説明

フッ化物単結晶、真空紫外発光素子及びシンチレーター

【課題】BaLu単結晶と同等の有効原子番号及び密度を有し、且つ、斜方晶型結晶構造から単斜晶型結晶構造への相変態を起こさず、融液成長法によって効率よく製造することが可能なフッ化物単結晶を提供する。
【解決手段】化学式Ba(MLu1−x−y(ただし、MはCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選ばれる少なくとも1種の元素を表わし、xは0〜0.5の範囲であり、yは0〜0.8の範囲であり、かつx、yが共に0の場合を除く)で表わされ、単斜晶型結晶構造を有するフッ化物単結晶であり、かつ元素M、Y及びLuの平均イオン半径が98.5〜102.5pmであることを特徴とするフッ化物単結晶。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフッ化物単結晶、並びに当該フッ化物単結晶からなる真空紫外発光素子及びシンチレーターに関する。当該真空紫外発光素子はフォトリソグラフィー、半導体や液晶の基板洗浄、殺菌、次世代大容量光ディスク、及び医療(眼科治療、DNA切断)等に用いられる真空紫外発光素子として好適に使用できる。また、本発明のシンチレーターは、PETによる癌診断やX線CTに用いられる放射線検出器用シンチレーターとして好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
高輝度紫外発光素子は、半導体分野、情報分野、医療分野等における先端技術を支える材料であり、近年では、記録媒体への記録密度の向上を始めとする多くの需要に応えるべく、より短波長で発光する紫外発光素子の開発が進められている。短波長で発光する紫外発光素子としては、GaN等の紫外発光材料による発光波長約360nmのLEDが市販されている。
【0003】
より短波長の発光波長200nm以下の真空紫外発光材料は、真空紫外発光素子として、フォトリソグラフィー、半導体や液晶の基板洗浄、殺菌等にも好適に使用できるため、開発が望まれているが、かかる真空紫外発光素子を得ることは容易ではなく、わずかな例しか知られていないのが現状である。
【0004】
真空紫外発光材料の開発が困難である要因としては、真空紫外線は多くの物質に吸収されてしまうため、自己吸収を起こさない物質が限られる点が挙げられる。
【0005】
さらに、真空紫外領域における発光特性は、材料中の不純物の影響を受けやすく、また、たとえ真空紫外領域に発光のエネルギー準位を有する材料であっても、より低いエネルギー準位に基づく長波長の発光が支配的であったり、非輻射遷移による損失が甚大であったりする等の理由により、所望の真空紫外発光を得られない場合が多い。
【0006】
したがって、真空紫外領域における発光特性を予め予測することは極めて困難であり、このことが真空紫外発光素子の開発における大きな障壁となっている。
【0007】
一方、放射線の照射によって発光する単結晶はシンチレーターとして用いることができる。
【0008】
PETによる癌診断やX線CTに用いられる放射線検出器は、シンチレーターという放射線が照射された際に発光する材料と、光電子増倍管や半導体受光素子などの微弱光検出器を組み合わせて構成される。
【0009】
当該シンチレーターとしては、有効原子番号及び密度が高いものがγ線やX線に対する検出感度が高く、好適であり、かかる要件を満たすシンチレーターとして、非特許文献1に開示されているBaLuが挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J.C. van’t Spijker et al., “Luminescence and scintillation properties of BaY2F8:Ce3+, BaLu2F8 and BaLu2F8:Ce3+” Journal of Luminescence 85 (1999) 11−19.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
単結晶を効率よく製造する方法としては、融液成長法が挙げられるが、本発明者らの検討において、前記BaLuを従来公知の融液成長法で製造した場合には、BaLuは融液から結晶化した後、室温まで冷却する過程において斜方晶型結晶構造から単斜晶型結晶構造へ相変態を起こすため、結晶にクラックが生じるという問題があった。
【0012】
かかる相変態を起こす結晶の製造においては、相変態が起こる温度、すなわち相転移点以下で結晶化させる方法が有効であり、例えば、相転移点以下で原料溶液から結晶化させる溶液成長法等が一般的であった。しかしながら、かかる溶液成長法では一般に結晶の製造に膨大な時間がかかるため、結晶を効率よく製造することは困難であった。
