フッ化物結晶成形体からなる光学部材、光学部材を備える光学装置及び紫外線洗浄装置
【課題】フッ化物結晶母材とは異なる形状を有して光学特性に優れたフッ化物結晶成形体を提供する。
【解決手段】フッ化物結晶成形体からなる光学部材は、172nmの波長における厚さ10mmあたりの光透過率が90%以上であり、少なくとも一方向の断面の面積が350×350mm以上である。また、146nmの波長における厚さ10mmあたりの光透過率が85%以上である。さらに、126nmの波長における厚さ10mmあたりの光透過率が65%以上である。
【解決手段】フッ化物結晶成形体からなる光学部材は、172nmの波長における厚さ10mmあたりの光透過率が90%以上であり、少なくとも一方向の断面の面積が350×350mm以上である。また、146nmの波長における厚さ10mmあたりの光透過率が85%以上である。さらに、126nmの波長における厚さ10mmあたりの光透過率が65%以上である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化物結晶成形体を備える光学部材と、この光学部材を用いた光学装置及び紫外線洗浄装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Xeエキシマランプ、Krエキシマランプ、Arエキシマランプ等を用いた各種機器の光学系、特に、波長200nm以下の光を透過する光学系では、フッ化カルシウム等のフッ化物からなる光学部材が用いられている。この光学部材は実質的に単結晶により形成されているものが多い。フッ化物の単結晶を育成するには、ブリッジマン法やチョクラルスキー法などの単結晶育成技術が利用されている。
【0003】
単結晶育成技術を利用して各種の光学部材を作製するには、目的の光学部材より大きな単結晶を育成した後、切断等の加工工程を経て目的の形状にしなければならない。そのため、育成した単結晶より大きな形状の光学部材を製造することは不可能である。具体的には、通常、直径350mmを超える大きさで波長200nm以下の光を透過する大型の光学部材を得ることは困難であった。
【0004】
フッ化物結晶母材を融点より低い温度で変形させる方法が知られている。例えば、下記非特許文献1では、フッ化リチウム及びフッ化カルシウムを鍛造することによる光学特性と機械的特性の変化が評価されている。円柱状のフッ化カルシウム結晶母材を加圧装置内のアッパーラムとロワーラムとの間に配置し、Heガス雰囲気下で510〜750℃の範囲の種々の温度で加熱して、アッパーラムとロワーラムとの間で加圧することによりフッ化物結晶を変形させることが開示されている。また、フッ化リチウム結晶についてもその装置を用いて300〜600℃の範囲で加熱して鍛造したことが開示されている。
【非特許文献1】OPTICAL ENGINEERING, Vol.18 No.6, Nov.-Dec.1979, P602-609
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者の実験によると、上記文献に開示されたような温度などの条件でフッ化物結晶母材を変形させて所定形状に成形すると、光学特性の劣化が激しく、特に、真空紫外域の光の透過率等の低下は顕著であることが分かった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、光学特性に優れたフッ化物結晶成形体を供える光学部材を提供することである。本発明のさらに別の目的は、そのような光学部材を用いた光学装置又は紫外線洗浄装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様に従えば、172nmの波長における厚さ10mmあたりの光透過率が90%以上であり、少なくとも一方向の断面の面積が350×350mm以上であることを特徴とするフッ化物結晶成形体からなる光学部材が提供される。
【0008】
上記光学部材において、146nmの波長における厚さ10mmあたりの光透過率が85%以上であってもよく、また、126nmの波長における厚さ10mmあたりの光透過率が65%以上であってもよい。また、上記光学部材の前記断面の外周の全長が1600mm以上であってもよい。
【0009】
上記光学部材に含有されているアルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素の各濃度が100wtppb以下であると共に、上記光学部材に含有されているCr、Mn、Fe、Co、Ni、Ba、Zn、La、Ce、Pbの各濃度が50wtppb以下であり得る。
【0010】
第2の態様に従えば、上記光学部材と、真空紫外光源とを備え、前記光学部材を前記真空紫外光源が発する真空紫外光の光路に配置したことを特徴とする光学装置が提供される。前記真空紫外光源がXeエキシマランプ、Krエキシマランプ又はArエキシマランプであってもよい。
【0011】
第3の態様に従えば、上記光学部材からなる窓材と、真空紫外光源とを備え、前記真空紫外光源が発する真空紫外光を前記窓材を透過して被洗浄部材に照射することを特徴とする紫外線洗浄装置が提供される。前記真空紫外光源が、Xeエキシマランプ、Krエキシマランプ又はArエキシマランプであってもよい。
【0012】
別の態様に従えば、フッ化物結晶母材を所定形状に成形するフッ化物結晶成形体の製造方法であって、対向する一対の加圧面間に前記フッ化物結晶母材を配置し、該一対の加圧面間に一定荷重を負荷しながら前記フッ化物結晶母材を一定昇温速度で加熱した際、前記フッ化物結晶母材の前記荷重方向における単位時間当たりの変形量が最大となる温度をTとし、該温度Tにおいて前記フッ化物結晶母材に負荷される圧力をPとしたとき、前記フッ化物結晶母材を前記温度T以上で且つフッ化物結晶母材を融点より低い温度で前記圧力P以上に加熱及び加圧することにより該フッ化物結晶母材を変形させることを特徴とするフッ化物結晶成形体の製造方法が提供される。
【0013】
さらなる別の態様に従えば、フッ化物結晶成形体の製造方法であって、フッ化物結晶母材を融点より低い温度で加熱すると共に加圧して再結晶させながら変形させることを特徴とするフッ化物結晶成形体の製造方法が提供される。
【0014】
さらなる別の態様に従えば、上記製造方法により製造されたフッ化物結晶成形体からなる光学部材が提供される。
【0015】
さらなる別態様に従えば、前記光学部材を、波長125nm〜200nmの真空紫外光が透過する光路に配置された光学装置が提供される。
【0016】
さらなる別の態様に従えば、波長125nm〜200nmの真空紫外光を窓材を透過して被洗浄部材に照射する紫外線洗浄装置において、前記窓材として前記光学部材を用いたことを特徴とする紫外線洗浄装置が提供される。
【発明の効果】
【0017】
上記態様の製造方法によれば、フッ化物結晶母材を加圧及び加熱して再結晶させながら変形させているので、フッ化物結晶母材の光学特性を維持しつつフッ化物結晶母材とは異なる所望形状に成形することができる。また、上記態様の製造方法では、フッ化物結晶母材の変形量(変形速度)が最大となる温度条件で加熱及び加圧しているので再結晶を確実に生じさせることができる。
【0018】
また、上記態様の光学部材は、上述のような製造方法により製造されたフッ化物結晶成形体からなるので、光学特性に優れる。また、原料となるフッ化物結晶母材の寸法に制限されずに、所望の寸法に成形されているので、種々の用途に有用となる。
【0019】
更に、上記態様の光学装置は、上記光学部材が、波長125nm〜200nmの真空紫外光が透過する光路に配置されているので、真空紫外光の透過率が高く、真空紫外光を用いる用途に好適である。
【0020】
また、上記態様の紫外線洗浄装置は、上記光学部材を窓材として使用しているので、透過率などの光学特性に優れ且つ透過窓の面積を十分に確保することができる。それゆえ、大型の部材を効率よく光洗浄するために好適である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態の製造方法に用いる成形装置を示す概略断面図である。
【図2】実施の形態の紫外線洗浄装置の洗浄部を示す概略断面図である。
【図3】実施例及び比較例において、200nmから120nmの波長域の透過率を真空紫外域分光光度計で測定した結果を示している。
【図4】実施例及び比較例において、ArFエキシマレーザを照射した後、800nmから200nmの波長域の透過率を測定した結果を示している。
【図5】実施例及び比較例において、フッ化物結晶成形体を加熱加圧する際の温度変化及び変形量を示す図である。
【図6】実施例及び比較例において得られたフッ化物結晶成形体を示し、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図7】実施例及び比較例において、加熱加圧成形時の最大圧力と最高温度との相関と、変形完了時の圧力及び温度との相関を示す図である。
【図8】図7の加熱加圧成形時の最大圧力と最高温度との相関を示す点間を直線で結ぶ図である。
【図9】(a)(b)は実施例5により得られた成形体の上面と下面との写真であり、結晶方位が示されている。
【図10】図9の結晶方位の定義を説明する図である。
【図11】実施例5において成形を行う前の単結晶母材の上面図である。
【図12】フッ化物結晶成形体を望遠鏡の対物レンズに用いた例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。
【0023】
この実施の形態により製造されるフッ化物結晶成形体は、真空紫外光等の光を透過させる目的の各種の光学部材として使用可能な成形体であり、平板形状、球面若しくは非球面の凸形状又は凹形状などの適宜な形状を呈する。
【0024】
このフッ化物結晶成形体を製造するには、予め形成されたフッ化物結晶母材を加熱及び加圧して成形することにより製造する。
【0025】
フッ化物結晶母材とは、例えば、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、フッ化ランタン、フッ化セリウム、フッ化イットリウム等の結晶体である。真空紫外光に対する透過率等の光学特性に優れているという理由で、フッ化カルシウムが好適である。
【0026】
フッ化物結晶母材は、製造される成形体に要求される透過率等の光学特性を予め備えているものが好適である。成形過程において光学特性を向上させることが容易でないからである。
【0027】
このフッ化物結晶母材は、単結晶体又は多結晶体の何れでもよいが、優れた光学特性を得るためには単結晶体であることが好ましい。ここで、フッ化物結晶母材が単結晶体であるとは、実質的に単結晶体であれば足り、わずかに双晶などを含んでいてもよい。単結晶は、例えば、ブリッジマン法、チョクラルスキー法等の単結晶育成技術を用いて得られる。
【0028】
フッ化物結晶母材の成形は、融点より低い温度で行う。例えば、フッ化カルシウムの融点は約1350℃と報告されている。融点以上の温度に加熱して液相を生じさせると、液相が凝固する際に新たな結晶が乱雑に形成され、得られる成形体の光学特性が著しく悪化するため好ましくない。この成形では、フッ化物結晶母材を加熱及び加圧することで、固相のまま再結晶による変形を開始させ、その後、更に所定形状まで変形させる。
【0029】
