしてニッケル製の密閉容器に脱水されたピリジンが40.0g充填されている中和槽19に導入しフッ化水素を中和する。その後、バルブ16を開にして、カールフィッシャー法を用いた水分量の測定手段20(京都電子工業株式会社製、MKC−610−NT)に、中和された中和槽19内の液を導入して水分量を測定する。
【0054】
その結果、発生するガス中の水分量は481質量ppmであり、KF・HF中の水分量へ換算すると123質量ppmとなる。
【実施例2】
【0055】
水分量の定量の対象となるフッ化水素を含む化合物11として実施例1と同様の方法で合成した18.2質量ppmの水分量を含むKF・2.2HF、15.3gを加熱分解器12に採取し、ヒーター9での加熱温度を300℃にする以外は、実施例1と同様に行なった。
【0056】
その結果、発生するガス中の水分量は42質量ppmであり、KF・2.2HF中の水分量へ換算すると18.1質量ppmとなる。
【実施例3】
【0057】
水分量の定量の対象となるフッ化水素を含む化合物11として実施例1と同様の方法で合成した13.2質量ppmの水分量を含むKF・3.1HF、11.3gを加熱分解器12に採取し、ヒーター9での加熱温度を400℃にする以外は、実施例1と同様に行なった。
【0058】
その結果、発生するガス中の水分量は26質量ppmであり、KF・3.1HF中の水分量へ換算すると13.4質量ppmとなる。
【実施例4】
【0059】
水分量の定量の対象となるフッ化水素を含む化合物11として実施例1と同様の方法で合成した4461質量ppmの水分量を含むKF・2.2HF、11.9gを加熱分解器12に採取し、ヒーター9での加熱温度を450℃にする以外は、実施例1と同様に行なった。
【0060】
その結果、発生するガス中の水分量は10352質量ppmであり、KF・2.2HF中の水分量へ換算すると4461質量ppmとなる。
【実施例5】
【0061】
水分量の定量の対象となるフッ化水素を含む化合物11として実施例1と同様の方法で合成した598質量ppmの水分量を含むKF・0.7HF、20.9gを加熱分解器12に採取し、ヒーター9での加熱温度を450℃とし、ピリジンの代わりにトリエチルアミンを用いる以外は、実施例1と同様に行なった。
【0062】
その結果、発生するガス中の水分量は3082質量ppmであり、KF・0.7HF中の水分量へ換算すると598質量ppmとなる。
【実施例6】
【0063】
水分量の定量の対象となるフッ化水素を含む化合物11として実施例1と同様の方法で合成した76.5質量ppmの水分量を含むKF・5.1HF、14.2gを加熱分解器12に採取し、ヒーター9での加熱温度を500℃とし、ピリジンの代わりにトリエチルアミンを用いる以外は、実施例1と同様に行なった。
【0064】
その結果、発生するガス中の水分量は120質量ppmであり、KF・5.1HF中の水分量へ換算すると76.5質量ppmとなる。
【実施例7】
【0065】
水分量の定量の対象となるフッ化水素を含む化合物11として実施例1と同様の方法で合成した1.8質量ppmの水分量を含むKF・2.1HF、18.1gを加熱分解器12に採取し、ヒーター9での加熱温度を500℃とし、ピリジンの代わりにトリエチルアミンを用いる以外は、実施例1と同様に行なった。
【0066】
その結果、発生するフッ化水素を主成分とする気体中の水分量は5.4質量ppmであり、KF・2.1HF中の水分量へ換算すると2.3質量ppmとなる。
【実施例8】
【0067】
水分量の定量の対象となるフッ化水素を含む化合物11として実施例1と同様の方法で合成した5.6質量ppmの水分量を含むKF・2.1HF、13.5gを加熱分解器12に採取し、ヒーター9での加熱温度を450℃とし、さらには、深冷トラップ13を150℃まで昇温させ気化するガスを、深冷トラップ13にバルブ5(閉状態)を介して接続されている導管18よりバルブ5を開にして中和槽19に導入する代わりに、導管18より分岐して接続されているバルブ17(閉状態)とバルブ5を開にして電気伝導度測定法を用いた水分量の測定手段20(三木、前野:分化,29,288(1980)の記載に基づく。)に導入し−10℃まで冷却させて水分量を測定する以外は、実施例1と同様に行なった。
【0068】
その結果、発生するガス中の水分量は13質量ppmであり、KF・2.1HF中の水分量へ換算すると5.5質量ppmとなる。
【実施例9】
【0069】
水分量の定量の対象となるフッ化水素を含む化合物11として実施例1と同様の方法で合成した102質量ppmの水分量を含むKF・4.2HF、21.4gを加熱分解器12に採取し、ヒーター9での加熱温度を400℃にする以外は、実施例8と同様に行なった。
【0070】
その結果、発生するガス中の水分量は172質量ppmであり、KF・4.2HF中の水分量へ換算すると102質量ppmとなる。
【実施例10】
【0071】
水分量の定量の対象となるフッ化水素を含む化合物11としてFとNaFを反応させNaF中のHOを全量HFに反応させた後、700℃まで加熱させHFを完全に揮発させて合成した無水NaFとFとHFを反応させHF中のHOを全量HFに反応させた後、発生するO、OFを脱気して合成した無水HFとHOを用いて合成した7.5質量ppmの水分量を含むNaF・2.1HF、13.2gを加熱分解器12に採取し、ヒーター9での加熱温度を400℃とする以外は、実施例1と同様に行なった。
その結果、発生するフッ化水素を主成分とする気体中の水分量は15質量ppmであり、NaF・2.1HF中の水分量へ換算すると7.5質量ppmとなる。
【実施例11】
【0072】
水分量の定量の対象となるフッ化水素を含む化合物11として実施例10と同様の方法で合成した63.4質量ppmの水分量を含むNaF・3.1HF、20.1gを加熱分解器12に採取し、ヒーター9での加熱温度を300℃とする以外は、実施例1と同様に行なった。