【0013】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、BaLu単結晶と同等の有効原子番号及び密度を有し、且つ、斜方晶型結晶構造から単斜晶型結晶構造への相変態を起こさず、融液成長法によって効率よく製造することが可能なフッ化物単結晶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、融液成長法によってBaLu型単結晶を製造するにあたって、斜方晶型結晶構造から単斜晶型結晶構造への相変態を起こすことなく、クラックのない単斜晶型結晶構造を有するBaLu型単結晶を得る方法について種々検討した。その結果、Luの一部をY、及び/又は、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選ばれる少なくとも1種の元素(以下、Mという)で置換し、当該Lu、Y及びMの平均イオン半径を所定の範囲に調整することによって、前記相変態を回避することができ、したがってクラックの無いBaLu型単結晶を融液から直接成長できることを見出した。
【0015】
また、かかるBaLu型単結晶は真空紫外発光素子ならびシンチレーターとして好適に使用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明は、化学式Ba(MLu1−x−y(ただし、MはCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選ばれる少なくとも1種の元素を表わし、xは0〜0.5の範囲であり、yは0〜0.8の範囲であり、かつx、yが共に0の場合を除く)で表わされ、単斜晶型結晶構造を有するフッ化物単結晶であり、かつ元素M、Y及びLuの平均イオン半径が98.5〜102.5pmであることを特徴とするフッ化物単結晶、並びに該単結晶からなる真空紫外発光素子及びシンチレーターである。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフッ化物単結晶によれば、真空紫外領域における高輝度な発光を得ることができ、フォトリソグラフィー、半導体や液晶の基板洗浄、殺菌、次世代大容量光ディスク、及び医療(眼科治療、DNA切断)等に好適に使用することができる。また、本発明のフッ化物単結晶は放射線に対しても良好な応答性を有するため、シンチレーターとして好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本図は、マイクロ引き下げ法による結晶製造装置の概略図である。
【図2】本図は、X線励起発光スペクトルの測定装置の概略図である。
【図3】本図は、実施例1のX線励起発光スペクトルである。
【図4】本図は、実施例2〜4のX線励起発光スペクトルである。
【図5】本図は、実施例2、5及び6のX線励起発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のフッ化物単結晶について詳細に説明する。本発明のフッ化物単結晶は、化学式Ba(MLu1−x−y(ただし、MはCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選ばれる少なくとも1種の元素を表わし、xは0〜0.5の範囲であり、yは0〜0.8の範囲であり、かつx、yが共に0の場合を除く)で表わされ、単斜晶型結晶構造を有するフッ化物単結晶であって、M、Y及びLuの平均イオン半径が98.5〜102.5pmである。
【0020】
本発明のフッ化物単結晶は、単斜晶系、空間群C2/mに属するBaLuを基本構造とし、かかるBaLuのLuの一部をM及びYで置換したものである。前記化学式中のx及びyは、それぞれM及びYでLuを置換する際の置換比率を表わし、当該x又はyが0の場合には、LuをM又はYで置換しないことを表わす。
【0021】
かかるBaLuを基本構造とするフッ化物単結晶はバンドギャップが大きく、真空紫外線を吸収しないため、真空紫外発光素子として好適に使用できる。なお、本発明において真空紫外とは200nm以下の波長領域のことを言う。
【0022】
また、本発明のフッ化物単結晶の密度及び有効原子番号は、前記Mの種類ならびにx及びyの値によって異なるが、それぞれ約5.4〜7.0g/cm及び約51〜62と大きい。したがって、γ線やX線に対する検出感度が高く、シンチレーターとして好適に使用できる。
【0023】
なお、本発明において、有効原子番号とは、下式で定義される指標である。
【0024】
有効原子番号=(ΣW1/4
(式中、W及びZは、それぞれフッ化物単結晶を構成する元素のうちのi番目の元素の質量分率及び原子番号である)
【0025】
本発明のフッ化物単結晶は、価電子帯とバリウムの内核準位との間での電子遷移に基づくcore−valence発光(以下、CVLともいう)を示し、当該CVLの発光波長は180〜210nmと極めて短いため、真空紫外発光素子として好適に用いることができる。なお、CVLの発光強度を高めるためには、xを小さくすることが好ましく、0とすることが最も好ましい。
【0026】