ここで、再結晶による変形とは、再結晶させつつ変形させることである。一般に、金属やセラミックスなどの結晶材料を融点以下のある温度まで加熱すると、急激に軟化し、変形した結晶が、多角形の細粒に分割結晶する。圧延などの機械加工を行なった場合には、それによって増加していた転位も、上記加熱により消滅し、結晶粒は内部歪(内部応力)を持たない安定したものとなる。この現象を再結晶と呼ぶ。
【0030】
この実施形態ではフッ化物結晶母材を変形させるために、所定温度の下で加圧しながら再結晶させる。すなわち、フッ化物結晶母材を加熱のみで再結晶させるのではなく、一定の温度以上でフッ化物結晶母材を加圧しながら再結晶させることで、フッ化物結晶母材を真空紫外域の光透過率などの光学特性を劣化させることなく変形することができる。後述する実施例のように、圧力が高い程、低い温度で変形速度が大きくなることなどから、再結晶による変形を開始させるために十分な温度は、圧力との相関を有することが推測できる。そのため、温度と圧力とを組み合わせることで、再結晶による変形を開始させる。なお、再結晶の開始点を精密に特定することは困難であるため、確実に再結晶による変形が起こる温度及び圧力で変形を開始させればよい。
【0031】
温度又は圧力の少なくとも一方が低すぎる条件でフッ化物結晶母材を変形させた場合には、再結晶による変形ではなく結晶構造の滑りによる変形が起こると考えられる。滑りによる変形が起こると、変形に伴って結晶中に格子欠陥を生じ、透過率等の光学特性が低下してしまう。
【0032】
本発明者の知見によると、確実に再結晶による変形が起こる温度及び圧力は以下のように求めることができることが分かった。すなわち、一定荷重を負荷しながらフッ化物結晶母材を一定昇温速度で加熱した際、フッ化物結晶母材の荷重方向における単位時間当たりの変形量(荷重方向における単位時間当たりの長さの変化量)が最大値(以下、適宜「最大変形速度」という)となる温度T(以下、適宜、最大変形温度という)を測定する。この最大変形温度では、次の理由から、フッ化物結晶母材の再結晶が生じていると考えられる。フッ化物結晶母材の加圧による変形は、滑りの現象、すなわち、結晶の転位が結晶面上をすべることによって起こることが知られている。滑りが起こるための活性化エネルギーは比較的小さいため、温度依存性も少ない。それゆえ、比較的低温でも、結晶に応力をかけることにより起こる。一方、再結晶は、前述のように、その結晶に含まれる転位が加熱により再配列して、結晶核が生成し、結晶核が粒成長する現象である。再結晶が生じるための活性化エネルギーは、比較的高いために温度依存性が大きい。このため、高温では、再結晶の反応速度が大きくなる。従って、結晶を加圧して変形させる場合に、結晶の温度上昇に対して単位時間当たりの変形量が余り変化しないのであれば、滑りによる変形が起こっていると考えられる。これに対して、温度上昇により、単位時間当たりの結晶の変形量が大きく変わっている温度領域、例えば、後述する図5の容積変化曲線Vにおける変曲点付近の温度領域では、再結晶が起こっていると考えられる。このようにして、発明者は、フッ化物結晶母材の再結晶が、最大変形温度では確実に生じていると推論している。
【0033】
フッ化物結晶母材が再結晶を通じて変形したかどうかは、変形後の結晶方向を観察することによって検証することができる。例えば、図11に示すような変形前の単結晶のフッ化物結晶母材の表面は、再結晶を経た変形が生じることによって、図9(a)に示すように、多数の結晶粒界が認められる。図9(a)には、ラウエ法によって特定される結晶粒の結晶方位を書き添えたが、それらの結晶方位がランダムであることから、多結晶体が生じていることが分かる。このように、成形体をフッ化物結晶母材を観察することによって、再結晶が起きたことが確認できる。これに対して、再結晶が起こらずに滑りのみでフッ化物結晶母材が変形した場合にはすべり帯や結晶の回転により生成された亜粒界が観察されるが結晶粒界は認められない。
【0034】
更に、フッ化物結晶母材がフッ化カルシウムからなる場合、上記のような加熱及び加圧下で再結晶を確実に起こさせるには、後述する実施例の結果に基づいて、次式(1)〜(4)のいずれかを満たす温度T及び圧力Pとしてもよい。
【0035】
T≧1125℃ かつ P≧6.9MN/m2 かつ -11.5×P(MN/m2)+1285 < T(℃)・・・(1)
T≧970℃ かつ P≧13.9MN/m2 かつ -22.3×P(MN/m2)+1435 < T(℃)・・・(2)
T≧968℃ かつ P≧20.8MN/m2 かつ -0.289×P(MN/m2)+976 < T(℃)・・・(3)
T≧883℃ かつ P≧27.7MN/m2 かつ -12.2×P(MN/m2)+1306 < T(℃)・・・(4)
【0036】
このような温度T及び圧力Pにフッ化物結晶母材を加熱及び加圧するには、フッ化物結晶母材の破損を防止し易いなどの理由で、フッ化物結晶母材を加熱して昇温させてから加圧を開始するのがよく、特に、温度Tまで加熱してから加圧を開始するのが好適である。
【0037】
加圧を開始することでフッ化物結晶母材の変形が開始されるが、このとき、温度T及び圧力Pには遅くともフッ化物結晶母材の変形途中の時点で到達させることが好ましい。仮に、再結晶が始まる前に、滑りによる変形で結晶構造に乱れを生じたとしても、その後に再結晶による変形期間を経過させることで改善できるからである。好ましくは、変形の開始時点で温度T及び圧力Pに到達させることが好適である。結晶構造の滑りによる変形を防止して、優れた光学特性を得やすくできるからである。
【0038】
再結晶による変形を開始させた後は、更に所定形状まで変形させる。このとき、再結晶による変形を開始させた後、そのまま引き続いて加圧を継続して所定形状まで変形させることが好ましい。再結晶による変形を開始させた後には、加圧による変形を継続する限り、得られる成形体の光学特性を十分に高く確保し易いからである。この理由は、明確ではないが、再結晶による変形が結晶構造の滑りによる変形とは同時に起こらずに再結晶による変形が継続するか、あるいは、滑りと再結晶が同時に起こったとしてもその後に滑りの生じた部分が再結晶により結晶粒に置き換わるためであると推測される。
【0039】
この実施の形態では、このようなフッ化物結晶母材の成形を行うために、例えば図1に示すような成形装置を用いることができる。
【0040】
図1の成形装置では、ステンレス容器からなるチャンバー10の内部に、フッ化物結晶母材11を収容して加圧可能な成形型13が配置されている。成形型13は、グラファイト製であり、円筒型15と、円筒型15の一方の端部開口を閉塞する下型17と、円筒型15の他方の端部開口から内部空間に収容されて摺動可能に配置された加圧型19とを備える。
【0041】
ここでは、下型17が支持ロッド21を介して支持部23で支持され、加圧型19が加圧ロッド25を介して加圧駆動部27に連結されている。下型17の加圧型19側の表面と、加圧型19の下型17側の表面とが対向して加圧面を構成している。
【0042】
この成形型13は、通気性を有する断熱材からなる断熱枠31内に収容されている。断熱枠31内に発熱体33が配置されてチャンバー10内が加熱可能であり、成形型13を含む断熱枠31内の温度を温度検出部35により検出し、検出された温度に基づいて、発熱体33の加熱を精度よく制御することができる。
【0043】
また、チャンバー10は気密性を有しており、支持ロッド21及び加圧ロッド25は気密シール部23a、27aにより気密性を確保して貫通配置されている。チャンバー10には雰囲気ガス導入部37及び真空排気部39とが接続されており、雰囲気ガス導入部37から不活性ガスが導入可能であると共に、真空排気部39から排気可能となっている。
【0044】
この成形装置では、成形型13がグラファイトにより構成されている。グラファイトは灰分10wtppmを上回る一般純度のものではなく、灰分10wtppm以下の高純度のもの、特に2wtppm以下の超高純度のものを用いることが好ましい。得られるフッ化物結晶成形体への成形型13からのアルカリ金属およびアルカリ土類金属元素の浸透を浅くできるからである。
【0045】
フッ化物結晶成形体へ浸透したアルカリ金属およびアルカリ土類金属元素は、フッ化物結晶成形体の表面を除去することでフッ化物結晶成形体から除去可能であるが、成形型13に灰分10wtppm以下の高純度のグラファイトを用いることで、切除する厚さを5mm程度に抑えることができる。
【0046】
このような成形装置を用いてフッ化物結晶母材11を成形するには、まず、成形型13内にフッ化物結晶母材11を収容する。成形型13内にフッ化物結晶母材11を収容した状態では、下型17の加圧型19側の表面及び/又は加圧型19の下型17側表面の各中心部に局所的に当接した状態で配置される。この状態で、成形型13を断熱枠31内に配置し、下型17を支持ロッド21で支持すると共に、加圧型19に加圧ロッド25を接続し、チャンバー10を密閉する。
【0047】
その後、真空排気部39から真空引きして排気し、チャンバー10内を低圧状態として成形を開始してもよいが、好ましくは、排気後に雰囲気ガス導入部37から不活性ガスを導入し、チャンバー10内を不活性ガス雰囲気とする。チャンバー10内を不活性ガス雰囲気とすると、チャンバー10内を単に低圧状態にして成形する場合に比べ、得られるフッ化物結晶成形体に混入する不純物を少なく抑え易いからである。この不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガスなどが挙げられる。
【0048】
次いで、チャンバー10内雰囲気を維持しつつ加熱及び加圧してフッ化物結晶母材11を変形させる。成形工程の前に、再結晶による変形を確実に生じさせることができる所定温度及び所定圧力を予め測定して、そのような温度及び圧力を設定しておく。本発明者の知見に基づいて、上述のような最大変形速度を示す温度(最大変形温度)T及びそのときの圧力Pとしてもよい。
【0049】
この実施の形態では、まず、温度検出部35により温度を検出しつつ断熱枠31内に発熱体33を発熱させることで、フッ化物結晶母材11を加熱して所定温度まで昇温させる。そして、昇温後、この温度を維持して加圧を開始する。加圧は、支持ロッド21を介して支持部23により下型17及び筒状型15を支持した状態で、加圧ロッド25を介して加圧駆動部27により加圧型19を下型17側に圧縮することで行い、加圧型19に一定の荷重を負荷した状態を維持することで行う。
【0050】
ここでは、加圧開始時にフッ化物結晶母材11に所定圧力が負荷されて、上述のような最大変形速度を生じる温度及び圧力に達していれば、フッ化物結晶母材11の変形開始時点から再結晶による変形が起こると考えられる。
【0051】
その後、発熱体33の発熱量を制御してフッ化物結晶母材11の温度を維持しつつ、加圧型19に一定の荷重を負荷した状態を維持することで、変形を進行させる。変形期間中、加圧型19とフッ化物結晶母材11との接触面積が増加することで、フッ化物結晶母材11に負荷される圧力は徐々に低下するが、再結晶による変形を開始させた後は、そのまま引き続いて加圧を継続させ、所定形状まで変形させる。一旦再結晶による変形を開始した後は、変形の終了時点では、再結晶による変形の条件を満たさない圧力となっていてもよい。
【0052】
所定形状まで変形させた後、室温まで徐冷して成形装置から取り出し、必要に応じて各種の加工を施すことで、フッ化物結晶成形体の製造を完了する。
【0053】