その結果、発生するフッ化水素を主成分とする気体中の水分量は106質量ppmであり、NaF・2.1HF中の水分量へ換算すると63.2質量ppmとなる。
【実施例12】
【0073】
実施例10と同様の方法で合成した300質量ppmの水分量を含むフッ化水素を含む化合物11としてNaF・HF、15.5gを加熱分解器12に採取し、ヒーター9での加熱温度を300℃とする以外は、実施例1と同様に行なった。
その結果、発生するフッ化水素を主成分とする気体中の水分量は931質量ppmであり、NaF・HF中の水分量へ換算すると300質量ppmとなる。
【0074】
[比較例1]
実施例12で合成した水分量が300質量ppm含まれているフッ化水素を含む化合物11としてNaF・HF、1504gをステンレス製のデシケーター内で120℃で加熱させ、揮発する水分をモレキュラーシーブス4A 9.35gを用いて48時間吸着させた。
その結果、モレキュラーシーブスの質量は9.52gになり、吸着された水分量は0.12 gとなった、その結果NaF・HF中の水分量は113質量ppmとなる。上記実施例の結果を表1に示す。
【0075】
【表1】



【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、KF・nHFやNHF・nHFなど電気分解の溶融塩として用いられる化合物、KF・HF、NaF・HFなどフッ素化剤として用いられる化合物中の水分量の定量に適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1、2、3、4、5、14、16、17:バルブ
7:圧力計
8、18:導管
9:ヒーター
10:冷却機
11:フッ化水素を含む化合物
12:加熱分解器
13:深冷トラップ
19:中和槽
20:水分量の測定手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:XF・nHF(ただし、X:K、NH、Na、Liのいずれか1種類、n>0の有理数、を示す。)で表されるフッ化水素を含む化合物を加熱分解し、発生するガス中の水分量を定量することにより、該化合物中の水分量を求めることを特徴とするフッ化水素を含む化合物の水分量の測定方法。
【請求項2】
該加熱分解により発生するガスを冷却して液体にした後、該液体の電気伝導率の測定を行なうことにより該ガス中の水分量を定量することを特徴とする、請求項1に記載のフッ化水素を含む化合物の水分量の測定方法。
【請求項3】
該加熱分解により発生するガスを塩基で中和した後に、該塩基の水分量をカールフィッシャー法により定量することを特徴とする、請求項1に記載のフッ化水素を含む化合物の水分量の測定方法。
【請求項4】
一般式:XF・nHF(ただし、X:K、NH、Na、Liのいずれか1種類、n>0の有理数、を示す。)で表されるフッ化水素を含む化合物の加熱分解部と、該加熱分解部より排出されるガス中のフッ化水素を捕集するための冷却トラップを有する捕集部と、該捕集部で捕集されたフッ化水素中の水分量を測定する水分量測定器を有する測定部と、を備え、
該加熱分解部は、加熱手段を有する反応器と、フッ化水素を含む化合物を該反応器内に導入する導入口と、該反応器内で加熱分解により発生するガスを排出する排出口と、を有し、
該冷却トラップは、該反応器の排出口より排出されるガスを内部に導入する導入口と、捕集したフッ化水素を排出する排出口と、を有し、
該水分量測定器は、水分量の測定手段と、該冷却トラップの排出口より排出される捕集されたフッ化水素を該水分量の測定手段に導入する導入口と、を有し、
該加熱分解部の排出口と該冷却トラップの導入口を接続する通路と、該冷却トラップの排出口と該水分量測定器の導入口を接続する通路と、を有し、
該加熱分解部の排出口と該冷却トラップの導入口を接続する通路は、圧力測定手段を備えることを特徴とする、フッ化水素を含む化合物の水分量測定装置。
【請求項5】
一般式:XF・nHF(ただし、X:K、NH、Na、Liのいずれか1種類、n>0の有理数、を示す。)で表されるフッ化水素を含む化合物の加熱分解部と、該加熱分解部より排出されるガス中のフッ化水素を捕集するための冷却トラップを有する捕集部と、該捕集部で捕集されたフッ化水素を中和する中和槽を有する中和部と、該中和部での中和処理後に水分量を測定する水分量測定器を有する測定部と、を備え、
該加熱分解部は、加熱手段を有する反応器と、フッ化水素を含む化合物を該反応器内に導入する導入口と、該反応器内で発生するガスを排出する排出口と、を有し、
該冷却トラップは、該反応器の排出口より排出されるガスを内部に導入する導入口と、捕集したフッ化水素を排出する排出口と、を有し、
該中和槽は、内部にフッ化水素を中和する中和剤と、該冷却トラップの排出口より排出されるフッ化水素を導入する導入口と、フッ化水素を中和した中和剤を排出する排出口と、を有し、
該水分量測定器は、水分量の測定手段と、該中和槽の排出口より排出されるフッ化水素を中和した中和剤を該水分量の測定手段に導入する導入口と、を有し、
該加熱分解部の排出口と該冷却トラップの導入口を接続する通路と、該冷却トラップの排出口と該中和槽の導入口を接続する通路と、該中和槽の排出口と該水分量測定器の導入口を接続する通路と、を有し、
該加熱分解部の排出口と該冷却トラップの導入口を接続する通路は、圧力測定手段を備えることを特徴とする、フッ化水素を含む化合物の水分量測定装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−179951(P2011−179951A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44146(P2010−44146)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】