本発明のフッ化物単結晶において、xが0より大きい場合、すなわち、Luの一部がM(Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選ばれる少なくとも1種の元素)で置換されている場合には、前記CVLに加え、当該Mに基づく発光を得ることができるので、シンチレーターとして特に好適に使用できる。
【0027】
本発明において、xの上限は0.5である。xが0.5を超える場合、異種の結晶相が析出することによって、結晶が白濁するという問題が生じる。なお、複数種のMを用いる場合には、各々のMでLuを置換する際の置換の割合の総和をxとする。
【0028】
前記Mに基づく発光の発光強度を高めるためには、Mの種類によって異なるが、xを0.0005以上とすることが好ましい。一方、濃度消光による発光強度の減弱を回避するためには、xを0.1以下とすることが好ましい。
【0029】
かかるLuの一部をMで置換してなるシンチレーターの発光波長は、Mの種類に応じて真空紫外から赤外領域まで多岐にわたるため、放射線検出器を構成する際に用いる光電子増倍管や半導体受光素子などの微弱光検出器の波長感度特性に合わせて、元素を適宜選択して用いることができる。
【0030】
なお、前記MがNd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素である場合には、前記CVLに加えて、当該Mの作用によって真空紫外領域で発光するため、真空紫外領域における発光強度が向上し、したがって真空紫外発光素子として特に好適に使用できる。
【0031】
前記、密度および有効原子番号の特性に加えて、真空紫外領域で発光する点も併せて考慮すると、例えば特開2008−202977号公報に記載されている放射線検出器のような、シンチレーターとガスカウンターとを組み合わせた放射線検出器において特に好適に適用できる。
【0032】
また、前記MがCe、Pr及びNdから選ばれる少なくとも1種の元素であるシンチレーターは、蛍光寿命が短いため、時間分解能や高計数率特性を要求される放射線検出器において好適に使用できる。
【0033】
本発明のフッ化物単結晶は、M、Y及びLuの平均イオン半径(以下、ravgという)を98.5〜102.5pmとすることを最大の特徴とする。本発明において、当該ravgは、下式で算出される。
【0034】
avg = xr + yr + (1−x−y)rLu
(ただし、r、r及びrLuは、それぞれM、Y及びLuのイオン半径である。)
【0035】
なお、複数種のMを用いる場合には、各々のMの元素分率及びイオン半径を、それぞれx、x、・・・、x及びrM1、rM2、・・・、rMiとして、ΣxMiを求め、当該ΣxMiを前記式中のxrに替えて用いることによってravgを算出できる。
【0036】
前記ravgの算出において、計算の基礎となる各元素のイオン半径は、既報値(R.D. Shannon, “Revised effective ionic radii and systematic studies of interatomic distances in halides and chalcogenides” Acta Crystallographica Section A 32 (1976) 751.)を採用した。当該各元素のイオン半径を表1に示した。
【0037】
【表1】

【0038】
本発明者らの検討によれば、前記ravgが98.5pm未満である場合には、斜方晶型結晶構造から単斜晶型結晶構造への相変態が起こり、融液成長法で製造した単結晶にクラックが生じる。一方、前記ravgが102.5pmを超える場合には、複数種の結晶相が混合した多結晶が得られ、単一の結晶相からなる透明な単結晶が得られないという問題が生じる。なお、単一の結晶相からなる透明な単結晶を、相変態を起こすことなく製造するためには、ravgを99.0〜102.0pmとすることが特に好ましい。
【0039】
本発明において、平均イオン半径を前記範囲に調整するために、Luの一部をYで置換する。yは、かかる置換の割合を表わし、上限は0.8である。yが0.8を超える場合には、得られるフッ化物単結晶の密度及び有効原子番号が低下し、したがってγ線やX線に対する検出感度が低下するという問題が生じる。なお、γ線やX線に対する検出感度を向上させるため、yを0.6以下とすることが特に好ましい。
【0040】
なお、Luの一部をMで置換することによって、前記ravgが所期の範囲となる場合には、Luの一部をYで置換する必要は無く、したがって、yは0でも良い。
【0041】
本発明のフッ化物単結晶は無色ないしはわずかに着色した透明な固体であり、良好な化学的安定性を有しており、通常の使用においては短期間での性能の劣化は認められない。更に、機械的強度及び加工性も良好であり、所望の形状に加工して用いることが容易である。
【0042】
本発明において、フッ化物単結晶の製造方法は特に限定されないが、チョクラルスキー法やマイクロ引き下げ法に代表される従来公知の融液成長法によって製造することができる。