この実施の形態では、成形完了後、成形型13に接触していたフッ化物結晶成形体の表面を除去する加工を施す。これにより成形型13のグラファイトからフッ化物結晶成形体へ浸透したアルカリ金属およびアルカリ土類金属元素を除去し、フッ化物結晶成形体中のアルカリ金属およびアルカリ土類金属元素の各々の濃度を10wtppb以下にすることができる。
【0054】
更に、フッ化物結晶母材11として用いた材料が単結晶体のように不純物の含有量の少ないものである場合、得られたフッ化物結晶成形体に含有されるCr、Mn、Fe、Co、Ni、Ba、Zn、La、Ce、Pbの各濃度を50wtppb以下にすることが可能である。
【0055】
また、フッ化物結晶成形体が厚さの一様な板状部材である場合、その厚さの変動幅を1mm以下とし、そりを0.5%以下とし、表面粗さRaを50nm以下とするように、例えば、大型オスカー型研磨機にて#1200の砥粒で両面をラップし、続いて酸化セリウムで研磨し、この後、洗浄、ならびに乾燥を行うことで、光学部材を製造することができる。
【0056】
このように製造された光学部材では、変形前のフッ化物結晶母材11の結晶構造である母結晶を除く結晶粒の粒径が20mm以下の均一なものとなっている。
【0057】
また、126nmの波長における厚さ10mmあたりの初期透過率が65%以上、146nmの波長における厚さ10mmあたりの初期透過率が85%以上、及び/又は、172nmの波長における厚さ10mmあたりの初期透過率が90%以上の優れた光学特性を有している。
【0058】
そのため、波長125nm〜200nmの真空紫外光を放出するエキシマランプ装置に用いることができる。
【0059】
また、このような光学部材の形状は、用いたフッ化物結晶母材11とは異なる形状を有している。成形型13の形状を適宜選択することで、例えば、少なくとも一方向の断面の面積が350×350mm以上であるような形状にすることができ、また、その断面の外周の全長が1600mm以上となるようにすることができ、更に、その断面と直交する方向の厚さが3〜20mmとなるようにすることができる。
【0060】
以上のようなフッ化物結晶成形体の製造方法によれば、フッ化物結晶母材11を加熱及び加圧して変形させるので、フッ化物結晶母材11とは異なる形状に成形でき、単結晶の育成により直接作製できないような大型の部材であっても容易に製造することができる。
【0061】
そして、成形の際、フッ化物結晶母材11を加圧して再結晶による変形を開始させ、その後、所定形状まで変形させるので、結晶構造の滑りによる変形や溶融状態での変形のように結晶構造が激しく乱れることを防止できる。特に、結晶構造の滑りによる変形と再結晶による変形とは同時に起こり得ないため、結晶構造の滑りによる変形のように、結晶構造内に多数の欠陥が生じて光学特性、特に、真空紫外域の光透過率が悪化するようなことがなく、優れた光学特性を備えたフッ化物結晶成形体を容易に製造することが可能である。
【0062】
次に、このようにして得られたフッ化物結晶成形体を、紫外線洗浄装置に用いる例について説明する。図2は紫外線洗浄装置を示す。
【0063】
紫外線洗浄装置60は、気密に構成されて複数の光源61が配設された光源部63と、光源部63と組み合わされて気密に構成され、内部に被洗浄物73を収容可能な被洗浄物収容部71とからなる。
【0064】
光源部63と被洗浄物収容部71とは開口部65を介して隣接しており、この開口部65に前記のようにして製造されたフッ化物結晶成形体からなる窓材50が装着されている。窓材50が開口部65の全周に気密にシールされた状態で装着されることで、光源部63の内部と被洗浄物収容部71の内部とは独立に気密性が確保されている。
【0065】
ここで光源61としては、例えば、波長125nm〜200nmの真空紫外光を照射するXeエキシマランプ、Krエキシマランプ又はArエキシマランプ等の真空紫外光源が用いられる。これらの光源61は通常チューブ状の放電管であるため、大面積へ均一な照度で照射を行うために、必要に応じて複数の光源を並列に配置することが好ましい。なお、光源61と窓材50との距離は概ね数十mm程度である。
【0066】
被洗浄物収容部71には、内部に支持部材75が設けられており、支持部材75上に被洗浄物73が載置されることで、窓材50を介して光源61と対面するように構成されている。被洗浄物73は、例えば大口径の半導体ウェハや液晶ディスプレイ用ガラス基板等である。この被洗浄物73と窓材50との距離は概ね数十mm程度である。
【0067】
この紫外線洗浄装置60では、被洗浄物73が被洗浄物収容部71に収容されて、光源部63と被洗浄物収容部71とがそれぞれ気密に閉塞された状態で、窓材50を介して光源61から被洗浄物73へ光を照射することで光洗浄が行われる。
【0068】
洗浄時には、酸素等の残留ガスによる光線の減衰を抑制し、かつ光照射によって生じるオゾン等の活性種による光源61の消耗を防止するため、図示しないガス供給手段及び排気手段を用いて、光源部63の内部が窒素等の不活性ガスによって置換されている。
【0069】
このような紫外線洗浄装置60によれば、光源部63と被洗浄物73との間に配置する窓材50として、フッ化物結晶成形体を用いているので、真空紫外光が高い透過率で透過でき、被洗浄物73を有効に洗浄することが可能である。
【0070】
そして、この窓材50がフッ化物結晶母材11から板状に成形されたものであり、1枚の窓材50により透過面の面積が十分に広く形成されているため、大型の被洗浄物73を洗浄する場合であっても、一つの開口部65に1枚の窓材50を配置して構成することが可能である。そのため、従来のように小型の窓材を複数組み合わせて大きな面積の窓を構成する場合に比べ、組み合わせのための接合部材や桟状支持部材等が不必要であり、これらの部材の影部分に光線が照射されないとう問題を回避できる。また、窓材50と開口部65との間のシール長を短くすることができるため、光源部63や被洗浄物収容部71の気密性を確保し易い。
【0071】
従って、このような紫外線洗浄装置60によれば、直径300mmを超える半導体ウェハや大面積の液晶ディスプレイ用基板等の大型の被洗浄物73を効率よく洗浄し易く、しかも、気密性を確保して耐久性を向上することが容易である。
【0072】
また、得られたフッ化物結晶成形体を、例えば、地上用や人工衛星用の天体望遠鏡などの光学装置系に使用することができる。例えば、図12の概念図に示したように、対物レンズ102と接眼レンズ104を鏡筒106に支持して備える望遠鏡100の対物レンズ102として、フッ化物結晶成形体を用いることができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例について説明する。
【0074】
[実施例1]
<フッ化カルシウム結晶母材の準備>
ブリッジマン法で育成された実質的に単結晶体であるフッ化カルシウムインゴットを用意し、その一部から、直径30mm厚さ10mmの円柱形状のサンプルを切り出した。このサンプルの厚さ方向の向かい合う2面を、平行度が10秒以内、片面ごとの平坦度がニュートンリング6本以内、片面ごとの表面粗さ(rms)が10オングストローム以下になるように精密研磨を施し、さらに表面吸収の原因となる研磨剤が残留しないように、高純度SiO2粉による仕上げ研磨加工を施した。
【0075】
このサンプルの200nmから120nmの波長域の透過率を真空紫外域分光光度計で測定した。結果を図3に線Aで示す。ここでは、波長126nmにおける反射含み透過率が65%以上であり、146nmの波長における光透過率が85%以上であり、172nmの波長における光透過率が90%以上であることを確認した。
【0076】
次に、このサンプルに、エネルギー密度50mJ/cm2/パルスのArFエキシマレーザを105パルス照射した後、800nmから200nmの波長域の透過率を測定した。結果を図4に線Aで示す。
【0077】
次に、このサンプルとは別に、単結晶体のインゴットから直径150mm、厚さ250mmのブロックを切り出し、メタノールなどのアルコールで表面の汚れを取り除いて、結晶母材11とした。
【0078】
<加熱加圧成形>
図1に示すような成形装置を用いて、結晶母材11の成形を行った。
【0079】
結晶母材11を、カーボン製の成形型13内の直径500mm、高さ300mmの内部に収容し、下型17の中央に載置すると共に加圧型19を頂部に当接させた。ステンレス製のチャンバー10を密閉し、真空排気部39から排気して10−1Pa以下にした後、雰囲気ガス導入部37からN2ガスを導入して内部を0.92MPaの窒素雰囲気に維持した。
【0080】
次に、発熱体33により加熱すると共に、加圧ロッド25により荷重を負荷して、加熱及び加圧することにより成形を行い、変形量を測定した。この成形時の温度変化を図5の線Tで示し、変形量を図5の線Vで示した。なお、加圧期間を図5の上部に付記した。
【0081】
この加熱加圧成形では、まず、発熱体(ヒータ)33により加熱し、成形型13を収容している断熱枠31内の温度を一定の昇温速度で昇温させ、20℃に達した時点で加圧を開始した(図5には、20℃に達するまでの過程は省略した)。加圧期間中の加圧ロッド25に負荷する荷重は38tonで一定荷重とした。
【0082】
この状態で一定荷重を加圧ロッド25に負荷しつつ一定の昇温速度で昇温を続けることにより、結晶母材11を変形させた。変形期間中、荷重方向の単位時間当たりの変形量は徐々に増加し、加熱開始後190分で単位時間当たりの変形量の増加は終了し、単位時間当たりの変形量が最大での温度は1000度であった。
【0083】
その後、結晶母材11の温度が1000℃に達した後、変形が完了するまでの間、1000℃で維持し、加圧を引き続き継続し、加熱開始後270分程度で変形が終了した。その後、室温まで徐冷して結晶成形体を取り出した。得られた結晶成形体は、直径500mm、高さ22mmであった。
【0084】
<光学特性の評価>
図6に示すように、得られた結晶成形体51の周辺部から直径30mm厚さ10mmの成形サンプル53を採取した。この成形サンプル53の厚さ方向に向かい合う2面を、平行度が10秒以内、片面ごとの平坦度がニュートンリング6本以内、片面ごとの表面粗さ(rms)が10オングストローム以下になるように精密研磨を施し、更に、表面吸収の原因となる研磨剤が残留しないように、高純度SiO2粉による仕上げ研磨加工を施した。
【0085】
この成形サンプルの200nmから120nmの波長域の透過率を真空紫外域分光光度計で測定した。結果を図3の線Bに示す。この成形サンプルは、126nmの波長における反射含み透過率が65%以上であり、146nmの波長における光透過率が85%以上であり、172nmの波長における光透過率が90%以上であることが分かった。
【0086】
次に、この成形サンプルにエネルギー密度50mJ/cm2/パルスのArFエキシマレーザを105パルス照射した後、800nmから200nmの波長域の透過率を測定した。その結果を、図4の線Bに示した。透過率の測定結果から、成形サンプルは、成形前の結晶母材11と略同等の透過率を有し、成形に伴う誘起吸収の増加が抑制されたことが分かった。
【0087】
次に、この成形サンプルに含有されているアルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素の各濃度を測定したところ、それぞれ100wtppb以下であった。また、この成形サンプルに含有されているCr、Mn、Fe、Co、Ni、Ba、Zn、La、Ce、Pbの各濃度を測定したところ、それぞれ50wtppb以下であった。
