説明

フッ化物層の上に疎水性層を製造するための方法および組成物

【課題】アルカリ土類金属フッ化物およびアルカリ金属フッ化物層の上に、接着性が強く、拭き取る動作に安定性があり、水および汚れをはじく層を製造させる方法および組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、最外層としてアルカリ土類金属またはアルカリ金属フッ化物の層を有するか、またはアルカリ土類金属またはアルカリ金属フッ化物からなる光学的基材上に、高真空中でのポリフルオロカーボンを用いる熱蒸着により、疎水性層を製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明は、真空蒸着により、フッ化物基材またはフッ化物層の上に疎水性層を製造するための方法および組成物に関する。
【0002】
(背景技術)
光学系において、光学的成分、例えば、レンズ、眼鏡レンズ、対物レンズ、双眼鏡、プリズムおよび鏡に、反射を低減させるために抗反射層が適用される。無機硝子からなる基材には、抗反射層として、フッ化マグネシウム被覆や、酸化アルミニウム−酸化ジルコニウムまたは高屈折率混合酸化物、例えば酸化チタン/酸化ランタン−フッ化マグネシウムのような層配列を有する三重被覆が設けられることが多い。しかしながら、これらの層は、汚れ、例えば、指紋が非常に付き易い。さらに、これらは、蒸着マグネシウム層の表面が特定の粗さを有するので清浄化が困難である。
【0003】
しかしながら、フッ化物、例えば、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウムまたはフッ化リチウムからなるウインドウも光学系において頻繁に使用される。これらの成分の表面は、同様に、さらなる被覆により、汚れ、かき傷および水吸着から保護しなくてはならない。
【0004】
光学系部品用の水および汚れをはじく被覆が知られている。DE195 39 789には、高真空中におけるフッ化オルガノシラン化合物を用いる熱蒸着により光学的基材の上に撥水性被覆を製造するための方法および組成物が記載されている。拭き取ったり引っ掻いたりすることに非常に優れた抵抗性を示し、暖かく湿った空気、生理食塩水およびUV照射に高い安定性を有する接着性が強く耐久性のある保護層が、酸化物層の上に形成される。
【0005】
本出願の優先日前に発行されなかったDE198 25 100には、多孔質導電性モールドおよびフッ化オルガノシランからなる光学層の上に撥水被覆を製造するための組成物が記載されている。この組成物は、その導電性のために、電子線蒸発装置において問題無く用いることができ、オルガノシリコン化合物の正確に制御され得る蒸発が可能である利点がある。
【0006】
前記方法および組成物は、フッ化マグネシウムおよび他のアルカリ土類金属またはアルカリ金属フッ化物の上に用いて接着性の強い層を製造することができないという不利益を有する。
【0007】
ポリフルオロハイドロカーボンの水および汚れをはじく表面を形成する特性は、被覆技術から知られている。この高度の化学的および熱抵抗性の結果として、それらは、化学装置の構成において被覆材料として用いられる。光学的基材上の干渉層にポリフルオロハイドロカーボンを用いることも試みられている。
【0008】
チョウ(R.Chow)らのProc.SPIE 2253(1994年)512巻には、高真空中においてボートからPTFEコポリマーを蒸着させることにより干渉層を製造する試みが記載されている。得られる層は、非常に柔らかく、熱感受性で、干渉層には使用できないと記載されている。
【0009】
本発明の目的は、アルカリ土類金属フッ化物およびアルカリ金属フッ化物層の上に、接着性が強く、拭き取る動作に安定性があり、水および汚れをはじく層を製造させる方法および組成物を提供することにある。
(発明の開示)
この目的は、本発明により、最外層としてアルカリ土類金属フッ化物またはアルカリ金属フッ化物の層を有するか、またはアルカリ土類金属フッ化物またはアルカリ金属フッ化物からなる光学的基材上に、高真空中でのポリフルオロハイドロカーボンを用いる熱蒸着により、疎水性被覆を製造する方法によって達成される。
【0010】
この目的は、さらに、本発明により、アルカリ土類金属フッ化物およびアルカリ金属フッ化物の層の上に疎水性層を製造するための組成物であって、多孔質無機モールドおよび、
(a)金属酸化物または珪酸塩と、ポリフルオロハイドロカーボンの水性懸濁液とを、99:1〜80:20の比で水を添加して、混合し、
(b)ペースト状材料を60〜120℃で乾燥し、続いて、この材料を空気中にて250〜400℃で加熱し、
(c)得られる固形物を造粒および錠剤化する
ことにより得られるポリフルオロハイドロカーボンを含んでなる組成物によって達成される。
【0011】
この目的は、さらに、本発明により、アルカリ土類金属フッ化物およびアルカリ金属フッ化物の層の上に疎水性層を製造するための組成物であって、多孔質電導性無機モールドおよび、
(a)金属酸化物または珪酸塩と、金属粉末およびポリフルオロハイドロカーボンの水性懸濁液とを、90:10:1〜20:80:30の比で水を添加して、混合し、
(b)ペースト状材料を60〜120℃で乾燥し、続いて、この材料を空気中にて250〜400℃で加熱し、
(c)得られる固形物を造粒および錠剤化する
ことにより得られるポリフルオロハイドロカーボンを含んでなる組成物によって達成される。
【0012】