【0043】
マイクロ引き下げ法とは、図1に示すような装置を用いて、坩堝5の底部に設けた穴より原料融液を引き出して結晶を製造する方法である。
【0044】
以下、マイクロ引き下げ法によって本発明のフッ化物単結晶を製造する際の、一般的な方法について説明する。
【0045】
まず、所定量の原料を、底部に孔を設けた坩堝5に充填する。坩堝底部に設ける孔の形状は、特に限定されないが、直径が0.5〜4mm、長さが0〜2mmの円柱状とすることが好ましい。
【0046】
本発明において原料は特に限定されないが、純度がそれぞれ99.99%以上のフッ化物粉末を混合した混合原料を用いることが好ましい。かかる混合原料を用いることにより、結晶の純度を高めることができ、発光強度等の特性が向上する。混合原料は、混合後に焼結或いは溶融固化させてから用いても良い。
【0047】
次いで、上記原料を充填した坩堝5、アフターヒーター1、ヒーター2、断熱材3、及びステージ4を図1に示すようにセットする。真空排気装置を用いて、チャンバー6内を1.0×10−3Pa以下まで真空排気した後、高純度アルゴン等の不活性ガスをチャンバー6内に導入してガス置換を行う。ガス置換後のチャンバー内の圧力は特に限定されないが、大気圧が一般的である。
【0048】
該ガス置換操作によって、原料或いはチャンバー内に付着した水分を除去することができ、かかる水分に由来する結晶の劣化を妨げることができる。上記ガス置換操作によっても除去できない水分による影響を避けるため、フッ化亜鉛等の固体スカベンジャー或いは四フッ化メタン等の気体スカベンジャーを用いることが好ましい。固体スカベンジャーを用いる場合には原料中に予め混合しておく方法が好適であり、気体スカベンジャーを用いる場合には上記不活性ガスに混合してチャンバー内に導入する方法が好適である。
【0049】
ガス置換操作を行った後、高周波コイル7で原料を加熱して溶融せしめ、溶融した原料融液を坩堝底部の孔から引き出して、結晶の製造を開始する。
【0050】
ここで、金属ワイヤーを引き下げロッドの先端に設け、該金属ワイヤーを坩堝底部の孔から坩堝内部に挿入し、該金属ワイヤーに原料融液を付着せしめた後、原料融液を金属ワイヤーと共に引き下げることによって結晶の製造が可能となる。該金属ワイヤーの材質は、原料融液と実質的に反応しない材質であれば制限無く使用できるが、W−Re合金等の高温における耐食性に優れた材質が好適である。
【0051】
上記金属ワイヤーによる原料融液の引き出しを行った後、一定の引き下げ速度で連続的に引き下げることにより、結晶を得ることができる。
【0052】
該引き下げ速度は、特に限定されないが、速過ぎると結晶性が悪くなりやすく、遅過ぎると、結晶性は良くなるものの、製造に必要な時間が膨大になってしまうため、0.5〜50mm/hrの範囲とすることが好ましい。
【0053】
なお、フッ化物単結晶の製造において、熱歪に起因する結晶欠陥を除去する目的で、結晶の製造後にアニール操作を行っても良い。
【0054】
本発明のフッ化物単結晶は所望の形状に加工して使用できる。加工に際しては、公知のブレードソー、ワイヤーソー等の切断機、研削機、或いは研磨盤を何ら制限無く用いることができる。
【0055】
本発明のフッ化物単結晶からなる真空紫外発光素子は、電子線或いはFレーザー等の適当な励起源と組み合わせることにより、真空紫外光発生装置とすることができる。かかる真空紫外光発生装置は、フォトリソグラフィー、殺菌、次世代大容量光ディスク、及び医療(眼科治療、DNA切断)等の分野において、好適に使用される。
【0056】
また、本発明のフッ化物単結晶からなるシンチレーターは、光電子増倍管や半導体受光素子などの微弱光検出器と組み合わせて、放射線検出器として好適に使用できる。
【0057】
本発明のフッ化物単結晶からなるシンチレーターは、検出対象とする放射線に制限は無く、X線、α線、β線、或いはγ線等の放射線の検出に用いることができるが、有効原子番号及び密度がそれぞれ大きいため、放射線の中でも、硬X線或いはγ線等の高エネルギーの光子の検出において、最大の効果を発揮する。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0059】
実施例1〜6、比較例1〜3
(結晶の製造)
図1に示す結晶製造装置を用いて、実施例1〜6及び比較例1〜3のフッ化物結晶を製造した。
【0060】
原料としては、純度が99.99%のBaF、NdF、ErF、TmF、YF及びLuFを用いた。アフターヒーター1、ヒーター2、断熱材3、ステージ4、及び坩堝5は、高純度カーボン製のものを使用し、坩堝底部に設けた孔の形状は直径2.2mm、長さ0.5mmの円柱状とした。
【0061】
まず、各原料を表2に示すとおりそれぞれ秤量し、よく混合して混合原料を調製し、当該混合原料を坩堝5に充填した。なお、表2には使用したMの種類、xの値及びyの値、並びにかかる条件における平均イオン半径、有効原子番号及び密度も併せて示す。