【0088】
<板材の採取>
得られた成形体から、350mm角の窓材50を切り出し、図2に示すような紫外線洗浄装置の開口50に窓材50として装着した。この紫外線洗浄装置を用いて、洗浄対象物に、紫外線を窓材50を介して照射することで洗浄することができた。
【0089】
[実施例2]
フッ化カルシウム結晶母材11に負荷する荷重を変えた他は、実施例1と同様にして、用意した5つのフッ化カルシウム結晶母材(No.1−No.5)を5種類の荷重の下で成形した。これらの荷重での成形条件について、元の結晶母材11の形状と変形量とから結晶母材11の受圧面積を算出し、この受圧面積と加圧ロッド25に負荷されている荷重とから各時点における圧力を算出した。そして単位時間当たりの変形量が最大となったときの温度(最大変形温度)と圧力を5つの結晶母材No.1−5について以下の表に示す。
【表1】
図7に、これらの結晶母材について得られた最大変形温度とその圧力の関係を点
◆で示し、それらの点から最小二乗法による近似直線Fを作成した。なお、結晶
母材の変形が進むと、一定荷重を受けている結晶母材の部分の面積が増加するので、圧力は徐々に低下する。それゆえ、変形(成形)完了時点の圧力と温度を図7に点■で示し、それらの点から最小二乗法による近似直線Lを作成した。
【0090】
この結果から、単位時間当たりの変形量が最大となった時点の圧力Pと温度Tとの間の相関は、圧力が高い程、低い温度となっていることが明らかになった。
【0091】
また、図7に示した各◆点をつなぐ直線は、図8に示すように以下の式(5)〜(8)で表される。
【0092】
1125≦T≦1205(℃):
−11.5×P(MN/m2)+1285=T(℃)・・・(5)
970≦T≦1125(℃):
−22.3×P(MN/m2)+1435=T(℃)・・・(6)
968≦T≦970(℃):
−0.289×P(MN/m2)+976=T(℃)・・・(7)
883≦T≦968(℃):
−12.2×P(MN/m2)+1306=T(℃) ・・・(8)
【0093】
したがって、結晶母材11としてフッ化カルシウム結晶を用いる場合、結晶母材11に負荷する圧力P及び温度Tが少なくとも式(5)〜(8)の何れかの条件を満たすような変形条件を設定すれば、結晶母材11は再結晶による変形を開始するので、透過率の低下や誘起吸収の増大といった光学特性の劣化を抑制しつつ、所望の形状に成形することが可能となる。
【0094】
結晶母材No.1〜No.5について、それぞれ、成形後の結晶の上面及び下面を観察した。いずれも、成形体の上面及び下面には、多数の結晶粒界が認められた(図9(a)及び(b)参照)。また、結晶方位を単結晶方位迅速測定装置RASCO(株式会社リガク製)により測定した。この結果、成形体の結晶粒の結晶方位がランダムであったことから、多結晶体となっていることが分かった。このことは、再結晶が起きたことを示す。
【0095】
また、圧力が大きく温度が高いほど再結晶が起こりやすいことは明らかであるから、結晶母材11に負荷する圧力P及び温度Tが、式(5)〜(8)で表される境界値よりも高圧・高温側の領域においても、同様に再結晶が確実に生じていると考えられるので、実施形態の方法に従い再結晶による変形を開始させることができる。すなわち結晶母材11に負荷する圧力P及び温度Tが式(1)〜(4)の何れかの条件を少なくとも満たすように設定した場合にも、同様に再結晶による変形を開始させることができる。ここで式(1)〜(4)における温度Tは結晶母材11の融点よりも低い範囲とし、また圧力Pは、温度Tにおいて結晶母材11が座屈等の機械的破壊を起こさない範囲とすることが望ましい。
【0096】
[実施例3]
実施例3ではフッ化カルシウム結晶母材11を1050℃に加熱した後、38tonの荷重を負荷し、温度及び荷重を一定に保ったまま結晶母材11を目的形状まで連続的に変形させた。このとき変形開始時の圧力は21.1MN/m2であった。この圧力及び温度の値を図8に示した(Ex.3)。その他の条件は実施例1と同様にして、結晶成形体51を作製し、得られた結晶成形体51から成形体測定用サンプル53を作製した。
【0097】
成形体測定用サンプル53に193nmの波長のArFエキシマレーザを1パルスあたりのエネルギー密度50mJ/cm2で105パルス照射した後、800nmから200nmの波長域の透過率を測定した。結果を図4に線Eで示した。
【0098】
実施例3における加熱温度及び変形開始時の圧力の値は式(2)及び(3)を満たしており、この条件で再結晶による変形を開始させたことにより、誘起吸収の増大を抑制しつつ、結晶母材を所望形状に成形することができることが分かった。
【0099】
[実施例4]
実施例4では結晶母材11を1100℃に加熱した後、27tonの荷重を負荷し、温度及び荷重を一定に保ったまま結晶母材11を目的形状まで連続的に変形させた。このとき変形開始時の圧力は15.0MN/m2であった。この圧力及び温度の値を図8に示した(Ex.4)。その他の条件は実施例1と同様にして、結晶成形体51を作製し、得られた結晶成形体51から成形体測定用サンプル53を作製した。
【0100】
成形体測定用サンプル53に193nmの波長のArFエキシマレーザを1パルスあたりのエネルギー密度50mJ/cm2で105パルス照射した後、800nmから200nmの波長域の透過率を測定した結果を図4に線Fで示した。
【0101】
実施例4における加熱温度及び変形開始時の圧力の値は式(2)を満たしており、この条件で再結晶による変形を開始させたことにより、誘起吸収の増大を抑制しつつ、結晶母材を所望形状に成形することができることが分かった。
【0102】
[比較例1、2]
加熱加圧成形時の結晶母材11に負荷する圧力及び温度を、比較例1では600℃、38ton、比較例2では600℃、76tonとした他は、実施例3と同様にして、結晶成形体51を作製し、得られた結晶成形体51から成形体測定用サンプル53を作製した。変形開始時の圧力は比較例1では21.1MN/m2であり、比較例2では42.2MN/m2であった。この圧力及び温度の値を図8に示した(Com.1,Com.2)。
【0103】
各成形体測定用サンプル53の300nmから120nmの波長域の透過率を真空紫外域分光光度計で測定した結果を図3に示し、193nmの波長のArFエキシマレーザを1パルスあたりのエネルギー密度50mJ/cm2で105パルス照射した後、800nmから200nmの波長域の透過率を測定した結果を図4に示した。図4中、線Cは、比較例1の結果を示し、線Dは、比較例2の結果を示す。
【0104】
比較例1、2のように低温で成形した成形体は、図3に示すように短い波長の光の透過率が低く、また、図4に示すようにArFエキシマレーザの照射により誘起吸収が大きくなっており、結晶構造の欠陥が多いことが示唆された。
【0105】
[実施例5]
次に、直径30mm、高さ50mmのフッ化カルシウム単結晶母材から直径50mm、高さ20mmの成形体を成形し、再結晶による変形が起こっているかを確認した。
【0106】
成形は、加圧ロッド25により負荷する荷重を1.5tonとする他は、実施例1と同様にして行った。単位時間当たりの変形量が最大となる温度は970度で、そのときの圧力は20.8MN/m2であり、30分の成形時間で成形が完了した。この結果は、実施例2における圧力が20.8MN/m2の場合と同様の結果であった。
【0107】
得られた成形体の上面の写真を図9(a)、下面の写真を(b)に示す。この写真では、結晶粒を視認し易くするために粒界を鉛筆でなぞった。ラウエ法により特定される結晶方位を単結晶方位迅速測定装置RASCO(株式会社リガク製)を用いて測定した。図中に、結晶方位を矢印及び数値にて示している。なお、参考に示した成形前の単結晶母材には、図11に示すように、粒界は全く見られない。
【0108】
図9(a)及び(b)から明らかなように、単結晶母材から得られた成形体には、多数の結晶粒界が認められ、それぞれの結晶粒についての結晶方位がランダムであることから、多結晶体となっており、再結晶が起きたことが明らかに確認できた。実施例2の結晶母材No.1〜No.5から得られた成形体でも図9(a)及び(b)に示すような様子が観察された。
【0109】
なお、図中の結晶方位の数値は、図10に示すように、表面の(111)面からのずれ角度αであり、矢印の向きは<111>軸をxy平面へ投影したときのx軸からの方位角βを示している。
【0110】
上記実施例では、フッ化カルシウム結晶母材を成形する例を挙げて説明したが、その他のフッ化物結晶母材でも上記実施例を変形させて製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
フッ化カルシウム結晶母材の光学特性を劣化させることなく容易に所望の形状のフッ化カルシウム結晶母材を成形することできる。得られた成形体は、真空紫外光を使用する光学装置や光洗浄装置の光学部品として極めて有用である。
【符号の説明】
【0112】
10 チャンバー
11 フッ化物結晶母材
13 成形型
17 下型
19 加圧型
23 支持部
27 加圧駆動部
33 発熱体
50 窓材
60 紫外線洗浄装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化物結晶成形体を備える光学部材と、この光学部材を用いた光学装置及び紫外線洗浄装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Xeエキシマランプ、Krエキシマランプ、Arエキシマランプ等を用いた各種機器の光学系、特に、波長200nm以下の光を透過する光学系では、フッ化カルシウム等のフッ化物からなる光学部材が用いられている。この光学部材は実質的に単結晶により形成されているものが多い。フッ化物の単結晶を育成するには、ブリッジマン法やチョクラルスキー法などの単結晶育成技術が利用されている。
【0003】
単結晶育成技術を利用して各種の光学部材を作製するには、目的の光学部材より大きな単結晶を育成した後、切断等の加工工程を経て目的の形状にしなければならない。そのため、育成した単結晶より大きな形状の光学部材を製造することは不可能である。具体的には、通常、直径350mmを超える大きさで波長200nm以下の光を透過する大型の光学部材を得ることは困難であった。
【0004】
フッ化物結晶母材を融点より低い温度で変形させる方法が知られている。例えば、下記非特許文献1では、フッ化リチウム及びフッ化カルシウムを鍛造することによる光学特性と機械的特性の変化が評価されている。円柱状のフッ化カルシウム結晶母材を加圧装置内のアッパーラムとロワーラムとの間に配置し、Heガス雰囲気下で510〜750℃の範囲の種々の温度で加熱して、アッパーラムとロワーラムとの間で加圧することによりフッ化物結晶を変形させることが開示されている。また、フッ化リチウム結晶についてもその装置を用いて300〜600℃の範囲で加熱して鍛造したことが開示されている。
【非特許文献1】OPTICAL ENGINEERING, Vol.18 No.6, Nov.-Dec.1979, P602-609