本発明は、本発明の組成物を用いて高真空中における蒸着が適用される被覆を有する光学的基材にも関する。
【0013】
本発明は、さらに、アルカリ金属フッ化物またはアルカリ土類金属フッ化物からなる光学的基材の上に疎水性層を製造するための、ポリフルオロハイドロカーボンの使用にも関する。
【0014】
本発明は、さらに、最外層がアルカリ金属フッ化物またはアルカリ土類金属フッ化物からなる表面被覆および/または反射低減のための薄層があらかじめ設けられた光学的基材の上に疎水性被覆を製造するための、ポリフルオロハイドロカーボンの使用にも関する。
【0015】
(発明を実施するための最良の形態)
用いられるポリフルオロハイドロカーボンは既知であり、市販されている。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびパーフルオロアルコキシポリマー(PFA)が好ましい。後者は、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルコキシビニルエーテルとの共重合により得られる。
【0016】
ポリフルオロハイドロカーボンは、10-3〜10-5mbarの圧力下に400〜500℃に加熱することにより高真空中で容易に蒸発させることができ、その間に、基材上に沈着し、薄層が形成されることがわかった。5〜20nmの層厚が必要である。
【0017】
本発明の方法は、特に、表面硬化のための抗反射層または被覆層のような光学層の製造において通常であるように、高真空蒸着装置を用いて行うことができる。ここで、ポリフルオロハイドロカーボンは、適当な形状および方法で、例えば顆粒として、通常の蒸着材料に加えて、装置に導入される。ポリフルオロハイドロカーボンは、電流を直接流すことまたは電子線の衝撃により加熱される通常のボートから蒸発される。例えば、抗反射層の適用のために先行する蒸着プロセス直後に蒸着工程を実施することが有利である。基材を300℃までの温度に加熱すると、特に耐久性の層が得られる。
【0018】
疎水性層は干渉層、例えば、抗反射層、フィルター、ビームスプリッターまたは他の光学系部品または層に適用することができる。これらの層は、フッ化マグネシウムまたは別のアルカリ土類金属フッ化物もしくはアルカリ金属フッ化物の単一の低屈折率層から、または最外層がフッ化マグネシウムまたは別のアルカリ土類金属フッ化物もしくはアルカリ金属フッ化物からなる、高屈折率層と低屈折率層との配列からなる。疎水性層は、さらに、フッ化マグネシウム、フッ化バリウムまたはフッ化リチウムのようなフッ化物の単結晶シート、例えば、光学的ウインドウに適用することができる。被覆層を適用した後、ポリフルオロハイドロカーボンを用いる蒸着の前の基材のさらなる予備処理が不要である。
【0019】
ポリフルオロハイドロカーボンは、通常、従来のボート中、蒸着装置に導入される。蒸着装置へのポリフルオロハイドロカーボンの特に有利な導入形態は、多孔質無機モールドである。
【0020】
さらに金属粉末を含んでよい金属酸化物または珪酸塩の多孔質モールドは、ポリフルオロハイドロカーボンの支持材料として非常に適しており、特に電子線も使用して、加熱によりポリフルオロハイドロカーボンをこの支持材料から非常に容易に制御し得る速度で蒸発させることができる。本発明の目的において、「モールド」という用語は、1〜4mmの粒径を有する顆粒、および5〜25mmの直径および3〜15mmの厚さを有する錠剤を意味するものとされる。
【0021】
多孔質モールドに用いられる金属酸化物は、二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、またはこれら酸化物の混合物である。用いられる珪酸塩は、珪酸アルミニウムであり、ムライトが好ましい。モールドは、これら金属酸化物または珪酸塩を15〜90重量%含む。金属酸化物または珪酸塩の粒径は0.5〜50μmである。
【0022】
多孔質モールドの第2の成分は、金属珪素、チタンまたはクロムの粉末からなる。金属粉末は、5〜50μmの粒径を有する。モールドは、これらの金属を10〜65重量%含む。
【0023】
ポリフルオロハイドロカーボンは、粉末または水性懸濁液として用いることができる。しかしながら、市販されている水性懸濁液が、2つの他の成分との均質混合物の調製を容易にするので、好ましい。モールド中のポリフルオロハイドロカーボンの含量は1〜25重量%、好ましくは5〜15重量%である。
【0024】
本発明の方法は、アルカリ土類金属フッ化物およびアルカリ金属フッ化物の層の上に、接着性が強く拭き取りに安定性のある疎水性層を製造するために用いることができる。製造された層は、水と100〜130°の接触角を形成する。水滴は、ビーズの形状で層を流れ降りる。例えば指紋のような汚れは容易に拭き取ることができる。
【0025】
(実施例)
本発明を以下の実施例により説明するが、それに限定されるものではない。
【0026】
実施例1
ムライト(珪酸アルミニウム)90重量%およびPFA10重量%から混合物を調製する。PFAは、固形物含量が50重量%の水性懸濁液として用いられる。混和性を向上させるために、ペースト状材料が形成されるまで水を添加する。材料は乾燥され、続いて空気中、350℃に加熱される。次に、混合物を造粒および錠剤化し、直径13mmおよび厚さ7mmの錠剤を得る。
【0027】
実施例2
ムライト54重量%、珪素粉末36重量%および粉末状のPFA10重量%から混合物を調製する。混和性を向上させるために、ペースト状材料が形成されるまで水を添加する。材料を80℃で乾燥し、続いて造粒および錠剤化する。