【0062】
原料を充填した坩堝5を、アフターヒーター1の上部にセットし、その周囲にヒーター2、及び断熱材3を順次セットした。次いで、油回転ポンプ及び油拡散ポンプからなる真空排気装置を用いて、チャンバー6内を9.0×10−4Paまで真空排気した後、アルゴン90%−四フッ化メタン10%混合ガスをチャンバー6内に導入してガス置換を行った。
【0063】
高周波コイル7に高周波電流を印加し、誘導加熱によって原料を約1000度まで加熱して溶融せしめ、引き下げロッド8の先端に設けたW−Reワイヤーを、坩堝5底部の孔上記孔に挿入し、原料の融液を上記孔より引き下げ、結晶化を開始した。高周波の出力を調整しながら、3mm/hrの速度で連続的に引き下げ、フッ化物結晶を得た。該結晶は直径が2.2mm、長さが40mmであった。実施例1〜6で作製した本発明のフッ化物単結晶は、白濁やクラックの無い良質な単結晶であったのに対し、比較例1〜3の結晶にはクラックが生じた。
【0064】
【表2】

【0065】
(結晶相の同定)
前記結晶の製造によって得られた結晶の同定を下記の方法で行った。
【0066】
得られた結晶の一部を粉砕して粉末にして、粉末X線回折測定を行った。測定装置にはBruker AXS社製、D8 DISCOVERを用いた。粉末X線回折法による回折パターンを解析した結果から、実施例1〜6及び比較例1〜3のフッ化物結晶は、単斜晶系、空間群C2/mに属するBaLu型結晶構造を有することが分かった。
【0067】
(発光特性の評価)
得られた実施例1〜6の結晶を、ワイヤーソーによって約10mmの長さに切断し、側面を研削して長さ10mm、幅約2mm、厚さ1mmの形状に加工した後、長さ約10mm、幅約2mmの面の両面を鏡面研磨して、本発明の真空紫外発光素子を得た。
【0068】
本発明の真空紫外発光素子について、X線励起下での真空紫外発光特性を、図2に示す装置を用いて評価した。装置内の所定の位置に本発明の真空紫外発光素子9をセットし、装置内部全体を窒素ガスで置換した。X線管10(リガク製 タングステンターゲット、管電圧 60kV、管電流 35mA)からのX線を真空紫外発光素子9に照射した。真空紫外発光素子9からの発光を発光分光器11(分光計器製、KV201型極紫外分光器)で分光し、各波長における発光強度をCCD検出器12で記録して、X線励起発光スペクトルを得た。
【0069】
得られたX線励起発光スペクトルを図3〜5に示す。図3より実施例1のフッ化物単結晶は、CVLによって真空紫外領域で発光し、真空紫外発光素子として有用であることが分かる。また、図4より、MとしてそれぞれNd、Er及びTmを添加した実施例2、実施例3及び実施例4のフッ化物単結晶は、前記CVLに加えてMに由来する真空紫外発光を示すことから、真空紫外発光素子として特に有用であることが分かる。図5は、MとしてNdを用い、yを変化させた場合の比較を示す図である。図5より、yの値が小さいほど、高輝度の発光が得られることが分かる。
【0070】
また、本発明の実施例1〜6のフッ化物単結晶は、いずれもX線の入射によって発光することから、シンチレーターとして有用であることが分かる。
【符号の説明】
【0071】
1 アフターヒーター
2 ヒーター
3 断熱材
4 ステージ
5 坩堝
6 チャンバー
7 高周波コイル
8 引き下げロッド
9 フッ化物単結晶
10 X線管
11 発光分光器
12 CCD検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式Ba(MLu1−x−y(ただし、MはCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選ばれる少なくとも1種の元素を表わし、xは0〜0.5の範囲であり、yは0〜0.8の範囲であり、かつx,yが共に0の場合を除く)で表わされ、単斜晶型結晶構造を有するフッ化物単結晶であり、かつ元素M、Y及びLuの平均イオン半径が98.5〜102.5pmであることを特徴とするフッ化物単結晶。
【請求項2】
MがNd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素であることを特徴とする請求項1記載のフッ化物単結晶。
【請求項3】
請求項2記載のフッ化物単結晶からなることを特徴とする真空紫外発光素子。
【請求項4】
請求項1又は2記載のフッ化物単結晶からなることを特徴とするシンチレーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−121781(P2012−121781A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276109(P2010−276109)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】