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者の実験によると、上記文献に開示されたような温度などの条件でフッ化物結晶母材を変形させて所定形状に成形すると、光学特性の劣化が激しく、特に、真空紫外域の光の透過率等の低下は顕著であることが分かった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、光学特性に優れたフッ化物結晶成形体を供える光学部材を提供することである。本発明のさらに別の目的は、そのような光学部材を用いた光学装置又は紫外線洗浄装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様に従えば、172nmの波長における厚さ10mmあたりの光透過率が90%以上であり、少なくとも一方向の断面の面積が350×350mm以上であることを特徴とするフッ化物結晶成形体からなる光学部材が提供される。
【0008】
上記光学部材において、146nmの波長における厚さ10mmあたりの光透過率が85%以上であってもよく、また、126nmの波長における厚さ10mmあたりの光透過率が65%以上であってもよい。また、上記光学部材の前記断面の外周の全長が1600mm以上であってもよい。
【0009】
上記光学部材に含有されているアルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素の各濃度が100wtppb以下であると共に、上記光学部材に含有されているCr、Mn、Fe、Co、Ni、Ba、Zn、La、Ce、Pbの各濃度が50wtppb以下であり得る。
【0010】
第2の態様に従えば、上記光学部材と、真空紫外光源とを備え、前記光学部材を前記真空紫外光源が発する真空紫外光の光路に配置したことを特徴とする光学装置が提供される。前記真空紫外光源がXeエキシマランプ、Krエキシマランプ又はArエキシマランプであってもよい。
【0011】
第3の態様に従えば、上記光学部材からなる窓材と、真空紫外光源とを備え、前記真空紫外光源が発する真空紫外光を前記窓材を透過して被洗浄部材に照射することを特徴とする紫外線洗浄装置が提供される。前記真空紫外光源が、Xeエキシマランプ、Krエキシマランプ又はArエキシマランプであってもよい。
【0012】
別の態様に従えば、フッ化物結晶母材を所定形状に成形するフッ化物結晶成形体の製造方法であって、対向する一対の加圧面間に前記フッ化物結晶母材を配置し、該一対の加圧面間に一定荷重を負荷しながら前記フッ化物結晶母材を一定昇温速度で加熱した際、前記フッ化物結晶母材の前記荷重方向における単位時間当たりの変形量が最大となる温度をTとし、該温度Tにおいて前記フッ化物結晶母材に負荷される圧力をPとしたとき、前記フッ化物結晶母材を前記温度T以上で且つフッ化物結晶母材を融点より低い温度で前記圧力P以上に加熱及び加圧することにより該フッ化物結晶母材を変形させることを特徴とするフッ化物結晶成形体の製造方法が提供される。
【0013】
さらなる別の態様に従えば、フッ化物結晶成形体の製造方法であって、フッ化物結晶母材を融点より低い温度で加熱すると共に加圧して再結晶させながら変形させることを特徴とするフッ化物結晶成形体の製造方法が提供される。
【0014】
さらなる別の態様に従えば、上記製造方法により製造されたフッ化物結晶成形体からなる光学部材が提供される。
【0015】
さらなる別態様に従えば、前記光学部材を、波長125nm〜200nmの真空紫外光が透過する光路に配置された光学装置が提供される。
【0016】
さらなる別の態様に従えば、波長125nm〜200nmの真空紫外光を窓材を透過して被洗浄部材に照射する紫外線洗浄装置において、前記窓材として前記光学部材を用いたことを特徴とする紫外線洗浄装置が提供される。
【発明の効果】
【0017】
上記態様の製造方法によれば、フッ化物結晶母材を加圧及び加熱して再結晶させながら変形させているので、フッ化物結晶母材の光学特性を維持しつつフッ化物結晶母材とは異なる所望形状に成形することができる。また、上記態様の製造方法では、フッ化物結晶母材の変形量(変形速度)が最大となる温度条件で加熱及び加圧しているので再結晶を確実に生じさせることができる。
【0018】
また、上記態様の光学部材は、上述のような製造方法により製造されたフッ化物結晶成形体からなるので、光学特性に優れる。また、原料となるフッ化物結晶母材の寸法に制限されずに、所望の寸法に成形されているので、種々の用途に有用となる。
【0019】
更に、上記態様の光学装置は、上記光学部材が、波長125nm〜200nmの真空紫外光が透過する光路に配置されているので、真空紫外光の透過率が高く、真空紫外光を用いる用途に好適である。
【0020】
また、上記態様の紫外線洗浄装置は、上記光学部材を窓材として使用しているので、透過率などの光学特性に優れ且つ透過窓の面積を十分に確保することができる。それゆえ、大型の部材を効率よく光洗浄するために好適である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態の製造方法に用いる成形装置を示す概略断面図である。
【図2】実施の形態の紫外線洗浄装置の洗浄部を示す概略断面図である。
【図3】実施例及び比較例において、200nmから120nmの波長域の透過率を真空紫外域分光光度計で測定した結果を示している。
【図4】実施例及び比較例において、ArFエキシマレーザを照射した後、800nmから200nmの波長域の透過率を測定した結果を示している。
【図5】実施例及び比較例において、フッ化物結晶成形体を加熱加圧する際の温度変化及び変形量を示す図である。
【図6】実施例及び比較例において得られたフッ化物結晶成形体を示し、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図7】実施例及び比較例において、加熱加圧成形時の最大圧力と最高温度との相関と、変形完了時の圧力及び温度との相関を示す図である。
【図8】図7の加熱加圧成形時の最大圧力と最高温度との相関を示す点間を直線で結ぶ図である。
【図9】(a)(b)は実施例5により得られた成形体の上面と下面との写真であり、結晶方位が示されている。
【図10】図9の結晶方位の定義を説明する図である。
【図11】実施例5において成形を行う前の単結晶母材の上面図である。
【図12】フッ化物結晶成形体を望遠鏡の対物レンズに用いた例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。
【0023】
この実施の形態により製造されるフッ化物結晶成形体は、真空紫外光等の光を透過させる目的の各種の光学部材として使用可能な成形体であり、平板形状、球面若しくは非球面の凸形状又は凹形状などの適宜な形状を呈する。
【0024】
このフッ化物結晶成形体を製造するには、予め形成されたフッ化物結晶母材を加熱及び加圧して成形することにより製造する。
【0025】
フッ化物結晶母材とは、例えば、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、フッ化ランタン、フッ化セリウム、フッ化イットリウム等の結晶体である。真空紫外光に対する透過率等の光学特性に優れているという理由で、フッ化カルシウムが好適である。
【0026】
フッ化物結晶母材は、製造される成形体に要求される透過率等の光学特性を予め備えているものが好適である。成形過程において光学特性を向上させることが容易でないからである。
【0027】
このフッ化物結晶母材は、単結晶体又は多結晶体の何れでもよいが、優れた光学特性を得るためには単結晶体であることが好ましい。ここで、フッ化物結晶母材が単結晶体であるとは、実質的に単結晶体であれば足り、わずかに双晶などを含んでいてもよい。単結晶は、例えば、ブリッジマン法、チョクラルスキー法等の単結晶育成技術を用いて得られる。
【0028】
フッ化物結晶母材の成形は、融点より低い温度で行う。例えば、フッ化カルシウムの融点は約1350℃と報告されている。融点以上の温度に加熱して液相を生じさせると、液相が凝固する際に新たな結晶が乱雑に形成され、得られる成形体の光学特性が著しく悪化するため好ましくない。この成形では、フッ化物結晶母材を加熱及び加圧することで、固相のまま再結晶による変形を開始させ、その後、更に所定形状まで変形させる。
【0029】
ここで、再結晶による変形とは、再結晶させつつ変形させることである。一般に、金属やセラミックスなどの結晶材料を融点以下のある温度まで加熱すると、急激に軟化し、変形した結晶が、多角形の細粒に分割結晶する。圧延などの機械加工を行なった場合には、それによって増加していた転位も、上記加熱により消滅し、結晶粒は内部歪(内部応力)を持たない安定したものとなる。この現象を再結晶と呼ぶ。
【0030】
この実施形態ではフッ化物結晶母材を変形させるために、所定温度の下で加圧しながら再結晶させる。すなわち、フッ化物結晶母材を加熱のみで再結晶させるのではなく、一定の温度以上でフッ化物結晶母材を加圧しながら再結晶させることで、フッ化物結晶母材を真空紫外域の光透過率などの光学特性を劣化させることなく変形することができる。後述する実施例のように、圧力が高い程、低い温度で変形速度が大きくなることなどから、再結晶による変形を開始させるために十分な温度は、圧力との相関を有することが推測できる。そのため、温度と圧力とを組み合わせることで、再結晶による変形を開始させる。なお、再結晶の開始点を精密に特定することは困難であるため、確実に再結晶による変形が起こる温度及び圧力で変形を開始させればよい。
【0031】
温度又は圧力の少なくとも一方が低すぎる条件でフッ化物結晶母材を変形させた場合には、再結晶による変形ではなく結晶構造の滑りによる変形が起こると考えられる。滑りによる変形が起こると、変形に伴って結晶中に格子欠陥を生じ、透過率等の光学特性が低下してしまう。
【0032】
本発明者の知見によると、確実に再結晶による変形が起こる温度及び圧力は以下のように求めることができることが分かった。すなわち、一定荷重を負荷しながらフッ化物結晶母材を一定昇温速度で加熱した際、フッ化物結晶母材の荷重方向における単位時間当たりの変形量(荷重方向における単位時間当たりの長さの変化量)が最大値(以下、適宜「最大変形速度」という)となる温度T(以下、適宜、最大変形温度という)を測定する。この最大変形温度では、次の理由から、フッ化物結晶母材の再結晶が生じていると考えられる。フッ化物結晶母材の加圧による変形は、滑りの現象、すなわち、結晶の転位が結晶面上をすべることによって起こることが知られている。滑りが起こるための活性化エネルギーは比較的小さいため、温度依存性も少ない。それゆえ、比較的低温でも、結晶に応力をかけることにより起こる。一方、再結晶は、前述のように、その結晶に含まれる転位が加熱により再配列して、結晶核が生成し、結晶核が粒成長する現象である。再結晶が生じるための活性化エネルギーは、比較的高いために温度依存性が大きい。このため、高温では、再結晶の反応速度が大きくなる。従って、結晶を加圧して変形させる場合に、結晶の温度上昇に対して単位時間当たりの変形量が余り変化しないのであれば、滑りによる変形が起こっていると考えられる。これに対して、温度上昇により、単位時間当たりの結晶の変形量が大きく変わっている温度領域、例えば、後述する図5の容積変化曲線Vにおける変曲点付近の温度領域では、再結晶が起こっていると考えられる。このようにして、発明者は、フッ化物結晶母材の再結晶が、最大変形温度では確実に生じていると推論している。
【0033】