【0028】
実施例3
従来の蒸着装置(レイボールド・システム(Leybold Systems)製のL560)において、被覆すべきガラスシートを、予備清浄後、基材キャリアに乗せ、280℃に加熱する。次に、装置を2×10-5mbarの残留圧まで減圧する。続いて、酸化アルミニウム(層厚:78nm)、酸化ジルコニウム(層厚:124nm)およびフッ化マグネシウム(層厚:92nm)からなる抗反射層システムを適用する。次に、実施例1に記載のように製造された錠剤を、ボート中、蒸発装置に導入し、480℃に加熱する。錠剤中に存在するPFAは蒸発し、ガラスシート上に沈着し、層を形成する。この操作中、基材の温度は280℃に維持される。被覆されたガラスを、続いて、冷却し、装置から取り出す。基材上の層厚は、15nmと測定される。蒸着疎水性層は強く接着されていて、拭き取りに安定で、耐久性がある。水との接触角は120°であり、乾燥綿布で拭いた後、アルコール浸漬布で拭いた後、温かく湿った大気中に貯蔵した後、または水中で10分間沸騰した後に僅かに変化するのみである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最外層としてアルカリ土類金属フッ化物またはアルカリ金属フッ化物の層を有するか、またはアルカリ土類金属フッ化物またはアルカリ金属フッ化物からなる光学的基材上に、高真空中でのポリフルオロハイドロカーボンを用いる熱蒸着により、疎水性層を製造する方法。
【請求項2】
10-3〜10-5mbarの圧力で蒸着を行う請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリフルオロハイドロカーボンがポリテトラフルオロエチレンまたはパーフルオロアルコキシポリマーである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ポリフルオロハイドロカーボンが多孔質無機モールドに導入される請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ポリフルオロハイドロカーボンまたはモールドが400〜500℃に加熱される請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
最外層としてアルカリ土類金属フッ化物またはアルカリ金属フッ化物の層を有するか、またはアルカリ土類金属フッ化物またはアルカリ金属フッ化物からなる光学的基材の上に疎水性層を製造するための組成物であって、多孔質無機モールドおよび、
(a)金属酸化物または珪酸塩と、ポリフルオロハイドロカーボンの水性懸濁液とを、99:1〜80:20の比で水を添加して、混合し、
(b)ペースト状材料を60〜120℃で乾燥し、続いて、この材料を空気中にて250〜400℃で加熱し、
(c)得られる固形物を造粒および錠剤化する
ことにより得られるポリフルオロハイドロカーボンを含んでなる組成物。
【請求項7】
最外層としてアルカリ土類金属フッ化物またはアルカリ金属フッ化物の層を有するまたはアルカリ土類金属フッ化物またはアルカリ金属フッ化物からなる光学的基材の上に疎水性層を製造するための組成物であって、多孔質電導性無機モールドおよび、
(a)金属酸化物または珪酸塩と、金属粉末およびポリフルオロハイドロカーボンの水性懸濁液とを、90:10:1〜20:80:30の比で水を添加して、混合し、
(b)ペースト状材料を60〜120℃で乾燥し、続いて、この材料を空気中にて250〜400℃で加熱し、
(c)得られる固形物を造粒および錠剤化する
ことにより得られるポリフルオロハイドロカーボンを含んでなる組成物。
【請求項8】
ポリフルオロハイドロカーボンがポリテトラフルオロエチレンまたはパーフルオロアルコキシポリマーである請求項6または7に記載の組成物。
【請求項9】
金属酸化物が、二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウムまたはこれら酸化物の混合物である請求項6〜8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
珪酸塩が珪酸アルミニウムである請求項6または7に記載の組成物。
【請求項11】
金属が珪素、チタンまたはクロムである請求項7に記載の組成物。
【請求項12】
アルカリ金属フッ化物またはアルカリ土類金属フッ化物からなる光学的基材の上に疎水性層を製造するための、ポリフルオロハイドロカーボンの使用。
【請求項13】
最外層がアルカリ金属フッ化物またはアルカリ土類金属フッ化物からなる表面被覆および/または反射低減のための薄層があらかじめ設けられた光学的基材の上に疎水性層を製造するための、ポリフルオロハイドロカーボンの使用。
【請求項14】
請求項8〜11の組成物を用いて高真空中における蒸着が適用される疎水性層を有する光学的基材。

【公開番号】特開2011−201772(P2011−201772A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147248(P2011−147248)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【分割の表示】特願2000−618207(P2000−618207)の分割
【原出願日】平成12年4月26日(2000.4.26)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】