フッ化物結晶母材が再結晶を通じて変形したかどうかは、変形後の結晶方向を観察することによって検証することができる。例えば、図11に示すような変形前の単結晶のフッ化物結晶母材の表面は、再結晶を経た変形が生じることによって、図9(a)に示すように、多数の結晶粒界が認められる。図9(a)には、ラウエ法によって特定される結晶粒の結晶方位を書き添えたが、それらの結晶方位がランダムであることから、多結晶体が生じていることが分かる。このように、成形体をフッ化物結晶母材を観察することによって、再結晶が起きたことが確認できる。これに対して、再結晶が起こらずに滑りのみでフッ化物結晶母材が変形した場合にはすべり帯や結晶の回転により生成された亜粒界が観察されるが結晶粒界は認められない。
【0034】
更に、フッ化物結晶母材がフッ化カルシウムからなる場合、上記のような加熱及び加圧下で再結晶を確実に起こさせるには、後述する実施例の結果に基づいて、次式(1)〜(4)のいずれかを満たす温度T及び圧力Pとしてもよい。
【0035】
T≧1125℃ かつ P≧6.9MN/m2 かつ -11.5×P(MN/m2)+1285 < T(℃)・・・(1)
T≧970℃ かつ P≧13.9MN/m2 かつ -22.3×P(MN/m2)+1435 < T(℃)・・・(2)
T≧968℃ かつ P≧20.8MN/m2 かつ -0.289×P(MN/m2)+976 < T(℃)・・・(3)
T≧883℃ かつ P≧27.7MN/m2 かつ -12.2×P(MN/m2)+1306 < T(℃)・・・(4)
【0036】
このような温度T及び圧力Pにフッ化物結晶母材を加熱及び加圧するには、フッ化物結晶母材の破損を防止し易いなどの理由で、フッ化物結晶母材を加熱して昇温させてから加圧を開始するのがよく、特に、温度Tまで加熱してから加圧を開始するのが好適である。
【0037】
加圧を開始することでフッ化物結晶母材の変形が開始されるが、このとき、温度T及び圧力Pには遅くともフッ化物結晶母材の変形途中の時点で到達させることが好ましい。仮に、再結晶が始まる前に、滑りによる変形で結晶構造に乱れを生じたとしても、その後に再結晶による変形期間を経過させることで改善できるからである。好ましくは、変形の開始時点で温度T及び圧力Pに到達させることが好適である。結晶構造の滑りによる変形を防止して、優れた光学特性を得やすくできるからである。
【0038】
再結晶による変形を開始させた後は、更に所定形状まで変形させる。このとき、再結晶による変形を開始させた後、そのまま引き続いて加圧を継続して所定形状まで変形させることが好ましい。再結晶による変形を開始させた後には、加圧による変形を継続する限り、得られる成形体の光学特性を十分に高く確保し易いからである。この理由は、明確ではないが、再結晶による変形が結晶構造の滑りによる変形とは同時に起こらずに再結晶による変形が継続するか、あるいは、滑りと再結晶が同時に起こったとしてもその後に滑りの生じた部分が再結晶により結晶粒に置き換わるためであると推測される。
【0039】
この実施の形態では、このようなフッ化物結晶母材の成形を行うために、例えば図1に示すような成形装置を用いることができる。
【0040】
図1の成形装置では、ステンレス容器からなるチャンバー10の内部に、フッ化物結晶母材11を収容して加圧可能な成形型13が配置されている。成形型13は、グラファイト製であり、円筒型15と、円筒型15の一方の端部開口を閉塞する下型17と、円筒型15の他方の端部開口から内部空間に収容されて摺動可能に配置された加圧型19とを備える。
【0041】
ここでは、下型17が支持ロッド21を介して支持部23で支持され、加圧型19が加圧ロッド25を介して加圧駆動部27に連結されている。下型17の加圧型19側の表面と、加圧型19の下型17側の表面とが対向して加圧面を構成している。
【0042】
この成形型13は、通気性を有する断熱材からなる断熱枠31内に収容されている。断熱枠31内に発熱体33が配置されてチャンバー10内が加熱可能であり、成形型13を含む断熱枠31内の温度を温度検出部35により検出し、検出された温度に基づいて、発熱体33の加熱を精度よく制御することができる。
【0043】
また、チャンバー10は気密性を有しており、支持ロッド21及び加圧ロッド25は気密シール部23a、27aにより気密性を確保して貫通配置されている。チャンバー10には雰囲気ガス導入部37及び真空排気部39とが接続されており、雰囲気ガス導入部37から不活性ガスが導入可能であると共に、真空排気部39から排気可能となっている。
【0044】
この成形装置では、成形型13がグラファイトにより構成されている。グラファイトは灰分10wtppmを上回る一般純度のものではなく、灰分10wtppm以下の高純度のもの、特に2wtppm以下の超高純度のものを用いることが好ましい。得られるフッ化物結晶成形体への成形型13からのアルカリ金属およびアルカリ土類金属元素の浸透を浅くできるからである。
【0045】
フッ化物結晶成形体へ浸透したアルカリ金属およびアルカリ土類金属元素は、フッ化物結晶成形体の表面を除去することでフッ化物結晶成形体から除去可能であるが、成形型13に灰分10wtppm以下の高純度のグラファイトを用いることで、切除する厚さを5mm程度に抑えることができる。
【0046】
このような成形装置を用いてフッ化物結晶母材11を成形するには、まず、成形型13内にフッ化物結晶母材11を収容する。成形型13内にフッ化物結晶母材11を収容した状態では、下型17の加圧型19側の表面及び/又は加圧型19の下型17側表面の各中心部に局所的に当接した状態で配置される。この状態で、成形型13を断熱枠31内に配置し、下型17を支持ロッド21で支持すると共に、加圧型19に加圧ロッド25を接続し、チャンバー10を密閉する。
【0047】
その後、真空排気部39から真空引きして排気し、チャンバー10内を低圧状態として成形を開始してもよいが、好ましくは、排気後に雰囲気ガス導入部37から不活性ガスを導入し、チャンバー10内を不活性ガス雰囲気とする。チャンバー10内を不活性ガス雰囲気とすると、チャンバー10内を単に低圧状態にして成形する場合に比べ、得られるフッ化物結晶成形体に混入する不純物を少なく抑え易いからである。この不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガスなどが挙げられる。
【0048】
次いで、チャンバー10内雰囲気を維持しつつ加熱及び加圧してフッ化物結晶母材11を変形させる。成形工程の前に、再結晶による変形を確実に生じさせることができる所定温度及び所定圧力を予め測定して、そのような温度及び圧力を設定しておく。本発明者の知見に基づいて、上述のような最大変形速度を示す温度(最大変形温度)T及びそのときの圧力Pとしてもよい。
【0049】
この実施の形態では、まず、温度検出部35により温度を検出しつつ断熱枠31内に発熱体33を発熱させることで、フッ化物結晶母材11を加熱して所定温度まで昇温させる。そして、昇温後、この温度を維持して加圧を開始する。加圧は、支持ロッド21を介して支持部23により下型17及び筒状型15を支持した状態で、加圧ロッド25を介して加圧駆動部27により加圧型19を下型17側に圧縮することで行い、加圧型19に一定の荷重を負荷した状態を維持することで行う。
【0050】
ここでは、加圧開始時にフッ化物結晶母材11に所定圧力が負荷されて、上述のような最大変形速度を生じる温度及び圧力に達していれば、フッ化物結晶母材11の変形開始時点から再結晶による変形が起こると考えられる。
【0051】
その後、発熱体33の発熱量を制御してフッ化物結晶母材11の温度を維持しつつ、加圧型19に一定の荷重を負荷した状態を維持することで、変形を進行させる。変形期間中、加圧型19とフッ化物結晶母材11との接触面積が増加することで、フッ化物結晶母材11に負荷される圧力は徐々に低下するが、再結晶による変形を開始させた後は、そのまま引き続いて加圧を継続させ、所定形状まで変形させる。一旦再結晶による変形を開始した後は、変形の終了時点では、再結晶による変形の条件を満たさない圧力となっていてもよい。
【0052】
所定形状まで変形させた後、室温まで徐冷して成形装置から取り出し、必要に応じて各種の加工を施すことで、フッ化物結晶成形体の製造を完了する。
【0053】
この実施の形態では、成形完了後、成形型13に接触していたフッ化物結晶成形体の表面を除去する加工を施す。これにより成形型13のグラファイトからフッ化物結晶成形体へ浸透したアルカリ金属およびアルカリ土類金属元素を除去し、フッ化物結晶成形体中のアルカリ金属およびアルカリ土類金属元素の各々の濃度を10wtppb以下にすることができる。
【0054】
更に、フッ化物結晶母材11として用いた材料が単結晶体のように不純物の含有量の少ないものである場合、得られたフッ化物結晶成形体に含有されるCr、Mn、Fe、Co、Ni、Ba、Zn、La、Ce、Pbの各濃度を50wtppb以下にすることが可能である。
【0055】
また、フッ化物結晶成形体が厚さの一様な板状部材である場合、その厚さの変動幅を1mm以下とし、そりを0.5%以下とし、表面粗さRaを50nm以下とするように、例えば、大型オスカー型研磨機にて#1200の砥粒で両面をラップし、続いて酸化セリウムで研磨し、この後、洗浄、ならびに乾燥を行うことで、光学部材を製造することができる。
【0056】
このように製造された光学部材では、変形前のフッ化物結晶母材11の結晶構造である母結晶を除く結晶粒の粒径が20mm以下の均一なものとなっている。
【0057】
また、126nmの波長における厚さ10mmあたりの初期透過率が65%以上、146nmの波長における厚さ10mmあたりの初期透過率が85%以上、及び/又は、172nmの波長における厚さ10mmあたりの初期透過率が90%以上の優れた光学特性を有している。
【0058】
そのため、波長125nm〜200nmの真空紫外光を放出するエキシマランプ装置に用いることができる。
【0059】
また、このような光学部材の形状は、用いたフッ化物結晶母材11とは異なる形状を有している。成形型13の形状を適宜選択することで、例えば、少なくとも一方向の断面の面積が350×350mm以上であるような形状にすることができ、また、その断面の外周の全長が1600mm以上となるようにすることができ、更に、その断面と直交する方向の厚さが3〜20mmとなるようにすることができる。
【0060】
以上のようなフッ化物結晶成形体の製造方法によれば、フッ化物結晶母材11を加熱及び加圧して変形させるので、フッ化物結晶母材11とは異なる形状に成形でき、単結晶の育成により直接作製できないような大型の部材であっても容易に製造することができる。
【0061】
そして、成形の際、フッ化物結晶母材11を加圧して再結晶による変形を開始させ、その後、所定形状まで変形させるので、結晶構造の滑りによる変形や溶融状態での変形のように結晶構造が激しく乱れることを防止できる。特に、結晶構造の滑りによる変形と再結晶による変形とは同時に起こり得ないため、結晶構造の滑りによる変形のように、結晶構造内に多数の欠陥が生じて光学特性、特に、真空紫外域の光透過率が悪化するようなことがなく、優れた光学特性を備えたフッ化物結晶成形体を容易に製造することが可能である。
【0062】
次に、このようにして得られたフッ化物結晶成形体を、紫外線洗浄装置に用いる例について説明する。図2は紫外線洗浄装置を示す。
【0063】
紫外線洗浄装置60は、気密に構成されて複数の光源61が配設された光源部63と、光源部63と組み合わされて気密に構成され、内部に被洗浄物73を収容可能な被洗浄物収容部71とからなる。
【0064】
光源部63と被洗浄物収容部71とは開口部65を介して隣接しており、この開口部65に前記のようにして製造されたフッ化物結晶成形体からなる窓材50が装着されている。窓材50が開口部65の全周に気密にシールされた状態で装着されることで、光源部63の内部と被洗浄物収容部71の内部とは独立に気密性が確保されている。
【0065】
ここで光源61としては、例えば、波長125nm〜200nmの真空紫外光を照射するXeエキシマランプ、Krエキシマランプ又はArエキシマランプ等の真空紫外光源が用いられる。これらの光源61は通常チューブ状の放電管であるため、大面積へ均一な照度で照射を行うために、必要に応じて複数の光源を並列に配置することが好ましい。なお、光源61と窓材50との距離は概ね数十mm程度である。
【0066】
被洗浄物収容部71には、内部に支持部材75が設けられており、支持部材75上に被洗浄物73が載置されることで、窓材50を介して光源61と対面するように構成されている。被洗浄物73は、例えば大口径の半導体ウェハや液晶ディスプレイ用ガラス基板等である。この被洗浄物73と窓材50との距離は概ね数十mm程度である。
【0067】
この紫外線洗浄装置60では、被洗浄物73が被洗浄物収容部71に収容されて、光源部63と被洗浄物収容部71とがそれぞれ気密に閉塞された状態で、窓材50を介して光源61から被洗浄物73へ光を照射することで光洗浄が行われる。
【0068】
洗浄時には、酸素等の残留ガスによる光線の減衰を抑制し、かつ光照射によって生じるオゾン等の活性種による光源61の消耗を防止するため、図示しないガス供給手段及び排気手段を用いて、光源部63の内部が窒素等の不活性ガスによって置換されている。
【0069】
このような紫外線洗浄装置60によれば、光源部63と被洗浄物73との間に配置する窓材50として、フッ化物結晶成形体を用いているので、真空紫外光が高い透過率で透過でき、被洗浄物73を有効に洗浄することが可能である。
【0070】
そして、この窓材50がフッ化物結晶母材11から板状に成形されたものであり、1枚の窓材50により透過面の面積が十分に広く形成されているため、大型の被洗浄物73を洗浄する場合であっても、一つの開口部65に1枚の窓材50を配置して構成することが可能である。そのため、従来のように小型の窓材を複数組み合わせて大きな面積の窓を構成する場合に比べ、組み合わせのための接合部材や桟状支持部材等が不必要であり、これらの部材の影部分に光線が照射されないとう問題を回避できる。また、窓材50と開口部65との間のシール長を短くすることができるため、光源部63や被洗浄物収容部71の気密性を確保し易い。
【0071】
従って、このような紫外線洗浄装置60によれば、直径300mmを超える半導体ウェハや大面積の液晶ディスプレイ用基板等の大型の被洗浄物73を効率よく洗浄し易く、しかも、気密性を確保して耐久性を向上することが容易である。
【0072】
また、得られたフッ化物結晶成形体を、例えば、地上用や人工衛星用の天体望遠鏡などの光学装置系に使用することができる。例えば、図12の概念図に示したように、対物レンズ102と接眼レンズ104を鏡筒106に支持して備える望遠鏡100の対物レンズ102として、フッ化物結晶成形体を用いることができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例について説明する。
【0074】
[実施例1]
<フッ化カルシウム結晶母材の準備>
ブリッジマン法で育成された実質的に単結晶体であるフッ化カルシウムインゴットを用意し、その一部から、直径30mm厚さ10mmの円柱形状のサンプルを切り出した。このサンプルの厚さ方向の向かい合う2面を、平行度が10秒以内、片面ごとの平坦度がニュートンリング6本以内、片面ごとの表面粗さ(rms)が10オングストローム以下になるように精密研磨を施し、さらに表面吸収の原因となる研磨剤が残留しないように、高純度SiO2粉による仕上げ研磨加工を施した。
【0075】
このサンプルの200nmから120nmの波長域の透過率を真空紫外域分光光度計で測定した。結果を図3に線Aで示す。ここでは、波長126nmにおける反射含み透過率が65%以上であり、146nmの波長における光透過率が85%以上であり、172nmの波長における光透過率が90%以上であることを確認した。
【0076】
次に、このサンプルに、エネルギー密度50mJ/cm2/パルスのArFエキシマレーザを105パルス照射した後、800nmから200nmの波長域の透過率を測定した。結果を図4に線Aで示す。
【0077】
次に、このサンプルとは別に、単結晶体のインゴットから直径150mm、厚さ250mmのブロックを切り出し、メタノールなどのアルコールで表面の汚れを取り除いて、結晶母材11とした。
【0078】
<加熱加圧成形>
図1に示すような成形装置を用いて、結晶母材11の成形を行った。
【0079】
結晶母材11を、カーボン製の成形型13内の直径500mm、高さ300mmの内部に収容し、下型17の中央に載置すると共に加圧型19を頂部に当接させた。ステンレス製のチャンバー10を密閉し、真空排気部39から排気して10−1Pa以下にした後、雰囲気ガス導入部37からN2ガスを導入して内部を0.92MPaの窒素雰囲気に維持した。
【0080】
次に、発熱体33により加熱すると共に、加圧ロッド25により荷重を負荷して、加熱及び加圧することにより成形を行い、変形量を測定した。この成形時の温度変化を図5の線Tで示し、変形量を図5の線Vで示した。なお、加圧期間を図5の上部に付記した。
【0081】
この加熱加圧成形では、まず、発熱体(ヒータ)33により加熱し、成形型13を収容している断熱枠31内の温度を一定の昇温速度で昇温させ、20℃に達した時点で加圧を開始した(図5には、20℃に達するまでの過程は省略した)。加圧期間中の加圧ロッド25に負荷する荷重は38tonで一定荷重とした。
【0082】
この状態で一定荷重を加圧ロッド25に負荷しつつ一定の昇温速度で昇温を続けることにより、結晶母材11を変形させた。変形期間中、荷重方向の単位時間当たりの変形量は徐々に増加し、加熱開始後190分で単位時間当たりの変形量の増加は終了し、単位時間当たりの変形量が最大での温度は1000度であった。
【0083】
その後、結晶母材11の温度が1000℃に達した後、変形が完了するまでの間、1000℃で維持し、加圧を引き続き継続し、加熱開始後270分程度で変形が終了した。その後、室温まで徐冷して結晶成形体を取り出した。得られた結晶成形体は、直径500mm、高さ22mmであった。
【0084】
<光学特性の評価>
図6に示すように、得られた結晶成形体51の周辺部から直径30mm厚さ10mmの成形サンプル53を採取した。この成形サンプル53の厚さ方向に向かい合う2面を、平行度が10秒以内、片面ごとの平坦度がニュートンリング6本以内、片面ごとの表面粗さ(rms)が10オングストローム以下になるように精密研磨を施し、更に、表面吸収の原因となる研磨剤が残留しないように、高純度SiO2粉による仕上げ研磨加工を施した。
【0085】
この成形サンプルの200nmから120nmの波長域の透過率を真空紫外域分光光度計で測定した。結果を図3の線Bに示す。この成形サンプルは、126nmの波長における反射含み透過率が65%以上であり、146nmの波長における光透過率が85%以上であり、172nmの波長における光透過率が90%以上であることが分かった。
【0086】
次に、この成形サンプルにエネルギー密度50mJ/cm2/パルスのArFエキシマレーザを105パルス照射した後、800nmから200nmの波長域の透過率を測定した。その結果を、図4の線Bに示した。透過率の測定結果から、成形サンプルは、成形前の結晶母材11と略同等の透過率を有し、成形に伴う誘起吸収の増加が抑制されたことが分かった。
【0087】
次に、この成形サンプルに含有されているアルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素の各濃度を測定したところ、それぞれ100wtppb以下であった。また、この成形サンプルに含有されているCr、Mn、Fe、Co、Ni、Ba、Zn、La、Ce、Pbの各濃度を測定したところ、それぞれ50wtppb以下であった。
【0088】
<板材の採取>
得られた成形体から、350mm角の窓材50を切り出し、図2に示すような紫外線洗浄装置の開口50に窓材50として装着した。この紫外線洗浄装置を用いて、洗浄対象物に、紫外線を窓材50を介して照射することで洗浄することができた。
【0089】
[実施例2]
フッ化カルシウム結晶母材11に負荷する荷重を変えた他は、実施例1と同様にして、用意した5つのフッ化カルシウム結晶母材(No.1−No.5)を5種類の荷重の下で成形した。これらの荷重での成形条件について、元の結晶母材11の形状と変形量とから結晶母材11の受圧面積を算出し、この受圧面積と加圧ロッド25に負荷されている荷重とから各時点における圧力を算出した。そして単位時間当たりの変形量が最大となったときの温度(最大変形温度)と圧力を5つの結晶母材No.1−5について以下の表に示す。
【表1】
図7に、これらの結晶母材について得られた最大変形温度とその圧力の関係を点
◆で示し、それらの点から最小二乗法による近似直線Fを作成した。なお、結晶
母材の変形が進むと、一定荷重を受けている結晶母材の部分の面積が増加するので、圧力は徐々に低下する。それゆえ、変形(成形)完了時点の圧力と温度を図7に点■で示し、それらの点から最小二乗法による近似直線Lを作成した。
【0090】
この結果から、単位時間当たりの変形量が最大となった時点の圧力Pと温度Tとの間の相関は、圧力が高い程、低い温度となっていることが明らかになった。
【0091】
また、図7に示した各◆点をつなぐ直線は、図8に示すように以下の式(5)〜(8)で表される。
【0092】
1125≦T≦1205(℃):
−11.5×P(MN/m2)+1285=T(℃)・・・(5)
970≦T≦1125(℃):
−22.3×P(MN/m2)+1435=T(℃)・・・(6)
968≦T≦970(℃):
−0.289×P(MN/m2)+976=T(℃)・・・(7)
883≦T≦968(℃):
−12.2×P(MN/m2)+1306=T(℃) ・・・(8)
【0093】
したがって、結晶母材11としてフッ化カルシウム結晶を用いる場合、結晶母材11に負荷する圧力P及び温度Tが少なくとも式(5)〜(8)の何れかの条件を満たすような変形条件を設定すれば、結晶母材11は再結晶による変形を開始するので、透過率の低下や誘起吸収の増大といった光学特性の劣化を抑制しつつ、所望の形状に成形することが可能となる。
【0094】
結晶母材No.1〜No.5について、それぞれ、成形後の結晶の上面及び下面を観察した。いずれも、成形体の上面及び下面には、多数の結晶粒界が認められた(図9(a)及び(b)参照)。また、結晶方位を単結晶方位迅速測定装置RASCO(株式会社リガク製)により測定した。この結果、成形体の結晶粒の結晶方位がランダムであったことから、多結晶体となっていることが分かった。このことは、再結晶が起きたことを示す。
【0095】
また、圧力が大きく温度が高いほど再結晶が起こりやすいことは明らかであるから、結晶母材11に負荷する圧力P及び温度Tが、式(5)〜(8)で表される境界値よりも高圧・高温側の領域においても、同様に再結晶が確実に生じていると考えられるので、実施形態の方法に従い再結晶による変形を開始させることができる。すなわち結晶母材11に負荷する圧力P及び温度Tが式(1)〜(4)の何れかの条件を少なくとも満たすように設定した場合にも、同様に再結晶による変形を開始させることができる。ここで式(1)〜(4)における温度Tは結晶母材11の融点よりも低い範囲とし、また圧力Pは、温度Tにおいて結晶母材11が座屈等の機械的破壊を起こさない範囲とすることが望ましい。
【0096】
[実施例3]
実施例3ではフッ化カルシウム結晶母材11を1050℃に加熱した後、38tonの荷重を負荷し、温度及び荷重を一定に保ったまま結晶母材11を目的形状まで連続的に変形させた。このとき変形開始時の圧力は21.1MN/m2であった。この圧力及び温度の値を図8に示した(Ex.3)。その他の条件は実施例1と同様にして、結晶成形体51を作製し、得られた結晶成形体51から成形体測定用サンプル53を作製した。
【0097】
成形体測定用サンプル53に193nmの波長のArFエキシマレーザを1パルスあたりのエネルギー密度50mJ/cm2で105パルス照射した後、800nmから200nmの波長域の透過率を測定した。結果を図4に線Eで示した。
【0098】
実施例3における加熱温度及び変形開始時の圧力の値は式(2)及び(3)を満たしており、この条件で再結晶による変形を開始させたことにより、誘起吸収の増大を抑制しつつ、結晶母材を所望形状に成形することができることが分かった。
【0099】
[実施例4]
実施例4では結晶母材11を1100℃に加熱した後、27tonの荷重を負荷し、温度及び荷重を一定に保ったまま結晶母材11を目的形状まで連続的に変形させた。このとき変形開始時の圧力は15.0MN/m2であった。この圧力及び温度の値を図8に示した(Ex.4)。その他の条件は実施例1と同様にして、結晶成形体51を作製し、得られた結晶成形体51から成形体測定用サンプル53を作製した。
【0100】
成形体測定用サンプル53に193nmの波長のArFエキシマレーザを1パルスあたりのエネルギー密度50mJ/cm2で105パルス照射した後、800nmから200nmの波長域の透過率を測定した結果を図4に線Fで示した。
【0101】
実施例4における加熱温度及び変形開始時の圧力の値は式(2)を満たしており、この条件で再結晶による変形を開始させたことにより、誘起吸収の増大を抑制しつつ、結晶母材を所望形状に成形することができることが分かった。
【0102】
[比較例1、2]
加熱加圧成形時の結晶母材11に負荷する圧力及び温度を、比較例1では600℃、38ton、比較例2では600℃、76tonとした他は、実施例3と同様にして、結晶成形体51を作製し、得られた結晶成形体51から成形体測定用サンプル53を作製した。変形開始時の圧力は比較例1では21.1MN/m2であり、比較例2では42.2MN/m2であった。この圧力及び温度の値を図8に示した(Com.1,Com.2)。
【0103】
各成形体測定用サンプル53の300nmから120nmの波長域の透過率を真空紫外域分光光度計で測定した結果を図3に示し、193nmの波長のArFエキシマレーザを1パルスあたりのエネルギー密度50mJ/cm2で105パルス照射した後、800nmから200nmの波長域の透過率を測定した結果を図4に示した。図4中、線Cは、比較例1の結果を示し、線Dは、比較例2の結果を示す。
【0104】
比較例1、2のように低温で成形した成形体は、図3に示すように短い波長の光の透過率が低く、また、図4に示すようにArFエキシマレーザの照射により誘起吸収が大きくなっており、結晶構造の欠陥が多いことが示唆された。
【0105】
[実施例5]
次に、直径30mm、高さ50mmのフッ化カルシウム単結晶母材から直径50mm、高さ20mmの成形体を成形し、再結晶による変形が起こっているかを確認した。
【0106】
成形は、加圧ロッド25により負荷する荷重を1.5tonとする他は、実施例1と同様にして行った。単位時間当たりの変形量が最大となる温度は970度で、そのときの圧力は20.8MN/m2であり、30分の成形時間で成形が完了した。この結果は、実施例2における圧力が20.8MN/m2の場合と同様の結果であった。
【0107】
得られた成形体の上面の写真を図9(a)、下面の写真を(b)に示す。この写真では、結晶粒を視認し易くするために粒界を鉛筆でなぞった。ラウエ法により特定される結晶方位を単結晶方位迅速測定装置RASCO(株式会社リガク製)を用いて測定した。図中に、結晶方位を矢印及び数値にて示している。なお、参考に示した成形前の単結晶母材には、図11に示すように、粒界は全く見られない。
【0108】
図9(a)及び(b)から明らかなように、単結晶母材から得られた成形体には、多数の結晶粒界が認められ、それぞれの結晶粒についての結晶方位がランダムであることから、多結晶体となっており、再結晶が起きたことが明らかに確認できた。実施例2の結晶母材No.1〜No.5から得られた成形体でも図9(a)及び(b)に示すような様子が観察された。
【0109】
なお、図中の結晶方位の数値は、図10に示すように、表面の(111)面からのずれ角度αであり、矢印の向きは<111>軸をxy平面へ投影したときのx軸からの方位角βを示している。
【0110】
上記実施例では、フッ化カルシウム結晶母材を成形する例を挙げて説明したが、その他のフッ化物結晶母材でも上記実施例を変形させて製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
フッ化カルシウム結晶母材の光学特性を劣化させることなく容易に所望の形状のフッ化カルシウム結晶母材を成形することできる。得られた成形体は、真空紫外光を使用する光学装置や光洗浄装置の光学部品として極めて有用である。
【符号の説明】
【0112】
10 チャンバー
11 フッ化物結晶母材
13 成形型
17 下型
19 加圧型
23 支持部
27 加圧駆動部
33 発熱体
50 窓材
60 紫外線洗浄装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
172nmの波長における厚さ10mmあたりの光透過率が90%以上であり、少なくとも一方向の断面の面積が350×350mm以上であることを特徴とするフッ化物結晶成形体からなる光学部材。
【請求項2】
146nmの波長における厚さ10mmあたりの光透過率が85%以上であることを特徴とする請求項1に記載の光学部材。
【請求項3】
126nmの波長における厚さ10mmあたりの光透過率が65%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学部材。
【請求項4】
前記断面の外周の全長が1600mm以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光学部材。
【請求項5】
含有されているアルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素の各濃度が100wtppb以下であると共に、含有されているCr、Mn、Fe、Co、Ni、Ba、Zn、La、Ce、Pbの各濃度が50wtppb以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光学部材。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光学部材と、真空紫外光源とを備え、前記光学部材を前記真空紫外光源が発する真空紫外光の光路に配置したことを特徴とする光学装置。
【請求項7】
前記真空紫外光源がXeエキシマランプ、Krエキシマランプ又はArエキシマランプであることを特徴とする請求項6に記載の光学装置。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光学部材からなる窓材と、真空紫外光源とを備え、前記真空紫外光源が発する真空紫外光を前記窓材を透過して被洗浄部材に照射することを特徴とする紫外線洗浄装置。
【請求項9】
前記真空紫外光源が、Xeエキシマランプ、Krエキシマランプ又はArエキシマランプであることを特徴とする請求項8に記載の紫外線洗浄装置。
【請求項1】
172nmの波長における厚さ10mmあたりの光透過率が90%以上であり、少なくとも一方向の断面の面積が350×350mm以上であることを特徴とするフッ化物結晶成形体からなる光学部材。
【請求項2】
146nmの波長における厚さ10mmあたりの光透過率が85%以上であることを特徴とする請求項1に記載の光学部材。
【請求項3】
126nmの波長における厚さ10mmあたりの光透過率が65%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学部材。
【請求項4】
前記断面の外周の全長が1600mm以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光学部材。
【請求項5】
含有されているアルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素の各濃度が100wtppb以下であると共に、含有されているCr、Mn、Fe、Co、Ni、Ba、Zn、La、Ce、Pbの各濃度が50wtppb以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光学部材。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光学部材と、真空紫外光源とを備え、前記光学部材を前記真空紫外光源が発する真空紫外光の光路に配置したことを特徴とする光学装置。
【請求項7】
前記真空紫外光源がXeエキシマランプ、Krエキシマランプ又はArエキシマランプであることを特徴とする請求項6に記載の光学装置。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光学部材からなる窓材と、真空紫外光源とを備え、前記真空紫外光源が発する真空紫外光を前記窓材を透過して被洗浄部材に照射することを特徴とする紫外線洗浄装置。
【請求項9】
前記真空紫外光源が、Xeエキシマランプ、Krエキシマランプ又はArエキシマランプであることを特徴とする請求項8に記載の紫外線洗浄装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−82620(P2013−82620A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−283977(P2012−283977)
【出願日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【分割の表示】特願2010−513063(P2010−513063)の分割
【原出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【分割の表示】特願2010−513063(P2010−513063)の分割
【原出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
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